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特開2024-78763耐デント性評価用の試験装置、及び耐デント性の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078763
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】耐デント性評価用の試験装置、及び耐デント性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20240604BHJP
   G01M 5/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G01N3/00 Z
G01M5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191297
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】日下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩間 隆史
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB01
2G061BA18
2G061CA02
2G061CB01
2G061EA01
2G061EA02
2G061EB05
2G061EB07
(57)【要約】
【課題】より小規模な装置構成によって、耐デント性を、簡易な手間でかつより精度良く評価可能な技術を提供する。
【解決手段】耐デント性の試験を行う部分である被測定部が板状の試験材1の耐デント性を評価する試験装置であって、上記被測定部の一方の面1Aを上記試験材1の厚さ方向に押圧する圧子13と、上記被測定部の上記一方の面1Aを撮像可能な複数の撮像部と、上記複数の撮像部が撮像した、上記圧子13による押圧前及び押圧解除後の上記一方の面1Aの各画像データを参照し、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって、上記被測定部の座標及び板厚方向への変位情報を求める変位解析部18Aと、上記変位解析部18Aが求めた変位情報から耐デント性を評価する評価部18Bと、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐デント性の試験を行う部分である被測定部が板状の試験材の耐デント性を評価する試験装置であって、
上記被測定部の一方の面を上記試験材の厚さ方向に押圧する圧子と、
上記被測定部の上記一方の面を撮像可能な複数の撮像部と、
上記複数の撮像部が撮像した、上記圧子による押圧前及び押圧解除後の上記一方の面の各画像データを参照し、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって、上記被測定部の座標及び板厚方向への変位情報を求める変位解析部と、
上記変位解析部が求めた変位情報から耐デント性を評価する評価部と、
を備えることを特徴とする耐デント性評価用の試験装置。
【請求項2】
上記被測定部の外周側を拘束する拘束部を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載した耐デント性評価用の試験装置。
【請求項3】
上記圧子による押圧荷重を測定する荷重計測器を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載した耐デント性評価用の試験装置。
【請求項4】
上記評価部は、コンピュータを用いて、上記変位情報から、一番板厚方向に変位している最大変位位置から予め設定した距離だけ離間した1又は2カ所以上の離隔位置での各板厚方向の変位に対する上記最大変位位置での板厚方向への相対変位量に基づき、耐デント性を評価する、
ことを特徴とする請求項1に記載した耐デント性評価用の試験装置。
【請求項5】
耐デント性の試験を行う部分である被測定部が板状の試験材における、上記被測定部の一方の面を圧子で試験材の厚さ方向に押圧し、上記圧子による負荷を除荷後の上記被測定部の形状から耐デント性を評価する耐デント性の評価方法であって、
