(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078791
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】車両用電源システム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240604BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240604BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20240604BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B60R16/02 645A
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191349
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】物部 魁士
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】富澤 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】中島 信頼
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC37
3D232CC38
3D232CC44
3D232DA03
3D232DA05
3D232DA15
3D232DA19
3D232DA65
3D232DC10
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD15
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC29
3D232GG01
3D333CB31
3D333CB44
3D333CD56
3D333CD59
3D333CE30
3D333CE38
(57)【要約】
【課題】電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる車両用電源システムを提供する。
【解決手段】車両用電源システムは、主電源71、操舵制御装置60、および電源装置70を有する。操舵制御装置60は、操舵反力を制御するように構成される反力制御装置40と、転舵力を制御するように構成される転舵制御装置50とを含む。操舵制御装置60は、複数系統の制御回路を有する。制御回路には、動作することが保証された電圧の範囲である動作保証範囲が設定される。制御回路は、電源電圧が動作保証範囲を下回ったときにリセットされるように構成される。電源装置70は、主電源71と操舵制御装置60との間の給電経路に設けられる。電源装置70は、電源電圧が動作保証範囲を下回ったとき、操舵制御装置60に電力を供給するように構成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源と、
前記主電源の電力を消費して動作する操舵制御装置であって、車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力、および前記転舵輪を転舵させるための転舵力を制御するように構成される操舵制御装置と、を有し、
前記操舵制御装置は、動作することが保証された電圧の範囲である動作保証範囲が設定される制御回路であって、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったときにリセットされるように構成される制御回路を有する車両用電源システムであって、
前記主電源と前記操舵制御装置との間の給電経路に設けられる電源装置であって、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記操舵制御装置に電力を供給するように構成される電源装置を有している車両用電源システム。
【請求項2】
前記操舵制御装置は、前記操舵反力を制御するように構成される反力制御装置と、前記転舵力を制御するように構成される転舵制御装置と、を有し、
前記反力制御装置および前記転舵制御装置は、各々2系統の前記制御回路を有し、
前記電源装置は、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が有する全系統の前記制御回路に電力を供給するように構成される請求項1に記載の車両用電源システム。
【請求項3】
前記制御回路は、前記リセットが完了した後、定められた初期検査の実行を経て、再び前記操舵反力または前記転舵力の制御を実行することが可能となるように構成され、
前記初期検査は、前記ステアリングホイールの舵角情報を取得する処理を含み、
前記制御回路は、前記リセットが完了した後、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が有する全系統の前記制御回路が前記舵角情報を有する状態になったとき、前記操舵反力または前記転舵力の制御の実行を再開するように構成される請求項2に記載の車両用電源システム。
【請求項4】
前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路のみが車載のセンサを通じて前記舵角情報を取得可能となるように構成され、
前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路は、前記リセットが完了した後、前記センサを通じて前記舵角情報を取得可能である一方、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第2の系統の前記制御回路は、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路から前記舵角情報を取得可能となるように構成され、
前記反力制御装置が有する2系統の前記制御回路は、前記操舵反力を発生する反力モータの駆動制御を通じて、前記ステアリングホイールを第1の動作端まで動作させた後に第2の動作端まで反転動作させることにより前記ステアリングホイールの操舵中立位置を学習することによって、前記舵角情報を取得可能となるように構成される請求項3に記載の車両用電源システム。
【請求項5】
前記操舵制御装置は、前記操舵反力を制御するように構成される反力制御装置と、前記転舵力を制御するように構成される転舵制御装置と、を有し、
前記反力制御装置および前記転舵制御装置は、各々2系統の前記制御回路を有し、
前記電源装置は、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する2系統の前記制御回路のうち、第1の系統の前記制御回路のみに電力を供給するように構成される請求項1に記載の車両用電源システム。
【請求項6】
前記制御回路は、前記リセットが完了した後、定められた初期検査の実行を経て、再び前記操舵反力または前記転舵力の制御を実行することが可能となるように構成され、
前記初期検査は、前記ステアリングホイールの舵角情報を取得する処理を含み、
前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路のみが車載のセンサを通じて前記舵角情報を取得することが可能となるように構成されるとともに、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第2の系統の前記制御回路は、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路から前記舵角情報を取得可能となるように構成され、
電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する2系統の前記制御回路のうち、前記電源装置の電力が供給されない第2の系統の前記制御回路は、前記リセットが完了した後であって、前記初期検査が完了する前に、動作を停止するように構成される請求項5に記載の車両用電源システム。
【請求項7】
前記制御回路は、前記リセットが完了した後、定められた初期検査の実行を経て、再び前記操舵反力または前記転舵力の制御を実行することが可能となるように構成され、
前記初期検査は、前記ステアリングホイールの舵角情報を取得する処理を含み、
前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する2系統の前記制御回路のうち、第1の系統の前記制御回路のみが車載のセンサを通じて前記舵角情報を取得することが可能となるように構成され、
電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する2系統の前記制御回路のうち、前記電源装置の電力が供給されない第2の系統の前記制御回路は、前記リセットが完了した後、第1の系統の前記制御回路から前記舵角情報を取得するとともに、前記初期検査の実行が完了した後、前記操舵反力または前記転舵力の制御の実行を再開するように構成される請求項5に記載の車両用電源システム。
【請求項8】
前記操舵制御装置は、前記操舵反力を制御するように構成される反力制御装置と、前記転舵力を制御するように構成される転舵制御装置と、を有し、
前記反力制御装置および前記転舵制御装置は、各々2系統の前記制御回路を有し、
前記電源装置は、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する第1の系統の前記制御回路に電力を供給するように構成される第1の電源装置と、
電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する第2の系統の前記制御回路に電力を供給するように構成される第2の電源装置と、を有している請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の車両用電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。たとえば特許文献1のステアバイワイヤシステムは、反力アクチュエータ、および転舵アクチュエータを有している。反力アクチュエータは、ステアリングシャフトに付与される操舵反力を発生する。転舵アクチュエータは、転舵輪を転舵させる転舵力を発生する。
【0003】
反力アクチュエータおよび転舵アクチュエータは、それぞれ冗長的に設けられた2つの制御演算部、および冗長的に設けられた2つのモータ駆動部を有している。制御演算部は、モータの駆動制御に関する演算を行う。各系統の制御演算部は、互いに協調して各系統のモータ駆動部にトルクを発生させる。モータ駆動部は、自己が属する系統の制御演算部により生成される駆動信号に基づきトルクを発生する。
【0004】
たとえば、1つの制御演算部の動作が停止した場合、残る3つの制御演算部によりモータの駆動制御が継続される。この後、動作を停止した制御演算部が、所定時間以内に正常な動作状態に復帰した場合、4つの制御演算部によるモータの駆動制御が再開される。一方、動作を停止した制御演算部が復帰せずに所定時間以上経過した場合、動作を停止した制御演算部が属する系統によるモータの駆動制御が停止される。
【0005】
なお、制御演算部の動作が停止する要因には、恒久的な停止の要因と、一時的な停止の要因とがある。恒久的な停止の要因は、部品の交換あるいは修理が必要となる異常であって、制御演算部のマイコンの異常、あるいはモータ駆動部の異常を含む。一時的な停止の要因は、電源失陥、あるいは電源電圧の低下によるマイコンのリセットを含む。
【0006】
従来、車両の操舵機構にモータのトルクを付与することにより操舵補助を行う電動パワーステアリング装置が存在する。たとえば特許文献2の操舵制御装置は、電源が投入されたとき、初期検査を実行する。初期検査は、モータへの給電を開始する前の検査であって、インバータなど、モータを駆動させるための部分の異常を検査する。操舵制御装置は、電源電圧の低下に起因してプリドライバがリセットされたときにも初期検査を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-075182号公報
