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特開2024-7903可縮性耐火物及びその製造方法並びに高炉羽口部の耐火物ライニング構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007903
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】可縮性耐火物及びその製造方法並びに高炉羽口部の耐火物ライニング構造
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20240112BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20240112BHJP
   C04B 35/117 20060101ALI20240112BHJP
   C21B 7/16 20060101ALI20240112BHJP
   C21B 7/04 20060101ALI20240112BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20240112BHJP
   F27B 1/14 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C04B35/80
C04B35/577
C04B35/117
C21B7/16 305
C21B7/04
F27D1/00 N
F27B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109296
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599074730
【氏名又は名称】新日本サーマルセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊久
(72)【発明者】
【氏名】板楠 元邦
(72)【発明者】
【氏名】古屋 陸
(72)【発明者】
【氏名】前田 剛志
【テーマコード(参考)】
4K015
4K045
4K051
【Fターム(参考)】
4K015FA08
4K015FC00
4K045AA02
4K045BA02
4K045GA17
4K051AA01
4K051AB03
4K051BE00
(57)【要約】
【課題】室温施工時に受け支持材を用いずとも上部の耐火物の荷重に対し変形せず耐えうる強度を有しながら、稼働時の高温状態では熱膨張により新たに加わる荷重(熱応力負荷)に対し可縮性を有する可縮性耐火物、及び高炉羽口部の耐火物ライニング構造を提供する。
【解決手段】少なくとも一部に炭化珪素粒子を含む無機粒子を合計で30~70質量%及びアルミナ系又はシリカ系の無機繊維を合計で30~70質量%含有する耐火性材料と、糊剤とを含む可縮性耐火物である。この可縮性耐火物は、無機繊維13が絡み合う網目状骨格の空隙に無機粒子12が内在する積層化された組織を有する板状の成形体であり、Al成分を30質量%以上65質量%以下、SiC成分を25質量%以上50質量%以下含有し、室温圧縮強度は0.5MPa以上である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に炭化珪素粒子を含む無機粒子を合計で30~70質量%及びアルミナ系又はシリカ系の無機繊維を合計で30~70質量%含有する耐火性材料と、糊剤と、を含み、
前記無機繊維が絡み合う網目状骨格の空隙に前記無機粒子が内在する積層化された組織を有する板状の成形体であり、
Al成分を30質量%以上65質量%以下、SiC成分を25質量%以上50質量%以下含有し、
室温圧縮強度が0.5MPa以上である、可縮性耐火物。
【請求項2】
前記無機繊維が、アルミナ質繊維、ムライト質繊維、ジルコニアアルミナシリケート質繊維、アルミノシリケート質繊維、アルカリ土類ケイ酸塩繊維の群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の可縮性耐火物。
