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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079111
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/08 20200101AFI20240604BHJP
   B60W 30/16 20200101ALI20240604BHJP
   B60W 30/12 20200101ALI20240604BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20240604BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B60W50/08
B60W30/16
B60W30/12
B60W30/09
G08G1/16 C
G08G1/16 E
G08G1/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191847
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝彦
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA02
3D241BA12
3D241BA26
3D241BA33
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CD12
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB01Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DB20Z
3D241DC02Z
3D241DC18Z
3D241DC33Z
3D241DC35Z
3D241DC37Z
3D241DC40Z
3D241DC43Z
3D241DC45Z
3D241DC50Z
5H181AA01
5H181AA21
5H181BB04
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC24
5H181FF04
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
5H181LL15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自動車線維持システムにおいて、道路の見通しが悪い状況でEM機能が作動した場合に、過度のオーバーライドを抑制する装置を提供する。
【解決手段】車線内自動走行機能、またはEM機能の作動中に、運転者による所定閾値以上の操作介入があった場合に、作動中の機能を停止して前記運転者への権限移譲を行うオーバーライド機能とを有する車両の走行制御装置において、経路生成部12は、目標経路上に、道路の見通し度合いが所定値よりも低い見通し不良エリアが存在するか否かを判定するように構成され、オーバーライド機能は、所定閾値として、車線内自動走行機能の作動中には第1の閾値が設定され、見通し不良エリアでのEM機能の作動時は第2の閾値が設定されるように構成されており、第2の閾値は、第1の閾値よりも大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車線と隣接車線および前記各車線上の他車および周囲環境を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能とを含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と
を備える車両の走行制御装置であって、
自車線に先行他車が存在しない場合は設定車速を維持し、先行他車が存在する場合は設定車間距離を維持して車線内自動走行を行う車線内自動走行機能と、
自車線前方に存在する障害物との衝突が予想される場合に、緊急ブレーキの作動を含む緊急回避制御を実行するEM機能と、
前記車線内自動走行機能、または前記EM機能の作動中に、運転者による所定閾値以上の操作介入があった場合に、作動中の機能を停止して前記運転者への権限移譲を行うオーバーライド機能と
を有するものにおいて、
前記経路生成部は、前記目標経路上に、道路の見通し度合いが所定値よりも低い見通し不良エリアが存在するか否かを判定するように構成され、
前記オーバーライド機能は、前記所定閾値として、前記車線内自動走行機能の作動中には第1の閾値が設定され、前記見通し不良エリアでの前記EM機能の作動時は第2の閾値が設定されるように構成されており、前記第2の閾値は、前記第1の閾値よりも大きい、車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記オーバーライド機能は、前記所定閾値として、前記見通し不良エリア以外での前記EM機能の作動時には第3の閾値が設定されるように構成されており、
前記第3の閾値は、前記第2の閾値よりも小さく、かつ前記第1の閾値よりも大きい、請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記見通し度合いは、道路上の障害物を視認可能な視認可能距離として定義され、道路の曲率半径と縦断勾配、および前記道路沿いに存在する地物に関する道路情報に基づいて決定され、
前記所定値は、前記目標経路において障害物を検知してから前記障害物と衝突せずに制動停止するために必要な制動距離として定義され、前記道路情報と、前記目標経路の制限速度情報に基づいて決定され、
前記経路生成部は、前記視認可能距離が前記制動距離よりも小さい場合に、前記見通し不良エリアが存在すると判定する、請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記経路生成部は、前記道路情報に基づいて、前記見通し不良エリアが、車両横方向の見通し度合いが悪い横方向見通し不良エリアか、車両縦方向の見通し度合いが悪い縦方向見通し不良エリアかを判定するように構成され、
前記オーバーライド機能は、前記所定閾値として、前記運転者による操舵介入があった場合の操舵オーバーライド閾値と、前記運転者による加減速操作介入があった場合の加減速オーバーライド閾値をそれぞれ設定するように構成され、
前記オーバーライド機能は、前記見通し不良エリアでの前記EM機能の作動時に前記第2の閾値として設定される前記操舵オーバーライド閾値と前記加減速オーバーライド閾値について、
前記横方向見通し不良エリアの前記操舵オーバーライド閾値は、前記縦方向見通し不良エリアの前記操舵オーバーライド閾値よりも大きく、
前記縦方向見通し不良エリアの前記加減速オーバーライド閾値は、前記横方向見通し不良エリアの前記加減速オーバーライド閾値よりも大きくなるように構成されている、請求項3に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記経路生成部は、前記車線内自動走行機能の作動中に、前記車両の位置情報および地図情報に基づき、前記EM機能の作動に備えて前記目標経路上に緊急退避エリアを設定する退避エリア設定部を有し、
前記退避エリア設定部は、前記EM機能の作動時に、前記緊急退避エリア内から目標停止位置を選択するように構成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両の走行制御装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に関し、さらに詳しくは、他車両との衝突を回避するための緊急回避制御の作動中における車両走行制御に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の操作を必要とせずに車両の前後左右の動きを制御することにより、車両を車線内に保持し、所定の速度以下で走行させる自動車線維持システム(ALKS:Automatically Lane Keeping System)が知られている。自動車線維持システムは、例えば障害物との衝突が予測される場合に、衝突を回避するために緊急回避制御に移行するエマージェンシーマニューバ(EM:Emergency Maneuver)機能を有する。EM機能は、例えば、最大減速度での減速と操舵を併用し、最終的には車両を停止させるように構成されている。自動車線維持システムは、通常、EM機能を含む自動車線維持システムの作動中に運転者によるオーバーライド操作があると、オーバーライド操作を優先して運転者への権限移譲を行うように構成されている。
