(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078825
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】コネクタおよびコネクタ製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 13/42 20060101AFI20240604BHJP
H01R 43/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01R13/42 F
H01R43/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191394
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000227995
【氏名又は名称】タイコエレクトロニクスジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】廣田 真一
【テーマコード(参考)】
5E051
5E087
【Fターム(参考)】
5E051BA04
5E051BB04
5E087EE02
5E087EE07
5E087EE11
5E087EE14
5E087FF08
5E087FF13
5E087GG26
5E087GG32
5E087MM05
5E087RR06
5E087RR29
5E087RR43
(57)【要約】
【課題】組付作業性を担保しながら、ハウジング間の係止の強化を図り、電線に過大な負荷が加えられることを避けつつも、電線の変位を抑えることが可能なコネクタの提供。
【解決手段】コネクタ1は、前リテーナ32および後リテーナ33を含む第1ハウジング30と、第1ハウジング30を第1ハウジング30の前側Fから収容する第2ハウジング40とを備える。固定端32Bと固定端33Bとは、支点部34として一体形成されている。支点部34は、前リテーナ32の内向きA1への変位により前側Fに傾いて後リテーナ33を変位させるように弾性変形可能に構成されている。後リテーナ33は、第2ハウジング40に収容されると、第2ハウジング40が後リテーナ33を押す力F1に対する反力F2によって第2ハウジング40に押圧された状態で係止されるとともに、ジャケット22の所定範囲52Rに亘りジャケット22を位置決めする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタ(1)であって、嵌合対象(9)に嵌合される側が前側(F)、反対側が後側(R)であるとすると、
端子(10)と、
前記端子(10)および電線(20)を収容するハウジング本体(31)と、前記ハウジング本体(31)に設けられ前記前側(F)に向けて延在する前リテーナ(32)と、前記ハウジング本体(31)に設けられ前記後側(R)に向けて延在する後リテーナ(33)と、を含む第1ハウジング(30)と、
前記第1ハウジング(30)を前記第1ハウジング(30)の前記前側(F)から収容する第2ハウジング(40)と、を備え、
前記前リテーナ(32)および前記後リテーナ(33)は、弾性変形により、前記第2ハウジング(40)の内側の位置に相当する所定位置(P1,P2)へと、それぞれの固定端(32B,33B)を中心に変位可能に構成され、
前記前リテーナ(32)の固定端(32B)と前記後リテーナ(33)の固定端(33B)とは、支点部(34)として一体形成され、
前記支点部(34)は、前記ハウジング本体(31)の外側(31o)から内側(31i)に向けての前記前リテーナ(32)の変位により前記前側Fに傾いて前記後リテーナ(33)を変位させるように弾性変形可能に構成され、
前記後リテーナ(33)は、
前記第2ハウジング(40)に収容されると、前記第2ハウジング(40)が前記後リテーナ(33)を押す力(F1)に対する反力(F2)によって前記第2ハウジング(40)に押圧された状態で係止されるとともに、
前記電線(20)の前記後側(R)に引き出される芯線(21)を覆うジャケット(22)の長さ方向(z)に延在する所定の範囲(52R)に亘り前記ジャケット(22)の外周部(22A)に対向することで前記ジャケット(22)を位置決めする、コネクタ(1)。
【請求項2】
前記前リテーナ(32)は、無負荷状態(NL)のとき、前記固定端(32B)から自由端(32F)に向かうにつれて前記ハウジング本体(31)から離れるように、前記コネクタ(1)が前記嵌合対象(9)に嵌合される嵌合方向(z)に対して傾斜し、
前記後リテーナ(33)は、無負荷状態(NL)のとき、前記固定端(33B)から自由端(33F)に向かうにつれて前記ハウジング本体(31)から離れるように、前記嵌合方向(z)に対して傾斜している、
請求項1に記載のコネクタ(1)。
【請求項3】
前記前リテーナ(32)は、前記端子(10)を前記ハウジング本体(31)に係止する前側係止部(32A)を備え、
前記後リテーナ(33)は、前記第2ハウジング(40)に対して押圧された状態で係止される後側係止部(51)と、前記ジャケット(22)の外周部(22A)と前記第2ハウジング(40)との間に介在する位置決め部(52)と、を備える、
請求項1または2に記載のコネクタ(1)。
【請求項4】
前記後側係止部(51)は、前記後リテーナ(33)の自由端(33F)の近傍に配置され、
前記位置決め部(52)は、前記後側係止部(51)よりも前記前側(F)に配置されている、
請求項3に記載のコネクタ(1)。
【請求項5】
前記第1ハウジング(30)は、
前記支点部(34)としての第1支点部(341)および前記支点部(34)としての第2支点部(342)と、
前記第1支点部(341)にいずれも対応する前記前リテーナ(32)としての第1前リテーナ(321)および前記後リテーナ(33)としての第1後リテーナ(331)と、
前記第2支点部(342)にいずれも対応する前記前リテーナ(32)としての第2前リテーナ(322)および前記後リテーナ(33)としての第2後リテーナ(332)と、を備え、
前記ジャケット(22)は、前記第1後リテーナ(331)と前記第2後リテーナ(332)との間に挟んで配置される、
請求項1または2に記載のコネクタ(1)。
【請求項6】
前記コネクタ(1)は、前記ハウジング本体(31)に個別に収容される複数の前記端子(10)を備え、
前記電線(20)は、前記端子(10)に個別に対応する複数の前記芯線(21)と、前記複数の芯線(21)を覆う単一の前記ジャケット(22)と、を含み、
前記第1前リテーナ(321)は、前記複数の端子(10)の一部を前記ハウジング本体(31)に係止する第1前側係止部(321A)を備え、
前記第2前リテーナ(322)は、残りの前記端子(10)を前記ハウジング本体(31)に係止する第2前側係止部(322A)を備える、
請求項5に記載のコネクタ(1)。
【請求項7】
コネクタ(1)の製造方法であって、
前記コネクタ(1)の嵌合対象(9)に嵌合される側が前側(F)、反対側が後側(R)であるとすると、
前記コネクタ(1)は、前記前側(F)で前記嵌合対象(9)の端子(10)に嵌合される端子(10)と、前記端子(10)および電線(20)を収容するハウジング本体(31)と、前記ハウジング本体(31)に設けられ前記前側(F)に延在する前リテーナ(32)と、前記ハウジング本体(31)に設けられ前記後側(R)に延在する後リテーナ(33)と、を含む第1ハウジング(30)と、前記第1ハウジング(30)を前記第1ハウジング(30)の前記前側(F)から収容する第2ハウジング(40)と、を備え、
前記前リテーナ(32)および前記後リテーナ(33)は、弾性変形により、前記第2ハウジング(40)の内側のそれぞれの位置に相当する所定位置(P1,P2)へと、それぞれの固定端(32B,33B)を中心に変位可能に構成され、
前記前リテーナ(32)の固定端(32B)と前記後リテーナ(33)の固定端(33B)とは、支点部(34)として一体形成され、
前記製造方法は、
前記ハウジング本体(31)の外側(31o)から内側(31i)に向けて前記前リテーナ(32)を変位させると、前記支点部(34)が前記前側(F)に傾いた状態に弾性変形することに伴い、前記後リテーナ(33)が前記内側(31i)から前記外側(31o)に向けて変位する第1ステップ(S1)と、 前記前リテーナ(32)を前記第2ハウジング(40)に収容する第2ステップ(S02)と、
前記後リテーナ(33)を前記第2ハウジング(40)に収容する第3ステップ(S03)と、を含み、
前記第3ステップでは、
