(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078652
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】移動体識別システム
(51)【国際特許分類】
G01V 15/00 20060101AFI20240604BHJP
G01S 13/74 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G01V15/00
G01S13/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191124
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】501429531
【氏名又は名称】株式会社マトリックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】益山 知也
【テーマコード(参考)】
2G105
5J070
【Fターム(参考)】
2G105AA01
2G105BB11
2G105DD02
2G105EE01
2G105HH01
5J070AC01
5J070AC02
5J070AE09
5J070AF01
5J070BC07
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で移動体を識別できる移動体識別システムを提供する。
【解決手段】移動体識別システム10は、所定の位置に設けられ、移動体を識別する識別装置12を含む。識別装置12は、移動体を検出するセンサ14と、移動体が保持するICタグ19を起動する磁界信号を送信する磁界信号送信部15と、ICタグ19からの電波信号を受信する電波信号受信部16を含む。識別装置12は、センサ14で得た移動体の距離の時間推移と、ICタグ19が受信した磁界信号強度の時間推移の相関から、移動体を特定する識別装置制御部13を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の位置に設けられ、移動体を識別する識別装置を含み、
前記識別装置は、前記移動体を検出するセンサと、前記移動体が保持するICタグを起動する磁界信号を送信する磁界信号送信部と、ICタグからの電波信号を受信する電波信号受信部を含み、
前記識別装置は、前記センサで得た前記移動体の距離の時間推移と、前記ICタグが受信した磁界信号強度の時間推移の相関から、前記移動体を特定する特定手段と、を含む、移動体識別システム。
【請求項2】
前記センサはToFセンサである、請求項1に記載の移動体識別システム。
【請求項3】
前記センサはミリ波センサである、請求項1に記載の移動体識別システム。
【請求項4】
前記センサは赤外線センサである、請求項1に記載の移動体識別システム。
【請求項5】
前記センサはイメージセンサである、請求項1に記載の移動体識別システム。
【請求項6】
前記磁界信号強度の代わりに、前記ICタグの送信した信号を識別装置が受信した強さ(RSSI)を用いて前記移動体を特定する、請求項1に記載の移動体識別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体識別システムに関し、特に、簡単な仕組みで移動体を識別できる移動体識別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、監視エリアにおいて移動体が携帯機を有しているか否か識別する移動体識別システムが、例えば、特開2012-230595号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-230595号公報(要約等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の移動体の識別装置は上記のように構成されていた。特許文献1のような装置においては、指向角を変えて電波を送出する為に、アダプティブアレイアンテナを用いた場合、複数の送信アンテナを有し、かつ各アンテナ出力の合成波が目的の指向角を持つよう制御しなくてはならない。また、仕組み上、一度の質問信号送信でICタグの存在を検知できる監視エリアは全体の一部であり、監視エリア全域のICタグを同時に検知することはできない。よって移動速度が速く、ひとつの存在方位に存在する時間が短いような移動体は検知できないという問題があった。
【0005】