【0003】
EM機能に関し、例えば特許文献1には、障害物と衝突する可能性が高いと判定したとき、障害物との相対速度を「0」とするための強ブレーキ制御を実行する車両の走行制御装置が開示されている。相対速度が「0」となるまでの予測走行距離が障害物との相対距離よりも長いときに衝突回避のための操舵介入が許可される。強ブレーキ制御の作動時に、操舵介入が許可され、かつ障害物との衝突予測時間が時間閾値以下となったとき、障害物との衝突回避のための緊急操舵制御が実行される。
【0004】
また、例えば特許文献2には、目標軌跡に追従するように車両を自動で運転する自動運転機能と、車両に及ぶ危険を回避する予防安全機能とを有する自動運転車両が開示されている。自動運転の実行中に車両に差し迫った危険が予測された場合には、予防安全機能の自動運転への介入が行われる。しかし、自動運転システムが正常な状態において自動運転への介入を拒否している場合は、自動運転への介入が停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-60076号公報
【特許文献2】特開2022-91517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、自動車線維持システムにおいては、EM機能の作動中であっても、運転者によるオーバーライド操作があると、車両の操作がシステムから運転者へ移譲されるオーバーライドが可能である。しかし、例えば見通しが悪い道路を走行中は、自車線前方の状況検知に遅れが生じる可能性があり、見通しが悪い状況でEM機能が作動することによって運転者が慌ててしまい、過度の運転操作を行うことによってオーバーライドが実行される可能性がある。このような過度のオーバーライドの場合、運転者自らの運転操作によって適切な衝突回避操作を行うことは難しく、例えば対向車線上の他の車両との衝突や道路外への逸脱などを誘発するリスクがある。
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、自動車線維持システムにおいて、道路の見通しが悪い状況でEM機能が作動した場合に、過度のオーバーライドを抑制し、緊急回避制御を安定的に実行できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、自車線と隣接車線および前記各車線上の他車および周囲環境を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能とを含む環境状態推定部と、前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部とを備える車両の走行制御装置であって、自車線に先行他車が存在しない場合は設定車速を維持し、先行他車が存在する場合は設定車間距離を維持して車線内自動走行を行う車線内自動走行機能と、自車線前方に存在する障害物との衝突が予想される場合に、緊急ブレーキの作動を含む緊急回避制御を実行するEM機能と、前記車線内自動走行機能、または前記EM機能の作動中に、運転者による所定閾値以上の操作介入があった場合に、作動中の機能を停止して前記運転者への権限移譲を行うオーバーライド機能とを有するものにおいて、前記経路生成部は、前記目標経路上に、道路の見通し度合いが所定値よりも低い見通し不良エリアが存在するか否かを判定するように構成され、前記オーバーライド機能は、前記所定閾値として、前記車線内自動走行機能の作動中には第1の閾値が設定され、前記見通し不良エリアでの前記EM機能の作動時は第2の閾値が設定されるように構成されており、前記第2の閾値は、前記第1の閾値よりも大きい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両の走行制御装置は、道路の見通しが悪い状況でEM機能が作動した場合に、過度のオーバーライドを抑制し、他の車両との衝突や道路外への逸脱のリスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施の形態における車両の走行制御装置を示す概略図である。
図2図2は、車両の外界センサ群を示す概略的な平面図である。
図3図3は、車両の走行制御システムを示すブロック図である。
図4図4は、車両の走行制御システムにおける制御の状態遷移図である。
図5図5は、EM機能の制御の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
-第1の実施の形態-
以下、本発明の第1の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態による車両の走行制御装置は、レーダおよびカメラ等の外界センサを用いて自車両位置および自車両の周囲環境を認識し、車速と操舵を制御することによって所定車速(例えば、60km/h)以下で単一車線内での自動走行を行う自動車線維持システム(ALKS:Automatically Lane Keeping System)の機能を有している。
【0012】
ALKSは、車間距離制御システム(ACCS:Adaptive Cruise Control System)と、車線維持支援システム(LKAS:Lane Keeping Assistance System)とを組み合わせたシステムである。ALKSの主な機能は、車線区分線認識、車線内自車位置認識、目標車速・目標経路生成、車速制御・車線内経路追従制御、自動操舵などを含む。ここで、車速制御・車線内経路追従制御とは、目標車速・目標経路を実現するために必要な車速および操舵の制御を意味する。自動操舵とは、電動パワーステアリングによって、経路追従のための目標操舵角を実現するために必要な操舵トルクで操舵を行うことを意味する。
【0013】
図1から図3において、本実施の形態に係る走行制御装置を備えた車両1は、エンジン、車体、タイヤなど一般的な自動車の構成要素に加え、従来運転者が行っていた認知・判断・操作を車両側で行うために、車両周囲環境を検知する外界センサ21、運動状態を含む車両情報を検知する内界センサ22、地図情報データベース23、測位手段24、速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群、車間距離制御のためのACCコントローラ15、車線維持制御のためのLKAコントローラ16、および、それらを統括して車線内自動走行制御を実行するための自動運転コントローラ10を備えている。
【0014】
速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群は、操舵制御のためのEPS(電動パワーステアリング)コントローラ31、加減速度制御のためのエンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33を含む。ESP(登録商標;エレクトロニックスタビリティプログラム)はABS(アンチロックブレーキシステム)を包括してスタビリティコントロールシステム(車両挙動安定化制御システム)を構成する。
【0015】
外界センサ21は、自車線および隣接車線を画定する道路上の区分線、自車周辺にある他車両や人物などの障害物の存在と相対距離を画像データや点群データなどの外界データとして自動運転コントローラ10に入力するための複数の検知手段からなる。
【0016】