【請求項3】
500℃において、無荷重下では収縮せず、1.0MPa荷重下での可縮率が30%以上である、請求項1又は2に記載の可縮性耐火物。
【請求項4】
上下段に分割された羽口耐火物と、請求項1又は2に記載の可縮性耐火物とを含む高炉羽口部の耐火物ライニング構造であって、
前記羽口耐火物の上下段は、いずれも鉄皮からの受け支持材によって支持されておらず、
前記可縮性耐火物は、前記羽口耐火物の上下段間、前記羽口耐火物の下部、の少なくとも一方に配置されている、高炉羽口部の耐火物ライニング構造。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の可縮性耐火物の製造方法であって、
前記耐火性材料と糊剤とを溶媒に分散させてスラリーとする工程と、前記スラリーを加圧又は減圧成形して板状の成形体とする工程と、前記成形体を乾燥する工程と含む、可縮性耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉羽口部に用いられる可縮性耐火物及びその製造方法、並びにこの可縮性耐火物を含む高炉羽口部の耐火物ライニング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に一般的な高炉羽口部の耐火物ライニング構造(以下、単に「羽口部構造」ともいう。)を示す。高炉羽口部は高炉の円周方向の全周(360度)にわたり存在しており、炉体の大きさにより羽口の数は異なるが20~40個の羽口が存在している。図1(a),(b),(c)は、それぞれ羽口部構造を炉内側から見た正面図、A-A’断面図、B-B’断面図を示す。羽口部構造は羽口耐火物1が羽口冷却装置2を覆うように、羽口部上部耐火物又は冷却盤3と羽口部下部耐火物4との間に施工された構造である。羽口耐火物1は一般に羽口を中心に上下段に分割されており、上段の羽口耐火物1.aと下段の羽口耐火物1.bから構成される。
【0003】
稼働時の高炉羽口部では羽口部下部耐火物4の熱膨張による突き上げが発生し、従前より突き上げによる冷却盤3の損傷や隙間発生による炉内ガスの流出が問題とされている。特許文献1では突き上げを緩和するために、図1に示すように羽口冷却装置2と羽口耐火物1との間に不定形耐火物である可縮性モルタル5を充填し羽口部下部耐火物4の膨張を吸収する設計がなされている。
【0004】
この可縮性モルタルはクッションモルタルとも呼ばれる。特許文献1では羽口近傍での溶融スラグの浸潤防止として耐スラグ性に優れた炭化珪素粉を配合することで耐スラグ性と可縮性を両立した不定形耐火物が開示されている。可縮性モルタルは溶融金属容器が熱を受けたときの熱膨張吸収を目的とし目地に挿入して施工される。
【0005】
特許文献1の構造では、羽口耐火物1と羽口冷却装置2との間のみに可縮性モルタル5が施工されている。そのため、羽口耐火物1と羽口冷却装置2の間での突き上げ現象の緩和は期待できるものの、上段の羽口耐火物1.aと下段の羽口耐火物1.bが直接接する部分での膨張を吸収することができない。このように特許文献1の構造は、高炉羽口部全周の膨張を吸収できるような構造ではなく、羽口耐火物1の突き上げを完全に抑えることはできない。したがって、特に高炉羽口部の上部で隙間が生じやすく、高炉の改修工事後の稼働初期に炉内ガスの流出を防ぐために隙間を圧入材などで外部より充填させる必要があり問題とされていた。また、近年の高炉では朝顔部耐火物の消失を防ぐために、羽口部の上方にある朝顔部に冷却盤を導入した構造が一般的である。冷却盤は水冷構造であるため鉄皮に固定されている。そのため従来のクッションモルタルを用いたライニング構造では、羽口部下部耐火物4が熱膨張した際に冷却盤の変形及び破損のリスクがある。したがって、高炉羽口部全体において耐火物の熱膨張を吸収する構造が求められている。
【0006】
