(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079170
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】防汚コーティング組成物、防汚コーティング膜、防汚コーティング積層体及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20240604BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240604BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240604BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/16
C09D7/63
B32B27/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191942
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野口 健
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 牧八
(72)【発明者】
【氏名】小野 行弘
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AG00B
4F100AK52A
4F100AK52J
4F100AL05A
4F100AT00
4F100BA02
4F100CC102
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4F100EH462
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4F100GB90
4F100JB06
4F100JL06
4J038DL061
4J038GA09
4J038JA11
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4J038KA06
4J038LA06
4J038MA07
4J038NA05
4J038PB05
4J038PB06
4J038PB08
4J038PB09
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成できる防汚コーティング組成物を提供する。
【解決手段】本発明の防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーと、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーと、
パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、
を含む防汚コーティング組成物。
【請求項2】
前記四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数が、固形分に対して、100μmol/g以上である請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項3】
前記オリゴマーの数平均分子量が、1000~10000である請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項4】
前記オリゴマーの含有量が、固形分に対して、5wt%~50wt%である請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項5】
溶剤を含み、
前記溶剤が、アルコール系溶剤及びフッ素系溶剤を含む請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項6】
前記フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロエーテルを含む請求項5に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の防汚コーティング組成物の硬化物からなる防汚コーティング膜。
【請求項8】
前記硬化物の水に対する接触角が、100°以上であり、
前記硬化物のヘキサデカンに対する接触角が、40°以上である請求項7に記載の防汚コーティング膜。
【請求項9】
算術平均粗さ(Ra)が、100nm以下である請求項8に記載の防汚コーティング膜。
【請求項10】
前記オリゴマーと前記アルコキシシランとの相分離構造のドメインサイズが、100μm以下である請求項7に記載の防汚コーティング膜。
【請求項11】
請求項7に記載の防汚コーティング膜と、
前記防汚コーティング膜が設けられ、アルコキシシランと反応して化学結合を形成する金属酸化物を含む基材と、
を有する防汚コーティング積層体。
【請求項12】
四級アンモニウム塩型アルコキシシランを重合させて、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーを生成するオリゴマー生成工程と、
前記オリゴマーとパーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと溶剤とを混合して、前記オリゴマーと前記アルコキシシランを前記溶剤中に溶解した混合物を生成する混合工程と、
を含む防汚コーティング組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項12の防汚コーティング組成物の製造方法により得られた防汚コーティング組成物を硬化させ、硬化物からなる防汚コーティング膜を得る防汚コーティング膜の製造方法。
【請求項14】
請求項12の防汚コーティング組成物の製造方法により得られた防汚コーティング組成物を金属酸化物を含む基材上に塗布して硬化させた硬化物からなる防汚コーティング膜を形成する工程を含む防汚コーティング積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚コーティング組成物、防汚コーティング膜、防汚コーティング積層体及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の金属酸化物をコーティングする防汚剤として、撥水撥油性に優れ、摩擦係数が低いパーフルオロポリエーテル(PFPE)構造を有するアルコキシシラン系防汚剤が広く使用されている。
【0003】
近年、防汚剤には防汚性の他に抗菌性の需要が高まっている。抗菌剤と防汚剤を含む組成物又は防汚剤が抗菌性と防汚性を有すれば、表面に抗菌性と防汚性を有するコーティング膜が形成される。このコーティング膜は、不特定多数の人が使用する環境でも清潔な表面状態を維持できるため、スマートフォンやタブレットPC等のタッチパネル等の用途への応用が期待される。
【0004】
