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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079219
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】靴
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20240604BHJP
   A43C 11/12 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A43B23/02 105Z
A43C11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192034
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100196623
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 計介
(72)【発明者】
【氏名】岸本 雅貴
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BC26
4F050BC28
4F050HA01
4F050HA05
4F050HA33
4F050HA53
4F050HA56
4F050HA57
4F050HA58
4F050JA27
4F050JA28
4F050LA01
4F050MA27
(57)【要約】
【課題】甲ベルトに連結されている紐を片手の指で前記甲ベルトから離れる方向に引っ張るだけで、前記甲ベルトの可動面ファスナーとアッパーの固定面ファスナーとの接合を容易に解除することができる靴を提供する。
【解決手段】アッパーの前記開口部の左右両方にそれぞれ固定される固定面ファスナーと、前記開口部の左方に固定される左右両方の可動面ファスナーと、前記可動面ファスナーが固定される左右両方の接合部を含む甲ベルトと、を有する靴である。前記靴は、一方の端部が前記甲ベルトの左方に連結され、他方の端部が前記甲ベルトの右方に連結される紐を有する。前記紐の両端部は、前記紐を前記甲ベルトから離れる方向に引っ張った際、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面と重ならない位置または前記接合面の外縁に、前記接合面に向かう引っ張り力が作用するように前記甲ベルトに連結される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソールと、
前記ソール上に固定され、足の少なくとも一部を覆うアッパーと、
前記アッパーの踵側である後方に設けられた足を挿入する履き口部と、
前記履き口部から前記アッパーの爪先側である前方に向かって延びる開口部と、
前記アッパーにおける前記開口部の前方に端部が固定され、前記開口部の前後方向に対する左右両方にそれぞれ延びる接合部を含み、前記開口部を覆う甲ベルトと、
前記アッパーの外表面における前記開口部の左右両方にそれぞれ固定される固定面ファスナーと、
前記甲ベルトの左右両方の接合部にそれぞれ固定され、前記固定面ファスナーにそれぞれ着脱可能に接合される可動面ファスナーと、を有する靴であって、
前記甲ベルトの前方に位置し、一方の端部が前記甲ベルトの左方の接合部に連結され、他方の端部が前記甲ベルトの右方の接合部に連結される紐を有し、
前記紐の両端部は、
前記紐を前記甲ベルトから離れる方向に引っ張った際、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面と重ならない位置または前記接合面の外縁に、前記接合面に向かう引っ張り力が作用するように前記甲ベルトに連結される、
靴。
【請求項2】
ソールと、
前記ソール上に固定され、足の少なくとも一部を覆うアッパーと、
前記アッパーの踵側である後方に設けられた足を挿入する履き口部と、
前記履き口から前記アッパーの爪先側である前方に向かって延びる開口部と、
前記アッパーにおける前記開口部の前方に端部が固定され、前記開口部の前後方向に対する左右両方にそれぞれ延びる接合部を含み、前記開口部を覆う甲ベルトと、
前記アッパーの外表面における前記開口部の左右両方にそれぞれ固定される固定面ファスナーと、
前記甲ベルトの左右両方の接合部にそれぞれ固定され、前記固定面ファスナーにそれぞれ着脱可能に接合される可動面ファスナーと、を有する靴であって、
前記甲ベルトの前方に位置し、一方の端部が前記甲ベルトの左方の接合部に連結され、他方の端部が前記甲ベルトの右方の接合部に連結される紐を有し、
前記甲ベルトの左方の接合部に連結された前記紐の端部は、
前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置であって前記接合面よりも左方に連結され、
前記甲ベルトの右方の接合部に連結された前記紐の端部は、
前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置であって前記接合面よりも右方に連結される、
靴。
【請求項3】
ソールと、
前記ソール上に固定され、足の少なくとも一部を覆うアッパーと、
前記アッパーの踵側である後方に設けられた足を挿入する履き口部と、
前記履き口から前記アッパーの爪先側である前方に向かって延びる開口部と、
前記アッパーにおける前記開口部の前方に端部が固定され、前記開口部の前後方向に対する左右両方にそれぞれ延びる接合部を含み、前記開口部を覆う甲ベルトと、
前記アッパーの外表面における前記開口部の左右両方にそれぞれ固定される固定面ファスナーと、
前記甲ベルトの左右両方の接合部にそれぞれ固定され、前記固定面ファスナーにそれぞれ着脱可能に接合される可動面ファスナーと、を有する靴であって、
前記甲ベルトの前方に位置し、一方の端部が前記甲ベルトの左方の接合部に連結され、他方の端部が前記甲ベルトの右方の接合部に連結される紐を有し、
前記甲ベルトの左方の接合部に連結された前記紐は、
前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置または前記接合面の外縁であって前記接合面の左方に位置する前記甲ベルトの端面に接触し、
前記甲ベルトの右方の接合部に連結された前記紐は、
前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置または前記接合面の外縁であって前記接合面の右方に位置する前記甲ベルトの端面に接触する、
靴。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の靴において、
前記紐の両端部は、
左右両方の前記接合部の端面にそれぞれ接触した状態で前記接合部の裏面に折り返され、前記接合部の裏面にそれぞれ連結される、
靴。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の靴において、
左右両方の前記接合部には、
前記紐の延伸方向に突出している突出部がそれぞれ設けられ、
前記紐の両端部は、
左右両方の前記突出部にそれぞれ連結される、
靴。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の靴において、
前記甲ベルトは、
前記紐の延伸方向に交わる方向に延びる2本の切り込みから構成される紐通しを少なくとも2つ有し、
前記紐は、
前記紐通しを通っている、
靴。
【請求項7】
請求項6に記載の靴において、
前記切り込みの長さは、前記紐の幅の1.5倍以上に構成される、
靴。
【請求項8】
請求項6に記載の靴において、
前記紐通しは、
前記2本の切り込みのうち前記甲ベルトの左右方向の中央に近い一方の切り込みが他方の切り込みよりも長い、
靴。
【請求項9】
請求項6に記載の靴において、
前記紐通しは、
前記2本の切り込みの両端部に連結されている貫通孔を有する、
靴。
【請求項10】
請求項6に記載の靴において、
前記紐は、
少なくとも2つの前記紐通しの間に前記甲ベルトから離れる方向に湾曲した指かけ部を有する、
靴。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか一項に記載の靴において、
前記甲ベルトは、
前記アッパーにおける前記開口部の前方に固定された部分を支点として前方に回転可能に構成される、
靴。
【請求項12】
請求項11に記載の靴において、
前記アッパーの内側において前記開口部を塞ぎつつ、足の甲を覆う舌片を有し、
