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特開2024-79183蒸散異常検知方法、蒸散異常検知装置、及び蒸散異常検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079183
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】蒸散異常検知方法、蒸散異常検知装置、及び蒸散異常検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191969
(22)【出願日】2022-11-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、創発的研究支援事業「マルチモーダルフェノタイピングによる適応型情報協働栽培手法の確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大雅
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁
(72)【発明者】
【氏名】秋草 文
(72)【発明者】
【氏名】與儀 修
(72)【発明者】
【氏名】中川 仁
(72)【発明者】
【氏名】峰野 博史
(72)【発明者】
【氏名】小池 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘毅
(57)【要約】
【課題】植物の蒸散異常を容易且つ精度良く検知することができる蒸散異常検知方法、蒸散異常検知装置、及び蒸散異常検知プログラムを提供する。
【解決手段】一実施形態の蒸散異常検知方法は、対象期間に含まれる複数時点の各々に対応する、植物の栽培環境の気温及び湿度と、植物の葉の表面温度である葉温と、を取得する取得ステップと、複数時点の各々について、気温及び湿度に基づいて、栽培環境の飽差を算出する飽差算出ステップと、複数時点の各々について、葉温から気温を減算した値である葉温指数を算出する葉温指数算出ステップと、複数時点の各々について算出された飽差及び葉温指数に基づいて、対象期間における飽差と葉温指数との相関係数を算出する相関係数算出ステップと、相関係数が所定の閾値以上であるか否かを判定し、相関係数が閾値以上であると判定された場合に植物の蒸散異常を検知する検知ステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象期間に含まれる複数時点の各々に対応する、植物の栽培環境の気温及び湿度と、前記植物の葉の表面温度である葉温と、を取得する取得ステップと、
前記複数時点の各々について、前記気温及び前記湿度に基づいて、前記栽培環境の飽差を算出する飽差算出ステップと、
前記複数時点の各々について、前記葉温から前記気温を減算した値である葉温指数を算出する葉温指数算出ステップと、
前記複数時点の各々について算出された前記飽差及び前記葉温指数に基づいて、前記対象期間における前記飽差と前記葉温指数との相関係数を算出する相関係数算出ステップと、
前記相関係数が所定の閾値以上であるか否かを判定し、前記相関係数が前記閾値以上であると判定された場合に前記植物の蒸散異常を検知する検知ステップと、
を含む、蒸散異常検知方法。
【請求項2】
前記対象期間の長さは、可変であり、
前記対象期間の長さを決定するための情報の入力を受け付け、入力された前記情報に基づいて前記対象期間の長さを設定する期間長設定ステップを更に含む、請求項1に記載の蒸散異常検知方法。
【請求項3】
前記対象期間の長さは、48時間以上168時間以下の範囲に設定される、請求項1に記載の蒸散異常検知方法。
【請求項4】
前記閾値を決定するための情報の入力を受け付け、入力された前記情報に基づいて前記閾値を設定する閾値設定ステップを更に含む、請求項1に記載の蒸散異常検知方法。
【請求項5】
前記植物は、アブラナ科の植物である、請求項1に記載の蒸散異常検知方法。
【請求項6】
前記植物は、コマツナである、請求項5に記載の蒸散異常検知方法。
【請求項7】
前記取得ステップは、複数の植物体の複数の葉の表面の温度の代表値を前記植物の前記葉温として取得する、請求項1に記載の蒸散異常検知方法。
【請求項8】
前記取得ステップは、前記複数時点の各々について、前記植物が植えられた土壌中の水分量を更に取得する、請求項1に記載の蒸散異常検知方法。
【請求項9】
前記検知ステップは、前記相関係数が前記閾値以上であると判定された場合、前記対象期間に取得された前記水分量に基づいて、前記植物の蒸散異常の原因が水分ストレスであるか否かを判定し、判定結果を出力する、請求項8に記載の蒸散異常検知方法。
【請求項10】
対象期間に含まれる複数時点の各々に対応する、植物の栽培環境の気温及び湿度と、前記植物の葉の表面温度である葉温と、を取得する取得部と、
前記複数時点の各々について、前記気温及び前記湿度に基づいて、前記栽培環境の飽差を算出する飽差算出部と、
前記複数時点の各々について、前記葉温から前記気温を減算した値である葉温指数を算出する葉温指数算出部と、
前記複数時点の各々について算出された前記飽差及び前記葉温指数に基づいて、前記対象期間における前記飽差と前記葉温指数との相関係数を算出する相関係数算出部と、
前記相関係数が所定の閾値以上であるか否かを判定し、前記相関係数が前記閾値以上であると判定された場合に前記植物の蒸散異常を検知する検知部と、
を備える、蒸散異常検知装置。
【請求項11】
対象期間に含まれる複数時点の各々に対応する、植物の栽培環境の気温及び湿度と、前記植物の葉の表面温度である葉温と、を取得する取得ステップと、
前記複数時点の各々について、前記気温及び前記湿度に基づいて、前記栽培環境の飽差を算出する飽差算出ステップと、
前記複数時点の各々について、前記葉温から前記気温を減算した値である葉温指数を算出する葉温指数算出ステップと、
前記複数時点の各々について算出された前記飽差及び前記葉温指数に基づいて、前記対象期間における前記飽差と前記葉温指数との相関係数を算出する相関係数算出ステップと、
前記相関係数が所定の閾値以上であるか否かを判定し、前記相関係数が前記閾値以上であると判定された場合に前記植物の蒸散異常を検知する検知ステップと、
をコンピュータに実行させる、蒸散異常検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物の蒸散異常を検知する蒸散異常検知方法、蒸散異常検知装置、及び蒸散異常検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業分野において、就農者の減少及び高齢化等による労働力不足、並びに人手のかかる作業及び熟練者に頼る作業の省力化が重要な課題となっている。上記課題を解決するために、先端技術を活用する農業(いわゆるスマート農業)の実現が進められている。このようなスマート農業に関連して、特許文献1には、専門家以外の人が植物の状態を判断するための定量的な指標を提示する植物の活性度解析プログラムが開示されている。上記活性度解析プログラムは、飽差と葉面温度との関係に基づいて、植物が強光ストレスを受けているか否かを判断するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-198012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
