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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079012
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】薬剤判定システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/10 20180101AFI20240604BHJP
【FI】
G16H20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191695
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】501423573
【氏名又は名称】株式会社 英技研
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100104396
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 信昭
(71)【出願人】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】永塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】内田 邦子
(72)【発明者】
【氏名】内田 朋子
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】与薬者承認を可能とする手段を設けることにより不鮮明データをも学習対象として使用できる薬剤判定システムを提供する。
【解決手段】処方薬剤と、服用者に与薬者が与薬する与薬薬剤との一致不一致を判定する薬剤判定システムであって、人工知能解析部(9)は、与薬画像データ記憶部(6)に記憶された与薬画像データを、学習済みモデル作成部(7)が与薬画像データに対応する処方薬剤データに基づいて作成した学習済みモデルを用いて、人工知能により解析して解析結果を導き出す。解析結果が不一致であるとき、当該不一致に係る与薬画像データと処方薬剤データとの一致を与薬者が承認して人工知能解析部に一致の解析結果を導き出させることができ、不鮮明のため不一致と解析された与薬画像データに係る与薬薬剤を与薬者が目視承認可能であり、不鮮明データをも学習対象として使用できる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
服用者宛ての処方箋に記載された処方薬剤と、当該服用者に与薬者が与薬する与薬薬剤と、の一致不一致を判定するための薬剤判定システムにおいて、
当該与薬者によって与薬された与薬薬剤を撮影して与薬画像データを取得するための与薬画像データ取得部と、
当該与薬画像データ取得部が取得した与薬画像データを、少なくとも当該撮影の日時と紐づけて記憶する与薬画像データ記憶部と、
当該与薬画像データ記憶部に記憶された与薬画像データを、与薬画像データに対応する処方薬剤データに基づいて作成された学習済みモデルを用いて、人工知能により解析して解析結果を導き出す人工知能解析部と、
前記人工知能解析部が解析して導き出した解析結果から、当該与薬画像データ取得部に取得された与薬画像データが当該処方薬剤データの、少なくともいずれか1つと一致もしくはいずれとも不一致であることを表示する解析結果表示部と、
当該解析結果表示部が不一致であることを表示したとき、当該不一致に係る当該与薬画像データと当該処方薬剤データとの一致を与薬者が承認して当該人工知能解析部に一致の解析結果を導き出させるための与薬者承認入力部と、を備えている、
ことを特徴とする薬剤判定システム。
【請求項2】
前記学習済みモデルは、前記与薬者承認入力部に前記与薬者の承認が入力されたとき、前記一致の解析対象となった前記与薬画像データを対応する前記処方薬剤データとともに取り込んで再学習するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の薬剤判定システム。
【請求項3】
前記与薬者の識別符号を入力するための与薬者識別符号入力部を備え、
前記与薬画像データは、当該与薬者識別符号入力手段から入力された与薬者識別符号と紐づけられた上で前記与薬画像データ記憶部に検索可能に記憶されている、
ことを特徴とする請求項2記載の薬剤判定システム。
【請求項4】
少なくとも前記与薬者識別符号に基づいて前記与薬画像データ記憶部が記憶する前記与薬画像データから前記与薬者識別符号に紐づく前記与薬画像データを検索する画像データ検索部を備え、
