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特開2024-79226透明スチレン系樹脂シート、当該透明スチレン系樹脂シートの二次成形体及びそれに使用するスチレン系樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079226
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】透明スチレン系樹脂シート、当該透明スチレン系樹脂シートの二次成形体及びそれに使用するスチレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240604BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20240604BHJP
   C08F 12/08 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C08J5/18 CET
C08L25/04
C08F12/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192047
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】小林 松太郎
(72)【発明者】
【氏名】東 直樹
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA22X
4F071AA77X
4F071AA81X
4F071AA85X
4F071AA88X
4F071AC05
4F071AE04
4F071AF20
4F071AF23
4F071AF30
4F071AF61
4F071AH04
4F071AH05
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC14
4J002BC041
4J002BC071
4J002BN142
4J002FD070
4J002FD200
4J002FD320
4J002GF00
4J002GG01
4J002GG02
4J002GL00
4J002GQ00
4J100AB02P
4J100AJ02Q
4J100AJ02R
4J100AL03Q
4J100AL03R
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA23
4J100DA42
4J100DA43
4J100JA43
4J100JA58
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】本開示が解決する課題は、外観、耐熱性、機械強度及び耐熱油性に優れた成形体に使用される、透明スチレン系樹脂シート及びその二次成形体である容器を提供することである。
【解決手段】本開示は、平均厚み(d)0.05~0.80mmのスチレン系樹脂を含有する透明スチレン系樹脂シートであって、
活性エネルギー線を照射して検出される長径100μm以上1000μm以下のゲル状物が、1.2×10-4の体積当たり200個以下含む、透明スチレン系樹脂シートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均厚み(d)0.05~0.80mmのスチレン系樹脂を含有する透明スチレン系樹脂シートであって、
活性エネルギー線を照射して検出される長径100μm以上1000μm以下のゲル状物が、1.2×10-4の体積当たり200個以下含む、透明スチレン系樹脂シート。
【請求項2】
前記1.2×10-4の体積当たり200個以下存在するゲル状物の箇所における各厚み(di)の個数平均値dと、前記平均厚み(d)と、前記ゲル状物が存在しないm個の箇所における平均厚み(dm2)とが、以下の式を満たす、請求項1に記載の透明スチレン系樹脂シート。
(d-dm2)/d ≦ 1.8
【請求項3】
前記活性エネルギー線は、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線、及びγ線からなる群より選択される一種以上の光を有する、請求項1又は2に記載の透明スチレン系樹脂シート。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の透明スチレン系樹脂シートを成形した成形体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の透明スチレン系樹脂シートに用いられるスチレン系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、透明スチレン系樹脂シート、当該透明スチレン系樹脂シートの二次成形体及びそれに使用するスチレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
市販の弁当、丼、惣菜、冷凍食品等の食品包装用容器に使用される合成樹脂シートは、内容物が視認可能な透過性、外観、耐熱性、耐油性、耐衝撃性等の機能が要求される。そして、当該合成樹脂シートの材料としては、ポリプロピレン系樹脂などのオレフィン系樹脂シート又はフィルム、あるいはポリスチレン又はスチレン-メタクリル酸共重合樹脂等に代表される透明スチレン系樹脂シート又はフィルムが使用されている。なかでもスチレン系樹脂は、耐熱性、透明性、剛性、外観に優れ、且つ安価なことから、食品包装用材料に限らず、住宅の断熱材用の発泡ボード、拡散剤を入れた液晶テレビの拡散板等に広く用いられている。一方、特に食品用包装材料では、コスト、強度の観点からポリプロピレン系樹脂などのオレフィン系樹脂の採用が進んでいる。
【0003】
しかし、ポリプロピレン系樹脂は0℃以下の低温域において耐衝撃性の急激な低下が生じやすいため、チルド又は冷凍向けの食品用包装材料としての特性を充足しかねる。また、ポリプロピレン系樹脂の伸長粘度が低いことため、真空成形等で幅広の深絞り形状を成形した場合、穴開き又は厚みむらが発生し易いという課題がある。
特に近年のコンビニエンスストアー等の業務用に使用する高出力電子レンジの普及により、高出力電子レンジでの調理時の温度にも耐えられる容器及びその容器を密封又は覆う蓋材の材料が求められている。例えば、特許文献1には、成形加工特性の改善効果に優れ、衝撃強度と剛性とのバランス改良効果にも適度に優れるエチレン・α-オレフィン共重合体及びこれを含有するポリオレフィン系樹脂組成物に関する技術が記載されている。また、特許文献2にはスチレン-メタクリル酸共重合体と耐衝撃性ポリスチレンとメチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(以下、MBS樹脂とも称する。)との混合物により、実用的な耐熱性を保ったまま、靭性を向上する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-95566号公報
【特許文献2】特開2018-44086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術では、高出力電子レンジでの調理における、低温域において耐衝撃性の急激な低下及び穴開き又は厚みむらが改善されていない。また、特許文献2の技術では、高出力電子レンジで加熱された食品に由来する高温の油によって樹脂が侵され、容器の割れや強度低下の問題が生じる。
特に、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合樹脂を用いたシートにおいて、スチレンに対する(メタ)アクリル酸成分の溶解性が低いことから、当該(メタ)アクリル酸成分同士の凝集等によりゲル化したゲル状物が、シート中に多数形成されやすい。その結果、このようなゲル状物が透明スチレン系樹脂シート中に存在すると、二次成形時にピンホールの原因となるだけでなく、電子レンジでの調理時に生じる急激な温度変化により当該ゲル状物が弾けて飛沫的な穴あきが生じたり、あるいは冷凍時の耐衝撃性の局所的な低下による割れの起点となりやすいことが確認された。
【0006】