前記後リテーナ(33)を前記第2ハウジング(40)に収容することで、前記第2ハウジング(40)が前記後リテーナ(33)を押す力(F1)に対する前記後リテーナ(33)の反力(F2)によって前記後リテーナ(33)を前記第2ハウジング(40)に押圧するとともに、前記電線(20)の前記後側(R)に引き出される芯線(21)を覆うジャケット(22)の長さ方向(z)に延在する所定の範囲(52R)に亘り前記後リテーナを前記ジャケット(22)の外周部(22A)に対向させて前記ジャケット(22)を位置決めする、
コネクタ(1)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気コネクタと、電気コネクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雌型の端子を保持し、端子に接続された電線が引き出されるコネクタが、例えば車載電子機器の通信の用途に使用されている(例えば、特許文献1,2)。
特許文献1に記載のコネクタのハウジングには、端子の離脱を防ぐためにリテーナが設けられている。リテーナは、ハウジングに収容されている端子に向けてヒンジを中心に揺動し、ハウジングの係合部と係合することで端子をハウジングに保持する。
特許文献2に記載のコネクタに備わるリテーナは、電線を所定の向きに引き出す電線カバーと一体に形成され、端子と電線とを保持する。そのリテーナがヒンジを中心に揺動すると、リテーナにより端子および電線が覆われ、リテーナの基端側の突起がハウジングに係合するとともに、リテーナの先端側の突起が電線に食い込む。
【0003】
リテーナが設けられているハウジングの外側には、相手コネクタのハウジングと係合するロック部を設けるため、また、シール部材を設けてコネクタに防水性を持たせるため、別体のハウジングが配置される場合がある。この場合、コネクタは、リテーナが設けられる内側ハウジングと、内側ハウジングに収容される端子および電線と、外側ハウジングとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-129492号公報
【特許文献2】特開2006-164843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の構造によると、リテーナにより端子はハウジングに保持されるが、端子に圧着されている電線はハウジングに保持されていない。そのため、輸送時や使用時に振動や衝撃等の外力が加えられると、端子およびハウジングに対して電線が変位したり、端子に接続された芯線に対して電線のジャケットが変位したりしてしまう。こうした電線の変位により、コネクタを介した高速伝送・高周波伝送における伝送特性が変化する可能性がある。
特許文献2に記載の構造によると、電線はリテーナと一体の電線カバーにより保持される。しかしながら、電線カバーに形成されている突起が電線に食い込むので、電線に過大な応力を発生させるおそれがある。
【0006】
コネクタの伝送特性を維持するため、適宜な部材を用いて電線の変位を規制することは可能である。例えば、端子と電線のジャケットとを第1の固定部材により結合し、第1の固定部材を例えば環状のゴム部材等の第2の固定部材によりハウジングに固定するとよい。
しかしながら、固定用の部材が追加されることで部品点数が増加するため、ハウジング、端子、および固定用部材を組み付ける作業工程が複雑となる。
【0007】
コネクタが内側ハウジングに加えて外側ハウジングを備えている場合でも、部品点数は出来る限り抑えたい。併せて、振動・衝撃に対する内側ハウジングおよび外側ハウジングの係止の強化が期待される。
【0008】
以上より、本発明は、組付作業性を担保しつつ、複数のハウジングを備える場合はハウジング間の係止の強化を図り、電線に過大な負荷が加えられることを避けながら、電線の変位を規制することが可能なコネクタと、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、コネクタ(1)であって、嵌合対象(9)に嵌合される側が前側(F)、反対側が後側(R)であるとすると、
端子(10)と、
端子(10)および電線(20)を収容するハウジング本体(31)と、ハウジング本体(31)に設けられ前側(F)に向けて延在する前リテーナ(32)と、ハウジング本体(31)に設けられ後側(R)に向けて延在する後リテーナ(33)と、を含む第1ハウジング(30)と、
第1ハウジング(30)を第1ハウジング(30)の前側(F)から収容する第2ハウジング(40)と、を備え、
前リテーナ(32)および後リテーナ(33)は、弾性変形により、第2ハウジング(40)の内側の位置に相当する所定位置(P1,P2)へと、それぞれの固定端(32B,33B)を中心に変位可能に構成され、
前リテーナ(32)の固定端(32B)と後リテーナ(33)の固定端(33B)とは、支点部(34)として一体形成され、
支点部(34)は、ハウジング本体(31)の外側から内側に向けての前リテーナ(32)の変位により前側Fに傾いて後リテーナ(33)を変位させるように弾性変形可能に構成され、
後リテーナ(33)は、
第2ハウジング(40)に収容されると、第2ハウジング(40)が後リテーナ(33)を押す力(F1)に対する反力(F2)によって第2ハウジング(40)に押圧された状態で係止されるとともに、
電線(20)の後側(R)に引き出される芯線(21)を覆うジャケット(22)の長さ方向(z)に延在する所定の範囲(52R)に亘りジャケット(22)の外周部(22A)に対向することでジャケット(22)を位置決めする。
【0010】
また、本発明は、コネクタ(1)の製造方法であって、
コネクタ(1)の嵌合対象(9)に嵌合される側が前側(F)、反対側が後側(R)であるとすると、
コネクタ(1)は、前側(F)で嵌合対象(9)の端子(10)に嵌合される端子(10)と、端子(10)および電線(20)を収容するハウジング本体(31)と、ハウジング本体(31)に設けられ前側(F)に向けて延在する前リテーナ(32)と、ハウジング本体(31)に設けられ後側(R)に向けて延在する後リテーナ(33)と、を含む第1ハウジング(30)と、第1ハウジング(30)を第1ハウジング(30)の前側(F)から収容する第2ハウジング(40)と、を備え、
前リテーナ(32)および後リテーナ(33)は、弾性変形により、第2ハウジング(40)の内側のそれぞれの位置に相当する所定位置(P1,P2)へと、それぞれの固定端(32B,33B)を中心に変位可能に構成され、
前リテーナ(32)の固定端(32B)と後リテーナ(33)の固定端(33B)とは、支点部(34)として一体形成され、
製造方法は、
ハウジング本体(31)の外側(31o)から内側(31i)に向けて前リテーナ(32)を変位させると、支点部(34)が前側(F)に傾いた状態に弾性変形することに伴い、後リテーナ(33)が内側(31i)から外側(31o)に向けて変位する第1ステップ(S1)と、
前リテーナ(32)を第2ハウジング(40)に収容する第2ステップ(S02)と、
後リテーナ(33)を第2ハウジング(40)に収容する第3ステップ(S03)と、を含み、
第3ステップでは、
後リテーナ(33)を第2ハウジング(40)に収容することで、第2ハウジング(40)が後リテーナ(33)を押す力(F1)に対する後リテーナ(33)の反力(F2)によって後リテーナ(33)を第2ハウジング(40)に押圧するとともに、電線(20)の後側(R)に引き出される芯線(21)を覆うジャケット(22)の長さ方向(z)に延在する所定の範囲(52R)に亘り後リテーナをジャケット(22)の外周部(22A)に対向させてジャケット(22)を位置決めする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前リテーナ(32)の変位に連動して後リテーナ(33)がハウジング本体(31)の内側(31i)から外側(31o)に向けて変位するため、後リテーナ(33)の反力(F2)を増加させて第1ハウジング(30)と第2ハウジング(40)との係止を強化することができる。併せて、後リテーナ(33)により、電線(20)のジャケット(22)に過大な応力が発生することを避けながら、ジャケット(22)を長さ方向の所定範囲(52R)に亘り位置決めすることで、振動等の外力によるジャケット(22)の移動を規制することができる。
【0012】
第1ハウジング(30)は、第2ハウジング(40)への係止やジャケット(22)の位置決めのために連携する前リテーナ(32)および後リテーナ(33)を備え、後リテーナ(33)には、第1ハウジング(30)を第2ハウジング(40)に係止する機能と、端子(10)や芯線(21)に対するジャケット(22)の径方向および長さ方向への移動を規制する位置決め機能とが集約されている。つまり、コネクタ(1)に必要な機能が集約された第1ハウジング(30)をコネクタ(1)が備えていることで、部品点数を抑えつつ、組付作業性を担保することができる。
