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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078911
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20240604BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01L23/30 B
H01L23/30 D
C08G59/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191526
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 英紀
(72)【発明者】
【氏名】村田 尚義
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 隆之
【テーマコード(参考)】
4J036
4M109
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036DB15
4J036FA05
4J036JA07
4M109AA02
4M109BA03
4M109EA02
4M109EB02
4M109EB04
4M109EB07
4M109EB08
4M109EB11
4M109EB13
4M109EB19
4M109ED03
(57)【要約】
【課題】 金属部材と封止材との間の剥離を抑制可能な、信頼性の高い半導体装置。
【解決手段】積層基板上に実装された半導体素子と、導電性接続部材と、前記半導体素子及び導電性接続部材を封止する封止材とを備える半導体装置であって、前記封止材が、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材を含む吸放湿性封止層を備える、半導体装置。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層基板上に実装された半導体素子と、
導電性接続部材と、
前記半導体素子及び導電性接続部材を封止する封止材と
を備える半導体装置であって、
前記封止材が、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材を含む吸放湿性封止層を備える、半導体装置。
【請求項2】
前記封止材が、前記半導体素子及び導電性接続部材を被覆する第1封止部と、前記第1封止部を被覆する第2封止部とを含み、
前記第2封止部が、熱硬化性樹脂と前記メソポーラス無機充填材とを含む吸放湿性封止層である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記封止材が、前記半導体素子及び導電性接続部材を被覆する第1封止部と、前記第1封止部を被覆する第2封止部と、前記第2封止部を被覆する第3封止部とを含み、
前記第2封止部が、前記メソポーラス無機充填材から実質的になる吸放湿性封止層である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記メソポーラス無機充填材が、平均細孔径が4~20nmのメソポーラスシリカである、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1封止部が、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、及び非多孔質性無機充填材を含む、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1封止部及び第3封止部が、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、及び非多孔質性無機充填材を含む、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記積層基板、半導体素子及び導電性接続部材の表面に、プライマー層を備える、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を組み立てる工程と、
前記積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を第1封止部で被覆する工程と、
前記第1封止部上に、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材と熱硬化性樹脂とを含む吸放湿性封止層から構成される第2封止部を形成する工程と
を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項9】
積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を組み立てる工程と、
前記積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を第1封止部で被覆する工程と、
前記第1封止部上に、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材からなる吸放湿性封止層から構成される第2封止部を形成する工程と、
前記第2封止部を、第3封止部で被覆する工程と
を含む、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関する。本発明は、特には、封止材と金属部材との密着性を損なうことなく、吸放湿特性を向上させ、パッケージ内への水分浸入を防止した、信頼性の高い半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールは、効率的な電力変換が求められる分野に広く適用されている。例えば、産業機器、電気自動車、家電製品などのパワーエレクトロニクス分野に適用領域が拡大している。これらのパワー半導体モジュールには、スイッチング素子とダイオードが内蔵されており、素子にはSi(シリコン)半導体やSiC(シリコンカーバイド)半導体が用いられている。
【0003】
パワー半導体モジュールは、半導体素子からなるチップ並びにチップに接続されるリードフレームなどの導電性接続部材を絶縁性の封止材により封止することにより製造する。
