(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079152
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】反応性予測システム、反応性予測方法
(51)【国際特許分類】
G16C 20/70 20190101AFI20240604BHJP
【FI】
G16C20/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191909
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 優佳
(72)【発明者】
【氏名】小川 潤一
(72)【発明者】
【氏名】今村 優佑
(57)【要約】
【課題】従来よりも高い精度で活性化自由エネルギーを予測できる反応性予測システム、反応性予測方法を提供する。
【解決手段】反応性予測システム40は、測定された活性化自由エネルギーと、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係を学習させた学習済みモデルMDを格納する格納部43と、学習済みモデルMDを用いて、入力された反応条件から活性化自由エネルギーを予測する処理部44と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定された活性化自由エネルギーと、前記活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係を学習させた学習済みモデルを格納する格納部と、
前記学習済みモデルを用いて、入力された反応条件から活性化自由エネルギーを予測する処理部と、を備える、
反応性予測システム。
【請求項2】
前記測定された活性化自由エネルギーを教師データとし、前記活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件を第1データセットとして、前記学習済みモデルを生成する生成部を備える、
請求項1に記載の反応性予測システム。
【請求項3】
前記第1データセットの反応条件は、反応物、溶媒、触媒、添加物、試薬、温度、反応時間の少なくとも1つを含む、
請求項2に記載の反応性予測システム。
【請求項4】
前記活性化自由エネルギーを測定する測定装置と接続可能な第1インターフェースを備える、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の反応性予測システム。
【請求項5】
前記学習済みモデルは、前記測定された活性化自由エネルギーと、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係に加えて、量子化学計算で求めた反応に関する特徴量と、前記量子化学計算が行われた際の計算条件との関係を学習させたものである、
請求項1に記載の反応性予測システム。
【請求項6】
前記測定された活性化自由エネルギーを教師データとし、前記活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件を第1データセットとし、前記特徴量及び前記計算条件を第2データセットとして、前記学習済みモデルを生成する生成部を備える、
請求項5に記載の反応性予測システム。
【請求項7】
前記第2データセットの特徴量は、双極子モーメント、原子電荷、振動数、分子軌道の少なくとも1つを含む、
請求項6に記載の反応性予測システム。
【請求項8】
前記量子化学計算を行う計算装置と接続可能な第2インターフェースを備える、
請求項5から請求項7の何れか一項に記載の反応性予測システム。
【請求項9】
前記処理部で予測した活性化自由エネルギーに基づいて、所定の反応条件を提示する反応条件提示部を備える、
請求項1に記載の反応性予測システム。
【請求項10】
前記反応条件提示部は、前記所定の反応条件として、前記処理部で予測した活性化自由エネルギーのうち、最も活性化自由エネルギーが低いと予想された反応条件を提示する、
請求項9に記載の反応性予測システム。
【請求項11】
前記処理部で予測した活性化自由エネルギーと、所定の制約条件と、に基づいて、所定の反応条件を提示する反応条件提示部を備える、
請求項1に記載の反応性予測システム。
【請求項12】
前記所定の制約条件は、反応時間、反応場温度、反応物の濃度の少なくとも1つを含む、
請求項11に記載の反応性予測システム。
【請求項13】
反応条件を入力する第1ステップと、
測定された活性化自由エネルギーと、前記活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係を学習させた学習済みモデルを用いて、前記第1ステップで入力された反応条件から活性化自由エネルギーを予測する第2ステップと、を有する、
反応性予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性予測システム、反応性予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、合成したい目的化合物の複数の合成経路の活性化エネルギーを量子化学計算より得られた化学反応の遷移状態の構造およびエネルギーを含むデータにより活性化エネルギーを計算するとともに、合成したい目的化合物の複数の合成経路の合成経路に対して合成反応に対する収率予測式のデータから合成収率を予測し、前記活性化エネルギーと前記合成収率から合成経路ランキング式を構築し、目的化合物を合成するために最適とされる合成経路をランキングして絞り込んで提案する最適合成経路開発方法が開示されている。
【0003】
下記特許文献2には、合成の目的化合物に対する複数の合成経路から最適な合成経路を抽出するために、量子化学計算部と、反応機構解析部と、合成経路ランキング部と、を備える演算処理手段と、前記合成経路に係るデータを格納する記憶手段と、を有する合成経路評価システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-150337号公報
【特許文献2】特開2010-9257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、合成経路の予測のための入力データとして用いている活性化自由エネルギー(ΔG‡)を量子化学計算から求めている。このΔG‡は、実測した値ではなくシミュレーションから算出した値であるため、実測値との乖離が大きい。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、従来よりも高い精度で活性化自由エネルギーを予測できる反応性予測システム、反応性予測方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様による反応性予測システムは、測定された活性化自由エネルギーと、前記活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係を学習させた学習済みモデルを格納する格納部と、前記学習済みモデルを用いて、入力された反応条件から活性化自由エネルギーを予測する処理部と、を備える。
