(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078999
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】化学洗浄方法およびボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物
(51)【国際特許分類】
C23G 1/08 20060101AFI20240604BHJP
C23G 1/24 20060101ALI20240604BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20240604BHJP
B08B 9/032 20060101ALI20240604BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20240604BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20240604BHJP
C11D 7/36 20060101ALI20240604BHJP
C11D 7/06 20060101ALI20240604BHJP
C11D 7/16 20060101ALI20240604BHJP
C11D 7/14 20060101ALI20240604BHJP
C11D 7/12 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C23G1/08
C23G1/24
B08B3/08 Z
B08B9/032 321
C11D7/26
C11D7/32
C11D7/36
C11D7/06
C11D7/16
C11D7/14
C11D7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191677
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】今道 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】野口 良典
(72)【発明者】
【氏名】大塚 瑞希
(72)【発明者】
【氏名】江川 薫
(72)【発明者】
【氏名】和田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】植田 篤斉
(72)【発明者】
【氏名】服部 聖也
(72)【発明者】
【氏名】室田 沙織
【テーマコード(参考)】
3B116
3B201
4H003
4K053
【Fターム(参考)】
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4K053YA03
(57)【要約】
【課題】中和処理を必要とせず、従来よりも少ない工程数で、作業者がより安全に洗浄残渣物を除去できる化学洗浄方法およびそれに用いるボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物を提供する。
【解決手段】本開示に係る化学洗浄方法は、金属母材が構成部材に用いられた設備を中性洗浄または酸性洗浄し、中性洗浄または酸性洗浄(S2)の後、洗浄対象を第1リンス液により第1リンス処理する工程(S4)と、第1リンス処理の後、第2リンス液を用いて、pH6以上の環境下で洗浄対象を第2リンス処理する工程(S5)と、を備え、第1リンス液は、有機酸、アミノカルボン酸類およびホスホン酸類からなる群から選択される酸を含む水溶液であり、第2リンス液は、第1リンス液およびリンス用薬剤組成物を含み、リンス用薬剤組成物は、第4級アンモニウム塩を含み、第4級アンモニウム塩は、水酸化物イオンをアニオン成分とする有機アルカリである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属母材が構成部材に用いられた設備を洗浄対象として、該洗浄対象を中性洗浄または酸性洗浄する化学洗浄方法であって、
前記中性洗浄または前記酸性洗浄の後、前記洗浄対象を第1リンス液により第1リンス処理する工程と、
前記第1リンス処理の後、第2リンス液を用いて、pH6以上の環境下で前記洗浄対象を第2リンス処理する工程と、
を備え、
前記第1リンス液は、有機酸、アミノカルボン酸類およびホスホン酸類からなる群から選択される酸を含む水溶液であり、
前記第2リンス液は、前記第1リンス液およびリンス用薬剤組成物を含み、
前記リンス用薬剤組成物は、第4級アンモニウム塩を含み、
前記第4級アンモニウム塩は、水酸化物イオンをアニオン成分とする有機アルカリである化学洗浄方法。
【請求項2】
前記第2リンス液は、前記第4級アンモニウム塩を0.4重量%以上含む請求項1に記載の化学洗浄方法。
【請求項3】
前記第2リンス処理を、pH6以上10以下の環境下で実施する請求項1に記載の化学洗浄方法。
【請求項4】
前記第4級アンモニウム塩は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、モノメチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドの中から選択される請求項1に記載の化学洗浄方法。
