(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078987
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】空中投下物品誘導装置及び物品輸送方法
(51)【国際特許分類】
B64U 70/83 20230101AFI20240604BHJP
B64U 50/27 20230101ALI20240604BHJP
B65G 61/00 20060101ALI20240604BHJP
B64U 101/64 20230101ALN20240604BHJP
【FI】
B64U70/83
B64U50/27
B65G61/00 500
B64U101:64
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191653
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】522467334
【氏名又は名称】株式会社真庭運創研
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(72)【発明者】
【氏名】小林 一昭
(57)【要約】
【課題】
上空から空中投下させた物品50をその降下中に目的地点P
1付近まで誘導することができる空中投下物品誘導装置を提供する。
【解決手段】
空中投下物品誘導装置10を、物品50を収容するための物品収容部11と、パラシュート20を取り付けるためのパラシュート取付部16と、非鉛直方向における互いに異なる向きに向けられた複数の回転翼12と、それぞれの回転翼12を独立して回転駆動するための回転翼駆動手段13と、現在位置を取得するための測位手段14と、測位手段14が取得した現在位置に基づいて回転翼駆動手段13を制御する回転翼制御手段15とを備えたものとする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上空から空中投下された物品を降下中に目的地点まで誘導する空中投下物品誘導装置であって、
物品を収容するための物品収容部と、
パラシュートを取り付けるためのパラシュート取付部と、
非鉛直方向における互いに異なる向きに向けられた複数の回転翼と、
それぞれの回転翼を独立して回転駆動するための回転翼駆動手段と、
現在位置を取得するための測位手段と、
測位手段が取得した現在位置に基づいて回転翼駆動手段を制御する回転翼制御手段と
を備えたことを特徴とする空中投下物品誘導装置。
【請求項2】
物品収容部が、
物品を載せるための底面部と、
物品の上方を覆うための上面部と、
物品の側方を覆うための側面部と
を備え、
複数の回転翼が、物品収容部の側面部に異なる向きで設けられた
請求項1記載の空中投下物品誘導装置。
【請求項3】
物品収容部の底面部又は上面部が、網板状を為す請求項2記載の空中投下物品誘導装置。
【請求項4】
測位手段が、GPS受信器とされ、
回転翼制御手段が、現在位置のGPS座標と、目的地点のGPS座標とを比較しながら回転翼駆動手段を制御する
請求項1~3いずれか記載の空中投下物品誘導装置。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載の空中投下物品誘導装置を用いて物品を輸送する物品輸送方法。
【請求項6】
目的地点を監視するための監視手段と、
空中投下物品誘導装置の降下中に目的地点付近に人がいることが監視手段によって検知されると警報を出力する警報手段と
を設置する請求項5記載の物品輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機(有人航空機又は無人航空機)から空中投下された物品をその降下中に目的地点まで誘導する空中投下物品誘導装置と、これを用いて物品を輸送する物品輸送方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
物品を輸送する際には、目的地点の上空まで航空機(有人航空機又は無人航空機)を飛行させ、その航空機から物品を空中投下することによって、その物品を地上の目的地点に届ける方法(この方法による物品の輸送を「物料投下式輸送」と呼ぶことがある。)が採用される場合がある。物料投下式輸送では、投下する物品にパラシュートを取り付けておくことで、その物品を地面に軟着陸させる(例えば、特許文献1を参照。)ことも既に行われている。
【0003】
しかし、物料投下式輸送では、航空機を運航する必要がある。このため、一般的な荷物を輸送する際に物料投下式輸送を採用すると、採算性が厳しくなる。したがって、そのような場面で物料投下式輸送が採用されることは、極めて稀であった。これまでの物料投下式輸送は、被災地に支援物資を届ける場合や、伝染病発生地域に医薬品を届ける場合や、戦地に補給物資を届ける場合等、自動車や鉄道等では目的地点まで行きにくい場所に、採算性を度外視して物品を届ける必要がある場合に採用されることがある等、その用途がかなり限られていた。
