(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007902
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】スライディングノズル装置用のプレート並びにその製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 41/28 20060101AFI20240112BHJP
F27D 3/14 20060101ALI20240112BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20240112BHJP
B22D 41/30 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B22D41/28
F27D3/14 C
F27D1/00 D
B22D41/30
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109295
(22)【出願日】2022-07-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 新一
(72)【発明者】
【氏名】青山 祐大
(72)【発明者】
【氏名】桃田 裕之
【テーマコード(参考)】
4E014
4K051
4K055
【Fターム(参考)】
4E014MA04
4E014MA11
4E014MA26
4K051AA06
4K051BB01
4K055AA04
4K055JA07
(57)【要約】
【課題】プレート本体の亀裂や破壊を抑制することができ、併せてプレート本体に対する拘束力を従来の多重フープ方式に比べて強くすることもできるスライディングノズル装置用のプレート並びにその製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】耐火物からなるプレート本体A1の外周側面に、帯状薄鉄板Bを複数層巻回してなるフープが設置されているスライディングノズル装置用のプレートであって、前記フープを切断した際に解放される歪みを歪みゲージで測定する方法による、プレート本体A1の内孔内周面の最大圧縮歪みが200με以上1500με以下である。このプレートは、帯状薄鉄板Bがプレート本体A1の外周側面に接し始める部分において、帯状薄鉄板Bがプレート本体A1の外周側面に倣うように、当該帯状薄鉄板Bを抑える押え治具31を含む巻締機構3を備える製造装置を使用して得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物からなるプレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を複数層巻回してなるフープが設置されているスライディングノズル装置用のプレートであって、
前記フープを切断した際に解放される歪みを歪みゲージで測定する方法による、前記プレート本体の内孔内周面の最大圧縮歪みが200με以上1500με以下である、スライディングノズル装置用のプレート。
【請求項2】
前記プレート本体の外周側面の一部に凹部を有すると共に、前記凹部内に固定部材を有し、前記帯状薄鉄板の巻始端部が前記固定部材に固定されている、請求項1に記載のスライディングノズル装置用のプレート。
【請求項3】
前記フープには当該フープの最外層から前記固定部材まで達する孔があり、前記孔には前記フープと前記固定部材とを一体化する材料が充填されている、請求項2に記載のスライディングノズル装置用のプレート。
【請求項4】
耐火物からなるプレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を複数層巻回してなるフープが設置されているスライディングノズル装置用のプレートの製造方法であって、
前記プレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を加熱しながらかつ引張力を付加しながら巻締をする巻締工程を含み、
前記巻締工程は、前記帯状薄鉄板が前記プレート本体の外周側面に接し始める部分において、前記帯状薄鉄板が前記プレート本体の外周側面に倣うように、押え治具によって前記帯状薄鉄板を抑える工程を含む、スライディングノズル装置用のプレートの製造方法。
【請求項5】
前記巻締工程は、前記帯状薄鉄板の巻始端部近傍を少なくとも1箇所で前記プレート本体の外周側面に押圧して固定する工程と、前記帯状薄鉄板の巻始端部近傍上に2層目の帯状薄鉄板を巻回する際に、前記帯状薄鉄板の巻始端部近傍を少なくとも1箇所で前記プレート本体の外周側面に押圧して固定しながら前記2層目の帯状薄鉄板を巻回する工程を含む、請求項4に記載のスライディングノズル装置用のプレートの製造方法。