例えば、図2に示すように、車両1は、前方検知手段211,212としてミリ波レーダ(211)およびカメラ(212)、前側方検知手段213および後側方検知手段214としてLIDAR(レーザ画像検出/測距)、後方検知手段215としてカメラ(バックカメラ)を備えている。外界センサ21は、自車両周囲360度をカバーし、それぞれ自車前後左右方向の所定範囲内の他車両や障害物等の位置と距離、自車線および隣接車線の区分線位置を検知できるように配置されている。なお、後方検知手段215としてミリ波レーダ(またはLIDAR)を追加することもできる。
【0017】
内界センサ22は、車速センサ、ヨーレートセンサ、加速度センサなど、車両の運動状態を表す物理量を計測する複数の検知手段からなる。図3に示すように、内界センサ22のそれぞれの測定値は、自動運転コントローラ10、ACCコントローラ15、LKAコントローラ16、および、EPSコントローラ31に入力され、外界センサ21からの入力とともに演算処理される。
【0018】
外界センサ21および内界センサ22は、車両1の起動と同時に作動開始し、周囲環境および車両情報を常時検出するように構成されている。
【0019】
自動運転コントローラ10は、環境状態推定部11、経路生成部12、および、車両制御部13を含み、以下に記載されるような機能を実行するためのコンピュータ、すなわち、プログラム及びデータを記憶したROM、演算処理を行うCPU、前記プログラム及びデータを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、および、入出力インターフェースなどで構成されている。
【0020】
環境状態推定部11は、全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)等の測位手段24による自車位置情報と地図情報データベース23の地図情報とのマッチングにより車両1の絶対位置を取得する。環境状態推定部11は、外界センサ21により取得される画像データや点群データなどの外界データに基づいて自車線および隣接車線の区分線位置、他車位置および速度を推定する。なお、環境状態推定部11は、測位手段24による自車位置情報と地図情報データベース23の地図情報に基づいて車両1の絶対位置を取得する代わりに、外界センサ21から得られる隣接車線との区分線に対する車両1の相対位置を求めるように構成することもできる。
【0021】
環境状態推定部11は、さらに、自車線前方の障害物が静止物であるか移動物であるかを判定するように構成されている。静止物は、例えば駐車車両、道路工事用の保安用品など、絶対位置が移動していない障害物である。移動物は、例えば先行他車、歩行者、逆走車など、絶対位置が移動している障害物である。障害物が静止物であるか、または移動物であるかは、例えば車両1と障害物との相対速度に基づいて判定することができる。
【0022】
ここで、逆走車とは、車両1の進行方向とは逆方向に走行している車両であって、とくに、車両1が走行している車線内を車両1に向かって接近するように走行している車両である。障害物が逆走車であるか否かの判定は、例えば、外界センサ21、内界センサ22、地図情報データベース23および測位手段24から得られる車両1の絶対位置、自車線および隣接車線の区分線位置、他車位置および速度などの情報に基づいて行うことができる。すなわち、環境状態推定部11は、逆走車検知部としても機能する。
【0023】
例えば、環境状態推定部11は、外界センサ21(カメラ212)によって取得される自車前方領域の画像データに基づいて、自車前方に存在する障害物のオプティカルフローを検出する。オプティカルフローは、動画像中の時間的に連続する複数の画像フレームにおいて、画像フレーム間の物体の動きをベクトルで表したものである。したがって、オプティカルフローを検出することにより、障害物の移動方向を判定することができる。環境状態推定部11は、障害物が自車線内を車両1に接近するように移動している場合は、障害物が逆走車であると判定することができる。
【0024】
なお、カメラ212によって取得される画像データの代わりに、ミリ波レーダ211、LIDAR213などから取得される情報に基づいて、逆走車を検出するように構成することもできる。また、不図示の通信モジュールを介した他車両との車車間通信や路側機との路車間通信が可能な場合は、環境状態推定部11は、車車間通信や路車間通信によって得られる情報に基づいて、逆走車の判定を行うことも可能である。
【0025】
また、環境状態推定部11は、内界センサ22によって計測される内界データより自車の運動状態を取得する。
【0026】
経路生成部12は、環境状態推定部11で推定された自車位置から、到達目標までの目標経路を生成するように構成されている。経路生成部12は、ALKS経路部121と、EM経路部122とを有する。ALKS経路部121は、ALKSが作動している状態において、環境状態推定部11で推定された隣接車線の区分線位置、他車位置および速度、車両1の運動状態等に基づいて、単一車線内での自動走行を行うための目標経路(ALKS用目標経路)を生成する。
【0027】
EM経路部122は、障害物との衝突を回避するための緊急回避制御において、目標停止位置に車両を誘導して停止させるための緊急的な目標経路(EM用目標経路)を生成する。EM経路部122は、さらに、緊急回避制御の実行に備えて、ALKS用目標経路上に目標停止位置設定のための緊急退避エリアを予め設定するように構成されている。EM経路部122は、後述するようにEM機能の作動形態に応じて目標停止位置を設定する。
【0028】
経路生成部12は、さらに、車両1が走行する目標経路に、見通しの悪い見通し不良エリアが存在するか否かを判定するように構成されている。
【0029】
車両制御部13は、経路生成部12で生成された目標経路に基づいて目標車速および目標舵角を算出する。車両制御部13は、定速走行または車間距離維持・追従走行のための速度指令をACCコントローラ15に送信し、経路追従のための操舵角指令をLKAコントローラ16経由でEPSコントローラ31に送信する。
【0030】
なお、車速は、EPSコントローラ31およびACCコントローラ15にも入力される。車速により操舵反力が変わるため、EPSコントローラ31は、車速毎の操舵角-操舵トルクマップを参照して操舵機構41にトルク指令を送信する。エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33、EPSコントローラ31により、エンジン42、ブレーキ43、操舵機構41を制御することで、車両1の縦方向および横方向の運動が制御される。
【0031】
[自動車線維持システムの概要]
次に、自動車線維持システム(ALKS)の概要を説明する。ALKSは、車間距離制御システム(ACCS)と、車線維持支援システム(LKAS)とを組み合わせたシステムであり、ACCコントローラ15によるACCSと、LKAコントローラ16によるLKASが共に作動している状態で、自動車線維持走行(車線内自動走行)が可能となる。
【0032】
自動運転コントローラ10の経路生成部12、具体的にはALKS経路部121は、外界センサ21によって取得される外界情報(車線、自車位置、自車走行車線および隣接車線を走行中の他車位置、速度、歩行者などの障害物の有無)、および、内界センサ22によって取得される内界情報(車速、ヨーレート、加速度)に基づいて、ALKSを作動させるための目標経路および目標車速を生成する。
【0033】
車両制御部13は、自車位置と自車の運動特性、すなわち、車速Vで走行中に操舵機構41に操舵トルクTが与えられた時に生じる前輪舵角δによって、車両運動により生じるヨーレートγと横加速度(dy/dt)の関係から、Δt秒後の車両の速度・姿勢・横変位を推定する。車両制御部13は、Δt秒後に横変位がytとなるような操舵角指令をLKAコントローラ16経由でEPSコントローラ31に与え、Δt秒後に速度Vtとなるような速度指令をACCコントローラ15に与える。
【0034】
