(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078978
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】電子線照射装置、電子線被照射物の保護カバー及び電子線被照射物の保護方法
(51)【国際特許分類】
G21K 5/08 20060101AFI20240604BHJP
B29C 35/08 20060101ALI20240604BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G21K5/08 C
B29C35/08
G21K5/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191637
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 和治
【テーマコード(参考)】
4F203
【Fターム(参考)】
4F203AA45
4F203AC03
4F203AC04
4F203AG01
4F203AG08
4F203AJ02
4F203AK03
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC07
4F203DL14
4F203DN12
4F203DN21
(57)【要約】
【課題】電子線照射される被照射物を保護することができる電子線照射装置、電子線照射装置において被照射物を保護するための保護カバー、及び、電子線照射装置において被照射物を保護する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】電子線照射装置1は、照射室4、電子線を照射窓部30から照射室4内の被照射物2に照射する装置本体3、被照射物2を保護する保護カバー6を備える。保護カバー6は、電子線を透過可能でありかつ被照射物2に覆い被さる被覆材7、被覆材7の外周縁に沿うように被覆材7上に載せられる定置具8を備える。被覆材7において、定置具8が載せられる部分は定置具8により載置台5に押し付けられており、定置具8は、冷却用流体が流通する内部流路80と、冷却用流体を内部流路80に導入する導入口81と、冷却用流体を内部流路80から導出する導出口82と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線被照射物を載置する載置台を備えた照射室と、電子線を発生させかつ前記電子線を照射窓部から前記照射室内の前記電子線被照射物に照射する装置本体と、を少なくとも備えた電子線照射装置であって、
前記載置台上に設けられて前記電子線被照射物を保護する保護カバーをさらに備え、
前記保護カバーは、前記電子線を透過可能でありかつ前記電子線被照射物に覆い被さる被覆材と、前記被覆材の外周縁の少なくとも一部分に沿うように前記被覆材上に載せられる少なくとも一つの定置具と、を備え、
前記被覆材において、前記定置具が載せられる部分は前記定置具により前記載置台に押し付けられており、
前記定置具は、該定置具を冷却するための冷却用流体が流通する内部流路と、前記冷却用流体を前記内部流路に導入する導入口と、前記冷却用流体を前記内部流路から導出する導出口と、を有する、電子線照射装置。
【請求項2】
前記定置具は、前記被覆材と対向する部分に、前記被覆材を前記定置具に固定する固定手段が設けられている、請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記定置具は、前記被覆材と対向する下面が平坦であり、
前記固定手段は、前記定置具の下面に設けられている、請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記固定手段は、接着剤、粘着剤又は両面テープである、請求項2又は3に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記定置具は、前記被覆材の外周縁の全周に沿うように前記被覆材上に載せられる平面視枠状を呈しており、前記電子線被照射物の周囲に前記定置具が配置される、請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記定置具の平面視における大きさは、前記装置本体の前記照射窓部から前記載置台に照射される前記電子線の照射領域の平面視における大きさよりも小さい、請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項7】
前記定置具の高さは、3cm以下である、請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項8】
前記被覆材は、可撓性を有する、請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項9】
