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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078722
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】熱処理システム
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/63 20060101AFI20240604BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20240604BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C21D1/63
C21D1/00 121
C21D1/18 P
C21D1/18 J
C21D1/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191221
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 剛士
(72)【発明者】
【氏名】松井 豊勝
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 昇
(72)【発明者】
【氏名】高堂 亮
(72)【発明者】
【氏名】三舩 達也
【テーマコード(参考)】
4K034
【Fターム(参考)】
4K034AA12
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB08
4K034FA06
4K034FB11
4K034GA18
(57)【要約】
【課題】熱処理の停滞を抑制する。
【解決手段】ワークWが配置され、ワークの焼入れ、焼戻し、及び洗浄を行う共通油槽10と、焼入れ用の焼入油を貯留する焼入油槽21と、焼戻し用の焼戻油を加熱するとともに貯留する焼戻油槽22と、洗浄用の洗浄油を貯留する洗浄油槽23と、焼入油槽21と共通油槽10との間で焼入油を給排する焼入油経路31と、焼戻油槽22と共通油槽10との間で焼戻油を給排する焼戻油経路32と、洗浄油槽23と共通油槽10との間で洗浄油を給排する洗浄油経路33と、焼戻油槽22内の焼戻油と焼入油槽21内の焼入油との間で熱交換を行う熱交換器41と、焼入油槽21内の焼入油と洗浄油槽23内の洗浄油との間で熱交換を行う熱交換器42と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼部材が配置され、前記鋼部材の焼入れ、焼戻し、及び洗浄を行う共通油槽と、
前記焼入れ用の焼入油を貯留する焼入油槽と、
前記焼戻し用の焼戻油を加熱するとともに貯留する焼戻油槽と、
前記洗浄用の洗浄油を貯留する洗浄油槽と、
前記焼入油槽と前記共通油槽との間で前記焼入油を給排する焼入油経路と、
前記焼戻油槽と前記共通油槽との間で前記焼戻油を給排する焼戻油経路と、
前記洗浄油槽と前記共通油槽との間で前記洗浄油を給排する洗浄油経路と、
前記焼戻油槽内の前記焼戻油と前記焼入油槽内の前記焼入油との間で熱交換を行う第一熱交換器と、
前記焼入油槽内の前記焼入油と前記洗浄油槽内の前記洗浄油との間で熱交換を行う第二熱交換器と、
を備える、熱処理システム。
【請求項2】
前記焼戻油槽内の前記焼戻油を、前記第一熱交換器を経由して前記焼戻油槽内に循環させるとともに、前記焼入油槽内の前記焼入油を、前記第一熱交換器を経由して前記焼入油槽内に循環させる第一熱交換経路と、
前記焼入油槽内の前記焼入油を、前記第二熱交換器を経由して前記焼入油槽内に循環させるとともに、前記洗浄油槽内の前記洗浄油を、前記第二熱交換器を経由して前記洗浄油槽内に循環させる第二熱交換経路と、
を更に備える、請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項3】
前記洗浄油槽内の前記洗浄油が供給され、供給された前記洗浄油を蒸留する蒸留器と、
前記焼入油槽内の前記焼入油と前記蒸留器内の前記洗浄油との間で熱交換を行う第三熱交換器と、を更に備える、
請求項1又は2に記載の熱処理システム。
【請求項4】
前記焼入油槽内の前記焼入油を、前記第三熱交換器を経由して前記焼入油槽内に循環させるとともに、前記蒸留器内の前記洗浄油を、前記第三熱交換器を経由して前記蒸留器内に循環させる第三熱交換経路を更に備える、
請求項3に記載の熱処理システム。
【請求項5】
前記焼入油槽内の前記焼入油よりも低い温度の焼入油である低温焼入油を貯留する低温焼入油槽と、
前記洗浄油槽内の前記洗浄油を前記蒸留器で蒸留することによって生成される再生洗浄油を貯留する再生洗浄油槽と、
前記低温焼入油槽と前記共通油槽との間で前記低温焼入油を供排する低温焼入油経路と、
前記低温焼入油槽内の前記低温焼入油と前記再生洗浄油槽内の前記再生洗浄油との間で熱交換を行う第四熱交換器と、
を更に備える、
請求項3に記載の熱処理システム。
【請求項6】
前記低温焼入油槽内の前記低温焼入油を、前記第四熱交換器を経由して前記低温焼入油槽内に循環させるとともに、前記再生洗浄油槽内の前記再生洗浄油を、前記第四熱交換器を経由して前記再生洗浄油槽内に循環させる第四熱交換経路を更に備える、
