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特開2024-78668炭素繊維強化押出成形体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078668
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】炭素繊維強化押出成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20240604BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20240604BHJP
   B29C 48/07 20190101ALI20240604BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20240604BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
B29C48/305
B29C48/07
B29C48/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191148
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】建部 宏輔
(72)【発明者】
【氏名】谷川 侑平
(72)【発明者】
【氏名】塚本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 篤宏
【テーマコード(参考)】
4F072
4F207
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AB10
4F072AB14
4F072AD41
4F072AG04
4F072AH23
4F072AK05
4F072AK16
4F072AL02
4F072AL17
4F207AA28
4F207AB18
4F207AB25
4F207AG02
4F207KA01
4F207KA17
4F207KL84
4F207KW26
(57)【要約】
【課題】リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを用いて、ペレット化工程を経ずに、優れた機械的強度を有する炭素繊維強化押出成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】炭素繊維強化押出成形体は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が100MPa以上であり、MD方向の4点曲げ弾性率が5.8GPa以上である。また、炭素繊維強化押出成形体の製造方法は、溶融した熱可塑性樹脂にリサイクル炭素繊維を投入して混錬し、インラインで押出成形する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化押出成形体であって、
JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が100MPa以上であり、MD方向の4点曲げ弾性率が5.8GPa以上であることを特徴とする炭素繊維強化押出成形体。
【請求項2】
前記リサイクル炭素繊維の含有量が5重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化押出成形体。
【請求項3】
前記リサイクル炭素繊維の数平均繊維長が0.15mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化押出成形体。
【請求項4】
リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化押出成形体の製造方法であって、
溶融した前記熱可塑性樹脂に前記リサイクル炭素繊維を投入して混錬し、インラインで押出成形することを特徴とする炭素繊維強化押出成形体の製造方法。
【請求項5】
押出成形により、前記熱可塑性樹脂の流れ方向(MD方向)に前記リサイクル炭素繊維の配向を制御することを特徴とする請求項4に記載の炭素繊維強化押出成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化押出成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、軽量で優れた強度、および高い耐久性などの特性から、自動車、航空機、土木仮設資材など幅広い分野で利用されている。炭素繊維強化樹脂としては、含浸させる樹脂の性質の違いにより、熱硬化性炭素繊維強化樹脂と、熱可塑性炭素繊維強化樹脂(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)とがある。このうち、熱可塑性炭素繊維強化樹脂は、成形時間が短く、また加熱によってリサイクル利用が可能であるといった利点から、特に自動車用の材料として用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭素繊維が熱可塑性樹脂に配合された炭素繊維複合樹脂材料の押出成形に関する発明が記載されている。