(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078834
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】コンクリート除去部の防食方法および床版取替え構造の防食方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20240604BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191407
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509200613
【氏名又は名称】株式会社横河NSエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】冨永 知徳
(72)【発明者】
【氏名】北市 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】利根川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】森川 和将
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA07
2D059AA14
2D059AA16
2D059GG39
2D059GG41
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】短時間で施工でき、コンクリート除去部の防食効果と保護効果を高めることができるコンクリート除去部の防食方法および床版取替え構造の防食方法を提供する。
【解決手段】橋梁10の主桁11に支持されて敷設されている鉄筋コンクリート床版の一部を鋼床版3に取り替えるための床版取替え構造1の防食方法は、鉄筋コンクリート床版のうち主桁11の主桁上フランジ11Aの上面11aに残置コンクリート部21を残置する工程と、残置コンクリート部21の上方に間隔をあけてデッキプレート31を有する鋼床版3を配置する工程と、残置コンクリート部21のうちコンクリート内の鋼材が露出したコンクリート除去部21aに対して、防水性をもち粘着層51を有する防食シート5で液密に覆った状態で接着する工程と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の一部を切断することで形成されたコンクリート除去部の防食方法であって、
コンクリート内の鋼材が露出した前記コンクリート除去部に対して、防水性をもち粘着層を有する防食シートで液密に覆った状態で接着するコンクリート除去部の防食方法。
【請求項2】
切断後の前記鉄筋コンクリート構造物のうち前記コンクリート除去部との境界部を覆って前記防食シートを設ける、請求項1に記載のコンクリート除去部の防食方法。
【請求項3】
橋梁の主桁に支持されて敷設されている鉄筋コンクリート床版の一部を鋼床版に取り替えるための床版取替え構造の防食方法であって、
前記鉄筋コンクリート床版のうち前記主桁の主桁上フランジの上面に残置コンクリート部を残置する工程と、
前記残置コンクリート部の上方に間隔をあけてデッキプレートを有する前記鋼床版を配置する工程と、
前記残置コンクリート部のうちコンクリート内の鋼材が露出したコンクリート除去部に対して、防水性をもち粘着層を有する防食シートで液密に覆った状態で接着する工程と、
を有する床版取替え構造の防食方法。
【請求項4】
前記残置コンクリート部と前記主桁上フランジとの境界部を覆って前記コンクリート除去部から前記主桁上フランジの下面までをくるむようにして前記防食シートを設ける、請求項3に記載の床版取替え構造の防食方法。
【請求項5】
前記主桁上フランジ上に前記鋼床版を設置した後に、前記残置コンクリート部と前記鋼床版の前記デッキプレートの下面との間のスペースにおいて前記防食シートを所定部位に接着して設ける、請求項3又は4に記載の床版取替え構造の防食方法。
【請求項6】
前記防食シートは、前記主桁の長手方向に一部重ねることにより隙間なく連続して設けられる、請求項3又は4に記載の床版取替え構造の防食方法。
【請求項7】
前記防食シートは、一方向に延びる長尺帯状シートであり、
前記長尺帯状シートの短尺方向を橋軸方向に平行に向け、かつ長尺方向を橋軸直角方向に向けた姿勢で前記コンクリート除去部に対して接着する、請求項3又は4に記載の床版取替え構造の防食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート除去部の防食方法および床版取替え構造の防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路等に使用される橋梁では、老朽化した道路の床版を取り替える必要が生じる場合がある。従来、橋梁のRC床版(鉄筋コンクリート床版)を新しい床版に取り替える場合、既存の鉄筋コンクリート床版を除去することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、橋梁の主桁に支持されて敷設されている鉄筋コンクリート床版を除去したその位置に新たな鋼床版を配置する橋梁の床版取替方法であって、鉄筋コンクリート床版の下方に、主桁に適宜な間隔に配して床版支持ブラケットを取り付け、主桁上フランジに位置した部分の鉄筋コンクリート床版を除いた他の部分を除去して主桁上フランジ上に残留部(残置コンクリート部)を残した状態で、老朽化した鉄筋コンクリート床版から鋼床版に取り替える方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されるような鉄筋コンクリート床版の除去する作業では、一度にすべての鉄筋コンクリート床版を除去するものではない。すなわち、施工中に鉄筋コンクリート床版の一部のみが除去されたまま、長期間にわたって残置コンクリート部が残された状態になるケースがあり、さらに最終的に施工完了後に残置コンクリート部が残置されてしまう場合もある。そして、このような鉄筋コンクリート床版のようなコンクリート内に鉄筋等の鋼材が埋設されている鉄筋コンクリート構造物を切断した場合には、切断によるコンクリート除去部に鉄筋の切断面も露出することになる。また、コンクリートブレーカーによって、コンクリートを破砕することで除去作業を行う場合もある。さらに、鉄筋コンクリート床版が鋼製の梁材(鋼桁)によって下方から支持されている場合には、切断されて残置された残置コンクリート部と鋼桁との境界面が存在している。