【請求項5】
前記リンス用薬剤組成物は、キレート剤および無機アルカリの少なくとも一方を含む請求項1に記載の化学洗浄方法。
【請求項6】
前記無機アルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウムの中から選択される請求項5に記載の化学洗浄方法。
【請求項7】
前記キレート剤は、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、酒石酸、シュウ酸、アジピン酸、リンゴ酸、マロン酸の中から選択される請求項5に記載の化学洗浄方法。
【請求項8】
前記第2リンス液の温度は、50℃以下である請求項1に記載の化学洗浄方法。
【請求項9】
ボイラの伝熱管内を中性洗浄または酸性洗浄する化学洗浄において、pH6以上の環境下で使用されるボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物であって、
第4級アンモニウム塩を含み、
前記第4級アンモニウム塩は水酸化物イオンをアニオン成分とする有機アルカリであるボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化学洗浄方法およびボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラント等の伝熱管(以下、ボイラ)では、金属母材が構成部材として用いられている。ボイラでは、運転によりその内面に酸化鉄(Fe2O3,Fe3O4等)を主とするスケールが付着する。長期運転によりスケールが成長すると、ボイラには差圧上昇、プラント効率の低下、腐食による損傷、伝熱阻害によるメタル温度の過昇に起因した損傷が生じる可能性がある。
【0003】
このようなトラブルの発生を未然に防止するため、保守点検にてスケール付着量の推移を調査し、定期的にスケールを除去する化学洗浄が実施されている(特許文献1参照)。
【0004】
図3に特許文献1に係る化学洗浄方法の工程図を示す。特許文献1では、洗浄対象に仮設系統を接続した後、中性洗浄液を用いた化学洗浄を行う(S11,S12)。その後、第1水洗(S13)、酸化処理(S14)、第2水洗(S15)、溶解処理(S16)、防錆前処理(S17)および防錆処理(S18)を経て、仮設系統を解体(S19)して洗浄終了となる。
【0005】
化学洗浄では、洗浄性向上および母材の腐食抑制のために、洗浄液に還元剤および腐食抑制剤が添加される。還元剤および腐食抑制剤には硫黄(S)が含まれている。洗浄液に含まれる硫黄は洗浄の過程で金属母材表面の成分と反応し、金属硫化物(FeS2、MoS2等)が形成される。この金属硫化物は、洗浄後の金属母材表面に残り洗浄残渣物となる。
【0006】
洗浄残渣物が存在する状態でボイラを起動した場合、洗浄残渣物から硫化物イオンが発生し、金属母材腐食の不具合をきたす可能性がある。洗浄残渣物の存在は、目視によるスケールの洗浄(除去)の終了判定を阻害しうる。よって、洗浄残渣物は、ボイラ起動前に除去しておくことが望ましい。
【0007】
洗浄残渣物(金属硫化物)は、酸性の化学洗浄液への溶解性が低い。そのため、従来は、(1)無機アルカリ(水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム)、または(2)酸化剤および酸性液を用いて除去されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、酸化剤により金属硫化物を酸化させて金属酸化物とした(酸化処理)後、酸性液により該金属酸化物を溶解すること(溶解処理)で残渣物である金属硫化物を除去している。特許文献1に記載の酸化処理および溶解処理は、酸性洗浄液を用いた化学洗浄の過程で生成された残渣物の除去にも有効である。しかしながら、特許文献1に記載の溶解処理はpH3.5~4.3で実施されるため、防錆処理の前に、洗浄対象の流体の中和(防錆前処理)が必要である。洗浄残渣物除去に要する工程は少ない方が望ましい。
【0010】
また、特許文献1の洗浄対象はボイラであるが、防錆前処理での中和もしくは水洗が不十分であった場合、循環流体(ボイラ水)のpHが低下し、ボイラ起動時の循環流体の液性悪化につながる。そのため、中和処理を必要としない方法で洗浄残渣物を除去できることが好ましい。
【0011】
特許文献1では、酸化剤として過酸化水素を用いている。過酸化水素は毒物および劇物取締法で劇物に分類される化学物質であり、その取扱いには危険が伴う。また、無機アルカリを用いて残渣物を除去する場合も、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの劇物の取り扱いが必要である。
【0012】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、中和処理を必要とせず、従来よりも少ない工程数で残渣物を除去でき、ボイラ起動時の水質悪化のリスクを抑制できる化学洗浄方法およびそれに用いるボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物を提供することを目的とする。また、本開示は、作業者がより安全に洗浄残渣物を除去できる化学洗浄方法およびそれに用いるボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示の化学洗浄方法およびそれに用いるボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物は以下の手段を採用する。