【0004】
ところで、近年、低コストで飛ばすことができるドローン等の無人航空機が普及してきている。これに呼応して、荷物の輸送に無人航空機を使おうとする試みが為されるようになっており、それに関する技術の提案も為されるようになっている。そのなかには、上空の無人航空機から地上まで荷物を投下させることを前提としたもの(例えば、特許文献2や特許文献3を参照。)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59-171797号公報
【特許文献2】特開2022-077280号公報
【特許文献3】国際公開2021/044528号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上空を飛行中の無人航空機から空中投下した荷物を、目的地点に正確に着地させることは容易ではない。特に、風が吹いている場合には、荷物の着地地点が目的地点から大きくずれることになる。着地時の衝撃を和らげるために、荷物にパラシュートを取り付けると、風による影響をさらに受けやすくなる。見通しの良い平野部に荷物が着地したのであれば、着地地点が目的地点からずれても、荷物を容易に見つけることができるが、目的地点が森林地帯や山岳地帯である場合には、荷物が着地する場所が定まらず、荷物を見つけることが困難であり、最悪の場合には、荷物を紛失するおそれもある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、上空から空中投下させた物品を降下中に目的地点付近まで誘導することができる空中投下物品誘導装置を提供するものである。また、この空中投下物品誘導装置を用いて物品を輸送する物品輸送方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、
上空から空中投下された物品を降下中に目的地点まで誘導する空中投下物品誘導装置であって、
物品を収容するための物品収容部と、
パラシュートを取り付けるためのパラシュート取付部と、
非鉛直方向における互いに異なる向きに向けられた複数の回転翼と、
それぞれの回転翼を独立して回転駆動するための回転翼駆動手段と、
現在位置を取得するための測位手段と、
測位手段が取得した現在位置に基づいて回転翼駆動手段を制御する回転翼制御手段と
を備えたことを特徴とする空中投下物品誘導装置
を提供することによって解決される。
【0009】
本発明の空中投下物品誘導装置では、測位手段が取得した現在位置(物品の現在位置)と目的地点との差異を計算しながら複数の回転翼を制御する。複数の回転翼は、非鉛直方向(水平方向等)に向けられており、空中投下物品誘導装置の水平位置を調整する。例えば、降下中の空中投下物品誘導装置が目的地点よりも北側に着地しそうなときには、空中投下物品誘導装置が南側に移動するように回転翼を駆動制御し、降下中の空中投下物品誘導装置が目的地点よりも東側に着地しそうなときには、空中投下物品誘導装置が西側に移動するように回転翼を駆動制御する。このように、予測される着地地点が目的地点からずれているときに、そのずれた向きとは逆向きに空中投下物品誘導装置が移動するように、回転翼を駆動制御することで、空中投下物品誘導装置を目的地点の近くに着地させることができる。
【0010】
したがって、本発明の空中投下物品誘導装置の物品収容部に物品を入れて上空から空中投下すると、物品を目的地点付近に高い精度で着地させることができる。したがって、無人航空機等による物料投下式輸送を、見通しの良い場所(平野部等)だけでなく、見通しの悪い場所(森林地帯や山岳地帯等)で行うことも可能になる。回転翼制御手段をフィードバック制御すること(どの回転翼をどの回転速度で回転させたときに、空中投下物品誘導装置が水平方向にどの程度移動するかを把握しながら回転翼駆動手段を制御すること)で、風等の外乱がある場合でも、物品を目的地点付近まで高精度で誘導させることも可能になる。
【0011】
ただし、空中投下物品誘導装置の降下速度が速いと、上空から着地地点まで短時間で到達してしまい、空中投下物品誘導装置や、それに収容された物品が破損したり、空中投下物品誘導装置の水平位置を調整する時間がなかったりするおそれがある。しかし、本発明の空中投下物品誘導装置では、パラシュート取付部にパラシュートを取り付けることができるようになっており、そのパラシュートによって、空中投下物品誘導装置の降下速度を低下させることができる。このため、空中投下物品誘導装置を、着地地点までゆっくり降下させることができる。したがって、空中投下物品誘導装置や物品の破損を防止するだけでなく、上記のような水平位置の調整を行う時間的な余裕を確保することも可能となっている。
