(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079107
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/185 20060101AFI20240604BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20240604BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240604BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20240604BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61K31/185
A61P39/02
A61P9/10
A61P43/00 105
A61K31/198
A61K31/341
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191839
(22)【出願日】2022-11-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】507292151
【氏名又は名称】株式会社アミンファーマ研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 一衛
(72)【発明者】
【氏名】植村 武史
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZC02
4C086ZC37
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206JA06
4C206JA57
4C206JA58
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA36
4C206ZC02
4C206ZC37
(57)【要約】
【課題】脳梗塞の組織傷害等に強く関与しているアクロレインの毒性低減効果を有する化合物等を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明者らは、哺乳類が体内摂取(特に、口腔摂取)可能な化合物を中心にスクリーニングすることにより、以下のいずれか1以上の化合物が上記効果を有することを確認して、本発明を完成した。
(1)2-フランメタンチオール
(2)システインメチルエステル
(3)システインエチルエステル
(4)アリイン
(5)リジン
(6)タウリン
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のいずれか1以上を含む、アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物。
(1)アリイン
(2)システインアルキルエステル
(3)2-フランメタンチオール
(4)リジン
(5)タウリン
【請求項2】
以下のいずれか1以上を含む、アクロレイン毒性低減用組成物。
(1)アリイン
(2)システインアルキルエステル
(3)2-フランメタンチオール
(4)リジン
(5)タウリン
【請求項3】
以下のいずれか1以上を含む、アクロレイン中和用組成物。
(1)アリイン
(2)システインアルキルエステル
(3)2-フランメタンチオール
(4)リジン
(5)タウリン
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1以上の組成物を含む、細胞傷害をともなうアクロレイン誘発疾患の予防又は治療剤。
【請求項5】
前記アクロレイン誘発疾患は脳梗塞又は脳卒中である、請求項4に記載の予防又は治療剤。
【請求項6】
タウリンを含む、脳梗塞又は脳卒中の予防又は治療剤。
【請求項7】
タウリンを含む、プトレシン及び/又はスペルミジンの増加用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物、アクロレイン毒性低減用組成物、アクロレイン中和用組成物、プトレシン及び/又はスペルミジンの増加用組成物、アクロレイン誘発疾患の予防又は治療剤、並びに、脳梗塞又は脳卒中の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(脳梗塞)
脳梗塞は、脳血管の閉塞によって引き起こされる重篤な症状であり、高齢者が寝たきりになる主な原因となっている。また、脳卒中は認知症やうつ病の主な原因ともなっている。毎年世界で約1,500万人が脳卒中に罹患している(http://www.emro.who.int/health-topics/strokecerebrovascularaccident/index.html)。脳卒中の発症率と重症度は加齢とともに増加するため、この疾患は高齢者の身体障害の主な原因の一つとなっている。高齢者の数は世界的に増加しているため脳梗塞の予防・治療法の確立は重要である。
【0003】
(アクロレイン)
本発明者らは、不飽和アルデヒドの一種であるアクロレイン(CH2=CH-CHO)が脳梗塞の組織傷害に強く関与していることを報告している(非特許文献1)。アクロレインは、0.2-0.4mMで細胞増殖を抑制する過酸化水素などの活性酸素種と比較して数μMのレベルで細胞増殖を阻害するため、より毒性が高い。アクロレインは、主に生体内のポリアミンであるスペルミンの酸化によって生成され、タンパク質と容易に反応し、アクロレインと結合したタンパク質が細胞毒性に寄与する。アクロレインは GAPDH(glyceraldehyde-3-phosphatedehydrogenate)を不活性化し、チューブリン、ビメンチン及びアクチンタンパク質と結合することにより、細胞骨格と結合して細胞骨格を破壊する。また、アクロレインは、シェーグレン症候群の組織傷害にも関与していることが報告されている。
