(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079022
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 47/016 20170101AFI20240604BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20240604BHJP
B01J 39/20 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B01J47/016
B01J39/05
B01J39/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191708
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
(57)【要約】
【課題】高純度の液体の精製に用いられる高度に精製された陽イオン交換樹脂を保管する際に、重力水に起因する該陽イオン交換樹脂の汚染を抑制し、長期に亘って保管した場合にも、樹脂のクリーン度を保つことが可能な高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】H形陽イオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下である陽イオン交換樹脂を得る精製工程と、得られた該陽イオン交換樹脂から重力水を除去する水分除去工程と、重力水を除去した該陽イオン交換樹脂を保管する保管工程と、を有する高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
H形陽イオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下である陽イオン交換樹脂を得る精製工程と、
得られた該陽イオン交換樹脂から重力水を除去する水分除去工程と、
重力水を除去した該陽イオン交換樹脂を保管する保管工程と、
を有することを特徴とする、高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記水分除去工程で得られる重力水を除去した陽イオン交換樹脂を保管容器に充填し、一晩以上静置した後、該保管容器内の上部と下部の陽イオン交換樹脂を取り出し、各陽イオン交換樹脂について含水率を測定した場合に、その比率((上部含水率/下部含水率)×100))が80%以上である、請求項1に記載の高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記水分除去工程において、不活性ガスまたは圧縮空気を用いて前記重力水を除去する、請求項1に記載の高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記保管工程において、重力水を除去した前記陽イオン交換樹脂を保管容器に充填した後、該保管容器内に不活性ガスを満たす、請求項1に記載の高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項5】
重力水を除去した前記陽イオン交換樹脂を保管する前の前記保管容器に0.01質量%以上の濃度の硝酸を5分間以上接触させて、該保管容器を洗浄する、請求項4に記載の高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において使用される水や薬液等の液体中に含まれる金属不純物は、イオン交換樹脂を用いて除去することができる。なかでも、金属不純物がpptレベルの液体の精製を行う場合には、精製に用いるイオン交換樹脂自体が含有する金属不純物をできる限り低減することが望まれる。精製に用いるイオン交換樹脂自体を精製する方法としては、高純度の鉱酸溶液によりイオン交換樹脂を洗浄する方法が知られている(特許文献1)。そして、そのように精製されたイオン交換樹脂は、高いガスバリア性を有するプラスチック製の容器や袋等に充填され、保管される。
【0003】
イオン交換樹脂の保管方法として、特許文献2には、イオン交換樹脂を加熱乾燥した後、該樹脂を浄水カートリッジ内に保管することで、樹脂における雑菌の繁殖を抑制した方法が開示されている。また、特許文献3には、各々のイオン交換樹脂の酸素官能性に適合した酸素透過性を有するプラスチック製包装材に、イオン交換樹脂を充填する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/098348号
【特許文献2】特開2017-196599号公報
【特許文献3】特開2016-117523号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】株式会社前川製作所、連載講座「低温環境の利用技術」(4)、[検索日2022.07.26]、インターネット<URL: http://rdc.mayekawa.co.jp/column/no4i.shtml>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明によれば、上記のとおり、浄水カートリッジを使用前に長期保存した場合における雑菌の繁殖を抑制することができる。また、特許文献2に記載の発明によれば、イオン交換樹脂の酸化を抑制することにより、イオン交換樹脂を、その性能を維持した状態で、長期に亘って保管し得る。
【0007】
しかしながら、特に、金属不純物量がpptレベルの水や水溶液、非水液等、高純度の液体の精製に用いられる、高度に精製されたイオン交換樹脂を保管する場合、イオン交換樹脂層中の水分が、保管容器からの不純物汚染を引き起こす可能性がある。すなわち、イオン交換樹脂層に存在する水分が多い場合(
