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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079105
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】空気電池用正極及び空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240604BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20240604BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/96 B
H01M12/06 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191837
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小堀 稔文
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018DD05
5H018EE05
5H018EE07
5H018EE08
5H018EE12
5H018HH01
5H018HH04
5H018HH05
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS06
5H032AS12
5H032EE02
5H032EE15
5H032HH01
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】
放電特性を向上させることができる空気電池用正極およびにそれを用いた空気電池を提供する。
【解決手段】
上記課題を解決するために、本発明の空気電池用正極10は、酸素還元反応を促進する触媒13と、触媒13が表面に設けられた炭素材料12と、炭素材料12の表面に設けられた多孔性金属酸化物11と、を有することを特徴とする。多孔性金属酸化物11が、Si、Al、Tiからなる群の中から選択された一つ以上の元素の酸化物を含む粒子であってもよく、多孔性金属酸化物11が、エアロゲルであってもよい。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素還元反応を促進する触媒と、
前記触媒が表面に設けられた炭素材料と、
前記炭素材料の表面に設けられた多孔性金属酸化物と、を有することを特徴とする空気電池用正極。
【請求項2】
前記多孔性金属酸化物が、Si、Al、Tiからなる群の中から選択された一つ以上の元素の酸化物を含む粒子であることを特徴とする請求項1に記載の空気電池用正極。
【請求項3】
前記多孔性金属酸化物が、エアロゲルであることを特徴とする請求項2に記載の空気電池用正極。
【請求項4】
前記多孔性金属酸化物の含有比率は、前記空気電池用正極の総重量に対する比率として、0.1%から20%までの範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の空気電池用正極。
【請求項5】
前記炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含む複数の種類の粒子状炭素と、繊維状炭素と、を含み、
前記多孔性金属酸化物は、前記触媒、及び、前記カーボンブラックよりも大きく、かつ、前記繊維状炭素の長手方向の長さよりも短い、ことを特徴とする請求項1に記載の空気電池用正極。
【請求項6】
前記多孔性金属酸化物が有する微細孔は、前記触媒と、前記粒子状炭素の少なくとも一つの材料、いずれの大きさよりも小さい、ことを特徴とする請求項5に記載の空気電池用正極。
【請求項7】
前記繊維状炭素は、平均長さの異なる2種類以上のカーボンファイバーを含むことを特徴とする請求項5に記載の空気電池用正極。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の空気電池用正極を用いたことを特徴とする空気電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池に用いられる正極、及びそれを用いた空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンに代表されるモバイル機器やドローンなどの普及により、軽量かつ大容量な電池へのニーズが高まっている。そのような中で、空気電池は、負極活物質に金属、正極活物質に酸素を用いるもので、空気中に存在する酸素を利用するために、電池ケース内に正極活物質を充填する必要がなく、重量エネルギー密度が高い電池として注目を集めている。
【0003】
特許文献1には、酸素供給が阻害されることなく正極の面全体で行われるように、空気極集電体と多孔質正極との間に拡散層を配置したリチウム空気電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011―96492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の空気電池は、放電特性が不十分であり、使用用途が制限されるものであった。そのため、空気電池をより広く普及させるためには、放電特性の更なる向上が必要であった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、放電特性を向上させることができる空気電池用正極及びそれを用いた空気電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の空気電池用正極は、酸素還元反応を促進する触媒と、前記触媒が表面に設けられた炭素材料と、前記炭素材料の表面に設けられた多孔性金属酸化物と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、放電特性を向上させることができる空気電池用正極及びにそれを用いた空気電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る空気電池用正極並びに空気電池の断面構造の模式図。
図2】本発明に係る空気電池用正極の作製プロセスの各工程・ステップとその流れを示すフローチャート。
図3】本発明の実施形態の変形例に係る空気電池用正極並びに空気電池の断面構造の模式図。
図4】本発明に係る空気電池用正極並びに空気電池用負極の形状の模式図。
図5】放電特性測定の概略回路図。
図6】本発明の実施例2、4、6と、比較例の、正極外観のデジタルカメラ撮影画像例。
図7】本発明の実施例2、4、6と、比較例の、正極の断面形状の電子顕微鏡像。
図8】本発明の実施例2の、正極の断面形状の電子顕微鏡像及びエネルギー分散型X線スペクトル。
図9】本発明の実施例2、4、6の、エネルギー分散型X線スペクトル。
図10】本発明の実施例1から6と、比較例の、正極のシリカエアロゲル含有比率とシート抵抗値との関係を示す図。