【特許文献2】特開2021-109495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のステアバイワイヤシステムに、特許文献2のような初期検査を実行する機能を持たせることが考えられる。ただし、この場合、つぎのことが懸念される。たとえば、電源電圧の低下に起因するマイコンのリセットにより制御演算部が瞬時的に動作を停止した後、動作を停止した制御演算部が正常な動作状態に復帰することがある。ただし、制御演算部が正常な動作状態に復帰する際、初期検査が実行される場合、瞬時的ではあるものの、適切な反力制御及び転舵制御の実行が阻害されることが懸念される。したがって、電源電圧の低下に対して、適切に対処することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し得る車両用電源システムは、主電源と、前記主電源の電力を消費して動作する操舵制御装置であって、車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力、および前記転舵輪を転舵させるための転舵力を制御するように構成される操舵制御装置と、を有する。前記操舵制御装置は、動作することが保証された電圧の範囲である動作保証範囲が設定される制御回路であって、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったときにリセットされるように構成される制御回路を有する。車両用電源システムは、前記主電源と前記操舵制御装置との間の給電経路に設けられる電源装置であって、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記操舵制御装置に電力を供給するように構成される電源装置を有している。
【0010】
車両の電源電圧が瞬時的に動作保証範囲を下回ることがある。このとき、制御回路がリセットされることにより、操舵反力および転舵力の適切な制御が阻害されるおそれがある。この点、上記の構成によれば、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、電源装置の電力が操舵制御装置に供給される。このため、電源電圧が瞬時的に動作保証範囲を下回ったとき、操舵制御装置の制御回路がリセットされることを抑制することができる。したがって、操舵反力および転舵力の制御の実行が継続される。これにより、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0011】
上記の車両用電源システムにおいて、前記操舵制御装置は、前記操舵反力を制御するように構成される反力制御装置と、前記転舵力を制御するように構成される転舵制御装置と、を有し、前記反力制御装置および前記転舵制御装置は、各々2系統の前記制御回路を有していてもよい。この場合、前記電源装置は、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が有する全系統の前記制御回路に電力を供給するように構成されてもよい。
【0012】
この構成によれば、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、電源装置の電力が、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路に供給される。このため、電源電圧が瞬時的に動作保証範囲を下回ったとき、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路について、リセットされることを抑制することができる。すなわち、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路による操舵反力および転舵力の制御の実行が継続される。したがって、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0013】
上記の車両用電源システムにおいて、前記制御回路は、前記リセットが完了した後、定められた初期検査の実行を経て、再び前記操舵反力または前記転舵力の制御を実行することが可能となるように構成されてもよい。前記初期検査は、前記ステアリングホイールの舵角情報を取得する処理を含んでいてもよい。この場合、前記制御回路は、前記リセットが完了した後、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が有する全系統の前記制御回路が前記舵角情報を有する状態になったとき、前記操舵反力または前記転舵力の制御の実行を再開するように構成されてもよい。
【0014】
電源装置が存在しない場合、たとえば、車両の電源電圧が瞬時的に動作保証範囲を下回ったとき、リセット完了後の初期検査の実行を経て、反力制御装置および転舵制御装置が有する全系統の制御回路が舵角情報を有する状態になるのを待って、反力制御装置および転舵制御装置が有する全系統の制御回路による操舵反力または転舵力の制御の実行が再開される。この場合、操舵反力および転舵力の適切な制御が阻害されるおそれのある期間が、より長くなることが懸念される。
【0015】
この点、上記の構成によれば、電源電圧が瞬時的に動作保証範囲を下回ったときであれ、電源装置の電力が、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路に供給される。このため、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路について、リセットされることを抑制することができる。すなわち、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路による操舵反力および転舵力の制御の実行が継続される。したがって、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0016】
上記の車両用電源システムにおいて、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路のみが車載のセンサを通じて前記舵角情報を取得可能となるように構成されてもよい。この場合、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路は、前記リセットが完了した後、前記センサを通じて前記舵角情報を取得可能である一方、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第2の系統の前記制御回路は、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路から前記舵角情報を取得可能となるように構成されてもよい。前記反力制御装置が有する2系統の前記制御回路は、前記操舵反力を発生する反力モータの駆動制御を通じて、前記ステアリングホイールを第1の動作端まで動作させた後に第2の動作端まで反転動作させることにより前記ステアリングホイールの操舵中立位置を学習することによって、前記舵角情報を取得可能となるように構成されてもよい。
【0017】
電源装置が存在しない場合、たとえば、車両の電源電圧が瞬時的に動作保証範囲を下回ったとき、リセット完了後の初期検査の実行を経て、反力制御装置および転舵制御装置が有する全系統の制御回路が舵角情報を有する状態になるのを待って、反力制御装置および転舵制御装置が有する全系統の制御回路による操舵反力または転舵力の制御の実行が再開される。転舵制御装置が有する2系統の制御回路は、車載のセンサを通じて舵角情報を即時に取得することが可能である。これに対し、反力制御装置が有する2系統の制御回路は、反力モータの駆動制御を通じて、ステアリングホイールを第1の動作端まで動作させた後に第2の動作端まで反転動作させることによりステアリングホイールの操舵中立位置を学習することによって、舵角情報を取得することが可能となる。このため、リセット後、反力制御装置および転舵制御装置が有する全系統の制御回路が舵角情報を有する状態になるまでの期間が、より長くなることが懸念される。
【0018】
この点、上記の構成によれば、電源電圧が瞬時的に各制御回路の動作保証範囲を下回ったときであれ、電源装置の電力が、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路に供給される。このため、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路について、リセットされることを抑制することができる。すなわち、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路による操舵反力または転舵力の制御の実行が継続される。したがって、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0019】
上記の車両用電源システムにおいて、前記操舵制御装置は、前記操舵反力を制御するように構成される反力制御装置と、前記転舵力を制御するように構成される転舵制御装置と、を有し、前記反力制御装置および前記転舵制御装置は、各々2系統の前記制御回路を有していてもよい。この場合、前記電源装置は、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する2系統の前記制御回路のうち、第1の系統の前記制御回路のみに電力を供給するように構成されてもよい。
【0020】
この構成によれば、電源電圧が動作保証範囲を下回ったとき、反力制御装置および転舵制御装置が各々有する2系統の制御回路のうち第1の系統の制御回路に、電源装置の電力が供給される。このため、2系統の制御回路のうち第1の系統の制御回路がリセットされることを抑制することができる。したがって、電源電圧が動作保証範囲を下回ったとき、反力制御装置および転舵制御装置が各々有する2系統の制御回路のうち第1の系統の制御回路によって、操舵反力および転舵力の制御の実行を継続することができる。これにより、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0021】
上記の車両用電源システムにおいて、前記制御回路は、前記リセットが完了した後、定められた初期検査の実行を経て、再び前記操舵反力または前記転舵力の制御を実行することが可能となるように構成されてもよい。前記初期検査は、前記ステアリングホイールの舵角情報を取得する処理を含んでいてもよい。また、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路のみが車載のセンサを通じて前記舵角情報を取得することが可能となるように構成されるとともに、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第2の系統の前記制御回路は、前記転舵制御装置が有する2系統の前記制御回路のうち第1の系統の前記制御回路から前記舵角情報を取得可能となるように構成されてもよい。この場合、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する2系統の前記制御回路のうち、前記電源装置の電力が供給されない第2の系統の前記制御回路は、前記リセットが完了した後であって、前記初期検査が完了する前に、動作を停止するように構成されてもよい。
【0022】
この構成によれば、電源電圧が動作保証範囲を瞬時的に下回ったときであれ、反力制御装置および転舵制御装置が各々有する2系統の制御回路のうち、電源装置の電力が供給される第1の系統の制御回路によって、操舵反力および転舵力の制御を継続することができる。これにより、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。ちなみに、転舵制御装置が有する2系統の制御回路のうち、第2の系統の制御回路は、転舵制御装置が有する2系統の制御回路のうち第1の系統の制御回路から舵角情報を取得可能である。しかし、電源電圧が動作保証範囲を下回ったとき、転舵制御装置が有する2系統の制御回路のうち、第1の系統の制御回路は、転舵力の制御を継続している。このため、転舵制御装置が有する2系統の制御回路のうち、第2の系統の制御回路が第1の系統の制御回路から舵角情報を取得する処理が、第1の系統の制御回路による転舵力の制御に干渉するおそれがある。したがって、製品仕様によっては、電源電圧が動作保証範囲を下回ったとき、反力制御装置が有する2系統の制御回路のうち、電源装置の電力が供給されない第2の系統の制御回路のみならず、転舵制御装置が有する2系統の制御回路のうち、電源装置の電力が供給されない第2の系統の制御回路の動作を停止することが好ましいとされることがある。