上記圧子での負荷前及び上記除荷後の上記被測定部の上記一方の面をそれぞれ撮像し、
その撮像した上記圧子による負荷の前後の画像データを参照し、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって、上記被測定部での座標及び板厚方向の変位情報を求め、
上記求めた変位情報から耐デント性を評価する、
ことを特徴とする耐デント性の評価方法。
【請求項6】
上記求めた変位情報に基づき、上記圧子の負荷によって一番板厚方向に変位している最大変位位置から予め設定した距離だけ離間した1又は2カ所以上の離隔位置での各板厚方向の変位に対する上記最大変位位置での板厚方向への相対変位量を求め、その1又は2以上の相対変位量から、耐デント性を評価する、
ことを特徴とする請求項5に記載した耐デント性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体用の外板部品(パネル部品)を代表とする、被測定部位が板形状(パネル状)となっている試験材についての耐デント性を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
耐デント性が要求される金属板として、例えば自動車用パネル部品、特に外板部品がある。
ここで、近年、自動車は燃費向上や航続距離向上を目的に、車体を構成する金属板の板厚を薄くして軽量化を図る傾向がある。また、金属板の板厚が薄くなることによって衝突安全性が低下するが、その低下は、金属板に高強度鋼板を適用することで対応する傾向にある。
【0003】
したがって、ドアやフードなどを構成する外板部品についても、高強度化及び薄肉化が行われる傾向にある。このとき、自動車用の外板部品は、意匠性が特に重要であり、外観品質の指標となる耐デント性が良好であることが望ましい。しかし、外板部品の薄肉化は耐デント性の低下を招く。このため、例えば、外板部品をハイテン化することにより耐デント性を解決している。
なお、「デント」とは、板部材(パネル材)に対し、局所的な力を負荷し除荷した際に、板部材に対し窪み(へこみ)が残留する現象のことを言い、板部材の外観品質に影響する。
【0004】
耐デント性の評価方法及び試験方法には定められた規格はない。一般には、次の方法によって、耐デント性の評価が行われる。すなわち、その評価方法は、評価対象となる板部材の面に対し、剛性の高い圧子を荷重制御若しくは変位制御で押し付ける。そして、圧子による押圧を除荷した後に残留しているへこみ量(残留へこみ量)の大小、若しくは荷重を段階的に増やしていき、へこみが発生するまでの荷重の大小によって耐デント性を評価する。
【0005】
上記残留へこみ量は、通常、接触式のダイヤルゲージによる測定で測定される。しかし、この測定方法は、精確に最もへこんでいる箇所をダイヤルゲージで測定することは難しく、測定する者によって測定値が一致しないなど、測定の精確性に課題がある。特に、耐デント性の評価精度を上げるために、へこんでいる箇所を、接触式のダイヤルゲージで複数方向から測定する場合、煩雑な作業となると共に測定精度の低下が顕著となるおそれがある。
【0006】
ここで、耐デント性について、簡便に精度よく試験する方法として、例えば特許文献1に記載の方法がある。特許文献1では、自動車車体に対して、CAEで定めた試験条件を再現する試験装置を用いて、電動シリンダによる荷重の負荷と、変位センサーによる非接触測定を行う試験方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-42030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の試験方法は、球状負荷ヘッド(圧子)によって負荷されている箇所の変位を点で測定する方法である。このため、この試験方法は、負荷箇所周辺の形状の履歴は測定できないという課題がある。また、この試験方法は、負荷箇所の変位を点で測定していることため、精確に最もへこんでいる箇所を測定できているのか否かという精度の点で課題がある。また、この試験方法は、試験設備も大型となるおそれがある。更に、試験条件の決定のためにCAEでの解析を事前に行う必要があることから、試験に要する準備に工数が掛かり、試験が簡便に実行できるとは言えない。
