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特開2024-78793-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンを含む組成物、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンの製造方法
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  • 特開-3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンを含む組成物、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンの製造方法 図1
  • 特開-3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンを含む組成物、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンの製造方法 図2
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  • 特開-3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンを含む組成物、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンの製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007879
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンを含む組成物、そのスルホキシド及び/又はそのスルホンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/91 20060101AFI20240112BHJP
   C08G 63/688 20060101ALI20240112BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C08G63/91
C08G63/688
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109254
(22)【出願日】2022-07-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/生分解開始スイッチ機能を有する海洋分解性プラスチックの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】柘植 丈治
(72)【発明者】
【氏名】中川 絢太
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 徹生
【テーマコード(参考)】
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AC02
4J029AE03
4J029AE06
4J029AE11
4J029EA05
4J029EF02
4J029KA02
4J029KB02
4J029KH01
4J200AA02
4J200AA10
4J200AA13
4J200BA03
4J200BA12
4J200CA01
4J200DA20
4J200DA22
4J200EA01
4J200EA04
4J200EA12
(57)【要約】
【課題】新たな物性・機能を有するポリヒドロキシアルカン酸共重合体を提供すること。
【解決手段】3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、及び3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホン、からなる群から選択される少なくとも1つの共重合体を含む、組成物、並びに3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体を、酸化剤の存在下又は非存在下で酸化して、前記ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、及び/又は前記ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホンを製造する方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、
(ii)3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、及び
(iii)3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホン
からなる群から選択される少なくとも1つの共重合体を含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、(i)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体と、(ii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド及び/又は(iii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホンとを9.9:0.1~0.1:9.9の割合で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、(i)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体と、(ii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシドとを9.9:0.1~0.1:9.9の割合で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、(ii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシドと、(iii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホンとを9.9:0.1~0.1:9.9の割合で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、(ii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、又は(iii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホンを実質的に100%の割合で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体を、酸化剤の存在下又は非存在下で酸化して、前記ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、及び/又は前記ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホンを製造する方法。