【請求項6】
前記巻締工程では、前記帯状薄鉄板の加熱温度、前記帯状薄鉄板に付加する引張力、及び前記帯状薄鉄板の層数のうち少なくとも1つを変更することにより、前記プレート本体に対する拘束力を調整する、請求項4又は5に記載のスライディングノズル装置用のプレートの製造方法。
【請求項7】
耐火物からなるプレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を複数層巻回してなるフープが設置されているスライディングノズル装置用のプレートの製造装置であって、
前記プレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を加熱しながらかつ引張力を付加しながら巻締をする巻締機構を備え、
前記巻締機構は、前記帯状薄鉄板が前記プレート本体の外周側面に接し始める部分において、前記帯状薄鉄板が前記プレート本体の外周側面に倣うように、当該帯状薄鉄板を抑える押え治具を含む、スライディングノズル装置用のプレートの製造装置。
【請求項8】
前記巻締機構は、前記帯状薄鉄板の巻始端部近傍を前記プレート本体の外周側面に押圧して固定するための押圧治具を少なくとも2つ含み、各押圧治具は、前記帯状薄鉄板の巻始端部近傍を前記プレート本体の外周側面に押圧して固定する固定位置と、前記帯状薄鉄板の巻始端部近傍上に2層目の帯状薄鉄板を巻回する際に、前記2層目の帯状薄鉄板の巻回の障害とならない退避位置とに移動可能である、請求項7に記載のスライディングノズル装置用のプレートの製造装置。
【請求項9】
前記帯状薄鉄板の加熱温度、前記帯状薄鉄板に付加する引張力、及び前記帯状薄鉄板の層数のうち少なくとも1つを変更する手段を含む、請求項7又は8に記載のスライディングノズル装置用のプレートの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造装置に使用される取鍋やタンディシュ等の容器から排出する溶鋼流を制御するために用いるスライディングノズル装置用のプレート並びにその製造方法及び製造装置に関する。
なお、本発明においてスライディングノズル装置用のプレートとは、耐火物からなるプレート本体とフープ等を含んでスライディングノズル装置に装着される状態にした、一体の構造物としての板状部品のことをいう。
【背景技術】
【0002】
スライディングノズル装置用のプレートにおいて、本体部分をなす耐火物からなるプレート本体には、使用時の亀裂の抑制、回収時の崩壊防止等を目的として、外周側面に帯状の金属板を設置し、その帯状の金属板でプレート本体を拘束することが一般的である。
このプレート本体の外周側面に設置する帯状金属板には主として、比較的厚さが薄い帯状の金属板(以下「帯状薄鉄板」という。多くは厚さ約0.4~0.6mm程度。)を複数層巻回して多層構造とする、いわゆる多重フープ方式と、プレート本体の外周側面形状に合わせてループ形状に整形した、厚さが上記帯状薄鉄板よりも厚い(多くは厚さ約3mm以上)金属板を加熱して膨張させておいてプレート本体に嵌め込む、いわゆる焼嵌め方式(又はホットバンド方式とも称される)がある。
【0003】
ところが、従来の多重フープ方式は、(1)プレート本体に対する拘束力が焼嵌め方式に比べ弱く(約1/2程度)、(2)プレート本体の亀裂/破壊抑制効果が小さい、(3)プレートの多数回繰り返し使用時にフープが外れてプレート本体が崩壊する、等の問題があった。
その対策として、例えば特許文献1には「プレート(プレート本体と同意)の周側面上の一部に溝部を設け、この溝部に鋼帯(帯状薄鉄板と同意)の先端折曲部を嵌合し、鋼帯の残部をプレートの周側面周りに緊締巻付け固着したスライディングノズル用プレート」が提案されている。
この特許文献1は鋼帯(帯状薄鉄板)を引っ張りながらプレート本体に巻き付ける際に、少なくとも1層目の鋼帯(帯状薄鉄板)のプレート本体への固定が不十分なことから生じるフープの緩みや締付不良等を解消しようとするものである。
しかし、この提案の方法によっても、プレート本体に対する拘束力は十分とはいえないレベルであり、多重フープ方式が抱える上述の問題は依然として残されたままであった。そのため、直近はほとんどが焼嵌め方式に移行されている。
【0004】
ところで、プレート本体の外周側面形状は、上記特許文献1のほか特許文献2等にも示されているように、全ての外周側面が真円又はほぼ真円ではなく、屈曲部や直線若しくはほぼ直線部分を有し、又は長円形となっている。このような真円又はほぼ真円ではない形状では、プレート本体は帯状金属板により締め付けられ拘束されてはいるものの、全体に均一な締付力すなわち拘束力にはなり得ず、屈曲部付近には直線や緩やかな曲線部分よりも強い拘束力が働く。焼嵌め方式で用いる約3mm以上の厚さの帯状金属板では特に、その変形能が小さいこともあって、プレート本体に局部的な応力を発生させ、プレート本体に亀裂や破壊を生じやすい。
