(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078879
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】情報表示機構、時計用ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
G04C 3/00 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
G04C3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191471
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】河田 正幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢
(72)【発明者】
【氏名】麦島 勝也
【テーマコード(参考)】
2F101
【Fターム(参考)】
2F101AA00
2F101AB02
2F101AC07
2F101AD02
2F101AD06
2F101AD10
(57)【要約】
【課題】省スペース化を図ることができる情報表示機構、時計用ムーブメントおよび時計を提供する。
【解決手段】情報表示機構40は、複数の内歯48を有し、かつ情報47が表示されたリング状の表示車46と、内歯48と噛み合い可能な複数の歯部45を有する回し車44と、回し車44を回転させる駆動部20と、を備える。回し車44は、歯部45と内歯48とが噛み合った状態で回転することにより表示車46を回転させる。表示車46に、回し車44との噛み合いを規制する規制凸部48Aが形成されている。駆動部20は、第1方向および第1方向とは反対の第2方向に回し車44を回転可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内歯を有し、かつ情報が表示されたリング状の表示車と、
前記内歯と噛み合い可能な複数の歯部を有する回し車と、
前記回し車を回転させる駆動部と、を備え、
前記回し車は、前記歯部と前記内歯とが噛み合った状態で回転することにより前記表示車を回転させ、
前記表示車に、前記回し車との噛み合いを規制する規制凸部が形成され、
前記駆動部は、第1方向および前記第1方向とは反対の第2方向に前記回し車を回転可能である、情報表示機構。
【請求項2】
請求項1記載の情報表示機構において、
前記規制凸部は、前記歯部が未噛合状態で係止する係止凹部を有する、情報表示機構。
【請求項3】
請求項1記載の情報表示機構において、
前記表示車は、前記情報として複数の日文字を表示する日車である、情報表示機構。
【請求項4】
請求項3記載の情報表示機構において、
複数の前記日文字は、前記表示車の周方向に並んで表示され、
前記規制凸部は、複数の前記日文字のうち並び方向の最後にある前記日文字に対応する位置に形成されている、情報表示機構。
【請求項5】
請求項1記載の情報表示機構において、
前記駆動部は、前記表示車を回転させるロータと、前記ロータに回転力を生じさせるステータと、前記ステータの両端のうち一方に磁束を供給する第1コイルと、前記ステータの両端のうち他方に磁束を供給する第2コイルと、を備える2コイルモータである、情報表示機構。
【請求項6】
請求項1~5のうちいずれか1項に記載の情報表示機構を備える、時計用ムーブメント。
【請求項7】
請求項6に記載の時計用ムーブメントを備える、時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報表示機構、時計用ムーブメントおよび時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時刻だけでなく他の情報を表示できる時計として、例えば、カレンダ機構付きの時計がある。カレンダ機構は、例えば、日板と、フォトセンサ機構と、日板駆動機構とを備える。日板は、日付表示および検出パターンを有する。フォトセンサ機構は、検出パターンを読み取る。日板駆動機構は、フォトセンサ機構からの信号を受けて日板を駆動する(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
フォトセンサ機構は、発光部および受光部を有する。発光部からの光は、日板の検出パターンに応じて反射するか、または非反射となる。受光部は光の反射または非反射を検知する。前記時計は、受光部における検知結果に基づいて月末を認識し、カレンダの月末修正を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の時計は、カレンダ機構がフォトセンサ機構を備えるため、設置スペースが大きくなる場合があった。そのため、カレンダ機構の省スペース化の点で改善の余地があった。
【0006】
