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特開2024-78714積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法
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  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図1
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図2
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図3
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図4
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図5
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図6
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図7
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図8
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図9
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図10
  • 特開-積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078714
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】積層体およびそれを備える吸収性物品、積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20240604BHJP
   A61F 13/42 20060101ALI20240604BHJP
   A61F 13/514 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B32B27/12
A61F13/42 F
A61F13/514 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191210
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】599049808
【氏名又は名称】株式会社フジコー
(71)【出願人】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】松田 康司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 太
(72)【発明者】
【氏名】山田 典正
(72)【発明者】
【氏名】前田 智恵子
(72)【発明者】
【氏名】黒須 一博
【テーマコード(参考)】
3B200
4F100
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200BB05
3B200BB23
3B200DA15
3B200DD02
3B200DD09
3B200DF04
3B200EA08
4F100AD11C
4F100AD11D
4F100AJ04B
4F100AK01A
4F100AT00E
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100BA22
4F100BA23
4F100CA02A
4F100CA13A
4F100CC00C
4F100CC00D
4F100DG01B
4F100EH46
4F100GB72
4F100HB00A
4F100HB31
4F100JD14E
4F100JG04A
4F100JG04C
4F100JG04D
4F100JL10A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
(57)【要約】      (修正有)
【課題】金属製部材を用いなくても導電性が高く、かつ、可撓性を有する積層体およびそれを備えた吸収性物品、当該積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法を提供する。
【解決手段】樹脂組成物を主に含む絶縁層10と、絶縁層の上に積層された、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを主に含むセルロース繊維層30と、セルロース繊維層の上に積層された、カーボンナノチューブを主に含むカーボンナノチューブ層とを有し、カーボンナノチューブ層は、セルロース繊維層の上に積層された第1のカーボンナノチューブ層40aと、第1のカーボンナノチューブ層の上に積層された第2のカーボンナノチューブ層40bを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を主に含む絶縁層と、
前記絶縁層の上に積層された、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを主に含むセルロース繊維層と、
前記セルロース繊維層の上に積層された、カーボンナノチューブを主に含むカーボンナノチューブ層と、を有し、
前記カーボンナノチューブ層は、前記セルロース繊維層の上に積層された第1のカーボンナノチューブ層と、前記第1のカーボンナノチューブ層の上に積層された第2のカーボンナノチューブ層とを含み、
前記第2のカーボンナノチューブ層は、カーボンナノチューブを含む塗材を塗布し乾燥させて前記第1のカーボンナノチューブ層を形成した後に、前記第1のカーボンナノチューブ層の上に直に、カーボンナノチューブを含む塗材を塗布することで形成される、積層体。
【請求項2】
前記第1のカーボンナノチューブ層を形成する際の、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向と、前記第2のカーボンナノチューブ層を形成する際の、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向とは、略同一方向である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向を第1方向とし、前記第1方向と直交する方向を第2方向とし、前記第1方向における表面抵抗率の最小値と最大値との差を前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1とし、前記第2方向における表面抵抗率の最小値と最大値との差を前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2とした場合に、
前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1が、前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2よりも小さく(ΔR1<ΔR2)、かつ、
前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2は、前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1の2倍より小さい(ΔR2<2×ΔR1)、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向を第1方向とし、前記第1方向と直交する方向を第2方向とし、前記第1方向における表面抵抗率の最小値と最大値との差を前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1とし、前記第2方向における表面抵抗率の最小値と最大値との差を前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2とした場合に、