押出成形の具体例として、ナイロン中に炭素繊維を含有するチップを、1軸の押出機に投入して混練し、ギアポンプで計量しながらダイスに溶融された炭素繊維複合樹脂材料を流し込み、吐出された樹脂材料をロール圧延して平板シートを得ることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂と、炭素繊維と、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物とを含む繊維強化樹脂組成物の射出成形に関する発明が記載されている。射出成形の具体例として、二軸押出機を用いて、ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂等と、振動フィーダーを用いてサイドフィードした炭素繊維とを混練して、ペレット状の樹脂組成物を予め調製し、これを用いて、射出成型により、成形体を作製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-221114号公報
【特許文献2】特開2018-203975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、成形体の原料として、特許文献1では炭素繊維複合樹脂材料のチップ(ペレット)が用いられ、また特許文献2においても予め調製されたペレット状の繊維強化樹脂組成物が用いられているため、ペレット化工程において炭素繊維長が短くなるおそれがある。この場合、得られる成形体は、繊維にかかるせん断応力の影響が大きくなり、繊維の折損等が生じた場合には、優れた機械的強度が得られないという問題がある。また、製造方法の観点では、ペレット化工程の分だけ工程数が増え、その工程費も必要になる。
【0007】
ところで、炭素繊維(CF)として、新規に製造されたバージン炭素繊維(VCF)ではなく、リサイクル炭素繊維(RCF)を活用することで、環境負荷と材料コストを低減できる。しかし、リサイクル炭素繊維を用いる場合、短繊維ペレットを製造することは比較的容易であるが、ペレット化工程と成形工程の2工程を経るため、繊維にせん断力がかかり繊維の折損が著しいため、得られる成形体は優れた機械特性が発現し難いという問題がある。
【0008】
そのため、長繊維ペレットを製造することも考えられるが、バージン炭素繊維を用いて長繊維ペレットを製造する場合、ロービングの周りに樹脂を付着させる必要がある。不連続繊維であるリサイクル炭素繊維では、その工程が困難であり、長繊維ペレットの製造がそもそも困難である。また、いずれの炭素繊維を用いる場合でも、工程数が増え、材料も高価である。そして、長繊維ペレットを用いた場合でも、ペレット化工程の後に、樹脂粘度が高い状態から混練を開始する成形工程を経て成形されるため、短繊維ペレットを用いた場合と同様の問題がある。
【0009】
なお、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを溶融混練し、塊状態で取り出した熱可塑性炭素繊維強化樹脂(CFRTP)をプレスで賦形するLFT-D(Long Fiber Thermoplastic - Direct)成形も先行技術として知られている。しかし、炭素繊維の配向制御が困難であるため、得られる成形体の物性のばらつきが大きくなるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを用いて、ペレット化工程を経ずに、優れた機械的強度を有する炭素繊維強化押出成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、押出成形により繊維配向を樹脂の流れ方向に制御することで、リサイクル炭素繊維を用いた炭素繊維強化押出成形体は、バージン炭素繊維を用いたものと比較して同等に優れた機械特性を発現することを見出した。この製造方法では、ペレット化工程を省略できる。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の炭素繊維強化押出成形体は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化押出成形体であって、JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が100MPa以上であり、MD方向の4点曲げ弾性率が5.8GPa以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の炭素繊維強化押出成形体の製造方法は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化押出成形体の製造方法であって、溶融した前記熱可塑性樹脂に前記リサイクル炭素繊維を投入して混錬し、インラインで押出成形することを特徴とする。ここで、インラインで押出成形するとは、熱可塑性樹脂およびリサイクル炭素繊維を投入し、押出成形するまでの一連の過程を1つの生産ライン上で行うことを意味する。すなわち、本製造方法では、押出成形前に、別のラインで熱可塑性樹脂およびリサイクル炭素繊維をペレット化するなどの過程を必要としない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを用いて、ペレット化工程を経ずに、優れた機械的強度を有する炭素繊維強化押出成形体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0016】
