(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079039
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】フレーム部材及びパネル材
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240604BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240604BHJP
E04C 2/38 20060101ALI20240604BHJP
E04C 3/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/58
E04C2/38 M
E04C3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191735
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久積 綾那
(72)【発明者】
【氏名】中安 誠明
(72)【発明者】
【氏名】長津 朋幸
【テーマコード(参考)】
2E162
2E163
【Fターム(参考)】
2E162BB03
2E162CA16
2E163DA02
2E163FA18
2E163FB04
(57)【要約】
【課題】断熱性能の向上と作業性の維持とを両立できる。
【解決手段】フレーム部材は、化学組成が質量%で、C:0.02~0.3%、Si:0.1~2.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.03%以下、S:0.025%以下、Al:2.0%以下、Cr:0.4%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下、を含み、残部がFe及び不純物からなる溝形鋼であって、80.5+(-45.03+21.85×C(%))×C(%)+(-31.69+11.57×Si(%))×Si(%)+(-15.32+0.959×Mn(%))×Mn(%)+(-8.091+0.452×Cr(%))×Cr(%)+(-4.674+0.204×Mo(%))×Mo(%)+(-3.78+0.084×Ni(%))×Ni(%)+(-8.091+0.452×Al(%))×Al(%)の式で定義される、常温で25度における熱伝導率が55W/m・K未満である。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C :0.02~0.3%、
Si:0.1~2.0%、
Mn:1.0~3.0%、
P :0.03%以下、
S :0.025%以下、
Al:2.0%以下、
Cr:0.4%以下、
Mo:0.5%以下、
Ni:1.0%以下、
を含み、残部がFe及び不純物からなる溝形鋼であって、
80.5+(-45.03+21.85×C(%))×C(%)+(-31.69+11.57×Si(%))×Si(%)+(-15.32+0.959×Mn(%))×Mn(%)+(-8.091+0.452×Cr(%))×Cr(%)+(-4.674+0.204×Mo(%))×Mo(%)+(-3.78+0.084×Ni(%))×Ni(%)+(-8.091+0.452×Al(%))×Al(%)
の式で定義される、常温で25度における熱伝導率が、55W/m・K未満である、
フレーム部材。
【請求項2】
更に、質量%で、前記Feの一部に代えて、
N :0.10%以下、
Ti:0.2%以下、
Nb:0.15%以下、
B :0.0025%以下、
を含む、請求項1に記載のフレーム部材。
【請求項3】
更に、質量%で、前記Feの一部に代えて、
O :0.01%以下、
V :1.0%以下、
Cu:1.0%以下、
Mg:0.1%以下、
W :0.1%以下、
Bi:0.1%以下、
Zr:0.1%以下、
Co:0.1%以下、
Zn:0.1%以下、
REM:0.1%以下、
を含む、請求項2に記載のフレーム部材。
【請求項4】
前記溝形鋼のウェブに断熱性能を向上させるスリットが設けられる、
請求項1~3のいずれか一項に記載のフレーム部材。
【請求項5】
前記ウェブの板面を正面から見て、複数の前記スリットは、千鳥配置される、
請求項4に記載のフレーム部材。
【請求項6】
前記溝形鋼は、一対のフランジにそれぞれ連続する一対のリップを有するリップ溝形鋼であり、
板厚が2.3mm以下であり、
前記フランジに接合された面材を有し、
前記面材が接合された前記フランジに連続する前記リップの長さは、リップ溝形鋼のF値[N/mm2]をFとすると共にリップ溝形鋼の板厚[mm]をtとしたとき、(240/√F)×tの式で定義される有効リップ長さ[mm]以上である、
請求項4に記載のフレーム部材。
【請求項7】
一対の前記リップの長さが互いに等しい、
請求項6に記載のフレーム部材。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のフレーム部材と、
前記溝形鋼のフランジの板面に接合された面材と、
を備える、パネル材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フレーム部材及びパネル材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パネル材には、溝形鋼等の鋼材がフレーム部材として使用される。なお、フレーム部材とは、建築用の外装材又は床材等として用いられるパネル材の胴縁部材や枠材を表す。特許文献1には、フレーム部材の一例として、溝形鋼のフレーム材が開示されている。また、特許文献2には、溝形鋼を含むフレーム部材の一例として、Crの含有率が調整されることによって、耐食性を向上できる内装材・外装材取り付け金具用鋼材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-087505号公報
【特許文献2】特開2001-115235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、鋼材の熱伝導率は、一般的に、55W/m・K程度と、木材や鉄筋コンクリートと比べて高い。このため、断熱性能の向上の観点から、建築用のパネル材に用いられるフレーム部材の鋼材には、熱伝導率の低下が求められる。
【0005】
また、溝形鋼を成形する場合、通常、鋼材としての鋼板に対してロールフォーミング加工やプレス加工等の成形作業を施す必要が生じる。成形作業の際には、鋼材のF値、すなわち基準強度が大きい程、溝形鋼を成形し難くなる。また、成形された溝形鋼のフレーム部材と面材とを建築現場でビス止めによって接合するといった、溝形鋼と他の部材との接合作業においても、鋼材の基準強度が大きい程、作業性が低下する。
【0006】
すなわち、フレーム部材の溝形鋼には、断熱性能の向上と、溝形鋼の成形作業及び現場での接合作業のそれぞれの作業性を従来程度に維持することとの両方が求められる。なお、溝形鋼の成形作業及び現場での接合作業のそれぞれの作業性を、以下、単に「作業性」とも称する。また、鋼材の基準強度を、単に「強度」とも称する。
