(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078927
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】作業機械、及び、作業機械を制御するための方法
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20240604BHJP
F16H 61/40 20100101ALI20240604BHJP
F16D 48/06 20060101ALI20240604BHJP
B60T 8/48 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B60T7/12 B
F16H61/40
F16D28/00 A
B60T8/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191550
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】竹野 陽
【テーマコード(参考)】
3D246
3J053
3J057
【Fターム(参考)】
3D246AA14
3D246BA02
3D246DA01
3D246EA11
3D246GB38
3D246GC14
3D246GC16
3D246HA02A
3D246HA25C
3D246HA26A
3D246HA86A
3D246JA12
3D246JB02
3D246JB11
3D246LA01Z
3D246LA36Z
3D246LA52Z
3J053AA01
3J053AB37
3J053DA04
3J053DA06
3J053DA21
3J053DA24
3J053DA26
3J057GA05
3J057GB02
3J057GB09
3J057GB29
3J057GB36
3J057HH04
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】作業機械において、慣性制動力の不足、或いは変動に関わらず、安定した制動力を得る。
【解決手段】作業機械は、駆動源と、トランスミッションと、走行装置と、ブレーキ装置と、コントローラとを備える。トランスミッションは、駆動源に接続される。走行装置は、トランスミッションに接続され、作業機械を走行させる。ブレーキ装置は、走行装置を制動する。コントローラは、作業機械を制動するための制動指令を取得する。コントローラは、制動指令に基づいて作業機械の慣性走行時における目標制動力を決定する。コントローラは、トランスミッションからの慣性制動力と、ブレーキ装置による補助制動力とによって目標制動力が得られるように、補助制動力を決定する。コントローラは、トランスミッションが過回転状態であるかを判定する。コントローラは、トランスミッションが過回転状態であると判定した場合には、補助制動力を増大させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械であって、
駆動源と、
前記駆動源に接続されるトランスミッションと、
前記トランスミッションに接続され、前記作業機械を走行させる走行装置と、
前記走行装置を制動するブレーキ装置と、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記作業機械を制動するための制動指令を取得し、
前記制動指令に基づいて前記作業機械の慣性走行時における目標制動力を決定し、
前記トランスミッションからの慣性制動力と、前記ブレーキ装置による補助制動力とによって前記目標制動力が得られるように、前記補助制動力を決定し、
前記トランスミッションが過回転状態であるかを判定し、
前記トランスミッションが前記過回転状態であると判定した場合には、前記補助制動力を増大させる、
作業機械。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記作業機械の車速を取得し、
前記車速が第1閾値以上である場合に、前記トランスミッションが過回転状態であると判定して、前記補助制動力を増大させる、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記トランスミッションは、係合状態と非係合状態とに切り替え可能なクラッチを含み、
前記トランスミッションは、前記クラッチが前記係合状態で、前記走行装置へ駆動力を伝達し、前記クラッチが前記非係合状態で、前記走行装置への駆動力を遮断し、
前記コントローラは、
前記車速が第1閾値以上である場合に、前記トランスミッションが第1過回転状態であると判定して、前記補助制動力を増大させ、
前記車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合に、前記トランスミッションが第2過回転状態であると判定して、前記クラッチを前記非係合状態に切り換える、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項4】
前記トランスミッションは、係合状態と非係合状態とに切り替え可能なクラッチを含み、
