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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079166
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】非対称ストリング
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/00 20060101AFI20240604BHJP
   A63B 51/02 20150101ALI20240604BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20240604BHJP
   D01D 5/253 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
D01F6/00 Z
A63B51/02
D01F6/62 303F
D01D5/253
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191935
(22)【出願日】2022-11-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】522417889
【氏名又は名称】村田 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】110003454
【氏名又は名称】弁理士法人友野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 迪夫
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD02
4L035DD14
4L045AA05
4L045BA02
4L045BA10
4L045CA01
4L045CA19
(57)【要約】
【課題】本発明は、スピンを効果的に掛けることができるストリングを提供すると共に、そのストリングを張ったラケットがスピンを掛け易くなるだけでなく、ラケットの表裏でスピンの掛かる程度が異なるラケットを提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のストリングは、半円柱状繊維体の円弧側の側面の円弧の曲率が異なる半円柱状繊維体を、半円柱状繊維体の直径側の側面において接合した、表裏を有する形状であり、ポリエステル、ポリオキシメチレン、及び、ポリオキシメチレンコポリマーの中から選択される一つ以上のモノフィラメントであることを特徴としている。このストリングによりスピンを掛け易くなるラケットを提供できるだけでなく、このストリングのラケットへの張設方法によって、スピンの掛かる程度が表裏で異なるラケットを提供することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧の曲率が異なる半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される複数の半円柱状繊維体を、
前記半円の直径と前記半円の円弧の中心を通る前記半円柱状繊維体の中心軸とを含む平面の間で、
前記中心軸の方向を一致させて接合して形成される形状のストリングであって、
前記複数の半円柱状繊維体の内、前記曲率が最小である前記半円柱状繊維体の前記平面に、前記曲率が最小である前記半円柱状繊維体よりも前記曲率が大きい前記半円柱状繊維体を一つ以上接合して形成される、前記中心軸を通る前記平面を境として、前記円弧を含む側面の形状が異なることを特徴とするモノフィラメントストリング。
【請求項2】
円弧の曲率が異なる半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される二つの半円柱状繊維体を、
前記半円の直径と前記半円の円弧の中心を通る前記半円柱状繊維体の中心軸とを含む平面の間で、
前記中心軸の方向を一致させて接合して形成される形状のストリングであって、
前記曲率が小さい前記半円柱状繊維体の前記平面に、前記曲率が大きい前記半円柱状繊維体を接合して形成される、前記中心軸を通る前記平面を境として、前記円弧を含む側面の形状が異なることを特徴とするモノフィラメントストリング。
【請求項3】
前記中心軸を一致させて接合して形成される形状であることを特徴とする請求項2に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項4】
半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体の、前記半円の直径と前記半円の円弧の中心を通る前記半円柱状繊維体の中心軸とを含む平面上に、
前記半円の円弧の曲率以上の球面を有する半球を、前記半球の中心を通る平面で接合して形成される形状のストリングであって、前記中心軸を通る前記平面を境として異なる形状を有していることを特徴とするモノフィラメントストリング。
【請求項5】
半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体の、前記半円の直径と、前記半円の円弧の中心を通る前記半円柱状繊維体の中心軸とを含む平面上に、
前記半円の円弧の曲率以上の円弧の半円を底面とし、前記半円の直径以下の高さとする半円柱を、前記半円の直径以下の高さとする半円柱の中心軸を通る平面で、前記半円柱状繊維体の前記中心軸と直交するように接合して形成される形状のストリングであって、前記中心軸を通る前記平面を境として異なる形状を有していることを特徴とするモノフィラメントストリング。
【請求項6】
請求項1に記載のモノフィラメントストリングを用い、前記曲率が最小である前記半円の円弧を含む側面同士が接触するように張設されており、両面でスピンが効果的に掛かることを特徴とするラケット。
【請求項7】
請求項1に記載のモノフィラメントストリングを用い、前記曲率が最小である前記半円の円弧を含む側面と、前記側面の反対面の前記半円の前記円弧を含む側面のいずれか一つ以上とが接触するように張設されており、両面でスピンの掛かる程度が異なることを特徴とするラケット。
【請求項8】
請求項2に記載のモノフィラメントストリングを用い、前記曲率が小さい前記半円の円弧を含む側面同士が接触するように張設されており、両面でスピンが効果的に掛かることを特徴とするラケット。