図1(a)参照)、イオン交換樹脂からわずかに溶出する官能基由来の酸やアルカリ成分が、該水分中に溶出し、イオン交換樹脂層の水分自体が強酸性や強アルカリ性を帯びる。そして、強酸性や強アルカリ性を帯びた水溶液が保管容器に接触すると、保管容器自体に含まれる不純物が溶出され、それがイオン交換樹脂に吸着されることで、イオン交換樹脂が汚染される。特に、強酸性陽イオン交換樹脂は、カチオン性の金属不純物を吸着しやすいため、そのような保管容器からの汚染を受けやすい。また、保管時にイオン交換樹脂層に存在する水分にイオン性成分が含まれている場合、該イオン性成分中のイオンと樹脂が有するイオンとがイオン交換して、同様の現象が起きる可能性がある。したがって、このような状態で保管されたイオン交換樹脂を用いて、金属不純物量がpptレベルの液体の精製を行うと、該液体への不純物の溶出や、精製レベルの低下を引き起こす可能性がある。
【0008】
したがって、本発明は、高純度の液体の精製に用いられる高度に精製された陽イオン交換樹脂を保管する際に、重力水に起因する該陽イオン交換樹脂の汚染を抑制し、長期に亘って保管した場合にも、樹脂のクリーン度を保つことが可能な高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑みて、本発明者らが鋭意検討した結果、高度に精製された、高純度の陽イオン交換樹脂を保管する場合において、陽イオン交換樹脂層に存在する重力水を低減することにより、陽イオン交換樹脂の保管中における劣化や汚染を抑制し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、H形陽イオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下である陽イオン交換樹脂を得る精製工程と、得られた該陽イオン交換樹脂から重力水を除去する水分除去工程と、重力水を除去した該陽イオン交換樹脂を保管する保管工程と、を有することを特徴とする、高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高純度の液体の精製に用いられる高度に精製された陽イオン交換樹脂を保管する際に、重力水に起因する該陽イオン交換樹脂の汚染を抑制し、長期に亘って保管した場合にも、樹脂のクリーン度を保つことが可能な高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】イオン交換樹脂層中に存在する水分が(a)多い場合と(b)少ない場合を模式的に表す図である。
【
図2】参考例3において調製したイオン交換樹脂層の写真である。
【
図3】参考例5において調製したイオン交換樹脂層の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<陽イオン交換樹脂の製造方法>
本発明に係る高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法は、以下の工程を有する。H形陽イオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下である陽イオン交換樹脂を得る精製工程。得られた該陽イオン交換樹脂から重力水を除去する水分除去工程。重力水を除去した該陽イオン交換樹脂を保管する保管工程。以下、各工程について詳細に説明する。
【0014】
[精製工程]
本工程は、液体の精製に用いられるH形(水素イオン形)陽イオン交換樹脂の含有金属不純物量を低減する工程である。
【0015】
(陽イオン交換樹脂)
H形陽イオン交換樹脂としては、特に制限されるものではないが、有機高分子を母体とする有機高分子系の陽イオン交換樹脂が好ましい。母体となる有機高分子としては、スチレン系樹脂やアクリル系樹脂が挙げられる。
【0016】
なお、本明細書において、「スチレン系樹脂」とは、スチレンまたはスチレン誘導体を単独または共重合した、スチレンまたはスチレン誘導体に由来する構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、およびブロモスチレン等が挙げられる。スチレン系樹脂としては、スチレンまたはスチレン誘導体の単独または共重合体を主成分とするものであれば、共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体であってもよい。そのようなビニルモノマーとしては、例えば、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマー;(メタ)アクリロニトリル;およびメチル(メタ)アクリレート等から選択される1種以上を挙げることができる。これらの中でも、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、またはエチレン重合数が4~16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、ジビニルベンゼンまたはエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジビニルベンゼンが特に好ましい。
【0017】