前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2が200Ω/sq以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記第2のカーボンナノチューブ層に含まれるカーボンナノチューブの含有量が、前記第1のカーボンナノチューブ層に含まれるカーボンナノチューブの含有量よりも少ない、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1も200Ω/sq以下である、請求項4に記載の積層体。
【請求項7】
カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向を第1方向とし、前記第1方向と直交する方向を第2方向とした場合に、
前記第1方向の長さが、前記第2方向の長さの2倍以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記絶縁層は、硬化剤または顔料を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ層のそれぞれの膜の厚さが20μm以下であり、
積層体全体の膜の厚さが120μm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項10】
液透過性のトップシートと、液不透過性または液透過性のバックシートと、トップシートおよびバックシートの間に配置された吸収体と、を有し、
前記バックシートに、請求項1ないし9のいずれかに記載の積層体が形成されている、吸収性物品。
【請求項11】
前記積層体が、前記バックシートの上に、グラビア印刷によりカーボンナノチューブを含む塗材を塗布して形成される、請求項10に記載の吸収性物品。
【請求項12】
一対の前記積層体が隙間を挟んで形成されており、前記一対の積層体の間の前記隙間の幅は5mm以下である、請求項10に記載の吸収性物品。
【請求項13】
樹脂組成物を主に含む絶縁層を塗布する工程と、
前記絶縁層の上に、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを主に含むセルロース繊維層を塗布する工程と、
前記セルロース繊維層の上に、カーボンナノチューブを主に含む塗材を塗布して第1のカーボンナノチューブ層を積層する工程と、
前記第1のカーボンナノチューブ層の上に、カーボンナノチューブを主に含む塗材を塗布して第2のカーボンナノチューブ層を積層する工程と、を有し、
前記第1のカーボンナノチューブ層の上に前記第2のカーボンナノチューブ層を積層する場合、前記第1のカーボンナノチューブ層を乾燥させてから、カーボンナノチューブを主に含む塗材を塗布することで、前記第2のカーボンナノチューブ層を形成する、積層体の製造方法。
【請求項14】
樹脂組成物を主に含む絶縁層と、
前記絶縁層の上に積層された、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを主に含むセルロース繊維層と、
前記セルロース繊維層の上に積層された、カーボンナノチューブを主に含むカーボンナノチューブ層と、を有する積層体において、
前記カーボンナノチューブ層は、複数のカーボンナノチューブ層から構成されており、
前記カーボンナノチューブ層の積層回数を調整することで、表面抵抗率を調整する、積層体の表面抵抗率の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの層を有する積層体およびそれを備える吸収性物品、当該積層体の製造方法、並びに積層体における表面抵抗率の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、折り曲げ可能なディスプレイや、ウェアラブルデバイスなどに使用できる、可撓性を有する導電性部材のニーズが高まっている。たとえば、特許文献1では、ポリビニルアルコール系ポリマーと硫化銅微粒子とからなる導電性ポリビニルアルコール系繊維を、布帛の面方向に間隔をおいて配置し、排尿による繊維間の電気導電度の変化を検知することで、尿漏れを検知する尿漏れセンサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-240470号公報
【特許文献2】特許第6948097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、尿漏れセンサーに金属製の導電性部材を用いた場合、以下のような問題があった。
すなわち、尿漏れセンサーを搭載するおむつは、使用者の肌に接触するものであるため、導電性部材自体が直接肌に触れなくても、金属製部材を用いることが使用者に嫌厭される傾向にあった。
また、このようなおむつは使い捨てられるため、廃棄の点からも、金属製部材ではない可燃性の導電性部材を用いることが好ましかった。
さらに、特許文献1では、金属粒子を用いているが、粒子の形状では互いの接点が少なくなるため、高い導電性が得られない(たとえば50cm当たりの抵抗値が10kΩとなる)という問題があった。
【0005】
加えて、おむつは、一般に、肌に触れるトップシートと、トップシートを透過した尿を吸収する吸収体と、トップシートとともに吸収体を挟み込み、吸収体が吸収しきれない尿の漏れを防止するバックシートとから構成され、尿漏れを検知するための導電性部材はバックシートに搭載されることが多い。しかしながら、バックシートとして、ポリプロピレンやポリエチレンなどの樹脂シートを用いる場合には、導電性部材および樹脂シートの電気的特性から、導電性部材と樹脂シートとが電気的に反発し密着性が低くなるため、導電性部材を樹脂シートに適切に塗布できない場合もあった。
【0006】
このような問題に対して、発明者は鋭意研究を行い、カーボンナノチューブを用いることで、上記課題を解決できることを発見した。特に、特許文献2に示す、セルロースナノファイバーとカーボンナノチューブとを用いた積層体を用いることで、ポリプロピレンやポリエチレンなどの樹脂シートから構成されるバックシートについても、カーボンナノチューブを含む導電部材を適切に塗布することができることを発見した。
【0007】
さらに、尿漏れを高い精度で検知するためには、導電性部材は、表面抵抗率が均一であることが好ましい。しかしながら、特許文献2に記載の積層体では、カーボンナノチューブの電気的特性により、均一に塗布したカーボンナノチューブの分布に偏りができてしまい、その結果、表面抵抗率のばらつきが大きくなってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決することを目的とするものであり、金属製部材を用いなくても導電性が高く、かつ、可撓性を有する積層体およびそれを備えた吸収性物品、当該積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る積層体は、樹脂組成物を主に含む絶縁層と、前記絶縁層の上に積層された、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを主に含むセルロース繊維層と、前記セルロース繊維層の上に積層された、カーボンナノチューブを主に含むカーボンナノチューブ層とを有し、前記カーボンナノチューブ層は、前記セルロース繊維層の上に積層された第1のカーボンナノチューブ層と、前記第1のカーボンナノチューブ層の上に積層された第2のカーボンナノチューブ層とを含み、前記第2のカーボンナノチューブ層は、カーボンナノチューブを含む塗材を塗布し乾燥させて前記第1のカーボンナノチューブ層を形成した後に、前記第1のカーボンナノチューブ層の上に直に、カーボンナノチューブを含む塗材を塗布することで形成される。
上記積層体において、前記第1のカーボンナノチューブ層を形成する際の、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向と、前記第2のカーボンナノチューブ層を形成する際の、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向とは、略同一方向である構成とすることができる。