また、焼嵌め方式では、帯状金属板をプレート本体の外周側面形状に合わせてループ状にしていても、帯状金属板の熱膨張/収縮による変形がプレート本体の外周側面形状に追随しないので、プレート本体に対する拘束力は均一にはならない。プレート本体の外周側面形状に屈曲部を有する場合は特に、プレート本体の屈曲部近傍で部位ごとに密着度や拘束程度が異なってプレート本体の外周側面全体を均一な力で拘束することができず、また焼嵌め時や操業における使用時の温度変化に対する帯状金属板の部位ごとの挙動(具体的には膨張/収縮の程度)が異なるため、耐火物からなるプレート本体内部に不均一な応力を生じてプレート本体に亀裂や破壊を生じやすい。
更に、焼嵌め方式では、個々のプレート本体の外周側面形状に合致させるループ状金属板の製作やプレート本体への設置作業においては微妙な調整が困難であって、精度が低い、自動化が困難であるか、自動化を実現するためには大がかりな装置等が必要になって、材料・設置作業費等のコストが高くなる、等の問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実願昭59-173615号(実開昭61-87652号)のマイクロフィルム
【特許文献2】特公昭58-48835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に鑑み本発明が解決しようとする課題は、プレート本体の亀裂や破壊を抑制することができ、併せてプレート本体に対する拘束力を従来の多重フープ方式に比べて強くすることもできるスライディングノズル装置用のプレート並びにその製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者らは、実操業における各種プレート本体の亀裂や破壊の発生状況を詳細に観察しその原因について解析した。その結果、実操業においてプレート本体の亀裂や破壊を抑制するには、プレート本体の外周側面に設置する帯状金属板によるプレート本体に対する拘束力の均一性を向上させることが肝要であるとことがわかった。そこで、本発明者らはプレート本体の外周側面に設置する帯状金属板の設置方式として、焼嵌め方式ではなく多重フープ方式を採用することとした。
一方、多重フープ方式では、プレート本体に対する拘束力が焼嵌め方式に比べ弱く、プレート本体の亀裂/破壊抑制効果が小さいといった問題が指摘されていた。そこで本発明者らは、実操業における各種プレート本体の亀裂や破壊の発生状況と、プレート本体に対する拘束力との関係についても詳しく解析した。その結果、多重フープ方式の実操業においてプレート本体の亀裂や破壊を抑制するには、プレート本体に対する拘束力の大きさと相関のあるプレート本体の内孔内周面の最大圧縮歪みを、従来の多重フープ方式と比べて大きくした特定の範囲内とすればよいことがわかった。具体的には、プレート本体の内孔内周面の最大圧縮歪みを特定の範囲内とするために、帯状薄鉄板がプレート本体の外周側面に倣うように帯状薄鉄板を抑える押え治具を用いた方法及び装置の検討も含めて、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一観点によれば、次のスライディングノズル装置用のプレートが提供される。
耐火物からなるプレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を複数層巻回してなるフープが設置されているスライディングノズル装置用のプレートであって、
前記フープを切断した際に解放される歪みを歪みゲージで測定する方法による、前記プレート本体の内孔内周面の最大圧縮歪みが200με以上1500με以下である、スライディングノズル装置用のプレート。
【0009】
また、本発明の他の観点によれば、次のスライディングノズル装置用のプレートの製造方法が提供される。
耐火物からなるプレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を複数層巻回してなるフープが設置されているスライディングノズル装置用のプレートの製造方法であって、
前記プレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を加熱しながらかつ引張力を付加しながら巻締をする巻締工程を含み、
前記巻締工程は、前記帯状薄鉄板が前記プレート本体の外周側面に接し始める部分において、前記帯状薄鉄板が前記プレート本体の外周側面に倣うように、押え治具によって前記帯状薄鉄板を抑える工程を含む、スライディングノズル装置用のプレートの製造方法。
【0010】