<炭素繊維強化押出成形体>
炭素繊維強化押出成形体は、その原料にリサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する。すなわち、炭素繊維強化押出成形体は、熱可塑性炭素繊維強化樹脂(CFRTP)といえる。炭素繊維強化押出成形体では、リサイクル炭素繊維が活用されているため、バージン炭素繊維を用いた従来の成形体と比較して、環境負荷と材料コストが低減される。また、炭素繊維強化押出成形体は、ペレット化工程を経ることなく、インラインで製造することにより、バージン炭素繊維を用いた従来の成形体と同等に機械的強度に優れる。
【0017】
(リサイクル炭素繊維)
リサイクル炭素繊維(RCF)は、例えば、使用済みの炭素繊維強化樹脂(CFRP)から回収された炭素繊維(CF)、炭素繊維強化樹脂の製造工程から発生する炭素繊維強化樹脂の中間製品(プリプレグ)等の切れはし等から回収された炭素繊維をいう。リサイクル炭素繊維は一般的に不連続な繊維である。リサイクル炭素繊維は炭素繊維強化樹脂の加熱物(CFRP加熱品)でもよい。また、リサイクル炭素繊維はサイジング剤を含んでいてもよく(用いてもよく)、含まなくてもよい(用いなくてもよい)。リサイクル炭素繊維の具体例としては、例えば後述の実施例に記載のものが挙げられる。
【0018】
炭素繊維強化押出成形体の全体(総量100重量%)に対するリサイクル炭素繊維の含有量(以下「CF含有量」とも称する)は、成形体の機械的強度の向上を図る観点から、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上である。当該含有量の上限は特に限定されず、好ましくは40重量%以下、より好ましくは35重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0019】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリカーボネート(PC)樹脂、フェノキシ樹脂、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ナイロン樹脂;ポリエチレン・ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;酸変性オレフィン系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリスチレン樹脂;ABS樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂の中では、熱硬化性樹脂に比べて耐衝撃性、耐熱特性、及びリサイクル性に優れ、低コストであるポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、オレフィン系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリブチレンテレフタレート及びポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましい。なお、熱可塑性樹脂はリサイクル樹脂であってもよい。リサイクル樹脂とは、例えば、ボトル等の各種容器、ディスク、シート等由来のものが挙げられる。
【0020】
(その他の材料)
炭素繊維強化押出成形体は、その特性を損なわない範囲において、その原料に、リサイクル炭素繊維及び熱可塑性樹脂以外のその他の材料を含有していてもよい。その他の材料としては、例えば、サイジング剤、帯電防止剤、難燃剤、相溶化剤、バージン炭素繊維等が挙げられる。バージン炭素繊維とは、例えば、炭素繊維として一般に販売されている新規に製造された新品の炭素繊維をいう。
【0021】
<炭素繊維強化押出成形体の特性>
(MD方向の4点曲げ強度、MD方向の4点曲げ弾性率)
リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する原料を用いて成形される炭素繊維強化押出成形体は、JIS K 7074(炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法)に準拠して測定された、押出成形(Tダイキャスト)による樹脂の流れ方向(MD方向)の4点曲げ強度が100MPa以上であり、MD方向の4点曲げ弾性率が5.8GPa以上である。炭素繊維強化押出成形体は、リサイクル炭素繊維が用いられているものの、バージン炭素繊維が用いられた従来の成形体と同等の物性を有する。MD方向における4点曲げ強度と4点曲げ弾性率は、例えば後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0022】
炭素繊維強化押出成形体のMD方向の4点曲げ強度は、100MPa以上であり、好ましくは135MPa以上、より好ましくは150MPa以上である。
【0023】
炭素繊維強化押出成形体のMD方向の4点曲げ弾性率は、5.8GPa以上であり、好ましくは8.0GPa以上、より好ましくは10.0GPa以上である。
【0024】
(繊維体積含有率(Vf))
