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特開2024-79211導電性高分子化合物を有する電解コンデンサ及びその製造方法
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  • 特開-導電性高分子化合物を有する電解コンデンサ及びその製造方法 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079211
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】導電性高分子化合物を有する電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20240604BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20240604BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20240604BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20240604BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
H01G9/145
H01G9/15 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192025
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000190091
【氏名又は名称】ルビコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 美成
(72)【発明者】
【氏名】飯島 聡
(57)【要約】
【課題】高温下において優れた耐久性を示す導電性高分子コンデンサを提供する。
【解決手段】表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、陽極箔及び前記陰極箔の間に配設されたセパレータと、を備え、陽極箔及び前記陰極箔の間の空隙に、導電性高分子化合物を含む固体電解質相と、液状物質を含む液状物質相と、を含む電解コンデンサであって、液状物質相が、芳香族ニトロ化合物を1.0質量%以上の量で含有しており、液状物質が、ポリエチレングリコールであり、かつポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、30質量%以下である、電解コンデンサ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、
陰極箔と、
前記陽極箔及び前記陰極箔の間に配設されたセパレータと、
を備え、
前記陽極箔及び前記陰極箔の間の空隙に、
導電性高分子化合物を含む固体電解質相と、
液状物質を含む液状物質相と、
を含む電解コンデンサであって、
前記液状物質相が、芳香族ニトロ化合物を1.0質量%以上の量で含有しており、
前記液状物質が、ポリエチレングリコールであり、かつ
前記ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、30質量%以下である、
電解コンデンサ。
【請求項2】
前記液状物質相が、水を0.1質量%~10質量%の量で含有する、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記芳香族ニトロ化合物が、ニトロフェノール、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコール、ニトロ安息香酸、及びニトロベンズアルデヒドからなる群より選択される、請求項1又は2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記固体電解質相が、前記導電性高分子化合物としてポリエチレンジオキシチオフェンを含み、かつドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を含む、請求項1又は2に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、随意にエッチング処理された陰極箔とを、セパレータを介して重ね合わせて巻回することによって、コンデンサ素子を形成すること、
前記コンデンサ素子に導電性高分子化合物の水溶液又は分散液を含浸させて、前記陽極箔と前記陰極箔の間の空隙に固体電解質相を形成すること、及び、
固体電解質相が形成された前記コンデンサ素子に、液状物質を含む液状物質相を含浸させること、
を含み、
前記液状物質相が、芳香族ニトロ化合物を1.0質量%以上の量で含有し、
前記液状物質が、ポリエチレングリコールであり、かつ
前記ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、30質量%以下である、
電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子化合物を有する電解コンデンサ及びその製造方法に関する。特に、本発明は、導電性高分子化合物を含む固体電解質相とポリエチレングリコールを含む液状物質相とを含む電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解質(固体電解質)として導電性高分子化合物を用いた固体電解コンデンサが知られている。また、電解質として導電性高分子化合物と電解液とを用いた電解コンデンサが知られている(ハイブリッド型のコンデンサ)。
【0003】
このような導電性高分子化合物を有する電解コンデンサにおいては、熱劣化の抑制などの目的のためにニトロ化合物を用いることがある。
【0004】
特許文献1は、導電性高分子層を含む固体電解コンデンサを記載しており、少なくともエチレングリコール及びニトロ化合物を含む溶液に導電性高分子化合物が分散された混合溶液を用いて導電性高分子層を得ることを記載している。
【0005】
特許文献2は、導電性高分子と導電性補助液とを含んでなる電解コンデンサを記載している。この導電性補助液は、沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤と、ニトロ基とカルボキシル基またはカルボキシエステル部とを有し且つヒドロキシル基を有しない芳香族系化合物を含む。
【0006】
特許文献3は、導電性高分子を含むハイブリッド電解コンデンサに用いられる電解液を記載しており、この電解液が、ラクトンを含有した第1溶媒と、1,3-プロパンジオールなどの特定の化合物を含有した第2溶媒と、芳香族ニトロ化合物とを含むことを記載している。
【0007】
特許文献4は、コンデンサ素子を有する電解コンデンサを記載しており、このコンデンサ素子が、ポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールの誘導体の少なくとも1つを含有する液体で含浸されていること、及び、この液体が、ニトロ基とヒドロキシ基及びカルボキシル基のうちの少なくとも1つとを含む芳香族化合物をさらに含有することを記載している。
【0008】
