(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078761
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】組成物及び組成物を備える蓄熱材
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
C09K5/06 K ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191290
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 優
(57)【要約】
【課題】 優れた性能を有する組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のある形態は、ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成するための組成物であって、水と、ゲスト物質と、アミド系化合物と、界面活性剤及び/又はアルコールと、を含む組成物である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成するための組成物であって、
水と、ゲスト物質と、アミド系化合物と、界面活性剤及び/又はアルコールと、を含む組成物。
【請求項2】
水と、ゲスト物質と、アミド系化合物と、界面活性剤及び/又はアルコールと、を含む蓄熱材用の組成物。
【請求項3】
前記アミド系化合物が、尿素又は尿素誘導体である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アルコールが、ポリオールである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記水及び前記ゲスト物質の合計量を100質量部とした場合の、前記界面活性剤及び前記アルコールの合計量が0.1質量部以上10.0質量部未満である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
容器と、前記容器内に収納された請求項1又は2に記載の組成物と、を備える蓄熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び組成物を備える蓄熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の温度を保つための蓄熱材の一つに、相変化材料がある。相変化材料は、固相から液相への相変化時の潜熱を利用して温度を一定に保つ機能を有する材料のことを指す。
【0003】
蓄熱材に求められる特性の一つとして、特に生鮮食品用途や医薬品用途にて、0℃超11℃以下(特に、2~8℃)の間で保温する機能が挙げられる。従来、この温度帯における保温に用いられる技術の多くがパラフィンを用いた蓄熱材であったが、パラフィンは可燃物であることから安全性に問題があった。
【0004】
水溶液を用いた蓄熱材により安全性を向上させる試みはあるが、水溶液を用いた蓄熱材は、配合する成分による凝固点降下が生じ融点が0℃以下となる等、融点調整の技術は限定される。
【0005】
特許文献1は、包接水和物を作成するテトラブチルアンモニウム塩と、ハロゲン化アルカリ金属を水に溶解させた水溶液であり、融点が3℃付近の蓄熱材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る蓄熱材は、性能が十分ではない場合があった。
【0008】
そこで本発明は、蓄熱材を構成するのに適した、優れた性能を有する組成物、及び、当該組成物を備える蓄熱材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行い、特定の成分を含有する組成物によって上記課題を解決可能なことを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0010】
本発明の第1の形態は、ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成するための組成物であって、水と、ゲスト物質と、アミド系化合物と、界面活性剤及び/又はアルコールと、を含む組成物である。
【0011】
本発明の第2の形態は、水と、ゲスト物質と、アミド系化合物と、界面活性剤及び/又はアルコールと、を含む蓄熱材用の組成物である。
【0012】
前記アミド系化合物は、尿素又は尿素誘導体であることが好ましい。
【0013】
前記アルコールは、ポリオールであることが好ましい。
【0014】
前記界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0015】
前記水及び前記ゲスト物質の合計量を100質量部とした場合の、前記界面活性剤及び前記アルコールの合計量が0.1質量部以上10.0質量部未満であることが好ましい。
【0016】
本発明の第3の形態は、容器と、容器内に収納された前記組成物と、を備える蓄熱材である。
【0017】
本発明によれば、蓄熱材を構成するのに適した、優れた性能を有する組成物、及び、当該組成物を備える蓄熱材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、上限値と下限値とが別々に記載されている場合、任意の上限値と任意の下限値とを組み合わせた数値範囲が実質的に開示されているものとする。
【0019】
以下において、ある化合物が記載されている場合、その異性体も同時に記載されているものとする。
【0020】