前記舌片は、
前記甲ベルトと連結されるとともに、前記アッパーまたは前記ソールと弾性部材によって連結される、
靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴に関する。
【背景技術】
【0002】
幼児、高齢者または障がい者等の介助対象者は、指先の力が弱く、手足の使い方が円滑でない場合がある。よって、甲ベルトの開閉によって脱ぎ履きを行う靴において、前記介助対象者が自らの指先で前記甲ベルトを開放し、前記甲ベルトを開放した状態を保持しつつ脱ぎ履きを行うには、多くの時間及び労力を要する。また、介助者が前記介助対象者の前記靴の脱ぎ履きを介助する場合、前記介助者は、一方の片手で前記甲ベルトを開放した状態を保持しつつ他方の片手で前記介助対象者の足を掴んで、前記靴の脱ぎ履きを介助するため労力を要する。このような、介助対象者自身による前記靴の脱ぎ履きまたは前記介助者による前記介助対象者の前記靴の脱ぎ履きの介助を容易にする靴が知られている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の靴は、甲バンドを開放するための引き紐が前記甲バンドに設けられている。前記靴は、甲前切開部を有するアッパーに前記甲前切開部の爪先側下端部から上向きに延びる前記甲バンドが前記甲前切開部上に被せられている。前記甲バンドの裏面には、面ファスナーが設けられている。また、前記甲前切開部両側の側甲被表面には、固定面ファスナーが設けられている。前記靴は、前記甲バンドの面ファスナーを前記アッパーの固定面ファスナーに接合させることで足を固定する。
【0004】
前記甲バンドには、前記甲バンド表面の中央部に指かけ部を曲成した引き紐が設けられている。前記引き紐の両端部は、前記甲バンドの左右両側縁部に取り付けられている。よって、前記靴は、前記引き紐の指かけ部に片手の指をかけて前記甲バンドから離間する方向に前記引き紐を引っ張ることで、前記面ファスナーと前記固定面ファスナーとの接合が解除される。これにより、前記甲バンドに設けられた前記引き紐に指をかけて引っ張ることで前記靴の脱ぎ履きを容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-81581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の靴の面ファスナーの構造では、被介助者、介助者が、片手の指による前記引き紐の引っ張り動作によって前記面ファスナーを容易に解除できない場合があった。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、甲ベルトに連結されている紐を片手の指で前記甲ベルトから離れる方向に引っ張るだけで、アッパーの固定面ファスナーから前記甲ベルトの可動面ファスナーを容易に引き離すことができる靴を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、甲ベルトに連結されている紐を片手の指で前記甲ベルトから離れる方向に引っ張るだけで、アッパーの固定面ファスナーから甲ベルトの可動面ファスナーを容易に引き離すことができる靴について検討した。本発明者等は、鋭意検討の結果、以下のような構成に想到した。
【0009】
本発明の一実施形態に係る靴は、ソールと、前記ソール上に固定され、足の少なくとも一部を覆うアッパーと、前記アッパーの踵側である後方に設けられた足を挿入する履き口部と、前記履き口部から前記アッパーの爪先側である前方に向かって延びる開口部と、前記アッパーにおける前記開口部の前方に端部が固定され、前記開口部の前後方向に対する左右両方にそれぞれ延びる接合部を含み、前記開口部を覆う甲ベルトと、前記アッパーの外表面における前記開口部の左右両方にそれぞれ固定される固定面ファスナーと、前記甲ベルトの左右両方の接合部にそれぞれ固定され、前記固定面ファスナーにそれぞれ着脱可能に接合される可動面ファスナーと、を有する。
【0010】
前記靴は、前記甲ベルトの前方に位置し、一方の端部が前記甲ベルトの左方の接合部に連結され、他方の端部が前記甲ベルトの右方の接合部に連結される紐を有する。前記紐の両端部は、前記紐を前記甲ベルトから離間する方向に引っ張った際、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面と重ならない位置または前記接合面の外縁に、前記接合面に向かう引っ張り力が作用するように前記甲ベルトに連結される。
【0011】
または、前記甲ベルトの左方の接合部に連結された前記紐の端部は、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置であって前記接合面よりも左方に連結される。前記甲ベルトの右方の接合部に連結された前記紐の端部は、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置であって前記接合面よりも右方に連結される。
【0012】
または、前記甲ベルトの左方の接合部に連結された前記紐は、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置または前記接合面の外縁であって前記接合面の左方に位置する前記甲ベルトの端面に接触する。前記甲ベルトの右方の接合部に連結された前記紐は、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置または前記接合面の外縁であって前記接合面の右方に位置する前記甲ベルトの端面に接触する。
【0013】
以下の説明では、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な例を述べる。しかしながら、当業者は、これらの具体的な例がなくても本発明を実施できることが明らかである。
【0014】
よって、以下の開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、甲ベルトに連結されている紐を片手の指で前記甲ベルトから離れる方向に引っ張るだけで、アッパーの固定面ファスナーから甲ベルトの可動面ファスナーを容易に引き離すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る靴を示す斜視図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る靴を示す上面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る靴を示す左側面図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る靴を示す右側面図である。
図5図5は、図3における甲ベルト部分のA-A矢視断面図であってソールを省略した断面模式図である。
図6図6は、本発明の実施形態の第1変形例に係る靴を示す左側面図である。
図7図7は、本発明の実施形態の第1変形例に係る靴を示す右側面図である。
図8図8は、図6における甲ベルト部分のB-B矢視断面図であってソールを省略した断面模式図である。
図9図9は、本発明の実施形態の第2変形例に係る靴を示す左側面図である。
図10図10は、本発明の実施形態の第2変形例に係る靴を示す右側面図である。
図11図11は、図9における甲ベルト部分のB-B矢視断面図であってソールを省略した断面模式図である。
図12図12は、本発明の実施形態のその他の変形例に係る靴の紐通しの切り込み長さと紐の移動範囲を示す模式図である。
図13図13は、本発明の実施形態のその他の変形例に係る靴の紐通しの切り込みの端部形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態に係る靴に基づいて具体的に説明する。なお、本発明に係る靴は、下記の実施形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。本発明の実施形態、変形例においては、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要でない部材の一部は省略して表示する。
【0018】
また、第1、第2などの序数を含む用語は、多様な構成要素を説明するために用いられる。この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的にのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0019】