【0012】
本発明の空中投下物品誘導装置において、測位手段は、降下中における空中投下物品誘導装置の水平位置を認識できるものであれば、特に限定されない。測位手段は、目的地点と空中投下物品誘導装置との相対的位置を把握するものであってもよい。例えば、空中投下物品誘導装置の測位手段から、目的地点に設けたターゲットに対して、電磁波等を照射し、その反射波を測位手段で受け取る等の構成を採用すれば、目的地点と空中投下物品誘導装置との相対的位置を把握することができる。しかし、この場合には、目的地点に所定のターゲットを設ける等、場所特定のための特殊な設備を目的地点の近くに設ける必要がある。
【0013】
このため、測位手段は、GPS受信器とすることが好ましい。これにより、場所特定のための特殊な設備を目的地点の近くに設けておかなくても、空中投下物品誘導装置を目的地点に誘導することが可能になる。具体的には、回転翼制御手段で、空中投下物品誘導装置の現在位置のGPS座標(測位手段によって取得される。)と、目的地点のGPS座標(回転翼制御手段に予め記憶されたGPS座標、又は、無線等による通信により送信されたGPS座標)とを比較しながら回転翼駆動手段を制御することによって、空中投下物品誘導装置を目的地点に誘導することができる。
【0014】
本発明の空中投下物品誘導装置において、物品収容部は、輸送対象の物品を脱落できない状態で収容できるものであれば、特に限定されないが、物品の周囲を囲む構造とすることが好ましい。具体的には、物品収容部を、物品を載せるための底面部と、物品の上方を覆うための上面部と、物品の側方を覆うための側面部とを備えたものとすることが好ましい。これにより、降下中の物品が樹木等の障害物にぶつからないように、物品を保護することができる。また、この場合には、複数の回転翼を、物品収容部の側面部に設ける(それぞれの回転翼の向きが異なるように、それぞれの回転翼は、側面部における異なる箇所に設ける)こともでき、空中投下物品誘導装置に回転翼をコンパクトに納めることも可能になる。
【0015】
本発明の空中投下物品誘導装置において、上記のように、物品収容部の側面部に回転翼を設ける場合には、物品収容部の底面部又は上面部を、網板状に形成することが好ましい。というのも、物品収容部が閉塞された構造(回転翼が設けられた箇所以外で閉塞された構造)となっていると、回転翼を回転駆動したときに、物品収容部の内部圧力が高くなったり(回転翼によって物品収容部の外部から内部に空気が導入される場合)、逆に低くなったり(回転翼によって物品収容部の内部から外部に空気が排出される場合)して、その内部圧力の変化が回転翼の動作に悪影響を及ぼすことがある。この点、物品収容部の底面部又は上面部を網板状に形成して、物品収容部の内側を外気に開放することで、空中投下物品誘導装置の降下中に、物品収容部の内部圧力が大きく変化しないようにすることができるからである。
【0016】
以上で述べた空中投下物品誘導装置は、物料投下式輸送において、上空から空中投下した物品を目的地点に降下させる際に、好適に用いることができる。この場合には、目的地点を監視するための監視手段と、空中投下物品誘導装置の降下中に目的地点付近に人がいることが監視手段によって検知されると警報を出力する警報手段とを設置することも好ましい。これにより、目的地点の近くにいる人に対して、その目的地点に空中投下物品誘導装置が降下してくることを知らせることができる。このため、空中投下物品誘導装置が人にぶつかる等の事故の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によって、上空から降下させた物品を降下中に目的地点付近まで誘導することができる空中投下物品誘導装置を提供することが可能になる。また、この空中投下物品誘導装置を用いて物品を輸送する物品輸送方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の空中投下物品誘導装置を用いて物品輸送(物料投下式輸送)を行っている様子を示した図である。
【
図2】本発明の空中投下物品誘導装置にパラシュートを取り付けて降下させている様子を示した斜視図である。
【
図3】本発明の空中投下物品誘導装置を分解した状態を示した斜視図である。
【
図4】本発明の空中投下物品誘導装置を鉛直面(水平面に対して垂直な平面)で切断した状態を示した断面図である。
【
図5】本発明の空中投下物品誘導装置を水平面で切断した状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の空中投下物品誘導装置と、これを用いた物品輸送方法の実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。以下で述べる構成は、あくまで好適な実施形態にすぎず、本発明の技術的範囲は、以下で述べる構成に限定されない。本発明の空中投下物品誘導装置や物品輸送方法には、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。