高炉羽口部全体の突き上げを抑制するために特許文献2では、図2及び図3に示すように羽口耐火物1と羽口冷却装置2の接触面だけでなく、高炉羽口部を構成する耐火物の全周にわたり可縮性耐火物9を設置する構造を提案している。すなわち、図2では下段の羽口耐火物1.bと羽口部下部耐火物4の間に、図3では上段の羽口耐火物1.aと下段の羽口耐火物1.bの間に、それぞれ導入され全周にわたって施工された可縮性耐火物9によって高炉羽口部の熱膨張を吸収する。これらの可縮性耐火物9は水と耐火粉を練り混ぜて作られるモルタルとして導入されるので施工時の強度は低い。そのため施工時に上部に築造される耐火物の荷重により変形しないように可縮性耐火物9より上部の耐火物を支持材10によって支持して築造を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-291415号公報
【特許文献2】特開2019-167599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4に従来の可縮性耐火物の組織を示す。従来の可縮性耐火物は不定形耐火物であり、無機粒子12及び無機繊維13を液相分14にて混錬し、鋳込むため、図4(a)のように施工時の施工体は液相分14を多く含む。すなわち、従来の可縮性耐火物は施工時に柔らかいため、上部の耐火物の荷重が加わる構造部分への適用には上部の耐火物の受け支持材が必要である。
【0009】
しかし、受け支持材の導入は施工時に受け支持材となる金物を溶接するため、施工に時間がかかり施工性に問題がある。また、固定された受け支持材と耐火物の熱膨張挙動の差により膨張吸収が十分に発現できない点、羽口耐火物が損傷し受け支持材が溶融物と接した際に受け支持材が溶融し羽口部構造が維持できなくなる点が問題とされている。そのため、受け支持材を使用せず単独で容易に施工ができる耐火物材質及び構造が望まれる。
【0010】
本発明の目的は、特に高炉稼働初期に発生しやすい耐火物の熱膨張による突き上げ現象などの不具合を緩和する可縮性耐火物において、室温施工時に受け支持材を用いずとも上部の耐火物の荷重に対し変形せず耐えうる強度を有しながら、稼働時の高温状態では熱膨張により新たに加わる荷重(熱応力負荷)に対し可縮性を有する可縮性耐火物、及び高炉羽口部の耐火物ライニング構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)
少なくとも一部に炭化珪素粒子を含む無機粒子を合計で30~70質量%及びアルミナ系又はシリカ系の無機繊維を合計で30~70質量%含有する耐火性材料と、糊剤と、を含み、
前記無機繊維が絡み合う網目状骨格の空隙に前記無機粒子が内在する積層化された組織を有する板状の成形体であり、
前記無機繊維が絡み合う網目状骨格の空隙に前記無機粒子が内在する組織を有し、
Al成分を30質量%以上65質量%以下、SiC成分を25質量%以上50質量%以下含有し、
室温圧縮強度が0.5MPa以上である、可縮性耐火物。
(2)
前記無機繊維が、アルミナ質繊維、ムライト質繊維、ジルコニアアルミナシリケート質繊維、アルミノシリケート質繊維、アルカリ土類ケイ酸塩繊維の群から選択される少なくとも一種を含む、(1)に記載の可縮性耐火物。
(3)
500℃において、無荷重下では収縮せず、1.0MPa荷重下での可縮率が30%以上である、(1)又は(2)に記載の可縮性耐火物。
(4)
上下段に分割された羽口耐火物と、(1)又は(2)に記載の可縮性耐火物とを含む高炉羽口部の耐火物ライニング構造であって、
前記羽口耐火物の上下段は、いずれも鉄皮からの受け支持材によって支持されておらず、
前記可縮性耐火物は、前記羽口耐火物の上下段間、前記羽口耐火物の下部、の少なくとも一方に配置されている、高炉羽口部の耐火物ライニング構造。
(5)
(1)又は(2)に記載の可縮性耐火物の製造方法であって、