図11】本発明の実施例1、2、4、6と、比較例の、放電電流の時間変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する本発明の実施の形態は、本発明の上位概念、中位概念および下位概念など種々の概念を説明するための一例である。したがって、本発明の技術的範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
<実施形態>
(空気電池及び正極)
図1は、本発明の実施形態に係る空気電池用正極10並びに空気電池100の断面構造の模式図である。あくまでも、本発明の空気電池用正極10並びに空気電池100を説明するために、その概念のみを示した図であり、構成する材料の配置や比率、構造などの詳細は、これに限定されない。
【0012】
空気電池100は、正極10と、負極2と、正極10と負極2の間に配置される電解質層3と、から成る。
【0013】
正極10は、少なくとも酸素還元反応を促進する触媒13と、炭素材料12と、を含む複合材料で形成され、その内部に多くの空隙(図示しない)を有する多孔質構造をとる。ここで、空隙とは、正極10を構成する材料物質が存在しない間隙であり、空気や酸素といった気体が、通過や滞留することが可能な空間を指す。
【0014】
触媒13は、炭素材料12の表面に設けられている。本明細書において、表面に設けられているとは、該当の材料どうしの表面が接している状態を広範に示す。例えば一方の材料が他方の材料に担持されていたり、付着や吸着していたりしてもよく、両材料が混合、分散された状態なども含まれる。
【0015】
さらに、正極10の内部には、酸素が出入り可能な微細孔を有する多孔性金属酸化物11が存在する。多孔性金属酸化物11は、前記複合材料の一部として、炭素材料12の表面に設けられて、正極10中に含まれていればよく、その存在状態については、特に制限されない。例えば、炭素材料12を担体として、担持された状態でも良い。
【0016】
空気電池では、正極で空気中の酸素の還元反応が、負極で金属の電解液への溶出(イオン化反応)による酸化反応が、それぞれ起こり、放電電流が流れる。例えば、負極にマグネシウムを用いた場合では、以下の反応式で示される反応が生じる。
正極:O+2HO+4e → 4OH ・・・(式1)
負極:2Mg+4OH → Mg(OH)+4e ・・・(式2)
【0017】
ここで、正極は、酸素還元の反応場として、酸化還元反応により発生した電荷(電子・正孔)の輸送路として、それぞれの役割を担う必要がある。反応場としての役割を担うには、空隙や微細孔を有する材料を多く含む構造であれば、反応物である酸素をより多く正極中に取り込むことができ、有利である。加えて、その様な構造であれば、比表面積が広くなるため、酸素や触媒13が互いに多く接することになり、反応が活性化するため、より有利である。
【0018】
本発明の空気電池用正極10は、少なくとも2種類以上の炭素材料を含む複合材料で形成され、その内部に多くの空隙を有する多孔質構造をとることに加えて、酸素が出入り可能な微細孔を有する多孔性金属酸化物11が存在する。そのため、高比表面積であり、空気中の酸素を取り込み、保持できる量も多い。従って、酸化還元反応が活性化して、電極として高い性能を示すことができる。即ち、本発明の空気電池用正極10を用いた空気電池100は、高い放電特性を安定して示すことが可能となる。
【0019】
本発明の空気電池用正極10が有する空隙は、その大きさが、正極反応の活物質となる酸素分子:O が空隙内に入り得る大きさ、あるいは連通している空隙内を酸素分子が移動、通過可能な大きさ、である必要がある。具体的には、酸素分子の動的分子径が約0.3nmであることから、少なくとも1nm以上であることが望ましい。さらに、正極で酸素の還元反応を効率よく発生するためには、後述するように、液体(電解液)が正極内部へと適度に浸透する必要がある。そのため、正極10が有する空隙の大きさは、1μmから100μmであることが、より望ましい。空隙の大きさは、正極10内の単位体積当たりでの算術的平均値が、正極10全体に亘って実質的に均等でもよく、分布を持っていてもよい。
【0020】
空隙の大きさは、ポロメータやポロシメータ、BET吸着式細孔径分布測定装置などを用いて測定可能である。加えて、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した、空隙を含む正極の構造の画像などからも解析することができる。
【0021】
また、本発明の空気電池用正極10は、正極10内の単位空間に占める空隙の割合(空隙率)が、正極10全体に亘って実質的に均等でもよく、分布を持っていてもよい。
【0022】
例えば、正極10の厚み方向に対して垂直な面内方向には、有意な空隙率分布が存在せず、実質的に均等に空隙が存在している場合は、正極10の厚み方向に対して垂直な面内のいずれの位置でも、偏りのない発電性能を安定して示すことが可能となる。
【0023】
あるいは、正極10の厚み方向の領域について、電解質層3と接する側の領域の空隙率が、電解質層3と接する側の反対側の領域の空隙率に比べて、高くなっていてもよい。この場合、電解質層3と接する側の領域に空隙が多く存在するため、電解質層3中の電解質(後述するように、典型例は液体)が空気電池用正極10の内部(正極10の厚み方向に、電解質層3と接する側の反対側に向かって)へと適度に浸透する。そのため、固体(炭素材料12や触媒13などの正極構成材料)、液体(電解液)、気体(酸素)の三相界面が多く形成され、そこが効率的な電極反応を生ずる反応場としての役割を果たし、発電特性の更なる向上が可能となる。一方で、電解質層3と接する側の反対側の領域では、空隙が少なく緻密な構造であるため、電解液が内部へ浸透する量は相対的に少なくなる。そのため、電解質層3側から正極10の電解質層3と接する側の反対側へと電解液が漏出しにくい、といった点で適している。
【0024】
正極10中に空隙率分布が存在する場合、空隙率は連続的に変化(勾配、グラデーション)する単層構造でも、低い空隙率領域と、高い空隙率領域と、がそれぞれ別の層構造を形成し、それらが積層された構造でもよい。
【0025】
空隙率は、ポロシメータなどの細孔分布測定装置による測定や、水銀圧入法による測定、X線CTなどの画像データから得られた空隙の体積より算出する方法、などで算出することができる。より簡便な空隙率の算出方法としては、正極を構成する材料の密度と正極の任意体積との積を、単位体積の正極の質量の実測値で割ることで、概算することもできる。
【0026】
本発明の空気電池用正極10が有する多孔性金属酸化物11は、その表面及び内部に多くの微細孔を有し、それを介して空気中の酸素が出入りすることができる。また、多孔性金属酸化物11の微細孔内に取り込まれた酸素は、周辺環境の化学的、物理的変化(例えば、周辺雰囲気中の酸素濃度や分圧の変化、電界の変化など)により、適宜放出される。即ち、多孔性金属酸化物11を介して空気中の酸素が正極10中に供給されるため、正極10での還元反応が活性化し、空気電池100の放電特性が向上する。
【0027】
多孔性金属酸化物11は、炭素材料12などの正極10を構成する他材料と混合可能であればよく、粒子状、繊維状、板状などあらゆる形状を選択可能である。
