(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078812
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】カンゾウエキス製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240604BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191377
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】513234743
【氏名又は名称】宏輝システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】吉川 展司
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018MD42
4B018MD63
4B018MF01
4B117LC04
4B117LG18
4B117LK06
4B117LP01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】グリチルリチン酸の含量を低減してグリチルリチン酸による副作用の恐れがなく且つリクイリチン等フラボノイドを高濃度含むカンゾウの抽出方法、カンゾウ抽出物の精製方法、及びカンゾウ精製物を含む食品を提供する。
【解決手段】本発明のカンゾウの抽出方法は、カンゾウ地下部を、塩酸、硫酸若しくは酢酸からなる鉱酸、又は有機酸より選択される1種の酸希釈液に接触させる工程を含む。カンゾウ抽出物の精製方法は、カンゾウ抽出物を、合成吸着樹脂カラムに通導する工程、リクイリチンを吸着させる工程、樹脂に吸着したリクイリチンをアルコールにて溶出する工程、及びアルコールを留去した抽出物を取得する工程を更に含む。カンゾウ精製物を含む、錠剤あるいはカプセル剤の形態である食品又は飲料とすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンゾウ地下部を、塩酸、硫酸もしくは酢酸からなる鉱酸、または有機酸より選択される1種の酸希釈液に接触させる工程を含む、グリチルリチン酸を低濃度、およびリクイリチンを高濃度含むカンゾウの抽出方法。
【請求項2】
前記酸希釈液の酸濃度が、0.05~1Nである、請求項1に記載の抽出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の抽出方法によって得られたカンゾウ抽出物を、合成吸着樹脂カラムに通導する工程、リクイリチンを吸着させる工程、樹脂に吸着したリクイリチンをアルコールにて溶出する工程、およびアルコールを留去した抽出物を取得する工程をさらに含む、カンゾウ抽出物の精製方法。
【請求項4】
請求項3に記載のカンゾウ精製物を含む、錠剤あるいはカプセル剤の形態である食品。
【請求項5】
前記酸希釈液が、水にて希釈した食酢(3~10倍)である、請求項1または2に記載の抽出方法または、請求項3に記載の精製方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法によって得られたカンゾウ抽出物またはカンゾウ精製物を含む、飲料。
【請求項7】
請求項5に記載の方法によって得られたカンゾウ抽出物またはカンゾウ精製物を封入した軟カプセルを含む、食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリチルリチン酸の含量を低減し、リクイリチン等フラボノイドを主成分とするカンゾウエキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マメ科カンゾウ属植物(Glycyrrhiza uralensis, G. glabraあるいはG. inflataなど)の地下部には、古くから医薬品として利用されてきたグリチルリチン酸(含有率:1~6%)に加え、様々な薬効が期待されるリクイリチン(含有率:0.1~1%)を始めとするフラボノイドが含まれている。これまで、カンゾウ属植物の利用に際しては、漢方薬向けでは冷水あるいは温水により、グリチルリチン酸の生産向けではアルコールや希アンモニア水などにより、それぞれ抽出が行われてきた。このような抽出液には地下部に含まれる成分含有率を反映したグリチルリチン酸やリクイリチンが含まれている。
【0003】
ところで、リクイリチンは、カンゾウ地下部に含まれる代表的なフラボノイドであり、種々の生物活性が報告されてきている(非特許文献1)。
