(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078972
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】難溶性または不溶性物質用分散剤および分散液
(51)【国際特許分類】
C09K 23/52 20220101AFI20240604BHJP
C01B 32/174 20170101ALI20240604BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20240604BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20240604BHJP
C09C 1/44 20060101ALI20240604BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240604BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20240604BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240604BHJP
A23L 5/00 20160101ALN20240604BHJP
【FI】
C09K23/52
C01B32/174
C01B32/194
C09D17/00
C09C1/44
A61Q19/00
A61K8/67
A61K8/73
A23L5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191626
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 志保
(72)【発明者】
【氏名】松野 研二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 海
【テーマコード(参考)】
4B035
4C083
4D077
4G146
4J037
【Fターム(参考)】
4B035LC04
4B035LC16
4B035LG25
4B035LG26
4C083AD27
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4J037AA01
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4J037FF11
(57)【要約】
【課題】カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合により難溶性または不溶性物質を分散でき、環境にも優しい分散剤及び分散液を提供する。
【解決手段】本発明の難溶性または不溶性物質用分散剤は、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとを含有するものであることを特徴とする。このような分散剤において、カルボキシメチルセルロースは、エーテル化度が0.1以上、0.3以下であってもよい。さらに、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合割合が、重量比で10/1以上、1/9以下であってもよい。難溶性または不溶性物質が、カーボンナノチューブ、グラフェン、β-カロテンまたはフタロシアニン類であってもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとを含有する難溶性または不溶性物質用分散剤。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースは、エーテル化度が0.1以上、0.3以下であることを特徴とする請求項1に記載の分散剤。
【請求項3】
前記カルボキシメチルセルロースと前記アルギン酸ナトリウムとの混合割合が、重量比で10/1以上、1/9以下であることを特徴とする請求項1に記載の分散剤。
【請求項4】
前記難溶性または不溶性物質が、カーボンナノチューブ、β-カロテンまたはフタロシアニン類であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項5】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤と、カーボンナノチューブからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含むカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤と、グラフェンからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含むグラフェン分散液。
【請求項7】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤と、β-カロテンからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含むβ-カロテン分散液。
