(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079240
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】人工皮膚、人工皮膚の製造方法、および人工皮膚用塗工液セット
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20240604BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240604BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20240604BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240604BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20240604BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240604BHJP
D06N 7/00 20060101ALI20240604BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240604BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61L27/18
C09D175/04
C09D133/00
A61L27/16
A61L27/60
A61L27/40
D06N7/00
B32B27/30 A
B32B27/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192075
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】399020212
【氏名又は名称】東山フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100173598
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 桜子
(72)【発明者】
【氏名】片岡 健
【テーマコード(参考)】
4C081
4F055
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA12
4C081AB19
4C081CA081
4C081CA211
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4J038MA15
4J038PB01
(57)【要約】
【課題】べたつきが少なく外部からの応力に対する強靭性が高い人工皮膚を実現する。
【解決手段】人工皮膚1は、シリコーンの含有量が、弾性層の固形分全量に対し20質量%以下である弾性材料からなる弾性層10と、アクリル系樹脂からなり、弾性層10上に積層された表皮層20と、表皮層20における弾性層10とは反対側の面に付着した球状粒子30とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンの含有量が、弾性層の固形分全量に対し20質量%以下である弾性材料からなる弾性層と、
アクリル系樹脂からなり、前記弾性層上に積層された表皮層と、
前記表皮層における前記弾性層とは反対側の面に付着した球状粒子と
を備える人工皮膚。
【請求項2】
前記弾性層は、ウレタン系エラストマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の人工皮膚。
【請求項3】
前記弾性層は、アクリル系エラストマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の人工皮膚。
【請求項4】
前記弾性層は、可塑剤を含まないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の人工皮膚。
【請求項5】
前記弾性層は、着色剤を含み、
前記表皮層および前記球状粒子は、着色剤を含まないことを特徴とする請求項1に記載の人工皮膚。
【請求項6】
前記表皮層の表面における水の接触角が100°以下であることを特徴とする請求項1に記載の人工皮膚。
【請求項7】
前記球状粒子は、平均粒子径が、前記表皮層の厚さの10%以上50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の人工皮膚。
【請求項8】
前記球状粒子は、樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の人工皮膚。
【請求項9】
アクリル系樹脂を含む溶液を硬化して、粘着性を有する表皮層を形成する工程と、
前記表皮層上に、シリコーンの含有量が、弾性層の固形分全量に対し20質量%以下である弾性材料からなる当該弾性層を形成する工程と、
前記表皮層における前記弾性層とは反対側の面に、球状粒子を付着させる工程と
を含む人工皮膚の製造方法。
【請求項10】
弾性を有する弾性層と、当該弾性層上に積層される表皮層とを含む人工皮膚を形成するための人工皮膚用塗工液セットであって、
ウレタン系エラストマーの原料またはアクリル系エラストマーの原料を含み、前記弾性層を形成するための第1の塗工液と、
アクリル系樹脂を含み、表面に球状粒子が付着可能な前記表皮層を形成するための第2の塗工液と