封止材として熱硬化性樹脂を用いる場合には、半導体装置を構成する金属部材と熱硬化性樹脂の密着性が、半導体装置の信頼性に大きく影響する。熱硬化性樹脂が雰囲気中の水分を吸収し、水分が金属部材と熱硬化性樹脂の接触界面に入り込むと、金属部材と熱硬化性樹脂の密着力が低下する場合があった。このため、密着力が低下した箇所において、熱硬化性樹脂の剥離が生じ、絶縁破壊の起点となって、耐圧の低下を招くことが懸念される。
【0004】
封止材の表面にバリア層を設けて、水分及びガスが積層基板に到達することを防止する半導体装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この半導体装置では、バリア層の材料として、セラミックス材料またはガラス材料が使用されている。
【0005】
シリカアルミナゲルを含有する材料を使用し、防湿及び吸湿機能を有する半導体装置が知られている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2に開示された半導体装置では、シリカアルミナゲルは封止層に混合しても、表面にシート状に形成してもよいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2019/239615
【特許文献2】特開2008-91739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術に開示された方法では、特定の材料を封止材に混合し、あるいはバリア層を設けて、水分の吸収を防止している。しかし、金属部材に接触する樹脂の組成を変更すると、密着力等その他の特性まで変化し、製品の仕様の観点から、不都合が生じる場合があった。金属部材と熱硬化性樹脂の密着性を劣化させることなく、封止材への水分の吸収を制御することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、吸湿性のみならず、放湿性を備える材料を検討した。そして、この材料を含む吸放湿層を封止材の一部に備えることにより、封止材への水分の吸収に伴う信頼性低下を防止可能であることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、半導体装置であって、積層基板上に実装された半導体素子と、導電性接続部材と、前記半導体素子及び導電性接続部材を封止する封止材とを備える半導体装置であって、前記封止材が、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材を含む吸放湿性封止層を備える、半導体装置に関する。
【0010】
前記半導体装置において、前記封止材が、前記半導体素子及び導電性接続部材を被覆する第1封止部と、前記第1封止部を被覆する第2封止部とを含み、前記第2封止部が、熱硬化性樹脂と前記メソポーラス無機充填材とを含む吸放湿性封止層であることが好ましい。
【0011】
前記半導体装置において、前記封止材が、前記半導体素子及び導電性接続部材を被覆する第1封止部と、前記第1封止部を被覆する第2封止部と、前記第2封止部を被覆する第3封止部とを含み、前記第2封止部が、前記メソポーラス無機充填材から実質的になる吸放湿性封止層であることが好ましい。
【0012】
前記半導体装置において、前記メソポーラス無機充填材が、平均細孔径が4~20nmのメソポーラスシリカであることが好ましい。
【0013】
前記第1封止部と第2封止部を含む半導体装置において、前記第1封止部が、エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤を含むことが好ましい。
【0014】
前記第1封止部と第2封止部と第3封止部を含む半導体装置において、前記第1封止部及び第3封止部が、エポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤を含むことが好ましい。
【0015】
前記半導体装置において、前記積層基板、半導体素子及び導電性接続部材の表面に、プライマー層を備えることが好ましい。
【0016】
本発明は別の実施形態によれば、半導体装置の製造方法であって、積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を組み立てる工程と、前記積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を第1封止部で被覆する工程と、前記第1封止部上に、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材と熱硬化性樹脂とを含む吸放湿性封止層から構成される第2封止部を形成する工程とを含む方法に関する。
【0017】
本発明はまた別の実施形態によれば、半導体装置の製造方法であって、積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を組み立てる工程と、前記積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を第1封止部で被覆する工程と、前記第1封止部上に、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材からなる吸放湿性封止層から構成される第2封止部を形成する工程と、前記第2封止部を、第3封止部で被覆する工程とを含む方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、封止材への水分の浸入を防止し、金属部材と封止材間の剥離を抑制して、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。特に、本発明に係る吸放湿層は、雰囲気中の水分を吸収するだけでなく、放出する作用も備えている。このため、単に水分を遮断する、あるいは、吸収したまま放出しない材料と比較して、湿度変化が存在する現実の大気環境下において、高湿度時に吸収した水分を低湿度時に放出することで長期間封止材への水分の侵入を防止する効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る半導体装置の構造を示す概念的な断面図である。
図2図2は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置の構造を示す概念的な断面図である。
図3図3は、実施例1~5で用いたメソポーラスシリカの孔径分布を示すグラフである。
図4図4は、実施例1~5で用いたメソポーラスシリカの吸放湿特性を示すグラフである。
図5図5は、実施例1、及び比較例2、4で用いたメソポーラスシリカの孔径分布を比較するグラフである。