【0008】
本発明の第2の態様による反応性予測システムは、本発明の第1の態様による反応性予測システムにおいて、前記測定された活性化自由エネルギーを教師データとし、前記活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件を第1データセットとして、前記学習済みモデルを生成する生成部を備える。
【0009】
本発明の第3の態様による反応性予測システムは、本発明の第2の態様による反応性予測システムにおいて、前記第1データセットの反応条件は、反応物、溶媒、触媒、添加物、試薬、温度、反応時間の少なくとも1つを含む。
【0010】
本発明の第4の態様による反応性予測システムは、本発明の第1の態様から第3の態様のいずれかによる反応性予測システムにおいて、前記活性化自由エネルギーを測定する測定装置と接続可能な第1インターフェースを備える。
【0011】
本発明の第5の態様による反応性予測システムは、本発明の第1の態様から第4の態様のいずれかによる反応性予測システムにおいて、前記学習済みモデルは、前記測定された活性化自由エネルギーと、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係に加えて、量子化学計算で求めた反応に関する特徴量と、前記量子化学計算が行われた際の計算条件との関係を学習させたものである。
【0012】
本発明の第6の態様による反応性予測システムは、本発明の第5の態様による反応性予測システムにおいて、前記測定された活性化自由エネルギーを教師データとし、前記活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件を第1データセットとし、前記特徴量及び前記計算条件を第2データセットとして、前記学習済みモデルを生成する生成部を備える。
【0013】
本発明の第7の態様による反応性予測システムは、本発明の第6の態様による反応性予測システムにおいて、前記第2データセットの特徴量は、双極子モーメント、原子電荷、振動数、分子軌道の少なくとも1つを含む。
【0014】
本発明の第8の態様による反応性予測システムは、本発明の第5の態様から第7の態様のいずれかによる反応性予測システムにおいて、前記量子化学計算を行う計算装置と接続可能な第2インターフェースを備える。
【0015】
本発明の第9の態様による反応性予測システムは、本発明の第1の態様から第8の態様のいずれかによる反応性予測システムにおいて、前記処理部で予測した活性化自由エネルギーに基づいて、所定の反応条件を提示する反応条件提示部を備える。
【0016】
本発明の第10の態様による反応性予測システムは、本発明の第9の態様による反応性予測システムにおいて、前記反応条件提示部は、前記所定の反応条件として、前記処理部で予測した活性化自由エネルギーのうち、最も活性化自由エネルギーが低いと予想された反応条件を提示する。
【0017】
本発明の第11の態様による反応性予測システムは、第1の態様から第10の態様のいずれかによる反応性予測システムにおいて、前記処理部で予測した活性化自由エネルギーと、所定の制約条件と、に基づいて、所定の反応条件を提示する反応条件提示部を備える。
【0018】
本発明の第12の態様による反応性予測システムは、本発明の第11の態様による反応性予測システムにおいて、前記所定の制約条件は、反応時間、反応場温度、反応物の濃度の少なくとも1つを含む。
【0019】
本発明の第13の態様による反応性予測方法は、反応条件を入力する第1ステップと、測定された活性化自由エネルギーと、前記活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係を学習させた学習済みモデルを用いて、前記第1ステップで入力された反応条件から活性化自由エネルギーを予測する第2ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0020】
上記本発明の一態様によれば、従来よりも高い精度で活性化自由エネルギーを予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態によるソフトセンサの構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1実施形態による反応性予測システムの要部構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1実施形態による反応性予測システムの学習済みモデルの生成に係る機能的構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の第1実施形態で用いられる学習用データセットの一例を示す説明図である。
【
図5】本発明の第1実施形態による反応性予測システムが行うモデル生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第1実施形態による反応性予測システムのΔG
‡の予測に係る機能的構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】本発明の第1実施形態による反応性予測システムが行うΔG
‡の予測処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の第2実施形態による反応性予測システムの要部構成を示すブロック図である。
【
図9】本発明の第2実施形態で用いられる学習用データセットの一例を示す説明図である。
【
図10】本発明の第3実施形態による反応性予測システムの要部構成を示すブロック図である。
【
図11】本発明の第3実施形態による反応条件提示部が行う反応条件提示処理の一例を示す説明図である。
【
図12】本発明の第4実施形態による反応性予測システムの要部構成を示すブロック図である。
【
図13】本発明の第4実施形態による反応条件提示部が行う反応条件提示処理の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による反応性予測システム、反応性予測方法について詳細に説明する。以下では、まず、本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の各実施形態の詳細について説明する。
【0023】
〔概要〕