を含む人工皮膚用塗工液セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮膚、人工皮膚の製造方法、および人工皮膚用塗工液セットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、弾性材料からなる表面層、および表面層と隣接して配置され、表面層を構成する弾性材料の弾性率とは異なる弾性率を有する弾性材料からなる下層とを含む手術シミュレーション用の三次元実体モデルが開示されている。
特許文献2には、ヒフの表皮を模して薄く形成された表皮層と、ヒフの真皮を模して表皮層以上の厚さに形成された真皮層と、ヒフの皮下組織を模して真皮層以上の厚さに形成された皮下層とを備えた縫合練習用透明性人工皮膚が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-107189号公報
【特許文献2】国際公開2015/189954号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弾性を有する材料からなり、人型ロボットや医療用シミュレータ等に用いられる人工皮膚が存在する。このような人工皮膚は、べたつきが少なく人の皮膚に近い触感を有し、外部からの応力に対する強靭性が高いことが好ましい。しかしながら、人工皮膚の材料等によっては、人工皮膚に含まれる可塑剤等が表面に染み出してべたつきが生じたり、外部からの応力によって裂けてしまったりする場合がある。
本発明は、べたつきが少なく外部からの応力に対する強靭性が高い人工皮膚を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記(1)~(9)に係る発明が提供される。
(1)シリコーンの含有量が、弾性層の固形分全量に対し20質量%以下である弾性材料からなる弾性層と、アクリル系樹脂からなり、前記弾性層上に積層された表皮層と、前記表皮層における前記弾性層とは反対側の面に付着した球状粒子とを備える人工皮膚。
(2)前記弾性層は、ウレタン系エラストマーを含むことを特徴とする(1)に記載の人工皮膚。
(3)前記弾性層は、アクリル系エラストマーを含むことを特徴とする(1)に記載の人工皮膚。
(4)前記弾性層は、可塑剤を含まないことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の人工皮膚。
(5)前記弾性層は、着色剤を含み、前記表皮層および前記球状粒子は、着色剤を含まないことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の人工皮膚。
(6)前記表皮層の表面における水の接触角が100°以下であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の人工皮膚。
(7)前記球状粒子は、平均粒子径が、前記表皮層の厚さの10%以上50%以下であることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の人工皮膚。
(8)前記球状粒子は、樹脂からなることを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載の人工皮膚。
(9)アクリル系樹脂を含む溶液を硬化して、粘着性を有する表皮層を形成する工程と、前記表皮層上に、シリコーンの含有量が、弾性層の固形分全量に対し20質量%以下である弾性材料からなる当該弾性層を形成する工程と、前記表皮層における前記弾性層とは反対側の面に、球状粒子を付着させる工程とを含む人工皮膚の製造方法。
(10)弾性を有する弾性層と、当該弾性層上に積層される表皮層とを含む人工皮膚を形成するための人工皮膚用塗工液セットであって、ウレタン系エラストマーの原料またはアクリル系エラストマーの原料を含み、前記弾性層を形成するための第1の塗工液と、アクリル系樹脂を含み、表面に球状粒子が付着可能な前記表皮層を形成するための第2の塗工液とを含む人工皮膚用塗工液セット。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、べたつきが少なく外部からの応力に対する強靭性が高い人工皮膚を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態が適用される人工皮膚の構成の一例を示した図である。
【
図2】人工皮膚の製造方法の工程を示した図である。
【
図3】(a)~(c)は、人工皮膚の製造方法における各工程の手順の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(人工皮膚1)
図1は、本実施形態が適用される人工皮膚1の構成の一例を示した図であって、人工皮膚1の断面を示した図である。
本実施形態の人工皮膚1は、例えば、人型ロボットの皮膚として用いられる。また、本実施形態の人工皮膚1は、例えば、注射、手術、心マッサージ等の医療手技を練習するための医療用シミュレータに使用される。なお、人工皮膚1の用途はこれらに限定されるものではない。
【0009】
人工皮膚1は、
図1に示すように、弾性層10と、弾性層10上に積層された表皮層20と、表皮層20における弾性層10とは反対側の面に付着した球状粒子30とを備える。なお、以下の説明において、人工皮膚1のうち、球状粒子30が付着されている側の面(
図1における上側の面)を、人工皮膚1の表面と表記する場合がある。
【0010】
(弾性層10)
弾性層10は、弾性材料からなる。弾性層10は、弾性材料として、熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。熱可塑性エラストマーとは、ハードセグメントとソフトセグメントとを有し、室温でゴム弾性を有するとともに、加熱することにより軟化して流動性を有する高分子体である。