上記積層体において、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向を第1方向とし、前記第1方向と直交する方向を第2方向とし、前記第1方向における表面抵抗率の最小値と最大値との差を前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1とし、前記第2方向における表面抵抗率の最小値と最大値との差を前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2とした場合に、前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1が、前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2よりも小さく(ΔR1<ΔR2)、かつ、前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2は、前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1の2倍より小さい(ΔR2<2×ΔR1)構成とすることができる。
上記積層体において、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向を第1方向とし、前記第1方向と直交する方向を第2方向とし、前記第1方向における表面抵抗率の最小値と最大値との差を前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1とし、前記第2方向における表面抵抗率の最小値と最大値との差を前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2とした場合に、前記第2方向における表面抵抗率のばらつきΔR2が200Ω/sq以下である。
上記積層体において、前記第2のカーボンナノチューブ層に含まれるカーボンナノチューブの含有量が、前記第1のカーボンナノチューブ層に含まれるカーボンナノチューブの含有量よりも少ない構成とすることができる。
上記積層体において、前記第1方向における表面抵抗率が、前記第2方向における表面抵抗率よりも低い構成とすることができる。
上記積層体において、前記第1方向における表面抵抗率のばらつきΔR1も200Ω/sq以下である構成とすることができる。
上記積層体において、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向を第1方向とし、前記第1方向と直交する方向を第2方向とした場合に、前記第1方向の長さが、前記第2方向の長さの2倍以上である構成とすることができる。
上記積層体において、前記絶縁層は、硬化剤または顔料を含む構成とすることができる。
上記積層体において、前記カーボンナノチューブ層のそれぞれの膜の厚さが20μm以下であり、積層体全体の膜の厚さが120μm以下である構成とすることができる。
本発明に係る吸収性物品は、液透過性のトップシートと、液不透過性または液透過性のバックシートと、トップシートおよびバックシートの間に配置された吸収体と、を有し、前記バックシートに上記積層体が形成されていることを特徴とする。
上記吸収性物品において、前記積層体が、前記バックシートの上に、グラビア印刷によりカーボンナノチューブを含む塗材を塗布して形成される構成とすることができる。
上記吸収性物品において、一対の前記積層体が隙間を挟んで形成されており、前記一対の積層体の間の前記隙間の幅は2mm以下である構成とすることができる。
本発明に係る積層体の製造方法は、樹脂組成物を主に含む絶縁層を塗布する工程と、前記絶縁層の上に、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを主に含むセルロース繊維層を塗布する工程と、前記セルロース繊維層の上に、カーボンナノチューブを主に含む第1のカーボンナノチューブ層を塗布する工程と、前記第1のカーボンナノチューブ層の上に、カーボンナノチューブを主に含む第2のカーボンナノチューブ層を塗布する工程と、を有し、前記第1のカーボンナノチューブ層の上に前記第2のカーボンナノチューブ層を積層する場合、前記第1のカーボンナノチューブ層を乾燥させてから、カーボンナノチューブを主に含む塗材を塗布することで、前記第2のカーボンナノチューブ層を形成する。
本発明に係る積層体の表面抵抗率の調整方法は、樹脂組成物を主に含む絶縁層と、前記絶縁層の上に積層された、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを主に含むセルロース繊維層と、前記セルロース繊維層の上に積層された、カーボンナノチューブを主に含むカーボンナノチューブ層と、を有する積層体において、前記カーボンナノチューブ層は、複数のカーボンナノチューブ層から構成されており、前記カーボンナノチューブ層の積層回数を調整することで、表面抵抗率を調整する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属製部材を用いなくても導電性が高く、かつ、可撓性を有する積層体およびそれを備えた吸収性物品、当該積層体の製造方法、並びに、積層体における表面抵抗率の調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る積層体の断面を示す模式図である。
図2】カーボンナノチューブ層を1層のみ積層した場合のカーボンナノチューブの分布特性を説明するための図である。
図3】カーボンナノチューブ層を2層積層した場合のカーボンナノチューブの分布特性を説明するための図である。
図4】実施例における表面抵抗率の測定方法を説明する図である。
図5】実施例1におけるサンプル1の表面抵抗率の測定結果を示す図である。
図6】実施例1におけるサンプル2の表面抵抗率の測定結果を示す図である。
図7】実施例1におけるサンプル3の表面抵抗率の測定結果を示す図である。
図8】実施例2におけるサンプル4~14の抵抗値の測定結果を示すグラフである。
図9】(A)は本実施形態に係る吸収性物品の斜視図であり、(B)は(A)のB-B線に沿う断面図である。
図10】本実施形態に係るバックシートの上面を示す図であり、吸収性物品の使用方法を説明するための図である。
図11】排尿量と電気測定値との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る積層体および吸収性物品を、図面に基づいて説明する。
【0013】
<積層体>
図1は、本実施形態に係る積層体1の断面を示す模式図である。図1に示すように、第1実施形態に係る積層体1は、樹脂絶縁層10、絶縁コート層20、セルロース繊維層30、および、カーボンナノチューブ層40を順に有する。具体的には、積層体1では、樹脂絶縁層10の上に絶縁コート層20が積層され、絶縁コート層20の上にセルロース繊維層30が積層され、セルロース繊維層30の上にカーボンナノチューブ層40が積層される。
【0014】
なお、以下においては、図1の下側(たとえば、カーボンナノチューブ層40に対してセルロース繊維層30側)を「下」または「下側」と称し、図1の上側(たとえば、セルロース繊維層30に対してカーボンナノチューブ層40側)を「上」または「上側」と称す。また、本発明において、「の上に積層され」とは、特段の説明がない場合は、ある層に直に積層される場合も含み、また、ある層の上に直に積層されず、ある層の上側に積層される場合も含む。
【0015】
<樹脂絶縁層10>
樹脂絶縁層10は、積層体1の基材となる層であり、絶縁質のものであればよく、ポリイミド(PI);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン(Nylon)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)などの各種アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂などが挙げられる。また、樹脂絶縁層10として、樹脂シートを用いることができ、この場合、PIシートまたはポリエステルシートが好ましく、特に、PIシートまたはPETシートの使用が好ましい。なお、樹脂絶縁層10は、上記樹脂組成物を主に含む層であり、具体的には、上記樹脂組成物を50%以上、より好ましくは80%以上含むものである。
【0016】
樹脂絶縁層10は、単層構造であってもよく、2層または3層以上の多層構造であってもよい。樹脂絶縁層10の形状(外形)は、長尺状、フィルム状、テープ状、板状など、シート状(薄い平面状)であることが好ましい。樹脂絶縁層10の厚さは、積層体1の用途に応じて適宜設定することができるが、本実施形態では、積層体1の膜厚を薄くするために、樹脂絶縁層10の厚さは0.5~100μmとすることが好ましく、0.5~20μmとすることもできる。
【0017】
<絶縁コート層20>