前記被覆材は、金属製である、請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項10】
前記被覆材は、アルミニウム箔で構成される、請求項8又は9に記載の電子線照射装置。
【請求項11】
冷却用ガスにより前記照射窓部を冷却する冷却器をさらに備える、請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項12】
載置台に載置された電子線被照射物に電子線を照射する電子線照射装置において、前記載置台上に設けられて前記電子線被照射物を保護するための保護カバーであって、
前記電子線を透過可能でありかつ前記電子線被照射物に覆い被さる被覆材と、前記被覆材の外周縁の少なくとも一部分に沿うように前記被覆材上に載せられて前記被覆材を前記載置台の方に押し付ける少なくとも一つの定置具と、を備え、
前記定置具は、該定置具を冷却するための冷却用流体が流通する内部流路と、前記冷却用流体を前記内部流路に導入する導入口と、前記冷却用流体を前記内部流路から導出する導出口と、を有する、保護カバー。
【請求項13】
載置台に載置された電子線被照射物に電子線を照射する電子線照射装置において、前記載置台上に設けられて前記電子線被照射物を保護する方法であって、
前記電子線を透過可能な被覆材を前記電子線被照射物に覆い被せ、
少なくとも一つの定置具を前記被覆材の外周縁の少なくとも一部分に沿うように前記被覆材上に載せて前記被覆材を前記載置台の方に押し付け、
前記定置具の内部に冷却用流体を流通させて前記定置具を冷却する、ことを特徴とする電子線被照射物の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置、電子線被照射物の保護カバー及び電子線被照射物の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線照射装置は、一般的に、
図6に示すように、電子線を発生させる装置本体111と、装置本体111が設けられる照射室112と、を備える。装置本体111は、真空中でフィラメントの加熱により電子を発生させ、電子を加速して電子線とし、電子線を照射窓部113から出射することで、照射室112内において、照射窓部113に対向して配置された電子線被照射物(本開示では、「被照射物」ともいう。)110に電子線を照射する。照射窓部113は、電子線が透過可能な金属箔(窓箔)114により覆われており、この金属箔114は、真空状態の装置本体111内と大気圧状態の照射室112内とのバウンダリングとして機能する。
【0003】
照射窓部113の金属箔114は、電子線に曝されているため電子線のエネルギーの一部を吸収することで温度が上昇する。金属箔114は例えばチタンなどで形成されるが、電子線照射により過度に発熱すると、強度の低下により変形したり劣化により破損したりする。そのため、照射窓部113の金属箔114に、空気や窒素ガスなどの冷却用ガスを吹き付けて金属箔を冷却するための冷却器115を備えた電子線照射装置が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
照射窓部113の金属箔114に吹き付けられた冷却用ガスは、金属箔114に当たることで反射し、照射窓部113に対向して配置された被照射物110に勢いよく当たるおそれがある。冷却用ガスが当たることで被照射物110が移動するおそれがある。また、被照射物110が粉粒体などの軽量物であると、被照射物110が飛散するおそれがある。また、飛散した被照射物110が照射窓部113の金属箔114に当たることで金属箔114がダメージを受けるおそれがある。また、金属箔114で反射した冷却用ガスの対流により照射室112内の塵埃が被照射物110に付着するおそれがある。なお、被照射物110が粉粒体の場合、粉粒体110は通常は袋に収容された状態で照射室112内に設置される。この場合、電子線照射により粉粒体に含まれる空気の熱膨張により個々の粒や粉が袋を突き破ることで、被照射物110が飛散するおそれもある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、電子線照射される被照射物を保護することができる電子線照射装置、電子線照射装置において被照射物を保護するための保護カバー、及び、電子線照射装置において被照射物を保護する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一態様は、電子線被照射物を載置する載置台を備えた照射室と、電子線を発生させかつ前記電子線を照射窓部から前記照射室内の前記電子線被照射物に照射する装置本体と、を少なくとも備えた電子線照射装置に関する。