また、本発明の更に他の観点によれば、次のスライディングノズル装置用のプレートの製造装置が提供される。
耐火物からなるプレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を複数層巻回してなるフープが設置されているスライディングノズル装置用のプレートの製造装置であって、
前記プレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を加熱しながらかつ引張力を付加しながら巻締をする巻締機構を備え、
前記巻締機構は、前記帯状薄鉄板が前記プレート本体の外周側面に接し始める部分において、前記帯状薄鉄板が前記プレート本体の外周側面に倣うように、当該帯状薄鉄板を抑える押え治具を含む、スライディングノズル装置用のプレートの製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スライディングノズル装置用のプレートにおいてプレート本体の亀裂や破壊を抑制することができる。また、プレート本体に対する拘束力を従来の多重フープ方式に比べて強くすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るスライディングノズル装置用のプレートの製造装置の構成例を示す図で、上段は平面図、下段は正面図。
【
図2】プレート本体の外周側面に帯状薄鉄板の巻始端部を固定した状態の模式図。
【
図3】帯状薄鉄板の巻始端部の固定方法の一例を示す模式図。
【
図4】帯状薄鉄板の巻始端部の固定方法の他の例を示す模式図。
【
図5】プレート本体の外周側面の一部に設ける凹部の形状例を示す模式図。
【
図6】帯状薄鉄板がプレート本体の外周側面に倣うように帯状薄鉄板を抑える押え治具を用いた巻締工程を示す模式図。
【
図7】2層目の帯状薄鉄板を巻回する工程を示す模式図。
【
図8】フープと固定部材とを一体化した構成例を示す模式図。
【
図9】実施例、比較例及び参考例に用いたプレート本体の形状及び寸法を示す図。
【
図10】プレート本体の内孔内周面の最大圧縮歪みの測定方法を示す模式図。
【
図11】実施例、比較例及び参考例のプレートにおけるプレート本体の内孔内周面の最大圧縮歪みの測定結果を示すグラフ。
【
図12】帯状薄鉄板の加熱温度と最大圧縮歪みとの関係を示すグラフ。
【
図13】帯状薄鉄板に付加する引張力と最大圧縮歪みとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明に係るスライディングノズル装置用のプレートの製造装置(以下「プレート製造装置」という。)について説明する。
図1に、プレート製造装置の構成例を示しており、上段は平面図、下段は正面図である。
【0014】
同図に示すプレート製造装置は、スライディングノズル装置用のプレート(以下、単に「プレート」という。)の本体であるプレート本体A1を保持するプレート保持機構1と、プレート本体A1の外周側面に複数層巻回されてフープを構成する帯状薄鉄板Bを保持する鉄板保持機構2と、プレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板Bを加熱しながらかつ引張力を付加しながら巻締をする巻締機構3とを備えている。
【0015】
プレート保持機構1は、プレート本体A1を載置する載置台11と、この載置台11を水平面内で回転させるモーター12とを含む。具体的にはモーター12が、載置台11の下面から鉛直下方に伸びている回転軸111をその軸芯周りに回転させることで、載置台11が水平面内で回転する。本実施形態においてモーター12は、インバーターによる回転速度の制御が可能であり、またその回転数の制御も可能である。
【0016】
図1の上段に表れているように載置台11には、プレート本体A1を載置台11に固定するための固定手段として固定治具13が複数箇所(本実施形態では10箇所)に組み込まれている。これら固定治具13はプレート本体A1の外周側面に対して進退可能に組み込まれており、プレート本体A1を載置台11に固定する際には、これら固定治具13の先端がプレート本体A1の外周側面に突き当たる位置まで前進させてその位置でクランプする。なお、本実施形態では、これら固定治具13の先端がプレート本体A1の外周側面に帯状薄鉄板Bを巻回する際に邪魔にならないように、これら固定治具13の先端はプレート本体A1の外周側面の下端側(例えばプレート本体A1の下端面から数mmの高さ位置)に突き当たるようにしている。
なお、プレート本体A1を載置台11に固定するための固定手段の態様としては、本実施形態のような固定治具13には限定されず、磁石や真空による吸着力を利用する態様や、プレート本体A1の内孔A1a内に固定治具を装着して固定する態様などとすることができる。
【0017】