本発明の一態様は、省スペース化を図ることができる情報表示機構、時計用ムーブメントおよび時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る情報表示機構は、複数の内歯を有し、かつ情報が表示されたリング状の表示車と、前記内歯と噛み合い可能な複数の歯部を有する回し車と、前記回し車を回転させる駆動部と、を備え、前記回し車は、前記歯部と前記内歯とが噛み合った状態で回転することにより前記表示車を回転させ、前記表示車に、前記回し車との噛み合いを規制する規制凸部が形成され、前記駆動部は、第1方向および前記第1方向とは反対の第2方向に前記回し車を回転可能である。
【0008】
この構成によれば、表示車が基準位置に達したことを確認するための構造が簡略であるため、省スペース化を図ることができる。
【0009】
前記規制凸部は、前記歯部が未噛合状態で係止する係止凹部を有することが好ましい。
【0010】
この構成によれば、歯部を規制内歯に対して安定して係止させることができる。
【0011】
前記表示車は、前記情報として複数の日文字を表示する日車であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、情報として日文字を表示するため、時計用ムーブメントにカレンダとしての機能を与えることができる。
【0013】
複数の前記日文字は、前記表示車の周方向に並んで表示され、前記規制凸部は、複数の前記日文字のうち並び方向の最後にある前記日文字に対応する位置に形成されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、カレンダの月末修正を行ううえで好適である。
【0015】
前記駆動部は、前記表示車を回転させるロータと、前記ロータに回転力を生じさせるステータと、前記ステータの両端のうち一方に磁束を供給する第1コイルと、前記ステータの両端のうち他方に磁束を供給する第2コイルと、を備える2コイルモータであることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、表示車を安定的に両方向に回転(正逆回転)させることができる。そのため、回し車が規制内歯に達した状態におけるデッドロック(駆動できない状態)は起こりにくい。よって、ムーブメントの動作安定性を高めることができる。
【0017】
本発明の一態様に係る時計用ムーブメントは、前記情報表示機構を備える。
【0018】
この構成によれば、情報表示機構の省スペース化を図ることができる時計用ムーブメントを提供できる。
【0019】
本発明の一態様に係る時計は、前記時計用ムーブメントを備える。
【0020】
この構成によれば、情報表示機構の省スペース化を図ることができる時計を提供できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、省スペース化を図ることができる情報表示機構、時計用ムーブメントおよび時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】第1実施形態に係るムーブメントの平面図である。
【
図3】第1実施形態に係るムーブメントの拡大した平面図である。
【
図4】第1実施形態に係るムーブメントの拡大した平面図である。
【
図5】日回し車および日車の拡大した平面図である。
【
図6】第1実施形態に係るムーブメントの動作を示す平面図である。
【
図7】第1実施形態に係るムーブメントのブロック図である。
【
図8】カレンダ駆動部およびカレンダモータの例の構成図である。
【
図9】カレンダモータの駆動方法の例を示す図である。
【
図10】カレンダモータの回転検出方法の例を示す図である。
【
図11】第2実施形態に係るムーブメントの平面図である。
【
図12】第2実施形態に係るムーブメントの平面図である。
【
図13】第3実施形態に係るムーブメントの平面図である。
【
図14】第3実施形態に係るムーブメントの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0024】
[第1実施形態]
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
【0025】
図1は、第1実施形態に係る時計の外観図である。
図1に示すように、第1実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋およびガラス3からなる時計ケース2内に、ムーブメント4(時計用ムーブメント)と、目盛りを有する文字板5と、時針6(指針)と、分針7と、秒針8(指針)とを備えている。文字板5には、日車46(表示車)に表示された日文字47を明示させる日窓5aが開口している。これにより、時計1は、時刻に加え、日付を確認することができる。
【0026】
図2は、第1実施形態に係るムーブメントの平面図である。