【請求項9】
請求項3に記載のモノフィラメントストリングを用い、前記曲率が小さい前記半円の円弧を含む側面同士が接触するように張設されており、両面でスピンが効果的に掛かることを特徴とするラケット。
【請求項10】
請求項2に記載のモノフィラメントストリングを用い、前記曲率が小さい前記半円の円弧を含む側面と、前記側面の反対面の前記半円の円弧を含む側面とが接触するように張設されており、両面でスピンの掛かる程度が異なることを特徴とするラケット。
【請求項11】
請求項3に記載のモノフィラメントストリングを用い、前記曲率が小さい前記半円の円弧を含む側面と、前記側面の反対面の前記半円の円弧を含む側面とが接触するように張設されており、両面でスピンの掛かる程度が異なることを特徴とするラケット。
【請求項12】
請求項4に記載のモノフィラメントストリングを用い、前記半円の円弧を含む側面同士が接触するように張設されており、両面でスピンが効果的に掛かることを特徴とするラケット。
【請求項13】
請求項5に記載のモノフィラメントストリングを用い、前記半円の円弧を含む側面同士が接触するように張設されており、両面でスピンが効果的に掛かることを特徴とするラケット。
【請求項14】
前記モノフィラメントストリングが、ポリエステル、ポリオキシメチレン、及び、ポリオキシメチレン共重合体の中から選択される一つ以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のモノフィラメントのストリング。
【請求項15】
前記モノフィラメントストリングの表面に、少なくともポリオキシメチレン又はポリオキシメチレン共重合体が露出されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のモノフィラメントのストリング。
【請求項16】
前記モノフィラメントストリングが、ポリエステル、ポリオキシメチレン、及び、ポリオキシメチレン共重合体の中から選択される一つ以上であることを特徴とする請求項6~13のいずれか一項に記載のラケット。
【請求項17】
前記モノフィラメントストリングの表面に、少なくともポリオキシメチレン又はポリオキシメチレン共重合体が露出されていることを特徴とする請求項6~13のいずれか一項に記載のラケット。
【請求項18】
一台又は複数台の押出機で一種又は複数種の樹脂を溶融紡糸ノズルに押し出す共押出し成形によって請求項14のストリングを製造することを特徴とするモノフィラメントストリングの製造方法。
【請求項19】
複数の押出機で複数の樹脂を同時に溶融紡糸ノズルに押し出す共押出し成形によって請求項15のストリングを製造することを特徴とするモノフィラメントストリングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニス、バドミントン、及び、スカッシュ等のラケットに用いるストリングに関する。特に、本発明は、ボール及びシャトルコックを自在に操ることができ、スピンを効果的にかけることができるストリングに関する。
【背景技術】
【0002】
テニス、バドミントン、及び、スカッシュ等を楽しむ愛好家から競技するプロフェッショナルまで、ボール及びシャトルコックを自在に操ることができること、特に、スピンを効果的にかけることを目指して練習を繰り返して行っている。
【0003】
しかし、愛好家及びプロフェッショナルに係わらず、道具に頼りたい願望があるのも事実であり、ラケットの開発が盛んに行われてきた。特に、開発されたラケットを構成するフレームとストリングには、次のような顕著な効果が認められる。テニスラケットを例に挙げて説明する。
【0004】
フレームの形状の変化は一目瞭然であり、厚く大きくなり、これによるスイートスポットの拡大等が、ボールのコントロール及びスピード共に飛躍的に向上した(非特許文献1)。
【0005】
一方、ストリング(ガット)は、それが構成されている構造及び材質等の要素技術を、肉眼で容易に感知することができず、肉眼で区別がつかないこともあり、フレームと比較すると、その改良の効果を実感することはできない。しかし、ストリングについても、その構造及び材質等からストリングの張設等に亘り、特に、ボールにスピンが掛かるメカニズムの検討、及び、ボールにスピンを掛けるための技術開発が盛んに行われてきた(例えば、特許文献1~9、並びに、非特許文献1~7)。
【0006】
スピンは、ボールに回転を付与することにより生じ、テニスの場合には、トップスピンとアンダースピンとがあり、この使い分けを自在に操ることができることが試合の勝敗に大きく影響する。従来、このボールに回転を掛ける原動力は、ボールとストリングとが接触する際の摩擦力にあるという仮説が一般的に信じられ、研究結果としても報告されている(非特許文献2及び3)。このことは、特許出願に顕著に反映されており、様々な粒子や突起体のストリング表面への固着(例えば、特許文献1及び2)、複数の各種単糸の撚りが生成するスパイラル状の溝(例えば、特許文献3及び4)、ストリングの長さ方向のくびれ(例えば、特許文献5)、並びに、溶融押出紡糸及び加熱圧縮成形等により形成される様々な形状のストリング表面(例えば、特許文献6及び7)等、数多くの提案がなされてきた。いずれも、方法は異なるが、基本にある考え方は、ボールとの摩擦力を向上させることができると考えられるストリング表面への凹凸の形成である。この考え方は、テニスに限定されず、バドミントン、及び、スカッシュ等におけるシャトルコック及びボールに掛けるスピンに対しても同様である。
【0007】
このようなスピンにおける摩擦力に対し、テニスプレーヤーがボールを打つ瞬間、すなわち、ボールとストリングとが衝突するインパクトを含む、その前後のボールとストリングの挙動の高速ビデオ画像解析の結果、ラケットに張設されている縦ストリングが横ストリングに対して滑動することが、スピンを効果的に掛ける原動力となっていることが数々報告されている(例えば、非特許文献4、6、及び、7)。そして、このことを裏付ける根拠として、現在使用禁止となっているスパゲッティ・ストリング・ラケットとの類似性(非特許文献4)、ガット・ノッチを生成したストリングのラケットのスピン付与性能の低下(非特許文献6)、及び、扁形ストリングのラケットのスピン付与性能の向上(非特許文献7)について報告されている。更には、これらの検討結果として、縦ストリングと横ストリングとの交差点に潤滑剤を塗布する技術を、ラケットのスピン付与性能を向上させる技術として提案している(特許文献8)。一方、ラケットの縦ストリングよりも横ストリングの数を減らすことによって、ラケットのスピン付与性能を向上させる技術が提案されており(特許文献9)、上記一連の検討結果の妥当性を示唆するものとして注目される。しかし、このストリングスの本数を削減することは、ラケットの反発力が低下して、力強い打球を生み出すことはできないものと考えられる。