植物の健康状態を推定する有効な現象の一つとして、蒸散が挙げられる。蒸散は植物の体内水分量に応じて水蒸気を体外に放出する現象である。環境に応じた適切な蒸散が行われていない場合(蒸散異常の場合)、その原因としては、土壌中の水分量の不足、カビ、線虫の寄生、虫による根の食害、その他様々な理由が考えられる。従って、蒸散異常を放置すると、上記のような原因によって植物の正常な生長が阻害され、植物が萎れたり枯れたりしてしまうおそれがある。しかしながら、植物の蒸散異常は目視で確認することが困難である。また、特許文献1に記載された手法のように単に葉面温度と飽差とを比較するだけでは、葉面温度の変動が環境温度の変動によるものか蒸散異常によるものかを適切に判断することはできない。
【0005】
そこで、本開示の一側面は、植物の蒸散異常を容易且つ精度良く検知することができる蒸散異常検知方法、蒸散異常検知装置、及び蒸散異常検知プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の[1]~[11]を含む。
【0007】
[1]
対象期間に含まれる複数時点の各々に対応する、植物の栽培環境の気温及び湿度と、前記植物の葉の表面温度である葉温と、を取得する取得ステップと、
前記複数時点の各々について、前記気温及び前記湿度に基づいて、前記栽培環境の飽差を算出する飽差算出ステップと、
前記複数時点の各々について、前記葉温から前記気温を減算した値である葉温指数を算出する葉温指数算出ステップと、
前記複数時点の各々について算出された前記飽差及び前記葉温指数に基づいて、前記対象期間における前記飽差と前記葉温指数との相関係数を算出する相関係数算出ステップと、
前記相関係数が所定の閾値以上であるか否かを判定し、前記相関係数が前記閾値以上であると判定された場合に前記植物の蒸散異常を検知する検知ステップと、
を含む、蒸散異常検知方法。
【0008】
本発明者らが鋭意研究した結果、以下の知見が得られた。すなわち、通常、飽差が適度に高い環境では、植物の蒸散活動が活発となり、蒸散により発生する気化熱によって葉温が気温に対して低くなる。一方、飽差が低い環境では、蒸散活動が抑制される結果、葉温が気温に対してそれほど低くならない。つまり、植物の蒸散活動が正常に行われている場合には、飽差と葉温指数との間に負の相関が生じる傾向がある。これに対して、例えば、飽差が適度に高い環境であるにもかかわらず、何らかの原因による蒸散異常によって蒸散活動が抑制されている場合には、飽差と葉温指数との間に正の相関が生じ得る。このような関係性に着目することにより、飽差と葉温指数との相関係数が一定以上高い場合に、蒸散異常が発生している(或いは、蒸散異常が発生している可能性が高い)と判断することができる。上記蒸散異常検知方法によれば、上記知見に基づいて、対象期間における葉温指数と飽差との相関係数に対する閾値判定を行うことにより、植物の蒸散異常を容易且つ精度良く検知できる。
【0009】
[2]
前記対象期間の長さは、可変であり、
前記対象期間の長さを決定するための情報の入力を受け付け、入力された前記情報に基づいて前記対象期間の長さを設定する期間長設定ステップを更に含む、[1]の蒸散異常検知方法。
上記構成によれば、例えば、観測対象の植物の種類、栽培環境等の種々の条件に基づいて、対象期間の長さを適切に調整できる。
【0010】
[3]
前記対象期間の長さは、48時間以上168時間以下の範囲に設定される、[1]又は[2]の蒸散異常検知方法。
対象期間を短くし過ぎた場合、実際には植物の健康状態が正常であるにもかかわらず、単発的(一時的)に観測された現象によって相関係数が閾値を超えてしまう(植物の蒸散異常が発生していると判断されてしまう)といった問題が生じ得る。一方、対象期間を長くし過ぎた場合、相関係数の変動が緩慢となり、蒸散異常の検知が遅れてしまうといった問題が生じ得る。上記のように対象期間の長さを48時間以上168時間以下の範囲に設定することにより、上述したような問題の発生を抑制し、蒸散異常検知の信頼性を高めることができる。
【0011】
[4]
前記閾値を決定するための情報の入力を受け付け、入力された前記情報に基づいて前記閾値を設定する閾値設定ステップを更に含む、[1]~[3]のいずれかの蒸散異常検知方法。
上記構成によれば、例えば、観測対象の植物の種類、栽培環境等の種々の条件に基づいて、閾値を適切に調整できる。また、検知感度の調整が可能となる。例えば、閾値を小さくすることによって蒸散異常の検知感度を高めることができ、閾値を大きくすることによって検知感度を低下させ、ノイズ(すなわち、実際には正常状態である植物が蒸散異常と誤検知されること)の発生を抑制できる。
【0012】
[5]
前記植物は、アブラナ科の植物である、[1]~[4]のいずれかの蒸散異常検知方法。
[6]
前記植物は、コマツナである、[5]の蒸散異常検知方法。
上記構成によれば、特に観測対象の植物をアブラナ科の植物(特にコマツナ)とすることにより、上述した手法によって蒸散異常を好適に検知することができる。
【0013】
[7]
前記取得ステップは、複数の植物体の複数の葉の表面の温度の代表値を前記植物の前記葉温として取得する、[1]~[6]のいずれかの蒸散異常検知方法。
上記構成によれば、同一環境下にある植物群(複数の植物体)の状態を示す指標となる値(代表値)を葉温として取得及び利用することにより、植物の蒸散異常をエリア単位で効率良く検知できる。
【0014】
[8]
前記取得ステップは、前記複数時点の各々について、前記植物が植えられた土壌中の水分量を更に取得する、[1]~[7]のいずれかの蒸散異常検知方法。
上記構成によれば、気温、湿度、及び葉温に加えて水分量の情報も取得しておくことにより、蒸散異常が検知された際に、蒸散異常が水分ストレスに起因するものであるか否かを判断することが容易となる。
【0015】
[9]
前記検知ステップは、前記相関係数が前記閾値以上であると判定された場合、前記対象期間に取得された前記水分量に基づいて、前記植物の蒸散異常の原因が水分ストレスであるか否かを判定し、判定結果を出力する、[8]の蒸散異常検知方法。
上記構成によれば、蒸散異常が検知された場合に、蒸散異常の原因が水分ストレス(水分不足)であるか否かを自動的に判定及び出力することが可能となるため、植物の栽培者等のユーザの利便性を向上させることができる。
【0016】
[10]
対象期間に含まれる複数時点の各々に対応する、植物の栽培環境の気温及び湿度と、前記植物の葉の表面温度である葉温と、を取得する取得部と、
前記複数時点の各々について、前記気温及び前記湿度に基づいて、前記栽培環境の飽差を算出する飽差算出部と、
前記複数時点の各々について、前記葉温から前記気温を減算した値である葉温指数を算出する葉温指数算出部と、
前記複数時点の各々について算出された前記飽差及び前記葉温指数に基づいて、前記対象期間における前記飽差と前記葉温指数との相関係数を算出する相関係数算出部と、
前記相関係数が所定の閾値以上であるか否かを判定し、前記相関係数が前記閾値以上であると判定された場合に前記植物の蒸散異常を検知する検知部と、
を備える、蒸散異常検知装置。
【0017】
[11]
対象期間に含まれる複数時点の各々に対応する、植物の栽培環境の気温及び湿度と、前記植物の葉の表面温度である葉温と、を取得する取得ステップと、