また、以下の説明において、“固定”、“接続”、“接合”及び“取り付ける”等(以下、固定等)の表現は、部材同士が直接、固定等されている場合だけでなく、他の部材を介して固定等されている場合も含む。すなわち、以下の説明において、固定等の表現には、部材同士の直接的及び間接的な固定等の意味が含まれる。
【0020】
なお、以下の本発明の実施形態及び変形例における靴の説明において、爪先側を「前方」、踵側を「後方」、踵から爪先に向かう方向を「前方向」、前記爪先から前記踵に向かう方向を「後方向」、ソールからアッパーに向かう方向を「上方向」、前記アッパーから前記ソールに向かう方向を「下方向」とする。また、各実施形態における靴の説明において、前後方向及び上下方向に直交する方向であって、前方向に見て左に向かう方向を「左方向」、前方向に見て右に向かう方向を「右方向」とする。また、各実施形態における靴の説明において、前記靴の前後方向の長さを「足長」、前記靴の左右方向の長さを「足幅」とする。ただし、この方向の定義により、靴1の使用時の向きを限定する意図はない。
【0021】
[実施形態]
<甲ベルトの表面に連結>
<靴の全体構成>
以下、図1から図5を参照して、本発明の靴の実施形態である靴1について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る靴1を示す斜視図である。図2は、靴1を示す上面図である。図3は、靴1を示す左側面図である。図4は、靴1を示す右側面図である。図5は、図3における甲ベルト部分のA-A矢視断面図であってソールを省略した断面模式図である。以下の各実施形態及び各変形例において用いる図では、特に説明しない限り、左足用の靴1を示すが、右足用の靴にも同様に適用される。
【0022】
図1から図4に示すように、靴1は、主に、幼児、高齢者または障がい者等の介助対象者が履く靴である。靴1は、介助対象者自身が容易に脱ぎ履き可能且つ介助者による脱ぎ履きの介助が容易に実施可能な靴である。靴1は、ソール2と、アッパー3と、左方の固定面ファスナー5a及び右方の固定面ファスナー5bと、甲ベルト6と、左方の可動面ファスナー7a及び右方の可動面ファスナー7bと、紐8とを有する。
【0023】
図2に示すように、靴1において、靴1の足幅の中心を通り、靴1の前後方向に延びる線を中心線Laとする。靴1において、靴1の前後長を100%とするとき、中心線Laと直交する直線に平行な範囲で、先端から25%~85%、より厳密には、30%~80%の長さの領域を中足部1Mとする。また、靴1の前後方向において、中足部1Mより前方の部分の領域を前足部1Fとする。また、中足部1Mより後方の領域を後足部1Rとする。
【0024】
図1図3及び図4に示すように、ソール2は、地面に接する靴底である。ソール2は、着用者の足を衝撃、地面の凹凸等から保護する。ソール2は、アウトソール2aと、ミッドソール2bとを有する。ソール2は、アウトソール2aとミッドソール2bとが上下方向に積層され、接着剤等によって接着された単一の部材として構成されている。ソール2のうち一方の平面である下面を含む部分には、アウトソール2aが位置している。ソール2のうち他方の平面である上面を含む部分には、ミッドソール2bが位置している。ソール2は、着用者の足の形状に応じた形状を有する。
【0025】
アウトソール2aは、地面に接触する部材である。アウトソール2aは、ミッドソール2bの下方に位置している。つまり、アウトソール2aは、ミッドソール2bと地面との間に位置する。アウトソール2aは、ミッドソール2bの摩耗を防止する。また、アウトソール2aは、ソール2が地面に接地した際に、地面に対するソール2の位置を摩擦力によって保持する。アウトソール2aは、耐滑性、耐摩耗性を有する部材から構成されている。アウトソール2aは、例えば、加硫ゴム、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル等から構成されている。アウトソール2aにおける地面と接触する面は、地面との間で摩擦が生じ易い溝部を有する。
【0026】
ミッドソール2bは、アウトソール2aの上方に積層されている。よって、ミッドソール2bは、装着者の足とアウトソール2aとの間に位置する。ミッドソール2bは、ソール2が地面に接触した際にアウトソール2aから装着者の足に伝わる衝撃を吸収する。ミッドソール2bは、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン等から構成されている。ミッドソール2bは、アウトソール2aよりも厚みが厚い。
【0027】
図1から図4に示すように、アッパー3は、着用者の足を覆う部材である。アッパー3は、ミッドソール2bの上方に位置している。アッパー3は、靴1の着用者の足を外部の気象の変化、障害物等から保護する。また、アッパー3は、ソール2に対する着用者の足の位置を保持する。アッパー3は、通気性、伸縮性及び柔軟性を有する部材から構成されている。アッパー3は、例えば、天然革、人工皮革、化繊メッシュ材、キャンパス、TPUフイルム等から構成されている。アッパー3は、ソール2の上面に位置するミッドソール2bに接着、縫製等によって固定されている。
【0028】
アッパー3は、ソール2の前方部分である前足部1Fにおいて、ソール2の外縁から上方に向かって延び、且つソール2の上面を覆っている。また、アッパー3は、ソール2の前足部1Fよりも後方部分に位置する中足部1M及びソール2の中足部1Mよりも後方部分に位置する後足部1Rにおいて、ソール2の外縁から上方に延びる側部を構成している。よって、ソール2の中足部1M及び後足部1Rにおいて、アッパー3は、ソール2の上面を覆わずにソール2の外縁に沿ってソール2を囲っている。つまり、アッパー3の中足部1M及び後足部1Rの上部は、開口している。
【0029】
アッパー3の後足部1Rには、装着者の足をソール2とアッパー3との間に挿入する履き口部3aが構成されている。履き口部3aは、アッパー3の後足部1Rの後端部から後足部1Rの前端部までが上方に向かって開口している。つまり、履き口部3aは、ソール2の踵部分の上方に位置している。アッパー3の中足部1Mには、装着者の足に合わせてアッパー3の足幅を調整するための開口部3bが構成されている。開口部3bは、履き口部3aの前端部からアッパー3の前方に向かって中足部1Mの前端部まで上方に向かって開口している。開口部3bの左右方向の幅は、履き口部3aの左右方向の幅よりも狭い。
【0030】
舌片4は、装着者の足の甲を保護するとともに、外部から靴1の内部への異物の浸入を防止する。舌片4は、開口部3bの間であってアッパーの内側から開口部3bを塞ぐように位置している。舌片4は、スポンジ等の緩衝材が織物で覆われている。舌片4の前端部は、アッパー3の裏面であって開口部3bの前方に固定されている。また、舌片4は、伸縮可能な連結部材4aによってアッパー3に連結されている(図5参照)。よって、舌片4は、アッパー3に固定された前端部を支点として前方に回転可能に構成されている。これにより、舌片4は、装着者の足の脱ぎ履きの際、連結部材4aの伸縮によって、アッパー3の内側から外側に突出しない範囲において前方に向かって回転可能である。
【0031】
左右両方の固定面ファスナー5a、5bは、面ファスナーを構成するフック状部材及びループ状部材のうちいずれか一方の部材である。左右両方の固定面ファスナー5a、5bは、アッパー3の中足部1Mの表面に固定されている。また、左方の固定面ファスナー5aは、開口部3bの左方に位置している。右方の固定面ファスナー5bは、開口部3bの右方に位置している。左右両方の固定面ファスナー5a、5bは、略長方形状の接合面を有する。左右両方の固定面ファスナー5a、5bは、開口部3bの後端部からソール2の後端部に向かって延びている。
【0032】
甲ベルト6は、アッパー3の左右方向への広がりを抑制する部材である。甲ベルト6は、アッパー3の中足部1Mの表面に位置している。甲ベルト6は、アッパー3の開口部3bの左右方向の幅よりも大きい幅を有する。甲ベルト6の前端部は、アッパー3の表面における開口部3bの前方に固定されている。また、甲ベルト6の中央部分は、舌片4に連結されている(図4参照)。よって、甲ベルト6は、舌片4とともにアッパー3における開口部3bの前方に固定された前端部を支点として前方に回転可能に構成されている。
【0033】
