(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078868
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】焼成指標推定方法及びドワイトロイド式焼結機の操業方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/16 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
C22B1/16 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191457
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 太郎
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA22
4K001GA10
4K001GB11
(57)【要約】
【課題】 焼結鉱の焼成指標を精度良く推定する。
【解決手段】 ドワイトロイド式焼結機を用いて焼結鉱を製造するときの焼成指標を推定する焼成指標推定方法であって、焼成指標の推定において、下記式(I)を用いる。
【数1】
上記式(I)において、Tnは、ドワイトロイド式焼結機のウインドボックスで検出される排ガス温度[℃]であり、Tbは、焼成を開始した後における排ガス温度の基準となるベース排ガス温度[℃]である。tは、パレットにより焼結原料が点火炉による点火位置から移動する時間である焼成時間[
s]であり、L(t)は焼成時間tを対数変換した値である。a、b及びkのそれぞれは係数[-]であって、予め測定された焼成時間及び排ガス温度から特定される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドワイトロイド式焼結機を用いて焼結鉱を製造するときの焼成指標を推定する焼成指標推定方法であって、
前記焼成指標の推定において、下記式(I)を用いることを特徴とする焼成指標推定方法。
【数1】
上記式(I)において、Tnは、ドワイトロイド式焼結機のウインドボックスで検出される排ガス温度[℃]であり、Tbは、焼成を開始した後における排ガス温度の基準となるベース排ガス温度[℃]であり、tは、パレットにより焼結原料が点火炉による点火位置から移動する時間である焼成時間[min]であり、L(t)は焼成時間tを対数変換した値であり、a、b及びkのそれぞれは係数[-]であって、予め測定された前記焼成時間及び前記排ガス温度から特定される。
【請求項2】
前記係数a、b及びkは、上記式(I)から求められる排ガス温度Tnと、測定値である排ガス温度との誤差が最小となるように設定されることを特徴とする請求項1に記載の焼成指標推定方法。
【請求項3】
前記ベース排ガス温度Tbは、前記点火位置からBRP(Burn Rising Point)までの間に位置する複数のウインドボックスで検出される排ガス温度の平均値であることを特徴とする請求項1に記載の焼成指標推定方法。
【請求項4】
前記焼成指標は、BTP(Burn Through Point)及び排ガス温度の最高温度のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の焼成指標推定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の焼成指標推定方法によって推定された前記焼成指標のうち、焼成時間で定義されるBTPtの排鉱時間に対する割合で定義されるBTPrが100%を超える場合には、BTPrが100%以下となるようにパレットの移動速度を低下させることを特徴とするドワイトロイド式焼結機の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドワイトロイド式焼結機を用いて焼結鉱を製造するときの焼成指標を推定する方法と、この方法によって推定した焼成指標に基づいて、ドワイトロイド式焼結機を操業する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉に供給する焼結鉱を製造する焼結機では、銑鉄の主原料である微粉鉄鉱石を燃料となるコークス等とともに焼き固め、その粒度・力学的強度(機械強度)・化学成分を調整して焼結鉱を製造する。
【0003】
ドワイトロイド式焼結機内において、パレット上の微粉鉄鉱石がコークスの燃焼によって適切に溶融・塊成化しているか否かという焼成状態は焼結鉱の品質に影響を与えるため、焼成状態を把握するための種々の指標が考案されている。