【0014】
本開示は、金属母材が構成部材に用いられた設備を洗浄対象として、該洗浄対象を中性洗浄または酸性洗浄する化学洗浄方法であって、前記中性洗浄または前記酸性洗浄の後、前記洗浄対象を第1リンス液により第1リンス処理する工程と、前記第1リンス処理の後、第2リンス液を用いて、pH6以上の環境下で前記洗浄対象を第2リンス処理する工程と、を備え、前記第1リンス液は、有機酸、アミノカルボン酸類およびホスホン酸類からなる群から選択される酸を含む水溶液であり、前記第2リンス液は、前記第1リンス液およびリンス用薬剤組成物を含み、前記リンス用薬剤組成物は、第4級アンモニウム塩を含み、前記第4級アンモニウム塩は、水酸化物イオンをアニオン成分とする有機アルカリである化学洗浄方法を提供する。
【0015】
本開示は、ボイラの伝熱管内を中性洗浄または酸性洗浄する化学洗浄において、pH6以上の環境下で使用されるボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物であって、第4級アンモニウム塩を含み、前記第4級アンモニウム塩は水酸化物イオンをアニオン成分とする有機アルカリであるボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、アニオン成分として水酸化物イオンを有する第4級アンモニウム塩を用いることで、従来よりも洗浄残渣物除去に必要な工程数を少なくし、ボイラ起動時の水質悪化のリスクを抑え、より安全に洗浄残渣物を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の一実施形態に係る化学洗浄方法の工程図である。
【
図2】仮設系統(化学洗浄装置)の配置例を示す模式図である。
【
図3】特許文献1に係る化学洗浄方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示に係る化学洗浄方法およびそれに用いる(ボイラ伝熱管)リンス用薬剤組成物は、金属母材が構成部材に用いられた設備を洗浄対象とする。金属母材は、例えば、合金鋼であり、低合金鋼であってもよい。合金鋼が構成部材として用いられた設備とは、例えば発電プラントのボイラの伝熱管の内面や外面等である。
【0019】
図1に、本実施形態に係る化学洗浄方法の工程図を示す。本実施形態に係る化学洗浄方法は、仮設系統接続(ステップ1)、洗浄(ステップ2)、水洗(ステップ3)、第1リンス処理(ステップ4)、第2リンス処理(ステップ5)、防錆処理(ステップ6)および仮設系統解体(ステップ7)を順に含む。
【0020】
《S1》仮設系統(化学洗浄装置)接続
まず、洗浄対象に流体を供給するための仮設系統を接続する。以降、洗浄液等の流体は仮設系統から洗浄対象に注入される。
【0021】
図2に、仮設系統の配置例を示す。洗浄対象は、例えば、貫流ボイラ10の伝熱管である。
図2の貫流ボイラ10は、節炭器1、火炉壁管2(伝熱管)および気水分離器3を備えている。仮設系統4は、火炉壁管2(伝熱管)内に洗浄液が供給されるよう、節炭器1の入口および気水分離器3のドレン排出部に接続されている。
【0022】
《S2》洗浄
洗浄対象10に水を張り、該水を所定温度で洗浄対象10に循環させる。該水を循環させながら、仮設系統4から洗浄液を注入して洗浄対象10を洗浄液で満たし、循環を継続する。洗浄は、洗浄液を循環させることに限定されず、浸漬洗浄または静置洗浄(スウィングブロー)としてもよい。洗浄終了の際は、洗浄対象10の洗浄液をブローする。
「静置洗浄(スウィングブロー)」では、洗浄液注入、静置および洗浄液排出を1セットとした洗浄を繰り返し実施する。洗浄対象は、主に、静置されている間に洗浄される。洗浄液の注入および排出の際に、洗浄液の液面高さは上下する。
「浸漬洗浄」は、洗浄液注入、静置および洗浄液排出で完結する洗浄方法である。「浸漬洗浄」では、洗浄液注入、静置および洗浄液排出を1セットとした洗浄を繰り返すことはない。
【0023】
洗浄液は、主剤、還元剤および腐食抑制剤を含む。洗浄液は、所望の洗浄能力および洗浄時間が得られるように、主剤、還元剤および腐食抑制剤の濃度が適切に調整されている。洗浄液は、中性洗浄液または酸性洗浄液であってよい。主剤は、錆などの金属酸化物を含むスケールに対する溶解能を有する。洗浄液は、さらに、pH調整剤および消泡剤等を含んでもよい。消泡剤は、水系用の消泡剤を用いることができる。水系用の消泡剤は、特殊界面活性剤、金属石鹸、鉱物油(ソルホームSIF)、変性シリコーン(ソルホームAF-200)等を含む。
【0024】
(中性洗浄)
中性洗浄液のpHは、5.0~8.0である。中性洗浄液は、常温(15~55℃、好ましくは30~50℃、さらに好ましくは35~45℃程度)で洗浄対象に循環させる。
【0025】