当該画像データ検索部は、検索した前記与薬画像データに基づいて前記与薬者識別符号に紐づく与薬画像データを前記撮影日時とともに前記解析結果表示部に表示させる、ように構成されている、
ことを特徴とする請求項3記載の薬剤判定システム。
【請求項5】
前記画像データ検索部は、前記与薬者承認入力部から入力された与薬者承認に係る前記与薬画像データであることを、併せて検索し前記表示部に表示させる、ように構成されている、
ことを特徴とする請求項4記載の薬剤判定システム。






























【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、服用者宛の処方箋に記載された薬剤(処方薬剤)と、与薬者(薬剤を与える者)が服用者に与えようとする与薬薬剤と、の一致不一致を判定するための薬剤判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1が開示する薬剤識別システム(以下、「従来のシステム」という)は、次の構成を有している。従来のシステムは、各種薬剤の撮影画像を学習データとして記憶する学習データ記憶部と、撮影画像に含まれる薬剤を識別する薬剤識別部と、を、まず備えている。薬剤識別部は、AIモデルを用いて撮影画像に含まれる薬剤を識別する。このAIモデルは、学習データ記憶部に記憶された学習データに基づいて作成されたものであり、撮影画像を入力データとして、それに対応する薬剤の情報を出力データとして返すように構成されている。つまり、AIモデルを用いて撮影画像を識別する方式である。薬剤の識別ができないときは、データ入力ボタンから正しいデータ(薬剤または薬剤包装に記されている識別コードや製品名)などを手入力したり、薬剤画像の再撮影や薬剤識別コードの再読み込みなどをしたりして正しいデータを入手使用するようになっている。つまり、特許文献1でいう「正しいデータ」は、すなわち「正確なデータ」のことであり、これに基づいたAIモデルを用いて識別するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-124989(図1、段落0087、0087等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薬剤の撮影は、その環境において様々に変化するものであって、常に理想状態で行われるものではない。そのため、たとえば、照明の度合いにより、明るければ読み取れるはずの文字が暗すぎて読み取れなかったり、反射光に邪魔されて薬剤の特徴を捉えきれなかったり、ブレ・ボケ・ホワイトバランスの不適切による不鮮明画像になってしまったり、することがある。このような不鮮明はデータが不可避的に生じてしまう。だからこそ従来のシステムは理想状態に近い中で撮影された「正確なデータ」を必要とするのである。
【0005】
しかしながら、従来のシステムには、常に正確なデータのみに基づいて学習データを作成する限り、不鮮明なデータに対するAIモデルの学習は実現できない(AIの学習が進まない)という問題点がある。本発明は、与薬者承認を可能とする手段を設けることにより不鮮明データをも学習対象として使用できるようにすることにより、この問題点を解決することを第1の目的とする。一方、与薬者承認を可能とすることは、薬剤識別に与薬者の主観・判断が介入することになるので、その承認の正確性を可及的担保する手段を設けることが好ましい。本発明の第2の目的は、第1の目的を達成した上で正確性を可及的担保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、次の構成を備えている。何れの請求項記載発明の説明を行うに当たり行う用語の定義等は、その性質に反しない限り、その記載形式や記載順に関わらず他の請求項記載発明にも適用されるものとする。
【0007】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明は、服用者宛ての処方箋(医師が患者の病気の治療に必要な薬剤の種類や量、服用法が記載された電子的・物理的書類)に記載された処方薬剤と、当該服用者に与薬者(たとえば、看護師、医師、薬剤師)が与薬する与薬薬剤と、の一致不一致を判定するための薬剤判定システム(以下、「請求項1のシステム」という)に係るものである。請求項1のシステムは、与薬画像データ取得部、人工知能解析部、解析結果表示部、および、予約者承認入力部を少なくとも備えている。与薬画像データ取得部(たとえば、カメラ)は、当該与薬者によって与薬された与薬薬剤を撮影して与薬画像データを取得するためのものである。人工知能解析部は、当該与薬画像データ記憶部に記憶された与薬画像データを、与薬画像データに対応する処方薬剤データに基づいて作成された学習済みモデルを用いて、人工知能により解析して解析結果を導き出すものである。解析結果表示部は、前記人工知能解析部が解析して導き出した解析結果から、当該与薬画像データ取得部に取得された与薬画像データが当該処方薬剤データの、少なくともいずれか1つと一致もしくはいずれとも不一致(不鮮明による不可判定を含む。本明細書で同じ)であることを表示するものである。与薬者承認入力部は、当該解析結果表示部が不一致であることを表示したとき、当該不一致に係る当該与薬画像データと当該処方薬剤データとの一致を与薬者が承認して当該人工知能解析部に一致の解析結果を導き出させるためのものである。