本実施形態の弾性層10は、熱可塑性エラストマーの含有量が、弾性層10の全質量中、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。また、弾性層10における熱可塑性エラストマーの含有量の上限は、特に限定されないが、熱可塑性エラストマーの含有量が100質量%であってもよい。
【0011】
弾性層10が含む熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ブタジエン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、シリコーン系エラストマー等が挙げられる。弾性層10は、これらの熱可塑性エラストマーの中でも、ウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーを含むことがより好ましい。
【0012】
弾性層10が、弾性材料としてウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーを含むことで、例えば弾性材料として他の熱可塑性エラストマーを含む場合と比べて、弾性層10と表皮層20との密着性を高めることができる。これにより、人工皮膚1において、表皮層20が弾性層10から剥がれにくくなる。
【0013】
本実施形態の弾性層10は、シリコーンの含有量が、弾性層10の固形分全量に対し、20質量%以下である。弾性層10が、固形分全量に対し20質量%を超えるシリコーンを含有すると、弾性層10と表皮層20との密着性を得ることが困難になる。この場合、人工皮膚1を曲げたり伸ばしたりする操作を繰り返すと、弾性層10と表皮層20とが剥がれやすくなる。上位観点から、弾性層10におけるシリコーンの含有量は、弾性層10の固形分全量に対し15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0014】
弾性層10が含むウレタン系エラストマーは、イソシアネートと、短鎖ジオールと、長鎖ポリオールとが共重合した、ウレタン結合を有するブロック共重合体である。ウレタン系エラストマーは、ハードセグメントがジイソシアネートと短鎖ジオールとから構成され、ソフトセグメントがジイソシアネートと長鎖ポリオールとから構成される。
短鎖ジオールは、例えば分子量が500以下のジオールである。
また、長鎖ポリオールは、数平均分子量が1000~4000程度のポリオールであり、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等を用いることができる。
また、ジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートが挙げられる。ジイソシアネートとしてより具体的には、芳香族ジイソシアネートであるジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、脂肪族ジイソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やイソホロンジイソシアネート(IPDI)等を用いることができる。
【0015】
本実施形態の人工皮膚1では、弾性層10が弾性材料としてウレタン系エラストマーを含むことで、他の弾性材料を用いる場合と比べて、人の皮膚に近い触感を得やすくなる。付言すると、本実施形態の人工皮膚1では、弾性層10が含むウレタン系エラストマーのハードセグメントおよびソフトセグメントそれぞれの平均分子量等を調整することで、所望する弾性層10の弾性力や引張強度を得やすくなり、人の皮膚に近い触感を得やすくなる。
弾性層10が弾性材料としてウレタン系エラストマーを含む人工皮膚1は、例えば、人工皮膚1の触感が使用感や売り上げ等に影響を与えやすい人型ロボット等の皮膚として、特に好適に用いることができる。
【0016】
弾性層10が含むアクリル系エラストマーとしては、ハードセグメントが(メタ)アクリル酸エステルからなり、ソフトセグメントがアクリロニトリル、エチレン、(メタ)アクリル酸エステル等からなるブロック共重合体が挙げられる。なお、本実施形態の説明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルの少なくとも一方を意味する。
このようなアクリル系エラストマーとして具体的には、ハードセグメントがメタクリル酸メチル(MMA)から構成され、ソフトセグメントがアクリル酸ブチル(BA)とアクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)から構成されるブロック共重合体が挙げられる。
【0017】
本実施形態の人工皮膚1では、弾性層10が弾性材料としてアクリル系エラストマーを含むことで、他の弾性材料を用いる場合と比べて、人工皮膚1の強靭性を高めることができる。これにより、人工皮膚1に外部から応力が付与された場合に、人工皮膚1が裂けてしまうことが抑制される。
弾性層10が弾性材料としてアクリル系エラストマーを含む人工皮膚1は、例えば、人工皮膚1に対して応力がかかりやすい医療用シミュレータ等に、特に好適に用いることができる。
【0018】
また、弾性層10は、上述した熱可塑性エラストマーの他に、添加剤を含んでもよい。弾性層10が含む添加剤としては、例えば、硬化剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、難燃剤等が挙げられる。