中性洗浄液の主剤は、キレート剤および有機酸から選択される少なくとも1種を含む。キレート剤は、アミノカルボン酸類およびそれらの塩あるいはホスホン酸類およびそれらの塩である。
【0026】
主剤の配合量は、金属酸化物を含むスケール除去および金属母材の腐食抑制の観点から、中性洗浄液の全量に対して、0.1重量%以上40重量%以下である。0.1重量%未満ではスケール溶解性が不十分となる。40重量%を超えると防食性が不十分となる。
【0027】
なお、主剤は、水酸化カリウム等の各種アルカリ金属の水酸化物を含んでもよい。主剤は、塩酸、硫酸およびそれらの塩等の無機酸、無機酸塩を含んでもよい。
【0028】
還元剤としては、尿素系化合物、二酸化チオ尿素系化合物、チオグリコール酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオン酸塩およびポリチオン酸塩などが挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
腐食抑制剤としては、メルカプタン基(HS-)、チオシアン酸基(-SCN)またはメルカプタン基のアルカリ金属塩(NaS-,KS-,LiS-)を有する硫黄有機化合物などが挙げられる。これらの腐食抑制剤は、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(酸性洗浄)
酸性洗浄液は、常温~95℃程度で洗浄対象に循環させる。
【0031】
酸性洗浄液の主剤は、有機酸または無機酸である。有機酸としては、グリコール酸、クエン酸等のカルボン酸などが挙げられる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。主剤としては、これらの1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
還元剤としては、尿素系化合物、二酸化チオ尿素系化合物、チオグリコール酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオン酸塩およびポリチオン酸塩などが挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
腐食抑制剤としては、メルカプタン基(HS-)、チオシアン酸基(-SCN)またはメルカプタン基のアルカリ金属塩(NaS-,KS-,LiS-)を有する硫黄有機化合物などが挙げられる。これらの腐食抑制剤は、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
《S3》水洗
洗浄が終了したら、洗浄液をブローする。その後、洗浄対象10に水を張り、洗浄対象に残る洗浄液を該水に置換し、循環するとともに、水洗が終了したら該水をブローする。
【0035】
《S4》第1リンス処理
第1リンス処理では、第1リンス液を用いて、洗浄後の水洗中に発生した錆を溶解除去する。
【0036】
洗浄対象10に水を張り、該水を常温(15~55℃、好ましくは30~50℃、さらに好ましくは35~45℃程度)で循環させる。循環させる水は必要に応じて加熱してもよい。該水を循環させながら、仮設系統4から洗浄対象10に第1リンス液を注入し、洗浄対象10を第1リンス液で満たし、循環を継続する。第1リンス液の循環時間は、水洗中に発生した錆の量に応じて適宜設定されうる。第1リンス処理は、第1リンス液を循環させることに限定されず、浸漬洗浄や静置処理(スウィングブロー)としてもよい。
【0037】
第1リンス液は、有機酸、アミノカルボン酸類およびホスホン酸類からなる群から選択される酸を含む水溶液である。
【0038】
有機酸は、クエン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、デカン-1,10-ジカルボン酸などのジカルボン酸、および、ジカルボン酸の塩、チオジグリコール酸、オキサル酢酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、カルボキシメチルタルトロン酸、およびこれらの塩、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イタコン酸、メチルコハク酸、3-メチルグルタル酸、2,2-ジメチルマロン酸、マレイン酸、フマール酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、アコニット酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、エタンテトラカルボン酸、エテンテトラカルボン酸、n-アルケニルアコニット酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、フタル酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、テトラヒドロフラン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、テトラヒドロフラン-2,2,5,5-テトラカルボン酸の中から選択されうる。
【0039】
