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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078989
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/42 20060101AFI20240604BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20240604BHJP
   C11D 7/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G03F7/42
C11D7/26
C11D7/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191655
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鄭 敬騰
【テーマコード(参考)】
2H196
4H003
【Fターム(参考)】
2H196AA25
2H196BA01
2H196BA09
2H196JA04
2H196LA03
4H003BA12
4H003DA05
4H003DA12
4H003DB01
4H003EA21
4H003EB04
4H003EB05
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA07
(57)【要約】
【課題】一態様において、基板の金属腐食抑制に優れ、環境負荷の小さい樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、多価アルコール(成分A)、無機アルカリ(成分B)及び水(成分C)を含有し、成分Aと成分Bとのモル比A/Bが2超である樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール(成分A)、無機アルカリ(成分B)及び水(成分C)を含有し、成分Aと成分Bとのモル比A/Bが2超である、樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物。
【請求項2】
洗浄剤組成物の使用時における成分Aの含有量が5質量%以上40質量%以下であり、
洗浄剤組成物の使用時における成分Bの含有量が1.5質量%以上5質量%以下であり、
洗浄剤組成物の使用時における成分Cの含有量が50質量%以上である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
成分Aは、分子内に2個以上6個以下の水酸基を有する多価アルコールの1種又は2種以上を含む、請求項1又は2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の洗浄剤組成物を用いて、樹脂マスクが付着した、無鉛はんだ又ははんだがない基板を洗浄する工程を含む、基板の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物、及び該洗浄剤組成物を用いた基板の洗浄方法に関する
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや各種電子デバイスにおいては、低消費電力化、処理速度の高速化、小型化が進み、これらに搭載されるパッケージ基板などの配線は年々微細化が進んでいる。このような微細配線並びにピラーやバンプといった接続端子形成にはこれまでメタルマスク法が主に用いられてきた。しかし、汎用性が低いことや配線等の微細化への対応が困難になってきたことから、他の新たな方法へと変わりつつある。
新たな方法の一つとして、ドライフィルムレジストともいう樹脂マスクを使用する方法が知られている。この方法では、絶縁基板への無電解めっきによって、金属シード層が形成される。続いて、金属シード層は樹脂マスクによってラミネートされ、露光および現像処理でパターンが形成され、電解めっきによって、銅配線や錫バンプが形成される。基板上に残っている樹脂マスクは最終的に剥離・除去されるが、その際にアルカリ性の剥離用洗浄剤が使用される。
【0003】
プリント基板等に微細配線を形成する上で、樹脂マスクの残存はもちろんのこと、シード層へのダメージや信頼性の悪化を防ぐために、金属エッチング抑制性能への要求が激化している。
【0004】
しかしながら、接続端子の多くに使用される金属の腐食はパッケージ基板の品質及び価値の低下を招くことから、洗浄剤組成物には高い腐食防止能が要求される。また、様々な分野において電子化が進み電子基板の生産量が増加している。特に新型コロナウィルスの発生以来、電子基板の需要が爆発的に増大し、洗浄剤組成物の使用量も増加する傾向にある。この洗浄剤組成物の使用量の増加に伴い、廃液の排水処理負荷等も増大していることから、環境負荷が小さい洗浄剤組成物が強く要望されている。
【0005】