【0020】
1. 本発明の概要
まず、本発明の空中投下物品誘導装置及び物品輸送方法の概要について、説明する。
図1は、本発明の空中投下物品誘導装置10を用いて物品輸送(物料投下式輸送)を行っている様子を示した図である。物料投下式輸送では、
図1に示すように、航空機100(有人航空機又は無人航空機)を用いて、目的地点P
1の上空付近(同図における点P
2)まで輸送した後、航空機100から物品50を空中投下し、その物品50を目的地点P
1付近に着地させる(同図における矢印A
1)。これにより、目的地点P
1に物品50を届けることができる。
【0021】
航空機100から空中投下される物品50は、空中投下物品誘導装置10の物品収容部11に収容されており、この空中投下物品誘導装置10には、パラシュート20が取り付けられている。パラシュート20は、物品50(空中投下物品誘導装置10)が所定の高度に達すると、自動的に開くようになっている。このパラシュート20による空気抵抗で空中投下物品誘導装置10の降下速度が抑えられ、空中投下物品誘導装置10が目的地点P1に軟着陸するようになっている。
【0022】
また、空中投下物品誘導装置10には、複数の回転翼12が横向きで(非鉛直方向を向くように)取り付けられており、それぞれの回転翼12の回転速度を制御することで、降下中の空中投下物品誘導装置10の水平位置が調整されるようになっている。このため、物品50の降下点P
2が目的地点P
1の真上にない場合や、風がある場合等でも、空中投下物品誘導装置10が目的地点P
1付近に高精度で着地するようになっている。それぞれの回転翼12の回転速度の制御は、人による操作で行ってもよいが、本実施形態においては、後述する回転翼制御手段15(後掲の
図2を参照。)によって自動的に行うようになっている。
【0023】
航空機100は、大型のもの(貨物輸送機等)を使用してもよいが、輸送コストを考慮すると、小型のものが好ましく、人が搭乗しないもの(無人航空機)であるとより好ましい。小型の無人航空機としては、固定翼機タイプのものや、マルチコプタータイプのもの(いわゆるドローン)等が例示される。これらの無人航空機は、遠隔操作又は自動操縦によって飛行される。マルチコプタータイプの無人航空機は、燃料やバッテリーの関係で、遠距離輸送や、大型の物品の輸送には適さないものの、小型の物品(例えば、重量が10kg以下の物品)を近距離輸送する際(例えば、出発地点から目的地点までの距離が10km以下の場合)に好適に使用することができる。一方、固定翼機タイプの無人航空機は、マルチコプタータイプの無人航空機よりも長距離輸送が可能であるという利点を有している。本実施形態においては、航空機100として、固定翼機タイプの無人航空機を用いている。
【0024】
目的地点P
1から降下点P
2までの高度H
1(
図1)は、使用する航空機100の種類や、輸送する物品10の種類や、目的地点P
1周辺の地形等によっても異なり、特に限定されない。しかし、高度H
1が低すぎると、着地地点P
1から降下点P
2までの水平距離L
1(
図1)が長い場合に、空中投下物品誘導装置10を降下中に目的地点P
1の真上まで誘導できなくなるおそれがある。また、パラシュート20が空中投下物品誘導装置10の降下速度を緩めるよりも前に、空中投下物品誘導装置10が着地するおそれもある。さらに、樹木や家屋等が飛行の障害となりやすくなる。
【0025】
このため、航空機100として、小型の無人航空機を用いる場合でも、高度H1は、最低10~20m程度確保される。高度H1は、30m以上とすることが好ましく、50m以上とすることがより好ましい。無人航空機の飛行高度は、150m未満と規定されているが、航空機100として、有人航空機(人が搭乗して操縦する航空機)を用いる場合には、高度H1は、150m以上とされ、人又は家屋の密集している地域にあっては、当該航空機を中心として水平距離600m以内にある最も高い建物の上端から600m以上とされる。
【0026】
ただし、高度H1が高すぎると、航空機100から降下された空中投下物品誘導装置10が風の影響を受けやすくなる。このため、航空機100として、大型の有人航空機を使用する場合でも、高度H1は、500m以下に抑えることが好ましい。高度H1は、300m以下とすることがより好ましく、200m以下とすることがさらに好ましい。航空機100として、無人航空機を用いる場合には、上述したように、高度H1が150m未満と規定されているため、これよりも低く設定する。例えば、高度H1を100m以下に抑えるとよい。