【0023】
上記の車両用電源システムにおいて、前記制御回路は、前記リセットが完了した後、定められた初期検査の実行を経て、再び前記操舵反力または前記転舵力の制御を実行することが可能となるように構成されてもよい。前記初期検査は、前記ステアリングホイールの舵角情報を取得する処理を含んでいてもよい。また、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する2系統の前記制御回路のうち、第1の系統の前記制御回路のみが車載のセンサを通じて前記舵角情報を取得することが可能となるように構成されてもよい。この場合、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する2系統の前記制御回路のうち、前記電源装置の電力が供給されない第2の系統の前記制御回路は、前記リセットが完了した後、第1の系統の前記制御回路から前記舵角情報を取得するとともに、前記初期検査の実行が完了した後、前記操舵反力または前記転舵力の制御の実行を再開するように構成されてもよい。
【0024】
この構成によれば、電源電圧が動作保証範囲を下回ったとき、反力制御装置および転舵制御装置が各々有する2系統の制御回路のうち、電源装置の電力が供給される第1の系統の制御回路によって、操舵反力および転舵力の制御が継続される。第2の系統の制御回路の初期検査の実行が完了した後には、第2の系統の制御回路による操舵反力および転舵力の制御が再開される。このため、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路によって、操舵反力および転舵力の制御が実行される状態に復帰させることができる。
【0025】
上記の車両用電源システムにおいて、前記操舵制御装置は、前記操舵反力を制御するように構成される反力制御装置と、前記転舵力を制御するように構成される転舵制御装置と、を有し、前記反力制御装置および前記転舵制御装置は、各々2系統の前記制御回路を有していてもよい。この場合、前記電源装置は、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する第1の系統の前記制御回路に電力を供給するように構成される第1の電源装置と、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、前記反力制御装置および前記転舵制御装置が各々有する第2の系統の前記制御回路に電力を供給するように構成される第2の電源装置と、を有していてもよい。
【0026】
この構成によれば、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、第1の電源装置の電力が、反力制御装置および転舵制御装置が各々有する第1の系統の制御回路に供給される。また、電源電圧が前記動作保証範囲を下回ったとき、第2の電源装置の電力が、反力制御装置および転舵制御装置が各々有する第2の系統の制御回路に供給される。すなわち、電源電圧が動作保証範囲を下回ったとき、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路に供給される。このため、反力制御装置および転舵制御装置のすべての系統の制御回路について、リセットされることを抑制することができる。したがって、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。また、第1の電源装置によって、第1の系統の制御回路の電源バックアップを独立して行うことができる。第2の電源装置によって、第2の系統の制御回路の電源バックアップを独立して行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の車両用電源システムによれば、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】車両用電源システムの第1の実施の形態を構成するステアバイワイヤ式の操舵装置の構成図である。
【
図2】第1の実施の形態にかかる反力制御装置および転舵制御装置のブロック図である。
【
図3】補助電源を有さない車両用電源システムの一例のブロック図である。
【
図4】第1の実施の形態にかかる反力制御装置の起動シーケンスを示すタイムチャートである。
【
図5】反力制御装置および転舵制御装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】車両用電源システムの第1の実施の形態のブロック図である。
【
図7】第1の実施の形態にかかる反力制御装置および転舵制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】車両用電源システムの第2の実施の形態のブロック図である。
【
図9】第2の実施の形態にかかる反力制御装置および転舵制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】車両用電源システムの第3の実施の形態のブロック図である。
【
図11】第3の実施の形態にかかる反力制御装置および転舵制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】車両用電源システムの第4の実施の形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1の実施の形態>
以下、車両用電源システムの第1の実施の形態を説明する。まず、車両に搭載される操舵装置について説明する。
【0030】
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(
図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト13を有している。転舵シャフト13の両端には、それぞれタイロッド14を介して転舵輪15が連結される。転舵シャフト13が直線運動することにより、転舵輪15の転舵角θwが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト13は車両の操舵機構を構成する。なお、
図1では片側の転舵輪15のみを図示する。
【0031】
操舵装置10は、反力モータ21および減速機構22を有している。反力モータ21は、操舵反力の発生源である。操舵反力は、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力である。反力モータ21の回転軸は、減速機構22を介してステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ21のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0032】
反力モータ21は、たとえば三相のブラシレスモータである。反力モータ21は、第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12を有している。第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12は、共通のステータ(図示略)に巻回される。第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12の電気的な特性は同等である。
【0033】
操舵装置10は、転舵モータ31および減速機構32を有している。転舵モータ31は転舵力の発生源である。転舵力は、転舵輪15を転舵させるための力である。転舵モータ31の回転軸は、減速機構32を介してピニオンシャフト33に連結されている。ピニオンシャフト33のピニオン歯33aは、転舵シャフト13のラック歯13aに噛み合わされている。転舵モータ31のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト33を介して転舵シャフト13に付与される。転舵モータ31の回転に応じて、転舵シャフト13は車幅方向に沿って移動する。
【0034】
転舵モータ31は、たとえば三相のブラシレスモータである。転舵モータ31は、第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22を有している。第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22は、共通のステータ(図示略)に巻回される。第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22の電気的な特性は同等である。
【0035】
操舵装置10は、反力制御装置40を有している。反力制御装置40は、制御対象である反力モータ21の駆動を制御する。反力制御装置40は、操舵トルクThに応じた操舵反力を反力モータ21に発生させる反力制御を実行する。反力制御装置40は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき目標操舵反力を演算する。トルクセンサ23は、ステアリングシャフト12に設けられている。反力制御装置40は、ステアリングシャフト12に付与される実際の操舵反力を目標操舵反力に一致させるべく反力モータ21への給電を制御する。反力制御装置40は、反力モータ21における2系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0036】
反力制御装置40は、第1系統回路41および第2系統回路42を有している。第1系統回路41は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに応じて、反力モータ21における第1系統の巻線群N11に対する給電を制御する。第2系統回路42は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに応じて、反力モータ21における第2系統の巻線群N12に対する給電を制御する。
【0037】
操舵装置10は、転舵制御装置50を有している。転舵制御装置50は、制御対象である転舵モータ31の駆動を制御する。転舵制御装置50は、操舵状態に応じて転舵輪15を転舵させるための転舵力を転舵モータ31に発生させる転舵制御を実行する。転舵制御装置50は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θs、およびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwを取り込む。操舵角θsは、ステアリングホイール11の操舵中立位置を基準とする変位量であって、ステアリングホイール11の回転操作量を示す状態変数である。操舵角θsは、絶対角である。ストロークXwは、転舵シャフト13の転舵中立位置を基準とする変位量であって、転舵角θwが反映される状態変数である。舵角センサ24は、ステアリングシャフト12のトルクセンサ23と減速機構22との間に設けられている。ストロークセンサ34は、転舵シャフト13の近傍に設けられている。
【0038】
転舵制御装置50は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。目標転舵角は、たとえば、検出される操舵角θsに対して、舵角比を乗算することにより得ることができる。舵角比は、操舵角θsに対する転舵角θwの比率である。舵角比は、製品仕様などに応じて予め設定される値である。転舵制御装置50は、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。転舵制御装置50は、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に一致させるべく転舵モータ31への給電を制御する。転舵制御装置50は、転舵モータ31における2系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0039】
転舵制御装置50は、第1系統回路51および第2系統回路52を有している。第1系統回路51は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsおよびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき、転舵モータ31における第1系統の巻線群N21に対する給電を制御する。第2系統回路52は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θs、およびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき、転舵モータ31における第2系統の巻線群N22に対する給電を制御する。