リクイリチン、あるいはリクイリチンを主成分とする抽出物をカンゾウ地下部から取得する場合、従来からのカンゾウ地下部からの抽出方法に基づいた抽出物(非特許文献2-4)、あるいはグリチルリチン酸製造後の残渣からの再抽出・精製が行われてきた。
ところが、上記材料からリクイリチンを選択的に精製、あるいはそれを主成分とするエキスを製するには、抽出物に対する種々の溶媒分画、カラムクロマトグラフィーなど、手間のかかる工程を施さなくてはならなかった(非特許文献5および6,特許文献1)。取り分け、食品を用途とする製造工程では使用できる溶媒や試薬に制限があるため、これらの制限を満足することは容易ではない。
そのため、リクイリチンを目的物質とする場合に適した出発原料となり得る、グリチルリチン酸低含有抽出物、あるいはリクイリチンを主成分とする抽出物を取得するための効率的な製法が求められている。
【0004】
また、グリチルリチン酸はカンゾウの主成分であるが、そもそも偽アルドステロン症を引き起こすことがあるため、リクイリチンの薬効に基づく医薬品あるいは食品を目的とするカンゾウ抽出物を利用する場合には、グリチルリチン酸の含有率は低い、あるいは存在しないことが望ましいので、上記のリクイリチンを主成分とする抽出物が有用である事は明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Qin et al. “Pharmacological activities and pharmacokinetics of liquiritin: A review” J. Ethnopharmacology 293 (2022) 115257
【非特許文献2】厚生労働省第十八改正日本薬局方,20-21頁,製剤総則[4]生薬関連製剤各条 生薬関連製剤 1.エキス剤 (2)製法
【非特許文献3】厚生労働省第十八改正日本薬局方,1909-1910頁,医薬品各条 生薬等 カンゾウエキス 製法
【非特許文献4】厚生労働省第十八改正日本薬局方,1910-1911頁, 医薬品各条 生薬等 カンゾウ粗エキス 製法
【非特許文献5】M. Tien et al. ”Simultaneous Extraction and Separation of Liquiritin,Glycyrrhizic Acid,and Grabridin from Licorice Root with Analytical and Preparative Chromatography” Biotechnology and Bioprocess Engineering 13 (2008) 671-676
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の課題は、グリチルリチン酸含有量の低いカンゾウエキス製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために、カンゾウ地下部からの抽出に際して、カンゾウ地下部が含有するグリチルリチン酸の抽出率を下げつつ、リクイリチンの抽出率を維持出来る可能性のある抽出溶媒の構成に関して、鋭意検討した。取り分け、カンゾウ地下部において、グリチルリチン酸は1価あるいは2価の金属塩の形態で存在していることを考慮すると、通常カンゾウ地下部からの抽出には使用されない希塩酸や希酢酸などの酸性水溶液はグリチルリチン酸の溶解度が非常に低いので、抽出率の低さが予想された。そこで、希塩酸や希酢酸などの酸性水溶液を抽出に使用したところ、グリチルリチン酸抽出率は抑制されているものの、リクイリチンは充分抽出されることを見出し、さらにそれら抽出液そのまま、あるいは酸を選択的に除去する工程を施すことで、本発明を完成した。
【0009】
またその過程において、食酢を希釈した抽出液を用いても、希塩酸や希酢酸を使用する場合と同レベルのリクイリチン抽出効率を確保出来ることも見出した。それにより、酸除去工程を施すことなく、カンゾウ地下部からの抽出物をそのまま飲用出来ることも分かった。以上のようなカンゾウ地下部からの抽出を行った事例は、既存の非特許情報や特許情報では見いだせていない。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1]塩酸、硫酸あるいは酢酸からなる鉱酸あるいは有機酸群より選択される1種の酸水希釈液により、カンゾウ地下部から、グリチルリチン酸を低濃度、リクイリチンを高濃度含むカンゾウ抽出物を取得する抽出方法。
[2] [1]に記載の塩酸、硫酸あるいは酢酸からなる鉱酸あるいは有機酸群より選択される1種の酸希釈液の酸濃度が0.05~1Nであるカンゾウ抽出物を取得する抽出方法。