【請求項8】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤と、フタロシアニン類からなる難溶性または不溶性物質と、水とを含むフタロシアニン類分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてカーボンナノチューブのような難溶性または不溶性物質を水に分散するための分散剤および分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とよぶ。)は、炭素のみで構成されている直径がナノメートルサイズの円筒(チューブ)状の物質であり、炭素原子が六角形に配置されたベンゼン環を平面上にすべて隣り合うように並べたシートを円筒状に丸めた構造をしている。この筒が一層のものが単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」とよぶ。)、直径の異なる複数の筒が層状に重なったものは多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」とよぶ。)とよばれている。
【0003】
カーボンナノチューブは高い導電性や大きな機械的強度を有しており、その特性を活かして導電性塗料、導電性樹脂、電磁波シールドシート、あるいはヒータ部材などへの応用が検討されている。これらに応用するときに重要なことは、CNTの分散性である。CNTは固体状態では、強いπ-π相互作用やファンデルワールス力により束(バンドル)構造体を形成しているので多くの溶媒中で分散が困難である。このため、CNTを溶媒に分散可能にして、種々の応用を可能にするためには、その手助けをする優れた可溶化剤が必要とされている。
【0004】
例えば、CNTを用いた電磁波シールドシートを製造する方法として、CNTと、カルボキシメチルセルロースと、水とを含むカーボンナノチューブ水分散液を作製する工程と、カーボンナノチューブ水分散液を乾燥させる工程とを含み、カーボンナノチューブ水分散液を作製する工程では、分散剤としてカルボキシメチルセルロースのみを用い、カーボンナノチューブ水分散液において、カーボンナノチューブの質量に対するカルボキシメチルセルロースの質量の比を3以下とすることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、基材上に導電層が形成された導電性成形体の製造を目的として、CNT含有組成物、エーテル化度が0.4以上0.7未満であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩からなる分散剤および分散媒を含むCNT含有組成物の分散液が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、特定のアニオン性界面活性剤と特定の多糖類とからなる分散剤を含む水溶液にCNTを添加して分散させた水分散液をシート基材に塗工して優れた電磁波抑制能や発熱能を有するシートを製造することが開示されている。その水分散液は、メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、アルキレンマレイン酸共重合体塩からなるアニオン性界面活性剤のA群と、 水溶性キシラン、キサンタンガム類、グアーガム類、ジェランガム類、カルボキシメチルセルロースからなる多糖類のB群とからそれぞれ一種以上を分散剤として用いたものである(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
さらに、トリアリールアミン化合物と、アルデヒド化合物および/またはケトン化合物とを、酸触媒の存在下で縮合重合することで得られる高分岐ポリマーからなるCNT分散剤も開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-57560号公報
【特許文献2】特開2016-204203号公報
【特許文献3】特開2013-082610号公報
【特許文献4】WO2011/065395
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明は、分散剤としてカルボキシメチルセルロースのみを用いることで、気泡の混入などを防いでいるが、カルボキシメチルセルロースのみの分散剤ではさらなる分散性向上に限界を有すると思われる。
【0010】
特許文献2に記載の発明の電磁波遮蔽材は、エーテル化度が0.4以上0.7未満のカルボキシメチルセルロースを分散剤として用いることにより、少量の分散剤で分散性に優れた分散液を実現している。しかし、カルボキシメチルセルロースのみを用いる場合にはさらなる分散性向上を図ることが難しいと思われる。
【0011】
特許文献3に記載の発明は、特定のアニオン性界面活性剤のA群と、特定の多糖類のB群とからそれぞれ一種以上を分散剤として用いたカーボンナノチューブ水分散液を開示している。この発明は、例えばカルボキシメチルセルロースなどの多糖類のみの分散剤ではCNT濃度を高くするとCNT分散液の粘度が上昇するために、それを抑制することを目的としてアニオン性界面活性剤を混合して塗工処理ができるようにしている。
【0012】
特許文献4に記載の発明は、トリアリールアミン構造を分岐点として含有する高分岐ポリマーからなるものであるため、CNTの分散能に優れているが、分散媒として有機溶媒を使用することから環境面で課題を有する。
【0013】
環境問題は現在非常に重要なテーマであり、非常に優れた特性を有する材料であっても環境への負荷が大きい場合には使用することができない。環境への影響、生体への適合性などを考慮した場合、水は最も適した溶媒である。また、水難溶性物質を溶解させるために用いる分散剤も、環境にやさしい、または生体に適合する材料であることが望まれる。そのため、難溶性または不溶性物質を分散させる分散剤も天然物または生分解性を有する化合物であることが好ましい。
【0014】