【0009】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、より小規模な装置構成によって、耐デント性を、簡易な手間でかつより精度良く評価可能な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題解決のために、本発明の一態様は、耐デント性の試験を行う部分である被測定部が板状の試験材の耐デント性を評価する試験装置であって、上記被測定部の一方の面を上記試験材の厚さ方向に押圧する圧子と、上記被測定部の上記一方の面を撮像可能な複数の撮像部と、上記複数の撮像部が撮像した、上記圧子による押圧前及び押圧解除後の上記一方の面の各画像データを参照し、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって、上記被測定部の座標及び板厚方向への変位情報を求める変位解析部と、上記変位解析部が求めた変位情報から耐デント性を評価する評価部と、を備える耐デント性評価用の試験装置である。
【0011】
本発明の他の一態様は、耐デント性の試験を行う部分である被測定部が板状の試験材における、上記被測定部の一方の面を圧子で試験材の厚さ方向に押圧し、上記圧子による負荷を除荷後の上記被測定部の形状から耐デント性を評価する耐デント性の評価方法であって、上記圧子での負荷前及び上記除荷後の上記被測定部の上記一方の面をそれぞれ撮像し、その撮像した上記圧子による負荷の前後の画像データを参照し、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって、上記被測定部での座標及び板厚方向の変位情報を求め、上記求めた変位情報から耐デント性を評価する、耐デント性の評価方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、板状の被測定部における圧子による押圧部及びその外周部における、圧子による荷重負荷による窪み状況を簡易かつ精度良く検出可能となる。この結果、本発明の態様によれば、被測定部における耐デント性を簡易かつ精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に基づく実施形態に係る試験装置の概念図である。
図2】被測定部、配置台、及び抑え具の配置関係を示す平面図である。
図3】評価制御部の構成を示す図である。
図4】試験材を説明する図であって、(a)は加工前のブランク材を示す側面図である。(b)はプレス加工後の試験材の形状を示す断面図である。
図5】従来の3点ゲージ式のダイヤルゲージによる測定を説明する図である。
図6】最大変位位置と離隔位置との関係を示す平面図である。
図7】除荷後における、3次元の変位分布の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(構成)
本実施形態の耐デント性評価用の試験装置は、耐デント性の試験を行う部分である被測定部が板状の試験材の耐デント性を評価する試験装置である。
【0015】
本実施形態では、耐デント性を、板状の試験材の面に対し圧子を押圧して負荷し、その負荷の除荷後における窪み発生の有無、及び発生した窪みの状態によって評価する。このとき、本実施形態では、デジタル画像相関法を用いることで、押圧位置及びその周辺の変位を3次元で精度良く測定できる。この結果、例えば、一つの窪みに対し、複数方向からの評価情報(相対変位量)を簡易かつ精度良く取得することができることを、特徴と一つとしている。
【0016】
<試験材1>
本実施形態では、図4に示すように、評価対象の材料からなる平板状の鋼板(図4(a))を張出成形して試験材1とした。具体的には、本実施形態では、図4(b)に示すように、円錐台形状に張出成形して作製したパネル部品を、試験材1とした。そして、円錐台形状のパネル部品の天板部1Aを被測定部とした。なお、試験材1のうち、符号1Bは壁部であり、符号1Cはフランジ部である。図4に例示する本実施形態の試験材1では、耐デント性の評価を行い易くするため、天板部1Aが、中央部を頂点として上側に凸の曲面形状の場合とした。
【0017】