以上より、本発明によれば、部品点数を抑えることで組付作業性を担保しつつ、ハウジング(30,40)間の係止の強化を図り、電線(20)に過大な負荷が加えられることを避けながら、電線(20)の変位の規制により、伝送特性等の特性を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は本発明の実施形態に係るコネクタの側面図である。(b)は(a)のIb矢視による前面図である。(c)は(a)のIc矢視による電線の横断面図である。
【
図2】
図1(a)に示すコネクタの分解斜視図であり、端子および電線と、インナーハウジングと、アウターハウジングとを示している。
【
図3】(a)は(b)のIIIa矢視によるインナーハウジングの左側面図である。(b)は
図2のIIIb矢視によるインナーハウジングの平面図である。(c)は(b)のIIIc矢視によるインナーハウジングの右側面図である。
【
図4】(a)は
図3(b)のIVa矢視による前面図である。(b)は
図3(b)のIVb矢視による後面図である。(c)は(a)のIVc線断面図である。
【
図5】(a)は
図1(b)のVa-Va線断面図である。(b)は
図4(a)のVb-Vb線断面図である。
【
図6】
図6(a)から
図8までは、
図1に示すコネクタの構成部材の組付け手順を説明するための図である。
図6(a)は前リテーナがインナーハウジングの本体に係合された状態を示す図である。
図6(b)は上側の後リテーナと下側の後リテーナとが仮係止された状態を示す図である。
【
図7】(a)はアウターハウジングにインナーハウジングが収容される前の状態を示す図である。(b)は前リテーナの収容に続いて後リテーナが収容された状態を示す図である。
【
図8】アウターハウジングの二次係止用リテーナによりインナーハウジングが係止された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
〔全体構成〕
図1(a)および
図2に示すコネクタ1は、電線20が接続される雌型の端子10と、端子10および電線20を収容する第1ハウジングとしてのインナーハウジング30と、端子10、電線20、およびインナーハウジング30の組付体を収容する第2ハウジングとしてのアウターハウジング40とを備えている。
【0015】
コネクタ1は、図示しない雄型の端子を備える嵌合対象としての相手コネクタ9(
図1(a))と嵌合方向zに嵌合される。
本明細書に記載のコネクタ1について、相手コネクタ9に嵌合される側を前側Fと定義し、前側Fの反対側を後側Rと定義する。嵌合方向zは前後方向に相当する。嵌合方向zに対して直交する左右方向xと、嵌合方向zおよび左右方向xの両方に対して直交する上下方向yは、各図に従う。
端子10は前側Fで、挿入口301A(
図1(b))を通じて端子10の内側に挿入される相手コネクタ9の端子と電気的に接続される。端子10の後側Rには電線20が嵌合方向zに沿って引き出される。
コネクタ1の出荷時においては、
図1(a)および
図2に電線20を想像線(二点鎖線)で示しているように、コネクタ1は必ずしも電線20を備えていない。電線20は、出荷後に端子10に接続することができる。
【0016】
〔端子および電線の構成〕
端子10は、
図2および
図5(a)に示すように、端子部11および圧着部12を備えている。端子10は、銅等の金属材料からなる板材の打抜きおよび折り曲げにより一体に形成されている。
端子部11は、角筒状に形成され、相手コネクタ9の端子に押圧される接点ばね11Aと、インナーハウジング30に係止されるランス11Bとを備えている。
圧着部12は、電線20の芯線21の導体に圧着される芯線圧着部12Aと、芯線21を覆う絶縁被覆21Bに圧着される被覆圧着部12Bとを備えている。
【0017】
挿入口301A(
図1(b))の数からわかるように、インナーハウジング30には、例えば、端子10がそれぞれ配置される4つのキャビティCが形成されている。コネクタ1の用途に応じて、使用されるキャビティCの数が異なる。
本実施形態のコネクタ1は、例えば、USB2.0(Universal Serial Bus 2.0)規格の接続に用いられるため、キャビティCにそれぞれ配置される4つの端子10を備えている。
【0018】
4つの端子10には、個別に芯線21が接続される。電線20は、
図1(c)および
図2に示すように、端子10と同数の4つの芯線21と、これらの芯線21を覆う単一のジャケット22とを備えている。
芯線21は、銅線等の導体21Aが絶縁被覆21Bにより覆われてなる。絶縁被覆21Bは、芯線圧着部12Aに圧着される範囲に亘り導体21Aから剥ぎ取られている。
ジャケット22は、絶縁性の樹脂材料から筒状に形成されている。4つの芯線21は、2本ずつ撚り線をなし、同一のジャケット22に通されている。
【0019】
コネクタ1が例えばEthernet規格の接続に用いられる場合、コネクタ1は2つの端子を備えている。この場合、電線20は2つの芯線21と、これらの芯線21を覆う単一のジャケット22とを備えている。
【0020】
ジャケット22の端面22Bから芯線21が露出している長さL1(所謂、よりとき長)は、コネクタ1の伝送特性に関係する。コネクタ1の所定の通信性能(特に高速通信性能)を満足するため、よりとき長は規定の長さL1以下であることが要求される。
なお、「よりとき長」は、ジャケット22から露出し、撚り線が解かれた状態の芯線21の長さ(length after uncoil twisted wire, uncoiled wire length)を意味する。
【0021】
〔インナーハウジングの構成〕
図2、
図3(a)~(c)、および
図5(a)、(b)に示すように、インナーハウジング30は、端子10および電線20を収容するハウジング本体31と、ハウジング本体31に設けられ固定端32Bから前側Fに延在する前リテーナ32と、ハウジング本体31に設けられ固定端33Bから後側Rに延在する後リテーナ33とを備えている。
インナーハウジング30は、絶縁性の樹脂材料から射出成形により一体に形成されている。
【0022】
(リテーナの配置)
まず、前リテーナ32および後リテーナ33の配置について説明する。
前リテーナ32および後リテーナ33は、ハウジング本体31に設けられている支点部としてのヒンジ34に支持されている。ヒンジ34は、前リテーナ32の固定端32Bと後リテーナ33の固定端33Bとが一体形成されてなる。つまり、ヒンジ34は、固定端32Bおよび固定端33Bを含む
第1前リテーナ321および第1後リテーナ331は、ハウジング本体31の上部に設けられている同一の第1ヒンジ341に固定されている。
第2前リテーナ322および第2後リテーナ332は、ハウジング本体31の下部に設けられている同一の第2ヒンジ342に固定されている。
【0023】
「前リテーナ32」と記載される場合、第1前リテーナ321と第2前リテーナ322とは区別されていない。同様に、「後リテーナ33」と記載される場合、第1後リテーナ331と第2後リテーナ332とは区別されていない。
また、「ヒンジ34」と記載される場合、第1ヒンジ341と第2ヒンジ342とは区別されていない。
【0024】
前リテーナ32および後リテーナ33に負荷が加えられていないときの前リテーナ32および後リテーナ33の状態(無負荷状態NL)は、例えば、
図2および
図3(a)~(c)に示されている。このとき、前リテーナ32の自由端32Fは、ヒンジ34の嵌合方向zの位置に対して前側Fに配置されている。後リテーナ33の自由端33Fは、ヒンジ34の嵌合方向zの位置に対して後側Rに配置されている。
【0025】
前リテーナ32は、弾性変形により、アウターハウジング40の内側の位置に相当する所定位置P1へと、固定端32Bを中心にハウジング本体31の外側31oから内側31iに向けて変位可能に構成されている。同様に、後リテーナ33も、弾性変形により、アウターハウジング40の内側の位置に相当する所定位置P2へと、固定端33Bを中心にハウジング本体31の外側31oから内側31iに向けて変位可能に構成されている。アウターハウジング40の内側にインナーハウジング30が収容されている状態で、後リテーナ33は、ハウジング本体31の後端31Bを超えて後側Rに延びている。
【0026】
(ハウジング本体の構成)
図2~
図5(b)を参照し、ハウジング本体31の構成を説明する。ハウジング本体31は、端子10が配置される前側領域31Fと、芯線21およびジャケット22が配置される後側領域31Rとを備えている。
前側領域31Fには、少なくとも端子10の数以上の数のキャビティCが嵌合方向zに沿って形成されている。本実施形態のキャビティCは、