【0028】
多孔性金属酸化物11の大きさは、その大きさ(例えば、多孔性金属酸化物11が粒子状である場合は、その粒子径)が、正極10中に含まれる触媒13や、炭素材料12を構成する材料のうち少なくとも一つの材料、いずれの大きさよりも大きいことが好ましい。加えて、炭素材料12が、後述する繊維状炭素を含む場合には、前記繊維状炭素の軸方向の長さよりも小さい、ことが好ましい。具体的には、多孔性金属酸化物11の大きさが、1μmから150μmの範囲であることが好ましく、10μmから100μmの範囲であることがより好ましい。
【0029】
多孔性金属酸化物11の大きさが、前述した大きさであれば、多孔性金属酸化物11の表面上に複数の触媒13や、炭素材料12を設けることができ、多孔性金属酸化物11を介して供給された酸素を、速やかに、かつ、効率的に反応させ、電荷を生成、輸送することが可能となる。また、前記繊維状炭素のマクロな構造的骨格の形成を阻害することなく、前記構造的骨格の内部に分散して存在できるため、正極10内の全体に亘って酸素供給能を向上させ得る。
【0030】
多孔性金属酸化物11の密度は、0.001g/cmから0.7g/cmの範囲であることが好ましく、0.05g/cmから0.2g/cmの範囲であることがより好ましい。また、多孔性金属酸化物11の気孔率(porosity)は、90%から95%の範囲であることが好ましい。ここで、気孔率とは、多孔性金属酸化物11の全体積に占める微細孔内空間の体積の割合を指し、上述したポロシメータなどを用いた空隙率を測定・算出する手法と同様の手法を用いて、求めることができる。
【0031】
多孔性金属酸化物11が有する微細孔は、その大きさ(孔径)が、正極10中に含まれる触媒13や炭素材料12の大きさよりも小さいことが好ましい。具体的には、前記微細孔の孔径が、1nmから100nmの範囲であることが好ましく、5nmから50nmの範囲であることがより好ましい。
【0032】
前述した範囲の密度や気孔率、微細孔孔径を有する材料であれば、必要な機械的強度を維持しつつ、微細孔内を介する酸素の流入・放出が効果的に行われ、正極10中への酸素供給能が向上する。また、前述した範囲の密度や気孔率、微細孔孔径を有する材料は、低密度・高気孔率であるために、正極10の密度及び重量を低下させ、空気電池の特長の一つである軽量性をより高める効果も期待できる。
【0033】
このような材料の好適例としては、多孔性金属酸化物粒子が挙げられる。多孔性金属酸化物粒子の例としては、Si、Al、Tiからなる群の中から選択された一つ以上の元素を含む酸化物から成る、SiO(シリカ)やAl(アルミナ)、TiO(チタニア)、ZnO、それらの複合化合物、ゼオライト等が挙げられる。これら例示した材料を、単一あるいは複数種類併用して用いることができる。
【0034】
中でも、シリカを主成分とするエアロゲル(シリカエアロゲル)は、上述した密度や気孔率、微細孔孔径を満たす材料であると共に、比較的容易に作製・入手できるなどといった点も含め、多孔性金属酸化物11として最適である。
【0035】
シリカエアロゲルは、数nm程度、典型的には1nmから3nmの粒子径を持つ一次粒子が連なり、数十nm程度、典型的には10nmから50nmの大きさの二次粒子を形成している。更に、二次粒子どうしが連結し、三次元的に網目状の骨格構造を形成することで、骨格間に数nmから数十nmの微細孔を多数有する。そのため、これを多孔性金属酸化物11として用いることで、より効果的に正極10中に酸素の供給を行うことが可能である。
【0036】
シリカエアロゲルは、主に、超臨界乾燥法と呼ばれる手法で作製される。超臨界乾燥法は、ゾルゲル法などで作製されたウェットな状態のゲルを、超臨界流体を用いて乾燥(溶媒置換)して、ドライなゲルを得る手法である。超臨界流体法を用いてシリカエアロゲルを得るにあたり、ゾルゲル法での前駆体となるシリコンアルコキシドとしては、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS:Si(OCHやオルトケイ酸テトラエチル(TEOS:Si(OC)が、その代表例として挙げられる。また、乾燥に用いる超臨界流体としては、二酸化炭素やアルコールなどが挙げられる。
【0037】
多孔性金属酸化物11として好適に用いることのできるシリカエアロゲルは、例えば、その形状が粒子状である場合には、1μmから100μmの平均粒子径を有することができる。ここでの粒子径とは、シリカエアロゲルが多孔性金属酸化物11として正極10中に存在する状態、即ち、前述したシリカエアロゲルの二次粒子がさらに凝集した状態での粒子径であり、所謂マクロの粒子径を指す。また、本明細書における平均粒子径とは、JIS Z 8901:2006「試験用粉体及び試験用粒子」で定義されている「粒子の直径の算術平均値」である。
【0038】
シリカエアロゲルを多孔性金属酸化物11として用いる場合、その正極10中における含有比率は、25%未満であることが好ましく、0.1%から20%の範囲であることがより好ましく、1%から15%の範囲であることが特に好ましい。
【0039】
正極10中のシリカエアロゲルの含有比率が過剰に高くなってしまうと、シリカエアロゲルは絶縁性であるため、正極10中の電荷移動が阻害され、空気電池100の放電特性を低下させる恐れが生じる。加えて、炭素材料12などの正極10を構成する他材料、中でも、バインダーの含有比率が相対的に低下するため、材料どうしを結着する機能が低下し、構造体としての正極10を構築できないといったリスクも増加する。
【0040】
シリカエアロゲルの含有比率が前述した範囲の内であれば、酸素供給能の改善による正極反応の活性化と、導電性の維持との、バランスを適切に制御可能であるため、正極10ひいては空気電池100の放電特性を向上させることが可能となる。さらに、正極10を構造体として維持できる、必要な機械的強度を保つことも可能である。
【0041】
なお、ここでの含有比率は、正極10を構成する全固形材料に対する重量比率である。例えば、シリカエアロゲルを1g、炭素材料12などを含めたシリカエアロゲル以外の固形材料を計9g用いて作製された正極の場合、その正極中のシリカエアロゲルの含有比率は、10%である。
【0042】
シリカは、その表面に水酸基を有し、親水性を示すが、シリカエアロゲルを作製する過程、あるいはその作製後に、化学的または物理的な処理により疎水化される場合がある。多孔性金属酸化物11には、表面親水性のシリカエアロゲル、表面疎水性のシリカエアロゲル、何れも適宜選択可能である。
【0043】
例えば、表面疎水性のシリカエアロゲルを選択した場合は、電解質3に水系の液体(水系電解液)を用いた場合に、その水系電解液が正極10中の一部に浸透した際に、シリカエアロゲルの有する微細孔が水系電解液によって閉塞される恐れが少ない。即ち、酸素供給経路を安定して維持することができる。また、正極10に適度な撥水性をもたらし、正極10を通じた電解液の空気電池100の外部への漏出を防ぐこともできる。
【0044】