【0008】
一方では、本来、テニスコートで弾むボールの軌道とラケットで打ったボールの軌道を安定化させるメルトンというフェルトがテニスボールを被覆しているが、このフェルトが、スピンを掛け易くしているという報告もある(非特許文献5)。このことは、スピンを掛けるには摩擦力が関与しているという報告があることを踏まえると(非特許文献2及び3)、スピンと摩擦力との関係を無視することはできないと考えられる。
【0009】
また、横ストリングに対する縦ストリングの滑動が、スピンを掛ける原動力であるという報告は、縦ストリングが滑動するための何らかの力をボールに作用させることができると共に、接触するストリング間の摩擦力を抑制するという、一見矛盾した現象を生起させる必要があると考えられる。この観点からすれば、段落0006において説明した、ストリング表面に単純に凹凸を形成するだけでは、ストリングの滑動を抑制し、スピンを効果的に掛けることが困難であると考えられる。事実、五角形の断面形状のストリング以外には、特殊な表面形状のストリングは上市されておらず、また、五角形の断面形状とスピン付与性能との因果関係は明らかではない。一方、特許文献8に認められる、縦ストリングと横ストリングの交差点に潤滑剤を塗布することは、この矛盾を解決するには、有効かつ安易な手段であるものと考えられる(特許文献8)。しかし、塗布した潤滑剤は、ラケットを使用すれば、即座に消失して効果が持続しないという致命的な欠点がある。また、潤滑剤をストリングに溶解すると、潤滑剤が可塑剤として働き、本来のストリングの強度を保持することはできない。従って、未だ、ストリング自体にスピン付与性能を高める解決手段は見出されていない。
【0010】
また、ラケットの表裏で異なった特性を持たせ、スピンの異なる打球の打ち分けを可能にするストリングが、ストリングの摩擦力を高めてスピンを掛け易くするためのストリング表面に凹凸を形成する技術の延長として提案されている(特許文献7)。しかし、上記スピン付与性能を高めるためのストリング間の滑性の問題が解決されておらず、ラケットの表裏に異なった特性を付与するには至っていないものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5-64670号公報
【特許文献2】特開2017-23425号公報
【特許文献3】特開昭55-19107号公報
【特許文献4】特開平11-347154号公報
【特許文献5】特開2000-210396号公報
【特許文献6】国際公開第2011/001805号公報
【特許文献7】国際公開第2005/120652号公報
【特許文献8】特開2013-215329号公報
【特許文献9】特開2014-23927号公報
【特許文献10】特開2011-8581号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】川副嘉彦,「テニスのデカラケ、厚ラケでコントロールとスピードがよくなるのはなぜ」,スポーツ工学(JSEA機関誌),No.2, pp.23-28 (2007).[online],[2022年10月18日検索],インターネット<https://kawazoe-lab.com/wp-content/uploads/2016/07/20070001-1.pdf>.
【非特許文献2】神田芳文,「6S スピンを伴うテニスボールとラケットの衝突解析 : ボールのストリングス面への衝突解析」,ジョイント・シンポジウム講演論文集:スポーツ工学シンポジウム:シンポジウム:ヒューマン・ダイナミックス,pp.39-43,2000年11月8日,[online],[2022年10月18日検索],インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmesports/2000/0/2000_39/_pdf/-char/ja>.
【非特許文献3】鮑力民,桜井正幸,中沢賢,「テニスストリングスによるボールスピンのかかり具合の評価」,日本機械学会論文集C編,2002年,68巻,676号, pp. 3486-3490,[online],[2022年10月18日検索],インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaic1979/68/676/68_676_3486/_pdf/-char/ja>.
【非特許文献4】川副嘉彦,赤石武章,沖本賢次,「テニスにおけるストリング潤滑ラケットとスパゲッティ・ストリング・ラケットのスピン性能に関する類似性」,日本機械学会[No.05-16]シンポジウム講演論文集,pp.78-83,2005年9月10日発行,ジョイント・シンポジウム2005(スポーツ工学シンポジウム)(シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス),2005年9月11日-13日,東京,[online],[2022年10月18日検索],インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmesports/2005/0/2005_78/_pdf/-char/ja>.
【非特許文献5】川副嘉彦,武田幸宏,中川慎理,青木克巳,「A-23テニスのトップスピンとアンダースピンのボール挙動に及ぼすボール毛羽の影響(超高速ビデオ画像解析と流れの可視化)」,日本機械学会[No.09-45]シンポジウム講演論文集,pp.118-123,2009年12月2日発行,ジョイント・シンポジウム2009(スポーツ工学シンポジウム)(シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス),2009年12月3日-5日,福岡市,[online],[2022年10月18日検索],インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmesports/2009/0/2009_118/_pdf/-char/ja>.