絶縁コート層20は、図1に示すように、樹脂絶縁層10の上に積層される。絶縁コート層20は、樹脂絶縁層10と、後述するセルロース繊維層30との間の密着性を高めるための層であり、たとえば、水系のエステルまたはウレタン樹脂を主に含んだ層とすることができる。また、本実施形態に係る絶縁コート層20は、絶縁コート層20の上に塗布されるカーボンナノチューブ層40を支持し、カーボンナノチューブ層40にカーボンナノチューブを一定量含む一定の膜厚を確保させる作用も有する。なお、絶縁コート層20は、積層体1に必須な構成ではなく省略することもできるが、カーボンナノチューブ層40において一定の膜厚を確保する必要がある場合には形成することが好ましい。
【0018】
また、絶縁コート層20は、顔料や硬化剤を含有する構成とすることができる。顔料を添加することで、カーボンナノチューブ層40を複数回積層する場合の位置把握を容易にすることもできる。なお、顔料の添加量は、特に限定されないが、経済的に、絶縁コート層20全体の20重量%以下、たとえば3~10重量%程度とすることが好ましい。また、絶縁コート層20は硬化剤を含有することで、絶縁コート層20の塗材を塗布した後にコロナ放電処理などを行うことで、樹脂絶縁層10への接着力を向上させることができる。硬化剤の添加量も、特に限定されないが、絶縁コート層20全体の10重量%以下、たとえば3~7重量%程度とすることが好ましい。
【0019】
<セルロース繊維層30>
セルロース繊維層30は、図1に示すように、絶縁コート層20の上に積層され、繊維幅(繊維の平均径)が1000nm以下の繊維状セルロースを主に含む。このような繊維状セルロースとして、繊維幅が100nm以下のセルロースナノファイバーが好ましい。セルロース繊維層30の厚さは、積層体1の用途に応じて適宜設定することができるが、本実施形態では、積層体1の膜厚を薄くするために、絶縁コート層20とセルロース繊維層30とを合わせた2層の厚さが0.5~5μmとされる。なお、セルロース繊維層30は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを主に含む層であり、具体的には、上記繊維状セルロースを50%以上、より好ましくは80%以上含む層である。
【0020】
繊維状セルロースの原材料として用いるパルプ繊維としては、たとえば、竹パルプ、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)などの広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)などの針葉樹クラフトパルプ(NKP)などの化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)などの機械パルプ;茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙などから製造される古紙パルプ;古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらパルプ繊維を、ビーター処理法、DDR法、グラインダー法、水中カウンターコリジョン法、ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミルなどの機械的処理により解繊、あるいは、酸素処理や酸処理などの化学的処理(たとえばTEMPO酸化処理)を施した後に解繊することで、繊維状セルロースが得られる。
【0021】
また、セルロース繊維層30は、本発明の効果を損なわない限り、その他の製紙用薬剤を任意に含有していてもよい。その他の製紙用薬剤としては、例えば顔料、染料、填料、サイズ剤、耐摩耗性向上剤、耐水化剤、界面活性剤、ワックス、防錆剤、導電剤、紙粉脱落防止剤等が挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
<カーボンナノチューブ層40>
カーボンナノチューブ層40は、図1に示すように、セルロース繊維層30の上に積層される。カーボンナノチューブ層40は、カーボンナノチューブを主に含む層である。カーボンナノチューブ層40の厚さも、積層体1の用途に応じて適宜設定することができるが、積層体1の膜厚を薄くする場合には、カーボンナノチューブ層40全体の厚さを、0.1~7μmとすることが好ましい。なお、カーボンナノチューブ層40は、カーボンナノチューブを主に含む層であり、具体的には、カーボンナノチューブを50%以上、より好ましくは80%以上含む層である。
【0023】
積層体1の厚さを薄くする場合には、絶縁コート層20、セルロース繊維層30、およびカーボンナノチューブ層40を合わせた層厚さが1~10μmとされる。このように、絶縁コート層20、セルロース繊維層30、およびカーボンナノチューブ層40を合わせた層の厚さを薄くすることで、積層体1全体の膜厚を30μm以下とすることができ、従来と比べて、厚さの薄い積層体1を提供することができる。
【0024】
なお、カーボンナノチューブは、特に限定されず、アーク放電法、レーザ蒸発法、化学気相蒸着法(CVD法)などの各種方法により製造されたものを用いることができる。また、カーボンナノチューブの構造も、特に限定されないが、高い導電性を確保するために、アセチレン骨格など、炭素間に三重結合を有する構造とすることが好ましい。また、カーボンナノチューブは、単層(例えば1~3層、典型的には1層または2層)であってもよく、多層(例えば4層~200層、典型的には4層~60層)であってもよいが、カーボンナノチューブ層40を、主として多層カーボンナノチューブで構成することが好ましい。また、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとを任意の割合(単層カーボンナノチューブ:多層カーボンナノチューブの質量比が例えば100:0~50:50、好ましくは100:0~80:20)で含んで構成としてもよい。あるいは、カーボンナノチューブは、気相成長炭素繊維(vapor-grown carbon fiber, VGCF)であってもよい。
【0025】
また、カーボンナノチューブの長さや直径も、特に限定されないが、本実施形態に係るカーボンナノチューブ層40では、以下のように構成することができる。たとえば、カーボンナノチューブの長さを、100μm以下とすることができ、好ましくは20~30μmとすることができる。また、カーボンナノチューブの直径を、50nm以下とすることができ、好ましくは20nm以下とすることができる。
【0026】
さらに、積層体1の単位面積(1平方センチメートル)当たりのカーボンナノチューブ層40の重さ(すなわち固形分換算目付量)も、特に限定されないが、0.1μg以上、好ましくは0.5μg以上とすることができる。これにより、積層体1の表面に良好な導電性を付与することができる。なお、カーボンナノチューブ層40の重さの上限は特に限定されないが、カーボンナノチューブ層40の目付量が多すぎると、カーボンナノチューブ層40がセルロース繊維層30から剥がれやすくなる場合があり得る。剥離抑制の観点から、樹脂絶縁層10の単位面積(1平方センチメートル)当たりのカーボンナノチューブ層40の重さは、30μg以下、好ましくは15μg以下、より好ましくは3.5μg以下にすることが適当である。
【0027】
加えて、本実施形態に係る積層体1では、図1に示すように、2層以上のカーボンナノチューブ層40(図1に示す例では、カーボンナノチューブ層40a,40b)が積層される。本実施形態では、下層のカーボンナノチューブ層40aの上に、上層のカーボンナノチューブ層40bが直接積層されるものとする。なお、カーボンナノチューブ層40の積層回数は2層に限定されず、3層以上とすることもできる。
【0028】
また、目標とする表面抵抗率に応じて、2層以上のカーボンナノチューブ層40a,40bの構成を設定することができる。詳しい作用機序は不明であるが、上層のカーボンナノチューブ層40bのカーボンナノチューブの含有量を、下層のカーボンナノチューブ層40bのカーボンナノチューブの含有量よりも少なくするほど(上層のカーボンナノチューブ層40bの厚さを下層のカーボンナノチューブ層40aの厚さよりも薄くするほど)、積層体1の表面抵抗率が高くなる傾向にある。ただし、この場合、表面抵抗率のばらつきは大きくなる傾向にあるため、表面抵抗率のばらつきの低減を重視する場合は、上層のカーボンナノチューブ層40bのカーボンナノチューブの含有量を、下層のカーボンナノチューブ層40bのカーボンナノチューブの含有量に近い量とすることが好ましい。なお、各層において同じ含有率のカーボンナノチューブ塗材を同量塗布する場合も、積層回数が多いほど(上層のカーボンナノチューブ層40であるほど)、カーボンナノチューブ層40に含まれるカーボンナノチューブの含有量は少なくなり、カーボンナノチューブ層40の厚さは薄くなる傾向にある。これは、乾燥した後のカーボンナノチューブ層40のカーボンナノチューブは疎水性を有するため、水分散型のカーボンナノチューブ塗材を積層しにくくなるためであると考えられる。