本発明の電子線照射装置は、前記載置台上に設けられて前記電子線被照射物を保護する保護カバーをさらに備え、前記保護カバーは、前記電子線を透過可能でありかつ前記電子線被照射物に覆い被さる被覆材と、前記被覆材の外周縁の少なくとも一部分に沿うように前記被覆材上に載せられる少なくとも一つの定置具と、を備え、前記被覆材において、前記定置具が載せられる部分は前記定置具により前記載置台に押し付けられており、前記定置具は、該定置具を冷却するための冷却用流体が流通する内部流路と、前記冷却用流体を前記内部流路に導入する導入口と、前記冷却用流体を前記内部流路から導出する導出口と、を有する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の第二態様は、載置台に載置された電子線被照射物に電子線を照射する電子線照射装置において、前記載置台上に設けられて前記電子線被照射物を保護するための保護カバーに関する。本発明の保護カバーは、前記電子線を透過可能でありかつ前記電子線被照射物に覆い被さる被覆材と、前記被覆材の外周縁の少なくとも一部分に沿うように前記被覆材上に載せられて前記被覆材を前記載置台の方に押し付ける少なくとも一つの定置具と、を備え、前記定置具は、該定置具を冷却するための冷却用流体が流通する内部流路と、前記冷却用流体を前記内部流路に導入する導入口と、前記冷却用流体を前記内部流路から導出する導出口と、を有する、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の第三態様は、載置台に載置された電子線被照射物に電子線を照射する電子線照射装置において、前記載置台上に設けられて前記電子線被照射物を保護する方法に関する。本発明の電子線被照射物の保護方法は、前記電子線を透過可能な被覆材を前記電子線被照射物に覆い被せ、少なくとも一つの定置具を前記被覆材の外周縁の少なくとも一部分に沿うように前記被覆材上に載せて前記被覆材を前記載置台の方に押し付け、前記定置具の内部に冷却用流体を流通させて前記定置具を冷却する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図6】従来例の電子線照射装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る電子線照射装置について、図面を参照して詳細に説明する。
図1から
図3は、本実施形態の電子線照射装置1の概略構成を示す。電子線照射装置1は、電子線を被照射物2に照射することにより、例えば被照射物2に対して素材の性質改善、機能付加、殺菌・滅菌などを行う。電子線照射装置1は、被照射物2に照射する電子線を発生させる装置本体3と、被照射物2を載置する載置台5を備えた照射室4と、照射室4内の載置台5上に設けられて被照射物2を保護する保護カバー6と、を少なくとも備える。
【0013】
電子線が照射される被照射物2は、特に限定されるものではなく、例えば電線、光ケーブル、ワイヤー、ゴムホース、チューブ、フィルム、シート、粉粒体などを挙げることができる。
【0014】
装置本体3は、電子線の生成及び被照射物2に対する電子線の照射を行う。装置本体3は、その内部を真空ポンプにより減圧した状態で、フィラメントの加熱により電子を発生させ、電子を加速して電子線とし、電子線を照射窓部30から装置本体3の外部に出射する。装置本体3は、上述した電子線の生成及び被照射物2に対する電子線の照射が可能であれば、その構造は特に限定されるものではなく、走査型であってもよいし、非走査型であってもよい。
【0015】
照射窓部30は、照射室4内で開口する装置本体3の一部分であり、照射窓部30の下方が電子線の照射領域とされている。照射窓部30は、金属箔(窓箔)31により覆われている。金属箔31は、電子線をその厚み方向に透過可能な金属製の薄いシートであり、例えばチタンにより形成することができる。金属箔31の厚みは、金属箔31を透過する電子線のエネルギー損失を抑えるためには極力薄いことが好ましいが、金属箔31は真空状態の装置本体3内と大気圧状態の照射室4内との境界であり、圧力バウンダリングとして機能しているため、1気圧の差圧に耐えうる程度の厚みを有するように、金属箔31の厚みが設計されている。
【0016】
電子線照射装置1は、特に限定されないが、好ましくは冷却用ガスにより照射窓部30を冷却する冷却器10をさらに備える。冷却器10は、照射窓部30の金属箔31に冷却用ガスを吹きつけるためのノズル100と、ノズル100に冷却用ガス供給源(図示は省略)から供給される冷却用ガスを流通させるダクト101と、を備えている。
【0017】
照射窓部30の金属箔31は、電子線に曝されているため、電子線のエネルギーの一部を吸収することで温度が上昇し、電子線照射により過度に発熱すると、強度の低下により変形したり劣化により破損したりする。そのため、照射窓部30の金属箔31に空気や窒素ガスなどの冷却用ガスを吹き付けて金属箔31を冷却するために、冷却器10が装置本体3に設けられている。
【0018】