また、本明細書において、「アクリル系樹脂」とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選択される1種以上を単独重合または共重合した、アクリル酸に由来する構成単位、メタクリル酸に由来する構成単位、アクリル酸エステルに由来する構成単位およびメタクリル酸エステルに由来する構成単位から選択される構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。アクリル系樹脂としては、アクリル酸の単独重合体、メタクリル酸の単独重合体、アクリル酸エステルの単独重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体、アクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、メタクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、アクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、およびメタクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等))との共重合体から選択される1種以上を挙げることができる。これらの中でも、メタクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体またはアクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0018】
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸の直鎖状アルキルエステルまたは分岐状アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸の直鎖状アルキルエステルがさらに好ましい。また、アルキルエステル部位に含まれるアルキル基の炭素数は1~4であることが好ましく、アクリル酸エステルがアクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルであることが特に好ましい。
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸の直鎖状アルキルエステルまたは分岐状アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸の直鎖状アルキルエステルがさらに好ましい。また、アルキルエステル部位に含まれるアルキル基の炭素数は1~4であることが好ましく、メタクリル酸アルキルエステルがメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルであることが特に好ましい。
【0019】
また、陽イオン交換樹脂の母体は、樹脂の有する細孔の径が小さく透明なゲル型および細孔の径が大きいマクロポアを有するマクロリテキュラー型(MR型)またはマクロポーラス型(ポーラス型、ハイポーラス型とも呼ばれる)のいずれであってもよい。
【0020】
陽イオン交換樹脂としては、スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂およびカルボン酸基を有する弱酸性カチオン交換樹脂が挙げられる。陽イオン交換樹脂としては、一般的な純水製造用樹脂等(例えば、アンバーライトシリーズ(商品名、オルガノ(株)製)等)をいずれも使用することができる。具体的に、陽イオン交換樹脂としては、アンバーライト(登録商標)IRN99H(ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂)、IR120B、IR124、200CT(いずれも商品名、デュポン社製);アンバージェット(登録商標)1060H(ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂)、1020、1024、1220(いずれも商品名、オルガノ(株)製);オルライト(登録商標)DS-1(ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂)、DS-4(マクロポーラス型の強酸性カチオン交換樹脂)(いずれも商品名、オルガノ(株)製);ダイヤイオン(登録商標)SK104H、SK1B、SK110、SK112、PK208、PK212L、PK216、PK218、PK220、PK228、UBK08、UBK10、UBK12(いずれも商品名、三菱ケミカル(株)製);C100、C100E、C120E、C100x10、C100x12、C150、C160、SGC650(いずれも商品名、ピュロライト(株)製);モノプラスS108H、SP112、S1668(いずれも商品名、レバチット社製)等が挙げられるがこれらに限定されない。これらの陽イオン交換樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。H形の陽イオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより得られる、精製工程を経たH形の陽イオン交換樹脂として、そのような方法により精製された市販の陽イオン交換樹脂を用いることもできる。具体的には、上記例示した陽イオン交換樹脂のうち、オルライトシリーズ(商品名、オルガノ(株)製)については、すでに上記精製工程に相当する処理を経ており、次工程である水分除去工程に、そのまま用いることができる。すなわち、そのような陽イオン交換樹脂を用いる場合は、上記精製工程を省略することができる。なお、金属除去性能の観点からは、陽イオン交換樹脂は、強酸性陽イオン交換樹脂であることが好ましい。
【0021】