有機化学反応を用いる医薬品やファインケミカル素材の生産時には、生産の効率化のために反応条件の最適化が重要である。反応条件には、例えば、溶媒種や試薬の選択、濃度、温度、および反応時間等がある。最適化の工程では、効率化のために、高い収率を得られる条件を探索する。最適化の工程では、各項目を順に最適化していくが、その指標としては主に反応時間における生成物の濃度をサンプリングにより測定した収率や反応速度が使用される。なお、生成物の合成には、例えば第1の溶液と第2の溶液を供給装置に注入し、ミキサーで混合して合成するフローリアクタが用いられる。
【0024】
しかしながら、従来の技術では、実験から反応速度を求めるためにある反応時間における反応流体をサンプリングし、そのサンプリングした反応流体に対して生成物の抽出や濃度測定等を行う工程が必要であり、1つの条件下における濃度を算出するまでに少なくとも数時間の作業時間を要する。従来の技術では、最適化項目の数によっては数十回以上、条件変更と抽出を行うトライアンドエラーの工程を繰り返す必要がある。また、従来の技術では、複数の温度条件下での濃度データが必要となるため、より多くの工数を要する。
【0025】
上記トライアンドエラーでは、目的化合物の合成に長時間を要してしまったり、コストが嵩んでしまったり、最悪の場合、合成できない場合もありうるため、特許文献1及び2に開示されている方法は、量子化学計算によって、最適な合計経路を導き出している。この方法では、合成経路の予測のための入力データとして用いている活性化自由エネルギー(ΔG‡)を計算で求めているが、このΔG‡は、実測した値ではなくシミュレーションから算出した値であるため、実測値との乖離が大きいという課題がある。
【0026】
本発明の実施形態では、測定された活性化自由エネルギーと、前記活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係を学習させた学習済みモデルを格納する格納部と、前記学習済みモデルを用いて、入力された反応条件から活性化自由エネルギーを予測する。これにより、従来よりも高い精度で活性化自由エネルギーを予測することができる。
【0027】
〔第1実施形態〕
先ず、活性化自由エネルギーを測定するソフトセンサ(測定装置)について説明する。
【0028】
〈ソフトセンサ〉
図1は、本発明の第1実施形態によるソフトセンサ1の構成例を示すブロック図である。
図1のように、ソフトセンサ1は、第1ポンプ11、送液管111、第2ポンプ12、送液管112、混合器13、反応管14、温度調整器15、温度測定部16、および反応解析装置20を備えている。温度測定部16は、第1の温度測定部161、第2の温度測定部162、第3の温度測定部163、および第4の温度測定部164を備えている。フローリアクタ10は、第1ポンプ11、送液管111、第2ポンプ12、送液管112、混合器13、および反応管14を備える。反応解析装置20は、CPU23を備えている。
【0029】
図1に示すフローリアクタ10は、化学反応に供される複数の反応物をそれぞれ供給する複数の供給流路(第1ポンプ11と送液管111、第2ポンプ12と送液管112)と、これら複数の供給流路に接続されて複数の反応物を混合する混合器13とを備えたものであり、流路状に形成される。
【0030】
第1ポンプ11は、送液管111を介して混合器13の第1の導入口に接続されている。第2ポンプ12は、送液管112を介して混合器13の第2の導入口に接続されている。混合器13は、2つの導入口と1つの排出口を備えている。混合器13の排出口は、複数の反応物が混合されて得られる反応流体が流通される反応管14に接続されている。
【0031】
温度測定部16は、反応管14に沿う複数の位置における反応流体の温度を測定可能なように、例えば、混合器13の前後で流路に沿って複数配置される第1の温度測定部161、第2の温度測定部162、第3の温度測定部163、および第4の温度測定部164を有する。なお、温度測定部16の個数は、4個に限定されず、例えば4個以上であってもよい。
第1の温度測定部161は、混合器13の入力側に設置され、この第1の温度測定部161により、複数の反応物を混合させて得られる反応流体の初期温度(混合器13の排出口における反応流体の温度)を測定することができる。
第2の温度測定部162、第3の温度測定部163、および第4の温度測定部164は、混合器13の出力側の反応管14に設置され、これら第2の温度測定部162~第4の温度測定部164により、反応流体の流れ方向に沿う混合直後(反応開始直後)の反応流体の温度(温度分布)を測定することができる。なお、「反応開始直後」とは、反応流体が実際に反応を開始した直後の意味ではなく、反応が開始される状態に反応流体が置かれた直後(第1実施形態では、複数の反応物が混合された直後)の意味である。
送液管111、送液管112、混合器13および反応管14は、温度調整器15内に設置される。
【0032】
〈ソフトセンサの動作〉
ソフトセンサ1は、フロー合成型の化学反応装置における反応流体の反応状態を特定するものである。ソフトセンサ1は、反応前の温度と、反応後の複数箇所の温度とを測定し、測定した温度に基づいて活性化自由エネルギー(ΔG‡)を含む反応パラメータを算出する。第1ポンプ11と第2ポンプ12に投入される反応物は、液体であっても気体であってもよい。反応パラメータは、反応流体の反応状態を示すものであって、後述するように、例えば化学反応場の温度分布に影響を及ぼすパラメータである。ソフトセンサ1によって生成される生成物は、例えばペプチド合成物である。
【0033】
第1ポンプ11には、第1反応物が投入される。第1ポンプ11は、投入された第1反応物を、例えば第1流速、第1流量で、送液管111を介して混合器13に供給する。
【0034】
第2ポンプ12には、第2反応物が投入される。第2ポンプ12は、投入された第2反応物を、例えば第2流速、第2流量で、送液管112を介して混合器13に供給する。
【0035】
混合器13は、第1ポンプ11から供給された第1反応物と、第2ポンプ12から供給された第2反応物と、を混合し、混合した生成物を反応管14に供給する。
【0036】
反応管14には、混合器13の排出口から生成物が供給される。混合器13内部の空間内では、第1反応物と第2反応物との混合が開始される。そして、フローリアクタ10では、混合器13内部から反応管14内部において反応が起き、生成物を含む例えば溶液が反応管14内を移動する。そして、フローリアクタ10では、生成物を含む例えば溶液が、反応管14を通して反応管14の外部に排出される。
【0037】
温度調整器15は、例えば恒温水槽であり、反応解析装置20の制御に応じて、混合器13、反応管14の温度を所定の温度に調整する。
【0038】
温度測定部16は、化学反応場の温度を測定するセンサであり、例えば熱電対である。温度測定部16は、非接触型の、例えば光学式温度センサであってもよい。温度測定部16は、反応管14に沿う反応流体の温度分布を測定し、測定した温度を示す温度情報(実測温度分布)を反応解析装置20に出力する。なお、化学反応場は、混合器13の下流側において混合された反応物の化学反応が生ずる領域である。