図3および
図4は、ムーブメントの拡大した平面図である。
図2に示すように、ムーブメント4は、地板11と、輪列受と、指針モータと、指針輪列と、第2輪列群と、カレンダ機構40(情報表示機構)と、日車押さえ13と、を主に備える。
【0027】
地板11は、ムーブメント4の基板を構成する。輪列受は、地板11の表側に配置されている。日車押さえ13は、地板11の裏側に配置されている。指針輪列は、指針モータのロータの回転を時針6(指針)に伝達する。
【0028】
カレンダ機構40は、カレンダモータ20(駆動部)と、カレンダ輪列41と、日回し車44(回し車)と、日車46とを備える。
【0029】
カレンダモータ20は、ステータ21およびロータ22を有するステッピングモータである。カレンダモータ20は、日車46を回転させる動力を発生させる。カレンダモータ20のロータ22には、かなが形成されている。
【0030】
カレンダ輪列41は、カレンダモータ20のロータ22の回転を日回し車44に伝達する。カレンダ輪列41は、第1時中間車32と、日回し中間車43と、を備える。第1時中間車32および日回し中間車43は、地板11により回転可能に支持されている。第1時中間車32は、ロータ22のかなと噛み合っている。日回し中間車43は、第1時中間車32と噛み合っている。
【0031】
日回し車44は、地板11と日車押さえ13との間で地板11により回転可能に支持されている。日回し車44は、複数の歯部45を有する。歯部45は、日回し車44の径方向の外側に突出する。歯部45は、日回し中間車43の送り歯と噛み合い可能に形成されている。日回し車44は、日回し中間車43の送り歯が日回し車44の回転軌跡に進入して噛み合うことで回転する。そのため、日回し車44は、日回し中間車43の回転によって間欠的に回転する。日回し車44は、日車46を回転させる。
【0032】
日車46は、地板11に対して回転可能に取付けられたリング状(円環状)の板状部材である。日車46の円周方向を「周方向」という。日車46の径方向を「径方向」という。
【0033】
日車46は、日車押さえ13によって押さえられている。日車46の裏面には、日付情報である複数の日文字47(情報)が表示されている。複数の日文字47は、周方向に間隔をおいて並んで形成されている。日車46は、文字板5の日窓5aを通じて日文字47を露出させることで、日付情報を表示する(
図1参照)。日文字47は、印刷、刻印、貼付などにより日車46に形成することができる。
【0034】
複数の日文字47は、日車46の周方向に並んで形成されている。複数の日文字47は、例えば、最初の日文字である「1」から、最後の日文字である「31」までの合計31個の日文字を含む。「1」から「31」を示す日文字47は、この順に並んでいる。「1」は月の最初の日付を示す。「31」は日数が31である月の最後の日付を示す。「31」は、並び方向の最後にある日文字47である。
【0035】
日車46では、複数の日文字47のうち「1」と、「31」との間に、空白50が形成されている。空白50は、日文字47が形成されていない領域である。
【0036】
日車46の内周縁46aには、全周にわたって間隔をおいて複数の内歯48が形成されている。内歯48は、日車46の径方向の内側に突出する。
【0037】
図3に示すように、内歯48は、日回し車44と噛み合い可能である。隣り合う内歯48の間に形成された噛合凹部49に歯部45が進入して噛み合うことによって、日車46は日回し車44の回転に連動して回転する。日車46は、日回し中間車43の回転によって間欠的に回転する。「内歯48が日回し車44と噛み合う」は、内歯48が噛合凹部49に進入して、日回し車44の回転に伴って日車46が回転できる状態をいう。
【0038】
内歯48は、日車46の第1の回転方向K1(時計回り方向)に向く第1傾斜面48aと、日車46の第2の回転方向K2(反時計回り方向)に向く第2傾斜面48bを有する。第1傾斜面48aは、例えば、径方向の外側に行くほど第1の回転方向K1に向かう傾斜面である。第2傾斜面48bは、例えば、径方向の外側に行くほど第2の回転方向K2に向かう傾斜面である。内歯48は、径方向の内側に向かって徐々に幅(周方向の寸法)が狭くなる形状であってよい。内歯48は、径方向に沿う対称軸を有する線対称の形状であってよい。
【0039】
内歯48のうち一つは、規制内歯48Aである。規制内歯48Aは、内歯48と日回し車44との噛み合いを規制する形状を有する。規制内歯48Aは、日車46の内周縁46aから日車46の径方向の内側に突出する。規制内歯48Aは、規制凸部(規制構造)の一例である。以下の説明では、規制内歯48A以外の内歯48を「内歯48B」と称することがある。
【0040】