【0006】
このような鋼材とコンクリートの境界面は、残置コンクリート部の内部および鋼桁の上部に設けられる鉄筋等の鋼材に通じる水の侵入路となり、コンクリートが腐食する原因になるという問題がある。また、前述した原因によりコンクリートに腐食が生じた場合には、コンクリートが鋼桁上から崩落するおそれがある。
【0007】
なお、このようなコンクリート除去部に対して防食塗装することが一般的には可能であるが、作業時間がかかるうえ、塗装部分を乾かす養生時間を要する。また、プライマーと表層との2層以上の塗装を必要とするが、コンクリート面と鋼材面で塗装の付着性が異なるため、防食効果が不十分であり、その点で改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、短時間で施工でき、コンクリート除去部の防食効果と保護効果を高めることができるコンクリート除去部の防食方法および床版取替え構造の防食方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るコンクリート除去部の防食方法の態様1は、鉄筋コンクリート構造物の一部を切断することで形成されたコンクリート除去部の防食方法であって、コンクリート内の鋼材が露出した前記コンクリート除去部に対して、防水性をもち粘着層を有する防食シートで液密に覆った状態で接着することを特徴としている。
【0010】
本発明に係るコンクリート除去部の防食方法では、鉄筋コンクリート構造物を切断することで形成されるコンクリート除去部に対して粘着層を有する防食シートを接着するといった簡単な作業により、コンクリート除去部を防食シートで液密な状態で覆うことができる。そのため、本発明では、コンクリート除去部に露出するコンクリートおよび鉄筋等のコンクリート内に埋設される鋼材の露出部の全体を保護することができ、残置コンクリート内への結露水等の侵入を防止できる。このように防食シートを接着することにより、残置された鋼材を防錆することができ、鋼材の腐食を防止できる。さらに、このとき防食シートによってコンクリート除去部が広く覆われることから、残置されたコンクリートの剥落を抑制できる。
また、本発明では、粘着層を有する防食シートを用いるため、防食シートを防食対象部位に接着するだけの簡単な作業となり、効率よく、かつ作業時間を低減できる。
【0011】
(2)本発明の態様2は、態様1のコンクリート除去部の防食方法において、切断後の前記鉄筋コンクリート構造物のうち前記コンクリート除去部との境界部を覆って前記防食シートを設けることが好ましい。
【0012】
この場合には、コンクリート除去部だけでなく、コンクリート除去部との境界部も防食シートで覆って保護することができる。
【0013】
(3)本発明に係る床版取替え構造の防食方法の態様3は、橋梁の主桁に支持されて敷設されている鉄筋コンクリート床版の一部を鋼床版に取り替えるための床版取替え構造の防食方法であって、前記鉄筋コンクリート床版のうち前記主桁の主桁上フランジの上面に残置コンクリート部を残置する工程と、前記残置コンクリート部の上方に間隔をあけてデッキプレートを有する前記鋼床版を配置する工程と、前記残置コンクリート部のうちコンクリート内の鋼材が露出したコンクリート除去部に対して、防水性をもち粘着層を有する防食シートで液密に覆った状態で接着する工程と、を有することを特徴としている。
【0014】
本発明に係る床版取替え構造の防食方法では、鉄筋コンクリート床版を切断することで形成されるコンクリート除去部に対して粘着層を有する防食シートを接着するといった簡単な作業により、コンクリート除去部を防食シートで液密な状態で覆うことができる。そのため、本発明では、コンクリート除去部に露出するコンクリートおよび鉄筋等の残置コンクリート部内に埋設される鋼材の露出部の全体を保護することができ、残置コンクリート部内への結露水等の侵入を防止できる。このように防食シートを接着することにより、残置された鉄筋や主桁上フランジに突設されるスタッド等のずれ止めなどの鋼材を防錆することができ、鋼材の腐食を防止できる。さらに、このとき防食シートによってコンクリート除去部が広く覆われることから、主桁上フランジ上の残置コンクリート部の剥落を抑制できる。
また、本発明では、粘着層を有する防食シートを用いるため、防食シートを防食対象部位に接着するだけの簡単な作業となり、効率よく、かつ作業時間を低減できる。
【0015】
(4)本発明の態様4は、態様3の床版取替え構造の防食方法において、前記残置コンクリート部と前記主桁上フランジとの境界部を覆って前記コンクリート除去部から前記主桁上フランジの下面までをくるむようにして前記防食シートを設けることが好ましい。
【0016】
この場合には、コンクリート除去部だけでなく、残置コンクリート部と主桁上フランジの下面が防食シートによってくるまれて覆われた状態となるので、コンクリート除去部との境界部も防食シートによって保護することができる。
【0017】
(5)本発明の態様5は、態様3又は態様4の床版取替え構造の防食方法において、前記主桁上フランジ上に前記鋼床版を設置した後に、前記残置コンクリート部と前記鋼床版の前記デッキプレートの下面との間のスペースにおいて前記防食シートを所定部位に接着して設けることが好ましい。
【0018】
この場合には、防食シートを設ける前に残置コンクリート部の上方に鋼床版が設けられ、その鋼床版の下方のスペースで防食シートを所定部位に接着する作業を行うことができる。すなわち、鋼床版上の工事や鋼床版上に車を通行させた活線作業により防食シートの接着作業を行うことが可能となるので、作業効率の向上が図れ、床版取替え工事全体の作業時間を低減でき、工事工程の短縮を図ることができる。