請求項5に記載の熱処理システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼部材の熱処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼部材に対し、焼入れや焼戻し等の熱処理を行うシステムが知られている。例えば、下記特許文献1には、浸炭処理後の鋼部材を焼入れ処理用の油槽に浸漬させて焼入れ処理を行うとともに、焼入れ処理後の鋼部材を焼戻し処理用の油槽に浸漬させて焼戻し処理を行う熱処理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-82252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された熱処理システムでは、焼入れ用の油槽にて焼入れ処理を行った後、焼戻し用の油槽に鋼部材を搬送する必要があり、この鋼部材の搬送にかかる時間等によって、熱処理が停滞するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、熱処理の停滞を抑制することができる熱処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一態様に係る熱処理システムは、鋼部材が配置され、前記鋼部材の焼入れ、焼戻し、及び洗浄を行う共通油槽と、前記焼入れ用の焼入油を貯留する焼入油槽と、前記焼戻し用の焼戻油を加熱するとともに貯留する焼戻油槽と、前記洗浄用の洗浄油を貯留する洗浄油槽と、前記焼入油槽と前記共通油槽との間で前記焼入油を給排する焼入油経路と、前記焼戻油槽と前記共通油槽との間で前記焼戻油を給排する焼戻油経路と、前記洗浄油槽と前記共通油槽との間で前記洗浄油を給排する洗浄油経路と、前記焼戻油槽内の前記焼戻油と前記焼入油槽内の前記焼入油との間で熱交換を行う第一熱交換器と、前記焼入油槽内の前記焼入油と前記洗浄油槽内の前記洗浄油との間で熱交換を行う第二熱交換器と、を備える。
【0007】
本発明の第二態様に係る熱処理システムは、前記焼戻油槽内の前記焼戻油を、前記第一熱交換器を経由して前記焼戻油槽内に循環させるとともに、前記焼入油槽内の前記焼入油を、前記第一熱交換器を経由して前記焼入油槽内に循環させる第一熱交換経路と、前記焼入油槽内の前記焼入油を、前記第二熱交換器を経由して前記焼入油槽内に循環させるとともに、前記洗浄油槽内の前記洗浄油を、前記第二熱交換器を経由して前記洗浄油槽内に循環させる第二熱交換経路と、を更に備える。
【0008】
本発明の第三態様に係る熱処理システムは、前記洗浄油槽内の前記洗浄油が供給され、供給された前記洗浄油を蒸留する蒸留器と、前記焼入油槽内の前記焼入油と前記蒸留器内の前記洗浄油との間で熱交換を行う第三熱交換器と、を更に備える。
【0009】
本発明の第四態様に係る熱処理システムは、前記焼入油槽内の前記焼入油を、前記第三熱交換器を経由して前記焼入油槽内に循環させるとともに、前記蒸留器内の前記洗浄油を、前記第三熱交換器を経由して前記蒸留器内に循環させる第三熱交換経路を更に備える。
【0010】
本発明の第五態様に係る熱処理システムは、前記焼入油槽内の前記焼入油よりも低い温度の焼入油である低温焼入油を貯留する低温焼入油槽と、前記洗浄油槽内の前記洗浄油を前記蒸留器で蒸留することによって生成される再生洗浄油を貯留する再生洗浄油槽と、前記低温焼入油槽と前記共通油槽との間で前記低温焼入油を供排する低温焼入油経路と、前記低温焼入油槽内の前記低温焼入油と前記再生洗浄油槽内の前記再生洗浄油との間で熱交換を行う第四熱交換器と、を更に備える。
【0011】
本発明の第六態様に係る熱処理システムは、前記低温焼入油槽内の前記低温焼入油を、前記第四熱交換器を経由して前記低温焼入油槽内に循環させるとともに、前記再生洗浄油槽内の前記再生洗浄油を、前記第四熱交換器を経由して前記再生洗浄油槽内に循環させる第四熱交換経路を更に備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱処理の停滞を抑制することができる熱処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る熱処理システムの全体の概略構成を示す図である。
図2】熱処理の各工程におけるワークの温度変化の一例を示すグラフである。
図3】設備昇温処理工程における焼入油・焼戻油・洗浄油の流れの一例を示す図である。
図4】前洗浄処理工程における洗浄油を供給する流れの一例を示す図である。
図5】前洗浄処理工程における洗浄油を排出する流れの一例を示す図である。
図6】焼入れ処理工程における焼入油を供給する流れの一例を示す図である。
図7】残留オーステナイト低減処理工程における低温焼入油を供給する流れの一例を示す図である。
図8】残留オーステナイト低減処理工程における低温焼入油を排出する流れの一例を示す図である。
図9】焼戻し処理工程における焼戻油を供給する流れの一例を示す図である。