規制内歯48Aは、内歯48Bに比べて幅が大きい。規制内歯48Aは、隣り合う2つの内歯48Bを連結した形状を有する。具体的には、規制内歯48Aは、日車46の周方向に間隔をおいて2つの頂部48cを有する。頂部48cは、日車46の径方向の内側に突出する。2つの頂部48cどうしの距離は、隣り合う2つの内歯48Bの頂部どうしの距離と同じである。頂部48cの突出高さ(日車46の内周縁46aからの突出高さ)は、内歯48Bの突出高さと同じである。
【0041】
規制内歯48Aの頂部48cと頂部48cとの間の部分(中間部分48d)の突出高さ(日車46の内周縁46aからの突出高さ)は、頂部48cの突出高さより低い。そのため、中間部分48dは、2つの頂部48cの間に形成された係止凹部48eとなっている。中間部分48dは、日車46を回転可能とする程度の内歯48Bの進入を許容しない突出高さを有する。
【0042】
係止凹部48eは、歯部45が未噛合状態で係止できる程度の深さを有する凹部であることが望ましい。係止凹部48eは、歯部45が未噛合状態で係止できることにより、規制内歯48Aに対して歯部45が係止した状態を維持しやすくなる。
【0043】
図3では、歯部45が係止凹部48eに未噛合状態で係止している。この状態は、内歯48と日回し車44との噛み合いが規制された状態である。この状態を「噛み合い規制状態」という。噛み合い規制状態では、日回し車44は第1方向R1(時計回り方向)に回転できない。そのため、日車46も第1の回転方向K1に回転できない。
【0044】
図4に示すように、係止凹部48eは、歯部45が噛み合い規制状態となった後(
図3参照)、噛合凹部49内で第2方向R2(反時計回り方向)にも回転できる程度の幅を有することが望ましい。これにより、歯部45および内歯48に形状のバラつきがあっても、日回し車44と日車46とを安定的に回転動作させることができる。
【0045】
なお、規制内歯(規制凸部、規制構造)は、日回し車の歯部との噛み合いを規制することによって日車が第1の回転方向に回転するのを阻止できる構造であればよく、形状等は特に限定されない。
【0046】
図2に示すように、規制内歯48Aは、複数の日文字47のうち並び方向の最後にある「31」に対応する位置に形成されている。詳しくは、例えば、
図6に示すように、規制内歯48Aは、日窓5aにおける「31」の表示を終えて日車46がさらに第1の回転方向K1に回転した位置(日車46の基準位置)において、日回し車44が噛み合い規制状態となる位置に形成されている。
【0047】
この位置では、日窓5aの一部は空白50に達している。日車46が基準位置に達したときに日窓5aの一部が空白50を表示するため、ユーザは、日車46が基準位置に達したことを目視により容易に確認できる。
【0048】
図5は、日回し車44および日車46の拡大した平面図である。
図5に示すように、日回し車44の歯部45が日車46の噛合凹部49(隣り合う内歯48の間の凹部)に入り込んでいるとき、噛合凹部49内における歯部45と内歯48の隙間は、0mm以上、0.3mm以下であることが望ましい。この隙間は、歯部45の両側方の隙間S1,S2の合計である。歯部45と内歯48の隙間がこの範囲であることによって、日回し車44および日車46を安定して動作させることができる。
【0049】
第2輪列群は、第2モータのロータの回転を秒針8および分針7(
図1参照)に伝達する表輪列を備える。
【0050】
図7は、ムーブメント4のブロック図である。
図7に示すように、ムーブメント4は、電池101、発振回路102、分周回路103、記憶部104、制御回路105、指針モータ106、カレンダモータ20、指針輪列107、カレンダ輪列41、指針108、および日車46を備える。
【0051】
制御回路105は、パルス制御部105A、指針駆動部105B、カレンダ駆動部105C、およびモータ回転検出部105Dを備える。
電池101は、制御回路105に電力を供給する。電池101は、例えば、リチウム電池、酸化銀電池等のボタン電池が好ましい。電池101は、太陽電池などの蓄電池であってもよい。
【0052】
発振回路102は、例えば、水晶の圧電現象を利用し、所定の周波数(例えば、32kHz)の発振を行うために用いられる受動素子である。
分周回路103は、発振回路102が出力した所定の周波数の信号を所望の周波数に分周し、分周した信号を制御回路105に出力する。
記憶部104は、指針駆動部105Bおよびカレンダ駆動部105Cの主駆動パルスを記憶する。記憶部104は、補助駆動パルスを記憶する。記憶部104は、モータ回転検出のためのサーチパルスを記憶する。
【0053】
制御回路105は、分周回路103が分周した所望の周波数を用いて計時を行う。制御回路105は、計時した結果に応じて、指針モータ106およびカレンダモータ20を駆動する。制御回路105は、カレンダモータ20の回転によって発生する逆起電圧(誘起電圧)を検出し、検出した結果に基づいて、日車46の基準位置を検出する。
【0054】