【0019】
(6)本発明の態様6は、態様3から態様5のいずれか一つの床版取替え構造の防食方法において、前記防食シートは、前記主桁の長手方向に一部重ねることにより隙間なく連続して設けられることを特徴としてもよい。
【0020】
この場合には、防食シートが主桁上フランジの長手方向全体にわたって隙間なく配置されているので、防食シート同士の間が結露水等の侵入路となることがなく、防食性能をより向上させることができる。
【0021】
(7)本発明の態様7は、態様3から態様6のいずれか一つの床版取替え構造の防食方法において、前記防食シートは、一方向に延びる長尺帯状シートであり、前記長尺帯状シートの短尺方向を橋軸方向に平行に向け、かつ長尺方向を橋軸直角方向に向けた姿勢で前記コンクリート除去部に対して接着することが好ましい。
【0022】
この場合には、主桁の側方で作業する作業員が例えばロール状に巻かれた長尺帯状シートの幅方向(短尺方向)の両側が手の届く範囲となり、そのシート両側を持って所定の接着位置に配置できる。そのため、防食シートの接着作業がし易くなり、より施工効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のコンクリート除去部の防食方法および床版取替え構造の防食方法によれば、短時間で施工でき、コンクリート除去部の防食効果と保護効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態による床版取替え方法を説明するためのもので、床版取替え前の橋梁を斜め上方から見た斜視図である。ただし、片側の車線のみを示している。
【
図2】
図1に示す床版取替え前の橋梁を斜め下方から見た斜視図である。
【
図3】鋼床版を設置した状態を示すもので、(a)は橋梁を斜め下方から見た斜視図、(b)は橋梁の正面図である。
【
図4】鋼床版を主桁に接合する接合部分の構成を示す橋軸方向から見た縦断面図である。
【
図5】
図4に示す接合部分の要部を拡大した縦断面図である。
【
図6】
図4に示す防食シートの設置状態を示す斜視図である。
【
図9】床版取替え方法の作業フローチャートである。
【
図10】鉄筋コンクリート床版の一部を除去した状態を示すもので、橋梁を斜め上方から見た斜視図である。
【
図11】鉄筋コンクリート床版の一部を除去した状態を示すもので、橋梁を斜め下方から見た斜視図である。
【
図12】鋼床版を設置した状態を示すもので、(a)は橋梁を斜め上方から見た斜視図、(b)は仮止め板を設置した状態を示す橋梁を斜め上方から見た斜視図である。
【
図13】鉄筋コンクリート床版の切断前の状態を橋軸方向から見た断面図である。
【
図14】鉄筋コンクリート床版を切断して撤去する状態を橋軸方向から見た断面図である。
【
図15】鋼床版を配置した状態を示す図であって、橋軸方向から見た図である。
【
図16】
図15において防食シートを設置した状態を示す図であって、橋軸方向から見た図である。
【
図17】次の鋼床版を設置する方法を説明するためのもので、コンクリート除去領域を設けた状態を示す斜め上方から見た斜視図である。
【
図18】撤去開口領域を設けた状態を示す斜め下方から見た斜視図である。
【
図19】次の鋼床版を設置した状態を示す斜め上方から見た斜視図である。
【
図20】次の鋼床版を設置した状態を示す斜め下方から見た斜視図である。
【
図21】他方側の車線の鉄筋コンクリート床版の一部除去した状態を示すもので、橋梁を斜め上方から見た斜視図である。
【
図22】他方側の車線の鉄筋コンクリート床版の一部を除去した状態を示すもので、コンクリート除去領域における正断面図である。
【
図23】他方側の車線側に鋼床版を設置した状態を示すもので、橋梁を斜め上方から見た斜視図である。
【
図24】他方側の車線側に鋼床版を設置した状態を示すもので、当該鋼床版における正断面図である。
【
図25】鋼床版と鉄筋コンクリート床版との間に仮止め板を仮設して、仮舗装を施した状態を示す正断面図である。
【
図26】変形例によるコンクリート除去部の防食方法の作業状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態によるコンクリート除去部の防食方法および床版取替え構造の防食方法について、図面に基づいて説明する。
【0026】
図1および
図2に示すように、本実施形態による防食方法が採用される床版取替え構造は、橋梁10の主桁11に支持されて敷設されている鉄筋コンクリート製の鉄筋コンクリート床版14の一部を鋼製からなる鋼床版3(
図3(a)、(b)、および
図12(a)、(b)参照))に取り替える構造である。つまり、実施形態による床版取替え構造1(
図4参照)は、橋幅方向(
図1においてX方向)に隣り合う主桁11、11の間隔が3m程度あり、橋幅方向Xに鉄筋コンクリート床版14の一部を切断して、新設の鋼床版3に取り替える場合に適用される。
【0027】
図1および
図2は鋼床版3に取替える前の橋梁10(ただし、片側の車線(図に示すものの場合、片側2車線)のみ)を示すもので、
図1は斜め上方から見た斜視図、
図2は斜め下方から見た斜視図である。
図1および
図2に示すように、橋梁(橋梁の構造)10は、主桁11、横桁12、対傾構13および鉄筋コンクリート床版14を備えている。
【0028】
主桁11は、H形鋼またはI形鋼によって形成され、橋軸方向(
図1においてZ方向)に延在して設けられている。なお、図に示すものの場合、両車線合わせて全部で6本の主桁が設けられている中で、片側の車線の3本のみが示されている。これらの主桁11は、橋幅方向X(橋軸方向Zと直交する水平方向)に所定間隔で配置されている。主桁11は、主桁上フランジ11Aと、主桁下フランジ11Bと、主桁ウエブ11Cと、を有している。なお、主桁11は、図示しない橋台や橋脚の間に架設されている。
【0029】
横桁12は、H形鋼またはI形鋼によって形成され、橋幅方向Xに延在し、かつ隣り合う主桁11,11間に架設されている。横桁12の端部は、主桁ウエブ11Cに溶接やボルト止め等によって結合されている。横桁12は、橋軸方向Zに所定間隔で複数配置されているが、