【0004】
例えば、ドワイトロイド式焼結機の機長方向において、排ガス温度が最高温度となる位置を求め、その最高温度位置が焼結層底面における赤熱帯終点位置すなわち焼結完了点(BTP: Burn Through Point)であるとして、このBTPがドワイトロイド式焼結機の機長方向におけるどこに位置されているかに基づいて操業を管理している。前述したような焼結鉱の品質を満足し、且つ高生産性を実現することを操業目標として、BTPがなるべくドワイトロイド式焼結機の排鉱部端に近づくようにパレットの移動速度を制御して操業を行う。
【0005】
特許文献1に記載の焼結鉱の製造方法では、ドワイトロイド式焼結機の機長方向の複数箇所で測定された排ガス温度に基づいて、排ガス温度が最高温度になる位置(最高温度位置:BTP)を予測し、最高温度位置が設定位置となるようにパレットスピードを制御している。ここで、最高温度位置(BTP)は、二次関数で表される排ガス温度曲線に基づいて算出している。
【0006】
排ガス温度曲線(二次関数)は、3つの係数A,B,Cによって特定される。ここで、風箱と、この風箱で測定された風箱温度との関係を示す3点以上の情報を排ガス温度曲線(二次関数)に入力することにより、係数A,B,Cのそれぞれが特定される。そして、特定した係数A,B,Cを含む排ガス温度曲線(二次関数)において、極大値を取る位置をBTPとしている。このように、排ガス温度曲線(二次関数)に基づいてBTPを算出する方法は、非特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】社団法人日本鉄鋼協会、鉄鋼便覧、第3版、第II巻 製銑・製鋼、丸善株式会社、昭和55年2月25日第2刷発行、第116~117頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び非特許文献1のように、排ガス温度曲線を二次関数で表した場合には、排ガス温度曲線(二次関数)から求められるBTPが実際のBTPからずれてしまうことがあり、適切に操業できない場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、BTP等の焼成指標を従来よりも正確に推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ドワイトロイド式焼結機を用いて焼結鉱を製造するときの焼成指標を推定する焼成指標推定方法であって、焼成指標の推定において、下記式(I)を用いる。
【0012】
【0013】
上記式(I)において、Tnは、ドワイトロイド式焼結機のウインドボックスで検出される排ガス温度[℃]であり、Tbは、焼成を開始した後における排ガス温度の基準となるベース排ガス温度[℃]である。tは、パレットにより焼結原料が点火炉による点火位置から移動する時間である焼成時間[min]であり、L(t)は焼成時間tを対数変換した値である。a、b及びkのそれぞれは係数[-]であって、予め測定された焼成時間及び排ガス温度から特定される。
【0014】
係数a、b及びkは、上記式(I)から求められる排ガス温度Tnと、測定値である排ガス温度との誤差が最小となるように設定することができる。ベース排ガス温度Tbは、点火位置からBRPまでの間に位置する複数のウインドボックスで検出される排ガス温度の平均値とすることができる。焼成指標としては、BTP(Burn Through Point)及び排ガス温度の最高温度のうちの少なくとも1つを含めることができる。
【0015】
ドワイトロイド式焼結機の操業方法において、上述した焼成指標推定方法によって推定された焼成指標のうち、焼成時間で定義されるBTPtの、点火から排鉱までの時間に対する割合で定義されるBTPrが100%を超える場合には、BTPrが100%以下となるようにパレットの移動速度を低下させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焼結鉱の焼成指標を精度良く推定することができる。そして、推定した焼成指標に基づいて、ドワイトロイド式焼結機の操業を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本実施形態において、排ガスの温度曲線を決定する方法を説明するフローチャートである。
【
図3】実施例及び比較例における排ガスの温度曲線と、焼成時間に応じた排ガス温度の測定値を示す図である。
【
図4】実施例及び比較例において、BTPr[%]及び焼結鉱の歩留の関係を示す図である。