前記複数時点の各々について、前記気温及び前記湿度に基づいて、前記栽培環境の飽差を算出する飽差算出ステップと、
前記複数時点の各々について、前記葉温から前記気温を減算した値である葉温指数を算出する葉温指数算出ステップと、
前記複数時点の各々について算出された前記飽差及び前記葉温指数に基づいて、前記対象期間における前記飽差と前記葉温指数との相関係数を算出する相関係数算出ステップと、
前記相関係数が所定の閾値以上であるか否かを判定し、前記相関係数が前記閾値以上であると判定された場合に前記植物の蒸散異常を検知する検知ステップと、
をコンピュータに実行させる、蒸散異常検知プログラム。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一側面によれば、植物の蒸散異常を容易且つ精度良く検知することができる蒸散異常検知方法、蒸散異常検知装置、及び蒸散異常検知プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態の蒸散異常検知装置を含む蒸散異常検知システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
図2】蒸散異常検知装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3】ある期間において算出された(A)飽差、及び(B)葉温指数の時系列データの一例を示す図である。
図4】葉温指数と飽差との関係について説明するための図である。
図5】植物に水分ストレスを与えなかった場合の(A)水分量、及び(B)相関係数の時系列データの一例を示す図である。
図6】植物に水分ストレスを与えた場合の(A)水分量、及び(B)相関係数の時系列データの一例を示す図である。
図7図1の蒸散異常検知装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0021】
図1に示されるように、本実施形態の蒸散異常検知システム1は、蒸散異常検知装置10と、植物の栽培環境に設置されたセンサ群(温度センサ21、湿度センサ22、サーマルカメラ23、及び水分センサ24)と、を備える。植物の栽培環境は、例えば、植物工場、ビニールハウス等の園芸施設等である。
【0022】
蒸散異常検知システム1は、植物の蒸散異常を検知するためのコンピュータシステムである。上記センサ群は、蒸散異常検知装置10と有線ネットワーク又は無線ネットワークによって通信可能に接続されている。各センサによって予め定められたデータ収集間隔(例えば10分)で取得されたセンサデータ(気温データ、湿度データ、葉温データ、及び水分量データ)は、蒸散異常検知装置10に送信される。蒸散異常検知装置10は、このようにして取得されたセンサデータに基づいて、植物の蒸散異常を検知する。
【0023】
本実施形態では、上記センサ群は、複数の植物体(植物群)が栽培される環境に配備されており、蒸散異常検知システム1は、植物単体ではなく植物群の単位で、植物の蒸散異常を検知するように構成されている。また、本実施形態では、観測対象の植物は、アブラナ科(学名:Brassicacea)に属する植物である。より具体的には、本実施形態では、観測対象の植物は、コマツナ(学名:Brassica rapa var. perviridis Brassica;シノニム:Brassica campestris L. var. komatsuna Matsum. et Nakai)である。
【0024】
温度センサ21は、栽培環境の気温を測定する機器である。温度センサ21は、例えば、観測対象の植物群の上方(例えば約30cm上方)に配置される。温度センサ21は、上記データ収集間隔(10分)毎に測定された気温を示す気温データを蒸散異常検知装置10に送信する。
【0025】
湿度センサ22は、栽培環境の湿度を測定する機器である。本実施形態では、湿度センサ22は、栽培環境の相対湿度(RH)を測定する。湿度センサ22は、例えば、温度センサ21と同様に観測対象の植物群の上方(例えば約30cm上方)に配置される。湿度センサ22は、上記データ収集間隔(10分)毎に測定された相対湿度を示す湿度データを蒸散異常検知装置10に送信する。なお、温度センサ21及び湿度センサ22は、一体的に形成された同一のセンサ(温度/湿度センサ)として構成されてもよい。
【0026】
サーマルカメラ23は、撮像範囲に含まれる被写体の表面温度を測定する機器である。サーマルカメラ23は、例えば、ラジオメトリック補正機能を有する熱画像センサである。図1に示されるように、サーマルカメラ23は、植物群の複数の葉を含むエリアAを撮像範囲とし、当該エリアAに含まれる複数の葉の表面の温度を測定する。サーマルカメラ23は、例えば、複数の葉の表面の温度の代表値を植物の葉温を示す葉温データとして取得する。代表値は、例えば、エリアAに含まれる複数のポイントの温度(葉の表面温度)に対する統計処理によって得られる値(例えば、平均値、中央値、最頻値等)である。サーマルカメラ23は、上記データ収集間隔(10分)毎に取得された葉温データを蒸散異常検知装置10に送信する。
【0027】
水分センサ24は、観測対象の植物群が植えられた土壌中の水分量を測定する機器である。水分センサ24によって取得される水分量データは、例えば、土壌中の水分含有率(含水率)を示すデータである。水分センサ24は、上記データ収集間隔(10分)毎に測定された水分量を示す水分量データを蒸散異常検知装置10に送信する。
【0028】
各センサがセンサデータ(気温データ、湿度データ、葉温データ、又は水分量データ)を蒸散異常検知装置10に送信するタイミングは、センサ毎に個別に設定され得る。例えば、上記データ収集間隔毎に(すなわち、センサによってセンサデータが取得されたタイミングで即時に)蒸散異常検知装置10へとセンサデータが送信されてもよいし、上記データ収集間隔よりも長い期間(例えば1時間)毎に複数時点(この例では前回の送信時点以降の6つの時点)に測定された複数(6つ)のセンサデータが一括で蒸散異常検知装置10へと送信されてもよい。
【0029】
後述する飽差及び葉温指数を精度良く計算するために、センサデータ(特に、気温データ、湿度データ、及び葉温データ)が取得されるタイミングは、センサ間で統一されていることが好ましい。例えば、全てのセンサ間でセンサデータが取得される時刻は、毎時の特定の時点(例えば、「0分」、「10分」、「20分」、「30分」、「40分」、「50分」)に設定されることが好ましい。ただし、各センサにおいてセンサデータが取得されるタイミングについて、多少の誤差(例えば数分のずれ)があってもよい。例えば、上記のように毎時の特定の時点にセンサデータを取得するように設定されている場合において、温度センサ21によって「2022年4月13日12時09分」に気温データが取得され、サーマルカメラ23によって「2022年4月13日12時11分」に葉温データが取得された場合、これらの気温データ及び葉温データは、同じ時刻「2022年4月13日12時10分」に取得されたセンサデータとして取り扱われてもよい。また、センサデータは適宜補間されてもよい。例えば、温度センサ21によって「2022年4月13日12時05分」の気温データT1と「2022年4月13日12時15分」の気温データT2とが取得され、「2022年4月13日12時10分」の気温データが取得されなかった場合に、気温データT1と気温データT2との平均値を「2022年4月13日12時10分」の気温データとして補間してもよい。上述したような測定時刻の誤差の補正及び補間処理は、例えば、後述する取得部12によって実行され得る。