【請求項7】
前記酸化が自動酸化である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化剤が、過酸化水素又は過酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記過酸が過酢酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物からなるフィルム又はシート。
【請求項11】
3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
【請求項12】
3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、又は3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、当該ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド及び/又はそのスルホンを含む組成物、並びに当該ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド及び/又はそのスルホンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3-ヒドロキシアルカン酸のホモポリマー又は共重合体であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は微生物が細胞内に蓄積するバイオポリエステルである。近年では、生分解性プラスチック素材としてのみならず、バイオマス由来のプラスチック素材として注目されている。これらのポリマーは従来のプラスチックと同様に、溶融加工等により各種製品の生産に利用することができる。また、生分解性であるがゆえに、自然界で微生物により完全分解されるとの利点を有しており、従来の多くの合成高分子化合物のように自然環境に残留して汚染を引き起こすことがない。さらに、生体適合性にも優れており、医療用軟質部材等としての応用も期待されている。
【0003】
このようなPHAは、その生産に用いる微生物の種類や培地組成、培養条件等により、様々な組成や構造のものとなり得ることが知られている。
【0004】
最も一般的なPHAである、(R)-3-ヒドロキシブタン酸(3HB)を構成単位とするホモポリマーは、高結晶性であるために硬くて脆く、実用性に乏しい。また、溶融温度(180℃)と熱分解温度(約200℃)とが近いために、溶融時にポリマーが低分子量化してしまうなど成型加工時の劣化が問題となり、工業生産には向いていない。この物性を改善する手段の一つとして、3HBと他のモノマーとの共重合体化、中鎖長の3-ヒドロキシアルカン酸ユニットが種々検討されてきた。
【0005】
また、PHAの側鎖に官能基を導入することにより様々な機能性を付与できることも知られている。
【0006】
電子写真用トナーの分野においても、トナー製造においてバインダー樹脂への生分解性樹脂の応用が提案され、バインダーに使用される荷電制御剤として、側鎖にスルファニル(-S-)構造を有するユニットを含むPHAが報告されている。また、スルファニル基を次亜塩素酸ナトリウムで処理することによって製造される、物理化学的性状が更に改善されたスルホキシド構造(-SO-)やスルホン構造(-SO-)を有するユニットを含むPHAも報告されている(特許文献1、特許文献2)。具体的には、特許文献1では、3-ヒドロキシ-5-(フェニルスルフィニル)吉草酸ユニット及び3-ヒドロキシ-5-(フェニルスルホニル)吉草酸ユニットと、イオウ原子のα位のメチレン位部分がクロロ基に置換されたユニットとを含むポリマーが製造され、帯電性について評価されている。特許文献2では、例えば、3-ヒドロキシ-5-(フェニルスルフィニル)吉草酸ユニット及び3-ヒドロキシ-5-(フェニルスルホニル)吉草酸ユニットを含むポリマーが製造され、帯電性について評価されている。
しかしながら、特許文献1及び2では、PHAの機械的特性等については明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-34717号公報
【特許文献2】特開2004-315783号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yasuo Takagi,et al.,Macromolecules,32,8315-8318(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
PHAの利用拡大に向けて、物性の多様性、新たな機能の付与などが望まれる。したがって、本発明は、従来のPHAに対して新たな物性・機能を有するPHAを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、斯かる実状に鑑み鋭意検討した結果、炭素源とメチオニンを用いる生合成によって、3-ヒドロキシブタン酸(3HB)と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸(2H4MTB)とを含むP(3HB-co-2H4MTB)を製造し、当該P(3HB-co-2H4MTB)を酸化処理することにより、側鎖イオウ原子が酸化された、P(3HB-co-2H4MTB)のスルホキシド及び/又はスルホンが効率よく得られることを見出し、本発明を完成するに至った。また、P(3HB-co-2H4MTB)、並びにP(3HB-co-2H4MTB)のスルホキシド及びスルホン、特にP(3HB-co-2H4MTB)のスルホキシド及びスルホンは、高い親水性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)(i)3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、