照射室4は、その外部に電子線が流出するのを遮るために鉛系の金属で形成されている。照射室4は、例えば直方体型の箱体であり、その内部の底壁40上に載置台5が設けられている。また、照射室4は、載置台5の上方において、照射窓部30と載置台5とが対向配置されるように、装置本体2が設けられている。
【0019】
載置台5は、天板部50及び一つ又は複数の脚部51を備え、天板部50の上面に被照射物2を載置可能である。天板部50の上面は平坦である。天板部50は、特に限定されないが、例えば天板部50の内部に冷却水を導入、導出することで天板部50を冷却する冷却手段が好ましくは設けられる。載置台5は、特に限定されないが、好ましくは照射室4の底壁40上に移動可能に設置される。
【0020】
保護カバー6は、照射室4内の載置台5上に、被照射物2を覆うように設けられる。保護カバー6は、被照射物2に覆い被さる被覆材7と、被覆材7の外周縁の少なくとも一部分に沿うように被覆材7上に載せられる少なくとも一つの定置具8と、を備える。
【0021】
被覆材7は、冷却用ガスが照射窓部30の金属箔31に吹き付けられることにより金属箔31で反射し、この反射した冷却用ガスが被照射物2に接触するのを保護する。また、被覆材7は、照射室4内の塵埃などの異物が被照射物2に付着するのを保護する。また、被覆材7は、被照射物2が上述した冷却用ガスの吹き付けやその他の要因で載置台5上から飛散するのを保護する。
【0022】
被覆材7は、電子線をその厚み方向に透過可能である。そのため、載置台5上の被照射物2が被覆材7により覆われていても、被照射物2に電子線を照射可能である。また、被覆材7は、電子線照射により発熱するため、耐熱性を有する。また、被覆材7は、照射窓部30の金属箔31で反射した冷却用ガスが勢いよく当たるおそれがあるため、冷却用ガスが吹き付けられても破損せずに耐えられる耐久性を有する。また、被覆材7は、特に限定されないが、好ましくは可撓性を有する。被覆材7が可撓性を有し、柔軟に変形可能であることで、載置台5上の被照射物2の高さが変わっても、被覆材7の高さ(
図2に示す載置台5の上面から被覆材7の最上位置までの垂直距離H)を被照射物2の高さに応じて容易に変えることができる。また、被覆材7は、被照射物2が例えば粉粒体である場合に、被照射物2の個々の粒や粉が載置台5上から飛散して被覆材7に衝突するおそれがあるため、特に限定されないが、好ましくは被照射物2が衝突しても破損せずに耐えられる耐久性を有する。また、被覆材7は、特に限定されないが、安価な素材で形成されることが好ましい。
【0023】
上述した観点から、被覆材7は、アルミニウム製のシート、例えば厚みの薄いアルミニウム箔で構成することができる。なお、被覆材7は、アルミニウム以外を素材とする金属製のシート、例えばチタン製のシート、好ましくは厚みの薄いチタン箔で構成することも可能であり、さらに耐熱性は劣るが金属以外の素材で形成されたシート(もしくはフィルム)で構成してもよく、その素材は特に限定されない。そのうえ、被覆材7は必ずしも可撓性を有するシート状である必要はなく、固くて容易に変形しない板状であってもよく、その形態は特に限定されない。
【0024】
被覆材7は、電子線に曝されているため電子線のエネルギーの一部を吸収することで温度が上昇する。被覆材7の厚みは、被覆材7を透過する電子線のエネルギー損失を抑えたり、被覆材7の電子線照射による温度上昇を抑えるためには極力薄いことが好ましい。被覆材7の厚みは、素材に応じて適宜設定されるが、被覆材7がアルミニウム製の場合、例えば11μm以上17μm以下であることが好ましい。厚みが11μm以上17μm以下のアルミニウム製の被覆材7としてはアルミホイルを使用することができ、アルミホイルは一般に入手しやすく、また、安価であることからコストの低減を図ることができる。
【0025】
被覆材7は、外周縁の少なくとも一部分に沿って定置具8が載せられることで、定置具8が載せられる部分が定置具8により載置台5に上から押し付けられている。これにより、被覆材7は、載置台5上の一定の場所、具体的には被照射物2を覆う場所に止まっている。
【0026】
定置具8は、特に限定されないが、好ましくはステンレスなどの錆耐性を有する金属製である。定置具8は、被照射物2の周りにおいて、被覆材7の一部分を載置台5に上から押し付けることができれば、その平面視形状は特に限定されない。
【0027】
ただし、定置具8により被覆材7を安定して載置台5上に定置する、被覆材7と載置台5との間の被照射物2の収容空間を極力閉鎖された空間とするなどの観点から、定置具8は、好ましくは、被覆材7の外周縁の全周に沿うように被覆材7上に載せられて被照射物2の周囲に配置される平面視枠状を呈する。定置具8の平面視形状は、被照射物2の周囲を囲んでその内側の開口した領域に被照射物2を位置できれば、円形の枠状や楕円形の枠状を呈していてもよいし、矩形の枠状を呈していてもよいし、その他の多角形の枠状を呈していてもよい。