加えて、シリカエアロゲルやゼオライトなど、多孔性金属酸化物11として用いることができる材料は、表面改質や元素置換など、種々の化学的、物理的処理を施してあっても、何ら問題ない。例えば、ゼオライト骨格のSiを金属原子で同型置換することにより触媒等の機能性を付与してもよい。
【0045】
本実施形態においては、多孔性金属酸化物11が、正極10中の場所に依らず実質的に均等に分散、存在している状態であるが、これに制限されることなく、多孔性金属酸化物11が、正極10中の場所に依る偏りを持った状態で分散、存在していてもよい。つまり、必要に応じて、正極10中に多孔性金属酸化物11の含有比率に分布が生じた状態でもよく、例えば、正極10の電解質3と接する側の表面から、正極10の厚み方向に、徐々に多孔性金属酸化物11の含有比率が低下するような分布を形成してもよい。
【0046】
さらに、正極10が積層構造を有する場合には、その積層構造を構成するある一層には多孔性金属酸化物11が含有され(含有されず)、その他の層には多孔性金属酸化物11が含有されない(含有される)、といった構成をとることも可能である。
【0047】
本発明の正極10は、多孔性金属酸化物11と、形状の異なる2種類以上の材料から構成される炭素材料12と、を含む複合材料から成る。炭素材料12は、空気中の酸素を活物質として取り込み、酸化還元反応を起こすことができ、かつ、高い導電性を有するため、空気電池の正極の主材料として必要な機能を有している。
【0048】
形状の異なる2種類以上の炭素材料12の好適例としては、粒子状炭素と繊維状炭素とを、それぞれ挙げることができる。粒子状炭素と繊維状炭素とを組み合わせて、正極10の構成材料として用いることで、形状やサイズの異なる材料どうしが重なり合い、酸素の反応場となる多くの空隙を形成しつつ、粒子間接合を絶やすことなく良好なキャリアパスを構築することが可能となる。
【0049】
粒子状炭素としては、活性炭や黒鉛(グラファイト)、カーボンブラックなどが挙げられる。その中でも活性炭は、微細孔を有する多孔性の炭素物質で、大きな比表面積と吸着能を示すため、正極10の構造的骨格を成し、触媒13などの他の材料を担持するといった機能を果たす主要な材料として、好ましい。これらの機能をより効果的に発揮するため、また、他材料との組合せにより正極10内に効率的に空隙を形成するため、活性炭の平均粒子径は、5から100μmであることが好ましく、10から50μmであることがより好ましい。
【0050】
カーボンブラックは、微粒子が連なった凝集体から成る複雑な3次元構造を持っているため、正極10内にキャリアパスを形成し、導電性を向上させる役割を担う材料として、カーボンブラックは、特に好ましい。
【0051】
カーボンブラックは、その原料や製造方法などによりサーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ランプブラックなどに分類される。これらカーボンブラックの種類については、特に限定されるものではなく、目的の空気電池及び正極に適した特徴のものを適宜選択・採用することができるが、導電性カーボンブラックと呼ばれる材料が、特に適している。導電性カーボンブラックとしては、主にファーネス法、アセチレン法、ガス化法のいずれかの方法で製造されたもので、DBP吸収量が100ml/100g以上のものが好ましい。
【0052】
導電性カーボンブラックは、粒子径が小さい、多孔性で比表面積が大きい、一次粒子や二次粒子の凝集体が直線的に発達しているといった特徴を持ち、少量の添加量で導電性を付与できる材料である。そのため、これを正極10の材料に用いることで、より効率的に正極10内にキャリアパスを形成することが可能である。導電性カーボンブラックの平均粒子径は、1μmから20μmであることが好ましく、2μmから10μmであることがより好ましい。
【0053】
粒子状炭素として上記例示した材料は、それを1種類のみの単独で用いてもよいし、それら2種類以上を併用してもよい。特に、活性炭と、導電性カーボンブラックと、の併用は、それぞれの特性やサイズの違いにより、相互補完的に正極10としての機能を向上させ得るため、非常に有利である。
【0054】
繊維状炭素としては、カーボンファイバーやカーボンナノチューブ(CNT)などが挙げられる。その中でもカーボンファイバーは、軽量かつ機械的強度に優れ、適度な導電性を有するといった特徴から、正極10の構造的骨格を成し、触媒13などの他の材料を担持するといった機能を果たす主要な材料として、好ましい。カーボンファイバーは、その原料からPAN(ポリアクリロニトリル)系とピッチ系の二種類に大別されるが、いずれの種類のカーボンファイバーも、適用可能である。
【0055】
ここで、カーボンファイバーの平均長さは、0.1mmから10mmであることが望ましい。平均長さは、個々のカーボンファイバー繊維の長軸方向(繊維径と直交する方向)の、長さの算術的平均値を表す。例えば、カーボンファイバー糸などの長繊維カーボンファイバーを、切断・粉砕加工した、カットファイバーやチョップドファイバー、ミルドファイバーなどと呼ばれる短繊維カーボンファイバーが該当する。
【0056】
このような長さのカーボンファイバーは、上述した活性炭などよりも大きく、よりマクロな構造的骨格を形成することで、正極10に必要な機械的強度を担保すると同時に、他材料との組合せにより正極10内により効率的に空隙を形成することが可能となる。さらに、これらの機能をより効果的に発揮するために、異なる長さのカーボンファイバーを、2種類以上併用することが、より好ましい。具体的な例としては、0.1mmから0.3mm長のカーボンファイバーと、1mmから5mm長のカーボンファイバーとを、組み合わせて使用すると好適である。
【0057】
CNTは、五員環を含む炭素六角網平面構造体(グラフェン)がnmオーダーの直径のチューブ状になった物質であり、軽量、高機械強度、高柔軟性、高比表面積、高電荷移動度、などの優れた特性を示す。そのため、正極10を構成する繊維状炭素として用いることで、正極10の構造的骨格の形成並びに機械強度の向上や、キャリアパス形成による導電性の改善、酸素還元反応性の向上など、様々な効果を発現させることができる。これらの効果を十分に発揮するためには、比表面積500m/g以上、配向集合体の長さ100μm以上であることが好ましい。特に、配向集合体長さがおよそ100μmから600μmのCNTは、正極10を構成する他材料と混合・分散することで、ネットワーク構造を形成し、正極10の機械的強度をより向上させるため、好適である。
【0058】
CNTは、単層のチューブから成るシングルウォールCNT(SWCNT)と、複数層のチューブから成るマルチウォールCNT(MWCNT)と、がある。その構造からMWCNTに比べて比表面積や結晶性(配向性)の高いSWCNTの方が、より好ましく使用できるが、MWCNTも特に制限なく使用可能である。
【0059】
繊維状炭素として上記例示した材料は、それを1種類のみの単独で用いてもよいし、それら2種類以上を併用してもよい。特に、カーボンファイバーと、CNTと、の併用は、それぞれの特性やサイズの違いにより、相互補完的に正極10としての機能を向上させ得るため、非常に有利である。