この発明は上記した問題点に鑑みてなされたものであり、移動速度が速く、ひとつの存在方位に存在する時間が短い移動体であってもその移動を検出できる移動体識別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る移動体識別システムは、所定の位置に設けられ、移動体を識別する識別装置を含む。識別装置は、移動体の距離を検出するセンサと、移動体が保持するICタグを起動する磁界信号を送信する磁界信号送信部と、ICタグからの電波信号を受信する電波信号受信部を含み、識別装置は、センサで得た移動体の距離の時間推移と、ICタグが受信した磁界信号強度の時間推移の相関から、移動体を特定する特定手段を含む。
【0007】
好ましくは、センサはToFセンサである。
【0008】
センサはミリ波センサであってもよいし、赤外線センサであってもよいし、イメージセンサであってもよい。
【0009】
磁界信号強度の代わりに、ICタグの送信した信号を識別装置が受信した強さ(RSSI)を用いて移動体を特定してもよい。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、識別装置は、センサで得た移動体の距離の時間推移と、ICタグが受信した磁界信号強度の時間推移とからその相関を用いて移動体を特定する。
【0011】
その結果、移動速度が速く、ひとつの存在方位に存在する時間が短い移動体であってもその移動を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の一実施の形態に係る、識別装置に含まれる磁界信号送信部が送信する磁界領域と、識別装置に含まれるToFセンサアレイの検知領域を、移動体が通過中の状態を示す平面図である。
【
図3】識別装置およびICタグの構成を示すブロック図である。
【
図4】識別装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】ICタグの動作を示すフローチャートである。
【
図6】識別装置における、ICタグ受信データ保持の処理内容を示すフローチャートである。
【
図7】識別装置における、移動体通過発生判定の処理内容についての説明で使用する図である。
【
図8】移動体通過発生判定処理についての説明で使用する図である。
【
図9】識別装置における移動体とICタグの対応判定の処理内容を示すフローチャートである。
【
図10】それぞれICタグを持った二人の人物が、続けて検知領域を通過する様子を示す図である。
【
図11】移動体距離推移データ、および磁界受信強度推移データをグラフ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。まず、この発明の一実施の形態に係る、移動体の移動を識別する移動体識別システムの基本構成および作動状態を説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係る、移動体識別システム10の識別装置12が設けられた地点(ここでは、部屋Xと部屋Yとの間にある出入口30)を上から見た平面図であり、ICタグ19を有する移動体11と、その進行方向を図中矢印で示している。なお識別装置12は移動体11の直上に位置しているため、
図1では示していない。
【0014】
このとき識別装置12が有するセンサの検知領域を40a、同じく識別装置12が有する磁界信号送信部より送信する磁界信号の有効範囲を42aで示す。センサ検知領域40aは、距離の計測範囲の単位となる小領域で区切られている。
【0015】
図2は
図1を移動体11の進行方向から見た図で、識別装置12は出入口30の上部の無目に固定されている。
図2内の点線αの高さでの断面が
図1となっている。このときセンサ検知領域40aは、真下方向を中心として左右および奥行方向に一定の検知角を持つ。磁界信号の有効範囲42aは、識別装置12を中心とした球形となる。
【0016】
ここで、ICタグ19を有する移動体11が識別装置12の下部を移動するとき、センサから検知領域40aに照射された赤外線のうちの一条40が移動体11に反射し、反射光41がセンサに戻る。照射から反射光を受けるまでに要した時間をもとに、移動体11までの距離が測定される。検知領域40aを構成する小領域毎にこのようにして距離が測定されるため、各小領域の測定距離の変化をもとに移動体11を検知することができる。
【0017】
また、磁界信号の有効範囲42aにICタグが存在すると、磁界信号42を受信したICタグ19が固有のタグIDを含む電波信号43を送信し、識別装置12が有する電波信号受信部16(
図3参照)で受信される。
【0018】
識別装置12はセンサの測定情報から検知した移動体11と、ICタグ19から受信した電波信号に含まれるタグIDとを対応付けて移動体11を識別する。これらの処理の詳細については後で説明する。
【0019】
次に、識別装置12やICタグ19等の構成について説明する。