【非特許文献6】川副嘉彦,武田幸宏,中川慎理,「テニスラケットのスピン性能に及ぼすガット・ノッチの影響(スピン量・接触時間・打球速度の超高速ビデオ画像解析)」,日本機械学会論文集C編,2010年,76巻,770号, pp. 2646-2655,[online],[2022年10月18日検索],インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaic1979/76/770/76_KJ00006661745/_pdf/-char/ja>
【非特許文献7】川副嘉彦,中川慎理,「スリットランプ SL115 Classic」,日本機械学会[No.10-53]シンポジウム:スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス2010講演論文集,2010年11月2日発行,pp.147-152,[online],[2022年10月18日検索],インターネット<https://kawazoe-lab.com/wp-content/uploads/2016/08/20101105.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
背景技術において説明したように、ストリング自体にスピン付与性能を高める解決手段は見出されていない。これは、ストリング自体に、ボールとの摩擦力を高める機能と、縦ストリングと横ストリングとの滑動を高める機能という、相反する機能を両立させることが困難であることに起因しているものと考えられる。また、この矛盾の解決が困難であるため、スピンの異なるショットの打ち分け、特に、テニス愛好家の苦手なバックハンドストロークにおけるアンダースピンだけを掛けることが容易な表裏で特性の異なるラケットを作製可能なストリングが見出されていない。
【0014】
本発明は、このような相反する機能を両立させ、スピン付与性能に優れ、スピン付与性能が持続するストリングを提供することを目的としている。また、本発明は、スピン付与性能がラケットの表裏で異なり、テニス愛好家の苦手なバックハンドストロークにおけるアンダースピンだけを掛けることが容易な表裏で特性の異なるラケットを作製可能なストリングを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、背景技術において説明したストリングの技術開発経緯を検討した結果、ストリング自体にスピン付与性能を高めることが可能なストリングには、ボールと接触する際に、縦ストリングが横ストリングを滑動する程度のボールとの大きな摩擦力を発現する構造を備えると共に、縦ストリングが横ストリングを滑動してボールとストリングの接触時間が長くなり、スピンを効果的に掛けることが可能な滑性を有しており、その滑性が持続し、ガット・ノッチ等が形成され難い構造と材質で、高摩擦と低摩擦という相反する特性を有するストリングが求められると考えた。この仮説に従えば、円柱を長く伸ばした現行の円柱状繊維体のストリングの交差点における小さな接触面積が、ストリング間の滑動を容易にしていることに着目すると共に、背景技術で引用した特許文献で提案されたボールやシャトルコックとの大きな摩擦力を生起する形状を参考にした構造と、滑性に優れた材質とをストリングに適用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、円弧の曲率が異なる半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される複数の半円柱状繊維体を、この半円柱状繊維体の底面の半円の直径とこの半円の円弧の中心を通る半円柱状繊維体の中心軸とを含む平面の間で、これらの中心軸の方向を一致させて接合して形成される形状のストリングであって、複数の半円柱状繊維体の内、曲率が最小である半円柱状繊維体の中心軸を通る平面に、底面の半円の円弧の曲率が最小である半円柱状繊維体よりも底面の半円の円弧の曲率が大きい半円柱状繊維体を一つ以上接合して形成される、中心軸を通る半円柱状の平面を境として、円弧を含む側面の形状が異なることを特徴とするモノフィラメントストリングである。
【0017】
このようなモノフィラメントストリングを用い、底面の円弧の曲率が最小である半円の円弧を含む側面同士が接触するように張設されるラケットにおいては、この側面同士が、従来のラケット同様、接触面積が小さい円弧の法線同士の線接触で滑性を維持し、その反対面は曲率半径が大きい半円の円弧を含む側面を形成しており、ボールとの接触における摩擦力が従来のストリングよりも大きく作用すると共に、ストリングの滑動によるボールとストリングの接触時間を長くでき、ラケットの両面でスピンを効果的に掛けることができる。すなわち、このストリングは、高摩擦力と低摩擦力を一つのストリングで保有することができる構造を有しているのである。
【0018】
逆に、このようなモノフィラメントストリングを用い、底面の円弧の曲率が最小である半円の円弧を含む側面と、この側面の反対面の曲率がより大きな半円の円弧を含む側面のいずれか一つ以上とが接触するように張設されるラケットにおいては、側面同士の接触は、接触面積が小さい円弧の法線同士の線接触を維持しており、片面が底面の半円の円弧の曲率が小さい側面で、ボールとの接触における摩擦力が従来と変わらないが、その反対面は、底面の半円の円弧の曲率が大きな側面で、ボールとの接触における摩擦力が大きく、ストリングの滑動によるボールとストリングの接触時間を維持できるため、両面でスピンの掛かる程度が異なるラケットとすることができる。
【0019】