なお、アクロレインは、細胞傷害の原因と考えられているスーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、及びヒドロキシルラジカルなどの活性酸素種(ROS)(非特許文献2)と比較しても、細胞毒性が非常に強いことが報告されている(非特許文献3、4)。また、アルデヒド基を有するアクロレインは反応性が高く、タンパク質のシステイン、リジン、ヒスチジン等の残基と選択的に反応してタンパク質抱合アクロレイン(PC-Acro)を生成することによりタンパク質を不活化することから、脳梗塞による細胞傷害の発生にはこのPC-Acroの発生も関与していると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
本発明者らは、N-アセチルシステイン及びそのエステル誘導体が、脳梗塞モデルマウスにおける脳梗塞に対して予防・治療効果を示すことを報告している(参照:特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Igarashi K, Kashiwagi K (2011) Protein-conjugated acrolein asa biochemical marker of brain infarction. Mol Nutr Food Res 55,1332-1341
【非特許文献2】Giorgio M, Trinei M, Migliaccio E, Pelicci PG (2007) Hydrogenperoxide: a metabolic by-product or a common mediator of ageing signals? NatRev Mol Cell Biol 8,722-728
【非特許文献3】Yoshida M, Tomitori H, Machi Y, Hagihara M, Higashi K, GodaH, Ohya T, Niitsu M, Kashiwagi K, Igarashi K (2009) Acrolein toxicity:Comparison with reactive oxygen species. Biochem Biophys Res Commun 378,313-318
【非特許文献4】Sharmin S, Sakata K, Kashiwagi K, UedaS, Iwasaki S, Shirahata A, Igarashi K (2001) Polyamine cytotoxicity in thepresence of bovine serum amine oxidase. Biochem Biophys Res Commun 282,228-235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、脳梗塞の組織傷害等に強く関与しているアクロレインの毒性低減効果を有する化合物、アクロレインの中和効果を有する化合物、アクロレインとグルタチオンの抱合阻害効果を有する化合物、さらに、細胞傷害をともなうアクロレイン誘発疾患の予防又は治療剤、並びに、脳梗塞予防・治療に効果を有する化合物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、哺乳類が体内摂取(特に、口腔摂取)可能な化合物を中心に上記いずれか1以上の効果を有する化合物をスクリーニングすることにより、以下のいずれか1以上の化合物が上記いずれか1以上の効果を有することを確認して、本発明を完成した。
(1)2-フランメタンチオール
(2)システインメチルエステル
(3)システインエチルエステル
(4)アリイン
(5)リジン
(6)タウリン
【0009】
本発明は以下の通りである。
1.以下のいずれか1以上を含む、アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物。
(1)アリイン
(2)システインアルキルエステル
(3)2-フランメタンチオール
(4)リジン
(5)タウリン
2.以下のいずれか1以上を含む、アクロレイン毒性低減用組成物。
(1)アリイン
(2)システインアルキルエステル
(3)2-フランメタンチオール
(4)リジン
(5)タウリン
3.以下のいずれか1以上を含む、アクロレイン中和用組成物。
(1)アリイン
(2)システインアルキルエステル
(3)2-フランメタンチオール
(4)リジン
(5)タウリン
4.前項1~3のいずれか1以上の組成物を含む、細胞傷害をともなうアクロレイン誘発疾患の予防又は治療剤。
5.前記アクロレイン誘発疾患は脳梗塞又は脳卒中である、前項4に記載の予防又は治療剤。
6.タウリンを含む、脳梗塞又は脳卒中の予防又は治療剤。
7.タウリンを含む、プトレシン及び/又はスペルミジンの増加用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物、アクロレイン毒性低減用組成物、アクロレイン中和用組成物、プトレシン及び/又はスペルミジンの増加用組成物、アクロレイン誘発疾患の予防又は治療剤、又は、脳梗塞又は脳卒中の予防又は治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】アクロレインによる細胞毒性に対する食品成分の影響。Neuro2a細胞を10μM アクロレイン存在下で、10μM 2-フランメタンチオール(2-FMT)、30μM システインメチルエステル及びシステインエチルエステル(CysMe及びCysEt)、100μM アリイン、10mM リジン又は30mM タウリンをそれぞれ添加して培養し、生細胞数を測定した。各データ及びエラーバーは、3回測定の平均値±標準偏差で示した。食品成分の構造はグラフとともに示した。
【
図2】食品成分によるアクロレインの中和効果。アクロレイン(10μM)存在下で、10 μM 2-フランメタンチオール(2-FMT)、30μM システインメチルエステル及びシステインエチルエステル(CysMe and CysEt)、100μM アリイン、10mM リジン又は30mM タウリンをそれぞれ添加して保温した。指定された間隔で、残存する遊離アクロレインを以下の実施例に記載されているように測定した。各データ及びエラーバーは、3回測定の平均値±標準偏差で示した。
【
図3】食品成分による細胞内グルタチオン含量への影響。Neuro2a 細胞を 10μM acrolein非存在下(開列)又は存在下(塗りつぶし列)で食品成分とともに培養し、グルタチオン含量を以下の実施例に記載されているように測定した。使用した食品成分の濃度は、
図2と同じである。各データ及びエラーバーは、3回測定の平均値+標準偏差で示した。***, p < 0.005.