【0040】
なお、反力制御装置40と反力モータ21とを一体的に設けることにより、いわゆる機電一体型の反力アクチュエータを構成してもよい。また、転舵制御装置50と転舵モータ31とを一体的に設けることにより、いわゆる機電一体型の転舵アクチュエータを構成してもよい。反力制御装置40および転舵制御装置50は、操舵制御装置60を構成する。
【0041】
<反力制御装置>
つぎに、反力制御装置の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、反力制御装置40は、第1系統回路41および第2系統回路42を有している。第1系統回路41は、第1の反力制御回路41Aおよびモータ駆動回路41Bを有している。第2系統回路42は、第2の反力制御回路42Aおよびモータ駆動回路42Bを有している。
【0042】
第1の反力制御回路41Aは、(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、(2)各種の処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路、(3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成される。プロセッサはCPU(central processing unit)を含む。また、プロセッサはRAM(random-access memory)およびROM(read-only memory)などのメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、すなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0043】
第1の反力制御回路41Aは、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき反力モータ21に発生させるべき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力の値に応じて第1系統の巻線群N11に対する第1の電流指令値を演算する。ただし、第1の電流指令値は、反力モータ21に目標操舵反力を発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。第1の反力制御回路41Aは、第1系統の巻線群N11へ供給される実際の電流の値を第1の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路41Bに対する駆動信号を生成する。駆動信号は、PWM(pulse width modulation)信号である。
【0044】
モータ駆動回路41Bは、直列に接続された2つの電界効果型トランジスタ(FET)などのスイッチング素子を基本単位であるレグとして、三相(U,V,W)の各相に対応する3つのレグが並列接続されてなるPWMインバータである。モータ駆動回路41Bは、第1の反力制御回路41Aにより生成される駆動信号に基づいて各相のスイッチング素子がスイッチングすることにより、バッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路41Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して反力モータ21の第1系統の巻線群N11に供給される。これにより、第1系統の巻線群N11は、第1の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0045】
第2の反力制御回路42Aは、基本的には第1の反力制御回路41Aと同様の構成を有している。第2の反力制御回路42Aは、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき反力モータ21に発生させるべき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力の値に応じて第2系統の巻線群N12に対する第2の電流指令値を演算する。ただし、第2の電流指令値は、反力モータ21に目標操舵反力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第2の反力制御回路42Aは、第2系統の巻線群N12へ供給される実際の電流の値を第2の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路42Bに対する駆動信号を生成する。
【0046】
モータ駆動回路42Bは、基本的にはモータ駆動回路41Bと同様の構成を有している。モータ駆動回路42Bは、第2の反力制御回路42Aにより生成される駆動信号に基づき、バッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路42Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して反力モータ21の第2系統の巻線群N12に供給される。これにより、第2系統の巻線群N12は、第2の電流指令値に応じたトルクを発生する。反力モータ21は、第1系統の巻線群N11が発生するトルクと第2系統の巻線群N12が発生するトルクとをトータルしたトルクを発生する。
【0047】
なお、製品仕様によっては、反力制御装置40の第1系統回路41と第2系統回路42との間に主従関係があってもよい。また、製品仕様によっては、第1系統回路41と第2系統回路42とは対等の関係であってもよい。
【0048】
<転舵制御装置>
つぎに、転舵制御装置50の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、転舵制御装置50は、第1系統回路51および第2系統回路52を有している。第1系統回路51は、第1の転舵制御回路51Aおよびモータ駆動回路51Bを有している。第2系統回路52は、第2の転舵制御回路52Aおよびモータ駆動回路52Bを有している。
【0049】
第1の転舵制御回路51Aは、基本的には第1の反力制御回路41Aと同様の構成を有している。第1の転舵制御回路51Aは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。転舵制御装置50は、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。
【0050】
第1の転舵制御回路51Aは、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に追従させる角度フィードバック制御の実行を通じて、転舵モータ31に発生させるべき目標転舵力を演算し、この演算される目標転舵力の値に応じて転舵モータ31の第1系統の巻線群N21に対する第3の電流指令値を演算する。ただし、第3の電流指令値は、転舵モータ31に目標転舵力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第1の転舵制御回路51Aは、第1系統の巻線群N21へ供給される実際の電流の値を第3の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路51Bに対する駆動信号を生成する。
【0051】
モータ駆動回路51Bは、基本的にはモータ駆動回路41Bと同様の構成を有している。モータ駆動回路51Bは、第1の転舵制御回路51Aにより生成される駆動信号に基づき、バッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路42Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して転舵モータ31の第1系統の巻線群N21に供給される。これにより、第1系統の巻線群N21は、第3の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0052】
第2の転舵制御回路52Aは、基本的には第1の反力制御回路41Aと同様の構成を有している。第2の転舵制御回路52Aは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。転舵制御装置50は、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。ただし、本実施の形態において、第2の転舵制御回路52Aは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θs、およびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwを、第1の転舵制御回路51Aから取得する。すなわち、第1の転舵制御回路51Aだけが、舵角センサ24およびストロークセンサ34に接続されている。
【0053】
第2の転舵制御回路52Aは、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に追従させる角度フィードバック制御の実行を通じて、転舵モータ31に発生させるべき目標転舵力を演算し、この演算される目標転舵力の値に応じて転舵モータ31の第2系統の巻線群N22に対する第4の電流指令値を演算する。ただし、第4の電流指令値は、転舵モータ31に目標転舵力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第2の転舵制御回路52Aは、第2系統の巻線群N22へ供給される実際の電流の値を第4の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路52Bに対する駆動信号を生成する。
【0054】
モータ駆動回路52Bは、基本的にはモータ駆動回路41Bと同様の構成を有している。モータ駆動回路51Bは、第2の転舵制御回路52Aにより生成される駆動信号に基づき、バッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路52Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して転舵モータ31の第2系統の巻線群N22に供給される。これにより、第2系統の巻線群N22は第4の電流指令値に応じたトルクを発生する。転舵モータ31は、第1系統の巻線群N21が発生するトルクと第2系統の巻線群N22が発生するトルクをトータルしたトルクを発生する。
【0055】
なお、製品仕様によっては、転舵制御装置50の第1系統回路51と第2系統回路52との間に主従関係があってもよい。また、製品仕様によっては、第1系統回路51と第2系統回路52とが対等の関係であってもよい。
【0056】
<通信経路>
つぎに、反力制御装置40および転舵制御装置50の内部の通信経路、ならびに反力制御装置40と転舵制御装置50との間の通信経路について説明する。
【0057】
図2に示すように、第1の反力制御回路41Aと第2の反力制御回路42Aとは、通信線L1を介して互いに情報を授受する。情報には、第1の反力制御回路41A、第2の反力制御回路42Aあるいはモータ駆動回路41B,42Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第1の反力制御回路41Aと第2の反力制御回路42Aとは、互いに授受される情報に基づき協調して反力モータ21の駆動を制御する。
【0058】
第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとは、通信線L2を介して互いに情報を授受する。情報には、第1の転舵制御回路51A、第2の転舵制御回路52Aあるいはモータ駆動回路51B,52Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとは、互いに授受される情報に基づき協調して転舵モータ31の駆動を制御する。
【0059】