そこで、本発明が解決する課題は、外観、耐熱性、機械強度及び耐熱油性に優れた成形体に使用される、透明スチレン系樹脂シート及びその二次成形体、並びにそれに使用するスチレン系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記問題点に鑑みて鋭意研究を進めた結果、所定の平均厚みdを有するスチレン系樹脂を含有する透明スチレン系樹脂シートであって、活性エネルギー線を照射して検出される長径100μm以上1000μm以下のゲル状物が、1.2×10-4の体積当たり200個以下含む、透明スチレン系樹脂シートにより、耐熱性、機械強度、耐熱油性に優れた透明性透明スチレン系樹脂シート及びその透明性透明スチレン系樹脂シートを二次成形してなる容器の実現に成功し、以下の本発明を完成するに至った。
【0008】
[1]本開示は、平均厚みd0.05~0.80mmのスチレン系樹脂を含有する透明スチレン系樹脂シートであって、活性エネルギー線を照射して検出される長径100μm以上1000μm以下のゲル状物が、1.2×10-4の体積当たり200個以下含む、透明スチレン系樹脂シートである。
[2]前記1.2×10-4の体積当たり200個以下存在するゲル状物の箇所における各厚み(d)の個数平均値(d)と、前記平均厚み(d)と、前記ゲル状物が存在しないm個の箇所における平均厚み(dm2)とが、以下の式を満たす、[1]に記載の透明スチレン系樹脂シート。
(d-dm2)/d ≦ 1.8
[3]前記活性エネルギー線は、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線、及びγ線からなる群より選択される一種以上の光を有する、[1]又は[2]に記載の透明スチレン系樹脂シート。
[4]前記活性エネルギー線は、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線、及びγ線からなる群より選択される一種以上の光を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の透明スチレン系樹脂シート。
[5][1]~[4]に記載の透明スチレン系樹脂シートを成形した成形体。
[6][1]~[4]に記載の透明スチレン系樹脂シートに用いられるスチレン系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、外観、耐熱性、機械強度及び耐熱油性に優れた透明スチレン系樹脂シート及び電子レンジ調理可能な容器又は成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[透明スチレン系樹脂シート(以下、単にシートとも称する。)]
本実施形態は、平均厚みd0.05~0.80mmのスチレン系樹脂を含有する透明スチレン系樹脂シートであって、活性エネルギー線を照射して検出される長径100μm以上1000μm以下のゲル状物が、1.2×10-4の体積当たり200個以下含む、透明スチレン系樹脂シートである。
これにより、外観、耐熱性、機械強度及び耐熱油性に優れた透明スチレン系樹脂シート及び電子レンジ調理可能な容器を提供できる。
【0012】
本明細書における「ゲル状物」とは、活性エネルギー線(より具体的には、無地表面品質検査装置(株式会社ニレコ社製Mujiken+)に搭載された蛍光灯又は白色LED)を照射して検出される長径100μm以上1000μm以下の斑点をいい、スチレン系樹脂自体がゲル化したゲル状体、溶融されたスチレン系樹脂の一部が完全に混ざり合わず塊として残留した物又は外部から混入した異物によるものから由来されると推定している。本実施形態の「ゲル状物」の長径は、好ましくは120μm以上900μm以下であり、より好ましくは150μm以上800μm以下である。また、ゲル状物の形状は特に限定されず、モノクロラインセンサカメラで観測される斑点をゲル状物とする。
このような「ゲル状物」が透明スチレン系樹脂シートに多数存在すると、シート中のスチレン系樹脂が混ざり合っていない偏在した組成による機械的強度が不均一なシートとなるため、当該「ゲル状物」がシートの割れや穴あきの起点となりやすく、特に、「ゲル状物」が二次成形時のピンホール又は割れの原因となる傾向を示した。また、電子レンジでの調理時に生じる温度変化等により「ゲル状物」自体が弾けて飛沫的な穴あきを生じさせたり、あるいは冷凍時の耐衝撃性の局所的な低下による割れの起点となりやすいことも確認された。そこで、単位あたりのシート中の「ゲル状物」の個数及び大きさなどを管理することにより、外観、耐熱性、機械強度及び耐熱油性に優れた透明スチレン系樹脂シートを提供できる。
なお、活性エネルギー線を照射して検出される長径は、使用する活性エネルギー線の種類によって異なってくるが、例えば蛍光灯(FL20SS・EX-N/18)を使用する場合、長径100μm以上1000μm以下の斑点を「ゲル状物」として検出する。また、ここでいう長径とは、斑点の最大長さをいい、モノクロラインセンサカメラの画像解析により「ゲル状物」の長径を測定する。
前記モノクロラインセンサカメラの解像度としては、1画素20μmのときに7000画素以上が好ましく、より好ましくは7500画素、さらに好ましくは8000画素である。
【0013】
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートの平均厚み(d)は、0.05~0.80mmの範囲であり、好ましくは0.080~0.60mmの範囲であり、より好ましくは0.10~0.50mmの範囲であり、特に好ましくは0.12~0.40mmの範囲である。透明スチレン系樹脂シートの平均厚み(d)は、使用態様に応じて適宜選択されるものであるが、透明スチレン系樹脂シートの平均厚み(d)が上記範囲であると、長径100μm以上1000μm以下の斑点であるゲル状物の影響を受けて、厚みの変化が生じやすい。
また、本明細書における「透明スチレン系樹脂シートの平均厚み(d)」とは、透明スチレン系樹脂シートから100mm×100mm四方の試験片シートを5枚切り出し、かつ1枚の試験片シートにつき任意の10点における厚みを測定し、5枚の試験片シートにおける合計50点の厚み平均値をいう。
【0014】
本実施形態における活性エネルギー線は、「ゲル状物」の大きさ又は個数の検出に影響を与える要素であるが、例えば、活性エネルギー線としては、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線、及びγ線からなる群より選択される一種以上の光が挙げられ、好ましくは、波長350~800nmの波長域を有する紫外-可視光であることが好ましい。
本明細書では、活性エネルギー線の一例として、波長350~800nmの波長域の白色光を使用している。当該白色光としては、白色蛍光灯又は白色LEDが挙げられる。
また、本実施形態の白色光とは、青色光、緑色光、赤色光といった単色光ではなく、青色光の波長領域(430nm以上500nm未満)に属する波長成分のスペクトルと、緑色光の波長領域(500nm以上600nm未満)に属する波長成分のスペクトルと、赤色光(600nm以上800nm未満)に属する波長成分のスペクトルとを包含するスペクトルを示す光をいう。また、白色光に含まれるこれらの波長成分は、それぞれの波長成分の境界が明確に分離できなくてもよい。
上記白色LEDの構成としては、近紫外~紫色光(350~420nm)を発する発光ダイオード、もしくは青色光(430~480nm)を発する発光ダイオードのうち何れか1種と、前記発光ダイオードからの一次光を吸収して、二次光を発する蛍光体とを組合せた、主として2つのタイプが代表的なものである。2種類の白色LEDのうち、近紫外乃至紫色光(350~420nm)に属する波長成分の光を発光する発光ダイオード(以下、紫外乃至紫色LEDと呼ぶ)を用いるものは、蛍光体として、青色、緑色~黄色、及び赤色の3乃至4色の蛍光体を用いることで白色光を得ている。一方、青色光(430~480nm)の発光ダイオード(以下、青色LEDと呼ぶ)を用いるものは、蛍光体として、緑色乃至黄色と赤色との2乃至3色の蛍光体、または主に黄色の蛍光体を用いることにより白色光を得ている。
【0015】
本明細書において、「白色」には、蛍光灯の色の分類に用いられる「電球色」、「温白色」、「白色」、「昼白色」、「昼光色」のいずれの色も含まれるものとする。また、蛍光灯の色温度は、2300K~6800Kであることが好ましい。各種電球の色温度としては、例えば、白熱電球:2500K、電球色蛍光灯(L色):2800~3000K、温白色蛍光灯(WW色):3500K、白色蛍光灯(W色):4000K、昼白色蛍光灯(N色):5000K又は昼光色蛍光灯(D色):6500~6700Kでありうる。