以下において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(23℃)として実施する。
【0021】
ここで、包接化合物は、一般的に、ホスト物質によって籠状やトンネル状等の、内部空間を有する分子の集合体を形成し、ホスト物質によって形成された内部空間にゲスト物質が包接される(ホスト物質とゲスト物質とが相互作用によって結合する)ことで形成される化合物である。
【0022】
特に、ホスト物質が水である場合の包接化合物は、包接水和物と称される。換言すれば、ホスト物質及び水を含む組成物において、ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んで包接水和物を形成する。このように、本明細書において、「包接水和物」とは、水分子(ホスト分子)で構成された籠状の包接格子内にゲスト分子が包み込まれて結晶化する化合物を示す。また、本明細書において、「準包接水和物」とは、アルキルアンモニウム塩に代表される比較的大きなイオン性のゲスト分子が、水分子(ホスト分子)の籠状の包接格子内に包み込まれ、その包接格子内の水素結合が、部分的に壊れた状態で結晶化する化合物を示す。以下の説明において、「包接水和物」とするときには「準包接水和物」も含むものとする。
【0023】
以下、組成物の、成分、物性/性質、用途等について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0024】
<<<組成物>>>
<<成分>>
本開示の組成物は、水と、ゲスト物質と、アミド系化合物と、界面活性剤及び/又はアルコール(界面活性剤及びアルコールからなる群より選択される1種以上の成分)と、を含むことが好ましい。
本開示の組成物は、増粘剤(ゲル化剤)を含むことが好ましい。
本開示の組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。
以下、それぞれの成分について説明する。
【0025】
<水>
水は、組成物中において、ゲスト物質とともに包接水和物を形成可能である。
【0026】
水は、蒸留水、イオン交換水、RO(逆浸透膜)水等の純水や超純水が用いられてもよい。
【0027】
組成物中の水の含有量は、別の成分の濃度等を考慮して調整可能であり、例えば、組成物全量に対して、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、又は、50質量%以上等とすることができ、また、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下等とすることができる。
【0028】
<ゲスト物質>
ゲスト物質は、水と包接水和物(特に、準包接水和物)を形成可能な物質であれば特に限定されない。具体的には、ゲスト物質は、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩であることが好ましい。
【0029】
第4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウム塩やトリブチルペンチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0030】
第4級ホスホニウム塩としては、例えば、テトラブチルホスホニウム塩等が挙げられる。
【0031】
また、第4級アンモニウム塩や第4級ホスホニウム塩を構成するアニオンとしては、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等が挙げられ、好ましくは臭化物イオンである。
【0032】
ゲスト物質は、テトラブチルアンモニウム塩又はテトラブチルホスホニウム塩であることが好ましく、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)又はテトラブチルホスホニウムブロミド(TBPB)であることが好ましい。
【0033】
本開示の組成物は、ゲスト物質と水とを含むことで、ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成することができる。
【0034】
別の表現によれば、本開示の組成物は、ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成するための組成物である。
【0035】
このように、包接水和物を形成可能な成分を含む組成物とすることにより、単位質量当たりの融解潜熱量に優れた蓄熱材とすることが可能であり、また、パラフィン系等の蓄熱材と比較して、より安全性の高い組成物とすることができる。
【0036】
組成物中のゲスト物質の含有量(濃度)は、所望する組成物の融点に応じて適宜調整可能であり、特に限定されない。組成物中のゲスト物質の含有量は、例えば、水とゲスト物質との合計量を100質量部とした場合に、10~60質量部、20~55質量部、25~50質量部、又は、30~45質量部とすることができる。
【0037】
<アミド系化合物>
本開示において、アミド系化合物とは、[NR1R2-CO-R3]で示される構造を有する。
R1~R3は、各々独立して、任意の置換基(水素を含む。)である。
より具体的には、R1~R2は、各々独立して、水素であるか、又は、炭素を介して上記構造と結合する置換基である([-C-RA]で示される構造を有し、RAは任意の置換基である)。
また、R3は、水素であるか、又は、炭素若しくは窒素を介して上記構造と結合する置換基である([-C-RB]又は[-NRCRD]で示される構造を有し、RB、RC、RDは、各々独立して、任意の置換基(水素を含む。)である)。