アミノカルボン酸類はニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、およびトリエチレンテトラミン六酢酸から選択されうる。
【0040】
ホスホン酸類はホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレンテトラミンペンタキス(メチレンホスホン酸)、および2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸から選択されうる。
【0041】
第1リンス液では、上記酸(成分)を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
第1リンス液は、クエン酸水溶液であることが好ましい。洗浄対象10を循環するクエン酸水溶液におけるクエン酸の濃度は、0.1重量%以上である。
【0043】
《S5》第2リンス処理
第1リンス処理後、第1リンス液を循環させながら、仮設系統4から洗浄対象10にリンス用薬剤組成物を投入する。第1リンス液にリンス用薬剤組成物が溶解した第2リンス液で洗浄対象10を満たし、循環を継続する。循環させる第2リンス液の温度は、50℃以下、好ましくは15℃以上50℃以下、より好ましくは30℃以上50℃以下である。第2リンス液の循環時間は、洗浄対象表面に存在する残渣物の性状および量に応じて適宜設定されうる。
【0044】
「洗浄残渣物」は、洗浄液に含まれる成分と、洗浄の過程で洗浄対象10の母材表面の金属元素とが反応して形成された物質である。「洗浄残渣物」は、少なくとも、洗浄液に含まれる硫黄が母材表面の金属元素と反応して形成された金属硫化物を含む。金属硫化物は、FeS2およびMoS2などである。
【0045】
第2リンス液のpHは6以上、好ましくは6以上13以下、さらに好ましくは6以上10以下、より好ましくは7以上9以下である。第2リンス液のpHは、pH調整剤により調整されうる。pH調整剤は、有機酸、アミノカルボン酸類、ホスホン酸類である。有機酸は、クエン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、デカン-1,10-ジカルボン酸などのジカルボン酸、および、ジカルボン酸の塩、ジグリコール酸、チオジグリコール酸、オキサル酢酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、カルボキシメチルタルトロン酸、およびこれらの塩、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イタコン酸、メチルコハク酸、3-メチルグルタル酸、2,2-ジメチルマロン酸、マレイン酸、フマール酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、アコニット酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、エタンテトラカルボン酸、エテンテトラカルボン酸、n-アルケニルアコニット酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、フタル酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、テトラヒドロフラン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、テトラヒドロフラン-2,2,5,5-テトラカルボン酸の中から選択されうる。アミノカルボン酸類はニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、およびトリエチレンテトラミン六酢酸から選択されうる。ホスホン酸類はホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレンテトラミンペンタキス(メチレンホスホン酸)、および2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸から選択されうる。pH調整剤は、クエン酸であることが好ましい。
【0046】
リンス用薬剤組成物は、第4級アンモニウム塩を含む。第4級アンモニウム塩は、アニオン成分として水酸化物イオンを有する有機アルカリである。リンス用薬剤組成物は、第4級アンモニウム塩に含まれる水酸化物イオンは、pH6以上の環境下で、残渣物に吸着して溶解させる。
【0047】
第2リンス液における第4級アンモニウム塩の配合量は、0.4重量%以上、好ましくは0.4重量%以上50重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以上3重量%以下、より好ましくは1重量%以上3重量%以下である。
【0048】
第4級アンモニウム塩は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、モノメチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドの中から選択される。
【0049】
リンス用薬剤組成物は、キレート剤および無機アルカリのうちの少なくとも1つを含んでよい。
【0050】
