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特開2024-79009C3a受容体シグナル伝達経路の阻害剤
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  • 特開-C3a受容体シグナル伝達経路の阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079009
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】C3a受容体シグナル伝達経路の阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/427 20060101AFI20240604BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61K31/427
A61P17/04
A61P43/00 111
A61P37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191692
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】横田 将史
(72)【発明者】
【氏名】滝口 輝澄
(72)【発明者】
【氏名】三沢 憲佑
(72)【発明者】
【氏名】松本 朋大
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 大樹
(72)【発明者】
【氏名】菅井 由也
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086GA09
4C086GA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB13
4C086ZC42
(57)【要約】      (修正有)
【課題】C3a受容体シグナル伝達経路を阻害する物質や、かかる物質を有効成分として含有する、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防剤若しくは改善剤や、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防剤若しくは改善剤等の提供。
【解決手段】以下の式(I)で表される化合物、及び、その生理的に許容される塩からなる群から選択され、かつ、C3a受容体拮抗作用を有する、1種又は2種以上の化合物を含むものを、C3a受容体シグナル伝達経路の阻害剤や、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防剤若しくは改善剤とする。

[式中、X:C1-C7アルキル基;Y:フェニル基;W:CH、CO、CHOH、C=NOR(Rは水素原子又はメチル基)又はCH=CH;n:1~3のいずれかの整数;点線:結合あり又は結合なし]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)で表される化合物、及び、その生理的に許容される塩からなる群から選択され、かつ、C3a受容体拮抗作用を有する、1種又は2種以上の化合物を含む、C3a受容体シグナル伝達経路の阻害剤。
【化1】

(式中、
Xは、C1-C7アルキル基を示し、
Yは、フェニル基を示し、
Wは、CH、CO、CHOH、C=NOR(Rは水素原子又はメチル基を示す)又はCH=CHを示し、
nは、1~3のいずれかの整数を示し、
点線は、結合あり又は結合なしを示す。)
【請求項2】
化合物が、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対して拮抗作用を有する、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
化合物が、以下の式(I-1)の化合物又はその生理的に許容される塩である、請求項1に記載の阻害剤。
【化2】
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の阻害剤を含む、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防剤若しくは改善剤。
【請求項5】
疾患又は症状が、掻痒を伴う皮膚疾患又は掻痒である、請求項4に記載の予防剤又は改善剤。
【請求項6】
掻痒が難治性掻痒である、請求項5に記載の予防剤又は改善剤。
【請求項7】
難治性掻痒を伴う皮膚疾患が、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹であり、難治性掻痒が、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹における痒みである、請求項6に記載の予防剤又は改善剤。
【請求項8】
以下の式(I)で表される化合物、及び、その生理的に許容される塩からなる群から選択される、1種又は2種以上の化合物を含む、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防剤若しくは改善剤。
【化3】

(式中、
Xは、C1-C7アルキル基を示し、
Yは、フェニル基を示し、