【0007】
この点、特許文献1には、溝形鋼のフランジ幅方向における中間部分のウェブの横断面積を、フランジ近傍のウェブの横断面積に比べて小さくすることによって、溝形鋼の熱伝導率を低下させるフレーム材が開示されている。しかし、特許文献1の場合、溝形鋼の鋼材自体の化学組成については検討されていない。また、溝形鋼の作業性の維持についても検討されていない。
【0008】
また、特許文献2では、加工性に優れた内装材・外装材取り付け金具用鋼材によって、耐食性に優れると共に、低熱伝導性かつ低熱膨張性の内装材・外装材取り付け金具を製造できるとされている。しかし、特許文献2の場合、Crの含有率の調整以外の他の具体的な技術は開示されていないため、実際には、特許文献2の技術を適用できる場合は限定される。このため、特許文献2の技術以外であっても、断熱性能の向上と作業性の維持とを両立可能な新規な技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、上記に着目してなされたものであって、断熱性能の向上と作業性の維持とを両立できる、溝形鋼を含むフレーム部材及びパネル材を提供する。
【0010】
本開示に係るフレーム部材は、化学組成が、質量%で、C:0.02~0.3%、Si:0.1~2.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.03%以下、S:0.025%以下、Al:2.0%以下、Cr:0.4%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下、を含み、残部がFe及び不純物からなる溝形鋼であって、80.5+(-45.03+21.85×C(%))×C(%)+(-31.69+11.57×Si(%))×Si(%)+(-15.32+0.959×Mn(%))×Mn(%)+(-8.091+0.452×Cr(%))×Cr(%)+(-4.674+0.204×Mo(%))×Mo(%)+(-3.78+0.084×Ni(%))×Ni(%)+(-8.091+0.452×Al(%))×Al(%)の式で定義される、常温で25度における熱伝導率が、55W/m・K未満である。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、断熱性能の向上と作業性の維持とを両立できる、溝形鋼を含むフレーム部材及びパネル材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るパネル材を説明する斜視図である。
【
図2】
図2(A)は、第1実施形態に係るフレーム部材のリップ溝形鋼のウェブの外面を正面から見た図であり、
図2(B)は、
図2(A)中の2B-2B線断面図である。
【
図3】スリットの結合部が直列配置である場合のウェブの外面を正面側から見た図である。
【
図4】スリット率と熱貫流率低下率dとの関係を、スリットの配置パターンを異ならせて説明するグラフである。
【
図5】第1実施形態における解析例で使用される解析モデルを説明する斜視図である。
【
図6】解析例においてパネル材の熱貫流率と鋼材の熱伝導率との関係を解析した結果を説明するグラフである。
【
図7】実験例においてパネル材の強度と炭素量との関係を実測した結果を説明するグラフである。
【
図8】本開示の第2実施形態における実施例17に係る低伝熱形鋼のリップ溝形鋼の解析モデルの概要を説明する図である。
【
図9】
図9(A)は、第2実施形態における実施例17に係る解析モデルの材軸方向中央部の断面変形を説明する図であり、
図9(B)は、第2実施形態における比較例4に係る解析モデルの材軸方向中央部の断面変形を説明する図であり、
図9(C)は、第2実施形態における比較例5に係る解析モデルの材軸方向中央部の断面変形を説明する図である。
【
図10】第2実施形態における実施例17と比較例4と比較例5とのそれぞれの解析モデルの中央部における変位と荷重との関係を説明する図である。
【
図11】第2実施形態における実施例18の解析モデルにおける対有効リップ長さ比と短期曲げ耐力との関係を説明するグラフである。
【
図12】第2実施形態における実施例18の解析モデルにおける対有効リップ長さ比と最大曲げ耐力との関係を説明するグラフである。
【
図13】第2実施形態における比較例5の解析モデルにおける対有効リップ長さ比と短期曲げ耐力との関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に第1及び第2実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。ただし、図面における厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0014】
[第1実施形態]
<パネル材>
まず、第1実施形態に係るパネル材10とフレーム部材12とを、
図1~
図4を参照して説明する。
図1に示すように、第1実施形態に係るパネル材10は、フレーム材としてのフレーム部材12と、上側のフランジ12Bに接合された面材14と、下側のフランジ12Bに接合された面材22と、を有する。上側の面材14と下側の面材22との間には、充填部材24が配置されている。なお、
図1中では、フレーム部材12の見易さのため、面材14,22の一部が例示的に分断されている。
【0015】
(フレーム部材)
フレーム部材12は、ウェブ12Aと一対のフランジ12Bと一対のリップ12Cとを有するリップ溝形鋼である。なお、本開示では、フレーム部材は、リップを有さない溝形鋼であってもよい。フレーム部材12は、一枚の鋼板から、例えば折り曲げ成形によって作製できる。第1実施形態では、鋼板の板厚は、例えば2.3mm以下であるが、本開示では、鋼板の板厚は、2.3mm以下に限定されず、適宜変更できる。
【0016】
第1実施形態では、フレーム部材12は、500MPa以上の高強度鋼板を用いて形成されてもよい。本明細書では、「高強度鋼板」とは、強度としてのF値が、500MPa以上、1000MPa以下である鋼板(鋼材)を意味する。また、「高強度鋼板」との対比において、F値が500MPa未満の鋼板を「通常鋼板」と称する場合がある。第1実施形態では、例えば、通常鋼板としての400材のF値は、280MPaである。400材の鋼材としては、具体的には、SGH400、SGC400、CGC400、CGLH400、SGLC400、CGLH400等の鋼材を採用できる。また、例えば、高強度鋼板のF値が500MPaである鋼材を使用してもよい。
【0017】
鋼板の降伏強度が1000MPaを超える場合、強度が高くなり過ぎるため、例えばロールフォーミング成形等、鋼板をフレーム部材12へ成形する際の加工性が低下する。第1実施形態では、溝形鋼の鋼材の化学成分の組成が特定されることによって、高強度鋼板の降伏強度が1000MPa以下に特定される。化学成分の組成については、後で具体的に説明する。
【0018】
(リップ)