【0060】
正極10は、炭素材料12以外に、触媒13やバインダー、その他添加剤などを含んでも良い。
【0061】
触媒13は、正極10での酸素還元反応を活性化させる役割を果たすもので、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)などの貴金属やその化合物、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの遷移金属やその化合物、鉄フタロシアニンなどの有機金属錯体、ABOで表わされる複合酸化物で、Aサイトにランタン(La)やストロンチウム(Sr)、BサイトにFeやCoなどが入ったものに代表されるペロブスカイト型酸化物、グラフェン、CNTやそれらに窒素やホウ素などをドープしたカーボンアロイ、などが挙げられる。中でも二酸化マンガン(MnO)などのマンガン酸化物は、他の触媒と比較して、コストや入手容易性の面で優位性がある。MnOは、触媒としての活性を効果的に発揮するため、比表面積が大きい多孔質のものが好ましく用いられ、特に比表面積100m/g以上であることが好ましい。
【0062】
これら例示した触媒は、単体で用いてもよいし、炭素材料やアルミナのようなセラミック材料などに担持させて用いてもよい。また、二種類以上の触媒を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
バインダーは、炭素材料12や触媒13などの正極10を構成する材料どうしを結着し、構造体としての正極10を構築する、またはそれに必要な強度の付与を図る役割を果たすもので、主に樹脂材料が用いられる。その具体的な例として、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、セルロースやカルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。
【0064】
バインダーには、電解質に対して化学的・物理的に安定であることが求められるが、その点でPTFEやPVDFといったフッ素樹脂は適している。また、これらのフッ素樹脂は適度な撥水性を示すため、電解液が正極10に極度に浸透して、必要な酸素供給が行われず、空気電池正極としての性能が低下するといった問題や、正極10を通過しての電解液の漏液といった問題を、解決することができる。
【0065】
バインダーは、先に例示したように、主に絶縁性の樹脂材料から成るため、正極10の導電性を確保するといった観点から、その含有量は少ない方が望ましい。正極10を構成する材料全体の1重量%から50重量%程度が好ましく、10重量%から30重量%程度がより好ましい。
【0066】
一方で、本発明はこれに限定されることなく、上述のCNTの様に、導電性を有しかつ機械的強度を向上させるなどの機能を有する材料を添加することで、正極10がその形状を保持できるのであれば、バインダーレスとしてもよい。
【0067】
炭素材料12及びその他の材料が、多孔性金属酸化物11と同様に、正極10中の場所に依らず実質的に均等に分散、存在していていても、偏りを持った状態で分散、存在していてもよい。即ち、正極10を構成する各材料が、各々の含有比率に、正極10中の場所に依る分布を持っていてもよい。
【0068】
例えば、導電性カーボンブラックのような高導電性の微細粒子の含有比率を高めることで、それらが密に充填され、領域中の空隙を埋め、良好なキャリアパスが形成される。そのため、導電性カーボンブラックの含有比率の高い正極10中の場所では、高い電荷輸送能を発現することができる。それに対して、カーボンファイバーのような比較的大きい(長い)サイズの構造体の含有比率を高めることで、それらがランダムに交差しながら重なり合い、領域中に多くの空隙が形成される。そのため、カーボンファイバーの含有比率の高い正極10中の場所では、高い酸素還元反応性を示すことが可能となる。
【0069】
(正極の製造方法)
図2を用いて、本発明の実施形態に係る空気電池用正極10の製造方法・プロセスについて説明する。図2は、正極10のプロセスの各工程・ステップとその流れを示すフローチャートである。
【0070】
まず、正極10を構成する材料の中で、液相で扱う必要のある材料を選択し、その材料に応じた溶媒と混ぜて、溶液または分散液を作製する(液作製工程:S1)。液相で扱う必要のある材料の例としては、バインダーとして用いる高分子樹脂や、繊維状炭素として用いるCNTなどが挙げられる。溶媒の例としては、水、エタノールやイソプロパノールなどの各種アルコール類、エーテル類、エステル類、カーボネート類、芳香族炭化水素溶媒、炭化水素溶媒の他、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、などが挙げられる。
【0071】
溶媒への材料の溶解または分散は、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、自転・公転方式ミキサー、ハイブリッドミキサー、ニーダー、超音波分散装置、ビーズミル分散装置、圧力せん断式分散装置などを、その材料に応じて適宜選択し、使用することができる。また、上記溶解または分散処理は、必要に応じて、加温・加熱や冷却といった条件下で行われてもよい。
【0072】
続いて、S1にて作製した溶液・分散液に、固相材料を加えて、混錬する(混錬工程:S2)。固相材料は、上述した多孔性金属酸化物11の他、炭素材料12や触媒13などを含む。混錬は、プラネタリーミキサー、自転・公転方式ミキサー、ハイブリッドミキサー、ニーダー、超音波分散装置、ビーズミル分散装置、圧力せん断式分散装置などを、その材料に応じて適宜選択し、使用することができる。中でも、自転・公転方式ミキサーは、自転と公転の相互作用で、渦巻流と上下対流が発生させ、気泡を押し出し、泡を巻き込むことなく撹拌、分散を進行させることが可能であり、好ましい。
【0073】
また、撹拌・分散時に材料に加わるせん断力は、正極の成形性、強度に影響するため、適正に制御されることが望ましい。せん断力が高いほど、バインダーとして用いる高分子樹脂が繊維化し、導電性粒子同士の結着性が増し、正極の強度は向上する傾向にある。一方で、せん断力が高すぎると、高分子樹脂の繊維化が進みすぎることで、全体が硬化してしまい、圧延によってシート状に成形できなくなるなど、成形性に課題が生じる。そのため、高分子樹脂が均一に分散された段階で混練を終えることが好ましい。
【0074】
本工程(S2)を経ることで、本発明の正極10を形成するための正極スラリーを得ることができる。
【0075】
次に、S2で得られた正極スラリーを、基材へと塗布する(塗布工程:S3)。塗布方法としては、ダイコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ブレードコート法、バーコート法、キャスティング法、ディップコート法、スプレーコート法、シャワーコート法、カーテンコート法、などの公知技術を適宜用いることができる。また、上記塗布処理は、所望の膜厚や成形度合いに調整する目的で、加圧(プレス)などの処理が併用で行われてもよい。
【0076】