図3は、移動体識別システム10を構成する識別装置12と、識別装置12が送信する磁界信号に応答するICタグ19と、識別装置12にネットワーク26を介して接続されたサーバ28を示すブロック図である。
図3を参照して、識別装置12は、識別装置制御部13と、距離画像を得るためのToFセンサアレイ(以下、「センサ」という)14と、ICタグ19を作動させる磁界を送信する磁界信号送信部15と、ICタグ19からの電波信号を受信する電波信号受信部16と、外部のサーバと通信するネットワーク通信部18と、を含む。
【0020】
識別装置制御部13は、固有の磁界ID132と、固有の磁界ID132を磁界信号にコード化する磁界信号エンコード部131と、を含む。また、センサ14からの距離画像データを処理して移動体のセンサ検知領域通過発生を判定する移動体通過発生判定部133と、移動体通過発生判定部133からの情報に基づいて移動体の距離の推移を保存する移動体距離推移保存部134と、電波信号受信部16からの電波信号データをデコードする電波信号デコード部136と、電波信号デコード部136からの情報に基づいて磁界強度の推移を保存する磁界強度推移保存部137と、移動体距離推移保存部134と磁界強度推移保存部137との保存データに基づいて移動体11とICタグ19の対応を判定する、移動体-ICタグ対応判定部138と、移動体-ICタグ対応判定部138のデータに基づいて識別情報を生成する識別情報生成部139と、を含む。なお、移動体距離推移保存部134と磁界強度推移保存部137に格納される各推移データにはタイムカウンタ135からのタイムカウント値が付与される。
【0021】
また、ICタグ19は、ICタグ制御部22と、識別装置12の磁界信号送信部15からの磁界信号42を受信する磁界信号受信部20と、磁界信号強度測定部21と、所定の電波信号43を識別装置12に送信する電波信号送信部23と、を含む。ICタグ制御部22は、ICタグの固有のタグIDを保存するタグID保存部221と、磁界信号をデコードする磁界信号デコード部222と、電波信号エンコード部223とを含む。磁界信号デコード部222は、磁界信号受信部20からの磁界信号をデコードする。電波信号エンコード部223でエンコードされた電波信号は、電波信号送信部23に渡され送信される。
【0022】
なお、
図1および
図2には、
図3で説明した機器のうち、表示できるものを表示している。
【0023】
図4は、識別装置12の処理について説明するフローチャートであり、識別装置制御部13の動作を示すフローチャートである。
図4を参照して、初期処理(S11)の後、前回の磁界信号の送信から一定の送信間隔が経過していれば(S12で「経過」)、識別装置12に予め与えられた固有の磁界ID132を磁界信号エンコード部131でエンコードして磁界信号を生成し、送信する(S13,S14)。
【0024】
S15で、電波信号受信部16がICタグ19からの電波信号を受信したか否かを判断する(S15)。S15で電波信号を受信した場合(S15で「受信あり」)、ICタグ受信データを保持する(S16)。
【0025】
S17でセンサ14からの新しい距離画像データがあるか否かを判断する(S17)。S17で新しい距離画像データがあれば(S17で「あり」)、移動体通過発生判定を行ない(S18)、通過が発生した場合は(S19で「通過発生」)、通過を発生した移動体とICタグとの対応を判定し(S20)、識別情報を生成して(S21)、S22へ進む。
【0026】
S17で新しい距離画像データがないときも(S17で「なし」)、サーバ28への未送信の識別情報があるか否かを判断する(S22)。S22でサーバ28へ未送信の識別情報があれば(S22で「あり」)、ネットワーク通信部18と有線または無線で接続されたネットワーク26を通して、サーバ28に識別情報を送信する(S23)。
【0027】
次に、ICタグ19の処理について説明する。
図5は、ICタグ19の処理について説明するフローチャートであり、ICタグ制御部22の動作を示すフローチャートである。
図5を参照して、まず初期処理を行ない(S31)、識別装置12からの磁界信号42を受信するまで待機する(S32)。磁界信号受信部20で磁界信号42を受信したら、磁界信号を磁界信号デコード部222でデコードして磁界ID132を抽出する(S33)。次に磁界信号強度測定部21で磁界の受信強度を測定し(S34)、抽出した磁界ID132と、ICタグに予め与えられているタグID221と、測定した磁界の受信強度と、を電波信号エンコード部223でエンコードして電波信号を生成し(S35)、電波信号送信部23から送信する(S36)。電波信号43を送信したら、再び磁界信号42を受信するまで待機する(S32)。
【0028】
識別装置12に戻り、
図4のS16で述べたICタグ19からの受信データを保持する処理について説明する。