無機アルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウムの中から選択される。無機アルカリは、第2リンス液のpHを調整できる。無機アルカリは、残渣物の溶解を促進できる。無機アルカリは、第2リンス液を指定の第4級アンモニウム塩濃度およびpHにできる範囲の量で配合されうる。
【0051】
キレート剤は有機酸であり、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、酒石酸、シュウ酸、アジピン酸、リンゴ酸、マロン酸の中から選択される。キレート剤は、第2リンス液を指定の第4級アンモニウム塩濃度およびpHにできる範囲の量で配合されうる。
【0052】
《S6》防錆処理
第2リンス処理終了後、第2リンス液を循環させながら、洗浄対象10に、ヒドラジンを投入して防錆皮膜を形成させる。防錆処理が終了したら、ヒドラジン水をブローする。
【0053】
《S7》仮設系統解体
上記S6の後、仮設系統を解体する。
【0054】
上記S2からS5の工程は、1回のみ実施しても良いし、複数回実施しても良い。
【0055】
洗浄対象となる機器が常設の洗浄系統を備えている場合、上記S1およびS7は省略される。
【0056】
以下で、リンス用薬剤組成物の成分、該成分の配合量、および第2リンス液の使用環境の設定根拠を説明する。
【0057】
テストピースを作製し、洗浄残渣物除去試験を実施した。
(テストピース)
運転後のボイラの火炉壁を構成する伝熱管から切り出したチューブ(抜管チューブ、STBA23)を加工し、幅1.5cm程度のアーチ状の母材を作製した。該母材でマグネタイトペレットを挟み、スケール付着状態を再現した。中性洗浄液により、40℃で20時間洗浄した。これにより洗浄残渣物が付着したテストピースを得た。抜管チューブを洗浄処理した場合の表面硫黄量は約2.5%、テストピース表面の硫黄量は3~4%であり、十分な洗浄残渣物がテストピース上に生成していることを確認した。
【0058】
中性洗浄液の構成は、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸のナトリウム塩 25重量%、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン0.5重量%、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール0.1重量%、二酸化チオ尿素 1.0重量%の水溶液とした。
【0059】
(残渣物除去)
第1リンス液(0.1重量%クエン酸水溶液)を入れたビーカーに、テストピースを投入し、40℃で1時間攪拌処理した。第1リンス処理後のビーカーに、様々な薬剤を添加し、40℃で1時間処理した。第2リンス処理の後、ビーカーからテストピースを取り出し、80℃に加熱したヒドラジン水溶液(500ppm)中で15分間攪拌処理した。
【0060】
第1リンス処理後のビーカーに添加する薬剤としては、以下に列挙する無機アルカリ、第4級アンモニウム塩、アミンおよびアルカノールアミンを用いた。
【0061】
無機アルカリ:
水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、リン酸三ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウム
【0062】
第4級アンモニウム塩:
トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、モノメチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド
【0063】
アミン:
アンモニア水(アンモニア濃度10%未満)
【0064】
アルカノールアミン:
トリエタノールアミン(TEA)、モノエタノールアミン(MEA)、モノイソプロパノールアミン(MIPA)
【0065】
pH調整剤:
有機酸(クエン酸)
【0066】
(評価)
防錆処理後のテストピースを十分に乾燥させ、走査型電子顕微鏡によるエネルギー分散型X線分析(EDX)に供した。残渣物の指標として硫黄(S)元素の割合を測定した。残渣物を十分に除去できていると判断する基準は、硫黄濃度0.6%以下とした。
【0067】
表1に、テストピース表面の硫黄濃度の測定結果を示す。
【0068】
【0069】
(1)第4級アンモニウム塩に含まれるアニオン成分について
アニオン成分として水酸化物イオン(実施例1~3)、塩化物イオン(比較例13),または臭化物イオン(比較例14)を有する第4級アンモニウム塩を用いたテストピースの結果を比較する。
【0070】
実施例1~3のテストピース表面の硫黄濃度は、いずれも0.5%未満であった。
比較例13のテストピース表面の硫黄濃度は1.8%だった。
比較例14のテストピース表面の硫黄濃度は2.0%だった。
【0071】