Wは、CH、CO、CHOH、C=NOR(Rは水素原子又はメチル基を示す)又はCH=CHを示し、
nは、1~3のいずれかの整数を示し、
点線は、結合あり又は結合なしを示す。)
【請求項9】
化合物が、以下の式(I-1)の化合物又はその生理的に許容される塩である、請求項8に記載の予防剤又は改善剤。
【化4】
【請求項10】
難治性掻痒を伴う皮膚疾患が、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹であり、難治性掻痒が、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹における痒みである、請求項8又は9に記載の予防剤若しくは改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規C3a受容体アンタゴニストを有効成分として含有する、C3a受容体シグナル伝達経路の阻害剤;新規C3a受容体アンタゴニストを有効成分として含有する、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防剤若しくは改善剤;難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防剤若しくは改善剤;等に関する。
【背景技術】
【0002】
補体(complement)は、生体が細菌やウイルスを排除する際に、抗体や食細胞を補助するという意味で命名された、免疫系を構成するタンパク質である。補体タンパク質は、生体内では酵素前駆体であるチモーゲン(zymogen)として存在し、補体活性化に伴い、活性型の酵素が生じる。補体タンパク質であるC3が活性化し、分解されると、活性型のC3aとC3bが生じる。このうち、C3aは、アナフィラトキシンであり、好中球、マクロファージ、血管内皮細胞等で発現するC3a受容体に結合し、走化性、活性化、血管透過性亢進等の炎症反応を誘発し、炎症のメディエーターとして機能することが知られている。
【0003】
C3a受容体は、Gタンパク質共役型受容体(GPCR;G protein-coupled receptor)スーパーファミリーに属し、7回膜貫通型の構造を有する膜結合型受容体である(非特許文献1)。GPCRがリガンドであるC3aと結合すると、非活性型GPCRから活性型GPCRへタンパク質の立体構造が変化し、活性型GPCRは、三量体(αβγ)Gタンパク質を構成するGαサブユニット(以下、「Gα」という)に結合することにより、非活性型(GDP結合型)Gαから活性型(GTP結合型)Gαへタンパク質の立体構造が変化し、かかる構造変化により三量体Gタンパク質から活性型Gαが解離する。解離した活性型Gαは、エフェクタータンパク質を活性化し、エフェクタータンパク質を介したシグナルが伝達される。
【0004】
C3aの欠損は、感染症、自己免疫性疾患等の様々な原因となる一方、C3aが過剰量存在した場合でも、様々な疾患の原因となることが知られている。C3aが過剰量存在する疾患、例えば、関節炎(非特許文献2)、腎傷害(非特許文献3)、虚血再灌流障害(非特許文献4)、喘息(非特許文献5)、急性肺障害(非特許文献6)、脳梗塞(非特許文献7)に対しては、C3a受容体アンタゴニストが有効であることが報告されている。さらに、最近、本発明者らは、1)乾皮症モデルマウス及びアトピー性皮膚炎モデルマウスにおいて、VGFタンパク質が高発現すること、2)VGFタンパク質を構成するポリペプチドであり、かつC3a受容体のリガンドであるTLQP-21には、掻痒を誘発する作用があること、3)TLQP-21依存的な掻痒の誘発は、マスト細胞非依存的に生じること、及び4)C3a受容体アンタゴニストが、アトピー性皮膚炎や乾皮症等の難治性掻痒(マスト細胞非依存的な痒み)の改善に有効であることを見いだしている(特願2022-085500)。
【0005】
一方、ダルグリタゾン(Darglitazone)は、血糖降下性チアゾリジンジオン誘導体の1つとして報告された化合物であり(特許文献1)、PPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma)アゴニストであることが報告されている(非特許文献8)。しかしながら、ダルグリタゾンが、C3a受容体アンタゴニストであることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2610990号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pharmacol Rev. 2013 Jan;65(1):500-543.
【非特許文献2】J Pharmacol Sci. 2010;112(1):56-63.
【非特許文献3】Zhonghua Lao Dong Wei Sheng Zhi Ye Bing Za Zhi. 2017 Mar 20;35(3):161-165.
【非特許文献4】Am J Transplant. 2018 Oct;18(10):2417-2428.
【非特許文献5】Nature. 2000 Aug 31;406(6799):998-1001.
【非特許文献6】FEBS Open Bio. 2022 Jan;12(1):192-202.