(ii)3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、及び
(iii)3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホン
からなる群から選択される少なくとも1つの共重合体を含む、組成物。
(2)前記組成物が、(i)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体と、(ii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド及び/又は(iii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホンとを9.9:0.1~0.1:9.9の割合で含む、(1)に記載の組成物。
(3)前記組成物が、(i)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体と、(ii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシドとを9.9:0.1~0.1:9.9の割合で含む、(1)に記載の組成物。
(4)前記組成物が、(ii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシドと、(iii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホンとを9.9:0.1~0.1:9.9の割合で含む、(1)に記載の組成物。
(5)前記組成物が、(ii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、又は(iii)ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホンを実質的に100%の割合で含む、(1)に記載の組成物。
(6)3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体を、酸化剤の存在下又は非存在下で酸化して、前記ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、及び/又は前記ポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホンを製造する方法。
(7)前記酸化が自動酸化である、(6)に記載の方法。
(8)前記酸化剤が、過酸化水素又は過酸である、(6)に記載の方法。
(9)前記過酸が過酢酸である、(8)に記載の方法。
(10)(1)~(5)のいずれか1つに記載の組成物からなるフィルム又はシート。
(11)3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
(12)3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホキシド、又は3-ヒドロキシブタン酸単位と2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体のスルホン。
【発明の効果】
【0012】
本発明の3M2MP単位と3HB単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、及びこれらの酸化物は高い親水性を有し、高い親水性が要求される分野のプラスチック材料として有効に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、メチオニンを前駆体としたP(3HB-co-2H4MTB)の生合成経路の概略図である。図1において、m及びnは繰り返し数であり、それぞれ1~20,000の整数を示す。
図2図2の(A)は、表1に記載のメチオニン0.5g/Lを添加した培養条件で得られたP(3HB-co-2HA)のH NMRスペクトルである。構造式P(3HB-co-2HA)中の記号B2~B4、V2~V5、T2~T5はプロトンを表し、それぞれ、H NMRスペクトルにおいて対応するシグナルとして観察される。図2の(B)は、表1に記載のメチオニン1.0g/Lを添加した培養条件で得られたP(3HB-co-2HA)のH NMRスペクトルである。
図3図3は、表1に記載のメチオニン0.5g/Lを添加した培養条件で得られたP(3HB-co-2HA)の13C NMRスペクトルである。
図4図4は、P(3HB-co-2HA)(表2のサンプル1~4)のH NMRスペクトル(0~5.5ppm)を比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、式(I):(R)-3-ヒドロキシブタン酸単位(P(3HB))と(R)-2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸単位(P(2H4MTB))とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体(以下、「PSulfide」、「スルフィド」と言うことがある)
【0015】
【化1】
【0016】
(式(I)中、n及びmは繰り返し数であり、各々1~20,000の整数を示し、好ましくは各々10~15,000の整数を示し、より好ましくは各々100~10,000の整数を示す。)、式(II)のスルホキシド(以下、「PSulfoxide」、「スルホキシド」と言うことがある)、及び式(III)のスルホン(以下、「PSulfone」、「スルホン」と言うことがある)からなる群から選択される少なくとも1つの共重合体を含む組成物に関する。
【0017】
【化2】
【0018】
(式(II)、(III)中、n及びmは繰り返し数であり、各々1~20,000の整数を示し、好ましくは各々10~15,000の整数を示し、より好ましくは各々100~10,000の整数を示す。)
【0019】
このような組成物としては、例えば、「PSulfide」と、「PSulfoxide」及び/又は「PSulfone」とを含んでよい。具体的には、「PSulfide」と「PSulfoxide」と「PSulfone」とを含んでよく、「PSulfide」と「PSulfoxide」とを含んでもよい。
また、本発明の組成物は、「PSulfoxide」と「PSulfone」とを含んでもよい。さらに、本発明の組成物は、「PSulfoxide」又は「PSulfone」を実質的に100%含んでもよい。
【0020】