鉄板保持機構2は、コイル状に巻かれた帯状薄鉄板Bを保持する保持台21と、この保持台21の下面から鉛直下方に伸びている回転軸211をその軸芯周りに回転可能に支持する軸受部22とを含む。保持台21に保持されているコイル状の帯状薄鉄板Bは、保持台21が水平面内で回転することで払い出される。実際には、帯状薄鉄板Bをプレート本体A1の外周側面に巻回する際に帯状薄鉄板Bが引っ張られることにより保持台21が回転し、それに伴い帯状薄鉄板Bが払い出される。
本実施形態において軸受部22はブレーキ機構としてエアブレーキ221を含んでいる。このエアブレーキ221は、回転軸211に対してエア圧に応じたブレーキ力を作用させる。その結果、保持台21の回転にブレーキ力が作用する。本実施形態では、このブレーキ力により帯状薄鉄板Bに対して引張力を付加する。そしてこのブレーキ力の強弱はエアブレーキ221のエア圧の高低により調整可能であり、これにより帯状薄鉄板Bに付加する引張力が変更可能である。
なお、図示していないが、鉄板保持機構2は保持台21から払い出された帯状薄鉄板Bの鉛直方向の位置(高さ)を調整する手段を含むことができる。
【0018】
巻締機構3は押え治具31を含む。詳細は後述するが押え治具31は、帯状薄鉄板Bがプレート本体A1の外周側面に接し始める部分において、帯状薄鉄板Bがプレート本体A1の外周側面に倣うように帯状薄鉄板Bを抑える。本実施形態において押え治具31は、その中間部がピン311周りに回転可能に取り付けられている。また、押え治具31の基端部は、エアシリンダー312のシリンダーロッド312aに接続されている。すなわちエアシリンダー312のシリンダーロッド312aが進退することにより、押え治具31がピン311周りに回転する。これにより、押え治具31の先端の押え部31aが、プレート本体A1の外周側面に倣うように変位可能となっている。なお、本実施形態において押え部31aは、プレート本体A1の外周側面に沿って転動するローラーによって構成されている。
【0019】
本実施形態において巻締機構3は、2つの押圧治具32A,32Bを更に含む。詳細は後述するが、2つの押圧治具32A,32Bはそれぞれ、帯状薄鉄板Bをプレート本体A1の外周側面に巻回する際に、その帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍をプレート本体A1の外周側面に押圧して固定する。また、2つの押圧治具32A,32Bはそれぞれ、帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍をプレート本体A1の外周側面に押圧して固定する固定位置と、帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍上に2層目の帯状薄鉄板を巻回する際に、その2層目の帯状薄鉄板の巻回の障害とならない退避位置とに移動可能である。本実施形態において2つの押圧治具32A,32Bはそれぞれ、水平方向及び鉛直方向に移動可能であり、この水平方向及び鉛直方向の移動の組合せにより上述の固定位置と退避位置とに移動可能となっている。
【0020】
本実施形態においてプレート製造装置は、帯状薄鉄板Bを加熱する加熱手段として誘導加熱コイル4を備えている。この誘導加熱コイル4は、鉄板保持機構2からプレート保持機構1へ向けて水平方向に移動する帯状薄鉄板Bを誘導加熱により加熱する。また、誘導加熱コイル4には、誘導加熱コイル4により加熱された帯状薄鉄板Bの温度を計測する温度計として放射温度計41が付属している。本実施形態において誘導加熱コイル4は、放射温度計41で計測される温度が予め設定された目標温度となるように帯状薄鉄板Bを加熱する。ここで、上記目標温度は設定変更可能であり、目標温度の設定を変更することにより帯状薄鉄板Bの加熱温度を変更することができる。
なお、帯状薄鉄板Bを加熱する加熱手段の加熱方式は誘導加熱には限定されず、通電加熱やガスバーナー加熱とすることもできる。また、温度計の方式も放射温度計には限定されず、赤外線温度計などその他の非接触温度計を用いてもよい。
【0021】
次に、
図1のプレート製造装置を用いたプレートの製造方法について説明する。
まず、
図2に模式的に示しているように、載置台11に固定したプレート本体A1の外周側面の所定箇所に帯状薄鉄板Bの巻始端部を固定する。本実施形態においてプレート本体A1は、その外周側面の一部に凹部A1bを有し、この凹部A1bのある箇所に帯状薄鉄板Bの巻始端部を固定する。
【0022】
図3に、その固定方法の一例を示している。この例では帯状薄鉄板Bの巻始端部を、凹部A1bを覆うように配置し(
図3(a))、その後、溶接機5を使用して帯状薄鉄板Bの巻始端部の外側から凹部A1b内に向けて貫通溶接する(