特許文献5は、表面に誘電体層が形成された陽極体と、誘電体層と接触しているとともに導電性高分子を含む固体電解質層と、電解質と、を備える電解コンデンサを記載している。この電解液は、第1塩基成分、第1酸成分、及び第2酸成分を含む。また、この文献は、電解液の溶媒がグリコール化合物を含みうること、及び、第3酸成分としてニトロ化合物を含みうることを記載している。
【0009】
液体状の水溶性高分子化合物を、導電性高分子を含有する固体電解コンデンサに含有させることも知られている。
【0010】
特許文献6は、微粒子状の導電性高分子化合物からなる固体電解質と、液体状の水溶性高分子化合物、水及びニトロ基を有するアルコールで構成される水溶性高分子溶液とが、水溶性高分子溶液が固体電解質を取り囲むように導入されている固体電解コンデンサを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013-131514号公報
【特許文献2】特開2015-2274号公報
【特許文献3】特開2021-40036号公報
【特許文献4】米国特許第10679800号明細書
【特許文献5】国際公開第2019/225523号公報
【特許文献6】特開2018-26542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
固体電解質としての導電性高分子化合物を有する従来の電解コンデンサは、高温下での耐久性が不十分である場合があった。
【0013】
本開示は、導電性高分子化合物を有する電解コンデンサであって、高温下において優れた耐久性を示す電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示に係る上記の課題は、下記の本開示に係る発明によって解決することができる。
<態様1>
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、
陰極箔と、
前記陽極箔及び前記陰極箔の間に配設されたセパレータと、
を備え、
前記陽極箔及び前記陰極箔の間の空隙に、
導電性高分子化合物を含む固体電解質相と、
液状物質を含む液状物質相と、
を含む電解コンデンサであって、
前記液状物質相が、芳香族ニトロ化合物を1.0質量%以上の量で含有しており、
前記液状物質が、ポリエチレングリコールであり、かつ
前記ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、30質量%以下である、
電解コンデンサ。
<態様2>
前記液状物質相が、水を0.1質量%~10質量%の量で含有する、態様1に記載の電解コンデンサ。
<態様3>
前記芳香族ニトロ化合物が、ニトロフェノール、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコール、ニトロ安息香酸、及びニトロベンズアルデヒドからなる群より選択される、態様1又は2に記載の電解コンデンサ。
<態様4>
前記固体電解質相が、前記導電性高分子化合物としてポリエチレンジオキシチオフェンを含み、かつドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を含む、態様1~3のいずれか一項に記載の電解コンデンサ。
<態様5>
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、随意にエッチング処理された陰極箔とを、セパレータを介して重ね合わせて巻回することによって、コンデンサ素子を形成すること、
前記コンデンサ素子に導電性高分子化合物の水溶液又は分散液を含浸させて、前記陽極箔と前記陰極箔の間の空隙に固体電解質相を形成すること、及び、
固体電解質相が形成された前記コンデンサ素子に、液状物質を含む液状物質相を含浸させること、
を含み、
前記液状物質相が、芳香族ニトロ化合物を1.0質量%以上の量で含有し、
前記液状物質が、ポリエチレングリコールであり、かつ
前記ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、30質量%以下である、
電解コンデンサの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係る電解コンデンサによれば、導電性高分子化合物を有する電解コンデンサであって、高温下において優れた耐久性を示す電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1a図1aは、本開示の1つの実施態様に係る電解コンデンサの断面概略図である。
図1b図1bは、本開示の1つの実施態様に係るコンデンサ素子の斜視概略図である。
図2図2は、図1の固体電解質相の要部断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<<コンデンサ>>
本開示に係る電解コンデンサは、
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、
陰極箔と、
陽極箔及び陰極箔の間に配設されたセパレータと、
を備え、
陽極箔及び陰極箔の間の空隙に、
導電性高分子化合物を含む固体電解質相と、
液状物質を含む液状物質相と、
を含み、
液状物質相が、芳香族ニトロ化合物を1.0質量%以上の量で含有しており、
液状物質が、ポリエチレングリコールであり、かつ
ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、30質量%以下である。
【0018】
従来から、固体電解質としての導電性高分子化合物を有する電解コンデンサにおいて、導電性高分子化合物と共に用いられる電解液又は溶液の媒体として、ポリエチレングリコール(PEG)が用いられることがある。
【0019】
本発明の発明者らは、導電性高分子化合物を含む固体電解質相と、液状物質を含む液状物質相とを含む電解コンデンサにおいて、液状物質相に含まれるポリエチレングリコールの重合度(分子量)を最適化することによって、高温下における耐久性が向上することを見いだして、本発明に想到した。
【0020】
より具体的には、液状物質であるポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、一定以下であることによって、高温下における耐久性が特に良好になることを見出した。
【0021】
理論によって限定する意図はないが、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が比較的少ない場合には、導電性高分子化合物を含む固体電解質相における芳香族ニトロ化合物の配置が最適化され、その結果として、(特にはガス吸収剤としての)芳香族ニトロ化合物による熱劣化抑制効果が向上すると考えられる。
【0022】
より具体的には、液状物質相に含有される液状物質としてのポリエチレングリコールの分子量が比較的低い場合には、固体電解質相を構成する導電性高分子化合物(例えばPEDOT)に対するポチエチレングリコールのなじみの程度(特に、導電性高分子化合物から形成される固体電解質相のすきまへのポリエチレングリコールの浸透の程度)が向上すると考えられる。液状物質相は芳香族ニトロ化合物を含有するので、固体電解質相へのポリエチレングリコールのなじみの程度の向上に伴って、固体電解質相への芳香族ニトロ化合物の浸透の程度も向上すると考えられる。一方で、液状物質相に含有されるポリエチレングリコールの分子量が比較的高い場合には、例えば、比較的大きい分子量を有するポリエチレングリコールによって固体電解質層のすきまが塞がれてしまい、固体電解質を構成する導電性高分子と芳香族ニトロ化合物との接触又は近接が阻害されることが考えられる。