甲ベルト6は、開口部3bの前端部から後端部まで延びている。甲ベルト6は、開口部3bの前端部から後端部までを覆っている。さらに、甲ベルト6の後端部は、左右両方にそれぞれ延びる接合部6a、6bを含む。左右両方の接合部6a、6bは、甲ベルト6の前端部の左右方向端部よりも左右方向にそれぞれ延びている部分である。左方の接合部6aは、左方の固定面ファスナー5aを覆う位置まで延びている。右方の接合部6bは、右方の固定面ファスナー5bを覆う位置まで延びている。
【0034】
甲ベルト6は、紐8を保持する紐通し6cを有している。各実施形態において、甲ベルト6は、左方の接合部6aの近傍と右方の接合部6bの近傍とにそれぞれ1つの紐通し6cを有している。左右両方の紐通し6cは、長さが略等しい2本の切り込みによって構成されている。2本の切り込みは、甲ベルトの少なくとも表層部が切り込まれている。また、2本の切り込みは、左右方向に延びる紐8に交わる方向に延びている。紐通し6cは、一方の切り込みから他方の切り込みに向かって潜り抜け可能に構成されている。よって、左右両方の紐通し6cは、一方の切り込みに挿入された紐8を他方の切り込みから引き出し可能である。
【0035】
可動面ファスナー7a、7bは、面ファスナーを構成するフック状部材及びループ状部材のうち固定面ファスナー5a、5bと異なる部材である。可動面ファスナー7a、7bは、甲ベルト6の左右両方の接合部6a、6bに固定されている。左方の可動面ファスナー7aは、左方の接合部6aにおいて左方の固定面ファスナー5aと対向する裏面に固定されている。右方の可動面ファスナー7bは、右方の接合部6bにおいて右方の固定面ファスナー5bと対向する裏面に固定されている。
【0036】
左右両方の可動面ファスナー7a、7bは、対応する左右両方の接合部6a、6bよりも大きい接合面積を有する。つまり、左右両方の可動面ファスナー7a、7bは、左右両方の接合部6a、6bの裏面の全面を覆うように設けられている。また、左右両方の可動面ファスナー7a、7bは、左右両方の固定面ファスナー5a、5bよりも大きい。よって、左右両方の可動面ファスナー7a、7bの少なくとも一部は、左右両方の接合部6a、6bが左右両方の固定面ファスナー5a、5bをそれぞれ覆った際に左右両方の固定面ファスナー5a、5bとそれぞれ重なる。
【0037】
紐8は、甲ベルト6をアッパー3から離れる方向に移動させる帯状の部材である。紐8は、甲ベルト6の前方に位置している。紐8の一方の端部は、左方の接合部6aの表面に連結されている。紐8の他方の端部は、右方の接合部6bの表面に連結されている。紐8の両端部は、紐通し6cに通された状態で左右両方の接合部6a、6bにそれぞれ連結されている。
【0038】
紐8は、甲ベルト6の表面側から甲ベルト6の裏面側に向かって、紐通し6cを構成している一方の切り込みに挿入される。紐8は、2本の切り込みの間の紐通し6cの裏側に入り込む。紐通し6cの裏側に入り込んだ紐8は、紐通し6cの裏側から他方の切り込みに挿入され、甲ベルト6の表面側に抜ける。この際、紐8は、両方の切り込み(図12における切り込み6ca、6cb参照)の端面に接触した状態で紐通し6cの裏側を通過している。また、紐8は、紐通し6cの弾性力によって2本の切り込みの端面に押さえ付けられている。よって、紐8と2本の切り込みとの間には、摩擦力が発生している。つまり、紐8は、紐通し6cにおいて発生している摩擦力と甲ベルト6の復元力とが釣り合う甲ベルト6の姿勢で保持可能である。
【0039】
また、紐8において、左右両方の紐通し6cの間の部分は、左右両方の可動面ファスナー7a、7bが左右両方の固定面ファスナー5a、5bにそれぞれ接合している状態において、甲ベルト6から離れる方向にたわむ程度の長さを有している。つまり、紐8は、左右両方の紐通し6cの間において、甲ベルト6から離れる方向に湾曲した指かけ部8aを有する。
【0040】
このように構成される靴1は、履き口部3aから挿入された装着者の足に合わせて左右方向に広がったアッパー3の開口部3bを甲ベルト6によって固定可能である。また、靴1は、左右両方の接合部6a、6bに連結された紐8の指かけ部8aを甲ベルト6から離れる方向に引っ張ることで左右両方の接合部6a、6bに紐8の延伸方向の引っ張り力が作用する。左右両方の接合部6a、6bに固定されている可動面ファスナー7a、7bは、引っ張り力によってそれぞれ結合している左右両方の固定面ファスナー5a、5bから引き離される。よって、靴1は、装着者または装着者の介助者による片手の引っ張り動作によって左右両方の接合部6a、6bによる固定を解除可能である。
【0041】
<紐の連結位置>
次に、図3から図5を用いて甲ベルト6と紐8との左右両方の連結位置Ya、Ybについて具体的に説明する。
【0042】
図3及び図4に示すように、左右両方の固定面ファスナー5a、5bと左右両方の可動面ファスナー7a、7bとがそれぞれ接合されている状態において、接合部6a、6bの表面にそれぞれ連結された紐8の両端部は、左右両方の固定面ファスナー5a、5bと左右両方の可動面ファスナー7a、7bがそれぞれ接合している左右両方の接合面Xa、Xbに垂直な方向に見て、左右両方の接合面Xa、Xbと重ならない位置であって左右両方の接合面Xa、Xbよりも紐8の延伸方向外方に連結されている。つまり、紐8の両端部は、左右両方の接合面Xa、Xbに垂直な方向に見て、左右両方の固定面ファスナー5a、5bと左右両方の可動面ファスナー7a、7bとのうちいずれか一方と重ならない位置であって左右両方の接合面Xa、Xbよりも左右両方の接合部6a、6bの端部側の左右両方の連結位置Ya、Ybにそれぞれ連結されている。
【0043】
本実施形態において、左方の接合部6aの表面に連結された紐8の一方の端部は、左方の接合面Xaに垂直な方向に見て、左方の可動面ファスナー7aと重なり且つ左方の固定面ファスナー5aと重ならない位置であって左方の固定面ファスナー5aよりも左方に連結されている。つまり、紐8の一方の端部は、左方の接合面Xaに垂直な方向に見て、左方の接合部6aにおける左方の接合面Xaと重ならない位置であって左方の接合面Xaよりも左方に位置する左方の連結位置Yaに連結されている。紐8は、左方の連結位置Yaから左方の接合面Xaに向かって延びている。このように紐8の一方の端部を接合面Xaと重ならない位置であって接合面Xaよりも左方に位置するようにするためには、接合部6aの長さをある程度長くしておくことが好ましい。接合部6aの長さは、例えば、固定面ファスナー5aの長さの1.1倍~1.5倍、より好ましくは1.2倍~1.4倍である。このように固定面ファスナー5aの長さをある程度長くしておくことによって、固定面ファスナー5aと可動面ファスナー7aとの接合位置が多少ずれたとしても、接合状態において紐8の一方端部が固定面ファスナー5a上に配置されにくくすることができる。
【0044】
本実施形態において、右方の接合部6bの表面に連結された紐8の他方の端部は、右方の接合面Xbに垂直な方向に見て、右方の可動面ファスナー7bと重なり且つ右方の固定面ファスナー5bと重ならない位置であって右方の固定面ファスナー5bよりも右方に連結されている。つまり、紐8の他方の端部は、右方の接合面Xbに垂直な方向に見て、右方の接合部6bにおける右方の接合面Xbと重ならない位置であって右方の接合面Xbよりも右方に位置する右方の連結位置Ybに連結されている。紐8は、右方の連結位置Ybから右方の接合面Xbに向かって延びている。このように紐8の他方の端部を接合面Xbと重ならない位置であって接合面Xbよりも左方に位置するようにするためには、接合部6bの長さをある程度長くしておくことが好ましい。接合部6bの長さは、例えば、固定面ファスナー5bの長さの1.1倍~1.5倍、より好ましくは1.2倍~1.4倍である。このように固定面ファスナー5bの長さをある程度長くしておくことによって、固定面ファスナー5bと可動面ファスナー7bとの接合位置が多少ずれたとしても、接合状態において紐8の他方端部が固定面ファスナー5b上に配置されにくくすることができる。
【0045】
図5に示すように、甲ベルト6から離れる方向に紐8が引っ張られた場合(指かけ部8aの矢印参照)、左方の接合部6aに連結されている紐8の一方の端部は、左方の接合面Xaよりも左方に固定されているため、まず紐8の一方の端部が連結されている左方の接合部6aの端部がめくれ上がり、その状態で右方に引っ張られる。よって、紐8から左方の接合部6aに伝達された引っ張り力は、めくれ上がった状態の左方の接合部6aの端部を介して可動面ファスナー7aの左方の端部を右方向に引っ張る力として作用する。これにより、左方の可動面ファスナー7aは、左方の接合面Xaの左方の端部を起点として右方向にめくられつつ左方の固定面ファスナー5aから順に引き離される(左方の可動面ファスナー7aの矢印参照)。