図2では橋梁10の一部を図示しているので、橋幅方向Xに延在する2本の横桁12が設けられている。
【0030】
対傾構13は、風や地震等の横荷重に抵抗するためのもので、上弦材、下弦材、縦材および斜材等からなるトラス構造となっている。対傾構13は隣り合う主桁11,11間に架設され、ガセット等によって主桁11に結合されている。また、対傾構13は、橋軸方向Zに所定間隔で複数配置されているが、
図2では橋梁10の一部を図示しているので、橋幅方向Xに延在する2つの対傾構13が設けられ、これら対傾構13が橋軸方向Zに離間し、かつ横桁12を挟む位置に設けられている。
【0031】
鉄筋コンクリート床版14は、内部に鉄筋が縦横に配筋されており、当該鉄筋コンクリート床版14の下面から突出する凸条(ハンチ部)14aが橋軸方向Zに延在している。本実施形態において凸条14aは、橋幅方向Xに所定間隔で3つ形成されている。これら3つの凸条14aは、3本の主桁11の直上に位置しており、主桁上フランジ11Aに設置固定されている。主桁上フランジ11Aの上面11a(
図5参照)には、ずれ止め43(後述する)が橋幅方向Xおよび橋軸方向Zにそれぞれ所定間隔で複数立設され、これらずれ止め43が鉄筋コンクリート床版14のコンクリートと結合されている。
また、
図1に示すように、鉄筋コンクリート床版14は、橋幅方向Xの両端部にそれぞれ地覆14bが設けられ、一方の端部に高欄14cが設けられている。さらに、鉄筋コンクリート床版14の上面には、アスファルト等で形成された舗装部15が地覆14b,14b間において施工されている。
【0032】
次に、鉄筋コンクリート床版14を撤去した後に新設される鋼床版3の構成について具体的に説明する。
鋼床版3は、
図3(a)、(b)に示すように、デッキプレート31と、デッキプレート31の下面31aに溶接等によって接合された複数の縦リブ32と、縦リブ32に直角に配置された横リブ33と、を備えている。
デッキプレート31の上面31bには、予め舗装部34が施工されている。橋幅方向Xにおいてデッキプレート31の外周縁部31cは、舗装部34の外周縁部34aより外側に突出している。
【0033】
複数の縦リブ32は、それぞれ橋軸方向Zに延在するとともに、橋幅方向Xにおいて所定間隔で平行に設けられている。
図4および
図5に示すように、これら複数の縦リブ32のうち主桁上フランジ11Aを橋幅方向Xに挟むようにして2つの縦リブ32(
図4および
図5に示す符号32A)が配置されている。
【0034】
一対の縦リブ32A、32A同士の橋幅方向Xの離間寸法は、少なくとも主桁上フランジ11Aの幅寸法よりも大きく設定されている。横リブ33のうち一対の縦リブ32A、32A同士の間には、横リブ33が配置されていない部分がある。なお、複数の縦リブ32は、横リブ33に接合される。
【0035】
横リブ33は、
図3(b)および
図4に示すように、デッキプレート31の下面31a側において、橋幅方向Xに延びて配設され、かつ橋幅方向Xの一端面または両端面の少なくとも一部が直近の主桁11の主桁ウエブ11Cのウエブ面と対向して設けられている。
具体的には、デッキプレート31の下面31aには、橋幅方向Xに延在する2つの横リブ33(33A,33B)が主桁11を挟んで溶接等によって接合されている。
【0036】
図4および
図5に示すように、鋼床版3における橋幅方向Xの紙面右側の横リブ33Aおよび紙面左側の横リブ33Bは、それぞれ主桁11から一定距離までは下端部が略水平方向に形成され、さらに主桁11から離れた位置においては、この主桁11から離れるに従って漸次、下端部がデッキプレート31側に近づくように傾斜した態様の板体状に形成されている。これは、横リブ33A、33Bとしての必要高さよりも、主桁11への接合部のための必要高さが大きいためにこのような形状となっている。そのため、接合部近傍での高さで一様の高さにしてもよい。そして、横リブ33A、33Bにおける下方に突出する部分が突出部33cとなる。
そして、横リブ33A、33Bの橋幅方向Xの一端面(つまり、主桁11側の端面)の一部が直近(紙面右側)の主桁ウエブ11Cの右側のウエブ面と対向している。なお、横リブ33A、33Bの下端面にはフランジ33bが固定されている。
【0037】
横リブ33A、33Bは、デッキプレート31の短辺の長さ方向(橋軸方向Z)の略中央部に配置されている。これら横リブ33A、33Bに対して縦リブ32が直交して配置され、それらの交差部が溶接されている。なお、橋軸方向Zの鋼床版3同士の接合部での発生応力を減少させるには、デッキプレート31の長さ方向の略1/3の部分に配置することも有効な手段である。なお、斜橋に適用した場合は、横リブ33Bに対して縦リブ32が直交していない場合もある。
【0038】
また、横リブ33A、33Bの両端部33dは、それぞれ主桁11の主桁ウエブ11Cのウエブ面と橋幅方向Xに対向している。右側の横リブ33Aは、デッキプレート31の橋幅方向Xの略中央部に配置され、左側の横リブ33Bの延長上に配置されている。
【0039】
次に、実施形態において、鉄筋コンクリート床版14を鋼床版3に取り替える床版取替え構造1について、図面に基づいて説明する。
図5乃至
図8に示すように、床版取替え構造1は、鉄筋コンクリート床版14のうち主桁11の主桁上フランジ11Aの上面11aの一部が残置された残置コンクリート部21と、主桁上フランジ11Aとの間に上下方向Yに間隔をあけて設置され、主桁上フランジ11Aを覆うように配置された鋼床版3と、残置コンクリート部21のうちコンクリート内の鋼材(ここでは、ずれ止め43や不図示の鉄筋)が露出したコンクリート除去部21aに対して液密に覆った状態で接着される防食シート5と、を備えている。なお、図面では、ずれ止め43としてスタッドを表している。
【0040】