【0039】
第1の温度測定部161は、反応前の位置p1に設置されている。なお、設置箇所は、第1ポンプ11側および第2ポンプ12側のうち少なくとも1つであってもよく、第1ポンプ11側および第2ポンプ12側の両方であってもよい。第1ポンプ11側および第2ポンプ12側の両方に第1の温度測定部161を設置する場合は、第1ポンプ11側の温度と、第2ポンプ12側の温度と、の平均値を反応解析装置20に出力するようにしてもよい。なお、平均値は、反応解析装置20が算出するようにしてもよい。なお、混合器13の上流側の温度を測定することは、必ずしも必須ではない。例えば、反応物の温度が一定に保たれている場合に第1の温度測定部161は不要である。
【0040】
第2の温度測定部162は、反応後の位置p2に設置されている。位置p2は、位置p2~p4の中で最も混合器13の排出口に近い位置である。第2の温度測定部162は、位置p2の温度を測定し、測定した温度を示す情報を反応解析装置20に出力する。
【0041】
第3の温度測定部163は、反応後の位置p3に設置されている。位置p3は、位置p2と位置p4の間の位置であり、位置p2より混合器13の排出口からの距離が長い。第3の温度測定部163は、位置p3の温度を測定し、測定した温度を示す情報を反応解析装置20に出力する。
【0042】
第4の温度測定部164は、反応後の位置p4に設置されている。位置p4は、位置p2~p4の中で最も混合器13の排出口から遠い位置である。第4の温度測定部164は、位置p4の温度を測定し、測定した温度を示す情報を反応解析装置20に出力する。
【0043】
反応解析装置20は、温度調整器15を制御する。反応解析装置20は、第1ポンプ11と第2ポンプ12の流量の制御を行う。反応解析装置20は、温度測定部16が出力する測定された温度を示す情報を取得する。反応解析装置20は、取得した温度を示す情報を用いて、複数の反応物を混合させて得られる反応流体の反応状態を特定する。反応状態は、例えば、反応流体の反応速度、複数の反応物の濃度、反応流体に含まれる生成物の濃度または収率である。反応解析装置20は、例えば位置と温度の関数を推定することで反応を解析する。なお、推定方法等は後述する。
【0044】
なお、
図1に示した構成は一例であり、これに限らない。例えば、第1反応物と第2反応物とを第1の混合器で混合して第1の生成物を生成し、この第1の生成物と第3反応物とを第2の混合器で混合して第2の生成物を生成する構成であってもよい。この場合は、第1の混合器の前後(上下流側)または下流側のみに温度測定部を取り付け、第2の混合器の前後(上下流側)または下流側のみに温度測定部を取り付けることにより、第1の混合器による第1反応物と第2反応物の混合直後の反応流体の温度分布を検出すると共に、第2の混合器による第1の生成物と第3反応物の混合直後の反応流体の温度分布を検出するようにしてもよい。
【0045】
〈反応場の温度分布から反応パラメータの算出方法〉
次に、反応場の温度分布から反応パラメータを算出する方法について説明する。
【0046】
関数Tn(x)は、混合直後の反応流体の温度分布を推定する支配方程式の解であり、位置xに対する温度の関数である。例えば、Tn(p1)は、関数Tn(x)による位置p1の温度の推定値である。Tn(p2)は、関数Tn(x)による位置p2の温度の推定値である。Tn(p3)は、関数Tn(x)による位置p3の温度の推定値である。Tn(p4)は、関数Tn(x)による位置p4の温度の推定値である。
【0047】
反応解析装置20は、温度測定部16によって反応流体の温度を実測することにより得られる実測温度分布と、混合直後の反応流体の温度分布を推定することにより得られる推定温度分布とを比較し、推定値と実測値との差が所定値以内となる反応パラメータを設定する。
【0048】
ここで、反応パラメータ、関数Tn(x)について説明する。
関数Tn(x)は、混合直後の反応流体の温度分布を推定する支配方程式の解であり、次式(1)のように、位置x、反応パラメータΔH、ΔG‡の関数である。
【0049】
【0050】
反応パラメータΔHは、反応モルエンタルピー(kJ/mol)である。反応モルエンタルピーとは、モルあたり(単位物質量当たり)の反応熱を表す量である。反応パラメータΔHは、混合直後の反応流体の温度分布のピーク値に関連する。
【0051】
反応パラメータΔG‡は、活性化自由エネルギー(kJ/mol)である。活性化自由エネルギーとは、反応前と反応遷移状態の自由エネルギーの差であり、反応速度の温度依存性を示すものである。反応パラメータΔG‡は、混合直後の反応流体の温度分布のピーク値およびピーク位置に関連する。
【0052】
次に、ソフトセンサ1における反応解析の処理手順例を説明する。
【0053】
反応解析装置20は、温度測定部16が測定した温度に関する情報(反応流体の温度を実測することにより得られる実測温度分布)を取得する。これにより、反応解析装置20は、温度分布測定値T0(x)を読み込む。なお、反応解析装置20は、温度測定部16が設置されている位置xを記憶している。
【0054】
次に、反応解析装置20は、反応パラメータΔHn、ΔG‡
nを仮設定して、温度分布計算値Tn(x)を算出する(混合直後の反応流体の温度分布を推定することにより得られる推定温度分布を取得する)。なお、反応解析装置20は、当該処理が一回目の場合、反応パラメータΔH1、ΔG‡
1を自部が記憶する例えば初期値に設定して、温度分布計算値T1(x)を算出する。
【0055】
次に、反応解析装置20は、関数Tn(x)により推定される各位置pm(mは例えば1~4の整数)の温度推定値と、温度測定部16により実測される各位置pmの温度実測値Tmとの差Δtmを算出する(実測温度分布と推定温度分布とを比較する)。反応解析装置20は、温度の測定箇所が4つの場合、Δt1(=T1-Tn(p1))、Δt2(=T2-Tn(p2))、Δt3(=T3-Tn(p3))、Δt4(=T4-Tn(p4))が全て、自装置の記憶する所定値以内であるか否かを判別することで、Tn(x)がT0(x)にほぼ一致するか否かを判別する。
【0056】
反応解析装置20は、Tn(x)がT0(x)にほぼ一致しないと判別した場合、反応パラメータの値を調整する。例えば、Δt1~Δt4が全て正の場合、最大値の高さを高くするように反応パラメータΔHをΔH1より大きな値にする。例えば、Δt1~Δt4が全て負の場合、最大値の高さを低くするように反応パラメータΔHをΔH1より小さな値にする。また、仮にΔt2のみが負で、その他が正の場合(例えば推定温度分布のピーク位置が測定した温度分布に比べて後方に位置している場合)、推定温度分布のピーク位置が前方に来るようにΔG‡