陽イオン交換樹脂として、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂が混合された混床のイオン交換樹脂を用いることもできる。その場合、陽イオン交換樹脂と同様、陰イオン交換樹脂についても事前に精製を行うことが好ましい。また、本発明の精製工程に相当する精製を経た市販の混床イオン交換樹脂を用いてもよい。その場合、該混床イオン交換樹脂を、そのまま次の水分除去工程における陽イオン交換樹脂として用いることができる。なお、そのような市販品としては、例えば、オルライト(登録商標)DS-3およびDS-7(商品名、オルガノ(株)製)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
H形陽イオン交換樹脂の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.1~1.0mmであることができる。なお、本明細書において、平均粒子径は、調和平均径を意味する。
【0023】
本工程においては、特許文献1に記載されるように、陽イオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、該陽イオン交換樹脂に含まれる金属不純物を除去、低減し、精製されたH形陽イオン交換樹脂を得る。含有金属不純物量が極めて少ない鉱酸溶液に陽イオン交換樹脂を接触させることにより、確実かつ効果的に陽イオン交換樹脂に含まれる金属不純物量を低減することができ、その結果、溶出金属不純物量の少ない陽イオン交換樹脂を得ることができる。なお、陽イオン交換樹脂を鉱酸溶液に接触させた後は、純水または超純水により、樹脂中に残存する鉱酸溶液を洗浄し、除去することが好ましい。
【0024】
再生剤として用いる鉱酸溶液中の含有金属不純物量は1mg/L以下であり、0.5mg/L以下であることが好ましく、0.2mg/L以下であることがより好ましい。また、鉱酸溶液の濃度は、5質量%以上である。鉱酸溶液の濃度が5質量%未満である場合、十分な陽イオン交換樹脂内の金属不純物低減効果を得ることができない。なお、鉱酸溶液に含まれる金属不純物とは、金属不純物イオンをも含む概念であり、代表的なものとして、例えば、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)等が挙げられる。鉱酸溶液としては、水溶液が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。「陽イオン交換樹脂に鉱酸溶液を接触させる」とは、陽イオン交換樹脂に鉱酸溶液を通過、通液させることのほか、陽イオン交換樹脂を鉱酸溶液中に浸漬すること等も含む。
【0025】
精製工程で得られる精製されたH形の陽イオン交換樹脂に、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は、5μg/mL-R以下、好ましくは3μg/mL-R以下である。なお、前記濃度3質量%の塩酸に含まれる金属不純物量は、分析精度を上げる目的から、1mg/L以下であることが好ましいが、その限りではない。また、「体積比25倍量」の塩酸とは、陽イオン交換樹脂の体積に対して25倍の体積の塩酸を通過させることを意味する。また、単位「/mL-R」は、「水湿潤状態におけるカチオン交換樹脂の体積1mL当たり」を意味する。なお、水湿潤状態とは、陽イオン交換樹脂が水に浸漬された状態を指す。水湿潤状態の体積は、水に浸漬された状態の陽イオン交換樹脂の体積をメスシリンダー等の測定器具を用いて測定することができる。ここで、水湿潤状態における陽イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂を、25℃で相対湿度100%の大気に15分間以上接触させることにより得られる。
【0026】
前記濃度が5質量%以上の鉱酸溶液中のナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)の含有量は、それぞれ200μg/L以下であることが好ましい。これら金属不純物の含有量が少ない鉱酸溶液を陽イオン交換樹脂に接触させることにより、確実かつ効果的に、陽イオン交換樹脂のNa、Mg、CaおよびFeの含有量を低減させることができる。同様に、前記濃度3質量%の塩酸中のナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)の含有量は、それぞれ200μg/L以下であることが好ましい。
【0027】
なお、塩酸を通過させたときに溶出する金属不純物が、Na、Mg、CaおよびFeから選択される1つ以上の金属を含んでいてもよい。精製後のH形陽イオン交換樹脂において、これらの金属を含む全金属不純物溶出量を5μg/mL-R以下、好ましくは3μg/mL-R以下とすることにより、該陽イオン交換樹脂を被処理液の精製に用いた場合の、該陽イオン交換樹脂から被処理液中へのこれら金属不純物の溶出量を低減することができる。
【0028】
精製工程は、例えば、カラム等の充填容器に陽イオン交換樹脂を充填し、そこへ鉱酸溶液を通液することにより行う。充填容器の大きさは、吸着剤(イオン交換樹脂)の使用量に応じて適宜設定すればよく、限定されるものではない。通液する鉱酸溶液の量は、適宜調整することができるが、例えば、SV1~20で1~20BVとすることができる。ここで、SV(Space Velocity)は、空間速度を意味し、例えば、h-1(単位時間・単位吸着剤体積当たりの通過液体積)の単位で表される。また、BV(Bed Volume)は、吸着剤量に対し通液する流量倍数を表す。なお、上記の通液条件は、一例であり、各条件については、適宜、調整することができる。また、バッチ式により、陽イオン交換樹脂に鉱酸溶液を接触させてもよい。