前記トランスミッションは、前記クラッチが、前記係合状態で前記走行装置へ駆動力を伝達し、前記クラッチが、前記非係合状態で前記走行装置への駆動力を遮断し、
前記コントローラは、
前記車速が所定の閾値以上である場合に、前記トランスミッションが過回転状態であると判定して、前記クラッチを前記非係合状態に切り換え、
前記車速が前記所定の閾値以上である場合に、前記補助制動力を増大させる、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記トランスミッションの状態を示すトランスミッション情報を取得し、
前記トランスミッション情報に基づいて前記トランスミッションからの前記慣性制動力を算出し、
前記目標制動力と前記慣性制動力との差分に基づいて、前記ブレーキ装置による前記補助制動力を決定する、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項6】
前記目標制動力を設定するためにオペレータによって操作可能な設定装置をさらに備え、
前記コントローラは、前記設定装置の操作に応じた前記制動指令を取得する、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項7】
前記ブレーキ装置は、油圧式ブレーキであり、
前記コントローラによって制御されることで前記ブレーキ装置への第1油圧を変更する自動ブレーキ弁をさらに備え、
前記コントローラは、前記目標制動力と前記慣性制動力との差分に応じて前記ブレーキ装置への前記第1油圧を変更するように、前記自動ブレーキ弁を制御する、
請求項5に記載の作業機械。
【請求項8】
前記ブレーキ装置による制動力を調整するためにオペレータによって操作可能なブレーキ操作部材と、
前記ブレーキ操作部材の操作に応じて前記ブレーキ装置への第2油圧を変更する手動ブレーキ弁と、
前記自動ブレーキ弁からの前記第1油圧と、前記手動ブレーキ弁からの前記第2油圧とを選択的に前記ブレーキ装置に供給するシャトル弁と、
をさらに備える請求項7に記載の作業機械。
【請求項9】
前記シャトル弁は、前記第1油圧と前記第2油圧とのうち大きい方を前記ブレーキ装置に供給する、
請求項8に記載の作業機械。
【請求項10】
駆動源と、前記駆動源に接続されるトランスミッションと、前記トランスミッションに接続され、前記作業機械を走行させる走行装置と、前記走行装置を制動するブレーキ装置と、を備える作業機械を制御するための方法であって、
前記作業機械を制動するための制動指令を取得することと、
前記制動指令に基づいて前記作業機械の慣性走行時における目標制動力を決定することと、
前記トランスミッションからの慣性制動力と、前記ブレーキ装置による補助制動力とによって前記目標制動力が得られるように、前記補助制動力を決定することと、
前記トランスミッションが過回転状態であるかを判定することと、
前記トランスミッションが前記過回転状態であると判定した場合には、前記補助制動力を増大させること、
を備える方法。
【請求項11】
前記作業機械の車速を取得することと、
前記車速が第1閾値以上である場合に、前記トランスミッションが過回転状態であると判定して、前記補助制動力を増大させること、
を備える請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記トランスミッションは、係合状態と非係合状態とに切り替え可能なクラッチを含み、
前記トランスミッションは、前記クラッチが前記係合状態で、前記走行装置へ駆動力を伝達し、前記クラッチが前記非係合状態で、前記走行装置への駆動力を遮断し、
前記車速が第1閾値以上である場合に、前記トランスミッションが第1過回転状態であると判定して、前記補助制動力を増大させることと、
前記車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合に、前記トランスミッションが第2過回転状態であると判定して、前記クラッチを前記非係合状態に切り換えること、
を備える請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記トランスミッションは、係合状態と非係合状態とに切り替え可能なクラッチを含み、
前記トランスミッションは、前記クラッチが前記係合状態で、前記走行装置へ駆動力を伝達し、前記クラッチが前記非係合状態で、前記走行装置への駆動力を遮断し、
前記車速が所定の閾値以上である場合に、前記トランスミッションが過回転状態であると判定して、前記クラッチを前記非係合状態に切り換えることと、
前記車速が前記所定の閾値以上である場合に、前記補助制動力を増大させること、
を備える請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記トランスミッションの状態を示すトランスミッション情報を取得することと、
前記トランスミッション情報に基づいて前記トランスミッションからの前記慣性制動力を算出することと、
前記目標制動力と前記慣性制動力との差分に基づいて、前記ブレーキ装置による前記補助制動力を決定すること、