抗菌性と防汚性を有するアルコキシシラン系防汚剤として、例えば、特許文献1には、ガラス層の表面に存在する水酸基と脱水反応又は脱水素反応により結合するケイ素含有官能基を有する成分としてパーフロロアルキル基含有有機ケイ素化合物及び加水分解性基含有メチルポリシロキサン化合物を含むと共に、Ag、Cu、Zn等の抗菌金属の微粉末を抗菌成分として含む基体用防汚処理剤が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、4級アンモニウム(メタ)アクリレート(A)と、シロキサン(メタ)アクリレート(B)との共重合体同士が架橋された架橋共重合体を含む抗菌・防汚材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-192587号公報
【特許文献2】特開2016-147808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の基体用防汚処理剤は、ガラス層に塗布して撥水抗菌層を形成しても、撥水抗菌層の表面に存在する抗菌成分が脱落して防汚性及び抗菌性が低下する場合がある、という問題があった。また、抗菌成分の大きさ次第では、光散乱が生じて撥水抗菌層に白濁が生じ、光学部品等に使用できない、という問題があった。
【0008】
特許文献2の抗菌・防汚材料は、用途によってはシロキサンによる防汚性能では不十分である、という問題があった。また、特許文献2の抗菌・防汚材料を塗膜として使用する場合、表面にガラス等の基材との反応基を有しないため、基材と殆ど密着できず、定期的なメンテナンスが必要である、という問題があった。
【0009】
本発明の一態様は、金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成できる防汚コーティング組成物を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の態様は、金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成する防汚コーティング組成物を製造できる防汚コーティング組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。
即ち、
<1> 四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーと、
パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、
を含む防汚コーティング組成物。
<2> 前記四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数が、固形分に対して、100μmol/g以上である<1>に記載の防汚コーティング組成物。
<3> 前記オリゴマーの数平均分子量が、1000~10000である<1>又は<2>に記載の防汚コーティング組成物。
<4> 前記オリゴマーの含有量が、固形分に対して、5wt%~50wt%である<1>~<3>の何れか1つに記載の防汚コーティング組成物。
<5> 溶剤を含み、
前記溶剤が、アルコール系溶剤及びフッ素系溶剤を含む<1>~<4>の何れか1つに記載の防汚コーティング組成物。
<6> 前記フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロエーテルを含む<5>に記載の防汚コーティング組成物。
<7> <1>~<6>の何れか1つに記載の防汚コーティング組成物の硬化物からなる防汚コーティング膜。
<8> 前記硬化物の水に対する接触角が、100°以上であり、
前記硬化物のヘキサデカンに対する接触角が、40°以上である<7>に記載の防汚コーティング膜。
<9> 算術平均粗さ(Ra)が、100nm以下である<8>に記載の防汚コーティング膜。
<10> 前記オリゴマーと前記アルコキシシランとの相分離構造のドメインサイズが、100μm以下である<7>~<9>の何れか1つに記載の防汚コーティング膜。
<11> <7>~<9>の何れか1つに記載の防汚コーティング膜と、
前記防汚コーティング膜が設けられ、アルコキシシランと反応して化学結合を形成する金属酸化物を含む基材と、
を有する防汚コーティング積層体。
<12> 四級アンモニウム塩型アルコキシシランを重合させて、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーを生成するオリゴマー生成工程と、
前記オリゴマーとパーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと溶剤とを混合して、前記オリゴマーと前記アルコキシシランを前記溶剤中に溶解した混合物を生成する混合工程と、
を含む防汚コーティング組成物の製造方法。
<13> <12>の防汚コーティング組成物の製造方法により得られた防汚コーティング組成物を硬化させた硬化物からなる防汚コーティング膜を得る工程を含む防汚コーティング膜の製造方法。
<14> <12>の防汚コーティング組成物の製造方法により得られた防汚コーティング組成物を金属酸化物を含む基材上に塗布して硬化させた硬化物からなる防汚コーティング膜を形成する工程を含む防汚コーティング積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る防汚剤の一態様は、金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成することができる。
【0013】
本発明に係る防汚コーティング組成物の製造方法の一態様は、金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成する防汚コーティング組成物を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0015】
<防汚コーティング組成物>
本発明の実施形態に係る防汚コーティング組成物について説明する。本実施形態に係る防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーと、パーフルオロポリエーテル(PFPE)構造を有するアルコキシシラン(以下、「PFPE系アルコキシシラン」ともいう。)とを含む。
【0016】
PFPE系アルコキシシラン及び四級アンモニウム塩型アルコキシシランを含む防汚コーティング組成物を用いて形成した防汚コーティング膜の表面及び内部には四級アンモニウム塩型アルコキシシランがPFPE系アルコキシシランとの巨視的な相分離に起因して、視認可能な大きさのハジキが多数発生し、防汚コーティング膜の視認性が悪化するため、光学用途等に使用できない。
【0017】
本願発明者らは、鋭意検討した結果、四級アンモニウム塩型アルコキシシランを高分子量化すれば、化合物の極性変化と、高粘度化による分子内の絡み合い相互作用の増加に起因して、100μm以下のドメインサイズを有する相分離構造が形成され易くなることを見出した。本願発明者らは、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーとPFPE系アルコキシシランからなる相分離構造を形成させることで、抗菌性及び抗菌性を有すると共に透明性が高い防汚コーティング膜を形成できる防汚コーティング組成物が得られることを見出した。