【0016】
本実施形態の活性エネルギー線の光源は、例えば、蛍光灯、紫外~可視光線ランプ、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマレーザー、白色蛍光灯、白色LED光源、波長範囲380~440nmを発光するLED光源、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯又はメタルハライドランプが挙げられる。
中でも、蛍光灯、波長範囲380~440nmを発光するLED光源が好ましい。
当該蛍光灯としては、特に制限されることは無いが、パナソニック(Panasonic) FL20SS パルック蛍光灯 3波長形シリーズを使用している。具体的には、FL20SS・EX-N/18F2、FL20SS・EX-D/18F2、FL20SS・ECW/18XF2、FL20SS・EX-L/18、FL20SS.EL/18HF、FL20SS.EL/18X、FL20SS・ELW/18(ウォーム色)、FL20SS・ENW/18(ナチュラル色)、FL20SS.ENW/18X(ナチュラル色)、FL20SS・ECW/18(クール色)、FL20SSECW18XF、FL20SS.ECW/18X(クール色)又はFL20SS.ECW/18XFなどが挙げられる。
【0017】
本明細書において、白色光の光源として蛍光灯を使用しているが、本発明の範囲はこれに限定されることはない。例えば、「ゲル状物」の大きさ又は個数の検出として、LED光源を使用してもよい。
【0018】
本実施形態におけるゲル状物の検出方法としては、株式会社ニレコ社製Mujiken+を用いてモノクロラインセンサに得られた画像を解析することで検出する。
当該株式会社ニレコ社製Mujiken+は、無地表面品質検査装置と称され、透明フィルム等の透明固体の内面及び表面に存在する異物又は欠陥を検出する方法として、自然光又は所定の光(活性エネルギー線、白色光)をこれらの透明固体に照射し、その透過光又は反射光(主として透過光)を、一次元イメージセンサ又は二次元イメージセンサ等の受光装置で受光し、検出された光のその強度むらに基づいて検出を行う方法を採用した装置である。例えば、特開2008-008787号の技術に記載した無地検査機であり、当該文献の内容を本明細書では援用できる。
【0019】
具体的には、本実施形態の平均厚み(d)0.05~0.80mmのスチレン系樹脂を含有する透明スチレン系樹脂シートの表面及び内部に存在する異物又は欠陥であるゲル状物を検出する無地検査装置は、活性エネルギー線(例えば、白色光)の面光源からの光が第1偏光板を通過して偏光となった光が、前記透明スチレン系樹脂シートの一方の表面側から照射すると、前記透明スチレン系樹脂シート及び前記透明スチレン系樹脂シートに含まれるゲル状物の複屈折に応じて楕円偏光を生じる。そして前記透明スチレン系樹脂シートを透過した楕円偏光が第2偏光板をさらに通過させることで、前記透明スチレン系樹脂シート中の正常部と前記透明スチレン系樹脂シートに含まれるゲル状物との複屈折の違いにより前記第2偏光板を通った光の強度むら又は色むらが生じる。この光の強度むら又は色むらに基づいて、前記ゲル状物を検出することができる装置でありうる。
なお、無地検査装置に搭載された面光源から放出される平行光束は、第1偏光板を透過した後、被検査体である透明スチレン系樹脂シートを照明する。そして、透明スチレン系樹脂シートを透過した光は、第2偏光板を透過する。受光装置である2次元CCDカメラは、透明スチレン系樹脂シートの表面の像を、第2偏光板を通して撮像できる。さらに、2次元CCDカメラに撮像された画像は、パーソナルコンピュータに取り込まれ、所定の画像処理により、画像中の特異部(例えば、ゲル状物)を検出する。前記画像中の特異部とは、画像の明るさが他の部分に対して所定の閾値以上明るい領域、あるいは暗い領域である、または閾値以上に色変化がある部分でありうる。このような特異部(例えば、ゲル状物)の検出は、公知の画像処理技術を使用して行ってもよい。検出された特異部(例えば、ゲル状物)は、管理用モニタに表示できる。管理用モニタには、例えば、特異部の位置、特異部の種類、特異部の大きさ等が表示される。
【0020】
したがって、本開示は、平均厚み(d)0.05~0.80mmのスチレン系樹脂を含有する透明スチレン系樹脂シートであって、活性エネルギー線(例えば、白色光)の面光源からの光を第1の偏光板を通して、前記透明スチレン系樹脂シートの一方の表面側から照射し、前記透明スチレン系樹脂シートを透過した光を、第2の偏光板を通し、前記第2の偏光板を通った光の強度むら又は色むらに基づいて算出した長径100μm以上1000μm以下のゲル状物1.2×10-4の体積当たり200個以下含む、透明スチレン系樹脂シートである。
これにより、優れた外観、耐熱性、機械強度及び耐熱油性を発揮できる。また、透明スチレン系樹脂シートの表面及び内部に長径100μm以上1000μm以下のゲル状物が存在すると、透明スチレン系樹脂シートにおけるその部分及びその周囲の部分に光学異方性が発生する場合がある。この光学異方性が発生する部分の大きさは、ゲル状物の大きさの20~100倍に達するので、異物や欠陥を直接検出するよりも、検出が容易である。
【0021】
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートにおいて、ゲル状物の存在箇所における各厚み(d)の個数平均値(d)と、平均厚み(d)と、ゲル状物が存在しない箇所における平均厚み(dm2)とが、以下の式を満たすことが好ましい。
(d-dm2)/d ≦ 1.8
ゲル状物の存在箇所における各厚み(di)の個数平均値(d)とは、例えば、厚さ0.12mm、縦横1mのシートにm個のゲル状物が存在する場合、m個のうちある1つのゲル状物をシートの両表面に投影した間の長さ(=ゲル状物を挟んだ厚み)を測定した後、同様に残り(m-1)個すべてのゲル状物をシートの両表面に投影した間の長さ(=厚み)を測定した合計値をm個で割った値をいう。
ゲル状物が存在しない箇所における平均厚み(dm2)とは、ゲル状物が存在しない箇所であり、かつ上記ゲル状物の存在数と同数のm箇所において、ゲル状物が存在しない箇所におけるシートの両表面の長さ(=ゲル状物が存在しない箇所における各厚み(di2))を測定した合計値をm個で割った値をいう。
上記式を満たすことで、強度と耐油性に優れた透明スチレン系樹脂シートを得ることができる。
シート中のゲル状物の存在により、i個目のゲル状物の存在箇所におけるシート厚み(d)は、ゲル状物が存在しない箇所における厚み(dm2)より厚くなり、特にシートの厚み方向におけるゲル状物の存在場所が、シート表面に近い、あるいはゲル状物が大きいほど、急激な温度変化により当該ゲル状物が弾けて飛沫的な穴あきが生じたり、あるいは冷凍時の耐衝撃性の局所的な低下による割れの起点となりやすい傾向を示す。
上記式の左辺「(d-dm2)/d」の値(すなわち右辺の計算結果)は、1.8未満でもよく、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9,0.8、0.7、0.6、0.5、0.4及び0.3の順に好ましい。前記式の左辺の値(すなわち右辺の計算結果)が0.5以下のシートである場合、特にゲル状物がシートの耐油性や強度に悪影響を及ぼさない。
【0022】
(透明スチレン系樹脂シートの物性)
<全光線透過率>
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートの全光線透過率(単位:%)は、好ましくは78%以上であり、より好ましくは82%以上、さらに好ましくは84%以上、より更に好ましくは86%以上であり、最も好ましくは88%である。当該全光線透過率が78%以上であることにより、優れた透明性を有するシート及び成形品を得ることができる。
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートの全光線透過率は、後述の実施例の欄に記載の方法によって得られたシートを用い、JIS K7105に準拠して測定した
【0023】
<ヘイズ(曇価)>