前記耐火性材料と糊剤とを溶媒に分散させてスラリーとする工程と、前記スラリーを加圧又は減圧成形して板状の成形体とする工程と、前記成形体を乾燥する工程と含む、可縮性耐火物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、施工時に受け支持材を用いずに上部に耐火物を築造しても変形を起こさず安定した高炉羽口部の耐火物ライニング構造が維持できる。その結果、受け支持材の設置作業を省略することが可能であり、作業時間・負荷・費用の削減が実現でき、かつ稼働時の受け支持材の熱膨張・溶損の懸念を取り除くことができる。このように本発明によれば、従来技術に比べ簡易かつ安価に上部構造への突き上げを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一般的な高炉羽口部のライニング構造を示し、(a)は炉内側から見た正面図、(b)はA-A’断面図、(c)はB-B’断面図。
図2】羽口耐火物の下部に受け支持材を用いて膨張吸収代を設けた羽口部構造を示し、(a)は炉内側から見た正面図(b)はA-A’断面図、(c)はB-B’断面図。
図3】羽口耐火物の上下段間に受け支持材を用いて膨張吸収代を設けた羽口部構造を示し、(a)は炉内側から見た正面図(b)はA-A’断面図、(c)B-B’断面図。
図4】従来の可縮性耐火物の組織を模式的に示し、(a)は施工時、(b)は乾燥中、(c)は乾燥完了後を示す。
図5】本発明の一実施形態である可縮性耐火物の組織を模式的に示し、(a)は成形時、(b)は乾燥中、(c)は乾燥完了後を示す。
図6】本発明の一実施形態である可縮性耐火物を用いて羽口耐火物の下部に膨張吸収代を設けた羽口部構造を示し、(a)は炉内側から見た正面図、(b)はA-A’断面図、(c)B-B’断面図。
図7】本発明の一実施形態である可縮性耐火物を用いて羽口耐火物の上下段間に膨張吸収代を設けた羽口部構造を示し、(a)は炉内側から見た正面図、(b)はA-A’断面図、(c)B-B’断面図。
図8】耐食性試験の試料形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、受け支持材を用いずに築造時には上部の耐火物の荷重に対し変形せず耐えうる強度を有する一方で、稼働期の高温状態での熱膨張により新たに加わる荷重(熱応力負荷)に対する可縮性を実現するために、可縮性耐火物の定形化を検討した。
【0015】
本発明の可縮性耐火物(以下「本耐火物」という。)は、図5に示すように、無機繊維13が絡み合う網目状骨格の空隙に無機粒子12が内在する積層化された組織を有し、組織中に微細な空隙を多数含んだ構造を有する定形耐火物である。空隙を形成することで、荷重が加わった際には空隙がつぶれ可縮特性を発現する。一方で、空隙が存在することにより耐火物としての強度が低くなるため築造時に上部の耐火物の荷重に耐える強度が不足する懸念がある。そのため、無機粒子を添加して材料の強度を向上させる。すなわち、無機繊維が形成する空隙に優れた強度を有している無機粒子が充填されることで、可縮性耐火物全体の強度が向上する。無機粒子による強度向上と無機繊維による可縮性向上とを両立するために、本耐火物は、耐火性材料として、無機繊維を30~70質量%、無機粒子を30~70質量%含有する。
【0016】
また本耐火物は、化学成分として、Al成分を30質量%以上65質量%以下、SiC成分を25質量%以上50質量%以下含有する。すなわち、Al成分とSiC成分の合量は60質量%以上である。本耐火物はスラグとの接触が想定されるため耐食性と耐火性を両立するためにAl成分及びSiC成分を含む。
Al成分は耐火物の耐火度向上には有効であり、含有量が少ないと耐火度が低下し溶融しやすくなる。また、Al成分は代表的な無機繊維の主要構成成分であるため、本発明においては耐火度及び可縮性を有するために30質量%以上とする。一方で本耐火物は高炉羽口部に適用され、炉内のスラグに侵食される可能性があり、耐食性との両立が求められる。そのため、耐火物組織中に耐食性に優れたSiC成分を導入するために、Al成分は65質量%以下とする。
【0017】
本耐火物では、無機粒子の少なくとも一部として炭化珪素粒子を使用する。他にはアルミナ粒子が含まれていてもよい。炭化珪素粒子は、実炉使用時の耐食性向上効果が主たる目的であるが、それ以外に可縮性耐火物の密度を上げ、強度を向上させる填料(てんりょう)としての役割を果たす。耐食性と材料強度担保のためにSiC成分は25質量%以上とする。一方で、本耐火物は無機繊維の絡む組織内の空隙により可縮性を担保するため、炭化珪素粒子を多く添加してしまうと無機繊維の割合が減少し材料の可縮性が低下するためSiC成分は50質量%以下とする。