を備える請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記目標制動力を設定するためにオペレータによって操作可能な設定装置から、前記設定装置の操作に応じた前記制動指令を取得すること、
を備える請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械、及び、作業機械を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械には、トランスミッションを備えるものがある。オペレータがアクセルペダルを操作していない場合には、トランスミッションからの慣性制動力によって、作業機械に制動力が作用する。例えば、特許文献1の作業機械は、HST(Hydro Static Transmission)を備えている。HSTは、油圧ポンプと油圧モータとを備えている。HSTでは、油圧ポンプと油圧モータとエンジンとの内部負荷により、慣性制動力が発生する。オペレータは、このような慣性制動力を利用することで、作業機械の車速を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、トランスミッションからの慣性制動力には限界がある。そのため、例えば降坂時などに、トランスミッションからの慣性制動力では、必要な制動力に対して不足する場合がある。また、トランスミッションの状態に応じて、慣性制動力が変化する場合もある。そのため、慣性制動力によって作業機械の車速を安定して調整することは困難である。本開示の目的は、作業機械において、慣性制動力の不足、或いは変動に関わらず、安定した制動力を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る作業機械は、駆動源と、トランスミッションと、走行装置と、ブレーキ装置と、コントローラとを備える。トランスミッションは、駆動源に接続される。走行装置は、トランスミッションに接続され、作業機械を走行させる。ブレーキ装置は、走行装置を制動する。コントローラは、作業機械を制動するための制動指令を取得する。コントローラは、制動指令に基づいて作業機械の慣性走行時における目標制動力を決定する。コントローラは、トランスミッションからの慣性制動力と、ブレーキ装置による補助制動力とによって目標制動力が得られるように、補助制動力を決定する。コントローラは、トランスミッションが過回転状態であるかを判定する。コントローラは、トランスミッションが過回転状態であると判定した場合には、補助制動力を増大させる。
【0006】
本開示の他の態様に係る方法は、作業機械を制御するための方法である。作業機械は、駆動源と、トランスミッションと、走行装置と、ブレーキ装置とを備える。トランスミッションは、駆動源に接続される。走行装置は、トランスミッションに接続され、作業機械を走行させる。ブレーキ装置は、走行装置を制動する。当該方法は、作業機械を制動するための制動指令を取得することと、制動指令に基づいて作業機械の慣性走行時における目標制動力を決定することと、トランスミッションからの慣性制動力と、ブレーキ装置による補助制動力とによって目標制動力が得られるように、補助制動力を決定することと、トランスミッションが過回転状態であるかを判定することと、トランスミッションが過回転状態であると判定した場合には、補助制動力を増大させること、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、トランスミッションからの慣性制動力と、ブレーキ装置による補助制動力とによって目標制動力が得られるように、補助制動力決定される。そのため、慣性制動力が目標制動力に対して不足する場合に、ブレーキ装置による制動力によって、不足分が補われる。また、慣性制動力が変動しても、目標制動力が決定されることで、安定した制動力が得られる。それにより、作業機械において、慣性制動力の不足、或いは変動に関わらず、安定した制動力が得られる。また、トランスミッションが過回転状態であると判定された場合には、補助制動力が増大される。それにより、例えば降坂時において、制動指令によって設定された目標制動力では、必要な制動力に不足する場合には、補助制動力が増大されることで、作業機械が減速される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】作業機械の駆動力特性の一例を示す図である。
【
図4】ブレーキ装置を駆動するための油圧回路の構成を示す図である。
【
図5】自動ブレーキ制御の処理を示すフローチャートである。
【
図6】第1レベルの目標制動力の一例を示す図である。
【
図7】第2レベルの目標制動力の一例を示す図である。
【
図8】第3レベルの目標制動力の一例を示す図である。
【
図9】トランスミッションが過回転状態での制動力の一例を示す図である。
【
図10】変形例に係る自動ブレーキ制御の処理を示すフローチャートである。
【
図11】変形例に係る自動ブレーキ制御でのトランスミッションが過回転状態での制動力の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る作業機械1の側面図である。