【
図5】実施例、比較例及び参考例における排ガスの温度曲線と、焼成時間に応じた排ガス温度の測定値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態は、ドワイトロイド式焼結機(以下、「DL式焼結機」という)を用いて焼結鉱を製造するときの焼成指標を推定する方法である。具体的には、後述する排ガスの温度曲線を生成し、この温度曲線に基づいて焼成指標を推定する。焼成指標としては、例えば、BTP(Burn Through Point)や排ガスの最高温度が挙げられる。以下、本実施形態について、具体的に説明する。
【0019】
(DL式焼結機)
まず、DL式焼結機の構造について、
図1を用いて説明する。
図1は、DL式焼結機の構造を示す概略図である。DL式焼結機では、主原料である微粉鉄鉱石と、燃料となるコークス等とを焼き固めることにより、粒度、力学的強度(機械強度)、化学成分を調整した焼結鉱を製造する。
【0020】
DL式焼結機1では、複数のパレット10が無端状に連結された状態で2つのギアホイル21,22に掛け渡されており、ギアホイル21,22が矢印D1,D2の方向にそれぞれ回転することにより、複数のパレット10が矢印D3の方向に移動する。DL式焼結機1の上部には、焼結原料をパレット10に給鉱する原料給鉱ホッパ30と、パレット10に積載された焼結原料層の上部に点火する点火炉40が設けられている。
【0021】
DL式焼結機1の上側に配置された複数のパレット10の下方には、パレット10の移動方向に沿って複数のウインドボックス50が並べられており、ウインドボックス50は、焼結原料が積載されたパレット10の下部から吸気する。各ウインドボックス50は、吸気管60に接続されており、ウインドボックス50から吸い込まれた空気は、吸気管60に導かれる。
【0022】
点火炉40によって焼結原料層の上部に点火された後、パレット10がDL式焼結機1の機長方向(
図1の左側から右側)に搬送されることにより、複数のウインドボックス50からの吸気によって、焼結原料層の上部から下部に向かって焼結反応が進行する。
【0023】
パレット10がDL式焼結機1の上側の経路を移動する間に、パレット10に積載された焼結原料層の焼成が完了し、パレット10がギアホイル22に沿って移動するときに、焼結鉱がパレット10から排鉱される。ここで、焼結鉱がパレット10から排鉱される位置を「排鉱位置」という。焼結鉱が排鉱されて空になったパレット10は、DL式焼結機1の下側の経路を移動し、原料給鉱ホッパ30の位置まで戻る。上述したパレット10の移動に応じて、焼結鉱を連続的に製造することができる。
【0024】
(DL式焼結機の操業)
パレット10内の焼結原料層に対して点火炉40による点火が行われて、パレット10が任意の距離を移動する間、排ガスの温度は100℃付近の温度に維持され、その後、排ガスの温度が急激に上昇して最高温度に到達する。ここで、排ガスの温度が急激に上昇し始めた直後の位置をBRP(Burn Rising Point)という。また、最高温度に達する位置をBTPpと定義する。
【0025】
DL式焼結機1の操業では、パレット10の移動経路におけるBTPpに基づいて操業管理を行う。BTPpは、焼結反応時に発生する排ガスの温度が最高温度に到達したときの位置であり、この位置は、例えば、複数のウインドボックス50に割り当てられた番号(以下、「ウインドボックス番号」という)や、パレット10の移動経路において、各ウインドボックス50までの距離によって特定される。
【0026】
ウインドボックス番号の割り当て方法としては、例えば、原料給鉱ホッパ30からパレット10に焼結原料が給鉱された後、点火炉40によって焼結原料層に点火される位置(以下、「点火位置」という)にあるウインドボックスに対して「1」を割り当てることができる。そして、点火位置から排紘位置に向かって、「2」、「3」の順にウインドボックス番号を割り当てることができる。ここで、複数のウインドボックス50のそれぞれに対して基準位置を決めておけば、点火位置から基準位置までの距離を特定することができる。
【0027】
DL式焼結機1の操業では、BTPpが排鉱位置に近い位置に安定的に存在するように、パレット10の移動速度を制御する。このような操業を行うことにより、焼結鉱の品質を満足させることができるとともに、焼結鉱の生産性[tоn/h]を向上させることができる。
【0028】