【0019】
本実施形態では、弾性層10が、添加剤として着色剤を含むことが好ましい。弾性層10が着色剤を含むことで、人工皮膚1を、例えば人の皮膚に近い色等の目的とする色に着色することが可能となる。また、弾性層10が着色剤を含まずに、表皮層20や球状粒子30が着色剤を含むことにより人工皮膚1を着色する場合と比べて、着色剤が人工皮膚1の表面に露出しにくくなる。これにより、人工皮膚1の表面に接触した物やユーザの身体等に着色剤が付着して汚れることが抑制される。
また、人工皮膚1では、弾性層10が表皮層20および球状粒子30を介して視認される。そして、人工皮膚1では、着色剤により着色された弾性層10の色が表皮層20や球状粒子30によって散乱されてユーザに視認されるため、人の皮膚に近い色を再現しやすくなる。
【0020】
弾性層10が含む着色剤としては、特に限定されないが、顔料または染料が挙げられ、顔料を用いることが好ましい。また、着色剤は、1種を単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
弾性層10は、上述したように添加剤を含んでもよいが、その一方で、添加剤として可塑剤を含まないことがより好ましい。弾性層10が可塑剤を含む場合、可塑剤が人工皮膚1の表面に染み出すと、人工皮膚1の表面にべたつきが生じる場合がある。これに対し、弾性層10が可塑剤を含まないことで、弾性層10が可塑剤を含む場合と比べて、人工皮膚1の表面にべたつきが生じにくくなる。
【0022】
弾性層10の厚さは、人工皮膚1の用途等によっても異なるが、例えば、0.5mm以上20mm以下とすることができる。弾性層10の厚さは、表皮層20の厚さと比べて厚いことが好ましい。なお、本実施形態の人工皮膚1において、「厚さ」とは、弾性層10に対して表皮層20が積層される方向(すなわち、
図1における上下方向)の厚さを意味する。
例えば、人工皮膚1を医療用シミュレータとして用いる場合、弾性層10の厚さは、4mm以上であることが好ましい。医療用シミュレータでは、例えば、注射器等の器具を人工皮膚1に刺したり、メス等で人工皮膚1を切開したりする場合がある。本実施形態では、弾性層10の厚さを4mm以上とすることで、注射器やメス等の器具が、人工皮膚1を貫通しにくくなり、人工皮膚1が破損しにくくなる。
【0023】
弾性層10は、23℃における貯蔵弾性率が、1kPa以上1000kPa以下であることが好ましく、10kPa以上500kPa以下であることがより好ましく、50kPa以上200kPa以下であることがさらに好ましい。
これにより、人工皮膚1の触感がより人の皮膚に近くなる。
【0024】
弾性層10は、23℃における引張破断強度が、10MPa以上10000MPa以下であることが好ましく、100MPa以上5000MPa以下であることがより好ましい。
弾性層10は、23℃における引張破断伸度が、500%以上であることが好ましく、700%以上であることがより好ましい。弾性層10の引張破断伸度は高いほど好ましく、上限は特に限定されないが、通常は3000%以下である。
弾性層10は、23℃におけるヤング率が、0.01MPa以上10MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以上5MPa以下であることがより好ましく、0.3MPa以上2MPa以下であることがさらに好ましい。
弾性層10の引張破断強度、引張破断伸度、およびヤング率が上記範囲内であると、人工皮膚1は十分な可撓性を有するとともに、曲げたり伸ばしたりする操作を繰り返しても裂けてしまったり破損してしまったりすることが抑制される。
【0025】
(表皮層20)
本実施形態の表皮層20は、アクリル系樹脂からなる。ここで、アクリル系樹脂とは、構成単位として、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む樹脂を意味する。
本実施形態の表皮層20は、粘着性を有することが好ましい。付言すると、本実施形態の表皮層20は、アクリル系樹脂として、アクリル系粘着剤を含むことが好ましい。
【0026】
表皮層20を構成するアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系共重合体成分を含む。
(メタ)アクリル系共重合成分は、(メタ)アクリルモノマーに由来する構造単位を主成分とする共重合体である。なお、主成分とは、(メタ)アクリル系共重合体成分における(メタ)アクリルモノマーに由来する構造単位の含有量が、50質量%以上であることを意味する。(メタ)アクリル系共重合成分における(メタ)アクリルモノマーに由来する構造単位の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0027】
(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリレートモノマーを用いることができる。なお、本実施形態の説明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のモノマーが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
表皮層20を構成するアクリル系樹脂は、架橋剤を含んでもよい。アクリル系樹脂が架橋剤を含むことで、表皮層20は十分な凝集力を発揮し、優れた可撓性を示す。
