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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078734
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】触感呈示装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/00 20060101AFI20240604BHJP
   G10K 11/34 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H04R1/00 310G
G10K11/34 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191245
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】石川 智治
(72)【発明者】
【氏名】三井 実
【テーマコード(参考)】
5D017
【Fターム(参考)】
5D017AA11
(57)【要約】
【課題】対象物の実在感を高精度に表現することができる触感呈示装置を提供すること。
【解決手段】触感呈示装置1は、互いに周波数が異なる第1及び第2の信号を生成し出力するファンクションジェネレータ30と、第1及び第2の信号が入力され、該第1及び第2の信号に応じた振動を発生させることにより、該振動に応じた触感を呈示する触感デバイス10と、を備える。そして、触感デバイス10は、互いに反対方向を向いた表面11a及び裏面11bを有する金属板11と、表面11aに設けられた、触感が呈示される布地15と、裏面11bに設けられた、第1の信号に応じた振動を発生させる大スピーカー12、及び、第2の信号に応じた振動を発生させる小スピーカー13,14と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに周波数が異なる第1及び第2の信号を生成し出力する信号生成部と、
前記第1及び第2の信号が入力され、該第1及び第2の信号に応じた振動を発生させることにより、該振動に応じた触感を呈示する触感デバイスと、を備え、
前記触感デバイスは、
互いに反対方向を向いた第1の面及び第2の面を有する金属板と、
前記第1の面に設けられた、前記触感が呈示されるサンプルと、
前記第2の面に設けられた、前記第1の信号に応じた振動を発生させる第1のスピーカー、及び、前記第2の信号に応じた振動を発生させる第2のスピーカーと、を有する、触感呈示装置。
【請求項2】
前記サンプルは、布地である、請求項1記載の触感呈示装置。
【請求項3】
前記信号生成部は、うなりが生じる範囲内で互いに周波数が異なる前記第1及び第2の信号を生成する、請求項1又は2記載の触感呈示装置。
【請求項4】
前記信号生成部は、互いに振幅が異なる前記第1及び第2の信号を生成する、請求項1又は2記載の触感呈示装置。
【請求項5】
前記触感デバイスは、1つの前記第1のスピーカーと、該第1のスピーカーを挟むように設けられた一対の前記第2のスピーカーと、を有し、
前記第1の信号は、前記第2の信号よりも周波数が低い、請求項1又は2記載の触感呈示装置。
【請求項6】
前記信号生成部から出力された前記第1及び第2の信号を増幅して前記触感デバイスに出力するアンプを更に備える、請求項1又は2記載の触感呈示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、触感呈示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動を用いて、対象物の質感(触感)を表現する技術が知られている(例えば、特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-190055号公報
【特許文献2】特開2021-137677号公報
【特許文献3】特開2021-117540号公報
【特許文献4】特開2021-145206号公報
【特許文献5】特開2015-97076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した技術によっても、対象物の粗さ・滑らかさ等の質感、及び、対象物の厚み等を含む、対象物の実在感を高精度に表現することが難しい。