【0046】
同様に、甲ベルト6から離れる方向に紐8が引っ張られた場合、右方の接合部6bに連結されている紐8の他方の端部は、右方の接合面Xbよりも右方に固定されているため、まず紐8の他方の端部が連結されている右方の接合部6bの端部がめくれ上がり、その状態で左方に引っ張られる。よって、紐8から右方の接合部6bに伝達された引っ張り力は、めくれ上がった状態の右方の接合部6bの端部を介して可動面ファスナー7bの右方の端部を左方向に引っ張る力として作用する。これにより、右方の可動面ファスナー7bは、右方の接合面Xbの右方の端部を起点として左方向にめくられつつ右方の固定面ファスナー5bから順に引き離される(右方の可動面ファスナー7bの矢印参照)。
【0047】
舌片4及び甲ベルト6は、左右両方の可動面ファスナー7a、7bが左右両方の固定面ファスナー5a、5bから引き離されると、紐8の引っ張り力によって開口部3bの前方に固定された前端部を支点として前方向に回転される。舌片4は、連結部材4aの伸長によって、甲ベルト6とともにアッパー3の内側から外側に向かって移動される。甲ベルト6は、紐8の引っ張り力が加わらなくなると、甲ベルト6及び舌片4の復元力と紐通し6c及び紐8の間の摩擦力とが釣り合う位置で保持される。
【0048】
靴1は、舌片4及び甲ベルト6の前方への移動により、開口部3bが露出し、装着者、介助者によって開口部3b及び履き口部3aを容易に広げることができる。よって、靴1は、装着者の足を容易に出し入れ可能な状態になる。また、舌片4は、伸縮可能な連結部材4aによってアッパー3に連結されているので、甲ベルト6とともに前方への回転により履き口部3a及び開口部3bを広げつつ開口部3bからアッパー3の外に突出しないように可動範囲が制限されている。
【0049】
従来の靴では、甲ベルトにおいて、甲ベルトに固定されている可動面ファスナーをアッパーに固定されている固定面ファスナーから引き離す紐の連結部分は、可動面ファスナーと固定面ファスナーとの接合面上に位置している。したがって、従来の靴において紐の引っ張り力が連結部分に作用した場合、連結部分よりも紐の延伸方向外方に位置する可動面ファスナーの一部は、めくれ上がらない状態で紐の引っ張り方向に引っ張られる。つまり、従来の靴の面ファスナー構造では、可動面ファスナーが固定面ファスナーから引き離され難い固定面ファスナーに沿った方向に紐の引っ張り力が作用する。よって、被介助者、介助者は、片手の指による前記紐の引っ張り動作だけでは前記可動面ファスナーを固定面ファスナーから容易に引き離せない場合があった。
【0050】
しかしながら、左右両方の接合部6a、6bの左右両方の接合面Xa、Xbと重ならない位置であって左右両方の接合面Xa、Xbの外側に紐8が連結される靴1では、紐8が甲ベルト6から離れる方向に引っ張られた場合、左右両方の接合部6a、6bには、左右両方の接合面Xa、Xbと重ならない左右両方の連結位置Ya、Ybに左右両方の接合面Xa、Xbにそれぞれ向かう引っ張り力が作用する。紐8から左右両方の可動面ファスナー7a、7bに伝達される力は、左右両方の可動面ファスナー7a、7bを左右両方の固定面ファスナー5a、5bの端部からめくるように引き離す力として左右両方の可動面ファスナー7a、7bに作用する。
【0051】
つまり、紐8から左右両方の可動面ファスナー7a、7bに伝達された力は、左右両方の固定面ファスナー5a、5bに対して略垂直な方向に可動面ファスナー7a、7bを引き離す力に変換されて左右両方の接合面Xa、Xbの端部に作用する。よって、左右両方の可動面ファスナー7a、7bは、左右両方の接合面Xa、Xbの端部を起点として左右両方の接合面Xa、Xbの方向にめくられつつ左右両方の固定面ファスナー5a、5bから順に引き離される。これにより、甲ベルト6に連結されている紐8を片手の指で甲ベルト6から離れる方向に引っ張るだけで、左右両方の固定面ファスナー5a、5bから左右両方の可動面ファスナー7a、7bを容易に引き離すことができる。
【0052】
また、紐8は、2本の切り込みから構成される紐通し6cを通過することで、2本の切り込みの端面と紐8の表面との間に摩擦力が生じる。よって、甲ベルト6は、左右両方の可動面ファスナー7a、7bを左右両方の固定面ファスナー5a、5bから引き離した際の甲ベルト6の復元力よりも紐8と紐通し6cとの間の摩擦力が大きい場合、摩擦力によって動きが抑制された紐8によって姿勢が保持される。
【0053】
また、靴1は、2つの紐通し6cの間に位置する指かけ部8aを使用して紐8を甲ベルト6から離れる方向に引っ張ることで左右両方の可動面ファスナー7a、7bを左右両方の固定面ファスナー5a、5bから容易に引き離すことができる。これにより、甲ベルト6に連結されている紐8を片手の指で甲ベルト6から離れる方向に引っ張るだけで、左右両方の固定面ファスナー5a、5bから左右両方の可動面ファスナー7a、7bをそれぞれ容易に引き離し、且つ左右両方の可動面ファスナー7a、7bを左右両方の固定面ファスナー5a、5bから引き離した状態を保持することができる。よって、靴1の装着者は、甲ベルト6の姿勢を手で保持することなく、容易に靴1を脱ぎ履きすることができる。
【0054】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面及び説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一符号を付する。実施形態と重複する説明は適宜省略し、実施形態と相違する構成について詳細に説明する。
【0055】
[第1変形例]
図6から図8を用いて、第1変形例に係る靴11について説明する。図6は、本発明の実施形態の第1変形例に係る靴11を示す左側面図である。図7は、靴11を示す右側面図である。図8は、図6における甲ベルト部分のB-B矢視断面図であってソールを省略した断面模式図である。
【0056】
図6及び図7に示す通り、靴11は、紐18を有する。紐18は、甲ベルト6をアッパー3から離間する方向に移動させる部材である。紐18は、甲ベルト6の前方に位置している。紐18の一方の端部は、左方の接合部6aの裏面に連結されている。紐18の他方の端部は、右方の接合部6bの裏面に連結されている。また、紐8は、左右両方の紐通し6cに通された状態で左右両方の接合部6a、6bにそれぞれ連結されている。
【0057】
<紐の連結位置>
次に、図6から図8を用いて甲ベルト6と紐18との左右両方の接触位置について具体的に説明する。
【0058】
図6及び図7に示す通り、紐18の一方の端部は、左方の接合部6aの表面から左方の接合部6aの左方に位置する端部を介して裏面に折り返されている。紐18の一方の端部は、左方の固定面ファスナー5aと左方の可動面ファスナー7aとが互いに接合されている状態において、左方の接合面Xaよりも左方に位置する端面Zaに接触している。同様に、紐18の他方の端部は、右方の接合部6bの表面から右方の接合部6aの右方の端部を介して裏面に折り返されている。紐18の他方の端部は、右方の固定面ファスナー5bと右方の可動面ファスナー7bとが互いに接合されている状態において、右方の接合面Xbよりも右方に位置する端面Zbに接触している。この際、紐8の両端部は、左右両方の接合部6a、6bの裏面における任意の位置に連結されている。
【0059】
紐18の一方の端部が接触している左方の接合部6aにおける左方の端面Zaは、左方の接合面Xaに垂直な方向に見て、左方の接合面Xaにおける左方の外縁に位置する。よって、左方の接合部6aに連結されている紐18は、左方の接合部6aにおける端面Zaに接触した状態で左方の接合面Xaに向かって延びている。紐18の他方の端部が接触している右方の接合部6bにおける端面Zbは、右方の接合面Xbに垂直な方向に見て、右方の接合面Xbにおける右方の外縁に位置する。よって、右方の接合部6bに連結されている紐18は、右方の接合部6bにおける右方の端面Zbに接触した状態で右方の接合面Xbに向かって延びている。
【0060】
図8に示すように、甲ベルト6から離れる方向に紐18が引っ張られた場合(指かけ部18aの矢印参照)、紐18の一方の端部が接触している左方の接合部6aにおける端面Zaがまずめくれ上がり、その状態で右方向に引っ張られる。よって、紐18から左方の接合部6aに伝達された引っ張り力は、めくれ上がった状態の左方の接合部6aの端部を介して左方の可動面ファスナー7aにおける左方の端部を右方向に引っ張る力として作用する。これにより、左方の可動面ファスナー7aは、左方の接合面Xaにおける左方の端部を起点として右方向にめくられつつ順に左方の固定面ファスナー5aから引き離される(左方の可動面ファスナー7aの矢印参照)。