一例として、アミド系化合物は、R1がHである化合物、即ち、[NHR2-CO-R3]で示される化合物も含む。
アミド系化合物は、R2とR3とが結合した形態等の、環状の化合物(複素環を含む化合物)も含む。
なお、ここで示される置換基とは、水素、炭素、酸素、窒素、リン、硫黄、ハロゲン等から選択される1種以上で構成される任意の基である。
【0038】
アミド系化合物は、ポリマーであってもよいが、分子量が1000以下、750以下、500以下、300以下、又は、200以下である、低分子量成分であることが好ましい。
【0039】
アミド系化合物は、[NR1R2-CO-R3]で示される構造を1つのみ有していてもよいし、複数(好ましくは2つ)有していてもよい。
【0040】
アミド系化合物の具体例としては、尿素、尿素誘導体、ホルムアミド等が挙げられる。
【0041】
尿素誘導体としては、1-メチル尿素、1,3-ジメチル尿素、2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、1,1‘-(4-メチル-m-フェンレン)-ビス-(3,3’-ジメチル)尿素、フェニルジメチルウレア等が挙げられる。
【0042】
アミド系化合物は、尿素又は尿素誘導体であることが好ましく、尿素又は2-イミダゾリジノンであることが好ましい。
【0043】
ここで、蓄熱材である水系組成物に更に別の成分を添加した場合、通常は、融点が下がると同時に、融解潜熱量も大きく低下することが想定される。一方で、包接水和物を形成可能な成分を含む組成物に更にこのようなアミド系化合物を添加した場合、融解潜熱量を大きく減少させることなく、融点を低下させ易い。このようなアミド系化合物は、ゲスト物質の疎水性部(例えば、ブチル基等のアルキル基)と水との相互作用を変化させ、融点の調整等に寄与している可能性がある。
【0044】
アミド系化合物は、水溶性を有することが好ましい。具体的には、アミド系化合物は、20℃における水に対する溶解度が、10g/100mL以上、20g/100mL以上、50g/100mL以上、又は、80g/100mL以上であることが好ましい。
【0045】
組成物中のアミド系化合物の含有量は、組成物の融点が所望の範囲となるように調整可能であり、特に限定されない。組成物中のアミド系化合物の含有量は、例えば、水とゲスト物質との合計量を100質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、2.0質量部以上、又は、3.0質量部以上とすることが好ましく、また、30.0質量部以下、25.0質量部以下、20.0質量部以下、又は、15.0質量部以下とすることが好ましい。
【0046】
<界面活性剤、アルコール>
本開示の組成物は、アミド系化合物及びゲスト物質とは異なる成分として、界面活性剤及び/又はアルコールを含むことが好ましい。
【0047】
界面活性剤は、イオン系界面活性剤(アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤)、ノニオン系界面活性剤のいずれでもよい。
【0048】
界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。即ち、本開示に係る組成物は、ノニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。
【0049】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(ポリオキシプロピレン)アルキルエーテル、ポリオキシエチレン(ポリオキシプロピレン)脂肪酸エステル、ジオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレン(ポリオキシプロピレン)アルキルアミン、ポリオキシエチレン(ポリオキシプロピレン)脂肪酸ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン(ポリオキシプロピレン)アルキルグリセリルエーテル、ステアリン酸モノグリセリル等の脂肪酸(ポリ)グリセリル、ポリオキシエチレン(ポリオキシプロピレン)脂肪酸グリセリル等が挙げられる。
【0050】
両性界面活性剤としては、アミノ酸型、ベタイン型、アミンオキシド型等の両性界面活性剤等が挙げられる。アミノ酸型の両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム、トリメチルグリシンナトリウム、ココイルタウリンナトリウム、ココイルメチルタウリンナトリウム、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルメチル-β-アラニン等が挙げられる。ベタイン型の両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、イミダゾリニウムベタイン、カルボベタイン、ホスホベタイン等が挙げられる。アミンオキシド型の両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミン-N-オキシド、オレイルジメチルアミン-N-オキシド等が挙げられる。
【0051】
アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸系、アルキルベンゼン系、アルコール系、アルファオレフィン系の界面活性剤等が挙げられる。
【0052】
カチオン系界面活性剤としては、アミノ塩系、アンモニウム塩系の界面活性剤等が挙げられる。
【0053】
なお、本開示において、界面活性剤であり、且つ、アルコールである成分は、界面活性剤、及び、アルコールの両方に該当する成分として取り扱う。
【0054】