ACCコントローラ15、LKAコントローラ16、EPSコントローラ31、エンジンコントローラ32、および、ESP/ABSコントローラ33は、自動操舵とは無関係に独立して作動するが、ALKSの作動中は、自動運転コントローラ10からの指令入力でも作動可能になっている。
【0035】
ACCコントローラ15からの減速指令を受けたESP/ABSコントローラ33は、アクチュエータに油圧指令を出し、ブレーキ43の制動力を制御することで車速を制御する。また、ACCコントローラ15からの加減速指令を受けたエンジンコントローラ32は、アクチュエータ出力(スロットル開度)を制御することで、エンジン42にトルク指令を与え、駆動力を制御することで車速を制御する。
【0036】
車間距離制御システム(ACCS)は、外界センサ21を構成する前方検知手段211としてのミリ波レーダ、ACCコントローラ15、エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33等のハードウエアとソフトウエアの組合せで機能する。
【0037】
すなわち、ACCSは、先行車がいない場合は、ACCセット速度(設定速度)を目標車速として定速走行するように構成されている。先行車に追いついた場合(先行車速度がACCセット速度以下の場合)には、先行車の速度に合わせて、設定されたタイムギャップ(車間時間=車間距離/自車速)に応じた車間距離(設定車間距離)を維持しながら先行車に追従走行する。また、ACCSは、先行車の車速が自車速よりも速い、または先行車が自車両前方からいなくなった場合には、設定された加速度で設定速度まで加速するように構成されている。
【0038】
車線維持支援システム(LKAS)は、外界センサ21(カメラ212,215)により取得される画像データに基づき、自動運転コントローラ10の環境状態推定部11で車線区分線と自車位置を検知し、車線中央を走行できるように、LKAコントローラ16を介してEPSコントローラ31により操舵制御を行う。
【0039】
すなわち、LKAコントローラ16からの操舵角指令を受けたEPSコントローラ31は、車速-操舵角-操舵トルクのマップを参照して、アクチュエータ(EPSモータ)にトルク指令を送信し、操舵機構41によって目標とする前輪舵角を与える。
【0040】
ALKSは、以上説明したように、ACCコントローラ15による縦方向制御(速度制御、車間距離制御)とLKAコントローラ16による横方向制御(操舵制御、車線維持制御)を組み合わせることにより、自動車線維持機能を実行する。
【0041】
[衝突予測時の緊急回避制御]
ALKSの作動中に、例えば他車両の割り込み、逆走車の出現など、何らかの理由により障害物との衝突が予測された場合は、エマージェンシーマニューバ(EM:Emergency Maneuver)機能が作動し、緊急回避制御が実行される。EM機能は、衝突回避または衝突被害軽減のための自動緊急ブレーキ(AEB:Autonomous Emergency Braking)の作動を含む。
【0042】
環境状態推定部11は、外界センサ21によって検知される障害物(例えば先行車)の情報(例えば車間距離および相対速度)と、内界センサ22によって検知される車両1の車速に基づいて、障害物までの衝突予測時間(TTC=車間距離/相対速度)を常時、算出する。自動運転コントローラ10は、衝突予測時間TTCが所定値以下の場合など、障害物との衝突可能性が高いと判定される場合に、ACCコントローラ15を介してブレーキ43のアクチュエータに減速要求(油圧指令)を送信し、自動緊急ブレーキを作動させる。
【0043】
[見通し不良エリアの判定]
本実施の形態における地図情報データベース23には、地図情報に関連付けて、車両1の目標経路上に存在する見通し不良エリアの情報も予め格納されている。見通し不良エリアとは、道路の見通し度合いが所定値よりも低く、見通しが悪いエリアを表す。
【0044】
見通し度合いは、例えば、車両1から道路上の視認可能な障害物までの距離を表す視認可能距離として表すことができる。視認可能距離とは、車両1の現在位置から、目標経路上において視認可能な最も遠い位置に存在する障害物までの目標経路に沿った距離を表す。視認可能距離が大きいほど、見通しがよく、視認可能距離が小さいほど、見通しが悪いと判断することができる。
【0045】
車両1からどれほど遠くの障害物まで視認できるかは、道路の形状だけでなく、車両1から障害物までの間に存在する構造物の大きさや形状によって決定される。例えば、曲率半径が小さくカーブが急な道路であっても、付近に構造物が存在しない場合は、遠くの障害物まで視認可能となる。一方、曲率半径が大きくカーブが緩やかな道路であっても、道路に沿って側壁が存在しているような場合は、側壁によって障害物が遮蔽されてしまう。
【0046】
そこで、本実施の形態においては、障害物を視認可能な視認可能距離を、道路線形および道路沿いに存在する地物などに関する道路情報に基づいて決定する。道路線形に関する情報は、道路の形状に関する情報であり、例えば、道路の曲率半径、縦断勾配などを含む。地物は、自然の地形と人工的な構造物の両方を含み、道路沿いに存在する地物に関する情報は、例えば側壁、建造物など、道路付近に存在する構造物の形状、大きさなどの情報を含む。
【0047】
見通し度合いを判定するための前記所定値は、例えば、目標経路において障害物を検知してから車両1が当該障害物と衝突せずに制動停止するために必要な制動距離として定義することができる。制動距離は、道路の曲率半径と縦断勾配、および道路沿いに存在する地物などに関する道路情報と、目標経路の制限速度情報に基づいて決定される。視認可能距離が制動距離よりも小さいエリアは、道路の見通し度合いが悪い見通し不良エリアであると判定される。
【0048】
[緊急退避エリアの設定]
自動運転コントローラ10の経路設定部12のEM経路部122は、環境状態推定部11によって取得される自車位置と、地図情報データベース23から取得される自車周辺の地図情報に基づいて、ALKSによる自動車線維持走行の実行中に常時、EM機能の作動に備えて目標経路上に緊急退避エリアを設定するように構成されている。すなわち、EM経路部122は、退避エリア設定部としても機能する。
【0049】
緊急退避エリアは、車両1が走行する道路側方端の領域に設定される。すなわち、左側通行の場合は、車両1が走行する車線外の路肩や路側帯などの領域を含む道路の左側に緊急退避エリアが設定され、右側通行の場合は、車両1が走行する車線外の路肩や路側帯などの領域を含む道路の右側に緊急退避エリアが設定される。緊急退避エリアは、例えば、道路側方端に沿って、車両1の横幅(車幅)を含む所定の幅を有する領域として設定される。
【0050】
EM経路部122は、自車位置と自車周辺の地図情報に基づいて、車両1が走行している道路形状を推測し、道路形状に対応した緊急退避エリアを設定する。緊急退避エリアは、自車進行方向前方の目標経路上に設定され、車両1の進行に伴って常にアップデートされる。
【0051】
[システムの状態遷移]
自動運転コントローラ10の環境状態推定部11は、ALKSの作動中は、外界センサ21によって取得される周囲環境、および内界センサ22によって取得される車両情報などに基づいて、車両の走行状態、周囲環境条件、および運転者状態などがシステムの運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)内に維持されているかを常時監視している。
【0052】
図4は、ALKSにおける制御の状態遷移を示している。環境状態推定部11は、車両の走行状態、周囲環境条件、および運転者状態などに基づいて、システム作動条件からの逸脱の有無を判定するとともに、システムの異常や障害の有無を検出する。
【0053】
システム作動条件からの逸脱と判定された場合や、システムの異常や障害が検出された場合は、システムから運転者に操作引継要求(TD:Transition Demand)が通知される。操作引継要求(TD)後、所定時間(例えば10秒)以内に運転者が運転操作を引継した場合は、自動車線維持走行から手動走行に移動する(ALKS停止)。