図2は、作業機械1の構成を示すブロック図である。本実施形態において、作業機械1は、ホイールローダである。
図1に示すように、作業機械1は、車体2と作業機3とを備えている。
【0010】
車体2は、前車体2aと後車体2bとを含む。後車体2bは、前車体2aに対して左右に旋回可能に接続されている。前車体2aと後車体2bとには、油圧シリンダ15が連結されている。油圧シリンダ15が伸縮することで、前車体2aが、後車体2bに対して、左右に旋回する。
【0011】
作業機3は、掘削等の作業に用いられる。作業機3は、前車体2aに対して動作可能に、取り付けられている。作業機3は、ブーム11と、バケット12と、油圧シリンダ13,14とを含む。油圧シリンダ13,14が伸縮することによって、ブーム11及びバケット12が動作する。
【0012】
図2に示すように、作業機械1は、駆動源21と、トランスミッション24と、走行装置25とを含む。駆動源21は、例えばディーゼルエンジンである。駆動源21には、燃料噴射装置30が設けられている。燃料噴射装置30は、駆動源21のシリンダ内に噴射する燃料量を調整することで、駆動源21の出力を制御する。
【0013】
トランスミッション24は、駆動源21に接続される。トランスミッション24は、駆動源21からの駆動力を走行装置25に伝達する。例えば、トランスミッション24は、HSTであり、油圧ポンプ38と油圧モータ39とを含む。トランスミッション24は、油圧ポンプ38と油圧モータ39とのそれぞれの容量を制御することで、変速比を無段階に変更可能である。トランスミッション24は、クラッチ40を含む。クラッチ40は、係合状態と非係合状態とに切り替え可能である。トランスミッション24は、クラッチ40が係合状態で、走行装置25へ駆動力を伝達する。トランスミッション24は、クラッチ40が非係合状態で、走行装置25への駆動力を遮断する。
【0014】
ただし、トランスミッション24は、EMT(Electric Mechanical Transmission)、或いはHMT(Hydraulic Mechanical Transmission)などの他の種類のトランスミッションであってもよい。或いは、トランスミッション24は、トルクコンバータ及び複数の変速ギアを含むトランスミッションであってもよい。
【0015】
走行装置25は、車体2に搭載され、駆動源21からの駆動力によって駆動されることで車体2を走行させる。走行装置25は、アクスル26,27と、前輪28A,28Bと、後輪28C,28Dとを含む。アクスル26,27は、トランスミッション24に接続される。前輪28A,28Bは、前車体2aに設けられる。後輪28C,28Dは、後車体2bに設けられる。アクスル26は、トランスミッション24からの駆動力を前輪28A,28Bに伝達する。アクスル27は、トランスミッション24からの駆動力を後輪28C,28Dに伝達する。
【0016】
作業機械1は、PTO(Power Take Off)31と、作業機ポンプ32と、制御弁33とを含む。PTO31は、トランスミッション24と作業機ポンプ32とに、駆動源21の駆動力を分配する。なお、
図2では、1つの作業機ポンプ32のみが図示されている。しかし、2つ以上の油圧ポンプが、PTO31を介して駆動源21に接続されてもよい。
【0017】
作業機ポンプ32は、PTO31を介して駆動源21に接続される。作業機ポンプ32は、油圧ポンプである。作業機ポンプ32は、駆動源21によって駆動され、作動油を吐出する。作業機ポンプ32から吐出された作動油は、上述した油圧シリンダ13-15に供給される。制御弁33は、作業機ポンプ32から油圧シリンダ13-15に供給される作動油の流量を制御する。制御弁33は、例えば、電磁比例制御弁であり、入力される電気信号に応じて、制御される。或いは、制御弁33は、圧力比例制御弁であり、入力されるパイロット圧に応じて制御されてもよい。
【0018】
作業機械1は、ブレーキポンプ36と、ブレーキ装置37A-37Dとを含む。ブレーキ装置37A-37Dは、油圧式ブレーキである。ブレーキポンプ36は、駆動源21によって駆動され、作動油を吐出する。ブレーキポンプ36から吐出された作動油は、ブレーキ装置37A-37Dに供給される。ブレーキ装置37A-37Dは、作動油によって駆動されることで走行装置25を制動する。ブレーキ装置37A-37Dは、例えば湿式多板ブレーキである。詳細には、ブレーキ装置37A-37Dは、フロントブレーキ37A,37Bとリアブレーキ37C,37Dとを含む。フロントブレーキ37A,37Bは、前輪28A,28Bを制動する。リアブレーキ37C,37Dは、後輪28C,28Dを制動する。
【0019】
作業機械1は、エンジンセンサ34と車速センサ35とを含む。エンジンセンサ34は、エンジン回転速度を検出する。車速センサ35は、車速を検出する。車速センサ35は、例えば、車速として、走行装置25の出力回転速度を検出する。走行装置25の出力回転速度は、作業機械1の車速に相当する。走行装置25の出力回転速度は、例えば、トランスミッション24の出力軸の回転速度である。ただし、出力回転速度は、トランスミッション24内、或いはトランスミッション24の下流に位置する他の回転要素の回転速度であってもよい。