図6を参照して、まず電波信号受信強度測定部17で電波信号の受信強度を測定する(S161)。ここで、電波信号の受信強度は、ICタグ19が磁界の受信強度を送信する機能を持たず、電波信号に磁界の受信強度が含まれない構成の場合に、ICタグ19の応答について、磁界の受信強度の代替として用いる。
【0029】
次に、電波信号デコード部136で電波信号のデコードを行い、磁界IDとタグID、および磁界強度を抽出する(S162)。また、タイムカウンタ135からタイムカウンタ値を取得する(S163)。
【0030】
ここで、タイムカウンタ値は、識別装置制御部13の、起動後の経過時間と共に増加する数値である。
【0031】
次に、電波信号をデコードして得た磁界IDがS14で送信した磁界ID132と一致するか否かをチェックする(S164)。磁界IDの一致を確認することで、複数の識別装置を運用した際、異なる磁界IDを持つ、他の識別装置の磁界信号送信に応答したICタグの電波信号の応答を除外する。
【0032】
磁界IDが一致すれば(S164で「一致」)、受信したタグIDの磁界強度推移データに磁界強度と受信時タイムカウンタ値を追加する(S165)。なお、磁界強度推移データは、識別装置制御部13の記憶域である、磁界強度推移保存部137に、タグID毎に保存される。
【0033】
S165の後、もしくはS164で磁界IDが不一致の場合(S164で「一致しない」)、一定時間新たな受信がないタグIDの磁界強度推移データを消去して(S166)、処理を終了する(S167)。
【0034】
次に、
図4のS18におけるセンサ検知領域40aでの移動体通過発生判定処理について
図7を参照して説明する。
【0035】
センサ14は、
図2で説明したように、図示のない発光器から赤外線を照射し(40)、移動体が反射した反射光を複数の受光器で受ける(41)。照射から受光までに要した時間をもとに、移動体11までの距離を格子状の小領域毎に算出し、距離画像を生成する。
【0036】
移動体通過発生判定部133では、センサ14から得た距離画像から移動体を検出し、その移動体の位置変化を追跡し、検知領域を通過したかを判定する。
図7は、この内容を示すフローチャートである。
【0037】
図7を参照して、まず、センサ14から距離画像データを取得する(S181)。次に、距離画像から移動体を検出する。これは例えば、距離画像の各画素を、予め定められた距離を閾値として二値化して移動体領域を得(S182)、隣接する移動体領域をラベリングしてまとめて個々の移動体を抽出する(S183)。
【0038】
この処理を、
図8を参照して説明する。
図8の左側の図(A)、(C)にセンサ14の検知領域内を移動する人を上から見た様子と、右側の図(B),(D)に、その状態から得られた距離画像を二値化したものを示す。距離閾値より近い小領域を濃い色で示しており、隣接する小領域をラベリングして得られる小領域の集合33を、ひとつの移動体とみなす。
【0039】
S183で抽出された個々の移動体について、S185~S190の処理を行う。
【0040】
まず、移動体の移動を追跡する。例えば、抽出された各移動体について、前回実行された移動体通過発生判定処理において検知された移動体との、距離画像上での位置が近いか否かを判断する(S185)。これは例えば、
図8の右側の図(B),(D)を参考に、検知されたひとつの移動体領域33を構成する小領域の座標を平均することで移動体の重心点34を求め、前回取得された距離画像で検知した移動体の重心点との差が閾値以下であるかを判定する。閾値より遠いと判断された場合は、新たな移動体とみなし未使用の移動体IDを付与する(S189)。近いときは(S185で「近い」)、前回検出された移動体と同一の移動体IDを与え、移動体の位置を新しいものに更新する(S186)。
【0041】
次に、移動体がセンサ検知領域40aを通過したかを判定する。これは例えば、
図8で図(A)から図(C)のように移動体が図の下方向に移動したとすると、移動体の検知領域はそれぞれ(B),(D)の図の濃く塗られた領域33となる。検知領域を上下に2分割する分割線32を境に、上側の領域をX、下側の領域をYとすると、移動体は領域XからYに移動している。この判定方法は例えば、移動体領域33を構成する小領域の座標を平均して移動体の重心点34を求め、それがYの領域内にあり、かつ以前の距離画像での同一IDの移動体の重心点がXにあったとき、移動体はXからYへ通過したと見なす。このようにX、Yのどちら側からどちら側へ移動したかが通過方向として得られ、後で使用する。また、分割線32近くでの微小な動きで通過判定が繰り返し発生することがないよう、分割線32の近くはXでもYでもない領域としてもよい。
【0042】