【0029】
[水分除去工程]
本工程は、前記精製工程で得られた精製後のH形陽イオン交換樹脂から、重力水の少なくとも一部を除去する工程である。
【0030】
(重力水)
以下、本発明における重力水について説明する。非特許文献1には、土壌は、主に土粒子、吸着水、重力水、毛管水そして空気などから構成されることが記載されている。イオン交換樹脂中の水分についても、上記土壌中の水分と同様のことがいえる。すなわち、イオン交換樹脂中の水分は、吸着水と毛管水と重力水とを含む。吸着水は、親水性のイオン交換基を有するイオン交換樹脂に吸着し、毛管力や重力によっては移動しない水である。毛管水は、樹脂同士の隙間に存在し、吸着水の表面張力によって保持される水である。そして、重力水は、該表面張力によって保持できず、重力によって流動する水である。したがって、本発明において、重力水は、イオン交換樹脂が有する水のうち、イオン交換樹脂に吸着している吸着水の表面張力によって保持できず、重力によって流動し得る水を意味する。具体的に、水に浸漬したイオン交換樹脂を、下部にメッシュを備えた容器に充填し、重力によって容器の下部から水を排出する方法により脱水した場合、樹脂粒子内や樹脂粒子に吸着した水分(吸着水および毛管水)がイオン交換樹脂層に残る。これに対し、該イオン交換樹脂層の外に存在する水、すなわち、容器の下部から排出される水が重力水である。実際、イオン交換樹脂を、例えば
図1(a)に示すように重力水を含む状態で容器中に保管した場合、容器の下部や壁面に重力水が付着または溜まる様子が観察される。一方、イオン交換樹脂を、
図1(b)に示すように重力水を除去した状態で容器中に保管した場合、容器の下部や壁面に重力水が付着または溜まる様子は観察されない。
【0031】
上記のとおり、本発明は、金属不純物がpptレベルである液体の精製に用いられる高純度の陽イオン交換樹脂を得た後、該陽イオン交換樹脂を、実際の精製に使用されるまで容器に保管するにあたって、該陽イオン交換樹脂に含まれる重力水が容器の下部や壁面に集まり、液だまりを形成することで、容器から該重力水の液だまりへ不純物の溶出が起こり、陽イオン交換樹脂が汚染されるという課題に着目したものである。ここで、精製後のイオン交換樹脂に含まれる水分が問題となるということであれば、特許文献2に記載のように、加熱乾燥により、イオン交換樹脂に含まれる水分を低減させればよい。ただし、本発明のように、液体の高度精製に用いるための高純度の陽イオン交換樹脂を得るにあたり、加熱乾燥を行うと、加熱の際に樹脂が汚染される可能性が高く、好ましくない。また、そもそも、本発明に係る陽イオン交換樹脂は、水を精製する際にも適用可能であり、加熱乾燥により樹脂中の水分を低減するメリットはない。しかしながら、樹脂中の水分のうち、重力水については、上記のような問題を引き起こす要因となるため、本発明者は、樹脂中の該重力水に着目し、該重力水を除去、低減することにより、本発明の課題を解決することができることを見出したものである。
【0032】
(重力水の除去方法)
重力水を除去する方法は、加熱乾燥以外の方法であれば、特に限定されない。例えば、重力によって重力水を脱水する方法や、窒素やヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスや圧縮空気を用いて重力水を押し出す方法が挙げられる。また、吸引ろ過や、脱水槽を遠心分離のように回転させて、脱水槽の下部に備えたメッシュを通して重力水を排出する方法が挙げられる。なお、重力水を除去する際は、樹脂が脱水槽から抜け出すことがないように、樹脂の調和平均径に対して1/2以下の目開きのメッシュを備えた脱水槽を用いて処理を行うことが好ましい。脱水槽は、金属や有機物汚染源となる油類等が直接イオン交換樹脂に接触しないような措置が施されていればよい。脱水槽としては、例えば、金属製の脱水槽の内側に樹脂が塗布された脱水槽が挙げられる。不活性ガスや圧縮空気についても同様に、汚染の要因とならないよう、高純度のものを用いることが好ましい。不活性ガスを用いる際は、処理時間を数秒間~数十分間とすることが好ましい。不活性ガスの流量および処理時間は、樹脂の販売時の含水率に合わせて製造者が適宜決定することが好ましい。
【0033】
上記の各方法の中でも、不活性ガスや圧縮空気による押し出しは、短時間での脱水が可能であり、最も現実的な方法である。重力によって自然に脱水する方法は、低コストであるものの時間がかかる。吸引ろ過を用いた方法は、短時間での脱水が可能であるが、吸引のためにポンプが必要となる。脱水槽を回転させる方法も短時間での脱水が可能であるが、設備が大きく高コストとなる。以上から、重力水を除去する方法としては、不活性ガスや圧縮空気を用いて重力水を押し出す方法が好ましく、樹脂の酸化を抑制する観点からは、不活性ガスによる押し出しがより好ましい。上記のとおり、用いる不活性ガスの純度は高い方が好ましく、例えば、ガスラインにフィルターを設置し、ガスに起因する樹脂の汚染を抑制することが好ましい。
【0034】
なお、重力水を除去する工程においては、少なくとも重力水が容器底部に液だまりを形成しない程度に除去されればよい。また、重力水を除去する際に、重力水とともに毛管水や吸着水の少なくとも一部が除去されてもよい。重力水を含む水分をどの程度まで除去するかについては、少なくとも重力水を十分に(容器底部に液だまりが形成されない程度に)除去することを前提として、樹脂の販売時に求められる含水率に応じて適宜決定すればよい。また、重力水を除去する工程は、樹脂中の水分を飽和平衡状態(詳細は実施例を参照)に調製する工程を含んでいてもよい。
【0035】
(重力水の確認方法)