【0020】
作業機械1は、コントローラ41を含む。コントローラ41は、CPU(central processing unit)などのプロセッサと、RAM及びROMなどの記憶装置とを含む。コントローラ41は、ハードディスク、或いはSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置を含んでもよい。コントローラ41は、作業機械1を制御するためのプログラム及びデータを記憶している。コントローラ41は、記憶されているプログラム及びデータに従って、作業機械1を制御するための処理を実行する。
【0021】
コントローラ41は、エンジンセンサ34から、エンジン回転速度を示す信号を受信する。コントローラ41は、車速センサ35から、出力回転速度を示す信号を受信する。
【0022】
コントローラ41は、駆動源21に指令信号を送信することで、駆動源21の出力を制御する。コントローラ41は、トランスミッション24に指令信号を送信することで、トランスミッション24の前進ギアと後進ギアとを切り替える。コントローラ41は、トランスミッション24に指令信号を送信することで、トランスミッション24の変速比を制御する。コントローラ41は、トランスミッション24に指令信号を送信することで、クラッチ40を係合状態と非係合状態とに切り替える。コントローラ41は、作業機ポンプ32及び制御弁33に指令信号を送信することで、作業機3を制御する。
【0023】
作業機械1は、FR操作部材42と、アクセル操作部材43と、作業機操作部材44と、ブレーキ操作部材45と、設定装置46とを含む。FR操作部材42は、作業機械1の前進と後進とを切り替えるために、オペレータによって操作可能である。FR操作部材42は、中立位置から前進位置と後進位置とに操作可能である。FR操作部材42は、例えばレバーである。ただし、FR操作部材42は、スイッチ、或いはペダルなどの他の部材であってもよい。
【0024】
アクセル操作部材43は、作業機械1の車速を制御するためにオペレータによって操作可能である。アクセル操作部材43は、例えばペダルである。ただし、アクセル操作部材43は、レバー、或いはスイッチなどの他の部材であってもよい。作業機操作部材44は、作業機3を制御するためにオペレータによって操作可能である。作業機操作部材44は、例えばレバーである。ただし、作業機操作部材44は、スイッチ、或いはペダルなどの他の部材であってもよい。
【0025】
コントローラ41は、FR操作部材42から、FR操作部材42の操作位置を示す信号を受信する。コントローラ41は、FR操作部材42からの信号に応じて、トランスミッション24の前進ギアと後進ギアとを切り替える。コントローラ41は、アクセル操作部材43から、アクセル操作量を示す信号を受信する。アクセル操作量は、アクセル操作部材43の操作量である。
【0026】
図3は、作業機械1の駆動力特性を示す図である。
図3において、実線F1はアクセル操作量が100%である場合の駆動力特性を示している。
図3において、破線F2はアクセル操作量が0%である場合の駆動力特性を示している。コントローラ41は、アクセル操作量と車速とに応じて、
図3に示す駆動力特性が得られるように、駆動源21とトランスミッション24とを制御する。
【0027】
図3に示すように、駆動力は、正の値と負の値とを含む。正の値の駆動力は、作業機械1を走行させる正の駆動力を示す。負の値の駆動力は、作業機械1を制動する負の駆動力、すなわちトランスミッション24からの慣性制動力を示す。慣性制動力は、いわゆるエンジンブレーキであり、トランスミッション24及び駆動源21の内部負荷による制動力である。
【0028】
ブレーキ操作部材45は、ブレーキ装置37A-37Dを駆動させるためにオペレータによって操作可能である。ブレーキ操作部材45は、例えばペダルである。ただし、ブレーキ操作部材45は、レバー、或いはスイッチなどの他の部材であってもよい。ブレーキ操作部材45の操作に応じて、ブレーキ装置37A-37Dに供給される作動油の油圧が制御される。それにより。ブレーキ装置37A-37Dは、ブレーキ操作部材45の操作量に応じて制動力を発生させる。
【0029】
図4は、ブレーキ装置37A-37Dを駆動するための油圧回路50を示す図である。
図4に示すように、油圧回路50は、分流弁51と、第1流路52と、第2流路53と、第3流路54と、自動ブレーキ弁55と、手動ブレーキ弁56と、シャトル弁57とを備える。分流弁51は、上述したブレーキポンプ36からの作動油を、第2流路53と第3流路54とに分流する。第1流路52は、第2流路53に接続されている。
【0030】
自動ブレーキ弁55は、コントローラ41に電気的に接続されている。自動ブレーキ弁55は、例えば電磁弁であり、コントローラ41からの指令信号に応じて電気的に制御される。自動ブレーキ弁55は、コントローラ41からの指令信号に応じて、自動ブレーキ弁55から第1流路52を介してブレーキ装置37A-37Dに供給される油圧(以下、第1油圧と呼ぶ)を変更する。