【0005】
本発明の一態様は上記実情に鑑みてなされたものであり、対象物の実在感を高精度に表現することができる触感呈示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る触感呈示装置は、互いに周波数が異なる第1及び第2の信号を生成し出力する信号生成部と、第1及び第2の信号が入力され、該第1及び第2の信号に応じた振動を発生させることにより、該振動に応じた触感を呈示する触感デバイスと、を備える。そして、触感デバイスは、互いに反対方向を向いた第1の面及び第2の面を有する金属板と、第1の面に設けられた、触感が呈示されるサンプルと、第2の面に設けられた、第1の信号に応じた振動を発生させる第1のスピーカー、及び、第2の信号に応じた振動を発生させる第2のスピーカーと、を有する。
【0007】
本発明の一態様に係る触感呈示装置では、触感デバイスにおいて、第1の面に触感が呈示されるサンプルが設けられると共に、第2の面に第1の信号に応じた振動を発生させる第1のスピーカー、及び、第2の信号に応じた信号を発生させる第2のスピーカーが設けられている。このような触感デバイスのサンプルにユーザが手で触れた状態において、互いに周波数が異なる第1及び第2の信号に応じた振動がそれぞれ第1及び第2のスピーカーから発生させられることにより、第1及び第2の信号に応じた触感がユーザに呈示されることとなる。このように、2つの信号に係る振動が発生させられることにより、振動に応じた質感表現の幅を広げることができる。このことで、サンプルの粗さ・滑らかさ等の質感、及び、サンプルの厚み等を含む、サンプルの実在感を高精度に表現することができる。以上のように、本発明の一態様に係る触感呈示装置によれば、対象物の実在感を高精度に表現することができる。
【0008】
サンプルは、布地であってもよい。このような構成によれば、上述した触感呈示装置を用いて、布地の実在感を高精度に表現することができる。
【0009】
信号生成部は、うなりが生じる範囲内で互いに周波数が異なる第1及び第2の信号を生成してもよい。第1及び第2の信号の周波数が、うなりが生じる範囲内とされることにより、第1及び第2の信号の差分の周期の新たな信号が生じることとなり、振動に応じた質感表現の幅をより広げることができる。これにより、サンプルの粗さ・滑らかさ等の質感、及び、サンプルの厚み等を含む、サンプルの実在感をより高精度に表現することができる。
【0010】
信号生成部は、互いに振幅が異なる第1及び第2の信号を生成してもよい。このように、振幅が互いに異なる信号が生成されることにより、2つのスピーカーにおける音量が互いに異なることとなり、振動に応じた質感表現の幅をより広げることができる。
【0011】
触感デバイスは、1つの第1のスピーカーと、該第1のスピーカーを挟むように設けられた一対の第2のスピーカーと、を有し、第1の信号は、第2の信号よりも周波数が低くてもよい。このような構成によれば、例えば、比較的大きな第1のスピーカーから比較的低音の振動を発生させ、第1のスピーカーを挟むように設けられた一対の第2のスピーカーから比較的高音の振動を発生させることができる。このように、2つの信号の周波数を互いに異ならせて、低音の振動を発生させるスピーカーと高音の振動を発生させるスピーカーとを両方設けることにより、振動に応じた質感表現の幅をより広げることができる。
【0012】
信号生成部から出力された第1及び第2の信号を増幅して触感デバイスに出力するアンプを更に備えていてもよい。これにより、信号生成部によって生成された信号を適切に増幅した信号をスピーカーに入力することができ、振動を適切にコントロールすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、対象物の実在感を高精度に表現することができる触感呈示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態に係る触感呈示装置の構成図である。
図2図2は、図1に示される触感呈示装置に含まれる触感デバイスの正面図である。
図3図3は、触感デバイスの平面図である。
図4図4は、触感デバイスの底面図である。