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートのヘイズ(曇価)(単位:%)は、7%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下、より更に好ましくは4%以下である。なお、本実施形態の透明スチレン系樹脂シートのヘイズ(曇価)は、後述の実施例の欄に記載の方法によって得られたシートを用い、JIS-K7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に従って測定した。
【0024】
<ヤング率>
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートは、長手方向のヤング率EMDが3.0~5.0GPaであることが好ましい。長手方向のヤング率EMDが5.0GPa未満であると、シートのロール巻き取りし易さの観点で好ましい。また、長手方向のヤング率EMDが3.0GPa超であると、成形品の剛性の観点で好ましい。本実施形態の透明スチレン系樹脂シートのEMDの値を上記範囲とするためには、シートの原料組成を後述する範囲とし、また、延伸条件を後述する範囲として得ることが好ましい。
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートは、幅方向のヤング率ETDが3.0~5.0GPaであることが好ましい。幅方向のヤング率ETDが3.0GPa未満であると、5.0GPa未満であると、シートのロール巻き取りし易さの観点で好ましい。また、幅方向のヤング率ETDが3.0GPa超であると、成形品の剛性の観点で好ましい。本実施形態の透明スチレン系樹脂シートのETDの値を上記範囲とするためには、シートの原料組成を後述する範囲とし、また、延伸条件を後述する範囲として得ることが好ましい。
なお、本明細書においては、シートを製造する方向に平行な方向を、長手方向あるいはMD方向と称し、シート面内で長手方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。
【0025】
<熱収縮率>
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートは、熱収縮率が6%以下であることが好ましい。幅方向の熱収縮率が6%を超えると、容器成形したときに内容物が漏れやすくなるデメリットを奏する。熱収縮率の下限は特に限定されないが、実質的には0.01%程度が下限である。熱収縮率を上記範囲とする方法としては、透明スチレン系樹脂シートの原料組成を後述する範囲とし、また、シート成形条件を後述する範囲とし、特に二軸延伸後の熱固定、弛緩条件を後述する範囲とすることが効果的である。本明細書における熱膨張率とは、以下の式(I)で表される。
熱収縮率(%)={|L-L|/L}×100 (I)
(上記式において、透明スチレン系樹脂シートの幅方向について、幅40mm×長さ120mm(測定方向)の試験片を5本切り出し、両端から10mmの位置及び110mmの位置に標線として印を付けた後、万能投影機で前記標線間の距離を測定した値を試長(L)とする。次いで、5本それぞれの試験片を固定し、110℃に昇温したオイルバスに3分浸漬後、室温(23~27℃)で15分冷却後、万能投影機で前記標線間の距離を測定した値を寸法(L)とする。そして、本実施形態の熱収縮率は5本の平均値とする。)
上記熱収縮率(%)は、LとLとの差の絶対値をLで割った値に100をかけた長さの変化率(%)を表す。
【0026】
<面衝撃強度>
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートの面衝撃強度(kg・cm)は、4~15(kg・cm)であることが好ましく、5~10(kg・cm)であることがより好ましい。
当該面衝撃強度(kg・cm)の測定方法は、後述の実施例の欄に記載した方法を採用している。
【0027】
(透明スチレン系樹脂シートの組成)
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートは、スチレン系樹脂を主成分として含有するシートである。ここで、本明細書において「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。また、「主成分」の上限は、100質量%以下であることが好ましく、99質量%以下であることがより好ましい。
以下、本開示の透明スチレン系樹脂シートの原料成分について詳説するが、必ずしもこれに限定されるものではない。また、透明スチレン系樹脂シートの原料成分は、スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂組成物であってもよい。当該スチレン系樹脂組成物とは、スチレン系樹脂を必須に含有し、必要に応じて、未溶融分散体と、炭素原子数10以上の1価アルコールと、添加剤とを含有する。
<スチレン系樹脂>
本実施形態におけるスチレン系樹脂は、スチレン系単量体単位(a1)と不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)とを必須成分としてなる共重合樹脂(以下単に樹脂(A)ともいう)であることが好ましい。これによりスチレン系単量体単位(a1)と不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)との共重合体を使用することにより、シート全体の耐熱性向上に寄与する。また、スチレン系樹脂は、必要により、スチレン系単量体単位(a1)及び不飽和カルボン酸系単量単位(a2)の必須成分以外のその他単量体単位(a3)をさらに有してもよい。透明スチレン系樹脂シートの総量(100質量%)に対して、スチレン系樹脂の含有量は50~100質量%であり、好ましくは53~99質量%、より好ましくは58~98質量%、更に好ましくは65~97質量%、より更に好ましくは70~95質量%である。スチレン系樹脂の含有量が50質量%以上にすることで寸法安定性に優れたシートを得ることができる。
【0028】
<<スチレン系単量体(a1)>>
本実施形態のスチレン系樹脂において、前記スチレン系樹脂の総量に対して、スチレン系単量体単位(a1)の含有量は60~98質量%であることが好ましく、より好ましくは70~97質量%、より更に好ましくは80~96質量%、最も好ましくは82~95質量%である。スチレン系単量体単位(a1)の含有量が60質量%より少ないと流動性の低下を招き、98質量%よりも多いと後述の不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)を所望量含有させにくくなり、不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)(特に、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1))による耐熱性の向上効果が十分に得られない。
【0029】
本実施形態において、スチレン系単量体(a1)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、パラメチルスチレン、オルトメチルスチレン、メタメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。特に工業的観点からスチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。スチレン系単量体(a1)としては、これらを単独又は2種以上混合して使用できる。
なお、本明細書における「スチレン系単量体単位(a1)」とは、スチレン系単量体(a1)が重合された高分子を構成する繰返し単位を意味し、スチレン系単量体(a1)の重合反応又は架橋反応により、当該スチレン系単量体(a1)中の炭素-炭素二重結合が単結合(-C-C-)になった繰返し単位(又は構造単位)である。また、本明細書中のその他の単量体単位も同様の意味である。
【0030】
<<不飽和カルボン酸系単量体(a2)>>