【0029】
また、本実施形態に係る積層体1では、カーボンナノチューブ層40を2層以上積層して構成することで、積層体1の表面抵抗率を調整することが可能となっている。具体的には、カーボンナノチューブ層40は、積層回数が多いほど、カーボンナノチューブ層40全体としての表面抵抗率が小さくなるという特性を有することがわかった。たとえば、カーボンナノチューブ層を1回積層させた場合の積層体の表面抵抗率が10Ω/sq程度である場合も、カーボンナノチューブを主に含む塗材を複数回塗布し、カーボンナノチューブ層40を複数回積層させることで、積層体1の表面抵抗率を10~10Ω/sq程度まで調整することも可能となる。一例として、カーボンナノチューブ層を2層積層させることで200~300Ω/sqの積層体1を構成することができ、カーボンナノチューブ層を10層以上積層させることで100Ω/sq以下の積層体1を構成することもできる。また、カーボンナノチューブ層40の積層回数が増えるほど、積層回数1回当たりの表面抵抗率の減少幅は小さくなることがわかった。そのため、積層回数を多くすることで、表面抵抗率の微調整を行うことができ、所望する表面抵抗率を得ることが可能となる。なお、本実施形態では、積層体1の表面抵抗率が、1×10~1×10Ω/sq、より好ましくは8×10~8×10Ω/sqとなるように、カーボンナノチューブ層40を形成することが好ましく、たとえば、積層体1の表面抵抗率が1×10~5×10Ω/sqとなるように、カーボンナノチューブ層40を形成することができる。
【0030】
さらに、本実施形態に係るカーボンナノチューブ層40では、2層以上のカーボンナノチューブ層40a,40bを積層することで、表面抵抗率のばらつきが200Ω/sq以下、より好ましくは100Ω/sq以下となっていることを特徴とする。なお、本実施形態において、表面抵抗率のばらつきとは、積層体1における表面抵抗率の最大値と最小値との差であり、たとえば、積層体1を9分割あるいは12分割などに分割し、各区分内の任意の位置で表面抵抗率を測定し、各区分で測定した表面抵抗率の最大値と最小値との差を、積層体1の表面抵抗率のばらつきとして求めることができる。
【0031】
また、本実施形態では、カーボンナノチューブを液状溶媒である水に分散させた水分散型のカーボンナノチューブ塗材(カーボンナノチューブスラリー)をセルロース繊維層30の上に塗布することで、カーボンナノチューブ層40を形成する。ここで、カーボンナノチューブは、その電気的な特性から、カーボンナノチューブを塗布した場合に、図2に示すように、カーボンナノチューブが多く分布する部分R1と、カーボンナノチューブが少なく分布する部分R2とが生じる。具体的には、図2に示すように、カーボンナノチューブ塗材を第1方向に塗布した場合でも、塗布方向(第1方向)に対して斜め方向に、カーボンナノチューブが多く分布する部分R1と、カーボンナノチューブが少なく分布する部分R2とが生じ、同じカーボンナノチューブ層40内においてもカーボンナノチューブの分布に偏りが生じ、その結果、表面抵抗率がばらついてしまうという問題があった。特に、図2に示すように、塗布方向(第1方向)と比べて、塗布方向と直交する幅方向(第2方向)においては、カーボンナノチューブの偏りが大きくなる傾向にある。そのため、塗布方向(第1方向)における表面抵抗率のばらつきΔRs1に比べて、幅方向(第2方向)における表面抵抗率のばらつきΔRs2が大きいという問題があった。なお、図2は、カーボンナノチューブ層を1層のみ積層した場合のカーボンナノチューブの分布特性の概要を説明するための図である。
【0032】
しかしながら、本実施形態では、カーボンナノチューブ層40として、2層以上のカーボンナノチューブ層40a,40bを略同一方向(第1方向)に積層することで、図3に示すように、2層目のカーボンナノチューブ層40bに含まれるカーボンナノチューブが、1層目のカーボンナノチューブ層40aのカーボンナノチューブが少ない部分に分布し、カーボンナノチューブ層40全体として、表面抵抗率のばらつきを抑えることができる。すなわち、本実施形態では、塗布方向(第1方向)における表面抵抗率のばらつきΔRs1と、幅方向(第2方向)における表面抵抗率のばらつきΔRs2との差を抑制するだけではなく、塗布方向(第1方向)における表面抵抗率のばらつきΔRs1自体、および、幅方向(第2方向)における表面抵抗率のばらつきΔRs2自体も抑制することが可能となる。なお、図3は、カーボンナノチューブ層を2層積層した場合のカーボンナノチューブの分布特性の概要を説明するための図である。
【0033】
すなわち、本実施形態では、カーボンナノチューブ層40を2層以上とすることで、カーボンナノチューブ層40に含まれるカーボンナノチューブの分布を均一化することができ、表面抵抗率のばらつきを抑えることができる。これは、カーボンナノチューブ層40に含まれるカーボンナノチューブは乾燥すると疎水性の性質を有するため、乾燥した1層目のカーボンナノチューブ層40aの上に、2層目のカーボンナノチューブ層40bを構成するための水分散型のカーボンナノチューブ塗材を積層した場合、2層目のカーボンナノチューブ層40bのカーボンナノチューブは、1層目のカーボンナノチューブ層40aのカーボンナノチューブの分布が少ない、疎水性の低い部分に分布する。特に、本実施形態では、セルロース繊維層30が親水性の性質を有するため、2層目のカーボンナノチューブ層20bを構成するカーボンナノチューブは、より一層、1層目のカーボンナノチューブ層40aのカーボンナノチューブの分布が少ない、セルロース繊維層が比較的露出している親水性の部分に分布することとなる。これにより、カーボンナノチューブ層40全体でのカーボンナノチューブの分布が均一化され、特に、幅方向における表面抵抗率のばらつきを抑制することができる。同様に、カーボンナノチューブ層40を、3層以上積層する場合には、このような作用がより働くため、幅方向(第2方向)におけるカーボンナノチューブの分布がより均一化され、第2方向における表面抵抗率のばらつきΔRs2をより抑制することが可能となる。
【0034】
なお、上述したように、カーボンナノチューブ層40の表面抵抗率のばらつきの抑制は、カーボンナノチューブが乾燥することで生じるカーボンナノチューブの疎水性の性質を利用するものであり、カーボンナノチューブ塗材が乾燥する前に、カーボンナノチューブ塗材を重ねて積層しても、図2に示すように、カーボンナノチューブの分布の偏りは生じてしまう。そのため、本実施形態では、カーボンナノチューブ層40aを構成するカーボンナノチューブ塗材が乾燥して第1のカーボンナノチューブ層40aが形成された後に、第2のカーボンナノチューブ層40bを構成するカーボンナノチューブ塗材を第1のカーボンナノチューブ層40aの上に塗布し、これが乾燥して第2のカーボンナノチューブ層40bが形成されることで、本実施形態に係るカーボンナノチューブ層40が形成されることを特徴としている。なお、本実施形態では、第1のカーボンナノチューブ層40aを形成する際の、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向と、第2のカーボンナノチューブ層40bを形成する際の、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向とを略同一方向として、カーボンナノチューブを含む塗材を塗布している。塗布方向が略同一である方が、第1のカーボンナノチューブ層40aにおけるカーボンナノチューブの分布が少ない部分に、第2のカーボンナノチューブ層40bを形成するカーボンナノチューブが分布されやすく好ましいためである。
【0035】
<積層体の製造方法>
本実施形態に係る積層体1の製造方法の概要を説明する。本実施形態の積層体1は、たとえば下記(1),(2)の工程により製造することができる。