本発明は、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合により難溶性または不溶性物質を分散でき、環境にも優しい分散剤及び分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために本発明の難溶性または不溶性物質用分散剤は、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとを含有するものであることを特徴とする。このような分散剤において、カルボキシメチルセルロースは、エーテル化度が0.1以上、0.3以下であってもよい。
【0016】
なお、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度とは、セルロースの無水グルコース単位あたり3つ存在する水酸基のうち、カルボキシメチル基に置換された数を示すが、本発明では下記の方法で算出した値をエーテル化度とした。すなわち、カルボキシメチルセルロースを200mg計量し、これを80%濃度のエタノール液2mLに懸濁した。さらに、塩酸(HCl)2mLを加え、1時間撹拌した後、遠心機で6,000G、10min印加して沈殿物を得た。この沈殿物を80%濃度のエタノール液で2回洗浄した後、精製水20mLを加え撹拌した。さらに、0.1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液25mLを加えて15分加熱し、この溶液に0.1Mの塩酸(HCl)を加えて滴定し、加えた塩酸(HCl)の量をもとにエーテル化度(CM化度)を算出した。
さらに、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合割合が、重量比で10/1以上、1/9以下であってもよい。
【0017】
この場合において、難溶性または不溶性物質が、カーボンナノチューブ、グラフェン、β-カロテンまたはフタロシアニン類であってもよい。カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムともに環境にやさしい材料であって、これらを混合した分散剤はカーボンナノチューブ、グラフェンやβ-カロテンあるいはフタロシアニン類などの難溶性物質に対する分散性を向上させることができるだけでなく、環境にも優しい分散液となる。
【0018】
また、本発明のカーボンナノチューブ分散液は、上記記載の分散剤と、カーボンナノチューブからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含むことを特徴とする。このようなカーボンナノチューブ分散液を用いれば、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料や電池の負極材等の目的に使用することができる。
【0019】
さらに、本発明のグラフェン分散液は、上記記載の分散剤と、グラフェンからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含むことを特徴とする。このようなグラフェン分散液を用いれば、基材表面に塗工して導電性コーティング、電磁波シールド材料、電解放出材料等の目的に使用することができる。
【0020】
さらに、本発明のβ-カロテン分散液は、上記記載の分散剤と、β-カロテンからなる難溶性または不溶性物質と、有機溶媒、水とを含むことを特徴とする。カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとはともに食品や化粧品等に使用されており安全性が確認されている材料であるので、β-カロテン分散液を化粧品素材や食品添加物として応用することもできる。
【0021】
さらに、本発明のフタロシアニン類分散液は、上記記載の分散剤と、フタロシアニン類からなる難溶性または不溶性物質と、有機溶媒、水とを含むことを特徴とする。フタロシアニン類は顔料としてよく使われているが、分散性を高めた分散液を用いれば、種々の色素への応用が容易になる。
【0022】
なお、フタロシアニンは化学的には4個のイソインドールを持つ環状化合物であり、中心に金属のない場合を化学的にフタロシアニンといい、中心に金属を持つものも多数あり、銅フタロシアニンはその代表的なものである。本発明では、銅フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、フタロシアニンマグネシウム(II)、すず(II)フタロシアニン、無金属フタロシアニン、低塩素化フタロシアニンなどを含めてフタロシアニン類とよぶことにする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の難溶性または不溶性物質用分散剤および分散液は、CNT等のような難溶性または不溶性物質を容易に分散させることができ、特にCNTを分散した分散液は電子部品分野に大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態の実施例1に係る分散剤として用いるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度と、CNTとしてMWCNTを用いた場合のMWCNT分散度との関係を示す図である。
【
図2】同実施の形態の実施例1に係る分散剤について、カルボキシメチルセルロースに対してアルギン酸ナトリウムを混合した場合のMWCNT分散度と分散液の粘度との関係を示す図である。
【
図3】同実施の形態の実施例2に係るSWCNTを用いて分散した結果を、MWCNT分散結果と比較して示した図である。
【
図4】同実施の形態の実施例3に係るグラフェンを用いて分散した結果を、MWCNT分散結果と比較して示す図である。
【
図5】同実施の形態の実施例4に係るβ-カロテンを用いて分散した結果を紫外可視分光光度計により吸収スペクトルを測定した図である。
【