また、洗浄剤組成物として窒素含有化合物は従来から広く用いられており、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等の4級アンモニウム塩を挙げることができる。しかし、このような4級アンモニウム塩はよく毒物と分類され、取り扱いに細心の注意が必要であり、廃棄処理における焼却で環境に大きな負荷をかけてしまう。
例えば、特許文献1には、TMAH含有の剥離剤組成物への代替物として、約20質量%~約90質量%の第1の溶媒、約5質量%~約50質量%の第2の溶媒、約1質量%~約7質量%の無機の塩基、約1質量%~約30質量%のアミン、約0.0001質量%~約10質量%の腐食防止剤、を含んでなり、該溶液が約90℃超の引火点を示し、そして、該溶液が水酸化第四級アンモニウムを本質的に含まない剥離剤溶液が開示されている。同文献には、腐食防止剤として、レソルシノール、グリセロール、キシリトール、ソルビトール、又は、硝酸銅(II)ヘミ(五水和物)等が挙げられている。
一方、樹脂マスクの剥離には、一般的にpH13以上の強アルカリ性水溶性が用いられることが多い。そのため、基板の下地がダメージされたり、また、はんだが過剰にエッチングされてしまったりすることがある。そして、次工程であるシード層エッチング工程において、シード層のエッチアウトやはんだの欠けなどの欠陥を作ることがある。
はんだの溶解を抑制する技術として、例えば、特許文献2には、銅箔を積層した基板に、ドライフィルム等の水溶性レジストによって、めっきレジストを形成し、はんだめっきを行い、水溶性レジストを強アルカリ性水溶液で剥離する水溶性レジストの剥離方法において、一分子中に水酸基が付加している炭素原子を4以上含む有機物もしくは、その塩を0.05~100g/L含み、剥離液に添加する有機物が、グルコン酸、へプトン酸、ソルビトール、もしくは、その立体異性体のいずれかである剥離剤溶液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-185046号公報
【特許文献2】特開平6-250404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、基板製造業界は環境調和性への意識が高まっており、労働現場と地球環境にやさしいために、環境調和性が洗浄剤性能の一部として認められる。しかし、業界に広く用いられている剥離用洗浄剤では金属エッチング抑制性能(金属腐食抑制性能)と環境調和性の両立が難しい。特許文献1の剥離溶液は、溶剤系の洗浄剤であり環境調和性の点から望ましくない場合がある。また、特許文献2で用いられる強アルカリ性水溶液は有鉛はんだの鉛の析出防止に対する開示があるが、鉛を含まない基板の金属(例えば、錫)に対する腐食抑制については開示がない。
【0008】
そこで、本開示は、基板の金属腐食抑制に優れ、環境負荷の小さい樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物及びこれを用いた基板の洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、一態様において、多価アルコール(成分A)、無機アルカリ(成分B)及び水(成分C)を含有し、成分Aと成分Bとのモル比A/Bが2超である樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の洗浄剤組成物を用いて、樹脂マスクが付着した無鉛はんだ又ははんだがない基板を洗浄する工程を含む、基板の洗浄方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一態様において、基板の金属腐食抑制に優れ、環境負荷の小さい樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物及び基板の洗浄方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、多価アルコール(成分A)と無機アルカリ(成分B)とを所定のモル比で含有する洗浄剤組成物を用いることで、低い環境負荷であっても、樹脂マスクを効率よく除去できるという知見に基づく。また、基板の金属シード層やはんだへの腐食を抑制、すなわち、基板の金属腐食を抑制できるという知見に基づく。
【0013】
すなわち、本開示は、一態様において、多価アルコール(成分A)、無機アルカリ(成分B)及び水(成分C)を含有し、成分Aと成分Bのモル比A/Bが2超である樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物(以下、「本開示の洗浄剤組成物」ともいう)に関する。
本開示によれば、樹脂マスクを除去でき、金属の腐食を抑制でき、環境負荷の小さい樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物を提供できる。そして、本開示の洗浄剤組成物を用いることによって、信頼性が高い電子部品を得ることができる。
【0014】
本開示の洗浄剤組成物における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。