【0008】
請求項1のシステムによれば、与薬画像データが学習済みモデルによって人工知能解析部が解析し、その結果が解析結果表示部に、一致もしくは不一致として表示される。解析結果が一致であれば、与薬薬剤データと処方薬剤データが一致している旨が、不一致であれば(その時点において)両薬剤が一致していない旨が、それぞれ解析結果表示部に表示される。すなわち、少なくとも与薬者(場合によっては服用者などを含む)に一致不一致を認識させることになる。この解析結果の表示は、与薬薬剤が複数あるときは、与薬薬剤ごとに行われる。両薬剤のデータが一致しているなら、与薬者の立場に立てば安心して与薬薬剤を服用者に手渡すことができ、服用者の立場に立てば同様に安心して与薬者から与薬薬剤を受け取り、処方に従って服用することができる。一方、解析結果表示部が不一致を表示すれば、これを認識した与薬者は、その現物の与薬薬剤と処方された処方薬剤との不一致を目視確認することができる。ここで、目視確認の結果、不一致表示された与薬薬剤は、処方薬剤と一致することを確認できたなら、与薬者承認入力部から一致であることを承認する旨を入力する。入力の結果、人工知能解析部は解析結果を修正して一致の解析結果を導きだす。よって、解析結果表示部には一致の旨が表示される。すなわち、撮影条件が悪かったことなどに起因して与薬薬剤データが不鮮明であったり、学習済みモデルが未学習のデータであったりしたため不一致とされた与薬薬剤について、これを与薬者の操作により一致とさせることができる。
【0009】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明は、請求項1のシステムの好ましい態様の一つのシステム(以下、「請求項2のシステム」という)である。請求項2のシステムにおける前記学習済みモデルは、前記与薬者承認入力部に前記与薬者の承認が入力されたとき、前記一致の解析対象となった前記与薬画像データを対応する前記処方薬剤データとともに取り込んで再学習するように構成されている、ことを特徴とする。
【0010】
請求項2のシステムによれば、人工知能解析部の当初の解析によれば処方薬剤データと不一致とされた与薬薬剤データ(若しくは、現物の与薬薬剤)であるが、与薬者の後発的承認によって一致とされたのであれば、その当初不一致の与薬薬剤データを再学習すれば、その分、学習済みモデルが賢くなって人工知能解析部による解析の精度が高まる。
【0011】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明は、請求項2のシステムの好ましい態様の一つのシステム(以下、「請求項3のシステム」という)である。請求項3のシステムは、前記与薬者の識別符号(アプリケーションを起動させるためのパスワード等を含む)を入力するための与薬者識別符号入力部をさらに備えている。その上で、前記与薬画像データは、当該与薬者識別符号入力手段から入力された与薬者識別符号と紐づけられた上で前記与薬画像データ記憶部に検索可能に記憶されている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3のシステムによれば、与薬者と与薬画像データとを関連付けて検索可能な状態が形成される。ここで検索手段を設けることにより上記が検索可能になり、その検索結果に基づき、与薬画像データを与薬者の与薬履歴の代理データとして活用することができる。このような与薬履歴の可視化により、与薬者による与薬の適正化が図られる。