1を小さな値にする。
【0057】
反応解析装置20は、Tn(x)がT0(x)にほぼ一致すると判別した場合、また上記反応パラメータの調整によってTn(x)がT0(x)にほぼ一致すると判別した場合、反応パラメータΔH、ΔG‡を出力する。
【0058】
また、反応解析装置20は、生成物と反応物の濃度分布P(x)を算出し、算出した生成物と反応物の濃度分布P(x)を出力する。
【0059】
なお、反応解析装置20が算出して出力する生成物と反応物の濃度分布P(x)は、反応パラメータがΔH、ΔG‡である場合、次式(2)の微分方程式を解くことで得られる。
【0060】
【0061】
式(2)において、[A]は第1反応物の濃度、[B]は第2反応物の濃度、hはプランク定数(6.62607004×10-34(m2kg/s))、kBはボルツマン定数(1.380649×10-23(JK-1))、Rは気体定数、Tは流体の温度である。
【0062】
このように、ソフトセンサ1では、実測値を用いて活性化自由エネルギー(ΔG‡)を含む反応パラメータを算出することができる。
また、濃度を推定することで、フローリアクタ10中の任意の位置および任意の時間における生成物の収率を算出することができる。
【0063】
〈反応性予測システム〉
図2は、本発明の第1実施形態による反応性予測システム40の要部構成を示すブロック図である。
図2に示す通り、本実施形態の反応性予測システム40は、操作部41、表示部42、格納部43、及び処理部44を備える。このような反応性予測システム40は、例えば、デスクトップ型、ノート型、若しくはタブレット型のコンピュータ、又は、ワークステーション等で実現される。また、反応性予測システム40は、上記ソフトセンサ1が接続可能な第1インターフェース40Aを備える。第1インターフェース40Aは、例えば、コネクタ、ソケット、カップリング等で実現される。
【0064】
操作部41は、例えば、キーボード又はポインティングデバイス等の入力装置を備えており、反応性予測システム40を使用する作業者の操作に応じた指示(反応性予測システム40に対する指示)を処理部44に出力する。表示部42は、例えば、液晶表示装置等の表示装置を備えており、処理部44から出力される各種情報を表示する。尚、操作部41及び表示部42は、物理的に分離されたものであってもよく、表示機能と操作機能とを兼ね備えるタッチパネル式の液晶表示装置のように物理的に一体化されたものであっても良い。
【0065】
格納部43は、例えば、HDD(ハードディスクドライブ)又はSSD(ソリッドステートドライブ)等の記憶装置を備えており、反応性予測システム40で用いる各種データを格納する。格納部43は、例えば、学習用データセットDS及び学習済みモデルMDを格納する。尚、格納部43は、反応性予測システム40の機能を実現するプログラムを格納してもよい。
【0066】
学習用データセットDSは、ソフトセンサ1から得られたデータである。この学習用データセットDSは、例えば、ソフトセンサ1により測定された活性化自由エネルギー(ΔG‡)と、その活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件(第1データセット)を含むデータである。学習済みモデルMDは、測定された活性化自由エネルギー(ΔG‡)と、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係を学習させたモデルであり、学習用データセットDSを用いて機械学習を行うことによって生成される。尚、学習済みモデルMDの詳細については後述する。
【0067】
処理部44は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等により実現され、操作部41から入力される操作指示に基づいて、反応性予測システム40の動作を統括して制御する。処理部44は、例えば、学習用データセットDSから学習済みモデルMDを生成する処理、学習済みモデルMDを用いて、操作部41から入力される反応条件から活性化自由エネルギーを予測する処理、その他の処理を行う。尚、処理部44は、操作部41から入力される操作指示に基づいて、予測した活性化自由エネルギー、その他の出力を表示部42に表示させる処理を行うことも可能である。
【0068】
反応性予測システム40の機能は、例えば、その機能を実現するプログラム(不図示の記録媒体に記録されたプログラムを含む)がCPU等のハードウェアによって実行されることによって実現されてもよい。つまり、反応性予測システム40の機能は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現されてもよい。勿論、反応性予測システム40の機能は、FPGA、LSI、ASIC等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0069】
〈学習済みモデルの生成〉
図3は、本発明の第1実施形態による反応性予測システム40の学習済みモデルMDの生成に係る機能的構成の一例を示すブロック図である。
図3に示す通り、反応性予測システム40は、取得部51、前処理部52、生成部53、モデル生成格納部54、及びモデル格納部55を備える。取得部51、前処理部52、及び生成部53は、
図2に示す処理部44によって実現される。即ち、処理部44が、格納部43に格納されたモデル生成プログラムを実行することにより、取得部51、前処理部52、及び生成部53の機能が実現される。モデル生成格納部54及びモデル格納部55は、
図2に示す格納部43によって実現される。
【0070】
取得部51は、学習用データセットDSを取得する。取得部51が学習用データセットDSを取得する態様としては、例えば、ソフトセンサ1から入力される教師データ(測定された活性化自由エネルギー)と、操作部41から入力される反応条件(活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件)とを取得する態様が挙げられる。尚、ソフトセンサ1から入力される教師データと、操作部41から入力される反応条件とを学習用データセットDSとして格納部43に一時的に格納しておき、取得部51が、格納部43に一時的に格納された学習用データセットDSを取得するようにしてもよい。
【0071】
図4は、本発明の第1実施形態で用いられる学習用データセットDSの一例を示す説明図である。
図4に示す通り、本実施形態で用いられる学習用データセットDSは、学習用サンプルSP1~SPnを含む(nは、2以上の整数)。各学習用サンプルSP1~SPnは、過去の測定結果から得られるものであり、第1データセットD11及び教師データD12を含む。
【0072】