なお、焼結鉱の品質を評価する指標としては、例えば、冷間強度指数(TI:Tumbler Index)、還元粉化指数(RDI:Reduction Disintegration Index)、被還元性指数(RI:Reducibility Index)が挙げられる。焼結鉱を搬送したり、焼結鉱を高炉に装入したりするときには、焼結鉱の粉化を抑制する必要があるため、焼結鉱の冷間強度指数は大きいことが好ましい。高炉に装入された焼結鉱が還元粉化することを抑制し、高炉内での通気性を確保するためには、焼結鉱の還元粉化指数は小さいことが好ましい。高炉内では焼結鉱が還元されるため、焼結鉱の被還元性指数は大きいことが好ましい。
【0029】
(排ガスの温度曲線の生成方法)
焼成指標の推定に用いられる排ガスの温度曲線の生成方法について、
図2に示すフローチャートを用いて説明する。排ガスの温度曲線とは、焼成時間に対して排ガスの温度の挙動を示す曲線であり、焼成時間及び排ガスの温度のそれぞれを座標軸とした座標系で表される。焼成時間は、点火炉40によってパレット10内の焼結原料層に点火してからの経過時間[s]である。
【0030】
ステップS101では、DL式焼結機1の機長方向における複数の箇所において、排ガスの温度を検出する。具体的には、機長方向に並ぶ複数のウインドボックス50のうち、予め決められたウインドボックス50において、温度センサを用いて排ガスの温度を検出する。
【0031】
後述するように、排ガスの温度曲線を求めるためには、ベース排ガス温度Tbと、BRPよりも後の排ガスの温度Tnが必要となる。ベース排ガス温度Tbとは、焼成を開始する位置(すなわち、点火位置)からBRPまでの間において、パレット10内の焼結原料層からウインドボックス50に排出される排ガスの温度であり、排ガスの温度挙動を把握するときに基準となるとなる温度である。
【0032】
ベース排ガス温度Tbを取得するためには、点火位置よりも後の位置に配置されたウインドボックス50において、排ガスの温度を検出すればよい。例えば、点火位置に最も近い位置にある1つのウインドボックス50において排ガスの温度を検出し、この温度をベース排ガス温度Tbとすることができる。また、点火位置からBRPまでの間に位置する複数(任意の数)のウインドボックス50のそれぞれにおいて排ガスの温度を検出し、これらの温度の平均値をベース排ガス温度Tbとすることができる。
【0033】
排ガス温度Tnを取得するためには、排鉱位置に近い位置にあるウインドボックス50において、排ガスの温度を検出することができる。ここで、排鉱位置に最も近い位置にあるウインドボックス50では、排ガスに加えて外気を吸引する可能性があり、外気の吸引によって排ガスの温度が実際の温度よりも低くなってしまうおそれがある。このため、排ガス温度Tnを取得するとき、排鉱位置に最も近い位置にあるウインドボックス50において検出された排ガスの温度は除外することが好ましい。
【0034】
例えば、排鉱位置に最も近い位置にあるウインドボックス50を除き、排鉱位置に近い側から順に所定数Nw以上のウインドボックス50のそれぞれにおいて、排ガスの温度を検出することができる。ここで、所定数Nwとしては、3つ以上であることが好ましい。各ウインドボックス50で検出された排ガスの温度は、排ガス温度Tnとして用いられる。
【0035】
ステップS102では、下記式(1)に示す係数a、b、kを求める。下記式(1)は、排ガスの温度曲線を規定する式である。
【0036】
【0037】
上記式(1)において、Tnは排ガス温度[℃]であり、Tbはベース排ガス温度[℃]であり、tは焼成時間[min]であり、L(t)は焼成時間tを対数変換した値(以下、「対数変換値」という)であり、a、b及びkのそれぞれは係数[-]である。焼成時間tは、点火位置から、パレット10に積載された焼結原料が移動する時間であり、対数変換値L(t)は、焼成時間tの自然対数(ln(t))又は常用対数(lоg(t))となる。パレット10は所定速度で移動するため、焼成時間tは、パレット10の移動経路において、点火位置からの距離に依存する。上記式(1)によれば、対数変換値L(t)(言い換えれば、焼成時間t)に応じた排ガスの温度を求めることができる。
【0038】
排ガス温度Tn及びベース排ガス温度Tbは、上述したステップS101の処理において取得することができる。上述したように、排ガス温度Tnは、所定数Nw以上のウインドボックス50のそれぞれで検出されるが、これらの検出位置は予め決められているため、パレット10の移動経路において、点火位置から各検出位置までの距離L[m]を特定することができる。また、パレット10の移動速度PS[m/min]は一定速度に設定される。
【0039】