本発明の組成物が「PSulfide」と、「PSulfoxide」及び/又は「PSulfone」とを含む場合には、組成物中の「PSulfoxide」と酸化物である「PSulfoxide」及び/又は「PSulfone」との割合は、好ましくは10:0~0:10、より好ましくは9.9:0.1~0.1:9.9、より好ましくは9:1~1:9、より好ましくは9:1~2:8、より好ましくは9:1~3:7、より好ましくは9:1~4:6、より好ましくは9:1~5:5、より好ましくは8:2~6:4、より好ましくは7:3~7:3、より好ましくは6:4~8:2、より好ましくは5:5~9:1である。
本発明の組成物が「PSulfide」と「PSulfoxide」とを含む場合には、組成物中の「PSulfide」と「PSulfoxide」との割合は、好ましくは10:0~0:10、より好ましくは9.9:0.1~0.1:9.9、より好ましくは9:1~1:9、より好ましくは9:1~2:8、より好ましくは9:1~3:7、より好ましくは9:1~4:6、より好ましくは9:1~5:5、より好ましくは8:2~6:4、より好ましくは7:3~7:3、より好ましくは6:4~8:2、より好ましくは5:5~9:1である。
本発明の組成物が「PSulfoxide」と「PSulfone」とを含む場合には、組成物中の「PSulfoxide」と「PSulfone」との割合は、好ましくは10:0~0:10、より好ましくは9.9:0.1~0.1:9.9、より好ましくは9:1~1:9、より好ましくは9:1~2:8、より好ましくは9:1~3:7、より好ましくは9:1~4:6、より好ましくは9:1~5:5、より好ましくは8:2~6:4、より好ましくは7:3~7:3、より好ましくは6:4~8:2、より好ましくは5:5~9:1である。
【0021】
本発明は、また、式(I)で表される「PSulfide」に関する。
【0022】
本発明は、また、式(II)で表される「PSulfoxide」に関する。
【0023】
本発明は、また、式(III)で表される「PSulfone」に関する。
【0024】
本発明の式(I)で表されるP(3HB-co-2H4MTB)は、特定の微生物のβ酸化欠損株を宿主に用いて製造される。
具体的には、炭素源とL-メチオニンンとの存在下に、宿主中で目的の遺伝子を発現するための広宿主域ベクターに、ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子、2HA-CoA供給酵素をコードする遺伝子、及び公知のモノマー供給遺伝子を挿入してプラスミドを得、当該プラスミドを宿主細胞に導入することによって得られる。
【0025】
図1に、本発明のP(3HB-co-2H4MTB)の代表的な生合成経路を示す。炭素源の一例であるグルコースは、ピルビン酸、次いでアセチル-CoAに変換された後、このアセチル-CoAは3-ケトチオラーゼ(PhaA)により2量化(PhaA)され、NADPH依存的アセトアセチルCoAレダクターゼ(PhaB)によって還元されて、3HB-CoAに変換される。一方、L-メチオニンは4-メチルチオ-2-オキソブタン酸に変換され、4-メチルチオ-2-オキソブタン酸は、2HA-CoA供給酵素としての(R)-2-ヒドロキシ-4-メチル吉草酸(2H4MV)デヒドロゲナーゼ(LdhA)により2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸(2H4MTB)に変換され、次いで、2HA-CoA供給酵素としての2H4MTB CoAトランスフェラーゼ(HadA)により2H4MTB-CoAに変換される。各々の経路で供給されたモノマーはポリヒドロキシアルカン酸重合酵素(PhaC)の基質として利用され、P(3HB-co-2H4MTB)が合成される。
【0026】
ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子の上流には、フェイシン(phasin)と呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子が導入される(例えば、特開2013-42697号参照)。フェイシンは、細菌の細胞内でPHA顆粒に共局在することが知られており、PHA顆粒の形成、安定化などに関わると考えられている。
【0027】
宿主中で目的の遺伝子を発現するための広宿主域ベクターとしては、プロモーター、リボゾーム結合部位、遺伝子クローニング部位、ターミネーター等を有する公知のベクターを用いることができる。
【0028】
ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子としては、例えば、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)61-3株、シュードモナス・スツッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・エスピーA33、アロクロマティウム・ビノサム(Allochromatium vinosum)、バシルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バシルス・セレウス(Bacillus cereus)、バシルス・エスピー(Bacillus sp.)INT005、ランプロシスティス・ロゼオペルシシナ(Lamprocystis roseopersicina)、ノカルディア・コラリナ(Nocardia corallina)、ロドバクター・シャエロイデス(Rhodobactor shaeroides)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonnia eutropha)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)NCIMB 40126、チオカプサ・フェニギー(Thiocapsa pfennigii)、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)、及びアエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)から選ばれる微生物に由来するものが挙げられる。
【0029】
