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特開2024-78860ワイヤーハーネスおよびワイヤーハーネスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078860
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネスおよびワイヤーハーネスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20240604BHJP
   H01R 13/52 20060101ALI20240604BHJP
   H01R 43/00 20060101ALI20240604BHJP
   H01B 7/285 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01B7/00 301
H01R13/52 301F
H01R43/00 Z
H01B7/285
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191448
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 裕
【テーマコード(参考)】
5E051
5E087
5G309
5G313
【Fターム(参考)】
5E051GA01
5E087LL02
5E087LL14
5E087QQ04
5E087RR12
5G309AA01
5G309AA09
5G313FA03
5G313FB02
5G313FC05
5G313FD01
(57)【要約】
【課題】防水部を構成する樹脂組成物のシート体からの漏出が軽減され、かつ高い防水性を確保できるワイヤーハーネス、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】スプライス部5は、電線束2を構成する電線4を導体41が露出した露出部21にて相互に接合しており、防水部6は、前記スプライス部と、前記露出部および導体が絶縁被覆42に覆われた被覆部22とを、硬化性の樹脂材料で被覆しており、シート体7は前記防水部の外周を包囲しており、前記防水部は、前記露出部において、前記電線束を構成する複数の前記電線の間の空間を、前記樹脂材料で隙間なく埋めており、前記電線束の軸線方向に沿って、前記シート体に包囲されて前記被覆部を被覆する領域のうち、端部を含む一部の領域を端部域61、前記端部域に隣接する領域を隣接域62として、前記端部域において前記隣接域よりも平滑な表面を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線束と、スプライス部と、防水部と、シート体と、を有し、
前記電線束は、複数の電線を含み、
前記電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、
前記電線束は、前記電線の前記絶縁被覆から前記導体が露出した露出部と、前記露出部に隣接し、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた被覆部と、を備え、
前記スプライス部は、前記電線束を構成する前記電線を前記露出部において相互に接合しており、
前記防水部は、前記スプライス部と、前記露出部および前記被覆部とを、硬化性の樹脂材料で被覆しており、
前記シート体は、前記防水部の外周を包囲しており、
前記防水部は、
前記露出部において、前記電線束を構成する複数の前記電線の間の空間を、前記樹脂材料で隙間なく埋めており、
前記電線束の軸線方向に沿って、前記シート体に包囲されて前記被覆部を被覆する領域のうち、端部を含む一部の領域を端部域、前記端部域に隣接する領域を隣接域として、前記端部域において、前記隣接域よりも平滑な表面を有する、ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記防水部は、前記シート体に包囲された領域の内側に全域が収まっている、請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記シート体は、可塑剤を含有する樹脂材料より構成されており、
前記防水部を構成する前記樹脂材料は、可塑剤を含有しないか、前記シート体よりも低濃度で可塑剤を含有する、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記防水部において、前記隣接域は、少なくとも前記スプライス部を被覆する領域まで連続して延びており、前記端部域はその隣接域全体よりも平滑な表面を有する、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記ワイヤーハーネスは、軸線方向の中途部に、中間スプライス部として、前記スプライス部を有しており、軸線方向に沿って前記スプライス部の一方側に、第一電線部として、前記電線束を有するとともに、他方側に、前記電線を1本または複数含む第二電線部を有し、
前記防水部は、
前記第一電線部の前記被覆部から前記第二電線部の前記被覆部までにわたる領域を被覆しており、
前記端部域を、少なくとも、前記第一電線部側の端部を含む一部の領域に有する、請求項4に記載のワイヤーハーネス。
【請求項6】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する電線を、一部の領域の絶縁被覆を除去したうえで、複数束ねることで、前記導体が露出した露出部と、前記露出部に隣接し、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた被覆部と、を備えた電線束を形成し、前記電線を前記露出部にて相互に接合して、スプライス部を形成し、ハーネス前駆体を作製する接合工程と、
硬化性を有する液状の樹脂組成物を、シート体の表面の一部の領域に配置する樹脂配置工程と、
前記シート体の表面に配置した前記樹脂組成物のうち、一部の領域のみ、粘度を上昇させて高粘度化領域とするとともに、それ以外の領域を液状領域として残す部分粘度上昇工程と、
前記電線束の前記露出部が前記液状領域に接するようにして、前記樹脂組成物の面に、前記ハーネス前駆体の前記スプライス部を含む部位を配置するハーネス配置工程と、
前記ハーネス前駆体を、前記樹脂組成物が配置された前記シート体の面で包囲する包囲工程と、
前記シート体で包囲された前記樹脂組成物を全域にて硬化させる硬化工程と、をこの順に実行し、
前記部分粘度上昇工程においては、
前記樹脂組成物が配置された領域のうち、前記ハーネス前駆体の軸線方向に沿って、一方の端部と他方の端部をそれぞれ含む相互に離間した第一部位および第二部位に、前記高粘度化領域を設け、
前記電線束の前記露出部が配置される領域を含んで、前記第一部位と前記第二部位の間に前記液状領域を設ける、ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、光硬化性を有し、
前記シート体は前記樹脂組成物を硬化させることができる光に対して透過性を有し、
前記部分粘度上昇工程においては、前記シート体の表面に配置した前記樹脂組成物のうち、前記液状領域とする領域を、光を遮るマスク材で被覆した状態で、前記樹脂組成物に光を照射することで、前記高粘度化領域において、前記樹脂組成物を半硬化状態とし、
前記硬化工程においては、前記ハーネス前駆体を包囲した前記シート体の外側から、前記樹脂組成物の全域に光を照射して硬化させる、請求項6に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項8】
前記シート体は、可塑剤を含有する樹脂材料より構成されており、
前記樹脂組成物は、可塑剤を含有しないか、前記シート体よりも低濃度で可塑剤を含有する、請求項6または請求項7に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項9】
前記ハーネス前駆体は、軸線方向の中途部に、中間スプライス部として、前記スプライス部を有しており、軸線方向に沿って前記スプライス部の一方側に、第一電線部として、前記電線束を有するとともに、他方側に、前記電線を1本または複数含む第二電線部を有し、
前記樹脂配置工程において、前記樹脂組成物は、前記ハーネス前駆体の前記第一電線部の前記被覆部から前記第二電線部の前記被覆部までを含む領域に相当する位置に、連続して配置され、
前記部分粘度上昇工程において、前記高粘度化領域として、
前記第一部位は、前記第一電線部の前記被覆部の一部に相当する領域に設けられ、
前記第二部位は、前記第二電線部の前記被覆部の一部に相当する領域を含んで設けられる、請求項6または請求項7に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項10】
前記第二電線部は、前記電線を1本のみ含み、
前記部分粘度上昇工程において、前記第二部位は、前記スプライス部から前記第二電線部の前記被覆部までにわたる箇所に相当する領域に、連続して設けられる、請求項9に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤーハーネスおよびワイヤーハーネスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数本の電線を含むワイヤーハーネスにおいて、各電線の絶縁被覆から露出された導体が、圧着端子等を用いて相互に接合され、スプライス部が形成されることがある。そのようなスプライス部を備えたワイヤーハーネスは、例えば特許文献1~3に開示されている。それらスプライス部を備えたワイヤーハーネスにおいては、スプライス部を水との接触から保護することを目的として、スプライス部を含む部位が、水を通しにくい樹脂材料よりなる防水部で被覆されることがある。特許文献1,2には、スプライス部を含む領域を樹脂材料で被覆して防水部を構成し、さらにその防水部の外周を包囲するシート体を設けたワイヤーハーネスが開示されている。このような構造は、光を透過するシート体の表面に光硬化性を有する樹脂組成物を配置し、その樹脂組成物の上に、ワイヤーハーネスのスプライス部を含む領域を載置したうえで、それらの領域を樹脂組成物が配置されたシート体で包囲し、シート体の外側から光照射を行って樹脂組成物を硬化させることで、簡便に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-248527号公報
【特許文献2】特開2021-034188号公報