上記結果によれば、アニオン成分として水酸化物イオンを有する第4級アンモニウム塩を用いることで、洗浄残渣物を十分に除去できることが確認された。また、第4級アンモニウム塩であっても、アニオン成分として水酸化物イオンを含まない第4級アンモニウム塩では残渣物を十分に除去できないことが確認された。これは、水酸化物イオンと比較して、残渣物への吸着が弱いためだと考えられる。塩化物イオンを有する4級アンモニウム塩に関して、水酸化カリウム(KOH)水溶液を添加してpHを上げて評価したところ、pH11でもテストピース表面の硫黄濃度は0.8%であり、洗浄残渣物の除去が不十分であった。pH12.5まで上げるとテストピース表面の硫黄濃度は0.5%未満となり、洗浄残渣物を十分除去できたが、これは、無機アルカリ単独での効果と同様の結果と考えられる。
【0072】
(2)第4級アンモニウム塩の配合量
アニオン成分として水酸化物イオンを有する第4級アンモニウム塩としてジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドを用いた、配合量の異なるテストピース(実施例4,5,2、比較例10)の結果を比較する。
【0073】
比較例10(0.3重量%配合)のテストピース表面の硫黄濃度は1.0%だった。
実施例4(0.4重量%配合)のテストピース表面の硫黄濃度は0.6%だった。
実施例5(0.5重量%配合)のテストピース表面の硫黄濃度は0.5%未満だった。
実施例2(0.75重量%配合)のテストピース表面の硫黄濃度は0.5%未満だった。
【0074】
上記結果から、アニオン成分として水酸化物イオンを有する第4級アンモニウム塩(以降、第4級アンモニウム塩と省略)を0.4重量%以上、好ましくは0.5重量%以上配合したリンス液を用いることで、洗浄残渣物を十分に除去できることが確認された。
【0075】
なお、実施例4,5,2とは異なる種類の第4級アンモニウム塩を用いた実施例1,3では、第4級アンモニウム塩0.6重量%,0.9重量%の配合で、テストピース表面の硫黄濃度は0.5%未満だった。
【0076】
(3)第4級アンモニウム塩と他の薬剤との比較
第4級アンモニウム塩を用いた実施例1~5、第4級アンモニウム塩に替えて無機アルカリを用いた比較例1~4、アミンを用いた比較例15、およびアルカノールアミンを用いた比較例16~20のテストピースの結果を比較する。
【0077】
実施例1~5のテストピース表面の硫黄濃度は、いずれも0.6%以下であった。
比較例1~4のテストピース表面の硫黄濃度は、いずれも0.5%未満だった。
比較例15のテストピース表面の硫黄濃度は、1.6%だった。
比較例16~20のテストピース表面の硫黄濃度は、1.0%~2.0%だった。
【0078】
上記結果から、第4級アンモニウム塩を用いることで、無機アルカリを用いた場合と同等レベルで洗浄残渣物を除去できることが確認された。アミンおよびアルカノールアミンでは、洗浄残渣物を十分に除去できなかった。
【0079】
(4)第2リンス処理の環境
まず、無機アルカリを用いてpH12以上で第2リンス処理した比較例1~4と、無機アルカリを用いてpH12未満で第2リンス処理した比較例5~9のテストピースの結果を比較する。
【0080】
比較例1~4のテストピース表面の硫黄濃度は、いずれも0.5%未満だった。
比較例5~9のテストピース表面の硫黄濃度は、0.8~2.0%未満だった。
【0081】
上記結果から、無機アルカリを用いた場合、pH12未満の使用環境では洗浄残渣物を十分に除去できないことが確認された。
【0082】
次に、第4級アンモニウム塩を用いた実施例2と、クエン酸および第4級アンモニウム塩を用いた実施例6,7および比較例11,12のテストピースの結果を比較する。
【0083】
pHが6以上である実施例2,6,7のテストピース表面の硫黄濃度は、0.5%未満であった。
pHが6未満である比較例11,12のテストピース表面の硫黄濃度は、0.7%~1.1%であった。
【0084】
上記結果から、第4級アンモニウム塩を用いた場合、pH6以上であれば、pH12未満であっても洗浄残渣物を十分に除去できることが確認された。
【0085】
クエン酸の添加により、使用環境(第2リンス液)のpHは低下した。実施例6のpHpHは9.7、実施例7のpHは6.4だった。第2リンス処理をpH6以上10以下の環境下で実施することで、より安全に洗浄残渣物を除去できる。
【0086】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載の化学洗浄方法およびボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物は、例えば以下のように把握される。
【0087】
本開示の第1の態様に係る化学洗浄方法は、金属母材が構成部材に用いられた設備を洗浄対象として、該洗浄対象を中性洗浄または酸性洗浄する(S2)化学洗浄方法であって、前記中性洗浄または前記酸性洗浄の後、前記洗浄対象を第1リンス液により第1リンス処理する工程(S4)と、前記第1リンス処理の後、第2リンス液を用いて、pH6以上の環境下で前記洗浄対象を第2リンス処理する工程(S5)と、を備え、前記第1リンス液は、有機酸、アミノカルボン酸類およびホスホン酸類からなる群から選択される酸を含む水溶液であり、前記第2リンス液は、前記第1リンス液およびリンス用薬剤組成物を含み、前記リンス用薬剤組成物は、第4級アンモニウム塩を含み、前記第4級アンモニウム塩は、水酸化物イオンをアニオン成分とする有機アルカリである。