図3(b)~(c))。その結果、帯状薄鉄板Bの溶融物が凹部A1b内に侵入し固化して固定部材A1cとなり、この固定部材A1cに帯状薄鉄板Bの巻始端部が固定される。
【0023】
図4に、帯状薄鉄板Bの巻始端部の固定方法の他の例を示している。この例では凹部A1b内に予め鉄などからなる固定部材A1cを入れておく(
図4(a))。あとは
図3の例と同様に、帯状薄鉄板Bの巻始端部を、凹部A1bを覆うように配置し(
図4(b))、その後、溶接機5を使用して帯状薄鉄板Bの巻始端部の外側から凹部A1b内に向けて貫通溶接する(
図4(c)~(d))。その結果、凹部A1b内の固定部材A1cと帯状薄鉄板Bの巻始端部とが溶接されて、固定部材A1cに帯状薄鉄板Bの巻始端部が固定される。
【0024】
図3及び
図4のいずれにおいても得られたプレートの構成としては、プレート本体A1は、その外周側面の一部に凹部A1bを有すると共に、凹部A1b内に固定部材A1cを有し、帯状薄鉄板Bの巻始端部が固定部材A1cに固定されている構成である。このように、帯状薄鉄板Bの巻始端部を凹部A1b内の固定部材A1cに固定することで、プレート本体Aの外周側面に帯状薄鉄板Bを巻回する際に、帯状薄鉄板Bの巻始端部が位置ズレすることを抑制することができ、プレート本体Aに対する拘束力の強化に寄与できる。
なお、
図3及び
図4に示している溶接機5は、
図1では図示を省略している。
また、帯状薄鉄板Bの巻始端部と凹部A1b内の固定部材A1cとを固定する手段は溶接には限定されず、ねじ込み、打ち込みといった機械的手段、あるいは接着とすることもできる。
【0025】
ここで凹部A1bの形状は、帯状薄鉄板Bの巻始端部が位置ズレすることを抑制する観点から、
図5に例示しているように帯状薄鉄板Bの引張方向(
図5中の矢印方向)に対して鋭角をなす内壁面A1b1を含む形状であることが好ましい。
【0026】
帯状薄鉄板Bの巻始端部と凹部A1b内の固定部材A1cとの固定が完了したら、
図2に模式的に示しているように、2つの押圧治具32A,32Bをそれぞれ固定位置へ移動させる。これにより、帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍が2箇所(2つの押圧治具32A,32B)でプレート本体の外周側面に押圧されて固定される。なお、
図2では帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍を2箇所で固定するようにしているが、少なくとも1箇所(2つの押圧治具32A,32Bの少なくとも一方)で固定するようにすればよい。このように、帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍を少なくとも1箇所でプレート本体A1の外周側面に押圧して固定することで、帯状薄鉄板Bの巻始端部が位置ズレすることを抑制することができ、プレート本体Aに対する拘束力の強化に寄与できる。
【0027】
帯状薄鉄板Bの巻始端部及び巻始端部近傍の固定が完了したら、プレート本体A1の外周側面に、帯状薄鉄板Bを加熱しながらかつ引張力を付加しながら巻締をする巻締工程を行う。具体的には載置台11に固定したプレート本体A1をモーター12の駆動により水平面内で回転させることにより、プレート本体A1の外周側面に帯状薄鉄板Bを巻回及び巻締をする。そしてこの巻締工程は、
図6に模式的に示しているように、帯状薄鉄板Bがプレート本体A1の外周側面に接し始める部分において、帯状薄鉄板Bがプレート本体A1の外周側面に倣うように、押え治具31によって帯状薄鉄板Bを抑える工程を含む。
また、この巻締工程において帯状薄鉄板Bには、上述のエアブレーキ221のブレーキ力により所定の引張力が付加され、またその帯状薄鉄板Bは上述の誘導加熱コイル4により所定の温度に加熱されている。
このように本実施形態において巻締工程では、プレート本体A1の外周側面に、帯状薄鉄板Bを加熱しながらかつ引張力を付加しながら巻締をし、更にその際、帯状薄鉄板Bがプレート本体A1の外周側面に倣うように押え治具31によって帯状薄鉄板Bを抑える。これにより、プレート本体A1に対する拘束力を従来の多重フープ方式に比べて強くすることができる。
【0028】
ここでプレート本体A1に対する拘束力は、帯状薄鉄板Bの加熱温度、帯状薄鉄板Bに付加する引張力、及び帯状薄鉄板Bの層数のうち少なくとも1つを変更することにより調整することができる。
このうち、帯状薄鉄板Bの加熱温度は上述の通り、誘導加熱コイル4による加熱の目標温度の設定を変更することにより変更することができ、例えば200~800℃の範囲内で変更することができる。
また、帯状薄鉄板Bに付加する引張力は上述の通り、エアブレーキ221のブレーキ力の強さを変更することにより変更することができ、例えば30~400kgf(約0.3~4kN)の範囲内で変更することができる。