第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとは、通信線L3を介して互いに情報を授受する。情報には、第1の反力制御回路41A、第1の転舵制御回路51A、およびモータ駆動回路41B,51Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとは、互いに授受される情報に基づき連携して動作する。
【0060】
第2の反力制御回路42Aと第2の転舵制御回路52Aとは、通信線L4を介して互いに情報を授受する。情報には、第2の反力制御回路42A、第2の転舵制御回路52Aあるいはモータ駆動回路42B,52Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第2の反力制御回路42Aと第2の転舵制御回路52Aとは、互いに授受される情報に基づき連携して動作する。
【0061】
<車両用電源システムの一例>
つぎに、車両用電源システムの一例について説明する。車両用電源システムとして、つぎのような構成を採用することが考えられる。
【0062】
図3に示すように、車両用電源システム61は、たとえば、主電源71、反力制御装置40、および転舵制御装置50を有する。反力制御装置40および転舵制御装置50は、車載の主電源71に接続されている。主電源71は、たとえば直流電源であるバッテリである。反力制御装置40および転舵制御装置50は、電源装置70を介して供給される主電源71の電力を消費して動作する。主電源71は、オルタネータなどの発電機に接続されている。発電機は、車両の走行用駆動源であるエンジンの回転を動力源として利用して発電する。発電機により発電される交流電力は直流電力に変換されて主電源71に蓄えられる。
【0063】
反力制御装置40の第1系統回路41は、第1の電源線L11Aを介して主電源71に接続されている。また、第1系統回路41は、第2の電源線L11Bを介して主電源71に接続されている。第2の電源線L11Bは、第1の電源線L11Aの接続点P0から分岐している。第2の電源線L11Bには、起動スイッチ72が設けられている。起動スイッチ72は、たとえば、運転席に設けられるイグニッションスイッチあるいはパワースイッチである。起動スイッチ72は、車両の走行用駆動源を始動または停止させる際に操作される。
【0064】
主電源71の電力は、第1の電源線L11Aを介して第1系統回路41のパワー回路へ供給される。パワー回路は、より大きい電力を取り扱う電気回路であって、たとえば主電源71の直流電力を交流電力に変換するインバータが含まれる。また、主電源71の電力は、第2の電源線L11Bを介して第1系統回路41の制御回路へ供給される。制御回路は、反力モータ21を制御するための電気回路であって、たとえばCPUおよびメモリが含まれる。
【0065】
反力制御装置40の第2系統回路42は、第3の電源線L12Aを介して第1の電源線L11Aに接続されている。また、第2系統回路42は、第4の電源線L12Bを介して第2の電源線L11Bに接続されている。主電源71の電力は、第3の電源線L12Aを介して第2系統回路42のパワー回路へ供給される。また、主電源71の電力は、第4の電源線L12Bを介して第2系統回路42の制御回路へ供給される。
【0066】
転舵制御装置50の第1系統回路51は、第5の電源線L13Aを介して第1の電源線L11Aに接続されている。また、第1系統回路51は、第6の電源線L13Bを介して第2の電源線L11Bに接続されている。主電源71の電力は、第5の電源線L13Aを介して第1系統回路51のパワー回路へ供給される。また、主電源71の電力は、第6の電源線L13Bを介して第1系統回路51の制御回路へ供給される。
【0067】
転舵制御装置50の第2系統回路52は、第7の電源線L14Aを介して第1の電源線L11Aに接続されている。また、第2系統回路52は、第8の電源線L14Bを介して第2の電源線L11Bに接続されている。主電源71の電力は、第7の電源線L14Aを介して第2系統回路52のパワー回路へ供給される。また、主電源71の電力は、第8の電源線L14Bを介して第2系統回路52の制御回路へ供給される。
【0068】
なお、第1の電源線L11A、第2の電源線L11B、第3の電源線L12A、第4の電源線L12B、第5の電源線L13A、第6の電源線L13B、第7の電源線L14A、第8の電源線L14Bは、給電経路に相当する。
【0069】
<起動シーケンス>
つぎに、反力制御装置40が実行する起動シーケンスについて説明する。起動シーケンスは、車両電源がオンされることを契機として実行される一連の処理である。起動シーケンスは、第1の反力制御回路41Aおよび第2の反力制御回路42Aが各々実行する。車両電源がオフされている期間、反力制御装置40は、動作を停止した状態に維持される。車両電源がオンまたはオフすることは、運転席に設けられる起動スイッチがオンまたはオフすることでもある。
【0070】
図4のタイムチャートに示すように、車両電源がオンされたとき、反力制御装置40は起動して、イニシャルチェック、中点学習処理および舵角同期処理を順次実行し、やがてアシスト開始待ち状態に遷移する。イニシャルチェック、中点学習処理および舵角同期処理は、反力モータ21に操舵反力を発生させる反力制御を実行開始するために必要とされる一連の準備処理である。
【0071】
イニシャルチェックは、車両電源がオンされたことを契機として実行される初期点検であって、たとえばハードウェアのチェック、およびCPUの初期化を含む。また、イニシャルチェックは、変数あるいはフラグなどの初期化を含む。
【0072】
中点学習処理は、ステアリングホイール11の操舵中立位置を学習するための処理である。操舵中立位置は、車両の直進状態に対応するステアリングホイール11の回転位置である。操舵装置10は、ステアリングホイール11の操舵角θsに限界を設けるために、ステアリングホイール11の回転を規制するストッパ機構を有している。ストッパ機構は、たとえばステアリングホイール11の操舵範囲を360°未満に規制する。反力制御装置40は、反力モータ21の制御を通じて、ステアリングホイール11を第1の動作端まで動作させた後に第2の動作端まで反転動作させる。この後、反力制御装置40は、ステアリングホイール11の反転動作の開始時点および終了時点における反力モータ21の回転角に基づき操舵角θsの中点を演算する。操舵角θsの中点は、ステアリングホイール11が操舵中立位置に位置するときの反力モータ21の回転位置であるモータ中点に対応する。反力制御装置40は、操舵角θsの中点またはモータ中点をステアリングホイール11の操舵中立位置としてメモリに記憶する。操舵角θsの中点、または反力モータ21のモータ中点は、操舵中立位置に関する情報である。
【0073】
反力制御装置40は、メモリに記憶された操舵中立位置に関する情報が消失している場合にステアリングホイール11の操舵中立位置を学習する。反力制御装置40は、たとえば車両に新たにバッテリが取り付けられた後、初めて車両電源がオンされたとき、中点学習処理を実行する。これは、バッテリの交換作業に伴い車両からバッテリが取り外されたとき、反力制御装置40に電力が供給されなくなることに起因して、反力制御装置40のメモリに記憶されていた操舵中立位置に関する情報が消失するからである。反力制御装置40は、中点学習処理の実行を通じて操舵中立位置に関する情報を取得することにより、反力モータ21の回転角に基づき、操舵中立位置を基準として操舵角θsを演算することが可能となる。
【0074】
なお、製品仕様などによっては、反力制御装置40は、車両電源がオンされる度に中点学習処理を実行するようにしてもよいし、メモリに記憶された操舵中立位置に関する情報の信頼性が低下している場合に中点学習処理を実行するようにしてもよい。
【0075】
舵角同期処理は、ステアリングホイール11の回転位置を補正するための処理である。反力制御装置40は、ステアリングホイール11の回転位置が転舵輪15の転舵位置に対応する回転位置と異なる位置であるとき、ステアリングホイール11の回転位置が転舵輪15の転舵位置に対応する回転位置となるように反力モータ21を駆動させる。
【0076】
たとえば、反力制御装置40は、車両電源がオフされる際、その直前に検出される操舵角θsを基準操舵角として記憶する。基準操舵角は、車両電源がオフされている期間におけるステアリングホイール11の回転の有無を判定する際の基準である。反力制御装置40は、車両電源がオンされた直後の操舵角θsが基準操舵角と一致しないとき、車両電源がオンされた直後の操舵角θsと基準操舵角との差を求め、当該差を無くすように反力モータ21に対する給電を制御する。反力制御装置40は、反力モータ21の回転角に基づき操舵角θsを演算する。
【0077】
なお、反力制御装置40は、車両電源がオンされた直後の操舵角θsの値と、車両電源がオンされた直後の転舵角θwに対して舵角比の逆数を乗算した値との差を求め、当該差を無くすように反力モータ21に対する給電を制御するようにしてもよい。反力制御装置40は、転舵制御装置50から転舵角θwを取得する。
【0078】
アシスト開始待ち状態は、準備処理の実行完了後、車両の走行準備が完了して車両が走行可能な状態になるのを待っている状態である。走行準備は、たとえば、車両制御装置によるイニシャルチェック、および車両のパワートレインの始動処理を含む。パワートレインは、車両の走行用駆動源および動力伝達機構を含む。走行用駆動源は、エンジンあるいはモータを含む。動力伝達機構は、走行用駆動源が発生する動力を駆動輪に伝達するための機構である。
【0079】
反力制御装置40は、車両の走行準備が完了しているかどうかに応じて、アシスト開始待ち状態から通常制御状態への遷移の可否を判定する。反力制御装置40は、車両の走行準備が完了していないとき、アシスト開始待ち状態を維持する。反力制御装置40は、車両の走行準備が完了したとき、アシスト開始待ち状態から通常制御状態へ遷移する。通常制御状態は、反力モータ21に操舵反力を発生させる反力制御を実行する状態である。反力制御装置40は、通常制御状態であるとき、ステアリングホイール11の操舵状態に応じて反力モータ21の駆動を制御する。
【0080】
なお、第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aは、車両電源がオンされたとき、定められた起動シーケンスを各々実行する。
<リセット機能について>
第1の反力制御回路41Aの電源電圧には、動作保証範囲が設定されている。動作保証範囲は、仕様で動作することが保証された電圧の範囲である。第1の反力制御回路41Aは、電源電圧が動作保証範囲外の値から動作保証範囲内の値に至ったことを契機として動作を開始して、先の
図4のタイムチャートに示される起動シーケンスを実行する。
【0081】
第1の反力制御回路41Aは、リセット機能を有している。定められたリセット要因が発生するとき、第1の反力制御回路41Aはリセットされる。リセットは、第1の反力制御回路41Aの内部状態を初期化するための処理である。リセット要因は、たとえば第1の反力制御回路41Aの電源電圧の低下を含む。電源電圧が一時的に低下して、電源電圧の値が動作保証範囲を下回るとき、第1の反力制御回路41Aはリセットされる。リセットされることにより、たとえば、第1の反力制御回路41Aのメモリに記憶されていた操舵中立位置に関する情報が消失する。第1の反力制御回路41Aは、リセットが完了したとき、再起動し、先の
図4のタイムチャートに示される起動シーケンスを再び実行する。起動シーケンスは、リセットが完了した後に実行される初期検査でもある。
【0082】
なお、第2の反力制御回路42A、第1の転舵制御回路51A、および第2の転舵制御回路52Aは、第1の反力制御回路41Aと同様に、リセット機能を有している。
第2の反力制御回路42Aは、定められたリセット要因が発生するとき、リセットされる。リセットされることにより、たとえば、第2の反力制御回路42Aのメモリに記憶されていた操舵中立位置に関する情報が消失する。第2の反力制御回路42Aは、リセットが完了したとき、再起動し、先の
図4のタイムチャートに示される起動シーケンスを再び実行する。
【0083】
第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aは、定められたリセット要因が発生するとき、リセットされる。リセットされることにより、たとえば、第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aのメモリに記憶されていた転舵中立位置に関する情報が消失する。転舵中立位置は、車両の直進状態に対応する転舵輪15の転舵位置である。第1の転舵制御回路51Aおよび第2の転舵制御回路52Aは、リセットが完了したとき、再起動し、定められた起動シーケンスを再び実行する。