【0088】
中性洗浄または酸性洗浄により、洗浄対象表面から金属酸化物を含むスケールが溶解除去される。洗浄の過程において、洗浄液に含まれる成分と金属母材の成分との反応物(洗浄残渣物)が生成される。
【0089】
第1リンス処理で用いられる第1リンス液(クエン酸水溶液)は、洗浄後に洗浄対象表面に発生した錆を除去できる。
【0090】
第2リンス液を用いた第2リンス処理では、洗浄対象表面から洗浄残渣物を除去できる。第2リンス液における洗浄残渣物除去成分は、アニオン成分として水酸化物イオンを有する第4級アンモニウム塩である。
【0091】
アニオン成分として水酸化物イオンを有する第4級アンモニウム塩を含むリンス用薬剤組成物は、pH6以上の環境下で洗浄残渣物除去成分としての機能を十分に発揮できる。
【0092】
第2リンス液は、第1リンス液を含む。よって、第1リンス処理の後、水洗工程を経ずに第2リンス処理に移行できる。また、第2リンス処理をpH6以上の環境下で実施するため、防錆前の中和処理は不要である。また、防錆前の中和処理が不十分であることに起因した循環流体の液性の悪化の心配もない。
【0093】
第1リンス液であるクエン酸水溶液および第2リンス液に含まれる第4級アンモニウム塩は劇物に該当しない。そのため、過酸化水素、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどの劇物をメインの残渣物除去成分として用いる従来法と比べ、本開示の第1の態様では、より安全に洗浄残渣物除去作業を実施できる。
【0094】
本開示の第2の態様に係る化学洗浄方法では、上記第1の態様において、前記第2リンス液は、前記第4級アンモニウム塩を0.4重量%以上含むことが望ましい。
【0095】
0.4重量%以上、好ましくは0.5重量%以上で第4級アンモニウム塩を含ませることで、第2リンス液は洗浄残渣物を十分に除去できる。
【0096】
本開示の第3の態様に係る化学洗浄方法では、上記第1または第2の態様において、前記第2リンス処理を、pH6以上10以下の環境下で実施するとよい。
【0097】
残渣物の除去に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを用いる場合、pH12以上の環境で実施する必要がある。一方、上記態様によれば、強アルカリでない、危険性の低い環境での洗浄残渣物の除去が可能となる。
【0098】
本開示の第4の態様の化学洗浄方法では、上記第1~第3のいずれかの態様において、前記第4級アンモニウム塩は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、モノメチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドの中から選択されうる。
【0099】
本開示の第5の態様の化学洗浄方法では、上記第1~第4のいずれかの態様において、前記リンス用薬剤組成物は、キレート剤および無機アルカリの少なくとも一方を含んでもよい。
【0100】
キレート剤は、第2リンス処理において、残渣物に含まれる鉄などの成分を溶解することにより、残渣物の溶解を促進できる。無機アルカリは、第2リンス液のpHを調整し、第2リンス処理における残渣物の溶解を促進できる。
【0101】
本開示の第6の態様の化学洗浄方法では、上記第5の態様において、前記無機アルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウムの中から選択されうる。
【0102】
上記の無機アルカリは、コスト、有害性、調達性を考慮して選定される。
【0103】
本開示の第7の態様の化学洗浄方法では、上記第5または第6の態様において、前記キレート剤は、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ホスホン酸、酒石酸、シュウ酸、アジピン酸、リンゴ酸、マロン酸の中から選択されうる。
【0104】
上記のキレート剤は、洗浄残渣物の除去を促進するために、洗浄残渣物に含まれる鉄へのキレート力が強いものから選定される。
【0105】
本開示の第8の態様の化学洗浄方法では、第1~第7のいずれかの態様において、前記第2リンス液の温度は、50℃以下であることが望ましい。第2リンス液の温度は、15℃以上50℃以下、好ましくは30℃以上50℃以下であってよい。
【0106】
50℃以下で十分な洗浄能力を有しており、50℃以下であれば、洗浄中に洗浄対象設備周辺における並行作業を実施できるメリットがある。
【0107】
本開示の第9の態様のボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物は、ボイラの伝熱管内を中性洗浄または酸性洗浄する化学洗浄において、pH6以上の環境下で使用されるボイラ伝熱管リンス用薬剤組成物であって、第4級アンモニウム塩を含み、前記第4級アンモニウム塩は水酸化物イオンをアニオン成分とする有機アルカリである。
【符号の説明】
【0108】
1 節炭器
2 火炉壁管(伝熱管)
3 気水分離器
4 仮設系統(化学洗浄装置)
10 洗浄対象(貫流ボイラ)