イオン交換樹脂を、重力水を含む状態で保管容器に充填し、保管した場合、徐々に重力水が保管容器の下部に集まり、容器底部に水が溜まった状態となる(液だまりの形成)。本発明者は、水分除去工程において、重力水が十分に除去されたことを確認するため、すなわち、どのような状態であれば、液だまりが形成されない程度まで重力水が除去されたといえるかを確認するために実験を行った。その結果、第一に、陽イオン交換樹脂中の重力水が容器底部に液だまりを形成するか否かについては、陽イオン交換樹脂を保管容器に充填し、一晩(具体的には、16時間)以上静置することにより判断できることが明らかとなった。第二に、陽イオン交換樹脂を保管容器に充填し、一晩以上静置した後、該保管容器内の上部と下部の陽イオン交換樹脂を取り出し、それぞれの樹脂について質量基準の含水率を測定した場合に、その比率((上部含水率/下部含水率)×100))が80%以上であれば、重力水が除去されている(重力水による液だまりが形成されない)と判断することができることが明らかとなった。すなわち、陽イオン交換樹脂中に重力水が多く残存している場合、該陽イオン交換樹脂を一晩静置すると、保管容器の底部に重力水が溜まり、液だまりが形成される。そのため、下部含水率が上部含水率に比べて高くなり、上記比率は小さくなる。一方、陽イオン交換樹脂中の重力水が十分に除去されている場合、該陽イオン交換樹脂を一晩静置しても、保管容器の底部に重力水による液だまりが形成されることはなく、上記比率は100%であるか、100%に近い値となる。本発明においては、水分除去工程後の陽イオン交換樹脂について、上記比率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。上記比率が80%以上であれば、樹脂の保管中における重力水による液だまりの形成を抑制することができる。その結果、該液だまりへの不純物の溶出が抑制され、樹脂のクリーン度を保つことが可能となる。なお、保管容器内の上部の陽イオン交換樹脂とは、容器内の該陽イオン交換樹脂の充填高さを100%とした場合、最上部(充填高さが100%である部分)から1/3(約33%)の高さまでの部分に充填されているイオン交換樹脂を意味する。また、保管容器中の下部のイオン交換樹脂とは、該陽イオン交換樹脂の充填高さを100%とした場合、最下部から1/3(約33%)の高さまでの部分に充填されているイオン交換樹脂を意味する。この場合、上部と下部の間の1/3(約33%)は中心部を意味する。ただし、保管容器の底部に重力水による液だまりが形成されている場合、下部のイオン交換樹脂の含水率には、該容器底部に溜まっている水(下部の陽イオン交換樹脂を取り出した際に容器底部に残存する水)は含めないものとする。また、樹脂の含水率は、例えば、乾燥前後の樹脂の質量から測定することができる。
【0036】
[保管工程]
保管工程は、前記水分除去工程において重力水を除去した陽イオン交換樹脂を適切な保管容器に密閉して保管する工程である。保管に用いる保管容器としては、公知の容器を適宜選択して用いることができる。保管容器は、プラスチック製が好ましく、具体的には、PP(ポリプロピレン)ボトル、PE(ポリエチレン)ボトル、HDPE(高密度ポリエチレン)ボトルなどが用いられる。数L以上の容量の場合は、フィルムやビニール製の袋に充填されることも多い。また、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)のような、フッ素樹脂製の容器を使用することもできる。なお、保管容器は、事前に純水または純水と酸(高純度のもの)を組み合わせた溶液を用いて洗浄してもよい。酸としては、硝酸、塩酸、硫酸等の鉱酸が好ましい。具体的には、例えば、保管容器に、0.01質量%以上の濃度の硝酸を5分間以上接触させることにより、洗浄することができる。また、樹脂を保管容器に充填した後、該容器内に窒素などの不活性ガスを満たして密閉保管してもよいし、脱酸素剤と一緒に保管してもよい。
【0037】
保管容器内での結露の発生を抑制するため、陽イオン交換樹脂を充填した保管容器は、結露が発生しない温度で保管することが好ましい。具体的には、15℃~25℃(室温)の温度で保管することが好ましい。
【0038】
本発明に係る陽イオン交換樹脂は、水や水溶液、非水液等、特に高純度の液体の精製において好適に用いることができる。被処理液としては、電子工業分野で使用されるグレードの高純度の水、有機溶媒、酸、アルカリなどが挙げられる。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、クエン酸、シュウ酸、および水酸化テトラメチルアンモニウム等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例0039】
[参考例1~2]
重力水が液だまりを形成するか否かの判断を行うために必要な静置時間を確認するため、以下の試験を行った。200mLの陽イオン交換樹脂(詳細は下記)について、水分を飽和平衡状態に調製した後、500mLのガラス製のビーカーへ移し、そこへ純水を一定量(表1参照)添加した。なお、飽和平衡状態の陽イオン交換樹脂は、樹脂を、25℃で相対湿度100%の大気に30分間以上接触させることにより調製した。そして、ビーカー内を、薬さじで1分間以上攪拌した後、25℃で一晩(16時間)または一週間静置した。静置後、各サンプルについて、ビーカーの上部(樹脂充填部分の上部1/3)と下部(樹脂充填部分の下部1/3)から、それぞれ陽イオン交換樹脂を抜き出し、加熱乾燥によって、含水率を分析した。具体的に、含水率は、乾燥前の樹脂の質量(乾燥前質量)と、105℃以上で18時間以上乾燥した後の樹脂の質量(乾燥後質量)とから求めることができる。得られた含水率に基づき、(上部含水率/下部含水率)×100から、上部と下部の陽イオン交換樹脂の含水率の比率(%)を算出した。なお、下部含水率の測定にあたっては、樹脂を抜き出した際に容器底部に残存した水は含めないものとした。結果を以下の表1に示す。また、使用した陽イオン交換樹脂を以下に示す。オルライトDS-1およびDS-4は、本発明に係る精製工程を経た陽イオン交換樹脂であり、これら樹脂に濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は、いずれも5μg/mL-R以下である。