図5図5(a)はスピーカーの振動条件を示す表であり、図5(b)は大スピーカーの振動の波形を示す図であり、図5(c)は大スピーカー及び小スピーカーの振動の合成波の波形を示す図である。
図6図6(a)は実験1に係る実験方法の概要を説明する図であり、図6(b)は実物布地粗さ評価実験を説明する図であり、図6(c)は振動粗さ評価実験を説明する図である。
図7図7(a)は振動Iについての実物布地との評価値の相関性を示す図であり、図7(b)は振動I+IIについての実物布地との評価値の相関性を示す図である。
図8図8は、実験2に係る選択結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更をすることが可能である。
【0016】
[触感呈示装置の構成]
図1は、本実施形態に係る触感呈示装置1の構成図である。なお、図1においては、触感呈示装置1に含まれる触感デバイス10の構成の一部を省略して記載している。触感呈示装置1は、互いに周波数が異なる複数の信号に応じた振動を発生させることにより、該振動に応じた触感をユーザに呈示する装置である。図1に示されるように、触感呈示装置1は、触感デバイス10と、ファンクションジェネレータ30(信号生成部)と、アンプ50と、を備えている。ファンクションジェネレータ30及びアンプ50は、単体では動作しない触感デバイス10を動作させるための構成機器である。
【0017】
ファンクションジェネレータ30は、互いに周波数が異なる複数(第1及び第2)の信号を生成し出力する。ファンクションジェネレータ30から出力された信号はアンプ50に入力される。本実施形態においては、ファンクションジェネレータ30が互いに周波数が異なる2つの信号(第1及び第2の信号)を生成し出力するとして説明するが、ファンクションジェネレータ30は、互いに周波数が異なる3つ以上の信号を生成し出力するものであってもよい。
【0018】
ファンクションジェネレータ30は、うなりが生じる範囲内で互いに周波数が異なる第1及び第2の信号を生成してもよい。うなりが生じることにより、第1及び第2の信号の差分の周期の信号を新たに発生させることができる。
【0019】
ファンクションジェネレータ30は、ユーザに任意に設定された周波数及び振幅(後述するスピーカーにおける音量)の信号を生成し出力する。ファンクションジェネレータ30は、周波数だけでなく、互いに振幅が異なる第1及び第2の信号を生成し出力してもよい。第1の信号は、例えば、第2の信号よりも周波数が低く、振幅が大きくされてもよい。以下では、第1の信号が、第2の信号よりも周波数が低く振幅が大きいとして説明する。
【0020】
アンプ50は、ファンクションジェネレータ30から出力された第1及び第2の信号を増幅して触感デバイス10に出力する増幅器である。アンプ50は、CH1の信号である第1の信号及びCH2の信号である第2の信号を複合した複合信号を、後述する触感デバイス10の大スピーカー12及び一対の小スピーカー13,14に出力し、触感デバイス10を振動させる。アンプ50は、第1の信号を複合した複合信号を大スピーカー12に出力すると共に、第2の信号を複合した複合信号を一対の小スピーカー13,14に出力する。
【0021】
図2図4を参照して、触感デバイス10の構成について説明する。図2は、図1に示される触感呈示装置1に含まれる触感デバイス10の正面図である。図3は、触感デバイス10の平面図である。図4は、触感デバイス10の底面図である。
【0022】
触感デバイス10は、増幅後の第1及び第2の信号がアンプ50から入力され、該第1及び第2の信号に応じた振動を発生させることにより、該振動に応じた触感を呈示するデバイスである。触感デバイス10は、具体的には、2種類の異なる振動を発生させて布地質感の表現を行う装置である。触感デバイス10は、一例として、平面視略矩形(図3参照)であり、平面視した際の長辺が31cm程度、短辺が22cmであってもよい。また、触感デバイス10は、一例として、厚みが2cm程度であってもよい。触感デバイス10は、図2図4に示されるように、金属板11と、大スピーカー12(第1のスピーカー)と、一対の小スピーカー13,14(第2のスピーカー)と、布地15(サンプル)と、を有する。
【0023】