【特許文献3】特開平1-154473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に開示されるように、液状の樹脂組成物をシート体の上に配置し、そのシート体でワイヤーハーネスのスプライス部を含む領域を包囲したうえで、樹脂組成物を硬化させれば、スプライス部の外周に防水部を簡便に形成することができる。しかしこの場合に、液状の樹脂組成物を配置したシート体に対して、折り曲げ、巻き付け等の操作を行って、ワイヤーハーネスのスプライス部を含む領域を、そのシート体で包囲する工程においては、それらの操作に伴って、樹脂組成物がシート体の外側に漏出しやすい。樹脂組成物の漏出が起こると、防水部を形成するための以降の工程において、作業性が低下してしまう。また、漏出した樹脂組成物がそのまま硬化すると、完成したワイヤーハーネスにおいて、シート体の外で硬化した樹脂材料が、周囲の物体との接触等、好ましくない影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
特許文献3に開示されているゼリー状のシール剤のように、高粘度の樹脂組成物を用いて防水部を構成すれば、各種の操作工程において、シート体から樹脂組成物が漏出するのを抑制できる。しかし、高粘度の樹脂組成物を用いる場合には、スプライス部で接合されている複数の電線の間の箇所をはじめとして、防水部を構成すべき領域の中の各部に、樹脂組成物が十分に行き渡らず、防水部の内部に、樹脂材料に占められない空隙が残ってしまう可能性がある。そのような空隙が生じると、防水部内への水の侵入を許してしまい、十分な防水性が得られない可能性がある。
【0006】
以上に鑑み、スプライス部の外周に防水部が設けられ、その防水部の外周をシート体で包囲したワイヤーハーネスであって、防水部を構成する樹脂組成物のシート体からの漏出が軽減され、かつ高い防水性を確保できるワイヤーハーネス、およびそのようなワイヤーハーネスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のワイヤーハーネスは、電線束と、スプライス部と、防水部と、シート体と、を有し、前記電線束は、複数の電線を含み、前記電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記電線束は、前記電線の前記絶縁被覆から前記導体が露出した露出部と、前記露出部に隣接し、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた被覆部と、を備え、前記スプライス部は、前記電線束を構成する前記電線を前記露出部において相互に接合しており、前記防水部は、前記スプライス部と、前記露出部および前記被覆部とを、硬化性の樹脂材料で被覆しており、前記シート体は、前記防水部の外周を包囲しており、前記防水部は、前記露出部において、前記電線束を構成する複数の前記電線の間の空間を、前記樹脂材料で隙間なく埋めており、前記電線束の軸線方向に沿って、前記シート体に包囲されて前記被覆部を被覆する領域のうち、端部を含む一部の領域を端部域、前記端部域に隣接する領域を隣接域として、前記端部域において、前記隣接域よりも平滑な表面を有する。
【0008】
本開示のワイヤーハーネスの製造方法は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する電線を、一部の領域の絶縁被覆を除去したうえで、複数束ねることで、前記導体が露出した露出部と、前記露出部に隣接し、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた被覆部と、を備えた電線束を形成し、前記電線を前記露出部にて相互に接合して、スプライス部を形成し、ハーネス前駆体を作製する接合工程と、硬化性を有する液状の樹脂組成物を、シート体の表面の一部の領域に配置する樹脂配置工程と、前記シート体の表面に配置した前記樹脂組成物のうち、一部の領域のみ、粘度を上昇させて高粘度化領域とするとともに、それ以外の領域を液状領域として残す部分粘度上昇工程と、前記電線束の前記露出部が前記液状領域に接するようにして、前記樹脂組成物の面に、前記ハーネス前駆体の前記スプライス部を含む部位を配置するハーネス配置工程と、前記ハーネス前駆体を、前記樹脂組成物が配置された前記シート体の面で包囲する包囲工程と、前記シート体で包囲された前記樹脂組成物を全域にて硬化させる硬化工程と、をこの順に実行し、前記部分粘度上昇工程においては、前記樹脂組成物が配置された領域のうち、前記ハーネス前駆体の軸線方向に沿って、一方の端部と他方の端部をそれぞれ含む相互に離間した第一部位および第二部位に、前記高粘度化領域を設け、前記電線束の前記露出部が配置される領域を含んで、前記第一部位と前記第二部位の間に前記液状領域を設ける。
【発明の効果】
【0009】
本開示にかかるワイヤーハーネスは、スプライス部の外周に防水部が設けられ、その防水部の外周をシート体で包囲したワイヤーハーネスであって、防水部を構成する樹脂組成物のシート体からの漏出が軽減され、かつ高い防水性を確保できるワイヤーハーネスとなっている。また、本開示にかかるワイヤーハーネスの製造方法によれは、そのようなワイヤーハーネスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを示す斜視図である。
図2図2は、上記ワイヤーハーネスを示す概略断面図である。
図3図3A図3Cは、部分半硬化法を用いたワイヤーハーネスの製造方法を説明する図である。図3Aは接合工程で得られるハーネス前駆体を示し、図3Bは樹脂配置工程、図3Cは部分粘度上昇工程を示している。図中、未硬化の樹脂組成物を斜線にて表示し、半硬化した状態にある樹脂材料を網掛けにて表示している。
図4図4A~4Cは、上記ワイヤーハーネス製造方法の続きの工程を説明する図であり、図4Aはハーネス配置工程を示してしている。図4Bは包囲工程においてシート体を折り曲げる工程を示し、図4Cは包囲工程においてシート体を絞り込む工程を示している。図4Aのみ平面図にて表示している。
図5図5は、上記ワイヤーハーネス製造方法の続きの工程を説明する図であり、硬化工程を示している。
図6図6A~6Fは、3種の製造方法で製造されるワイヤーハーネスの構造を示す図である。それぞれ部分半硬化法、一段階硬化法、全域半硬化法にて製造されたワイヤーハーネスについて、図6A~6Cは防水部の端部近傍の状態を拡大して示し(図1のA-A断面図)、図6D~6Fは電線束の露出部に相当する領域の状態を示している(図1のB-B断面図)。
図7図7は、部分半硬化法にて製造したワイヤーハーネスにおいて、電線束を構成する電線に対して、被覆部の端部近傍を拡大して撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を列挙して説明する。
(1)本開示のワイヤーハーネスは、電線束と、スプライス部と、防水部と、シート体と、を有し、前記電線束は、複数の電線を含み、前記電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記電線束は、前記電線の前記絶縁被覆から前記導体が露出した露出部と、前記露出部に隣接し、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた被覆部と、を備え、前記スプライス部は、前記電線束を構成する前記電線を前記露出部において相互に接合しており、前記防水部は、前記スプライス部と、前記露出部および前記被覆部とを、硬化性の樹脂材料で被覆しており、前記シート体は、前記防水部の外周を包囲しており、前記防水部は、前記露出部において、前記電線束を構成する複数の前記電線の間の空間を、前記樹脂材料で隙間なく埋めており、前記電線束の軸線方向に沿って、前記シート体に包囲されて前記被覆部を被覆する領域のうち、端部を含む一部の領域を端部域、前記端部域に隣接する領域を隣接域として、前記端部域において、前記隣接域よりも平滑な表面を有する。
【0012】
スプライス部の外周に防水部を備え、さらに防水部がシート体に包囲されたワイヤーハーネスにおいて、防水部が、シート体に包囲されて電線束の被覆部を被覆する領域のうち、端部を含む端部域において、それに隣接する隣接域よりも平滑な表面を有することは、そのワイヤーハーネスにおいて、防水部を構成する樹脂組成物のシート体からの漏出が軽減され、かつ露出部において電線束を構成する電線の間の空間に、樹脂材料が密に充填されていることを示す証左となる。その理由は次段落に説明するとおりであるが、樹脂組成物のシート体からの漏出が軽減されることで、防水部の形成時に未硬化の樹脂組成物が多量にシート体の外に漏出することによる作業性の低下が抑制される。また、シート体から漏出して硬化した樹脂材料が、周囲の物体との接触等の影響を生じることも、起こりにくくなる。一方で、電線束を構成する電線の間の空間に樹脂材料が密に充填されていることで、防水部の内部への水の侵入が、高度に抑制される。そのため、防水部が高い防水性を発揮するものとなる。
【0013】
スプライス部の外周に防水部を備え、さらに防水部がシート体に包囲されたワイヤーハーネスは、複数の電線をスプライス部にて接合したハーネス前駆体のスプライス部を含む部位を、樹脂組成物を配置したシート体で包囲したうえで、樹脂組成物を硬化させることで、形成することができる。この際、シート体の表面に配置した樹脂組成物のうち、ハーネス前駆体の軸線方向に沿って両端部を含む一部の領域の粘度をあらかじめ上昇させて高粘度化領域を形成しておいたうえで、ハーネス前駆体をシート体で包囲し、樹脂組成物を硬化させる方法をとれば、上記のように、防水部を構成する樹脂組成物のシート体からの漏出が軽減され、かつ電線束を構成する電線の間に樹脂材料が隙間なく充填された構造を、簡便に形成することができる。両端部に高粘度化領域が形成されることで、シート体でハーネス前駆体を包囲する操作によって、樹脂組成物がシート体の外側に流出しにくい一方、それら高粘度化領域の間の位置において、低粘度のまま保たれた樹脂組成物が、電線束を構成する複数の電線の間の狭い領域にも浸透できるからである。このような製法をとる場合に、低粘度のまま保たれた樹脂組成物の一部が、高粘度化領域を乗り越えて流動し、その乗り越えた位置で硬化する場合がある。高粘度化領域においては、樹脂組成物がシート体に密着した状態で硬化するため、シート体が有する微細な凹凸構造が硬化後の表面に転写されるのに対し、上記の流動を経た部位は、シート体に密着せずに硬化するため、シート体の凹凸構造の影響を受けにくく、平滑な表面を形成する。よって、形成された防水部が、シート体に包囲されて電線束の被覆部を被覆する領域のうち、端部を含む端部域において、それに隣接する隣接域よりも平滑な表面を有することは、樹脂組成物の一部の領域の粘度をあらかじめ上昇させて高粘度化領域を形成しておく上記の方法によって防水部が形成されたことを示す証左となり、防水部が、シート体の外への樹脂組成物の漏出を軽減して形成されたものであること、および高い防水性を有するものであることを示す指標として機能する。