図4(b)、
図5(a)に示すように、左右方向xに2つ配置されるとともに、上下方向yにも2つ配置される。
キャビティCの数は、4つには限られない。前側領域31Fには、規格等に応じて1つ以上のキャビティCが形成される。
【0027】
ハウジング本体31は、嵌合面をなす前壁301と、上壁302と、下壁303と、左壁304と、右壁305とを備えている。
前壁301には、キャビティCと同数の挿入口301Aが形成されている。
【0028】
上壁302には、上ストッパ302Aと、端子10を係止する係止壁302Bと、前リテーナ32を係止する係止凹部302Cと、第1ヒンジ341とが形成されている。
上ストッパ302Aの嵌合方向zに対して直交する壁W(
図5(b))は、
図5(a)に示すようにアウターハウジング40にインナーハウジング30が挿入されるとアウターハウジング40のストッパ壁401Aに突き当てられる。
【0029】
係止壁302B(
図5(b))は、上壁302を厚さ方向に貫通する開口部302Dの前向きの壁に相当する。上壁302には、左右方向xに並ぶキャビティCと同数の開口部302Dが形成されている。ハウジング本体31の後側RからキャビティCに端子10が前壁301に突き当たるまで挿入されると、端子10のランス11Bが係止壁302Bに前側Fから係止されるので、インナーハウジング30から端子10の後側Rへの離脱が規制される。
【0030】
係止凹部302Cは、係止壁302Bよりも後方に位置し、上壁302を貫通する開口と、左壁304の切欠304N(
図3(c))と、右壁305の切欠305N(
図3(a))とを含んで構成されている。
【0031】
第1ヒンジ341は、
図2および
図5(b)に示すように、略直方体状に形成され、キャビティCの後端CBの近傍で上壁302からハウジング本体31の外側に立ち上がるとともに、平面視において嵌合方向zよりも左右方向xに長い矩形状の領域に亘り延在している。上壁302の後端bは、第1ヒンジ341の近傍に位置している。
【0032】
第1ヒンジ341よりも後方には、上壁302が存在していないため、第1後リテーナ331によって塞がれる開口302E(
図2)が形成されている。ハウジング本体31の後側領域31Rは、下壁303、左壁304、および右壁305からなる。
第1後リテーナ331、下壁303、左壁304、および右壁305の内側に形成される電線キャビティWC(
図5(a))には、各端子10から引き出された芯線21と、単一のジャケット22とが配置される。
【0033】
仮に、複数の芯線21のうちの一部の芯線21には第1のジャケットが設けられ、残りの芯線21には第2のジャケットが設けられる場合には、電線キャビティWCに複数のジャケット22が配置されることが許容される。その場合は、第1のジャケットと第2のジャケットとが図示しない結束部材により一体化される。
【0034】
ハウジング本体31の下側の構成は、上側の構成とほぼ同様に、上下対称に構成されていることが好ましい。下壁303、下壁303に設けられる第2ヒンジ342、第2前リテーナ322、および第2後リテーナ332は、上壁302、第1ヒンジ341、第1前リテーナ321、および第1後リテーナ331とほぼ同様に、上下対称に構成されている。
前側領域31Fにおける下側のキャビティCに収容される端子10は、上側の2つのキャビティCに収容される端子10に対して上下対称に配置される。
【0035】
左壁304には、
図2および
図3(c)に示すように、嵌合方向zに延びる突条304Aと、突条304Aの後側Rに隣接する左ストッパ304Bとが形成されている。アウターハウジング40の内部には、突条304Aに対応する図示しないガイド溝と、左ストッパ304Bに対応する図示しないストッパ壁とが形成されている。左ストッパ304Bは、係止凹部302Cよりも後側Rで、かつ、第1ヒンジ341よりも前側Fに配置されている。
【0036】
左壁304と右壁305との間の左右方向xの寸法は、ジャケット22の外径に余裕を加えた寸法に設定される。左壁304とアウターハウジング40の内壁との間には、左壁304の表面から突出する複数の凸部304C,304D,304E,304F,304G,304H(
図3(a)~(c))が配置される。凸部304Eは第1ヒンジ341の左端をなし、凸部304Fは第2ヒンジ342の左端をなしている。
【0037】
右壁305には、
図3(a)に示すように、前側Fから後側Rに向けて延在するロック片305Aと、壁305Bと、突条305Cと、切欠305Dと、右壁305の表面とアウターハウジング40の内壁との間に配置される複数の凸部305E,305F,305G,305Hとが形成されている。凸部305Eは第1ヒンジ341の右端をなし、凸部305Fは第2ヒンジ342の右端をなしている。
【0038】
図5(a)に示すように、アウターハウジング40の内側にインナーハウジング30が前側Fから収容されると、アウターハウジング40に設けられているロックビーム46(
図7(a))が、ロック片305Aに係止される。このときロックビーム46は、ロック片305Aよりも前側Fに配置される壁305Bと、ロック片305Aの上側と下側とに配置される突条305Cとに支持される。
【0039】
〔アウターハウジングの構成〕
図1(a)、(b)、
図2、および
図5(a)に示すように、アウターハウジング40は、インナーハウジング30を収容する空間41を囲み、相手コネクタ9と嵌合される前端40Aから、ジャケット22が引き出される後端40Bまで延在している。アウターハウジング40の嵌合方向zの長さは、アウターハウジング40の内側にインナーハウジング30が収容されている状態におけるインナーハウジング30の前壁301から後リテーナ33の後端までの長さに相当する。
アウターハウジング40の前側領域40Fは、相手コネクタ9のハウジングの内側に挿入される。
【0040】
アウターハウジング40の上部には、相手コネクタ9の図示しないロック部が係止されるロックビーム42が設けられている。ロックビーム42は、アウターハウジング40の前側領域40Fの前端40Aに支持され、係止突起421を備えている。ロックビーム42は、係止解除用ノブ422と一体に形成されている。
前側領域40Fは、ロックビーム42を支持する上壁401と、ロックビーム42の左側に配置される左壁402と、ロックビーム42の右側に配置される右壁403と、上壁401に対向する下壁404とを備えている。
インナーハウジング30がアウターハウジング40の内側に収容されると、
図1(a)および(b)に示すように、ハウジング本体31の前壁301と、左壁304および右壁305のそれぞれの一部とがアウターハウジング40から露出する。
【0041】
係止解除用ノブ422の左側および右側には、係止解除用ノブ422を支持するとともに、相手コネクタ9のハウジングと嵌合方向zに対向する壁43,44が形成されている。壁43,44は後端40Bまで延在している。前側領域40Fは、壁43,44よりも前側Fの領域に相当する。
アウターハウジング40の後側領域40Rは、壁43,44と、前側領域40Fから連続する上壁401および下壁404とを備えている。
下壁404には、第2後リテーナ332と係合する係合部451を有した二次係止用のリテーナ45が設けられている。リテーナ45は、下壁404の後端に支持され、前側Fに向けて係合部451まで延びている。
【0042】
いずれも無負荷状態NLにある前リテーナ32および後リテーナ33のそれぞれの自由端32F,33Fをハウジング本体31に向けて押し下げると、アウターハウジング40の後側Rから、アウターハウジング40の内側にインナーハウジング30の全体を収容することができる。
あるいは、前リテーナ32のみを押し下げ、後リテーナ33の自由端33Fはハウジング本体31から離れている状態でアウターハウジング40にインナーハウジング30を挿入した場合でも、後リテーナ33は、アウターハウジング40の内側に入るとアウターハウジング40により押し下げられるので、アウターハウジング40の内側にインナーハウジング30の全体を収容することができる。
【0043】
〔リテーナの構成および作用〕
次に、
図2~
図5(b)を参照し、前リテーナ32および後リテーナ33の詳細な構造およびその作用について説明する。
まず、第1前リテーナ321を例に取り、前リテーナ32の詳細な構成を説明する。第2前リテーナ322は、第1前リテーナ321に対して上下対称に構成されるので、その詳細な説明を省略する。
【0044】