パルス制御部105Aは、分周回路103が分周した所望の周波数を用いて計時を行う。パルス制御部105Aは、計時した結果に応じて、指針108および日車46を動作させるようにパルス信号を生成する。パルス制御部105Aは、生成したパルス信号を、指針駆動部105Bおよびカレンダ駆動部105Cに出力する。パルス制御部105Aは、カレンダ駆動部105Cが検出したカレンダモータ20の誘起電圧と、基準電圧との比較結果により、モータ回転検出部105Dの検出結果を取得する。パルス制御部105Aは、取得した検出結果に基づいて、日車46の基準位置の検出を行う。
【0055】
パルス制御部105Aの駆動端子M10、駆動端子M11、制御端子G10、および制御端子G11は、指針駆動部105Bに接続されている。パルス制御部105Aの第1端子Aa、第2端子Ab、第1端子Ba、第2端子Bb、制御端子G20、および制御端子G21は、カレンダ駆動部105Cに接続されている。パルス制御部105Aの検出端子は、モータ回転検出部105Dに接続されている。
【0056】
モータ回転検出部105Dは、カレンダモータ20の回転状態によってカレンダ駆動部105Cに発生する逆起電圧を検出する。モータ回転検出部105Dは、検出した逆起電圧を、閾値である基準電圧Vcompと比較した結果をパルス制御部105Aに出力する。パルス制御部105Aは、比較結果に基づいてカレンダモータ20の回転状態を検出できる。
【0057】
図8は、カレンダ駆動部105Cおよびカレンダモータ20の例の構成図である。
図8に示すように、カレンダモータ20は、例えば、2コイルモータである。2コイルモータは、ステータ111と、ロータ112とを備える。2コイルモータは、単位ステップ毎に動作し、日車46(
図2参照)を回転させる。ステータ111は、ステータ本体113と、ステータ本体113と磁気的に結合された第1磁心114(第1端)と、第2磁心115(第2端)と、第1磁心114に巻回された第1コイル116と、第2磁心115に巻回された第2コイル117と、を備えている。
【0058】
ステータ本体113は、例えば、パーマロイ等の高透磁率材料を用いた板材により形成されている。ステータ本体113は、T字状の第1ヨーク121と、一対の第2ヨーク122を有する。第1ヨーク121は、直状部121Aと、直状部121Aの一端部から両側方に延出する張出部121B,121Cと、を備える。一対の第2ヨーク122は、直状部121Aの他端部から両側方にそれぞれ延出する。直状部121Aの延在方向はY方向である。張出部121B,121Cの延出方向はX方向である。X方向はY方向に直交する。
【0059】
直状部121Aの他端部には、ロータ収容孔118が形成されている。ロータ収容孔118の内周面には、一対の凹部118aが向かい合って形成されている。凹部118aは、ロータ112の停止位置を定める位置決め部として機能する。ロータ収容孔118には、ロータ112が収容される。ロータ112は、磁極軸Aが一対の凹部118aを通る直線Bと直交する位置、すなわち磁極軸AがY方向に沿う位置にあるときに、最もポテンシャルエネルギーが低くなり、安定して停止する。ロータ112の磁極軸AがY方向に沿い、かつロータ112のN極が第1ヨーク121側を向くときのロータ112の停止位置を第1停止位置という。ロータ112の磁極軸がY方向に沿い、かつロータ112のS極が第1ヨーク121側を向くときのロータ112の停止位置を第2停止位置という。
【0060】
第1磁心114および第2磁心115は、例えば、パーマロイ等の高透磁率材料により形成されている。第1磁心114は、張出部121Cの先端部と、第2ヨーク122の先端部とに、磁気的に接続されている。第2磁心115は、張出部121Bの先端部と、第2ヨーク122の先端部とに、磁気的に接続されている。第1磁心114および第2磁心115の両端部は、ステータ本体113に連結されている。
【0061】
ステータ本体113は、ロータ収容孔118の周囲において3つの磁極部を有する。詳しくは、ステータ本体113は、第1磁極部131と、第2磁極部132と、第3磁極部133と、を有する。第1磁極部131は、ロータ112の周囲における一方の第2ヨーク122に対応する位置にある。第2磁極部132は、ロータ112の周囲における他方の第2ヨーク122に対応する位置にある。第3磁極部133は、ロータ112の周囲における第1ヨーク121の直状部121Aに対応する位置にある。
【0062】
第1コイル116は、第1磁心114に巻回されている。第1コイル116は、第2磁極部132および第3磁極部133に磁気的に結合している。第1コイル116は、第1端子Aaおよび第2端子Abを有している。第1コイル116は、第1端子Aaから第2端子Abに向けて電流を流したときに、第1コイル116内に、張出部121C側から第2ヨーク122側に向かう磁界が発生するように巻回されている。
【0063】