【0031】
手動ブレーキ弁56は、ブレーキ操作部材45に接続されている。手動ブレーキ弁56は、ブレーキ操作部材45に、バネなどのリンク部材を介して、機械的に接続されている。手動ブレーキ弁56は、第2流路53と第3流路54とに接続されている。手動ブレーキ弁56は、ブレーキ操作部材45の操作量に応じて、手動ブレーキ弁56から、第2流路53及び第3流路54を介して、ブレーキ装置37A-37Dに供給される油圧(以下、第2油圧と呼ぶ)を変更する。
【0032】
シャトル弁57は、第1流路52と第2流路53と第3流路54とに接続されている。シャトル弁57は、自動ブレーキ弁55からの第1油圧と、手動ブレーキ弁56からの第2油圧とを、選択的にブレーキ装置37A-37Dに供給する。詳細には、シャトル弁57は、第1油圧と第2油圧とのうち大きい方をブレーキ装置37A-37Dに供給する。従って、例えば、オペレータのブレーキ操作部材45の操作による第1油圧が、コントローラ41からの指令信号による第2油圧よりも大きい場合には、第1油圧がブレーキ装置37A-37Dに供給される。それにより、オペレータのブレーキ操作部材45の操作量に応じて、ブレーキ装置37A-37Dの制動力が制御される。
【0033】
逆に、コントローラ41からの指令信号による第2油圧が、オペレータのブレーキ操作部材45の操作による第1油圧よりも大きい場合には、第2油圧がブレーキ装置37A-37Dに供給される。それにより、コントローラ41からの指令信号に応じて、ブレーキ装置37A-37Dの制動力が制御される。
【0034】
本実施形態に係る作業機械1では、コントローラ41は、作業機械1の慣性走行時における制動力を自動的に制御する自動ブレーキ制御を実行する。作業機械1の慣性走行とは、アクセル操作部材43とブレーキ操作部材45とが操作されていない状態で、作業機械1が慣性により走行している状態を意味する。設定装置46は、自動ブレーキ制御における慣性走行時の目標制動力を設定するためにオペレータによって操作可能である。設定装置46は、例えばダイヤル式のスイッチである。ただし、設定装置は、スライド式のスイッチ、プッシュボタン式のスイッチ、或いはタッチパネルなどの他の装置であってもよい。設定装置46は、オペレータによる操作に応じて、目標制動力を示す制動指令を出力する。
【0035】
目標制動力は、複数のレベルで示される。複数のレベルは、例えば第1レベルと第2レベルと第3レベルとを含む。第1レベルの目標制動力が最も大きく。第3レベルンも目標制動力が最も小さい。第2レベルの目標制動力は、第1レベルと第2レベルとの間の大きさである。
【0036】
図5は、自動ブレーキ制御の処理を示すフローチャートである。
図5に示すように、ステップS101で、コントローラ41は、制動指令を取得する。コントローラ41は、設定装置46を用いてオペレータによって設定された目標制動力を示す制動指令を取得する。
【0037】
ステップS102では、コントローラ41は、目標制動力を決定する。コントローラ41は、設定装置46からの制動指令に基づいて目標制動力を決定する。ステップS103では、コントローラ41は、トランスミッション情報を取得する。トランスミッション情報は、トランスミッション24の状態を示す。トランスミッション情報は、例えばトランスミッション24の変速比を含む。トランスミッション情報は、車速を含む。トランスミッション24がHSTの場合、トランスミッション情報は、油圧ポンプの容量と油圧モータの容量とを含んでもよい。トランスミッション24が複数の変速ギアを含む場合、トランスミッション情報は、変速ギアのギア比を含んでもよい。
【0038】
ステップS104で、コントローラ41は、トランスミッション24からの慣性制動力を算出する。コントローラ41は、上述したトランスミッション情報に基づいて、トランスミッション24からの慣性制動力を算出する。
【0039】
ステップS105で、コントローラ41は、補助制動力を決定する。コントローラ41は、トランスミッション24からの慣性制動力と、ブレーキ装置37A-37Dによる補助制動力とによって、目標制動力が得られるように、補助制動力を決定する。コントローラ41は、目標制動力と慣性制動力との差分に相当する制動力を、補助制動力として決定する。
【0040】
ステップS106で、コントローラ41は、自動ブレーキ弁55を制御する。コントローラ41は、補助制動力に相当するブレーキ装置37A-37Dの目標ブレーキ油圧を算出する。コントローラ41は、ブレーキ装置37A-37Dに目標ブレーキ油圧が供給されるように、自動ブレーキ弁55の開度を制御する。
【0041】
ステップS107で、コントローラ41は、トランスミッション24が第1過回転状態であるかを判定する。コントローラ41は、車速が第1閾値以上である場合に、トランスミッション24が第1過回転状態であると判定する。コントローラ41が、トランスミッション24が第1過回転状態であると判定した場合には、処理はステップS108に進む。ステップS108で、コントローラ41は、補助制動力を増大させる。例えば、コントローラ41は、ブレーキ装置37A-37Dの最大制動力まで補助制動力を増大させる。或いは、コントローラ41は、補助制動力を段階的に増大させてもよい。