【0023】
固体電解質相に芳香族ニトロ化合物がより良好に浸透している場合には、漏れ電流などに起因して発生する水素ガスが、固体電解質相を構成する導電性高分子化合物に悪影響を及ぼす前に、芳香族ニトロ化合物によってより効果的に除去されると考えられ、その結果として、電解コンデンサの耐久性が向上すると考えられる。
【0024】
図面を用いて、本発明に係る例示的な実施態様をより詳細に説明する。なお、これらの図面及び例示的な実施態様は、本発明を限定するものではない。図面は概略図であり、必ずしも縮尺どおりではない。
【0025】
<実施形態に係る電解コンデンサ1の構成>
図1は、実施形態に係る電解コンデンサ1を説明するために示す図である。図1(a)は電解コンデンサ1の断面図であり、図1(b)はコンデンサ素子20の斜視図である。
【0026】
図2は、実施形態に係る電解コンデンサ1の要部を説明するために示す図である。図2は電解コンデンサ1の要部断面図である。
【0027】
実施形態に係る電解コンデンサ1は、巻回型の電解コンデンサであって、図1に示すように、有底筒状の金属ケース10と、コンデンサ素子20と、封口部材40とを備える。
【0028】
金属ケース10の底面部は、ほぼ円形形状をしており、中心付近に弁(図示せず。)が設けられている。このため、内圧が上昇した際に、当該弁が割れて内圧を外部に逃がすことができる構造となっている。金属ケース10の側面部は、底面部の外縁からほぼ垂直な方向に立設されている。金属ケース10の開口部は、封口部材40によって封口され、封口部材40に設けられた貫通穴を通してコンデンサ素子20の2つのリード29,30が外部に引き出されている。
【0029】
コンデンサ素子20は、金属ケース10の内部に収納され、図1(b)及び図2に示すように、陽極箔21と、陰極箔23と、陽極箔21と陰極箔23との間に配設されたセパレータ25とを備え、セパレータ25を介して陽極箔21と陰極箔23とが重ね合わせて巻回されている。
【0030】
図2の態様では、陽極箔21と陰極箔23との間の空隙に、微粒子状の導電性高分子化合物26からなる固体電解質相と、液状物質を含む液状物質相27とが導入されており、液状物質相27が、導電性高分子化合物26からなる固体電解質を取り囲むように存在している。陽極箔21及び陰極箔23は、それぞれ、その表面に、酸化皮膜22及び24を有する。
【0031】
<空隙>
本開示において、「陽極箔と陰極箔との間の空隙」は、「陽極箔とセパレータとの間及び陰極箔とセパレータとの間の空隙」のみならず、「セパレータ内における繊維間の空隙」を含む。また、「陽極箔と陰極箔との間の空隙」は、「エッチング処理による粗面化で陽極箔又は陰極箔の表面に形成されたエッチングピット(凹部)における空隙」も含む。
【0032】
<液状物質相>
本開示に係るコンデンサは、液状物質相を含む。液状物質相は、少なくとも、液状物質及び芳香族ニトロ化合物を含む。
【0033】
液状物質相は、固体電解質相を取り囲むように存在することができる。
【0034】
液状物質相は、好ましくは、液状物質及び芳香族ニトロ化合物、並びに随意の水から実質的に構成される。すなわち、好ましくは、液状物質相は、液状物質及び芳香族ニトロ化合物並びに随意の水から構成されており、これら以外の成分を、10質量%以下、5質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、又はさらには0.1質量%以下の割合で含む。
【0035】
本開示に係るコンデンサにおいて、陽極箔及び陰極箔の間の空隙に占める液状物質相の割合は、10vol%~99vol%、特には50vol%~99vol%、又はさらには60vol%~99vol%であってよい。
【0036】
(液状物質)
液状物質相に含有される液状物質は、ポリエチレングリコール(PEG)である。なお、液状物質相は、エチレングリコールを含む場合がある。液状物質相がエチレングリコールを含む場合、その含有量は、液状物質相に対して、5質量%以下、又はさらには1質量%以下であってよい。好ましい1つの実施態様では、液状物質相は、エチレングリコールを含まない。
【0037】
(ポリエチレングリコール)
ポリエチレングリコール(PEG)としては、
ジエチレングリコール(「PEG-2」と略称する)、
トリエチレングリコール(「PEG-3」と略称する)、
テトラエチレングリコール(「PEG-4」と略称する)、
ペンタエチレングリコール(「PEG-5」と略称する)、
ヘキサエチレングリコール(「PEG-6」と略称する)、
ヘプタエチレングリコール(「PEG-7」と略称する)、
オクタエチレングリコール(「PEG-8」と略称する)、及び
ノナエチレングリコール(「PEG-9」と略称する)
が挙げられる。ポリエチレングリコールは、これらの例示に限定されず、上記のポリエチレングリコールよりも重合度の高い(分子量の大きい)ポリエチレングリコールも含まれる。
【0038】
液状物質(ポリエチレングリコール)は、分子量の異なる2種以上のポリエチレングリコールの混合体であってよく、又は、単一の分子量を有する1種のポリエチレングリコールであってもよい。
【0039】
分子量の異なる2種以上のポリエチレングリコールの混合体は、例えば、特定の分子量を有するポリエチレングリコール(例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール)を、2種以上、混合することによって、作製することができる。
【0040】
本開示に係る好ましい実施態様のうちの1つでは、液状物質(ポリエチレングリコール)は、トリエチレングリコール(PEG-3)及びテトラエチレングリコール(PEG-4)の混合体を含み、又はこの混合体から実質的に構成される(すなわちこれら以外の成分を0.1質量%以下で含む)。
【0041】
液状物質(ポリエチレングリコール)の含有量は、液状物質相に対して、好ましくは80~99質量%、より好ましくは85~98質量%、さらに好ましくは90~96質量%、特に好ましくは92~95質量%である。
【0042】
(比較的大きい分子量を有するPEGの割合)
上述のとおり、本開示に係るコンデンサでは、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、30質量%以下である。
【0043】
この割合は、28質量%以下、26質量%以下、24質量%以下、若しくは22質量%以下であってよい。
【0044】
本発明の特に好ましい実施態様では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は1質量%以下である。この割合の下限は特に限定されないが、0.1質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、6質量%以上、8質量%以上、又は10質量%以上であってよい。
【0045】
特に好ましくは、ポリエチレングリコールが、ペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールを実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、当該成分の含有量が0.1質量%以下であることを意味する。