架橋剤としては、例えば、分子中にイソシアネート基を複数有するポリイソシアネートからなるイソシアネート系架橋剤、分子中にグリシジル基を複数有するエポキシ樹脂からなるエポキシ系架橋剤、金属キレート化合物からなる金属キレート系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、高温で加熱することなく架橋できる観点から、イソシアネート系架橋剤、または金属キレート系架橋剤を用いることが好ましく、金属キレート系架橋剤を用いることが特に好ましい。金属キレート系架橋剤を用いることで、後述する人工皮膚1の製造工程において、表皮層20の作製に要する養生時間を短くすることができ、人工皮膚1の生産性を向上させることができる。
【0029】
表皮層20は、アクリル系粘着剤に加えて、粘着付与剤を含んでもよい。表皮層20が粘着付与剤を含むことで、表皮層20の粘着性が向上し、表皮層20の表面から球状粒子30が剥がれにくくなる。また、表皮層20が粘着付与剤を含むことで、弾性層10と表皮層20の密着性をより高めることができる。
表皮層20が含む粘着付与剤としては、特に限定されないが、例えば、水素化ロジン樹脂、水素化テルペン樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0030】
また、表皮層20は、アクリル系粘着剤、架橋剤、および粘着付与剤の他に、添加剤を含んでもよい。表皮層20が含む添加剤としては、軟化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、難燃剤等が挙げられる。
なお、表皮層20は、添加剤として着色剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよいが、人工皮膚1を人の皮膚に近い外観にする観点から、着色剤を含まないことが好ましい。また、表皮層20が着色剤を含むと、着色剤が人工皮膚1の表面に露出しやすくなり、人工皮膚1の表面に接触した物やユーザの身体等に着色剤が付着して汚れるおそれがある。
【0031】
また、表皮層20は、可視光に対する透過性を有することが好ましい。本実施形態の人工皮膚1では、表皮層20が可視光に対する透過性を有することで、弾性層10が着色されている場合に、弾性層10の色を、表皮層20および後述する球状粒子30を介して人工皮膚1の表面から視認できる。これにより、人工皮膚1を、例えば人の皮膚に近い色等の目的とする色にしやすくなる。
【0032】
表皮層20の厚さは、例えば、20μm以上1mm以下とすることができる。
表皮層20の厚さは、弾性層10の厚さと比べて薄いことが好ましい。表皮層20の厚さが弾性層10の厚さと比べて厚い場合、人工皮膚1の柔軟性が低くなり、人工皮膚1の触感が悪くなる場合がある。
また、表皮層20の厚さは、球状粒子30の平均粒子径と比べて厚いことが好ましく、球状粒子30の平均粒子径の2倍以上100倍以下であることがより好ましい。表皮層20の厚さが球状粒子30の平均粒子径と比べて薄い場合、表皮層20の表面から球状粒子30が剥がれやすくなる。一方、表皮層20の厚さが球状粒子30の平均粒子径に対して過度に厚い場合、球状粒子30が表皮層20の内部に埋もれやすくなり、人工皮膚1が球状粒子30を有することにより人工皮膚1の触感を改善する効果が不十分となる場合がある。
【0033】
表皮層20は、23℃における貯蔵弾性率が、1kMPa以上1000kPa以下であることが好ましく、10kPa以上500kPa以下であることがより好ましく、50kPa以上200kPa以下であることがさらに好ましい。
これにより、人工皮膚1の触感がより人の皮膚に近くなるとともに、球状粒子30が表皮層20に埋没してべたつくことを抑制できる。
また、弾性層10と表皮層20との23℃における貯蔵弾性率の差の絶対値は、1000kPa以下であることが好ましく、100kPa以下であることがより好ましい。付言すると、弾性層10と表皮層20との23℃における貯蔵弾性率の差の絶対値は、小さいほど好ましい。これにより、人工皮膚1を曲げたり伸ばしたりする操作を繰り返しても表皮層20が弾性層10から浮いたり剥がれたりすることが抑制される。
【0034】
表皮層20は、23℃における引張破断強度が、10MPa以上10000MPa以下であることが好ましく、100MPa以上5000MPa以下であることがより好ましい。
弾性層10は、23℃における引張破断伸度が、500%以上であることが好ましく、700%以上であることがより好ましい。表皮層20の引張破断伸度は高いほど好ましく、上限は特に限定されないが、通常は3000%以下である。
表皮層20は、23℃におけるヤング率が、0.01MPa以上10MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以上5MPa以下であることがより好ましく、0.3MPa以上2MPa以下であることがさらに好ましい。
表皮層20の引張破断強度、引張破断伸度、およびヤング率が上記範囲内であると、人工皮膚1は十分な可撓性を有するとともに、曲げたり伸ばしたりする操作を繰り返しても裂けてしまったり破損してしまったりすることが抑制される。
【0035】
表皮層20は、アクリル板に対する粘着力が、10N/25mm以上であることが好ましく、12N/25mm以上であることがより好ましく、15N/25mm以上であることがさらに好ましい。表皮層20は、アクリル板に対する粘着力が10N/25mm以上であることにより、アクリル板に対する粘着力が10N/25mm未満である場合と比べて、表皮層20に対する球状粒子30の粘着力が高くなる。これにより、人工皮膚1において、表皮層20の表面から球状粒子30が剥がれにくくなる。特に、球状粒子30が樹脂からなる樹脂粒子である場合に、表皮層20の表面から球状粒子30が剥がれにくくなる。