図10】焼戻し処理工程における焼戻油を排出する流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一要素又は同一機能を有する要素には可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0015】
<熱処理システム1の全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る熱処理システム1の全体の概略構成を示す図である。熱処理システム1は、鋼部材であるワークWの熱処理を行うシステムである。この熱処理は、浸炭処理後の焼入れ処理、残留オーステナイト低減処理、焼戻し処理、洗浄処理等を含む。
【0016】
熱処理システム1は、共通油槽10と、貯留油槽20と、給排経路30と、熱交換器41,42,43,44と、熱交換経路51,52,53,54と、蒸留器60と、制御部70と、を備える。なお、熱処理システム1は、浸炭処理を行う浸炭室を含むものとしてもよく、当該浸炭室を含まないものとしてもよい。換言すると、ワークWの浸炭処理は、熱処理システム1内に設けられた浸炭室で行われてもよく、熱処理システム1の外部に設けられた浸炭室で行われてもよい。
【0017】
共通油槽10は、内部に配置されたワークWに対して熱処理油を用いて熱処理を行う油槽である。共通油槽10には、熱処理油として、例えば、焼入れ用の焼入油、焼戻し用の焼戻油、洗浄用の洗浄油、又は低温焼入れ用の低温焼入油等が入れ替え可能に充填される。ワークWは、例えばコンベア等の搬送装置(不図示)によって共通油槽10内に搬送され、配置される。熱処理油は、貯留油槽20から共通油槽10への供給によって、共通油槽10内にワークWが浸漬及びシャワーするように充填される。
【0018】
貯留油槽20は、熱処理油を貯留する油槽であって、焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23、低温焼入油槽24、及び再生洗浄油槽25を含む。
【0019】
焼入油槽21は、焼入油を貯留する。焼入油槽21内の焼入油は、例えば120℃程度の設定温度とされている。
【0020】
焼戻油槽22は、焼戻油を加熱するとともに貯留する。焼戻油槽22には、例えば熱源であるヒータHが設けられている。焼戻油槽22内の焼戻油は、このヒータHによって加熱されており、例えば200℃程度の設定温度とされている。なお、焼戻油槽22内の焼戻油は、ヒータHによる加熱に限らず、例えば浸炭室等の放熱を熱源として利用して加熱されてもよい。
【0021】
洗浄油槽23は、洗浄油を貯留する。洗浄油槽23内の洗浄油は、例えば110℃程度の設定温度とされている。
【0022】
低温焼入油槽24は、低温焼入油を貯留する。低温焼入油槽24内の低温焼入油は、焼入油槽21内の焼入油よりも温度が低く、例えば30℃程度の設定温度とされている。
【0023】
再生洗浄油槽25は、洗浄油槽23内の洗浄油が蒸留器60により蒸留されることによって生成された再生洗浄油を貯留する。再生洗浄油槽25内の再生洗浄油は、例えば30℃程度の設定温度とされている。
【0024】
共通油槽10及び貯留油槽20のそれぞれには、不図示の真空ポンプが接続されており、当該真空ポンプの駆動によって内部を真空排気することが可能とされている。また、共通油槽10及び貯留油槽20のそれぞれには、不図示の窒素ガスタンクが接続されており、当該窒素ガスタンクから窒素ガスが供給可能とされている。共通油槽10と焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23、及び低温焼入油槽24との間では、真空排気及び窒素ガス加圧によって生じる差圧を利用して、熱処理油を供給又は排出することができる。また、この供給又は排出の際、熱処理油を供給する側又は排出する側の油槽に適宜窒素ガスを供給することにより、熱処理油を圧送することもできる。また、共通油槽10及び貯留油槽20のそれぞれには、例えば、熱処理油の液量を測定する不図示のレベルセンサや、熱処理油の温度を測定する不図示の温度センサが設けられている。
【0025】
給排経路30は、共通油槽10と貯留油槽20との間で熱処理油を給排する経路であって、配管等によって構成されている。給排経路30は、焼入油経路31と、焼戻油経路32と、洗浄油経路33と、低温焼入油経路34と、を含む。
【0026】
焼入油経路31は、焼入油槽21と共通油槽10との間で焼入油を給排(供給及び排出)する。焼入油経路31は、焼入油槽21から共通油槽10に焼入油を供給する供給経路と、共通油槽10から焼入油槽21に焼入油を排出する排出経路と、を含む。この供給経路は、例えば経路f1,f2,f3,f4により構成されており、この排出経路は、例えば経路f5,f6により構成されている。なお、焼入油経路31の排出経路を構成する経路f6には、オーバーフロータンクFTが配置されており、共通油槽10から焼入油が排出される際には、このオーバーフロータンクFTを経由して焼入油が排出される。
【0027】