金属板11は、互いに反対方向を向いた表面11a及び裏面11bを有する板上の金属部材である。金属板11は、例えばアルミニウムにより構成されている。金属板11は、平面視略矩形(図3参照)であってもよい。金属板11の厚みは、例えば0.8mm程度であってもよい。金属板11の表面11aには、サンプルである布地15が設けられており、裏面11bには大スピーカー12及び一対の小スピーカー13,14が設けられている。図2に示されるように、金属板11は、脚部18に支持されてる。これにより、金属板11の裏面11bと設置面との間には、大スピーカー12及び一対の小スピーカー13,14が設けられる空間S(図2参照)が形成されている。
【0024】
大スピーカー12は、裏面11bに設けられている。大スピーカー12は、第1の信号に応じた振動を発生させるスピーカーである。大スピーカー12は、小スピーカー13,14よりも低音の振動を発生させるスピーカーである。大スピーカー12は、例えば、裏面11bの略中央部に1つ設けられている(図4参照)。
【0025】
小スピーカー13,14は、裏面11bに設けられている。小スピーカー13,14は、第2の信号に応じた振動を発生させるスピーカーである。小スピーカー13,14は、大スピーカー12よりも高音の振動を発生させるスピーカーである。小スピーカー13,14は、例えば、裏面11bにおいて大スピーカー12を挟むように一対(2つ)設けられている(図4参照)。小スピーカー13,14は、互いに同じスピーカーであってもよいし、異なるスピーカーであってもよい。
【0026】
なお、大スピーカー12及び小スピーカー13,14の配置及び数は上記に限定されない。触感デバイス10は、第1の信号及び第2の信号のそれぞれに対応するスピーカー(すなわち2つ以上のスピーカー)を有していればよい。
【0027】
布地15は、表面11aに貼り付けられたサンプルである。布地15は、例えば固定用テープ19によって表面11aに貼り付けられている。布地15は、それだけでは布地の厚み変化や表面の粗さ変化が生じない程度に滑らかな布地であり、例えば、布地力学特性であるSMD(表面粗さ)の値が小さいシルクサテンであってもよい。このような布地15に、大スピーカー12及び小スピーカー13,14の振動、具体的には、大スピーカー12及び小スピーカー13,14それぞれの周期的な振動と、その差分によって生じるうなりによる振動とが加えられることにより、布地15に触れたユーザに、上記振動に応じた触感を呈示することができる。
【0028】
[合成波におけるうなりの発生]
次に、図5を参照して、大スピーカー12及び小スピーカー13,14の振動の合成波におけるうなりの発生について説明する。図5(a)はスピーカーの振動条件の一例を示す表であり、図5(b)は大スピーカー12の振動の波形の一例を示す図であり、図5(c)は大スピーカー12及び小スピーカー13,14の振動の合成波の波形の一例を示す図である。
【0029】
図5(a)では、大スピーカー12の周波数及び音量(振幅)の一例が「Wave1」の列に示されており、小スピーカー13,14の周波数及び音量(振幅)の一例が「Wave2」の列に示されている。図5(a)に示される例では、大スピーカー12の周波数が325Hz、音量(振幅)が350mVpp、小スピーカー13,14の周波数が400Hz、音量(振幅)が75mVppとされている。すなわち、大スピーカー12及び小スピーカー13,14の周波数等がこのような値になるように、第1及び第2の信号が設定されている。
【0030】
図5(b)及び図5(c)において、横軸は時間、縦軸は電圧を示している。なお、ここでの電圧値は、例えば、金属板11上において加速度ピックアップ等で計測された値に基づくものであってもよい。図5(b)に示されるように、大スピーカー12のみが振動している場合には、一定周期の振動を示す波形が計測される。一方で、図5(c)に示されるように、大スピーカー12及び小スピーカー13,14が共に振動している場合には、その合成波の波形が計測される。合成波の波形では、互いに周波数が異なる2種類の振動の波が干渉して、2種類の振動の差分の周期の低周波の振動が生じている(すなわち、うなりが生じている)。このようにうなりが生じることによって、単純に2種類の振動が合成される場合と比較して、うなり分だけ、振動に応じた質感表現の幅を広げることが可能になっている。なお、上記周波数及び音量(振幅)の例は一例に過ぎず、うなりが生じる範囲で適宜設定されてもよい。
【0031】