教師データD12は、ソフトセンサ1で測定された活性化自由エネルギー(ΔG‡)である。第1データセットD11は、その活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件であり、その反応条件を、例えば操作部41を操作することにより反応性予測システム40に入力したデータである。第1データセットD11の反応条件は、反応物、溶媒、触媒、添加物、試薬、温度、反応時間の少なくとも1つを含むと良い。学習用サンプルSP1~SPnには、第1データセットD11と教師データD12とが含まれる。
【0073】
図3に戻り、前処理部52は、取得部51で取得された学習用データセットDSに対し、学習済みモデルMDを作成するために必要となる前処理を行う。尚、学習用データセットDSに対する前処理が必要なければ、前処理部52は省略される。
【0074】
生成部53は、前処理部52で前処理が行われた学習用データセットDSを用いて学習モデルを訓練して、学習済みモデルMDを生成する。生成部53で生成される学習済みモデルMDは、例えば、ニューラルネットワークを用いて表されるモデルである。但し、学習済みモデルMDは、ニューラルネットワークを用いて表されるモデルに限定される訳ではなく、例えば、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン等他のアルゴリズムを用いて表されるモデルとすることも可能である。
【0075】
モデル生成格納部54は、生成部53で訓練中の学習モデルとパラメータとを格納する。モデル格納部55は、生成部53で生成された学習済みモデルMDを格納する。
【0076】
図5は、本発明の第1実施形態による反応性予測システム40が行うモデル生成処理の一例を示すフローチャートである。
図5に示すフローチャートの処理は、例えば、反応性予測システム40を使用する作業者が、反応性予測システム40の操作部41を操作して、学習開始指示を行うことによって開始される。尚、説明を簡単にするために、
図3に示すモデル生成格納部54には、学習モデル、パラメータが格納されているものとする。
【0077】
図5に示すフローチャートの処理が開始すると、まず、反応性予測システム40の取得部51は、学習用データセットDSを取得する(ステップS11)。次に、反応性予測システム40の前処理部52は、取得した学習用データセットDSの前処理を行う(ステップS12)。
【0078】
次いで、反応性予測システム40の生成部53は、前処理が行われた学習用データセットDSを用いた機械学習を実施する(ステップS13)。ここで、学習用データセットDSには、教師データD12が含まれていることから、生成部53は、教師あり学習を実施する。続いて、生成部53は、機械学習が終了であるか否かを判断する(ステップS14)。
【0079】
機械学習が終了ではないと判断した場合(ステップS14の判断結果が「NO」の場合)には、生成部53は、機械学習を継続する(ステップS13)。例えば、学習用データセットDSに含まれる学習用サンプルSP1~SPnのうち、機械学習に用いられていないものを用いて機械学習を実施する。これに対し、機械学習が終了であると判断した場合(ステップS14の判断結果が「YES」の場合)には、生成部53は、生成された学習済みモデルMDをモデル格納部55に格納させる(ステップS15)。以上の処理によって、
図5に示す一連の処理が終了する。
【0080】
尚、本実施形態では、学習済みモデルMDが反応性予測システム40で生成される例について説明している。しかしながら、学習済みモデルMDは、反応性予測システム40とは異なる他の装置で生成されてもよい。学習済みモデルMDが他の装置で生成される場合には、学習済みモデルMDは、当該他の装置から供給されることによって、モデル格納部55に格納されてもよい。
【0081】
〈ΔG
‡の予測〉
図6は、本発明の第1実施形態による反応性予測システム40のΔG
‡の予測に係る機能的構成の一例を示すブロック図である。
図6に示す通り、反応性予測システム40は、モデル格納部55に加えて、取得部61、前処理部62、ΔG
‡予測部63、及び出力部64を備える。取得部61~ΔG
‡予測部63は、
図2に示す処理部44によって実現される。即ち、処理部44が、格納部43に格納されたプログラムを実行することにより、取得部61~ΔG
‡予測部63の機能が実現される。モデル格納部55は、
図2に示す格納部43によって実現され、出力部64は、
図2に示す表示部42によって実現される。
【0082】
取得部61は、例えば
図2に示す反応性予測システム40の操作部41を操作して入力される反応条件(反応条件データセットID)を取得する。尚、反応条件データセットIDが格納部43に格納されている場合には、取得部61は、格納部43から反応条件データセットIDを取得しても良い。反応条件データセットIDは、少なくとも、反応物、触媒、及び溶媒を含むと良い。
【0083】
前処理部62は、取得部61で取得された反応条件データセットIDに対し、ΔG‡を予測する上で必要となる前処理を行う。尚、反応条件データセットIDに対する前処理が必要なければ、前処理部62は省略される。
【0084】
ΔG‡予測部63は、モデル格納部55に格納された学習済みモデルMDと、前処理部62で前処理が行われた反応条件データセットIDとを用いて、ΔG‡の予測を行う。出力部64は、ΔG‡予測部63の予測結果を表示する。
【0085】
図7は、本発明の第1実施形態による反応性予測システム40が行うΔG
‡の予測処理の一例を示すフローチャートである。
図7に示すフローチャートの処理は、例えば、反応性予測システム40を使用する作業者が、反応性予測システム40の操作部41を操作して、ΔG
‡の予測処理の開始指示を行うことによって開始される。
【0086】
図7に示すフローチャートの処理が開始すると、まず、反応性予測システム40の取得部61は、予測対象となっている反応条件データセットIDを取得する(ステップS21:画像取得ステップ)。例えば、取得部61は、操作部41から入力された反応条件データセットIDを取得する。
【0087】
次に、反応性予測システム40の前処理部62は、取得した反応条件データセットIDの前処理を行う(ステップS22)。
【0088】
次いで、反応性予測システム40のΔG‡予測部63は、モデル格納部55に格納された学習済みモデルMDと、前処理部62で前処理が行われた反応条件データセットIDとを用いて、ΔG‡の予測を行う(ステップS23)。
【0089】
続いて、反応性予測システム40の出力部64は、予測したΔG‡を出力する(ステップS24)。これにより、ΔG‡予測部63における予測したΔG‡が、出力部64に表示される。
【0090】