また、ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子としては、上記のポリヒドロキシアルカン酸重合酵素の変異体をコードする遺伝子でもよい。このような変異体は、野生型のポリヒドロキシアルカン酸重合酵素のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されてなるアミノ酸配列からなり、かつポリヒドロキシアルカン酸重合活性を有するタンパク質である。かかる変異体を用いることにより、より高いPHA蓄積を可能にする。例えば、本発明に用いられるPHA重合酵素変異体としては、微生物由来のPHA重合酵素(PhaC)のN末端から325番目のセリンからトレオニンへの置換を含む変異体;PhaCの481番目のグルタミンからリシンへの置換を含む変異体;又は、325番目のセリンからトレオニンへの置換及びPhaCの481番目のグルタミンからリシンへの置換(二重変異体)が挙げられる。
フェイシン(PhaP)としては、N末端から20番目までのアミノ酸領域において1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されてなるアミノ酸配列を有する変異体も好ましく用いられる。例えば、フェイシンのN末端から4番目のアスパラギン酸をアスパラギンに置換してなる変異体が挙げられる(例えば、特開2013-42697号参照)。フェイシンの変異体は、同様にポリヒドロキシアルカン酸重合体の生産性を向上させる。
上記のPhaCの325番目のセリンからトレオニンへの置換及びPhaCの481番目のグルタミンからリシンへの置換、並びにフェイシンの4番目のアミノ酸の置換、のすべてを含む変異体も好ましい。
PHA重合酵素及びフェイシンが由来する微生物は、例えばアエロモナス属微生物であり、具体的にはアエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)が挙げられる。
【0030】
公知のモノマー供給遺伝子としては、例えば、Ralstonia eutropha由来のphaA、phaB(Peoples,O.P.and Sinskey,A.J.,J.Biol.Chem.264:15293-15297(1989))、Clostridium difficile由来のLdhA、HadA、HadBC、及びHad(Kim J, Darley D,Selmer T,Buckel W.(2006),Appl.Environ.Microbiol.72:6062-6069;Kim J,Darley D,Buckel W.(2004),FEBS Journal.272:550-561)等が挙げられる。
【0031】
本発明で使用される宿主微生物は、糖類や油脂類を炭素源として使用した場合の増殖性が良好で、菌株の安定性が高く、菌体と培養液との分離が比較的容易なものであれば特に制限されないが、例えば、エシュリキア(Escherichia)属、カプリアヴィドゥス(Cupriavidus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アエロモナス(Aeromonas)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、セラチア(Serratia)属、又はビブリオ(Vibrio)属の微生物が好ましい。より好ましくは、エシュリキア(Escherichia)属である。
【0032】
炭素源としては、例えば、糖類、カルボン酸、油脂類等を用いることができる。糖類としては、グルコース、フルクトース、ガクトース、キシロース、アラビノース、サッカロース、マルトース、でんぷん、でんぷん加水分解物等が挙げられる。カルボン酸としては、酢酸、乳酸等が挙げられる。油脂類としては、植物油が好ましく、例えば大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、又はこられの分別油、例えばパームWオレイン油(パーム油を2回無溶媒分別した低沸点画分)、パーム核油オレイン(パーム核油を1回無溶媒分別した低沸点画分)、又はこれらの油脂やその画分を化学的もしくは生化学的に処理した合成油、あるいはこれらの混合油が挙げられる。
【0033】
培養温度は、菌の生育可能な温度、好ましくは15~40℃、特に好ましくは20~40℃、更に好ましくは28~34℃である。培養時間は、特に限定されないが、例えばバッチ培養では1~7日間が好ましく、また連続培養も可能である。培養培地は、本発明の宿主が利用できるものである限り特に限定されない。炭素源に加えて、窒素源、無機塩類、その他の有機栄養源等を含有する培地を使用することができる。
窒素源としては、例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。
無機塩類としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸水素マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
その他の有機栄養源としては、例えばグリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸類;ビタミンB1、ビタミンB12、ビオチン、ニコチン酸アミド、パントテン酸、ビタミンC等のビタミン類などが挙げられる。
【0034】
本発明のPHAの菌体からの回収は、例えば、次の方法によって行うことができる。培養終了後、遠心分離器等で培養液から菌体を分離し、その菌体を蒸留水、メタノール等により洗浄した後、乾燥させた後、この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶媒を用いて共重合体を抽出する。次いで、この共重合体を含む有機溶媒溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、その濾液にメタノール、へキサン等の貧溶媒を加えて共重合体を沈殿させる。沈殿した共重合体から、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させ、共重合体を回収することができる。
菌体からPHAの回収は、例えば、SDS超音波処理法(H.Arikawa,et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,2017,124,2,250-254)によって行うこともできる。SDS超音波処理法は、回収したPHAにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加え、超音波処理を行い、細胞を破壊して、水中に細胞破片を溶解し、遠心分離してPHAを回収する方法である。SDS超音波処理法は、メタノール、クロロホルム、硫酸等の危険な化学物質を使用せず、かつ簡便に行えるため、好ましく使用できる。
得られた共重合体の分析は、例えば、ガスクロマトグラフ法、核磁気共鳴法等により行うことができる。
【0035】