図6図6は、比較例3で用いたメソポーラスシリカの孔径分布を比較するグラフである。
図7図7は、実施例1、及び比較例2、3、4で用いたメソポーラスシリカの吸放湿特性を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0021】
本発明は一実施形態によれば、半導体装置に関する。本実施形態による半導体装置は、積層基板上に実装された半導体素子と、導電性接続部材と、前記半導体素子及び導電性接続部材を封止する封止材とを備え、前記封止材が、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材を含む吸放湿性封止層を備える。
【0022】
吸放湿性封止層は、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材を含む樹脂層であるか、または、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材から実質的に構成される。
【0023】
メソポーラス材とは、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)により定められた2~50nmの平均細孔径をもつ材料であってよい。本発明において、無機充填剤として用いられる好ましいメソポーラス材(メソポーラス無機充填材)の平均細孔径は、4~20nmであってよく、4~10nmであることがさらに好ましい。本発明に係る平均細孔径とは、細孔を円筒形と仮定して、ガス吸着法で求めた全細孔容積(V)と比表面積(A)を用いて、4V/Aの値により算出したものである。メソポーラス材の細孔径は、ガス吸着法により測定した値である。また、半値幅とは、半値全幅(FWHM:full width at half maximum)であって、細孔径分布のグラフにいて、極大値の50%の幅をいうものとする。細孔径分布の半値幅が1.5nm以下である必要があり、0.4~1.2nmであることが好ましい。この範囲の半値幅をもつメソポーラス材は、水分の吸放湿性に優れるためである。なお、メソポーラス材は、有機界面活性剤等が自己組織化した分子集合体を鋳型として、その周囲で無機種を縮合させたのち、鋳型を焼成や溶媒抽出で除去することで製造することができる。細孔の形状やサイズは鋳型によって決まり、使用する界面活性剤は円筒状に自己組織化する場合が多い。そのため細孔は、一般的に規則的な円筒または円筒が結びつき連結した形態となる。
【0024】
メソポーラス材の細孔の構造は、細孔径分布の半値幅が所定の値を満たしていれば、ヘキサゴナル相、キュービック相、またはラメラ相であってもよく、特には限定されない。ヘキサゴナル相とは、円筒状の細孔が六角柱を作るように配列した相である。キュービック相とは、円筒状の細孔が3次元的に連結した相である。ラメラ相とは層状に複数の細孔が並んだ相である。
【0025】
メソポーラス無機充填材を構成する化合物は、絶縁性をもつものであれば特には限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、または、ニオブ、タンタル、チタン、ジルコニウム、セリウム、もしくはスズの酸化物であってもよい。吸放湿特性は、これらの酸化物であれば、金属の種類によらずほぼ同等である。
【0026】
メソポーラス材の平均粒子径は特には限定されないが、例えば、1~200μmであってよく、10~100μmであることが好ましい。平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値の50%での粒径、すなわちメディアン径(D50)とすることができる。また、粒子の形状は、球状であってもよく、棒状や平板状であってもよく、特には限定されない。
【0027】
吸放湿性封止層は、上記の条件を満たす所定のメソポーラス無機充填材を含み、層状に構成されて封止材の一部をなす。特には吸放湿性封止層が、外部からの水分から、半導体装置を構成する金属部材を保護する形態で配置されることが好ましい。以下、吸放湿性封止層の態様が異なる第1実施形態、及び第2実施形態に分類して本発明をさらに詳細に説明する。
【0028】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る半導体装置の一例である、パワー半導体モジュールの概念的な断面図である。図示するパワー半導体モジュールは、放熱板13上に半導体素子11及び積層基板12を、接合層17にて接合した積層構造を有する。放熱板13には、外部端子15を内蔵したケース16が接着されている。半導体素子11と積層基板12の電極は、導電性接続部材であるリードフレーム18で接続されている。また、半導体素子11と外部端子15はアルミワイヤ14にて接続されている。ケース16と放熱板13とで構成される空間には、半導体素子11と積層基板12、リードフレーム18、導電性接続部材であるアルミワイヤ14に接触して、これらを被覆する第1封止部20が充填されている。そして、第1封止部20を被覆する第2封止部21が設けられ、第2封止部21が吸放湿性封止層を構成する。
【0029】
半導体素子11は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)あるいはダイオードチップ等のパワーチップであり、Siデバイスであってもよく、SiCデバイス、GaNデバイス、ダイヤモンドデバイス、ZnOデバイスなどのワイドギャップ半導体デバイスであってもよい。また、これらのデバイスを組み合わせて用いてもよい。例えば、Si-IGBTとSiC-SBDを用いたハイブリッドモジュールなどを用いることができる。半導体素子の搭載数は、1つであってもよく、複数搭載することもできる。
【0030】
積層基板12は、絶縁基板122とその一方の主面に形成される第1導電性板121と、他方の主面に形成される第2導電性板123a、123bとから構成することができる。絶縁基板122としては、電気絶縁性、熱伝導性に優れた材料を用いることができる。絶縁基板122の材料としては、例えば、Al、AlN、SiNなどが挙げられる。特に高耐圧用途では、電気絶縁性と熱伝導率を両立した材料が好ましく、AlN、SiNを用いることができるが、これらには限定されない。第1導電性板121、第2導電性板123a、123bとしては、加工性に優れるCu、Alなどの金属材料を用いることができる。また、導電性板は、防錆などの目的で、Niめっきなどの処理を行ったCu、Alであってもよい。絶縁基板122上に導電性板121、123a、123bを配設する方法としては、直接接合法(Direct Copper Bonding法)もしくは、ろう材接合法(Active Metal Brazing法)が挙げられる。図示する実施形態においては、絶縁基板122上に、非連続的に2つの第2導電性板123a、123bが設けられ、一方の第2導電性板123aが、半導体素子11と接合される電極、他方の第2導電性板123bがリードフレーム18と接続される電極として機能する。