第2コイル117は、第2磁心115に巻回されている。第2コイル117は、第1磁極部131および第3磁極部133に磁気的に結合している。第2コイル117は、第1端子Baおよび第2端子Bbを有している。第2コイル117は、第1端子Baから第2端子Bbに向けて電流を流したときに、第2コイル117内に、第2ヨーク122側から張出部121B側に向かう磁界が発生するように巻回されている。
【0064】
第1コイル116の導線の線径は、第2コイル117の導線の線径と同じであることが好ましい。第1コイル116の巻線回数は、第2コイル117の巻線回数と同じであることが好ましい。第1コイル116および第2コイル117の端子は、制御回路に接続されている。
【0065】
第1コイル116の第1端子Aaの電位をOUT1とする。第1コイル116の第2端子Abの電位をOUT2とする。第2コイル117の第1端子Baの電位をOUT3とする。第2コイルの第2端子Bbの電位をOUT4とする。
【0066】
第1コイル116または第2コイル117に生じた磁束は、第1磁心114および第2磁心115と、ステータ本体113とに沿って流れる。第1コイル116または第2コイル117への通電状態に応じて、第1磁極部131、第2磁極部132および第3磁極部133の極性が切り替えられる。
【0067】
2コイルモータは、ロータ112と、ステータ111と、第1コイル116と、第2コイル117とを備える。ステータ111は、ロータ112に対して回転力を生じさせる磁束を与える。ロータ112は、N極とS極とに着磁される。ロータ112は、日車46を回転させる。第1コイル116は、ステータ111の両端のうち一方(第1磁心114)に磁束を供給する。第2コイル117は、ステータ111の両端のうち他方(第2磁心115)に磁束を供給する。
【0068】
パルス制御部105A(
図7参照)が出力する駆動パルスは、第1コイル116と第2コイル117とを励磁することにより、ロータ112を極数に応じた基準回転角度だけ駆動させる。
なお、ここでいう極数に応じた基準回転角度とは、ロータ112の1回転の角度を、ロータ112が着磁されている極数により除算した角度であってもよい。例えば、極数に応じた基準回転角度は、ロータ112が2極に励磁されている場合、1回転の角度を2で除算した角度(180°)である。極数に応じた基準回転角度は、ロータ112が4極に励磁されている場合、1回転の角度を4で除算した角度(90°)である。
【0069】
図9は、カレンダモータ20の駆動方法の例を示す図である。
図9の横軸は時刻を示す。“OUT1”は、各時刻における第1端子OUT1に印加される電圧の大きさを示す。“OUT2”は、各時刻における第2端子OUT2に印加される電圧の大きさを示す。“OUT3”は、各時刻における第3端子OUT3に印加される電圧の大きさを示す。“OUT4”は、各時刻における第4端子OUT4に印加される電圧の大きさを示す。
【0070】
各時刻におけるロータ112の位置を、前述の第2停止位置を0度として説明する。時刻t11から時刻t21における制御は、ロータ112を0度から180度まで反時計回りに回転させる制御である。時刻t21から時刻t29における制御は、ロータ112を180度から0度まで反時計回りに回転させる制御である。
【0071】
時刻t11から時刻t12において、制御回路105(
図7参照)は、第4端子OUT4に正方向のパルスを印加する。第4端子OUT4に正方向のパルスが印加し続けられると、ロータ112は45度回転した位置で静止する。制御回路105は、時刻t12において、パルスの印加を止めると、ロータ112は0度の位置に引き戻されて静止する。
【0072】
ロータ112は、45度の位置から0度の位置に戻る際に、慣性により少なくとも一度、反時計回りに負の回転角度の位置まで回転し、時計回りに正の回転角度の位置まで回転することを繰り返す。ロータ112は、振動し、振動が減衰することにより0度の位置で静止する。
【0073】
時刻t12から時刻t15において、制御回路105は、揺動パルスの印加によりロータ112が受ける機械的負荷を判定する。具体的には、パルス制御部105Aは、カレンダ駆動部105Cが検出したカレンダモータ20の誘起電圧と、基準電圧との比較結果により、モータ回転検出部105Dの検出結果を取得する。パルス制御部105Aは、取得した検出結果に基づいて、日車46の基準位置の検出を行う。
【0074】
時刻t15から時刻t17において、制御回路105は、駆動パルスを印加する。時刻t15から時刻t16において、第4端子OUT4に印加される正方向のパルスを第1駆動パルスと記載する。時刻t16から時刻t17において、第2端子OUT2に印加される正方向のパルスを第2駆動パルスと記載する。第2端子OUT2に正方向のパルスが印加し続けられると、ロータ112は、135度回転した位置で静止する。制御回路105は、時刻t17において、パルスの印加を停止すると、ロータ112は180度の位置に静止する。