本実施形態のスチレン系樹脂において、不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)は、耐熱油性を向上させる役割を果たす。スチレン系樹脂が不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)を含む場合、前記スチレン系樹脂の総量に対して、前記不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)の含有量は2~40質量%が好ましく、さらに好ましくは3~35質量%、より好ましくは5~30質量%、より更に好ましくは8~25質量%、最も好ましくは10~20質量%の範囲である。不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)の含有量が2質量%未満では耐熱性向上の効果が不十分である。また、不飽和カルボン酸単量体単位(a2)の含有量が40質量%を超える場合は、樹脂粘度の増加による加工性の低下、吸水率上昇による成形時の気泡発生、製造時に粘度が高くなりすぎるため好ましくない。特に不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)の含有量を8~25質量%とすることにより、耐熱油性向上効果を効率的に得ることができる。
また、本実施形態における不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)としては、不飽和カルボン酸及びそのエステル体を含み、具体的には、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0031】
-(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)-
本実施形態において、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)は耐油性及び耐熱性向上させる役割を果たす。(メタ)アクリル酸単量体(a2-1)としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられる。特に工業的観点から(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)としては、これらを単独又は2種以上混合して使用してもよい。(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)は、耐熱性向上効果の大きいメタクリル酸が特に好ましい。
本実施形態において、スチレン系樹脂が(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)を含む場合、スチレン系樹脂の総量に対して、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量の範囲は、2~40質量%であることが好ましく、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは4~17質量%、より更に好ましくは8~14質量%である。(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量を2質量%以上とすることで耐熱性の向上効果を得ることができ、当該含有量を40質量%以下にすることで粘度が上昇しすぎることを抑えることができる。
【0032】
-(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)-
本実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)は耐油性と強度を向上させる役割を果たす。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)としては、以下の一般式(1)
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、Rはエステル置換基を表し、具体的には、炭素原子数1~12のアルキル基を表す。)で表されることが好ましい。
本実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)のエステル置換基(上記一般式(1)中のR)の炭素原子数としては、10以下が好ましく、より好ましくは8以下、より更に好ましくは4以下である。10を上回ると耐熱性低下の効果が大きく、好ましくない。
【0033】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル等が挙げられる。これらは単独で又は混合して使用することができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)としては、工業的に入手し易い点から(メタ)アクリル酸メチル又は(メタ)アクリル酸ブチルが好ましく、耐熱性低下を抑えられる点からメタクリル酸メチルが特に好ましい。
本実施形態において、スチレン系樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含む場合、スチレン系樹脂の総量に対して、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量の範囲は、例えば、2~40質量%であることが好ましく、より好ましくは3~32質量%、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは3~17質量%、より更に好ましくは3~12質量%、更により好ましくは4~10質量%である。
【0034】
-その他単量体(a3)-
本実施形態におけるスチレン系樹脂は、上述した、スチレン系単量体単位(a1)及び不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)((メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含む。)以外のその他単量体単位(a3)をさらに有してもよい。
すなわち、本実施形態において、当該その他単量体単位(a3)は、スチレン系単量体単位(a1)、不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)((メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含む。)と共重合可能であれば発明の効果を損なわない範囲で、特に制限されることなく、上記に示した2つの単量体以外の単量体と共重合してよい。
例えば上記に示した3つの単量体以外のその他単量体(a3)としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、マレイミド、及び核置換マレイミド等が挙げられる。
本実施形態において、スチレン系樹脂がその他単量体(a3)を有する場合、前記スチレン系樹脂の総量に対して、その他単量体(a3)の含有量は、0~12質量%が好ましく、0~5質量%がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0035】
<<スチレン系樹脂の好ましい形態>>
本実施形態のスチレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含有する多元重合体であってもよい。すなわち、本実施形態のスチレン系樹脂は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の二元共重合体の他に、スチレン系単量体単位(a1)と(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)とが共重合された三元共重合体であってもよい。これにより、(メタ)アクリル樹脂(B)との相溶性、表面硬度の向上、又は機械強度の向上の効果がさらに得られる。
特に、耐熱性及び表面硬度の向上を重視する場合、スチレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)を含有することが好ましい。また、特に、外観及び機械強度の向上を重視する場合、スチレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含有することが好ましい。さらには、(メタ)アクリル系樹脂(B)との相溶性向上及び当該樹脂(B)との混合物に対して高い透明性を重視する場合、スチレン系樹脂は、スチレン系単量体単位(a1)と(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)とが共重合された三元共重合体であることが好ましい。