【0031】
リードフレーム18は、半導体素子11と第2導電性板123b等とを接続する導電性接続部材である。具体的には、半導体素子11の電極のうち、積層基板12に接する電極(裏面電極)とは逆側の電極(おもて面電極)に、はんだ材などの接合層17で接合される。また、リードフレーム18は、第2導電性板123b等の配線部ともはんだ材などの接合層17で接合される。リードフレーム18は、銅、または銅を含む合金などの金属であってよい。リードフレーム18の表面にはめっき法などにより、NiまたはNi合金層、あるいはCrまたはCr合金層を形成してもよい。この場合、NiまたはNi合金層、あるいはCrまたはCr合金層の膜厚は20μm以下程度とすることができる。なお、リードフレームは取り出し端子(不図示)に接続されてもよい。なお、これらの導電性接続部材は任意選択的に用いられ、アルミニウム等のワイヤでもよい。
【0032】
放熱板13としては、熱伝導性に優れた銅やアルミニウムなどの金属が用いられる。また、腐食防止のために、放熱板13にNiまたはNi合金を被覆することもできる。放熱板は、水冷や空冷などの機能を有する冷却器であってもよい。積層基板12にケース16が取り付けられ、放熱板13がケース16には取り付けられていない態様の半導体装置もありうる。
【0033】
接合層17は、鉛フリーはんだを用いて形成することができる。例えば、Sn-Ag-Cu系、Sn-Sb系、Sn-Sb-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb-Ag-Cu系、Sn-Cu-Ni系、Sn-Ag系などを用いることができるが、これらには限定されない。あるいは、ナノ銀粒子の焼結体などの微小金属粒子を含む接続材を用いて接合層を形成することもできる。
【0034】
ケース16は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)またはポリブチレンテレフタレート(PBT)からなるケース材であってよい。
【0035】
半導体素子11、積層基板12、及び導電性接続部材であるアルミワイヤ14及びリードフレーム18等の第1封止部20と接触する部材の表面に、プライマー層を設けることもできる。プライマー層は、ポリアミド、ポリイミド、及び/またはポリアミドイミドを含む熱可塑性樹脂から構成される、1~20μm程度の層であってよい。
【0036】
第1封止部20は、熱硬化性樹脂主剤と、無機充填材とを含み、任意選択的に硬化剤、硬化促進剤、添加剤を含んでもよい熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる熱硬化性樹脂硬化物であってよい。
【0037】
熱硬化性樹脂主剤としては、特に限定されず、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、オキサジン樹脂等を挙げることができる。中でも、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が、寸法安定性や耐水性・耐薬品性及び電気絶縁性が高いことから、特に好ましい。具体的には、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂またはこれらの混合物を用いることが好ましい。なお、封止樹脂としては、耐熱性、高絶縁性を要件とするため熱硬化性樹脂が好ましく、特にエポキシ樹脂は高弾性であり好ましい。
【0038】
脂肪族エポキシ樹脂とは、エポキシ基が直接結合する炭素が、脂肪族炭化水素を構成する炭素であるエポキシ化合物をいうものとする。したがって、主骨格に芳香環が含まれている化合物であっても、上記条件を満たすものは、脂肪族エポキシ樹脂に分類される。脂肪族エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、3官能以上の多官能型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。これらを単独で、または2種類以上混合して使用することができる。また、ナフタレン型エポキシ樹脂や3官能以上の多官能型エポキシ樹脂はガラス転移温度が高いため、高耐熱性エポキシ樹脂とも指称する。これらの高耐熱性エポキシ樹脂を含むことで耐熱性を向上させることができる。
【0039】
脂環式エポキシ樹脂とは、エポキシ基を構成する2つの炭素原子が、脂環式化合物を構成するエポキシ化合物をいうものとする。脂環式エポキシ樹脂としては、単官能型エポキシ樹脂、2官能型エポキシ樹脂、3官能以上の多官能型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。脂環式エポキシ樹脂も、単独で、または異なる2種以上の脂環式エポキシ樹脂を混合して用いることができる。なお、脂環式エポキシ樹脂を酸無水物硬化剤と混合して硬化すると、ガラス転移温度が高くなるため、脂肪族エポキシ樹脂に脂環式エポキシ樹脂を混合して用いると高耐熱化を図ることができる。
【0040】
第1封止部20に用いる熱硬化性樹脂主剤は、上記の脂肪族エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂とを混合したものであってもよい。混合する場合の混合比は任意であってよく、脂肪族エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂との質量比が、2:8~8:2程度であってよいが、3:7~7:3程度であってもよく、特定の質量比には限定されない。好ましい態様においては、第1封止部20に用いる熱硬化性樹脂主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂との質量比が、1:1~1:4の混合物である。
【0041】