【0046】
ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が30質量%以下である液状物質(ポリエチレングリコール)を作製する方法は、特に限定されない。例えば、ペンタエチレングリコールよりも小さいポリエチレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びテトラエチレングリコール)のうちの少なくとも1つのみを用いることによって得ることができる。
【0047】
また、ペンタエチレングリコール若しくはそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が30質量%超であるポリエチレングリコールの混合体、又はペンタエチレングリコール若しくはそれよりも大きい分子量を有するポリエチレングリコールに、ペンタエチレングリコールよりも小さいポリエチレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びテトラエチレングリコール)のうちの少なくとも1つを含有させることによって、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が30質量%以下となるようにすることもできる。
【0048】
(比較的小さい分子量を有するPEGの割合)
本発明の特に好ましい実施態様では、液状物質であるポリエチレングリコールにおけるテトラエチレングリコール又はそれよりも小さいポリエチレングリコールの割合が、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上である。この割合の上限は特に限定されないが、100質量%未満、又は99.9質量%未満であってよい。
【0049】
(分子量)
好ましくは、液状物質であるポリエチレングリコールは、200未満の平均分子量又は分子量を有する。液状物質であるポリエチレングリコールの平均分子量又は分子量は、より好ましくは、190以下、180以下、170以下、若しくは160以下であり、かつ/又は、100以上、110以上、120以上、130以上、若しくは140以上である。
【0050】
本開示において、液状物質であるポリエチレングリコールの「平均分子量」は、液状物質であるポリエチレングリコールを調製する際に用いたそれぞれのポリエチレングリコールの仕込み量(割合)から算出することができる。あるいは、液状物質であるポリエチレングリコールの「平均分子量」として、GPC分析(ゲル浸透クロマトグラフィー分析)によって計測された平均分子量を用いることができる。
【0051】
<芳香族ニトロ化合物>
液状物質相は、芳香族ニトロ化合物を1.0質量%以上の量で含有する。この場合には、高温下での優れた耐久性を有するコンデンサが得られる。
【0052】
芳香族ニトロ化合物は、ニトロ基を有する芳香族化合物である。
【0053】
芳香族ニトロ化合物は、ニトロフェノール、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコール、ニトロ安息香酸、ニトロベンズアルデヒド、ニトロベンゼンカルボン酸、ニトロベンゼンジカルボン酸、ニトロアニリン、ニトロアニソール、ニトロトルエン、ニトロアセトアニリド、ニトロクレゾール、ニトロフェニル酢酸、メチルニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロテレフタル酸、及びニトロイソフタル酸からなる群より選択される少なくとも1つであってよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0054】
好ましくは、芳香族ニトロ化合物は、ニトロフェノール、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコール、ニトロ安息香酸、及びニトロベンズアルデヒドからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0055】
芳香族ニトロ化合物は、特に好ましくは、ニトロアセトフェノンである。芳香族ニトロ化合物としてニトロアセトフェノンを用いた場合には、特に良好な熱耐久性を有するコンデンサを得ることができる。
【0056】
芳香族ニトロ化合物の含有量は、液状物質相に対して、1.1質量%以上、1.2質量%イ所、1.3質量%以上、1.4質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、若しくは3質量%以上であってよく、かつ/又は、10質量%以下、8質量%以下、若しくは6質量%以下であってよい。
【0057】
芳香族ニトロ化合物の含有量は、液状物質相に対して、好ましくは1.0~10質量%、より好ましくは1.2~8質量%、さらに好ましくは1.4~6質量%である。この場合には、高温下での特に優れた耐久性を有するコンデンサが得られる。
【0058】
<水>
液状物質相は、水を含有することができる。
【0059】
陽極箔と陰極箔との間の空隙に存在する液状物質相が、液体状の水溶性高分子化合物に加えて「水」を含有する場合には、電解コンデンサを作製する過程で酸化皮膜に欠損が生じたとしても、水溶性高分子化合物が保持する水分に加えて「水」由来の水分を欠損の修復に使用することが可能となる。その結果、酸化皮膜の欠損密度の低減、及び漏れ電流の低減に関して、特に良好な効果を得ることができる。
【0060】
水の含有量は、液状物質相に対して、0質量%~10質量%であってよく、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.5~5質量%である。水の含有量がこの範囲にある場合には、酸化皮膜の欠損修復効果を十分に得ることができ、かつ、水の含有量が多すぎることによる弊害(高温環境下で長期間使用した場合に起こり得るコンデンサの膨張など)を回避又は抑制できることがある。
【0061】
液状物質相は、液状物質及び芳香族ニトロ化合物の他に、イオン性化合物を含有することもできる。イオン性化合物としては、有機塩が挙げられる。有機塩は、塩を構成する塩基及び酸のうちの少なくとも一方が有機物であるものをいう。なお、本開示に係る1つの実施態様では、液状物質相は、液状物質及び芳香族ニトロ化合物を含む一方で、イオン性化合物(特には有機塩)を含まない。
【0062】
<陽極箔>
本開示に係るコンデンサは、表面に酸化皮膜が形成された陽極箔を含む。
【0063】
陽極箔は、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属から形成されてよい。
【0064】
陽極箔は、その表面に、酸化皮膜を有する。例えば、公知の方法に従ったエッチング処理による粗面化及びその後の化成処理によって、陽極箔の表面に酸化皮膜を形成することができる。
【0065】
<陰極箔>
本開示に係るコンデンサは、陰極箔を含む。
【0066】
陰極箔は、陽極箔と同様に、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属から形成されてよい。
【0067】