図6】同実施の形態の実施例5に係る銅フタロシアニンを用いて分散した結果を紫外可視分光光度計により吸収スペクトルを測定した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施の形態)
【0026】
以下、本発明の実施の形態の難溶性または不溶性物質用分散剤について説明する。
図1は、本実施の形態に係る分散剤として用いるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度と、CNTとしてMWCNTを用いた場合のMWCNT分散度との関係を示す図である。
図2は、カルボキシメチルセルロースに対してアルギン酸ナトリウムを混合した場合のMWCNT分散度と分散液の粘度との関係を示す図である。これらの図と後述する表とを用いて、本実施の形態に係る難溶性または不溶性物質用分散剤と分散液について説明する。
【0027】
本発明は、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムという多糖類を用いた難溶性または不溶性物質用の分散剤である。多糖類であるカルボキシメチルセルロースに、同じアニオン性多糖類であるアルギン酸ナトリウムを混合することにより高い分散能力が得られることを見出して本発明に至った。特に、エーテル化度を0.1以上、0.3以下に制御したカルボキシメチルセルロースに、アルギン酸ナトリウムを混合した分散剤は、分散度を大きくでき、かつ、分散液としたときにCNTの分散性が安定に維持できるという特徴を有する。カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は0.1以上、0.3以下が好ましいが、0.1~0.2の範囲はより好ましい範囲である。
【0028】
さらに、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合割合は、重量比で10/1以上、1/9以下とすれば大きな分散度と低い粘度を有する難溶性または不溶性物質に対する分散液を製造することができる。特に分散対象である不溶性物質の濃度が0.1~0.2%の時は、10/1~1/1の混合割合、不溶性物質の濃度が1%以上の時は、10/1~2/1の混合割合が好適である。
【0029】
なお、カルボキシメチルセルロースは、一般にエーテル化度が0.3程度以下では有色で、かつ半透明であるが、0.4以上では水溶性で透明である。カルボキシメチルセルロースを分散剤として用いている例では、水溶性で透明な状態としたものを用いているのが多い。また、アルギン酸ナトリウムは、アルギン酸のカルボキシル基がNaイオンと結合したかたちの中性塩である。アルギン酸は水に溶けないが、アルギン酸ナトリウムは冷水や温水に良く溶けて水溶液となる。
【0030】
なお、カルボキシメチルセルロースの分子量は1,000~200万の範囲であれば特に制約なく用いることができる。また、アルギン酸ナトリウムの分子量についても1,000~200万の範囲であれば制約なく用いることができる。特にカルボキシメチルセルロースの分子量は1万~20万、アルギン酸ナトリウムの分子量についても1,000~4万がより好適である。あるいは、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムの重量平均分子量の比が100/1~5/1である場合がより好適である。
【0031】
本実施の形態では、エーテル化度の異なるカルボキシメチルセルロースは、セルロースを以下のようにカルボキシメチル化して作製した。最初に、セルローススラリー100gをイソプロパノールで置換した。次に、30%濃度の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液10gとモノクロロ酢酸ナトリウム5gとを加え、45℃で攪拌した。15分の攪拌時間後、60分の攪拌時間後および180分の攪拌時間後に、それぞれ反応液の一部を採取し、エタノールを加えて沈殿物を得た。この沈殿物を90%濃度のエタノールで洗浄した後、70℃で乾燥させてエーテル化度の異なるカルボキシメチルセルロースを得た。これらのカルボキシメチルセルロースのエーテル化度の評価方法は上記したとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0032】
なお、セルロースは植物の主要成分として知られているが、本発明ではさらにホロセルロース、セルロース繊維、セルロースファイバー、セルロースナノファイバー、酸化セルロース、酸化セルロースナノファイバー、バクテリアセルロースや微結晶セルロースなども含む。
(実施例1)
【0033】
本実施例では、CNTとしてMWCNTを用いた場合について説明する。
図1は、本実施例に係る分散剤として用いるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度とMWCNT分散度との関係を示す図である。CNTの分散度の評価は以下のようにして行った。MWCNTの50mgを、上記したエーテル化度の異なるカルボキシメチルセルロースの水溶液50mLに投入し、超音波ホモジナイザ(600W)を用いて分散した。その後、遠心機(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ(株)、CT18R)を用いて10,000G、1時間分離して上清を試料とした。この上清を紫外可視分光光度計((株)島津製作所、UV-1900)を用いて波長500nmの吸光度を測定し、得られた吸光度をもとに計算した値を分散度とした。
【0034】