炭素繊維強化押出成形体において、JIS K 7075(炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率および空洞率試験方法)の燃焼法に準拠して測定された繊維体積含有率(Vf)は、成形体の機械的強度の向上を図る観点から、好ましくは6%以上(CF含有量では10重量%以上)である。また、その上限値は、炭素繊維の分散不良を抑制し、コストを低減する観点から、好ましくは23%以下(CF含有量では30重量%以下)である。繊維体積含有率(Vf)は、例えば後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0025】
(数平均繊維長(Ln))
炭素繊維強化押出成形体において、残存するリサイクル炭素繊維の数平均繊維長(Ln)は、残存繊維長を長く残存させることで成形体の機械的強度の向上を図る観点から、好ましくは0.15mm以上、より好ましくは0.20mm以上である。なお、炭素繊維強化押出成形体の製造方法では、ペレット化工程を経ないため、ペレット化工程におけるさらなる繊維の折損がなく、より長い残存繊維長を有する炭素繊維強化押出成形体が得られる。リサイクル炭素繊維の数平均繊維長(Ln)は、例えば後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0026】
(分散度(Lw/Ln))
炭素繊維強化押出成形体において、残存するリサイクル炭素繊維の分散度(Lw/Ln)は、成形体の機械的強度の向上を図る観点から、好ましくは1.25以上2.25以下である。分散度が1に近いものは、炭素繊維の繊維長が均一であること意味する。一方、分散度が1よりも大きいものは、炭素繊維の繊維長が長いものと短いものとが混ざり、繊維長のばらつきが大きいことを意味する。繊維長が短い炭素繊維の割合が多くなり繊維長の分布が広くなると、成形体の機械的強度が弱まるため、分散度は適切な範囲に設定する必要がある。分散度(Lw/Ln)は、例えば後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0027】
(配向係数(η))
炭素繊維強化押出成形体において、成形体の平面に対するその測定軸への繊維の寄与率を表す指標として配向係数(η)がある。配向係数(η)は0以上1以下の数値を取る。配向係数(η)が小さすぎると、繊維量を多くしようとも、または残存繊維長が長くしようとも、優れた曲げ強度が発現しない。一方、配向係数(η)が大きすぎると、複合材料の弾性率が高くなりすぎて加熱賦形が困難になる問題がある。配向係数(η)は、例えば後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0028】
<炭素繊維強化押出成形体の製造>
炭素繊維強化押出成形体は、例えば、Tダイ押出し法によって製造される。この製造方法では、熱可塑性樹脂中にリサイクル炭素繊維を含有するペレットを原料に用いず、且つ溶融した熱可塑性樹脂にリサイクル炭素繊維を投入し混錬してペレットを予め調製するペレット化工程を経ない。具体的には、溶融した熱可塑性樹脂にリサイクル炭素繊維を投入して混錬し、そのまま押出成形することにより、炭素繊維強化押出成形体を製造する。すなわち、炭素繊維強化押出成形体の製造方法は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを混錬する混錬工程と、混錬した溶融物を押出して所望の形状に成形する押出成形工程とを備え、且つ混錬工程と押出成形工程とをインラインで行う。より具体的には、混錬工程において粘度が低下した溶融状態の熱可塑性樹脂にサイドフィーダーを用いてリサイクル炭素繊維を投入し、1軸(単軸)の押出機で溶融混練し、押出成形工程において押出成形と同時にインライン加工(押出し成形ライン上で同時に行う加工)を実施する。このとき、押出成形(Tダイキャスト)により、押出成形樹脂の流れ方向(MD方向)にリサイクル炭素繊維の配向を制御することで、炭素繊維強化押出成形体は優れた機械特性を発現する。この製造方法では、一連の工程において、後述する押出機の温度を所定範囲内に調整し、熱可塑性樹脂の粘度を十分に低下させるため、リサイクル炭素繊維にかかるせん断力が抑制される。また、ペレット化工程を省略したことにより、リサイクル炭素繊維にかかるせん断力が抑制され、その折損が抑制されるため、リサイクル炭素繊維はその繊維長が長いまま残り易い。リサイクル炭素繊維の繊維長が長い状態で成形体中に残存することは、炭素繊維強化押出成形体が優れた機械特性を発現する要因の一つとなる。
【0029】
(混錬工程)
炭素繊維強化押出成形体をTダイ押出し法によって製造する方法をより詳細に説明する。まず、単軸押出機のシリンダー温度とダイス温度を、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも50℃から150℃高い温度に設定する。単軸押出機の上記温度としては、例えば220℃以上300℃以下程度である。上記範囲内に温度管理された押出機に熱可塑性樹脂を投入して溶融させ、樹脂粘度を下げる。
【0030】
続いて、リサイクル炭素繊維を押出機に投入して混錬する。リサイクル炭素繊維の投入には、サイドフィーダーを利用する。具体的には、熱可塑性樹脂が十分に溶融した部位に、リサイクル炭素繊維をサイドフィーダーから投入する。