図3(c)に示す無負荷状態NLのとき、第1前リテーナ321は、嵌合方向zに対して傾斜した状態で第1ヒンジ341から自由端32Fまで延びている。このとき自由端32Fは、第1ヒンジ341の位置よりも前方でかつ上方に位置している。自由端32Fには、上述の係止凹部302Cに係止される係止突起321A(第1前側係止部)が設けられている。係止突起321Aは、上側に配置される端子10をハウジング本体31に係止する。
なお、第2前リテーナ322の自由端32Fには、下側に配置される端子10をハウジング本体31に係止する係止突起322A(第2前側係止部)が設けられている。係止突起321A,322Aを「係止突起32A」と総称する。
【0045】
第1前リテーナ321は、ハウジング本体31の上壁302から頂面341Aまで立ち上がる第1ヒンジ341の上側に接続されている。そのため、第1前リテーナ321の固定端32B(
図3(a))は、上壁302の表面302Sからは離れている。これは、第1後リテーナ331の固定端33Bも同様である。
第1前リテーナ321は、所定の板厚(上下方向yの寸法)、所定の幅(左右方向xの寸法)で板状に形成されている。板厚および幅は、第1前リテーナ321が延びている方向において変化していてもよい。例えば、固定端32Bにおける第1前リテーナ321の板厚は、第1前リテーナ321の他の部位と比べて薄い。
【0046】
無負荷状態NLの第1前リテーナ321は、例えば
図5(b)に示すように、ハウジング本体31の外側31oから内側31iに向けて第1ヒンジ341を中心に回転方向に変位させることができる。
ここで、前リテーナ32および後リテーナ33の変位の向きに関し、ヒンジ34を中心に外側31oから内側31iに向かう向きを「内向き」と定義し、矢印A1で示す。また、ヒンジ34を中心に内側31iから外側31oに向かう向きを「外向き」と定義し、矢印A2で示す。
【0047】
第1ヒンジ341は、ハウジング本体31の内向きA1への第1前リテーナ321の変位により前側Fに傾いて第1後リテーナ331を変位させるように弾性変形可能に構成されている。本実施形態の第1ヒンジ341は、側面視(x方向視)において、ハウジング本体31から起立した支柱状に形成されているとともに、左右方向xに延在している。第1ヒンジ341は、嵌合方向zに所定の寸法L2(
図5(b))が与えられている。寸法L2は、固定端32B,33B間の距離に相当する。
図5(b)における第1ヒンジ341およびその近傍の部分拡大図(破線の楕円の内側)に示すように、第1ヒンジ341の厚さtaは、第1前リテーナ321の固定端32Bの厚さtb1、および第1後リテーナ331の固定端33Bの厚さtb2のいずれに対しても厚い。
【0048】
第1前リテーナ321の自由端32Fを上壁302に向けて内向きA1に押し下げながら、第1前リテーナ321を板厚方向に撓ませつつ、係止突起32Aの爪32Nを係止凹部302Cの内側に挿入すると、爪32Nが上壁302に係止される(
図5(b))。このとき、第1前リテーナ321は、上壁302の表面302Sにほぼ沿って嵌合方向zに延出し、第1前リテーナ321の表面は、第1ヒンジ341の頂面341Aとほぼ同一平面上に位置している。
爪32Nが上壁302に係止されると、係止突起32Aは端子部11の後側Rに配置されるので、係止突起32Aにより端子10の後側Rへの離脱が規制される。つまり、端子10は、上述のランス11Bによりハウジング本体31に一次係止されるとともに、係止突起32Aによりハウジング本体31に二次係止される。
【0049】
図3(b)に示すように、第1前リテーナ321の長さ方向の中間部Mは、第1前リテーナ321の固定端32Bおよび自由端32Fと比べて幅が狭いので板厚方向に撓み易い。係止突起32Aが係止凹部302Cに係合されているとき、第1前リテーナ321は、例えば、中間部Mが上壁302の表面に近接するように、全体として下側に凸の形状に撓んでいてもよい。
【0050】
次に、第1後リテーナ331を例に取り、後リテーナ33の詳細な構成を説明する。第2後リテーナ332は、第1後リテーナ331に対して上下対称に構成されるので、その詳細な説明を省略する。
【0051】
第1後リテーナ331は、第1ヒンジ341を介して第1前リテーナ321と連続しており、
図3(c)に示す無負荷状態NLのとき、嵌合方向zに対して傾斜した状態で、第1ヒンジ341から自由端33Fまで延びている。このとき自由端33Fは、第1ヒンジ341の位置に対して第1前リテーナ321とは逆の後側Rに位置するとともに、第1前リテーナ321と同様に第1ヒンジ341よりも上方に位置している。
つまり、第1前リテーナ321と第1後リテーナ331とは、形状は異なっていても、第1ヒンジ341の位置を中心として嵌合方向zに概ね対称に配置されている。
無負荷状態Nの第1前リテーナ321と無負荷状態の第1後リテーナ331とがそれぞれハウジング本体31に対してなす角度θ
F,θ
R(
図3(c))は、同じでも相違していてもよい。
【0052】
第1前リテーナ321、第1ヒンジ341、および第1後リテーナ331の構造に基づけば、
図5(b)に示すように第1前リテーナ321を無負荷状態NLに対して内向きA1に変位させると、第1前ヒンジ341を中心とするモーメントが発生する。このとき第1前ヒンジ341には前側Fのみに、モーメントに比例した応力が作用するので、第1前ヒンジ341は、例えば
図5(b)に示すように、前側Fに傾いた状態に弾性変形する。第1前ヒンジ341の弾性変形に伴い、第1後リテーナ331は、第1前リテーナ321の内向きA1の変位に連動するように、無負荷状態NLの位置に対して外向きA2に変位する。
このとき第1前ヒンジ341は、その基端(ハウジング本体31側)の位置に対して先端(頂面341A側)が前側Fに変位する向きに傾くので、第1後リテーナ331のハウジング本体31に対する傾斜角度がθ
Rからθ
RXへと増加する。
第1ヒンジ341は、ハウジング本体31に一体に結合しており、かつ第1ヒンジ341の厚さtaは、第1後リテーナ331の厚さtb2よりも厚い。そのため、ハウジング本体31の内側31iから外側31oへの外向きの力に対する第1ヒンジ341の剛性は、第1後リテーナ331の外向きA2への力に対する剛性よりも十分に高い。
【0053】
ここで、前リテーナ32および後リテーナ33の静解析結果より、固定端32B,33B間の距離(寸法L2)が十分に大きい場合は、前リテーナ32の変形が後リテーナ33に影響を与えなくなる。その場合は、前リテーナ32を内向きA1に変位させても、後リテーナ33は外向きA2に変位しない。これは、弾性力学におけるサンブナンの原理に基づく。
前リテーナ32および後リテーナ33の応力分布は、前リテーナ32および後リテーナ33のそれぞれの長さ(d1,d2)や厚さに応じて変化する。前リテーナ32および後リテーナ33の形状によって、前リテーナ32の挙動に後リテーナ33を連動させるにあたり許容される寸法L2が変化する。
【0054】
第1ヒンジ341に対して前後対称に配置される第1前リテーナ321と第1後リテーナ331との連動により、第1後リテーナ331が無負荷状態NLよりも外向きA2に変位する分、アウターハウジング40の上壁401により第1後リテーナ331が内向きA1に押されて弾性変形するときの変形量が大きい。そのため、アウターハウジング40が第1後リテーナ331を内向きA1に押す力F1に対する第1後リテーナ331の反力F2は、第1前リテーナ321の変位に第1後リテーナ331が連動しない場合と比べて増加する。第1後リテーナ331は、外向きA2への反力F2によってアウターハウジング40の上壁401に押圧された状態で係止部51によりアウターハウジング40に係止されている。
【0055】
後リテーナ33の無負荷状態NLの形状として、予め、傾斜角度θ
RX(
図5(b))が与えられるようにインナーハウジング30が成形された場合も、前リテーナ32の変位に連動して後リテーナ33のハウジング本体31に対する傾斜角度がより拡大することで、反力F2も非連動時と比べてさらに増加することとなる。
【0056】
ここで、ハウジング本体31に対する後リテーナ33の傾斜角度が大きくなる程、第1ハウジング30の上下方向yの寸法が大きくなり、その分、インナーハウジング30の射出成形に用いられる金型のサイズが大きくなる。金型は、典型的には、樹脂が充填される複数の成形キャビティを備えており、成形キャビティの数が多い程、後リテーナ33の傾斜角度の増加による金型の大型化の度合が大きい。
また、後リテーナ33の傾斜角度が大きくなるにつれて、後リテーナ33が所定位置P2まで内向きA1に弾性変形する際に固定端33Bに作用する応力が増加する。
以上から、内向きA1に弾性変形する後リテーナ33が破損しない程度に後リテーナ33の傾斜角度を例えばθR(またはθRX)に抑えることにより、金型サイズを抑えつつ、インナーハウジング30とアウターハウジング40との係止を強化することができる。