【
図4】タウリンの脳梗塞に対する効果(A)及びアクロレインとタウリンの有無によるNeuro2a細胞のタウリン含量の変化(B)。(A)実験はコントロールマウス9匹とタウリン注入マウス10匹を用いて以下の実施例に記載の通り実施した。**. p < 0.01. (B)Neuro2a細胞を30mM タウリンとともに2日間保温し、さらに10μM アクロレインとともに又はアクロレインなしで2日間保温し、細胞中のタウリン含量を測定した。各データ及びエラーバーは、3回測定の平均値±標準偏差で示した。*, p < 0.05; **, p < 0.01.
【
図5】食品成分によるポリアミン含量への影響。Neuro2a細胞を食品成分とともに培養し、10μM アクロレイン存在下(黒棒)及び非存在下(白棒)で、以下の実施例に記載されているようにポリアミン含量を測定した。各データ及びエラーバーは、3回測定の平均値±標準偏差で示した。
【
図6】ポリアミンによるアクロレインの中和効果(A)及びポリアミン生合成・代謝酵素のレベルに対するアクロレインとタウリンの影響(B)。(A)アクロレイン(10μM)存在下で、10mMのプトレシン、スペルミジン又はスペルミンをそれぞれ2、5、10及び20分間保温し、残存する遊離アクロレインを以下の実施例に記載されているように測定した。各データ及びエラーバーは、3回測定の平均値±標準偏差で示した。(B)Neuro2a細胞を10μM アクロレイン及び30mM タウリンとともに、又はタウリンを含まない状態で3日間培養した。各タンパク質のレベルはウェスタンブロッティング法によって、バンド強度は、以下の実施例に記載されているように定量した。実験は3回の測定の平均値±標準偏差で示した。ポリアミン生合成酵素(ODC、AMD1、SPMS)のレベルは、アクロレイン又はタウリンによって有意に変化したが、代謝酵素(SMO、Ac-PAO、SSAT)のレベルは変化しなかった。*, p < 0.05; **, p < 0.01; ***, p < 0.005 無添加に対して。
【
図7】ミトコンドリア電位に対するアクロレインとタウリンの影響。Neuro2a細胞を10μM acrolein 又は30mM taurineとともに3日間培養した後、細胞を洗浄し、新しい培地内でMitoTracker Orangeとともに37℃で30分間保温し、以下の実施例に記載されているように蛍光強度を観察した。実験は3回繰り返し、再現性のある結果が得られた。
【0012】
(本発明の対象)
本発明は、アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物、アクロレイン毒性低減用組成物、アクロレイン中和用組成物、プトレシン及び/又はスペルミジンの増加用組成物、アクロレイン誘発疾患の予防又は治療剤、並びに、脳梗塞又は脳卒中の予防又は治療剤を対象とする(以後、「本発明の組成物・剤」と略する場合がある)。なお、予防と治療には、予防、再発予防、軽減、治療又は完治を含む。
また、本発明の組成物とは、各種剤(治療・予防剤)、食品(サプリメント、飲料)、食品組成物等を含む。
【0013】
(アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物)
本発明の「アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物」には、アクロレインとグルタチオンの抱合阻害に必要な有効量の以下の化合物(以後、「本発明の化合物」と称する場合がある)のいずれか1以上を含む。
(1)アリイン
(2)システインアルキルエステル
(3)2-フランメタンチオール
(4)リジン
(5)タウリン
なお、システインアルキルエステルとは、システインメチルエステル、システインエチルエステル、システインプロピルエステル、システインイソプロピルエステル、システインブチルエステル等を含む。
本発明の「アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物」は、アクロレインとグルタチオンの抱合阻害効果により、グルタチオンのアクロレイン解毒作用を増強する。