【0013】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明は、請求項1のシステムの好ましい態様の一つのシステム(以下、「請求項4のシステム」という)である。請求項3のシステムにおける前記学習済みモデルは、少なくとも前記与薬者識別符号に基づいて前記与薬画像データ記憶部が記憶する前記与薬画像データから前記与薬者識別符号に紐づく前記与薬画像データを検索する画像データ検索部を備え、当該画像データ検索部は、検索した前記与薬画像データに基づいて前記与薬者識別符号に紐づく与薬画像データを前記撮影日時とともに前記表示部に表示させる、ように構成されている、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4のシステムによれば、画像データ検索部による検索により、与薬者識別符号に紐づく与薬画像データを検索抽出することができる。さらに与薬画像データは撮影日時と紐づいているので、表示部を介してそれらを与薬者等に知らしめることができる。このような与薬履歴の可視化により、与薬者による与薬の適正化をさらに現実のものとすることができる。
【0015】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明は、請求項4のシステムの好ましい態様の一つのシステム(以下、「請求項5のシステム」という)である。請求項5のシステムにおける前記画像データ検索部は、前記与薬者承認入力部から入力された与薬者承認に係る前記新たな与薬画像データであることを、併せて検索し前記表示部に表示させる、ように構成されている、ことを特徴とする。
【0016】
請求項5のシステムによれば、与薬者識別符号に紐づく与薬画像データと併せて与薬者承認の履歴も表示部を介して与薬者等に知らしめることができる。当該履歴には日時が含まれる、すなわち、時系列的であることは言うもでもない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、与薬者承認を可能とする手段を設けることにより不鮮明データをも学習対象として使用できるようになる。これに加え、その与薬者承認の正確性を可及的担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】服用者情報を取得する状態を示す概略正面図である。
図2】処方薬情報を取得する状態を示す概略正面図である。
図3】予約薬剤を示す正面図である。
図4】薬剤判定システムの構成を示すブロック図である。
図5】与薬画像データを取得する状態を示す概略正面図である。
図6】与薬承認する状態を示す概略正面図である。
図7】検索した画像データの表示された解析菊結果表示部の正面図である。
図8】薬剤判定の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
各図を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。図1及び2に示すように本実施形態には、薬剤を服用する服用者Fと、処方箋Sに記載された処方薬剤Sm(Sm1~Sm5、図1)を服用者Fに渡す(与薬する)与薬者Yが登場する。処方薬剤Smは薬剤そのものではなく、上記のとおり処方箋Sに記載された薬剤の名称である。一方、服用者Fに与薬するため与薬者Yが所持する現物の薬剤のことを、本明細書では与薬薬剤Ym(Ym1~Ym5、図3)と呼ぶ。処方薬剤Sm1~Sm5は与薬薬剤Ym1~Ym5に、それぞれ番号順に一致することを前提とする。また、処方薬剤Smと称するときは処方薬剤の全体を示し、処方薬剤Sm1のように番号を付すときは個別の処方薬剤を示すことにする。この点は、与薬薬剤Ym(Ym1~5)についても同様とする。
【0020】
与薬者Yには、医師が作成した処方箋Sに基づいて処方薬剤Ymを処方する薬剤師がまずは該当するが、本明細書では、処方薬剤Ymを服用者(患者)Sに与薬する(立場にある)看護師などの者を与薬者Yとする。与薬される状況は様々であるため限定するものではないが、説明を分かりやすくするため本明細書では、上述のとおり与薬者Yが看護師でありその上で、与薬者Yが、薬袋(やくたい)Ytの中にある処方薬剤Ym(図2)を、処方箋Sの指示に従って、所定時間に必要な与薬薬剤Ymを必要な錠数だけ服用者Fに与薬することを前提としている。なお、処方箋Sの指示の写しが薬袋Ytに記載されているなら、その薬袋Ytの記載が、処方箋Sの指示に該当するものとして扱う。
【0021】
(薬剤判定システムの目的)
図4に示す符号1は、薬剤判定システム1を示す。薬剤判定システム1は、処方箋Sに記載された処方薬剤Sm1~5が、与薬者Yが服用者Fに与薬しようとする与薬薬剤Ym1~5と一致するか不一致かを解析判定するための複合体である。
【0022】
(薬剤判定システムの概略構造)
薬剤判定システム1(以下、適宜「判定システム1」という)は、与薬画像データ取得部3、服用者情報取得部4、処方薬剤情報取得部5,与薬画像データ記憶部6、学習済みモデル作成部7、人工知能解析部9,解析結果表示部11,与薬者承認入力部13、画像データ検索部15,与薬者識別符号入力部16、タイマ17、通信部19、判定プログラム記憶部21を含めて構成されている。符号21は、判定システム1の判定ステップ(図8)を実行するためのプログラムが格納された判定プログラム記憶部を示す。