上述したように、鋼床版3は、デッキプレート31の下面31a側において橋幅方向Xに配設され、橋幅方向Xの一端面または両端面の少なくとも一部が直近の主桁11の主桁ウエブ11Cのウエブ面と対向する構造的に連続した横リブ33を有し、横リブ33が当該横リブ33の橋幅方向Xの端部において、当該端部に直近の主桁ウエブ11Cに剛結合された構成となっている。
【0041】
残置コンクリート部21は、
図6および
図7に示すように、主桁11上に設けられる鉄筋コンクリート床版14(
図12(a)、(b)参照)を除去したときにほぼ一定の厚さに残置される部分である。残置コンクリート部21は、例えばコンクリートカッタ等を使用して鉄筋コンクリート床版14内に埋設されている定着鉄筋や主桁上フランジ11Aの上面11aに設けられるずれ止め43(後述する)と共に略水平方向に沿って切断し、上側の鉄筋コンクリート(
図14参照)を取り除いたときに残置されたものである。そのため、主桁上フランジ11A上の残置コンクリート部21内には、切断後のずれ止め43の根元(基端部43a)が埋設された状態となっている。
なお、鉄筋コンクリート床版の除去手段としては、上述したコンクリートカッタに限定されず、他に例えばコンクリートブレーカー等の破砕装置による除去手段を採用してもよい。
【0042】
また、残置コンクリート部21の橋幅方向Xの両側には、残置コンクリート部21における主桁上フランジ11Aとの間の境界部21Aが形成されている。この境界部21Aもまた、上述した防食シート5によって覆われている。
【0043】
ここで、主桁上フランジ11Aの上面11aには、取り替え前の鉄筋コンクリート床版14とのずれ止めとして機能する複数のずれ止め43が溶接によって突設されている(
図13および
図14参照)。ずれ止め43は、主桁上フランジ11Aの上面11aにおいて、橋幅方向Xに2列、橋軸方向Zに多数が配列されている。これらずれ止め43は、頭部(上側部分)が切断されて一部(基端部43a)が主桁上フランジ11Aの上面11aに残され、コンクリート除去部21aに露出している。
【0044】
コンクリート除去部21aを上方から覆う防食シート5は、残置コンクリート部21と主桁上フランジ11Aとの境界部21Aを覆ってコンクリート除去部21aから主桁上フランジ11Aの下面11bまでをくるむようにして接着されている。防食シート5は、主桁11の長手方向(橋軸方向Z)に隙間なく連続して設けられている。
【0045】
防食シート5は、防水性をもち粘着層51を有する。粘着層51は、残置コンクリート部21に対する接着面となる。防食シート5としては、例えば、防水性、防食性を有するシリコーン粘着シートである「シンエツ パッチシール」(登録商標、信越化学工業社製)のHNS-200を採用することができる。このパッチシールは、基材層と粘着層との二層構造をなしている。基材層は、厚み0.8mmのシリコーンゴムシートからなる。粘着層は、自己粘着性を有し、基材層の裏面に配置され、厚み1.0mmのシリコーンゲルからなる。防食シート5の粘着性としては、コンクリートおよび鋼材に対して、例えば屋外での使用において30年程度の耐久性を有することが好ましい。
【0046】
なお、防食シート5は、上述した「シンエツ パッチシール」に限定されることはなく、少なくとも防水性および粘着性を有するシート状の部材であれば他の部材であってもよい。また、防食シート5の粘着層51は、シート本体と一体でも別体であってもかまわない。
【0047】
次に、上述した構成の橋梁10の主桁11に支持されて敷設されている鉄筋コンクリート床版14の一部を新設の鋼床版3に取り替える床版取替え方法、および残置コンクリート部21のコンクリート除去部21aの防食方法について、
図9の施工フローを参照しながら詳細に説明する。
【0048】
先ず、準備工程(
図9の第1工程S1)として、橋梁10の下に、図示しない全面吊足場を設置し、この全面吊足場から、新設の鋼床版3の設置(取替え)の際に干渉する部材の撤去、改良、仕上げ(一部グラインダー作業)を行う。なお、検査等のためなどに全面足場が予め設置されている場合は、その足場を使って同じ作業を行うことができる。
【0049】
次に、
図4に示すように、主桁ウエブ11Cの上部に横リブ取付部16を高力ボルト45によってボルト結合する。この場合、鉄筋コンクリート床版14の下面側で作業を行って横リブ取付部16を主桁ウエブ11Cにボルト結合する(第2工程S2)。
【0050】
また、中央部の主桁ウエブ11Cのウエブ面に横リブ取付部16を結合する場合も同様にして行う。
また、中央部の主桁ウエブ11Cの反対側(左側の主桁11側)のウエブ面には、中央部の主桁11と左側の主桁11とに支持されて敷設されている鉄筋コンクリート床版14の一部を新設の鋼床版3に取り替える際に、同様にして横リブ取付部16を取り付ける。
なお、横リブ取付部16を主桁11に取り付けた後、
図10に示すように、必要に応じて、上部交通の車線規制を行う(第3工程S3)。車線規制を行う場合、路面の幅方向(橋幅方向X)の中央部に仮設ガード17を橋軸方向Zに所定間隔で立設する。
図10は、右側の1車線を規制したものを示していて、仮設ガード17より左側が車両通行帯であり、右側が工事帯となっている。
【0051】
次に、工事帯において、
図10および
図11に示すように、鉄筋コンクリート床版14の一部を撤去する。このとき、橋軸方向Zの所定の幅内において主桁上フランジ11Aの上面11a側に設けられている部分(
図14に示す残置コンクリート部21)を残した状態で鉄筋コンクリート床版14を撤去する(第4工程S4)。
【0052】
具体的には、
図10および
図12(a)、(b)に示すように、橋幅方向Xの右側に位置する主桁11と中央部に位置する主桁11との間に位置する鉄筋コンクリート床版14の橋軸方向Zにおける所定部位を、後述する鋼床版3の平面視形状や大きさ(この実施形態の場合、平面視略矩形状)に応じて、コンクリートカッタによって切断し、撤去する。 この際、上述したように主桁上フランジ11Aの上面11a側に部分的にコンクリートを残した状態とし、その残置コンクリート部21(
図14参照)以外の部分が除去される。すなわち、本実施形態では、主桁11の主桁上フランジ11Aの上面11aに所定厚さの残置コンクリート部21が残置される。