陰極箔は、その表面に酸化皮膜が形成されてもよい。陰極箔の表面は、例えば、陽極箔と同様にエッチング処理により粗面化された後、自然酸化によって、酸化皮膜が形成されていてよい。また、陰極箔は、所望の電圧(例えば2V)で化成処理されてもよく、それによって酸化皮膜が形成されていてもよい。
【0068】
<セパレータ>
本開示に係るコンデンサは、セパレータを含む。セパレータは、陽極箔及び陰極箔の間に配設される。
【0069】
セパレータとしては、導電性高分子粒子や水溶性高分子と化学的に馴染み易いセルロース繊維、耐熱性に優れたナイロン、PET、PPSのような合成樹脂で形成されたものが好ましく、例えば、耐熱性セルロース紙や耐熱性難燃紙を用いることができる。より詳細には、セパレータとしては、セルロース及びこれらの混合紙、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、トリメチルペンテン樹脂が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。また、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂も挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びそれらの誘導体が挙げられる。ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドが挙げられる。セルロースとしては、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、及びレーヨンが挙げられる。
【0070】
<固体電解質相>
本開示に係るコンデンサは、陽極箔及び陰極箔の間の空隙に、固体電解質相を含む。
【0071】
(導電性高分子化合物)
固体電解質相は、導電性高分子化合物を含み、特には導電性高分子化合物から実質的に構成される。
【0072】
導電性高分子化合物としては、ポリチオフェン、ポリピロール、及びポリアリニン、並びにこれらの誘導体から選択される少なくとも1つが挙げられる。導電性高分子化合物は、これらのうちの少なくとも1つであってよい。好ましい導電性高分子化合物は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)(特には、ポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン))である。
【0073】
固体電解質相は、ドーパントをさらに含むことができる。ドーパントとしては、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、トルエンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、及びナフタレンスルホン酸、並びにこれらの誘導体が挙げられる。これらは、1つを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
ポリスチレンスルホン酸としては、重量平均分子量が10,000~1,000,000のものが好ましい。
【0075】
好ましい実施態様では、固体電解質相が、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、及びドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を含む。
【0076】
導電性高分子化合物は、微粒子状であってよい。微粒子状の導電性高分子化合物の平均粒子径は、好ましくは、1nm~300nm、又はさらには5nm~200nmの範囲(例えば20nm)である。
【0077】
本開示に係るコンデンサにおいて、陽極箔及び陰極箔の間の空隙に占める導電性高分子化合物の割合は、0.5vol%~20vol%、又はさらには1vol%~10vol%であってよい。
【0078】
(固体電解質相の形成)
導電性高分子化合物を含む固体電解質相を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、浸漬含浸法によって形成することができる。例えば、導電性高分子化合物を分散媒に分散させた分散液(導電性高分子化合物分散液)又は導電性高分子化合物を溶媒に溶解させた溶液(導電性高分子化合物溶液)を空隙に充填した後、加熱乾燥などによって空隙から分散媒又は溶媒を除去することによって、固体電解質相を形成することができる。
【0079】
より具体的には、例えば、導入槽を用いて、導電性高分子化合物分散液又は導電性高分子化合物溶液に、コンデンサ素子を浸漬する。そして、コンデンサ素子を導電性高分子化合物分散液又は導電性高分子化合物溶液から取り出し、コンデンサ素子を加熱処理することによって、固体電解質相を形成することができる。この操作は、複数回にわたって繰り返してよく、それによって、固体電解質相の充填量を増加させることができる。
【0080】
導電性高分子化合物を含む固体電解質相は、モノマーをいわゆる「その場重合」で重合させて形成してもよい。
【0081】
導電性高分子化合物分散液又は導電性高分子化合物溶液における導電性高分子の含有量は、0.1~10質量%、特には1~3質量%であってよい。
【0082】
導電性高分子化合物分散液のための分散媒としては、例えば、水、アルコール(メタノール、エタノール、1-プロパノール、ブタノール)などのプロトン性溶媒、及びこれらの混和物などを用いることができる。また、導電性高分子化合物溶液のための溶媒としては、例えば、水、アルコール(メタノール、エタノール、1-プロパノール、ブタノール)などのプロトン性溶媒、及びこれらの混和物などを用いることができる。なお、導電性高分子化合物分散液又は導電性高分子化合物溶液に芳香族ニトロ化合物を含有させてもよい。
【0083】
導電性高分子化合物分散液又は導電性高分子化合物溶液は、添加剤としてその他の化合物を含有することができ、例えば、高沸点化合物(特には150℃以上の沸点を有する化合物)を含有することができる。添加剤としては、ポリオール類(エチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びこれらの誘導体;グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、及びこれらの誘導体など)、糖アルコール類(ソルビトール、マンニトールなど)、γ-ブチロラクトン、ブタンジオール、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N-メチルピロリドン、及びジメチルスルホランなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
導電性高分子化合物分散液又は導電性高分子化合物溶液における添加剤の含有量は、1~40質量%であってよく、特には2~30質量%、又はさらには5~25質量%であってよい。添加剤の含有量は、1~20質量%であってもよい。
【0085】
<コンデンサ>
(CAP)
本開示に係るコンデンサは、実施例で記載される方法に従って120Hzで計測したときに、200~400μF、又はさらには220~350μFの容量を有することができる。
【0086】
(tanδ)
本開示に係るコンデンサは、実施例で記載される方法に従って120Hzで計測したときに、0.5~4.0%、又はさらには1.0~3.0%のtanδを有することができる。