【0023】
(判定システム各部の具体的内容)
与薬画像データ取得部3は、与薬者によって与薬された現物の与薬薬剤を撮影して与薬画像データを取得するカメラ機能を有する(図5)。服用者情報取得部4は、服用者Fに関する情報(たとえば、患者番号、患者氏名、性別、生年月日など)を入力するための部位である。服用者情報を手入力する際のキーボードや、服用者情報に紐ついた二次元コードや三次元コードを読み取る際のスキャナー等が該当する(図1)。処方薬剤情報取得部5は、処方箋Sに記載された処方薬剤に関する情報を取得する機能を有する。手入力の際のキーボードや処方箋Sの記載を文字認識する装置、服用者情報に紐ついた二次元コードや三次元コードを読み取る際のスキャナー等が該当する(図2)。服用者情報取得部4と処方薬剤情報取得部5は、互いに別部位であってもよいが、共通部位であってもよい。
【0024】
与薬画像データ記憶部6は、最低でも与薬画像データ取得部3が取得した与薬画像データを、少なくとも当該撮影に係る撮影日時D(図5,タイマ17から取得)と紐づけて記憶する機能を有する。与薬画像データ記憶部6は、服用者情報取得部4から得た服用者Fに関する情報や、処方薬剤情報取得部5から得た処方箋Sの処方薬剤Smに関する情報(たとえば、薬剤名、剤型、有効成分、効能等)などを相互に紐づけながら併せて記憶するように構成されている。
【0025】
学習モデル作成部7は、与薬薬剤の画像データとこれに対応する処方薬剤Sとの学習データセットを読み込んで機械学習を行い、入力データと出力データの誤差を減らすようにパラメータ(係数)を調整し、この調整を繰り返すことによって学習済みモデル8(図4)を生成する。ここで、たとえば、企業や大学又は研究機関で開発された事前学習済みモデルが存在し、それが著作権等の法的制限や利用規約による商用目的への利用制限などに反せず、かつ、それが本発明の目的達成に活用可能であればそれを流用(転移学習)し、これに新たに追加したデータを学習する手法を採用することができる。
【0026】
一方、自前の学習モデル、すなわち、与薬画像データ取得部3が取得した与薬画像データと処方薬剤Sをもとに一から学習モデルを作成し、これを学習済みモデル8とすることを妨げるものではない。本実施形態では、学習時間短縮のために有利であると考え、事前学習済みモデルと、新たに追加したデータを学習することで学習済みモデル8を作成している。上記した事前学習済みモデルは、たとえば、通信部19を介してインターネット上から入手するとよい。
【0027】
人口知能解析部9は、与薬画像データ記憶部6に記憶された与薬画像データを、学習モデル作成部7が作成した学習済みモデルを用いて、人工知能により解析して解析結果を導き出す機能を備える。解析結果表示部11は、人工知能解析部9が解析して導き出した解析結果から、与薬画像データ取得部3に取得された与薬画像データが当該処方薬剤データの、少なくともいずれか1つと一致もしくはいずれとも不一致であることを表示する機能を備える。解析結果表示部11による表示は、与薬者Yを含む利用者が視覚認識可能な表示が一般的であるが、音声による聴覚的認識や振動による触覚的認識などを、それぞれ単独の、若しくは組み合わせた表示であってよい。
【0028】
与薬者承認入力部13は、解析結果表示部11が不一致(不明を含む)であることを表示したとき(すなわち、人工知能解析部9の解析結果が不一致のとき)、当該不一致に係る当該与薬画像データと当該処方薬剤データとの一致を与薬者Yが承認して人工知能解析部9に一致の解析結果を導き出させるための意思表示を入力するための部位である。与薬者承認入力部13に承認の意思表示が入力されたときの学習済みモデル7は、一致の解析対象となった前記与薬画像データを対応する前記処方薬剤データとともに取り込んで再学習するように構成されている。
【0029】
画像データ検索部15は、少なくとも与薬者識別符号Sb(図1)に基づいて与薬画像データ記憶部6が記憶する与薬画像データから与薬者識別符号Sbに紐づく与薬画像データを検索する機能を備えている。画像データ検索部15は、検索した与薬画像データに基づいて与薬者識別符号Sbに紐づく与薬画像データを撮影日時とともに前記解析結果表示部に表示させる、ように構成されている。
【0030】
画像データ検索部15は、検索開始の契機とする検索ボタン15aを備えている(図3,7)。与薬者識別符号入力部16は、与薬者を識別するための符号を入力するための部位である。タイマ17は、与薬画像データ取得部3による画像データの日時などを特定する機能を備える。通信部19は、有線もしくは無線で外部とデータのやり取り等を行うための部位である。判定プログラム記憶部21は、判定プログラム(図8)をアクセス可能に記憶しておく機能を有している。