【0030】
図1に示されるように、蒸散異常検知装置10は、記憶部11と、取得部12と、期間長設定部13と、飽差算出部14と、葉温指数算出部15と、相関係数算出部16と、検知部17と、閾値設定部18と、を有する。蒸散異常検知装置10は、1台のコンピュータによって構成されてもよいし、複数台のコンピュータによって構成されてもよい。後者の場合、複数台のコンピュータは、通信ネットワークによって互いに通信可能に接続されることで、論理的に1つの装置として機能する。
【0031】
一例として、蒸散異常検知装置10は、図2に示されるハードウェア構成を有するコンピュータ100によって構成される。コンピュータ100は、プロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、入力インタフェース104、出力インタフェース105、及び通信装置106を含んでいる。補助記憶装置103には、蒸散異常検知プログラムPが格納されている。プロセッサ101の例としては、CPU(Central Processing Unit)が挙げられる。主記憶装置102は、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等のメモリ装置によって構成される。補助記憶装置103の例としては、半導体メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等が挙げられる。入力インタフェース104の例としては、キーボード、マウス、タッチパネル等が挙げられる。出力インタフェース105の例としては、ディスプレイ、スピーカ等が挙げられる。通信装置106の例としては、ネットワークカード及び無線通信モジュール等が挙げられる。
【0032】
図1に示される蒸散異常検知装置10の各機能要素は、例えば、主記憶装置102に蒸散異常検知プログラムPを読み込ませ、プロセッサ101に蒸散異常検知プログラムPを実行させることにより実現される。蒸散異常検知プログラムPは、蒸散異常検知装置10の各機能要素を実現するためのコードを含む。すなわち、プロセッサ101が、蒸散異常検知プログラムPに従って通信装置106を動作させたり、主記憶装置102又は補助記憶装置103におけるデータの読み出し及び書き込みを実行させたりすることにより、蒸散異常検知装置10の各機能要素が実現される。
【0033】
記憶部11は、上述したセンサ群から送信された各センサデータ(気温データ、湿度データ、葉温データ、及び水分量データ)を記憶(蓄積)する。記憶部11は、例えば、上述した補助記憶装置103によって実現される。例えば、上述したセンサ群によるセンサデータの収集を上記データ収集間隔(10分)で約1ヶ月間(30日間)続けた場合であって、且つ、データの欠損がない場合には、記憶部11には、30日分(30日×144個/日=4320個)の気温データと、30日分(4320個)の湿度データと、30日分(4320個)の葉温データと、30日分(4320個)の水分量データと、が記憶される。記憶部11に記憶される各センサデータには、各センサによって取得(測定)された時点(例えば日時分)を示す時刻情報が関連付けられる。すなわち、記憶部11には、特定の日時分(例えば、「2022年4月13日12時10分」等)を指定することによって当該特定の日時分に対応するセンサデータを参照することが可能なように、各センサデータが時刻情報と関連付けて記憶される。なお、本実施形態では、記憶部11が蒸散異常検知装置10に含まれているが、記憶部11は、蒸散異常検知装置10からアクセス可能な外部装置(蒸散異常検知装置10とは別の装置)として構成されてもよい。
【0034】
取得部12は、対象期間に含まれる複数時点に対応する各センサデータ(気温データ、湿度データ、葉温データ、及び水分量データ)を取得する。ここで、対象期間とは、後述する飽差と葉温指数との相関係数の算出に用いられる期間である。本実施形態では、対象期間の長さは、固定値ではなく可変に設定されている。本実施形態では、取得部12は、記憶部11を参照することにより、対象期間に含まれる各時点に対応する各センサデータを取得する。例えば、対象期間が基準時点(例えば現時点)から過去3日間(72時間)の期間である場合、取得部12は、3日分(3日×144個/日=432個)の気温データ、3日分(432個)の湿度データ、3日分(432個)の葉温データ、及び3日分(432個)の水分量データを取得する。
【0035】
取得部12は、対象期間に含まれる各センサデータに対する前処理を実行してもよい。前処理は、例えば、上述したような各センサデータの測定時刻の誤差の補正及び補間処理等を含み得る。また、前処理は、以下に述べるような外れ値処理を含み得る。外れ値処理は、対象期間に含まれるセンサデータのうち他の値から大きく外れた値である外れ値を抽出し、当該外れ値を隣接する時点のセンサデータに基づいて補間(線形補間)された値に置換する処理である。特に、サーマルカメラ23は、撮影対象の状態が時期によって変化すると共に、画像取り込みの際にノイズ(例えば、葉の表面で反射する光の具合等に起因するノイズ)が乗りやすいため、対象期間に含まれる葉温データには、外れ値が一定数存在すると考えられる。従って、後述する相関係数に基づく判定精度を向上させる観点から、取得部12は、上記外れ値処理を前処理として実行することが好ましい。取得部12は、公知の外れ値処理(例えば、スミルノフ・グラブス検定を利用する方法、四分位範囲を利用する方法等)を実行してもよいし、以下のように予め任意に定めたルールに基づく外れ値処理を実行してもよい。
【0036】
例えば、葉温の変化は比較的緩やかであるため、通常、データ収集間隔(10分)で1℃以上の温度変化は発生しないと考えられる。取得部12は、上記考え方に基づいて、ある時点(例えば、「2022年4月13日12時10分」)に取得された葉温データLT1と次の時点(例えば、「2022年4月13日12時20分」)に取得された葉温データLT2との差の絶対値が1℃以上である場合に、葉温データLT2を外れ値と判定してもよい。この場合、取得部12は、葉温データLT2を葉温データLT1と更に次の時点(例えば、「2022年4月13日12時30分」)に取得された葉温データLT3との線形補間によって算出された値「(LT1+LT3)/2」に置換してもよい。
【0037】
期間長設定部13は、対象期間の長さを決定するための情報(以下「期間情報」)の入力を受け付け、入力された期間情報に基づいて対象期間の長さを設定する。期間情報は、手動で入力されてもよいし、自動的に入力(取得)されてもよい。
【0038】
期間長設定部13は、例えば、入力インタフェース104を介してユーザによって入力された期間情報を取得し、当該期間情報に基づいて対象期間の長さを設定してもよい。ユーザによって入力される期間情報は、直接的に期間長を指定する情報(例えば、「72時間」等の具体的な期間長を示す情報)であってもよいし、間接的に期間長を指定する情報であってもよい。
【0039】