このように、以前の位置から今回の位置への移動で移動体が分割線32を跨いでいるか否かを判断(S187)し、跨いでいると判断されたときは(S187で「はい」)、通過発生として、識別装置制御部13の記憶域に、通過した移動体の移動体ID、通過方向、通過発生時のタイムカウンタ値を保存する(S188)。
【0043】
次に、移動体距離推移保存部134の、移動体ID毎に保存された移動体距離推移データに移動体の距離と、現在のタイムカウンタ値を追加する(S190)。移動体の距離は、センサ14から移動体までの距離であり、たとえば移動体領域33を構成する小領域の座標を平均して移動体の重心点34を求め、その重心点の距離を距離画像から取得することで得られる。移動体距離推移は、移動体-ICタグ対応判定部138で使用される。
【0044】
上記の処理を各移動体について繰り返す(S191)。一定期間更新されていない移動体を削除し(S192)、移動体通過発生判定処理を終了する(S193)。
【0045】
次に、
図4のS20で示した、センサ検知領域40aを通過した移動体とICタグとの対応を判定する処理について説明する。
図9は、この処理を説明するフローチャートである。なお、この判定処理は、移動体のセンサ検知領域通過発生の前後の移動体距離推移データおよび磁界強度推移データを使用するため、通過の発生から、予め定められた時間以上あとに実行される。移動体-ICタグ対応判定部138は、
図9を参照して、まず、識別装置制御部13の記憶域から、通過発生S188において保存された移動体ID、通過方向、通過発生時のタイムカウンタ値を得る(S201)。
【0046】
次に、磁界強度推移保存部137に、タグID1つ以上に関連付けられた磁界強度推移データが保持されているか否かを確認する(S202)。保持していなければ(S202で、「ない」)、移動体に対応するタグIDが無いものとして、移動体とICタグの対応判定を終了する(S207)。このとき、サーバ28と通信する機器で警報などを行うために、ICタグ19を所持しない移動体の通過があったことを示す識別情報を生成してもよい。
【0047】
次に、各タグIDの磁界強度推移に対して、センサ通過を発生した移動体IDの移動体距離推移との相関を評価する(S204)。
【0048】
磁界強度推移保存部137に保持されている各タグIDについてループを実行し(S203~S205)、タグIDについての磁界強度推移データと、移動体距離推移保存部134に保存された移動体距離推移データのうち通過を発生した移動体IDについての距離推移データとを得、通過発生時のタイムカウンタから一定範囲内のサンプルをそれぞれから抽出して、これらの相関係数を算出する(S204)。
【0049】
相関係数は、2つのデータの間にある線形な関係の強弱を測る指標である。ある移動体IDについての移動体距離推移データをx、あるタグIDについての磁界強度推移データをyとするとき、この2つのデータの相関係数rは以下の式で表される。
【0050】
【0051】
ここで、Sxyはxとyの共分散、Sx、Syはx、yそれぞれの標準偏差、
nは2変数データ(x,y)の総数、xi、yiはデータに含まれる個々のデータの数値、
【0052】
【0053】
こうして算出した相関係数は1から-1の値を取り、0に近いときは相関が弱いことを示し、1に近いときは正の相関が強いことを示し、-1に近いときは負の相関が強いことを示す。移動体距離と磁界受信強度は負の相関を持つため、相関係数値が最も小さいタグIDを得、移動体にそのタグIDを対応させる(S206)。このとき、相関係数の値に予め定められた閾値を設け、閾値より小さい相関係数のタグIDが無い場合は、移動体に対応するICタグが無いものとして、サーバ28と通信する機器で警報などを行うために、ICタグを所持しない移動体の通過があったことを示す識別情報を生成してもよい。
【0054】
移動体とICタグの対応判定を終了する(S207)。
【0055】
したがって、識別装置制御部13は、センサで得た移動体の距離の時間推移と、ICタグが受信した磁界信号強度の時間推移と、の相関関係を用いて、移動体を特定する特定手段として作動する。
【0056】
ここで、移動体とICタグの対応判定についての例を示す。
図10は識別装置のセンサ検知領域40aおよび磁界信号の有効範囲42aを上から見た図であるが、タグID=1のICタグを持った移動体(移動体ID=1として検知)が、分割線32で分けられた領域Xおよび領域Yを、XからYに移動し、その後に続いてタグID=2のICタグを持った別の移動体(移動体ID=2として検知)がXからYに移動する様子を示している。それぞれの移動体が分割線32をXからYへまたいだ際にセンサ検知領域の通過が発生するため、計2回の通過が発生する。
【0057】