【0054】
一方、操作引継要求(TD)後、所定時間以内に運転操作引継が行われなかった場合は、ミニマルリスクマニューバ(MRM:Minimal Risk Maneuver)機能が作動し、リスク最小化制御が実行される。MRM機能は、運転者が操作引継できなかった場合に、自動的に最小リスク条件(minimal risk condition)に移行する機能を指す。具体的には、MRMは、自動運転コントローラ10による自動操舵により路肩への退避、または車線内にて減速停止する制御(セーフストップ)を含む。
【0055】
なお、ALKSの作動中に、環境状態推定部11がシステムに重大な欠陥(例えば、事故や火災等の原因となるエンジン油圧低下、エンジン水温上昇、ブレーキシステム異常など)の発生と判定した場合は、操作引継要求(TD)は行われず、直ちにMRM機能が作動し、リスク最小化制御が実行される。
【0056】
ALKSの作動中に、障害物との衝突が予測された場合は、上述したEM機能が作動し、緊急回避制御が実行される。EM機能が作動すると、EM経路部122によって設定された目標停止位置に車両1を誘導して停止させるように、ACCコントローラ15を介してブレーキ43が制御されるとともに、LKAコントローラ16を介して操舵機構41が制御される。
【0057】
[オーバーライド機能]
以上説明した走行制御装置は、ALKSの作動中、またはEM機能およびMRM機能の作動中において、運転者の操作介入によるオーバーライドが可能となるように構成されている。すなわち、オーバーライド機能は、ALKS、EM機能およびMRM機能の作動中に、運転者による所定閾値以上の操作介入があった場合に、作動中の機能を停止して運転者へ権限移譲する機能である。
【0058】
運転者の加速操作介入による加速オーバーライドまたは減速操作介入による減速オーバーライドが実行された場合、縦方向制御(速度制御、車間距離制御)が停止されて手動運転モードに移行し、手動による加減速操作35,36が可能となる。運転者の操舵介入による操舵オーバーライドが実行された場合、横方向制御(操舵制御、車線維持制御)が停止されて手動運転モードに移行し、手動による操舵34が可能となる。
【0059】
具体的には、縦方向制御は、運転者によるアクセルペダルの手動操作35によるエンジントルク要求、またはブレーキペダルの手動操作36による減速要求が、それぞれのオーバーライド閾値以上の場合に、オーバーライドされる。加減速操作に関するこれらのオーバーライド閾値(加減速オーバーライド閾値)は、例えば、車両の加減速特性および走行状態に応じて、運転者が意図を持って加減速操作を行ったと判断されるアクセル操作量(エンジントルク指令値)またはブレーキ操作量(ESP油圧指令値)に設定される。
【0060】
横方向制御は、運転者の手動操舵34による操舵トルクがオーバーライド閾値以上の場合にオーバーライドされる。操舵操作に関するオーバーライド閾値(操舵オーバーライド閾値)は、例えば、車両1の操舵特性および走行状態に応じて設定される。手動による操舵操作34および手動による加減速操作35,36は、例えば内界センサ22によって検出するように構成することができる。
【0061】
上述したように、オーバーライド機能は、EM機能の作動中であっても実行可能である。したがって、ALKSによって自動車線維持走行が行われていた状態からEM機能を実行する危険回避モードに切り換わると、EM機能による緊急自動ブレーキによって運転者が慌ててしまう可能性がある。慌てた運転者によって過度の加減速操作または過度の操舵操作といった過度のオーバーライドが行われると、車両1の挙動が不安定になったり、車両1が周囲の障害物や周囲構造物に急接近したりするおそれがある。
【0062】
とくに、例えば車両1が道路の見通しの悪い見通し不良エリアを走行している場合は、見通しの良いエリアを走行している場合に比べてシステムによる自車線前方の状況検知に遅れが生じる可能性がある。このような見通しの悪い状況でEM機能が作動した場合、運転者が慌ててしまい、過度の運転操作を行うことによってオーバーライドが実行される可能性がある。このような過度のオーバーライドの場合、運転者自らの運転操作によって適切な衝突回避操作を行うことは難しく、例えば対向車線上の他の車両との衝突や道路外への逸脱などを誘発するリスクがある。
【0063】
そこで、本実施の形態による走行制御装置においては、ALKSの作動中にEM機能が作動した場合に、オーバーライド閾値を通常よりも大きな値に変更することによって運転者の過度の運転操作によるオーバーライドを抑制する。さらに、ALKSの作動中に見通し不良エリアでEM機能が作動した場合には、オーバーライド閾値をさらに大きな値に設定する。
【0064】
これにより、見通しが悪い状況での緊急回避制御により慌てた運転者が過度の加減速操作または過度の操舵操作を行い、通常であればEM機能がオーバーライドされて手動運転モードに移行するような場合であっても、自動運転コントローラ10によるEM機能の回避制御が継続される。その結果、運転者による過度の加減速操作または過度の操舵操作によって、例えば対向車線上の他の車両と衝突したり、道路外へ逸脱したりする事態を回避できる。
【0065】
[オーバーライド閾値の設定]
以下に、本実施の形態におけるオーバーライド閾値の設定について説明する。なお、オーバーライド閾値は、加減速操作に関する加減速オーバーライド閾値と、操舵操作に関する操舵オーバーライド閾値を含む。また、加減速オーバーライド閾値は、アクセル操作に関するアクセルオーバーライド閾値と、ブレーキ操作に関するブレーキオーバーライド閾値を含む。
【0066】
1.通常時のオーバーライド閾値
定速走行または車間距離維持・追従走行のためのエンジントルク指令値よりも運転者のアクセル操作によるエンジントルク指令値が大きい場合、アクセルオーバーライドが実行される。この場合、ALKSによる自動車線維持走行に対して、運転者のアクセル操作が優先される。通常時は、例えば、車速およびギア段に応じて設定されたエンジントルクマップにより求められるエンジントルク指令値が、アクセルオーバーライド閾値OEdとして設定される。
【0067】
定速走行または車間距離維持・追従走行に対して減速となるESP油圧指令値が運転者のブレーキ操作によって与えられた場合、ブレーキオーバーライドが実行される。この場合、ALKSによる自動車線維持走行に対して、運転者のブレーキ操作が優先される。定速走行または車間距離維持・追従走行の車速に対して、例えば速度2km/h相当の減速となるESP油圧指令値、またはACC設定加速度に対して0.2m/s相当の減速度となるESP油圧指令値が、ブレーキオーバーライド閾値OPdとして設定される。
【0068】
操舵オーバーライド閾値OTdは、順操舵の場合の閾値と逆操舵の場合の閾値をそれぞれ設定する。順操舵の場合は、例えば、t秒後に仮想横位置に到達するための仮想横変位y′tが、yt+α(ただし、αは車速に基づいて決定される定数)となるような操舵角に相当する操舵トルクが、操舵オーバーライド閾値OTdとして設定される。なお、操舵角に応じた操舵トルクは、車速-操舵角-操舵トルクマップから算出することができる。
【0069】
逆操舵の場合は、例えば、t秒後に仮想横位置に到達するための仮想横変位y′tがyt+αとなるような操舵角を操舵トルクに換算した値(操舵トルク目標値)に対して、操舵トルクを減少させる方向に印加される、微小でないと判断できる値が操舵オーバーライド閾値OTdとして設定される。なお、値が微小であるか否かは、例えば、操舵角、操舵角速度などに基づいて判断することができる。
【0070】
2.見通し不良エリア以外でのEM作動時のオーバーライド閾値
見通し不良エリア以外でのEM作動時のアクセルオーバーライド閾値OEemgは、上述した通常時のアクセルオーバーライド閾値OEdより大きな値に設定される。例えば、通常時のアクセルオーバーライド閾値OEdの120%~250%、好ましくは150%~220%の範囲から選定されるエンジントルク指令値を、EM作動時のアクセルオーバーライド閾値OEemgとして設定することができる。すなわち、OEemg>OEdである。