【0014】
さらに、防水部の端部域が平滑な表面を有することで、平滑度の低い表面を有する場合と比較して、防水部の端部において、水の付着や滞留が起こりにくくなり、端部域が防水部の防水性を高める役割を果たす。また、端部域の表面が平滑であることは、端部域において、防水部を構成する樹脂材料がシート体に強く接着されていないことを示す。そのため、端部域において、ワイヤーハーネスに曲げ等の力学的負荷が印加されることがあっても、防水部とシート体の間に剥離応力が生じにくく、力学的負荷を印加される状況でも、防水部による防水性を高く維持しやすい。また、防水部とシート体の間の接着面積が小さく抑えられ、防水部とシート体との間で、接着部を介した物質の移行が起こりにくくなる。するとワイヤーハーネスが長期の使用や高温環境での使用を経ても、物質の移行による樹脂材料やシート体の変性が起こりにくく、高い防水性が維持される。
【0015】
(2)上記(1)の態様において、前記防水部は、前記シート体に包囲された領域の内側に全域が収まっているとよい。この場合には、防水部を構成する樹脂材料がシート体の外に漏出しておらず、防水部形成時の作業性の低下や、シート体の外で硬化した樹脂材料と周囲の物体との接触等、樹脂材料の漏出によって生じうる影響が、排除される。
【0016】
(3)上記(1)または(2)の態様において、前記シート体は、可塑剤を含有する樹脂材料より構成されており、前記防水部を構成する前記樹脂材料は、可塑剤を含有しないか、前記シート体よりも低濃度で可塑剤を含有するとよい。シート体が可塑剤を含有することで、シート体を柔軟に曲げて防水部の外周に配置することができる。一方で、シート体が可塑剤を含有することで、シート体から防水部への可塑剤の移行が起こりやすく、もし防水部への可塑剤の移行が起これば、電線やシート体に対する防水部の密着性が低下し、防水部の防水性を十分に保てなくなる可能性がある。しかし、本開示のワイヤーハーネスにおいては、防水部の端部域が、平滑な表面を有することで示されるとおり、シート体に強く接着されておらず、シート体と防水部の間の接着面積が小さく抑えられていることにより、シート体から防水部への可塑剤の移行が起こりにくくなっている。よって、ワイヤーハーネスが長期間の使用や高温環境での使用を経ることがあっても、可塑剤の移行による防水性の低下が起こりにくい。
【0017】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つの態様において、前記防水部において、前記隣接域は、少なくとも前記スプライス部を被覆する領域まで連続して延びており、前記端部域はその隣接域全体よりも平滑な表面を有するとよい。上記のように、平滑度の低い表面を有する隣接域は、樹脂組成物がシート体に密着した状態で硬化した領域であり、シート体への密着により、高い防水性を発揮するものとなる。スプライス部を被覆する領域を含んで、そのように高い防水性を発揮する隣接域が形成されていることで、ワイヤーハーネスが防水性に優れたものとなる。
【0018】
(5)上記(4)の態様において、前記ワイヤーハーネスは、軸線方向の中途部に、中間スプライス部として、前記スプライス部を有しており、軸線方向に沿って前記スプライス部の一方側に、第一電線部として、前記電線束を有するとともに、他方側に、前記電線を1本または複数含む第二電線部を有し、前記防水部は、前記第一電線部の前記被覆部から前記第二電線部の前記被覆部までにわたる領域を被覆しており、前記端部域を、少なくとも、前記第一電線部側の端部を含む一部の領域に有するとよい。すると、防水部によって、中間スプライス部全体に対して、高い防水性を付与することができる。シート体の表面に硬化性の樹脂組成物を配置し、その上に中間スプライス部を形成したハーネス前駆体を載置したうえで、中間スプライス部を含む領域をシート体で包囲した後に樹脂組成物を硬化させることで、ワイヤーハーネスの中間部に、簡便に防水を施すことができるが、この際、表面の平滑性の低い端部域の形成が証左として起こる、ハーネス前駆体の軸線方向に沿って樹脂組成物の両端部に高粘度化領域を形成しておく方法をとることで、シート体からの樹脂組成物の漏出を軽減して、中間スプライス部の防水を、簡便に、かつ高度に達成することができる。第二電線部が電線を1本のみ含む場合には、防水部において、第二電線部側の端部には、表面が平滑になった端部域を設けなくてもよいが、第二電線部が電線を複数含む電線束として構成される場合には、第二電線部側の端部にも、第一電線部側の端部と同様に、表面が平滑になった端部域を設けておくことが好ましい。
【0019】
(6)本開示のワイヤーハーネスの製造方法は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する電線を、一部の領域の絶縁被覆を除去したうえで、複数束ねることで、前記導体が露出した露出部と、前記露出部に隣接し、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた被覆部と、を備えた電線束を形成し、前記電線を前記露出部にて相互に接合して、スプライス部を形成し、ハーネス前駆体を作製する接合工程と、硬化性を有する液状の樹脂組成物を、シート体の表面の一部の領域に配置する樹脂配置工程と、前記シート体の表面に配置した前記樹脂組成物のうち、一部の領域のみ、粘度を上昇させて高粘度化領域とするとともに、それ以外の領域を液状領域として残す部分粘度上昇工程と、前記電線束の前記露出部が前記液状領域に接するようにして、前記樹脂組成物の面に、前記ハーネス前駆体の前記スプライス部を含む部位を配置するハーネス配置工程と、前記ハーネス前駆体を、前記樹脂組成物が配置された前記シート体の面で包囲する包囲工程と、前記シート体で包囲された前記樹脂組成物を全域にて硬化させる硬化工程と、をこの順に実行し、前記部分粘度上昇工程においては、前記樹脂組成物が配置された領域のうち、前記ハーネス前駆体の軸線方向に沿って、一方の端部と他方の端部をそれぞれ含む相互に離間した第一部位および第二部位に、前記高粘度化領域を設け、前記電線束の前記露出部が配置される領域を含んで、前記第一部位と前記第二部位の間に前記液状領域を設ける。
【0020】
このワイヤーハーネスの製造方法においては、部分粘度上昇工程において、シート体の表面に配置した液状の樹脂組成物のうち、ハーネス前駆体の軸線方向に沿って両端に位置する領域のみ、粘度を上昇させて高粘度化領域とし、それらの領域の間に粘度を上昇させない液状領域を残している。そして、ハーネス配置工程において、その樹脂組成物の上に、電線束の露出部が液状領域に接するようにして、ハーネス前駆体を配置し、包囲工程において、シート体でハーネス前駆体を包囲したうえで、硬化工程において、樹脂組成物を全域で硬化させる。シート体上の樹脂組成物の両端部に樹脂組成物の粘度が高くなった高粘度化領域が設けられていることで、包囲工程において、樹脂材料が流動によってシート体の外に漏出しにくくなっている。高粘度化領域の樹脂組成物が、高粘度を有することで流動しにくくなっているうえ、液状領域の樹脂組成物が流動しても、高粘度化領域に両側を挟まれていることにより、シート体の外に漏出しにくいからである。一方で、流動性を有する状態を保った液状領域の樹脂組成物が、電線束の露出部に接触していることで、露出部において、各電線の間の空間に、隙間なく樹脂材料が浸透しやすくなっている。これにより、硬化工程での樹脂組成物全域の硬化を経て、シート体の外への樹脂材料の漏出が軽減され、かつ複数の電線の間の空間が露出部において隙間なく樹脂材料に埋められていることで高い防水性を発揮する防水部を、形成することができる。包囲工程を実施する際に、液状領域の樹脂組成物が、高粘度化領域に挟まれた領域に留まる場合と、高粘度化領域を乗り越えて流動する場合がありうるが、後者の場合に、隣接域よりも平滑な表面を有する端部域が防水部に形成された、上記(1)~(5)の形態のワイヤーハーネスが得られる。
【0021】
(7)上記(6)の態様において、前記樹脂組成物は、光硬化性を有し、前記シート体は前記樹脂組成物を硬化させることができる光に対して透過性を有し、前記部分粘度上昇工程においては、前記シート体の表面に配置した前記樹脂組成物のうち、前記液状領域とする領域を、光を遮るマスク材で被覆した状態で、前記樹脂組成物に光を照射することで、前記高粘度化領域において、前記樹脂組成物を半硬化状態とし、前記硬化工程においては、前記ハーネス前駆体を包囲した前記シート体の外側から、前記樹脂組成物の全域に光を照射して硬化させるとよい。この場合には、粘度上昇工程において、マスク材を使用し、かつ樹脂組成物を完全に硬化させない程度に積算光量を抑えて、光照射を行うことで、簡便に、高粘度化領域を形成すべき箇所の樹脂組成物を選択的に半硬化状態とし、高粘度化領域と液状領域が所定の領域を占めて共存する状態を、簡便に形成することができる。また、硬化工程において、粘度上昇工程よりも面積あたりの積算光量を大きくして、シート体の外側から光照射を行い、樹脂材料を全域で硬化させることで、高い防水性を発揮する防水部を簡便に形成することができる。
【0022】
(8)上記(6)または(7)の態様において、前記シート体は、可塑剤を含有する樹脂材料より構成されており、前記樹脂組成物は、可塑剤を含有しないか、前記シート体よりも低濃度で可塑剤を含有するとよい。すると、可塑剤を含有することでシート体の可撓性が高められ、包囲工程において、ハーネス前駆体の所定の箇所の外周に、シート体を柔軟に配置することができる。製造されるワイヤーハーネスにおいて、シート体と防水部が強固に接着されている箇所を介して、シート体から防水部へと可塑剤が移行する可能性があるが、部分粘度上昇工程において、樹脂組成物の両端の領域の粘度が上昇され、高粘度化領域が形成されることにより、続く包囲工程において、液状の樹脂組成物が大面積の領域に広がりにくくなっている。そのため、硬化工程を経て防水部とシート体との間に形成される接着部の面積が小さく抑えられ、接着部を介した防水部への可塑剤の移行量が少量に抑えられることになる。よって、製造されたワイヤーハーネスにおいて、長期間の使用や高温環境での使用を経ても、シート体から防水部への可塑剤の移行が起こりにくく、可塑剤の移行に起因する防水部と電線やシート体との間の密着性の低下が抑えられ、結果として、高い防水性が維持される。