界面活性剤のHLB値は、5.0以上、6.0以上、7.0以上、又は、8.0以上であることが好ましい。界面活性剤のHLB値の上限値は、特に限定されないが、20.0以下、18.0以下、16.0以下、又は、14.0以下である。界面活性剤のHLB値は、親水性-疎水性バランス(HLB)値を意味し、グリフィン法により求められる。グリフィン法によるHLB値は、下記式に基づいて算出可能である。
HLB=(親水基部分の分子量/界面活性剤の分子量)×20
【0055】
アルコールは、モノオールであってもポリオールであってもよい。ポリオールは、2価のものでも、3価以上のものでもよい。
【0056】
アルコールは、ポリオールであることが好ましい。即ち、本開示に係る組成物は、ポリオールを含むことが好ましい。
【0057】
モノオールとしては、例えば、飽和脂肪族型のモノオールやグリコールエーテル型のモノオール等が挙げられる。
飽和脂肪族型のモノオールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール、イソペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、デカノール、ウンデカノール、1-ドデカノール、イソオクタデカノール、オクタデセノール、ドコサノール、14-メチルヘキサデカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール等が挙げられる。
グリコールエーテル型のモノオールとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングルコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0058】
ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の糖アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0059】
また、ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール等も使用可能である。
ポリエステルポリオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(例えばヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等)、又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール等、もしくは、これらの混合物と、の脱水縮合反応で得られるポリプロピレングリコールなどのポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン、メチルバレロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール等のポリオールの少なくとも1種と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等と、を反応させて得られるもの等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及び、これらのコポリエーテル等が挙げられる。また、グリセリンやトリメチロールエタン等のポリオールを用い、上記の環状エーテルを重合させて得ることもできる。
ポリエステルエーテルポリオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(例えばヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等)、又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、ジエチレングリコール、もしくはプロピレンオキシド付加物等のグリコール等、又は、これらの混合物と、の脱水縮合反応で得られるもの等が挙げられる。
【0060】
アルコールの分子量(又は重量平均分子量)は、1000以下、500以下、250以下、又は、150以下であることが好ましく、50以上、60以上、又は、70以上であることが好ましい。
【0061】
組成物中のアルコール及び界面活性剤の合計の含有量は、水とゲスト物質との合計量を100質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、2.0質量部以上、又は、3.0質量部以上であることが好ましく、20.0質量部未満、15.0質量部未満、10.0質量部未満、8.0質量部以下、6.0質量部以下、又は、5.0質量部以下であることが好ましい。例えば、組成物中のアルコール及び界面活性剤の合計の含有量は、水とゲスト物質との合計量を100質量部とした場合に、0.1質量部以上10.0質量部未満、1.0~8.0質量部、1.0~5.0質量部、又は、3.0~5.0質量部であることが好ましい。
【0062】
なお、本開示に係る組成物は、アルコールと界面活性剤とを含む形態、アルコールを含み界面活性剤を含まない形態、アルコールを含まず界面活性剤を含む形態のいずれであってもよい。「組成物中のアルコール及び界面活性剤の合計の含有量」とは、アルコールを含み界面活性剤を含まない形態においては組成物中のアルコールの含有量を示し、アルコールを含まず界面活性剤を含む形態においては組成物中の界面活性剤の含有量を示す。
【0063】
<増粘剤(ゲル化剤)>
組成物は、増粘剤(ゲル化剤)を含んでいてもよい。換言すれば、組成物は、ゲル化されていてもよい。
【0064】