【0027】
航空機100からの空中投下物品誘導装置10の空中投下方法も、特に限定されない。航空機100が有人航空機である場合には、操縦者による手動操作で、航空機100の機体に固定されていた空中投下物品誘導装置10を機体から切り離したり、航空機100の機体内に収容されていた空中投下物品誘導装置10を機体外に排出したりすることで、空中投下物品誘導装置10を空中投下させることができる。本実施形態のように、航空機100が無人航空機である場合には、上記の手動操作を遠隔で行うことができる。
【0028】
しかし、上記のように、空中投下物品誘導装置10の降下タイミングを手動操作に頼ると、着地地点P
1から降下点P
2までの水平距離L
1(
図1)が長くなるおそれがある。このため、目的地点P
1から航空機100までの水平距離が所定範囲内になると、航空機100の機体から空中投下物品誘導装置10が自動的に切り離される又は排出されるようにすることができる。また、目的地点P
1から航空機100までの水平距離が所定範囲内になると、その旨がランプ等の表示手段によって、航空機100の操縦者又は遠隔操作者に伝わるようにし、その状態で、ボタンを押す等、所定の操作を行うと、航空機100から空中投下物品誘導装置10が空中投下されるようにしてもよい。
【0029】
ところで、目的地点P1の付近には、物品50の到着を待っている人(受取人200)がいる場合がある。このような場合に、その受取人200が気づかないうちに、航空機100から空中投下物品誘導装置10を空中投下させると、空中投下物品誘導装置10が受取人200にぶつかるおそれがある。この点、本実施形態においては、目的地点P1の付近に、監視手段30と、警報手段40とを設置している。
【0030】
監視手段30は、目的地点P1の付近に人(待機者200等)がいるかいないかを監視するためのものであり、警報手段40は、警報を音や光等で出力するためのものである。これにより、空中投下物品誘導装置10の降下中において、目的地点P1付近に待機者200等の人がいることが、監視手段30によって検知された際に、警報手段40で警報を出力することができ、待機者200等に注意喚起を促すことができる。
【0031】
監視手段30としては、カメラや、人感センサ等が例示される。本実施形態においては、監視手段30としてカメラを用いている。また、警報手段40としては、スピーカーや、ランプ等が例示される。本実施形態においては、スピーカーを警報手段40として用いている。カメラ(監視手段30)による撮影画像は、図示省略の画像解析手段(通常、パソコンや、プログラマブルコントローラや、画像処理装置等のコンピュータが用いられる。)に入力され、その画像解析手段によって、撮影画像内に人がいると判断されると、画像解析手段から警報手段40に対して、警報を出力すべき旨の信号が送信されるようになっている。
【0032】
2.空中投下物品誘導装置
続いて、空中投下物品誘導装置10について説明する。
図2は、空中投下物品誘導装置10にパラシュート20を取り付けて降下させている様子を示した斜視図である。
図3は、空中投下物品誘導装置10を分解した状態を示した斜視図である。
図4は、空中投下物品誘導装置10を鉛直面(水平面に対して垂直な平面)で切断した状態を示した断面図である。
図5は、空中投下物品誘導装置10を水平面で切断した状態を示した断面図である。
【0033】
既に述べたように、空中投下物品誘導装置10は、上空で空中投下された物品50をその降下中に目的地点P
1(
図1)まで誘導するためのものである。この空中投下物品誘導装置10は、
図2~5に示すように、物品収容部11と、複数の回転翼12と、複数の回転翼駆動手段13と、測位手段14と、回転翼制御手段15と、パラシュート取付部16とを備えている。
【0034】
2.1 物品収容部
物品収容部11は、
図2に示すように、輸送対象である物品50を収容するための部分である。この物品収容部11に物品50を収容することによって、空中投下物品誘導装置10の降下中において、空中投下物品誘導装置10から物品50が脱落しないようにするとともに、樹木等の障害物から物品50を保護することができる。空中投下物品誘導装置10は、上空から空中投下されるため、その降下時や着地時に、それに収容された物品10が暴れるおそれがある。この点、紐等の固定具60(
図4及び
図5)を用いて物品50を物品収容部11に固定しておくと、物品収容部11の内部で暴れないようにすることができる。また、物品50の外側に、エアセル等の緩衝材(図示省略)を配しておくと、空中投下物品誘導装置10の着地時等に物品50が受ける衝撃を和らげることができる。
【0035】
本実施形態においては、