第1実施形態では、一対のリップ12Cのリップ長さLは、互いに等しいが、本開示では、一対のリップのリップ長さが、互いに異なってもよい。「リップ長さL」は、
図2(B)に示すように、フレーム部材12の材軸方向Dに直交する断面中で測ったリップ12Cの最大長さである。
【0019】
第1実施形態では、面材14と接合するフランジ12Bが、外部から、面材14の面外方向に沿った圧縮力、すなわち、曲げを受けると仮定される。
【0020】
(面材)
図1に示すように、面材14は、板面を正面から見て、矩形状の建築部材である。面材14は、例えば、板状の下地部材や石膏ボード等である。第1実施形態では、面材14は、外壁材であるが、本開示では、これに限定されず、例えば床材等の他のパネル材であってよい。また、第1実施形態では、面材は、一対のフランジ12Bの両方に接合された場合が例示されたが、本開示では、これに限定されず、
図1中の上側のフランジ12Bのみに接合されてもよいし、下側のフランジ12Bのみに接合されてもよい。
【0021】
また、
図1中の上側の面材14と下側の面材22とは、同様の機能を有する部材であってもよいし、異なる機能を有する部材であってもよい。面材14は、接合部材20によって、少なくとも一方のフランジ12Bの板面に接合されればよい。すなわち、本開示の「フレーム部材」には、面材を有さない溝形鋼だけでなく、少なくとも一方のフランジの板面に面材が接合された状態の溝形鋼も含まれる。
【0022】
(充填部材)
第1実施形態では、充填部材24は、例えばグラスウールやセルロースファイバー等の断熱材であるが、本開示では、これに限定されず、適宜変更できる。また、本開示では、充填部材は、必須ではない。
【0023】
(接合部材)
接合部材20は、例えばビス等であって、フランジ12Bと面材14とを接合する建築部材である。
図1中には、面材14の壁面を正面から見て、複数の接合部材20がフレーム部材12の材軸方向に沿って直線状に配置されている。なお、本開示では、接合部材20の列の個数は、1列、又は2列以上、任意に設定できる。
【0024】
(ウェブ及びスリット)
図2(A)に示すように、第1実施形態では、ウェブ12Aには、材軸方向Dに沿ってほぼ等しい間隔Gで直線状に配置された複数のスリット16が含まれる列が設けられる。複数のスリット16は、溝形鋼の断熱性能を向上させる孔である。なお、本開示では、スリットがウェブに設けられることに限定されず、熱伝導率を低下できる限り、スリットは必須ではない。
【0025】
複数のスリット16が含まれる列は、
図2(A)中の上下方向に沿ってほぼ等しい間隔Gで3列形成される。なお、「材軸方向D」は、フレーム部材12のウェブ12Aとフランジ12Bとが、
図2(A)中の左右方向に沿って延びる方向である。すなわち、材軸方向Dは、長手方向と等しい。
【0026】
図2(B)に示すように、「ウェブ高さHW」は、一方のフランジ12B側の端部から他方のフランジ12B側の端部までの間の上下方向の直線距離である。また、「フランジ幅WF」は、
図2(B)中で、ウェブ12A側の端部からリップ12C側の端部までの間の左右方向の直線距離である。また、「リップ長さL」は、
図2(B)中のリップ12Cにおける一方のフランジ12B側の端部から他方のリップ12Cの端部までの間の上下方向の直線距離である。例えば、
図2(B)中の上側のリップ12Cのリップ長さLは、上側のフランジ12Bの上面と同じ高さに位置する上端部の上面と、この上側のリップ12Cの下端部の下面との間の直線距離である。
【0027】
また、
図2(A)に示すように、第1実施形態では、上側のウェブの外面とスリットとの間隔D1と、下側のウェブの外面とスリットとの間隔D1とは、同じであるが、本開示では、異なってもよい。また、第1実施形態では、すべてのスリット16のスリット幅WSは、一定であるが、本開示では、それぞれ異なってもよい。また、第1実施形態では、隣接するスリット同士の間隔D2は、一定であるが、本開示では、それぞれ異なってもよい。本開示では、スリット幅WSと、ウェブの外面とスリットとの間隔D1と、隣接するスリット同士の間隔D2とは、任意に設定できる。
【0028】
また、本開示では、スリット16が含まれる列の個数は、3列に限定されず、1列であってもよいし、或いは5列等、2列以上の任意の複数列であってよい。なお、断熱性能の向上の観点から、3つ以上のスリット16の列が形成されることが望ましい。
【0029】
また、本開示では、1つの列中で隣接するスリット16同士の材軸方向Dの間隔Gが等しい場合に限定されず、それぞれ異なってよい。また、ウェブ高さ方向で隣接する列と列との間隔Gも、それぞれが互いに等しい場合に限定されず、互いに異なってよい。また、スリット16の長手方向の端部の形状は、応力集中を避けるため、
図1中に例示したように、円弧状が好ましい。
【0030】
(結合部)
第1実施形態では、ウェブ12Aにおいて、1つの列中で隣接する、一定の長さMを有する直線状のスリット16同士の材軸方向Dの間隔Gが形成される部分に、ウェブ12Aの板部材を高さ方向に結合する結合部18が構成される。
【0031】
本開示では、ウェブ12Aに開けられる孔の形状及び寸法は、スリットに限定されず、適宜変更できる。また、本開示では、1つの列に含まれるスリットの個数は、2つ以上であれば任意である。本開示では、部材としての必要な強度が確保できる限り、少なくとも1つの結合部が形成されればよい。
【0032】
第1実施形態では、ウェブ12Aの板面を正面から見た平面視で、3つのスリット16の列に含まれる複数の結合部18の配置パターンは、千鳥配置である。具体的には、3つの列にそれぞれ含まれるスリット16は、ウェブ高さ方向に沿った直線上で重ならないようにずれて配置される。
【0033】
換言すると、スリット16が千鳥配置である場合、ウェブ12Aの板面を正面から見て、一方のフランジ12B側から他方のフランジ12B側に向かって熱が移動する経路が、ウェブ高さHWと同じ最短距離である状態の形成が阻害される。なお、「スリット16が千鳥配置である」場合には、「結合部18が千鳥配置である」場合が生じ得る。
【0034】
また、本開示では「スリットが千鳥配置である状態」とは、ウェブ12Aに形成されたスリット16の列のすべてにおいて、スリットが千鳥配置である場合に限定されない。本開示では、スリットが千鳥配置である状態が、材軸方向D及びウェブ高さ方向の少なくとも一方において部分的に形成された場合も「スリットが千鳥配置である状態」に含まれ得る。
【0035】
なお、本開示では、複数のスリットの配置パターンは、千鳥配置に限定されない。
図3に示すように、スリット16同士が、ウェブ高さ方向(
図3中の上下方向)に沿った直線上で重なるように配置された直列配置であってもよい。
【0036】
(スリット率)
本開示では、スリット率は、ウェブ12Aにおける材軸方向Dで隣接するスリット16の間隔Gの和をスリット16の長さMの和で除して定義される。なお、本開示では、「スリットの間隔」には、2つのスリットに挟まれた位置に形成される間隔と、材軸方向のウェブの端部で1つのスリットと端部との間に形成される間隔との両方が含まれる。