【0018】
本耐火物は、常温では一定強度を有しながら高温環境下(例えば500℃)にて可縮性を付与する。本耐火物の特質は、組織的には常温~高温の状態で微細な空隙を多数有しており、この空隙が荷重下でつぶれ、微細な破壊をすることで圧縮時の圧力を分散させて可縮性を得ることにある。その一方、そうした空隙を多数含んだ組織にも関わらず、常温下では強度があり上部の耐火物の荷重に耐えて変形(可縮)しないことにある。
【0019】
本耐火物と従来材の組織を比較すると、従来材は不定形耐火物であり施工時には図4(a)に示すように無機粒子12と無機繊維13の組織中に多価アルコールを溶媒とした液分14が存在する。そして乾燥時には図4(b)に示すように液分の蒸発に伴い無機粒子12や無機繊維13が凝集する。そのため乾燥完了後には図4(c)に示すように大きさ1~10mm程度の粗大な空隙が形成される。その結果として強度不足や空隙の大きさのばらつき等により可縮特性にバラツキが生じやすい。
【0020】
そこで本発明者らは、均一な組織の定形体を実現するために溶媒中への糊剤の添加による無機粒子と無機繊維の均一な分散を試みた。また、糊剤を添加した状態で加圧又は減圧成形を行い、無機繊維の均一な積層化を試みた。具体的には、無機粒子及び無機繊維を含む耐火性材料(原料配合物)と水などの溶媒とともに糊剤を加えスラリーを作製する。このとき、無機粒子12や無機繊維13への糊剤の被覆により、無機粒子12や無機繊維13が均一に分散する。その後、減圧成形あるいはプレス成形などの加圧成形を行う。これらの成形では、加圧又は減圧による内外圧差により圧力を加えることで、組織中の溶媒や大きな空隙の除去効果、及び無機粒子と無機繊維を強固に接着させる効果がある。そのため図5(a)のような無機粒子12を内包し絡み合った無機繊維13が均一に積層した組織が形成される。また糊剤により無機粒子12と無機繊維13が接着しているため、図5(b)に示すように液分14が揮発や蒸発する際にも凝集が発生せず、乾燥完了後には図5(c)に示すような均一な空隙を得ることができ、強度の低下を防止できる。
【0021】
本耐火物では、バインダーとして耐火物で一般に使用される水硬性バインダーや熱硬化性バインダーではなく、糊剤を用いる点が肝要である。水硬性バインダーとしては、水和反応を起こして硬化させるアルミナセメント、ポルトランドセメント、マグネシアセメント、石膏などが挙げられる。こうした水硬性バインダーを使用して硬化させた耐火物は、常温~高温まで強度が発現するので、高温状態で適度な可縮性を得ることができない。また、熱硬化性バインダーとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、水ガラス、リン酸、リン酸塩などが挙げられる。これら熱硬化性バインダーも一般的に、高温環境下で強度が発現するので、高温環境下で適度な可縮性を得ることができない。
【0022】
本発明に用いる糊剤は、可縮性耐火物に保形性を有するための強度を付与する働きもある。そのため本耐火物は、その施工において羽口耐火物と同様に定形耐火物として取り扱うことが可能となる。本発明に用いる糊剤としては、デキストリン、小麦粉澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ等の澱粉類、グァーガム、ローカストビーンガム、サンザンガム、カラヤガム、寒天、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、カラギーナン、アラビアガム、マンナン、PVA、CMC、MCが代表的であるが、これらを1種又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