無機充填材は、金属酸化物もしくは金属窒化物であってよく、例えば、シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ、水酸化アルミニウム、チタニア、ジルコニア、窒化アルミニウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維等が挙げられるが、これらには限定されない。これらの金属酸化物、金属窒化物は、一般的には多孔質体ではない(非多孔質性の)物質であって、放湿特性が実質的にない物質が用いられる。半導体素子の近傍にある無機充填剤が放湿することにより、素子の劣化のおそれがあるためである。例えば、金属酸化物としては、半導体装置の封止材用の溶融シリカや、結晶性シリカ(破砕シリカ)を用いることができる。したがって、第1封止部20に含まれる無機充填材の少なくとも50質量%、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上がメソポーラス無機充填材でないことが好ましく、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材ではないことが好ましい。最も好ましくは、第1封止部20に含まれる無機充填材には、メソポーラス無機充填材を含まず、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材を含まない。これらの無機充填材により、第1封止部20において、主に熱膨張率を低減することができ、また、熱伝導率を高めることができる。これらの無機充填材は、単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。また、無機充填材は、マイクロフィラーであってもよく、ナノフィラーであってもよく、粒径及び/または種類が異なる2種以上の無機充填材を混合して用いることもできる。特には、平均粒径が、0.2~20μm程度の無機充填材を用いることが好ましい。第1封止部20における無機充填材の添加量は、熱硬化性樹脂主剤と任意選択的に含まれ得る硬化剤との総質量を100質量部としたとき、100~600質量部であることが好ましく、200~400質量部であることがさらに好ましい。無機充填材の配合量が100質量部未満であると第1封止部20の熱膨張係数が高くなって剥離やクラックが生じ易くなる場合がある。配合量が600質量部よりも多いと組成物の粘度が増加して押出し成形性が悪くなる場合がある。
【0042】
第1封止部20を構成する熱硬化性樹脂組成物には、任意選択的な成分として、硬化剤を含んでもよい。硬化剤としては、熱硬化性樹脂主剤、好ましくはエポキシ樹脂主剤と反応し、硬化しうるものであれば特に限定されないが、酸無水物系硬化剤を用いることが好ましい。酸無水物系硬化剤としては、例えば芳香族酸無水物、具体的には無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。あるいは、環状脂肪族酸無水物、具体的にはテトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸等、もしくは脂肪族酸無水物、具体的には無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等を挙げることができる。硬化剤の配合量は、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)主剤100質量部に対し、50質量部以上であって170質量部以下程度とすることが好ましく、80質量部以上であって150質量部以下程度とすることがより好ましい。硬化剤の配合量が50質量部未満であると架橋不足からガラス転移温度が低下する場合があり、170質量部より多くなると耐湿性、高熱変形温度、耐熱安定性の低下を伴う場合がある。なお、熱硬化性樹脂主剤として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を単独で、またはビスフェノールA型エポキシ樹脂と先に例示した高耐熱性エポキシ樹脂との混合物を用いる場合は、硬化剤を用いないほうが、耐熱性が向上するため好ましい場合がある。高耐熱性エポキシ樹脂の配合比は、例えば、熱硬化性樹脂主剤の総質量を100%とした場合に、10質量%以上であって50質量%以下であってよく、より好ましくは10%以上であって25質量%以下である。この範囲であれば、耐熱性も向上し、また増粘することもないため好ましい。
【0043】
第1封止部20を構成する熱硬化性樹脂組成物には、さらに、任意選択的な成分として、硬化促進剤を添加することができる。硬化促進剤としては、イミダゾールもしくはその誘導体、三級アミン、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、有機酸金属塩等を適宜配合することができる。硬化促進剤の添加量は、熱硬化性樹脂主剤100質量部に対して、0.01質量部以上であって50質量部以下とすることが好ましく、0.1質量部以上であって20質量部以下とすることがより好ましい。
【0044】
第1封止部20を構成する熱硬化性樹脂組成物はまた、その特性を阻害しない範囲で、任意選択的な添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、難燃剤、樹脂を着色するための顔料、耐クラック性を向上するための可塑剤やシリコンエラストマーが挙げられるが、これらには限定されない。これらの任意成分、及びその添加量は、半導体装置及び/または封止材に要求される仕様に応じて、当業者が適宜決定することができる。
【0045】
第1封止部20は、上記に例示した組成を備える一種類の樹脂からなる一層構成であってもよく、二層以上を含む構成であってもよい。第1封止部20は、半導体素子、積層基板、導電性接続部材、及び任意選択的に他の部材に接触するか、プライマー層を介してこれらの部材に隣接し、これらを被覆して絶縁封止する態様で設けられる。
【0046】
第2封止部21は、吸放湿性封止層を構成する。第1実施形態による吸放湿性封止層は、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材と、熱硬化性樹脂主剤とを含み、任意選択的に、熱硬化性樹脂の硬化剤と、硬化促進剤と、添加剤とを含んでいてもよい。第2封止部21に含まれる熱硬化性樹脂主剤及び硬化剤は、第1封止部20に含まれる熱硬化性樹脂主剤及び硬化剤と同一であることが好ましい。第1封止部20と第2封止部21との間での剥離を防止するためである。しかし、線膨張係数の値が近い異なる種類の熱硬化性樹脂主剤を用いることも可能である。吸放湿性封止層において、メソポーラス無機充填材は、熱硬化性樹脂主剤の質量、または熱硬化性樹脂主剤と、任意選択的に含んでもよい硬化剤及び/または硬化促進剤の総質量を100質量部とした場合に、100質量部から1500質量部とすることが好ましく、250質量部から900質量部とすることがさらに好ましい。また、熱硬化性樹脂への分散性を向上し、かつ表面積を大きくして吸放湿性を向上させるため、メソポーラス無機充填材の粒径範囲は10~100μmとすることが好ましい。