【0071】
見通し不良エリア以外でのEM作動時のブレーキオーバーライド閾値OPemgは、上述した通常時のブレーキオーバーライド閾値OPdより大きな値に設定される。例えば、通常時のブレーキオーバーライド閾値OPdの120%~250%、好ましくは150%~220%の範囲から選定されるESP油圧指令値を、EM作動時のブレーキオーバーライド閾値OPemgとして設定することができる。すなわち、OPemg>OPdである。
【0072】
見通し不良エリア以外でのEM作動時の操舵オーバーライド閾値OTemgは、上述した通常時の操舵オーバーライド閾値OTdよりも大きな値に設定される。例えば、順操舵の場合は、通常時の仮想横変位y′tに対して、仮想横変位y″t(=yt+β、ただし、β>α)と車両の運動特性から算出される操舵角を操舵トルクに換算した値を、操舵オーバーライド閾値OTemgとして設定することができる。逆操舵の場合は、通常時の仮想横変位y′tに対して、仮想横変位y″t(=yt-γ、ただし、γは操舵トルクX′Nmに相当する横変位より大きい)と車両の運動特性から算出される操舵角を操舵トルクに換算した値を、操舵オーバーライド閾値OTemgとして設定することができる。すなわち、OTemg>OTdである。
【0073】
3.見通し不良エリアでのEM作動時のオーバーライド閾値
見通し不良エリアでのEM作動時は、上述した見通し不良エリア以外でのEM作動時のオーバーライド閾値よりもさらに大きな値をオーバーライド閾値として設定する。
【0074】
見通し不良エリアでのEM作動時のアクセルオーバーライド閾値OEembは、上述した見通し不良エリア以外でのEM作動時のアクセルオーバーライド閾値OEemgよりもさらに大きな値に設定される。すなわち、すなわち、OEemb>OEemg>OEdである。
【0075】
見通し不良エリアでのEM作動時のブレーキオーバーライド閾値OPembは、上述した見通し不良エリア以外でのEM作動時のブレーキオーバーライド閾値OPemgよりもさらに大きな値に設定される。すなわち、OPemb>OPemg>OPdである。
【0076】
見通し不良エリアでのEM作動時の操舵オーバーライド閾値OTembは、順操舵および逆操舵のいずれの場合においても、上述した見通し不良エリア以外でのEM作動時の操舵オーバーライド閾値OTemgよりもさらに大きな値に設定される。すなわち、OTemb>OTemg>OTdである。
【0077】
このように、見通し不良エリアでのEM作動時のオーバーライド閾値(第2の閾値)は、通常時のオーバーライド閾値(第1の閾値)よりも大きな値に設定される。また、見通し不良エリア以外でのEM作動時のオーバーライド閾値(第3の閾値)は、見通し不良エリアでのEM作動時のオーバーライド閾値(第2の閾値)よりも小さく、かつ、通常時のオーバーライド閾値(第1の閾値)よりも大きな値に設定される。
【0078】
[ALKS作動中のEM機能の作動フロー]
次に、ALKS作動中にEM機能を実行する場合の制御の流れについて説明する。図5に、本実施の形態によるEM機能の制御の流れを説明するフローチャートを示す。
【0079】
(1)自動車線維持システム(ALKS)の作動
車両1の車速が所定車速(例えば、60km/h)以下となり、所定の起動条件が成立すると、ALKSによる単一車線内での自動走行が実行される(ステップS100)。自動運転コントローラ10は、経路生成部12で設定されたALKS用の目標経路および目標車速に従って車両1の走行制御を行う。
【0080】
(2)見通し不良エリア判定
経路生成部12は、上述したように環境状態推定部11によって取得される車両1の位置情報と、地図情報データベース23から取得される地図情報に関連付けられた見通し不良エリアの情報に基づき、目標経路上に道路の見通し度合いが所定値よりも低い見通し不良エリアが存在するか否かを判定する(ステップS101)。
【0081】
(3)緊急退避エリア設定
経路設定部12のEM経路部122は、環境状態推定部11によって取得される自車位置と、地図情報データベース23から取得される自車周辺の地図情報に基づいて、目標経路上に緊急退避エリアを設定する(ステップS102)。緊急退避エリアは、ALKSの作動中、常にアップデートされる。
【0082】
(4)衝突可能性の判定
環境状態推定部11は、上述したように、外界センサ21によって検知される障害物の情報と、内界センサ22によって検知される車両1の車両情報に基づいて、自車周囲の障害物との衝突可能性を判定する(ステップS104)。
【0083】
例えば、障害物までの衝突予測時間TTCが所定値以下の場合に、障害物との衝突可能性が高いと判定し、緊急回避制御を実行するためにEM機能に移行する(ステップS110)。障害物までの衝突予測時間TTCが所定値よりも大きく、衝突可能性が低いと判定された場合は、ステップS103へ進む。なお、環境状態推定部11は、障害物との衝突可能性が高いと判定された場合は、その障害物が静止物か移動物であるかについての判定も行う。
【0084】
(5)EM機能
EM機能に移行すると、衝突可能性のフラグを立て(ステップS111)、衝突回避または衝突被害軽減のための自動緊急ブレーキの作動を含むEM機能の作動が開始する(ステップS112)。
【0085】
(6)目標停止位置決定
経路設定部12のEM経路部122は、EM機能の作動形態に応じて、目標停止位置を設定する(ステップS113)。具体的には、EM機能の作動理由が目標経路上の駐車車両などの静止物であった場合、すなわち、静止物の検知によってEM機能が作動した場合、車両1の走行車線内に目標停止位置を設定する。一方、EM機能の作動理由が目標経路上の逆走車や歩行者などの移動物であった場合、すなわち移動物の検知によってEM機能が作動した場合、ステップS102で設定した緊急退避エリア内に、目標停止位置を設定する。
【0086】
EM経路部122は、車両1の位置と速度、および緊急回避制御のための最大減速度に基づいて、車両1を停止させるための目標停止位置を決定し、決定した目標停止位置までのEM用の目標経路を生成する。
【0087】
(7)オーバーライド閾値変更
オーバーライド閾値を、通常時のオーバーライド閾値(OEd、OPd、OTd)から、上述したEM作動時のオーバーライド閾値に変更する(ステップS114)。具体的には、ステップS101で判定された見通し不良エリアを走行中にEM機能が作動した場合は、通常時のオーバーライド閾値(OEd、OPd、OTd)から、見通し不良エリアでのEM作動時のオーバーライド閾値(OEemb、OPemb、OTemb)に変更する。見通し不良エリア以外を走行中にEM機能が作動した場合は、通常時のオーバーライド閾値(OEd、OPd、OTd)から、見通し不良エリア以外でのEM作動時のオーバーライド閾値(OEemg、OPemg、OTemg)に変更する。
【0088】
(8)緊急回避制御の実行
自動運転コントローラ10は、目標停止位置の方向の方向指示器(不図示)を作動させる(ステップS115)。車両制御部13は、操舵回避制御と最大減速度制動制御を行う。これにより、EM用の目標経路に従って車両1を最大減速度で減速させながら目標停止位置まで誘導する(ステップS116)。
【0089】
(9)オーバーライド判定
自動運転コントローラ10は、ALKSの作動中、運転者の操作介入によるオーバーライドの有無の判定を行うように構成されており、オーバーライドの有無の判定はEM機能の作動開始後も継続して行われる(ステップS117)。運転者のアクセルペダルの手動操作35によるエンジントルク要求、ブレーキペダルの手動操作36による減速要求、または手動操舵34による操舵トルクが、ステップS114で設定したアクセルオーバーライド閾値、ブレーキオーバーライド閾値、または操舵オーバーライド閾値以上の場合に、オーバーライドありと判定され、ALKSの作動を停止するためにステップS106へ進む。オーバーライドなしと判定されると、ステップS118へ進む。