一般に洗浄時の金属のエッチング抑制は、多点吸着型インヒビターが金属界面に吸着し、疎水層を形成することで金属のエッチングを抑制できると考えられている。しかし、このような金属エッチング抑制性能は環境負荷が低い無機アルカリ系では機能しない。無機アルカリ(成分B)がインヒビターと相互作用し、エッチング抑制機能(金属腐食抑制機能)が失活化してしまうと推定される。本開示の洗浄剤組成物では、多価アルコール(成分A)と無機アルカリ(成分B)を特定のモル比率にすることで、無機アルカリとインヒビターとの相互作用がやわらぎ、金属腐食抑制機能の失活を抑制できる。
また、一般に、樹脂マスクの剥離は、洗浄剤組成物の成分が樹脂マスクに浸透し、樹脂マスクが膨潤することによる界面ストレスに起因すると考えられている。本開示の洗浄剤組成物では、無機アルカリ(成分B)と水(成分C)が樹脂マスクに浸透することにより、樹脂マスクに配合されているアルカリ可溶性樹脂の解離を促進し、更に電荷反発を起こすことによって樹脂マスクの剥離を促進すると考えられる。本開示の洗浄剤組成物の使用時における水(成分C)の含有量が多く存在する場合、洗浄組成物中の有機物含有量を低減でき、排水処理負荷の増大を抑制できると推定される。これにより、環境調和性と金属の腐食抑制を両立した電子基板の製造が可能になると考えられる。
但し、本開示はこのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
本開示において剥離・除去される樹脂マスクとは、エッチング、めっき、加熱等の処理から物質表面を保護するためのマスク、すなわち、保護膜として機能するマスクである。
樹脂マスクとしては、一又は複数の実施形態において、露光又は現像処理後のレジスト層、露光および現像の少なくとも一方の処理が施された(以下、「露光及び/又は現像処理された」ともいう)レジスト層、あるいは、硬化したレジスト層が挙げられる。
また、樹脂マスクは、一又は複数の実施形態において、光や電子線等によって現像液に対する溶解性等の物性が変化するレジストを用いて形成されるものである。レジストは、光や電子線との反応方法から、ネガ型とポジ型に大きく分けられている。ネガ型レジストは、露光されると現像液に対する溶解性が低下する特性を有し、ネガ型レジストを含む層(以下、「ネガ型レジスト層」ともいう)は、露光及び現像処理後に露光部が樹脂マスクとして使用される。ポジ型レジストは、露光されると現像液に対する溶解性が増大する特性を有し、ポジ型レジストを含む層(以下、「ポジ型レジスト層」ともいう)は、露光及び現像処理後に露光部が除去され、未露光部が樹脂マスクとして使用される。このような特性を有する樹脂マスクを使用することで、金属配線、金属ピラーやハンダバンプといった回路基板の微細な接続部を形成することができる。
樹脂マスクを形成する樹脂材料としては、一又は複数の実施形態において、フィルム状の感光性樹脂、又はレジストフィルムが挙げられる。レジストフィルムは汎用の物を使用できる。樹脂マスクは、一又は複数の実施形態において、銅又は錫めっき処理に使用するための銅又は錫めっき用マスクである。
【0016】
[成分A:多価アルコール]
本開示の洗浄剤組成物、多価アルコール(以下、「成分A」ともいう)を含む。成分Aは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。成分Aとしては、例えば、分子内に2個以上6個以下の水酸基を有する多価アルコールが挙げられる。成分Aの水酸基数は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスク除去性向上の観点から、2個以上6個以下が好ましく、2個以上5個以下がより好ましく、2個以上4個以下が更に好ましい。成分Aの水酸基数は、一又は複数の実施形態において、金属の腐食抑制の観点から、2個以上6個以下が好ましく、4個以上6個以下がより好ましく、5個以上6個以下が更に好ましい。成分Aの炭素数は、特に限定されなくてもよく、製造性と安定性の観点から、12個以下が好ましい。
【0017】
成分Aとしては、例えば、エチレングリコール等の2価のアルコール(ジオール);グリセリン等の3価のアルコール(トリオール);トレイトール等の4価のアルコール(テトラオール);キシリトール等の5価のアルコール;及び、ソルビトール、マンニトール等の6価のアルコール;から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。これらの中でも、金属腐食抑制の観点から、3価以上のアルコールが好ましく、5価以上のアルコールがより好ましく、そして、樹脂マスク除去性向上の観点から、6価以下のアルコールが好ましい。
【0018】