焼戻油経路32は、焼戻油槽22と共通油槽10との間で焼戻油を給排する。焼戻油経路32は、焼戻油槽22から共通油槽10に焼戻油を供給する供給経路と、共通油槽10から焼戻油槽22に焼戻油を排出する排出経路と、を含む。この供給経路及び排出経路は、それぞれ、例えば経路f7,f8,f2,f3,f4により構成されている。すなわち、経路f7,f8,f2,f3,f4が、焼戻油の供給時と排出時とで兼用されている。また、焼戻油経路32は、焼戻油の供給時において共通油槽10に供給した焼戻油を焼戻油槽22に戻して循環させるための循環経路や、共通油槽10に供給した焼戻油を焼戻油槽22に戻さずに迂回させて共通油槽10に戻す迂回経路と、を含む。この循環経路は、例えば経路f5,f9,f10,f11,f7,f8,f2,f3,f4により構成されており、この迂回経路は、例えば経路f5,f9,f12,f13,f14,f8,f2,f3,f4により構成されている。
【0028】
洗浄油経路33は、洗浄油槽23と共通油槽10との間で洗浄油を給排する。洗浄油経路33は、洗浄油槽23から共通油槽10に洗浄油を供給する供給経路と、共通油槽10から洗浄油槽23に洗浄油を排出する排出経路と、を含む。この供給経路は、例えば経路f15,f16により構成されており、この排出経路は、例えばf4,f3,f17により構成されている。
【0029】
低温焼入油経路34は、低温焼入油槽24と共通油槽10との間で低温焼入油を給排する。低温焼入油経路34は、低温焼入油槽24から共通油槽10に低温焼入油を供給する供給経路と、共通油槽10から低温焼入油槽24に低温焼入油を排出する排出経路と、を含む。この供給経路及び排出経路は、それぞれ、例えば経路f18,f4を含んで構成されている。すなわち、経路f18,f4が、低温焼入油の供給時と排出時とで兼用されている。
【0030】
熱交換器41~44は、例えば直径の異なる2つのチューブを外側と内側の2重に組み合わせた二重管式熱交換器である。熱交換器41~44は、異なる温度の熱処理油を内部に流すことにより、相対的に高い温度の熱処理油から相対的に低い温度の熱処理油へと伝熱させる。
【0031】
熱交換器41(第一熱交換器)は、焼戻油槽22内の焼戻油と焼入油槽21内の焼入油との間で熱交換を行う。熱交換器41は、熱交換経路51に配置されている。熱交換経路51を流れる焼戻油と焼入油とが熱交換器41の内部を流れることによって、当該焼戻油と当該焼入油との間で熱交換が行われる。
【0032】
熱交換器42(第二熱交換器)は、焼入油槽21内の焼入油と洗浄油槽23内の洗浄油との間で熱交換を行う。熱交換器42は、熱交換経路52に配置されている。熱交換経路52を流れる焼入油と洗浄油とが熱交換器42の内部を流れることによって、当該焼入油と当該洗浄油との間で熱交換が行われる。
【0033】
熱交換器43(第三熱交換器)は、焼入油槽21内の焼入油と蒸留器60内の洗浄油との間で熱交換を行う。熱交換器43は、熱交換経路53に配置されている。熱交換経路53を流れる焼入油と洗浄油とが熱交換器43の内部を流れることによって、当該焼入れ油と当該洗浄油との間で熱交換が行われる。
【0034】
熱交換器44(第四熱交換器)は、低温焼入油槽24内の低温焼入油と再生洗浄油槽25内の再生洗浄油との間で熱交換を行う。熱交換器44は、熱交換経路54に配置されている。熱交換経路54を流れる低温焼入油と再生洗浄油とが熱交換器44の内部を流れることによって、当該低温焼入油と当該再生洗浄油との間で熱交換が行われる。
【0035】
熱交換経路51~54は、熱処理油を循環させながら熱交換を行う経路であって、配管等によって構成されている。熱交換経路51~54には、熱交換器41~44が配置されている。熱交換経路51~54では、熱処理油が循環しながら熱交換器41~44によって熱交換される。
【0036】
熱交換経路51(第一熱交換経路)は、焼戻油槽22内の焼戻油を、熱交換器41を経由して焼戻油槽22内に循環させるとともに、焼入油槽21内の焼入油を、熱交換器41を経由して焼入油槽21内に循環させる。具体的には、熱交換経路51は、焼戻油を焼戻油槽22から排出して熱交換器41を経由して焼戻油槽22に戻す循環経路51aと、焼入油を焼入油槽21から排出して熱交換器41を経由して焼入油槽21に戻す循環経路51bと、を含む。循環経路51aは、例えば、熱交換器41を通る経路f20と、焼戻油槽22から経路f20の一端までを接続する経路f19,f13と、経路f20の他端から焼戻油槽22までを接続する経路f11と、により構成されている。また、循環経路51bは、例えば、焼入油槽21から出て熱交換器41を通り焼入油槽21に戻る一つの経路として構成されている。
【0037】
熱交換経路52(第二熱交換経路)は、焼入油槽21内の焼入油を、熱交換器42を経由して焼入油槽21内に循環させるとともに、洗浄油槽23内の洗浄油を、熱交換器42を経由して洗浄油槽23内に循環させる。具体的には、熱交換経路52は、焼入油を焼入油槽21から排出して熱交換器42を経由して焼入油槽21に戻す循環経路52aと、洗浄油を洗浄油槽23から排出して熱交換器42を経由して洗浄油槽23に戻す循環経路52bと、を含む。循環経路52aは、例えば、熱交換器42を通る経路f22と、焼入油槽21から経路f22の一端までを接続する経路f21と、経路f22の他端から焼入油槽21までを接続する経路f23と、により構成されている。また、循環経路52bは、洗浄油槽23から出て熱交換器42を通り洗浄油槽23に戻る一つの経路として構成されている。