【0040】
(陽イオン交換樹脂)
・オルライトDS-1(商品名)、オルガノ(株)製
種類:ゲル型の強酸性陽イオン交換樹脂
樹脂の材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体
イオン交換基の種類:スルホン酸基
調和平均径:400μm~1000μm
・オルライトDS-4(商品名)、オルガノ(株)製
種類:マクロポーラス型の強酸性陽イオン交換樹脂
樹脂の材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体
イオン交換基の種類:スルホン酸基
調和平均径:400μm~1000μm
【0041】
【0042】
参考例1および2は、水を添加することにより、脱水操作が不十分で重力水が残っている状態の樹脂を再現したものである。表1に示すように、一晩静置したサンプルと一週間静置したサンプルとで、前記含水率の比率にほとんど差が見られなかった。すなわち、重力によって自然に重力水を除去する場合においては、一晩静置すれば、重力水が液だまりを形成するか否かの判断を行うことができることが分かった。また、一晩静置すれば、液だまりを形成しない程度まで、重力水を除去できることが分かった。よって、以下の試験においては、水分除去に係る静置時間を一晩と定めて試験を行った。
【0043】
[実施例1~2]
上記オルライトDS-1(商品名)を、下部に樹脂漏出防止用のテフロン(登録商標)メッシュを設けたPFA製カラムに充填し、純水洗浄した。その後、カラム内の純水を、3分間に亘ってカラム下部から自然に重力によって抜き出した。続いて、速やかに樹脂を取り出し、半分をPEボトル(商品名:アイボーイ、アズワン(株)製、容量250mL)へ移した(実施例2)。残りの半分は、上記と同様の方法により、水分を飽和平衡状態に調製した後、前記PEボトルへ移した(実施例1)。それぞれの樹脂を25℃で一晩(16時間)静置し、参考例1と同様に、上部と下部の陽イオン交換樹脂の含水率の比率を算出した。結果を表2に示す。
【0044】
【0045】
表2に示すように、飽和平衡状態に調製した後に静置したサンプル(実施例1)の上部と下部の含水率の比率は100%であり、上部と下部の樹脂の含水率に差は見られなかった。一方で、実施例2のサンプルは、下部の樹脂の含水率が上昇し、上部と下部の含水率の比率は78%であった。自然に重力によって脱水することで、重力水をある程度低減することができたが、飽和平衡状態に調製する過程でさらに毛管水の少なくとも一部が除去されたものと考えられる。
【0046】
[参考例3~4]
陽イオン交換樹脂として、それぞれ上記オルライトDS-1(商品名)および上記オルライトDS-4(商品名)を200mL使用した。該陽イオン交換樹脂について、参考例1と同様に水分を飽和平衡状態に調製した後、500mLのガラス製のビーカーへ移し、そこへ、表3に示す量の純水を添加した。ビーカー内を、薬さじで1分間以上攪拌した後、25℃で一晩(16時間)静置し、参考例1と同様に、上部と下部のイオン交換樹脂の含水率の比率を算出した。結果を表3に示す。また、参考例3において、水分添加量が20mLの条件で調製した樹脂を一晩静置した後に、ビーカー底面から撮影したイオン交換樹脂層の写真を
図2に示す。
図2中、黒く色が変わった箇所は、重力水が存在することを示すが、ビーカー底部に液だまりは形成されていなかった。一方で、参考例3において水分添加量30mLの条件で調製した樹脂を、一晩静置した後にビーカー底面から観察したところ、一部に液だまりが形成されている様子が見られた。すなわち、前記比率が80%以上である場合は、液だまりが形成されない程度まで、重力水が除去されていることがわかった。なお、参考例4で用いたマクロポーラス型のDS-4は、不透明ビーズの外見を有しており、目視では重力水の有無を確認することができなかった。
【0047】
【0048】
[参考例5~6]
陽イオン交換樹脂として、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂が混合された混床である、オルライトDS-3およびDS-7(詳細は下記)を使用した以外は、参考例3と同様に試験を実施し、上部と下部のイオン交換樹脂の含水率の比率を算出した。結果を表4に示す。また、参考例5において、水分添加量が5mLおよび20mLの条件で調製した樹脂を一晩静置した後に、ビーカー側面から撮影したイオン交換樹脂層の写真を、それぞれ
図3(a)および(b)に示す。
【0049】
(陽イオン交換樹脂(混床))
・オルライトDS-3(商品名)、オルガノ(株)製
種類:ゲル型の強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂の混合品
樹脂の材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体
・オルライトDS-7(商品名)、オルガノ(株)製