増粘剤としては、従来公知のものを使用することが可能であり、例えば、多糖類、ゼラチン、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0065】
多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体、アルギン酸、寒天等が挙げられる。また、アルギン酸やカルボキシメチルセルロース等は、ナトリウム塩等の塩類の形態も含む。このような塩類の形態とすることで水溶性が高まり、水系組成物へ添加する成分として好ましいものとなる。
【0066】
また、組成物は、これらの増粘剤のゲル化を促進する(或いは補助する)、ゲル化補助剤を含んでいてもよい。
【0067】
増粘剤としては、安全性や機能性を考慮して、カルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。また、カルボキシメチルセルロースは、ゲル化補助剤として多価金属塩(多価カチオンを放出可能な塩)を用いてゲル化(架橋)させることが好ましい。この場合、カルボキシメチルセルロースのカルボキシ基が、金属塩由来の多価カチオンを介して架橋され、ゲル化が促進される。
【0068】
多価金属塩としては、特に限定されず、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、カリミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)等のアルミニウム塩の他、カルシウム塩、バリウム塩、鉄塩、クロム酸塩、チタン酸塩等が使用可能である。
【0069】
多価金属塩は、カルボキシメチルセルロースに対して十分な架橋点を形成可能であることからアルミニウム塩であることが好ましい。また、多価金属塩は、安全性等の観点から、カリミョウバンであることがより好ましい。
【0070】
ここで、従来の蓄熱材は、融点調整成分として、アルカリ金属イオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン等の1価のカチオンを放出する成分(例えば、KBr等の金属塩)が所定量使用されることがある。しかしながら、これら1価のカチオンを放出する成分を必須的に含む場合、多価金属塩由来のカチオンによる、カルボキシメチルセルロースのゲル化(架橋)が阻害される恐れがある。一方で、本開示に係る組成物によれば、アミド系化合物(例えば、尿素又は尿素誘導体)によって、融点の調整が可能である。そのため、本開示に係る組成物は、このような1価のカチオンを放出する融点調整成分の含有量を低減する(例えば、1価のカチオンを放出する融点調整成分を、ゲスト物質1モルに対して、0.1モル未満、0.05モル以下、0.01モル以下、又は、0.001モル以下とする)ことが可能である。また、融点調整成分として金属塩等(例えば、KBr等)を用いた場合、腐食の発生や安全性の低下等の問題が生じる可能性が考えられる。本開示に係る組成物によれば、アミド系化合物を用いて融点調整等を行うことから、このような腐食の発生や安全性等の問題が生じ難い。このように、本開示に係る組成物によれば、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを含む場合でも組成物の均質性を高めて安定的に組成物を供給することや、安全性の高い組成物を供給すること等が可能となる。
【0071】
組成物中の増粘剤の含有量は、組成物が所定の粘度となるように調整可能であり、特に限定されない。組成物中の増粘剤の含有量は、例えば、水とゲスト物質との合計量を100質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.5質量部以上、又は、1.0質量部以上とすることができ、また、10.0質量部以下、又は、5.0質量部以下とすることができる。
【0072】
組成物がゲル化補助剤を含む場合、その含有量は、組成物が所望の粘度となるように増粘剤の含有量に応じて適宜調整可能であり、特に限定されない。
【0073】
<その他の成分>
組成物は、着色剤(染料、顔料)、抗菌剤、粘度調整剤、氷核活性物質(例えば、鉱物等)、水以外の有機溶媒等の公知の成分を含んでいてもよい。
組成物が氷核活性物質を含む場合、過冷却が解消され、比較的高温にて組成物を相変化(凝固)させることができる。
【0074】
<<物性/性質>>
<熱的性質>
本開示の組成物の融点(第1の融点)は、0.0℃超11.0℃以下、0.0℃超10.0℃以下、又は、2.0℃以上8.0℃以下の範囲とすることができる。
【0075】
本開示の組成物の潜熱量(第1の融点における潜熱量)は、80.0J/g以上、90.0J/g以上、100.0J/g以上、110.0J/g以上、又は、120.0J/g以上とすることができる。本開示の組成物の潜熱量の上限値は、特に限定されないが、例えば、400.0J/g以下、300.0J/g以下、又は、200.0J/g以下である。
【0076】
なお、組成物の融点及び潜熱量は、示差走査熱量測定(DSC)により得られる。具体的には以下の通りである。
組成物をDSC測定用のアルミパンに10mg程度投入し、1℃/分の速度で-35℃まで降温し凝固させた後に、1℃/分の速度で25℃まで昇温する。相変化の際に現れるピークの頂点と面積から融点及び潜熱量を得る。
【0077】
前述した測定方法を用いて熱的性質を分析し、相変化の際に現れるピークが複数出現する場合、最も高い温度のピークに対応する融点を第1の融点とし、2番目に高い温度のピークに対応する融点を第2の融点とする。
【0078】