図3に示すように、物品収容部11を、物品50を載せる底面部11aと、物品50の上方を覆う上面部11bと、物品の側方を覆う複数の側面部11c,11d,11e,11fとで構成されるボックス状のものとしている。底面部11aと、側面部11c,11d,11e,11fとは、互いに一体化した状態に固定される。一方、上面部11bは、物品収容部11における他の部分に対して、着脱可能な状態で固定される。上面部11bを開けることによって、物品収容部11の内部に物品50を収容することができる状態となる。空中投下物品誘導装置10を上空から空中投下させる際には、上面部11bは、物品収容部11における他の部分に対してボルト等の固定具(図示省略)で固定される。
【0036】
物品収容部11のうち、底面部11aと上面部11bは、網目状の板状部材で形成している。回転翼12が回転駆動されると、物品収容部11の内部圧力が頻繁に変化して、回転翼12による空中投下物品誘導装置10の水平位置の調整に悪影響が及ぶおそれがあるところ、底面部11a及び上面部11bを網目状として、物品収容部11の内部空間を外気に開放することで、そのような不具合の発生を抑えることができる。また、空中投下物品誘導装置10を上空から降下させる際には、底面部11aから、物品収容部11の内部空間を通って、上面部11bから上方に抜ける空気の流れを生み出すことができ、降下時における空中投下物品誘導装置10の姿勢が安定しやすくする(空中投下物品誘導装置10が傾きにくくする)こともできる。さらに、紐等の固定具60(
図4及び
図5)を底面部11a等に固定することも可能になる。
【0037】
2.2 回転翼
回転翼12は、空中投下物品誘導装置10を水平方向に移動させるためのものである。このため、回転翼12は、その回転軸が横向き(非鉛直方向)とされ、異なる向きで複数個(通常、3個以上)設けられる。本実施形態においては、
図5に示すように、回転翼12を、4つの回転翼(第一の回転翼12a、第二の回転翼12b、第三の回転翼12c及び第四の回転翼12d)で構成している。
【0038】
回転翼12a,12b,12c,12dは、それぞれ、物品収容部11における側面部11c,11d,11e,11fに設けられている。回転翼12a~12dの回転軸は、いずれも水平方向を向いており、回転翼12aと回転翼12cとが逆向きとなって、回転翼12bと回転翼12dとが逆向きとなるように配されている。回転翼12aと回転翼12cとを結ぶ方向は、回転翼12bと回転翼12dとを結ぶ方向に対して直交している。このように、複数の回転翼12a~12dを回転対称に配することで、空中投下物品誘導装置10の水平位置を調整するだけでなく、空中投下物品誘導装置10の姿勢を安定させることも可能になる。
【0039】
回転翼12は、その回転によって空気の流れを生み出すことができるのであれば、その形態を特に限定されない。回転翼12としては、プロペラタイプのものや、シロッコファンタイプのもの等が例示される。本実施形態においては、回転翼12として、プロペラタイプのものを採用している。
図4に示すように、それぞれの回転翼12の外側と内側は、通気性を有する網状のカバー18で覆っており、回転翼12を保護するとともに、回転翼12によって鳥や虫等が吸い込まれないようにしている。
【0040】
2.3 回転翼駆動手段
回転翼駆動手段13は、それぞれの回転翼12a~12dを独立して回転駆動するためのものである。このため、回転翼駆動手段13は、通常、回転翼12a~12dのそれぞれに独立して設けられる。本実施形態においては、
図5に示すように、回転翼駆動手段13を、第一の回転翼駆動手段13aと、第二の回転翼駆動手段13bと、第三の回転翼駆動手段13cと、第四の回転翼駆動手段13dとで構成している。回転翼駆動手段13a,13b,13c,13dは、それぞれ、回転翼12a,12b,12c,12dを回転駆動するためのものであり、回転翼12a,12b,12c,12dの裏側(物品収容部11の内側)に配している。
【0041】
回転翼駆動手段13は、回転翼12を回転駆動できるものであれば、特に限定されないが、通常、電気モーターが使用される。電気モーターは、正逆回転可能なものであってもよいが、正逆回転できないもの(例えば、DCブラシレスモーター)であってもよい。本実施形態においては、回転数をリニアに制御可能なブラシレスモーターを、回転翼駆動手段13として用いている。回転翼駆動手段13の出力軸(ブラシレスモーター等の出力軸)は、回転翼12の回転軸に接続される。回転翼駆動手段13(回転翼駆動手段13a,13b,13c,13d)を駆動すると、それに対応した回転翼12(回転翼12a,12b,12c,12d)が、物品収容部11の外部から内部へと空気を吸い込む向きに回転するようになっている。
【0042】
2.4 測位手段
測位手段14は、空中投下物品誘導装置10の現在位置を測位するためのものである。既に述べたように、測位手段14には、目的地点P