また、ポリマー連鎖中で(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)等の不飽和カルボン酸エステル単量体単位が(メタ)アクリル酸単位(a2-1)等の不飽和カルボン酸単量体単位と隣り合わせに配置されると、不飽和カルボン酸同士の架橋反応を抑制するなどの効果が得られる。
本実施形態におけるスチレン系樹脂が、スチレン系単量体単位(a1)、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を有する場合、前記スチレン系樹脂の総量に対して、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は2~30質量%であることが好ましく、かつ(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量は0~20質量%であることが好ましく、より好ましくは、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は2~30質量%であり、かつ(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量は1~20質量%であり、更に好ましくは、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は2~25質量%であり、かつ(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量は1.5~15質量%であり、より更に好ましくは、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は2~20質量%であり、かつ(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量は2~13質量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量を20質量%以下に抑えることで、成形加工時の流動性に優れた組成物を得ることができる。
【0036】
<スチレン系樹脂の特性>
<<MFR>>
本実施形態におけるスチレン系樹脂の200℃でのメルトフローレートは、好ましくは0.2~4.2、より好ましくは0.3~3.1、更に好ましくは0.4~2.5であることができる。上記メルトフローレートが0.2以上である場合、流動性の観点で好ましく、4.2以下である場合、樹脂の機械的強度の観点で好ましい。本開示で、メルトフローレートは、ISO 1133に準拠して、200℃、荷重49Nにて測定される値である。
【0037】
<<分子量>>
本実施形態におけるスチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10万~40万であることが好ましく、更に好ましくは12万~32万である。重量平均分子量が10万~35万である場合、衝撃強度と流動性とのバランスの実用性に優れる樹脂が得られる。
一方、スチレン系樹脂の数平均分子量(Mn)は、4万~15万であることが好ましく、更に好ましくは5万~12万、より更に好ましくは6~11万の範囲である。重量平均分子量及び数平均分子量はゲルパーミエイションクロマトグラフィーによりポリスチレン標準換算で測定できる。
【0038】
<<樹脂組成>>
本実施形態におけるスチレン系樹脂中の、スチレン系単量体単位(a1)、不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)((メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含む。)及びその他単量体単位(a3)の含有量は、熱分解GC/MSを用いて各単量体単位が既知の樹脂により作成した検量線により定量することができる。
【0039】
<<ビカット軟化温度>>
本実施形態におけるスチレン系樹脂のビカット軟化温度は、好ましくは105~140℃、より好ましくは107~135℃、更に好ましくは108~130℃、より更に好ましくは115℃~125℃である。スチレン系樹脂のビカット軟化温度を105℃以上にすることで、組成物の耐熱性向上効果を得ることができ、140℃以下にすることにより(メタ)アクリル系樹脂(B)と混練しやすくなる。本明細書中におけるビカット軟化温度の測定方法はISO 306(5kg荷重、昇温速度50℃/時間)に準拠して測定したものである。
【0040】
<未溶融分散体>
本実施形態において、透明スチレン系樹脂シートはロール状にして保管、運搬されるものであるため、シート巻き取り時のブロッキングを防止するため、シート表面に適度な凹凸を形成するために、0.01~10μm程度の平均粒子径を有する未溶融分散体を添加することが好ましい。未溶融分散体としては、スチレン系架橋粒子、スチレン-ブタジエン系架橋粒子、アクリル系架橋粒子などの有機粒子、酸化ケイ素粒子、タルクなどの無機粒子が挙げられるが、コストと透明スチレン系樹脂シートとの親和性の観点から、スチレン系架橋粒子と酸化ケイ素粒子が好ましく、特に強度の観点からポリブタジエン系ゴムにスチレンを主成分とするポリマーがグラフト重合した粒子から形成されるスチレン-ブタジエン系架橋粒子が好ましい。
【0041】
ポリブタジエンにスチレンがグラフト重合した粒子から形成されるスチレン-ブタジエン系架橋粒子の添加方法としては特に限定されないが、工業的に入手可能で混練し易さの観点から、製品中にスチレン-ブタジエン系架橋粒子を含有するハイインパクトポリスチレン、ABS樹脂、MBS樹脂をシート作成時に、ベース樹脂とともに少量添加することが好ましい。
【0042】
未溶融分散体の含有量は透明スチレン系樹脂シートの総量を100質量%としたときに、上限値としては3.0質量%以下、2.5質量%以下、2.0質量%以下、1.7質量%以下、1.4質量%以下、1.1質量%以下、0.9質量%以下、0.7質量%以下、0.6質量%以下、0.5質量%以下、0.4質量%以下の順で好ましく、下限値としては0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.07質量%以上、0.09質量%以上、0.11質量%以上、0.13質量%以上、0.15質量%以上、0.17質量%以上の順で好ましい。未溶融分散体の含有量を3.0質量%以下とすることで、透明性の低下を抑えることができ、0.01質量%以上とすることで、ブロッキング防止効果を得ることができる。特に0.1~0.9の範囲とすることで、上記透明性とブロッキング防止効果をバランスよく得たスチレン系シートを得ることができる。
【0043】
<炭素原子数10以上の1価アルコール>
本実施形態における炭素原子数10以上の1価アルコール(以下単にアルコールともいう。)は任意成分であり、成形時のスチレン系樹脂のゲル化を抑制し、良好な外観のスチレン系樹脂組成物及びスチレン系樹脂シート又は当該シートから得られる成形体の外観向上に寄与する。炭素原子数10以上の1価アルコールの含有量は、前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0.01~1.0質量%であり、好ましくは0.03~0.8質量%、より好ましくは0.05~0.6質量%、より更に好ましくは0.07~0.5質量%である。炭素原子数10以上の1価アルコールの含有量を0.01質量%以上にすることで、成形加工時におけるスチレン系樹脂のゲル化を抑制することができ、1.0質量%以下にすることで耐熱性低下と臭気の発生を抑えることができる。炭素原子数10以上の1価アルコールの含有量を0.07~0.5質量%にすることで特に耐熱性を低下させることなく、十分なゲル抑制効果を得られる。
【0044】
炭素原子数10以上の1価アルコールとしては、水酸基を1つ含む炭素原子数10以上のアルコール類であり、アルコールを構成する炭素鎖中に酸素又は窒素などのヘテロ原子を含んでもよく、当該炭素鎖中に2重結合、3重結合、エステル結合、アミド結合など、単結合以外の結合を含んでもよい。炭素原子数としては16以上が好ましく、より好ましくは17以上、より更に好ましくは18以上50以下である。上記炭素原子数10以上の1価アルコールは、スチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂シート又は当該シートから得られる成形体に含有されていればよい。したがって、スチレン系樹脂を重合する際に使用する重合溶液中に炭素原子数10以上の1価アルコールを存在(又は添加)させることにより、生成物であるスチレン系樹脂組成物中に1価アルコールを残留させてもよく、あるいはスチレン系樹脂を混錬する際に添加し押出機中で混合させることで含有させてもよい。