本発明の「PSulfoxide」及び/又は「PSulfone」は、「PSulfide」を酸化処理することによって製造することができる。すなわち、「PSulfide」は、その側鎖のスルフィド基がスルホキシド基に変換された「PSulfoxide」に酸化され、「PSulfoxide」は、その側鎖のスルホキシド基がスルホン基に変換された「PSulfone」に酸化される。
なお、側鎖に所望の官能基を有する前駆体を直接使用するようなPHAの製造は、官能基による細胞毒性の影響、選択できる官能基が限定されるなどの問題があり、好ましくない。
【0036】
本明細書における「酸化」には、酸化剤の存在下で行うもののみならず、酸化剤の非存在下で行うもの、すなわち「PSulfide」自体が自動酸化剤として働くものを含む。
【0037】
酸化剤としては、過酸化水素、過酸、過マンガン酸、過塩素酸、重クロム酸塩、過ヨウ素酸が挙げられる。過酸としては、過酢酸、メタクロロ過安息香酸、過安息香酸、過ギ酸が挙げられ、過酢酸、過安息香酸が好ましく、過酢酸がより好ましい。
酸化剤は、例えば、30.0~35.5%の過酸化水素水を精製水又は酢酸で希釈したものを使用することができる。希釈率は、例えば、好ましくは50倍~1倍、より好ましくは20倍~1倍の範囲とすることができる。
更に強い酸化剤を用いることもできるが、高分子鎖の酸加水分解による分子量が低下する可能性がある。
【0038】
酸化の温度は約20℃~約50℃の範囲でよく、反応時間は数時間~24時間程度である。
【0039】
材料表面が疎水性か又は親水性かを示す指標として、「接触角」が広く用いられている。接触角とは、材料表面に1~数μLほどの水滴を滴下したときの、水滴の角度である。接触角が小さい、すなわち液体のふくらみが低く、平べったい状態になる材料は濡れやすく、一方、液体のふくらみが高く、球形に近い状態になる材料は濡れにくい性質を有する。濡れやすい材料は濡れ性が高く、濡れにくい材料は濡れ性が低い。
【0040】
本発明のP(3HB-co-2H4MTB)、すなわち、「PSulfide」は、実施例の表2に示すように、材料表面の接触角の低下が観察された。したがって、非酸化体であるP(3HB-co-2H4MTB)も親水化されたポリマーである。
「PSulfide」とその酸化物である「PSulfoxide」及び/又は「PSulfone」を含む組成物、又は酸化物のみを含む組成物は更に低い接触角を有し、より高い親水性を示す。特に、本発明の組成物中の「PSulfone」の割合が高くなるにつれて、接触角は低くなる傾向を示す。したがって、「PSulfoxide」は「PSulfide」に比べてより低い接触角を有し、「PSulfone」は「PSulfoxide」に比べてより低い接触角を有することが示唆される。
一方、組成物中の「PSulfide」の割合が高いほど、組成物の生分解性は高い傾向にある。
【0041】
したがって、酸化条件を変えることにより、組成物中の「PSulfone」と「PSulfoxide」及び/又は「PSulfone」との割合をコントロールすることが可能となり、生分解性は若干劣るものの高い親水性を有するポリマー、親水性は若干劣るものの高い生分解性を有するポリマー等の、所望の機能を備えたポリマーを製造することも可能である。
【0042】
本発明の組成物、並びにP(3HB-co-2H4MTB)及びその酸化物は、高親水性が必要とされるプラスチック材料分野、例えばフィルム、シート、組織工学での新規材料等の用途に使用することができる。
【0043】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0044】
[材料及び調製方法]
(1)微生物
大腸菌Escherichia coli DH5α株(タカラバイオ株式会社製)を宿主に用いた。
【0045】
(2)培地
(a)Lysogeny Broth(LB)培地
Bacto trypton 10g、酵母エキス5g、NaCl 10g、を脱イオン水1Lに溶かして、121℃で20分間オートクレーブして調製した。また、寒天培地は、上記成分に寒天1.5~2%(vol/vol)となるよう加え、オートクレーブ処理して調製した。抗生物質(カナマイシン:終濃度50μg/mL、カルベニシリン:終濃度50μg/mL)は、液体培地、寒天培地ともにオートクレーブ処理後に添加した。
(b)MR培地
KHPO 13.5g、(NHHPO 4.0g、クエン酸 1.7g、Trace metal 10mLを、脱イオン水1Lに溶かして、121℃で20分間オートクレーブして調製した。また、寒天培地は、上記成分に寒天1.5~2%(vol/vol)となるよう加え、オートクレーブ処理して調製した。抗生物質(カナマイシン:終濃度50μg/mL、カルベニシリン:終濃度50μg/mL)は、液体培地、寒天培地ともにオートクレーブ処理後に添加した。
(c)Trace metal培地
FeSO・7HO 10g、CaCl 2.0g、ZnSO・7HO 2.2g、MnSO・4HO 0.5g、CuSO・5HO 1.0g、(NHMo24・4HO 0.1g、Na・10HO 0.02gを、0.1M HCl 1Lに溶かして、121℃で20分間オートクレーブして調製した。また、寒天培地は、上記成分に寒天1.5~2%(vol/vol)となるよう加え、オートクレーブ処理して調製した。抗生物質(カナマイシン:終濃度50μg/mL、カルベニシリン:終濃度50μg/mL)は、液体培地、寒天培地ともにオートクレーブ処理後に添加した。
【0046】
(3)プラスミド
(a)pTTQldhAhadACd_opt
プラスミドpTTQldhAhadACd_optは、文献(S.Mizuno et al.,J.Biosci.Bioeng.,2018,125,3,295-300)にしたがって作製した。
(b)pBBR1”C1Ps(STQK)ABRe
プラスミドpBBR1”C1PsSTQKABReは、文献(S.Mizuno et al.,Polym.J.,2017,49,7,557-565)にしたがって作製した。
なお、「STQK」は、Pseudomonas sp.61-3由来のPhaCの2つのアミノ酸変異(S325T及びQ481K)を指す。
【0047】
実施例1 PHAの製造
(1)前培養
LB寒天上に形成した組換え大腸菌のコロニーを白金耳で掻き取り、抗生物質としてカルベニシリン及びカナマイシンを加えたLB液体培地に植菌した。培養条件は30℃、130rpm、18時間で行った。
(2)本培養