1と空中投下物品誘導装置10との相対的位置を測位するものを用いてもよいが、GPS受信器を用いることが好ましい。本実施形態においても、測位手段14として、GPS受信器を採用している。
図2に示すように、GPS受信器(測位手段14)は、空中投下物品誘導装置10の上部(物品収容部11の上面に固定したボックスの内部)に配しており、GPS衛星と通信を行いやすくしている。利用するGPS衛星測位サービスは、特に限定されないが、日本においては、準天頂衛星システム「みちびき」を利用すると、空中投下物品誘導装置10をセンチメートルレベルで測位することができる。
【0043】
2.5 回転翼制御手段
回転翼制御手段15は、測位手段14が即位した空中投下物品誘導装置10の現在位置に基づいて、回転翼駆動手段13a,13b,13c,13dをそれぞれ制御することで、回転翼12a,12b,12c,12dの回転状態(回転速度等)を変化させるものとなっている。このため、回転翼制御手段15は、回転翼駆動手段13a~13dのそれぞれと電気的に接続される。
【0044】
回転翼制御手段15としては、プログラミング可能な小型コンピュータ(マイコンボード等)を好適に用いることができる。本実施形態においても、回転翼制御手段15を、マイコンボードによって構成している。マイコンボード(回転翼制御手段15)は、GPS受信器(測位手段14)と同様、空中投下物品誘導装置10の上部(物品収容部11の上面に固定したボックスの内部)に配している。このボックスには、マイコンボード(回転翼制御手段15)や、電気モータ(回転翼駆動手段13)等に対して電力を供給するためのバッテリー(図示省略)も収容している。
【0045】
本実施形態においては、上記のように、測位手段14としてGPS受信器を採用したところ、回転翼制御手段15は、空中投下物品誘導装置10の現在位置(測位手段14によって即位されたGPS座標)を、目的地点P
1(
図1)のGPS座標(回転翼制御手段15のメモリに予め記憶、又は、無線等による通信により送信される。)とを比較しながら、回転翼駆動手段13a,13b,13c,13dの回転状態を制御する。回転翼制御手段15は、回転翼12a,12b,12c,12dの回転と停止を切り替えるものとしてもよいが、この場合には、回転翼駆動手段13a,13b,13c,13dにかかる負荷が大きくなる。このため、本実施形態では、回転翼12a,12b,12c,12dを予め微速で回転させておき、必要に応じて、回転翼12a,12b,12c,12dのうち一部の回転翼12の回転速度を上げる制御を行うようにしている。
【0046】
例えば、空中投下物品誘導装置10から見て、目的地点P
1が矢印B
1(
図5)の方向にあるとき(空中投下物品誘導装置10を矢印B
1の方向に移動させる場合)には、回転翼制御手段15によって第一の回転翼12aの回転速度を上げ、第一の回転翼12aが物品収容部11内に空気を吸い込む力を強くする。一方、空中投下物品誘導装置10を、矢印B
1と反対方向(
図5の矢印B
2の方向)に移動させる場合には、回転翼制御手段15によって第三の回転翼12cの回転速度を上げ、第三の回転翼12cが物品収容部11内に空気を吸い込む力を強くする。
【0047】
また、空中投下物品誘導装置10から見て、目的地点P
1が矢印B
3(
図5)の方向にあるとき(空中投下物品誘導装置10を矢印B
3の方向に移動させる場合)には、回転翼制御手段15によって第二の回転翼12bの回転速度を上げ、第二の回転翼12bが物品収容部11内に空気を吸い込む力を強くする。一方、空中投下物品誘導装置10を、矢印B
3と反対方向(
図5の矢印B
4の方向)に移動させる場合には、回転翼制御手段15によって第四の回転翼12dの回転速度を上げ、第四の回転翼12dが物品収容部11内に空気を吸い込む力を強くする。
【0048】
さらに、空中投下物品誘導装置10から見て、目的地点P
1が矢印B
5(
図5)の方向にあるとき(空中投下物品誘導装置10を矢印B
5の方向に移動させる場合)には、回転翼制御手段15によって第一の回転翼12a及び第二の回転翼12bの回転速度を上げる。一方、空中投下物品誘導装置10を、矢印B
5と反対方向(
図5の矢印B
6の方向)に移動させる場合には、回転翼制御手段15によって第三の回転翼12c及び第四の回転翼12dの回転速度を上げる。
【0049】
さらにまた、空中投下物品誘導装置10から見て、目的地点P
1が矢印B
7(
図5)の方向にあるとき(空中投下物品誘導装置10を矢印B
7の方向に移動させる場合)には、回転翼制御手段15によって第二の回転翼12b及び第三の回転翼12cの回転速度を上げる。一方、空中投下物品誘導装置10を、矢印B
7と反対方向(
図5の矢印B
8の方向)に移動させる場合には、回転翼制御手段15によって第一の回転翼12a及び第四の回転翼12dの回転速度を上げる。