これにより、本発明の「アクロレインとグルタチオンの抱合阻害用組成物」は、細胞傷害をともなうアクロレイン誘発疾患{特に、脳梗塞、脳卒中、シェーグレン症候群・認知症・慢性腎臓病(参照:Amino Acids. 2020 Feb;52(2):119-127. doi: 10.1007/s00726-019-02700-x.)、パーキンソン病(参照:Sasazawa Y,Souma S, Furuya N,Miura Y, Kazuno S, Kakuta S, Suzuki A, Hashimoto R, Hirawake-Mogi H, Date Y,Imoto M, Ueno T, Kataura T, Korolchuk VI, Tsunemi T, Hattori N, Saiki S (2022) Oxidativestress-induced phosphorylation of JIP4 regulates lysosomal positioning incoordination with TRPML1 and ALG2. EMBO J. 41, e111476)、全身性エリトマトーデス(参照:Shah D, Mahajan N, Sah S, NathSK, Paudyal B (2014) Oxidative stress and its biomarkers in systemic lupuserythematosus. J Biomed Sci. 21, 23)、リウマチ(参照:Kawabata C, Nagasawa T, Ono M, Tarumoto N, Katoh N, Hotta Y, KawanoH, Igarashi K, Shiokawa K, Nishimura K. (2021) Plasma acrolein level inrheumatoid arthritis increases independently of the disease characteristics. ModRheumatol. 31, 357-364)、脊髄損傷・多発性硬化症(参照:Tully M, Zheng L, Shi R. (2014) Acrolein detection: potentialtheranostic utility in multiple sclerosis and spinal cord injury.Expert RevNeurother. 14, 679-685)}に効果がある。
【0014】
(アクロレイン毒性低減用組成物)
本発明の「アクロレイン毒性低減用組成物」には、アクロレイン毒性低減に必要な有効量の以下のいずれか1以上を含む。
(1)アリイン
(2)システインアルキルエステル
(3)2-フランメタンチオール
(4)リジン
(5)タウリン
本発明の「アクロレイン毒性低減用組成物」は、アクロレインの細胞増殖抑制作用(毒性)を低減する。
これにより、本発明の「アクロレイン毒性低減用組成物」は、細胞傷害をともなうアクロレイン誘発疾患(特に、脳梗塞、脳卒中、シェーグレン症候群、認知症、パーキンソン病、全身性エリトマトーデス、リウマチ、慢性腎臓病、脊髄損傷、多発性硬化症)に効果がある。
【0015】
(アクロレイン中和用組成物)
本発明の「アクロレイン中和用組成物」には、アクロレイン中和に必要な有効量の以下の化合物をいずれか1以上を含む。
(1)アリイン
(2)システインアルキルエステル
(3)2-フランメタンチオール
(4)リジン
(5)タウリン
本発明の「アクロレイン中和組成物」は、アクロレインと抱合することによりアクロレインの活性等を中和する。
これにより、本発明の「アクロレイン中和組成物」は、細胞傷害をともなうアクロレイン誘発疾患(特に、脳梗塞、脳卒中、シェーグレン症候群、認知症、パーキンソン病、全身性エリトマトーデス、リウマチ、慢性腎臓病、脊髄損傷、多発性硬化症)に効果がある。
【0016】
(脳梗塞又は脳卒中の予防又は治療剤)
本発明の「脳梗塞又は脳卒中の予防又は治療剤」には、脳梗塞又は脳卒中の予防又は治療に必要な有効量のタウリンを含む。
【0017】
(プトレシン及び/又はスペルミジンの増加用組成物)
本発明の「プトレシン及び/又はスペルミジンの増加用組成物」には、細胞中のプトレシン及び/又はスペルミジンの増加に必要な有効量のタウリンを含む。
【0018】
(本発明の化合物の有効量)
本発明の化合物の有効量は、生体内に摂取されることができる化合物であるので、本発明の組成物・剤に含まれる含有量は特に限定されない。本発明の組成物・剤の正確な摂取量・投与量及び投与計画は、個々の治療対象(例えば、ヒトを含む哺乳類)毎の所要量、治療方法、疾病又は必要性の程度などに依存して調整できる。投与量は、具体的には年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、及び患者の病状などに応じて決めることができ、さらに、その他の要因を考慮して決定してもよい。例えば、以下を例示することができる。
(1)アリイン