【0042】
ステップS109で、コントローラ41は、トランスミッション24が第2過回転状態であるかを判定する。コントローラ41は、車速が第2閾値以上である場合に、トランスミッション24が第2過回転状態であると判定する。第2閾値は、第1閾値より大きい。コントローラ41が、トランスミッション24が第2過回転状態であると判定した場合には、処理はステップS110に進む。
【0043】
ステップS110で、コントローラ41は、クラッチ40を非係合状態に切り換える。それにより、走行装置25からトランスミッション24への駆動力の伝達が遮断される。第2閾値は、トランスミッション24を過回転から保護する観点から定められる。第2閾値は、例えばトランスミッション24の油圧モータ、油圧ポンプ、或いはエンジンの許容最大観点速度に基づいて定められる。第1閾値は、第2閾値よりも小さい。第1閾値は、トランスミッション24が第2過回転状態となることを予防する観点から定められる。
【0044】
例えば、
図6においてL1は、第1レベルの目標制動力の一例を示している。
図7においてL2は、第2レベルの目標制動力の一例を示している。
図8においてL3は、第3レベルの目標制動力の一例を示している。第1~第3レベルの目標制動力L1-L3と車速との関係を示すデータが、コントローラ41に記憶されている。
【0045】
図6に示すように、コントローラ41は、設定装置46によって目標制動力として第1レベルが設定されると、車速に応じた目標制動力L1を決定する。
図6において、L0は、慣性走行時のトランスミッション24からの慣性制動力を示している。コントローラ41は、トランスミッション情報から慣性制動力L0を算出する。コントローラ41は、目標制動力L1と慣性制動力L0との差分dFに相当する補助制動力を発生させるように、ブレーキ装置37A-37Dの目標ブレーキ油圧を算出する。コントローラ41は、ブレーキ装置37A-37Dに目標ブレーキ油圧が供給されるように、自動ブレーキ弁55の開度を制御する。それにより、慣性制動力L0が第1レベルの目標制動力L1に対して不足していても、ブレーキ装置37A-37Dによる補助制動力によって補われることで、第1レベルの目標制動力L1に従う制動力が得られる。
【0046】
図7に示すように、第2レベルの目標制動力L2は、第1レベルの目標制動力L1よりも小さい。コントローラ41は、設定装置46によって目標制動力として第2レベルが設定されると、車速に応じた目標制動力L2を決定する。以下、第1レベルが設定されている場合と同様に、コントローラ41は、目標制動力L2と慣性制動力L0との差分に相当する補助制動力を発生させるように、ブレーキ装置37A-37Dの目標ブレーキ油圧を算出し、目標ブレーキ油圧に従って自動ブレーキ弁55の開度を制御する。
【0047】
図8に示すように、第3レベルの目標制動力L3は、第2レベルの目標制動力L2よりも小さい。コントローラ41は、設定装置46によって目標制動力として第3レベルが設定されると、車速に応じた目標制動力L3を決定する。以下、第1レベルが設定されている場合と同様に、コントローラ41は、目標制動力L3と慣性制動力L0との差分に相当する補助制動力を発生させるように、ブレーキ装置37A-37Dの目標ブレーキ油圧を算出し、目標ブレーキ油圧に従って自動ブレーキ弁55の開度を制御する。
【0048】
以上のように、設定装置46によって目標制動力を変更することで、慣性走行時の制動力を変更することができる。そのため、作業機械1が同じ下り坂を走行する場合に、慣性走行時に作業機械1が静定する車速を変更することができる。また、トランスミッション24からの慣性制動力だけでは静定できない下り坂であっても、一定車速で走行することができる。なお、静定とは、作業機械1が慣性走行時に一定速度で走行する状態を意味する。
【0049】
例えば、
図6から
図8に示すように、作業機械1が、ある下り坂を走行する場合に、作業機械1を加速させる力と釣り合う制動力(以下、静定制動力と呼ぶ)がA1であるものとする。トランスミッション24からの慣性制動力L0が、静定制動力A1がよりも小さい場合には、作業機械1は、トランスミッション24からの慣性制動力だけでは静定することはできない。
【0050】
そこで、
図6に示すように、設定装置46によって目標制動力をレベル1に設定することで、レベル1の目標制動力L1に相当する制動力が得られる。それにより、目標制動力L1が静定制動力A1と釣り合う車速V1において、作業機械1は、一定速度で走行することができる。
【0051】
図7に示すように、設定装置46によって目標制動力をレベル2に設定することで、レベル2の目標制動力L2に相当する制動力が得られる。それにより、目標制動力L2が静定制動力A1と釣り合う車速V2において、作業機械1は、一定速度で走行することができる。
【0052】
また、