【0031】
サイドフィードしたリサイクル炭素繊維と混熱可塑性樹脂とを溶融混錬する。このときのスクリュー回転数は、例えば30rpm以上78rpm以下程度である。
【0032】
(押出成形工程)
最後に、Tダイからインラインで押出成形することにより、例えば、厚さ1mm以上10mm以下程度の平板状の炭素繊維強化押出成形体(CFRTP板)を得ることができる。厚さの下限は特に限定されず、2mm以上であってもよい。なお、炭素繊維強化押出成形体の形状は平板状に限定されず、種々の形状に成形できる。
【0033】
押出機は、樹脂の流れ方向(MD方向)にリサイクル炭素繊維の配向を制御する観点から、1軸(単軸)の押出機が好ましいが、2軸押出機を用いてもよい。
【実施例0034】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0035】
(実施例1シリーズ)
<炭素繊維強化押出成形体(混練押出板)の製造>
シリンダー温度とダイス温度を220~300℃に設定した単軸押出機に、熱可塑性樹脂として表1~3に記載のポリカーボネート(PC)樹脂を投入して溶融させた。続いて、ポリカーボネート樹脂が溶融した部位に、表1~3に記載のリサイクル炭素繊維(RCF、繊維長:3mm~6mm)を表1~3に記載の含有量(表中の「CF含有量」参照)で、サイドフィーダーから供給した。その後、表1~3に記載のスクリュー回転数30~78rpmで溶融混練し、Tダイから押出すことにより、厚さが2mm程度の平板状の炭素繊維強化押出成形体(CFRTP板)を得た。なお、必要に応じて、得られたCFRTP板中の空隙を減らすために、200℃の温度、5MPaの圧力で10分間、CFRTP板の熱プレス処理(表中の「プレス」参照)を行った。以上の工程により、厚さが1.6mm~2.4mm(JIS K 7074準拠)の評価用CFRTP板を得た。なお、参考例1はバージン炭素繊維(VCF)含有ポリカーボネート樹脂ペレットを用いた射出成型体、参考例2は熱可塑性樹脂(炭素繊維なし)の射出成形体である。
【0036】
<炭素繊維強化押出成形体(混練押出板)の評価1>
≪繊維体積含有率(Vf)の算出≫
JIS K 7075の燃焼法に準拠して、各評価用CFRTP板の繊維体積含有率(Vf)を算出した。具体的には、電気炉および電子天秤を用いて、測定試料である各評価用CFRTP板の質量を測定した後、るつぼ中、窒素雰囲気下で、20℃/分の昇温速度で、室温から加熱し、550℃に達したところで、10分間、焼却して、試料中の樹脂分を灰化した。なお、炭素繊維は、窒素雰囲気下での加熱では分解しないため、550℃の時の重量を炭素繊維重量とし、比重で乗じたものを炭素繊維体積とした。また、灰化重量を樹脂重量として、樹脂比重を乗じたものを樹脂体積とした。そして、JIS K 7075における式(3)を用いて繊維体積含有率(Vf)[%]を算出した。その結果を表1~3に示す。
【0037】
≪MD方向の曲げ強度、MD方向の曲げ弾性率の測定≫
JIS K 7074に従い、4点曲げ試験を行い、各評価用CFRTP板のMD方向における曲げ強度、および曲げ弾性率を測定した。具体的には、各評価用CFRTP板から、幅が15mm、長さが100mmとなるように切り出したサンプルを作製した。続いて、4点曲げ治具を設置した引張試験機(島津製作所社製、商品名:オートグラフ5000)を用いて、クロスヘッド速度が5mm/分、支点スパンが81mm、圧子スパンが27mm、支点径が4mm、および圧子径が10mmの条件で、上記サンプルの4点曲げ測定を行ない、MD方向において、4点曲げ強度[MPa]と4点曲げ弾性率[GPa]を測定した。なお、炭素繊維を含まない熱可塑性樹脂の射出成形体である参考例2は、JIS K 7171に準拠して、3点曲げ試験を行った。具体的には、参考例2の評価用CFRTP板から、長さが80mm、幅が10mm、厚さが4mmとなるように切り出した試験片を作製した。続いて、3点曲げ治具を設置した上記引張試験機を用いて、クロスヘッド速度が2mm/分、支点スパンが64mm、支点径が5mm、および圧子径が5mmの条件で、上記試験片の3点曲げ測定を行ない、MD方向において、3点曲げ強度[MPa]と3点曲げ弾性率[GPa]を測定した。その結果を表1~3に示す。
【0038】
前記で測定されたMD方向の曲げ強度[MPa]とMD方向の曲げ弾性率[GPa]を、以下の評価基準に基づいてそれぞれ評価した。なお、「△」以上で使用可能(合格)な強度または弾性率を有する。「○」は充分な強度または弾性率を有する。「◎」はバージン炭素繊維(VCF)含有ポリカーボネート樹脂ペレットの射出成形体と同等に優れた強度または弾性率を有する。その結果を表1~3に示す。
(MD方向の曲げ強度[MPa]の評価基準)
◎:150MPa以上。
○:135MPa以上150MPa未満。
△:100MPa以上135MPa未満。
×:100MPa未満。
(MD方向の曲げ弾性率[GPa]の評価基準)
◎:10.0GPa以上。
○:8.0GPa以上10.0GPa未満。
△:5.8GPa以上8.0GPa未満。
×:5.8GPa未満。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