(1)シート状の樹脂絶縁層10を用意し、樹脂絶縁層10の上に絶縁コート層20を積層する。なお、絶縁コート層20は、硬化剤や顔料を混合した塗材を用いることができる。硬化剤を用いる場合は、樹脂絶縁層10にコロナ放電処理などを行うことで、絶縁コート層20と樹脂絶縁層10との密着性を高めることができる。また、絶縁コート層20を乾燥させた後、絶縁コート層20の上に、繊維状セルロースを主に含む塗材を塗布し、セルロース繊維層30を形成する。絶縁コート層20およびセルロース繊維層30を構成する塗材の塗布は、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷およびオフセット印刷などの手法により行うことができる。
(2)セルロース繊維層30を乾燥させた後、セルロース繊維層30の上に、カーボンナノチューブを含むカーボンチューブ層形成用スラリーを塗布し、さらに乾燥させることで、セルロース繊維層30上にカーボンナノチューブ層40を形成する。なお、カーボンナノチューブ層40の塗布も、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷およびオフセット印刷などの手法により行うことができる。特に、本実施形態では、カーボンナノチューブ層40を2層以上積層することを特徴としている。そのため、本実施形態では、上記印刷手法において、上述したように、カーボンナノチューブ層40a用のカーボンナノチューブ層形成用スラリーをセルロース繊維層30の上に塗布し乾燥させて、カーボンナノチューブ層40aを形成した後に、カーボンナノチューブ層40b用のカーボンナノチューブ層形成用スラリーをカーボンナノチューブ層40aの上に塗布し乾燥させて、カーボンナノチューブ層40bを形成することで、2層以上のカーボンナノチューブ層40を有する構成とすることができる。
【0036】
また、カーボンナノチューブ層40は、カーボンナノチューブと液状媒体とを含んだカーボンナノチューブ層形成用スラリーをセルロース繊維層30の上に塗布し、加熱により液状溶媒を揮発させることで形成される。本実施形態に係るカーボンナノチューブ層形成用スラリーは、カーボンナノチューブを液状溶媒である水に分散させた水分散型のスラリーである。そのため、カーボンナノチューブ層形成用スラリーを乾燥して形成されたカーボンナノチューブ層40は、水が揮発した後、有機溶媒残渣や樹脂バインダをほとんど含まない状態とすることができる。
【0037】
なお、カーボンナノチューブ層形成用スラリーは、液状溶媒(水)の含有割合が95質量%以上である(換言すれば、溶媒以外の成分すなわち不揮発分の含有割合が5質量%未満である)ものが好ましく、上記割合が97%以上である液状媒体がさらに好ましい。また、液状溶媒として、水以外に、アルコールと水との混合液を用いることもできる。また、カーボンナノチューブ層形成用スラリーは、本発明の目的から逸脱しない範囲において、上記以外の種々の添加剤を含ませることができる。添加剤の好適例として、例えば、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、粘度調整剤などが挙げられる。
【0038】
カーボンナノチューブ層形成用スラリーを乾燥させる際の加熱温度は、液状媒体の組成(特に溶媒の沸点)などを勘案して適宜設定することができる。通常は、該乾燥温度をおおよそ40℃~250℃(例えばおおよそ60℃~150℃)程度とすることが好ましい。乾燥後、必要に応じて、加熱処理や洗浄処理等を施し、カーボンナノチューブ層40中に含まれる添加剤を除去してもよい。
【実施例0039】
(実施例1)
本実施例1では、積層体1のサンプル1~3を作製し、表面抵抗率を測定した。具体的には、本実施例1では、樹脂絶縁層10としてポリエステルシートを用い、絶縁コート層20はウレタン樹脂を主に含む層とした。また、カーボンナノチューブ層40のカーボンナノチューブとして、多層カーボンナノチューブを用いた。また、上述した製造方法にて、カーボンナノチューブ層40を3層積層させて、積層体1を作製した。このようにして作製した積層体1を、塗布方向(第1方向)に長さ1200mm、幅方向に長さ450mmで切断し、図4に示すように、切断した積層体1の各位置(A~Lの12か所)における表面抵抗率を、表面抵抗計を用いて、塗布方向(第1方向)および幅方向(第2方向)のそれぞれで測定した。測定方法は、JISに規定された表面抵抗率の測定方法に準拠した。なお、A~Lは塗布方向(第1方向)において、A~CとD~Fとの間が500mm間隔、D~FとG~Iとの間が100mm間隔、G~IとJ~Lとの間が500mm間隔で配置され、幅方向(第2方向)において互いに225mm間隔で配置された位置である。
【0040】
図5~7は、本実施例1に係るサンプル1~3の表面抵抗率の測定結果を示す図である。具体的には、図5は、カーボンナノチューブを同一濃度で含有する同一量のカーボンナノチューブ塗材を3層積層させたサンプル1の測定結果を示す図である。また、図6は、同一量のカーボンナノチューブ塗材を3層積層させるとともに、3層目(一番上)のカーボンナノチューブ塗材は、1,2層目のカーボンナノチューブ塗材と比べてカーボンナノチューブの含有量を2/3としたサンプル2の測定結果を示す図である。さらに、図7は、3層目のカーボンナノチューブ塗材の塗料を、1,2層目のカーボンナノチューブ塗材の塗料よりも少なくするとともに、3層目(一番上)のカーボンナノチューブ塗材は、1,2層目のカーボンナノチューブ塗材と比べてカーボンナノチューブの含有量を2/3としたサンプル3の測定結果を示す図である。なお、サンプル1~3は、上述した条件以外は、同じ条件で製造したものである。
【0041】
また、本実施例1では、図4に示す位置A~Lにおいて、塗布方向(第1方向)および幅方向(第2方向)の表面抵抗率をそれぞれ2回測定し、塗布方向(第1方向)における表面抵抗率の最大値と最小値との差を、塗布方向(第1方向)における表面抵抗率のばらつきΔRs1として求め、幅方向(第2方向)における表面抵抗率の最大値と最小値との差を、幅方向(第2方向)における表面抵抗率のばらつきΔRs2として求めた。さらに、方向に関係なく、表面抵抗率の最大値と最小値との差を、全体での表面抵抗率のばらつきΔRstとして求めた。
【0042】
図5に示すサンプル1では、塗布方向(第1方向)における表面抵抗率は、Aの1回目で最小値の229Ω/sqとなり、Fの1回目で最大値の275Ω/sqとなり、表面抵抗率のばらつきΔRs1は275-229=46Ω/sqとなった。また、幅方向(第2方向)における表面抵抗率は、Aの2回目で最小値の223Ω/sqとなり、Fの2回目で最大値の275Ω/sqとなり、表面抵抗率のばらつきΔRs2は275-223=52Ω/sqとなった。さらに、図5に示すサンプル1では、全体での表面抵抗率のばらつきΔRstも、52Ω/sqとなった。このように、図5に示すサンプル1の積層体1においては、表面抵抗率のばらつきは、100Ω/sq以下となった。
【0043】
また、図6に示すサンプル2では、塗布方向(第1方向)における表面抵抗率は、Bの1回目で最小値の275Ω/sqとなり、Lの1回目で最大値の352Ω/sqとなり、表面抵抗率のばらつきΔRs1は372-275=77Ω/sqとなった。また、幅方向(第2方向)における表面抵抗率は、Cの2回目で最小値の275Ω/sqとなり、Dの2回目で最大値の352Ω/sqとなり、表面抵抗率のばらつきΔRs2は372-275=77Ω/sqとなった。さらに、図6に示す例では、全体での表面抵抗率のばらつきΔRstも、77Ω/sqとなった。このように、図6に示すサンプル2の積層体1においても、表面抵抗率のばらつきは、100Ω/sq以下となった。
【0044】
さらに、図7に示すサンプル3では、塗布方向(第1方向)における表面抵抗率は、Kの2回目で最小値の313Ω/sqとなり、Dの1回目で最大値の461Ω/sqとなり、表面抵抗率のばらつきΔRs1は461-313=148Ω/sqとなった。また、幅方向(第2方向)における表面抵抗率は、Kの2回目で最小値の302Ω/sqとなりEの2回目で最大値の490Ω/sqとなり、表面抵抗率のばらつきΔRs2は490-302=188Ω/sqとなった。さらに、図7に示す例では、全体での表面抵抗率のばらつきΔRstは、188Ω/sqとなった。このように、図7に示すサンプル3の積層体1においては、表面抵抗率のばらつきは、200Ω/sq以下となった。
【0045】