【0057】
第1後リテーナ331は、アウターハウジング40の上壁401に押圧された状態で、電線20のジャケット22の外周部22Aに対向している。このときジャケット22は、第1後リテーナ331と、第2後リテーナ332と、左壁304と、右壁305との間に位置決めされている。
【0058】
第1後リテーナ331は、アウターハウジング40の上壁401に押圧される後側係止部としての係止部51と、ジャケット22の長さ方向(嵌合方向z)に延在する所定の範囲52Rに亘りジャケット22の外周部22Aに対向する位置決め部52とを備えている。係止部51および位置決め部52は、ハウジング本体31よりも外径が小さいジャケット22の外周部22Aとアウターハウジング40との間に配置されている。
位置決め部52は、例えば、ジャケット22を押すことでジャケット22を位置決めする構造とは相違している。位置決め部52は、ジャケット22の長さ方向(z)の所定の範囲52Rに亘りジャケット22の外周部22Aに対向することで、端子10やハウジング30,40、芯線21に対するジャケット22の移動を防いでジャケット22を位置決めする。
【0059】
係止部51および位置決め部52を含む後側領域50と第1ヒンジ341とは、第1前リテーナ321と同等の長さの板状の連結部35により連結されている。つまり、本実施形態の第1後リテーナ331は、後側領域50の長さの分、第1前リテーナ321と比べて長い。
図5(b)には、第1ヒンジ341から第1前リテーナ321の自由端までの距離d1と、第1ヒンジ341から第1後リテーナ331の自由端までの距離d2とが示されている。
アウターハウジング40に第1後リテーナ331が収容されているとき、連結部35の表面は、第1ヒンジ341の頂面341Aとほぼ同一平面上に位置している。
【0060】
後側領域50に設定されている基準面50S(zx平面)は、連結部35に対してジャケット22の径方向の内側に位置している。そのため、後側領域50と連結部35との間は、段差部521により接続されている。
【0061】
係止部51は、自由端33Fの近傍で基準面50Sから上方に突出している。係止部51の基準面50Sからの高さは、位置決め部52の段差部521や突起522の基準面50Sからの高さと比べて高い。係止部51は、インナーハウジング30をアウターハウジング40に係止する作用に加え、位置決め部52と共に、ジャケット22を第1後リテーナ331の後側領域50と第2後リテーナ332の後側領域50との間に位置決めする作用も有する。
【0062】
係止部51は、アウターハウジング40の上壁401の裏側に形成されている溝401Bに挿入されることで、アウターハウジング40に対して嵌合方向zに係止される。このとき第1後リテーナ331における少なくとも自由端33F側は、アウターハウジング40の上壁401に対して反力F2により外向きA2に押圧される。
本実施形態の係止部51は、反力F2により溝401Bの底に押圧されている。但し、係止部51の高さと溝401Bの深さとの関係によっては、その限りではなく、例えば、係止部51の基端部が反力F2により上壁401に押圧されていてもよい。
【0063】
反力F2に抗して係止部51が溝401Bから抜け出てしまい、係止が解除されることは、反力F2が大きい程、起こりづらい。つまり、反力F2が大きい程、係止強度が大きい。
したがって、前リテーナ32の内向きA1の変位に伴い後リテーナ33の反力F2が増加している分、インナーハウジング30とアウターハウジング40との係止は強化されている。
【0064】
後側領域50の後端50Bは、基準面50Sの位置よりもジャケット22の径方向の外側に位置しているので、ジャケット22からは離れている。そのため、後端50Bをジャケット22の外周部22Aに向けて弾性変形させつつ係止部51を溝401Bに係合させ易い。加えて、アウターハウジング40の内側にインナーハウジング30を押して挿入する図示しない治具をジャケット22に干渉させることなく後端50Bに配置することができる。
【0065】
位置決め部52は、段差部521と、基準面50Sから上方に突出する突起522と、突起522の背面側(ジャケット22の径方向の内側)に設けられて外周部22Aに対向する対向部523とを備えている。
上述の係止部51および突起522は、嵌合方向zに間隔をおいて基準面50Sに配置され、左右方向xに延在している。突起522は、中空部が形成されているので弾性変形し易い。
アウターハウジング40のリテーナ45の係合部451は、下壁404の開口から突起522と段差部521との間に配置される(
図8)。
【0066】
突起522の基準面50Sからの高さは、段差部521の前側F、つまり基準面50Sよりもジャケット22の径方向外側に位置する角部521Aの基準面50Sからの高さよりも低く設定されており、突起522と上壁401との間にはクリアランスが存在する。但し、それに限らず、突起522と角部521Aとのそれぞれの基準面50Sからの高さは同一であってもよい。
【0067】
対向部523は、突起522の前側Fと後側Rとに亘り、ジャケット22に対して平行に配置されている。この対向部523は、
図4(b)および(c)に示すように、左右方向xの中心に向かうにつれて次第に板厚が薄くなるように、平面視では矩形状の領域に形成されている。対向部523は、側面視において円弧状に形成されている。対向部523の湾曲した内面523Aの曲率は、ジャケット22の外周部22Aの曲率とほぼ一致していることが好ましい。
【0068】
内面523Aの左右方向xの中心から角部521Aの先端までの距離を位置決め部52の厚さt1(図示しない)と言うものとする。第1後リテーナ331および第2後リテーナ332のそれぞれの位置決め部52の厚さt1の合計は、アウターハウジング40の上壁401と下壁404との間の寸法405からジャケット22の外径を引いた寸法に基づいて設定されている。アウターハウジング40にインナーハウジング30が収容されている状態のとき、対向部523は、ジャケット22の外周部22Aに対して接触していてもよいし、僅かな隙間の存在により、外周部22Aに接触していなくてもよい。このことを指して、対向部523は、ジャケット22の外周部22Aに実質的に接触している。
【0069】
ここで、アウターハウジング40にインナーハウジング30が収容されると、位置決め部52にも反力F2が作用する。また、厚さt1やジャケット22の外径、寸法405は公差によりばらつく。これらのことから、対向部523は、ジャケット22の外周部22Aに必ずしも接触しない。
また、位置決め部52によりジャケット22が若干押圧されることは許容されるが、ジャケット22に過大な応力を発生させないように、ジャケット22に対する寸法405および厚さt1、それらの公差等が設定されている。
【0070】
振動や衝撃等の外力により、ジャケット22が端子10や芯線21に対して例えばジャケット22の径方向、または電線20の長さ方向(嵌合方向z)に移動するためには、ジャケット22の径方向への変位を許容する空間がジャケット22の周りに必要となる。ジャケット22は、例えば、嵌合方向zに対して傾斜した姿勢への変位を経て芯線21よりも後側Rに移動する。この場合、よりとき長が規定の長さL1を超えることで、コネクタ1の特性インピーダンス整合が悪化してしまう。
本実施形態のジャケット22は、第1後リテーナ331の位置決め部52と第2後リテーナ332の位置決め部52との間に挟まれ、第1後リテーナ331および第2後リテーナ332のそれぞれの対向部523は、ジャケット22の外周部22Aに長さ方向(z)の所定の範囲52Rに亘り実質的に接触している。そうすると、ジャケット22の周りには、径方向への変位を許容する空間が存在していない。そのため、ジャケット22の径方向の荷重のみならず、ジャケット22の長さ方向(z)の荷重がジャケット22に作用した場合でも、ジャケット22の移動を規制することができる。
【0071】
加えて、ジャケット22の長さ方向(z)における対向部523と同じ位置あるいはその近傍で、アウターハウジング40の内壁側に段差部521および突起522が長さ方向(z)に分布しているので、例えばジャケット22に径方向への荷重が作用した際にジャケット22の応力を長さ方向(z)に分散させつつ、位置決め部52によりジャケット22を弾性的に支持して位置決めすることができる。
【0072】
後側領域50における左右方向xの少なくとも一方側には、
図2に示すように、基準面50Sに対して下側に突出した仮係止部53が設けられていてもよい。仮係止部53は、他の図では図示されていない。
【0073】
第1後リテーナ331に備わる仮係止部53には凸部が形成され、第2後リテーナ332に備わる仮係止部53には、凹部が形成されている。凹凸の関係は逆でもよい。