炭素繊維強化押出成形体の製造に使用した表1~3に記載の各種材料を以下に示す。
≪ポリカーボネート樹脂(PC樹脂、熱可塑性樹脂)≫
・PC300-8:住化ポリカーボネート(株)製。
・PC301-30:住化ポリカーボネート(株)製。
・PCX-10323B:住化ポリカーボネート(株)製。
≪リサイクル炭素繊維(RCF)≫
・CF-N C6:日本ポリマー産業(株)製、繊維長:6mm、サイジング材:無し。
・CFRP加熱品:カーボンファイバーリサイクル工業(株)製、繊維長:3mm、サイジング材:無し。
・CFEPU-HC C6:日本ポリマー産業(株)製、繊維長:6mm、サイジング材:有り。
≪バージン炭素繊維(VCF)含有ポリカーボネート樹脂≫
・PC-C-20:三菱ケミカル(株)製、パイロフィル(登録商標)ペレット(炭素繊維ペレット)。
【0043】
(実施例1シリーズのまとめ)
・各実施例の炭素繊維強化押出成形体は、不連続繊維であるリサイクル炭素繊維が用いられているものの、バージン炭素繊維を用いた参考例1(バージン炭素繊維含有ポリカーボネート樹脂ペレットの射出成形体)と同等の物性(MD方向の4点曲げ強度が100MPa以上且つMD方向の4点曲げ弾性率が5.8GPa以上)を達成した。
・この要因としては、各実施例の炭素繊維強化押出成形体の製造方法ではペレット化工程がないため、リサイクル炭素繊維にかかるせん断力が抑制され、その結果、繊維の折損が抑制されたためと考えられる。また、ペレット化せずにリサイクル炭素繊維の繊維長が長いまま成形体中に残存していることも一つの要因と考えられる。
・また、各実施例の炭素繊維強化押出成形体の製造方法は、ペレット化工程を省略して、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とをダイレクトで混錬し、インラインで押出成形するため、炭素繊維を混錬した樹脂を一度ペレット化するペレット化工程を必須とする従来の製造方法と比較して、工程数と工程費を低減できる。
【0044】
(実施例2シリーズ)
実施例1シリーズで得られた各実施例の評価用CFRTP板を用いて、以下の物性を算出した。その結果を表4に示す。
【0045】
<炭素繊維強化押出成形体(混練押出板)の評価2>
≪重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)の算出≫
重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)は、以下の方法により求めた。まず、各評価用CFRTP板を、ポリカーボネート(PC)樹脂を溶解する溶剤にて溶かした後、濾過を行い、リサイクル炭素繊維(RCF)の残渣を得た。その残渣を光学顕微鏡にて50~100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1000本の長さを測定し、その測定値(mm)(小数点2桁が有効数字)を用いて以下の数式に基づき算出した。
[数1]
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Wi×Li)/ΣWi
=Σ(πri×Li×ρ×ni×Li)/Σ(πri×Li×ρ×ni)〔ri、およびρが一定である場合、上式は簡略化され、以下の数式となる。〕
≒Σ(Li×ni)/Σ(Li×ni) (1)。
[数2]
数平均繊維長(Ln)=Σ(Li×ni)/Σni (2)。
〔数式中の各記号について〕
・Li:繊維状充填材の繊維長。
・ni:繊維長Liの繊維状充填材の本数。
・Wi:繊維状充填材の重量。
・ri:繊維状充填材の繊維径。
・ρ :繊維状充填材の密度。
【0046】
≪分散度(Lw/Ln)の算出≫
分散度(Lw/Ln)は、前記で算出した重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)を用いて以下の数式に基づき算出した。
[数3]
分散度(Lw/Ln)=重量平均繊維長(Lw)/数平均繊維長(Ln) (3)。
【0047】
≪配向係数(η)の算出≫
配向係数(η)は、各評価用CFRTP板の曲げ弾性率を求め、以下の数式に基づき算出した。
[数4]
配向係数(η)=(E-Em(1-Vf))/(Ef×Vf) (4)。
〔数式中の各記号について〕
・E :複合材の弾性率(GPa)、表1~3中の各実施例の「曲げ弾性率(MD)」欄参照。
・Em:樹脂の弾性率(GPa)、実施例2シリーズでは2.3[GPa](表3中の参考例2の「曲げ弾性率(MD)」参照)。
・Vf:繊維体積含有率、表1~3中の各実施例の「繊維体積含有率(Vf)」欄参照。
・Ef:繊維の弾性率(GPa)、実施例2シリーズでは230[GPa]。
【0048】
【表4】
【0049】
(実施例2シリーズのまとめ)
バージン炭素繊維を用いた成形体と同様の物性を示すために適切なリサイクル炭素繊維の残存繊維長、分散度、配向係数などを測定した。分散度は2.25以下の範囲が好ましく、押出成形体におけるリサイクル炭素繊維の数平均繊維長は0.15mm以上であることが好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明したように、本発明は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化押出成形体に適している。