【0053】
図13および
図14に示すように、これは例えば宮地エンジニアリング株式会社のM-SR工法のように、鉄筋コンクリート床版14と主桁上フランジ11Aの上面11aとの間を狙って、主桁上フランジ11Aと平行に切断手段である不図示の水平スライサーを水平に進行させて鉄筋コンクリート床版14を主桁上フランジ11Aから上方に切り離す。これにより、鉄筋コンクリート床版14のうち主桁上フランジ11Aの上面11aの一部(残置コンクリート部21)が残置された状態となる。残置コンクリート部21には、主桁上フランジ11A上に突設されているずれ止め43の基端部43aが埋設された状態で残置されている。
残置コンクリート部21を残す理由は、主桁上フランジ11Aの上面11aから全ての鉄筋コンクリート床版14のコンクリートを除去することに手間と時間を要することから、残置コンクリート部21を残すことで作業の効率化を図るためである。
【0054】
また、鉄筋コンクリート床版14の撤去領域(後述する床版撤去領域R)において、
図12(a)、(b)に示す舗装部15の一部を橋軸方向Zに沿って除去し、床版撤去領域Rに沿う縁部を露出させる。このようにして鉄筋コンクリート床版14の所定部位を平面視略矩形状に切断することで、矩形状の床版撤去領域Rが形成されることになる。この床版撤去領域Rの平面視における橋軸方向Zの長さは、取り替えられる新設の鋼床版3の平面視における橋軸方向Zの長さより若干長く設定される。また、
図10に示すように、鉄筋コンクリート床版14の所定部位を平面視で略矩形状に切断する場合、右側の地覆14bおよび高欄14cを含めて切断するので、床版撤去領域Rの橋幅方向Xの外側(右側)が開放されている。
【0055】
次に、第5工程S5では、
図15に示すように、新設の鋼床版3を床版撤去領域Rに仮置きの状態で配置する。このとき、鋼床版3は、主桁上フランジ11Aや残置コンクリート部21を上方から覆うようにして配設される。鋼床版3は、残置コンクリート部21が載置された主桁上フランジ11Aの橋幅方向Xの両側に縦リブ32A、32Aが位置した状態で仮置きされる。
【0056】
第5工程S5の後、既設の鉄筋コンクリート床版14と鋼床版3との連結およびその後の舗装を行う工程(第6工程S6)と、上部交通の車線規制を解放する工程(第7工程S7)と、を行う。
【0057】
さらに、第6工程S6では、鋼床版3の横リブ33を当該横リブ33の橋幅方向Xの端部において、当該端部に直近の主桁ウエブ11Cに剛結合する。
【0058】
このとき、
図17に示すように、鋼床版3と、この鋼床版3に橋幅方向Xおよび橋軸方向Zにおいて隣り合う鉄筋コンクリート床版14との間に仮止め板55を架け渡し、この仮止め板55の上面側において、鋼床版3の上面に予め設けられている舗装部34および鉄筋コンクリート床版14上の舗装部15とほぼ面一に施工する。仮止め板55は、一時的に鉄筋コンクリート床版14と鋼床版3との間、あるいは隣接する鋼床版3、3間を連続させることにより、道路の陥没状態を抑止して車両の通行を可能にする機能を有している。
【0059】
第7工程S7では、1つの鋼床版3の取り替えが終了した後、一時交通規制を解除して、工事帯を通行可能とする。
【0060】
図5~
図8および
図16に示すように、第5工程S5で主桁上フランジ11A上に鋼床版3を設置した後に、残置コンクリート部21と鋼床版3のデッキプレート31の下面31aとの間のスペースSにおいて防食シート5を所定部位に接着して設ける(第8工程S8)。残置コンクリート部21のうちコンクリート内の鋼材が露出したコンクリート除去部21aに対して、防水性をもち粘着層51を有する防食シート5で液密に覆った状態で接着する。第8工程S8の防食シート5の設置作業は、設置した鋼床版3の下方のスペースSで行うことが可能であるので、上述した第6工程S6および第7工程S7と並行して作業を行うことができる。すなわち、鋼床版3上に車両を通行させた状態による活線作業が可能であり、例えば、第1工程S1で設置した全面吊足場を解体するまでに防食シート5の設置作業を行えばよい。
【0061】
このとき、防食シート5は、残置コンクリート部21と主桁上フランジ11Aとの境界部21Aを覆ってコンクリート除去部21aから主桁上フランジ11Aの下面11bまでをくるむようにして設けられ、主桁上フランジ11Aの長手方向(橋軸方向Z)に沿って隙間なく連続した状態で設けられる。防食シート5は、粘着層51をコンクリート除去部21aや主桁上フランジ11Aの接着面に接着させることで液密に貼り付けられた状態になる。
【0062】
なお、防食シート5の設置後における橋梁10の維持管理としては、例えば、デッキプレート31の下面31aの塗膜を確認したり、横継手の高力ボルトの状況を確認することによる管理方法が採用される。
【0063】
図12(a)、(b)に示すように、前述の鉄筋コンクリート床版14の撤去工程(第4工程S4)によって、鋼床版3が配設されている床版撤去領域Rを囲む鉄筋コンクリート床版14の周縁部分のうち、橋幅方向Xに隣り合う部分は、主桁11の主桁上フランジ11Aの上面11a側において舗装部15の一部が除去されて、鉄筋コンクリート床版14の橋幅方向Xにおいて床版撤去領域Rに隣接する縁部が露出した状態となっている。また、主桁11,11間に位置し、橋軸方向Zに隣り合う部分の鉄筋コンクリート床版14は、橋幅方向Xに沿って舗装部15の一部が除去されて、鉄筋コンクリート床版14の橋軸方向Zにおいて床版撤去領域Rに隣接する縁部が露出した状態となっている。
そして、デッキプレート31の外周縁部31cと鉄筋コンクリート床版14の橋軸方向Zに沿う外周縁部とに隙間を跨ぐようにして、仮止め板55(
図19参照)を架け渡して固定したうえで、仮止め板55の上面側に、仮舗装部を鋼床版3の上面に予め設けられている舗装部34および鉄筋コンクリート床版14上の舗装部15とほぼ面一に施工する。
【0064】
次に、2つ目の鋼床版3の取り替えを行う場合には、基本的に上述した工程を順次繰り返すことによって行う。ここでは、2つ目の鋼床版3の取り替え工事において、上記と同様の工程についての詳細な説明は省略し、2つ目の鋼床版3に関する工程について主に説明する。