なお、試験材1となるパネル部品の形状は、この形状に限定されない。平板材の板そのものをパネル部品(試験材1)としても良い。ただし、全周に壁部1Bを形成した場合、圧子で押圧する際における、被測定部の外周部での変形を小さく抑えることができる。すなわち、試験材1の外周部に壁部1Bを形成することで、試験材1(被測定部)の外周位置での剛性が高くなり、板状からなる被測定部での測定が実行しやすくなる。
また、被測定部の外周部を平面視で円形形状とすることで、面内方向での変形の指向性が抑制される。
【0018】
本開示は、自動車用の外板パネル部品の耐デント性評価に好適な技術である。
また、試験材1の材料について特に限定はないが、本実施形態では、自動車用パネル部品を想定して、試験材1が鋼板である場合を例にして説明する。本開示が対象とする試験材1は、鋼板に限定されず、アルミ板や銅板などの他の金属板であってもよい。また、本開示が対象とする試験材1は、試験材1が樹脂製などであっても良い。なお、耐デント性の評価において、最終製品としての自動車用パネル部品自体を試験材1とする必要はなく、例えば、その一部の領域を再現して耐デント性を評価すれば良い。また、使用する板材の材料自体の耐デント性を評価する場合には、最終製品に付与する板形状と同じ形状を試験材1に付与する必要はない。
【0019】
なお、本明細書で、パネル部品とは、パネル状の板状部分を有する部品であることを指す。被測定部となるパネル状の板状部分は、平坦であっても良いし、所定の曲率を有する板形状であってもよい。また、図4に例示する本実施形態では、天板部1A全体が上方に凸の湾曲を有する場合を例示しているが、一部に凹部を有する形状など、被測定部の面形状について特に限定はない。なお、自動車用パネル部品は、通常、直交する2方向の曲率が異なる場合が多い。
【0020】
本実施形態では、被測定部である天板部1Aの上面(一方の面1A)を、測定する計測面とした。
また、本実施形態では、試験材1のうち、少なくとも天板部1Aの上面に対し、塗布によってデジタル画像相関法で処理するためのランダムパターンを付与した。試験材1表面へのランダムパターンの付与は、公知の方法を用いれば良い。
【0021】
<試験装置>
本実施形態の耐デント性評価用の試験装置は、耐デント性の試験を行う部分である被測定部が板状(パネル状)の試験材1に対する耐デント性を評価する装置である。
本実施形態の耐デント性評価用の試験装置は、試験材支持機構と、荷重負荷部と、カメラ17と、評価制御部18と、を備える。
【0022】
<試験材支持機構>
試験材支持機構は、図1に示すように、試験材1における天板部1A(被測定部)の外周部を支持する。
本実施形態の試験材支持機構では、天板部1Aの外周部を拘束する。なお、拘束する位置は、フランジ部の位置でも良いが、壁部1Bでの変形などの影響を抑える観点からは、天板部1Aの外周部を拘束位置とすることが好ましい。
【0023】
本実施形態の試験材支持機構は、図1に示すように、上下で対向配置した配置台10及び抑え具11を備え、更に拘束用のクランプ12を備える。
配置台10は、上部が、天板部1Aの下面(他方の面1A)の外周部に当接可能な枠材からなる。すなわち、配置台10は、天板部1Aの外周部よりも内側の面を支持していない。
本実施形態の配置台10の上部は、図2に示すように、天板部1Aの外周に沿って当接可能なリング状の枠形状から構成されている。なお、配置台10の上部の枠形状は,リング形状に限定されず、矩形状など他の形状であっても良い。
【0024】
本実施形態の抑え具11は、図2に示すような、リング形状の枠材であって、天板部1Aの外周部の上面(一方の面1A)に当接する。
更に、天板部1Aの外周を上下から試験台と抑え具11で挟み込んだ状態で、3以上のクランプ12によって、抑え具11を配置台10の方向(下方)に押し付ける。これによって、天板部1Aの外周部が拘束される。
ここで、試験材支持機構は、配置台10だけから構成されていても良い。
【0025】
<荷重負荷部>
荷重負荷部は、天板部1Aを押圧し、天板部1Aの一部に対し、上側から板厚方向への荷重を負荷する装置である。本実施形態の荷重負荷部は、図1に示すように、圧子13と、荷重計測器15と、押圧力負荷装置16とを備える。
【0026】
圧子13は、試験材1と接触する面が半球状の鋼製からなる。試験材1と接触する面の形状に限定はない。