このような構造のモノフィラメントストリングでも、特に、円弧の曲率が異なる半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される二つの半円柱状繊維体を用いることが好ましい。更に、二つの半円柱状繊維体の底面の半円の中心をとおる長さ方向の中心軸が一致するように形成することがより好ましい。これは、底面の半円の円弧の曲率が大きな半円柱状繊維体の二つ以上を、底面の半円の円弧の曲率が最小の半円柱状繊維体に、半円柱状繊維体の中心軸を含む平面で接合する場合、両面で異なる摩擦力を有するラケットに張設する場合、半円柱状繊維体の側面が二本以上の法線の接触となり、ストリングの滑動を妨げるように作用するためである。また、この場合、中心軸を一致させることによって、円弧の曲率が小さい方の側面端部が、円弧の曲率が小さい方の半円柱状の側面との接触を極力回避するためである。
【0020】
そして、このようなストリングをラケットに張設した接触部の小さな摩擦力は、ボールとの接触部における大きな摩擦力で滑動して効果的なスピンが掛かることによって移動したストリング、特に、縦に張設されたストリングが元の状態に戻り、スピンを掛ける効果が低下することがないという効果も奏する。
【0021】
なお、本発明のストリングは、ストリングの部分的に異なる形状を組合わせた構造を特徴としており、その特徴を正確に説明するために、半円柱状繊維体を用い、その底面の半円の中心を通る中心軸で接合した形状という記述をしている。しかし、本発明のストリングは、モノフィラメントのストリングであって、決して半円柱状繊維体を、接着や融着等の方法で接合したものではなく、一つ以上の樹脂が一体となって成形されて製造されるストリングである。例えば、後述するように、溶融押出紡糸法のように、一つ以上の樹脂が一体成形され、延伸されたストリングである。
【0022】
更に、本発明は、半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体の底面の半円の直径と、その半円の円弧の中心を通る半円柱状繊維体の中心軸とを含む平面上に、この半円の円弧の曲率以上の球面を有する半球を、この半球の中心を通る平面で接合して形成される形状のストリングであって、半円柱状繊維体の中心軸を通る平面を境として異なる形状を有していることを特徴とするモノフィラメントストリングである。
【0023】
このストリングの場合、半円柱状繊維体の底面の半円の円弧を含む側面同士を接触してラケットに張設すれば、ストリング間の滑動を維持しつつ、両面のボールとの摩擦力が大きくなるので、両面でスピンが効果的に掛かるストリングを提供するものである。
【0024】
更に、本発明は、半球を備えたストリングと同様に、両面でスピンが効果的に掛かるストリングであって、半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体の底面の半円の直径と、その半円の円弧の中心を通る半円柱状繊維体の中心軸とを含む平面上に、この半円柱状繊維体の底面の半円の円弧の曲率以上の円弧を有する半円を底面とし、この半円柱状繊維体の底面の半円の直径以下の高さとする半円柱を、この半円柱の中心軸を通る平面で、半円柱状繊維体の中心軸と直交するように接合して形成される、半円柱状繊維体の中心軸を通る平面を境として異なる形状を有していることを特徴とするモノフィラメントストリングである。このストリングは、上記半球の代わりに、半円柱を用いたものであり、半球を用いたストリングと同様の作用効果を発現する。
【0025】
本発明のモノフィラメントストリングの構造を説明したように、本発明のモノフィラメントは、その中心軸と底面の半円の直径を含む平面を境として非対称なストリングであるため、ストリングとそのストリングが張設されるラケットとの間には直接的な関係が存在する。そのため、本発明は、上記ストリングを用い、上記張設方法によるラケットを含むものである。
【0026】
更に、本発明は、モノフィラメントの材質が、ポリエステル、ポリオキシメチレン、及び、ポリオキシメチレン共重合体の中から選択される一つ以上であることを特徴としている。
【0027】
ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)やエンジニアプラスチックであるポリブチレンテレフタレート(PBT)等を使用できるが、滑性及び反発力等、実績のある材質であり、本発明のストリングの構造と組み合わせることによって、ストリングの滑性を維持しつつ、一層優れたスピン付与性能実現することができるPETが好ましい。また、ジカルボン酸として、ナフタレンジカルボン酸等、ジオールとして、ブチレングリコール等を使用したPET共重合体を使用することもできる。特に、ポリエステルとしては、シクロヘキサンジメタノールを共重合体成分として導入しているPET共重合体が、強靭性及び滑性等の力学的特性の観点からストリングに最も適している。このシクロヘキサンジメタノールを含むポリエチレンテレフタレート共重合体は、例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製PETGを挙げることができる。
【0028】