【0018】
四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーは、PFPE系アルコキシシランと相分離した状態で含まれ、抗菌性の機能を有する。四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーは、下記一般式(1)で表すことができる。
【0019】
なお、オリゴマーとは、本明細書では、四級アンモニウム塩型アルコキシシランの分子量が10000以下の重合体を意味する。
【0020】
【0021】
(但し、一般式(1)中、l、m、nは、1以上の整数であり、ORは、炭素数1以上のアルコキシ基又は水酸基であり、X1、X2は炭素数1以上のアルキル基であり、Y1は一価の陰イオンである。)
【0022】
また、一般式(1)は、X1又はX2を有機酸の陰イオンとしてもよい。この場合、一般式(1)は、Y1を構造中に含まない。
【0023】
一般式(1)中のアルコキシ基の炭素数は、1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ(OMe)基、エトキシ(OEt)基、プロポキシ基等が挙げられる。
【0024】
四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーは、下記合成式(I)で表されるように、四級アンモニウム塩型アルコキシシランを加水分解及びそれに続く重縮合反応によりオリゴマー化することで得られる。
【0025】
【0026】
四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの数平均分子量は、1000~10000であることが好ましく、1500~5000であることがより好ましく、2000~3000であることがさらに好ましい。四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの数平均分子量が小さすぎると、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの極性の変化が小さく、また粘度が低い。そのため、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーをPFPE系アルコキシシランと混ぜると、巨視的な相分離が容易に進行する。そのため、防汚コーティング組成物を硬化させて防汚コーティング膜を形成しても、防汚コーティング膜には大きな相分離構造が形成され、視認性の悪化が生じ易くなる。一方、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの数平均分子量が大きすぎると、溶媒に溶解し難くなるため、防汚コーティング組成物を製造することができない。四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの数平均分子量が上記の好ましい範囲内であれば、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーは十分な極性変化と粘度を有することができる。これにより、相分離構造の大きさを100μm以下に維持させることができる。なお、相分離構造の測定方法の詳細は後述する。
【0027】
四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数が、固形分に対して、100μmol/g以上であることが好ましく、150μmol/g以上であることがより好ましく、180μmol/g以上であることがさらに好ましい。四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数が、固形分に対して、100μmol/g以上であれば、防汚コーティング組成物に含まれる四級アンモニウム塩型アルコキシシランの含有量は十分であるため、防汚コーティング組成物は抗菌性を発揮できる。なお、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数の上限値は、特に限定されないが、例えば、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数は、固形分に対して、3000μmol/g以下であればよい。
【0028】
なお、固形分とは、本実施形態に係る防汚コーティング組成物に含まれる、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマー及びPFPE系アルコキシシランに由来して生じる固形分であり、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマー及びPFPE系アルコキシシランのみであってもよい。
【0029】
四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの含有量は、固形分に対して、5wt%~50wt%であることが好ましく、10wt%~30wt%であることがさらに好ましい。四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの含有量が少なすぎると、防汚コーティング組成物中の四級アンモニウム塩型アルコキシシランが少なくなるため、防汚コーティング組成物は十分な抗菌性を発揮できない。一方、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの含有量が多すぎると、防汚コーティング組成物中のPFPE系アルコキシシランが少なくなるため、防汚コーティング組成物は十分な防汚性を発揮できない。四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの含有量が上記の好ましい範囲内であれば、防汚コーティング組成物は抗菌性と防汚性の両方を発現することができる。また、その防汚コーティング膜は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーとPFPE系アルコキシシランからなる相分離を形成できる状態で含められる。
【0030】
PFPE系アルコキシシランは、主に防汚性の機能を発揮し、抗菌性及び防汚性の機能を発揮してもよい。PFPE系アルコキシシランは、下記一般式(2)又は一般式(3)で表される。
【0031】
【0032】
(但し、一般式(2)中、nは1以上の整数であり、ORは炭素数1以上のアルコキシ基であり、Xは有機基であり、Rfはパーフルオロアルキレンエーテル基である。)
【0033】
【0034】
(但し、一般式(2)中、nは1以上の整数であり、ORは炭素数1以上のアルコキシ基であり、Xは有機基であり、Rfはパーフルオロアルキレンエーテル基である。)
【0035】
本実施形態に係る防汚コーティング組成物は、さらに溶剤を含んでよい。
【0036】