【0090】
(10)EM機能完了判定
環境状態推定部11は、車両1の車両状態および周囲環境に基づいて緊急回避制御が完了したか否かを判定する(ステップS118)。具体的には、車両1の緊急停止または周囲環境の変化により、差し迫った衝突のおそれがなくなった場合、または運転者による不図示のスイッチの操作によりシステムが非作動状態になった場合に、緊急回避制御完了と判定される。この場合、ステップS114で設定したアクセルオーバーライド閾値、ブレーキオーバーライド閾値、または操舵オーバーライド閾値を、通常時のオーバーライド閾値(OEd、OPd、OTd)にリセットし、ハザードランプを点滅する(ステップS119)。一方、緊急回避制御が完了していないと判定された場合は、ステップS116に戻って緊急回避制御を継続する。
【0091】
(11)ALKS作動停止
環境状態推定部11は、車両1の車両状態および周囲環境に基づいてALKSの作動を停止するか否かを判定する(ステップS106)。具体的には、ステップS117で運転者の操作介入によるオーバーライドありと判定された場合、ステップS118で緊急回避制御完了と判定された場合、または運転者による不図示のスイッチ操作によってシステムが非作動状態とされた場合は、ALKSシステムの作動停止を判定し、ALKSを停止して手動運転モードに移行する(ステップS108)。一方、ステップS106が否定判定されると、ステップS104に戻り、ALKSシステムの作動を継続する。
【0092】
以上説明した第1の実施の形態による車両1の走行制御装置においては、以下のような作用効果を奏することができる。
【0093】
車両の走行制御装置は、自車線と隣接車線および各車線上の他車および周囲環境を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能とを含む環境状態推定部11と、環境状態推定部11に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部12と、目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部13とを備え、自車線に先行他車が存在しない場合は設定車速を維持し、先行他車が存在する場合は設定車間距離を維持して車線内自動走行を行う車線内自動走行(自動車線維持走行)機能と、自車線前方に存在する障害物との衝突が予想される場合に、緊急ブレーキの作動を含む緊急回避制御を実行するEM機能と、車線内自動走行機能、またはEM機能の作動中に、運転者による所定閾値以上の操作介入があった場合に、作動中の機能を停止して運転者への権限移譲を行うオーバーライド機能とを有する。経路生成部12は、目標経路上に、道路の見通し度合いが所定値よりも低い見通し不良エリアが存在するか否かを判定するように構成され、オーバーライド機能は、所定閾値として、車線内自動走行機能の作動中には第1の閾値が設定され、見通し不良エリアでのEM機能の作動時は第2の閾値が設定されるように構成されており、第2の閾値は、第1の閾値よりも大きい。
【0094】
見通しの悪い見通し不良エリアは見通しの良いエリアよりも、システムによる自車線前方の状況検知が遅くなる可能性が高い。ALKSによる車線内自動走行機能の作動中に、見通し不良エリアでEM機能が作動した場合、見通しが悪い状況での緊急回避制御に運転者が慌ててしまい、過度の運転操作を行うことによって意図せずにオーバーライドが実行される可能性がある。過度のオーバーライド操作が実行されると、車両1が対向車線へはみ出したり、道路外へ逸脱してしまうといった事態が引き起こされる可能性がある。そこで、所定閾値として、車線内自動走行機能の作動中には第1の閾値を設定し、見通し不良エリアでのEM機能の作動時は第1の閾値よりも大きな第2の閾値を設定することにより、過度のオーバーライドを抑制することができる。したがって、見通し不良エリアでEM機能が作動した場合のように、運転者による運転操作が極めて困難な状態においては、ALKSの安全機能を利用して緊急回避制御を実現することができる。また、運転操作の負担が大きいEM作動時の運転操作の引継ぎが抑制されるので、運転者による運転操作引継に起因するリスクを抑制することができる。
【0095】
オーバーライド機能は、所定閾値として、見通し不良エリア以外でのEM機能の作動時には第3の閾値が設定されるように構成されており、第3の閾値は、第2の閾値よりも小さく、かつ第1の閾値よりも大きい。
【0096】
EM機能が作動する場合は、通常のALKSによる車線内自動走行機能の作動中よりもオーバーライド閾値を大きくすることにより、EM作動時の運転者によるオーバーライドを抑制し、ALKSの安全機能を利用した緊急回避制御を実現することができる。なお、見通し不良エリアでのEM機能の作動時の第2の閾値は、見通し不良エリア以外でのEM機能の作動時の第3の閾値よりも大きい。したがって、見通しの良いエリアでEM機能が作動した場合は、見通し不良エリアでEM機能が作動する場合よりもオーバーライドされやすくなり、見通しの良いエリアでの運転者の運転操作による衝突回避が期待できる。また、見通し不良エリアでEM機能が作動した場合は、見通しの良いエリアよりも運転者によるオーバーライドを抑制し、ALKSの安全機能を利用して緊急回避制御を実現することができる。
【0097】
見通し度合いは、道路上の障害物を視認可能な視認可能距離として定義され、道路の曲率半径と縦断勾配、および道路沿いに存在する地物に関する道路情報に基づいて決定される。見通し度合いを判定するための所定値は、目標経路において障害物を検知してから障害物と衝突せずに制動停止するために必要な制動距離として定義され、道路情報と、目標経路の制限速度情報に基づいて決定される。経路生成部12は、視認可能距離が制動距離よりも小さい場合に、見通し不良エリアが存在すると判定する。
【0098】
道路情報に基づく視認可能距離として見通し度合いを決定し、道路情報と制限速度情報に基づいて車両1が障害物と衝突せずに制動停止するために必要な制動距離と比較することによって見通し不良エリアの存在を判定するので、外界センサ21の情報等を用いず、見通し不良エリアの存在を予め客観的に判定しておくことができる。
【0099】
経路生成部12は、車線内自動走行機能の作動中に、車両の位置情報および地図情報に基づき、EM機能の作動に備えて目標経路上に緊急退避エリアを設定するEM経路部(退避エリア設定部)122を有し、EM経路部122は、EM機能の作動時に、緊急退避エリア内から目標停止位置を選択するように構成されている。
【0100】
ALKSによる車線内自動走行機能の作動中は、常時、目標経路上に緊急退避エリアが設定されるので、EM作動時に速やかに緊急退避エリア内に目標停止位置を設定することができる。
【0101】
-第2の実施の形態-
以下に、本発明の第2の実施の形態に係る車両の走行制御装置について説明する。第2の実施の形態に係る車両の走行制御装置の基本的な構成は、上述した第1の実施の形態と同様である。以下では、第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0102】
上述した第1の実施の形態では、車両1が走行する目標経路の道路線形および道路沿いに存在する地物などに関する道路情報に基づいて見通し不良エリアの存在を判定した。第2の実施の形態においては、さらに、道路情報に基づいて、見通し不良エリアが車両横方向の見通し度合いが悪い横方向見通し不良エリアか、車両縦方向の見通し度合いが悪い縦方向見通し不良エリアかを判定する。
【0103】
例えば、目標経路が曲線路である場合、道路の曲率半径および道路沿いに存在する地物によって横方向の見通しが悪くなることがある。そこで、横方向の見通しが悪く、車両1の進行方向に存在する障害物の視認可能距離が制動距離よりも小さいエリアを、横方向見通し不良エリアであると判定することができる。例えば、目標経路が傾斜路である場合、道路の縦断勾配などによって縦方向の見通しが悪くなることがある。そこで、縦方向の見通しが悪く、車両1の進行方向に存在する障害物の視認可能距離が制動距離よりも小さいエリアを、縦方向見通し不良エリアであると判定することができる。