【0028】
定置具8の平面視における大きさは、特に限定されないが、好ましくは、装置本体3の照射窓部30から載置台5に照射される電子線の照射領域の平面視における大きさよりも小さい。言い換えれば、定置具8は、平面視において、装置本体3の照射窓部30から載置台5に照射される電子線の照射領域の内側に収まる大きさである。定置具8の平面視における大きさが載置台5に照射される電子線の照射領域の平面視における大きさよりも大きいと、定置具8に電子線に曝されるのを抑制でき、定置具8が電子線照射により発熱するのを抑制できるが、定置具8が大きくなり過ぎて保護カバー6を製作したり持ち運んだりするのに効率が悪くなるおそれがある。定置具8の平面視における大きさが載置台5に照射される電子線の照射領域の平面視における大きさよりも小さいことで、保護カバー6を効率よく製作したり持ち運んだりすることができる。
【0029】
なお、定置具8の平面視における大きさが載置台5に照射される電子線の照射領域の平面視における大きさよりも小さいと、定置具8が電子線に曝され、定置具8が電子線照射により発熱する。しかし、この課題は以下で説明するように、定置具8の内部に冷却用流体を流通させることで解消可能である。
【0030】
定置具8の鉛直方向に平行な断面における形状(外形)は、円形状、矩形状、その他の多角形状など、種々の形状にすることができるが、定置具8において被覆材7と対向する下面を平坦とすることができるように、例えば矩形状にすることが好ましい。定置具8の下面が平坦であることで、被覆材7の一部分を面による広範囲で載置台5に押し付けることができ、被覆材7を安定して載置台5上に定置することができる。また、後述するように、被覆材7は定置具8に両面テープなどの固定手段9により固定されるが、定置具8において被覆材7と対向する部分であり、被覆材7に固定される部分が平坦な下面となることで、定置具8を被覆材7に強く固定することができる。
【0031】
定置具8の高さ(
図2に示す載置台5上に定置具8を置いた際の最下位置(本実施形態では下面)と最上位置(本実施形態では上面)との垂直距離h)について、定置具8の高さが高すぎると、定置具8の内周面に照射された電子線が反射して被照射物2に照射されてしまい、被照射物2に照射される電子線の照射量が意図した照射量よりも多くなってしまう。そのため、定置具8の高さは、特に限定されないが、好ましくは3cm以下である。
【0032】
定置具8は、中空のパイプ状を呈しており、冷却用流体が流通する内部流路80を有する。また、定置具8は、内部流路80に冷却用流体を導出入できるように、内部流路80の一端に接続されて冷却用流体を内部流路80に導入する導入口81と、内部流路80の他端に接続されて冷却用流体を内部流路80から導出する導出口81と、を有する。導入口81及び導出口81は、照射室4の外部に設置された流体タンク(図示は省略)に接続されており、ポンプ(図示は省略)の駆動により、流体タンクに貯留された冷却用流体が循環し、冷却用流体が定置具8の内部を通過する際に定置具8との熱交換により定置具8を冷却する。冷却用流体は、定置具8を冷却することが可能であれば特に限定されないが、好ましくは液体であり、より好ましくは水道水などの冷却水である。
【0033】
定置具8は、特に限定されないが、好ましくは固定手段9により被覆材7が固定されている。固定手段9により被覆材7が定置具8に固定されることで、保護カバー6の持ち運びが容易となり、保護カバー6を被覆材2を覆うように載置台5上に容易に設置することができる。
【0034】
固定手段9は、特に限定されないが、好ましくは定置具8において被覆材7と対向する部分に、本実施形態では被覆材7と対向する下面に設けられる。定置具8において被覆材7と対向する部分に固定手段9が設けられることで、固定手段9は定置具8により覆われており、平面視で定置具8の下に隠れていて露出しないようにされている。これにより、固定手段9は電子線が定置具8により遮られることで電子線が照射されにくく、固定手段9が電子線照射による影響を受けて劣化により破損したり品質が低下したりするのを抑制できる。
【0035】
固定手段9は、被覆材7を定置具8に固定することができれば、特に限定されないが、両面テープ、接着剤、粘着剤を固定手段9として用いることで、被覆材7を定置具8に簡易に固定し、さらには被覆材7を定置具8から容易に取り外すことができる。固定手段9としては、その他に、溶接や、被覆材7の外周縁部を挟み込むクリップなどを定置具8に一体に設けるようにしてもよい。
【0036】
定置具8は、その全長にわたって被覆材7が固定手段9により固定されていてもよいし、その全長の一部分において被覆材7が固定手段9により固定されていてもよい。本実施形態では、平面視枠状を呈する定置具8の全長(全周)にわたって被覆材7が固定手段9により固定されている。