基材は、上記正極スラリーに対して化学的・物理的に安定であること、後述する熱処理に耐え得ること、を満たしていれば良く、ガラスやセラミックス、SUS、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、各種耐熱性樹脂などの材料の、板材やフィルムをその例として挙げることができる。フィルム状の基材を用いる場合は、生産性の観点から、塗布方法としてロールコート法を選択することが好ましい。
【0077】
ここで、正極10が積層構造を有する場合は、その積層構造を構成するある一層と、その他の層と、で同じ塗布方法を用いてもよいし、異なる塗布方法を用いてもよい。また、上記基材上へある一層のスラリーを塗布して、その後、後述する熱処理を施してから、他の層のスラリーを塗布してもよい。
【0078】
上記スラリー状の材料が塗布された基材を、材料中の不必要な溶媒を除去する(乾燥)、材料どうしの結着性を上げて全体の強度を向上させる(焼成)、などの目的で、熱処理する(熱処理工程:S4)。熱処理には、例えば、熱風式乾燥装置、遠赤外線式乾燥装置、電気炉、マッフル炉、ホットプレートなどを用いることができる。また、熱処理による酸化を防がなければならないなど、用いる材料の特性によっては、窒素などの不活性雰囲気中で熱処理を行ってもよい。
【0079】
用いる材料の耐熱温度の範囲内であれば、熱処理の温度に特に制限はないが、温度が低すぎると不要な溶媒除去といった熱処理の目的が速やかに達成されず、温度が高すぎるとバインダーとして用いる高分子樹脂が融解してしまい、材料の分散状態が適正に保たれないなどの問題が発生する。例えば、溶媒にN-メチル-2-ピロリドン、バインダーとしてPVDFを用いた場合には、80℃から140℃の温度範囲で熱処理することが好ましい。また、必要に応じて、多段階に熱処理温度を変化させるなどしても、よい。
【0080】
本工程(S4)を経ることで、上記基材上に保持された本発明の正極10を得ることができる。
【0081】
S4の後に、上記基材上に保持された正極10を、基材から剥離して、自立したシート状、あるいはフィルム状の正極10を得る(剥離工程:S5)。本工程(S5)は必要に応じて行わればよく、行わずに、上記基材上に保持された状態での正極10としても、特に問題はない。例えば、上記基材に集電体を用いて、正極10を剥離せずに用いることで、集電体と一体化した正極10を得ることができる。上記集電体は、メッシュ状や波板状など通気部を有する形状で、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、SUSなどの導電性材料から成ればよい。
【0082】
(負極)
図1に示した負極2について説明する。負極2は、正極10との組み合わせにより起電力を生じさせられればよく、例えば、標準電極電位が水素より卑な金属単体又は合金から成る。標準電極電位が水素より卑な金属の具体例としては、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、などが挙げられる。
【0083】
負極2の形状としては、板状、箔(フィルム)状、粉体状など、が一例として挙げられるが、これらに限定されない。加えて、上記金属とは異なる材料から成る集電体や外部の電気回路に接続するための端子などが、一体化されて構成されてもよい。
【0084】
(電解質層)
図1に示した電解質層3について説明する。電解質層3は、正極10と、負極2と、の間に、それぞれに接して配置され、正極10及び負極2での化学反応に伴ったイオン伝導が行われる層である。電解質3は、固体でも液体でもよく、セパレータを有してもよい。
【0085】
電解質層3の典型的な構成例として、セパレータに電解液を含有させた構成が挙げられる。電解液は、例えば、負極2の材料を溶解(イオン化)するなど、負極2での酸化反応を生じさせる物質を使用できる。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液(水系電解液)を用いることができるが、これに限らず非水系の溶液(非水系電解液)などを用いてもよい。
【0086】
セパレータは、上述の電解液を保持し、正極10と、負極2と、を電気的に隔離する(短絡を防ぐ)機能を有していればよい。具体的には、PEやPPなどのポリオレフィンから成る微多孔膜や不織布、セルロース系繊維から成る不織布、セロハンなどの微多孔膜などが挙げられ、これらを単体で用いてもよいし、複合化や積層して用いてもよい。電解液に水酸化カリウム水溶液などの強アルカリ性溶液を用いる場合は、耐アルカリ性や保液性といった観点から、ビニロンから成る不織布やビニロンとパルプの混抄紙を好適に用いることができる。また、電解液への濡れ性の改善などを目的として、セパレータに樹脂加工などの表面処理を施しても、何ら問題はない。
【0087】
(筐体など)
本発明の実施形態に係る空気電池100は、図示しないが、正極10、負極2、および電解質層3を収納する筐体や、前記筐体内から電解液の漏出を防ぐガスケットや通気性撥水膜、気体拡散層や絶縁部材なども必要に応じて備えられる。
【0088】
上記筐体の形状は、円筒型、コイン型、平板型、ラミネート型等、公地の形状のものを用いることができ、例えばメッシュ状など通気可能な部分を含む形状であることが好ましい。また、空気や酸素などの気体を筐体内に供給及び排気する構造を備えていてもよい。
【0089】
(実施例)
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されるものではない。
【0090】
<実施例1>
(バインダー溶液の作製)
NMP(1級/キシダ化学社製)を、オイルバスを用いて加温しながら、PVDF(SOLEF6020/ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)を少量ずつ加えて溶解させた。その際、マグネチックスターラーやスパチュラなどの器具を使用し、撹拌を行った。そのようにして、バインダー溶液としてPVDF10wt%のNMP溶液を得た。
【0091】
(正極スラリーの作製)
正極の材料として、上述のバインダー溶液を38.0g、CNT0.3%分散液(ZEONANO 03DS-NP-RD/日本ゼオン社製)48.9g、導電性カーボンブラック(カーボンECP600JD/ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)1.8g、粒状活性炭(白鷺 FAC-10/大阪ガスケミカル社製)5.1g、平均長さが約3mmのカーボンファイバーA(CF-N C3 SZ無し/日本ポリマー産業社製)1.0g、平均長さが約0.15mmのカーボンファイバーB(CFMP―150RE/日本ポリマー産業社製)2.3g、活性化二酸化マンガン(AMD-200B/日本重化学工業社製)2.9g、シリカエアロゲル(P-200/キャボット社製)0.05g、それぞれを、電子天秤を用いて秤量した。
【0092】
上記材料中、固形分の総重量は約16.7gであり、シリカエアロゲルの含有比率は0.3%となる。
【0093】