【0075】
時刻t21から時刻t22において、制御回路105は、第3端子OUT3に正方向のパルス、すなわち揺動パルスを印加する。第3端子OUT3に正方向のパルスが印加し続けられると、ロータ112は225度回転した位置で静止する。制御回路105は、時刻t22において、パルスの印加を止めると、ロータ112は180度の位置に引き戻されて静止する。ここで、ロータ112は、225度の位置から180度の位置に戻る際に振動し、振動が減衰することにより180度の位置で静止する。
【0076】
時刻t22から時刻t25において、制御回路105は、揺動パルスの印加によりロータ112が受ける機械的負荷を判定する。パルス制御部105Aは、カレンダ駆動部105Cが検出したカレンダモータ20の誘起電圧と、基準電圧との比較結果により、モータ回転検出部105Dの検出結果を取得する。パルス制御部105Aは、取得した検出結果に基づいて、日車46の基準位置の検出を行う。
【0077】
時刻t25から時刻t27において、制御回路105は、駆動パルスを印加する。具体的には、制御回路105は、時刻t25から時刻t26において、第1駆動パルスとして第3端子OUT3に正方向のパルスを印加する。制御回路105は、時刻t26から時刻t27において、第2駆動パルスとして第1端子OUT1に正方向のパルスを印加する。
【0078】
第1端子OUT1に正方向のパルスが印加し続けられると、ロータ112は315度回転した位置で静止する。制御回路105は、時刻t26において、パルスの印加を停止すると、ロータ112は0度の位置に静止する。
以上のような駆動パルスおよびパルスタイミングによって、カレンダモータ20の回転検出を行うことができる。
【0079】
図10は、カレンダモータ20の回転検出方法の例を示す図である。以下、カレンダモータ20の回転検出方法について説明する。カレンダ(日車)位置の検出状態としては、ユーザ操作による検出モード設定によるタイミング、および、制御回路105による定期的な位置検出タイミング等があるが、時計の仕様により様々考えられるため、ここでは限定しない。
【0080】
前述のとおり、日車46の基準位置を検出する方法にとしては、制御回路105による揺動パルスの印加により、ロータ112が受ける機械的負荷を判定し、検出を行う方法が挙げられる。
【0081】
図10において横軸は時刻を示す。“OUT1”は、各時刻における第1端子OUT1に印加される電圧の大きさを示す。“OUT2”は、各時刻における第2端子OUT2に印加される電圧の大きさを示す。“OUT3”は、各時刻における第3端子OUT3に印加される電圧の大きさを示す。“OUT4”は、各時刻における第4端子OUT4に印加される電圧の大きさを示す。
【0082】
まず、
図10(A)を参照して、誘起電圧検出ができた場合について説明する。
日車46の内歯48は日回し車44と噛み合っている。そのため、機械的な負荷は小さく、日回し車44および日車46は安定して回転している(
図2参照)。
時刻t31において、制御回路105は、“OUT4”を制御することにより、2コイルモータに揺動パルスを印加する。制御回路105は、揺動パルスの印加によりロータ112が受ける機械的負荷を判定する。
【0083】
カレンダ駆動部105Cは、“OUT4”に発生する誘起電圧を検出する。モータ回転検出部105Dは、カレンダ駆動部105Cが検出した電圧に基づいて、ロータ112が受ける機械的負荷を判定する。モータ回転検出部105Dは、誘起電圧が閾値TH以上であるため、正常に誘起電圧が検出できたと判定し、ロータ112は回転している状態と認識する。
【0084】
次に、
図10(B)を参照して、誘起電圧検出ができなかった場合について説明する。
時刻t41において、制御回路105は、“OUT4”を制御することにより、2コイルモータに揺動パルスを印加する。制御回路105は、揺動パルスの印加によりロータ112が受ける機械的負荷を判定する。
日回し車44の歯部45は、規制内歯48Aに未噛合状態で係止すると(
図3参照)、カレンダ駆動部105Cは、“OUT4”に発生する誘起電圧を検出する。モータ回転検出部105Dは、誘起電圧が閾値TH以下であるため、正常に誘起電圧が検出できなかったと判定する。制御回路105は、ロータ112は非回転であると認識し、日車46の基準位置を特定する。
【0085】
制御回路105は、日車46が基準位置に達したことが確認された時点で、日車46を第2の回転方向K2(反時計回り方向)に回転させ、日車46を初期位置(日窓5aに「1」が表示される位置)に戻すことができる(
図2参照)。
【0086】
本実施形態のカレンダ機構40は、日車46の内歯48のうち一つが、日回し車44との噛み合いを規制する規制内歯48Aであるため、日回し車44が規制内歯48Aに達したときに日車46の回転を規制することができる。カレンダ機構40は、日車46が基準位置に達したことを確認するための構造が簡略であるため、フォトセンサ機構などにより日車の位置を検出する構造に比べ、省スペース化を図ることができる。