例えば、期間長設定部13は、予め観測対象の植物の種類毎の期間長(すなわち、植物の種類に応じた適切な対象期間の長さ)が登録されたテーブル情報を保持していてもよい。この場合、期間長設定部13は、ユーザによって入力された植物の種類を示す情報(期間情報)を取得し、上記テーブル情報を参照することによって対象期間の長さを当該期間情報が示す植物の種類に対応する長さに設定してもよい。或いは、期間長設定部13は、例えば、栽培環境に設置されたカメラ等によって取得された観測対象の植物を被写体として含む画像データを取得し、当該画像データに対する画像処理(画像認識)を実行することにより観測対象の植物の種類を自動的に特定し、上記テーブル情報を参照することによって対象期間の長さを上記特定された植物の種類に対応する長さに設定してもよい。この例では、上記画像データが、対象期間の長さを決定するための期間情報である。他の例では、期間長設定部13は、観測対象の植物の種類以外の情報(例えば、栽培環境の平均気温、平均湿度、平均日照量等の環境条件)と予め定められた計算式とに基づいて、対象期間の長さを設定してもよい。この場合、上述したような環境条件を示す情報を、期間情報として用いることができる。上記のように期間長設定部13によって対象期間の長さを設定する構成によれば、例えば、観測対象の植物の種類、栽培環境等の種々の条件に基づいて、対象期間の長さを適切に調整することが可能となる。
【0040】
飽差算出部14は、対象期間に含まれる複数時点(本実施形態では、対象期間を10分毎に区切る各時点)の各々について、気温データ及び湿度データに基づいて、栽培環境の飽差を算出する。飽差は、1m(1立方メートル)の空気中に、あと何グラムの水蒸気を含むことができるかを示す数値である。飽差を求めるための計算式及び飽差の単位には様々なものが存在するが、本実施形態では、一例として、飽差算出部14は、下記の式(1)~(3)に基づいて、[g/m]を単位とする飽差を算出する。
【0041】
HD=(100-RH)×a(t)/100 …(1)
a(t)=217×e(t)/(t+273.15) …(2)
e(t)=6.1078×10{7.5t/(t+237.3)} …(3)
【0042】
式(1)において、「HD」は飽差(g/m)であり、「RH」は相対湿度(%)(湿度データ)であり、「t」は気温(℃)(気温データ)であり、a(t)は飽和水蒸気量(g/m)である。式(2)は、水蒸気の状態方程式に基づいて飽和水蒸気量a(t)を求めるための式であり、e(t)は飽和水蒸気圧(hPa)である。式(3)は、飽和水蒸気圧e(t)を求めるためのTetens式である。
【0043】
葉温指数算出部15は、対象期間に含まれる複数時点の各々について、葉温指数を算出する。葉温指数は、葉温から気温を減算した値である。すなわち、葉温指数算出部15は、各時点の葉温データが示す葉温から同一時点の気温データが示す気温を減算することにより、各時点の葉温指数(℃)を算出する。
【0044】
図3の(A)は、上述した飽差算出部14の計算をある期間(一例として、「2022年8月1日~2022年9月19日」)の気温データ及び湿度データに対して実行することにより得られた飽差の時系列データの一例を示している。図3の(B)は、上述した葉温指数算出部15の計算を上記期間の気温データ及び葉温データに対して実行することにより得られた葉温指数の時系列データの一例を示している。
【0045】
図4は、ある月の20日から26日までの期間について算出された飽差及び葉温指数をプロットした図である。図4の例では、20日0時に植物に対する水分の供給を停止し、植物に対する水分ストレスの付加が開始されている。
【0046】
図4に示されるように、植物の蒸散活動が正常に行われる場合(すなわち、植物の健康状態が正常である場合)、飽差が適度に高い環境においては、植物の蒸散活動が活発となり、蒸散により発生する気化熱によって葉温が気温に対して低くなる。つまり、飽差が高いほど、蒸散活動が活発化することによって葉温指数が低くなる傾向が見て取れる。一方、飽差が低い環境においては、蒸散活動が抑制される結果、葉温が気温に対してそれほど低くならない。つまり、飽差が低いほど、蒸散活動が抑制されることによって葉温指数が高くなる傾向が見て取れる。このように、植物の蒸散活動が正常に行われている場合には、図4(特に20日から22日までの期間)に示されるように、飽差と葉温指数とは逆位相(位相反転)の関係となる傾向がある。言い換えれば、飽差と葉温指数との間に負の相関が生じる傾向がある。
【0047】
一方、例えば、飽差が適度に高い環境であるにもかかわらず、何らかの原因による蒸散異常によって蒸散活動が抑制されている場合には、飽差が高いにもかかわらず葉温が気温に対して低くならない(すなわち、葉温指数が高いままとなる)ことから、飽差と葉温指数とが同相となる傾向が見て取れる。言い換えれば、飽差と葉温指数との間に正の相関が生じる傾向がある。図4の例では、23日12時頃から25日0時頃までの期間において、飽差と葉温湿数とが同相となっている。このような現象は、20日0時に水分供給が停止されたことによる水分不足の影響によって、上記期間に蒸散活動が正常に行われなかったことが原因で生じたものと推測される。
【0048】
本発明者らは、上記のような関係性に着目することにより、飽差と葉温指数との相関係数が一定以上高い場合に、蒸散異常が発生している(或いは、蒸散異常が発生している可能性が高い)と判断することができると考えた。これを踏まえて、引き続き、相関係数算出部16及び検知部17について説明する。
【0049】
相関係数算出部16は、飽差算出部14及び葉温指数算出部15によって複数時点の各々について算出された飽差及び葉温指数に基づいて、対象期間における飽差と葉温指数との相関係数を算出する。一例として、相関係数算出部16は、基準時点(例えば現時点)から期間長設定部13により設定された期間長だけ過去に遡った期間を対象期間とする。期間長が72時間である場合には、対象期間は、基準時点の72時間前の時点から基準時点までの期間である。相関係数算出部16は、対象期間に含まれる飽差及び葉温指数から相関係数を算出する。
【0050】
検知部17は、相関係数算出部16により算出された相関係数が所定の閾値以上であるか否かを判定する。検知部17は、相関係数が閾値以上であると判定された場合に、植物の蒸散異常を検知する。すなわち、検知部17は、相関係数が閾値以上であると判定されたことに応じて、植物の蒸散異常が発生している可能性が高いと判定する。一方、検知部17は、相関係数が閾値以上であると判定されなかった場合には、植物の蒸散異常を検知しない。すなわち、検知部17は、相関係数が閾値未満の場合、植物の蒸散異常は発生していない(すなわち、植物の蒸散活動が正常に行われている状態である)と判定する。
【0051】
検知部17は、植物の蒸散異常を検知した場合に、蒸散異常を示すアラート情報を出力してもよい。例えば、検知部17は、蒸散異常が発生している可能性が高いことを示す文字情報又は画像情報をディスプレイ(出力インタフェース105)に表示してもよいし、警告音等の音声情報をスピーカ(出力インタフェース105)から出力してもよい。或いは、検知部17は、予め登録された通知先(例えばメール送信先)に、蒸散異常を知らせるための通知メッセージを送信してもよい。
【0052】