また、現在、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、及び、PBTポリブチレンテレフタレートと並び、五大エンジニアリングポリマーの一つとして挙げられるポリオキシメチレン(POM)を使用することも好ましい。POMは、耐磨耗性に優れた素材で、自己潤滑性があるため、金属の代替品としてギヤ(歯車)やベアリングといった回転する摺動性・滑性が必要とされる樹脂であり、ストリングにも適用することが開示されている(特許文献10)。しかし、POMは、ストリングの滑動を向上させ、ずれたストリングの回復を目的とするものであり、スピン付与性能には言及されておらず、スピン付与性能という効果を全く想到することはできなかったと考えられる。POMとしては、デュポン・ド・ヌムール(株)社製デルリン(登録商標)やポリプラスチック(株)製デュラコン(登録商標)等を使用することができる。しかし、繰り返し単位がオキシメチレンである単独重合体であるPOMよりも、オキシエチレン成分が含まれるPOM共重合体の方が、滑性が損なわれることなく耐熱性に優れ、溶融押出紡糸におけるPOMの熱分解を解消して安定したストリングの製造が可能となり好ましい。このPOM共重合体としては、例えば、デュラン(登録商標)のHP-Xシリーズを挙げることができる。
【0029】
本発明のモノフィラメントストリングは、その表面にPOM又はPOM共重合体、特に、POM共重合体が露出しているブレンドポリマーであることが、ストリングの反発力の幅を広げることが可能となり好ましい。POM及びPOM共重合体とブレンドする樹脂としては、PETやPET共重合体が好ましく、力学的特性及びPOM共重合体との相溶性という観点からPETGがPOM又はPOM共重合体が表面に露出しているストリングは、複数の押出機からそれぞれ異なる溶融樹脂を溶融押出紡糸ノズルに供給することによって製造することができる。この方法によれば、POM又はPOM共重合体でストリング表面を被覆することもできる。
【0030】
このようなストリングの材質と、非対称ストリングの構造との相乗効果で、スピンを掛ける効果を顕著に高めることができるので、ストリングを製造する方法も重要な役割を果たす。
【0031】
このようなストリングを製造する方法としては、本発明のストリングの中でも、半円柱繊維体の長さ方向に、長さ方向に垂直な切断面が連続的に同じ形状の場合には、その切断面の形状に成形できる溶融押出紡糸ノズルを使用した溶融押出紡糸法による成形、それに続く延伸によって製造されることが好ましい。また、複数の樹脂を用いる場合には、複数の押出機から溶融した異なる樹脂を溶融紡糸ノズルに供給して繊維状に成形した後、延伸して製造することができる。
【0032】
しかし、本発明のストリングの中でも、半円柱繊維体の長さ方向に、長さ方向に垂直な切断面が不連続な形状の場合には、溶融押出紡糸法で製造することはできないため、本発明の形状に成形できる金型の機能を有する圧縮ロールに、加熱変形可能な現行ストリングの形状である円柱状繊維体を供給する加熱ロール成形法、又は、本発明の形状に成形できる型を形成した離型性に優れるエンドレスベルトに溶融樹脂を供給するエンドレスベルト賦形加工法等によって成形し、延伸することによって製造できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、スピンを効果的に発現できるストリング、及び、そのストリングを張設したラケットを供給することができる。更に、本発明のストリングは、ガット・ノッチが生成するまでの使用時間が長く、そのスピン付与性能は、長時間の使用に亘っても劣化することなく、持続安定性に優れている。また、本発明のストリング及びその張設の方法によって、表裏でスピン付与性能の異なるラケットを供給することができ、打球の打ち分け、特に、テニス愛好家にとっては、苦手なバックハンドストロークにおけるアンダースピンだけが掛け易くなり、テニスをより一層楽しむことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態に係る、円弧の曲率がκである半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体と、円弧の曲率が2κである半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体を、両半円柱状繊維体の底面である半円の直径とその半円の中心を通る中心軸とを含む平面で接合して形成される形状のモノフィラメントストリングの斜視模式図(a)及び投影模式図(b)である。(b-1)は、斜視図の紙面上方から視た平面模式図、(b-2)は、平面模式図を基準とした正面模式図、(b-3)は、モノフィラメントストリングを長さ方向に切断線Aで紙面に垂直に切断した場合の側面図である。本実施例では、両半円柱状繊維体の底面の半円の中心を通る長さ方向の中心軸が一致している。
図2図1に示すモノフィラメントストリングを、曲率がκの円弧を含む半円柱状繊維体の側面と、曲率が2κの円弧を含む半円柱状繊維体の側面とを接触させてラケットに張設した両ストリングの交差点付近の斜視模式図(a)であり、(b)は、切断線Bで紙面下方の半円柱状繊維体の長さ方向に平行に切断した場合の断面模式図、(C)は、切断線Cで紙面上方の半円柱状繊維体の長さ方向に平行に切断した場合の断面模式図である。
図3図1に示すモノフィラメントストリングを、曲率がκの円弧を含む半円柱状繊維体の側面と、曲率がκの円弧を含む半円柱状繊維体の側面とを接触させてラケットに張設した両ストリングの交差点付近の斜視模式図(a)であり、(b)は、切断線Dで紙面下方の半円柱状繊維体の長さ方向に平行に切断した場合の断面模式図、(C)は、切断線Eで紙面上方の半円柱状繊維体の長さ方向に平行に切断した場合の断面模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係る、円弧の曲率がκである半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体と、円弧の曲率が2κである半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体二本を、各半円柱状繊維体の底面である半円の直径とその半円の中心を通る中心軸とを含む平面で接合して形成される形状のモノフィラメントストリングの斜視模式図(a)及び投影模式図(b)である。