【0038】
熱交換経路53(第三熱交換経路)は、焼入油槽21内の焼入油を、熱交換器43を経由して焼入油槽21内に循環させるとともに、蒸留器60内の洗浄油を、熱交換器43を経由して蒸留器60内に循環させる。具体的には、熱交換経路53は、焼入油を焼入油槽21から排出して熱交換器43を経由して焼入油槽21に戻す循環経路53aと、洗浄油を蒸留器60から排出して熱交換器43を経由して蒸留器60に戻す循環経路53bと、を含む。循環経路53aは、熱交換器43を通る経路f24と、焼入油槽21から経路f24の一端までを接続する経路f21と、経路f24の他端から焼入油槽21までを接続する経路f23と、により構成されている。なお、図1においては、熱交換器43を通る経路f24の途中部の図示を省略し「A」及び「B」の丸印を付しているが、実際の経路f24は、図示中の「A」の丸印同士と「B」の丸印同士が接続されてなる。また、循環経路53bは、例えば、蒸留器60から出て熱交換器43を通り蒸留器60に戻る一つの経路として構成されている。
【0039】
熱交換経路54(第四熱交換経路)は、低温焼入油槽24内の焼入油を、熱交換器44を経由して低温焼入油槽24内に循環させるとともに、再生洗浄油槽25内の洗浄油を、熱交換器44を経由して再生洗浄油槽25内に循環させる。具体的には、熱交換経路54は、低温焼入油を低温焼入油槽24から排出して熱交換器44を経由して低温焼入油槽24に戻す循環経路54aと、再生洗浄油を再生洗浄油槽25から排出して熱交換器44を経由して再生洗浄油槽25に戻す循環経路54bと、を含む。循環経路54aは、例えば、低温焼入油槽24から出て熱交換器44を通り低温焼入油槽24に戻る一つの経路として構成されている。また、循環経路54bは、例えば、再生洗浄油槽25から出て熱交換器44を通り再生洗浄油槽25に戻る一つの経路として構成されている。
【0040】
蒸留器60は、洗浄油槽23内の洗浄油を蒸留することによって、再生洗浄油を生成する。蒸留器60には、洗浄油槽23内の洗浄油が経路f25を通って供給される。蒸留器60は、供給された洗浄油を蒸留し、再生洗浄油を生成する。生成された再生洗浄油は、経路f26を通って再生洗浄油槽25に供給される。再生洗浄油槽25内に貯留された再生洗浄油は、経路f27,f15を通って洗浄油槽23に供給される。なお、蒸留器60には、洗浄油の蒸留の際に生じた廃油を貯留する廃油タンク(不図示)が接続されている。
【0041】
給排経路30や熱交換経路51~54を含む各経路を構成する配管には、所定の位置において開閉弁Vが設けられている。すなわち、給排経路30や熱交換経路51~54の所定位置には、開閉弁Vが配置されている。なお、図面においては、経路f1に配置された開閉弁Vのみ符号を図示し、図面を簡略化して理解を容易にするため、その他の開閉弁Vについては符号の図示を省略する。制御部70による開閉弁Vの開閉制御によって、給排経路30や熱交換経路51~54において熱処理油を通すか通さないかが制御される。開閉弁Vは、例えばエアオペレート弁(空圧駆動弁)である。また、各熱交換経路51~54における所定の位置には、不図示のポンプが配置されている。制御部70による当該ポンプの制御によって、熱交換経路51~54における熱処理油の循環が行われる。
【0042】
制御部70は、例えば、CPUを含む半導体集積回路で構成される。制御部70は、ROMからCPUを動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出し、RAMや他の電子回路等と協働して熱処理システム1の全体を管理及び制御する。図示は省略するが、制御部70は、制御対象の構成(ヒータH、開閉弁V、不図示のポンプや各種センサ等)に対して通信可能に接続されている。制御部70は、例えば、貯留油槽20に設けられたレベルセンサや温度センサ等により検出された情報に基づき、ヒータHの駆動制御、開閉弁Vの開閉制御、ポンプの駆動制御等を行う。
【0043】
<各工程におけるワークWの温度変化>
次に、図2を参照して、熱処理の各工程の流れとワークWの温度変化について説明する。図2は、熱処理の各工程におけるワークWの温度変化の一例を示すグラフである。図2の横軸は時間を示し、図2の縦軸はワークWの温度を示す。ここで、熱処理前のワークW受け入れ時には、ワークWの温度は常温であって例えば30℃程度であると仮定する。なお、熱処理の各工程の流れは、図2に示す例に限定されず、例えば後洗浄処理が省略されてもよい。
【0044】
図2に示すように、共通油槽10内における前洗浄処理工程において、共通油槽10内のワークWの温度は、30℃程度の常温状態から83~110℃程度に上昇する。続いて、浸炭室における浸炭処理工程において、ワークWの温度は930℃程度になる。続いて、浸炭処理後にワークWが共通油槽10内に搬入された状態において、ワークWの温度は850℃程度になる。続いて、共通油槽10内における焼入れ処理工程において、ワークWの温度は120℃程度になる。続いて、共通油槽10内における残留オーステナイト低減処理工程において、ワークWの温度は30℃程度になる。続いて、共通油槽10内における後洗浄処理工程において、ワークWの温度は83~110℃程度になる。続いて、共通油槽10内における焼戻し処理工程において、ワークWの温度は200℃程度になる。続いて、共通油槽10内における後洗浄処理工程において、ワークWの温度は83~110℃程度になる。その後、30℃程度になった状態で、熱処理後のワークWが払い出される。