【0065】
先ず、
図18および
図19に示すように、工事帯において、先に取り換えた(新設した)鋼床版3と橋軸方向Zにおいて隣接する鉄筋コンクリート床版14の一部のうち、橋軸方向Zの所定の幅内において主桁上フランジ11Aの上面側に設けられている部分以外を除去することで、鉄筋コンクリート床版14の一部に床版撤去領域Rを設けるとともに、当該床版撤去領域Rにおいて主桁上フランジ11Aの上面11aに残置コンクリート部21を残置する。また、主桁ウエブ11Cの上部に横リブ取付部16を高力ボルトによってボルト結合する。
その後、
図20に示すように、床版撤去領域Rに次に新設する鋼床版3を配設し、鋼床版3の横リブ33を当該横リブ33の端部において、当該端部に直近の主桁ウエブ11Cに、横リブ取付部16によって剛結合する。
【0066】
また、この段階において、隣り合う鋼床版3,3同士はパネル間継手(図示省略)を使用して高力ボルト45(
図4参照)によって接合する。このパネル間継手は、2面せん断のボルト摩擦接合によって隣接する鋼床版3,3同士を一体化するものである。このパネル間継手によって、鋼床版3のデッキプレート31の橋軸方向Z(
図21参照)および橋軸直角方向の接合と、縦リブ32が2面せん断のボルト摩擦接合によって接合される。なお、パネル間継手を設ける場合には、先だって存在する仮止め板55(
図19参照)が存在する場合には、その仮止め板55を撤去する。
【0067】
その後、今回取り替えた鋼床版3と、この鋼床版3に橋幅方向Xおよび橋軸方向Zにおいて隣り合う鉄筋コンクリート床版14との間に仮止め板55(
図19参照)を架け渡し、この仮止め板55の上面側に、仮舗装部56(
図4参照)を鋼床版3の上面に予め設けられている舗装部34および鉄筋コンクリート床版14上の舗装部15とほぼ面一に施工する。
【0068】
このようにして2つ目の鋼床版3を取り替えた後、同様にして必要な数の鋼床版3を順次取り替えることによって、橋軸方向Zに所望な距離だけ鉄筋コンクリート床版14に替えて新たな鋼床版3を新設する。以上のようにして、片側2車線のうち一方側の車線について橋軸方向Zにおいて所望な距離だけ新な鋼床版3を新設する。
【0069】
また、一方側の車線について橋軸方向Zに所望な距離だけ鉄筋コンクリート床版14に替えて新たな鋼床版3を新設した後、
図22に示すように、片側2車線のうちの他方側の車線(
図22において左側の車線)についても同様にして既設の鉄筋コンクリート床版14に替えて新たな鋼床版3を新設する。
図23では、一方側の車線において取り替えた鋼床版3が2枚記載されているが、実際は橋軸方向Zにおいて鋼床版3は所定数だけ連続して施工(新設)されている。
なお、他方側(
図22で左側)の車線において、鋼床版3を新設する場合、一方側の車線において、鋼床版3を新設した場合と同様にして鋼床版3を新設するので、以下ではその方法を簡単に説明する。
【0070】
片側2車線のうちの他方側(
図22で左側)の車線において、鉄筋コンクリート床版14に替えて新たな鋼床版3を新設する場合の準備工程として、全面足場の設置や干渉する部材の撤去を行った後、鉄筋コンクリート床版14の下面側で、所定の主桁11の主桁ウエブ11Cの上部に横リブ取付部16を高力ボルト45(
図4参照)によってボルト結合する作業を行う。そして、他方側の車線について上部交通を規制した後、
図22および
図23に示すように、他方側の車線の鉄筋コンクリート床版14の少なくとも一部のうち、主桁11の主桁上フランジ11Aの上面側に設けられている部分(残置コンクリート部21)を残して除去することで、鉄筋コンクリート床版14の少なくとも一部に床版撤去領域Rを形成する。これにより、床版撤去領域Rにおいて、主桁上フランジ11Aの上面11aに残置コンクリート部21が残置される。
【0071】
次に、
図24および
図25に示すように、床版撤去領域Rに新設の鋼床版3を配設する。その後、横リブ33を当該横リブ33の橋幅方向Xの両端部において、当該両端部に直近の主桁ウエブ11Cに横リブ取付部16によって剛結合する。なお、予め主桁ウエブ11Cに横リブ取付部16をボルト結合しておく。また、横リブ取付部16に横リブ33をボルト結合する場合、横リブ取付部16と横リブ33の端部とをスプライスプレート42によって挟み付けるとともに高力ボルトによって締結する。
【0072】
さらに、鋼床版3と、当該鋼床版3に隣り合う鉄筋コンクリート床版14との間に仮止め板55を架け渡し、仮止め板55の上面側に、仮舗装部56を鋼床版3の上面側の舗装部34および鉄筋コンクリート床版14上の舗装部とほぼ面一に施工する。また、鋼床版3(他方側(
図22の左側)の車線の鋼床版)と、一方側(
図22で右側)の車線に設置されている鋼床版3との間にはパネル間継手を取り付けて相互に接合し、パネル間継手の上面側に、仮舗装部56を橋幅方向Xに隣り合う鋼床版3の上面側の舗装部34とほぼ面一に施工する。
そして、橋梁10において予定していた区間において鋼床版3の取り替えが終了することによって、工事全体を終了する。
【0073】
上述した床版取替え方法を順次、行うことにより橋梁10の床版を鉄筋コンクリート床版14から鋼床版3に取り替えることができる。
【0074】
以上説明したコンクリート除去部21aの防食方法および床版取替え構造1の防食方法によれば、橋梁10の主桁11に支持されて敷設されている鉄筋コンクリート床版14の一部を鋼床版3に取り替えるための床版取替え構造1の防食方法である。この防食方法は、鉄筋コンクリート床版14のうち主桁11の主桁上フランジ11Aの上面11aに残置コンクリート部21を残置する工程と、残置コンクリート部21の上方に間隔をあけてデッキプレート31を有する鋼床版3を配置する工程と、残置コンクリート部21のうちコンクリート内の鋼材が露出したコンクリート除去部21aに対して、防水性をもち粘着層51を有する防食シート5で液密に覆った状態で接着する工程と、を有する。
【0075】