図10の通過例で得られた移動体距離推移データの例を、表1および表2に示す。移動体距離推移データは移動体ID毎に保存され、タイムカウンタと移動体の距離とのペアで構成される。
【0058】
【0059】
【0060】
同様に、
図10の通過例で得られた磁界強度推移データの例を、表3および4に示す。磁界強度推移データはタグID毎に保存され、タイムカウンタと磁界受信強度とのペアで構成される。
【0061】
【0062】
【0063】
図11は、表1、表2の移動体距離推移データ、および表3、表4の磁界強度推移データをグラフにしたものである。実線が各タグIDの磁界強度、点線が各移動体IDの距離を示す。
図10の例のようにICタグを持った移動体が識別装置の検知範囲を通過するとき、移動体の距離は識別装置の真下に近づくにつれて短くなっていき、真下を通り過ぎてからは長くなっていく。同時に、ICタグが受信する磁界の強度は識別装置の真下に近づくにつれて強くなっていき、真下を通り過ぎてからは弱くなっていく。磁界は発生源からの距離が大きくなるにつれて減衰するためである。よって、移動体の距離とICタグの磁界受信強度には相関があると云える。
図11では分かりやすいよう距離軸の大小を反転しているが、距離が短く(値が小さく)なるとき磁界強度が強く(値が大きく)なるため、負の相関である。
【0064】
なお、表1~表4に示した例においては移動体距離推移データと磁界強度推移データのタイムカウンタ値が一致しているが、実際に得られるデータにおいては、移動体距離推移データの各データのタイムカウンタ値に対して、その前後のタイムカウンタ値を持つ磁界強度推移データから補間する等の前処理を行い、さらに移動体距離または磁界強度が得られなかった区間については予め定めた値で埋める等の前処理も行って、タイムカウンタ値の一致した移動体距離と磁界強度のペアを生成する。
【0065】
表5は、
図10の例において発生した、移動体ID=1、および移動体ID=2の移動体のセンサ通過について、それぞれタグID=1、およびタグID=2のICタグとの相関係数の計算結果を示す表である。移動体ID=1の移動体に対しては、タグID=1のICタグがタグID=2のICタグより小さい相関係数の値を示し、移動体ID=2の移動体に対しては、タグID=2のICタグがタグID=1のICタグより小さい相関係数の値となっており、つまりそれぞれより強い負の相関を示している。よってこのとき、移動体ID=1の移動体にはタグID=1のICタグ、移動体ID=2の移動体にはタグID=2のICタグを対応付ける。
【0066】
【0067】
なお、上記実施の形態においては、センサがToFセンサアレイである場合について説明したが、これに限らず、センサは、ミリ波センサや赤外線センサアレイや、イメージセンサが使用可能である。ミリ波センサにおいては、例えば人の心拍を検知した距離を移動体距離に用い、さらに人の心拍を検知した方位の変化を用いて通過検知することができる。赤外線センサアレイにおいては、例えば、得られたサーモグラフィを二値化およびラベリングして人体を検出し、人体の位置が検知領域の分割線をまたいだ場合に通過を検知し、さらにサーモグラフィ上での人体の検出座標の画像中心からの距離(検出角)を疑似的な移動体距離として用いることができる。イメージセンサにおいては、例えば、物体検出の推論モデルを用いて人などの移動体を検知し、移動体の位置が検知領域の分割線をまたいだ場合に通過を検知し、画像上での移動体の検出座標の画像中心からの距離(検出角)を疑似的な移動体距離として用いることができる。
【0068】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示する実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 移動体識別システム、11 移動体、12 識別装置、13 識別装置制御部、14 センサ(ToFセンサアレイ)、15 磁界信号送信部、16 電波信号受信部、17電波信号受信強度測定部、18 ネットワーク通信部、19 ICタグ、20 磁界信号受信部、21 磁界信号強度測定部、22 ICタグ制御部、23 電波信号送信部、26 ネットワーク、28 サーバ、30 出入口、32 分割線、33 移動体領域、34 移動体の重心、40 赤外線照射、40a センサ検知領域、41 赤外線反射、42 磁界信号、42a 磁界信号の有効範囲、43 電波信号、131 磁界信号エンコード部、132 磁界ID、133 移動体通過発生判定部、134 移動体距離推移保存部、135 タイムカウンタ、136 電波信号デコード部、137 磁界強度推移保存部、138 移動体-ICタグ対応判定部、139 識別情報生成部、221 タグID、222 磁界信号デコード部、223 電波信号エンコード部。