【非特許文献7】PLoS One. 2017 Jul 10;12(7):e0180822
【非特許文献8】J Pharmacol Exp Ther. 2003 Jun;305(3):1173-1182.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、C3a受容体シグナル伝達経路を効果的に阻害する物質や、かかる物質を有効成分として含有する、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防剤若しくは改善剤や、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防剤若しくは改善剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けている。その過程において、臨床試験に用いたことのある化合物の中から、C3a受容体の3Dモデルを用いたインシリコスクリーニングを行い、化合物を選抜した後、さらに、後述の実施例における「Ca2+-fluxアッセイ」を用いて、C3a受容体リガンドであるマウスTLQP-21によるC3a受容体シグナル伝達経路の活性化を、少なくとも30%阻害する化合物をスクリーニングした結果、ダルグリタゾンが得られた。また、かかるダルグリタゾンが、既存のC3a受容体アンタゴニストと同様に、C3a受容体リガンドに対して拮抗作用を発揮し、C3a受容体シグナル伝達経路を効果的に阻害することを確認した。本発明はこれらの知見に基づき、完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕以下の式(I)で表される化合物、及び、その生理的に許容される塩からなる群から選択され、かつ、C3a受容体拮抗作用を有する、1種又は2種以上の化合物を含む、C3a受容体シグナル伝達経路の阻害剤。
【0011】
【化1】

(式(I)中、
Xは、C1-C7アルキル基を示し、
Yは、フェニル基を示し、
Wは、CH、CO、CHOH、C=NOR(Rは水素原子又はメチル基を示す)又はCH=CHを示し、
nは、1~3のいずれかの整数を示し、
点線は、結合あり又は結合なしを示す。)
〔2〕化合物が、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対して拮抗作用を有する、上記〔1〕に記載の阻害剤。
〔3〕化合物が、以下の式(I-1)の化合物又はその生理的に許容される塩である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の阻害剤。
【0012】
【化2】

〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の阻害剤を含む、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防剤若しくは改善剤。
〔5〕疾患又は症状が、掻痒を伴う皮膚疾患又は掻痒である、上記〔4〕に記載の予防剤又は改善剤。
〔6〕掻痒が難治性掻痒である、上記〔5〕に記載の予防剤又は改善剤。
〔7〕難治性掻痒を伴う皮膚疾患が、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹であり、難治性掻痒が、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹における痒みである、上記〔6〕に記載の予防剤又は改善剤。
〔8〕以下の式(I)で表される化合物、及び、その生理的に許容される塩からなる群から選択される、1種又は2種以上の化合物を含む、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防剤若しくは改善剤。
【0013】
【化3】
(式中、
Xは、C1-C7アルキル基を示し、
Yは、フェニル基を示し、
Wは、CH、CO、CHOH、C=NOR(Rは水素原子又はメチル基を示す)又はCH=CHを示し、
nは、1~3のいずれかの整数を示し、
点線は、結合あり又は結合なしを示す。)
〔9〕化合物が、以下の式(I-1)の化合物又はその生理的に許容される塩である、上記〔8〕に記載の予防剤又は改善剤。
【0014】
【化4】

〔10〕難治性掻痒を伴う皮膚疾患が、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹であり、難治性掻痒が、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹における痒みである、上記〔8〕又は〔9〕に記載の予防剤若しくは改善剤。
【0015】
また本発明の実施の他の形態として、
以下の式(I)で表される化合物、及び、その生理的に許容される塩からなる群から選択され、かつ、C3a受容体拮抗作用を有する、1種又は2種以上の化合物(以下、「本件化合物1」ということがある)を、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防若しくは改善(治療)を必要とする対象に投与するステップを含む、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状を予防若しくは改善(治療)する方法;や、
以下の式(I)で表される化合物、及び、その生理的に許容される塩からなる群から選択される、1種又は2種以上の化合物(以下、「本件化合物2」ということがある)を、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防若しくは改善(治療)を必要とする対象に投与するステップを含む、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒を予防若しくは改善(治療)する方法;や、