溶剤は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマー及びPFPE系アルコキシシランに応じて適宜選択すればよい。溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、フッ素系溶剤、エステル系溶剤及び炭化水素系溶剤等の溶剤を単独又は混合して使用することができる。これらのうち、溶解性の観点から、フッ素系溶剤とアルコール系溶剤を併用することが好ましい。
【0037】
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールが挙げられる。
【0038】
フッ素系溶剤としては、例えば、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロシクロエーテル、パーフルオロシクロアルカン、ハイドロフルオロシクロアルカン、キシレンヘキサフルオライド、ハイドロフルオロクロロカーボン及びパーフルオロカーボン等が挙げられる。これらの中でも、アルコール系溶剤との相溶性の観点から、ハイドロフルオロエーテルを用いることが好ましい。
【0039】
フッ素系溶剤の好適な市販品としては、例えば、オプツールDSX(ダイキン工業社製)、KY-108(信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0040】
本実施形態に係る防汚コーティング組成物の製造方法について説明する。まず、四級アンモニウム塩型アルコキシシランを重合させて、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーを生成する(オリゴマー生成工程)。
【0041】
四級アンモニウム塩型アルコキシシランをギ酸とメタノールとを含む混合溶液中に投入して、加熱しながら、所定時間攪拌する。
【0042】
加熱温度は、混合溶液の種類、濃度に応じて適宜選択してよく、例えば、55℃~70℃が好ましく、58℃~68℃がより好ましく、60℃~65℃がさらに好ましい。
【0043】
混合時間は、混合溶液の種類、濃度に応じて適宜選択してよく、例えば、30分~5時間が好ましく、1時間~4時間がより好ましく、2時間~3時間がさらに好ましい。
【0044】
次に、溶媒留去後、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーとPFPE系アルコキシシランとをフッ素系溶剤とアルコール系溶剤を用いて混合する(混合工程)。
【0045】
これにより、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーとPFPE系アルコキシシランとをフッ素系溶剤とアルコール系溶剤中に溶解した状態で含む、本実施形態に係る防汚コーティング組成物が得られる。
【0046】
このように、本実施形態に係る防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーと、PFPE系アルコキシシランとを含む。四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーは、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモノマーに比べて分子量が大きくなることで極性が変わると共に分子間絡み合い相互作用が増加する。四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーとPFPE系アルコキシシランが相分離構造を形成することで、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーはPFPE系アルコキシシラン内に均一に分散させることができる。よって、防汚コーティング組成物は、光学部品等の金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成することができる。
【0047】
したがって、防汚コーティング組成物は、透明性が高く、抗菌及び防汚機能を有する表面を形成できるため、光学材料用途に適用可能な防汚コーティング膜を得ることができる。
【0048】
また、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーと、PFPE系アルコキシシランとはいずれもシランカップリング剤として用いることができ、光学部品等の金属酸化物の表面から剥離することがない。よって、防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーと、PFPE系アルコキシシランとを含むことにより、高い耐久性を有する防汚コーティング膜を形成できる。
【0049】
さらに、防汚コーティング組成物は、光学部品等の金属酸化物の表面に、ナノオーダーの膜厚で、抗菌性及び防汚性の機能を発現させることができるため、防汚コーティング組成物の塗布面の単位面積当たりの有効成分の量を少なくできる。よって、防汚コーティング組成物は、防汚コーティング膜の形成に要する費用を低減できる。
【0050】
防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数を、固形分に対して、100μmol/g以上とすることができる。これにより、防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーを生成できるため、抗菌性を確実に発揮できる。
【0051】
防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの数平均分子量を、1000~10000とすることができる。これにより、PFPE系アルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの相分離構造は小さく維持できる。このため、防汚コーティング組成物は、ハジキが発生してもその大きさを小さく抑えることができるため、高い透明性を確実に発揮できる。
【0052】
防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの含有量を、固形分に対して、5wt%~50wt%とすることができる。これにより、防汚コーティング組成物は、PFPE系アルコキシシラン内に四級アンモニウム塩型アルコキシシランを相溶させ、相分離構造を確実に形成できるため、高い透明性を発揮すると共に、防汚性及び抗菌性を確実に発揮させることができる。
【0053】
防汚コーティング組成物は、溶剤を含み、溶剤にはアルコール系溶剤及びフッ素系溶剤を含むことができる。フッ素系溶剤は主にPFPE系を溶解させる事に使用し、アルコール系溶剤は、主に四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーを溶解させるために使用される。
【0054】