【0087】
カレンダ機構40は、日車46の構造(規制内歯48A)を利用して日車46の位置を検出できるため、フォトセンサ機構などにより日車の位置を検出する構造に比べ、検出結果の演算処理等を少なくできる。よって、制御回路105における演算処理を簡略にできるという利点がある。
【0088】
規制内歯48Aは、日回し車44の歯部45が係止する係止凹部48eを有するため、歯部45を規制内歯48Aに対して安定して係止させることができる。そのため、日車46の基準位置を検出しやすくなる。
【0089】
日車46は、情報として日文字47を表示するため、ムーブメント4にカレンダとしての機能を与えることができる。
【0090】
規制内歯48Aは、複数の日文字47のうち並び方向の最後にある日文字「31」に対応する位置に形成されているため、カレンダの月末修正を行ううえで好適である。
【0091】
カレンダモータ20は2コイルモータであるため、日車46を安定的に両方向に回転(正逆回転)させることができる。そのため、日回し車44が規制内歯48Aに達した状態におけるデッドロック(駆動できない状態)は起こりにくい。よって、ムーブメント4の動作安定性を高めることができる。
【0092】
日車46には、複数の日文字47のうち「1」と、「31」との間に、空白50が形成されている(
図2参照)。日車46が基準位置に達したときに日窓5aの一部が空白50を表示するため、ユーザは、日車46が基準位置に達したことを目視により容易に確認できる。このように、カレンダ機構40は、日車46が位置検出状態にあることを視覚的に表現できる。
【0093】
ムーブメント4は、カレンダ機構40を備えるため、日車46が基準位置に達したことを確認するための構造が簡略である。よって、フォトセンサ機構などにより日車の位置を検出する構造に比べ、省スペース化を図ることができる。
【0094】
時計1(
図1参照)は、ムーブメント4を備えるため、日車46が基準位置に達したことを確認するための構造が簡略である。よって、フォトセンサ機構などにより日車の位置を検出する構造に比べ、省スペース化を図ることができる。
【0095】
[第2実施形態]
図11および
図12は、第2実施形態に係るムーブメントの平面図である。
図11に示すように、第2実施形態に係るムーブメント4Aにおいて、規制内歯48Aは、複数の日文字47のうち「1」に対応する位置に形成されている。
図12に示すように、規制内歯48Aは、日窓5aにおける「1」の表示からややずれた位置(日車46の基準位置)において、日回し車44が噛み合い規制状態となるように形成されている。
【0096】
[第3実施形態]
図13および
図14は、第3実施形態に係るムーブメントの平面図である。
図13に示すように、第3実施形態に係るムーブメント4Bは、空白50に代えて、日文字47として「0」が形成されている点で、第1実施形態のムーブメント4(
図2参照)と異なる。
図14に示すように、規制内歯48Aは、日窓5aにおいて「0」が表示された位置(日車46の基準位置)において、日回し車44が噛み合い規制状態となるように形成されている。
【0097】
ムーブメント4Bでは、日車46が基準位置に達したときに日窓5aが「0」を表示するため、ユーザは、日車46が基準位置に達したことを目視により容易に確認できる。よって、日車46が位置検出状態にあることを違和感なく表現できる。
【0098】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、
図2に示すムーブメント4では、表示車は、日文字47を表示する日車46であるが、表示車が表示する情報は日文字に限らない。情報として曜日を表示する曜車を表示車として適用してもよいし、それ以外の各種の情報を表示する表示車であってもよい。表示車が表示する情報は、温度(例えば、体温)、高度、活動量(アクティビティ)などでもよい。
【0099】
実施形態では、機械式の時計を例に挙げて説明したが、前述の構成は、例えば、クオーツ式の時計に適用してもよい。この場合には、例えば、ステップモータの駆動力を利用して各車を回転させることができる。
実施形態では、規制内歯48Aの数は1つであるが、規制内歯の数は特に限定されない。規制内歯の数は複数(2以上の任意の数)であってもよい。
規制凸部は、回し車との噛み合いを規制できればよく、内歯としての機能の有無に制約はない。
【符号の説明】
【0100】
1…時計
4,4A,4B…ムーブメント(時計用ムーブメント)
20…カレンダモータ(駆動部)
40…カレンダ機構(情報表示機構)
44…日回し車(回し車)
45…歯部
46…日車(表示車)
47…日文字(情報)
48,48B…内歯
48A…規制内歯(規制凸部)
48e…係止凹部