圧子13は、ロッド状の連結部材14を介して押圧力負荷装置16に接続され、押圧力負荷装置16の可動部によって上下に移動可能となっている。
また、圧子13による試験材1への押圧荷重を計測する荷重計測器15を備える。本実施形態では、荷重計測器15がロードセルから構成される。そのロードセルは、連結部材14と押圧力負荷装置16の可動部との接続部に介挿されることで、圧子13に掛かる荷重を検出する。
圧子13の押圧力は、例えばパネル部品に大人が手で押す力を想定して設定する。評価するデント発生時の押圧力を想定して、圧子13の押圧力を設定すれば良い。
なお、荷重計測器15がなくても良い。代わりに圧子13の押圧を、圧子13の押圧方向への移動量で制御しても良い。
【0027】
本実施形態では、天板部1Aの下面に接触して天板部1Aの上下方向(板厚方向)への変位を測定する変位計19を備える。この変位計19はなくても良い。変位計19によって、例えば、押圧荷重が許容値以内であっても、圧子13による押し込み量が過剰になっていないかどうかを判定できる。
【0028】
<カメラ17(撮像部)>
本実施形態は、複数のカメラ17を備える。複数のカメラ17の画像データを参照することで、デジタル画像相関法によって、面外方向の変位を検出できる。
各カメラ17は、天板部1Aの上面を撮影領域として設定されて、当該天板部1A上面を撮像する。
各カメラ17が撮像した画像データは、評価制御部18で使用される。
【0029】
<評価制御部18>
評価制御部18は、図3に示すように、変位解析部18Aと評価部18Bとを備える。評価制御部18は、コンピュータで処理を実行する構成となっている。
【0030】
<変位解析部18A>
変位解析部18Aは、各カメラ17が撮像した、圧子13による負荷前及びその負荷を除荷後における、天板部1Aの上面(一方の面1A)の各画像データを参照する。そして、変位解析部18Aは、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって、負荷前後における、被測定部である天板部1Aの座標及び板厚方向への変位情報を算出する。
【0031】
本実施形態の変位解析部18Aは、圧子13が押圧前の天板部1A上面の画像データと、圧子13で押圧しその圧子13を上昇して圧子13による負荷を除荷した後の天板部1A上面の画像データとを入力する。そして、変位解析部18Aは、その入力した画像データについて、デジタル画像相関法を施して、負荷前の天板部1A上面に対する、圧子13による押圧を除荷後の天板部1A上面の座標及び板厚方向(上下方向)の変位情報を取得する。上記の座標及び変位情報は、例えば、天板部1A上面での三次元の変位分布の情報を構成する。
【0032】
ここで、圧子13に対しマーキングを施しておいても良い。そして、カメラ17で天板部1A上面を連続的若しくは間欠的に撮像し、画像データに圧子13に付したマークが映り込んでいない、若しくはマークが天板部1A上面と重なっていないことを条件に、変位解析部18Aでデジタル画像相関法の処理に使用する画像データを取得するように設定してもよい。
【0033】
<評価部18B>
評価部18Bは、変位解析部18Aが求めた変位の分布情報からなる変位情報から耐デント性を評価する。
評価部18Bは、例えば、変位解析部18Aが求めた変位の最大値が、予め設定した閾値以上の場合にデントが発生すると判定する。若しくは、予め設定した閾値に対する変位の最大値の比を耐デント性の評価値として、試験材1の耐デント性を評価しても良い。
【0034】
ここで、デントは、局所的な押圧による局所的に発生する窪みである。このため、耐デント性は、押圧による局所的な窪み発生の状況で判定することが好ましい。
このため、従来の方法では、例えば、図5に示すように、圧子13での負荷前後に、3点ゲージ式のダイヤルゲージにて、押圧中央部の近傍位置(例えば25mm離隔した位置)を基準とした押圧中央部の凹み量を測定して、耐デント性を評価している。
【0035】