上記閾値は例えば0に設定される。これは以下の考え方に基づく。すなわち、上述した通り、飽差と葉温指数との相関係数が負である場合(例えば、飽差が高いほど葉温指数が低くなり、飽差が低いほど葉温指数が高くなる傾向がある場合)、観測対象の植物が蒸散できる環境(すなわち、飽差が適度に高い環境)において蒸散活動を正常に行っており、蒸散できない環境(すなわち、飽差が低い環境)において蒸散活動を正常に抑制している状況が推定される。一方、飽差と葉温指数との相関係数が正である場合(例えば、飽差が高いにもかかわらず葉温指数が高いままである場合)、飽差が高く蒸散できる環境であるにもかかわらず蒸散活動を行っていない状況が推定される。上記の考え方に基づいて、閾値を0に設定することにより、飽差と葉温指数との相関係数が負から正に変化するタイミングで蒸散異常を検知することが可能となる。
【0053】
なお、上記閾値は可変に設定されてもよい。閾値設定部18は、上記閾値が可変に設定される場合において、上記閾値を決定するための情報(以下「閾値情報」)の入力を受け付け、入力された閾値情報に基づいて上記閾値を設定する。閾値情報は、上述した期間情報と同様に、手動で入力されてもよいし、自動的に入力(取得)されてもよい。すなわち、閾値設定部18は、例えば、入力インタフェース104を介してユーザによって入力された閾値情報を取得し、当該閾値情報に基づいて上記閾値を設定してもよい。ユーザによって入力される閾値情報は、上述した期間情報と同様に、直接的に閾値を指定する情報(例えば、「0」等の具体的な値を示す情報)であってもよいし、間接的に閾値を指定する情報であってもよい。
【0054】
例えば、閾値設定部18は、予め観測対象の植物の種類毎の閾値(すなわち、植物の種類に応じた適切な閾値)が登録されたテーブル情報を保持していてもよい。この場合、閾値設定部18は、ユーザによって入力された植物の種類を示す情報(閾値情報)を取得し、上記テーブル情報を参照することによって当該閾値情報が示す植物の種類に対応する閾値を設定してもよい。或いは、閾値設定部18は、例えば、栽培環境に設置されたカメラ等によって取得された観測対象の植物を被写体として含む画像データを取得し、当該画像データに対する画像処理(画像認識)を実行することにより観測対象の植物の種類を自動的に特定し、上記テーブル情報を参照することによって上記特定された植物の種類に対応する閾値を設定してもよい。この例では、上記画像データが、閾値を決定するための閾値情報である。他の例では、閾値設定部18は、観測対象の植物の種類以外の情報(例えば、栽培環境の平均気温、平均湿度、平均日照量等の環境条件)と予め定められた計算式とに基づいて、閾値を設定(算出)してもよい。この場合、上述したような環境条件を示す情報を、閾値情報として用いることができる。上記のように閾値設定部18によって閾値を設定する構成によれば、例えば、観測対象の植物の種類、栽培環境等の種々の条件に基づいて、閾値を適切に調整することが可能となる。また、検知感度の調整が可能となる。例えば、閾値を小さくすることによって蒸散異常の検知感度を高めることができ、閾値を大きくすることによって検知感度を低下させ、ノイズ(すなわち、実際には正常状態である植物が蒸散異常と誤検知されること)の発生を抑制できる。
【0055】
図5及び図6を参照して、上述した検知部17による判定処理について説明する。図5は、植物に水分ストレスを与えなかった場合の(A)水分量、及び(B)相関係数の時間変化の一例を示す図である。図6は、植物に水分ストレスを与えた場合の(A)水分量、及び(B)相関係数の時間変化の一例を示す図である。図5及び図6の例において、対象期間の長さは「72時間」に設定されている。すなわち、図5の(B)及び図6の(B)における各時刻の相関係数は、当該時刻の72時間前の時点から当該時刻までの期間を対象期間として相関係数算出部16によって算出された相関係数を示している。また、検知部17によって用いられる閾値は「0」に設定されている。
【0056】
図5の例は、植物の水分不足が生じないように(具体的には、土壌中の含水率が15%を切らないように)定期的に水分の供給がされた植物群の水分量及び相関係数の時間変化を示している。なお、図5の例では、各センサ群から正常にセンサデータが取得されなかった2つのデータ欠損期間P1,P2が存在している。この例では、図5の(B)に示されるように、2022年8月1日から2022年9月19日までの期間のうち、データ欠損期間P1,P2(葉温等のデータが存在しないため相関係数を算出できない期間)及び各データ欠損期間P1,P2の直後の72時間(相関係数を算出するために必要な期間とデータ欠損期間P1,P2とが重複するため相関係数を適切に算出できない期間)を除いた期間(すなわち、正常に取得されたセンサデータに基づいて相関係数を適切に算出できる期間(以下「正常観測期間」という。))において、相関係数が負である状態が維持された。すなわち、この例では、植物に水分ストレスがかからなかったため植物の健康状態が良好に維持され、蒸散活動が正常に行われた結果、正常観測期間において相関係数が負である状態が維持されたと考えられる。この場合、検知部17によって、正常観測期間において相関係数が閾値未満であると判定される結果、植物の蒸散異常は検知されない。すなわち、図5の例のように、植物の健康状態に問題がなく蒸散活動が正常であると推定される場合(すなわち、相関係数が閾値未満である場合)には、検知部17によって蒸散異常は検知されない。なお、上述したように、データ欠損期間P1,P2及びその後72時間は、相関係数を適切に算出できない期間であるため、検知部17による検知対象から除外されればよい。
【0057】
図6の例は、2022年9月1日以降において、植物の水分不足を故意に発生させて植物に水分ストレスを与えるために、土壌中の含水率が10%になるまで水分の供給を停止する処理(ストレス試験)が行われた植物群の水分量及び相関係数の時間変化を示している。この例では、図6の(B)に示されるように、1回目のストレス試験が実施された後の時点t1、及び2回目のストレス試験が実施された後の時点t2において、相関係数が閾値未満の状態から閾値以上の状態へと変化した。すなわち、この例では、植物に水分ストレスがかけられて植物が水分不足に陥ったことによって蒸散活動が正常に行われなくなった結果、上記時点t1,t2において相関係数が閾値を超えた(すなわち、負から正へと変化した)と考えられる。この場合、検知部17によって、各時点t1,t2(及び各時点t1,t2の直後の一定期間)において相関係数が閾値以上と判定される結果、植物の蒸散異常が適切に検知される。
【0058】
さらに、検知部17は、相関係数が閾値以上であると判定された場合、対象期間に取得された水分量データに基づいて、植物の蒸散異常の原因が水分ストレス(水分不足)であるか否かを判定し、判定結果を出力してもよい。検知部17は、例えば、上述した蒸散異常を示すアラート情報と同様の態様で、判定結果を出力してもよい。上記構成によれば、蒸散異常が検知された場合に、蒸散異常の原因が水分ストレスであるか否かを自動的に判定及び出力することが可能となるため、植物の栽培者等のユーザの利便性を向上させることができる。
【0059】