【0037】
(熱貫流率低下率の解析試験)
図4中には、有限要素数値解析(FEM)を用いて、異なるスリット率を有するフレーム部材12の低伝熱形鋼を用いたパネル材の熱貫流率を解析した結果から算出された熱貫流率低下率が例示されている。具体的には、結合部18の配置パターンが直列配置であるフレーム部材12の解析モデルの熱貫流率低下率と、結合部18の配置パターンが千鳥配置であるフレーム部材12の解析モデルの熱貫流率低下率とが、それぞれ例示されている。
【0038】
図4中の2つの解析モデルで用いられたフレーム部材12は、結合部18の配置パターン以外は、互いに同形状及び同寸法である。また、
図4中では、結合部18の配置パターンが千鳥配置である場合のデータ点が、5つの黒丸で例示されると共に、結合部18の配置パターンが直列配置である場合のデータ点が、7つの白丸で例示されている。
【0039】
解析試験1では、解析用モデルとして、スタッド材であるフレーム部材12の低伝熱形鋼に、構造用の一方側の面材14、充填部材24としての断熱材、及び他方側の面材22としての石膏ボードが取り付けられた外壁部材を、スリット率を異ならせて5つ設定した。具体的には、
図2(A)中に例示された3列のスリット16の列を有するフレーム部材12の形状において、スリット16の長さMと間隔Gとを変更することによって、それぞれのスリット率を異ならせた。設定された5つの結合部18の配置パターンは、いずれも千鳥配置である。そして、設定された解析用モデルを対象として解析を実行することによって、それぞれの熱貫流率を解析した。
【0040】
また、対比用の基準モデルとして、解析用モデルと同形状及び同寸法であって、無孔のウェブ12Aを有するフレーム部材12を設定した。そして、設定された基準モデルを対象として解析を実行することによって、基準モデルの熱貫流率を解析した。
【0041】
図4中のグラフの縦軸の「熱貫流率低下率」は、スリット16を有する解析モデルの熱貫流率を、基準モデルの熱貫流率で除して得た値である。熱貫流率低下率の値が大きい、すなわち、熱貫流率低下率の値が1に近い程、低下の度合いが小さいため、断熱性能が改善されないことを意味する。一方、熱貫流率低下率の値が小さい程、低下の度合いが大きいため、断熱性能が改善されることを意味する。
【0042】
図4中の黒丸のデータ点から分かるように、結合部18が千鳥配置であると、スリット率が20%以下の場合、熱貫流率低下率が85%以下になる。換言すると、断熱性能を15%以上改善することが可能になる。一方、スリット率が20%を超える場合、断熱性能の改善率が15%未満になる。
【0043】
また、断熱性能の観点では、スリット率は小さい方が好ましいものの、スリット率が小さ過ぎると、フレーム部材12の構造部材としての強度、すなわち、構造性能が不安定になる。このため、第1実施形態では構造性能と断熱性能とをバランスよく両立可能な範囲として、スリット率は、5%以上、20%以下の範囲で設定される。なお、本開示ではスリット率の範囲は、これに限定されず、フレーム部材12の所望の仕様に応じて適宜変更できる。
【0044】
また、
図4中の白丸のデータ点から分かるように、結合部18が直列配置であっても、スリット率が、5%以上、20%以下の範囲内で設定される場合、断熱性能を有効に改善できる。ただし、同じスリット率であっても、結合部18が千鳥配置であるフレーム部材12の解析モデルの方が、結合部18が直列配置であるフレーム部材12の解析モデルより、熱貫流率低下率が小さいため、断熱性能がより改善される。
【0045】
(化学成分の組成)
次に、第1実施形態のフレーム部材12の溝形鋼の化学成分の組成について具体的に説明する。以下の「%」は、すべて質量%である。また、「元素記号」の後ろに「%」が付された記載は、対応する元素の含有率の値を意味する。また、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を、下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0046】
(熱伝導率計算式)
まず、第1実施形態では、常温で25度におけるフレーム部材12の熱伝導率が、以下の熱伝導率計算式で定義される。
80.5+(-45.03+21.85×C%)×C%+(-31.69+11.57×Si%)×Si%+(-15.32+0.959×Mn%)×Mn%+(-8.091+0.452×Cr%)×Cr%+(-4.674+0.204×Mo%)×Mo%+(-3.78+0.084×Ni%)×Ni%+(-8.091+0.452×Al%)×Al%
【0047】
上記の熱伝導率計算式は、「Calculation of Solidification-Related Thermophysical Properties for Steels」(Jyrki Miettinen,Metallurgical and Materials Transactions B volume 28, Pages 281-297,1997)に基づく。第1実施形態では、フレーム部材12の断熱性能の向上と作業性の維持との両立を図るため、上記の熱伝導率計算式で定義される熱伝導率が、55W/m・K未満に規定される。
【0048】
(化学成分)
次に、上記の熱伝導率計算式に含まれる複数の化学成分を第1グループとすると共に、それぞれの化学成分について具体的に説明する。
【0049】
[第1グループ]
C :0.02~0.3%
Cは、熱伝導率低下への寄与率が比較的大きい元素であると共に、固溶強化により溝形鋼の強度を増加させる。また、Cは、第二相であるマルテンサイトやベイナイトの形成に寄与する元素である。本開示が目的とする断熱性能の向上と作業性の維持との両立を図るためには、0.02%以上のCの含有が必要である。Cの含有率が0.02%未満である場合、溝形鋼の熱伝導率を低下させ難く、断熱性能を向上させ難い。一方、Cの含有率が0.3%を超える場合、鋼材の強度が高くなり過ぎ、作業性が低下する。このため、Cの含有率は、0.02~0.3%の範囲に限定される。
【0050】
Si:0.1~2.0%
Siは、熱伝導率低下への寄与率が比較的大きい元素であると共に、固溶強化により溝形鋼の強度を増加させる。本開示が目的とする断熱性能の向上と作業性の維持との両立を図るためには、0.1%以上のSiの含有が必要である。Siの含有率が0.1%未満である場合、溝形鋼の熱伝導率を低下させ難く、断熱性能を向上させ難い。一方、Siの含有率が2.0%を超える場合、鋼材の強度が高くなり過ぎ、作業性が低下する。このため、Siの含有率は、0.1~2.0%の範囲に限定される。
【0051】
Mn:1.0~3.0%
Mnは、熱伝導率低下への寄与率が比較的大きい元素であると共に、固溶強化により溝形鋼の強度を増加させる。本開示が目的とする断熱性能の向上と作業性の維持との両立を図るためには、1.0%以上のMnの含有が必要である。Mnの含有率が1.0%未満である場合、溝形鋼の熱伝導率を低下させ難く、断熱性能を向上させ難い。一方、Mnの含有率が3.0%を超える場合、鋼材の強度が高くなり過ぎ、作業性が低下する。このため、Mnの含有率は、1.0~3.0%の範囲に限定される。