【0087】
(ESR)
本開示に係るコンデンサは、実施例で記載される方法に従って100kHzで計測したときに、5~30mΩ、又はさらには8~20mΩのESRを有することができる。
【0088】
<<コンデンサの製造方法>>
本発明に係るコンデンサを製造する方法は、特に限定されない。本開示に係るコンデンサは、特には、本開示に係る下記の製造方法によって製造できる:
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、随意にエッチング処理された陰極箔とを、セパレータを介して重ね合わせて巻回することによって、コンデンサ素子を形成すること、
コンデンサ素子に導電性高分子化合物の水溶液又は分散液を含浸させて、陽極箔と陰極箔の間の空隙に固体電解質相を形成すること、及び、
固体電解質相が形成されたコンデンサ素子に、液状物質を含む液状物質相を含浸させること、
を含み、
液状物質相が、芳香族ニトロ化合物を1.0質量%以上の量で含有し、
液状物質が、ポリエチレングリコールであり、かつ
ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合が、30質量%以下である、
電解コンデンサの製造方法。
【0089】
本開示に係るこの製造方法の各構成要素(陽極箔、陰極箔、固体電解質相、液状物質相、液状物質など)の詳細については、本開示に係る電解コンデンサに関する上記の記載を参照できる。
【0090】
例示的な実施形態における電解コンデンサの製造方法を以下で説明する。この例示的な製造方法は、コンデンサ素子作製工程と、化成処理工程と、固体電解質相導入工程と、液状物質相導入工程と、組立・封止工程とをこの順序で含む。
【0091】
(1)コンデンサ素子作製工程
電解コンデンサの例示的な方法では、まず、陽極箔21として、アルミニウム箔を提供する。拡面化処理によってアルミニウム箔の表面を粗面化した後に、粗面化されたアルミニウム箔の表面に2V~500Vの所定の電圧を印加して化成処理を施し、それによって、アルミニウム箔の表面に酸化皮膜22を形成する。そして、酸化皮膜22を有する陽極箔21と、随意にエッチング処理された陰極箔23と、陽極箔21と陰極箔23との間に配設されたセパレータ25とを備えるコンデンサ素子を作製する(図1(b)参照。)。具体的には、セパレータ25を介して、凹凸表面(粗面)を有し当該凹凸表面に酸化皮膜22が形成された陽極箔21と凹凸表面を有する陰極箔23とを重ね合わせて巻回することによってコンデンサ素子20を作製する。このとき、陽極箔21にはリード30が接続されており、陰極箔23にはリード29が接続されている。
【0092】
(2)化成処理工程
次に、コンデンサ素子20を化成液槽中の化成液に浸漬するとともに、陽極側のリード30と化成液との間に所定の電圧(例えば100V)を5分間印加する。この操作によって、陽極箔21の端部に存在する酸化皮膜欠損部及び表面に存在することがある酸化皮膜欠損部が修復される。
【0093】
化成液としては、化成液(例えば、アジピン酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、グルタル酸アンモニウム、アゼライン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、セバシン酸アンモニウム、ピメリン酸アンモニウム、スベリン酸アンモニウムなどの水溶液)を用いることができる。
【0094】
(3)固体電解質相導入工程
次に、陽極箔21と陰極箔23との間の空隙に、微粒子状の導電性高分子化合物26からなる固体電解質相を、空隙に占める固体電解質相の割合が例えば2vol%~30vol%の範囲内になるように導入する。固体電解質相導入工程では、例えば、導電性高分子化合物を分散媒に分散させた導電性高分子化合物分散液を空隙に充填した後、空隙から分散媒を除去することによって、空隙に固体電解質相を導入することができる。導電性高分子化合物分散液の代わりに、導電性高分子化合物を溶媒に溶解させた溶液(導電性高分子化合物溶液)を用いてもよい。
【0095】
より具体的には、固体電解質相導入工程は、浸漬含浸法により行うことができる。すなわち、導電性高分子化合物分散液(例えばポリマー濃度2vol%)を導入槽中に満たした後、コンデンサ素子を導電性高分子化合物分散液に浸漬する。次に、コンデンサ素子を導入槽から取り出し、その後、コンデンサ素子を加熱処理する。
【0096】
導電性高分子化合物分散液は、懸濁状態にあるモノマー(例えばPEDOTモノマー)を重合(ラジカル重合又は酸化重合)させることによってドーパントや乳化剤が添加された導電性高分子化合物(例えばPEDOTポリマー)からなる微粒子状の導電性高分子化合物を作製し、当該微粒子状の導電性高分子化合物を所定の分散媒に分散させることによって、作製することができる。導電性高分子化合物の平均粒子径は、重合反応条件(例えば、開始剤、モノマー、重合補助剤などの濃度、反応温度、反応溶液の攪拌条件など)を適宜設定することによって調節することができる。また、公知の粉砕処理(例えば、攪拌粉砕処理、振動粉砕処理など)を施すことによって調節することもできる。また、分取濾過処理により粒子径を均一化することもできる。
【0097】
なお、空隙に占める固体電解質相の割合を増加させるためには、上記操作の反復回数を増やすことができ、かつ/又は、導電性高分子化合物分散液におけるポリマー濃度を高くすることができる。一方、空隙に占める固体電解質相の割合を低減するためには、上記操作の反復回数を減らすことができ、かつ/又は、導電性高分子化合物分散液におけるポリマー濃度を低くすることができる。
【0098】
(4)液状物質相導入工程
液状物質相導入工程では、例えば、陽極箔21と陰極箔23との間の空隙に、液状物質相27を、固体電解質を取り囲むように、かつ、空隙に占める液状物質相27の割合が10vol%~99vol%の範囲内になるように導入する。液状物質相導入工程は、具体的には、以下の(a)及び(b)のようにして行うことができる。
【0099】
(a)液状物質相の作製
液状物質(ポリエチレングリコール)を提供し、この液状物質に、芳香族ニトロ化合物及び随意の水を添加した後、撹拌することによって、液状物質相を作製することができる。これらの操作は、例えば40℃で行ってよい。
【0100】
(b)液状物質相の導入
液状物質相の充填を、浸漬含浸法によって行う場合には、液状物質相を導入槽中に満たした後、コンデンサ素子を液状物質相に浸漬することによって、空隙に液状物質相を導入する。
【0101】
(5)組立・封止工程
組立・封止工程では、封口部材40をコンデンサ素子20に取り付けるとともに、コンデンサ素子20を金属ケース10に挿入した後、金属ケース10の開口端近傍で金属ケース10をかしめる。封口部材40としては、例えば、イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)を用いることができる。イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)に代えて、エチレン・プロピレン・ターポリマー(EPT)、EPT-IIRブレンドゴム、シリコーンゴムなどのゴム材料や、フェノール樹脂(ベークライト)、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの樹脂とゴムとを貼り合わせたゴム複合材料を用いることもできる。その後、随意に、高温雰囲気下で所定の電圧を印加してエージング工程を実施する。これにより、実施形態に係る電解コンデンサ1が完成する。