本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Aの含有量は、樹脂マスク除去性向上の観点から、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、そして、金属腐食抑制の観点から、5質量%以上好ましく、15質量%以上がより好ましい、25質量%以上が更に好ましく。より具体的には、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Aの含有量は、5質量%以上40質量%以下が好ましく、15質量%以上35質量%以下がより好ましく、25質量%以上30質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せである場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0019】
本開示において「洗浄剤組成物の使用時における各成分の含有量」とは、洗浄時、すなわち、洗浄剤組成物の洗浄への使用を開始する時点での各成分の含有量をいう。
本開示の洗浄剤組成物中の各成分の含有量は、一又は複数の実施形態において、本開示の洗浄剤組成物中の各成分の配合量とみなすことができる。
【0020】
[成分B:無機アルカリ]
本開示の洗浄剤組成物は、無機アルカリ(以下、「成分B」ともいう)を含む。成分Bは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
成分Bとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムから選ばれる1種又は2種以上の組み合わせが挙げられ、樹脂マスク除去性向上の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムから選ばれる1種又は2種以上の組み合わせが好ましく、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方がより好ましい。
【0022】
本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Bの含有量は、樹脂マスク除去性向上の観点から、1.5質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、2.5質量%以上が更に好ましく、そして、樹脂マスク除去性向上及び金属腐食抑制の観点から、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Bの含有量は、1.5質量%以上5質量%以下が好ましく、2質量%以上4質量%以下がより好ましく、2.5質量%以上3質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0023】
本開示の洗浄剤組成物における成分Bに対する成分Aのモル比A/Bは、金属腐食抑制の観点から、2超であって、2.5以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、そして、樹脂マスク除去性向上の観点から、8以下が好ましい。
【0024】
[成分C:水]
本開示の洗浄剤組成物は、水(以下、「成分C」ともいう)を含む。成分Cとしては、イオン交換水、RO水、蒸留水、純水、超純水等が挙げられる。
【0025】
本開示の洗浄剤組成物中の成分Cの含有量は、成分A、成分B及び後述する任意成分を除いた残余とすることができる。具体的には、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Cの含有量は、樹脂マスク除去性を大きく損なうことなく、金属腐食抑制及び環境負荷低減の観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、90質量%以下が好ましい。
【0026】
[その他の成分]
本開示の洗浄剤組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で、前記成分A~C以外に、必要に応じてその他の成分を含有することができる。その他の成分としては、通常の洗浄剤に用いられる成分を挙げることができ、例えば、キレート剤、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、界面活性剤、高分子化合物、可溶化剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、抗菌剤等が挙げられる。
本開示の洗浄剤組成物の使用時におけるその他の成分の合計含有量は、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が更に好ましく、0質量%(すなわち、含まないこと)が更に好ましい。
【0027】
本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、成分A以外の有機溶剤を含んでも構わない。
【0028】
本開示の洗浄剤組成物の使用時のpHは、樹脂マスク除去性向上の観点から、12以上が好ましく、12.5以上がより好ましく、13以上が更に好ましい。本開示において、「使用時のpH」とは、25℃におけるpHであり、pHメータを用いて測定できる。具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0029】
[洗浄剤組成物の製造方法]