【0052】
P :0.03%以下
Pは、粒界に偏析して、靭性を低下させる作用を有する元素であり、本開示では、不純物としてできるだけ低減されることが好ましい。このため、Pの含有率は、0.03%以下に限定される。
【0053】
S :0.025%以下
Sは、溝形鋼の中では硫化物として存在する。硫化物は、熱間圧延工程で薄く延伸されると共に、延性と靭性とを低下させる影響を及ぼす。このため、本開示では、Sは、できるだけ低減されることが好ましい。このため、Sの含有率は、0.025%以下に限定される。
【0054】
Al:2.0%以下
2.0%を超えるAlの含有は、溶鋼中の酸素と反応した酸化物が介在物として多く含まれるようになるため、溝形鋼の清浄度が低下し、結果、靭性が低下する。このため、Alの含有率は、2.0%以下に限定される。
【0055】
Cr:0.4%以下
Crは、焼き入れ性を高める効果を有するが、調達コストが比較的高い。このため、Crの含有率は、0.4%以下に限定される。
【0056】
Mo:0.5%以下
Moは、焼き入れ性を高める効果を有するが、調達コストが比較的高い。このため、Moの含有率は、0.5%以下に限定される。
【0057】
Ni:1.0%以下
Niは、焼き入れ性を高める効果を有するが、調達コストが比較的高い。このため、Niの含有率は、1.0%以下に限定される。
【0058】
Fe及び不純物
本開示のフレーム部材12の溝形鋼の成分組成は、以上の元素の他、Fe及び不純物からなる。Feは、主成分である。また、不純物とは、熱延鋼板を製造する際の原材料に含まれる、或いは、製造の過程で混入する成分であり、意図的に鋼に含有させたものではない成分のことを意味する。不純物として、例えば、O(酸素)が挙げられるが、Oの含有率については、通常の鋼板の上限である0.005%程度であればよい。その他の不純物成分については、特に規定されないが、例えばSb、As等の元素が、原料のスクラップから不純物として混入する場合がある。しかし、不純物として混入するレベルの含有量では、Sb、As等の元素は、本開示における溝形鋼の特性には著しい影響を与えない。
【0059】
以上、必須元素、或いは不純物元素について説明した。次に、必要に応じてFeの一部に代えて、選択的に含有してもよい元素とそれぞれの含有率とについて、第2グループと第3グループとに分けて説明する。すなわち、第2グループと第3グループとのそれぞれに含まれる元素は、本開示において必須ではない。
【0060】
[第2グループ]
N:0.10%以下
Nは、不純物として鋼材中に含まれる。しかし、Nの含有率の増加は、靭性と溶接性との低下に大きな影響を与える。このため、Nの含有率の上限は、0.10%以下に限定される。
【0061】
Ti:0.20%以下
Tiは、含有量が過剰になると、製造性が低下してしまうことがある。さらに、溶接時に粗大な析出物が形成されてしまうことによって溶接部の靭性が低下する。よって、Tiの含有率は、0.20%以下に限定される。
【0062】
Nb:0.15%以下
Nbの含有率が0.15%を超えると、溶接部の靭性が低下する。このため、Nbの含有率は、0.15%以下に限定される。
【0063】
B:0.0025%以下
Bは、焼き入れ性を顕著に高めることによって、常温の鋼材の強度及び靭性を向上させる元素である。このため、Bが含有されてもよいが、0.0025%を超えてBが含有されると、溶接時の熱影響部(HAZ)の靭性や溶接性が劣化する場合がある。このため、Bの含有率は、0.0025%以下に限定される。
【0064】
[第3グループ]
O :0.01%以下
Oは、不純物として鋼材中に含まれる。しかし、Oの含有率の増加は、靭性と溶接性との低下に大きな影響を与える。このため、Oの含有率の上限は、0.01%以下に限定される。
【0065】
V :1.0%以下
Vの含有率が1.0%を超えると、溶接部の靭性が低下する。このため、Vの含有率は、1.0%以下に限定される。
【0066】
Cu:1.0%以下
Cuは、溝形鋼の強度及び靭性を向上させるが、過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Cuの含有率は、1.0%以下に限定される。
【0067】
Mg:0.1%以下
Mgは、溶接時の溶接熱影響部においてオーステナイト粒の成長を抑制することによって、微細化する作用があり、結果、溶接部の強靭性化が図れる。溶接部の強靭性化の効果を得るため、Mgは、0.0005%以上含有することが好ましい。一方、Mgの含有量が増えても、含有量における効果代が小さくなるため、経済性が低下する。このため、Mgの含有率は、0.1%以下であることが好ましい。
【0068】
W :0.1%以下
Bi:0.1%以下
Zr:0.1%以下
Co:0.1%以下
Zn:0.1%以下
REM:0.1%以下
REM、Bi、Zr、Co、Zn及びWの元素のそれぞれの含有率が0.1%以下であっても、本開示に係る溝形鋼の効果が損なわれないことが確認された。このため、REM、Bi、Zr、Co、Zn及びWのそれぞれは、0.1%以下含有されてもよい。また、REM、Bi、Zr、Co、Zn及びWの元素のそれぞれの含有率の下限値は、0%以上でもよく、0.0005%以上でもよい。REMは、Sc、Y及びランタノイドからなる合計17元素を指す。また、上記のREMの含有率は、これらの17元素の合計含有率を指す。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。
(実施例)
【0069】
【0070】
表1に、第1実施形態に係るフレーム部材の16個の実施例と、3個の比較例とのそれぞれの化学成分を示す。実施例1~実施例16、及び、比較例1~比較例3では、溝形鋼の形状は、同じである。具体的には、解析モデルの断面形状は、フランジ幅WFが50mm、ウェブ高さHWが100mm、リップ長さLが20mm、板厚tが1.2mmである。また、スリットの列数は、5列である。また、スリット長さMは、60mmである。また、結合部の間隔Gは、6mmである。また、スリット幅WSは、4mmである。また、ウェブの外面とスリットとの間隔D1が18mmである。また、隣接するスリット同士の間隔D2が11mmである。なお、表1中の「-」の表示は、対応する元素含有量が検出限界未満であったこと、すなわち、対応する元素が含有されていないことを示す。
【0071】
実施例1~実施例16では、第1グループ、第2グループ及び第3グループにそれぞれ含まれる元素の化学成分の組成が、本開示で特定される範囲内で設定されている。一方、比較例1では、Cの含有率が、0.01%と、本開示で特定される範囲から外れている。また、比較例2では、Siの含有率が、0.05%と、本開示で特定される範囲から外れている。また、比較例3では、Mnの含有率が、0.90%と、本開示で特定される範囲から外れている。
【0072】
表1に示すように、実施例1~実施例16のそれぞれの常温25度における熱伝導率λ25は、一般的に鋼材の熱伝導率として知られている55W/m・Kの値より、いずれも低かった。実施例1~実施例16の熱伝導率λ25はいずれも、上記の熱伝導率計算式によって算出された値である。