【0037】
以上に説明した本実施形態の電子線照射装置1においては、載置台5に載置された被照射物2に電子線を照射する際に、保護カバー6を載置台5上に設けて被照射物を保護している。具体的な保護方法は、電子線を透過可能な被覆材7を被照射物2に覆い被せながら被照射物2に電子線を照射し、少なくとも一つの定置具8を被覆材7の外周縁の少なくとも一部分に沿うように被覆材7上に載せて被覆材7を載置台5の方に押し付けることで被覆材7を載置台5上に定置させ、電子線の照射中に定置具7の内部に冷却用流体を流通させて定置具8を冷却している。
【0038】
本実施形態の電子線照射装置1では、載置台5上の被照射物2を被覆材7で覆いながら被照射物2に電子線を照射する。そのため、冷却器10により照射窓部30の金属箔31に吹き付けられた冷却用ガスが金属箔31で反射して載置台5上の被照射物2の方に流れてきても、冷却用ガスは被覆材7により遮られて被照射物2に勢いよく当たるのが防止される。よって、冷却用ガスが当たることで被照射物2が載置台5上を移動したり、被照射物2が粉粒体などの軽量物である場合に被照射物2が載置台5上から飛散したりするおそれがない。その結果、被照射物2に対して目的の照射条件で電子線を照射することができる。また、飛散した被照射物2が照射窓部30の金属箔31に当たるなどして金属箔31が破損するおそれもない。また、金属箔31で反射した冷却用ガスの対流により照射室4内の塵埃などの異物が飛び散ったとしても被照射物2に異物が付着するおそれもない。
【0039】
なお、被照射物2が粉粒体の場合、粉粒体2は通常は袋に収容された状態で載置台5上に載置される。この場合に、電子線照射により粉粒体に含まれる空気の熱膨張により個々の粒や粉が袋を突き破ることで、被照射物2が飛散するおそれがあるが、保護カバー6の被覆材7により被照射物2が飛散することが遮られるため、被照射物2は載置台5上の所定の範囲内にしか散らばらない。よって、この場合も、被照射物2が飛散して照射窓部30の金属箔31に当たるなどして金属箔31が破損するおそれがない。
【0040】
加えて、本実施形態の電子線照射装置1では、電子線の照射中に、保護カバー6の定置具8が冷却用流体により冷却されている。定置具8は、電子線に曝されているため、電子線のエネルギーの一部を吸収することで温度が上昇し、電子線照射により過度に発熱すると、強度の低下により変形したり劣化により破損したりする。定置具8が電子線の照射中に冷却用流体により冷却され続けていることで、変形や破損を抑制でき、繰り返しの使用が可能である。
【0041】
加えて、本実施形態の電子線照射装置1では、定置具8と被覆材7とが固定手段9により固定されている。そのため、保護カバー6の持ち運びが容易である。そのうえ、定置具8は、被覆材7と対向する部分(本実施形態では下面)に固定手段9が設けられている。そのため、固定手段9が電子線に曝されるのを抑制でき、固定手段9が電子線照射による影響を受けて劣化により破損したり品質が低下したりするのを抑制できる。なお、固定手段9も定置具8内を流通する冷却用流体により冷却されるため、冷却によっても固定手段9が劣化により破損したり品質が低下したりするのを抑制できる。
【0042】
加えて、本実施形態の電子線照射装置1では、定置具8は、被覆材7と対向する下面が平坦である。そのため、定置具8は、被覆材7の一部分を面による広範囲で載置台5に押し付けることができ、被覆材7を安定して載置台5上に定置することができる。そのうえ、固定手段9に両面テープ、接着剤、粘着剤を用いた場合に、定置具8の平坦な下面に固定手段9を設けることで、定置具8を被覆材7に強く固定することができる。
【0043】
加えて、本実施形態の電子線照射装置1では、定置具8は、被覆材7の外周縁の全周に沿うように被覆材7上に載せられる平面視枠状を呈している。そのため、定置具8により被覆材7を安定して載置台5上に定置することができるうえ、被覆材7と載置台5との間の被照射物2の収容空間を極力閉鎖された空間とすることができる。
【0044】
加えて、本実施形態の電子線照射装置1では、定置具8の平面視における大きさは、装置本体3の照射窓部30から載置台5に照射される電子線の照射領域の平面視における大きさよりも小さい。そのため、保護カバー6を効率よく製作したり持ち運んだりすることができる。
【0045】
加えて、本実施形態の電子線照射装置1では、定置具の高さは、3cm以下である。そのため、定置具8の内周面に照射された電子線が反射して被照射物2に照射されるのを抑制でき、被照射物2に照射される電子線の照射量が意図した照射量よりも多くなるのを抑制できる。
【0046】
加えて、本実施形態の電子線照射装置1では、被覆材7は、可撓性を有する。そのため、被覆材7を上方に緩みを持たせた状態で被照射物2に被覆することで、被照射物2の高さに応じて被覆材7の高さを容易に変えることができ、各種の高さの被覆材2を被覆することができる。