以上説明した通り、本実施形態による反応性予測システム40は、測定された活性化自由エネルギー(ΔG‡)と、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係を学習させた学習済みモデルMDを格納する格納部43と、学習済みモデルMDを用いて、入力された反応条件(反応条件データセットID)から活性化自由エネルギーを予測する処理部44と、を備える。この構成によれば、ソフトセンサ1で実測したΔG‡から機械学習を用いてΔG‡を予測するため、量子化学計算のみで導き出したΔG‡よりも、より確からしいΔG‡が得られる。
【0091】
また、本実施形態による反応性予測システム40は、本発明の第1の態様による反応性予測システム40において、測定された活性化自由エネルギーを教師データD12とし、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件を第1データセットD11として、学習済みモデルMDを生成する生成部53を備える。この構成によれば、反応性予測システム40の内部で学習済みモデルMDを生成できる。尚、学習済みモデルMDは、反応性予測システム40の外部で生成したものであっても良い。
【0092】
また、本実施形態による反応性予測システム40は、第1データセットD11の反応条件は、反応物、溶媒、触媒、添加物、試薬、温度、反応時間の少なくとも1つを含む。この構成によれば、より確からしいΔG‡を予測できる。
【0093】
また、本実施形態による反応性予測システム40は、活性化自由エネルギーを測定するソフトセンサ1(測定装置)と接続可能な第1インターフェース40Aを備える。この構成によれば、測定された活性化自由エネルギー(ΔG‡)を、第1インターフェース40Aを介してソフトセンサ1から直接取得することができる。
【0094】
また、本実施形態による反応性予測方法は、反応条件を入力する第1ステップ(ステップS21)と、測定された活性化自由エネルギーと、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係を学習させた学習済みモデルMDを用いて、第1ステップで入力された反応条件から活性化自由エネルギーを予測する第2ステップ(ステップS23)と、を有する。この構成によれば、ソフトセンサ1で実測したΔG‡から機械学習を用いてΔG‡を予測するため、量子化学計算のみで導き出したΔG‡よりも、より確からしいΔG‡が得られる。
【0095】
このように、上記本実施形態によれば、従来よりも高い精度で活性化自由エネルギーを予測できる。
【0096】
〔第2実施形態〕
〈反応性予測システム〉
図8は、本発明の第2実施形態による反応性予測システム40の要部構成を示すブロック図である。尚、
図8においては、
図2に示す構成と同じ構成については同一の符号を付してある。
図8に示す通り、第2実施形態による反応性予測システム40は、さらにシミュレーター2(計算装置)が接続可能な第2インターフェース40Bを備える。第2インターフェース40Bは、例えば、コネクタ、ソケット、カップリング等で実現される。
【0097】
シミュレーター2は、量子化学計算を行い、反応に関する特徴量を算出する。シミュレーター2は、特徴量として、双極子モーメント、原子電荷、振動数の少なくとも1つを算出する。なお、シミュレーター2は、特徴量として、さらに、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)とLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギーギャップ等を算出しても良い。
【0098】
格納部43には、学習用データセットDSとして、上記第1データセットD11に加えて、第2データセットD21が格納されている。第2データセットD21は、シミュレーター2から得られたデータである。第2データセットD21には、上記特徴量及びその計算条件が含まれている。第2データセットD21に含まれる特徴量は、上記ソフトセンサ1での実験で得られない特徴量であるとよい。これにより、すべての反応条件に対して実験を行うことなく効率的にΔG‡を求めることができる。
【0099】
図9は、本発明の第2実施形態で用いられる学習用データセットの一例を示す説明図である。
図9に示す通り、本実施形態で用いられる学習用データセットDSは、
図4に示す学習用データセットDSと同様に、学習用サンプルSP1~SPnを含む。但し、各学習用サンプルSP1~SPnは、第1データセットD11及び教師データD12に加えて、第2データセットD21を含む。
【0100】
反応性予測システム40は、
図9に示す学習用データセットDSを用いて学習済みモデルMDを生成する。つまり、学習済みモデルMDは、学習済みモデルMDは、測定された活性化自由エネルギー(教師データD12)と、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係(第1データセットD11)に加えて、量子化学計算で求めた反応に関する特徴量と、量子化学計算が行われた際の計算条件との関係(第2データセットD21)を学習させたものである。
【0101】
また、反応性予測システム40は、
図9に示す学習用データセットDSを用いて生成された学習済みモデルMDと、入力された反応条件(反応条件データセットID)から活性化自由エネルギーを予測する。尚、反応性予測システム40の学習済みモデルMDの生成に係る機能的構成及びモデル生成処理、並びに、活性化自由エネルギーを予測に係る機能的構成及び状態判定処理は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0102】
以上説明した通り、第2実施形態による反応性予測システム40は、学習済みモデルMDが、測定された活性化自由エネルギーと、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件との関係に加えて、量子化学計算で求めた反応に関する特徴量と、量子化学計算が行われた際の計算条件との関係を学習させたものである。この構成によれば、ソフトセンサ1で一部の反応条件に対して求めたΔG‡と、量子化学計算で算出した特徴量から、機械学習を用いてΔG‡を予測することで、すべての反応条件に対して実験を行うことなく効率的にΔG‡を求めることが出来る。また量子化学計算から算出したΔG‡では誤差を含むため、第2実施形態では、ソフトセンサ1から実測したΔG‡を機械学習に用いることで従来技術より確からしいΔG‡が得られる。
【0103】
また、第2実施形態による反応性予測システム40では、測定された活性化自由エネルギーを教師データD12とし、活性化自由エネルギーが測定された際の反応条件を第1データセットD11とし、特徴量及び計算条件を第2データセットD21として、学習済みモデルMDを生成する生成部53を備える。この構成によれば、反応性予測システム40の内部で学習済みモデルMDを生成できる。尚、学習済みモデルMDは、反応性予測システム40の外部で生成したものであっても良い。
【0104】