【0104】
また、目標経路が曲線路かつ傾斜路である場合、道路の曲率半径、縦断勾配、および道路沿いに存在する地物によって横方向および縦方向の見通しが悪くなることがある。そこで、横方向および縦方向の見通しが悪く、車両1の進行方向に存在する障害物の視認可能距離が制動距離よりも小さいエリアは、縦横方向の見通し不良エリアであると判定される。横方向見通し不良エリア、縦方向見通し不良エリア、および縦横方向の見通し不良エリアの情報は、地図情報に関連付けて地図情報データベース23に予め格納されている。
【0105】
第2の実施の形態においては、見通し不良エリアでのEM作動時のオーバーライド閾値(第2の閾値)を、見通しが悪い方向に応じてそれぞれ異なる値に設定するように構成されている。以下、見通し不良エリアでのEM作動時において、見通しが悪い方向に応じたオーバーライド閾値の設定について説明する。
【0106】
見通し不良エリアでのEM作動時のアクセルオーバーライド閾値OEembについて、縦方向見通し不良エリアのアクセルオーバーライド閾値OEembloは、横方向見通し不良エリアのアクセルオーバーライド閾値OEemblaよりも大きな値に設定される。縦横方向の見通し不良エリアのアクセルオーバーライド閾値OEemblaoは、縦方向見通し不良エリアのアクセルオーバーライド閾値OEembloと同じ値とする。すなわち、OEemblao=OEemblo>OEemblaである。
【0107】
見通し不良エリアでのEM作動時のブレーキオーバーライド閾値OPembについて、縦方向見通し不良エリアのブレーキオーバーライド閾値OPembloは、横方向見通し不良エリアのブレーキオーバーライド閾値OPemblaよりも大きな値に設定される。縦横方向の見通し不良エリアのブレーキオーバーライド閾値OPemblaoは、縦方向見通し不良エリアのブレーキオーバーライド閾値OPembloと同じ値とする。すなわち、OPemblao=OPemblo>OPemblaである。
【0108】
見通し不良エリアでのEM作動時の操舵オーバーライド閾値OTembについて、横方向見通し不良エリアの操舵オーバーライド閾値OTemblaは、縦方向見通し不良エリアの操舵オーバーライド閾値OTembloよりも大きな値に設定される。縦横方向の見通し不良エリアの操舵オーバーライド閾値OTemblaoは、横方向見通し不良エリアの操舵オーバーライド閾値OTemblaと同じ値とする。すなわち、OTemblao=OTembla>OTembloである。
【0109】
これにより、例えば左カーブの道路であって、左前方の視認可能距離が短い横方向見通し不良エリアでEM機能が作動した場合、操舵オーバーライド閾値は、横方向見通し不良エリアの操舵オーバーライド閾値OTemblaに設定される。したがって、運転者が左前方の障害物から離れる方向に操舵操作を行ったとしてもオーバーライドを抑制することができ、車両1が対向車線にはみ出してしまうリスクを抑制することができる。
【0110】
また、例えば下り勾配で右側壁が存在する道路であって、縦横方向の視認可能距離が短い縦横方向見通し不良エリアでEM機能が作動した場合、操舵オーバーライド閾値は、縦横方向見通し不良エリアの操舵オーバーライド閾値OTemblaoに設定され、アクセルオーバーライド閾値は、縦横方向見通し不良エリアのアクセルオーバーライド閾値OEemblaoに設定される。したがって、運転者が右側壁方向に操舵操作を行ったとしてもオーバーライドを抑制することができ、車両1が右側壁に衝突するリスクを抑制することができる。また、運転者が下り勾配でアクセルペダル操作を行ったとしてもオーバーライドを抑制することができ、車両1が急加速して道路外へ逸脱してしまうリスクを抑制することができる。
【0111】
以上説明した第2の実施の形態による車両1の走行制御装置においては、上述した第1の実施の形態による効果に加えて、以下のような作用効果を奏することができる。
【0112】
経路生成部12は、道路情報に基づいて、見通し不良エリアが、車両横方向の見通し度合いが悪い横方向見通し不良エリアか、車両縦方向の見通し度合いが悪い縦方向見通し不良エリアかを判定するように構成されている。オーバーライド機能は、所定閾値として、運転者による操舵介入があった場合の操舵オーバーライド閾値と、運転者による加減速操作介入があった場合の加減速オーバーライド閾値をそれぞれ設定するように構成されている。オーバーライド機能は、見通し不良エリアでのEM機能の作動時に第2の閾値として設定される操舵オーバーライド閾値と加減速オーバーライド閾値について、横方向見通し不良エリアの操舵オーバーライド閾値OTemblaは、縦方向見通し不良エリアの操舵オーバーライド閾値OTembloよりも大きく、縦方向見通し不良エリアの加減速オーバーライド閾値OEemblo、OPembloは、横方向見通し不良エリアの加減速オーバーライド閾値OEembla、OPemblaよりも大きくなるように構成されている。
【0113】
このように、見通し不良エリアが、車両横方向の見通し度合いが悪い横方向見通し不良エリアか、車両縦方向の見通し度合いが悪い縦方向見通し不良エリアかを判定し、見通しが悪い方向に応じて加減速オーバーライド閾値および操舵オーバーライド閾値をそれぞれ異なる値に設定する。これにより、とくに道路線形に応じた運転者の操作介入によるオーバーライドのリスクを考慮し、加減速オーバーライドおよび操舵オーバーライドをそれぞれ適切に抑制することが可能となる。
【0114】
-変形例-
(1)上述した実施の形態においては、車両1が走行する車線外の路肩や路側帯などの領域を含む道路側方端の領域に緊急退避エリアを設定した。ただし、これには限定されず、緊急退避エリアを車両1が走行する車線内の路肩側の領域に設定することも可能である。
【0115】
(2)上述した実施の形態においては、ALKSによる自動車線維持走行の実行中に常時、EM機能の作動に備えて目標経路上に緊急退避エリアを設定した。ただし、これには限定されず、目標経路上に見通し不良エリアが存在すると判定された場合に、緊急退避エリアを設定するように構成してもよい。これにより、見通し不良エリアには予め緊急退避エリアが設定されることになり、EM作動時に速やかに緊急退避エリア内に目標停止位置を設定することができる。
【0116】
(3)上述した実施の形態においては、EM機能の作動理由によって、目標停止位置を変更した。ただし、これには限定されず、EM機能の作動理由に関わらず、予め設定された緊急退避エリア内に目標停止位置を設定するように構成することもできる。
【0117】
(4)上述した実施の形態においては、車線内自動走行機能の作動中にはオーバーライド閾値として第1の閾値を設定し、見通し不良エリアでのEM機能の作動時には第1の閾値よりも大きな第2の閾値を設定した。ただし、これには限定されず、見通し不良エリアでEM機能が作動する場合は、オーバーライド閾値を最大値としたり、オーバーライドを不可としたりすることもできる。
【0118】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内においてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0119】
1 車両
10 自動運転コントローラ
11 環境状態推定部
12 経路生成部
121 ALKS経路部
122 EM経路部
13 車両制御部
15 ACCコントローラ
16 LKAコントローラ
21 外界センサ
22 内界センサ
23 地図情報データベース
24 測位手段(GNSS)
31 EPSコントローラ
32 エンジンコントローラ
33 ESP/ABSコントローラ
34 手動操舵(ハンドル)
35 手動操作(アクセルペダル)
36 手動操作(ブレーキペダル)
図1
図2
図3
図4
図5