本開示の洗浄剤組成物は、成分A、成分B、成分C及び必要に応じて上述の任意成分(その他の成分)を公知の方法で配合することにより製造できる。例えば、本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、少なくとも成分A、成分B及び成分Cを配合してなるものとすることができる。したがって、本開示は、少なくとも成分A、成分B及び成分Cを配合する工程を含む、洗浄剤組成物の製造方法に関する。本開示においては「配合する」とは、成分A、成分B、成分C及び必要に応じて上述した任意成分(その他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。本開示の洗浄剤組成物の製造方法において、各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の洗浄剤組成物の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0030】
本開示の洗浄剤組成物は、そのまま洗浄に使用する状態であってもよく、分離や析出等を起こして保管安定性を損なわない範囲で水(成分C)の量を減らした濃縮物として調製してもよい。濃縮倍率としては、例えば、2倍~10倍が挙げられる。本開示の洗浄剤組成物の濃度物は、使用時に各成分(成分A、成分B、成分C、及び、その他の成分)が上述した含有量(すなわち、洗浄時の含有量)になるよう水(成分C)で希釈して使用することができる。本開示の洗浄剤組成物の濃縮物は、使用時に各成分を別々に添加して使用することもできる。本開示において濃縮液の洗浄剤組成物の「使用時」又は「洗浄時」とは、洗浄組成物の濃縮物が希釈された状態をいう。
【0031】
[被洗浄物]
本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスクが付着した、無鉛はんだ又ははんだがない基板(被洗浄物)の洗浄に使用されうる。
前記被洗浄物としては、一又は複数の実施形態において、表面に銅や錫等の金属層及び樹脂マスクを有する基板が挙げられ、例えば、銅や錫等の金属バンプ及び樹脂マスクを有する基板が挙げられる。
前記基板としては、例えば、絶縁体の板やフィルム等が挙げられる。
前記金属層は、一又は複数の実施形態において、本質的に鉛を含まない金属層又無鉛はんだである。本質的に鉛を含まない金属層は、一又は複数の実施形態において、本質的に鉛を含まない金属めっき層である。本質的に鉛を含まない金属めっき層としては、例えば、錫めっき層、銅めっき層が挙げられる。金属めっき層は、例えば、無電解めっき法により形成することができる。本質的に鉛を含まない金属層又は無鉛はんだは、一又は複数の実施形態において、金属配線や配線接続部として用いられる。
前記被洗浄物は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスクを使用しためっき処理及びはんだ付けの少なくとも一方の処理を行う工程を経たものである。
【0032】
本開示の洗浄剤組成物は、その他の一又は複数の実施形態において、樹脂マスクが付着した被洗浄物の洗浄に使用されうる。
樹脂マスクが付着した被洗浄物としては、一又は複数の実施形態において、表面に鉛を含まない金属部分及び樹脂マスクを有する電子部品及びその製造中間物が挙げられる。電子部品としては、例えば、プリント基板、ウエハ、銅板及びアルミニウム板等の金属板から選ばれる少なくとも一つの部品が挙げられる。前記製造中間物は、電子部品の製造工程における成分中間製造物であって、樹脂マスク処理後の中間製造物を含む。
樹脂マスクが付着した被洗浄物の具体例としては、例えば、樹脂マスクを使用したはんだ付けやめっき処理(銅めっき、アルミニウムめっき、ニッケルめっき、錫めっき等)の少なくとも一方の処理を行う工程を経ることにより、配線や接続端子等が基板表面に形成された電子部品等が挙げられる。本開示において、はんだ付けとは、基板上の樹脂マスク非存在部にはんだを存在させ、加熱によりはんだバンプ形成することをいう。本開示において、めっき処理とは、基板上の樹脂マスク非存在部に銅めっき、アルミニウムめっき、ニッケルめっき及び錫めっきから選ばれる少なくとも一種のめっき処理を行うことをいう。樹脂マスク非存在部とは、基板にラミネートされた樹脂マスクを現象処理することにより形成されたレジストパターン(パターン形状の樹脂マスク)において、現象処理により樹脂マスクが除去された部分のことである。したがって、本開示は、一態様において、本開示の洗浄剤組成物の、電子部品の製造における洗浄剤としての使用に関する。
【0033】
被洗浄物は、一又は複数の実施形態において、基板にラミネートされた樹脂マスクを現象処理することにより形成されたレジストパターン(パターン形状の樹脂マスク)を有する基板に、はんだ付け及びめっき処理の少なくとも一方の処理を行う工程を経たものである。例えば、被洗浄物として、硬化したレジスト層が基板上に形成された樹脂マスク存在部である部位と、樹脂マスク非存在部にはんだバンプ又はめっき層が形成された部位、とを有する基板が挙げられる。
【0034】