【0045】
本実施形態において、炭素原子数10以上の一価アルコールの沸点は、260℃以上が好ましく、更に好ましくは270℃以上、よりさらに好ましくは290℃以上である。アルコール類の沸点が260℃未満であると、揮発性が高くなり、成形時等に異臭が発生する傾向がある。
【0046】
上記炭素原子数10以上の1価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、1-ヘキサデカノール、イソヘキサデカノール、1-オクタデカノール、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-1-オクタノール、イソオクタデカノール、1-イソイソエイコサノール、8-メチル-2-(4-メチルヘキシル)-1-デカノール、2-ヘプチル-1-ウンデカノール、2-ヘプチル-4-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-(5,9-ジメチル)-1-デカノール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類等が挙げられる。
【0047】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル類は以下の一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
(上記一般式(2)中、Rは炭素原子数12~20のアルキル基であり、Xはエチレンオキサイドの平均付加数を表し、1~15の整数である。)
好ましいアルコールの具体的な製品名としては日産化学社製「ファインオキソコール180」や花王社製「エマルゲン109P」等が挙げられる。
【0048】
<添加剤>
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートに用いるスチレン系樹脂組成物又は透明スチレン系樹脂シートには、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤を含有してもよい。当該添加剤としては、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、可塑剤、流動パラフィン、着色防止剤などが挙げられる。
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートに用いるスチレン系樹脂組成物又は透明スチレン系樹脂シートにおいて、添加剤の含有量は、前記スチレン系樹脂組成物又は前記透明スチレン系樹脂シート全体において、0.001~2.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.005~1.5質量%、さらに好ましくは0.01~1.2質量%、よりさらに好ましくは0.03~1.0質量%、最も好ましくは0,05~0.7質量%である。
上記酸化防止剤の種類及び添加量の選定は酸化防止剤のブリードアウトの観点から重要である。すなわち、かかる酸化防止剤としては立体障害性を有するフェノール系のもので、そのうち少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。その具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)又はテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1010:分子量1177.7)またはオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(例えばBASF社製Irganox”(登録商標)1076:分子量531)等を併用することが好ましい。これら酸化防止剤の総含有量は樹脂全量に対して0.03~1.0質量%の範囲が好ましい。酸化防止剤が少なすぎると押出工程でポリマーが劣化してフィルムが着色したり、長期耐熱性に劣る場合がある。酸化防止剤が多すぎるとこれら酸化防止剤のブリードアウトにより透明性が低下する場合がある。より好ましい含有量は0.05~0.9質量%であり、特に好ましくは0.07~0.8質量%である。
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートに用いるスチレン系樹脂組成物としては、スチレン系樹脂を必須に含有し、必要により当該スチレン系樹脂以外の成分を添加する場合、スチレン系樹脂組成物全体に対して、未溶融分散体0.01~3.0質量%、炭素原子数10以上の1価アルコール0.01~1.0質量%及び添加剤0.001~2.0質量%からなる群から選択される1種又は2種以上を配合してもよい。
【0049】
(透明スチレン系樹脂シートの製造方法)
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートは、上述した原料を用い、二軸延伸されることによって得られる。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、シートの高剛性と寸法安定性を制御する点においてステンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0050】
次に本実施形態の透明スチレン系樹脂シートの製造方法を一態様について例を挙げて以下に説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートは非発泡及び発泡のいずれでもよい。透明スチレン系樹脂シートの製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。非発泡シートの製造方法としては、Tダイを取り付けた単軸又は二軸押出成形機で押出し、その後一軸延伸機又は二軸延伸機でシートを引き取る装置を用いる方法等を用いることができ、発泡シートの製造方法としては、Tダイ又はサーキュラーダイを備え付けた押出発泡成形機を用いる方法等を用いることができる。また、例えば、押出機にスチレン系樹脂の原料成分を供給し、T-ダイよりシート状に溶融押出した後、延伸前のシートが所定厚みになるようにキャスティングして、二軸延伸可能な温度(例えば、80~150℃)にシートを冷却し、公知の延伸方法により、流れ方向及び当該流れ方向に対して垂直方向に延伸した後、冷却することにより得られる。透明スチレン系樹脂シートの二軸延伸可能な温度への冷却方法としては、タッチロール、エアーナイフ等による冷却手段が挙げられる。
【0051】
本実施形態の透明スチレン系樹脂シートが非発泡シートである場合、当該非発泡シートは、例えば、厚みが0.05~0.80mm程度であることが剛性及び熱成形サイクルの観点から好ましい。また、非発泡シートは通常の低倍率のロール延伸のみで形成してもよいが、特にロールで1.3倍から7倍程度延伸した後、テンターで1.3倍から7倍程度延伸したシートが強度の面で好ましい。また、ポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂と多層化して用いてもよい。更にスチレン系樹脂以外の樹脂と多層化して用いてもよい。スチレン系樹脂以外の樹脂としては、PET樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。
【0052】
発泡シートを製造する場合、押出発泡時の発泡剤及び発泡核剤としては通常用いられる物質を使用できる。発泡剤としては、ブタン、ペンタン、フロン、二酸化炭素、水等を使用することができ、ブタンが好適である。また、発泡核剤としてはタルク等を使用できる。
【0053】
発泡シートは、厚み0.05~0.80mmであることが好ましく、見かけ密度50g/L~300g/Lであることが好ましく、また、坪量80g/m~300g/mであることが好ましい。発泡シートは、例えば、フィルムを更にラミネートすること等によって多層化してもよい。使用するフィルムの種類は、一般のポリスチレンやポリプロピレンやポリプロピレン/ポリスチレンの張合せフィルム等である。