C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防若しくは改善(治療)における使用のための、本件化合物1;や、
難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防若しくは改善(治療)における使用のための、本件化合物2;や、
C3a受容体シグナル伝達経路の阻害剤の製造における、本件化合物1の使用;や、
C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防剤若しくは改善(治療)剤の製造における、本件化合物1の使用;や、
難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防剤若しくは改善(治療)剤の製造における、本件化合物2の使用;
を挙げることができる。
【0016】
【化5】
【0017】
式(I)中、
Xは、C1-C7アルキル基を示し、
Yは、フェニル基を示し、
Wは、CH、CO、CHOH、C=NOR(Rは水素原子又はメチル基を示す)又はCH=CHを示し、
nは、1~3のいずれかの整数を示し、
点線は、結合あり又は結合なしを示す。
【発明の効果】
【0018】
本件化合物1は、優れたC3a受容体拮抗作用を発揮する。このため、本件化合物1を有効成分として含有する剤は、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防若しくは治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】C3a受容体応答評価用細胞株において、2種類のC3a受容体リガンド(マウスTLQP-21[図1A]又はヒトC3タンパク質の672~748番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド[図1B])によるC3a受容体シグナル伝達経路の活性化を、ダルグリタゾンの存在下(図中の「Darglitazone」)、陽性対照化合物の存在下(図中の「陽性対照化合物」)、又はこれら化合物の非存在下(図中の「Control」)で行ったときの当該活性化レベルを解析した結果(n=3、平均値+標準誤差[SE])を示す図である。図中の「****」は、Dunnett’s testにより「Control」に対して統計学的に有意差がある(p<0.0001)ことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の阻害剤は、「C3a受容体シグナル伝達経路を阻害するため」という用途に特定された、本件化合物1を含有する剤(以下、「本件阻害剤」ということがある)である。
【0021】
また、一態様において、本発明の予防剤又は改善剤は、「C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状を予防若しくは改善するため」という用途に特定された本件阻害剤、すなわち、「C3a受容体シグナル伝達経路を阻害するため」という用途と、「C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状を予防若しくは改善するため」という用途に特定された、本件化合物1を含有する剤(以下、「本件予防/改善剤1」ということがある)である。
【0022】
また、一態様において、本発明の予防剤又は改善剤は、「難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒を予防若しくは改善するため」という用途に特定された、本件化合物2を含有する剤(以下、「本件予防/改善剤2」ということがある)である(「本件阻害剤」、「本件予防/改善剤1」、及び「本件予防/改善剤2」を総称して、以下「本件剤」ということがある)。本件予防/改善剤2は、さらに、「C3a受容体シグナル伝達経路を阻害するため」という用途に特定されたものであってもよいが、かかる用途に特定されないものであってもよい。
【0023】
本件剤は、有効成分である本件化合物1や本件化合物2(以下、これらを総称して、「本件化合物」ということがある)を、単独で家畜用飼料や、飲食品、化粧品、医薬部外品、又は医薬品(製剤)として使用してもよいし、さらに添加剤を混合し、組成物の形態(家畜飼料用組成物や、飲食用組成物、化粧用組成物、医薬部外用組成物、又は医薬用組成物)として使用してもよい。上記飲食品としては、例えば、健康食品(機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、サプリメント等)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)を挙げることができる。
【0024】
本明細書において、「C3a受容体シグナル伝達経路を阻害する」とは、哺乳類細胞内において、C3a受容体リガンドがC3a受容体に結合し、三量体Gタンパク質から活性型Gαが解離し、活性型Gαが、エフェクタータンパク質を活性化した結果生じる、エフェクタータンパク質を介したシグナル伝達経路を阻害(抑制)することを意味する。
【0025】
本明細書において、「哺乳類」としては、ヒトや、非ヒト哺乳動物(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等)を挙げることができる。また、非ヒト哺乳動物の他の態様として、家畜(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等)を挙げることができる。