【0050】
加えて、回転翼12a,12b,12c,12dの回転速度のバランスを変化させることによって、空中投下物品誘導装置10の移動方向をさらに微妙に調整したり、空中投下物品誘導装置10を旋回させたりすることもできる。回転翼制御手段15は、これらの動作を組み合わせることによって、空中投下物品誘導装置10が目的地点P
1(
図1)の真上に移動するように、空中投下物品誘導装置10の水平位置を調整する。これにより、空中投下物品誘導装置10を目的地点P
1に誘導することができる。
【0051】
ところで、回転翼制御手段15では、フィードバック制御することもできる。具体的には、そのときの回転翼12a~12dのそれぞれの回転速度(回転翼制御手段15が把握する回転速度)と、その回転速度で回転翼12a~12dを回転駆動したときの空中投下物品誘導装置10の実際の水平移動量(測位手段14による測位結果(GPS座標)の変化から知ることができる。)とを加味して、回転翼制御手段15による制御を行うことができる。これにより、風等の外乱がある場合でも、物品50を目的地点P1まで速やかに誘導することが可能になる。
【0052】
また、目的地点P
1から空中投下物品誘導装置10までの高度H
2(
図1)によって、回転翼制御手段15による制御を変えることもできる。例えば、高度H
2が高いときには、制御対象の回転翼12a~12dを速めの回転速度で回転させることで、空中投下物品誘導装置10を目的地点P
1の真上まで速やかに移動させておき、高度H
2が低くなると、制御対象の回転翼12a~12dを遅めの回転速度で回転させることで、空中投下物品誘導装置10をゆっくりと移動させる(空中投下物品誘導装置10の水平位置を微調整する)といった具合である。これにより、目的地点P
1の周辺に樹木が林立している等、目的地点P
1の周辺に障害物がある場合でも、空中投下物品誘導装置10を障害物にぶつからせることなく、目的地点P
1付近に着地させることができる。
【0053】
また、上述したものとは逆に、高度H2が高い場合には、制御対象の回転翼12a~12dを遅めの回転速度で回転させ、空中投下物品誘導装置10をゆっくりと水平方向に移動させる一方、高度H2が低くなったにも関わらず、目的地点P1から空中投下物品誘導装置10までの水平距離が離れている場合には、制御対象の回転翼12a~12dを速めの回転速度で回転させ、空中投下物品誘導装置10を速やかに水平方向に移動させるといったことも可能である。このように、必要なときにのみ回転翼12a~12dの回転速度を速めることで、回転駆動手段13a~13dの駆動に必要な電力を抑えることができる。
【0054】
2.5 パラシュート取付部
パラシュート取付部16は、パラシュート20(
図2)を取り付けるための部分である。このパラシュート取付部16を介して、空中投下物品誘導装置10にパラシュート20を取り付けることで、空中投下物品誘導装置10の降下速度を緩め、空中投下物品誘導装置10を目的地点P
1に軟着陸させることができる。パラシュート取付部16は、通常、空中投下物品誘導装置10の上部に設けられる。本実施形態においては、物品収容部11の上面部11bに取り付けたフレーム17に、パラシュート取付部16を設けている。
【0055】
3.用途
以上で述べた本発明の空中投下物品誘導装置10や、それを用いた物品輸送方法は、採算性を度外視して物品を輸送50する場合(被災地に支援物資を届ける場合や、伝染病発生地域に医薬品を届ける場合や、戦地に補給物資を届ける場合等)に限られず、一般的な荷物を輸送する場合にも、好適に採用することができる。特に、森林地帯や山岳地帯等、陸路では行きにくい場所に物品50を輸送する場合に好適に採用することができる。例えば、山小屋に食糧や薬品等の物資を輸送する場合等に好適に採用することができる。また、本発明の技術は、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」が採取した試料を宇宙から地表に回収する場合等、宇宙から試料を採取する用途に応用することもできる。
【符号の説明】
【0056】
10 空中投下物品誘導装置
11 物品収容部
11a 底面部
11b 上面部
11c 側面部
11d 側面部
11e 側面部
11f 側面部
12 回転翼
12a 第一の回転翼
12b 第二の回転翼
12c 第三の回転翼
12d 第四の回転翼
13 回転翼駆動手段
13a 回転翼駆動手段
13b 回転翼駆動手段
13c 回転翼駆動手段
13d 回転翼駆動手段
14 測位手段
15 回転翼制御手段
16 パラシュート取付部
17 フレーム
18 カバー
30 監視手段
40 警報手段
50 物品
60 固定具
100 航空機
200 受取人
P1 目的地点
P2 物品の降下点