表皮層20のアクリル板に対する粘着力は、粘着テープ・粘着シート試験方法(JIS Z 0237(2009))に記載された方法に準拠して、以下の方法により測定することができる。具体的には、例えば基材等の上に形成した表皮層20を、表面粗さが50±25nmのアクリル板に貼り付ける。そして、引張試験機を用いて、アクリル板に対して180°方向へ5mm/sの速度で引き剥がし、引き剥がすために要した力をアクリル板に対する粘着力とする。
【0036】
(球状粒子30)
球状粒子30は、球状の形状を有する粒子である。人工皮膚1に球状の粒子を用いることで、人工皮膚1の触感がより人の皮膚に近くなる。ここで、球状とは、真球状のみを意味するものではなく、楕円や略球状、表面に微細な穴や凹凸があるものでもよい。球状粒子30は、短径と長径との比率が1:1~1:2の範囲であれば、球状として好ましい。人工皮膚1の表面における触感や光沢が均一になることから、球状粒子は真球状であることがより好ましい。
球状粒子30は、球状であれば無機粒子であっても樹脂粒子であってもよいが、透明性の観点から、樹脂粒子であることが好ましい。
【0037】
球状粒子30として用いる樹脂粒子としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、セルロースなどの樹脂からなる樹脂粒子が挙げられる。これらは、樹脂粒子として1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
球状粒子30は、これらの樹脂の中では、表皮層20との密着性の観点から、(メタ)アクリル樹脂またはスチレン樹脂からなる粒子であることが好ましい。このような球状粒子30としては、(メタ)アクリル粒子(アクリルビーズ)、アクリルウレタン粒子(アクリルウレタンビーズ)、アクリルスチレン粒子(アクリルスチレンビーズ)、スチレン粒子(スチレンビーズ)等が挙げられる。
【0038】
球状粒子30は、硬質であることが好ましい。具体的には、球状粒子30は、10%圧縮強度が、10MPa以上であることが好ましく、12MPa以上であることがより好ましく、15MPa以上であることがさらに好ましい。球状粒子30の10%圧縮強度が10MPa以上であると、人工皮膚1の表面における触感が良好になる。球状粒子30の10%圧縮強度とは、球状粒子30を10%押し込んだ場合の硬さをいい、株式会社島津製作所製 微小圧縮試験機MCTシリーズを用いて測定することができる。具体的には、直径が90%の長さとなるまで球状粒子30を挟み込み、その時の圧力を測定することで得られる。硬質な球状粒子30である(メタ)アクリル粒子またはスチレン粒子としては、例えば、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、架橋ポリメタクリル酸ブチル粒子、架橋ポリスチレン粒子などが挙げられる。
【0039】
球状粒子30は、表皮層20における弾性層10とは反対側の面に付着している。以下の説明では、球状粒子30が付着する表皮層20における弾性層10とは反対側の面を、表皮層20の表面と表記する場合がある。
【0040】
本実施形態の球状粒子30は、表皮層20が有する粘着力によって、表皮層20の表面に付着している。また、球状粒子30は、球状粒子30の一部が表皮層20の表面から突出するように、表皮層20の表面に付着している。これにより、人工皮膚1の表面には、球状粒子30の形状に由来する微細な凹凸が形成された粗面となっている。
【0041】
本実施形態の人工皮膚1は、表皮層20の表面に球状粒子30が付着していることで、人工皮膚1の表面の状態を人の皮膚に近づけることができる。
具体的には、人工皮膚1は、表皮層20の表面に球状粒子30が付着していることで、弾性層10を構成する弾性材料や表皮層20を構成するアクリル系樹脂に由来するべたつきが生じにくくなる。これにより、人工皮膚1の触感がより人の皮膚に近くなる。
また、人工皮膚1は、表皮層20の表面に球状粒子30が付着していることで、例えば、人工皮膚1の表面から注射器等の器具を刺した場合に、器具を刺した跡が目立ちにくくなる。
【0042】
さらに、人工皮膚1は、表皮層20の表面に球状粒子30が付着していることで、人工皮膚1の外部から人工皮膚1の表面に照射された光が、球状粒子30によって散乱されやすくなる。これにより、人工皮膚1は、表面の光沢が低減され、人の皮膚に近い外観を実現しやすくなる。
さらにまた、人工皮膚1は、表皮層20の表面に球状粒子30が付着していることで、球状粒子30が付着していない場合と比べて、人工皮膚1の表面における濡れ性が高くなる。これにより、人工皮膚1の表面に、化粧品や塗料等を塗りやすくなり、人工皮膚1の装飾がしやすくなる。また、人工皮膚1の表面に塗った化粧品等が剥がれにくくなる。
【0043】
球状粒子30の平均粒子径は、1μm以上30μm以下とすることができ、5μm以上20μm以下であることが好ましい。また、球状粒子30の平均粒子径は、表皮層20の厚さよりも小さいことが好ましく、表皮層20の厚さの1%以上50%以下であることがより好ましい。
これにより、球状粒子30の平均粒子径がこの範囲よりも小さい場合と比べて、表皮層20に対して球状粒子30が埋もれにくくなる。また、球状粒子30の平均粒子径がこの範囲よりも大きい場合と比べて、表皮層20の表面から球状粒子が剥がれにくくなる。
なお、本実施形態において、球状粒子30の平均粒子径とは、個数平均粒子径を意味する。球状粒子30の平均粒子径は、例えばレーザ回折散乱法により測定することができる。
【0044】