[3][2]に記載の酸濃度が0.05~1Nであるカンゾウ抽出物を汎用合成吸着樹脂(三菱ケミカル製HP‐20等)カラムに通導することにより、リクイリチンなどを吸着させる一方、酸は通過させ、さらに樹脂に吸着したリクイリチンなどをエタノールなどのアルコールにて溶出し、アルコールを留去した抽出物を取得する精製方法。
[4][3]に記載のカンゾウ抽出物を含む錠剤あるいはカプセル剤である食品。
[5]水にて希釈した食酢(3~10倍)にて抽出することにより、そのままの飲用が可能であるリクイリチンを主成分とするカンゾウ抽出物を取得する方法。
[6][5]に記載のカンゾウ抽出物をそのまま、あるいは希釈・濃縮して製する飲料水。
[7][5]に記載のカンゾウ抽出物の濃縮物を軟カプセル剤とした食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、グリチルリチン酸含有率が低く、リクイリチン含有率の高いカンゾウ抽出物を得ることができ、それを利用した医薬品、医薬部外品、化粧品あるいは食品添加物を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、リクイリチンを高濃度かつグリチルリチン酸を低濃度含有するカンゾウ抽出物は、カンゾウ属(Glycyrrhiza)に属する植物の地下部から希釈された鉱酸あるいは有機酸によって抽出されたものである。
【0013】
ただし、塩酸や硫酸などの鉱酸を利用する場合には、そのまま濃縮あるいは服用することができない。そのため、抽出後に引き続き、汎用合成吸着樹脂カラム(三菱ケミカル製HP‐20等)に通導することにより、リクイリチンなどを樹脂に吸着させつつ、酸は通過させ、その後樹脂からアルコール、例えばエタノールによって溶出する画分を使用する。
【0014】
一方、食酢希釈液を利用する場合は、抽出液をそのまま、あるいは濃縮・希釈して服用することが出来る。
【0015】
本発明の剤の用途
用途としては、医薬品、医薬部外品、化粧品あるいは食品等が挙げられる。ただし、この場合の適用対象としては、望ましくはヒトである。
【0016】
本発明の剤の形態は、特に限定されず、本発明の剤の用途に応じて、各用途において通常使用される形態を取ることが出来る。
【0017】
形態としては、用途が医薬である場合は、経口剤を始め、多様な形態が考慮される。化粧品の場合は、一般のカンゾウ抽出物と同様、様々な剤形のものへの添加が可能である。食品の場合もカンゾウ抽出物と同様の形態での添加が可能である。特に、希釈食酢による抽出液の場合は、通常のカンゾウ抽出物とは異なり、強い甘味を有するグリチルリチン酸含有率が低いので、特段の矯味措置あるいは希釈などを施すことなく、そのままドリンク剤としての服用も可能である。また、更に風味を良くするため、あるいは健康増進を目的とするために、例えば果汁、コラーゲン、ビタミン類等の成分を追加することも可能である。
【0018】
本発明のリクイリチンを主成分とするカンゾウ抽出物の服用量は、10~200mg/日/ヒト好ましくは、50~100mg/日/ヒトである。一方、希釈した食酢による抽出液の場合は、抽出原料相当として、0.5~5g/日/ヒト好ましくは、1g~3g/日/ヒトである。
【実施例0019】
ウラルカンゾウ地下部乾燥品からのリクイリチンを主成分とするカンゾウ抽出物の製造方法は、以下の通りである。
すなわち、ウラルカンゾウ地下部乾燥品150gを、1.5Lの0.1N塩酸を入れた5Lのガラスビーカーに投入する。その後、2時間室温にて撹拌を行う。
引き続き、この抽出液を濾紙にて吸引濾過、濾液約1.3Lを得る。この濾液を、内径3cmのガラス製カラムに長さ20cmで充填した三菱ケミカル製HP-20合成樹脂吸着剤に通導する。その後、水1Lを通導して樹脂から塩酸を除去する。次いでエタノール1Lを通導すると、樹脂カラムに吸着したカンゾウ由来成分が溶出した。この抽出液を、逆相シリカゲルを固定相とする分析カラム(直径5mm×長さ5cm、粒径2ミクロン)を装着した高速液体クロマトグラフィー(移動相アセトニトリル:リン酸水溶液混液)にて分析した結果、下表の成分を含有することが分かり、リクイリチンを主成分とするカンゾウ抽出液が得られた。
【0020】
食酢(酢酸4.2%含有)を水で7倍に希釈した溶液200mlをビーカーに入れ、ウラルカンゾウ6gを投入し、2時間の撹拌による抽出を行った。この抽出液を濾紙にて吸引濾過し、濾液約170mlを得た。この抽出液を高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、下表のように、グリチルリチン酸濃度が低く、リクイリチンを主成分とする抽出液であることが分かった。