第1後リテーナ331および第2後リテーナ332のいずれも内向きA1に押し下げると、仮係止部53の凸部と凹部との係合により第1後リテーナ331と第2後リテーナ332とが仮係止される。そうすると、第1後リテーナ331および第2後リテーナ332を含めてインナーハウジング30の外形が略直方体となるので、横断面が略矩形状のアウターハウジング40の内側にインナーハウジング30を挿入し易い。また、仮係止部53により仮係止されたインナーハウジング30は嵩張らないので、組立前のインナーハウジング30を容易に集積して保管することができる。
【0074】
ヒンジ34がアウターハウジング40の後端40Bを前側Fに超える位置までインナーハウジング30をアウターハウジング40に挿入した後は、図示しない治具により仮係止部53の凸部と凹部とを分離させることで、仮係止は解除される。
【0075】
〔コネクタの製造方法〕
図6(a)から
図8までの各図を参照しつつ、コネクタ1の構成要素を組み付けてコネクタ1を製造する手順の一例を説明する。この例において、後リテーナ33には仮係止部53が形成されていないものとする。なお、
図6(a)から
図8までの各図では、1つのキャビティCに配置される端子10と、その端子10に接続される芯線21のみが示されている。他のキャビティCに配置される端子10と、その端子10に接続される芯線21の図示は省略されている。
図6(a)に示すように、端子10、電線20、およびインナーハウジング30が組み付けられる。そのために、まず、電線20のジャケット22の端面22Bから露出している複数の芯線21のそれぞれについて、端子10の芯線圧着部12Aに芯線21を圧着するとともに、端子10の被覆圧着部12Bに絶縁被覆21Bを圧着する(圧着ステップ)。
【0076】
さらに、端子10および電線20の組付体をハウジング本体31の後端31BからキャビティCおよび電線キャビティWCに挿入することで、当該組付体をインナーハウジング30に装着する(端子装着ステップ)。端子10は、ランス11B(
図5(a))によりハウジング本体31に係止される。
【0077】
続いて、
図6(a)に示すように、前リテーナ32を
図3(c)に示す無負荷状態NLから所定位置P1へと内向きA1に変位させて係止突起32Aを係止凹部302Cに係止させる(前リテーナ係止ステップS01)。このとき、前リテーナ32の変形によりヒンジ34が前側Fに傾いた状態に弾性変形し、それに伴い、後リテーナ331が無負荷状態NLよりも外向きA2に変位する。
【0078】
図6(b)は、図示しない第1治具により後リテーナ33をハウジング本体31に向けて押す力F1を後リテーナ33に加えることで、後リテーナ33を
図6(a)に示す状態から所定位置P2へと内向きA1に変位させた状態を示している。
【0079】
図6(b)に示す状態を第1治具により維持しながら、
図7(a)に示すように、アウターハウジング40の内側にインナーハウジング30、端子10、および電線20の組付体2をインナーハウジング30の前側Fから挿入する。このとき、後リテーナ33の後端50Bに図示しない第2治具の先端を配置し、第2治具により嵌合方向zに組付体2を押すことができる。
アウターハウジング40にインナーハウジング30を挿入すると、先ず、前リテーナ32がアウターハウジング40の内側に収容される(前リテーナ収容ステップS02)。
【0080】
後リテーナ33の固定端33Bがアウターハウジング40の後端40Bを前側Fに超える位置まで組付体2がアウターハウジング40に収容された後、後リテーナ33を第1治具から解放する。第1治具から解放されても、後リテーナ33はアウターハウジング40により外側から拘束され、ハウジング本体31の上壁302および下壁303に対して平行に配置される。そのため、
図7(b)に示すように、後リテーナ33の全体がアウターハウジング40にスムーズに挿入される。
【0081】
図7(b)に示すように、インナーハウジング30をアウターハウジング40に規定位置まで挿入すると、後リテーナ33もアウターハウジング40の内側に収容される(後リテーナ収容ステップS03)。右壁305のロック片305Aにアウターハウジング40のロックビーム46(
図7(a))が係止されるとともに、後リテーナ33の係止部51がアウターハウジング40の溝401Bに係止されることで、インナーハウジング30がアウターハウジング40に一次係止される。それと同時に、後リテーナ33の対向部523がジャケット22の外周部22Aに対向することでジャケット22が位置決めされる。
【0082】
後リテーナ33の後端50Bをアウターハウジング40に押し込んで係止部51を溝401Bに係合させるとき、反力F2により後リテーナ33がアウターハウジング40にぶつかって嵌合するので、嵌合音が発生する。そのため、嵌合音によりインナーハウジング30とアウターハウジング40とのロックを検知することができる。
係止部51が後リテーナ33の自由端33Fの近傍に配置されていることにより、後リテーナ33の全体をアウターハウジング40にスムーズに挿入でき、かつ、挿入完了時に嵌合音を発生させることができる。
【0083】
図8に示すように、リテーナ45を第2後リテーナ332に向けて押し込むことで、インナーハウジング30がアウターハウジング40に二次係止される(二次係止ステップ)。
以上により、コネクタ1の組立を終了することができる。
【0084】
〔本実施形態による効果〕
コネクタ1に備わるインナーハウジング30は、ヒンジ34により連結される前リテーナ32および後リテーナ33を備え、前リテーナ32の内向きA1への変位に連動して後リテーナ33が外向きA2に変位する。そのため、後リテーナ33の反力F2を増加させてインナーハウジング30とアウターハウジング40との一次係止を強化することができる。併せて、後リテーナ33の位置決め部52により、ジャケット22に過大な応力が発生することを避けながら、ジャケット22を長さ方向の所定範囲52Rに亘り位置決めすることで、振動等の外力によるジャケット22の移動を規制することができる。
ジャケット22の移動が規制されることによれば、コネクタ1の輸送時や使用時に製品の保護を図ることができるとともに、よりとき長を規定の長さL1以下に維持して高速伝送・高周波伝送における伝送特性を担保することができる。
【0085】
インナーハウジング30の後リテーナ33は、インナーハウジング30をアウターハウジング40に係止する係止部51と、端子10や芯線21に対するジャケット22の径方向および長さ方向への移動を規制する位置決め部52とを兼ねている。つまり、コネクタ1に必要な機能が単一のインナーハウジング30に集約されているため、コネクタ1の部品点数を抑えて組付作業性を担保することができる。
本実施形態のインナーハウジング30は、係止部51および位置決め部52の他、キャビティCからの端子10の離脱を規制する係止壁302B、端子10をインナーハウジング30に二次係止する前リテーナ32の係止突起32A、およびインナーハウジング30をアウターハウジング40に係止するロック片305Aも備えているため、インナーハウジング30には多数の要素が集約されている。
【0086】
〔変形例〕
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
係止部51および位置決め部52は、上記実施形態には限らず、適宜に構成することが可能である。位置決め部52の要素として、段差部521および突起522は必ずしも必要ない。例えば、突起522の代わりに係止部51を基準面50S上に設置することができる。その場合、係止部51は位置決め部52の一部を構成している。
【0087】
インナーハウジング30が、同一のヒンジ34に支持される単一の前リテーナ32および単一の後リテーナ33を備えていてもよい。この場合、ジャケット22は、単一の後リテーナ33と、その後リテーナ33に対向するインナーハウジング30の内壁との間に、対向部523の長さに相応の所定の範囲52Rに亘り位置決めされる。
【0088】
〔付記〕
以上の開示から、以下に記す構成が把握される。
〔1〕コネクタ(1)であって、嵌合対象(9)に嵌合される側が前側(F)、反対側が後側(R)であるとすると、
端子(10)と、
前記端子(10)および電線(20)を収容するハウジング本体(31)と、前記ハウジング本体(31)に設けられ前記前側(F)に向けて延在する前リテーナ(32)と、前記ハウジング本体(31)に設けられ前記後側(R)に向けて延在する後リテーナ(33)と、を含む第1ハウジング(30)と、
前記第1ハウジング(30)を前記第1ハウジング(30)の前記前側(F)から収容する第2ハウジング(40)と、を備え、