秤量後の材料を混合し、自転・公転方式ミキサー(ARE-310/シンキー社製)を用いて撹拌・混錬して、正極スラリーを得た。
【0094】
(正極の作製)
正極スラリーを、厚さ0.3mmのSUS基板上へ、アプリケータやスキージを用いて塗布した。乾燥後、カッターナイフなどを用いて、塗工物をSUS基板から剥離し、正極シートを得た。更に、それをはさみで図4の形状に切断加工し、シリカエアロゲルの含有比率0.3%の正極を作製した。図4において、□15mmが有効電極部、それを除いた7mm×5mmの凸部が外部回路に接続する際に使用する端子部分(タブ)となる。
【0095】
(負極の作製)
厚さ0.5mmのMg板材(AZ31/アズワン)を、裁断機などで図4の形状に切断加工し、負極を作製した。また、表面は、やすりで極少量削り、酸化被膜を剥がした。
【0096】
(電解液の作製)
純水に塩化ナトリウムを加えて溶解させ、約17wt%の塩化ナトリウム水溶液を作製した。
【0097】
(Mg空気電池の作製)
銅メッシュ集電極、上述の正極、厚さ0.2mmのセパレータ(PE不織布、2cm×2cm)、上述の負極の順で積層し、これをスリット状の通気部を有する樹脂製ケースに、収納した。この際、正極と、負極と、の端子部分(タブ)は重ならないようにした。セパレータには、上述の電解液を約160μl滴下し、保持させた。このようにして、有効電極面積2.25cm2(1.5cm×1.5cm)を有するMg空気電池を作製した。
【0098】
<実施例2>
実施例1の正極スラリーの作製で、加えるシリカエアロゲルの量を0.17gに変えた以外は、実施例と同様にして、シリカエアロゲルの含有比率1.0%の実施例2の正極を作製した。
【0099】
加えて、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2のMg空気電池を作製した。
【0100】
<実施例3>
実施例1の正極スラリーの作製で、加えるシリカエアロゲルの量を0.53gに変えた以外は、実施例と同様にして、シリカエアロゲルの含有比率3.0%の実施例3の正極を作製した。
【0101】
加えて、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3のMg空気電池を作製した。
【0102】
<実施例4>
実施例1の正極スラリーの作製で、加えるシリカエアロゲルの量を1.29gに変えた以外は、実施例と同様にして、シリカエアロゲルの含有比率7.0%の実施例4の正極を作製した。
【0103】
加えて、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4のMg空気電池を作製した。
【0104】
<実施例5>
実施例1の正極スラリーの作製で、加えるシリカエアロゲルの量を1.9gに変えた以外は、実施例と同様にして、シリカエアロゲルの含有比率10.0%の実施例5の正極を作製した。
【0105】
加えて、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5のMg空気電池を作製した。
【0106】
<実施例6>
実施例1の正極スラリーの作製で、加えるシリカエアロゲルの量を3.02gに変えた以外は、実施例と同様にして、シリカエアロゲルの含有比率15.0%の実施例6の正極を作製した。
【0107】
加えて、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6のMg空気電池を作製した。
【0108】
<比較例>
実施例1の正極スラリーの作製で、シリカエアロゲルを除いた(加えない)以外は、実施例と同様にして、シリカエアロゲルの含有比率0%の比較例の正極を作製した。
【0109】
加えて、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例のMg空気電池を作製した。
【0110】
<評価>
(正極の外観)
作製した各々の正極の外観を、デジタルカメラで撮影した画像例を、図6に示す。図6(A)は比較例、図6(B)は実施例2、図6(C)は実施例4、図6(D)は実施例6、それぞれの正極の外観を示したものである。
【0111】
シリカエアロゲルの含有比率が高くなるにつれて、正極表面が白っぽく見えるようになっていった。これは、表面上のシリカエアロゲルによる光の散乱に起因していると考えられる。加えて、表面に亀裂が生ずる事例が見受けられるようになった。これは、シリカエアロゲルの含有比率が高いほど、バインダーの比率が相対的に低くなり、正極を構成する材料間の結着性が低下したためだと考えられる。
【0112】
(正極の微細構造)
作製されたそれぞれの正極について、正極断面の微細構造観察を、走査型電子顕微鏡(日立社製、S-4300)を用いて、行った。その結果を、図7から図9に示す。
【0113】
図7は、正極の断面形状を1000倍の倍率で観察した結果を示しており、図7(A)は比較例、図7(B)は実施例2、図7(C)は実施例4、図7(D)は実施例6、それぞれの画像である。これらの画像より、いずれの正極においても、~数十μm程度の大きさの、多くの空隙を有する多孔質構造になっていることが確認できた。
【0114】
図8(A)には、実施例2の正極の断面形状を2000倍の倍率で観察した結果を、図8(B)には、図8(A)の中央付近点線枠内の粒子を、走査型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分析装置を用いて、元素分析した結果を、それぞれ示す。図8(B)では、Si(ケイ素)の強いピークが検出され、図8(A)の中央付近点線枠内の粒子が、シリカエアロゲルであることを示している。また、図8(A)ではその粒子径がおよそ20μm程度だと確認できるが、その他に観察されたシリカエアロゲルの粒子の典型的な粒子径の範囲は、およそ数μmから数十μmの範囲であった。さらに、シリカエアロゲルを添加した他の実施例においても同様に、シリカエアロゲルの粒子を確認することができた。
【0115】
図9は、正極の断面およそ500μm×300μm範囲内の元素分析を行った結果であり、図9(A)は実施例2、図9(B)は実施例4、図9(C)は実施例6、それぞれの正極の断面を分析した結果である。正極のシリカエアロゲルの含有比率が高くなるにつれて、Siのピーク強度が強くなっていることが確認できた。
【0116】
(正極の電気抵抗)
作製された実施例1から6及び比較例の正極について、シート抵抗(表面抵抗率)を、抵抗率計(日立社製、S-4300)を用いて、行った。測定した値と、各々の正極のシリカエアロゲル含有比率との関係性を、図10に示す。
【0117】
シリカエアロゲルの含有比率が高くなるにつれて、シート抵抗が大きくなることが確認できた。特に、シリカエアロゲルの含有比率が10%より大きくなると、シート抵抗の増加が顕著にみられた。これは、絶縁性であるシリカエアロゲルが正極中に多く存在することで、正極全体の電気抵抗が増加することを示している。前記電気抵抗の増加が、正極並びに空気電池の特性を低下させる場合は、シリカエアロゲルの含有比率に上限を設定することができる。
【0118】
(放電特性)