また、第2実施形態による反応性予測システム40では、第2データセットD21の特徴量は、双極子モーメント、原子電荷、振動数、分子軌道の少なくとも1つを含む。この構成によれば、より確からしいΔG‡を予測できる。
【0105】
また、第2実施形態による反応性予測システム40では、量子化学計算を行うシミュレーター2(計算装置)と接続可能な第2インターフェース40Bを備える。この構成によれば、反応に関する特徴量を、第2インターフェース40Bを介してシミュレーター2から直接取得することができる。
【0106】
〔第3実施形態〕
〈反応性予測システム〉
図10は、本発明の第3実施形態による反応性予測システム40の要部構成を示すブロック図である。尚、
図10においては、
図6に示す構成と同じ構成については同一の符号を付してある。
図10に示す通り、第3実施形態による反応性予測システム40は、さらにΔG
‡予測部63で予測した活性化自由エネルギーに基づいて、所定の反応条件を提示する反応条件提示部65を備える。反応条件提示部65は、
図2に示す処理部44によって実現される。即ち、処理部44が、格納部43に格納されたプログラムを実行することにより、反応条件提示部65の機能が実現される。
【0107】
図11は、本発明の第3実施形態による反応条件提示部65が行う反応条件提示処理の一例を示す説明図である。
図11に示す反応条件提示処理は、ΔG
‡予測部63で予測した活性化自由エネルギーのうち、最も活性化自由エネルギーが低いと予想された反応条件を提示する。例えば、反応条件提示部65は、反応A~CのΔG
‡を比較し、最も値の小さい条件(反応物の組み合わせ)を選ぶ動作を実行する。
【0108】
具体的には、
図10に示すように、取得部61は、上述した反応条件データセットIDとして、反応A~Cごとに入力される反応条件(
図11に示すデータセット1
A~1
C(データセット2
A~2
C))を取得する。データセット1
A~1
Cは、少なくとも、反応物、触媒、及び溶媒を含む反応条件であると良い。データセット2
A~2
Cを入力する場合は、データセット2
A~2
Cは、少なくとも、双極子モーメント、原子電荷、振動数、分子軌道の少なくとも1つを含む特徴量であると良い。
【0109】
前処理部62は、取得部61で取得された反応条件に対し、ΔG‡を予測する上で必要となる前処理を行う。尚、反応条件データセットIDに対する前処理が必要なければ、前処理部62は省略される。ΔG‡予測部63は、モデル格納部55に格納された学習済みモデルMDと、前処理部62で前処理が行われた反応条件を用いて、ΔG‡の予測を行う。
【0110】
反応条件提示部65は、ΔG
‡予測部63で予測した活性化自由エネルギーのうち、最も活性化自由エネルギーが低いと予想された反応条件を提示する。
図11の例では、反応条件提示部65は、最もΔG
‡が小さい反応Bの条件を提示する。尚、反応条件提示部65は、参考として、反応A~CのΔG
‡を提示してもよいし、上述した式(2)を用いた一般的反応速度式から、反応A~Cの反応時間と収率を提示してもよい。出力部64は、反応条件提示部65の提示結果を表示する。
【0111】
以上説明した通り、第3実施形態による反応性予測システム40は、処理部44のΔG‡予測部63で予測した活性化自由エネルギーに基づいて、所定の反応条件を提示する反応条件提示部65を備える。反応条件提示部65は、上記所定の反応条件として、処理部44のΔG‡予測部63で予測した活性化自由エネルギーのうち、最も活性化自由エネルギーが低いと予想された反応条件を提示する。この構成によれば、ΔG‡を比較し、最も値の小さい条件(反応物の組み合わせ)を選ぶことで、反応時間が短くかつ収率が高い反応条件を提示することができる。
【0112】
〔第4実施形態〕
〈反応性予測システム〉
図12は、本発明の第4実施形態による反応性予測システム40の要部構成を示すブロック図である。尚、
図12においては、
図10に示す構成と同じ構成については同一の符号を付してある。
図12に示す通り、第4実施形態による反応条件提示部65は、ΔG
‡予測部63で予測した活性化自由エネルギーと、さらに、所定の制約条件と、に基づいて、所定の反応条件を提示する。
【0113】
図13は、本発明の第4実施形態による反応条件提示部65が行う反応条件提示処理の一例を示す説明図である。
図13に示す反応条件提示処理は、選出されたΔG
‡をもとに、制約条件の中で実施可能で、流路の制約で決まっている反応時間内に、反応を終えられる反応条件(反応場温度、反応物の濃度)を提示する。
【0114】
すなわち、
図1に示すフローリアクタ10によるフロー合成では、流路内が反応場(制約)となる。フローリアクタ10の流路が、一定の流量と内径の場合、流路の長さで反応できる時間が決まる。しかしながら、流路は無限に長くできない。したがって、固定された反応時間内で、反応を終わらせられる条件を提示する必要がある。ここでの反応条件の提示では、第3実施形態での提示に加えて、反応時間t、反応場温度T、反応物の濃度Cを条件として提示する。すなわち、制約条件は、反応時間、反応場温度、反応物の濃度の少なくとも1つを含むと良い。
【0115】
反応時間tは、反応場温度T、反応物の濃度Cの関数t(T,C)で求めることができる。反応場温度Tは、制約として、上限値と下限値があらかじめ設定されている。反応物の濃度Cには上限値があらかじめ設定されている。つまり、第4実施形態では、第3実施形態で選出されたΔG‡に、制約条件に関する反応条件アルゴリズム(T,C)を加え、上述した式(2)を用いた一般的反応速度式から、反応時間(と収率)を提示する。
【0116】
以上説明した通り、第4実施形態による反応性予測システム40は、処理部44のΔG‡予測部63で予測した活性化自由エネルギーと、所定の制約条件と、に基づいて、所定の反応条件を提示する反応条件提示部65を備える。所定の制約条件は、反応時間、反応場温度、反応物の濃度の少なくとも1つを含む。この構成によれば、選出されたΔG‡をもとに、制約条件の中で実施可能で、流路の制約で決まっている反応時間内に、反応を終えられる反応条件(反応場温度、反応物の濃度)を提示し、参考に反応終了時間(予測時間)を表示することができる。
【0117】
以上、本発明の実施形態による反応性予測システム、反応性予測方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記各実施形態の組み合わせ、置換等は可能である。
【符号の説明】
【0118】
1 ソフトセンサ(測定装置)
2 シミュレーター(計算装置)
40 反応性予測システム
40A 第1インターフェース
40B 第2インターフェース
43 格納部
44 処理部
53 生成部
63 ΔG‡予測部
65 反応条件提示部
D11 第1データセット
D12 教師データ
D21 第2データセット
DS 学習用データセット
MD 学習済みモデル