【0084】
<電源電圧低下時の処理手順の一例>
つぎに、車両の電源電圧が瞬時的に低下した際、各制御回路(41A,42A,51A,52A)が実行する処理の手順の一例について説明する。車両用電源システム61は、先の
図3に示される構成を有する。
【0085】
図5のフローチャートに示すように、たとえば、第1の反力制御回路41Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS101)、リセットされる(ステップS102)。電源電圧の低下は、電源電圧が第1の反力制御回路41Aの動作保証範囲を下回ることである。第1の反力制御回路41Aは、リセットが完了したとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS103)。車両の電源電圧は、瞬時的なものであって、第1の反力制御回路41Aの動作保証範囲内の値に復帰している。
【0086】
つぎに、第1の反力制御回路41Aは、第2の反力制御回路42Aとの間で、舵角情報の有無を確認する(ステップS104)。舵角情報は、たとえば、ステアリングホイール11の操舵中立位置に関する情報であって、操舵角θsの中点、または反力モータ21のモータ中点を含む。
【0087】
第1の反力制御回路41Aのメモリに記憶されていた操舵中立位置に関する情報は、ステップS102のリセットを実行にすることによって消失している。第1の反力制御回路41Aは、第2の反力制御回路42Aのメモリに記憶されていた操舵中立位置に関する情報も消失しているなどの理由により、第1の反力制御回路41Aから舵角情報を取得できなかったとき、中点学習処理を実行する(ステップS105)。第1の反力制御回路41Aは、中点学習処理の実行を通じて舵角情報を取得し、取得される舵角情報をメモリに記憶した後、同期待ち状態に遷移する(ステップS107)。同期待ち状態は、各制御回路(41A,42A,51A,52A)のすべてが、舵角情報を有する状態になることを待っている状態である。第1の反力制御回路41Aは、各制御回路(41A,42A,51A,52A)のすべてが、舵角情報を有する状態になったとき、通常制御状態に遷移する(ステップS108)。第1の反力制御回路41Aは、舵角情報を取得することにより、反力モータ21の回転角に基づき、ステアリングホイール11の操舵角θsを演算することが可能となる。
【0088】
第2の反力制御回路42Aは、第1の反力制御回路41Aと同様の処理を実行する。第2の反力制御回路42Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS101)、リセットされる(ステップS102)。第2の反力制御回路42Aは、リセットが完了したとき、イニシャルチェックを実行し(ステップS109)、その後、第1の反力制御回路41Aとの間で舵角情報の有無を確認する(ステップS110)。第2の反力制御回路42Aは、舵角情報を取得できなかったとき、中点学習処理の実行を通じて(ステップS111)、舵角情報を取得し、取得される舵角情報をメモリに記憶した後、同期待ち状態に遷移する(ステップS107)。第2の反力制御回路42Aは、各制御回路(41A,42A,51A,52A)のすべてが、舵角情報を有する状態になったとき、通常制御状態に遷移する(ステップS108)。第2の反力制御回路42Aは、舵角情報を取得することにより、反力モータ21の回転角に基づき、ステアリングホイール11の操舵角θsを演算することが可能となる。
【0089】
第1の転舵制御回路51Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS101)、リセットされる(ステップS102)。第1の転舵制御回路51Aは、リセットが完了したとき、イニシャルチェックを実行し(ステップS113)、その後、第2の転舵制御回路52Aとの間で舵角情報の有無を確認する(ステップS114)。舵角情報は、たとえば、ステアリングホイール11の操舵角θsを含む。
【0090】
第1の転舵制御回路51Aは、舵角情報を取得できなかったとき、センサ情報を取り込むことにより舵角情報を取得する(ステップS115)。センサ情報は、舵角センサ24を通じて検出されるステアリングホイール11の操舵角θsを含む。第1の転舵制御回路51Aは、舵角情報を取得した後、同期待ち状態に遷移する(ステップS107)。第1の転舵制御回路51Aは、各制御回路(41A,42A,51A,52A)のすべてが、舵角情報を有する状態になったとき、通常制御状態に遷移する(ステップS108)。
【0091】
第2の転舵制御回路52Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS101)、リセットされる(ステップS102)。第2の転舵制御回路52Aは、リセットが完了したとき、イニシャルチェックを実行し(ステップS116)、その後、第1の転舵制御回路51Aとの間で舵角情報の有無を確認する(ステップS117)。第2の転舵制御回路52Aは、舵角情報を取得できなかったとき、第1の転舵制御回路51Aを介して、センサ情報を取り込むことにより舵角情報を取得する(ステップS118)。第2の転舵制御回路52Aは、舵角情報を取得した後、同期待ち状態に遷移する(ステップS107)。第2の転舵制御回路52Aは、各制御回路(41A,42A,51A,52A)のすべてが、舵角情報を有する状態になったとき、通常制御状態に遷移する(ステップS108)。
【0092】
このように、車両の電源電圧が瞬時的に低下した場合であれ、電源電圧が動作保証範囲内の値に復帰すれば、反力制御および転舵制御の実行を継続することができる。しかし、各制御回路(41A,42A,51A,52A)がリセットされてから同期待ち状態に遷移するまでの期間、瞬時的ではあるものの、適切な反力制御および転舵制御の実行が阻害されることが懸念される。そこで、本実施の形態では、車両用電源システム61として、つぎの構成を採用している。
【0093】
<車両用電源システム61の実施の形態>
図6に示すように、本実施の形態の車両用電源システム61は、主電源71、反力制御装置40、および転舵制御装置50に加えて、電源装置70を有する。
【0094】
反力制御装置40および転舵制御装置50は、電源装置70を介して主電源71に接続されている。第3の電源線L12A、第5の電源線L13A、および第7の電源線L14Aは、第1の電源線L11A上において、電源装置70と反力制御装置40との間に設定される接続点に接続されている。第4の電源線L12B、第6の電源線L13B、および第8の電源線L14Bは、第2の電源線L11B上において、電源装置70と反力制御装置40との間に設定される接続点に接続されている。
【0095】
電源装置70は、電源バックアップ機能を有する。電源装置70は、補助電源70A、切替回路70Bおよび制御回路70Cを有している。
補助電源70Aは、電荷を充放電可能とされた蓄電装置であって、たとえばキャパシタが採用される。補助電源70Aの電圧は、たとえば、反力制御装置40および転舵制御装置50を適切に動作させるために必要とされる電圧の下限値よりも高く、かつ主電源71の電圧よりも低い値に設定される。
【0096】
切替回路70Bは、制御回路70Cからの指令に基づき、補助電源70Aの充電が行われるように第1の電源線L11Aに対する補助電源70Aの接続状態を切り替える。切替回路70Bは、制御回路70Cからの指令に基づき、第1系統回路41,51の電源を主電源71と補助電源70Aとの間で切り替える。切替回路70Bは、制御回路70Cからの指令に基づき、第2系統回路42,52の電源を主電源71と補助電源70Aとの間で切り替える。
【0097】
切替回路70Bにより切り替えられる主電源71の電力、または補助電源70Aの電力は、第1の電源線L11Aおよび第2の電源線L11Bを介して、反力制御装置40の第1系統回路41に供給される。切替回路70Bにより切り替えられる主電源71の電力、または補助電源70Aの電力は、第5の電源線L13Aおよび第6の電源線L13Bを介して、転舵制御装置50の第1系統回路51に供給される。
【0098】
切替回路70Bにより切り替えられる主電源71の電力、または補助電源70Aの電力は、第3の電源線L12Aおよび第4の電源線L12Bを介して、反力制御装置40の第2系統回路42に供給される。切替回路70Bにより切り替えられる主電源71の電力、または補助電源70Aの電力は、第7の電源線L14Aおよび第8の電源線L14Bを介して、転舵制御装置50の第2系統回路52に供給される。
【0099】
制御回路70Cは、切替回路70Bの切り替えを制御する。また、制御回路70Cは、主電源71の電圧を監視する。制御回路70Cは、主電源71の電圧の値が、しきい値電圧よりも小さいとき、主電源71の電圧が低下した旨判定する。しきい値電圧は、主電源71の電圧低下を判定する際の基準であって、反力モータ21および転舵モータ31、ならびに反力制御装置40および転舵制御装置50を適切に動作させるために必要とされる電圧の下限値を基準として設定される。主電源71の電圧が低下することは、車両の電源電圧が低下することでもある。
【0100】
制御回路70Cは、主電源71の電圧の低下が検出されないとき、切替回路70Bに対する第1の指令を生成する。第1の指令は、第1系統回路41,51および第2系統回路42,52の電源を主電源71に切り替えるための指令である。また、第1の指令は、補助電源70Aの充電が行われるように補助電源70Aの第1の電源線L11Aに対する接続状態を切り替えるための指令でもある。
【0101】
制御回路70Cは、主電源71の電圧の低下が検出されるとき、切替回路70Bに対する第2の指令を生成する。第2の指令は、第1系統回路41,51および第2系統回路42,52の電源を主電源71から補助電源70Aに切り替えるための指令である。また、第2の指令は、第1の電源線L11Aと補助電源70Aとの間を遮断して、補助電源70Aの充電が行われないように補助電源70Aの第1の電源線L11Aに対する接続状態を切り替えるための指令でもある。
【0102】
制御回路70Cは、補助電源70Aの充電量を検出する。制御回路70Cは、補助電源70Aに設けられる電圧センサを通じて補助電源70Aの電圧を検出し、その検出される電圧に基づき補助電源70Aの充電量を検出する。補助電源70Aがキャパシタである場合、制御回路70Cは、キャパシタの端子間電圧に基づき、キャパシタの充電量を検出する。制御回路70Cは、補助電源70Aの充電状態を監視する監視回路としても機能する。
【0103】
<電源電圧低下時の電源状態の遷移>
つぎに、車両の電源電圧が低下した際の各制御回路(41A,42A,51A,52A)に対する電源状態の遷移について説明する。
【0104】
図7のフローチャートに示すように、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS201)、補助電源70Aによって、即時に各制御回路の電源バックアップが行われる(ステップS202)。すなわち、各制御回路の電源が、主電源71から補助電源70Aに切り替えられる。補助電源70Aの電力が、各制御回路に供給されるため、各制御回路はリセットされることなく、通常制御状態に維持される(ステップS203)。また、リセットされないため、各制御回路は舵角情報を保持した状態に維持される。
【0105】
<第1の実施の形態の効果>
第1の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1-1)車両の電源電圧が低下したとき、電源装置70によって、各制御回路(41A,42A,51A,52A)のすべての電源がバックアップされる。すなわち、車両の電源電圧が瞬時的に低下した場合であれ、電源装置70の電力が各制御回路に供給される。各制御回路に対する給電が途絶えることがないため、各制御回路がリセットされることが抑制される。また、各制御回路がリセットされないため、各制御回路が舵角情報を消失することもない。したがって、たとえば、車両の走行中において、各制御回路がリセットに伴う起動シーケンスを実行することもない。各制御回路は、適切な反力制御および転舵制御の実行を継続することができる。これにより車両の電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0106】