【0045】
<熱処理油の流れ>
次に、図3図10を参照して、熱処理システム1における熱処理油の流れについて説明する。図3図10は、前洗浄処理、焼入処理、残留オーステナイト低減処理、又は焼戻し処理の各工程における熱処理油の流れの一例を示す図である。図3図10においては、熱処理油の流れを太い実線の矢印で示している。なお、後洗浄処理工程については、前洗浄処理工程と同様であるため、図示及び説明を省略する。また、図3図10においては、制御部70の図示を省略する。
【0046】
図3は、設備昇温処理工程における焼入油・焼戻油・洗浄油の流れの一例を示す図である。図3に示すように、設備昇温処理工程(熱処理システム1の立ち上げ時)においては、熱交換経路51,52を通って循環する焼入油・焼戻油・洗浄油の熱交換を利用して、常温の熱処理油を設定温度に昇温させる。熱処理システム1の立ち上げ前においては、熱処理油の温度は例えば30℃程度であって、熱処理油の設定温度は、例えば、焼入油が120℃程度、焼戻油が200℃程度、洗浄油が110℃程度とされている。
【0047】
具体的には、制御部70が、焼戻油槽22内のヒータHを駆動させ、このヒータHによって、焼戻油槽22内の焼戻油の温度が200℃程度に加熱される。また、制御部70は、熱交換経路51,52に配置されたポンプ及び開閉弁Vの制御によって、熱交換経路51,52において焼入油、焼戻油、及び洗浄油を循環させる。これにより、焼戻油が循環経路51aを矢印の向きに循環するとともに、焼入油が循環経路51bを矢印の向きに循環する。また、焼入油が循環経路52aを矢印の向きに循環するとともに、洗浄油が循環経路52bを矢印の向きに循環する。この結果、焼戻油と焼入油との間の熱交換器41による熱交換によって、焼戻油の熱を利用して焼入油が30℃程度から120℃程度に加熱される。また、焼入油と洗浄油との間の熱交換器42による熱交換によって、焼入油の熱を利用して洗浄油が30℃程度から110℃程度に加熱される。
【0048】
なお、図3に示す熱交換経路51,52における熱処理油の循環は、設備昇温処理工程に限らず、循環させる熱処理油の貯留油槽20(焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23)内の油量が所定量以下にならない限り続けて行われる。換言すると、制御部70は、貯留油槽20内の油量が所定量以上である場合には、熱交換経路51,52に配置されたポンプを駆動させるとともに開閉弁Vを開かせるように制御し、熱処理油同士の熱交換を利用して各熱処理油が設定温度を維持できるように管理する。
【0049】
図4は、前洗浄処理工程における洗浄油を供給する流れの一例を示す図である。図4に示すように、前洗浄処理工程の洗浄油供給時においては、制御部70が、洗浄油槽23が共通油槽10よりも高圧となるように真空排気や窒素ガス供給の制御を行うとともに、洗浄油経路33における供給経路に配置された開閉弁Vを開かせる。これにより、洗浄油槽23内の洗浄油は、洗浄油経路33における経路f15,f16を矢印の向きに流れて、共通油槽10に供給される。共通油槽10内では、供給された洗浄油にワークWが浸漬し、ワークWの前洗浄処理が行われる。なお、制御部70は、十分な量の洗浄油が共通油槽10に供給されると、洗浄油経路33における供給経路に配置された開閉弁Vを閉じさせる。
【0050】
図5は、前洗浄処理工程における洗浄油を排出する流れの一例を示す図である。図5に示すように、前洗浄処理工程の洗浄油排出時においては、制御部70が、共通油槽10が洗浄油槽23よりも高圧となるように真空排気や窒素ガス供給の制御を行うとともに、洗浄油経路33における排出経路に配置された開閉弁Vを開かせる。これにより、共通油槽10内の洗浄油は、洗浄油経路33における経路f4,f3,f17を矢印の向きに流れて、洗浄油槽23に排出される。このとき、洗浄油槽23に排出される洗浄油の温度は、83℃程度となっている。ここで、熱交換経路52では、洗浄油槽23内の洗浄油と焼入油槽21内の焼入油とが循環しながら熱交換を行う。その結果、洗浄油槽23内の洗浄油の温度を上げ、110℃程度(設定温度)に復温することができる。
【0051】
図6は、焼入れ処理工程における焼入油を供給する流れの一例を示す図である。図6に示すように、浸炭処理後の焼入れ処理工程においては、制御部70が、焼入油槽21が共通油槽10よりも高圧となるように真空排気や窒素ガス供給の制御を行うとともに、焼入油経路31における供給経路に配置された開閉弁Vを開かせる。これにより、焼入油槽21内の焼入油は、焼入油経路31における経路f1,f2,f3,f4を矢印の向きに流れて、共通油槽10に供給される。共通油槽10内では、供給された焼入油にワークWが浸漬し、ワークWの焼入れ処理が行われる。なお、制御部70は、十分な量の焼入油が共通油槽10に供給されると、焼入油経路31における供給経路に配置された開閉弁Vを閉じさせる。