本実施形態の評価部18Bでも、変位の分布情報から、一番板厚方向に変位している最大変位位置Pから予め設定した距離Lだけ離間した1又は2カ所以上の離隔位置K1、K2・・・、Kn(図6参照)での各板厚方向の変位に対する、最大変位位置Pでの板厚方向の相対変位量に基づき、耐デント性を評価するように処理することが好ましい。ここで、一番板厚方向に変位している最大変位位置Pは、通常、圧子13での押圧部中央となるが、試験条件によっては多少、最大変位位置Pが圧子13での押圧部中央から横方向にずれる可能性がある。予め設定した距離Lは、例えば20mm(圧子13の半径以上)以上50mm以下の範囲とする。予め設定した距離Lを大きく設定すると、被測定部における一方の面1Aの面形状の影響を受ける可能があり、予め設定した距離Lを小さすぎると、デントの窪みを評価し難くなる。
【0036】
本実施形態では、圧子13で押圧する前の面に対する圧子13での押圧及び除荷後の面の板厚方向の変位を取得し、その変位情報を基にして、デントの窪みを評価することもできる。このため、本実施形態では、簡易に、押圧前の面の曲率なども加味して、耐デント性を評価することが可能となる。また、被測定部の面の曲率が2方向で異なる場合、その2方向以上からの相対変位量で耐デント性を評価することが好ましい。これに対し、本実施形態では、一回の測定データから、最大変位位置Pに対する、面に沿った複数方向からの相対変位量を求めることが可能である。
【0037】
例えば、本実施形態の評価部18Bでは、圧子13による負荷の除荷後の変位の分布情報から一番板厚方向に変位している最大変位位置P(最大変位点)とする。次に、平面視(圧子13での押圧方向からみて)で、最大変位点を中心とした予め設定した距離Lを半径とする円上の位置での変位を求める。この円上の位置は、最大変位位置Pから予め設定した距離Lだけ離間した1又は2カ所以上の離隔位置Kの位置となる。
【0038】
そして、本実施形態の評価部18Bは、例えば、上記円上において変位が最大となる位置(離隔位置K)での板厚方向の変位に対する、最大変位位置Pでの板厚方向の相対変位量(第1相対変位量と呼ぶ)を、耐デント性の評価値とする。
または、本実施形態の評価部18Bは、上記円上において変位が最小となる位置(離隔位置K)での板厚方向の変位に対する、最大変位位置Pでの板厚方向の相対変位量(第2相対変位量と呼ぶ)を、耐デント性の評価値とする。
【0039】
また、本実施形態の評価部18Bは、上記の第1相対変位量と第2相対変位量の平均値又は2つの相対変位量を、耐デント性の評価値とする。
なお、第1相対変位量と第2相対変位量はそれぞれ、圧子13による押圧前における、第1の面に沿って付与されている、曲率が一番大きい方向と、曲率が一番小さい方向とに沿った方向での相対変位量となる場合が多い。
【0040】
上記の評価値としての相対変位量の求め方は一例である。例えば、円上の複数点での変位量の平均値に対する最大変位位置Pでの板厚方向の相対変位量を、耐デント性の評価値とするような求め方でもよい。また、従来の3点ゲージ式を模して、最大変位位置Pを中心とした左右対称位置の隔離点での変位の平均値に対する、最大変位位置Pでの板厚方向の相対変位量を、耐デント性の評価値としてもよい。
また、求めた相対変位量を基準値に対する比を、評価値としてもよい。
【0041】
また、上記説明では、相対変位量を耐デント性の評価値としているが、これに限定しない。例えば、変位の分布情報に基づき、最大変位位置Pと隔離点との間を結ぶ直線の勾配(傾き)を、耐デント性の評価値としてもよい。平面視における、最大変位位置Pから隔離点までの設定距離も加味して、耐デント性の評価値を求めることができる。
【0042】
また、本件では、コンピュータ処理で実行するため、最大変位位置Pの位置を精度良く求めることができる。
【0043】
(動作その他)
本実施形態では、従来の測定方法と同様に、被測定部に対して圧子13で押圧して局所的に負荷し、その負荷後の窪み(デント)の発生の有無、窪みの状態によって耐デント性を評価する。
ただし、本実施形態では、圧子13で押圧(負荷)前の測定部の一方の面1Aの画像データと、上記の押圧(負荷)を除荷した後の画像データとを取得する。そして、その画像データを参照して、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって、被測定部での座標及び板厚方向の変位情報からなる、三次元の変位分布の情報を求める。
【0044】