【0054】
別の実施形態は、上述した非発泡シート又は発泡シートの成形品である。発泡シート又はこれを含む多層体は、例えば、真空成形により成形してトレー等の容器を製造することができる。また、非発泡シートは、例えば、真空成形により成形して弁当の蓋材や惣菜等を入れる容器を製造することができる。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0056】
(1)透明スチレン系樹脂シートの平均厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて測定した。フィルムを10cm四方にサンプリングし、任意に5点測定し、平均値を求めた。
【0057】
(2)透明スチレン系樹脂シートのゲル点における厚み
フィルメトリクス株式会社の「膜厚測定システム」型番F20を用いて測定した。フィルムを10cm四方にサンプリングし、任意に15点測定し、平均値を求めた。
【0058】
(4)ゲル状物の個数と長径の測定
実施例及び比較例に得られた各シートにおけるゲル状物の個数と長径を以下の条件にてモノクロラインセンサカメラからの画像を解析し、測定した。
装置:ニレコ社製 Mujiken+
光源:パナソニック社製 直管3波長域発光形蛍光灯 20W スタータ形 ナチュラル色(昼白色) パルック蛍光灯 FL20SS・EX-N/18
引き取り速度:4m/分
地合光量:256
閾値:20
シート検査面積:2.4m
シート幅:0.10m
シート長さ:30m以上
解像度:8192画素(1画素20μm)
【0059】
(5)透明スチレン系樹脂シートのヘイズ値(%)の測定
本実施例・比較例で得られた透明スチレン系樹脂シートを、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-5000)を用いて、JIS K7136(2000)に準じて23℃でのヘイズ値(%)を3回測定し、平均値を用いた。
【0060】
(6)透明スチレン系樹脂シートの熱収縮率
実施例及び比較例に得られた各透明スチレン系樹脂シートの幅方向について、幅40mm×長さ120mm(測定方向)の試験片を5本切り出し、両端から10mmの及び110mmの位置に標線として印を付けた後、万能投影機で標線間の距離を測定し試長(L)とする。次いで、試験片を固定し、110℃に昇温したオイルバスに3分浸漬後、室温(23~27℃)で15分冷却後、寸法(L)を万能投影機で測定して下記式(1)にて求めたものであり、5本の平均値を熱収縮率とし、以下の基準にて評価した。
熱収縮率={|L-L|/L}×100(%)
評価基準:
〇:熱収縮率が2%未満
△:熱収縮率が2%以上6%未満
×:熱収縮率が6%以上
【0061】
(7)透明スチレン系樹脂シートの耐熱油温度の測定
実施例及び比較例に得られた各シートを用いてシート成形したシートを10cm×1.5cmの短冊に切り出し、直径7.5cmの円筒の周方向に巻き付け、短冊の中央にMCTオイルを1cm径になるように塗布した後、所定の温度に昇温した恒温槽にて15分加熱した際に「割れ、白化」がみられない最大温度を求め、以下の基準にて評価した。
評価基準:
〇:「割れ、白化」がみられない最大温度が80℃以上
△:「割れ、白化」がみられない最大温度が65℃以上80℃未満
×:「割れ、白化」がみられない最大温度が65℃未満
【0062】
(8)透明スチレン系樹脂シートのヤング率の測定
実施例及び比較例に得られた各シートについて、JIS K7127-5規格に準拠し、SHIMADZU社製AGS-X(5kN)を用いて測定した。
【0063】
(9)透明スチレン系樹脂シートの面衝撃強度の測定
実施例及び比較例に得られた各シートを8×8cmに切り出した後、東洋精機製フィルムインパクトテスター(No.195)を用いてによりフィルムインパクトを測定、n8平均を値とした。
【0064】
(10)透明スチレン系樹脂シートの低温強度測定
実施例及び比較例に得られた各シートを6cm×6cmに切り出し、-15℃に設定した恒温槽にて2時間以上冷却したのち、東洋精機社製のデュポン衝撃試験機(No.451)を用いて、速やかに落錘衝撃強度を測定した。撃心突端の半径6.3mm、撃心受台の半径9.4mmとし、落錘衝撃強度は50%破壊の値を、(落下重錘の質量kg)×(高さcm)で求め、以下の基準で評価した。
(評価基準)
〇:落錘衝撃強度が0.5kg・cm以上
△:落錘衝撃強度が0.3kg・cm以上0.5kg・cm未満
×:落錘衝撃強度が0.3kg・cm未満
【0065】
[透明スチレン系樹脂シートの製造例]
以下各透明スチレン系樹脂シートの具体的な製造方法について述べる。
<スチレン系樹脂>
以下の表1に記載の性状を有するスチレン系樹脂を用いた。
【0066】
【表1】
【0067】
<ハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)>
本実施例に用いたハイインパクトポリスチレン(単にHIPS樹脂ともいう)は以下の性状の材料を用いた。
スチレン-ブタジエン系架橋粒子の含有量:25質量%
スチレン-ブタジエン系架橋粒子の平均粒子径:1.1μm
メルトマスフローレート:2.4g/10分
ビカット軟化温度:93.5℃
ポリブタジエン含有量:8.9質量%
【0068】
<炭素原子数10以上の1価アルコール>
後述の具体的な実施例において、炭素原子数10以上の1価アルコールは以下のものを用いた。
アルコール〔A〕:日産化学社製「ファインオキソコール180」(5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-1-オクタノール)
アルコール〔B〕:花王株式会社製「エマルゲン109P」
【0069】
[実施例1]
前記表1記載のPS樹脂1を最大シリンダ温度240℃、減圧、窒素雰囲気に制御した単軸押出機にて溶融させると同時に、サイドフィードから炭素原子数10以上の1価アルコールとして、アルコール〔A〕を前記PS樹脂1の総量100質量部に対し、0.2質量部添加した。目開き150μmのメッシュを通し、Tダイから押出し、得られたシートを直ちに巻き取り速度の制御が可能なロールを用いて縦方向に3.5倍延伸し、次いでテンターを用いて150℃雰囲気中で横方向に3.6倍延伸して、厚さ0.08mmの透明スチレン系樹脂シートを得た。得られた透明スチレン系樹脂シート中に含まれる前記アルコール〔A〕の残存量はガスクロマトグラフィーにより、0.15質量%と定量された。得られた透明スチレン系樹脂シートの性状を下記の表2に示す。
【0070】
[実施例2~5]
下記の表2に示す平均厚みになるように、延伸倍率を1.5~3.5倍の範囲で制御し、各透明スチレン系樹脂シートを実施例1と同様に得た。
【0071】
[実施例6]
樹脂溶融後にメッシュを通さなかったこと以外は、実施例1~5と同様にして下記の表2に示す性状の透明スチレン系樹脂シートを得た。
【0072】
[実施例7]
前記表1に記載のPS樹脂1を100質量部とHIPS樹脂1.5質量部をドライブレンドして均一化したものを使用樹脂として用いて単軸押出機に供給、溶融混練し、実施例1~6と同様の手順にて下記の表2に示す性状の透明スチレン系樹脂シートを得た。
【0073】
[実施例8]
前記表1に記載のPS樹脂3を100質量部とHIPS樹脂1.5質量部をドライブレンドして均一化したものを使用樹脂として用いて単軸押出機に供給、溶融混練し、実施例1~7と同様の手順にて下記の表2に示す性状の透明スチレン系樹脂シートを得た。
【0074】
[実施例9]
前記表1に記載のPS樹脂3を100質量部とHIPS樹脂1.5質量部をドライブレンドして均一化したものを使用樹脂として用いて単軸押出機に供給、溶融混練し、炭
素原子数10以上の1価アルコールとして、アルコール〔B〕を用いて実施例1~7と同様の手順にて下記の表2に示す性状の透明スチレン系樹脂シートを得た。
【0075】
【表2】
【0076】
上記表2の実験結果から、実施例1~9の透明スチレン系樹脂シートはいずれもゲル状物の個数が200個以下であるため、比較例に比べて良好な外観を示した。また、表1の実験結果から、実施例1~9の透明スチレン系樹脂シートは、比較例のシートと比べて、耐熱性、機械強度及び耐熱油性に優れた成形体に使用される、透明スチレン系樹脂シートが得られた。