【0047】
第2封止部21は、第1封止部20を被覆して、封止材の外表面に設けることが好ましい。外表面から封止材の内部に浸入する水分を吸収し、放出するためである。第2封止部21の厚さは、特には限定されないが、例えば、0.5から2mmとすることが好ましく、1から1.5mmとすることがより好ましい。ここでいう厚さは、硬化後の厚さである。また、第2封止部21は、半導体素子、積層基板、及び導電性接続部材に接触しないことが好ましい場合がある。これらの部材の表面にプライマー層を形成する場合には、第2封止部21は、プライマー層に接触しないことが好ましい場合がある。
【0048】
図示する実施形態では、第2封止部21は、第1封止部20の表面全体を覆っているが、第2封止部21が、第1封止部20の一部を被覆し、第1封止部20の一部は大気に接触して露出している状態であってもよい。また、図示する実施形態では、第2封止部21は、厚さが概ね均一であるが、場所により厚さが異なっていてもよい。また、第2封止部21が組成の異なる2種以上の吸放湿性封止層から構成される、二層以上を含んでいてもよい。さらに、第2封止部21(吸放湿性封止層)をさらに被覆する任意の第3封止部を設けてもよく、第2封止部21が外表面に存在しない実施形態もありうる。
【0049】
なお、本発明の説明のために、特定のモジュールの断面構造を図1に示して第1実施形態による半導体装置を説明したが、積層基板、半導体素子、導電性接続部材、及び外部端子の構成は、図示する形態には限定されない。例えば、導電性接続部材は、任意選択的に用いられ、リードフレーム、ワイヤ、インプラントピンのいずれか1つのみであってもよく、これらのうち、2以上を備えていてもよい。また、例えば、インプラントピンにより半導体素子のおもて面電極に接続されたプリント基板をさらに備え、当該プリント基板を絶縁封止することもできる。また、ケースを備えず、半導体素子の主面に垂直な面である4つの側面においても封止材が露出した形態の半導体装置であってもよい。この場合、露出して大気に接触しうる面には第2封止部が設けられることが好ましく、第1封止部は大気から遮断された態様であることが好ましい。
【0050】
次に第1実施形態に係る半導体装置を、製造方法の観点から説明する。半導体装置の製造方法は以下の工程を含む。
(1)積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を組み立てる工程
(2)前記積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を第1封止部で被覆する工程
(3)前記第1封止部上に、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材と熱硬化性樹脂とを含む吸放湿性封止層からなる第2封止部を形成する工程
【0051】
(1)配置・組み立て工程
第1工程では、半導体装置を構成する各部材を組み立てる。放熱板13、積層基板12、及びに半導体素子11を通常の方法にて接合し、次いで、放熱板13にケース16を樹脂等を用いて取り付け、固定する。その後、リードフレーム18の接合、並びにアルミワイヤ14によるワイヤボンディングを行う。半導体装置の構成により、任意選択的に、インプラントピン及びプリント基板の接合を行うこともできる。また、半導体素子、積層基板、及び導電性接続部材の表面に、プライマー層を形成する工程を行うこともできる。
【0052】
(2)第1封止部による封止工程
第2工程では、通常の方法に従って、組み立てた部材を絶縁封止する。具体的には、ケース16内に、第1封止部20を構成する熱硬化性樹脂組成物を注入し、半硬化状態となるように加熱硬化することが好ましい。熱硬化性樹脂主剤としてエポキシ樹脂を用いる場合には、90~120℃で1~2時間加熱することで、半硬化状態とすることができる。また、任意選択的に、第1封止部が、二層以上からなる半導体装置においては、通常の方法に従って、適宜、二層以上の封止層を形成することができる。ケースレスの半導体装置においては、第1工程で組み立てた部材を金型に配置し、金型内に樹脂を注入して加熱することができる。
【0053】
(3)第2封止部による封止工程
第3工程では、第2工程で形成され、半硬化状態とした第1封止部20を被覆するように吸放湿性封止層からなる第2封止部21を形成する。第2封止部21の形成法は特には限定されないが、例えば、図示する構造の半導体装置であれば、ディスペンサにより、第1封止部20上に吸放湿性封止層を構成する樹脂組成物を塗布することにより、第2封止部21を形成することができる。図示はしないが、ケースレスの半導体装置においては、ディスペンサにより、第1封止部20が露出している面を覆うように吸放湿性封止層を構成する樹脂組成物を塗布することもできるし、第2工程で形成された半硬化体を吸放湿性封止層を構成する樹脂組成物に浸漬することもできる。
【0054】
吸放湿性封止層を形成した後、さらに本硬化工程を実施することができる。例えば、樹脂組成物がエポキシ樹脂組成物である場合、175~185℃で1~2時間にわたり加熱を実施することができる。しかし、特定の温度、時間には限定されず、二段階硬化とする必要がない場合もある。なお、第1封止部を175~185℃で1~2時間にわたり加熱を実施して本硬化させてから、吸放湿性封止層を形成してもよい。
【0055】
本発明の第1実施形態によれば、表面に吸放湿性封止層が露出していることで、半導体装置の使用環境における湿度変化に対して速やかに吸放湿することが期待される。
【0056】
[第2実施形態]
図2は、第2実施形態に係る半導体装置の一例である、パワー半導体モジュールの概念的な断面図である。第2実施形態においても、半導体素子11、積層基板12、放熱板13、アルミワイヤ14、外部端子15、ケース16、リードフレーム18、及び第1封止部20の構成は第1実施形態と同様であってよい。第2実施形態においては、第1封止部20上に、第2封止部22が形成され、さらに第2封止部22上に第3封止部23が形成される。そして、第2封止部21が、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材から実質的になる吸放湿性封止層である。