また、本実施形態の球状粒子30は、着色剤を含まないことが好ましい。
さらに、球状粒子30が可視光に対する透過性を有することが好ましい。本実施形態の人工皮膚1では、球状粒子30が可視光に対する透過性を有することで、弾性層10が着色されている場合に、弾性層10の色を、表皮層20および球状粒子30を介して人工皮膚1の表面から視認できる。これにより、人工皮膚1を、例えば人の皮膚に近い色等の目的とする色にしやすくなる。
【0045】
(人工皮膚1の特性)
以上説明したように、本実施形態の人工皮膚1は、弾性層10と、弾性層10上に積層された表皮層20と、表皮層20における弾性層10とは反対側の面に付着した球状粒子30とを備える。そして、人工皮膚1は、表皮層20がアクリル系樹脂から形成されている。このため、例えば、表皮層20がアクリル系樹脂以外の材料により形成されている場合と比べて、表皮層20の表面に対する球状粒子30の密着性が高くなっている。これにより、表皮層20の表面から球状粒子30が剥がれにくくなっている。
そして、人工皮膚1の使用を繰り返した場合であっても、触感が失われにくく、良好な状態を長期間保つことができる。
【0046】
(人工皮膚1の製造方法)
続いて、本実施形態の人工皮膚1の製造方法について説明する。
図2は、人工皮膚1の製造方法の工程を示した図である。
図2に示すように、本実施形態の人工皮膚1の製造方法は、アクリル系樹脂を含む溶液を硬化して、粘着性を有する表皮層20を形成する工程(表皮層形成工程S1)と、表皮層20上に、弾性材料からなる弾性層10を形成する工程(弾性層形成工程S2)と、表皮層20における弾性層10とは反対側の面に、球状粒子30を付着させる工程(粒子付着工程S3)とを含む。
【0047】
なお、人工皮膚1の製造方法における弾性層形成工程の手順は、弾性層10に用いる弾性材料の種類(熱可塑性エラストマーの種類)等によって異なる。ここでは、弾性層10にウレタン系エラストマーを用いる場合を例に挙げて、人工皮膚1の製造方法を説明する。
図3(a)~(c)は、人工皮膚1の製造方法における各工程の手順の一例を示した図である。
図3(a)が表皮層形成工程を示しており、
図3(b)が弾性層形成工程を示しており、
図3(c)が粒子付着工程を示している。
【0048】
(表皮層形成工程S1)
表皮層形成工程S1では、表皮層20を構成するアクリル系樹脂に対して離型性を有する型や離型フィルム等からなる支持体50を準備する。
また、表皮層20を形成するためのアクリル系樹脂を含む表皮層塗工液を準備する。なお、表皮層塗工液については、後段にて詳細に説明する。
【0049】
次いで、
図3(a)に示すように、アクリル系樹脂に対して離型性を有する支持体50上に、表皮層用塗工液を塗布する。この際、表皮層用塗工液を乾燥させた後の厚さが、目的とする表皮層20の厚さとなるように、表皮層用塗工液を塗布する。
表皮層用塗工液を塗布する方法については、特に限定されないが、例えば、コンマコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、ナイフコーター等の塗工機を用いて塗工する方法が挙げられる。また、離型性を有する支持体50の内部に、表皮層用塗工液を流し入れてもよい。
【0050】
次いで、支持体50に塗布した表皮層用塗工液中の溶媒を蒸発させ、表皮層用塗工液を乾燥させる。表皮層用塗工液を乾燥させる際には、必要に応じて加熱してもよい。その後、予め定められた環境下で表皮層用塗工液を養生することで、粘着性を有する表皮層20が得られる。
【0051】
(弾性層形成工程S2)
弾性層形成工程S2では、弾性層10を形成するための弾性層用塗工液を準備する。この例では、弾性層用塗工液は、熱可塑性エラストマーの一例であるウレタン系エラストマーを含む。なお、弾性層用塗工液については、後段にて詳細に説明する。
次いで、表皮層形成工程S1により形成された表皮層20上に、弾性層用塗工液を塗布する。弾性層用塗工液は、表皮層形成工程と同様に、塗工機を用いて塗工してもよく、支持体50の内部に流し入れてもよい。
【0052】
次いで、表皮層20上に塗布した弾性層用塗工液中の溶媒を蒸発させ、弾性層用塗工液を乾燥させる。弾性層用塗工液を乾燥させる際には、必要に応じて加熱してもよい。これにより、弾性層10と表皮層20とが積層された積層体40が得られる。その後、得られた積層体40を支持体から取り外す。
【0053】
なお、この例では、表皮層20上に弾性層用塗工液を塗布または流し入れることで、弾性層10と表皮層20とが積層された積層体40を形成したが、弾性層形成工程はこれに限られない。
積層体40は、例えば以下の方法により作製してもよい。すなわち、表皮層20が形成された支持体50とは異なる他の支持体(不図示)に対して弾性層用塗工液を塗布または流し入れ、乾燥させて、弾性層10を形成する。続いて、得られた弾性層10と表皮層20とを重ね合わせ、必要に応じて荷重をかけて、ラミネートする。これにより、弾性層10と表皮層20とが積層された積層体40が得られる。
【0054】
(粒子付着工程S3)
粒子付着工程S3では、積層体40の表皮層20における弾性層10とは反対側の面に対し、球状粒子30を振りかける。上述したように、表皮層20は、粘着性を有している。このため、積層体40の表皮層20に球状粒子30を振りかけることで、表皮層20における弾性層10とは反対側の面に球状粒子30が付着する。
次いで、表皮層20に球状粒子30を付着させた積層体40を水で洗い流す。これにより、表皮層20の表面には接着せずに積層体40の他の部分に付いた余分な球状粒子30を取り除く。