作製された実施例1から6及び比較例のMg空気電池について、図5に示す電気回路により、定抵抗(R:10Ω)負荷接続での連続放電を行った。その際のMg空気電池の電圧変化を、デジタルマルチメータ(National社製、VP-2650A)を用いて、測定した。
【0119】
実施例1、2、4、6及び比較例のMg空気電池について、測定により得られた電圧(V)の値を、オームの法則V=IRより、電流(I)値に換算して、その時間変化を図11に示した。また、実施例1から6及び比較例のMg空気電池について、放電開始から10分間の平均電流値〔mA〕、電流と放電時間との積より放電開始から20分間の放電容量〔mAh〕、それぞれを求め、その結果を下記表1に記載した。実施例1から6はいずれも、平均電流値及び放電容量が、比較例よりも高い結果を示した。特に、平均電流値は実施例4において、放電容量は実施例5において、それぞれ最大値を示すに至った。
【0120】
これらの結果のとおり、本発明のMg空気電池は、酸素還元反応を促進する触媒と、前記触媒が表面に設けられた炭素材料と、前記炭素材料の表面に設けられた多孔性金属酸化物と、を有することを特徴とする空気電池用正極を用いることで、高い放電特性を発揮することができる。
【0121】
(変形例)
本発明は、前記実施例の構成に限らず適宜変更可能である。たとえば、下記の変形例を、前記実施例以外の構成の一例として、挙げることができる。
【0122】
図3は、本発明の変形例に係る空気電池用正極20並びに空気電池101の断面構造の模式図である。あくまでも、本発明の空気電池用正極20並びに空気電池101を説明するために、その概念のみを示した図であり、構成する材料の配置や比率、構造などの詳細は、これに限定されない。
【0123】
空気電池101は、正極20と、それを挟み込むように配置された負極2と、負極4と、の二つの負極、正極101と、負極2と、負極4と、の間に各々配置される電解質層3と、電解質層5と、の二つの電解質層から成る。
【0124】
図3に示すように、本変形例の空気電池用正極20は、多孔性金属酸化物11を含まない多孔性金属酸化物低含有比率領域21を挟み込むように配置された、多孔性金属酸化物高含有比率領域22と、多孔性金属酸化物高含有比率領域23と、の多孔性金属酸化物11を含有する二つの領域を備えること以外は、上述した実施例と同様である。なお、本変形では、上述した実施例(図1)と同一構成部分には同一符号を付して重複し、説明は省略する。
【0125】
本変形例の正極20は、その厚み方向に対して垂直に交わる面の両表面側に、多孔性金属酸化物高含有比率領域22と、多孔性金属酸化物高含有比率領域23と、を有する。多孔性金属酸化物高含有比率領域22と、多孔性金属酸化物高含有比率領域23と、はそれぞれ、多孔性金属酸化物11を相対的に多く含有することにより、酸素供給能に優れ、高い酸化還元反応活性を示すことができる。
【0126】
加えて、多孔性金属酸化物低含有比率領域21は、多孔性金属酸化物11の含有比率が低く緻密な構造であるため、カーボンブラックなどの正極20を構成する部材の粒子同士の接触率が高い。従って、ミクロレベルでの電荷輸送経路(キャリアパス)がより多く形成されて、高い電荷輸送能を示すことができる。
それぞれの領域で上述の機能を果たすことにより、図3に示すように、電解質を介して対向する負極を二つ配置する構成で、特に効果的な電極反応を行うことが可能となる。そのようにして、有効電極面積を増やすことで、電流値の増大や放電容量の向上などの効果を得ることができる。
【0127】
多孔性金属酸化物高含有比率領域22と、多孔性金属酸化物高含有比率領域23と、の多孔性金属酸化物11の含有比率は、いずれも多孔性金属酸化物低含有比率領域21のそれよりも高ければよく、それぞれ同じでもよいし、異なってもよい。
【0128】
他方、多孔性金属酸化物低含有比率領域21の多孔性金属酸化物11の含有比率は、多孔性金属酸化物高含有比率領域22と、多孔性金属酸化物高含有比率領域23と、のそれよりも低ければよい。多孔性金属酸化物低含有比率領域21が、多孔性金属酸化物11を含有しない(多孔性金属酸化物11含有比率が0%)場合でも、何ら問題はない。
【0129】
また、多孔性金属酸化物低含有比率領域21と、多孔性金属酸化物高含有比率領域22と、が隣接するにあたり、界面を有する積層構造を形成してもよいし、互いの領域どうしが正極20の厚み方向の一定の範囲で侵食し合うような、界面を有さない構造をとってもよい。同様に、多孔性金属酸化物低含有比率領域21と、多孔性金属酸化物高含有比率領域23と、の隣接においても、界面を有しても、界面を有さなくてもよい。
【0130】
なお、ここで言う界面とは、多孔性金属酸化物低含有比率領域21と、多孔性金属酸化物高含有比率領域22あるいは多孔性金属酸化物高含有比率領域23と、が接する面である。界面は、マクロレベルで各々の領域を隔てていればよく、多孔性金属酸化物低含有比率領域21と、多孔性金属酸化物高含有比率領域22あるいは多孔性金属酸化物高含有比率領域23と、を構成する材料の粒子、繊維サイズレベルでは、相互作用を有する。その結果、正極20全体として必要な機械的強度や導電性は保持される。
【0131】
本変形例の負極2と、負極4と、の材料や形状は、それぞれ同じでもよいし、異なってもよい。加えて、電解質層3と、電解質層5と、の材料や形状も同様に、それぞれ同じでもよいし、異なってもよい。
【0132】
空気電池101は、例えば、負極2、電解質層3、正極20、電解質層5、負極4の順で、あるいは、負極4、電解質層5、正極20、電解質層3、負極2の順で、それぞれ積層することで形成できる。また、正極20を中心に、筒状に電解質層3及び電解質層5、負極2及び負極4の順で配置することでも形成できる。この場合は、電解質3及び電解質5、負極2及び負極3、それぞれの材料や形状は、作製工程の簡易化という観点から、同じとすることが好ましい。
【0133】
<他の変形例、応用例>
以上、本発明を実施例及び変形例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上述した各実施例や変形例に限定されるものではない。例えば、上述した各実施例や変形例では、空気電池の一例として構成を例示して説明したが、本発明は勿論これに限定されず、例えば、燃料電池などへの応用が可能である。
【0134】
また、その用途に応じて、単位構造を積層化するなどしても、何ら問題はない。例えば、少なくとも正極、負極、電解質から成るセル構造を複数接続して、所謂、組電池としての構成を取ることで、電圧や電流、放電容量といった諸特性を、所望の水準へと向上させることも可能である。
【0135】
【表1】
【符号の説明】
【0136】
100、101 空気電池
10、20 正極
11 多孔性金属酸化物
111 シリカエアロゲル
12 炭素材料
121 活性炭
122 カーボンファイバー
13 触媒
131 二酸化マンガン
21 多孔性金属酸化物低含有比率領域
22、23 多孔性金属酸化物高含有比率領域
2、4 負極
3、5 電解質層

図1
図2
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図11