[触感呈示装置の作用効果]
次に、本実施形態に係る触感呈示装置1の作用効果について説明する。
【0032】
本実施形態に係る触感呈示装置1は、互いに周波数が異なる第1及び第2の信号を生成し出力するファンクションジェネレータ30と、第1及び第2の信号が入力され、該第1及び第2の信号に応じた振動を発生させることにより、該振動に応じた触感を呈示する触感デバイス10と、を備える。そして、触感デバイス10は、互いに反対方向を向いた表面11a及び裏面11bを有する金属板11と、表面11aに設けられた、触感が呈示される布地15と、裏面11bに設けられた、第1の信号に応じた振動を発生させる大スピーカー12、及び、第2の信号に応じた振動を発生させる小スピーカー13,14と、を有する。
【0033】
本実施形態に係る触感呈示装置1では、触感デバイス10において、表面11aに触感が呈示される布地15が設けられると共に、裏面11bに第1の信号に応じた振動を発生させる大スピーカー12、及び、第2の信号に応じた信号を発生させる小スピーカー13,14が設けられている。このような触感デバイス10の布地15にユーザが手で触れた状態において、互いに周波数が異なる第1及び第2の信号に応じた振動がそれぞれ大スピーカー12及び小スピーカー13,14から発生させられることにより、第1及び第2の信号に応じた触感がユーザに呈示されることとなる。このように、2つの信号に係る振動が発生させられることにより、振動に応じた質感表現の幅を広げることができる。このことで、布地15の粗さ・滑らかさ等の質感、及び、布地15の厚み等を含む、布地15の実在感を高精度に表現することができる。以上のように、本実施形態に係る触感呈示装置1によれば、布地15の実在感を高精度に表現することができる。
【0034】
なお、布地15の質感等を所望の質感等として表現するためには、布地15の粗さ・滑らかさ等の質感及び布地15の厚みを含む実在感の評価、振動計測した波形の信号の特徴量、並びに、布地15が本来持っている厚み・表面凸凹等の物理的特徴量の、3項目が関連付けられている必要がある。3項目が関連付けられていることにより、布地15の物理的特徴を計測できれば、適切な振動を生じさせる信号を生成して、布地15の粗さ・滑らかさ等の質感及び布地15の厚みを含む実在感を適切に表現することができる。
【0035】
ファンクションジェネレータ30は、うなりが生じる範囲内で互いに周波数が異なる第1及び第2の信号を生成してもよい。第1及び第2の信号の周波数が、うなりが生じる範囲内とされることにより、第1及び第2の信号の差分の周期の新たな信号が生じることとなり、振動に応じた質感表現の幅をより広げることができる。これにより、布地15の粗さ・滑らかさ等の質感、及び、布地15の厚み等を含む、布地15の実在感をより高精度に表現することができる。
【0036】
ファンクションジェネレータ30は、互いに振幅が異なる第1及び第2の信号を生成してもよい。このように、振幅が互いに異なる信号が生成されることにより、大スピーカー12及び小スピーカー13,14における音量が互いに異なることとなり、振動に応じた質感表現の幅をより広げることができる。
【0037】
触感デバイス10は、1つの大スピーカー12と、該大スピーカー12を挟むように設けられた一対の小スピーカー13,14と、を有し、第1の信号は、第2の信号よりも周波数が低くてもよい。このような構成によれば、例えば、比較的大きな大スピーカー12から比較的低音の振動を発生させ、大スピーカー12を挟むように設けられた一対の小スピーカー13,14から比較的高音の振動を発生させることができる。このように、2つの信号の周波数を互いに異ならせて、低音の振動を発生させる大スピーカー12と高音の振動を発生させる小スピーカー13,14とを両方設けることにより、振動に応じた質感表現の幅をより広げることができる。
【0038】
触感呈示装置1は、ファンクションジェネレータ30から出力された第1及び第2の信号を増幅して触感デバイス10に出力するアンプ50を更に備えていてもよい。これにより、ファンクションジェネレータ30によって生成された信号を適切に増幅した信号を大スピーカー12及び小スピーカー13,14に入力することができ、振動を適切にコントロールすることができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、触感呈示装置1として、布地15の触感を呈示する装置を説明したが、触感を呈示する対象は布地に限定されず、その他のサンプルであってもよい。