(b-1)は、斜視図の紙面上方から視た平面模式図、(b-2)は、平面模式図を基準とした正面模式図、(b-3)は、モノフィラメントストリングを長さ方向に垂直な切断線Fで紙面に垂直に切断した場合の側面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る、円弧の曲率がκである半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体の、半円の直径とその半円の中心を通る中心軸とを含む平面上に、2κの球面を有する半球を、半球の中心を通る平面で接合して形成される形状のモノフィラメントストリングの斜視模式図(a)及び投影模式図(b)である。(b-1)は、斜視図の紙面上方から視た平面模式図、(b-2)は、平面模式図を基準とした正面模式図、(b-3)は、モノフィラメントストリングを長さ方向に垂直な切断線Gで紙面に垂直に切断した場合の側面図、(b-4)は、モノフィラメントストリングを長さ方向に垂直な切断線Hで紙面に垂直に切断した場合の側面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る、円弧の曲率がκである半円を底面とする半円柱を長く伸ばして形成される半円柱状繊維体の、半円の直径とその半円の中心を通る中心軸とを含む平面上に、底面の半円の円弧の曲率が2κである円弧の半円を底面とし、半円柱状繊維体の半円の直径以下の高さとする半円柱を、半円柱の底面の半円の直径とその半円の中心を通る中心軸を通る平面で、半円柱状繊維体の中心軸と直交するように接合して形成される形状のモノフィラメントストリングの斜視模式図(a)及び投影模式図(b)である。(b-1)は、斜視図の紙面上方から視た平面模式図、(b-2)は、平面模式図を基準とした正面模式図、(b-3)は、モノフィラメントストリングを長さ方向に平行な切断線Iで紙面に垂直に切断した場合の側面図、(b-4)は、モノフィラメントストリングを長さ方向に垂直な切断線Jで紙面に垂直に切断した場合の側面図である。
図7】本発明のモノフィラメントストリングを製造する方法を示している。(a)は、ロール成形加工法、(b)は、エンドレスベルト賦形加工法、(c)は、溶融押出紡糸法である。
図8】本発明のモノフィラメントストリングの溶融共押出紡糸法の原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の、ボールやシャトルコックにスピンを効果的に掛けることができる、相反する高摩擦性と低摩擦性とを有し、非対称な形状のモノフィラメントストリングについて、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載した技術思想によってのみ限定されるものである。
【0036】
本発明の第一の実施形態は、図1に示すモノフィラメントであり、このモノフィラメントストリングは、形成する材質として、POM共重合体を用い、図7に示す溶融押出紡糸ノズルで溶融押出紡糸法を用いて製造することができる。POM共重合体としては、オキシメチレンが繰り返されるPOM単独重合体に、オキシエチレンが導入されているPOM共重合体で、ポリプラスチック(株)製ジュラコン(登録商標)HP90Xを用いることが好ましい。POM単独重合体と同等の滑性や摺動性を有しておりながら、耐熱性、特に、成形加工時における加熱分解安定性に優れており、幅広い温度領域における押出成形等の加熱成形加工が可能であるため、POM単独重合体(融点:約178℃)よりも融点が約10℃低い(約165℃)が、溶融押田成形用のPOMを使用している特許文献10の成形、延伸条件を参考にして、本発明の形状のモノフィラメントストリングを作製することができる。
【0037】
図1に示すように、曲率が異なる二つ半円柱状繊維体から成る非対称ストリング10は、曲率がκの半円柱状繊維体11と曲率が2κの半円柱状繊維体12を半円柱状繊維体の中心軸で長さ方向に切断した平面で接合させた形状で、最大径が1.35mmとなるように曲率、すなわち、直径を設定してモノフィラメントストリングを製造することができる。そして、その効果を実証するため、モノフィラメントストリングを交差させて張設されたラケットとして、曲率が小さな半円柱状繊維体11の方を表とし、曲率が大きな半円柱状繊維体12の方を裏とし、図2のように張設された表-裏ラケットと、その逆に、図3のように張設された表-表ラケットとを作製し、本発明者のテニス仲間である、テニス歴10~30年の10名のテニス愛好家の方々に試打をしてもらい、スピンの掛かり具合を評価してもらう予定である。しかし、特許が先願主義であり、実証結果を待って出願することが、非実際的であると判断すると共に、本発明が、これまでに研究された検討結果を熟慮して得られた仮説に基づいたストリングであり、新規性及び進歩性を有するものであり、本発明の出願に及んだ。
【0038】
このような本発明のストリングによれば、次のような効果が期待される。表-裏ラケットを使用した場合は、バックハンドストロークにおけるアンダースピンを掛け易く、フォアハンドストロークにおける強くて速いフラット及びフラットドライブの打球を打つことができる。また、両面で異なる特性のストリング面であるため、特に、バックハンドストロークが苦手なテニス愛好家には、アンダースピンのバックハンドストロークが容易となり、技量が格段に高まるので、テニスが一層楽しくなることができる。一方、表-表ラケットを使用した場合には、フォアハンドストロークにおける強力なトップスピン及びアンダースピンのドロップショットが打ち易くなると共に、バックハンドストロークにおけるトップスピン及びアンダースピンも掛け易く、スピン及び強さが異なる打球の打ち分けが容易で、テニスプレイの幅が広がり、一般のテニス愛好家が、テニスをより一層楽しむことができるだけでなく、テニス競技者やプロテニスプレーヤーにも受け入れられるものであると考えられる。