【実施例0102】
以下で、実施例を参照して、本発明の実施態様をより詳細に説明する。下記の実施例及び比較例は本発明を限定するものではない。
【0103】
<<測定方法>>
実施例及び比較例で行った測定方法は、下記のとおりである。
【0104】
<CAP>
コンデンサのCAP(μF)は、LCRメーター(Keysight Technologies社製 Precision LCR Meter(E4980A))を用いて、25℃の恒温槽中において120Hzで計測した。
【0105】
<tanδ>
コンデンサのtanδ(%)は、LCRメーター(Keysight Technologies社製 Precision LCR Meter(E4980A))を用いて、25℃の恒温槽中において120Hzで計測した。
【0106】
<ESR>
コンデンサのESR(mΩ)は、LCRメーター(Keysight Technologies社製 Precision LCR Meter(E4980A))を用いて、25℃の恒温槽中において100kHzで計測した。
【0107】
<平均分子量>
ポリエチレングリコールの平均分子量は、高速液体クロマトグラフ(島津製作所製、Prominence)を用いて、GPC法によって計測した。
【0108】
<<実施例1~5及び比較例1~2>>
実施例1~5及び比較例1~2では、コンデンサの液状物質相に含有されるポリエチレングリコールの組成についての検討を行った。
【0109】
<実施例1>
(コンデンサの製造)
約60Vの耐圧の(アルミニウム製の)陽極箔と(アルミニウム製の)陰極箔とを(セルロース製の)セパレータを介して巻回し、その後、化成液を用いて端面及び欠陥部を化成し、その後、固体電解質を真空含浸し、乾燥して、固体電解質相を有するコンデンサ素子を作製した。固体電解質相は、導電性高分子化合物としてのポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、及び、ドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を含有していた。このコンデンサ素子に、液状物質相を構成する液体を含浸させて、実施例1に係るコンデンサを得た。
【0110】
実施例1のコンデンサの液状物質相は、下記の組成を有していた。
・94質量%のテトラエチレングリコール(PEG-4)(分子量194.23)
・5質量%のニトロアセトフェノン
・1質量%の水
【0111】
実施例1に係る液状物質相において、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。
【0112】
<性能評価(初期値)>
製造した実施例1に係るコンデンサについて、初期の性能評価、及び耐久性試験後の性能評価を、それぞれ行った。
【0113】
耐久性試験では、コンデンサに対して42Vの電圧を印加した状態で135℃において500時間にわたって静置した後に、コンデンサの性能評価を行った。
【0114】
実施例1に係る結果を、下記の表1に示す。
【0115】
<実施例2>
上記のPEG-4の代わりにPEG-4及びPEG-3(トリエチレングリコール、分子量150.17)の混合物(質量比2:8)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例2に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表1に示す。
【0116】
<実施例3>
上記のPEG-4の代わりにPEG-3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例3に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表1に示す。
【0117】
<実施例4>
上記のPEG-4の代わりにPEG-2(ジエチレングリコール、分子量106.12)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例4に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表1に示す。
【0118】
<実施例5>
上記のPEG-4の代わりにPEG-4及びPEG200の混合物(質量比5:5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。
【0119】
実施例5で用いたPEG200は、分子量分布を有しており、すなわち、重合度の異なる複数のポリエチレングリコールの混合体である。ゲルクロマトグラフィー(GPC法)によって計測した結果、実施例5に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、21.6質量%であった。結果を下記の表1に示す。
【0120】
<比較例1>
上記のPEG-4の代わりにPEG300を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。
【0121】
比較例1で用いたPEG300は、分子量分布を有しており、すなわち、重合度の異なる複数のポリエチレングリコールの混合体である。ゲルクロマトグラフィー(GPC法)によって計測した結果、比較例1に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、79.6質量%であった。結果を下記の表1に示す。
【0122】
<比較例2>
上記のPEG-4の代わりにPEG200を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。ゲルクロマトグラフィーによって分子量分布を計測した結果、比較例2に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、43.3質量%であった。結果を下記の表1に示す。
【0123】
<参考例1>
上記のPEG-4の代わりにエチレングリコール(EG)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、参考例1に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。
【0124】
【表1】
【0125】
表1からは、芳香族ニトロ化合物としてニトロアセトフェノンを用いかつPEG-5以上の割合(質量%)が比較的低いことによって、耐久後にコンデンサとしての特性が維持されることが理解される。
【0126】
<<実施例6及び比較例3>>
実施例6及び比較例3では、それぞれ、コンデンサの液状物質相に含有される芳香族ニトロ化合物としてのニトロアセトフェノンの含有量を10質量%及び0質量%とした場合について検討を行った。
【0127】
<実施例6>
ニトロアセトフェノン(10質量%)及びPEG-3の含有量を変更したこと以外は、実施例3と同様にして、実施例6に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例6に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表2に示す。