本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、洗浄効果の点から、樹脂マスク、あるいは、更にめっき処理及び/又は加熱処理された樹脂マスクが付着した被洗浄物の洗浄に好適に用いられうる。樹脂マスクとしては、例えば、ネガ型樹脂マスクでもよいし、ポジ型樹脂マスクでもよい。本開示において、ネガ型樹脂マスクとは、ネガ型レジストを用いて形成されるものであり、例えば、露光および/又は現像処理されたネガ型レジスト層が挙げられる。本開示においてポジ型樹脂マスクとは、ポジ型レジストを用いて形成されるものであり、例えば、露光および/又は現像処理されたポジ型レジスト層が挙げられる。
【0035】
[洗浄方法]
本開示は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスクが付着した無鉛はんだ又ははんだがない基板(被洗浄物)を洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)を含む、基板の洗浄方法に関する(以下、「本開示の洗浄方法」ともいう)。前記洗浄工程は、一又は複数の実施形態において、被洗浄物を本開示の洗浄剤組成物に接触させることを含む。被洗浄物としては、上述した被洗浄物を挙げることができる。本開示の洗浄方法によれば、一又は複数の実施形態において、無鉛はんだ又ははんだがない基板の腐食を抑制しながら、樹脂マスクを除去できる。さらに、本開示の洗浄剤組成物を用いることで、労働現場と環境に従来の方法よりやさしい方法で、基板を洗浄できる。
【0036】
被洗浄物を本開示の洗浄剤組成物で洗浄する方法、又は、被洗浄物を本開示の洗浄剤組成物を接触させる方法としては、例えば、洗浄剤組成物を入れた洗浄浴槽内へ浸漬することで接触させる方法や、洗浄剤組成物をスプレー状に射出して接触させる方法(シャワー方式)、浸漬中に超音波照射する超音波洗浄方法等が挙げられる。本開示の洗浄剤組成物は、希釈することなくそのまま洗浄に使用できる。被洗浄物としては、上述した被洗浄物を挙げることができる。浸漬時間としては、例えば、1分以上10分以下、更には3分以上6分以下が挙げられる。スプレー時間としては、例えば、1分以上10分以下、更には3分以上6分以下が挙げられる。
【0037】
本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、洗浄剤組成物に被洗浄物を接触させた後、水でリンスし、乾燥する工程を含むことができる。リンス方法としては、例えば、流水リンスが挙げられる。乾燥方法としては、例えば、エアブロー乾燥が挙げられる。
【0038】
本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、洗浄剤組成物に被洗浄物を接触させた後、水ですすぐ工程を含むことができる。
【0039】
本開示の洗浄方法において、本開示の洗浄剤組成物の洗浄力が発揮されやすい点から、本開示の洗浄剤組成物と被洗浄物との接触時に超音波を照射することが好ましく、その超音波は比較的高周波数であることが好ましい。前記超音波の照射条件は、同様の観点から、例えば、26~72kHz、80~1500Wが好ましく、36~72kHz、80~1500Wがより好ましい。
【0040】
本開示の洗浄方法において、本開示の洗浄剤組成物の洗浄力が発揮されやすい点から、洗浄剤組成物の温度は40℃以上が好ましく、50℃以上がより好まく、そして、基板に対する影響低減の観点から、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0041】
[電子部品の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示の洗浄剤組成物を用いて、樹脂マスクが付着した無鉛はんだ又ははんだがない基板(被洗浄物)を洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)を含む、電子部品の製造方法(以下、「本開示の電子部品製造方法」ともいう)に関する。被洗浄物としては、上述した被洗浄物を挙げることができる。前記洗浄工程における洗浄方法としては、上述した本開示の洗浄方法と同様の方法が挙げられる。
本開示の電子部品製造方法によれば、本開示の洗浄剤組成物を用いて洗浄を行うことにより、金属の腐食を抑制しながら、電子部品に付着した樹脂マスクを除去できるため、信頼性の高い電子部品の製造が可能になる。さらに、本開示の洗浄剤組成物を用いることで、労働現場と環境に従来の方法よりやさしい方法で、電子部品の製造が可能になる。
【0042】
[キット]
本開示は、一態様において、本開示の洗浄方法及び本開示の電子部品製造方法のいずれかに使用するためのキット(以下、「本開示のキット」ともいう)に関する。本開示のキットは、一又は複数の実施形態において、本開示の洗浄剤組成物を製造するためのキットである。本開示のキットによれば、一又は複数の実施形態において、無鉛はんだ又ははんだが無い基板の腐食抑制に優れ、環境負荷の洗浄剤組成物を得ることができる。本開示のキットによれば、一又は複数の実施形態において、金属の腐食抑制に優れ、環境負荷の小さい洗浄剤組成物を得ることができる。