本耐火物は、糊剤による耐火性材料(無機粒子及び無機繊維)同士の接着と、加圧又は減圧成形(以下「圧密成形」ともいう。)によって常温~高温の強度を確保している。上部の耐火物による荷重に耐えるために常温での施工時には圧縮強度が少なくとも0.5MPa以上であることが好ましい。更には施工時に加わる衝撃等を考えると5MPa以上あることが望ましく、更に10MPa以上であると望ましい。圧密成形の成形方法としてはCIPやHIP、油圧プレス、フレクションプレスなどの加圧成形や減圧環境下にて鋳込み成形を行い、外気圧との圧力差を利用し組織を緻密化させる減圧成形等が挙げられるが、いずれの方法を用いてもよい。このような無機繊維と無機粒子を組み合わせて複合材にするだけでなく、圧密成形することによって無機繊維の網目構造の間隙へ無機粒子が密に充填し強度を向上させることができる。
【0024】
本耐火物は板(ボード)状の定形耐火物とすることが好ましい。これにより、設置するだけで羽口部下部耐火物の上に受け支持材なく容易に施工でき、更に本耐火物の上にも安定して耐火物の施工が可能である。
本耐火物は羽口部下部耐火物の熱膨張を全周にわたり吸収することを目的の一つとしており、高炉全周の羽口部において、従来の不定形耐火物(モルタル)では受け支持材が必要であった範囲に対しても受け支持材を使用せずに適用することが可能である。
【0025】
本発明者らによる稼働高炉の実績から想定した羽口部構造の温度シミュレーションにより、本耐火物が使用される領域は稼働時に最大500℃になることが想定された。したがって本耐火物は、室温から500℃までにおいて羽口耐火物等の熱膨張により生じる熱応力負荷に応じた可縮特性を有することが好ましい。一方で熱応力負荷以外の荷重に対しては、室温から500℃まで収縮をしないことが好ましい。すなわち、500℃において無荷重下では収縮しないことが好ましい。また熱応力負荷に対する可縮性は、500℃、1.0MPa荷重下の可縮率が30%以上であることが好ましい。そのため、本耐火物の骨格を担う繊維は、アルミナ系又はシリカ系の無機繊維であって、具体的にはアルミナ質繊維、ムライト質繊維、ジルコニアアルミナシリケート質繊維、アルミノシリケート質繊維、アルカリ土類ケイ酸塩繊維などのうち少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0026】
本耐火物を用いた羽口部構造は、図6に示すように上段の羽口耐火物1.a及び下段の羽口耐火物1.aのいずれも、鉄皮7からの受け支持材によって支持されていない。そして本耐火物11は、図6に示すように羽口耐火物1の下部、図7に示すように羽口耐火物の上下段間の少なくとも一方に配置され、それぞれ膨張吸収代となる。
【0027】
また本耐火物の製造方法は、上述の耐火性材料と糊剤とを溶媒に分散させてスラリーとする工程と、そのスラリーを加圧又は減圧成形して板状の成形体とする工程と、その成形体を乾燥する工程と含む。
糊剤の添加量は耐火性材料100質量%に対して外掛けで0.1~5質量%程度とすることができる。また、溶媒としては典型的には水又は水とともに有機溶剤を用いることができ、その添加量は後工程である加圧又は減圧成形に適したスラリーの性状となるように適宜調整する。
また乾燥は、大気雰囲気中100~120℃で12~24h程度とすることができる。
【実施例0028】
表1に、本発明の実施例と比較例の材料構成及び成分構成(化学成分)、並びに耐用性の評価結果を示している。使用する繊維として繊維A~Cの三種を検討した。繊維Aはアルミナ質繊維、繊維Bはアルミノシリケート質繊維とし、繊維A、Bのアルミナ成分はそれぞれ70質量%、50質量%とした。繊維Cはビニロン繊維とした。また、使用する無機粒子として粒子D及び粒子Eの二種を検討した。粒子Dは炭化珪素粒子,粒子Eはアルミナ粒子とした。バインダーとして糊剤を用いる場合は耐火性材料すなわち繊維及び粒子の合量に対し外掛け1~2質量%となるように添加した。成形処理を行う際、減圧成形としては真空引き成形を実施し、加圧成形としては0.5MPaでの一軸プレス成形を実施した。また乾燥は、大気雰囲気中110℃で24h実施し、板状の試料を得た。
【0029】