【0047】
加えて、本実施形態の電子線照射装置1では、被覆材7は、アルミニウム箔で構成されている。そのため、被覆材7に耐熱性、耐久性、可撓性を持たせることができるうえ、厚みが薄いため、被覆材7を透過する際の電子線のエネルギー損失を抑えることができる。
【0048】
以上、本発明の電子線照射装置、保護カバー及び被照射物の保護方法の実施形態について説明したが、本発明の電子線照射装置、保護カバー及び被照射物の保護方法は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0049】
例えば上述した実施形態では、定置具8は、被覆材7の外周縁の全周に沿うように被覆材7上に載せられる平面視枠状を呈しているが、定置具8は、必ずしも被覆材7の外周縁の全周に沿うように被覆材7上に載せられる形状である必要はない。定置具8は、被覆材7の外周縁の一部分に沿うように被覆材7上に載せられる形状、例えば
図4に示すように、被覆材7の外周縁(四辺)のうちの三辺に沿うように被覆材7上に載せられる形状(平面視でコの字をなす形状)であってもよいし、図示は省略するが被覆材7の外周縁(四辺)のうちの直交する二辺に沿うように被覆材7上に載せられる形状(平面視でL字をなす形状)であってもよい。
【0050】
例えば上述した実施形態では、一つの定置具8により被覆材7を載置台5上に定置しているが、定置具8は、必ずしも一つである必要はなく、複数であってもよい。例えば
図5に示すように、定置具8は二つであってもよい。
図5では、二つの定置具8は、それぞれが平面視で直線状に延びる形状である。それぞれの定置具8が、被覆材7の外周縁(四辺)のうちの一辺に沿うように被覆材7上に載せられている。なお、
図5では、二つの定置具8は、被覆材7の外周縁(四辺)のうちの互いに平行となる二辺に沿って被覆材7上に載せられているが、被覆材7の外周縁(四辺)のうちの互いに直交する二辺に沿って被覆材7上に載せられていてもよい。また、
図5においては、平面視で直線状に延びる形状の定置具8を三つ用意し、それぞれを被覆材7の外周縁(四辺)のうちの一辺に沿って(合計三辺に沿って)被覆材7上に載せてもよいし、平面視で直線状に延びる形状の定置具8を四つ用意し、それぞれを被覆材7の外周縁(四辺)のうちの一辺に沿って(合計四辺に沿って)被覆材7上に載せてもよい。あるいは、平面視でL字をなす形状の定置具8を二つ用意し、それぞれを被覆材7の外周縁(四辺)のうちの互いに直交する二辺に沿って(合計四辺に沿って)被覆材7上に載せてもよい。
【0051】
例えば上述した実施形態では、定置具8と被覆材7は固定手段9により固定されているが、定置具8と被覆材7は必ずしも固定手段9により固定されている必要はなく、単に被覆材7上に定置具8が置かれるだけでもよい。
【0052】
以上に説明した通り、本発明の電子線照射装置は、本開示の課題を解決するため、以下の項1に記載の電子線照射装置を包含する。
【0053】
項1.電子線被照射物を載置する載置台を備えた照射室と、電子線を発生させかつ前記電子線を照射窓部から前記照射室内の前記電子線被照射物に照射する装置本体と、を少なくとも備えた電子線照射装置であって、
前記載置台上に設けられて前記電子線被照射物を保護する保護カバーをさらに備え、
前記保護カバーは、前記電子線を透過可能でありかつ前記電子線被照射物に覆い被さる被覆材と、前記被覆材の外周縁の少なくとも一部分に沿うように前記被覆材上に載せられる少なくとも一つの定置具と、を備え、
前記被覆材において、前記定置具が載せられる部分は前記定置具により前記載置台に押し付けられており、
前記定置具は、該定置具を冷却するための冷却用流体が流通する内部流路と、前記冷却用流体を前記内部流路に導入する導入口と、前記冷却用流体を前記内部流路から導出する導出口と、を有する、電子線照射装置。
【0054】
また本発明の電子線照射装置は、上記項1に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項2に記載の電子線照射装置を包含する。
【0055】
項2.前記定置具は、前記被覆材と対向する部分に、前記被覆材を前記定置具に固定する固定手段が設けられている、項1に記載の電子線照射装置。
【0056】
また本発明は、上記項2に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項3に記載の電子線照射装置を包含する。
【0057】
項3.前記定置具は、前記被覆材と対向する下面が平坦であり、
前記固定手段は、前記定置具の下面に設けられている、項2に記載の電子線照射装置。
【0058】
また本発明は、上記項2及び項3に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項4に記載の電子線照射装置を包含する。
【0059】