【0057】
第2実施形態においては、第2封止部22を構成する吸放湿性封止層が、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などを含まず、所定のメソポーラス無機充填材のみから実質的に構成される。第2封止部22の厚さは、特には限定されないが、例えば、0.3から1.5mmとすることが好ましく、0.5から1.0mmとすることがより好ましい。
【0058】
第3封止部23は、熱硬化性樹脂主剤を含み、任意選択的に硬化剤、硬化促進剤、及び/または無機充填材を含んでもよい。無機充填材を含む場合には、第1封止部20に含まれる無機充填材と同様の選択肢から選択することもでき、第2封止部22に含まれる所定のメソポーラス無機充填材であってもよい。第3封止部23が無機充填材を含む場合、その含有量は、第1封止部20における無機充填材の含有量と同様の選択肢から選択することができる。第3封止部23に含まれる熱硬化性樹脂主剤及び任意選択的な硬化剤は、第1封止部20に含まれうる熱硬化性樹脂主剤及び硬化剤と同一であってもよく、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。第3封止部23の厚さは、特には限定されないが、例えば、0.5から1.5mmとすることが好ましく、0.5から1.0mmとすることがより好ましい。
【0059】
図2においては、第1封止部20、第2封止部22、及び第3封止部23が明確な境界線をもつ独立した層として模式的に記載されているが、実際には第2封止部22を構成するメソポーラス無機充填材の粒子間に、第3封止部23を構成する樹脂が一部入り込んだ状態で存在し、第3封止部23が第1封止部20の表面まで達する箇所もありうる。
【0060】
第2実施形態においても、第2封止部22が、第1封止部20の一部を被覆し、第1封止部20の一部は大気に接触して露出している状態であってもよい。また、図示する実施形態では、第2封止部22の厚さは、場所により異なっていてもよい。しかし、いずれの場合であっても、第3封止部23が第2封止部22を実質的に完全に被覆し、第2封止部22が露出する箇所が存在しないことが好ましい。粉体からなる吸放湿性封止層を第1封止部20に確実に固着し、剥離を避けるためである。第3封止部23を被覆するさらなる層を設けることも可能である。
【0061】
次に第2実施形態に係る半導体装置を、製造方法の観点から説明する。半導体装置の製造方法は以下の工程を含む。
(1)積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を組み立てる工程
(2)前記積層基板、半導体素子、及び導電性接続部材を第1封止部で被覆する工程
(3)前記第1封止部上に、細孔径分布の半値幅が1.5nm以下のメソポーラス無機充填材を積層し、第2封止部を形成する工程
(4)前記第2封止部を、第3封止部で被覆する工程
【0062】
(1)、(2)第2実施形態の第1工程、第2工程は、第1実施形態と同様の方法で実施することができる。
【0063】
(3)第2封止部による封止工程
第3工程では、第2工程で形成され、半硬化状態とした第1封止部20を被覆するように吸放湿性封止層からなる第2封止部22を形成する。第2封止部22の形成法は特には限定されない。例えば、溶剤にメソポーラス無機充填材を分散させて分散液を調製し、分散液を第1封止部20の表面に吹き付ける方法により実施することができる。溶剤は、第2封止部に影響を与えることがない揮発性溶剤を用いることができ、例えば、トルエン、キシレン、クロロホルム、エタノール、イソブチルアルコール、酢酸エチル、エチレンジアミン、ヘキサン、テトラクロロエタン、水等を用いることができるがこれらには限定されない。これにより、メソポーラス無機充填材からなる第2封止部22の層を、第1封止部上に形成することができる。図示はしないが、ケースレスの半導体装置においては、ディスペンサにより、第1封止部20が露出している面を覆うように分散液を噴霧することもできるし、第2工程で形成された半硬化体を分散液に浸漬することもできる。なお、第2工程では第1封止部を半硬化状態とした方が、第2封止部は均一に形成されるため好ましい。
【0064】
(4)第3封止部による封止工程
第2封止部22の吸放湿性封止層を十分に乾燥した後、第2封止部22を被覆するように第3封止部23を形成する。第3封止部23の形成方法は、第1実施形態による第2封止部の形成方法と同様であってよい。
【0065】
第3封止部23を形成した後、さらに本硬化工程を実施することができる。本硬化工程は、第1実施形態による本硬化工程と同様であってよい。
【0066】
本発明の第2実施形態によれば、第1実施形態と比較してもより高密度にメソポーラス無機充填剤を含有する層を形成することができる。また、第1封止部20に接してにメソポーラス無機充填材が多く存在するため、第1封止部20に到達した水分を吸い出す効果が高いことが期待される。
【実施例0067】
以下に、本発明の実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0068】
[参考例]多孔性無機充填材の検討
多孔性無機充填材として、メソポーラス材としてはメソポーラスシリカ、ミクロポーラス材としてはシリカを主成分とするゼオライト、マクロポーラス材としてはシリカを主成分とする軽石粉末、及びシリカゲルの粉末を用い、それらの細孔特性を評価し、吸放湿性能を検討した。なお、ミクロポーラス材とは、平均細孔径が2nm以下の多孔質体で、マクロポーラス材とは、平均細孔径が50nmより大きい多孔質体である。
【0069】
比較例3以外のメソポーラス無機充填材の孔径はガス吸着法により求めた。具体的な実験条件は、メソポーラス無機充填材を、200℃で2時間加熱し、真空脱気することにより前処理した。次いで、温度77Kにおいて、試料セルに吸着ガスとして窒素ガスを連続的に加えながら圧力測定を繰り返した。測定装置は、MicrotracBEL社製 BELSORP-maxを用いた。比較例3のメソポーラス無機充填材の孔径は、水銀圧入法により求めた。具体的な実験条件は、メソポーラス無機充填材を、2時間脱気することにより前処理した後、水銀ポロシメーター(島津製作所 Micromeritics製 オートポアIV9520)を用いて測定を行った。
【0070】