【0031】
上記した判定システム1は、相互に通信可能に連結された複数の機器や装置によって構成することもできるが、1つの機器や装置の中にすべてを盛り込むこともできる。持ち運びが便利であるなどの理由から本実施形態では、スマーフォンという1つの機器により判定システム1を構築している。すなわち、たとえば、スマートフォンのカメラ機能を与薬画像データ取得部3、服用者情報取得部4、処方薬剤情報取得部5などとして活用可能である。同じく画面を解析表示部11や与薬者承認入力部13として、さらに、与薬者識別符号入力部16などとして活用することができる。一方、スマートフォンを操作するためのパスワードを与薬者識別符号としてもよい。
【0032】
(判定システムの操作と動作)
薬剤判定を行おうとする与薬者Yが行う操作と、これに伴う判定システム1の動作について、特に指定しない限り図4と、図8に示すフローを中心に説明する。また、判定システム1はスマートフォンによって構成されていることを前提とする。
【0033】
与薬者Yは、まず、判定システム1であるスマートフォンの電源を入れ、入力画面である与薬者識別符号入力部16にパスワードを入力する。このパスワードは、与薬者識別符号の意味を兼ね備えている。パスワードが入力された時点で判定プログラム記憶部21に格納されている判定プログラム(図8)が起動する。ここで与薬者Yは、判定システム1をスキャナーモード(服用者情報取得部4、処方薬剤情報取得部5として機能)にして、処方箋Sの一次元バーコードSb(図1)若しくは薬袋Ytの二次元バーコード(図2)から服用者情報や処方薬剤情報を取得する(S1,S3)。さらに与薬者Yは、判定システム1をカメラモード(与薬画像データ取得部3として機能)にして、与薬者Yが服用者Fに与薬しようとする与薬薬剤Yを撮影して与薬画像データを取得する。
【0034】
撮影する際の与薬薬剤Yは、図3(a)に示すように、それぞれが裸の状態の薬剤であってもよいし、図3(b)~(e)に示すように包装された状態の薬剤であってもよい。その上で好ましくは、与薬錠数も併せて記録できるように処方通りの錠数(たとえば、1錠処方なら1錠、2錠処方なら2錠)を、与薬薬剤の映像欠けをなくすため互いに重ならないように並べて撮影する。説明を容易にするため本実施形態では、与薬薬剤Yを、Ym1薬~Ym5薬の5種類を各1錠とする(図6)。撮影により得た与薬薬剤画像データは、タイマ17から得た撮影日時D(図5)とともに、服用者情報、処方薬剤情報などを与薬者識別符号と紐づけて与薬画像データ記憶部6に画像データ検索部15による検索ができるように記憶する(S5)。
【0035】
ここで人工知能解析部9は、与薬画像データ記憶部6に記憶された与薬画像データYd(図5、説明の便宜上、薬剤図形を与薬画像データとする)を、学習済みモデル8を用いて、人工知能により解析し、薬剤が複数なら個々の薬剤ごとの一致もしくは不一致という解析結果を導き出す(S7、S9)。解析結果は、その旨が解析結果表示部11に表示される(S11)。この表示について、図6を参照しながら説明する。
【0036】
図6に示す判定システム1の解析結果表示部11には、Ym1~Ym5の5種類が、その処方錠数とともに表示される。処方錠数は、処方箋Sから取得した処方薬剤情報(図1)に基づいた錠数である。すなわち、Ym1錠~Ym5錠まで各1錠である。解析結果表示部11の一番右の縦欄は、与薬画像データ取得部3に取得された与薬画像データYdが処方薬剤データの、少なくともいずれか1つと一致もしくはいずれとも不一致であることを表示するための欄であって、それぞれの薬剤が一致であれば「〇」が、不一致(不明)であれば「?」が表示されるようになっている。
【0037】
図6が示す表示は、Ym1錠~Ym4錠が一致で、Ym5錠のみが不一致であることを示している(S9のN)。ここで仮にYm1錠~Ym5錠のすべてが一致であれば(S9のY)、与薬者Yが服用者Fに与薬した服用薬剤Ym(Ym1錠~Ym5錠)は全て処方薬剤情報の示すとおりなので、全一致した事実を与薬画像データ記憶部6に検索可能に登録され、プログラム開始に戻る(S13)。不一致がある場合の処理は次項で説明する。
【0038】
S9において不一致がある場合、具体的には、Ym5錠が不一致と解析された場合、図6はその状態を示している。解析結果表示部11には、画面上を指でスワイプする(なぞる。タップ等でもよい)と移動するカーソルCが表示されるようになっている。ここで不一致対象の薬剤を選択するためにカーソルCをYm5錠の上に移動させた状態で、画面上の承認ボタン11a(与薬者承認入力部13)を操作可能な状態になる。