図1からわかるように、本実施例によるカルボキシメチルセルロースではエーテル化度が0.5よりも、0.2と0.3のほうが、分散度は大きい結果を得た。カルボキシメチルセルロースのエーテル化度の最適範囲の設定には、MWCNTの分散度が大きいことだけでなく、水に対する溶解性や分散液の粘度も重要な要素である。そこで、エーテル化度の最適範囲を設定するために、種々のエーテル化度のカルボキシメチルセルロースを作製し、水への溶解性、分散度および分散液粘度を評価した。
【0035】
これらの評価は、簡略化のためにすべて目視により判断して、〇、×等で表示した。ただし、今までの測定数値と目視評価とを行った経験をもとに評価しており、分散度は、目視評価で〇は概ね29以上、目視評価で◎は概ね36以上、目視評価で△は概ね29未満、目視評価で×は概ね10以下に相当する。また、粘度は、目視評価で△は概ね7mPa・s以上、目視評価で〇は概ね6mPa・s以下、目視評価で×は概ね10mPa・s以上や測定不可の場合に相当する。さらに、水への溶解性は、MWCNTの塊が視認できるような場合は×、視認できず黒色であるが全体としてきれいな液状の場合には◎、中間の場合を〇と評価した。表2および表3についても同じである。なお、表1では、水に対するカルボキシメチルセルロースの濃度を0.2%とし、MWCNTを0.1%混合した場合である。なお、粘度については表3に目視評価結果と粘度測定結果との両方を示しているが、目視でも十分に評価可能であることが確認できている。
【0036】
【0037】
表1からわかるように、水に対する溶解性は、エーテル化度が0.1以上あれば〇と判断したが、0.4以上はさらに良好な溶解性を有するので◎と判断した。一方、MWCNTの分散度については、エーテル化度が0.1以上、0.3以下では○、0.4以上では△と判断した。分散液の粘度は、エーテル化度が0を除いてすべて△であった。ただし、粘度の△の評価は、目標とする粘度よりも大きいが、塗工等に使用可能と評価した。これらを総合的に評価すると、エーテル化度は0.1以上、0.3以下が好ましいことがわかった。
【0038】
表2は、種々のエーテル化度を有するカルボキシメチルセルロースに対して、アルギン酸ナトリウムを混合した場合の水への溶解性、MWCNT分散度及び分散液粘度を評価した結果である。表2では、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合割合は5/1とし、水に対する分散剤の濃度を0.2%とした。この分散液50mLに対してMWCNTを50mg加えて、超音波ホモジナイザー(600W)を用いて分散した。粘度はMWCNTを分散した状態の液を用いて計測した。
【0039】
【0040】
表2からわかるように、カルボキシメチルセルロースのみの場合に比べて分散度と粘度ともに良好な結果が得られた。特に、エーテル化度が0.1以上、0.3以下の場合には水への溶解性、分散度及び粘度の評価項目をすべてクリアーできることがわかった。特に、分散液の粘度が、6mPa・s以下の時に流動性が高く、塗布時の作業効率が高くなるため取り扱いやすく、好適である。
【0041】
つぎに、アルギン酸ナトリウムを混合した場合の分散液の特性について説明する。
図2は、カルボキシメチルセルロースに対してアルギン酸ナトリウムを種々の割合で混合した場合の分散度と分散液の粘度との関係を示す図である。カルボキシメチルセルロースのエーテル化度を0.3とし、水に対する分散剤の濃度を0.2%とし、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合比率を変えて、0.1%MWCNTを分散した時の分散度と粘度との関係を求めた結果である。カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合比を10/0(カルボキシメチルセルロースのみの場合)~1/1まで変化させた分散剤を用いたが、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとを10/1の割合で混合すると分散度はカルボキシメチルセルロースのみの場合に比べて25%改善された。2/1の混合割合までは分散度はほぼ同じであったが、1/1では若干低下する傾向がみられた。しかし、1/1の混合割合でも、カルボキシメチルセルロースのみの場合と比べると20%改善されることがわかった。一方、分散液の粘度はカルボキシメチルセルロースのみの場合(10/0)の8mPa・sからアルギン酸ナトリウムの混合割合を大きくするにつれて減少し、塗工作業等に適する粘度にできることがわかった。
【0042】
表3は、カルボキシメチルセルロースに対してアルギン酸ナトリウムとの混合割合を種々変化させて分散度と分散液の粘度とを目視により評価した結果である。この表においても
図2と同じように、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度を0.3とし、水に対する分散剤の濃度を0.2%とし、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合比率を変えて、0.1%MWCNTを分散した。
【0043】
【0044】
表3からわかるように、アルギン酸ナトリウムを10/1~1/9の範囲で混合すれば、分散度は改善されるともにその分散状態を維持できることがわかった。さらに、10/1~1/1の範囲の場合にはさらに分散度を改善できることが見いだされた。また、粘度も、アルギン酸ナトリウムを10/1~1/9の範囲で混合した場合には、塗工等に使用できる粘度とすることができることがわかった。しかし、混合割合が1/10では超音波処理後に凝集が生じ、流動性がなくなり、分散度も粘度も測定できない状態となった。
【0045】