【0052】
図7は、残留オーステナイト低減処理工程における低温焼入油を供給する流れの一例を示す図である。図7に示すように、残留オーステナイト低減処理工程においては、制御部70が、低温焼入油槽24が共通油槽10よりも高圧となるように真空排気や窒素ガス供給の制御を行うとともに、低温焼入油経路34における供給経路に配置された開閉弁Vを開かせる。これにより、低温焼入油槽24内の低温焼入油は、低温焼入油経路34における経路f18,f4を矢印の向きに流れて、共通油槽10に供給される。共通油槽10内では、供給された低温焼入油にワークWが浸漬し、ワークWの残留オーステナイト低減処理が行われる。なお、この残留オーステナイト低減処理において、低温焼入油は、ワークWに対してミスト状に吹き付けられてもよい。ワークWに低温焼入油をミスト状に吹き付ける場合には、ワークWを低温焼入油に浸漬させる場合に比して、より効率的にワークWの温度を下げることができる。
【0053】
また、残留オーステナイト低減処理工程において、制御部70は、共通油槽10内の焼入油が、焼入油経路31における排出経路に配置されたオーバーフロータンクFTを経由して経路f5,f6を矢印の向きに流れて焼入油槽21に排出されるように制御する。このとき、焼入油槽21に排出される焼入油の温度は、150℃程度となっている。ここで、制御部70は、経路f25に配置された開閉弁Vを開かせて、洗浄油槽23内の洗浄油を蒸留器60に供給する。また、制御部70は、熱交換経路53に配置されたポンプ及び開閉弁Vの制御によって、熱交換経路53において焼入油及び洗浄油を循環させる。これにより、熱交換経路53において、焼入油槽21内の焼入油と蒸留器60内の洗浄油とが循環しながら熱交換を行う結果、焼入油槽21内の焼入油の温度を下げ、120℃程度(設定温度)に復温することができる。
【0054】
図8は、残留オーステナイト低減処理工程における低温焼入油を排出する流れの一例を示す図である。図8に示すように、残留オーステナイト低減処理工程の低温焼入油排出時においては、制御部70が、共通油槽10が低温焼入油槽24よりも高圧となるように真空排気や窒素ガス供給の制御を行うとともに、低温焼入油経路34における排出経路に配置された開閉弁Vを開かせる。これにより、共通油槽10内の低温焼入油は、低温焼入油経路34における経路f4,f18を矢印の向きに流れて、低温焼入油槽24に排出される。このとき、低温焼入油槽24に排出される低温焼入油の温度は、40℃程度となっている。ここで、制御部70は、熱交換経路54に配置されたポンプ及び開閉弁Vの制御によって、熱交換経路54において低温焼入油及び再生洗浄油を循環させる。これにより、熱交換経路54において、低温焼入油槽24内の低温焼入油と再生洗浄油槽25内の再生洗浄油とが循環しながら熱交換を行う結果、低温焼入油槽24内の低温焼入油の温度を下げ、30℃程度(設定温度)に復温することができる。
【0055】
図9は、焼戻し処理工程における焼戻油を供給する流れの一例を示す図である。図9に示すように、焼戻し処理工程の焼戻油供給時においては、制御部70が、焼戻油槽22が共通油槽10よりも高圧となるように真空排気や窒素ガス供給の制御を行うとともに、焼戻油経路32における供給経路に配置された開閉弁Vを開かせる。これにより、焼戻油槽22内の焼戻油は、焼戻油経路32における経路f7,f8,f2,f3,f4を矢印の向きに流れて、共通油槽10に供給される。また、制御部70は、焼戻油経路32における排出経路に配置された開閉弁Vを開かせ、共通油槽10内に供給した焼戻油が、焼戻油経路32における経路f5,f9,f10,f11を矢印の向きに流れて、焼戻油槽22に戻るように循環させる。これにより、共通油槽10内に、焼戻し処理を行うのに適切な温度で焼戻油が充填されるようにする。なお、制御部70は、焼戻油が十分に温まっている場合には、焼戻油を、経路f9から焼戻油槽22を介さずに迂回させてもよい。この場合の焼戻油の流れは、図示は省略するが、例えば経路f5,f9に続いて経路f12を通り、経路f13,f14,f8,f2,f3,f4を当該順で流れて共通油槽10に戻る流れとなる。共通油槽10内では、供給された焼戻油にワークWが浸漬し、ワークWの焼戻し処理が行われる。
【0056】
図10は、焼戻し処理工程における焼戻油を排出する流れの一例を示す図である。図10に示すように、焼戻し処理工程の焼戻油排出時においては、制御部70が、共通油槽10が焼戻油槽22よりも高圧となるように真空排気や窒素ガス供給の制御を行うとともに、焼戻油経路32における排出経路に配置された開閉弁Vを開かせる。これにより、共通油槽10内の焼戻油は、焼戻油経路32における経路f4,f3,f2,f8,f7を矢印の向きに流れて、焼戻油槽22に排出される。
【0057】
<作用効果>