種類:マクロポーラス型の強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂の混合品
樹脂の材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体
【0050】
【0051】
参考例5において、水分添加量が5mLの場合は、重力水は確認されず、上部と下部の含水率の比率も91%と高かった。水分添加量20mLの場合は、下部に重力水が確認されたが、ビーカー底面から確認すると、底部に液だまりは形成されておらず、完全に重力水が樹脂を浸している状態ではなかった。実際に、上部と下部の含水率の比率も85%を示しており、混床樹脂においても、前記比率が80%以上であれば、容器底面に重力水が溜まらず、液だまりは形成されないことが確認できた。参考例6についても同様に、水分添加量20mLの条件においても、ボトル底部に重力水は確認されなかった。
【0052】
[実施例3~4、比較例1~3および参考例7~8]
重力水を除去した陽イオン交換樹脂(重力水なし)と、重力水を除去していないスラリー状の陽イオン交換樹脂(重力水あり)を、それぞれ以下のように準備し、室温(25℃)にて、それぞれ異なる保管容器および保管期間で保管した。
(重力水なし)
陽イオン交換樹脂(上記オルライトDS-1(商品名))について、前記と同様に水分を飽和平衡状態に調製した後、圧縮空気で押し出す方法により水分除去工程を実施し、得られた樹脂を保管容器に保管した。得られた樹脂について、参考例1と同様に、上部と下部のイオン交換樹脂の含水率の比率を算出したところ、80%以上であった。また、容器の底部に、水は溜まっていない状態であった(
図1(b)参照)。なお、重力水の除去は、以下に示す方法により行った。下部に樹脂漏出防止用のテフロン(登録商標)メッシュを設けたPFA製カラムに、陽イオン交換樹脂を充填し、圧縮空気を15分間流通することにより、重力水を取り除いた。なお、金属汚染を防ぐため、前記PFA製カラムは、事前に希硝酸で洗浄した後、超純水でさらに洗浄を行った。
(重力水あり)
陽イオン交換樹脂(上記オルライトDS-1(商品名))について、前記と同様に水分を飽和平衡状態に調製した後、純水40mL~50mLを添加し、水分除去工程を実施せずに、保管容器に保管した。該樹脂について、上記と同様に測定した上部と下部の樹脂の含水率の比率は、80%未満であった。また、樹脂中に重力水が多量に存在し、容器底部や側面に水が溜まり、液だまりが形成されている状態であった(
図1(a)参照)。
【0053】
そして、保管後の各陽イオン交換樹脂を、金属溶出が十分に低減された樹脂製カラムに一定量充填し、濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量から、各陽イオン交換樹脂の金属含有量を測定した。各保管容器について、保管期間0日(参考例7および8)における金属含有量を「100」とした場合の、実施例3~4および比較例1~3に係る陽イオン交換樹脂の金属含有量を表5に示す。また、使用した保管容器の詳細を以下に記す。
【0054】
(保管容器)
・PEボトル:アイボーイ(商品名)、アズワン(株)製、容量250mL
・HDPEボトル:ナルゲン広口丸形ボトル(商品名)、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、容量250mL
【0055】
【0056】
表5に示すように、水分除去工程において重力水を除去した後に容器に保管した実施例に係る陽イオン交換樹脂においては、1ヵ月保管後においても、金属含有量がほとんど増加せず、容器からの金属溶出がないことが分かった。一方で、重力水を除去せずに容器に保管した比較例に係る陽イオン交換樹脂においては、1ヵ月保管後および1年保管後において、CaやFeを含む複数の金属の含有量が大きく増加した。
【0057】
本発明は、以下の構成を含む。
[構成1]
H形陽イオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5μg/mL-R以下である陽イオン交換樹脂を得る精製工程と、
得られた該陽イオン交換樹脂から重力水を除去する水分除去工程と、
重力水を除去した該陽イオン交換樹脂を保管する保管工程と、
を有することを特徴とする、高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
[構成2]
前記水分除去工程で得られる重力水を除去した陽イオン交換樹脂を保管容器に充填し、一晩以上静置した後、該保管容器内の上部と下部の陽イオン交換樹脂を取り出し、各陽イオン交換樹脂について含水率を測定した場合に、その比率((上部含水率/下部含水率)×100))が80%以上である、構成1に記載の高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
[構成3]
前記水分除去工程において、不活性ガスまたは圧縮空気を用いて前記重力水を除去する、構成1または2に記載の高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
[構成4]
前記保管工程において、重力水を除去した前記陽イオン交換樹脂を保管容器に充填した後、該保管容器内に不活性ガスを満たす、構成1~3のいずれかに記載の高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。
[構成5]
重力水を除去した前記陽イオン交換樹脂を保管する前の保管容器に0.01質量%以上の濃度の硝酸を5分間以上接触させて、該保管容器を洗浄する、構成1~4のいずれかに記載の高純度精製陽イオン交換樹脂の製造方法。