このため、各排ガス温度Tnを検出した位置での焼成時間t[min]は、点火位置から各検出位置までの距離L[m]と、パレット10の移動速度PS[m/min]とから求めることができる。すなわち、下記式(2)に基づいて、焼成時間tを求めることができる。
【0040】
【0041】
上記式(2)に基づいて、焼成時間tを求めることにより、所定数Nw以上のウインドボックス50のそれぞれで検出された排ガス温度Tnと、所定数Nw以上のウインドボックス50のそれぞれの距離L(言い換えれば、所定数Nw以上のウインドボックス50のそれぞれで検出された排ガス温度Tn)に対応する焼成時間tとの対応関係を取得できる。
【0042】
上述したように取得した、ベース排ガス温度Tbと、各排ガス温度Tnと、排ガス温度Tnに対応する焼成時間tとを上記式(1)に代入することにより、上記式(1)に示す係数a、b、kを求めることができる。上記式(1)には3つの係数a、b、kが含まれているため、ベース排ガス温度Tb、排ガス温度Tn及び焼成時間tからなるパラメータセットを少なくとも3つ用意することにより、係数a、b、kのそれぞれを特定することができる。
【0043】
係数a、b、kを決定する方法としては、公知の最急降下法を用いることができる。最急降下法では、まず、係数a、b、kのそれぞれについて、初期値a0、b0、k0を任意に設定する。そして、係数(初期値)a0、b0、k0を含む上記式(1)を用いて、取得したベース排ガス温度Tb及び焼成時間tから排ガス温度(推定値)Tnを求め、この排ガス温度(推定値)Tnと、取得した排ガス温度(測定値)Tnとについて、平均二乗誤差MSEを求める。なお、排ガス温度(推定値)Tn及び排ガス温度(測定値)Tnの誤差は、平均二乗誤差MSEに限られるものではなく、例えば、平均絶対誤差(MAE)を用いることができる。
【0044】
次に、係数(初期値)a0、b0、k0における最急降下方向を求め、この最急降下方向において、初期値a0、b0、k0から所定量だけ変更して係数a、b、kを更新する。更新後の係数a、b、kをを含む上記式(1)を用いて、取得したベース排ガス温度Tb及び焼成時間tから排ガス温度(推定値)Tnを求め、この排ガス温度(推定値)Tnと、取得した排ガス温度(測定値)Tnとについて、平均二乗誤差MSEを求める。上述した最急降下方向を求める処理と、係数a、b、kの更新とを繰り返し、平均二乗誤差MSEが最小となるときの係数a、b、kを特定する。
【0045】
ステップS103では、ステップS102の処理で特定された係数a、b、kを用いて、排ガスの温度曲線(上記式(1))を決定する。特定された係数a、b、kを含む上記式(1)は、DL式焼結機1の操業において、焼結鉱の焼成指標を把握するための排ガスの温度曲線として用いられる。この排ガスの温度曲線を用いれば、DL式焼結機1の操業において、焼成指標(BTPなど)を精度良く推定することができる。
【0046】
ここで、排ガスの温度曲線(上記式(1))は、焼結原料の種類(組成)毎に決定しておくことができ、同一種類の焼結原料を用いて焼結鉱を製造するときにおいて、この焼結原料に対応した排ガスの温度曲線(上記式(1))を用いて焼成指標を推定することができる。
【0047】
(焼結鉱の焼成指標の推定)
上述したように排ガスの温度曲線(上記式(1))を特定することにより、焼結鉱の焼成指標を推定することができる。焼成指標としては、例えば、BTPtや、排ガスの最高温度Tmaxが挙げられる。ここでいうBTPtは、最高温度位置BTPpを時間で表現したものであり、点火してから排ガス温度が最高温度になるまでの時間を示す。以下、BTPtや最高温度Tmaxの推定方法について説明する。
【0048】
上記式(1)に基づいてBTPtを推定する場合であって、例えば対数変換値L(t)として焼成時間tの自然対数(ln(t))を用いた場合には、下記式(3)を用いることができる。下記式(3)に示すaは、上記式(1)に示す係数aである。
【0049】
【0050】
上記式(1)に基づいて排ガスの最高温度Tmaxを推定する場合には、下記式(4)を用いることができる。下記式(4)に示すb及びkは、上記式(1)に示す係数b,kであり、下記式(4)に示すTbは、上記式(1)に示すベース排ガス温度である。
【0051】
【0052】
上述したようにBTPtを推定すれば、推定したBTPtに基づいて、DL式焼結機1の操業を制御することができる。ここで、DL式焼結機1の操業を制御する指標としては、例えば、パレット10の移動速度PSが挙げられ、推定したBTPtに基づいて、移動速度PSを上昇させたり、低下させたりすることができる。