メチオニンを精製水に溶解させ、0.45μmセルロースアセテートフィルターで滅菌し、1g/60mLのメチオニン溶液を得た。2つのプラスミドpTTQldhAhadACd_opt、pBBR1”C1Ps(STQK)ABReを導入したE.coli DH5α株において、500mL坂口フラスコに100mLのMR液体培地を用意し、抗生物質として50μg/mLのカルベニシリン及び50μg/mLのカナマイシン、炭素源として20g/Lのグルコース、モノマー前駆体として0.5/L、1.0g/L、5.0g/Lのメチオニン、1mMのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)、1容量%の前培養液を添加し、30℃、130rpmで72時間振とう培養を行った。
(3)集菌
100mLの培養液を250mLの遠沈管に移し、25℃、6,000rpm(5,960×g)で10分間遠心分離を行い、培養上清を除去した。得られた菌体ペレットに精製水を加え、懸濁した後に上記と同じ条件で再度遠心分離を行った。この操作を2度繰り返し、菌体ペレット内に残留する培地成分及び培養上清の菌代謝産物を取り除いた。精製した菌体ペレットをポリプロピレン容器に移し、穴をあけたパラフィルムで容器の口を覆い、-80℃の冷凍庫内で凍結させた。最後に、真空凍結乾燥を72時間以上行うことにより、水分を除去し乾燥菌体を得た。
乾燥菌体重量は、真空凍結乾燥後の菌体の入った容器の重量から、予め秤量したポリプロピレン容器単体の重量を差し引くことにより求めた。
(4)ポリマーの抽出及び精製
得られた乾燥菌体をガラス容器に秤量し、菌体内ポリマーに対して5mg/mLの濃度でクロロホルムを加えた。25℃で72時間スターラーで攪拌することにより、ポリマーの抽出を行った。抽出後の溶液をNo.1ろ紙(ADVANTEC社製)を用いて、ナス型フラスコにろ過し、ロータリーエバポレーターで1/10量程度になるまでクロロホルムを蒸発させ濃縮した。得られた溶液に対して約10倍量のメタノールをスターラーで攪拌しながら、ポリマー溶液を滴下し、再沈殿を行った。メタノールで2回、ヘキサンで1回再沈殿を行い、ポリマーを精製した。沈殿したポリマーをNo.5Bのろ紙(ADVANTEC社製)に移し、十分に風乾させてからポリマーを回収した。
(5)細胞内PHA含有率の算出
細胞内のPHA含有率の決定は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)超音波法(H.Arikawa,et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,2017,124,2,250-254)にしたがって行った。50mLのファルコンチューブに約100mgの乾燥菌体を秤量し、20mlのミリQ水で再懸濁した後に、10mlの10%SDSを添加した。軽く撹拌した後に超音波破砕を行った。その後、9,000×g(10,000rpm)で10分間遠心分離を行い、上清を除去した。得られたペレットを精製水で2回、メタノールで1回懸濁し、精製操作を行った後に、凍結乾燥によりサンプルを乾燥させた。得られたサンプル量と最初に投入した乾燥菌体量とからPHA含有率を算出した。
【0048】
実施例2 PHAの構造及び物性の分析
(1)H-NMR及び13C-NMR
精製及びろ過したPHA 20~30mgを1mLのCDClに溶解し、0.45μmポリビニリデンフルオリド(PVDF)フィルター膜でろ過し、13C-NMRについては、40mgを1mlのCDClに溶解し、0.45μmのPVDFフィルター膜でろ過し、測定サンプルとした。核磁気共鳴分光装置(Biospin AVANCE III 400A,Bruker、又はAVANCE III HD,Bruker)を使用した。
【0049】
(2)GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)
菌体から精製したポリマーの数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)(Mw:重量平均分子量)をGPC測定によって求めた。標準物質としてポリスチレンを使用しているため、本発明で求めた分子量はポリスチレン換算相対分子量である。用いた5種類のポリスチレンの分子量は、1,260、3,790、13,000、52,200、219,000、723,000、2,330,000、及び7,450,000である。
GPCサンプルは、精製したポリマーを約1mg/mLとなるようにクロロホルムに溶解し、孔径0.45μmのMinisart RC4フィルター(ミリポア社製)を取り付けたシリンジでろ過して調製した。
GPC測定には、島津製作所社製のシステムコントローラー:SCL-40、オートインジェクター:SIL-40C、送液ユニット:LC-40D、カラムオーブン:CTO-40C、SHOKO SCIENCE製のディテクター(Shodex(登録商標)RI-504)を使用し、カラムにはKF-G 4A及びKF-406LHQ(SHOKO SCIENCE製)を用いた。移動層にはクロロホルムを用い、総液流量は0.3mL/分、カラム温度は40℃に設定し、サンプル注入量は10μLとした。
データの解析にはLabSolutions GPC(島津製作所社製)を用いた。ポリスチレンスタンダードから検量線を引き、これとサンプルデータとを照合することによりポリスチレン換算分子量及び分子量分布を算出した。
(3)示差走査熱量(DSC)
DSCサンプルは、精製したポリマーを約5~10mg秤り取り、5mL容のサンプルバイアルに入れ、約1~2mLのクロロホルムに完全に溶解した。これをドラフト中で約3週間乾燥させることによりキャストフィルムを作製した。このキャストフィルムから約3mgを秤量し、専用アルミニウムパンに入れたものをDSC測定サンプルとした。
測定には、パーキンエルマー社製のPyris 1 DSCを使用した。測定は20mL/分の窒素雰囲気下で行った。対照には試料の入っていないアルミニウムパンを用いた。測定の条件として、先ず-50℃~200℃まで20℃/分の昇温速度で加熱し、200℃で1分間保持した後、-500℃/分で-50℃まで急冷した。次に、-50℃で1分間保持した後、20℃/分の昇温速度で200℃に加熱した。
なお、キャストフィルムは3週間以上室温下に置き、結晶形成を進行させたものを使用した。解析には、パーキンエルマー社製の解析ソフトData Analysisを用いた。測定した試料の融点Tmは最初に昇温した時のサーモグラムより決定した。ガラス転移温度Tgは二回目に昇温した際の熱容量変化の中点とした。
【0050】
結果を表1に示す。結果は、3つ独立した培養物からの平均及び標準偏差である。
【0051】
【表1】
【0052】