更に帯状薄鉄板Bの層数は、モーター12の回転数すなわち帯状薄鉄板Bの巻回数を変更することにより変更することができ、例えば2~10層の範囲内で変更することができる。
【0029】
次に、2層目の帯状薄鉄板Bを巻回する工程について説明する。
図2を参照して説明したように1層目の帯状薄鉄板Bを巻回する際には、その帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍を少なくとも1箇所(2つの押圧治具32A,32Bの少なくとも一方)で固定したうえで巻締を行う。その後、1層目の帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍上に2層目の帯状薄鉄板Bを巻回する際にも
図7に模式的に示しているように、帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍を少なくとも1箇所(2つの押圧治具32A,32Bの少なくとも一方)でプレート本体A1の外周側面に押圧して固定しながら2層目の帯状薄鉄板Bを巻回する。具体的には
図7(a)~(e)に順次示しているように、帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍上に2層目の帯状薄鉄板Bを巻回する際、2つの押圧治具32A,32Bを順次、上述の固定位置と退避位置とに移動させることにより、帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍を少なくとも1箇所でプレート本体A1の外周側面に押圧して固定しながら2層目の帯状薄鉄板Bを巻回する。なお、
図7では、2つの押圧治具32A,32Bのうち固定位置に移動させた押圧治具のみを図示し、退避位置に移動させた押圧治具を図示しないことにより、固定位置に移動させた押圧治具と退避位置に移動させた押圧治具とを区別している。
【0030】
このように、1層目の帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍上に2層目の帯状薄鉄板Bを巻回する際に、1層目の帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍を少なくとも1箇所(2つの押圧治具32A,32Bの少なくとも一方)でプレート本体A1の外周側面に押圧して固定しながら2層目の帯状薄鉄板Bを巻回することで、1層目の帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍上に2層目の帯状薄鉄板Bを巻回する際に1層目の帯状薄鉄板Bに緩みが生じることを抑制することができ、プレート本体Aに対する拘束力の強化に寄与できる。また、2層目の帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍上に3層目の帯状薄鉄板Bを巻回する際にも、2層目の帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍を少なくとも1箇所(2つの押圧治具32A,32Bの少なくとも一方)でプレート本体A1の外周側面側に押圧して固定しながら3層目の帯状薄鉄板Bを巻回することができる。これにより、2層目の帯状薄鉄板Bの巻始端部近傍上に3層目の帯状薄鉄板Bを巻回する際に1層目及び2層目の帯状薄鉄板Bに緩みが生じることを抑制することができ、プレート本体Aに対する拘束力の強化に寄与できる。
【0031】
このようにして、プレート本体の外周側面に、帯状薄鉄板を複数層巻回してなるフープが設置されたプレートを得ることができる。そしてこのプレートによれば、後述の実施例で示すようにプレート本体に対する拘束力を従来の多重フープ方式に比べて強くすることができる。より具体的には、フープを切断した際に解放される歪みを歪みゲージで測定する方法による、プレート本体の内孔内周面の最大圧縮歪みを200με以上1500με以下とすることができ、これによりプレート本体の亀裂や破壊を抑制することができる。なお、上述の最大圧縮歪みの上限値(1500με)は、従来のホットバンド方式の実績値等を考慮して設定した。
【0032】
ここで、
図8に模式的に示しているように、プレート本体A1の外周側面に帯状薄鉄板Bを複数層巻回してなるフープA2には、例えば
図3及び
図4で説明したように溶接機5を使用してフープA2の外側から凹部A1b内に向けて貫通溶接することで、フープA2の最外層から固定部材A1cまで達する孔A2aを設けると共に、この孔A2aにフープA2と固定部材A1cとを一体化する材料(