これによって、負荷前の面形状を基準とした除荷後の面形状の板厚方向の3次元での変位情報を、一回のコンピュータ処理によって求められる。すなわち、簡易にかつ精度良く、3次元での変位情報を得ることができる。
この結果、本実施形態では、上記の変位情報のデータを参照することで、簡易かつ精度良く、一番板厚方向に変位している最大変位位置Pが求められ、精度が高い耐デント性のための評価値を得ることができる。
【0045】
ここで、自動車用パネル部品は、通常、直交する2方向の曲率が異なるため、デントについても、その2方向からの窪み具合の情報を使用して耐デント性を評価することが好ましい。これに対して、本実施形態では、一回の処理で3次元での変位情報を取得するので、被測定部の面に沿った複数方向での耐デント性のための評価値を、簡易かつ精度良く取得することができる。
【0046】
上記の負荷及び除荷の処理は、試験材1に対し、圧子13で荷重を負荷し、所定の荷重に達したら反対方向に駆動させて除荷を行うことで実行される。この負荷と除荷を1サイクルとした場合に、1サイクルで所定の荷重に達するよう試験機を設定してもよく、例えば、50N負荷して除荷した後に100N負荷して除荷、など数サイクルで所定の荷重に達するよう連続試験の設定をしてもよい。
【0047】
そして、1サイクル毎に、上記の変位情報を求めるように処理をしても良いし、複数サイクルが終了毎に、上記の変位情報を求めるように処理をしても良い。本実施形態では、評価するサイクル毎に、画像データを取得してコンピュータで処理すれば良いので、簡易に、デントの変化状況などについても取得することができる。
また、変位計を設置した場合には、荷重に対する被測定部の変位量も測定できる。
【0048】
また、カメラ17で連続撮影を行うように設定してもよい。この場合、試験機の設定を終えて試験を開始する前に連続撮影を開始する。この際のサンプリングレートは、試験時の試験材1の変形挙動が滑らかに解析できる程度であればいい。サンプリングレートは、圧子13の移動速度(変位速度)によって設定すればよい。
【0049】
この場合、試験中など画像内に圧子13が写り込んでいる領域は試験材1の変形が測定できないものの、その周囲の試験材1の変形挙動は測定することが可能である。また、初期画像と最終画像の2枚においては圧子13が画角外の状態で撮影していることから、負荷方向の変位を解析することで最もへこんでいる箇所をピンポイントに評価が可能であり測定者による値のばらつきは生じえない。
【0050】
そして、この場合、押圧荷重に対する被測定部の変形挙動が取得できる。加えて、測定した面としての3次元形状は有限要素によって出力が可能であるため、CAE解析との精度比較を容易に行うことができるという効果もある。すなわち、CAE解析の精度向上に寄与させることも可能である。
【0051】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)耐デント性の試験を行う部分である被測定部が板状の試験材の耐デント性を評価する試験装置であって、
上記被測定部の一方の面を上記試験材の厚さ方向に押圧する圧子と、
上記被測定部の上記一方の面を撮像可能な複数の撮像部と、
上記複数の撮像部が撮像した、上記圧子による押圧前及び押圧解除後の上記一方の面の各画像データを参照し、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって、上記被測定部の座標及び板厚方向への変位情報を求める変位解析部と、
上記変位解析部が求めた変位情報から耐デント性を評価する評価部と、
を備える、耐デント性評価用の試験装置。
(2)上記被測定部の外周側を拘束する拘束部を備える。
(3)上記圧子による押圧荷重を測定する荷重計測器を備える。
(4)上記評価部は、コンピュータを用いて、上記変位情報から、一番板厚方向に変位している最大変位位置から予め設定した距離だけ離間した1又は2カ所以上の離隔位置での各板厚方向の変位に対する上記最大変位位置での板厚方向への相対変位量に基づき、耐デント性を評価する。
(5)耐デント性の試験を行う部分である被測定部が板状の試験材における、上記被測定部の一方の面を圧子で試験材の厚さ方向に押圧し、上記圧子による負荷を除荷後の上記被測定部の形状から耐デント性を評価する耐デント性の評価方法であって、