【0043】
本開示のキットの一実施形態としては、成分Aを含有する溶液(第1液)と、成分Bを含有する溶液(第2液)とを、相互に混合されない状態で含み、第1液及び第2液の少なくとも一方は、水(成分C)の一部又は全部を更に含有し、第1液と第2液とは使用時に混合される、キット(2液型洗浄剤組成物)が挙げられる。第1液と第2液とが混合された後、必要に応じて水(成分C)で希釈されてもよい。第1液及び第2液の各々には、必要に応じて上述した任意成分が含まれていてもよい。
【実施例0044】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0045】
1.実施例1~8及び比較例1~7の洗浄剤組成物の調製
表1に示す各成分を表1に記載の配合量(質量%、有効分)で配合し、それを攪拌して混合することにより、実施例1~8及び比較例1~7の洗浄剤組成物を調製した。
表1に示す各洗浄剤組成物の25℃におけるpHは、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM-30G)を用いて測定した値であり、pHメータの電極を洗浄剤組成物に浸漬して1分後の数値である。
【0046】
実施例1~8及び比較例1~7の洗浄剤組成物の調製には、下記のものを使用した。
(成分A)
ソルビトール [富士フィルム和光純薬製]
キシリトール [富士フィルム和光純薬製]
グリセリン [富士フィルム和光純薬製]
(成分B)
KOH:水酸化カリウム[関東化学株式会社製、鹿特級、濃度48%]
(成分C)
水[オルガノ株式会社製純水装置G-10DSTSETで製造した1μS/cm以下の純水]
【0047】
2.洗浄剤組成物の評価
調製した実施例1~8及び比較例1~7の洗浄剤組成物について下記評価を行った。
【0048】
[テストピース]
絶縁基板への無電解めっきによって、表面に鉛を含まない錫めっき層(厚み:約2μm)を有するベタ基板(はんだがない基板)からなるテストピース(50mm×50mm)を得た。
【0049】
[Snエッチングレートの評価(錫の腐食(腐食性)の評価)]
各洗浄剤組成物を2.5L調製して50℃に加温し、充円錐ノズル(J020、株式会社いけうち製)をスプレーノズルとして取り付けたボックス型スプレー洗浄機にて循環しながら、表面に錫メッキ(面積は片面あたり25cm2、両面で50cm2)を施したテストピース(表面に錫めっき層を有する基板)に対して4分間スプレー(圧力:0.2MPa、スプレー距離:80mm)する。洗浄機中に循環していた洗浄剤組成物をサンプリングし、洗浄剤組成物を希釈した後、ICP分析法(Agilent Technologies製Agilent 5110 ICP-OES)で錫の溶出量を測定し、下記式により、錫の密度を7.365g/cm3として溶出量からSnエッチングレート(μm/分)を評価した。下記で算出されるSnエッチングレートの数値が低いほど、錫腐食抑制効果に優れると判断できる。
Snエッチングレート(μm/分) = 錫の溶出量(重量)÷錫の密度÷めっき面積÷処理時間
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すとおり、実施例1~8の洗浄組成物は、成分Aを含まない比較例1、及び、モル比A/Bが2以下である比較例2~7に比べて、環境負荷の小さい無機アルカリ系の洗浄剤組成物であっても、Snエッチングレートを低減することができた。すなわち、実施例1~7の洗浄組成物は、環境負荷が小さく、金属の腐食抑制効果に優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示によれば、基板の金属腐食抑制に優れ、環境負荷の小さい洗浄剤組成物を提供できる。本開示の洗浄剤組成物を用いることで、樹脂マスクが付着した電子部品の洗浄工程の短縮化及び製造される電子部品の性能・信頼性の向上が可能となり、半導体装置の生産性を向上できる。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール(成分A)、無機アルカリ(成分B)及び水(成分C)を含有し、成分Aと成分Bとのモル比A/Bが2超である、樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物。
【請求項2】
洗浄剤組成物の使用時における成分Aの含有量が5質量%以上40質量%以下であり、
洗浄剤組成物の使用時における成分Bの含有量が1.5質量%以上5質量%以下であり、
洗浄剤組成物の使用時における成分Cの含有量が50質量%以上である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
成分Aは、分子内に2個以上6個以下の水酸基を有する多価アルコールの1種又は2種以上を含む、請求項に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の洗浄剤組成物を用いて、樹脂マスクが付着した、無鉛はんだ又ははんだがない基板を洗浄する工程を含む、基板の洗浄方法。