また、サンプル1~3では、カーボンナノチューブ層40をそれぞれ3回積層しているが、上層のカーボンナノチューブ層において、カーボンナノチューブを積層する量を少なくするほど、表面抵抗率を高くすることができることがわかった。一方で、カーボンナノチューブ層40を同じ量で積層するほど、表面抵抗率のばらつきは低くなることがわかった。そのため、積層体1の使用目的に応じて、カーボンナノチューブ層40の積層条件を調整することで、使用目的に合った表面抵抗率を得ることができることがわかった。なお、図示していないが、1層目および3層目のカーボンナノチューブ層40におけるカーボンナノチューブの含有量を多くし、2層目のカーボンナノチューブ層40のカーボンナノチューブの含有量を少なくした場合は、カーボンナノチューブ層40を3層とも同じ量で積層する場合と同様の表面抵抗率、および、表面抵抗率のばらつきが見られた。
【0046】
(実施例2)
本実施例2では、複数の積層体1のサンプルごとに、抵抗計(テスター、カイセ株式会社製KU-1188)で、カーボンナノチューブ層40の積層回数ごとの抵抗値を測定し、カーボンナノチューブ層40と、抵抗値との関係性を明らかにした。図8は、実施例2の各サンプルでの積層回数ごとの抵抗値の測定結果を示す図である。なお、図8においては、抵抗値をkΩ単位で示している。また、実施例2においては、樹脂絶縁層10としてポリエチレンシートを用いた、サンプル4~14の計11サンプルを作製したが、これらサンプルは、カーボンナノチューブ塗材におけるカーボンナノチューブの含有率や、カーボンナノチューブ層40の積層回数を変えたバリエーションである。本実施例2では、積層体1を塗布方向に300mm、幅方向に20mmに断片化し、この断片化した積層体1の塗布方向の両端における2点での抵抗値を測定した。
【0047】
図8では、サンプル4~14のうち、サンプル4,6~8,12の測定結果について、縦軸を抵抗値(kΩ)とし、横軸をカーボンナノチューブ層40の積層回数として、グラフにした。図8に示すように、サンプル4~14では、カーボンナノチューブ層40の積層回数を多くするほど、抵抗値が低下することがわかった。また、図8に示すように、積層回数が多くなるほど、抵抗値が低下する幅が小さくなることがわかった。たとえば、実施例2では、抵抗値が2kΩ付近になるように調整しており、カーボンナノチューブ層40の積層回数を調整することで、それぞれのサンプルにおいて抵抗値を2kΩ付近にすることができている。
【0048】
以上のように、第1実施形態に係る積層体1は、樹脂絶縁層10と、絶縁コート層20と、セルロース繊維層30と、カーボンナノチューブ層40とを有し、樹脂絶縁層10の上に絶縁コート層20を積層し、絶縁コート層20の上にセルロース繊維層30を積層し、セルロース繊維層30の上にカーボンナノチューブ層40を積層することで、積層体1の膜厚を薄くしながらも、安定性に優れた積層体を提供することができる。
【0049】
また、本実施形態に係る積層体1では、カーボンナノチューブ層40は、セルロース繊維層30の上に直接積層された第1のカーボンナノチューブ層40aと、第1のカーボンナノチューブ層40aの上に直接積層された第2のカーボンナノチューブ層40bとを含む。第2のカーボンナノチューブ層40bは、第1のカーボンナノチューブ層40aが乾燥した後に形成することで、図3に示すように、カーボンナノチューブ層40におけるカーボンナノチューブの分布が均一化され、幅方向(第2方向)における表面抵抗率のばらつきが、塗布方向(第1方向)における表面抵抗率のばらつきの2倍以下となっている。これにより、積層体1における表面抵抗率のばらつきを抑えることができ、高精度の導電性部材を提供することができる。
【0050】
<吸収性物品>
次に、上述した積層体1を備えた吸収性物品2について説明する。本実施形態に係る吸収性物品2は、たとえば尿漏れ検知機能を有する軽失禁パッドであり、尿漏れ時に、尿を吸収するとともに、尿漏れを検知することができる。ここで、図9(A)は、本実施形態に係る吸収性物品2の斜視図であり、図9(B)は、図9(A)のB-B線に沿う断面図である。吸収性物品2は、図9(A)に示すように、液透過性のトップシート21と、液不透過性または液透過性のバックシート22と、トップシート21およびバックシート22の間に配置された吸収体23と、を有する。
【0051】
また、図9(B)および図10に示すように、バックシート22の上面(吸収体23と接する側の面)には、一対の積層体1a,1bが形成されている。一対の積層体1a,1bは、図10に示すように、バックシート22の長手方向に沿って略平行に延在しており、隙間Sを挟んで離れた位置に配置されている。なお、図10は、本実施形態に係るバックシート22の上面を示す図であり、本実施形態に係る吸収性物品2の使用方法を説明するための図である。
【0052】
吸収性物品2において尿漏れ検知を行う場合、図10に示すように、バックシート22の上面に形成された一対の積層体1a,1bの一端に尿漏れ検知器3の電極31,32がそれぞれ取り付けられる。尿漏れ検知器3は、尿漏れに起因する電極31,32間での通電を検知し、通電による電流値、電圧値および/または電気伝導度の変化を測定する機器である。吸収性物品2では、一対の積層体1a,1bが離れた位置に形成されており、一対の積層体1a,1bの間に隙間Sが形成されている。尿漏れが全く起きていない状態では、一対の積層体1a,1b間で通電が行われず、電流値は低くなり、電圧値は高くなり、あるいは、電気伝導度は低くなる。これに対して、尿漏れが生じ、尿の一部により隙間Sが濡れると、一対の積層体1a,1b間で通電が起こり、電流値は高くなり、電圧値は低くなり、また、電気伝導度は高くなる。本実施形態では、尿漏れ検知器3により、このような電流値、電圧値および/または電気伝導度の変化を検知することで、尿漏れの発生を検知することができる。なお、尿漏れ検知器3は、電流値、電圧値および電気伝導度のうち1つの値に基づいて尿漏れを検知する構成としてもよいし、電流値、電圧値および電気伝導度のうち2以上を組み合わせて総合的に尿漏れを判断する構成とすることができる。また、尿漏れ検知器3は、電流値、電圧値および/または電気伝導度の移動平均値などを算出して尿漏れを検知する構成とすることもできるし、AI(人工知能)を活用して尿漏れを検知する構成とすることもできる。
【0053】
なお、隙間Sの幅(積層体1aと1bとの乖離距離)は、特に限定されないが、たとえば0.5mm以上かつ5mm以下とすることができ、好ましくは0.5mm以上かつ3mm以下とすることができ、より好ましくは0.5mm以上かつ2mm以下とすることができる。隙間Sの幅が5mmよりも大きくなると、排尿量が少ない場合に、一対の積層体1a,1b間の通電が生じにくくなり、尿漏れ時の電流値、電圧値あるいは電気導電度の変化が小さくなり過ぎてしまい、排尿量を適切に測定することができないためである。また、隙間Sを0.5mm未満とすると、検知できる排尿量の上限が低くなってしまい、排尿量を適切に検知できない場合があるためである。また、隙間Sの幅を狭くするほど、尿漏れ時の電流値、電圧値、あるいは電気導電度の変化は大きくなる傾向にあり、隙間Sの幅を広くするほど、電流値、電圧値、あるいは電気導電度の変化は小さくなる傾向にある。さらに、本実施形態に係る吸収性物品2では、導電性の高い積層体1を有するため、尿漏れの検知精度が高く、比較的少ない量の尿漏れも検知することが可能となる。たとえば、吸収目安が3mlの吸収性物品2では排尿量が0.5mlである場合も尿漏れを検知することができ、吸収目安が170mlの吸収性物品2でも排尿量が20mlで尿漏れを検知することができる。
【0054】
図11は、本実施形態に係る吸収性物品2を用いた尿漏れ検出試験の結果の概要を示すグラフであり、排尿量と、電流値との関係を説明するための図である。図11に示す尿漏れ検知試験では、生理食塩水を尿と見立て、数回に分けて一定量(40ml)ずつ生理食塩水を本実施形態に係る吸収性物品2のトップシート21に注ぎ、電流値を継続的に測定した。図11に示すように、生理食塩水を注水すると、電流値は急峻に増加した後に低下するため、波形はピークを有することとなる。なお、電流値がピークを有するのは、生理食塩水がバックシート22に到達し吸収される前の状態で通電量がピークとなり、その後、生理食塩水が吸収性物品2に吸収されることで通電量が減少するためである。また、注水量の合計が増えるほど、電流値のベース値(たとえば、注水によるピーク直後から一定時間経過までの移動平均値など)は高くなることがわかった。このことから、本実施形態に係る吸収性物品2では、電流値の変化を検知することで尿漏れを検知することができることがわかった。そして、このような関係を予め求めておくことで、尿漏れ検知器3で測定した電流値のベース値に基づいて排尿量を推測することができることがわかった。また、図11に示す例では、電流値を検出する構成を例示したが、同様に、電圧値や電気導電度の変化を検出することで、排尿量を推測する構成とすることもできる。