組成物・剤100g当たり10~10000mg、100~1000mg又は200~500mgである。
(2)システインアルキルエステル
組成物・剤100g当たり100~50000mg、500~20000mg又は1000~5000mgである。
摂取量は1日当たり通常1μg/kg体重~800mg/kg体重の範囲であり、100μg/kg体重~100mg/kg体重の範囲が好ましい。
(3)2-フランメタンチオール
組成物・剤100g当たり1~1000mg、10~100mg又は20~50mgである。
(4)リジン
組成物・剤100g当たり100~20000mg、500~10000mg又は1000~2000mgである。
(5)タウリン
組成物・剤100g当たり10~10000mg、100~1000mg又は200~500mgである。
【0019】
(本発明の組成物・剤の投与方法)
本発明の組成物・剤は、経口的又は非経口的に投与されることができる。経口投与には、錠剤、カプセル、コーティング錠、トローチ、溶液又は懸濁液などの液剤といった既知の投与用剤形を用いることができる。また、非経口投与は、注射による脳内(脳室内)、静脈内、筋肉内、又は皮下への投与、スプレーやエアロゾルなどを用いた経鼻腔や口腔などの経粘膜投与、坐剤などを用いた直腸投与、パッチやリニメントやゲルなどを用いた経皮投与などを挙げることができる。好ましくは、経口投与を挙げることができる。
【0020】
(本発明の組成物・剤の構成)
本発明の組成物・剤は、アクロレイン誘発疾患の予防及び/又は治療用サプリメント、アクロレイン誘発疾患の予防及び/又は治療用等として、利用することができる。
本発明の組成物・剤は、有効成分である本発明の化合物に加え、アクロレイン誘発疾患の治療効果がある他の薬効成分も含んでも良い。
また、これら薬効成分の他に、適宜、投与形態などに応じて、当業者によく知られた適切な薬学的に許容される担体を含有していてもよい。薬学的に許容される担体としては、抗酸化剤、安定剤、防腐剤、矯味剤、着色料、溶解剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、消泡剤、粘度調整剤、ゲル化剤、吸収促進剤、分散剤、賦形剤、及びpH調整剤などを例示できる。
【0021】
(本発明の組成物・剤の調製方法)
本発明の組成物・剤を注射用製剤として調製する場合は、溶液剤又は懸濁剤の製剤の形態が好ましい。経鼻腔や口腔などの経粘膜投与用の場合は、粉末、滴剤、又はエアロゾル剤の製剤の形態が好ましい。直腸投与用の場合は、クリ-ム又は坐薬のような半固形剤の製剤の形態が好ましい。
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。すべての動物実験は、千葉大学動物実験委員会の承認を受け、千葉大学動物実験指針に準拠して実施された。
【実施例0023】
材料、各測定方法及びモデルマウスの構築方法は、以下の方法で行った。
【0024】
(細胞培養)
マウス神経芽細胞腫由来 Neuro2a 細胞を、50 U/ml ストレプトマイシン、100 U/ml ペニシリン G及び10%ウシ胎児血清を添加したダルベッコ最小必須培地(MEM)を使用して、37℃、5% CO2の条件下で培養した。細胞増殖解析のために6-wellプレートに(BD Falcon、増殖領域の大きさ約10 cm2/well)に2×105 cells/well で播種し,12時間培養した。その後、10μMのアクロレイン(東京化成工業)及び2-フランメタンチオール(東京化成工業)、システインメチルエステル及びシステインエチルエステル(東京化成工業)、アリイン(Sigma-Aldrich)、リジン(ナカライテスク)及びタウリン(ナカライテスク)を指示濃度で培地に加え、3日間細胞を増殖させた。細胞の生存率は0.2%トリパンブルー溶液で染色することにより、測定した。
【0025】
(グルタチオン、タウリン、ポリアミン及びタンパク質含量の測定)
細胞中のグルタチオンとタウリンの含有量は、それぞれGlutathione Assay Kit(Cayman Chemical)、Taurine Assay Kit(Cell Biolabs)を用いて測定した。細胞を氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、0.4 M 2-(N-morpholino)ethanesulphonic acid, 0.1 M phosphate and 2 mM EDTA, pH 6.0 を含むMES緩衝液でホモジナイズし、等量の0.2 M trichloroacetic acidを加えて4℃、10分間混和した。遠心分離後、上清をMES緩衝液で希釈し、製造元のプロトコールに従って総グルタチオン量とタウリン量を測定した。細胞中のポリアミン含量を測定した(参照:Sci Rep 7(1) (2017) 14841.)。細胞中のタンパク質含量は BCA protein assay kit (ナカライテスク)を用いて、ウシ血清アルブミンを標準物質として測定した。