防汚コーティング組成物は、フッ素系溶剤としてハイドロフルオロエーテルを含むことができる。ハイドロフルオロエーテルはフッ素系溶剤の中でも特にアルコール系溶剤との相溶性により優れ、速やかに揮発できる。これにより、防汚コーティング組成物は、防汚コーティング組成物を硬化させることで生じる防汚コーティング膜内に生じる相分離構造の範囲をさらに小さく抑え易くなる。よって、防汚コーティング組成物は、優れた防汚性及び抗菌性を発揮すると共により高い透明性を確実に発揮することができる。
【0055】
<防汚コーティング膜>
本実施形態に係る防汚コーティング膜は、本実施形態に係る防汚コーティング組成物の硬化物から構成される。
【0056】
防汚コーティング膜は、水に対する接触角が100°以上であることが好ましく、105°以上であることがより好ましく、110°以上であることがさらに好ましい。防汚コーティング膜の、水に対する接触角が100°以上であれば、防汚コーティング膜の表面は水等の液体を弾き、汚れ難くなるため、水分に対する防汚性を有する指標となる。
【0057】
防汚コーティング膜は、ヘキサデカンに対する接触角が、40°以上であることが好ましく、50°以上であることがより好ましく、60°以上であることがさらに好ましい。防汚コーティング膜の、ヘキサデカンに対する接触角が40°以上であれば、防汚コーティング膜の表面の油等の油分を弾き、汚れ難くなるため、油分に対する防汚性を有する指標となる。
【0058】
防汚コーティング膜は、算術平均粗さRaが100nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。算術平均粗さRaが100nm以下であれば、防汚コーティング膜の透明性が損なわれることを抑えられる。
【0059】
四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーとPFPE系アルコキシシランとの相分離構造のドメインサイズは、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。相分離構造のドメインサイズが100μm以下であれば、透明性が高められる。
【0060】
なお、相分離構造のドメインサイズとは、例えば、相分離構造が、連続球状構造、海島構造又は複合分散相構造である場合、本実施形態に係る防汚コーティング膜の表面をプローブ顕微鏡で得た画像から、複数(例えば、70個以上)の島相について、最大幅と最小幅をそれぞれ測定し、その平均値を算出した値をいう。また、相分離構造が共連続構造の場合は、ドメインにおいて任意の数(例えば、70個)を特定し、各点において、プローブ顕微鏡で得られる画像上の垂直方向のドメインサイズと、水平方向のドメインサイズとを測定する。そして、小さい方のドメインサイズの平均値を算出した値をドメインサイズとしてよい。
【0061】
防汚コーティング膜の膜厚は、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
【0062】
本実施形態に係る防汚コーティング膜は、本実施形態に係る防汚コーティング組成物を硬化させ、硬化物を生成することにより得られる。
【0063】
本実施形態に係る防汚コーティング膜は、上記の本実施形態に係る防汚コーティング組成物の硬化物からなることで、優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有することができる。
【0064】
防汚コーティング膜は、その水に対する接触角を100°以上とし、ヘキサデカンに対する接触角を40°以上とすることができる。これにより、防汚コーティング膜は、水分及び油分に対する防汚性を高めることができる。
【0065】
防汚コーティング膜は、算術平均粗さRaを100nm以下とすることができる。これにより、防汚コーティング膜は、透明性が損なわれることを低減できる。
【0066】
防汚コーティング膜は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーとPFPE系アルコキシシランとの相分離構造のドメインサイズを100μm以下とすることができる。これにより、防汚コーティング膜は、その表面又は内部に生じるハジキの大きさを小さく抑えることができるため、透明性が損なわれることを低減できる。
【0067】
<防汚コーティング積層体>
本実施形態に係る防汚コーティング積層体は、本実施形態に係る防汚コーティング膜と、防汚コーティング膜が設けられる基材とを有する。
【0068】
基材は、PFPE系アルコキシシランと反応して化学結合を形成する金属酸化物を含む。基材としては、例えば、ガラス、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、有機物基材にスパッタ等で製膜した金属酸化物薄膜等が挙げられる。
【0069】
本実施形態に係る防汚コーティング積層体は、本実施形態に係る防汚コーティング組成物を基材上に塗布し、硬化させ、本実施形態に係る防汚コーティング膜を形成することにより得られる。
【0070】
防汚コーティング組成物の塗布方法は、特に限定されず、一般的な塗布方法を用いてよい。防汚コーティング組成物の塗布方法としては、例えば、グラビアコート、ロールコート、スピンコート、リバースコート、バーコート、スクリーンコート、ブレードコート、ナイフコート、カーテンコート、スプレーコート、ダイコート、ディップコート、インクジェット、ディッピング、ディスペンシング等の方法が挙げられる。
【0071】
本実施形態に係る防汚コーティング積層体は、本実施形態に係る防汚コーティング膜を基材に備えることで、基材の表面に優れた抗菌性及び防汚性を持たせると共に高い透明性を有することができる。
【0072】
よって、本実施形態に係る防汚コーティング積層体は、例えば、タブレット、携帯端末等の各種のデバイスのガラスに好適に用いることができる。
【0073】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【実施例0074】
以下、実施形態の実施例を説明するが、実施形態は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
[四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーの製造]
(合成例1)
氷浴内に設置した三口フラスコに、原料モノマーとして、第四級アンモニウム塩を構造中に有する四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1(KBM-9418-40、信越シリコーン社製)を所定量で投入し、溶液濃度20wt%になるようにメタノールを加え、200ml/minの流量でフラスコ内を窒素気流下にして10分攪拌し、8℃の溶液を調製した。次に、蒸留水を原料モノマーに対し0.5当量、ギ酸を原料モノマーに対し0.1当量をパスツールピペットで滴下し、10分攪拌した後、氷浴を撤去して30分攪拌し、溶液を室温にした。続いて、オイルバスを設置して昇温し、63℃還流下で3時間反応させた。その後、オイルバスを撤去して30分間攪拌し、溶液を室温に戻した。三口フラスコから試料瓶に溶液を移し、エバポレーターにて常温で3時間減圧濃縮した後、室温の真空オーブンで18時間減圧乾燥することで、下記一般式(1-1)に示す、四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1のオリゴマーである合成物1を得た。合成物1をGPCで測定した結果、ポリスチレン標準試料換算で数平均分子量が2820だった。