【0128】
<比較例3>
ニトロアセトフェノンを含有させなかったこと以外は、実施例6と同様にして、比較例3に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。比較例3に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
表2からは、表1で示された効果、すなわち芳香族ニトロ化合物としてニトロアセトフェノンを用いかつPEG-5以上の割合(質量%)が低いことによって耐久後にコンデンサとしての特性が良好に維持されるという効果が、ニトロアセトフェノン含有量が5又は10重量部の場合に得られる一方で、ニトロアセトフェノンを含有しない場合には得られないことが理解される。
【0131】
<<実施例7~12>>
実施例7~12では、コンデンサの液状物質相に含有される芳香族ニトロ化合物として、ニトロアセトフェノン以外の芳香族ニトロ化合物を用いた場合についての検討を行った。
【0132】
<実施例7>
ニトロアセトフェノンの代わりにニトロ安息香酸を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例7に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例7に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表3に示す。
【0133】
<実施例8>
ニトロアセトフェノンの代わりにニトロベンジルアルコールを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例8に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例8に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表3に示す。
【0134】
<実施例9>
ニトロベンジルアルコール(10質量%)及びPEG-3の含有量を変更したこと以外は、実施例8と同様にして、実施例9に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例9に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表3に示す。
【0135】
<実施例10>
ニトロアセトフェノンの代わりにニトロフェノールを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例10に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例10に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表3に示す。
【0136】
<実施例11>
ニトロフェノール(10質量%)及びPEG-3の含有量を変更したこと以外は、実施例10と同様にして、実施例11に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例11に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表3に示す。
【0137】
<実施例12>
ニトロアセトフェノンの代わりにニトロベンズアルデヒドを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例12に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例12に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表3に示す。
【表3】
【0138】
表3からは、表1で示された効果、すなわち芳香族ニトロ化合物としてニトロアセトフェノンを用いかつPEG-5以上の割合(質量%)が低いことによって耐久後にコンデンサとしての特性が良好に維持されるという効果が、ニトロアセトフェノン以外の芳香族ニトロ化合物でも得られることが理解される。
【0139】
<<実施例13~16>>
実施例13~16では、PEG-3及びニトロアセトフェノンを含有させるとともに、水の含有量を種々の値に変更して検討を行った。
【0140】
PEG-3及び水の含有量を下記の表4のとおりに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、実施例13~16に係るコンデンサを製造し、コンデンサの性能評価を行った。実施例13~16に係る液状物質相では、ポリエチレングリコールにおけるペンタエチレングリコール(PEG-5)又はそれよりも大きいポリエチレングリコールの割合は、0質量%であった。結果を下記の表4に示す。
【0141】
【表4】
【0142】
表4からは、表1で示された効果、すなわち芳香族ニトロ化合物としてニトロアセトフェノンを用いかつPEG-5以上の割合(質量%)が低いことによって耐久後にコンデンサとしての特性が良好に維持されるという効果が、水の量を変化させたときにも得られることが理解される。
【0143】
<<実施例17A~20A及び比較例4A~5A>>
実施例17A~20A及び比較例4A~5Aでは、PEG-3、ニトロアセトフェノン、及び水を含有する液状物質相において、成分含有量を下記の表5に示すとおりの種々の値に変更して、評価を行った。
【0144】
耐久性試験では、コンデンサに対して42Vの電圧を印加した状態で135℃において60時間にわたって静置した後に、コンデンサの性能評価を行った。
【0145】
結果を下記の表5に示す。
【0146】
<<実施例17B~20B及び比較例4B~5B>>
実施例17B~20B及び比較例4B~5Bでは、耐久試験の時間を60時間から80時間に変更したこと以外は、それぞれ実施例17A~20A及び比較例4A~5Aと同様にして、コンデンサの性能評価を行った。結果を下記の表6に示す。
【0147】
【表5】
【0148】
【表6】
【0149】
表5及び表6で見られるとおり、芳香族ニトロ化合物としてニトロアセトフェノンを用いかつPEG-5以上の割合(質量%)が低いことによって耐久後にコンデンサとしての特性が良好に維持されるという効果が、ニトロアセトフェノン含有量が1.0~5.0質量%の場合に得られる一方で、ニトロアセトフェノン含有量が0.5質量%の場合又はニトロアセトフェノンを含有しない場合には得られないことが理解される。
【0150】
なお、表6で見られるとおり、ニトロアセトフェノン含有量が1.0質量%のコンデンサは、80時間にわたる耐久試験において、若干の耐久性の低下を示したものの、ニトロアセトフェノン含有量が0.5質量%の場合又はニトロアセトフェノンを含有しない場合と比較して優れた耐久性を示した。ニトロアセトフェノン含有量が1.5~5.0質量%のコンデンサは、80時間にわたる耐久試験においても、非常に優れた耐久性を示した。
【符号の説明】
【0151】
1 電解コンデンサ
10 金属ケース
20 コンデンサ素子
21 陽極箔
22、24 酸化皮膜
23 陰極箔
25 セパレータ
26 固体電解質相
27 液状物質相
29、30 リード
40 封口部材
図1a
図1b
図2