【0023】
(9)上記(6)から(8)のいずれか1つの態様において、前記ハーネス前駆体は、軸線方向の中途部に、中間スプライス部として、前記スプライス部を有しており、軸線方向に沿って前記スプライス部の一方側に、第一電線部として、前記電線束を有するとともに、他方側に、前記電線を1本または複数含む第二電線部を有し、前記樹脂配置工程において、前記樹脂組成物は、前記ハーネス前駆体の前記第一電線部の前記被覆部から前記第二電線部の前記被覆部までを含む領域に相当する位置に、連続して配置され、前記部分粘度上昇工程において、前記高粘度化領域として、前記第一部位は、前記第一電線部の前記被覆部の一部に相当する領域に設けられ、前記第二部位は、前記第二電線部の前記被覆部の一部に相当する領域を含んで設けられるとよい。この場合には、シート体の表面に樹脂組成物を配置し、そのシート体でスプライス部を包囲してから硬化させることで、ワイヤーハーネスの中途部であっても、防水部を簡便に形成することができる。部分粘度上昇工程において、樹脂組成物のうち、ハーネス前駆体の軸線方向に沿って両端の箇所を含んで、高粘度化領域が設けられることで、続く包囲工程において、シート体の両端から、樹脂組成物が流出しにくくなる。そのため、中間スプライス部の防水において、高い作業性が得られる。
【0024】
(10)上記(9)の態様において、前記第二電線部は、前記電線を1本のみ含み、前記部分粘度上昇工程において、前記第二部位は、前記スプライス部から前記第二電線部の前記被覆部までにわたる箇所に相当する領域に、連続して設けられるとよい。第二電線部に電線が1本しか含まれない場合には、電線間に隙間なく樹脂材料を充填することを目的として、部分粘度上昇工程において液状領域を残す箇所は、スプライス部よりも第一電線部側の領域のみで済む。第二電線部側には、スプライス部から第二電線部の前記被覆部までにわたる領域に連続して、高粘度化領域を設けることができる。このように、高粘度化領域の割合を大きくし、液状領域の割合を小さくすることで、シート体からの液状の樹脂組成物の流出を、高度に抑制することができる。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスおよびワイヤーハーネスの製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、複数の電線が接合されたスプライス部と、そのスプライス部を含む領域を被覆する防水部を有するものである。本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスの製造方法によって、そのようなワイヤーハーネスを製造することができる。
【0026】
<ワイヤーハーネスの概略>
まず、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスについて、構造の概略を説明する。本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネス1の概略を、図1,2に示す。図1は斜視図、図2は概略断面図である。図2は、ワイヤーハーネス1の軸線方向に沿った断面を模式的に表示するものであり、電線4およびスプライス部5は切断せずに表示している。
【0027】
ワイヤーハーネス1は、第一電線部2と、第二電線部3とを有している。第一電線部2は、複数の電線4を含んでおり、第二電線部3は、1本または複数の電線4を含んでいる。図示した形態では、第一電線部2が3本の電線4を含んでいる。第二電線部3は電線4を1本のみ含んでいる。
【0028】
第一電線部2および第二電線部3を構成する電線4は、それぞれ、導体41と、導体41の外周を被覆する絶縁被覆42とを有している。各電線4は、軸線方向の一部の領域において、絶縁被覆42が除去され、導体41が露出されており、第一電線部2および第二電線部3において、それら導体41が露出された部位が、それぞれ露出部21,31となっている。また、それら露出部21,31に隣接する、各電線4の導体41が絶縁被覆42に覆われた部位が、被覆部22,32となっている。本実施形態にかかるワイヤーハーネス1において、第一電線部2を構成する電線4のうちの1本(例えば中央の1本)は、第二電線部3を構成する1本の電線4と連続した1本の電線(本線)となっており、その本線の中間部において絶縁被覆42が除去されて、導体41が露出されている。その本線の中間部に形成された導体露出部に、第一電線部2を構成する他の電線4(枝線)の端部に形成された導体露出部が、次に説明するスプライス部5によって接合されている。
【0029】
第一電線部2と第二電線部3の間には、スプライス部5が形成されている。スプライス部5は、第一電線部2および第二電線部3を構成する各電線4を、露出部21,31にて、相互に接合している。図示した形態では、スプライス部5において、圧着端子を用いたかしめ固定により、各電線4の露出した導体41が接合されている。なお、スプライス部5においては、各電線4の導体41を、相互に電気的に接続するとともに、物理的に固着させることができれば、どのような手段によって導体41の接合を行ってもよく、圧着端子を用いる形態の他、抵抗溶接や超音波溶接等の溶接や、はんだ付け等、溶融金属を用いた接合を例示することができる。図示した形態では、スプライス部5が中間スプライス部として、ワイヤーハーネス1の軸線方向に沿って中途部に形成されている。つまり、第一電線部2と第二電線部3が、スプライス部5を挟んで、異なる方向に延びている。スプライス部5は、第一電線部2から第二電線部3へと続く1本の本線に、第一電線部2を構成する2本の枝線を接合するものとなっている。
【0030】
ワイヤーハーネス1はさらに、スプライス部5を含む領域を樹脂材料で被覆する防水部6を有している。防水部6を構成する樹脂材料は、スプライス部5と、第一電線部2の露出部21および被覆部22と、第二電線部3の露出部31および被覆部32とを被覆している。つまり、防水部6は、第一電線部2の被覆部22から第二電線部3の被覆部32までにわたる領域の全周を、継ぎ目なく連続して被覆している。防水部6は、スプライス部5に水(電解質も含む;以下同じ)が侵入するのを抑制する防水材としての役割を果たす。
【0031】
さらに、ワイヤーハーネス1は、シート体7を備えている。シート体7は、防水部6の外周を包囲している。ワイヤーハーネス1にシート体7を設けておくことで、後にワイヤーハーネス1の製造方法について説明するように、防水部6の形成を簡便に行うことができる。また、シート体7は、防水部6を外部の物体との接触等から保護する、保護部材としても機能する。図示した形態においては、防水部6は、シート体7に包囲された領域の内側に、全域が収まっている。つまり、防水部6を構成する樹脂材料は、シート体7の外側には漏出していない。
【0032】
防水部6は、ワイヤーハーネス1において、2つの電線部2,3およびスプライス部5を含む領域の外周を被覆しているのに加え、防水部6を構成する樹脂材材料が、電線部2,3やスプライス部5等、ワイヤーハーネス1の構成部材の間の空間に入り込み、それらの空間を埋めている。特に、本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、図6Dに第一電線部2の露出部21の位置での断面図を示すように、防水部6が、第一電線部2の電線束を構成する各電線4の間の空間を、少なくとも露出部21において、樹脂材料で隙間なく埋めている。ここで、各電線4の間の空間を樹脂材料で隙間なく埋めている状態とは、樹脂材料に占められない空間が全く存在しない状態にのみならず、おおむね、各電線4の導体断面積の10%以下の断面積を有する空隙、さらに厳格には、導体断面積の1%以下の断面積を有する空隙が存在する形態も含むものとする。好ましくは、第一電線部2の電線束において、露出部21のみならず、被覆部22の少なくとも一部まで含めた領域において、さらには、防水部6に囲まれた領域全体において、電線4の間の空間が、樹脂材料で隙間なく埋められているとよい。
【0033】
本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、防水部6に、第一電線部2の軸線方向に沿って、端部域61と隣接域62が、相互に隣接して存在しており、それら端部域61と隣接域62は、表面の状態によって、相互に区別される。具体的には、端部域61は、防水部6がシート体7に包囲されて第一電線部2を被覆する領域のうち、第一電線部2側の端部を含んで、第一電線部2の軸線方向に沿って一部の領域よりなる。そして、隣接域62は、その端部域61に隣接した領域として設けられており、防水部6がシート体7に包囲されて第一電線部2を被覆する領域のうち、端部域61が形成されている以外の部位を含む領域として形成されている。図6Aに防水部6の端部近傍の拡大断面図を示すように、シート体7を除去した防水部6の表面(シート材7側の面)に着目すると、防水部6は、端部域61において、隣接域62よりも平滑な表面を有している。つまり、端部域61の方が、隣接域62よりも、粗度の低い表面を有しており、表面の凹凸構造の高低差および/または密度が低くなっている。このような端部域61の成因および特性については、後に詳しく説明する。
【0034】
図示した形態では、防水部6において、隣接域62は、第一電線部2の被覆部22を被覆する領域のうち、端部域61を除いた部位から、スプライス部5を被覆する領域まで連続して延び、さらに第二電線部3の被覆部32を被覆する領域にまで延びており、それら第一電線部2の被覆部22から第二電線部3の被覆部32にまでわたる領域を連続して被覆している。そして、第一電線部2側の防水部6の端部を含む領域である端部域61は、その広い領域を占める隣接域62全体よりも平滑な表面を有している。ここでは、隣接域62は、第二電線部3側の防水部6の端部にまで達して設けられているが、この形態以外に、第二電線部3側の防水部6の端部を含む領域にも、防水部6がシート体7に包囲されて被覆部32を被覆する領域の一部を占めて、端部域が設けられ、第一電線部2側の端部域61と同様に、隣接域62よりも平滑な表面を有していてもよい。後者の場合には、平滑な表面を有する2つの端部域61の間に、表面の平滑性の低い隣接域62が設けられることになる。
【0035】