【0039】
与薬薬剤Ymが不意位置であることを解析結果表示部11の表示により知った与薬者Yは、与薬画像データ取得部3で撮影した実物の与薬薬剤Ymが、処方箋Sにより処方されたYm5錠に間違いないかを目視で確認し、間違いないのであれば、解析結果表示部11の画面下端中央にある承認ボタン11aを操作して間違いないことを承認する旨の意思を判定システム1に入力する(S15のY)。この与薬者Yの承認意思は人工知能解析部9(図4)に伝えられ、これを受けた人工知能解析部9は、当該不一致に係る当該与薬画像データ(Ym5錠の画像データ)とYm5錠の処方薬剤データとの一致を導き出す(S19)。以上により、処方箋Sの指示通りのYm1錠~Ym5錠が出そろったので、与薬者Yはこれらを服用者Fに与薬することができる。
【0040】
一方、実物を目視確認した与薬者Yは、その実物が与薬すべきYm5とは異なる薬剤(たとえば、Ym6(図示を省略))であった場合は、解析結果表示部11の画面下端右側の不承認ボタン11b(「×」印)を操作することで、当該与薬画像データに係る不一致の事実が与薬画像データ記憶部に記憶された後、プログラム開始に戻る(S17)。複数の薬剤が不一致である場合の与薬者Yは、その薬剤ごとに上述の操作を行って承認不承認の意思表示を入力する。不一致薬剤が出てきたことで、与薬薬剤Ym1錠~Ym5錠に欠けが出たことになる。この場合、上述の不一致対象の与薬薬剤Ym6を取り除き、その代わりに与薬薬剤Ym5を元々あるYm1錠~Ym4錠に加えた上で、与薬画像データ取得部3を用いて再撮影し、上述した解析のための手順を繰り返し、処方箋Sの指示通りのYm1錠~Ym5錠が出そろったところで、与薬者Yはこれらを服用者Fに与薬することができる。
【0041】
S19に話を戻す。薬剤一致を導きだした人工知能解析部9は、その結果を解析結果表示部11に表示させ、与薬者Yらにその旨を知らせる(S21)。人工知能解析部9は同時にその承認情報を画像データ記憶部6に送信し、この承認情報を間接的に受け取った学習済みモデル作成部7が学習モデルの再学習(更新)を行う(S23)。この再学習により、ある時の撮影では不一致(不明)とされた与薬画像が、次に同じように撮影された与薬画像について、これを一致とさせることができるようになる。すなわち、トレーニングにより学習モデルがより賢くなって正確解析範囲が広がる結果、その後の判定が正確かつ円滑になるという利点が生まれる。再学習が行われたことは、解析結果表示部11に表示され、その後、プログラム開始に戻る(S25)。
【0042】
(本実施形態特有の効果)
与薬薬剤の撮影、すなわち、与薬薬剤データの取得は異なる条件の下で行われることが通常であるから、学習モデルの学習が十分でない場合は、一致する与薬薬剤Ymであっても人工知能解析部9が不一致と解析する可能性が高い。このままでは判定システム1の使い勝手が悪く使用に耐えない場合も予想される。一方、与薬者Yの目視承認を可能とする手段(与薬者承認入力部13)を設けることにより不鮮明データをも学習対象として使用できるようになった。これにより学習済みモデル作成部7が作成する学習済みモデルの最適化が進んで、使用すれば使用するほど賢くなっていく。つまり、解析の正確性と円滑性が高まる。
【0043】
さらに、画像データ検索部15による与薬画像データとこれに紐づく情報やデータの一覧表を解析結果表示部11に表示可能にしたことで、与薬者Yによる与薬経緯や承認経緯が後発的に検証できるようになる。これにより不適切な与薬や承認を抑制するとともに、他方で与薬者Yによる与薬や承認の適切性を証明することができるようになる。
【符号の説明】
【0044】
1・・・薬剤判定システム(判定システム);3・・・与薬画像データ取得部;4・・・服用者情報取得部;5・・・処方薬剤情報取得部;6・・・与薬画像データ記憶部(RAM);7・・・学習済みモデル作成部;8・・・学習済みモデル;9・・・人工知能解析部;11・・・解析結果表示部;11a・・・承認ボタン;11b・・・不承認ボタン;13・・・与薬者承認入力部;15・・・画像データ検索部;15a・・検索ボタン;16・・・与薬者識別符号入力部;17・・・タイマ;19・・・通信部;21・・・判定プログラム記憶部;C・・・カーソル;D・・・撮影日付;F・・・服用者(患者);Fn・・・服用者名;S・・・処方箋;Sb・・・一次元バーコード;Sm・・・処方薬剤;Sq・・・二次元バーコード;Y・・・与薬者;Yd・・・与薬画像データ;Ym・・・与薬薬剤;Yt・・・薬袋(やくたい)



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図8