項4.前記固定手段は、接着剤、粘着剤又は両面テープである、項2又は3に記載の電子線照射装置。
【0060】
また本発明は、上記項1から項4に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項5に記載の電子線照射装置を包含する。
【0061】
項5.前記定置具は、前記被覆材の外周縁の全周に沿うように前記被覆材上に載せられる平面視枠状を呈しており、前記電子線被照射物の周囲に前記定置具が配置される、項1から4のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【0062】
また本発明は、上記項1から項5に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項6に記載の電子線照射装置を包含する。
【0063】
項6.前記定置具の平面視における大きさは、前記装置本体の前記照射窓部から前記載置台に照射される前記電子線の照射領域の平面視における大きさよりも小さい、項1から5のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【0064】
また本発明は、上記項1から項6に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項7に記載の電子線照射装置を包含する。
【0065】
項7.前記定置具の高さは、3cm以下である、項1から6のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【0066】
また本発明は、上記項1から項7に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項8に記載の電子線照射装置を包含する。
【0067】
項8.前記被覆材は、可撓性を有する、項1から7のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【0068】
また本発明は、上記項1から項8に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項9に記載の電子線照射装置を包含する。
【0069】
項9.前記被覆材は、金属製である、項1から8のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【0070】
また本発明は、上記項8及び項9に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項10に記載の電子線照射装置を包含する。
【0071】
項10.前記被覆材は、アルミニウム箔で構成される、項8又は9に記載の電子線照射装置。
【0072】
また本発明は、上記項1から項10に記載の電子線照射装置の好ましい態様として、以下の項11に記載の電子線照射装置を包含する。
【0073】
項11.冷却用ガスにより前記照射窓部を冷却する冷却器をさらに備える、項1から10のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【0074】
また本発明の保護カバーは、本開示の課題を解決するため、以下の項12に記載の保護カバーを包含する。
【0075】
項12.載置台に載置された電子線被照射物に電子線を照射する電子線照射装置において、前記載置台上に設けられて前記電子線被照射物を保護するための保護カバーであって、
前記電子線を透過可能でありかつ前記電子線被照射物に覆い被さる被覆材と、前記被覆材の外周縁の少なくとも一部分に沿うように前記被覆材上に載せられて前記被覆材を前記載置台の方に押し付ける少なくとも一つの定置具と、を備え、
前記定置具は、該定置具を冷却するための冷却用流体が流通する内部流路と、前記冷却用流体を前記内部流路に導入する導入口と、前記冷却用流体を前記内部流路から導出する導出口と、を有する、保護カバー。
【0076】
また本発明の電子線被照射物の保護方法は、本開示の課題を解決するため、以下の項13に記載の電子線被照射物の保護方法を包含する。
【0077】
項13.載置台に載置された電子線被照射物に電子線を照射する電子線照射装置において、前記載置台上に設けられて前記電子線被照射物を保護する方法であって、
前記電子線を透過可能な被覆材を前記電子線被照射物に覆い被せ、
少なくとも一つの定置具を前記被覆材の外周縁の少なくとも一部分に沿うように前記被覆材上に載せて前記被覆材を前記載置台の方に押し付け、
前記定置具の内部に冷却用流体を流通させて前記定置具を冷却する、ことを特徴とする電子線被照射物の保護方法。
【符号の説明】
【0078】
1 電子線照射装置
2 被照射物
3 装置本体
4 照射室
5 載置台
6 保護カバー
7 被覆材
8 定置材
9 固定手段
10 冷却器
80 内部流路
81 導入口
82 導出口
30 照射窓部
31 金属箔