(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078929
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】建築物
(51)【国際特許分類】
E04H 3/14 20060101AFI20240604BHJP
E02D 17/18 20060101ALI20240604BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
E04H3/14 C
E02D17/18
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191554
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 悠
(72)【発明者】
【氏名】山田 達也
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴之
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀人
(72)【発明者】
【氏名】奥出 久人
【テーマコード(参考)】
2D040
2D044
【Fターム(参考)】
2D040BD05
2D044CA00
(57)【要約】
【課題】床部を最前床部と後方床部とに分離することによるメリットを得ることができながら、最前床部の沈下を防止する。
【解決手段】前方のフィールド2側から後方に向けて上る方向に傾斜する床部3と、その床部3にて支持された観客席とが備えられ、床部3は、フィールド2側の最前床部31と、その最前床部31よりも後方側の後方床部32とに床部3を分離させる状態で備えられ、フィールド1には、転圧した盛土6がその後方側を土留壁部7にて支持される状態で備えられ、最前床部31は、フィールド2の盛土6の上部に設置された土間床部33として備えられ、土留壁部7は、土間床部33の存在領域まで上方側に延長させて、その延長部位71に土留壁部7と土間床部33とを連結するズレ止め筋10が配設されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方のフィールド側から後方に向けて上る方向に傾斜する床部と、その床部にて支持された観客席とが備えられ、
前記床部は、フィールド側の最前床部と、その最前床部よりも後方側の後方床部とに床部を分離させる状態で備えられ、
前記フィールドには、転圧した盛土がその後方側を土留壁部にて支持される状態で備えられ、
前記最前床部は、フィールドの盛土の上部に設置された土間床部として備えられ、
前記土留壁部は、土間床部の存在領域まで上方側に延長させて、その延長部位に土留壁部と土間床部とを連結するズレ止め筋が配設されている建築物。
【請求項2】
前記後方床部を支持する後方基礎部が備えられ、
前記土留壁部は、後方基礎部から上方側に延設する状態で配設され、
前記後方床部の前端部位は、土留壁部と縁切りされている請求項1に記載の建築物。
【請求項3】
前記土間床部の下方側には、盛土を介した形で地盤改良体が備えられている請求項1又は2に記載の建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方のフィールド側から後方に向けて上る方向に傾斜する床部と、その床部にて支持された観客席とが備えられた建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
このような建築物として、例えば、フィールドの周囲において、前方から後方に向けて上る方向に階段状に複数の観客席が備えられたスタジアム等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
床部を構築するに当たり、床部の全体を一体的に構築した1つの構造物として備えると、その構造物を支持するための杭基礎等の基礎部を広範囲に亘って設けなければならず、高コスト化や工期の長期化を招くという問題を生じる。
【0004】
そこで、特許文献1に記載のスタジアム等では、床部の全体を一体的に構築された1つの構造物として備えるのではなく、フィールド側の最前床部と、その最前床部よりも後方側の後方床部とに床部を分離させる状態で備えている。これにより、最前床部の建設工事と後方床部の建設工事とを工種に分けて並行して行うこともでき、工期の短縮化を図ることができる。しかも、後方床部は、最前床部と分けて構造設計することができるので、構造設計の簡素化にも繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のスタジアム等では、工期の短縮化や構造設計の簡素化というメリットがあるものの、スタジアム等の建築物を構築する地盤が軟弱地盤である場合には、後方床部と分離した最前床部が沈下する可能性が高くなる。そのために、後方床部と最前床部との間に段差が生じる等の問題が発生する可能性がある。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、床部を最前床部と後方床部とに分離することによるメリットを得ることができながら、最前床部の沈下を防止することができる建築物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、前方のフィールド側から後方側に向けて上る方向に傾斜する床部と、その床部にて支持された観客席とが備えられ、