【0026】
本明細書において、「C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状」とは、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化が原因となる疾患又は症状(すなわち、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に起因する疾患又は症状);C3a受容体シグナル伝達経路の活性化が生じている疾患又は症状;及び、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化が疾患又は症状の発症の結果生じた、当該疾患又は症状;から選択される1又は2以上を意味する。
【0027】
本明細書において、「C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状」における具体的な疾患又は症状としては、例えば、掻痒を伴う皮膚疾患(例えば、乾皮症やアトピー性皮膚炎[特願2022-085500]);関節炎(非特許文献2);腎傷害(非特許文献3);虚血再灌流障害(非特許文献4);喘息(非特許文献5);急性肺障害等の肺障害(非特許文献6);脳梗塞(非特許文献7);等の疾患や、脳梗塞における脳水腫、脳出血(非特許文献7);掻痒(特願2022-085500);等の症状を挙げることができ、掻痒を伴う皮膚疾患又は掻痒が好ましい。
【0028】
本明細書において、「掻痒」とは、皮膚を掻破したいという欲望を引き起こす不快な感覚を意味し、その原因は特に制限されない。掻痒の部位としては、例えば、全身、頭皮、顔、背中、腕、手の甲、指、脚などの広い範囲又は特定の部位を挙げることができる。掻痒は、一般掻痒と難治性掻痒に大別される。一般掻痒は、抗ヒスタミン剤(H1受容体拮抗薬)で抑制し得る痒みであるのに対して、難治性掻痒は、アトピー性皮膚炎、乾皮症(老人性乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹を含む)、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、痒疹、結節性痒疹、慢性痒疹、類天疱瘡、皮膚筋炎、掻痒症(例えば、慢性肝障害に伴う掻痒症、胆汁うっ滞に伴う掻痒症、慢性腎障害及びその透析治療〔血液透析又は腹膜透析〕に伴う掻痒症、老人性皮膚掻痒症、冬季掻痒症等)、悪性新生物などの疾患における痒みのように、抗ヒスタミン剤(H1受容体拮抗薬)では抑制し得ない痒みである。上記掻痒としては、難治性掻痒が好ましく、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹における痒みがより好ましい。
【0029】
上記「掻痒を伴う疾患」としては、例えば、一般掻痒を伴う皮膚疾患(例えば、蕁麻疹)や、難治性掻痒を伴う疾患(例えば、アトピー性皮膚炎、乾皮症[老人性乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹を含む]、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、痒疹、結節性痒疹、慢性痒疹、類天疱瘡、皮膚筋炎、皮膚における掻痒症[例えば、老人性皮膚掻痒症、冬季掻痒症等]等の皮膚疾患;皮膚以外の部位における掻痒症[例えば、慢性肝障害に伴う掻痒症、胆汁うっ滞に伴う掻痒症、慢性腎障害及びその透析治療〔血液透析又は腹膜透析〕に伴う掻痒症、];悪性新生物;等)などを挙げることができ、難治性掻痒を伴う皮膚疾患が好ましく、アトピー性皮膚炎、乾皮症、又は結節性痒疹がより好ましい。
【0030】
結節性痒疹をはじめ痒疹病変は、アトピー素因が発症に寄与することが知られており、アトピー性皮膚炎と併発する例も多い。慢性痒疹患者の65~80%がアトピー性皮膚炎を併発することが知られていることからも、痒疹とアトピー性皮膚炎は相互に関連があると言える。また、痒疹治療において発症要因として疑われる基礎疾患が無い場合では、スキンケアやステロイド外用治療が治療アルゴリズムとして推奨されている。これはアトピー性皮膚炎における初期寛解導入療法とプロセスを共通している点においても、アトピー性皮膚炎と痒疹には高い関連性がある(「日本皮膚科学会ガイドライン 痒疹診療ガイドライン2020」、「日本皮膚科学会ガイドライン アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」参照)。このため、アトピー性皮膚炎に有効なものは、痒疹にも有効であると言える。
【0031】
本明細書において、「疾患又は症状を予防若しくは改善する」とは、疾患又は症状の発症を予防すること;疾患又は症状の発症が遅延すること;疾患又は症状の重症化の進行を防止若しくは遅延すること;疾患又は症状の重症度のレベルが改善すること;及び疾患又は症状が寛解すること;から選択される1又は2以上を意味する。
【0032】
本明細書において、「難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒を予防剤若しくは改善する」とは、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の発症を予防すること;難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の発症が遅延すること;難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の重症化の進行を防止若しくは遅延すること;難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の重症度のレベルが改善すること;及び難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒が寛解すること;から選択される1又は2以上を意味する。