【0073】
なお、実施例14に対応する鋼材の試料を実際に作製し、作製された試料の常温25度における熱伝導率を、温度傾斜測定法によって測定した結果、51.2W/m・Kであった。温度傾斜測定法によって測定された51.2W/m・Kの値は、表1中の熱伝導率λ25の熱伝導率計算式によって算出された51.4W/m・Kの値に非常に近似していることが分かった。
【0074】
一方、比較例1~比較例3のそれぞれの常温25度における熱伝導率λ25はいずれも、58.5、59.5及び60.0と、55W/m・Kの値より、高かった。
【0075】
【0076】
また、表2に、化学成分の組成が本開示で特定される範囲内に含まれる建築用鋼材を示す。表2中のそれぞれの建築用鋼材の化学成分の含有率は、JIS G3302、JIS G3321、JIS G3322に規定された値に基づく。なお、本開示では、フレーム部材の溝形鋼として適用可能な鋼材は、表2中の8個の建築用鋼材に限定されない。
【0077】
次に、第1実施形態に係るフレーム部材12における、熱貫流率と鋼材の熱伝導率との関係を確認するために実施された解析例と、強度と炭素量との関係を確認するために実施された実験例とを説明する。
【0078】
(解析モデル)
まず、
図5に示すように、解析例のシミュレーション解析で使用される解析モデルとして、フレーム部材12が含まれる外壁用のパネル材10を設定した。解析モデルのパネル材10の寸法は、現場で使用される実際の寸法及び素材に基づいて設定された。
【0079】
解析モデルのパネル面の寸法は、パネル面を正面から見て、1820mm×1820mmであった。また、解析モデルの断面形状は、表2中の実施例1~実施例16の場合と同様に設定した。解析モデルでは、パネル材の面材として、室内の側に石膏ボードが、室外の側に構造用合板が、それぞれ接合された。また、解析モデルのパネル材の内部の空間には、充填部材としてのグラスウールが配置された。なお、
図5中の解析モデルでは、フレーム部材12中のスリットの図示と、パネル材10中の面材及び充填部材の図示とは、省略されている。
【0080】
(解析例:熱貫流率と鋼材の熱伝導率との関係)
図6に示すように、解析例では、
図5中に例示した解析モデルを対象とした有限要素数値解析を実行することによって、第1実施形態の溝形鋼を含むパネル材の熱貫流率と鋼材の熱伝導率との関係が解析された。熱伝導率は、上記の熱伝導率計算式によって算出された。
【0081】
第1実施形態に係る解析モデルの溝形鋼は、5列のスリットを有する低伝熱形鋼である。また、第1実施形態に係る解析モデルの解析結果は、
図6中に白丸(〇)のデータ点で例示されている。
【0082】
また、対比のため、スリットを有さない通常形鋼が用いられたパネル材の解析モデルを比較例に係る解析モデルとして設定した。比較例に係る解析モデルの、スリット以外の条件は、第1実施形態に係る解析モデルと同様である。比較例に係る解析モデルの解析結果は、
図6中に黒丸(●)のデータ点で例示されている。なお、
図6中には、参考用に、熱橋部が無く断熱部のみを有する仮想的なパネル材の熱貫流率の値の位置が、水平な破線で例示されている。
【0083】
図6に示すように、第1実施形態では、溝形鋼の熱伝導率が小さくなる程、熱貫流率が、より低下する。このため、外壁用のパネル材としての断熱性能が向上することが確認できた。また、第1実施形態では、熱貫流率を、熱橋部が無く断熱部のみを有する仮想的なパネル材の熱貫流率の値の近傍まで低下させることができた。すなわち、仮想的なパネル材と同程度まで断熱性能を強化できること、換言すると、熱橋部の影響を限りなくゼロに近づける効果を得られることが分かった。
【0084】
一方、スリットを有さない比較例では、熱伝導率が小さくなっても、熱貫流率は、第1実施形態の水準には低下しなかった。比較例の場合、熱貫流率を、熱橋部が無く断熱部のみを有する仮想的なパネル材の熱貫流率の値まで到達させ難いことが分かった。
【0085】
(実験例:強度と炭素量との関係)
図7に示すように、実験例では、溝形鋼に使用した鋼材そのものの強度と炭素量との関係が、実際に測定された。
【0086】
ここで、通常、溝形鋼は、ロールフォーミング加工やプレス加工等によって成形されるため、鋼材の強度が1000MPa以上である場合、一般的な加工設備では設備能力が不足し、適切に成形することが難しい。また、溝形鋼に対する接合では、例えばビスやかしめ等による乾式接合が一般的に用いられる。乾式接合では、1000MPa以上の強度を有する鋼板の場合、一般的な加工設備や加工装置では、接合作業性が低い。
【0087】
この点、鋼材の炭素の含有率が0.3%以下である第1実施形態の場合、
図7中の白丸(〇)のデータ点で例示されるように、強度が1000MPaより小さい溝形鋼を実現できることが分かった。一方、鋼材の炭素の含有率が0.3%を超える比較例の場合、
図7中の右上の黒丸(●)のデータ点で例示されるように、強度が約1800MPaであった。すなわち、炭素の含有率が0.3%を超えると、強度が1000MPaを大きく超え、結果、作業性の維持が困難になることが分かった。
【0088】
(作用効果)
第1実施形態に係るフレーム部材12によれば、溝形鋼の鋼材の化学成分が特定されることによって、フレーム部材12の断熱性能の向上と作業性の維持とを両立できる。
【0089】
また、第1実施形態では、溝形鋼のウェブに断熱性能を向上させるスリットが設けられるため、溝形鋼を含むフレーム部材12の熱伝導率をより低下させることができる。
【0090】
[第2実施形態]
第2実施形態に係るフレーム部材は、第1実施形態に係るフレーム部材の場合と同様に鋼材の化学成分の組成が特定されると共に、更にリップの長さが特定される点を特徴とする。以下、第2実施形態に係るフレーム部材については、リップの長さを主に説明すると共に、リップ長さ以外の他の構成は、第1実施形態に係るフレーム部材の場合と同様であるため、重複説明を省略する。
【0091】
(リップの長さ)
まず、低伝熱形鋼でない通常形鋼のリップ溝形鋼においては、通常、リップ長さとして、必要リップ長さが確保されれば済む。しかし、第2実施形態では、面材14が接合されたフランジ12Bに連続するリップ長さLが、必要リップ長さより長い、有効リップ長さ以上に設定される。なお、本開示では、リップ長Lが有効リップ長さより短くてもよい。
【0092】
(必要リップ長さ)
必要リップ長さは、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き 第2版」(一般社団法人 日本鉄鋼連盟)P.83の記載に基づき、以下の計算式によって定義される。
【数1】
C
min:必要リップ長さ[mm]
b:リップ溝形鋼等のフランジの板要素の幅[mm]
F: リップ溝形鋼のF値[N/mm
2]
t:リップ溝形鋼の板厚[mm]
【0093】
(有効リップ長さ)