【0040】
[実験例]
本実施形態に係る触感呈示装置1の効果等について、以下に示す実験例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実験1)
図6(a)は実験1に係る実験方法の概要を説明する図である。実験1では、図6(a)に示されるように、吸音パッドボックス101内に上述した触感呈示装置1と同様の装置を準備した。そして、被験者Hとして、10名の被験者を準備した。10名の被験者Hは、男性5名、女性5名であり、平均年齢は21.8歳であった。被験者Hが音の大きさで振動の大きさを推測しないように、被験者Hにはノイズキャンセリングヘッドフォンを装着した。
【0042】
各被験者Hは、それぞれ39セットの布地評価を行った。各セットには、実物布地と、実物布地の質感等を表現することを試みて生成された1つの振動(1つの大スピーカー12からの振動)である振動Iと、実物布地の質感等を表現することを試みて生成された2種類の振動(大スピーカー12及び小スピーカー13,14からの振動)である振動I+IIと、が含まれていた。各セットの評価において、布地又は振動がランダムに呈示された。実物布地の評価では、図6(b)に示されるように、吸音パッドボックス101内の触感デバイス10の布地15の位置には、実物の布地115が置き換えて配置された。振動I及び振動I+IIの評価では、図6(c)に示されるように、吸音パッドボックス101内において、触感デバイス10の布地15が配置された。
【0043】
各被験者Hは、利き手の人差し指の腹を接触部位として布地15(又は布地115)の中心付近を左から右に撫でるように触れた。そして、各被験者Hは、各布地を触った評価として、粗さを0~6の7段階で(粗いほど6に近づき、粗くないほど0に近づくように)評価を行った。このような評価を行うことにより、39セットのそれぞれについて、実物布地の質感を表現することを目的として生成された振動である、単一の振動(振動I)と2種類の振動(振動I+II)とについて、実物布地の評価にどの程度近づけることができたかを特定することができる。
【0044】
図7(a)は振動Iについての実物布地との評価値の相関性を示す図であり、図7(b)は振動I+IIについての実物布地との評価値の相関性を示す図である。図7(a)及び図7(b)において、横軸は実物布地の粗さ評価値であり、縦軸は振動させた場合の粗さ評価値である。図7(a)及び図7(b)においては、39セットそれぞれについての、実物布地の粗さ評価値と振動させた場合の粗さ評価値との相関関係が示されている。なお、グラフ内の値は、10名の被験者Hの平均値である。
【0045】
図7(a)に示されるように、振動Iについては、実物布地との粗さ評価値の相関係数r=0.83となった。一方で、図7(b)に示されるように、振動I+IIについては、実物布地との粗さ評価値の相関係数r=0.90となった。このように、2種類の振動(振動I+II)を発生させることによって、単一の振動(振動I)の場合と比較して、実物布地の質感をより正確に表現することができた。
【0046】
(実験2)
実験2では、上述した39セットのそれぞれについて、各被験者Hが、最初に実物布地を触り、その後に振動Iの布地、及び、振動I+IIの布地をランダムな順番で触り、どちらが実物布地の触感に近いかを選択した。図8は、実験2に係る被験者Hの選択結果を示す図である。図8に示されるように、39セットの内、25セットにおいて、振動I+IIの布地が実物布地に近いと選択された。実験2の結果からも、2種類の振動(振動I+II)を発生させることによって、単一の振動(振動I)の場合と比較して、実物布地の質感をより正確に表現することができることが検証された。
【符号の説明】
【0047】
1…触感呈示装置、10…触感デバイス、11…金属板、11a…表面、11b…裏面、12…大スピーカー(第1のスピーカー)、13,14…小スピーカー(第2のスピーカー)、15…布地(サンプル)、30…ファンクションジェネレータ(信号生成部)、50…アンプ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8