カルボキシメチルセルロースにアルギン酸ナトリウムを混合することにより分散度が改善され、かつ粘度が小さくなるのは、MWCNTの表面に物理吸着したカルボキシメチルセルロースと、水中に浮遊しているアルギン酸ナトリウムとの相互作用が生じて、MWCNTが凝集するのを防止することによるものと推測される。この結果、分散度が改善され、しかも分散状態を維持でき、かつ粘度が小さくなると推定している。
(実施例2)
【0046】
本実施例では、CNTとしてSWCNTを用いた場合について説明する。
図3は、SWCNTを用いて分散した結果を、MWCNT分散結果と比較して示している。カルボキシメチルセルロースのエーテル化度を0.3とし、水に対する分散剤の濃度を0.2%とし、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合比率を2/1とした分散剤を用いた。分散液50mLに、SWCNTを50mg添加し、超音波ホモジナイザ(600W)を用いて分散した。この手順はMWCNTと同様であるので説明を省略する。
図3には、比較のためにMWCNTの分散度も表示しているが、これは
図2の混合割合が2/1のデータと同じである。
図3からわかるように、SWCNTの分散度は29程度であり、MWCNTに比べると小さいが、実用に供することができる程度の分散度を得ることができた。なお、SWCNTについては、アスペクト比が5000~100,000の範囲のものが特に好適である。
(実施例3)
【0047】
本実施例では、グラフェンを用いた場合について説明する。
図3は、グラフェンを用いて分散した結果を、MWCNT分散結果と比較して示している。カルボキシメチルセルロースのエーテル化度を0.3とし、水に対する分散剤の濃度を0.2%とし、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合比率を2/1とした分散剤を用いた。分散液50mLに、グラフェンを50mg添加し、超音波ホモジナイザ(600W)を用いて分散した。この手順はMWCNTと同様であるので説明を省略する。
図4には、比較のためにMWCNTの分散度も表示しているが、これは
図2の混合割合が2/1のデータと同じである。
図4からわかるように、グラフェンの分散度は27程度であり、MWCNTに比べると小さいが、実用に供することができる程度の分散度を得ることができた。
(実施例4)
【0048】
本実施例では、β-カロテンを用いた場合について説明する。本実施例では、エーテル化度が0.3のカルボキシメチルセルロースを用いて、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合割合を2/1とした分散剤を作製した。この分散剤を水に0.2%添加して0.2%水溶液を作製した。この水溶液に、β-カロテンを10mg添加し、超音波ホモジナイザー(600W)を用いて分散した。本実施例では、分散度を求めるのではなく、紫外可視分光光度計((株)島津製作所、UV-1900)を用いて吸収スペクトルを測定して評価した。この結果を
図5に示す。
【0049】
図5からわかるように、分散剤を添加せず、水中に直接β-カロテンを添加した場合には、β-カロテンが水に溶解しないので紫外可視分光光度計の測定では吸収が生じなかった。しかし、分散剤を添加した分散液の場合には、波長500nmの吸光度は0.317となり、良好な分散度を得ることができた。
(実施例5)
【0050】
本実施例では、フタロシアニン類として銅フタロシアニン(II)(β-型)を用いた場合について説明する。本実施例では、エーテル化度が0.3のカルボキシメチルセルロースを用いて、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムとの混合割合を2/1とした分散剤を作製した。この分散剤を水に0.2%添加して0.2%水溶液を作製した。この水溶液に、銅フタロシアニン(II)(β-型)を1mg添加し、超音波ホモジナイザー(600W)を用いて分散した。本実施例では、分散度を求めるのではなく、紫外可視分光光度計((株)島津製作所、UV-1900)を用いて吸収スペクトルを測定して評価した。この結果を
図6に示す。
【0051】
図6からわかるように、分散剤を添加せず、水中に直接銅フタロシアニン(II)(β-型)を添加した場合には、銅フタロシアニン(II)(β-型)が水に溶解しないので紫外可視分光光度計の測定では吸収が生じなかった。しかし、分散剤を添加した分散液の場合には、波長500nmの吸光度は0.3となり、良好な分散度を得ることができた。
【0052】
なお、本実施の形態および実施例では、カルボキシメチルセルロースを用いた場合について説明したが、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩であるカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルシウム塩であるカルボキシセルロースカルシウム、カリウム塩であるカルボキシメチルセルロースカリウム、アンモニウム塩であるカルボキシメチルセルロースアンモニウムなどの塩類を用いてもよい。特にカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩であるカルボキシメチルセルロースナトリウムが好適である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の難溶性または不溶性物質用分散剤及び分散液は、CNTを用いる場合には導電性を生かした電磁波遮蔽シートなどの電子部品分野、β-カロテンを用いる場合には食品分野や化粧品分野、フタロシアニンを用いる場合には塗料分野に有用である。