また、有効リップ長さは、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き 第2版」(一般社団法人 日本鉄鋼連盟)P.56の表3.4.4.中に記載の「リップの有効幅」と同じである。具体的には、下記の計算式によって定義される。
有効リップ長さ[mm]=(240/√F)×t
【0094】
なお、板厚tは、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き 第2版」P.52の有効断面の構造計算に関する「(1)鋼材の板厚」に記載された設計板厚に従って設定される。すなわち、原則として、公称板厚90%の板厚が用いられる。
【0095】
また、曲げ材の有効断面の配置は、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き 第2版」P.55の
図3.4.5.中に記載の配置、及び、P.56の「(6)曲げ材の有効断面係数Ze」の記載に従って設定される。すなわち、曲げ材の許容応力度の算出では、強軸曲げを受けるフレーム部材12の圧縮側のフランジ12Bについて、圧縮側と同等の無効部分を設けて評価する場合と、板要素全体を有効とみなす場合とに応じて、曲げ材の有効断面の配置は異なる。
【実施例0096】
次に、リップ長さLが有効リップ長さ以上に設定された第2実施形態に係るパネル材のフレーム部材について行われた実施例17及び実施例18を、
図8~
図12を参照して説明する。
【0097】
<実施例17:変位と荷重との関係>
実施例17では、FEMを用いて、フレーム部材の面外方向に沿って作用する圧縮力に対する耐力を測定する解析を実行した。なお、低伝熱形鋼に作用する荷重としては曲げが支配的となるため、ここでは、低伝熱形鋼のフレーム部材に作用する力には、材軸方向Dに沿った圧縮力、すなわち軸力は、含まれないものと仮定する。
【0098】
具体的には、
図8に示すように、解析モデルを設定した。解析モデルの材軸方向Dの長さは、3900mmであり、ウェブ高さHWは、100mmであり、フランジ幅WFは、50mmであり、板厚tは、1.6mmである。実施例17では、リップ長さLを、10mm、20mm、30mm、及び40mmの4種類のパラメータとして設定した。
【0099】
解析では、
図8中の解析モデルのリップ溝形鋼の上フランジ側に面材14が接合されると仮定した。また、リップ溝形鋼を材軸方向Dに4等分し、両端側の2点の位置に、
図8中で上側から下側に向かう鉛直方向の強制変位を設定することによって、中央側の2点間に挟まれた中央部に力を加える4点曲げ試験を実行した。また、横座屈が生じないように、中央部のフランジ幅方向の変位は拘束した。また、境界条件として、リップ溝形鋼の材軸方向Dの一端はピン支持であり、かつ、他端はローラー支持であるように設定した。
【0100】
そして、設定された解析モデルのそれぞれに対して荷重を負荷し、材軸方向Dの中央部の変形状態を解析した。また、解析結果から、それぞれの曲げ耐力を測定した。以下、リップ長さLが有効リップ長さ以上であるフレーム部材の解析結果を、第2実施形態の実施例17として説明する。また、リップ長さLが有効リップ長さ未満であるフレーム部材の解析結果を、第2実施形態の比較例4として説明する。
【0101】
また、無孔のウェブ12Aを有するリップ溝形鋼である通常形鋼についても、第2実施形態の比較例5として、実施例17及び比較例4と同様の解析及び測定を実施した。なお、比較例5にかかるリップ溝形鋼の仕様は、無孔である点とリップ長さLが12mmである点以外の仕様は、実施例17に係るフレーム部材の仕様と同様である。
【0102】
図9(A)~
図9(C)中には、上側から圧縮力が作用する前の材軸方向Dの中央部の断面形状が破線で例示されていると共に、上側から圧縮力が作用した後の最大耐力時に、下側にたわみ、かつ、変形した断面形状の状態が、実線で例示されている。
図9(A)中には、有効リップ長さ以上のリップ長さLを有する実施例17に係る解析モデルの断面形状が例示されている。また、
図9(B)中には、有効リップ長さ未満のリップ長さLを有する比較例4に係る解析モデルの断面形状が例示されている。また、
図9(C)中には、通常形鋼の比較例5に係る解析モデルの断面形状が例示されている。
【0103】
図9(A)及び
図9(B)に示すように、実施例17の座屈変形は、比較例4の場合より抑制された。なお、
図9(C)中に例示された比較例5に係る解析モデルでは、材軸方向Dの中央部は下側にたわんでいるものの、全体の断面形状は大きく変形せず、結果、実施例17及び比較例4のような座屈変形は、ほとんど生じなかった。
【0104】
また、
図10中には、実施例17と比較例4と比較例5とについて、材軸方向Dの中央部の鉛直方向の変位δyと荷重Pとの関係を示すそれぞれの軌跡が例示されている。
図10中に点線で例示されたリップ長さLが10mmの低伝熱形鋼は、比較例4に係るリップ溝形鋼である。
図10中に一点鎖線で例示されたリップ長さLが20mmの低伝熱形鋼と、細い実線で例示されたリップ長さLが30mmの低伝熱形鋼と、太い実線で例示されたリップ長さLが40mmの低伝熱形鋼とは、実施例17に係るフレーム部材である。また、
図10中に破線で例示されたリップ溝形鋼は、比較例5に係る通常形鋼のリップ溝形鋼である。
【0105】
図10に示すように、実施例17に係るリップ長さLが20mmの低伝熱形鋼では、通常形鋼の最大荷重の約85%程度の最大荷重まで耐えることができたことが分かる。また、実施例17に係るリップ長さLが30mmの低伝熱形鋼の場合の最大荷重と、実施例17に係るリップ長さLが40mmの低伝熱形鋼の最大荷重は、いずれも通常形鋼の最大荷重以上であった。実施例17に係るフレーム部材では、有孔のウェブを有する低伝熱形鋼であっても、断面欠損による耐力低下を抑制できることが分かった。
【0106】
<実施例18:短期曲げ耐力上昇率とリップ長さとの関係>
次に、実施例18では、リップ長さLを変化させた場合のフレーム部材の短期曲げ耐力について、FSM(有限帯板法)を用いて解析した。解析モデルは、リップ長さL以外の仕様は、実施例1の場合と同様に設定した。また、
図11に示すように実施例18では、解析モデルの板厚を、1.2mm、1.6mm、及び2.3mmの3種類に異ならせて設定した。
【0107】
図11中のグラフの縦軸には、短期曲げ耐力上昇率が設定されている。短期曲げ耐力上昇率としては、まず、FSMによって算出された座屈耐力から、許容曲げ応力度を算出する。そして、算出された許容曲げ応力度に、有効断面積の断面係数を掛け合わせて算出された短期曲げ耐力を、有効リップ長さを有する解析モデルから算出された短期曲げ耐力で除すことによって得られた値を、短期曲げ耐力上昇率として算出できる。また、
図11中のグラフの横軸に設定された対有効リップ長さ比は、リップ長さLを有効リップ長さで除した値である。
【0108】
図11に示すように、実施例18では、板厚tが1.2mm、1.6mm、及び2.3mmのいずれにおいても、リップ長さLが有効リップ長さ以上に長くなる程、短期曲げ耐力上昇率が大きくなることが分かった。すなわち、第2実施形態に係るフレーム部材の低伝熱形鋼においては、板厚tが、1.2mm以上、2.3mm以下である場合、曲げ耐力を増加できるという効果が得られることが分かる。