吸放湿特性の評価方法は、以下のようにして行った。粉末の初期重量W1を測定後、温度60℃、相対湿度80%の大気下に、粉末を12時間放置し、吸湿させて、粉末の吸湿後重量W2を測定した。次いで、温度60℃、相対湿度50%の大気下に、粉末を12時間放置し、放湿させて、粉末の放湿後重量W3を測定した。湿度制御装置としては、AHCU-2(キッツマイクロフィルター株式会社)を用い、重量測定装置としてはATX324R(島津製作所)を用いた。旧質量、及び放湿後吸湿量は、以下のようにして求めた。
吸湿量(wt%) =(W2-W1)/W1*100
放湿後吸湿量(wt%)=(W3-W1)/W1*100
【0071】
評価した多孔性無機充填材、及び得られた吸放湿特性を下記表1に示す。実施例1、3はヘキサゴナル相のメソポーラスシリカ、実施例2、4、5は、キュービック相のメソポーラスシリカ、比較例2はミクロポーラス材、比較例3はマクロポーラス材、比較例4はシリカゲル粉末を用いた。実施例1から5の材料は、いずれもACS Material社から購入した。
【0072】
【表1】
【0073】
図3は、実施例1~5で用いたメソポーラスシリカの孔径分布を示すグラフである。縦軸の微分細孔容量とは、積算細孔容量を孔径で微分した値を意味し、最大値を1として規格化した値を示した。図4は、実施例1~5で用いたメソポーラスシリカの吸放湿特性を示すグラフである。実施例1~5で用いたメソポーラスシリカはいずれも、半値幅が1nm以下であり、吸放湿性が高いことが確認された。図5は、実施例1、及び比較例2で用いたミクロポーラス材及び比較例4で用いたシリカゲルの孔径分布を比較するグラフである。図6は、比較例3で用いたマクロポーラス材の孔径分布を示すグラフである。図7は、実施例1、及び比較例2、3、4の吸放湿特性を比較するグラフである。比較例4で用いたシリカゲルは、吸湿量が実施例1のメソポーラスシリカの75%程度であり、約20%の水分が放出されずに残存した。比較例2で用いたミクロポーラス材は、吸湿量が実施例1のメソポーラスシリカの20%程度であり、ほとんど放出されなかった。比較例3で用いたマクロポーラス材の吸湿量は2%以下であった。
【0074】
[実施例]
図1または図2に示すパワー半導体モジュールを製造し、吸放湿試験を行った後、信頼性試験を行った。
【0075】
実施例1~5では、図1のパワー半導体モジュールを製造した。第1封止部は、エポキシ樹脂硬化物とし、具体的な組成は以下のとおりとした。エポキシ樹脂主剤としては、エポキシ樹脂ME-276(ペルノックス(株)社製)を用い、酸無水物系硬化剤として、MV-138(ペルノックス(株)社製)をエポキシ樹脂主剤100質量部に対して、121質量部添加した。無機充填材は、平均粒子径が10μmの繊維状シリカ(日本電気硝子社製)を用い、エポキシ樹脂の主剤と硬化剤の総質量を100質量部とした場合に、270質量部添加した。第2封止部(吸放湿性封止層)は、エポキシ樹脂主剤と硬化剤との総質量を100質量部としたとき、メソポーラス無機充填材を300質量部添加し、1mmの厚さ(硬化後の厚さ)となるように形成した。使用したエポキシ樹脂主剤と硬化剤の種類及びこれらの添加量比は、第1封止部と同様とした。実施例1~5のメソポーラス無機充填材は、表1のとおりとした。第1封止部、第2封止部(吸放湿性封止層)の形成と硬化の条件は、第1封止部を100℃で半硬化させたのち、第2封止部を180℃で硬化させた。
【0076】
実施例6では、図2のパワー半導体モジュールを製造した。第1封止部は、図1のパワー半導体モジュールの第1封止部と同様に製造した。第2封止部(吸放湿性封止層)は、実施例1と同じメソポーラスシリカを、溶媒(トルエン)に分散させて、半硬化させた状態の第1封止部に噴霧し、乾燥することにより、厚さが1mm程度の粉末層を形成した。乾燥後に、吸放湿性封止層上、約0.5mmの厚さ(硬化後の厚さ)の第3封止部を形成した。第3封止部は、第1封止部と同じ熱硬化性樹脂及び硬化剤からなり、無機充填材を含まない組成とし、硬化条件は、180℃とした。
【0077】
比較例1では、封止材が第1封止部のみからなり、吸放湿性封止層を備えない以外は、実施例1から5と同様にしてパワー半導体モジュールを製造した。比較例2~4では、吸放湿性封止層に含めるメソポーラス無機充填材として、表1の比較例2~4のメソポーラス無機充填材を使用した以外は、実施例1から5と同様にしてパワー半導体モジュールを製造した。
【0078】
パワー半導体モジュールの完成後、吸放湿試験を行った。吸放湿試験のサイクルは、RH80%で12時間(吸湿条件)、RH50%で12時間(放湿条件)を1サイクルとして、10サイクル(240時間)繰り返した。その後パワーサイクル(P/C)試験を実施した。P/C試験の条件は、Tjmax=150℃,ΔTvj=75℃とし、ON時間を1秒(150℃になるように電流を設定)、OFF時間を9~15秒(75℃に戻るように設定)とした。絶縁耐力判定条件は、熱抵抗が20%増加した時点のサイクル数で評価した。サイクル数が、20kcycle以下の場合、絶縁耐力判定は不合格とした。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2から、実施例1~5では、粒径は1~100、孔直径4~9nmの円柱状の細孔を持つメソポーラスシリカをエポキシ樹脂に添加した吸放湿性封止層を設けたことにより、吸放湿サイクル後も、従来と比較して4倍程度の信頼性の高いモジュールが得られた。実施例6では、実施例1と同じメソポーラスシリカを用い、メソポーラスシリカからなる、1mmの吸放湿性封止層を設けることで、同様の効果が得られた。一方、比較例1の吸放湿性封止層がない場合のPC試験結果は、10kcycleであった。また、比較例2のミクロポーラス材料は吸放湿性が低く、比較例3のマクロポーラス材料では吸湿しなかった。シリカゲルを用いた場合のPC試験結果も、10kcycleであった。
【0081】
以上の結果から、本発明に係るメソポーラス無機充填材を用いることで、封止層の吸放湿性能を向上させ、モジュールの信頼性を4倍以上向上することが確認された。また、比較例4との対比から、細孔の大きさや形状が揃っていることが信頼性向上に重要であることが考察された。
【符号の説明】
【0082】
11 半導体素子、12 積層基板、121 第1導電性板、122 絶縁基板
123a、123b 第2導電性板、13 放熱板、14 アルミワイヤ、
15 外部端子、 16 ケース、17 接合層、18 リードフレーム
20 第1封止部、 21 第2封止部(吸放湿性封止層)
22 第2封止部(吸放湿性封止層)、23 第3封止部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7