図8に示すように、設定装置46によって目標制動力をレベル3に設定することで、レベル3の目標制動力L3に相当する制動力が得られる。それにより、目標制動力L3が静定制動力A1と釣り合う車速V3において、作業機械1は、一定速度で走行することができる。以上のように、作業機械1が同じ下り坂を走行する場合に、オペレータは設定装置46によって目標制動力を変更することで、慣性走行時に作業機械1が静定する車速を変更することができる。
【0053】
作業機械1が急な下り坂を走行する場合には、
図9に示すように、静定制動力A2が、オペレータによって設定された目標制動力L2よりも大きい場合がある。この場合、作業機械1は、目標制動力L2では静定することはできず、車速が増大する。車速が増大し続けると、トランスミッション24が過回転状態となり、トランスミッション24がダメージを受ける恐れがある。
【0054】
本実施形態に係る作業機械では、車速が第1閾値B1以上となった場合に、コントローラ41がブレーキ装置37A-37Dによる補助制動力を増大させる。それにより、
図9に示すように、静定制動力A2よりも大きい制動力C1が得られることで、作業機械1が減速する。また、補助制動力を増大させるための第1閾値B1は、クラッチ40が非係合状態に切り替えられる第2閾値B2よりも小さい。そのため、クラッチ40が非係合状態となる前に、補助制動力を増大させることで、作業機械1を減速させることができる。それにより、作業機械1が走行不能となることが抑えられる。
【0055】
以上説明した本実施形態に係る作業機械1では、目標制動力と慣性制動力との差分に基づいて、ブレーキ装置37A-37Dによる制動力が制御される。そのため、慣性制動力が目標制動力に対して不足する場合に、ブレーキ装置37A-37Dによる制動力によって、不足分を補うことができる。また、慣性制動力が変動しても、目標制動力が決定されることで、安定した制動力が得られる。それにより、作業機械1において、慣性制動力の不足、或いは変動に関わらず、安定した制動力が得られる。
【0056】
また、トランスミッション24が第1過回転状態であると判定された場合には、補助制動力が増大される。それにより、例えば降坂時において、制動指令によって設定された目標制動力では、必要な制動力に不足する場合には、補助制動力が増大されることで、作業機械1が減速される。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
作業機械1は、ホイールローダに限らず、ブルドーザ、或いはモータグレーダなどの他の機械であってもよい。作業機械1は、遠隔から操作可能であってもよい。その場合、FR操作部材42、アクセル操作部材43、作業機操作部材44、ブレーキ操作部材45、及び設定装置46は、作業機械1の外部に配置されてもよい。
【0059】
駆動源21は、エンジンに限らず、電動モータを含んでもよい。コントローラ41は、複数のコントローラによって構成されてもよい。上述した作業機械1の制御の処理は、複数のコントローラに分散して実行されてもよい。
【0060】
自動ブレーキ制御の処理は、上述した実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、目標制動力のレベルの数は3つに限らない。目標制動力のレベルの数は3つより多くてもよく、或いは3つより少なくてもよい。目標制動力は、制動力の数値で示されてもよい。
【0061】
図10は、変形例に係る自動ブレーキ制御の処理を示すフローチャートである。
図10においてステップS201~S206は、上述した実施形態のステップS101~S106と同様である。ステップS207で、コントローラ41は、トランスミッション24が過回転状態であるかを判定する。コントローラ41は、車速が上述した第2閾値B2以上である場合に、トランスミッション24が過回転状態であると判定する。コントローラ41が、トランスミッション24が過回転状態であると判定した場合には、処理はステップS208に進む。
【0062】
ステップS208で、コントローラ41は、クラッチ40を非係合状態に切り換える。また、ステップS209で、コントローラ41は、補助制動力を増大させる。すなわち、
図11に示すように、コントローラ41は、車速が、クラッチ40を非係合状態に切り換える第2閾値B2以上である場合に、補助制動力を増大させる。それにより、トランスミッション24から走行装置25への駆動力の伝達が遮断された状態で、ブレーキ装置37A-37Dによる制動力C2によって、作業機械1を減速させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示によれば、作業機械において、慣性制動力の不足、或いは変動に関わらず、安定した制動力を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
21:駆動源
24:トランスミッション
25:走行装置
37A:ブレーキ装置
41:コントローラ
45:ブレーキ操作部材
46:設定装置
55:自動ブレーキ弁
56:手動ブレーキ弁
57:シャトル弁