【0033】
本件予防/改善剤1の適用対象の疾患又は症状は、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴うものであり、疾患又は症状の具体的な名称は同じであっても、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴わない疾患又は症状(例えば、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴わないアトピー性皮膚炎)は含まれない。なお、一態様において、本発明は、「C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴うアトピー性皮膚炎を予防又は改善するため」という用途に特定された剤を除外する場合がある。
【0034】
本件予防/改善剤2の適用対象の疾患又は症状は、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒であり、その原因は特に制限されず、ここで、難治性掻痒を伴う皮膚疾患としては、前述のとおり、例えば、アトピー性皮膚炎、乾皮症(老人性乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹を含む)、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、痒疹、結節性痒疹、慢性痒疹、類天疱瘡、皮膚筋炎、皮膚における掻痒症(例えば、老人性皮膚掻痒症、冬季掻痒症等)などを挙げることができる。
【0035】
本件化合物1は、C3a受容体拮抗作用、すなわち、C3a受容体リガンド(具体的には、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドや配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド)がC3a受容体に結合し、三量体Gタンパク質から活性型Gαが解離し、活性型Gαが、エフェクタータンパク質を活性化した結果生じる、エフェクタータンパク質を介したシグナル伝達経路を阻害(抑制)する作用を有するものであり、C3a受容体アンタゴニストである。本件化合物1におけるC3a受容体拮抗作用のレベルとしては、対照である本件化合物1非存在下におけるC3a受容体シグナル伝達経路と比べ、C3a受容体シグナル伝達経路が阻害されるレベル(好ましくは、有意に阻害されるレベル)であればよく、その阻害レベルは、例えば、少なくとも30%、少なくとも33%、少なくとも36%、少なくとも40%、少なくとも43%、少なくとも46%、少なくとも60%、少なくとも63%、少なくとも66%、少なくとも70%、少なくとも73%、少なくとも76%、少なくとも80%等である。かかる阻害レベルは、例えば、後述の実施例における「Ca2+-fluxアッセイ」を用いて解析することができる。なお、本件化合物2は、前述のC3a受容体拮抗作用を有するものであってもよいが、有さないものであってもよい。
【0036】
本件化合物に包含される化合物としては、以下の式(I)で表される化合物、及び、その生理的に許容される塩からなる群から選択される化合物であれば特に制限されない。
【0037】
【化6】
【0038】
式(I)中、
Xは、C1-C7アルキル基を示す。
Yは、フェニル基を示す。
Wは、CH、CO、CHOH、C=NOR(Rは水素原子又はメチル基を示す)又はCH=CHを示し、好ましくはCOである。
nは、1~3のいずれかの整数を示し、好ましくは2である。
点線は、結合あり(2重結合)又は結合なし(単結合)を示し、好ましくは結合なし(単結合)である。
【0039】
上記式(I)におけるXのC1-C7アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができ、後述する本実施例でその効果が実証されているため、メチル基を好適に例示することができる。
【0040】
本件化合物に包含される化合物としては、後述する本実施例でその効果が実証されているため、以下の式(I-1)の化合物又はその生理的に許容される塩を好適に例示することができる。
【0041】
【化7】
【0042】
本明細書において、「生理的に許容される塩」とは、妥当な医学的、薬学的、又は生物学的判断の範囲内で、動物の組織と接触して用いるのに、過度の毒性、刺激性、アレルギー応答、及びその他の問題や合併症を伴うことなく、適度な受益性/危険性比率に相応して適している塩を意味する。生理的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩)、アルミニウム塩、アンモニウム塩、有機アミン(例えば、ベンザチン(N,N′-ジベンジルエチレンジアミン)、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)、ベネタミン(N-ベンジルフェネチルアミン)、ジエチルアミン、ピペラジン、トロメタミン(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)、プロカイン)との塩等のカチオン塩や、本件化合物が塩基性窒素を有する場合、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、酸性硫酸塩、燐酸塩、酸性燐酸塩、二水素燐酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩(メシル酸塩)、p-トルエンスルホン酸塩(トシル酸塩)等の酸付加塩などを挙げることができる。