常温圧縮強度の測定は、加圧面を100mm×100mmとし、厚み40mmで、JIS R2206を参考として行った。
可縮率の測定は、上部が開口した内径φ25mmの有底円筒状の坩堝に試料を切り出して充填し、この段階で試料の高さLを測定する。実施例、比較例ではL=40mmとした。次に、坩堝内の試料を500℃に均一に保った状態で、無荷重下にて試料の高さLを測定する。その後、1MPa(約10kgf/cm)の荷重を試料に静かに加え、20分保持し試料の圧縮量が安定したときの試料の高さLを読み取る。ここに500℃における無荷重下の収縮率は(L-L)/L×100%、500℃における1MPaでの可縮率は、(L-L)/L×100%で算出する。
耐食性(耐スラグ侵食性)は、回転侵食試験機により評価した。ドラムの内張りは炭化珪素質の焼成耐火物で構成し、その内張りに形成した凹溝に図8のような形状の試料を充填した。ドラム内に高炉スラグを装入し、バーナで高炉スラグを溶融させながらドラムを回転させた。その後、各試料の最大溶損部の溶損寸法を測定し、各測定値を実施例1の溶損寸法で割って100倍した相対値(溶損指数)として示した。溶損指数は、値が大きいほど溶損が大きいことを示す。溶損指数が80未満の場合を◎(優良)、80~100の場合を〇(良)、100超の場合を×(不良)とした。図8に回転侵食試験機に供した試料の詳細図を示す。上辺が65mm、下辺が110mm、奥行きが65mmの台形板状に炭化珪素質の焼成耐火物17を切り出す。この炭化珪素質の焼成耐火物17に幅10mm、深さ40mmの凹溝を設け、この凹溝に合致する形状に各例の試料を切り出して充填した。そして、これら10個の試料を用いて試験した。
【0030】
【表1】
【0031】
本耐火物の実施例である実施例1~5は表1に示すように、500℃においても収縮せず、またいずれも優れた耐食性及び可縮率及び室温での圧縮強度を示した。これは無機繊維により組織中に空隙が担保されながらも、炭化珪素粒子を含む無機粒子により材料強度が保持されているためと考えられる。その結果として常温での圧縮強度と500℃での可縮性を両立できている。また、炭化珪素粒子の使用が耐食性に大きく寄与している。更に、糊剤の添加、及び加圧又は減圧成形処理の実施により無機繊維と無機粒子の結合が強固になるため常温での圧縮強度が向上している。
【0032】
比較例1は特許文献1,2で適用される従来の可縮性モルタルの代表的な組成であり、無機繊維の配合が多く可縮性に優れている。しかしながら糊剤が添加されていないため無機繊維が均一に分散しておらず、かつ成形を行わず乾燥させたモルタル施工体であるため、乾燥時の繊維や粒子の凝集により不均一な組織である。そのため強度が不足しており不適である。
比較例2は炭化珪素粒子の配合が多く材料全体の強度及び耐食性は優れている一方で、無機繊維が少ないため可縮性に劣り不適である。
比較例3は500℃荷重下にて可縮性を示す一方で、繊維が250℃前後で溶融すビニロン繊維であるため、500℃前後で無荷重下でも25%程度収縮してしまい不適である。また有機繊維であるため耐食性も劣り不適である。
比較例4は優れた可縮性を示す一方で、無機粒子が少ないため常温での圧縮強度が不足し不適である。比較例5は無機粒子の添加量が多くかつ加圧成形を実施しているため常温での強度や耐食性に優れている一方で、無機繊維が不足し可縮性に劣るため不適である。
比較例6,7はバインダーとして、それぞれ水硬性バインダー、熱硬化性バインダーを使用した例で、可縮性に劣り不適である。
【符号の説明】
【0033】
1 羽口耐火物
1.a 上段の羽口耐火物上段
1.b 下段の羽口耐火物
2 羽口冷却装置
3 羽口部上部耐火物又は冷却盤
4 羽口部下部耐火物
5 可縮性モルタル
6 ステーブ
7 鉄皮
8 ステーブ前面流し込み耐火物
9 可縮性耐火物層
10 受け支持材
11 本耐火物
12 無機粒子
13 無機繊維
14 液分(水分・有機溶剤)
15 空隙
16 糊剤
17 炭化珪素質の焼成耐火物
18 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8