防水部6が、端部域61において、隣接域62よりも平滑な表面を有していることと対応して、防水部6とシート体7との間の密着性が、端部域61において、隣接域62におけるよりも低くなっている。この場合に、典型的には、防水部6は、隣接域62において、シート体7に対して強く接着された状態にあるが、端部域61においては、防水部6がシート体7に接着されていないか、接着されていても、その接着強度が、隣接域62よりも弱くなっている。
【0036】
ワイヤーハーネス1の各部を構成する材料は特に限定されるものではないが、以下に、好適な材料等を例示する。電線4を構成する導体41は、単線よりなってもよいが、複数の素線41aの集合体よりなることが好ましい。素線41aを構成する金属材料は特に限定されず、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を例示することができる。導体41は、1種の素線41aのみよりなっても、2種以上の素線41aを含むものであってもよい。また、導体41は、金属素線41aに加えて、有機繊維等、金属材料以外で構成される素線を含んでいてもよい。電線4を構成する絶縁被覆42は、絶縁性のポリマー材料より構成されている。具体的なポリマー材料としては、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)等のハロゲン系ポリマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどを挙げることができる。これらのポリマー材料は、単独で絶縁被覆42を構成しても、2種以上混合されてもよい。ポリマー材料には、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0037】
防水部6は、硬化性の樹脂材料より構成されている。つまり、防水部6を構成する樹脂材料は、硬化性樹脂組成物の硬化物よりなっている。樹脂材料が有する硬化性の種類は、特に限定されるものではなく、光硬化性、熱硬化性、湿気硬化性、二液反応硬化性、乾燥硬化性(溶剤の蒸発乾燥による硬化性)等、種々の現象によって硬化可能な任意の硬化性を有する樹脂材料を用いることができる。樹脂材料は、2種以上の硬化性を合わせ持っていてもよい。しかし、防水部6を形成する際の硬化操作、および後に説明する部分粘度上昇工程における粘度調整操作の簡便性等の観点から、防水部6を構成する樹脂材料は、光硬化性、特に紫外硬化性を有することが好ましい。
【0038】
防水部6を構成する樹脂材料の樹脂種についても、特に限定されるものではないが、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シアノアクリレート系樹脂等を例示することができる。中でも、アクリル系樹脂を用いることが好適である。光硬化性のアクリル系樹脂としては、ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート系樹脂等を例示することができる。防水部6を構成する樹脂材料としては、1種のみを用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、樹脂材料には、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、反応開始剤、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0039】
シート体7を構成する材料も、特に限定されずに、各種樹脂材料を用いることができる。樹脂材料としては、ポリプロピレン等のポリオレフィン、PVC等のハロゲン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミドを例示することができる。樹脂材料には、適宜、各種添加剤が添加されてもよい。また、防水部6を介して、シート体7を、スプライス部5の外周の所定の領域に配置し、固定する際の簡便性の観点から、シート体7は、接着剤または粘着剤が配置された接着層を有する接着テープとして構成されていてもよい。この場合には、接着層が設けられた面が、防水部6に接する面となる。また、防水部6を構成する樹脂材料が光硬化性樹脂である場合には、シート体7を介した光照射によって、樹脂材料を硬化させられるように、シート体7は、樹脂材料の硬化に用いる光を透過可能な材料よりなることが好ましい。シート体7の大きさは、防水部6の外周を被覆するのに十分なものであれば、特に限定されるものではないが、ワイヤーハーネス1の軸線方向に沿って両端に、防水部6を包囲せず、電線部2,3のみを包囲する余剰部を有していることが好ましい。
【0040】
シート体7は、可塑剤を含有していることが好ましい。可塑剤を含有することで、シート体7の可撓性が向上し、ワイヤーハーネス1において、スプライス部5を含む所定の領域の外周に、柔軟に折り曲げたり湾曲させたりして、シート体7を配置することができる。可塑剤としては、フタル酸ジイソノニル(DINP)等のフタル酸エステル系可塑剤、トリ-2-エチルヘキシルトリメリケート等のトリメリット酸エステル系可塑剤、2-エチルヘキシルアジペート、ジブチルセバシケート等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤、トリクレジルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤等が挙げられる。シート体7が接着層を有する場合には、その接着層にも可塑剤が含有されていてもよい。一方で、シート体7が可塑剤を含有する場合に、防水部6を構成する樹脂材料は、可塑剤を含有しないか、シート体7よりも低濃度で可塑剤を含有するものであることが好ましい。なかでも防水部6を構成する樹脂材料は可塑剤を含有しない形態が特に好ましい。
【0041】
<ワイヤーハーネスの製造方法>
ここで、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスの製造方法について説明する。本実施形態にかかる製造方法によって製造されるワイヤーハーネスの一形態が、上記で説明した、防水部6の端部に表面が平滑な端部域61を有するワイヤーハーネス1となる。本実施形態にかかるワイヤーハーネスの製造方法は、部分粘度上昇工程を含む部分半硬化法を用いるものである。具体的には、(i)接合工程、(ii)樹脂配置工程、(iii)部分粘度上昇工程、(iv)ハーネス配置工程、(v)包囲工程、(vi)硬化工程をこの順に実行して、ワイヤーハーネスを製造する。以下、各工程について順に説明する。各工程を図3A図5に模式的に示している。
【0042】
(i)接合工程
接合工程においては、複数の電線4を束ねて電線束を形成したうえで、スプライス部5を形成して、図3Aに示すように、ハーネス前駆体1’を作製する。具体的には、まず、所定の長さに切り出した電線4を、必要本数準備し、それら各電線4において、軸線方向の一部の領域において、絶縁被覆42を除去し、導体41を露出させる。そして、それら導体41の一部を露出させた電線4を複数束ねて、電線束を形成する。電線束には、電線4の導体41が露出した露出部21と、露出部21に隣接し、導体41が絶縁被覆42に覆われた被覆部22とが設けられる。そして、それら複数の電線4を、露出部21にて相互に接合して、スプライス部5を形成する。図3Aに示した形態では、軸線方向の中途部に、中間スプライス部の形態で、スプライス部5を有するハーネス前駆体1’を作製しており、ハーネス前駆体1’は、軸線方向に沿ってスプライス部5の一方側に第一電線部2として電線束を有するとともに、他方側に、電線4を1本含む第二電線部3を有している。詳細には、1本の本線の中間部と、2本の枝線の端末部に、それぞれ導体露出部を形成して、それら3本の電線4を束にしたうえで、各電線4の導体露出部を、圧着端子等の接合手段を用いて相互に接合してスプライス部5を形成し、ハーネス前駆体1’を得ている。
【0043】
(ii)樹脂配置工程
次に、樹脂配置工程において、シート体7と、防水部6となる樹脂組成物Rを準備する。ここでは、図3Bのように、平面状に広げたシート体7の表面に、硬化性を有する液状の樹脂組成物Rを配置する。樹脂組成物Rは、硬化して防水部6を構成する樹脂材料となるものである。シート体7が接着層を有する場合には、その接着層の面の上に、樹脂組成物Rを配置する。ここで示す例では、樹脂組成物Rとして、光硬化性を有するものを用い、シート体7として、樹脂組成物Rを硬化させることができる光に対して透過性を有するものを用いる。
【0044】
この樹脂配置工程においては、樹脂組成物Rは、シート体7の表面の一部の領域にのみ配置する。特に、後のハーネス配置工程で配置するハーネス前駆体1’の軸線方向(図の横方向)に沿って両側に、樹脂組成物Rが配置されない領域を残しておく。詳細には、製造されるワイヤーハーネス1において、隣接域62となる領域に樹脂組成物Rを配置し、他の領域は、シート体7の表面に樹脂組成物Rが配置されない状態に残しておく。この際、必要な領域全体に樹脂組成物Rを均一性高く配置する観点から、液状の樹脂組成物Rを、シート体7の表面にスポット状に滴下し、樹脂組成物Rの流動性によって濡れ広がらせるのではなく、樹脂組成物Rをシート体7の表面に面状に配置することが好ましい。例えば、線状の領域に樹脂組成物Rを吐出可能な幅広のノズルNを使用し、そのノズルNを運動させながら、樹脂組成物Rを吐出することが好ましい。図3Bに示した形態では、図の奥行方向に幅広になったノズルNを、矢印で示すように横方向に移動させながら樹脂組成物Rを吐出することで、略長方形の領域に、均一性高く、樹脂組成物Rを配置している。
【0045】
(iii)部分粘度上昇工程
次に、シート体7上の樹脂組成物Rに対して、部分粘度上昇工程を実施する。部分粘度上昇工程においては、図3Cに示すように、シート体7の表面に配置された樹脂組成物Rに対して、一部の領域のみ粘度を上昇させて、高粘度化領域R1,R2を形成する。樹脂組成物Rのうち、高粘度化領域R1,R2を形成した領域以外は、樹脂組成物Rが、シート体7の表面に供給した当初の低い粘度を有する液状の状態に留まった、液状領域R3となる。
【0046】