メチオニンを添加せず、グルコースを唯一の炭素源として行った培養では、24.2mol%の2-ヒドロキシアルカン酸を有するP(3HB-co-2HA)が合成された。その2-ヒドロキシアルカン酸の主成分は2H4MVであり、細胞内に存在するロイシンが前駆体となったと考えられる。また、2H3PhPについては細胞内に存在するフェニルアラニンが前駆体となったと考えられる。
一方、メチオニンを添加した場合の2H4MTBは、メチオニン由来の2-ヒドロキシアルカン酸であり、側鎖にスルフィド基を有していることから、メチオニンを添加した培養では、本発明のP(3HB-co-2H4MTB)が合成できたことが確認された。さらに、添加するメチオニンの濃度を0.5g/Lから5.0g/Lまで増加させることにより、2H4MTBモノマー分率は10.9mol%から30.6mol%まで上昇することが確認できた。
【0053】
合成したPHAの構造はNMRにより確認した。P(3HB-co-2HA)のH NMRスペクトルを図2に示す。図2より、3HB成分、2H4MV成分及び2H4MTB成分に由来するピークを確認することができた。2.1ppm付近には2H4MTBが有する側鎖末端のメチル基由来のピーク(T5)が顕著に現れた。
【0054】
実施例3 PHAの酸化
5mLバイアル管(加温する際は5mLねじ口バイアル管)に、表1のメチオニン0.5g/Lを添加して合成したP(3HB-co-2HA)を50mg秤量し、溶媒として1mLのクロロホルムを注入して溶解させた。続いて、当該バイアル管に1mLの酸化剤を注入し、水層及び有機層の二層系を作った。酸化反応は、攪拌子及びスターラーを用いて二層を十分に攪拌しながら24時間行った。酸化剤として、過酸化水素(関東化学株式会社製、濃度30.0~35.5%(9.8~11.6M))を精製水又は酢酸で、20倍(0.05×)、5倍(0.2×)、2倍(0.5×)、1倍(1×)に希釈したH水溶液を調製した。反応終了後は、攪拌中のメタノールに反応溶液を滴下し、再沈殿を行うことにより酸化したポリマーを精製した。沈殿したポリマーをろ紙に移し、十分に風乾させてからポリマーを回収した。
【0055】
結果を表2、図4に示す。酸化処理によって得られたサンプルを順にサンプル1、サンプル2、サンプル3、サンプル4、サンプル5とする。
【0056】
図4より、酸化処理によって、2H4MTBに由来するT3からT5のピーク強度が減少し、スルフィド基が酸化されたことが確認できた。また、さらに強い酸化条件である1×(原液)のH水溶液での処理により、2H4MTB由来のピークが完全に消失し、2.3~2.4ppm、2.9~3.0ppm、3.3ppm付近に新たに3つピークが出現した。このことは、スルフィド基がスルホン基に変換されたことを示す。
スルフィドユニット(-S-)はT3およびT5、スルホンユニット(-SO-)はT4”およびT5”のピーク強度を用いて計算し、スルホキシドユニット(-SO-)は100%からスルフィド及びスルホン分率を差し引くことにより求めた(表2)。
【0057】
【表2】
【0058】
水溶液よりもさらに厳しい酸化条件である、Hを酢酸で希釈したH-CHCOOH溶液による処理では、スルホン基の導入率が向上した。当該H-CHCOOH溶液では、HとCHCOOHとの平衡反応により過酢酸が生成される。
また、分子量測定の結果、サンプル2~5は、酸化後も十分に高い分子量を維持していた。
さらに、スルフィドからスルホキシド、そしてスルホンへと酸化が進行するのに伴い、Tは低下する傾向が見られた。融解エンタルピーもかなり小さい値であったことから、スルホキシド及びスルホンの存在によりPHAの結晶性が低下したことが示唆された。
【0059】
実施例3 接触角の測定
(1)ポリマー薄膜の作製
カバーガラスへのポリマー(表2のサンプル1~5)溶液の塗布で接触角測定用のポリマー薄膜を作製した。
前者の方法では、1.35重量%の濃度でポリマーを溶解させたクロロホルム溶液を調製した。オゾン分解処理を施すことで、表面の有機物等の不純物を除去したカバーガラスを作り、スピンコーターに固定した。このカバーガラス上に、調製したクロロホルム溶液を20μL滴下し、4,000rpmの回転速度でスピンコーターを回転させた。これにより、ポリマー溶液はスピンコーターの遠心力でカバーガラス上に塗布された。塗布されたポリマー内のクロロホルムを揮発させるため、一晩静置し、これを接触角測定用のポリマー薄膜(ガラス)とした。
(2)接触角の測定
直径0.71mmのニードルをセットし、(1)で作製したポリマー薄膜に、ミリQ水(約8μL)を滴下し、P60-Aポータブル接触角計(メイワフォーシス株式会社製)によりその接触角を測定した(表2)。
【0060】
表2より、酸化前の接触角と比較して、酸化処理によりスルホキシド及びスルホンが増加することにより接触角の低下が確認され、材料表面の親水性が向上することが明らかになった。また、スルホキシドよりもスルホンの存在比が高くなると接触角が大きく低下することから、スルホンはスルホキシドよりも高い親水性を有していることが示唆された。
目視では、平坦化が見られたポリマー薄膜は水滴で膨潤しているように見られ、ポリマー薄膜をピンセットでつまむとゼリーのような流動性を示した。この現象は表2のサンプル2~4で見られた。
【0061】
実施例4 膨潤度の測定
合成したポリマー(表2のサンプル1、3)の膨潤度を測定し、膨潤性を評価した。
まず、Solvent-cast法を用いてポリマーフィルムを作製した。約30mgのポリマーフィルムを2mLのクロロホルムに溶解させ、直径約1cmのシャーレに全量を注入した。風乾させた後、形成されたポリマーフィルムの重量(Wbefore)を測定した。次に、作製したポリマーフィルムをミリQ水に30分浸漬させた。浸漬後はポリマーフィルム表面の水滴をキムワイプで軽く拭き取ってから、浸漬後のポリマーの重量(Wafter)を測定した。膨潤度(Q)を下記式によって算出した。
【0062】
【数1】
【0063】
サンプル1の膨潤度は7.1±2.2%であったのに対し、サンプル3の膨潤度は37.3±4.1%に増加し、酸化処理を施したポリマーは約30%の膨潤性を有することが確認された。このことから、酸化処理によりポリマーの親水化が進行し、酸化後のポリマーは膨潤性を示すほど水との親和性が高くなることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
2H4MTB単位と3HB単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、及びこれらの酸化物は高い親水性を有し、高い親水性が要求される分野のプラスチック材料として有効に活用できる。
図1
図2
図3
図4