【0026】
(光化学誘発性血栓症(PIT)モデルマウス)
PITモデルマウスは、8週齢の雄C57BL/6マウス(体重22-26 g)を用い、文献「Stroke 40(10) (2009)3356-3361.」に記載に従い、コントロールマウス9匹とタウリン注入マウス10匹を用いて作製した。タウリンの投与は、梗塞を誘発する直前に腹腔内投与した。タウリンの有効性は,体重1kgあたり2gのタウリンを投与したときの梗塞巣の減少量として算出した。麻痺、痙攣、著しい体重減少などの症状を呈したマウスはなかった。
【0027】
(抗アクロレイン試薬存在下での遊離型アクロレイン量の測定)
Alarcon(参照:Anal Chem 40(11) (1968) 1704-1708.)の方法に従って遊離型アクロレインを測定した。67 mM Na+-phosphate緩衝液, pH 7.5,10 μM acrolein,及び指示濃度の試薬を含む反応混合物 (0.3 mL) を37℃で2.5、5、10、20分保温した。時間ごとに反応液50 μLを取り出し,92 mM m-aminophenol,172 mM hydroxylamine hydrochloride及び3 M HClを含む等量の溶液と混合した。この混合物を10分間煮沸した後,遠心分離後の上清10 μLを用いて,Bohnenstengelらの方法(参照:J Chromatogr B BiomedSci Appl 692(1)(1997) 163-168.)に従ってアクロレイン含量をHPLCで定量した。7-ヒドロキシキノリン(アクロレイン誘導体)の蛍光は励起波長358 nm、発光波長510 nmで測定した。
【0028】
(ウェスタンブロッティング)
細胞をPBSで洗浄し、610 μg/ml アプロチニン、500 μM オルトバニジン酸ナトリウム及び10 μg/ml フェニルメチルスルホニルフルオリドを含むRIPA緩衝液(ナカライテスク)中で溶解した。タンパク質を10% SDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、Immobilon-Eトランスファーメンブレン(Merck Millipore)に電気泳動で移した。ブロットは、0.1% Tween 20を含むトリス緩衝生理食塩水(TBS-T)中の5%脱脂粉乳で30分間室温にてブロッキングした。タンパク質の検出は、抗ODC1 (Proteintech)、 抗AMD1 (Cell SignalingTechnology)、 抗スペルミジン合成酵素 (Proteintech)、 抗SMO (Abcam)、 抗AcPAO (Abcam) 、抗SSAT1 (Abcam) 、抗蛋白結合アクロレイン (PC-Acro, 日油) 及び抗アクチン (Santa Cruz Biotechnology) 抗体及びECL Western Blotting Detection System (GE Healthcare) を用いた。Amersham Imager 600 (GE Healthcare) を用いて画像化した後、バンド強度はImageJプログラム(Nat Methods 9(7) (2012) 671-675.)を用いて、アクチン(ローディングコントロール)の発現量に対する正規化により相対的発現量として表した。
【0029】
(ミトコンドリアの染色)
Neuro2a細胞を10 μM acrolein 及び/又は30 mM taurineと共に、又は無添加で3日間培養した。その後、細胞を新鮮な培地で洗浄し、0.5 μM MitoTracker Orange (Invitrogen)と共に37℃で30分間インキュベートした。蛍光染色されたミトコンドリアは、Evos FL Auto2蛍光顕微鏡でCelleste画像解析ソフトウェア(Invitrogen)を用いて観察した。すべての画像は、顕微鏡の同じ設定で撮影し、任意のトリミングや調整を適用した。
【0030】
(統計解析)
統計解析は、文献「Int J Biochem Cell Biol 113 (2019)58-66.」に記載の通りに行った。複数群の比較には、一元配置分散分析に続いてボンフェローニの多重比較検定を使用した。