高粘度化領域は、シート体7の表面の樹脂組成物Rが配置された領域のうち、後のハーネス配置工程において配置されるハーネス前駆体1’の軸線方向(図の横方向)に沿って、一方の端部を含む第一部位R1と、他方の端部を含む第二部位R2の2か所に設けられる。第一部位R1と第二部位R2は相互に離間している。第一部位R1および第二部位R2はそれぞれ、ハーネス前駆体1’の軸線方向に交差する方向(図の奥行方向)には、樹脂組成物Rが配置された領域の全体を占めて形成される。第一部位R1と第二部位R2の間の領域は、樹脂組成物Rの粘度が上昇されない液状領域R3として残される。液状領域R3は、次のハーネス配置工程で樹脂組成物Rの上に配置されるハーネス前駆体1’のうち、電線束として構成された第一電線部2の露出部21が配置される領域を含む位置に形成される(図4A参照)。詳細には、高粘度化領域の第一部位R1は、ハーネス前駆体1’のうち第一電線部2の被覆部22の一部に相当する領域に設けられる。さらに詳細には、第一部位R1は、第一電線部2の露出部21と被覆部22の間の境界から、被覆部22側に少し離れた位置に設けられる。また、第二部位R2は、第二電線部3の被覆部32からスプライス部5までを含む箇所に相当する領域に、連続して設けられる。そして、液状領域R3が、それら第一部位R1と第二部位R2の間に相当する、第一電線部2の被覆部22のうち、露出部21側の部位と、露出部21とを含む箇所に設けられる。高粘度化領域が占める面積は、第一部位R1よりも第二部位R2において大きい方が好ましく、例えば、第二部位R2の幅(図の横方向の寸法)が、第一部位R1の幅の2倍以上、5倍以下となっているとよい。
【0047】
高粘度化領域R1,R2においては、樹脂組成物Rは、粘度が上昇されるが、完全に硬化される訳ではなく、半硬化の状態にある。つまり、固体状態になるのではなく、粘性を保った、粘液状あるいはゲル状の物質となる。高粘度化領域R1,R2において、樹脂組成物Rは、厚み方向の全域において、そのように粘性を有する状態を保つ。硬化性を有する樹脂組成物Rの粘度を上昇させ、半硬化の状態とするためには、樹脂組成物Rが有する硬化性に応じて、樹脂組成物Rを硬化させることができる操作を、完全な硬化に達しない軽度の範囲にて実行すればよい。樹脂組成物Rが光硬化性である場合には、樹脂組成物Rに光照射を行うことで、樹脂組成物Rの粘度を上昇させることができる。単位面積あたりの積算光量を、樹脂組成物Rが完全に硬化しない範囲に低く抑えておけばよい。そのような範囲内で、単位面積あたりの積算光量を大きくするほど、樹脂組成物Rの粘度を高めることができる。
【0048】
シート体7の表面に面状に配置した樹脂組成物Rにおいて、一部の領域のみ選択的に粘度を上昇させ、高粘度化領域R1,R2を形成するには、高粘度化領域R1,R2を形成すべき領域の樹脂組成物Rに対してのみ、硬化のための操作を、上記のように完全な硬化に達しない軽度の範囲にて実行すればよい。樹脂組成物Rが光硬化性を有する場合には、照射する光を透過せずに遮るマスク材Mを用いればよい。具体的には、樹脂組成物Rのうち、一部の領域、つまり液状領域R3とすべき領域のみをマスク材Mで被覆し、光が当たらないようにした状態で、UV光源等の光源装置Sを用いて、光照射を行う。図3Cに示すように、液状領域R3とすべき領域をマスク材Mで被覆した状態で光照射を行うことで、その被覆した領域以外において、樹脂組成物Rの粘度を上昇させ、高粘度化領域R1,R2を形成することができる。光照射は、シート体7の表面に樹脂組成物Rが配置された方向(図の上方)から行っても、図示したように、シート体7が配置された方向(図の下方)から光照射を行い、シート体7を介して樹脂組成物Rに対して光を照射してもよい。後者の場合には、後の硬化工程と同じ光源装置Sの配置で光照射を行いやすい。高粘度化領域R1,R2および液状領域R3における樹脂組成物Rの粘度は、特に限定されるものではないが、例えば、室温・大気中で、高粘度化領域R1,R2において50Pa・s以上1000Pa・s以下、液状領域R3において5Pa・s未満とする形態が好適である。
【0049】
(iv)ハーネス配置工程
次に、シート体7の表面に配置され、高粘度化領域R1,R2と液状領域R3を形成した樹脂組成物Rの上に、ハーネス前駆体1’を配置する。この際、図4Aに平面図にて示すとおり、ハーネス前駆体1’のうち、スプライス部5を含み、第一電線部2の被覆部21から第二電線部3の被覆部32にわたる、外周に防水部6を形成すべき部位を、樹脂組成物Rの面の上に載置する。詳細には、ハーネス前駆体1’を樹脂組成物Rの面上に載置する際に、高粘度化領域の第一部位R1に、第一電線部2の被覆部22のうち、露出部21との境界から少し離れた一部の部位が接触される。第二部位R2には、第二電線部3の被覆部32からスプライス部5までを含む部位が接触される。液状領域R3には、第一電線部2の被覆部22のうち、露出部21との境界に面する一部の部位と、露出部21全域を含む箇所が接触される。スプライス部5の一部の領域まで、液状領域R3に接触されてもよい。
【0050】
(v)包囲工程
次に包囲工程を実施し、ハーネス配置工程で樹脂組成物Rの面の上に配置された、ハーネス前駆体1’のスプライス部5を含む部位を、樹脂組成物Rを配置したシート体7の面で被覆する。この際、まず、図4Bに示すように、シート体7を折り曲げる、湾曲させて巻き付ける等の操作を行うことで、シート体7の面上に配置された樹脂組成物Rが、スプライス部5および2つの電線部2,3の被覆部22,32および露出部21,31の全周を囲むように、ハーネス前駆体1’を周に沿ってシート体7で包み込む。さらに、図4Cに示すように、樹脂組成物Rとハーネス前駆体1’を内包したシート体7を絞り込むようにして、ハーネス前駆体1’の防水部6を形成すべき領域の各部に、樹脂組成物Rを満遍なく行き渡らせる。この際、シート体7に囲まれた領域の断面積(ハーネス前駆体1’の軸線方向に直交する断面の面積)を狭めるようにして絞り込みを行い、シート体7の面とハーネス前駆体1’の間の領域から、樹脂組成物Rに占められない空隙をできる限り排除すればよい。
【0051】
この包囲工程、特に図4Cのようにシート体7を絞り込む工程を実施することで、ハーネス前駆体1’において、構成部材間の隙間等、小さな、入り組んだ空間にも樹脂組成物Rが浸透し、それらの空間が樹脂組成物Rに占められるようになる。第一電線部2を構成する各電線4の間の空間も、露出部21、さらには被覆部22において、樹脂組成物Rによって埋められる。特に、第一電線部2の露出部21は、樹脂組成物Rが流動性の高い状態を保った液状領域R3に接しているため、その液状領域R3を構成する樹脂組成物Rが、流動によって、露出部21において、各電線4の間の空間に、隙間なく密に充填される。
【0052】
一方、高粘度化領域の第一部位R1および第二部位R2にそれぞれ接触して配置されている領域、つまり第一電線部2の被覆部22のうち、露出部21から離れた領域、および、スプライス部5から第二電線部3の被覆部32までにわたる領域は、外周を高粘度化した樹脂組成物Rによって囲まれる。高粘度化領域R1,R2の樹脂組成物Rは、粘度を上昇されているものの、粘性を有する状態にあり、流動性を完全に失っている訳ではない。よって、それらの領域の外周に密着して、それらの領域を被覆するものとなる。
【0053】
この包囲工程、特にシート体7を絞り込む工程において、シート体7に囲まれた領域の断面積を狭める操作を行うことで、液状領域R3を構成していた高い流動性を有する樹脂組成物Rが、図中に矢印で示すように、ハーネス前駆体1’の軸線方向両側に流動して広がろうとする。しかし、本実施形態においては、樹脂配置工程において、シート体7の一部の領域にしか樹脂組成物Rが配置されておらず、シート体7の外縁部に樹脂組成物Rが配置されていない領域が存在しているうえ、樹脂組成物Rが配置された領域のうち、軸線方向に沿って両側に、樹脂組成物Rの粘度が上昇されて流動性の低くなった高粘度化領域R1,R2が設けられていることにより、液状領域R3の樹脂組成物Rが、流動して広がっても、シート体7に包囲された領域の内部に留まり、シート体7の外側には流出しにくい。樹脂組成物Rのうち、両端部の領域が、流動性の低い高粘度化領域R1,R2とされており、それら高粘度化領域R1,R2を構成する樹脂組成物R自体が、流動を起こしにくいことに加え、その高粘度化領域R1,R2が堤防として作用し、液状領域R3の低粘度の樹脂組成物Rが自由に流動して広がるのを妨げる役割を果たすからである。高粘度化領域R1,R2が堤防として作用することで、液状領域R3の樹脂組成物Rは、両端の高粘度化領域R1,R2に挟まれた空間に留まる(滞留形態)。あるいは、液状領域R3の樹脂組成物Rの一部は、高粘度化領域R1,R2を乗り越えて広がる(流動形態)。しかし流動形態をとる場合にも、樹脂組成物Rの流動距離、および流動する樹脂組成物Rの量は、部分粘度上昇工程が実施されず、高粘度化領域R1,R2が設けられていない場合と比較して、小さく抑えられる。高粘度化領域の幅が、第一電線部2側の第一部位R1において小さく、第二電線部3側の第二部位R2において大きいことから、流動形態をとる場合に、高粘度化領域を乗り越えての液状領域R3からの樹脂組成物Rの流出は、第一部位R1の方で起こりやすく、第二部位R2の方では、起こる場合も、起こらない場合もある。図示した形態では、流動形態において、高粘度化領域の第一部位R1を乗り越えた液状領域R3の樹脂組成物Rが、軸線方向に沿って高粘度化領域R1の外側に、流動部R4を構成する。
【0054】
包囲工程において、シート体7の外側への樹脂組成物Rの流出をより高度に抑制するためには、樹脂組成物Rの流動が起こりにくくなるように、あるいは樹脂組成物Rの流動が起こっても、シート体7の外側への流出が起こりにくくなるように、防水部6の形成に関与するパラメータを調整すればよい。例えば、高粘度化領域R1,R2における樹脂組成物Rの粘度を大きくする、高粘度化領域R1,R2が占める面積を大きくする、シート体7の面積を大きくする、シート体7を絞り込む操作を穏やかに行う等の手段を用いればよい。
【0055】
(vi)硬化工程
最後に、硬化工程を実行し、シート体7で包囲された樹脂組成物Rを硬化させる。この際、樹脂組成物Rの全域、つまり、流動部R4を含め、液状領域R3に存在していた樹脂組成物Rも、高粘度化領域R1,R2に存在し、既に半硬化の状態にあった樹脂組成物Rも、硬化させて、固体の状態とする。この際、樹脂組成物Rが有する硬化性に応じて、硬化のための操作を施せばよい。先の部分粘度上昇工程においても、樹脂組成物Rの硬化のための操作を行っており、この硬化工程でも同様の操作を行えばよいが、全域において樹脂組成物Rの硬化の程度を進め、固体状の樹脂材料とできるように、硬化にかかる条件を設定する必要がある。樹脂組成物Rが光硬化性を有する場合には、樹脂組成物Rの全域に、つまりマスク材Mを除去した状態で、光源装置Sによる光照射を行えばよい。シート体7が光透過性を有していることで、シート体7の外側から光照射を行えば、シート体7に包囲された樹脂組成物Rを硬化させることができる。この際、面積当たりの積算光量を先の部分粘度上昇工程よりも大きくし、既に半硬化の状態にあった高粘度化領域R1,R2の樹脂組成物Rの硬化をさらに進めて固体状態とするとともに、液状領域R3に由来する液状の樹脂組成物Rも、固体状態になるまで硬化させる。