【0076】
【0077】
(一般式(1-1)中、ORは、メトキシ基又は水酸基である。)
【0078】
(合成例2)
原料モノマーを、四級アンモニウム塩型アルコキシシラン2(POLON-V8、信越シリコーン社製)を使用したこと以外は、合成例1と同様に行い、四級アンモニウム塩型アルコキシシラン2のオリゴマーである合成物2を得た。合成物2をGPCで測定した結果、ポリスチレン標準試料換算で数平均分子量が2158だった。
【0079】
【0080】
(一般式(2-1)中、ORは、エトキシ基又は水酸基である。)
【0081】
[実施例1]
(防汚コーティング膜の製造)
PFPE系アルコキシシラン1(オプツールDSX、ダイキン工業社製)に対し、合成物1をその質量比が5wt%となるように固形分を配合した。その固形分を、フッ素系液体(Novec7100(登録商標)、3M社製)とメタノールとを質量比4:1で混合した混合溶媒に完全溶解させ、0.1wt%の固形分濃度を有する防汚コーティング組成物である防汚コーティング液を調製した。防汚コーティング液を1000rpmで30secの条件で市販のスライドガラスにスピンコートし、60℃で2時間熱処理を行った。その後、混合溶媒を数回スライドガラスに流しかけて洗浄した。成膜、乾燥及び洗浄の工程は2回繰り返して実施し、防汚コーティング膜がスライドガラスの主面に形成されたガラスコーティング試料を得た。
【0082】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析した結果、100μm以下のドメインサイズを有する相分離構造(ミクロドメイン構造)を確認した。
【0083】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキのないクリアな外観を確認した。ヘイズ値はスライドガラスが0.27であったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5未満を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%であったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。防汚コーティング膜の表面の算術平均粗さRaは、SPMにて10μm四方を走査して測定した結果、2.0nmであった。ガラスコーティング試料の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は良好であり、かつ防汚コーティング膜の算術平均粗さRaも低かった。よって、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められた。
【0084】
防汚コーティング膜の接触角を測定した結果、水に対する接触角が100°以上、かつヘキサデカンに対する接触角が40°以上を示した。よって、防汚コーティング膜には十分な防汚性が認められた。
【0085】
フィルム密着法による抗菌試験を、JIS Z 2801に準拠した方法により実施した結果、抗菌活性値が2.0以上を示した。よって、防汚コーティング膜には抗菌性が認められた。
【0086】
[実施例2]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物1を10wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
【0087】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析した結果、ミクロドメイン構造を確認した。
【0088】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキのないクリアな外観を確認した。ヘイズ値はスライドガラスが0.27であったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5未満を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%であったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。防汚コーティング膜の表面の算術平均粗さRaは、1.1nmであった。よって、実施例1と同様、ガラスコーティング試料の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は良好であり、かつ防汚コーティング膜の算術平均粗さRaも低かったことから、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められた。
【0089】
防汚コーティング膜の接触角を測定した結果、水に対する接触角が100°以上、かつヘキサデカンに対する接触角が40°以上を示した。よって、防汚コーティング膜には十分な防汚性が認められた。
【0090】
フィルム密着法による抗菌試験を実施例1と同様に実施した結果、抗菌活性値が2.0以上を示した。よって、防汚コーティング膜には抗菌性が認められた。
【0091】
[実施例3]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物1を30wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
【0092】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析した結果、ミクロドメイン構造を確認した。
【0093】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキのないクリアな外観を確認した。ヘイズ値はスライドガラスが0.27であったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5未満を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%であったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。防汚コーティング膜の表面の算術平均粗さRaは、2.5nmであった。よって、実施例1と同様、ガラスコーティング試料の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は良好であり、かつ防汚コーティング膜の算術平均粗さRaも低かったことから、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められた。
【0094】
防汚コーティング膜の接触角を測定した結果、水に対する接触角が100°以上、かつヘキサデカンに対する接触角が40°以上を示した。よって、防汚コーティング膜には、十分な防汚性が認められた。