以上、本実施形態に係る熱処理システム1によれば、給排経路30(焼入油経路31、焼戻油経路32、洗浄油経路33)によって、貯留油槽20(焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23)と共通油槽10との間で熱処理油(焼入油、焼戻油、洗浄油)が供給及び排出される。これにより、同じ共通油槽10において、ワークWの焼入れ処理、焼戻し処理、及び洗浄処理の各工程を行うことができる。従来技術のように、各工程を異なる油槽で行う場合には、各油槽にワークWを搬送する時間がかかっていたが、熱処理システム1によれば、この搬送の際にかかる時間を削減することができる。更に、熱処理システム1によれば、焼戻油槽22において加熱された状態の焼戻油の熱を、熱交換器41によって焼入油に利用するとともに、この焼入油の熱を、熱交換器42によって洗浄油に利用することができる。このように熱を順次移していくことにより、熱処理によって焼入油及び洗浄油が設定温度よりも下がった場合であっても、設定温度に効率よく復温することができるため、焼入油及び洗浄油を復温するまでの時間を短縮することができる。以上より、熱処理システム1によれば、ワークWの搬送や熱処理油の復温にかかる時間によって生じる熱処理の停滞を抑制することができる。
【0058】
また、熱処理システム1では、熱交換経路51,52によって、焼戻油槽22内の焼戻油と焼入油槽21内の焼入油とをそれぞれ循環させながら熱交換するとともに、焼入油槽21内の焼入油と洗浄油槽23内の洗浄油とをそれぞれ循環させながら熱交換する。これにより、当該焼入油と当該焼戻油との間の熱交換、及び、当該焼入油と当該洗浄油との間の熱交換を、より効率良く行うことができる。
【0059】
また、熱処理システム1によれば、蒸留器60内の洗浄油と焼入油槽21内の焼入油との間での熱交換器43による熱交換によって、焼入油の熱を蒸留器60内の洗浄油に移すことができる。これにより、設定温度よりも上がった焼入油の温度を下げて設定温度に復温することができる。
【0060】
また、熱処理システム1では、熱交換経路53によって、焼入油槽21内の焼入油と蒸留器60内の洗浄油とをそれぞれ循環させながら熱交換する。これにより、当該焼入油と当該洗浄油との間の熱交換を、より効率良く行うことができる。
【0061】
また、熱処理システム1によれば、低温焼入油経路34によって低温焼入油を共通油槽10に供給し、共通油槽10内において低温焼入油にワークWを浸漬させて、残留オーステナイト低減処理を行うことができる。また、再生洗浄油槽25内の再生洗浄油と低温焼入油槽24内の低温焼入油との間での熱交換によって、低温焼入油の熱を再生洗浄油に移すことができるため、残留オーステナイト低減処理によって設定温度より高くなった低温焼入油の温度を下げて設定温度に復温することができる。
【0062】
また、熱処理システム1によれば、熱交換経路54によって、低温焼入油槽24内の低温焼入油と再生洗浄油槽25内の再生洗浄油とをそれぞれ循環させながら熱交換する。これにより、当該低温焼入油と当該再生洗浄油との間の熱交換を、より効率良く行うことができる。
【0063】
<変形例>
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。すなわち、上記の実施形態に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記の実施形態及び後述する変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0064】
例えば、給排経路30や熱交換経路51~54は、上記実施形態で説明した構成に限定されず、例えば図に示した経路以外の他の経路等を含んで構成されていてもよい。また、例えば、熱処理システム1は、低温焼入油槽24、再生洗浄油槽25、熱交換器43,44等を備えていなくてもよく、熱交換器41,42による熱交換によってのみ、熱処理油の温度が設定温度になるよう管理してもよい。また、上記実施形態では、熱交換経路51~54で熱処理油を循環させながら熱交換器41~44による熱処理油の熱交換を行う例について説明したが、熱交換経路51~54で熱処理油を循環させずに、熱交換器を介して各貯留油槽20同士を接続すること等によって熱処理油の熱交換を行ってもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、熱処理システム1が、一つの共通油槽10を備える例について説明したが、熱処理システム1が複数の共通油槽10を備えていてもよい。熱処理システム1は、複数の共通油槽10のそれぞれにおいて、異なるワークWの熱処理を同時に又は並行して行ってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1:熱処理システム、10:共通油槽、21:焼入油槽、22:焼戻油槽、23:洗浄油槽、24:低温焼入油槽、25:再生洗浄油槽、31:焼入油経路、32:焼戻油経路、33:洗浄油経路、41,42,43,44:熱交換器(第一~第四熱交換器)、51,52,53,54:熱交換経路(第一~第四熱交換経路)、60:蒸留器、W:ワーク(鋼部材)
図1
図2
図3
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図10