(1-2)単一の舵角センサ24を有する操舵装置10において、車両の電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。舵角センサ24の個数を最小限に抑えることにより、製品コストの増加を抑制することが可能である。
【0107】
(1-3)電源装置70が存在しない場合、たとえば、車両の電源電圧が瞬時的に動作保証範囲を下回ったとき、リセット完了後の初期検査である起動シーケンスの実行を経て、反力制御装置40および転舵制御装置50が有する全系統の制御回路(41A,42A,51A,52A)が舵角情報を有する状態になるのを待って、全系統の制御回路による操舵反力または転舵力の制御の実行が再開される。この場合、操舵反力および転舵力の適切な制御が阻害されるおそれがある期間が、より長くなることが懸念される。
【0108】
この点、本実施の形態によれば、電源電圧が瞬時的に各制御回路の動作保証範囲を下回ったときであれ、電源装置70の電力が、反力制御装置40および転舵制御装置50のすべての系統の制御回路に供給される。このため、反力制御装置40および転舵制御装置50のすべての系統の制御回路について、リセットされることを抑制することができる。すなわち、反力制御装置40および転舵制御装置50のすべての系統の制御回路による操舵反力または転舵力の制御の実行が継続される。したがって、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0109】
(1-4)リセット完了後の初期検査である起動シーケンスの実行時、転舵制御装置50が有する2系統の制御回路(51A,52A)は、車載の舵角センサ24を通じて舵角情報を即時に取得することが可能である。これに対し、反力制御装置40が有する2系統の制御回路(41A,42A)は、反力モータ21の駆動制御を通じて、ステアリングホイール11を第1の動作端まで動作させた後に第2の動作端まで反転動作させることによりステアリングホイール11の操舵中立位置を学習することによって、舵角情報を取得することが可能となる。このため、リセット完了後、反力制御装置40および転舵制御装置50が有する全系統の制御回路が舵角情報を有する状態になるまでの期間が、より長くなることが懸念される。
【0110】
この点、本実施の形態によれば、電源電圧が瞬時的に各制御回路の動作保証範囲を下回ったときであれ、電源装置70の電力が、反力制御装置40および転舵制御装置50のすべての系統の制御回路に供給される。このため、反力制御装置40および転舵制御装置50のすべての系統の制御回路について、リセットされることを抑制することができる。すなわち、反力制御装置40および転舵制御装置50のすべての系統の制御回路による操舵反力または転舵力の制御の実行が継続される。したがって、電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0111】
<第2の実施の形態>
つぎに、車両用電源システムの第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、先の
図1、
図2、
図4および
図6に示される第1の実施の形態と同様の構成を有する。本実施の形態は、電源装置70の電源バックアップ対象の点で、第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0112】
図8に示すように、第1系統回路41,51は、電源装置70を介して、主電源71に接続されている。第2系統回路42,52は、電源装置70を介さずに、主電源71に接続されている。電源装置70は、第1系統回路41,51の電源バックアップのみを行う。電源装置70は、第2系統回路42,52の電源バックアップを行わない。
【0113】
第1の電源線L11Aおよび第2の電源線L11Bは、第1の電源装置81を介して、主電源71に接続されている。
第5の電源線L13Aは、第1の電源線L11A上において、電源装置70と反力制御装置40との間に設定される接続点に接続されている。第6の電源線L13Bは、第2の電源線L11B上において、電源装置70と反力制御装置40との間に設定される接続点に接続されている。
【0114】
第3の電源線L12Aおよび第7の電源線L14Aは、第1の電源線L11A上において、電源装置70との主電源71との間に設定される接続点に接続されている。第4の電源線L12Bおよび第8の電源線L14Bは、第2の電源線L11B上において、電源装置70と主電源71との間に設定される接続点に接続されている。
【0115】
切替回路70Bにより切り替えられる主電源71の電力、または補助電源70Aの電力は、第1の電源線L11Aおよび第2の電源線L11Bを介して、反力制御装置40の第1系統回路41に供給される。切替回路70Bにより切り替えられる主電源71の電力、または補助電源70Aの電力は、第5の電源線L13Aおよび第6の電源線L13Bを介して、転舵制御装置50の第1系統回路51に供給される。
【0116】
主電源71の電力は、第3の電源線L12Aおよび第4の電源線L12Bを介して、反力制御装置40の第2系統回路42に供給される。主電源71の電力は、第7の電源線L14Aおよび第8の電源線L14Bを介して、転舵制御装置50の第2系統回路52に供給される。電源装置70の電力は、第2系統回路42,52に供給されない。
【0117】
<電源電圧低下時の処理手順>
つぎに、車両の電源電圧が瞬時的に低下した際に、各制御回路(41A,42A,51A,52A)が実行する処理の手順について説明する。
【0118】
図9のフローチャートに示すように、第1の反力制御回路41Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS301)、通常制御状態に維持される(ステップS302)。これは、車両の電源電圧が低下したとき、補助電源70Aによって、即時に第1の反力制御回路41Aの電源バックアップが行われるからである。補助電源70Aの電力が、第1の反力制御回路41Aに供給されるため、第1の反力制御回路41Aがリセットされることはない。第1の反力制御回路41Aは、舵角情報を保持した状態に維持される。
【0119】
第2の反力制御回路42Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS301)、リセットされる(ステップS303)。リセットによって、第2の反力制御回路42Aのメモリに記憶されていた舵角情報が消失する。第2の反力制御回路42Aは、リセットが完了したとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS304)。ただし、電源電圧の低下は瞬時的なものであって、車両の電源電圧は動作保証範囲内の値に復帰している。
【0120】
第2の反力制御回路42Aは、イニシャルチェックの実行完了後、第1の反力制御回路41Aとの間で、舵角情報の有無を確認する(ステップS305)。ただし、第1の反力制御回路41Aは、通常制御状態であって、反力モータ21の第1系統の巻線群N11に対する給電制御を継続している。第1の反力制御回路41Aが実行している給電制御との干渉を防ぐため、第2の反力制御回路42Aは動作を停止する(ステップS306)。
【0121】
第1の転舵制御回路51Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS301)、通常制御状態に維持される(ステップS307)。これは、車両の電源電圧が低下したとき、補助電源70Aによって、即時に第1の転舵制御回路51Aの電源バックアップが行われるからである。
【0122】
補助電源70Aの電力が、第1の転舵制御回路51Aに供給されるため、第1の転舵制御回路51Aがリセットされることはない。第1の転舵制御回路51Aは、舵角情報を保持した状態に維持される。
【0123】
第2の転舵制御回路52Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS301)、リセットされる(ステップS308)。リセットによって、第2の転舵制御回路52Aのメモリに記憶されていた舵角情報が消失する。第2の転舵制御回路52Aは、リセットが完了したとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS309)。ただし、電源電圧の低下は瞬時的なものであって、車両の電源電圧は動作保証範囲内の値に復帰している。
【0124】
第2の転舵制御回路52Aは、イニシャルチェックの実行完了後、第1の転舵制御回路51Aとの間で、舵角情報の有無を確認する(ステップS310)。ただし、第1の転舵制御回路51Aは、通常制御状態であって、転舵モータ31の第1系統の巻線群N21に対する給電制御を継続している。第1の転舵制御回路51Aが実行している給電制御との干渉を防ぐため、第2の転舵制御回路52Aは動作を停止する(ステップS311)。
【0125】
<第2の実施の形態の効果>
第2の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(2-1)車両の電源電圧が低下したとき、電源装置70によって、第1系統回路41,51の電源のみがバックアップされる。すなわち、車両の電源電圧が瞬時的に低下した場合であれ、電源装置70の電力が第1系統回路41,51に供給される。第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aに対する給電が途絶えることがないため、第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aがリセットされることが抑制される。このため、たとえば、車両の走行中において、第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aが、リセットに伴う起動シーケンスを実行することもない。したがって、第1系統回路41,51のみによって、反力モータ21および転舵モータ31の制御を継続することができる。これにより、車両の電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0126】
(2-2)車両の電源電圧が瞬時的に低下したとき、第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aは、リセットが完了した後に再起動するものの、起動シーケンスが完了する前に動作を停止する。これは、つぎの理由による。すなわち、第2の転舵制御回路52Aは、第1の転舵制御回路51Aから舵角情報を取得可能である。しかし、電源電圧が動作保証範囲を下回ったとき、第1の転舵制御回路51Aは、転舵力の制御を継続している。このため、第2の転舵制御回路52Aが第1の転舵制御回路51Aから舵角情報を取得する処理が、第1の転舵制御回路51Aによる転舵力の制御に干渉するおそれがある。したがって、製品仕様によっては、電源電圧が動作保証範囲を下回ったとき、電源装置70の電力が供給されない第2の反力制御回路42Aのみならず、電源装置70の電力が供給されない第2の転舵制御回路52Aの動作を停止することが好ましいとされることがある。
【0127】
<第3の実施の形態>
つぎに、車両用電源システムの第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、先の
図8に示される第2の実施の形態と同様の構成を有する。本実施の形態は、舵角センサ24が冗長化されている点で、第2の実施の形態と異なる。したがって、第2の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0128】
図10に示すように、舵角センサ24は、第1の舵角センサ24A、および第2の舵角センサ24Bを含んでいる。第1の舵角センサ24Aは、ステアリングホイール11の第1の操舵角θs1を検出する。第2の舵角センサ24Bは、ステアリングホイール11の第2の操舵角θs2を検出する。転舵制御装置50の第1系統回路51は、第1の舵角センサ24Aを通じて検出される第1の操舵角θs1を取り込む。反力制御装置40の第1系統回路41は、第2の舵角センサ24Bを通じて検出される第2の操舵角θs2を取り込む。
【0129】