【0056】
この硬化工程を経ることで、第一電線部2の被覆部22と露出部21、およびスプライス部5、さらに第二電線部3の露出部31および被覆部32を含む領域が防水部6によって被覆され、さらにその防水部6の外周がシート体7に保護されたワイヤーハーネス1が得られる。包囲工程において、樹脂組成物Rのシート体7の外側への流出が抑制されたことから、硬化工程を経て、防水部6は、全域がシート体7に包囲された空間の中に収まったものとして形成される。あるいは、防水部6がシート体7に包囲されない箇所があるとしても、そのような箇所が占める体積が小さく抑えられる。硬化工程は、先の包囲工程において広がった液状領域R3の樹脂組成物Rの流出が進行しないように、包囲工程の完了後、時間を空けずに行うことが好ましい。硬化工程において、樹脂組成物Rが完全に硬化すると、硬化前に高粘度化領域R1,R2であった部位と液状領域R3であった部位、さらに流動部R4であった部位は、後に詳しく説明する表面の平滑度の差を除いて、同様の外観を有するものとなり、相互間の界面もほぼ識別不能となる。
【0057】
上記のとおり、包囲工程において、液状領域R3の樹脂組成物Rが、両端の高粘度化領域R1,R2に挟まれた空間に留まる滞留形態をとる場合と、液状領域R3の樹脂組成物Rの一部が高粘度化領域R1を乗り越えて広がる流動形態をとる場合の両方がありうる。滞留形態をとる場合には、樹脂組成物Rの全量が、樹脂配置工程において当初樹脂組成物Rが配置された領域に留まる。その領域全体において、樹脂組成物Rが、シート体7の表面に密着した当初の状態を保ったまま、部分粘度上昇工程および硬化工程における硬化を受け、防水部6となる。そのため、形成された防水部6の表面は、全域が、シート体7が表面に有する微細な凹凸構造を転写した状態で硬化したものとなり、平滑度が低くなる。
【0058】
一方で、滞留形態ではなく流動形態をとる場合には、液状領域R3から高粘度化領域R1を乗り越えて広がった樹脂組成物Rよりなる流動部R4は、樹脂配置工程において、当初樹脂組成物Rが配置された領域の外側で、硬化工程による硬化を受けることになる。この流動部R4の樹脂組成物Rは、シート体7の表面に十分に濡れ広がらない状態で硬化を受けるため、シート体7にあまり密着していない状態で硬化が進行する。そのため、硬化後の樹脂材料が、表面にシート体7の凹凸構造の影響を受けにくく、液状の樹脂組成物Rが、液体特有の平滑な表面を露出させた状態のまま、硬化したものとなる。この流動部R4が硬化して生じた、平滑な表面を露出させた領域が端部域61となる。一方で、その端部域61に隣接する、当初の高粘度化領域R1,R2および液状領域R3であった箇所は、上記の滞留形態をとる場合と同様に、シート体7の表面に密着した当初の状態を保ったまま硬化を受けるので、シート体7が有する凹凸構造を転写した平滑度の低い表面を有する隣接域62となる。このように、流動形態を経ることで、表面の平滑性の高い端部域61と、表面の平滑性の低い隣接域62を隣接して有する防水部6が形成され、上記で説明した実施形態にかかるワイヤーハーネス1が得られる。滞留形態を経て製造されたワイヤーハーネス1も、流動形態を経て製造されたワイヤーハーネスもともに、シート体7の外部への樹脂材料の漏出が抑制され、かつ高い防水性を有するものとなる。
【0059】
<防水部の構造と製造方法の関係>
上記のように、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスの製造方法においては、部分粘度上昇工程を含む部分半硬化法を適用することで、シート体7の外部への樹脂組成物Rの漏出の抑制と、高い防水性の獲得が、ともに達成される。高い防水性は、主に、液状領域R3の樹脂組成物Rの寄与によって得られる。部分粘度上昇工程を経て樹脂組成物Rが流動性の高い状態に保たれた液状領域R3に、第一電線部2の電線束が接触した状態で、包囲工程が実施されることで、その高い流動性を保った樹脂組成物Rが、電線束の露出部21において、各電線4(導体41)の間の空間に隙間なく浸透する。この状態で硬化工程を経ることで、図6Dに断面図を表示するように、第一電線部2の電線束を構成する複数の電線4の間の空間が、隙間なく樹脂材料で埋められた防水部6が得られ、高い防水性を有するものとなる。一方、高粘度化領域R1,R2も、樹脂組成物Rがある程度の流動性は残しているため、2つの電線部2,3やスプライス部5の外周に密着し、硬化を経て防水性を発揮するものとなる。高粘度化領域R1,R2に被覆される領域は、第一電線部2の露出部21における複数の電線4の間の空間のように、樹脂材料を密に充填すべき空間を内部に有するものではないので、粘性を高めた樹脂組成物Rで外周を包囲し、硬化を経て得られる程度の密着性をもって、防水部6の樹脂材料に被覆されていれば、防水性として十分である。
【0060】
シート体7の外部への樹脂組成物Rの漏出の抑制は、主に、高粘度化領域R1,R2の形成によって達成される。シート体7の表面に配置した樹脂組成物Rの粘度を上昇させ、高粘度化領域R1,R2としておくことで、その高粘度化領域R1,R2を構成する樹脂組成物Rは、包囲工程を経ても、流動を起こしにくいからである。加えて、その高粘度化領域R1,R2で低粘度の液状領域R3を挟んでおくことで、高粘度化領域R1,R2が堤防の役割を果たし、包囲工程において、液状領域R3の低粘度の樹脂組成物Rが自由に流動するのを邪魔するからである。上記のとおり、液状領域R3の樹脂組成物Rが高粘度化領域R1,R2の間に留まる滞留形態をとる場合と、その一部が高粘度化領域R1,R2を乗り越えて流動部R4を形成する流動形態をとる場合の両方がありうるが、流動形態をとる場合に、流動部R4が硬化することで、第一電線部2側の防水部6の端部に、図6Aに示すとおり、隣接域62よりも表面の平滑性の高い端部域61が形成される。
【0061】
このように、防水部6において、端部域61の存在は、その防水部6が、部分粘度上昇工程を経る部分半硬化法によって製造されたものであることを示す証左となる。つまり、防水部6が隣接域62よりも表面の平滑性の高い端部域61を有することは、その防水部6が、シート体7の外側への樹脂組成物Rの漏出を軽減して形成されたものであること、および電線束を構成する電線4の間の空間に樹脂材料が隙間なく充填された高い防水性を有するものであることを示す指標となる。シート体7の外側への樹脂組成物Rの漏出が軽減されていることで、防水部6の製造途中の状態、特に包囲工程において、液状の樹脂組成物Rがシート体7の外側に流出して作業性を低下させることが起こりにくい。また、樹脂組成物Rを硬化させて得られた防水部6において、樹脂材料がシート体7の外側に漏出して硬化した場合に起こりうる、外部の物体との不要な接触等の影響を軽減することができる。
【0062】
包囲工程において、液状領域R3の樹脂組成物Rが高粘度化領域R1,R2を乗り越えて流動部R4を形成する現象が、高粘度化領域の第一部位R1が設けられた第一電線部2側の端部でのみ起こり、第二部位R2が設けられた第二電線部3側の端部では起こらない場合には、図1,2に示した形態のように、表面の平滑性の高い端部域61は、防水部6のうち、第一電線部2側の端部にのみ設けられ、それ以外の領域全体、つまりスプライス部5を含み、第一電線部2の被覆部22から第二電線部3の被覆部32までにわたる連続した領域が、相対的に表面の平滑性の低い隣接域62となる。本実施形態においては、第二電線部3は電線4を1本しか含まないため、図4Aに示すように、スプライス部5よりも第二電線部3側の領域には、狭い空間や入り組んだ空間への樹脂組成物Rの充填を目的として、液状領域R3を設ける必要がなく、全域を高粘度化領域(第二部位R2)としてよい。この場合には、第二部位R2を大きな面積を占めて形成することができる。すると、樹脂組成物Rの面上で、高粘度化領域R1,R2が占める面積が大きくなり、一方で液状領域R3が占める面積が小さくなることで、樹脂組成物Rの流動を高度に抑制することができる。ただし、樹脂組成物Rの流動を十分に抑制することができるならば、高粘度化領域の第二部位R2を小面積に形成し、液状領域R3の樹脂組成物Rが、第一部位R1に加えてその第二部位R2を乗り越えて、第二電線部3側にも流動部を形成することを、許容してもよい。その場合には、防水部6において、第二電線部3側の端部にも、第一電線部2側の端部域61と同様に、隣接域62よりも平滑な表面を有する端部域61が形成されることになる。隣接域62は、2つの端部域61の間を占めて形成されることになる。
【0063】
上記のように、防水部6の端部に、隣接域62よりも表面が平滑な端部域61が形成されていることは、防水部6が部分半硬化法によって形成されたことを示す証左となるが、それに加えて、この端部域61の存在自体も、防水部6による防水性を高めるのに寄与する。上記のように、端部域61は、液状領域R3から高粘度化領域R1を乗り越えて流動した樹脂組成物Rよりなる流動部R4が、シート体7に強く密着せずに硬化することで形成されるが、このことから、端部域61は、隣接域62よりも、シート体7に対する接着性の低いものとなる。よって、ワイヤーハーネス1を、防水部6が形成された箇所、あるいはその近傍にて曲げた場合に、端部域61においては、防水部6とシート体7の間に剥離応力が発生しにくい。曲げによるシート体7と防水部6の間の剥離は、防水部6の端部から進行しやすいが、端部域61に剥離応力が発生しにくくなっていることで、曲げ等の力学的負荷を受けても、シート体7と防水部6の間に剥離が起こりにくい。すると、曲げを等の力学的負荷を受ける状況でも、防水部6による防水性を高く保つことができる。また、防水部6の端部が平滑な表面を有していることで、端部に水滴が付着しにくく、また付着することがあっても、その水滴が防水部6の表面に滞留しにくい。この点でも、端部域61の存在は、防水部6による防水効果を高めるものとなる。
【0064】