【0053】
DL式焼結機1の操業を制御するときには、排鉱時間td[s]に対するBTPt[s]の割合で定義されるBTPr[%](=100×BTPt[s]/td[s])を求め、BTPr[%]が100%を超えているか否かを判別する。ここで、排鉱時間td[s]とは、点火位置から排鉱位置までパレット10が移動するときの時間である。そして、BTPr[%]が100%を超えている場合には、BTPr[%]が100%以下となるように、パレット10の移動速度PSを制御することができる。この場合には、移動速度PSを低下させればよく、移動速度PSを低下させる量は適宜決めることができる。移動速度PSを低下させた後も、BTPr[%]が100%を超えている場合には、移動速度PSを更に低下させればよい。
【0054】
一方、BTPr[%]が100%を超えていない場合には、現状の移動速度PSにおいて、DL式焼結機1の操業を継続することができる。また、BTPr[%]が100%に対して低すぎる場合には、移動速度PSを上昇させることにより、BTr[%]を100%に近づけることができる。
【0055】
上述した非特許文献1では、BTPpが排紘位置を超えないことを前提として、排ガス温度曲線(二次関数)に基づいてBTPpを推定しているため、BTPpが排紘位置を超えてしまう場合には、正確なBTPpを把握することが困難となる。本実施形態によれば、BTPpが排紘位置を超えているか否かにかかわらず、排ガス温度曲線(上記式(1))に基づいてBTPtを推定することができ、BTPtにパレットの移動速度PSを乗ずることでBTPpを算出できる。
【実施例0056】
以下、本実施形態の実施例について説明する。使用したDL式焼結機1の諸元を下記表1に示す。
【表1】
【0057】
点火位置にあるウインドボックス50に対して、ウインドボックス番号「1」を割り当て、点火位置から排鉱位置に向かうにつれて、ウインドボックス番号を「2」,「3」・・・の順に割り当てた。本実施例のDL式焼結機1では、27個のウインドボックス50が設けられているため、ウインドボックス番号は「1」~「27」までである。
【0058】
ベース排ガス温度Tbを取得するために、ウインドボックス番号が「2」,「6」,「9」である3つのウインドボックス50における排ガスの温度を測定し、これらの排ガスの温度の平均値を求めた。また、排ガス温度Tnとして、ウインドボックス番号が「21」~「26」である6つのウインドボックス50における排ガスの温度を測定した。なお、排鉱位置に最も近い位置にあるウインドボックス50(ウインドボックス番号:「27」)については、排ガス温度Tnの推定に使用しなかった。
【0059】
下記表2には、上述した排ガスの温度の測定結果と、点火位置から各ウインドボックス50の中央までの距離Lと、距離L及びパレット10の移動速度PSから算出した焼成時間tとを示す。
【0060】
【0061】
上記式(1)において、ベース排ガス温度Tbを89.7[℃]とし、上述した最急降下法を用いて係数a,b,kを決定した。ここで、係数aは7.62[-]、係数bは0.14[-]、係数kは120[-]であった。この結果によれば、上記式(1)は、下記式(5)として表される。
【0062】
【0063】
一方、比較例として、二次関数を用いた排ガスの温度曲線を求めた。二次関数は、下記式(6)で表されるため、上記表2に示す測定結果に基づいて、下記式(6)に示す係数c1,c2,c3を特定した。
【0064】
【0065】
上記式(6)において、Tnは排ガス温度[℃]、tは焼成時間[min]、c1,c2及びc3は係数[-]である。ウインドボックス番号が「23」~「26」における排ガス温度Tn及び焼成時間tを用いて係数c1,c2,c3を特定したところ、係数c1が-0.0015であり、係数c2が6.3であり、係数c3が-6266であった。このため、上記式(6)は、下記式(7)で表される。
【0066】
【0067】
図3には、実施例及び比較例における排ガスの温度曲線(上記式(5)及び上記式(7))を示す。
図3において、縦軸は排ガスの温度[℃]であり、横軸は焼成時間t[s]である。比較例における排ガスの温度曲線は、ウインドボックス番号が「23」~「26」であるウインドボックス50における測定結果(すなわち、排ガスの温度が上昇している期間での測定結果)から求められたものであるため、BRP以降の焼成時間tにおける温度変化を示す。なお、排鉱時間(排紘位置までの焼成時間t)は、1976[s]であった。
【0068】