【0043】
本件化合物には、種々の異性体(例えば、位置異性体、立体異性体、互変異性体等)、水和物等の溶媒和物、結晶多形、及びエステル体等のプロドラッグも包含される。
【0044】
本件化合物は、市販されているものを使用してもよいし、特許文献1等の文献に記載された公知の合成方法に準じて合成したものを使用してもよい。
【0045】
本件剤における添加剤としては、生理的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、等張剤、被覆剤、可溶化剤、潤滑剤、滑走剤、溶解補助剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤、各種油剤、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、分散剤、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素、香料等の配合成分を例示することができる。かかる配合成分としては、具体的に、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。
【0046】
本件阻害剤の投与対象としては、C3a受容体シグナル伝達経路の阻害を必要とする対象(哺乳類)であればよく、また、本件予防/改善剤1の投与対象としては、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防若しくは改善(治療)を必要とする対象(哺乳類)であればよく、掻痒を伴う皮膚疾患又は掻痒を伴うおそれがある皮膚疾患に罹患した患者(すなわち、掻痒を伴う皮膚疾患患者又は掻痒を伴うおそれがある皮膚疾患患者)が好ましく、アトピー性皮膚炎患者、乾皮症患者、又は結節性痒疹患者がより好ましい。また、本件予防/改善剤2の投与対象としては、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防若しくは改善(治療)を必要とする対象(哺乳類)であればよく、アトピー性皮膚炎患者、乾皮症患者、又は結節性痒疹患者が好ましい。
【0047】
本件剤の投与形態としては、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤等の剤型で投与する経口投与や、皮膚外用剤、経皮剤、経粘膜剤、経鼻剤、経腸剤、注射剤、坐剤、吸入剤、貼付剤等の剤型で投与する非経口投与を挙げることができる。
【0048】
本件剤の投与量や、本件剤に含まれる本件化合物1や本件化合物2の投与量は、年齢、体重、性別、症状、薬剤への感受性等に応じて適宜決定され、例えば、1μg~200mg/kg(体重)/日の投与量の範囲である。また、本件剤は、一日あたり単回又は複数回(例えば、2~4回)に分けて投与されるが、効果の程度に応じて投与量を調節してよい。
【0049】
本件予防/改善剤1としては、本件化合物1以外に、C3a受容体アンタゴニストを含むものであってもよいが、本件化合物1単独でも優れたC3a受容体拮抗作用を発揮するため、本件化合物1以外に、C3a受容体アンタゴニスト(例えば、化合物、タンパク質[例えば、抗体]、DNA、RNA)を含まないものが好ましい。また、本件予防/改善剤2としては、本件化合物2以外に、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒を予防若しくは改善する成分を含むものであってもよいが、本件化合物2単独でも優れた予防又は改善作用を発揮するため、本件化合物2以外に、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒を予防若しくは改善する成分(例えば、化合物、タンパク質[例えば、抗体]、DNA、RNA)を含まないものが好ましい。
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0051】
1.材料と方法
[C3a受容体リガンド含有液]
マウスVGFタンパク質を構成するポリペプチドであるマウスTLQP-21(TLQPPASSRRRHFHHALPPAR;すなわち、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド)(Tocris Bioscience社製)と、ヒトC3タンパク質の672~748番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド(配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド)(R&D systems社製)とを、それぞれHBSS(Hanks' Balanced Salt Solution)(Gibco社製)に添加し、2種類のC3a受容体リガンド含有液(マウスTLQP-21含有液及びヒトC3由来ポリペプチド含有液)を調製した。
【0052】
[被験物質]
PPARγアゴニストとして知られているダルグリタゾン(表1参照)(#17681、Cayman Chemical社製)を、C3a受容体拮抗作用の有無を検証する被験物質として用いた。また、陽性コントロールとして、C3a受容体アンタゴニストとして知られている陽性対照化合物(表1参照)を、文献「journal of medicinal chemistry 2020 63(2) 529-541」に記載の方法に従って合成し、DMSOで溶解した。