一例として、検知部17は、相関係数が閾値以上であると判定された時点(例えば、時点t1,t2)に対応する水分量データを参照し、当該時点の水分量データの値が予め定められた閾値(以下「水分閾値」)未満である場合に、蒸散異常の原因が水分ストレスであると判定し、上記水分量データの値が水分閾値以上である場合に、蒸散異常の原因が水分ストレスではないと判定してもよい。或いは、検知部17は、相関係数の算出に用いられる対象期間(本実施形態では、相関係数の算出対象時点から過去72時間の期間)において取得された水分量データの統計値(例えば、平均値、中央値等)を算出し、当該統計値と閾値との比較に基づいて蒸散異常の原因が水分ストレスであるか否かを判定してもよい。例えば、検知部17は、上記統計値が水分閾値未満である場合に、蒸散異常の原因が水分ストレスであると判定し、上記統計値が水分閾値以上である場合に、蒸散異常の原因が水分ストレスではないと判定してもよい。図6の例では、時点t1,t2において相関係数が負から正に変化した原因(すなわち、蒸散異常が生じた原因)は、植物に水分ストレスを与えたことが原因である。ここで、例えば水分閾値を本来維持すべき含水率(15%)に設定する場合について考える。この場合、時点t1,t2のいずれにおいても水分量が閾値未満であるため、上述した検知部17の処理によって蒸散異常の原因が水分ストレスであると判定されることになる。なお、本実施形態では、維持すべき含水率は15%に設定されたが、維持すべき含水率は植物体の種類によって異なり得る。したがって、水分閾値も植物体の種類によって異なり得る。すなわち、水分閾値は、上述した相関係数の閾値と同様に、可変に設定され得る。
【0060】
なお、蒸散異常の原因としては、水分ストレス以外にも、カビ、線虫の寄生、虫による根の食害、その他様々な理由が考えられる。例えば、土壌中の水分量が十分であるにもかかわらず相関係数が閾値を超えた場合には、蒸散異常の原因は、水分ストレス以外の理由(例えば、病虫害)である可能性が高い。上述した検知部17の処理によれば、このような場合には水分量が水分閾値以上であると判定される結果、蒸散異常の原因が水分ストレスではないと適切に判定される。
【0061】
次に、図7を参照して、蒸散異常検知装置10の動作の一例について説明する。なお、図7に示される処理順序は一例であり、図7に示される処理順序は適宜変更されてもよいし、一部の処理ステップは適宜省略されてもよい。また、他の処理ステップが適宜挿入されてもよい。
【0062】
まず、ステップS1及びS2において、相関係数算出部16による相関係数の算出に用いられる対象期間の長さと、検知部17によって蒸散異常の有無を判定するために用いられる相関係数の閾値と、が設定される。ステップS1において、期間長設定部13は、対象期間の長さを決定するための期間情報の入力を受け付け、入力された期間情報に基づいて対象期間の長さを設定する(期間長設定ステップ)。また、ステップS2において、閾値設定部18は、相関係数の閾値を決定するための閾値情報の入力を受け付け、入力された閾値情報に基づいて相関係数の閾値を設定する(閾値設定ステップ)。なお、ステップS1は、ステップS3の処理が実行される前までに実行されればよく、ステップS2は、ステップS7の処理が実行される前までに実行されればよい。
【0063】
ステップS3において、取得部12は、対象期間内の各時点に対応する各センサデータ(気温データ、湿度データ、葉温データ、及び水分量データ)を取得する(取得ステップ)。ここで、対象期間は、基準時点(例えば現時点)からステップS1で決定された長さ(或いは、予め固定値として設定された長さ)だけ過去に遡った期間である。例えば、上記長さが72時間である場合、対象期間は基準時点から過去72時間の期間である。
【0064】
ステップS4において、飽差算出部14は、対象期間内の各時点の気温データ及び湿度データに基づいて、各時点の飽差を算出する(飽差算出ステップ)。ステップS5において、葉温指数算出部15は、対象期間内の各時点の葉温データ及び気温データに基づいて、各時点の葉温指数を算出する(葉温指数算出ステップ)。なお、ステップS4よりも先にステップS5が実行されてもよいし、ステップS4及びステップS5は並行して実行されてもよい。
【0065】
ステップS6において、相関係数算出部16は、ステップS4及びステップS5で算出された対象期間内の複数時点の各々の飽差及び葉温指数に基づいて、対象期間における飽差と葉温指数との相関係数を算出する(相関係数算出ステップ)。
【0066】
ステップS7において、検知部17は、ステップS6で算出された相関係数がステップS2で設定された閾値(或いは、予め固定値として設定された閾値)以上であるか否かを判定する(検知ステップ)。相関係数が閾値以上でない場合(ステップS7:NO)、検知部17は、植物の蒸散異常が発生していないと判定する(ステップS8)。一方、相関係数が閾値以上である場合(ステップS7:YES)、検知部17は、ステップS3で取得された対象期間内の水分量データに基づいて、植物の蒸散異常の原因が水分ストレス(水分不足)であるか否かを判定する。一例として、検知部17は、対象期間内の最新時点(基準時点)の水分量が閾値(上述した水分閾値)以上であるか否かを判定する(ステップS9)。上記水分量が水分閾値以上でない場合(ステップS9:NO)、検知部17は、植物の蒸散異常が発生しており、且つ、植物の蒸散異常の原因が水分ストレスであると判定する(ステップS10)。一方、上記水分量が水分閾値以上である場合(ステップS9:YES)、検知部17は、植物の蒸散異常が発生しており、且つ、植物の蒸散異常の原因が水分ストレス以外であると判定する(ステップS11)。
【0067】
なお、図7のステップS3~S11の処理(以下「メイン処理」)は、例えば定期的(例えば1時間毎)に実行されてもよい。この場合、対象期間が基準時点(現時点)から過去72時間である場合、前回のメイン処理(すなわち、今回の基準時点よりも1時間前の時点を基準時点として実行されたメイン処理)のステップS3~S5によって、今回のメイン処理の対象期間のうち直近の1時間分を除く71時間分の飽差及び葉温指数は既に計算済みである。このため、上記のように、メイン処理を対象期間の長さよりも短い間隔で定期的に実行する場合には、ステップS3において、直近の1時間分(前回のメイン処理が実行されてから今回のメイン処理が実行されるまでの期間分)のセンサデータのみを取得すればよく、ステップS4及びS5において、直近の1時間分の飽差及び葉温指数のみを算出すればよい。
【0068】
以上述べたように、通常、飽差が適度に高い環境では、植物の蒸散活動が活発となり、蒸散により発生する気化熱によって葉温が気温に対して低くなる。一方、飽差が低い環境では、蒸散活動が抑制される結果、葉温が気温に対してそれほど低くならない。つまり、植物の蒸散活動が正常に行われている場合には、飽差と葉温指数との間に負の相関が生じる傾向がある。これに対して、例えば、飽差が適度に高い環境であるにもかかわらず、何らかの原因による蒸散異常によって蒸散活動が抑制されている場合には、飽差と葉温指数との間に正の相関が生じ得る。このような関係性に着目することにより、飽差と葉温指数との相関係数が一定以上高い場合に、蒸散異常が発生している(或いは、蒸散異常が発生している可能性が高い)と判断することができる。蒸散異常検知装置10(或いは、蒸散異常検知装置10により実行される蒸散異常検知方法、コンピュータを蒸散異常検知装置10として機能させる蒸散異常検知プログラムP)によれば、上記知見に基づいて、対象期間における葉温指数と飽差との相関係数に対する閾値判定を行うことにより、植物の蒸散異常を容易且つ精度良く検知できる。