【0095】
フィルム密着法による抗菌試験を実施例1と同様に実施した結果、抗菌活性値が2.0以上を示した。よって、防汚コーティング膜には抗菌性が認められた。
【0096】
[実施例4]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物2を10wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
【0097】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析した結果、ミクロドメイン構造を確認した。
【0098】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキのないクリアな外観を確認した。ヘイズ値はスライドガラスが0.27だったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5未満を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%だったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。よって、実施例1と同様、ガラスコーティング試料の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は良好であったことから、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められた。
【0099】
防汚コーティング膜の接触角を測定した結果、水に対する接触角が100°以上、かつヘキサデカンに対する接触角が40°以上を示した。よって、防汚コーティング膜には十分な防汚性が認められた。
【0100】
フィルム密着法による抗菌試験を実施例1と同様に実施した結果、抗菌活性値が2.0以上を示した。よって、防汚コーティング膜には抗菌性が認められた。
【0101】
[実施例5]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物1を50wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
【0102】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析した結果、ミクロドメイン構造を確認した。
【0103】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキのないクリアな外観を確認した。ヘイズ値はスライドガラスが0.27だったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5未満を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%であったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。防汚コーティング膜の表面の算術平均粗さRaは、1.4nmであった。よって、実施例1と同様、ガラスコーティング試料の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は良好であり、かつ防汚コーティング膜の算術平均粗さRaも低かったことから、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められた。
【0104】
防汚コーティング膜の接触角を測定した結果、水に対する接触角が100°未満、かつヘキサデカンに対する接触角が40°未満を示した。よって、防汚コーティング膜には防汚性が認められなかった。
【0105】
フィルム密着法による抗菌試験を実施例1と同様に実施した結果、抗菌活性値が2.0以上を示した。よって、防汚コーティング膜には抗菌性が認められた。
【0106】
[比較例1]
PFPE系アルコキシシラン1のみを配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
【0107】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析した結果、均一な表面構造を確認した。
【0108】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキのないクリアな外観を確認した。ヘイズ値はスライドガラスが0.27だったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5未満を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%であったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。防汚コーティング膜の表面の算術平均粗さRaは、0.5nmであった。よって、実施例1と同様、ガラスコーティング試料の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は良好であり、かつ防汚コーティング膜の算術平均粗さRaも低かったことから、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められた。
【0109】
防汚コーティング膜の接触角を測定した結果、水に対する接触角が100°以上、かつヘキサデカンに対する接触角が40°以上を示した。よって、防汚コーティング膜には十分な防汚性が認められた。
【0110】
フィルム密着法による抗菌試験を実施例1と同様に実施した結果、抗菌活性値が2.0未満を示した。よって、防汚コーティング膜には抗菌性が認められなかった。
【0111】
[比較例2]
合成物1を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
【0112】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析した結果、均一な表面構造を確認した。
【0113】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキのないクリアな外観を確認した。ヘイズ値はスライドガラスが0.27だったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5未満を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%であったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。防汚コーティング膜の表面の算術平均粗さRaは、1.5nmであった。よって、実施例1と同様、ガラスコーティング試料の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は良好であり、かつ防汚コーティング膜の算術平均粗さRaも低かったことから、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められた。