【0055】
なお、吸収性物品2において、尿漏れを検知するための導電性部材は一定の導電性を有していれば、本実施形態に係る積層体1を用いなくても実現することは可能である。たとえば、一般に導電体として銅などの金属部材を用いることで、尿漏れ検知が可能な吸収性物品を作成することもできる。しかしながら、吸収性物品2は人体に装着されるため、金属製部材を用いることが使用者に嫌厭される場合がある。また、金属製部材は、焼却処分できないため廃棄の点でも問題があった。また、導電性の樹脂部材は、柔軟性があり、焼却処分することができるが、尿漏れを検知可能な程度の導電性を有しない場合があるという問題があった。
【0056】
このような問題に対して、発明者は、鋭意研究を重ね、導電性部材としてカーボンナノチューブを用いることで尿漏れ検知に十分な表面抵抗率を得ることができることを発見した。しかしながら、バックシート22は、ポリプロピレンやポリエチレンなどの樹脂シートが用いられることが多く、カーボンナノチューブの電気的な性質により、このような樹脂シートの上にカーボンナノチューブを塗布することが困難であるという問題があった。
【0057】
これに対して、本実施形態に係る積層体1では、樹脂組成物を主に含む樹脂絶縁層10と、樹脂絶縁層10の上に積層された微細繊維状セルロースを主に含むセルロース繊維層30と、セルロース繊維層の上に積層された、カーボンナノチューブを主に含むカーボンナノチューブ層とを有し、絶縁層10およびセルロース繊維層30がバックシート22の樹脂シートに密着できるとともに、カーボンナノチューブ層40がセルロース繊維層30に密着できるため、ポリプロピレンやポリエチレンなどの樹脂シートであっても積層体1を密着させることができ、カーボンナノチューブ層40をバックシート22の上に安定して形成することができた。
【0058】
さらに、本実施形態に係る積層体1では、セルロース繊維層30の上に、カーボンナノチューブを含む塗材を塗布し乾燥させて、1層目のカーボンナノチューブ層40aを形成した後に、カーボンナノチューブを含む塗材を塗布し乾燥させて、2層目のカーボンナノチューブ層40bを形成する。これにより、上述したように、幅方向(第2方向)におけるカーボンナノチューブの分布がより均一化され、第2方向における表面抵抗率のばらつきをより抑制することが可能となっている。図10に示すように、本実施形態に係る吸収性物品2では、積層体1a,1bは第2方向(幅方向)に並列しているため、第2方向における表面抵抗率のばらつきを抑制することで、尿漏れによる通電をより高い精度で検知することが可能となる。
【0059】
<吸収性物品の製造方法>
本実施形態に係る吸収性物品2の製造方法は、バックシート22に一対の積層体1a,1bを形成すること以外は、従来公知の方法で製造することができる。たとえば、必要に応じて、液拡散性シート及び立体ギャザーをあらかじめトップシート21に配置した上で、所定のスリットを有する吸収体23をトップシート21とバックシート22との間に挟持し、トップシート21とバックシート22 とを一部又は全周に亘ってホットメルト接着剤やヒートエンボス、超音波エンボス、高周波エンボス等を用いて固定し、加えて、ヒートエンボス、超音波エンボス、高周波エンボス等を用いてトップシート21から吸収体23までに圧搾することにより、所定の略円弧状の圧搾溝を形成することで製造することができる。また、バックシート22が液透過性である場合には、バックシート22は、トップシート21と同様に、親水性不織布、開口ポリエチレンフィルム等の開口性フィルム、ウレタンフォーム等の発泡フィルム又はこれらを積層した複合シートから形成される。なお、バックシート22は、単層であっても、複数層積層していてもよく、ドライタッチ性を付与するために多数の透孔が形成されていてもよい。
【0060】
また、バックシート22に一対の積層体1a,1bを形成する際に、バックシート22の上に、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷およびオフセット印刷などの手法により一対の積層体1a,1bを形成することで、一対の積層体1a,1bが形成されたバックシート22を作成することができる。特に、一対の積層体1a,1bが形成されたバックシート22を連続して大量生産する場合は、生産工程上、一対の積層体1a,1bをバックシート22の生地にグラビア印刷で積層し形成することが好ましい。グラビア印刷は、印刷速度が速く複層印刷ができることに加えて、バックシート22の素材である巻き長の長いロール状の荷姿の薄膜素材に連続印刷することができ、コストを低減しながら大量かつ迅速に、一対の積層体1a,1bを形成したバックシート22を生産することができる。
【0061】
以上のように、本実施形態に係る吸収性物品2では、バックシート22の上面に本実施形態に係る一対の積層体1a,1bを形成することで、尿漏れが発生した場合に、積層体1a,1b間を適切に通電させることができ、尿漏れ検知器3により尿漏れを適切に検知することができる。特に、本実施形態に係る吸収性物品2では、一対の積層体1a,1bを製造する際に、第1のカーボンナノチューブ層40aを乾燥して形成した後に、当該第1のカーボンナノチューブ層40aの上に直に、カーボンナノチューブを含む塗材を塗布することで形成することで、第2のカーボンナノチューブ層40bを形成する。これにより、図3に示すように、カーボンナノチューブ層40におけるカーボンナノチューブの分布の偏りを低減することができ、特に、カーボンナノチューブ層40の幅方向における表面抵抗率のばらつきを抑えることができ、尿漏れを高い精度で検知することが可能となる。また、複数のカーボンナノチューブ層40a,40bを積層することで、積層体1a,1bの導電性が高くなるため、微量の尿漏れも検知することが可能となる。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態例の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
たとえば、上述の実施形態では、カーボンナノチューブ層40を備える積層体1を例示して説明したが、カーボンナノチューブ層40に代えて、グラフェンを主に含有する層を備える積層体を用いる構成とすることもできる。また、グラフェンも乾燥すると疎水性の性質を有するため、グラフェンを用いる構成においても、上述した実施形態のカーボンナノチューブ層40と同様に、グラフェンを含む塗材を塗布し乾燥させて第1のグラフェン層を形成した後に、第1のグラフェン層の上に直に、グラフェンを含む塗材を塗布することで、第2のグラフェン層を積層して形成することで、表面抵抗率を均一化することができる。このように、グラフェンを用いる場合も、所望の導電性を有する可撓性の積層体を得ることができ、吸収性物品において尿漏れセンサーとして優れた機能を発揮することが可能となると考えられる。
【0064】
また、上述した実施形態では、第1のカーボンナノチューブ層40aを形成する際の、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向と、第2のカーボンナノチューブ層40bを形成する際の、カーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向とを略同一方向とする構成を例示したが、この構成に限定されず、第1のカーボンナノチューブ層40aを形成する際のカーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向と、第2のカーボンナノチューブ層40bを形成する際のカーボンナノチューブを含む塗材の塗布方向とを異なる方向(たとえば略直角に交差する方向)とする構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0065】
1,1a,1b…積層体
10…樹脂絶縁層
20…絶縁コート層
30…セルロース繊維層
40…カーボンナノチューブ層
40a…第1のカーボンナノチューブ層
40b…第2のカーボンナノチューブ層
2…吸収性物品
21…トップシート
22…バックシート
23…吸収体
3…尿漏れ検知器
31,32…電極
図1
図2
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図11