<電源電圧低下時の処理手順>
つぎに、車両の電源電圧が瞬時的に低下した際に、各制御回路(41A,42A,51A,52A)が実行する処理の手順について説明する。
【0130】
図11のフローチャートに示すように、第1の反力制御回路41Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS401)、通常制御状態に維持される(ステップS402)。これは、車両の電源電圧が低下したとき、補助電源70Aによって、即時に第1の反力制御回路41Aの電源バックアップが行われるからである。補助電源70Aの電力が、第1の反力制御回路41Aに供給されるため、第1の反力制御回路41Aがリセットされることはない。第1の反力制御回路41Aは、舵角情報を保持した状態に維持される。
【0131】
第2の反力制御回路42Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS401)、リセットされる(ステップS403)。リセットによって、第2の反力制御回路42Aのメモリに記憶されていた舵角情報が消失する。第2の反力制御回路42Aは、リセットが完了したとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS404)。ただし、電源電圧の低下は瞬時的なものであって、車両の電源電圧は動作保証範囲内の値に復帰している。
【0132】
第2の反力制御回路42Aは、イニシャルチェックの実行完了後、第1の反力制御回路41Aとの間で、舵角情報の有無を確認する(ステップS405)。第1の反力制御回路41Aは、第2の反力制御回路42Aから舵角情報の有無を確認されたとき、センサ情報を取り込むことにより舵角情報を取得し、取得される舵角情報を第2の反力制御回路42Aへ送信する。センサ情報は、第2の舵角センサ24Bを通じて検出されるステアリングホイール11の第2の操舵角θs2である。第2の操舵角θs2は、舵角情報でもある。
【0133】
第2の反力制御回路42Aは、第1の反力制御回路41Aから舵角情報を取得する(ステップS406)。第2の反力制御回路42Aは、舵角情報を取得した後、同期待ち状態に遷移する(ステップS407)。第2の反力制御回路42Aは、各制御回路(41A,42A,51A,52A)のすべてが、舵角情報を有する状態になったとき、通常制御状態に遷移する(ステップS408)。
【0134】
第1の転舵制御回路51Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS401)、通常制御状態に維持される(ステップS409)。これは、車両の電源電圧が低下したとき、補助電源70Aによって、即時に第1の転舵制御回路51Aの電源バックアップが行われるからである。補助電源70Aの電力が、第1の転舵制御回路51Aに供給されるため、第1の転舵制御回路51Aがリセットされることはない。第1の転舵制御回路51Aは、舵角情報を保持した状態に維持される。
【0135】
第2の転舵制御回路52Aは、車両の電源電圧が低下したとき(ステップS401)、リセットされる(ステップS410)。リセットによって、第2の転舵制御回路52Aのメモリに記憶されていた舵角情報が消失する。第2の転舵制御回路52Aは、リセットが完了したとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS411)。ただし、電源電圧の低下は瞬時的なものであって、車両の電源電圧は動作保証範囲内の値に復帰している。
【0136】
第2の転舵制御回路52Aは、イニシャルチェックの実行完了後、第1の転舵制御回路51Aとの間で、舵角情報の有無を確認する(ステップS412)。第1の転舵制御回路51Aは、第2の転舵制御回路52Aから舵角情報の有無を確認されたとき、センサ情報を取り込むことにより舵角情報を取得し、取得される舵角情報を第2の転舵制御回路52Aへ送信する。センサ情報は、第1の舵角センサ24Aを通じて検出されるステアリングホイール11の第1の操舵角θs1である。第1の操舵角θs1は、舵角情報でもある。
【0137】
第2の転舵制御回路52Aは、第1の転舵制御回路51Aから舵角情報を取得する(ステップS413)。第2の転舵制御回路52Aは、舵角情報を取得した後、同期待ち状態に遷移する(ステップS414)。第2の転舵制御回路52Aは、各制御回路(41A,42A,51A,52A)のすべてが、舵角情報を有する状態になったとき、通常制御状態に遷移する(ステップS415)。
【0138】
<第3の実施の形態の効果>
第3の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(3-1)車両の電源電圧が低下したとき、補助電源70Aによって、第1系統回路41,51の電源のみがバックアップされる。第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aに対する給電が途絶えることがないため、第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aがリセットされることが抑制される。このため、たとえば、車両の走行中において、第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aが、リセットに伴う起動シーケンスを実行することもない。したがって、第1系統回路41,51のみによって、反力モータ21および転舵モータ31の制御を継続することができる。これにより、車両の電源電圧の低下に対して、適切に対処することができる。
【0139】
(3-2)操舵装置10は、第1の舵角センサ24A、および第2の舵角センサ24Bを有している。第1の転舵制御回路51Aは、第1の舵角センサ24Aを通じて、ステアリングホイール11の第1の操舵角θs1を取得可能である。第1の反力制御回路41Aは、第2の舵角センサ24Bを通じて、ステアリングホイール11の第2の操舵角θs2を取得可能である。このため、電源バックアップが行われない第2の反力制御回路42Aは、電源電圧の低下に伴うリセット後に再起動したとき、第1の反力制御回路41Aから舵角情報を取得可能である。また、電源バックアップが行われない第2の転舵制御回路52Aは、電源電圧の低下に伴うリセット後に再起動したとき、第1の転舵制御回路51Aから舵角情報を取得可能である。舵角情報を取得した第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aは、通常制御状態へ遷移する。電源電圧が低下したとき、一時的に、第1系統回路41,51のみによって反力モータ21および転舵モータ31が制御される状態が形成されるものの、やがて、第1系統回路41,51および第2系統回路42,52の全系統によって反力モータ21および転舵モータ31が制御される状態に復帰する。したがって、車両の電源電圧の低下に対して、より適切に対処することができる。
【0140】
<第4の実施の形態>
つぎに、車両用電源システムの第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、先の
図1、
図2、
図4および
図6に示される第1の実施の形態と同様の構成を有する。本実施の形態は、電源装置70の構成の点で、第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0141】
図12に示すように、電源装置70は、第1の電源装置81、および第2の電源装置82を含んでいる。第1の電源装置81、および第2の電源装置82は、先の
図6に示される第1の実施の形態と同様に、各々、補助電源70A、切替回路70B、および制御回路70Cを有している。
【0142】
第1系統回路41,51は、第1の電源装置81を介して、主電源71に接続されている。第2系統回路42,52は、第2の電源装置82を介して、主電源71に接続されている。第1の電源装置81は、第1系統回路41,51の電源バックアップのみを行う。第2の電源装置82は、第2系統回路42,52の電源バックアップのみを行う。
【0143】
第1の電源線L11Aおよび第2の電源線L11Bは、第1の電源装置81を介して、主電源71に接続されている。第5の電源線L13Aは、第1の電源線L11A上において、第1の電源装置81と反力制御装置40との間に設定される接続点に接続されている。第6の電源線L13Bは、第2の電源線L11B上において、第1の電源装置81と反力制御装置40との間に設定される接続点に接続されている。
【0144】
第7の電源線L14Aおよび第8の電源線L14Bは、第2の電源装置82を介して、主電源71に接続されている。第3の電源線L12Aは、第7の電源線L14A上において、第2の電源装置82と転舵制御装置50との間に設定される接続点に接続されている。第4の電源線L12Bは、第8の電源線L14B上において、第2の電源装置82と転舵制御装置50との間に設定される接続点に接続されている。
【0145】
主電源71の電力、または第1の電源装置81の電力は、第1の電源線L11Aおよび第2の電源線L11Bを介して、反力制御装置40の第1系統回路41に供給される。主電源71の電力、または第1の電源装置81の電力は、第5の電源線L13Aおよび第6の電源線L13Bを介して、転舵制御装置50の第1系統回路51に供給される。
【0146】
主電源71の電力、または第2の電源装置82の電力は、第3の電源線L12Aおよび第4の電源線L12Bを介して、反力制御装置40の第2系統回路42に供給される。主電源71の電力、または第2の電源装置82の電力は、第7の電源線L14Aおよび第8の電源線L14Bを介して、転舵制御装置50の第2系統回路52に供給される。
【0147】
<第4の実施の形態の効果>
第4の実施の形態は、先の(1-1)欄~(1-4)欄に記載される第1の実施の形態の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0148】
(4-1)第1の電源装置81によって、第1系統回路41,51の電源バックアップを独立して行うことができる。第2の電源装置82によって、第2系統回路42,52の電源バックアップを独立して行うことができる。
【0149】
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1~第4の実施の形態において、車両用給電システムとして、第2の電源線L11B、第4の電源線L12B、第6の電源線L13B、および第8の電源線L14Bを割愛した構成を採用してもよい。この場合、起動スイッチ72は、第1の電源線L11Aに設けられる。主電源71の電力、または電源装置70の電力は、第1系統回路41,51のパワー回路および制御回路の双方に供給される。また、主電源71の電力、または電源装置70の電力は、第2系統回路42,52のパワー回路および制御回路の双方に供給される。
【0150】
・第1および第4の形態において、反力モータ21および転舵モータ31は、2系統の巻線群を有していたが、1系統の巻線群を有するものであってもよい。この場合、反力制御装置40として、たとえば第1系統回路41のみを有する構成を採用していてもよい。また、転舵制御装置50として、たとえば第1系統回路51のみを有する構成を採用していてもよい。このようにしても、車両の電源電圧が低下したとき、電源装置70によって、第1系統回路41,51の電源がバックアップされる。第1系統回路41,51の各制御回路(41A,51A)に対する給電が途絶えることがないため、各制御回路がリセットされることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0151】
11…ステアリングホイール
15…転舵輪
24…舵角センサ(センサ)
40…反力制御装置
41A…第1の反力制御回路(制御回路)
42A…第2の反力制御回路(制御回路)
50…転舵制御装置
51A…第1の転舵制御回路(制御回路)
52A…第2の転舵制御回路(制御回路)
60…操舵制御装置
61…車両用電源システム
70…電源装置
71…主電源
81…第1の電源装置
82…第2の電源装置
L11A…第1の電源線(給電経路)
L11B…第2の電源線(給電経路)
L12A…第3の電源線(給電経路)
L12B…第4の電源線(給電経路)
L13A…第5の電源線(給電経路)
L13B…第6の電源線(給電経路)
L14A…第7の電源線(給電経路)
L14B…第8の電源線(給電経路)