【0114】
防汚コーティング膜の接触角を実施例1と同様に測定した結果、水に対する接触角が100°未満、かつヘキサデカンに対する接触角が40°未満を示した。よって、防汚コーティング膜には十分な防汚性が認められなかった。
【0115】
フィルム密着法による抗菌試験を実施した結果、抗菌活性値が2.0以上を示した。よって、防汚コーティング膜には抗菌性が認められた。
【0116】
[比較例3]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物1を0.1wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
【0117】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析した結果、均一な表面構造を確認した。
【0118】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキのないクリアな外観を確認した。ヘイズ値はスライドガラスが0.27だったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5未満を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%だったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。防汚コーティング膜の表面の算術平均粗さRaは、1.2nmであった。よって、実施例1と同様、ガラスコーティング試料の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は良好であり、かつ防汚コーティング膜の算術平均粗さRaも低かったことから、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められた。
【0119】
防汚コーティング膜の接触角を測定した結果、水に対する接触角が100°以上、かつヘキサデカンに対する接触角が40°以上を示した。よって、防汚コーティング膜には十分な防汚性が認められた。
【0120】
フィルム密着法による抗菌試験を実施例1と同様に実施した結果、抗菌活性値が2.0未満を示した。よって、防汚コーティング膜には抗菌性が認められなかった。
【0121】
[比較例4]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物1を1wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
【0122】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析した結果、ミクロドメイン構造を確認した。
【0123】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキのないクリアな外観を確認した。ヘイズ値はスライドガラスが0.27だったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5未満を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%であったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。防汚コーティング膜の表面の算術平均粗さRaは、1.1nmであった。よって、実施例1と同様、ガラスコーティング試料の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は良好であり、かつ防汚コーティング膜の算術平均粗さRaも低かったことから、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められた。
【0124】
防汚コーティング膜の接触角を測定した結果、水に対する接触角が100°以上、かつヘキサデカンに対する接触角が40°以上を示した。よって、防汚コーティング膜には十分な防汚性が認められた。
【0125】
フィルム密着法による抗菌試験を実施例1と同様に実施した結果、抗菌活性値が2.0未満を示した。よって、防汚コーティング膜には抗菌性が認められなかった。
【0126】
[比較例5]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1を10wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、試料を作製した。
【0127】
防汚コーティング膜の表面をSPMで位相分析しようとしても、相分離のスケールが大きすぎるため、SPMの測定はできなかった。
【0128】
ガラスコーティング試料を観察した結果、ハジキが多く観察された。ヘイズ値はスライドガラスが0.27であったのに対し、ガラスコーティング試料は0.5以上を示した。全光線透過率は、スライドガラスが91.5%であったのに対し、ガラスコーティング試料は90%以上を示した。よって、ガラスコーティング試料の外観及びヘイズ値が不良であったことから、防汚コーティング膜には十分な透明性が認められなかった。
【0129】
防汚コーティング膜の接触角を測定した結果、水に対する接触角が100°以上、かつヘキサデカンに対する接触角が40°以上を示した。よって、防汚コーティング膜には十分な防汚性が認められた。
【0130】
各実施例及び比較例の防汚コーティング膜の、SPMによる位相分析結果、外観、算術平均粗さRa、接触角及び抗菌性との判定結果を表1に示す。
なお、表1中、コーティング膜の外観の判定は、防汚コーティング膜にハジキがなく、クリアな外観が確認された時は、「A」と示し、防汚コーティング膜にハジキが多く確認された時は、「B」と示す。抗菌性の判定は、フィルム密着法の抗菌活性値が2.0以上であるときは、「A」と示し、抗菌活性値が2.0未満である時は、「B」と示す。
【0131】
【0132】
表1より、各実施例では、ハジキが殆ど見られず、透明で、抗菌性及び防汚性に優れたコーティング膜を形成できた。一方、各比較例では、ハジキが見られるか、透明性、抗菌性及び防汚性の何れか1つ以上の特性が低かった。
【0133】
よって、上記各実施例の防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーと、PFPE系アルコキシシランとを含むことで、優れた抗菌性及び防汚性を発揮すると共に、高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成することが確認された。したがって、本実施形態に係る防汚コーティング組成物は、ガラス等の物品の表面に抗菌性、防汚性を発揮させつつ透明性を維持した膜を形成できるので、例えば、タブレット、携帯端末等の各種のデバイスのガラスに好適に用いることができるといえる。