上記圧子での負荷前及び上記除荷後の上記被測定部の上記一方の面をそれぞれ撮像し、
その撮像した上記圧子による負荷の前後の画像データを参照し、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって、上記被測定部での座標及び板厚方向の変位情報を求め、
上記求めた変位情報から耐デント性を評価する、
耐デント性の評価方法。
(6)上記求めた変位情報に基づき、上記圧子の負荷によって一番板厚方向に変位している最大変位位置から予め設定した距離だけ離間した1又は2カ所以上の離隔位置での各板厚方向の変位に対する上記最大変位位置での板厚方向への相対変位量を求め、その1又は2以上の相対変位量から、耐デント性を評価する。
【実施例0052】
次に、本実施形態の実施例について説明する。
試験材用の板材として、引張強度が440MPa級の鋼種となる板厚0.50mmのBH鋼板を用いた。
本例では、上記板材に、円錐台張出成形を実施して試験材1を作製した。プレス成形の条件は、パンチ底(圧子13により負荷をかける面)の相当ひずみが2%となる条件に設定した。また、成形後に自動車の焼付けラインを模擬した熱処理を施した。
【0053】
その試験材1の天板部1Aにランダムパターンを付与する塗布を施した。
なお、従来との評価を分かり易くするため、本実施例では、天板部1Aの試験前の形状を平坦な形状とした。
そして、試験材1の天板部1Aの外周を、上記実施形態のように拘束した。また、負荷条件は、負荷と除荷の1サイクルであり、圧子13で250Nの負荷を行う条件とした。
【0054】
(実施例1)
実施例1では、実施形態で説明したように、圧子13による負荷前の画像データと、負荷の除荷後の画像データから、デジタル画像相関法によって3次元の変位情報を取得した。その変位の分布の例を図7に示す。
【0055】
そして、変位情報から、3点ゲージ法を模して評価値を算出した。すなわち、負荷前後における試験材1中央部(圧子13が負荷をかける点)と、その試験材1中央部を中心として、点対称となる、+25mmとなる離隔点、及び-25mmとなる離隔点、という3点の変位量を算出した。そして、離隔点に対する最大変位位置Pでの相対変位量(残留凹み量)を求めたところ、0.36mmと算出された。なお、本例では、天板部1Aの試験前の形状を平坦な形状としたため、測定方向による相対変位量の違いは小さい。
【0056】
また、除荷後の天板部1Aを対象として、残留凹み量について、レーザー距離計を用いた市販の3次元形状測定機を用いて、別途測定したところ0.36mmであった。この値は、本実施例1と等しい値である。この結果から、本発明に基づく試験手法は精度よく耐デント性を評価できていることが分かった。
【0057】
なお、本例では、天板部1Aと平坦な形状としているため、レーザー距離計を用いた測定値と実施例1の測定値が一致している。天板部1Aが湾曲している場合、レーザー距離計を用いても測定方向によって測定値が異なる。このため、例えば、最大曲率の面方向に沿った残留凹み量をレーザー距離計で用いて測定しようとすると、手間が掛かる。
これに対し、本発明に基づく試験手法では簡易かつ精度よく求めることができる。
【0058】
(比較例)
一方、除荷後の天板部1Aを対象として、3名の測定者が、図5に示すように、従来の方法である接触式のダイヤルゲージを用いて、3点ゲージ法で、残留凹み量を測定した。
測定者Aによる測定結果(残留凹み量)は0.31mm、測定者Bによる測定結果(残留凹み量)は0.26mm、測定者Cによる測定結果(残留凹み量)は0.33mm、となった。すなわち、3名で異なる測定値となり、市販の3次元形状測定機による測定結果とも異なる結果となった。
これらの結果から、従来手法では測定者によって値にばらつきが生じていたが、本発明に従う測定方法で、精度よく残留凹み量を測定できることが明らかである。
【符号の説明】
【0059】
1 試験材
1A 天板部
1B 壁部
10 配置台
11 抑え具
12 クランプ
13 圧子
15 荷重計測器
16 押圧力負荷装置
17 カメラ
18 評価制御部
18A 変位解析部
18B 評価部
K 離隔位置
L 距離
P 最大変位位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7