【0109】
また、
図12に記載の通り、実施例18では、同様の効果が、FEM(有限要素法)を用いた解析でも確認された。
図12に示すように、板厚tが1.2mm、1.6mm、及び2.3mmのいずれにおいても、リップ長さLが有効リップ長さ以上に長くなる程、最大曲げ耐力上昇率が大きくなる。このため、低伝熱形鋼のフレーム部材12における板厚tが、1.2mm以上、2.3mm以下である場合、最大曲げ耐力を増加できることが分かる。
【0110】
一方、
図13に示すように、無孔のウェブを有する通常形鋼の解析モデルを用いて、短期曲げ耐力について同様の解析を実行した。
図13中に例示された比較例5における通常形鋼の解析モデルは、
図10中で実施例17と対比して説明した比較例5と同様の仕様を有する。比較例5に係る通常形鋼の場合、リップ長さLが有効リップ長さ以上に長くなる程、実施例18の場合とは反対に、短期曲げ耐力が小さくなることが分かった。
【0111】
具体的には、
図13に示すように、通常形鋼においては、リップ長さLが有効リップ長さより短いときには、リップ長さLが長くなる程、短期曲げ耐力が増加する。しかし、リップ長さLが有効リップ長さに到達すると、リップ溝形鋼の耐力のピークが到来し、局部座屈が発生する。そして、リップ長さLが有効リップ長さを超えると、リップ長さLが有効リップ長さより長くなる程、短期曲げ耐力が減少する傾向が確認された。換言すると、通常形鋼の場合、リップ長さLを有効リップ長さ以上に延ばす必要が生じないことが分かる。
【0112】
(作用効果)
第2実施形態に係るフレーム部材においても、第1実施形態の場合と同様に鋼材の化学成分が特定されることによって、フレーム部材の断熱性能の向上と作業性の維持とを両立できる。
【0113】
更に、第2実施形態に係るフレーム部材が用いられた低伝熱形鋼では、第1実施形態における
図2中に例示され場合と同様に、面材14が接合され圧縮を受ける側であるフランジ12Bに連続するリップ長さLが、有効リップ長さ以上である。このため、第2実施形態では、リップ長さLが必要リップ長さであること以外、同じ仕様の低伝熱形鋼のリップ溝形鋼と比べて、曲げ耐力が上昇する。結果、第2実施形態に係るパネル材では、断熱性能が高められた低伝熱形鋼のフレーム部材における、低伝熱形鋼特有の座屈による耐力の低下を抑制できる。
【0114】
また、第2実施形態では、一対のリップ12Cのリップ長さLが互いに等しいので、一対のリップ12Cのリップ長さLが互いに異なる場合と比べ、フレーム部材の断面形状が対称性を有する。このため、第2実施形態に係るフレーム部材を用いたパネル材は、建築部材としてバランスがよく、設計及び施工性に優れる。
【0115】
また、第2実施形態では、ウェブ12Aの材軸方向Dにおけるスリット16の間隔Gの和をスリット16の長さの和で除して定義されるスリット率は、5%以上、20%以下である。このため、断熱性能が確保された低伝熱形鋼のフレーム部材12を実現できる。
【0116】
また、複数のスリット16が千鳥配置の場合、熱の経路を構成する結合部18と結合部18との離隔距離が、複数のスリット16が直列配置の場合より長くなるので、パネル材10の断熱性能が高い。このため、構造性能と断熱性能とをより好適に両立できる。
【0117】
また、第2実施形態では、フレーム部材12の低伝熱形鋼は、F値が500MPa以上である高強度鋼板を用いて形成される。低伝熱形鋼に高強度鋼板が用いられることによって、通常鋼板の場合より板厚を薄くしても、低伝熱形鋼において、通常鋼板と同等以上の耐力を実現できる。
【0118】
<その他の実施形態>
本開示は、上記の実施形態によって説明されたが、この説明は、本開示を限定するものではない。本開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになると考えられるべきである。
【0119】
例えば、
図1~
図13中に示された構成を部分的に組み合わせて、本開示を構成することもできる。本開示は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むと共に、本開示の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0120】
≪付記≫
本明細書からは、以下の態様が概念化される。
【0121】
態様1は、
化学組成が、質量%で、
C :0.02~0.3%、
Si:0.1~2.0%、
Mn:1.0~3.0%、
P :0.03%以下、
S :0.025%以下、
Al:2.0%以下、
Cr:0.4%以下、
Mo:0.5%以下、
Ni:1.0%以下、
を含み、残部がFe及び不純物からなる溝形鋼であって、
80.5+(-45.03+21.85×C(%))×C(%)+(-31.69+11.57×Si(%))×Si(%)+(-15.32+0.959×Mn(%))×Mn(%)+(-8.091+0.452×Cr(%))×Cr(%)+(-4.674+0.204×Mo(%))×Mo(%)+(-3.78+0.084×Ni(%))×Ni(%)+(-8.091+0.452×Al(%))×Al(%)
の式で定義される、常温で25度における熱伝導率が、55W/m・K未満である、
フレーム部材。
【0122】
態様2は、
更に、質量%で、前記Feの一部に代えて、
N :0.10%以下、
Ti:0.2%以下、
Nb:0.15%以下、
B :0.0025%以下、
を含む、態様1に記載のフレーム部材。
【0123】
態様3は、
更に、質量%で、前記Feの一部に代えて、
O :0.01%以下、
V :1.0%以下、
Cu:1.0%以下、
Mg:0.1%以下、
W :0.1%以下、
Bi:0.1%以下、
Zr:0.1%以下、
Co:0.1%以下、
Zn:0.1%以下、
REM:0.1%以下、
を含む、態様2に記載のフレーム部材。
【0124】
態様4は、
前記溝形鋼のウェブに断熱性能を向上させるスリットが設けられる、
態様1~3のいずれかに記載のフレーム部材。
【0125】
態様5は、
前記ウェブの板面を正面から見て、複数の前記スリットは、千鳥配置される、
態様1~4のいずれかに記載のフレーム部材。
【0126】
態様6は、
前記溝形鋼は、一対のフランジにそれぞれ連続する一対のリップを有するリップ溝形鋼であり、
板厚が2.3mm以下であり、
前記フランジに接合された面材を有し、
前記面材が接合された前記フランジに連続する前記リップの長さは、リップ溝形鋼のF値[N/mm2]をFとすると共にリップ溝形鋼の板厚[mm]をtとしたとき、(240/√F)×tの式で定義される有効リップ長さ[mm]以上である、
態様1~5のいずれかに記載のフレーム部材。
【0127】
態様7は、
一対の前記リップの長さが互いに等しい、
態様6に記載のフレーム部材。
【0128】
態様8は、
態様1~7のいずれかに記載のフレーム部材と、
前記溝形鋼のフランジの板面に接合された面材と、
を備える、パネル材。