前記前リテーナ(32)および前記後リテーナ(33)は、弾性変形により、前記第2ハウジング(40)の内側のそれぞれの位置に相当する所定位置(P1,P2)へと、それぞれの固定端(32B,33B)を中心に変位可能に構成され、
前記前リテーナ(32)の固定端(32B)と前記後リテーナ(33)の固定端(33B)とは、支点部(34)として一体形成され、
前記支点部(34)は、前記ハウジング本体(31)の外側(31o)から内側(31i)への前記前リテーナ(32)の変位により前記前側Fに傾いて前記後リテーナ(33)を変位させるように弾性変形可能に構成され、
前記後リテーナ(33)は、
前記第2ハウジング(40)に収容されると、前記第2ハウジング(40)が前記後リテーナ(33)を押す力(F1)に対する反力(F2)によって前記第2ハウジング(40)に押圧された状態で係止されるとともに、
前記電線(20)の前記後側(R)に引き出される芯線(21)を覆うジャケット(22)の長さ方向(z)に延在する所定の範囲(52R)に亘り前記ジャケット(22)の外周部(22A)に対向することで前記ジャケット(22)を位置決めする、コネクタ(1)。
【0089】
〔2〕前記前リテーナ(32)は、無負荷状態(NL)のとき、前記固定端(32B)から自由端(32F)に向かうにつれて前記ハウジング本体(31)から離れるように、前記コネクタ(1)が前記嵌合対象(9)に嵌合される嵌合方向(z)に対して傾斜し、
前記後リテーナ(33)は、無負荷状態(NL)のとき、前記固定端(33B)から自由端(33F)に向かうにつれて前記ハウジング本体(31)から離れるように、前記嵌合方向(z)に対して傾斜している、
〔1〕項に記載のコネクタ(1)。
【0090】
〔3〕前記前リテーナ(32)は、前記端子(10)を前記ハウジング本体(31)に係止する前側係止部(32A)を備え、
前記後リテーナ(33)は、前記第2ハウジング(40)に対して押圧された状態で係止される後側係止部(51)と、前記ジャケット(22)の外周部(22A)と前記第2ハウジング(40)との間に介在する位置決め部(52)と、を備える、
〔1〕または〔2〕項のいずれか一項に記載のコネクタ(1)。
【0091】
〔4〕前記後側係止部(51)は、前記後リテーナ(33)の自由端(33F)の近傍に配置され、
前記位置決め部(52)は、前記後側係止部(51)よりも前記前側(F)に配置されている、
〔3〕項に記載のコネクタ(1)。
【0092】
〔5〕前記第1ハウジング(30)は、
前記支点部(34)としての第1支点部(341)および前記支点部(34)としての第2支点部(342)と、
前記第1支点部(341)にいずれも対応する前記前リテーナ(32)としての第1前リテーナ(321)および前記後リテーナ(33)としての第1後リテーナ(331)と、
前記第2支点部(342)にいずれも対応する前記前リテーナ(32)としての第2前リテーナ(322)および前記後リテーナ(33)としての第2後リテーナ(332)と、を備え、
前記ジャケット(22)は、前記第1後リテーナ(331)と前記第2後リテーナ(332)との間に挟んで配置される、
〔1〕から〔4〕項のいずれか一項に記載のコネクタ(1)。
【0093】
〔6〕前記コネクタ(1)は、前記ハウジング本体(31)に個別に収容される複数の前記端子(10)を備え、
前記電線(20)は、前記端子(10)に個別に対応する複数の前記芯線(21)と、前記複数の芯線(21)を覆う単一の前記ジャケット(22)と、を含み、
前記第1前リテーナ(321)は、前記複数の端子(10)の一部を前記ハウジング本体(31)に係止する第1前側係止部(321A)を備え、
前記第2前リテーナ(322)は、残りの前記端子(10)を前記ハウジング本体(31)に係止する第2前側係止部(322A)を備える、
〔5〕に記載のコネクタ(1)。
【0094】
〔7〕コネクタ(1)の製造方法であって、
前記コネクタ(1)の嵌合対象(9)に嵌合される側が前側(F)、反対側が後側(R)であるとすると、
前記コネクタ(1)は、前記前側(F)で前記嵌合対象(9)の端子(10)に嵌合される端子(10)と、前記端子(10)および電線(20)を収容するハウジング本体(31)と、前記ハウジング本体(31)に設けられ前記前側(F)に延在する前リテーナ(32)と、前記ハウジング本体(31)に設けられ前記後側(R)に延在する後リテーナ(33)と、を含む第1ハウジング(30)と、前記第1ハウジング(30)を前記第1ハウジング(30)の前記前側(F)から収容する第2ハウジング(40)と、を備え、
前記前リテーナ(32)および前記後リテーナ(33)は、弾性変形により、前記第2ハウジング(40)の内側のそれぞれの位置に相当する所定位置(P1,P2)へと、それぞれの固定端(32B,33B)を中心に変位可能に構成され、
前記前リテーナ(32)の固定端(32B)と前記後リテーナ(33)の固定端(33B)とは、支点部(34)として一体形成され、
前記製造方法は、
前記ハウジング本体(31)の外側(31o)から内側(31i)に向けて前記前リテーナ(32)を変位させると、前記支点部(34)が前記前側(F)に傾いた状態に弾性変形することに伴い、前記後リテーナ(33)が前記内側(31i)から前記外側(31o)に向けて変位する第1ステップ(S1)と、
前記前リテーナ(32)を前記第2ハウジング(40)に収容する第2ステップ(S02)と、
前記後リテーナ(33)を前記第2ハウジング(40)に収容する第3ステップ(S03)と、を含み、
前記第3ステップ(S03)では、
前記後リテーナ(33)を前記第2ハウジング(40)に収容することで、前記第2ハウジング(40)が前記後リテーナ(33)を押す力(F1)に対する前記後リテーナ(33)の反力(F2)によって前記後リテーナ(33)を前記第2ハウジング(40)に押圧するとともに、前記電線(20)の前記後側(R)に引き出される芯線(21)を覆うジャケット(22)の長さ方向(z)に延在する所定の範囲(52R)に亘り前記後リテーナを前記ジャケット(22)の外周部(22A)に対向させて前記ジャケット(22)を位置決めする、コネクタ(1)の製造方法。
【符号の説明】
【0095】
1 コネクタ
2 組付体
9 相手コネクタ(嵌合対象)
10 端子
11 端子部
11A 接点ばね
11B ランス
12 圧着部
12A 芯線圧着部
12B 被覆圧着部
20 電線
21 芯線
21A 導体
21B 絶縁被覆
22 ジャケット
22A 外周部
22B 端面
30 インナーハウジング(第1ハウジング)
31 ハウジング本体
31F 前側領域
31B 後端
31R 後側領域
31i 内側
31o 外側
32 前リテーナ
32A 係止突起(前側係止部)
32B 固定端
32F 自由端
32N 爪
33 後リテーナ
33B 固定端
33F 自由端
34 ヒンジ(支点部)
35 連結部
40 アウターハウジング(第2ハウジング)
40A 前端
40B 後端
40F 前側領域
40R 後側領域
41 空間
42 ロックビーム
43,44 壁
45 リテーナ
46 ロックビーム
50 後側領域
50B 後端
50S 基準面
51 係止部(後側係止部)
52 位置決め部
52R 範囲
53 仮係止部
301 前壁
301A 挿入口
302 上壁
302A 上ストッパ
302B 係止壁
302C 係止凹部
302D 開口部
302E 開口
303 下壁
304 左壁
304A 突条
304B 左ストッパ
304C,304D,304E,304F,304G,304H 凸部
304N 切欠
305 右壁
305A ロック片
305B 壁
305C 突条
305D 切欠
305E,305F,305G,305H 凸部
305N 切欠
321 第1前リテーナ
321A 係止突起(第1前側係止部)
322 第2前リテーナ
322A 係止突起(第2前側係止部)
331 第1後リテーナ
332 第2後リテーナ
341 第1ヒンジ(第1支点部)
342 第2ヒンジ(第2支点部)
401 上壁
401A ストッパ壁
401B 溝
402 左壁
403 右壁
404 下壁
405 寸法
421 係止突起
422 係止解除用ノブ
451 係合部
521 段差部
521A 角部
522 突起
523 対向部
523A 内面
A1 内向き
A2 外向き
b 後端
C キャビティ
CB 後端
F 前側
F1 押す力
F2 反力
L1 長さ
L2 寸法
M 中間部
NL 無負荷状態
P1,P2 所定位置
R 後側
S01 前リテーナ係止ステップ(第1ステップ)
S02 前リテーナ収容ステップ(第2ステップ)
S03 後リテーナ収容ステップ(第3ステップ)
t1,ta,tb1,tb2 厚さ
W 壁
WC 電線キャビティ
x 左右方向
y 上下方向
z 嵌合方向
θF,θR 角度