【0061】
同様に、甲ベルト6から離れる方向に紐8が引っ張られた場合、紐18の他方の端部が接触している右方の接合部6bにおける端面Zbがまずめくれ上がり、その状態で左方向に引っ張られる。よって、紐18から右方の接合部6bに伝達された引っ張り力は、めくれ上がった状態の右方の接合部6bの端部を介して右方の可動面ファスナー7bにおける右方の端部を左方向に引っ張る力として作用する。これにより、右方の可動面ファスナー7bは、右方の接合面Xbの右方の端部を起点として左方向にめくられつつ順に右方の固定面ファスナー5bから引き離される(右方の可動面ファスナー7bの矢印参照)。
【0062】
このように左右両方の接合部6a、6bにおける左右両方の接合面Xa、Xbの外縁であって左右両方の接合面Xa、Xbの外側にそれぞれ位置する左右両方の端面Za、Zbに紐18が接触している靴1において、紐18が甲ベルト6から離れる方向に引っ張られた場合、左右両方の接合部6a、6bには、左右両方の接合面Xa、Xbの外側に位置する左右両方の端面Za、Zbに左右両方の接合面Xa、Xbにそれぞれ向かう引っ張り力が作用する。紐18から左右両方の可動面ファスナー7a、7bに伝達される力は、左右両方の可動面ファスナー7a、7bを左右両方の固定面ファスナー5a、5bの端部からそれぞれめくるように引き離す力として左右両方の可動面ファスナー7a、7bに作用する。
【0063】
つまり、紐18から左右両方の可動面ファスナー7a、7bに伝達された力は、左右両方の固定面ファスナー5a、5bに対して略垂直な方向に可動面ファスナー7a、7bを引き離す力に変換されて左右両方の接合面Xa、Xbの端部にそれぞれ作用する。よって、左右両方の可動面ファスナー7a、7bは、左右両方の接合面Xa、Xbの端部を起点として左右両方の接合面Xa、Xbの方向にめくられつつ順に左右両方の固定面ファスナー5a、5bから引き離される。
【0064】
また、紐18は、左右両方の接合面Xa、Xbの外側に位置する左右両方の端面Za、Zbに接触した状態で接合部6a、6bの裏面に連結されている。紐18が甲ベルト6から離れる方向に引っ張られた際、紐18から左右両方の可動面ファスナー7a、7bに伝達される力は、左右両方の接合部6a、6bにおける左右両方の端面Za、Zbに甲ベルト6の裏面から表面に向かって引っ張る力として作用する。つまり、紐18から左右両方の可動面ファスナー7a、7bに伝達された力は、左右両方の固定面ファスナー5a、5bから左右両方の可動面ファスナー7a、7bを引き離し易い方向の力に変換されて接合面Xの端部に作用する。よって、左右両方の可動面ファスナー7a、7bは、接合面Xの端部を起点にして順に左右両方の固定面ファスナー5a、5bから引き離される。これにより、甲ベルト6に連結されている紐8を片手の指で甲ベルト6から離れる方向に引っ張るだけで、左右両方の固定面ファスナー5a、5bから左右両方の可動面ファスナー7a、7bを容易に引き離すことができる。
【0065】
[第2変形例]
図9から図11を用いて、第2変形例に係る靴21について説明する。図9は、本発明の実施形態の第2変形例に係る靴21を示す左側面図である。図10は、靴を21示す右側面図である。図11は、図9における甲ベルト部分のB-B矢視断面図であってソールを省略した断面模式図である。
【0066】
図9及び図10に示す通り、靴21は、甲ベルト26と、紐28と、左右両方の突出部29a、29bとを有する。甲ベルト26は、アッパー3の左右方向への広がりを抑制する部材である。甲ベルト26は、アッパー3の中足部1Mの表面に位置している。甲ベルト26の前端部は、アッパー3の表面における開口部3bの前方に固定されている。
【0067】
甲ベルト26は、開口部3bの後端部まで延びている。つまり、甲ベルト26は、開口部3bの前端部から後端部まで覆っている。さらに、甲ベルト26の後端部は、左右両方にそれぞれ延びる接合部26a、26bを含む。左右両方の接合部26a、26bは、甲ベルト26の前端部の左右方向端部よりも左右方向にそれぞれ延びている部分である。左方の接合部26aは、左方の固定面ファスナー5aを覆う位置まで延びている。右方の接合部26bは、右方の固定面ファスナー5bを覆う位置まで延びている。
【0068】
突出部29a、29bは、紐28が連結される部材である。左方の突出部29aは、甲ベルト26の左方の接合部26aに設けられている。右方の突出部29bは、甲ベルト26の右方の接合部26bに設けられている。左右両方の可動面ファスナー7a、7bが左右両方の固定面ファスナー5a、5bにそれぞれ接合している状態において、左方の突出部29aは、左方の接合部26aにおける左方の接合面Xaよりも左方に位置する接合部26aの端部から紐28の延伸方向に突出している。右方の突出部29bは、右方の接合部26bにおける右方の接合面Xbよりも右方に位置する接合部26bの端部から紐28の延伸方向に突出している。
【0069】
紐28は、甲ベルト26をアッパー3から離れる方向に移動させる部材である。紐28は、甲ベルト26の前方に位置している。紐28の一方の端部は、左方の突出部29aの表面に位置する左方の連結位置Yaに連結されている。紐28の他方の端部は、右方の突出部29bの表面に位置する右方の連結位置Ybに連結されている。紐28の両端部は、左右両方の紐通し26cに通された状態で左右両方の接合部26a、26bにそれぞれ連結されている。
【0070】
<紐の連結位置>
次に、図9から図11を用いて甲ベルト26と紐28との連結位置Ya、Ybについて具体的に説明する。
【0071】
図9から図11に示すように、左右両方の固定面ファスナー5a、5bと左右両方の可動面ファスナー7a、7bとがそれぞれ互いに接合されている状態において、紐28の一方の端部は、左方の接合面Xaに垂直な方向に見て、左方の接合面Xaと重ならない位置であって左方の接合面Xaよりも左方に位置する連結位置Yaに連結されている。紐28は、連結位置Yaから接合面Xaに向かって右方に延びている。同様に、紐28の他方の端部は、接合面Xbに垂直な方向に見て、接合面Xbと重ならない位置であって接合面Xbよりも右方に位置する連結位置Ybに連結されている。紐28は、連結位置Ybから接合面Xbに向かって左方に延びている。
【0072】
図11に示すように、甲ベルト26から離れる方向に紐8が引っ張られた場合(指かけ部28aの矢印参照)、左方の連結位置Yaに連結されている紐28の一方の端部は、左方の接合面Xaよりも左方に固定されているため、まず紐8の一方の端部が連結されている左方の突出部29aがめくれ上がり、その状態で右方に引っ張られる。よって、紐28から左方の突出部29aに伝達された引っ張り力は、めくれ上がった状態の左方の突出部29aを介して可動面ファスナー7aの左方の端部を右方向に引っ張る力として作用する。これにより、左方の可動面ファスナー7aは、左方の接合面Xaの左方の端部を起点として右方向にめくられつつ順に左方の固定面ファスナー5aから引き離される(左方の可動面ファスナー7aの矢印参照)。
【0073】
同様に、甲ベルト26から離れる方向に紐28が引っ張られた場合、右方の連結位置Ybに連結されている紐8の他方の端部は、右方の接合面Xbよりも右方に固定されてるため、まず紐8の他方の端部が連結されている右方の突出部29bがめくれ上がり、その状態で左方に引っ張られる。よって、紐28から右方の突出部29bに伝達された引っ張り力は、めくれ上がった状態の右方の突出部29bを介して可動面ファスナー7bの右方の端部を左方向に引っ張る力として作用する。これにより、右方の可動面ファスナー7bは、右方の接合面Xbの右方の端部を起点として左方向にめくられつつ順に右方の固定面ファスナー5bから引き離される(右方の可動面ファスナー7bの矢印参照)。
【0074】
このように左右両方の突出部29a、29bに紐28の両端部が連結される靴1において、紐28が甲ベルト6から離れる方向に引っ張られた場合、左右両方の接合部26a、26bには、左右両方の接合面Xa、Xbと重ならない位置に左右両方の接合面Xa、Xbにそれぞれ向かう引っ張り力が作用する。紐28から左右両方の可動面ファスナー7a、7bに伝達される力は、左右両方の可動面ファスナー7a、7bを左右両方の固定面ファスナー5a、5bの端部からめくるように引き離す力として左右両方の可動面ファスナー7a、7bに作用する。
【0075】