本実施形態によれば、鉄筋コンクリート床版14を切断することで形成されるコンクリート除去部21aに対して粘着層51を有する防食シート5を接着するといった簡単な作業により、コンクリート除去部21aを防食シート5で液密な状態で覆うことができる。そのため、本実施形態では、コンクリート除去部21aに露出するコンクリートおよび鉄筋等の残置コンクリート部21内に埋設される鋼材の露出部の全体を保護することができ、残置コンクリート部21内への結露水等の侵入を防止できる。このように防食シート5を接着することにより、残置された鉄筋や主桁上フランジ11Aに突設されるずれ止め43等の鋼材を防錆することができ、鋼材の腐食を防止できる。さらに、このとき防食シート5によってコンクリート除去部21aが広く覆われることから、主桁上フランジ11A上の残置コンクリート部21の剥落を抑制できる。
また、本実施形態では、粘着層51を有する防食シート5を用いるため、防食シート5を防食対象部位に接着するだけの簡単な作業となり、効率よく、かつ作業時間を低減できる。
【0076】
また、本実施形態では、残置コンクリート部21と主桁上フランジ11Aとの境界部21Aを覆ってコンクリート除去部21aから主桁上フランジ11Aの下面11bまでをくるむようにして防食シート5を設ける。
そのため、コンクリート除去部21aだけでなく、残置コンクリート部21と主桁上フランジ11Aの下面11bが防食シート5によってくるまれて覆われた状態となるので、コンクリート除去部21aとの境界部21Aも防食シート5によって保護することができる。
【0077】
また、本実施形態では、主桁上フランジ11A上に鋼床版3を設置した後に、残置コンクリート部21と鋼床版3のデッキプレート31の下面31aとの間のスペースSにおいて防食シート5を所定部位に接着して設ける。
これにより、防食シート5を設ける前に残置コンクリート部21の上方に鋼床版3が設けられ、その鋼床版3の下方のスペースSで防食シート5を所定部位に接着する作業を行うことができる。すなわち、鋼床版3上の工事や鋼床版3上に車を通行させた活線作業により防食シート5の接着作業を行うことが可能となるので、作業効率の向上が図れ、床版取替え工事全体の作業時間を低減でき、工事工程の短縮を図ることができる。
【0078】
また、本実施形態では、防食シート5が主桁11の長手方向に隙間なく連続して設けられているので、防食シート5同士の間が結露水等の侵入路となることがなく、防食性能をより向上させることができる。
【0079】
上述のように本実施形態によるコンクリート除去部21aの防食方法および床版取替え構造1の防食方法では、短時間で施工でき、コンクリート除去部21aの防食効果と保護効果を高めることができる。
【0080】
以上、本発明によるコンクリート除去部の防食方法および床版取替え構造の防食方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0081】
例えば、上述した本実施形態では、主桁上フランジ11A上に鋼床版3を設置した後に、残置コンクリート部21と鋼床版3のデッキプレート31の下面31aとの間のスペースSにおいて防食シート5を所定部位に接着して設ける作業手順としているが、鋼床版3を設置する前に防食シート5を所定部位に接着し、防食シート5の接着作業後に鋼床版3を設置する手順としてもよい。
【0082】
また、本実施形態では、防食シート5の接着範囲として、残置コンクリート部21と主桁上フランジ11Aとの境界部21Aを覆ってコンクリート除去部21aから主桁上フランジ11Aの下面11bまでをくるむ範囲としているが、このような接着範囲であることに限定されることはない。要は、少なくともコンクリート除去部21aの全体にわたって覆う範囲に防食シート5が接着されていればよいのである。
【0083】
また、本実施形態では、例えば
図26に示す変形例による防食方法では、主桁11の両側に一人ずつ作業員M1、M2を配置し、防食シート5を受け渡しながら施工することができる。すなわち、防食シート5として、一方向に延びる長尺帯状シートを採用し、この長尺帯状シートの短尺方向を橋軸方向Zに平行に向け、かつ長尺方向を橋軸直角方向(橋幅方向X)に向けた姿勢で主桁上フランジ11Aのコンクリート除去部21に対して接着する。
図26では、2人の作業員M1、M2によって符号5Dの防食シートを符号5Cの防食シートの橋軸方向Zに隣接する位置に隙間なく接着する作業を示している。すなわち、防食シート5は、符号5A、5B、5C、5Dの順で施工される。各部の接着後には、ロール状の長尺帯状シートを接着部分から切り離した後、さらに隣接する箇所への接着作業に移行する。
このように、変形例では、主桁11の側方で作業する作業員M1、M2が長尺帯状シートの幅方向(短尺方向)の両側が手の届く範囲となり、そのシート両側を持って所定の接着位置に配置できる。そのため、防食シート5の接着作業がし易くなり、より施工効率を向上させることができる。
【0084】
さらに、本実施形態では、防食シート5の接着対象となる鉄筋コンクリート構造物として、主桁上フランジ11A上に残った残置コンクリート部21の一例を示したが、これに限定されることはない。鉄筋等の鋼材が埋設されているコンクリート構造物であればよく、例えば、既設の鉄筋コンクリート造の擁壁等に適用できる。
【0085】
また、本実施形態では、ずれ止め43としてスタッドを対象としているが、スタッドに限定されることはなく、例えば、馬蹄ジベル、PBL(孔あき鋼板ジベル)等の他のずれ止めであってもかまわない。さらに、ずれ止めの位置、数量についても限定されることはない。
【0086】
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 床版取替え構造
3 鋼床版
5 防食シート
10 橋梁
11 主桁
11A 主桁上フランジ
11a 上面
14 鉄筋コンクリート床版
21 残置コンクリート部
21A 境界部
21a コンクリート除去部
31 デッキプレート
32 縦リブ
43 ずれ止め
51 粘着層
S スペース
X 橋幅方向
Z 橋軸方向