さらに、平滑な端部域61の存在は、シート体7と防水部6の間での物質の移行を抑制する役割も果たす。可塑剤を含むシート体7から、可塑剤を含まない、あるいはシート体7よりも低濃度でしか含まない防水部6への可塑剤の移行をはじめとして、シート体7と防水部6の間の物質の移行は、シート体7と防水部6が相互に強く接着されている接着箇所を介して起こる。しかし、端部域61において、シート体7と防水部6の間の接着強度が低くなっていることで、物質の移行経路となる強接着部の面積が小さく抑えられていると、可塑剤等の物質の移行が起こりにくくなる。それにより、物質の移行による防水部6および/またはシート体7の変性、またそれに伴う防水性の低下が抑制され、長期間、あるいは高温環境でのワイヤーハーネス1の使用を経ても、高い防水性を有する状態が維持される。例えば、シート体7から防水部6への可塑剤の移行が起こると、防水部6を構成する樹脂材料の、シート体7や電線4の絶縁被覆42に対する密着性が低下してしまうため、防水性の低下を招く可能性があるが、端部域61の存在により、可塑剤の移行が抑制されることで、このような防水性の低下が起こりにくくなる。
【0065】
実際に、防水部6を部分半硬化法によって形成したワイヤーハーネス1においては、シート体7からの樹脂材料の漏出が起こらないこと、また防水部6の端部に、隣接する領域よりも表面の平滑性の高い端部域61が形成されることが、実験によって確認されている。図7に実際に部分半硬化法によって作成した防水部6について、第一電線部2側の端部近傍を、シート体7を剥離して撮影した拡大写真を示すが、端部の位置Iに、それよりも右側の位置IIよりも光沢が大きい領域が存在している。この光沢が大きい領域が、端部域61にあたる。光沢の大きさは、表面の平滑性の高さを示している。そして、この防水部6を部分半硬化法によって形成したワイヤーハーネス1は、防水部6を形成した直後の初期状態においても、さらに防水部6を高温環境に置いた後の状態においても、高い防水性を有することが確認されている。
【0066】
部分半硬化法以外の方法では、上記のように、防水部6を構成する樹脂材料のシート体7の外への漏出が抑制され、かつ第一電線部2の露出部21において電線4の間の空間が樹脂材料で隙間なく埋められ、さらに端部に表面が平滑な端部域61を有する防水部6を形成することは、困難である。例えば、以下に説明する一段階硬化法または全域半硬化法によって防水部6を形成した場合には、それらの構成を全て満足する防水部6は得られないことが、実験的に確認されている。
【0067】
まず、一段階硬化法によって防水部6を形成する場合について説明する。一段階硬化法においては、上記部分半硬化法における部分粘度上昇工程を実施せず、樹脂配置工程においてシート面に配置した樹脂組成物Rの全域を液状に保ったまま、ハーネス配置工程、包囲工程、硬化工程を実施する。この場合には、流動性が高い状態の樹脂組成物Rが、防水部6を形成すべき領域において、ワイヤーハーネスの構成部材の間の小さな空間や入り組んだ空間にも浸透することができるため、図6Eに示すように、電線束を構成する電線4の間の空間に、樹脂材料が隙間なく充填された状態が得られる。一方で、樹脂組成物Rが高い流動性を有することで、包囲工程において、樹脂組成物Rがシート体7の外側に流出し、硬化工程でそのままシート体7の外で硬化する状態となりやすい。また、図6Bに示すように、防水部6が、端部を含めて、シート体7に包囲された領域の全体において、シート体7と密着した状態で硬化するため、防水部6の表面が、シート体7の微細な凹凸を転写した平滑度の低いものとなる。その結果、平滑な端部域61の存在による防水性向上の効果が得られない。特に、高温環境を経た際に、シート体7から防水部6への可塑剤の移行によって、防水部6の防水性が低下する。実験でも、防水部6を形成した直後の初期状態においては、防水部6が、部分半硬化法を用いた時と同程度の高い防水性を示したが、高温環境を経ると、防水性が顕著に低下してしまった。
【0068】
次に、全域半硬化法によって防水部6を形成する場合について説明する。全域半硬化法においては、部分半硬化法において部分粘度上昇工程を実施し、一部の領域のみ樹脂組成物Rの粘度を上昇させているのとは異なり、樹脂配置工程においてシート体7の面に配置した樹脂組成物Rの全域に対して、粘度を上昇させ、粘液状あるいはゲル状の物質とする。樹脂組成物Rが光硬化性を有する場合には、マスク材Mを用いずに、全域に対して、樹脂組成物Rを完全に硬化させずに半硬化させられる積算光量に抑えて、光照射を行うことで、樹脂組成物R全体の粘度を上昇させることができる。その後、ハーネス配置工程、包囲工程、硬化工程を実施する。この場合には、樹脂組成物R全体が高粘度となった状態で包囲工程を実行するので、シート体7の外への樹脂材料の漏出は起こらない。また、高粘度となった樹脂組成物Rが、包囲工程において、シート体7に包囲された領域の中で若干の流動を示すことにより、その流動を経た部分が、シート体7に密着しない状態で硬化工程による硬化を受けることになるため、図6Cに示すとおり、隣接する領域よりも表面の平滑性の高くなった領域が、防水部6の端部に形成される。しかし、高粘度化し、流動性の低くなった樹脂組成物Rに、ハーネス前駆体1’の電線束の露出部21を含む箇所を接触させて防水部6を形成するため、樹脂組成物Rが、電線束を構成する電線4の間の領域に、十分に浸透することができない。その結果、図6Fに断面図を示すように、電線束を構成する電線4の間に、樹脂材料に埋められない空隙Vが形成されてしまう。この空隙Vは、防水部6の防水性を低下させるものとなる。実験でも、防水部6を形成した直後の初期状態から、低い防水性しか得られず、その防水性は、部分半硬化法を用いた場合と比較して、明らかに劣っていた。増粘剤やゲル化剤の添加等、光照射等による半硬化以外の手法によって粘度を上昇させた樹脂組成物Rを用いる場合にも、同様に、防水部6が、表面の平滑性が高くなった領域を端部に有する一方で、電線束を構成する電線4の間に、樹脂材料に埋められない空隙Vを有するものとなりやすい。
【0069】
<その他の形態>
上記で説明したワイヤーハーネス1においては、スプライス部5を中間スプライス部として構成し、そのスプライス部5の両側に、複数の電線4を含んだ電線束よりなる第一電線部2と、電線4を1本のみ含んだ第二電線部3とを設けている。しかし、本開示のワイヤーハーネスは、この形態に限られず、複数の電線を含む電線束と、スプライス部と、防水部と、シート体とを有するワイヤーハーネスにおいて、スプライス部が、電線束を構成する電線を露出部において相互に接合しており、防水部が、スプライス部と、電線束の露出部および被覆部とを、硬化性の樹脂材料で被覆しており、さらに、シート体が、防水部の外周を包囲するものであればよい。そして、防水部は、露出部において、電線束を構成する複数の電線の間の空間を、樹脂材料で隙間なく埋めており、さらに、電線束の軸線方向に沿って、シート体に包囲されて被覆部を被覆する領域のうち、端部を含む一部の領域を端部域、端部域に隣接する領域を隣接域として、端部域において、隣接域よりも平滑な表面を有していればよい。
【0070】
例えば、スプライス部5が中間スプライス部の形で形成されている場合に、第二電線部3も、第一電線部2と同様に、複数の電線4を含んだ電線束として構成されていてもよい。その場合には、防水部6は、第一電線部2の露出部21のみならず、第二電線部3の露出部31においても、電線束を構成する電線4の間の空間を、樹脂材料で隙間なく埋めていることが好ましい。また、防水部6が、第一電線部2側の端部を含む領域のみならず、第二電線部3側の端部を含む領域にも、端部域61を有しており、それら両端の端部域61がいずれも、それらの間を占める隣接域62と比較して、平滑な表面を有していることが好ましい。そのように、第二電線部3側にも端部域61を有する防水部6を形成するには、部分粘度上昇工程において、高粘度化領域の第二部位R2を、第一部位R1と同様に、ハーネス前駆体1’の第二電線部3の被覆部32の一部に相当する領域、詳細には、第二電線部3の露出部31と被覆部32の間の境界から、被覆部32側に少し離れた位置に設けるとよい。そして、それら高粘度化領域の第一部位R1と第二部位R2に挟まれた領域全体を、液状領域R3とするとよい。
【0071】
さらに、スプライス部は、必ずしも、両端に第一電線部2と第二電線部3を有する中間スプライス部として形成されなくてもよい。例えば、複数の電線4を束ねた電線束の端部に、スプライス部を形成し、そのスプライス部の外周に、防水部6とシート体7を配置する形態も考えられる。
【0072】
また、上記で説明したワイヤーハーネス1としては、防水部6の全域が、シート体7に包囲された領域の内側に収まっている形態を、主に扱った。しかし、必ずしもそのような形態に限られず、防水部6の一部の領域が、シート体7に包囲された領域から外に出て形成されていてもよい。例えば、防水部6全体としての端部のうち、電線束として構成された第一電線部2の被覆部22の外周に沿って一部の領域おいて、防水部6を構成する樹脂組成物の漏出が起こっていてもよい。そのような場合にも、防水部6のうち、シート体7に包囲されて第一電線部2の被覆部22を被覆する領域、つまりシート体7から外に出た箇所を除外した領域の端部を端部域61として、その端部域61が、隣接域62(シート体7に包囲されて第一電線部2の被覆部22を被覆する領域のうち、端部域62に隣接する領域)よりも平滑な表面を有していればよい。このように、防水部6の一部がシート体7の外に出た構造も、上記で説明した部分半硬化法によって形成することができる。包囲工程において、流動部R4の一部が、シート体7の外側にまで流出した場合に、そのような構造が形成される。このように、防水部6を構成する樹脂組成物の一部がシート体7に包囲された領域の外に漏出する場合であっても、部分半硬化法を採用することで、一段階硬化法を用いる場合と比較して、防水部6を構成する樹脂組成物のシート体7からの漏出が軽減され、高い防水性の確保と両立される。ただし、形成される防水部6において、第一電線部2の被覆部22の外周に沿って、少なくとも一部の領域には、防水部6を構成する樹脂組成物のシート体7の外への漏出が起こっていない箇所が存在することが好ましい。
【0073】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 ワイヤーハーネス
1’ ハーネス前駆体
2 第一電線部
21 第一電線部の露出部
22 第一電線部の被覆部
3 第二電線部
31 第二電線部の露出部
32 第二電線部の被覆部
4 電線
41 導体
41a 素線
42 絶縁被覆
5 スプライス部
6 防水部
61 端部域
62 隣接域
7 シート体
M マスク材
N ノズル
R 未硬化の樹脂組成物
R1 高粘度化領域の第一部位
R2 高粘度化領域の第二部位
R3 液状領域
R4 流動部
S 光源装置
V 空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7