【0069】
また、蒸散異常検知装置10によれば、蒸散異常を早期に検知することにより、将来高い確度で発生し得る植物の生長異常を事前に予測することが可能となる。ここで、生長異常とは、例えば、視覚的(外見上)に把握できる程度の異常状態(例えば、植物が萎れたり枯れたりする状態)である。すなわち、蒸散異常検知装置10によれば、視覚的に把握可能な生長異常が発現する前に(すなわち、目視による植物の異常発見が困難な状況において)蒸散異常を検知することにより、適切な水分供給、病虫害への適切な対処を栽培者に早期に促すことができる。その結果、植物の生長異常の発生を未然に防止することができる。
【0070】
また、蒸散異常検知装置10では、単なる葉温ではなく葉温指数が用いられる。例えば、特許文献1に示されるように葉温のみに着目する場合について考える。この場合、仮にある期間中において葉温が下降していることが確認されたとしても、葉温の下降の主な原因が外気温の下降によるものであるのか、蒸散活動によって生じた気化熱によるものであるのかを把握することができない。同様に、ある期間中において葉温が上昇していることが確認されたとしても、葉温の上昇の主な原因が外気温の上昇によるものであるのか、蒸散活動が正常に行えておらず気化熱が発生していないことによるものであるのかを把握することができない。これに対して、蒸散異常検知装置10では、葉温ではなく葉温と気温との差である葉温指数(=葉温-気温)と飽差との相関関係に着目することにより、植物の蒸散活動が正常に実行されているか否かを容易且つ精度良く判断することができる。
【0071】
また、葉温指数と飽差との相関関係を用いることにより、個々の具体的な状況に関する場合分けが不要となり、相関係数と閾値との大小判定によって容易に蒸散異常の有無を判断することができる。また、植物の異常を検知するために従来一般的に用いられる手法として、観測対象の植物の栽培環境を理想的な植物環境に近づけるための分析処理を行う手法が存在するが、本実施形態の蒸散異常検知方法によれば、このような理想的な栽培環境との比較・分析を行う必要がないため、理想的な栽培環境のパラメータを準備したり、比較処理を実装したりする必要がない。また、本実施形態の蒸散異常検知方法は、最小構成として、栽培環境に配置されるセンサ群(温度センサ21、湿度センサ22、及びサーマルカメラ23)と、飽差、葉温指数、及び相関係数の算出並びに相関係数と閾値との数値比較を実行するためのコンピュータ装置(蒸散異常検知装置10)と、を準備すればよいため、比較的シンプル且つ安価な構成によって実現できる。
【0072】
また、対象期間の長さは、48時間以上168時間以下の範囲に設定されてもよい。対象期間を短くし過ぎた場合、実際には植物の健康状態が正常であるにもかかわらず、単発的(一時的)に観測された現象によって相関係数が閾値を超えてしまう(植物の蒸散異常が発生していると判断されてしまう)といった問題が生じ得る。一方、対象期間を長くし過ぎた場合、相関係数の変動が緩慢となり、蒸散異常の検知が遅れてしまうといった問題が生じ得る。上記のように対象期間の長さを48時間以上168時間以下の範囲に設定することにより、上述したような問題の発生を抑制し、蒸散異常検知の信頼性を高めることができる。本実施形態では、上記考え方に基づいて、対象期間は72時間に設定されている。
【0073】
また、上述した飽差と葉温指数との相関係数を用いた蒸散異常検知処理は、蒸散を行う植物全般に適用可能であるが、本発明者らの実施した試験(図5及び図6参照)により、特にアブラナ科の植物(特にコマツナ)について好適に適用できることが確認された。すなわち、蒸散異常検知装置10によれば、観測対象の植物をアブラナ科の植物(特にコマツナ)とした場合に、蒸散異常を好適に検知することができる。
【0074】
また、本実施形態では、植物群の複数の葉を含むエリアAに含まれる複数の葉の表面の温度の代表値が、葉温データとして取得及び利用される。上記構成によれば、同一環境下にある植物群(複数の植物体)の状態を示す指標となる値(代表値)を葉温データとして取得及び利用することにより、植物の蒸散異常をエリア単位で効率良く検知できる。上記構成は、特に栽培環境が大規模な農園である場合等において有効である。また、例えば、サーマルカメラ23をドローン等の飛翔体に取り付け、当該飛翔体を動かしながら栽培環境の各エリアにおける葉温データ(各エリアの代表値)を連続的に取得する手法を併用することによって、各エリアの植物の蒸散異常を効率良く検知することが可能となる。
【0075】
また、本実施形態では、検知部17が蒸散異常を検知した場合に、更に水分量データに基づいて蒸散異常の原因が水分ストレスであるか否かを判定したが、検知部17は、単に蒸散異常を検知するだけでもよい。すなわち、検知部17は、図7に示されるステップS9~S11の代わりに、単に「蒸散異常あり」と判定する処理を実行してもよい。このような場合であっても、本実施形態のように、複数時点の各々について、気温、湿度、及び葉温に加えて水分量の情報(水分量データ)も取得しておくことにより、蒸散異常が検知された際に、蒸散異常が水分ストレスに起因するものであるか否かを判断することが容易となる。すなわち、上記のように水分量データを取得しておくことにより、検知部17によって蒸散異常が検知された後にユーザ(例えば栽培者)が水分量データを確認することにより、蒸散異常の原因が水分ストレスであるか否かを容易に判断することができる。
【0076】
以上、本開示の実施形態及びいくつかの変形例について説明したが、本開示は、上記の実施形態及び各変形例で示した構成に限られない。各構成の材料、形状、及び処理内容は、上述した具体的な材料、形状、及び処理内容に限らず、上述した以外の様々な材料、形状、及び処理内容を採用することができる。また、上記の実施形態及び各変形例に含まれる一部の構成は、適宜省略又は変更されてもよいし、任意に組み合わせることが可能である。
【0077】
例えば、対象期間の長さが変更不可の固定値(例えば「72時間」)に設定される場合には、期間長設定部13は省略され得る。同様に、相関係数の閾値が変更不可の固定値(例えば「0」)に設定される場合には、閾値設定部18は省略され得る。また、図7のフローチャートに示される蒸散異常検知方法においても、対象期間の長さが固定値である場合には、ステップS1は省略される。同様に、相関係数の閾値が固定値である場合には、ステップS2は省略される。
【0078】
また、本実施形態では、複数の植物体(植物群)の単位で蒸散異常が検知されたが、蒸散異常検知システム1は、植物単体毎に蒸散異常を検知するように構成されてもよい。また、本実施形態では、葉温を測定するセンサ機器としてサーマルカメラ23が用いられたが、サーマルカメラ23に代えて、例えばボロメータ素子等の単素子の赤外線検出器が用いられてもよい。この場合、サーマルカメラを用いる場合と比較して機器コストを低減できると共に、上述したように植物単体毎に蒸散異常を検知する場合において、植物単体毎の葉温を精度良く取得することができる。
【符号の説明】
【0079】
10…蒸散異常検知装置、12…取得部、13…期間長設定部、14…飽差算出部、15…葉温指数算出部、16…相関係数算出部、17…検知部、18…閾値設定部、P…蒸散異常検知プログラム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7