前記床部は、フィールド側の最前床部と、その最前床部よりも後方側の後方床部とに床部を分離させる状態で備えられ、
前記フィールドには、転圧した盛土がその後方側を土留壁部にて支持される状態で備えられ、
前記最前床部は、フィールドの盛土の上部に設置された土間床部として備えられ、
前記土留壁部は、土間床部の存在領域まで上方側に延長させて、その延長部位に土留壁部と土間床部とを連結するズレ止め筋が配設されている点にある。
【0009】
本構成によれば、フィールドには、転圧した盛土が備えられているので、フィールドを嵩上げることができ、観客席からのフィールドの視認性を向上することができる。盛土を設けるに当たり、その盛土を支持する土留壁部を設けることになる。そこで、本構成によれば、土留壁部を、土間床部の存在領域まで上方側に延長させて、その延長部位に土留壁部と土間床部とを連結するズレ止め筋を配設している。これにより、盛土を設けるために必要となる土留壁部を利用してズレ止め筋を配設して、そのズレ止め筋によって、最前床部である土間床部の沈下を防止することができる。
【0010】
このようにして、本構成によれば、床部を最前床部と後方床部とに分離させることで、工期の短縮化や構造設計の簡素化というメリットを得ることができながら、スタジアム等の建築物を構築する地盤が軟弱地盤であっても、構成の簡素化を図りながら、最前床部である土間床部の沈下を防止することができる。
【0011】
本発明の第2特徴構成は、前記後方床部を支持する後方基礎部が備えられ、
前記土留壁部は、後方基礎部から上方側に延設する状態で配設され、
前記後方床部の前端部位は、土留壁部と縁切りされている点にある。
【0012】
本構成によれば、土留壁部が、後方基礎部から上方側に延設する状態で配設されているので、土留壁部の沈下を防止しながら、フィールドの盛土を土留壁部にて適切に支持することができる。しかも、後方床部の前端部位と土留壁部とは縁切りされているので、例えば、土留壁部から後方床部に対して何らかの力が伝達されて、後方床部に悪影響を及ぼすことを防止することができる。
【0013】
本発明の第3特徴構成は、前記土間床部の下方側には、盛土を介した形で地盤改良体が備えられている点にある。
【0014】
本構成によれば、土間床部の下方側には、盛土を介した形で地盤改良体が備えられているので、ズレ止め筋に加えて、土間床部の沈下を適切に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る建築物の実施形態について図面に基づいて説明する。
この建築物は、例えば、
図1に示すように、スタジアム1であり、フィールド2と、そのフィールド2が位置する前方側から後方側に向けて上る方向に傾斜する床部3と、その床部3にて支持された観客席4と、その観客席4の上方側を覆う屋根構造体5とが備えられている。
【0017】
傾斜する床部3は、前方から後方に向けて上る階段状の段床部にて構成されており、複数の段床部の夫々に対して、観客席4が設置されている。ちなみに、
図1では、観客席4の全てを図示しておらず、一部の観客席4のみ図示している。床部3について、
図1では、下階部分3Aと上階部分3Bとの2階層の階段状の床部分を有するものを例示している。
【0018】
床部3は、
図1及び
図3に示すように、フィールド2側の最前床部31と、その最前床部31よりも後方側の後方床部32とに床部3を分離させる状態で備えられている。
図3は、床部3の下階部分3Aにおいて、フィールド2側の前方側部分を拡大したものである。
【0019】
最前床部31は、
図1及び
図3に示すように、例えば、フィールド2側に最も近い一番下方側の段床部とその一番下方側の段床部よりも後方側の複数の段床部を含むものであり、フィールド2側の複数段の段床部にて構成されている。後方床部32は、床部3において、最前床部31よりも後方側の段床部の全てを含むものであり、最前床部31よりも後方側の全ての段床部にて構成されている。
【0020】
最前床部31と後方床部32とは、
図3に示すように、分離された別体の床部として備えられているが、最前床部31の後方側端部に対して、後方床部32の前方側端部が、上下方向で間隔を空けて重なり合うように配設されている。これにより、前方側から後方側に上る方向では、分離された最前床部31と後方床部32とが連続して並ぶ状態で配設されている。
【0021】
フィールド2には、
図1及び
図3に示すように、転圧した盛土6が備えられている。転圧した盛土6の後方側には、土留壁部7が配設されており、この土留壁部7にて盛土6の後方側が支持されている。
【0022】
最前床部31は、
図1及び
図3に示すように、フィールド2の盛土6の上部に設置された土間床部33として備えられている。土間床部33は、例えば、コンクリート製に構成され、前方側から後方側に向けて上る方向に傾斜する階段状の土間段床部として構築されている。それに対して、後方床部32は、例えば、プレキャストコンクリート製の段床部を複数並べて構築されており、後方床部32を支持する後方床部支持構造体8、その後方床部支持構造体8を支持する後方基礎部9が備えられている。
【0023】
後方床部支持構造体8は、
図1及び
図2に示すように、複数の柱81、それら柱81同士を連結する梁82、前方側から後方側に向けて上る方向に傾斜する状態で延びる段梁83、段梁83の前端部位同士を連結する小梁84等が備えられている。段梁83は、