紐28の両端部は、左右両方の接合面Xa、Xbの端部よりも紐28の延伸方向に突出している左右両方の突出部29a、29bに連結されている。紐28が甲ベルト26から離れる方向に引っ張られた際、左右両方の突出部29a、29bから左右両方の可動面ファスナー7a、7bに伝達される力は、左右両方の突出部29a、29bを介して左右両方の接合面Xa、Xbの端部に位置する左右両方の可動面ファスナー7a、7bを左右両方の固定面ファスナー5a、5bに対して略垂直な方向に引き離す力として作用する。
【0076】
つまり、紐28から左右両方の可動面ファスナー7a、7bに伝達された力は、左右両方の突出部29a、29bによって左右両方の固定面ファスナー5a、5bから左右両方の可動面ファスナー7a、7bを引き離し易い方向の力に変換されて左右両方の接合面Xa、Xbの端部に作用する。よって、左右両方の可動面ファスナー7a、7bは、左右両方の接合面Xa、Xbの端部を起点として順に左右両方の固定面ファスナー5a、5bから引き離される。これにより、甲ベルト26に連結されている紐28を片手の指で甲ベルト26から離れる方向に引っ張るだけで、可動面ファスナー7a、7bと固定面ファスナー5a、5bとの接合を容易に解除することができる。
【0077】
[その他の変形例]
上述の実施形態において、甲ベルト6、26は、紐8、18、28を保持する左右両方の紐通し6c、26cを有している。左右両方の紐通し6c、26cは、甲ベルト6、26が有する2本の切り込みによって構成されている。このように構成される紐通しにおいて、2本の切り込みの長さは、挿入される紐の幅の1.5倍以上に構成してもよい(図3参照)。靴を装着している装着者が紐を上方向に引っ張る場合、紐は、紐通しを構成する2本の切り込みの後端部に位置した状態で上方向に引っ張られる。また、靴の装着者の前方から靴の脱ぎ履きの介助を行う介助者が紐を前方向に引っ張る場合、紐は、紐通しを構成する2本の切り込みの前端部に位置した状態で前方向に引っ張られる。
【0078】
紐通しは、2本の切り込みの長さを紐よりも長く構成することで、前記紐を前記甲ベルトから離れる方向に引っ張る際における前記紐通し内での前記紐の移動可能量が増大する。よって、前記紐は、引っ張られる方向に応じて前記紐通し内での位置が変化する。つまり、紐は、紐通し内において靴の装着者または介助者がより引っ張り易い位置に移動される。これにより、前記甲ベルトに連結されている前記紐を片手の指で前記甲ベルトから離間する方向に引っ張るだけで、前記甲ベルトの可動面ファスナーと前記アッパーの固定面ファスナーとの接合を容易に解除することができる。
【0079】
また、上述の実施形態において、甲ベルト6、26の左右両方の紐通し6c、26cは、長さが略等しい2本の切り込みによって構成されている。しかしながら、紐通しを構成する2本の切り込みは、甲ベルトの左右方向の中央に近い一方の切り込みが他方の切り込みよりも長くなるように構成されてもよい。
【0080】
図12は、靴1の紐通し6cの切り込み長さと紐8の移動範囲を示す模式図である。図12に示すように、例えば、上述の実施形態における紐通し6cを構成する2本の切り込み6ca、6cbは、甲ベルト6の左右方向の中央に近い一方の切り込み6caが他方の切り込み6cbよりも長い。2つの紐通し6cの間に位置する指かけ部8aが引っ張られた紐8は、甲ベルト6の左右方向の中央に近い一方の切り込み6caにおいて指かけ部8aの移動方向に移動する。
【0081】
紐通し6cを構成している2本に切り込み6ca、6cbのうち紐8の移動量が大きい左右方向の中央に近い前記一方の切り込み6caの長さを他方の切り込み6cbの長さよりも長く構成することで、紐8を甲ベルト6のから離れる方向に引っ張る際に紐8の引っ張り方向の自由度が高くなる。これにより、甲ベルト6に連結されている紐8を片手の指で甲ベルト6から離れる方向に引っ張るだけで、甲ベルト6の左右両方の可動面ファスナー7a、7bと左右両方の固定面ファスナー5a、5bとの接合を容易に解除することができる。
【0082】
また、上述の実施形態において、甲ベルト6、26の左右両方の紐通し6c、26cは、2本の切り込みによって構成されている。しかしながら、紐通しを構成する2本の切り込みは、それぞれの両端部に連結されている貫通孔を有していてもよい。つまり、前記切り込みが有する一方の端面と他方の端面とは、両端部において前記貫通孔が有する湾曲した内周面によって連結されている。
【0083】
図13は、靴1の紐通し6cの切り込み6ca、6cbの端部形状を示す模式図である。図13に示すように、例えば、上述の実施形態における紐通し6cを構成する2本の切り込み6ca、6cbは、それぞれの両端部に連結されている貫通孔6ccを有している。紐通し6cは、紐8が甲ベルト6から離れる方向に引っ張られた際、紐8によって甲ベルト6から離れる方向に引っ張られる。この際、紐通し6cを構成している切り込み6ca、6cbの両端部に発生する応力は、貫通孔6ccの内周面に分散して発生する。よって、紐通し6cは、紐8が引っ張られた際に切り込み6ca、6cbがそれぞれ有する一方の端面と他方の端面との連結部分における応力集中による破損及び変形を抑制することができる。
【0084】
また、上述の実施形態及び各変形例において、ソール2は、アウトソール2aと、ミッドソール2bとを有する。ソール2は、アウトソール2aとミッドソール2bとが上下方向に積層され、接着剤等によって接着された単一の部材として構成されている。しかしながら、ソールは、アウトソール、ミッドソールに加えてインソールを有していてもよい。インソールは、ミッドソールの上方に位置する。インソールは、アッパーの内部空間に配置される。靴は、インソールによって装着者の足に対する装着性を向上させる。
【0085】
また、上述の第1変形例において、紐18の一方の端部が接触している左方の接合部6aにおける左方の端面Zaは、左方の接合面Xaに垂直な方向に見て、左方の接合面Xaの左方の外縁に位置する。また、紐18の他方の端部が接触している右方の接合部6bにおける右方の端面Zbは、右方の接合面Xbに垂直な方向に見て、右方の接合面Xbの右方の外縁に位置する。しかしながら、紐の一方の端部が接触している左方の接合部における左方の端面は、左方の接合面に垂直な方向に見て、前記左方の接合面と重ならない位置であって前記左方の接合面よりも左方に位置していればよい。また、前記紐の他方の端部が接触している右方の接合部における右方の端面は、右方の接合面に垂直な方向に見て、前記右方の接合面と重ならない位置であって前記右方の接合面よりも右方に位置していればよい。
【0086】
また、上述の第2変形例において、紐28の両端部は、左右両方の接合部26a、26bに設けられた左右両方の突出部29a、29bの表面における左右両方の連結位置Ya、Ybに連結されている。しかしながら、紐は、左右両方の接合部に設けられた左右両方の突出部の裏面における左右両方の連結位置に連結されていてもよい。前記左方の突出部の左方の連結位置に連結された前記紐の一方の端部は、前記左方の突出部の表面から前記左方の突出部の左方の端部を介して裏面に折り返されている。前記紐の一方の端部は、前記左方の突出部における左方の端面に接触している。前記右方の突出部右方の連結位置に連結された前記紐の他方の端部は、前記右方の突出部の表面から前記右方の突出部の右方の端部を介して裏面に折り返されている。前記紐の他方の端部は、前記右方の突出部における右方の端面に接触している。
【0087】
前記紐が甲ベルトから離れる方向に引っ張られた場合、左右両方の接合面に向かう引っ張り力が左右両方の前記突出部の外側の端面に作用する。前記紐から左右両方の可動面ファスナーに伝達される力は、左右両方の前記可動面ファスナーを左右両方の前記固定面ファスナーの端部からそれぞれめくるように引き離す力として前記左右両方の可動面ファスナーに作用する。つまり、前記紐から左右両方の可動面ファスナーに伝達された力は、左右両方の固定面ファスナーに対して略垂直な方向に可動面ファスナーを引き離す力に変換されて左右両方の接合面の端部に作用する。
【0088】
また、上述の第2変形例において、左右両方の突出部29a、29bは、左右両方の接合部26a、26bの端部から紐28の延伸方向に突出している。しかしながら、突出部は、左右両方の接合部の端部に連結されている構成でもよい。例えば、突出部は、紐の端部が連結された部材が接合部の端部に取り付けられる構成でもよい。
【0089】