【0053】
【表1】
【0054】
[C3a受容体応答評価用細胞株]
以下の手順〔1〕~〔3〕に従って、C3a受容体応答評価用細胞株を調製した。
〔1〕無血清DMEM培養液に、ヒトC3a受容体発現ベクター(RC204730、Origene Technologies社製)、ヒトGNA16発現ベクター、及びトランスフェクション試薬(PEI-MAX、PolyScience社製)を、順次添加して混和させた後、室温で20分間インキュベートし、トランスフェクション溶液を調製した。なお、ヒトGNA16発現ベクターは、米国生物工学情報センターが提供する塩基配列データベース(GenBank)によって参照されるヒトGNA16のcDNA配列(Accession No. M63904.1)と相同な配列を、プラスミドベクターpIRESneo3(Clontech社製)に挿入することで作製した。
〔2〕ヒト胎児腎細胞株(HEK293細胞株)を6ウェル細胞培養プレートに播種し、調製したトランスフェクション溶液を添加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)内で24時間培養することにより、上記2種類の発現ベクターを遺伝子導入し、C3a受容体応答評価用細胞株を調製した。
〔3〕培養液を除去後、PBSで1回細胞を洗浄し、0.05%トリプシン/EDTA含有液(Gibco社製)を用いて、C3a受容体応答評価用細胞株をプレートから剥離し、以下の[Ca2+-fluxアッセイ]に記載の方法に用いた。
【0055】
[Ca2+-fluxアッセイ]
C3a受容体刺激に伴う細胞内Ca2+濃度の測定は、Calcium Kit-Fluo4(DOJINDO社製)を用い、以下の手順〔1〕~〔4〕に従って行った。
〔1〕BioCoat Poly-D-Lysine 96-well Black Flat Bottom Microplate(CORNING社製)に、上記[C3a受容体応答評価用細胞株]で調製したC3a受容体応答評価用細胞株を播種した。
〔2〕Ca2+蛍光指示薬であるFluo4-AMを含むLoading bufferを、当該キットのマニュアルに従って調製した後、プレート上に播種した細胞に添加し、37℃で1時間インキュベートすることにより、Fluo4-AMを細胞内へ取り込ませた。Fluo4-AMは細胞内エラスターゼによりFluo4となり、これがCa2+と蛍光性錯体を形成することで、蛍光強度から細胞内Ca2+濃度の変化を検出することができる。
〔3〕3種類のRecording buffer(ダルグリタゾン及び陽性対照化合物不含のRecording buffer[コントロール]、ダルグリタゾンを含むRecording buffer[ダルグリタゾン]、及び陽性対照化合物を含むRecording buffer[化合物1])をマニュアルに従って調製した後、HBSSを用いて1回洗浄した細胞に、それぞれのRecording bufferを添加し、37℃で15分間インキュベートした。
〔4〕2種類のC3a受容体リガンド含有液(マウスTLQP-21含有液及びヒトC3由来ポリペプチド含有液)を、それぞれ細胞に添加することにより、C3a受容体刺激を行った後、蛍光プレートリーダー(FDSS/μCELL、浜松ホトニクス社製)を用いて、480nmの励起光の照射と、540nmの蛍光(すなわち、Fluo4由来蛍光)強度の測定を3分間経時的に行い、蛍光強度の積分値「蛍光強度の実測値」を算出した。また、C3a受容体リガンド含有液に代えてHBSSを細胞に添加した場合(C3a受容体未刺激)の測定も同様に行い、ここで算出された蛍光強度の積分値「バックグランドの値」を、上記「蛍光強度の実測値」から減じることにより「蛍光強度の補正値」(すなわち、Fluo4由来蛍光強度)を算出した。さらに、コントロールにおける「蛍光強度の補正値」を100%としたときの、ダルグリタゾンにおける「蛍光強度の補正値」(%)と陽性対照化合物における「蛍光強度の補正値」(%)をそれぞれ算出した(図1参照)。なお、蛍光測定時のダルグリタゾン及び陽性対照化合物の濃度は、それぞれ10μM及び1μMであり、蛍光測定時のマウスTLQP-21及びヒトC3ポリペプチドの濃度は、それぞれ1μM及び300nMであった。
【0056】
2.結果
C3a受容体応答評価用細胞株について、2種類のC3a受容体リガンド含有液(マウスTLQP-21含有液及びヒトC3由来ポリペプチド含有液)によるC3a受容体刺激を、陽性対照化合物の存在下で行うと、陽性対照化合物の非存在下で行った場合と比べ、「蛍光強度の補正値」が有意に低下することが示された(図1参照)。一方、上記刺激を、ダルグリタゾンの存在下で行った場合も同様に、ダルグリタゾンの非存在下で行った場合と比べ、「蛍光強度の補正値」が有意に低下することが示された(図1参照)。
【0057】
この結果は、ダルグリタゾンが、既存のC3a受容体アンタゴニストである陽性対照化合物と同様に、C3a受容体リガンドに対して拮抗作用を発揮し、C3a受容体シグナル伝達経路を効果的に阻害した結果、細胞内へのCa2+の流入が阻害されたことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、C3a受容体シグナル伝達経路の活性化に伴う疾患又は症状の予防若しくは改善や、難治性掻痒を伴う皮膚疾患又は難治性掻痒の予防剤若しくは改善に資するものである。
図1
【配列表】
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