実施例である排ガスの温度曲線(上記式(5))に基づいて、焼成指標(BTPt及び排ガスの最高温度Tmax)を推定した。上記式(3)によれば、BTPtが2048[s]であり、上記式(4)によれば、排ガスの最高温度Tmaxが399[℃]であった。
【0069】
比較例である排ガスの温度曲線(上記式(7))に基づいて、焼成指標(BTPt及び排ガスの最高温度Tmax)を推定した。ここで、BTPtは、下記式(8)から求められ、2123[s]であった。また、排ガスの最高温度は、二次関数である温度曲線の最大値であり、424[℃]であった。
【0070】
【0071】
実施例及び比較例によって推定した焼成指標(BTPt)を評価するために、BTPr[%]及び焼結鉱の歩留Ry[質量%]の関係に着目した。BTPr[%]は、排鉱時間td[s]に対するBTPt[s]の割合(=100×BTPt/td)であり、排鉱時間tdは、点火位置から排鉱位置までパレット10が移動する時間[s]である。また、歩留Ryは、篩目の大きさが5mmの篩により篩い分けた篩上の焼結鉱の質量Msを、元の焼結ケーキの質量Mtで除算した値[質量%]である。
【0072】
図4には、実施例及び比較例のそれぞれについて、BTPr[%]及び歩留Ry[質量%]の関係を示す。
図4において、縦軸は歩留Ry[質量%]であり、横軸はBTPr[%]である。
【0073】
図4から分かるように、実施例については、BTPr[%]が100[%]よりも高くなるほど、歩留Ryが低くなり、言い換えれば、BTPr[%]が100[%]に近づくほど、歩留Ryが高くなった。一般的に、BTPr[%]及び歩留Ryの間には、負の相関関係が認められるため、実施例によれば、BTPrを精度良く推定できていることが証明された。一方、比較例については、
図4から分かるように、BTPr[%]及び歩留Ryの間に相関関係が認められなかった。なお、実施例に関する相関係数Rは-0.81であり、比較例に関する相関係数Rは-0.43であった。
【0074】
上述したように、本実施例によれば、比較例と比べて、BTPr[%]を変化させたときの歩留Ryの変化を把握しやすくなるため、BTPtに基づくDL式焼結機1の操業を制御しやすくなる。
【0075】
図5には、他の実験における排ガスの温度分布を示す。
図5において、縦軸は排ガスの温度[℃]であり、横軸は焼成時間t[s]である。
図5には、測定値としての排ガス温度の分布と、実施例である排ガスの温度曲線(上記式(1))と、比較例である排ガスの温度曲線(上記式(6))と、参考例として、上記式(1)に示す対数変換値L(t)を焼成時間tに置き換えたときの排ガスの温度曲線とを示す。
【0076】
実施例である排ガスの温度曲線(上記式(1))について、上述した排ガスの温度曲線の生成方法に基づいて係数a,b,kを求めたところ、係数aが7.09[-]であり、係数bが0.088[-]であり、係数kが126[-]であった。そして、ベース排ガス温度Tb及び焼成時間tを測定し、実施例である排ガスの温度曲線(上記式(1))に基づいて排ガス温度Tnを推定した。なお、参考例では、上述したとおり、上記式(1)に示す対数変換値L(t)を焼成時間tに置き換えて排ガス温度Tnを推定した。
【0077】
比較例である排ガスの温度曲線(上記式(6))について、係数c1,c2,c3を求めたところ、係数c1が-0.0174[-]であり、係数c2が42.3[-]であり、係数c3が-25108[-]であった。そして、焼成時間tを測定し、比較例である排ガスの温度曲線(上記式(6))に基づいて排ガス温度Tnを推定した。
【0078】
図5から分かるように、実施例である排ガスの温度曲線(上記式(1))は、測定値としての排ガス温度の分布に沿ったものとなっており、実施例による推定精度を確保できていることが分かった。比較例である排ガスの温度曲線(上記式(6))については、BTPtが測定値からずれるとともに、BTPt以降の排ガスの温度が測定値からずれた。上記式(1)に示す対数変換値L(t)を焼成時間tに置き換えたときの排ガスの温度曲線については、BRPt以降において、排ガスの温度を推定することができなかった。
上記式(I)において、Tnは、ドワイトロイド式焼結機のウインドボックスで検出される排ガス温度[℃]であり、Tbは、焼成を開始した後における排ガス温度の基準となるベース排ガス温度[℃]である。tは、パレットにより焼結原料が点火炉による点火位置から移動する時間である焼成時間[s]であり、L(t)は焼成時間tを対数変換した値である。a、b及びkのそれぞれは係数[-]であって、予め測定された焼成時間及び排ガス温度から特定される。