上述の実施形態及び各変形例において、左右両方の可動面ファスナー7a、7bは、甲ベルト6の対応する左右両方の接合部6a、6bと略同一形状の左右両方の接合面Xa、Xbを有する。また、左右両方の可動面ファスナー7a、7bは、左右両方の固定面ファスナー5a、5bよりも大きい。よって、左右両方の可動面ファスナー7a、7bの少なくとも一部は、左右両方の固定面ファスナー5a、5bと重なる。しかしながら、左右両方の可動面ファスナーは、左右両方の固定面ファスナーよりも小さくてもよい。左右両方の前記固定面ファスナーの少なくとも一部は、左右両方の可動面ファスナーと重なる。
【0090】
上述の実施形態において、甲ベルト6は、左右両方の接合部6a、6bを含んでいる。左右両方の接合部6a、6bにそれぞれ固定されている左右両方の可動面ファスナー7a、7bが左右両方の固定面ファスナー5a、5bに結合されている。しかしながら、甲ベルトは、左方または右方のいずれか一つの接合部のみを含んでいてもよい。また、甲ベンドは、左右両方の接合部に加えて他の接合部を含んでいてもよい。左右両方の接合部と他の接合部には、紐が連結されている。
【0091】
上述の実施形態において、甲ベルト6は、左右両方の接合部6a、6bを含んでいる。左右両方の接合部6a、6bにそれぞれ固定されている左右両方の可動面ファスナー7a、7bが左右両方の固定面ファスナー5a、5bに結合されている。しかしながら、甲ベルトは、複数の左右両方の接合部を含んでいてもよい。また、複数の左右両方の接合部は、それぞれ紐が結合されている。
【0092】
上述の各変形例は上述の実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0093】
上述した実施形態と変形例の任意の組合せもまた本発明の実施形態として有用である。組合せによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態及び変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0094】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)ソールと、前記ソール上に固定され、足の少なくとも一部を覆うアッパーと、前記アッパーの踵側である後方に設けられた足を挿入する履き口部と、前記履き口部から前記アッパーの爪先側である前方に向かって延びる開口部と、前記アッパーにおける前記開口部の前方に端部が固定され、前記開口部の前後方向に対する左右両方にそれぞれ延びる接合部を含み、前記開口部を覆う甲ベルトと、前記アッパーの外表面における前記開口部の左右両方にそれぞれ固定される固定面ファスナーと、前記甲ベルトの左右両方の接合部にそれぞれ固定され、前記固定面ファスナーにそれぞれ着脱可能に接合される可動面ファスナーと、を有する靴である。前記靴は、前記甲ベルトの前方に位置し、一方の端部が前記甲ベルトの左方の接合部に連結され、他方の端部が前記甲ベルトの右方の接合部に連結される紐を有する。前記紐の両端部は、前記紐を前記甲ベルトから離れる方向に引っ張った際、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面と重ならない位置または前記接合面の外縁に、前記接合面に向かう引っ張り力が作用するように前記甲ベルトに連結される。
【0095】
(2)ソールと、前記ソール上に固定され、足の少なくとも一部を覆うアッパーと、前記アッパーの踵側である後方に設けられた足を挿入する履き口部と、前記履き口から前記アッパーの爪先側である前方に向かって延びる開口部と、前記アッパーにおける前記開口部の前方に端部が固定され、前記開口部の前後方向に対する左右両方にそれぞれ延びる接合部を含み、前記開口部を覆う甲ベルトと、前記アッパーの外表面における前記開口部の左右両方にそれぞれ固定される固定面ファスナーと、前記甲ベルトの左右両方の接合部にそれぞれ固定され、前記固定面ファスナーにそれぞれ着脱可能に接合される可動面ファスナーと、を有する靴である。前記靴は、前記甲ベルトの前方に位置し、一方の端部が前記甲ベルトの左方の接合部に連結され、他方の端部が前記甲ベルトの右方の接合部に連結される紐を有する。前記甲ベルトの左方の接合部に連結された前記紐の端部は、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置であって前記接合面よりも左方に連結される。前記甲ベルトの右方の接合部に連結された前記紐の端部は、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置であって前記接合面よりも右方に連結される。
【0096】
(3)ソールと、前記ソール上に固定され、足の少なくとも一部を覆うアッパーと、前記アッパーの踵側である後方に設けられた足を挿入する履き口部と、前記履き口から前記アッパーの爪先側である前方に向かって延びる開口部と、前記アッパーにおける前記開口部の前方に端部が固定され、前記開口部の前後方向に対する左右両方にそれぞれ延びる接合部を含み、前記開口部を覆う甲ベルトと、前記アッパーの外表面における前記開口部の左右両方にそれぞれ固定される固定面ファスナーと、前記甲ベルトの左右両方の接合部にそれぞれ固定され、前記固定面ファスナーにそれぞれ着脱可能に接合される可動面ファスナーと、を有する靴である。前記靴は、前記甲ベルトの前方に位置し、一方の端部が前記甲ベルトの左方の接合部に連結され、他方の端部が前記甲ベルトの右方の接合部に連結される紐を有する。前記甲ベルトの左方の接合部に連結された前記紐は、前記固定面ファスナーと前記可動面ファスナーとが互いに接合する接合面に垂直な方向に見て、前記甲ベルトにおける前記接合面と重ならない位置または前記接合面の外縁であって前記接合面の左方に位置する前記甲ベルトの端面に接触する。
【0097】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載の靴において、前記紐の両端部は、左右両方の前記接合部の端面にそれぞれ接触した状態で前記接合部の裏面に折り返され、前記接合部の裏面にそれぞれ連結される。
(5)上記(1)から(3)のいずれかに記載の靴において、左右両方の前記接合部には、前記紐の延伸方向に突出している突出部がそれぞれ設けられる。前記紐の両端部は、左右両方の前記突出部にそれぞれ連結される。
(6)上記(1)から(3)のいずれかに記載の靴において、前記甲ベルトは、前記紐の延伸方向に交わる方向に延びる2本の切り込みから構成される紐通しを少なくとも2つ有する。前記紐は、前記紐通しを通っている。
(7)上記(6)に記載の靴において、前記切り込みの長さは、前記紐の幅の1.5倍以上に構成される。
(8)上記(6)に記載の靴において、前記紐通しは、前記2本の切り込みのうち前記甲ベルトの左右方向の中央に近い一方の切り込みが他方の切り込みよりも長い。
(9)上記(6)に記載の靴において、前記紐通しは、前記2本の切り込みの両端部に連結されている貫通孔を有する。
(10)上記(6)に記載の靴において、前記紐は、少なくとも2つの前記紐通しの間に前記甲ベルトから離れる方向に湾曲した指かけ部を有する。
(11)上記(1)から(3)のいずれかに記載の靴において、前記甲ベルトは、前記アッパーにおける前記開口部の前方に固定された部分を支点として前方に回転可能に構成される。
(12)上記(11)に記載の靴において、前記アッパーの内側において前記開口部を塞ぎつつ、足の甲を覆う舌片を有する。前記舌片は、前記甲ベルトと連結されるとともに、前記アッパーまたは前記ソールと弾性部材によって連結される。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、面ファスナーを有する靴に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
1、11、21 靴
1F 前足部
1M 中足部
1R 後足部
2 ソール
2a アウターソール
2b ミッドソール
3 アッパー
3a 履き口部
3b 開口部
4 舌片
4a 連結部材
5a 左方の固定面ファスナー
5b 右方の固定面ファスナー
6、26 甲ベルト
6a、26a 左方の接合部
6b、26b 右方の接合部
6c、26c 紐通し
7a 左方の可動面ファスナー
7b 右方の可動面ファスナー
8、18、28 紐
29a 左方の突出部
29b 右方の突出部
Xa 左方の接合面
Xb 右方の接合面
Ya 左方の連結位置
Yb 右方の連結位置
Za 左方の端面
Zb 右方の端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13