図8の例では帯状薄鉄板Bの溶融物)が充填された構成とすることもできる。このような構成とすることで、フープA2に緩みが生じることを抑制することができ、プレート本体Aに対する拘束力の強化に寄与できる。
【0033】
なお、上述の製造装置及び製造方法において最も重要な技術的特徴は、
図6に示したように、巻締の際に帯状薄鉄板Bがプレート本体A1の外周側面に倣うように押え治具31によって帯状薄鉄板Bを抑えることにある。すなわち、本発明の製造装置及び製造方法において、
図3~5、
図7及び
図8に示した技術的特徴は省略可能である。
【実施例0034】
本発明の実施例として上述の製造装置及び製造方法により多重フープ方式のプレートを複数作製した。また、比較例として上記特許文献2に開示されている従来の製造方法により多重フープ方式のプレートを複数作製した。更に、参考例としてホットバンド方式のプレートも複数作製した
図9に、これら実施例、比較例及び参考例に用いたプレート本体A1の形状及び寸法を示している。このプレート本体A1は耐火物からなり、その耐火物の弾性率は46~53GPaの範囲内であった。
また、実施例及び比較例に用いた帯状薄鉄板の材質は一般構造用圧延鋼材SS400とし、寸法は1mm厚×30mm幅とした。更に実施例及び比較例の多重フープ方式において、帯状薄鉄板の加熱温度は700℃、引張力は150kgfとした。また、帯状薄鉄板の層数は実施例では3~6層、比較例では6~8層とした。
一方、ホットバンド方式である参考例に用いた金属板(HB)の材質も一般構造用圧延鋼材SS400とし、寸法は3~6mm厚×30mm幅とした。また、ホットバンド方式において金属板(HB)の加熱温度は400~600℃とした。
【0035】
実施例、比較例及び参考例として作製した各プレートについて、プレート本体に対する拘束力の大きさと相関のあるプレート本体の内孔内周面の最大圧縮歪みを測定した。
図10に、この最大圧縮歪みの測定方法を模式的に示している。同図に示すように、プレート本体A1の内孔A1aの内周面の摺動面A1d側の4箇所にそれぞれ歪みゲージC1~4を均等に貼り、その後フープA2を切断し、このとき解放される歪みを歪みゲージC1~4で測定し、その最大値を最大圧縮歪みとする。ここで、歪みゲージC1~4の種類は「箔歪みゲージ」とし、その大きさは内孔A1aの内周面の摺動面A1d側の4箇所に均等に貼り付けることができる程度の大きさとする。具体的に今回の実施例、比較例及び参考例においてはゲージ長が5mm、ゲージ幅が1.4mmのものを用いた。
【0036】
図11に、その測定結果を示している。なお、同図において1つのプロットが1つのプレートの測定結果である。
同図より従来の多重フープ方式である比較例では最大圧縮歪みは200με未満であった。これに対して、実施例ではいずれも最大圧縮歪みが200με以上1500με以下であり、参考例であるホットバンド方式と同等の拘束力が得られた。
なお、実施例では帯状薄鉄板の層数を増やすに従い最大圧縮歪みが大きくなる傾向が見られたが、比較例では帯状薄鉄板の層数を増やしても最大圧縮歪みは必ずしも大きくならなかった。その理由は、比較例では巻締の際に実施例のように押え治具を使用していないことから、1、2層目が緩んでしまい、その上から層数を重ねたとしても拘束力は強くならず、結果として最大圧縮歪みが大きくならないためである。
また、参考例では実施例に比べ、最大圧縮歪みのバラツキが大きくなっている。ここで、最大圧縮歪みのバラツキは、プレート本体の形状、材質(弾性率)等のバラツキやフープを設置するときの加熱温度等の条件のバラツキなどに起因するが、参考例であるホットバンド方式ではフープ自体の寸法のバラツキもあることから、最大圧縮歪みのバラツキが大きくなっている。
以上より、本発明の多重フープ方式によれば、ホットバンド方式に比べてプレート本体に対する拘束力の均一性が向上し、しかも従来の多重フープ方式に比べて拘束力を強くすることができ、その結果、スライディングノズル装置用のプレートにおいてプレート本体の亀裂や破壊を抑制することができるといえる。
【0037】
次に、本発明の多重フープ方式において、プレート本体に対する拘束力を調整する調整例を例示する。
本調整例で用いたプレート本体A1の形状及び寸法は先の実施例と同じとし(
図9参照)、耐火物の弾性率も先の実施例と同じ46~53GPaの範囲内とした。一方、帯状薄鉄板の層数は5層とした。そして、調整例1では帯状薄鉄板の加熱温度、調整例2では帯状薄鉄板に付加する引張力を変化させ、それぞれ最大圧縮歪みを測定した。
【0038】
図12及び
図13に、それぞれ調整例1及び調整例2における最大圧縮歪みの測定結果を示している。
図12及び
図13より、帯状薄鉄板の加熱温度、帯状薄鉄板に付加する引張力を変化させることにより、最大圧縮歪み、すなわちプレート本体に対する拘束力を調整できることがわかる。