ゲスト物質とアミド系化合物(例えば、尿素や尿素誘導体)とを併用して蓄熱材を構成した場合、ゲスト物質由来(ゲスト物質で形成される包接水和物由来)の融点(第1の融点)の他に、アミド系化合物に由来する融点(第2の融点)が、第1の融点未満の温度域に出現する場合がある。また、この第2の融点を有する組成物を蓄熱材に適用した場合、凍結庫から取り出した後、組成物が第2の融点で相変化して低温を維持してしまうため、目的温度である第1の融点に到達するまでの時間(使用開始するまでの時間)が長い場合がある。
一方で、本開示の組成物は、ゲスト物質、アミド系化合物以外の更なる成分として、界面活性剤及び/又はアルコールを含む。組成物がこのような成分を含むことで、組成物中のアミド系化合物に作用し、第1の融点の温度及び第1の融点における潜熱量に大きな影響を与えないながらも、第2の融点を消失させる、或いは、第2の融点の潜熱量を低下させることができることが解った。より具体的には、界面活性剤やアルコールがアミド系化合物と優先的に相互作用し、水和に関与するアミド系化合物の量を減少させることで、アミド系化合物の水和物由来の第2の融点の潜熱量を低下させると推測される。即ち、本開示の組成物を適用した蓄熱材によれば、凍結庫(保冷温度は、例えば-40~-20℃)から取り出した後、目的温度である第1の融点に到達するまでの時間を短くすること(凍結庫から取り出した後に迅速に使用すること)が可能となる。
【0079】
本開示の組成物は、例えば、前述した測定方法を用いて熱的性質を分析した際に、前述した第1の融点及び第1の融点における潜熱量を有しつつも、(1)第2の融点を有しない組成物、或いは、(2)第2の融点を有し、当該第2の融点における潜熱量が、20.0J/g以下、18.0J/g以下、15.0J/g以下、10.0J/g以下、又は、5.0J/g以下である組成物、とすることができる。
【0080】
<粘度>
組成物の粘度は、用途に応じて適宜変更可能であり、特に限定されない。
組成物がゲル成分を含む場合、組成物の粘度を、1.0Pa・s以上、2.0Pa・s以上、5.0Pa・s以上、10Pa・s以上、100Pa・s以上、又は、500Pa・s以上とすることができる。組成物の粘度の上限値は、特に限定されないが、例えば、2000Pa・s以下である。
【0081】
なお、組成物の粘度は、B型回転粘度計を使用して測定された、25℃の粘度である。
【0082】
<<用途>>
本開示に係る組成物は、蓄熱材用とすることが好ましい。
換言すれば、本開示に係る組成物の好ましい形態は、水とゲスト物質とアミド系化合物とを含む蓄熱材用組成物である。
【0083】
<蓄熱材>
以下、本開示に係る組成物の具体的な使用方法の一例として、本開示に係る組成物を備える蓄熱材について説明する。
【0084】
蓄熱材は、容器と、容器内に収納された組成物と、を備える。
【0085】
組成物については前述した通りであるので、詳細な説明を省略する。
【0086】
組成物は、前述した通り、ゲル化されたもの(ゲル成分を含むもの)であってもよい。ゲル化された組成物を用いることで、容器が破損した際の液体材料の漏れ等を抑制することができる。
【0087】
容器の材質は、組成物の相変化(凝固及び融解)に応じて変形可能な程度の可撓性を有することが好ましい。
【0088】
蓄熱材は、樹脂フィルムや金属フィルム等の変形し易い部材により容器が構成された所謂ソフトタイプであってもよいし、厚みのある樹脂材料(例えば、中空成形体)等の変形し難い部材により構成された所謂ハードタイプであってもよい。
【0089】
蓄熱材は、容器内に少なくとも組成物が封止されていればよく、開閉可能な蓋部等を有するなどして容器を破壊せずに組成物を取り出し或いは注入することが可能なように構成してもよいし、容器を破壊する以外は組成物を取り出し困難なように構成してもよい。
【0090】
蓄熱材の大きさや形状は、蓄熱材の用途に応じて適宜変更可能である。
【0091】
蓄熱材は、容器及び組成物以外の構成要素を含んでいてもよい。
【0092】
本開示に係る組成物は、0℃超の範囲(例えば、0℃超11℃以下、0℃超10℃以下、又は、2~8℃)に融点を有することができる。更に、本開示に係る組成物は、第2の融点を有しないか第2の融点における潜熱量を少なくすることができるため、目的温度よりも低温となる温度域が維持されてしまう時間を短くすることができる。そのため、本開示に係る蓄熱材は、通常の氷や0℃以下の範囲に融点を有する通常の蓄熱材よりも、比較的高温となるような温度範囲での保温が望ましい物品用の蓄熱材として好ましく使用することができる。具体的には、本開示に係る蓄熱材は、生鮮食品や医療品(ワクチン、血液製剤、赤血球製剤、細胞等)等に用いられる蓄熱材(これらの物品の輸送時や保管時等の保温用の蓄熱材)として好ましく使用することができる。
【実施例0093】
以下、実施例及び比較例により、組成物(蓄熱材用組成物)を具体的に説明するが、本発明は以下には限定されない。
【0094】
<<組成物の作製>>
表1に示す各原料を、表1に示す配合量(質量部)にて配合し、攪拌することで、実施例1~10及び比較例1に係る組成物を得た。
【0095】
・ノニオン性界面活性剤1
商品名:ノニオンE-205、日油株式会社製、HLB=9.0、ポリオキシエチレンオレイルエーテル
・ノニオン性界面活性剤2
商品名:ノニオンID-206、日油株式会社製、HLB=12.5、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル
・両性界面活性剤1(ベタイン型)
商品名:ベタイン(無水)、東京化成工業株式会社製
【0096】
<<測定>>
各組成物の、融点(第1の融点、第2の融点)、及び、潜熱(第1の融点における潜熱、第2の融点における潜熱)を測定した。各項目の測定結果を表1に示す。各項目の測定方法については、前述の通りである。
【0097】