図2に示すように、その長手方向(前後方向)に直交する方向(左右方向)に間隔を隔てて複数配設されている。段梁83の左右方向で段梁83同士の間に掛け渡す状態で、段梁83の長手方向に並べて複数のプレキャストコンクリート製の段床部を配設することで、後方床部32が構築されている。
【0024】
屋根構造体5は、
図1に示すように、上弦材51、下弦材52、上弦材51と下弦材52とを連結する斜材53等が備えられたトラス状に構成されている。後方床部支持構造体8における複数の柱81のうち、一番後方側の柱81Aは、段梁83よりも上方側に延びており、その上端部には、屋根構造体5を支持する屋根支持部54が配設されている。屋根構造体5の後端部位には、屋根構造体5と柱81Aとを連結するバックステイ55が配設されている。
【0025】
このスタジアム1では、床部3が最前床部31と後方床部32とに分離されており、最前床部31を土間床部33とするのに対して、後方床部32が後方床部支持構造体8を介して後方基礎部9にて支持されている。これにより、最前床部31の建設工事と後方床部32の建設工事とを分けて行うことができるので、例えば、最前床部31の建設工事と後方床部32の建設工事とを並行して行う等により、工期の短縮化を図ることができる。
【0026】
また、このスタジアム1では、フィールド2に転圧した盛土6が備えられているので、フィールド2を嵩上げることができ、観客席4からのフィールド2の視認性を向上できるだけでなく、最前床部31を土間床部33として、最前床部31の構造の簡素化も図っている。ちなみに、この実施形態では、
図1及び
図3に示すように、後方基礎部9が、柱81の下方側に相当する部位を下方側に厚みを拡大されているので、盛土6の一部が後方基礎部9の前側部位の下方側に入り込む状態で配設されている。
【0027】
図3に示すように、盛土6を支持するために、土留壁部7が備えられているが、この土留壁部7は、後方基礎部9の前側部位から上方側に延設する状態で配設されている。土留壁部7は、盛土6の上端部よりも上方側に延長され、最前床部31となる土間床部33の上端部(土間床部33の存在領域)まで延長されている。これにより、最前床部31となる土間床部33の後方側には、土留壁部7の延長部位71が配設され、土留壁部7の延長部位71の後方側に段梁83や小梁84が配設されている。
【0028】
土留壁部7は、例えば、鉄筋72が配筋された鉄筋コンクリート製に構成され、後方基礎部9も、例えば、鉄筋91が配筋された鉄筋コンクリート製に構成されている。土留壁部7の鉄筋72の一部が後方基礎部9に埋設される状態で配筋されており、土留壁部7と後方基礎部9とが一体の構造体として構築されている。
【0029】
土留壁部7の延長部位71には、土留壁部7と最前床部31となる土間床部33とを連結するズレ止め筋10が配設されている。このズレ止め筋10は、前後方向に直交する左右方向において、一定の間隔を隔てて複数配設されている。これにより、盛土6を設けるために必要となる土留壁部7を利用してズレ止め筋10を配設することができ、そのズレ止め筋10によって、最前床部31である土間床部33の沈下を防止することができる。よって、分離された後方床部32と最前床部31との目違い(蹴上げ部の長さが異なる状態)の発生を適切に防止することができる。
【0030】
土留壁部7の後方側には、後方床部支持構造体8における段梁83や小梁84が配設されているが、土留壁部7と段梁83や小梁84とは縁切りされており、お互いに相対移動可能に配設されている。土留壁部7の上方側には、後方床部32の前端部位が配設されているが、土留壁部7と後方床部32とは縁切りされており、お互いに相対移動可能に配設されている。これにより、土留壁部7から後方床部支持構造体8や後方床部32に対して何らかの力が伝達されるのを防止することができるので、土留壁部7から後方床部支持構造体8や後方床部32に対して悪影響を及ぼすような力の伝達を防止することができる。
【0031】
最前床部31となる土間床部33の下方側には、盛土6を介した形で地盤改良体11が備えられている。地盤改良体11は、土間床部33の下方側だけでなく、後方基礎部9において柱81の下方側に相当する部位にも備えられている。これにより、例えば、地盤が軟弱地盤であっても、最前床部31となる土間床部33の沈下を防止できるだけでなく、後方床部32の沈下も防止することができる。
【0032】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、夫々単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0033】
(1)上記実施形態では、傾斜する床部3について、
図1に示すように、下階部分3Aと上階部分3Bとの2階層の階段状の床部分を有するものを例示しているが、1階層の床部分のみを有するものでもよく、3階層以上の階段状の床部分を有するものでもよく、何階層の床部分を有するものとするかは適宜変更が可能である。
【0034】
(2)上記実施形態では、本発明に係る建築物として、スタジアム1を例示したが、傾斜する床部及び観客席を有する建築物であれば、他の建築物にも適用可能であり、スタジアム1に限るものではない。
【符号の説明】
【0035】
1 スタジアム(建築物)
2 フィールド
3 床部
4 観客席
6 盛土
7 土留壁部
9 後方基礎部
10 ズレ止め筋
11 地盤改良体
31 最前床部
32 後方床部
33 土間床部
71 土留壁部の延長部位