【0039】
このように、テニスプレーヤーの力量によって、ストリング及びそのストリングを張設したラケットの評価は異なると考えられるが、本発明のストリングがスピン付与性能を十分に有しており、幅広い特性を有するラケットを提供することが可能なストリングである。
【0040】
図1~3に示した本発明と同様の考え方で考案した請求項1、3、及び4のストリングの一例を、それぞれ、図4、5、及び、6に示した。図4のように、リングの長さ方向に直角に切断した断面の形状が連続である場合、溶融押出紡糸法を用いることができ、生産性に優れた、好ましい製造方法である。しかし、図5及び6のように、ストリングの長さ方向に直角に切断した断面の形状が不連続である場合、溶融押出紡糸法を使用することができないため、図7(a)及び(b)に示した、ロール成形加工法50及びエンドレスベルト賦形加工法60によって製造することができる。
【0041】
ロール形成加工法50は、一般的な円柱状繊維体の現行のストリングを予め製造しておき、ヒーター53で加熱して軟化したストリングを、本発明のストリングの形状に変形させることができる型(図7(d)I及びII)を形成した第一成形ロール54と第二成形ロール55で圧縮形成するものである。第一成形ロール54及び第二成形ロール55にも加熱ヒーターを備えていることが好ましい。この方法は、特許文献6に開示されており、本発明のストリングの製造にも有効な成形方法である。なお、溶融押出防止法同様、延伸工程を別途設ける必要がある。
【0042】
エンドレスベルト賦形加工法60は、第一の圧縮ロール61及び第二の圧縮ロール62と(図示していない)それぞれのプーリとに巻き付けられた第一のエンドレスベルト64及び第二のエンドレスベルト65に、上記成形ロールと同様、本発明のストリングの形状に変形させることができる型(図7(d)I及びII)を形成しておき、そこに押出機から供給される溶融した樹脂を流し込み、第一の圧縮ロール61及び第二の圧縮ロール62で圧縮して成形する方法である。この場合も、溶融押出紡糸法同様、延伸工程を別途設ける必要がある。
【0043】
図7では、請求項3の形状のモノフィラメントストリングを製造する型を示しているが、請求項4の形状についても、全く同様に製造することができる。
【0044】
更に、図8には、複数の樹脂を用いてストリングを製造する場合、特に、ストリングの表面にPOM又はPOM共重合体が露出又は被覆させる場合の、溶融共押出紡糸法の原理図を示している。ここでは、一例として、三種の樹脂84、84、85を異なる押出機81、82、83から、溶融共押出紡糸ノズル87に供給し、中心の円柱状繊維体に二種の樹脂が被覆されている非対称ストリング88を製造する方法の概要を示している。この方法を用いることによって、本発明の材質が異なり、また、材質のストリングにおける分布状況が異なるストリングを製造することができる。
【0045】
発明を実施するための形態において、図4、5、及び6に示したストリングについても、上記理由と同様に、ラケットの試打評価を実施していないが、本発明の出願に至った。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、テニス、バドミントン、及び、スカッシュ等のプレーヤー、特に、一般のプレーヤーのスピンを効果的に掛けたいという願望を満足させることができ、これらのスポーツを一層楽しくできるだけでなく、これらのスポーツに取り組み易くなり、競技人口が増加するという効果を奏し、スポーツ産業の発展に貢献することができ、産業上の利用可能性は非常に高いものと考えられる。
【0047】
一方、本発明のストリングに対する考え方が、テニス、バドミントン、及び、スカッシュ等のショットとラケットとの科学的解析及びそれに基づいた開発を進展させる契機になるものと期待され、技術的にも産業上の利用可能性を秘めているものと考えられる。
【符号の説明】
【0048】
10 曲率が異なる二つ半円柱状繊維体から成る非対称ストリング
11 曲率がκの半円柱状繊維体
12 曲率が2κの半円柱状繊維体
20 曲率が異なる三つの半円柱状繊維体から成る非対称ストリング
21 曲率がκの半円柱状繊維体
22 曲率が2κの半円柱状繊維体
23 曲率が2κの半円柱状繊維体
30 半円柱状繊維体と半球とから成る非対称ストリング
31 曲率がκでの半円柱状繊維体
32 曲率が2κの半球
40 半円柱状繊維体と直交する半円柱から成る非対称ストリング
41 曲率がκの半円柱状繊維体
42 曲率が2κの半円柱
50 ロール成形加工法
51 ストリング供給ロール
52 ストリング巻取りロール
53 ヒーター
54 第一の成形ロール
55 第二の成形ロール
56 成形前ストリング
57 成形ストリング
60 エンドレスベルト賦形加工法
61 第一の圧縮ロール
62 第二の圧縮ロール
63 押出し機
64 第一のエンドレスベルト
65 第二のエンドレスベルト
66 溶融樹脂
67 賦形ストリング
70 溶融押出紡糸法
71 溶融押出紡糸ノズル
72 溶融樹
80 溶融共押出紡糸法
81 第一の押出機
82 第二の押出機
83 第三の押出機
84 第一の樹脂
85 第二の樹脂
86 第三の樹脂
87 溶融共押出紡糸ノズル
88 中心の円柱状繊維体に二種の樹脂が被覆されている非対称ストリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8