以上の工程により、弾性層10と、弾性層10上に積層された表皮層20と、表皮層20における弾性層10とは反対側の面に付着した球状粒子30とを備える、
図1に示した人工皮膚1が得られる。
【0055】
(人工皮膚用塗工液セット)
続いて、本実施形態の人工皮膚1の作製に用いる人工皮膚用塗工液セットについて説明する。人工皮膚用塗工液セットは、弾性層10と表皮層20とを含む人工皮膚1を形成するためのものであり、弾性層用塗工液と、表皮層用塗工液とを含む。
【0056】
(弾性層用塗工液)
弾性層用塗工液は、弾性層10を形成するための第1の塗工液の一例である。
弾性層用塗工液は、弾性層10を構成する弾性材料である熱可塑性エラストマーの原料を含む。熱可塑性エラストマーとしては、上述したように、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマーが挙げられる。
【0057】
ウレタン系エラストマーからなる弾性層10を形成するための弾性層用塗工液は、例えば、ウレタン系エラストマーの原料となる短鎖ジオールおよび長鎖ポリオールを含む主剤と、イソシアネートや金属キレートからなる硬化剤とを含む。なお、ウレタン系エラストマーからなる弾性層10を形成するための弾性用塗工液は、主剤と硬化剤とが別個の2液型の塗工液であってもよいし、主剤と硬化剤とを併せて含む1液型の塗工液であってもよい。
【0058】
また、ウレタン系エラストマーからなる弾性層10を形成するための弾性層用塗工液は、溶剤と混ぜ合わせて使用する溶剤型の塗工液であってもよく、溶剤を使用しない無溶剤の塗工液であってもよい。
弾性層用塗工液に溶剤を用いる場合、溶剤としては特に限定されないが、例えば、アセトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、ヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0059】
また、アクリル系エラストマーからなる弾性層10を形成するための弾性層用塗工液は、例えば、アクリル系エラストマーと、アクリル系エラストマーを溶解する溶剤とを含む溶液である。
溶剤としては、ウレタン系エラストマーからなる弾性層10を形成するための弾性層用塗工液と同様に、アセトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、ヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等を用いることができる。
【0060】
さらに、弾性層用塗工液は、必要に応じて、上述した各種の添加剤を含んでいてもよい。
また、弾性層用塗工液は、粘度が、10mPa・s以上20Pa・s以下の範囲であることが好ましい。弾性層用塗工液の粘度が20Pa・sを超える場合、上述した弾性層形成工程において、表皮層20上に弾性層用塗工液を塗布または流し入れる際の作業性が低下しやすい。また、弾性層用塗工液の粘度が10mPa・s未満である場合、例えば離型フィルム上に弾性層用塗工液を塗工する場合等に、弾性層用塗工液が周囲に流れやすくなる。この場合、弾性層10を所望する厚さにすることが難しくなる場合がある。
【0061】
(表皮層用塗工液)
表皮層用塗工液は、表皮層20を形成するための第2の塗工液の一例である。
表皮層用塗工液は、表皮層20を形成するためのアクリル系樹脂を含む。なお、アクリル系樹脂とは、上述したように、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む樹脂である。
また、表皮層用塗工液は、架橋剤を含む。架橋剤としては、上述したように、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。
なお、表皮層用塗工液は、アクリル系樹脂と架橋剤とが別個の2液型の塗工液であってもよいし、アクリル系樹脂と架橋剤とを併せて含む1液型の塗工液であってもよい。
表皮層用塗工液は、弾性層用塗工液と同様に、溶剤を含んでもよい。
【0062】
また、表皮層用塗工液は、粘度が、5mPa・s以上10Pa・s以下の範囲であることが好ましい。表皮層用塗工液は、の粘度が10Pa・sを超える場合、上述した表皮層形成工程において、支持体50に表皮層用塗工液を塗布または流し入れる際の作業性が低下しやすい。また、表皮層用塗工液の粘度が5mPa・s未満である場合、例えば離型フィルム上に表皮層用塗工液を塗工する場合等に、表皮層用塗工液が周囲に流れやすくなる。この場合、表皮層20を所望する厚さにすることが難しくなる場合がある。
【0063】
なお、弾性層用塗工液および表皮層用塗工液は、公知の方法により合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【実施例0064】
続いて、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
<弾性層形成用組成物の調製>
(弾性層形成用組成物a1)
三洋化成工業社製の「サンニックスPP-4000」(ポリプロピレングリコール、数平均分子量4000、粘度920mPa・s、固形分濃度100質量%)16g、三洋化成工業社製の「サンニックスKC-737」(グリセリン系ポリエーテル、数平均分子量7000、粘度1430mPa・s、固形分濃度100質量%)8.0g、ダウ・東レ社製の「DOWSIL BY16-201」(両末端カルビノール変性シリコーンオイル、固形分濃度100質量%)0.96g、旭化成社製のイソシアネート系架橋剤「デュラネートD101」(HDI系プレポリマー型ポリイソシアネート、固形分濃度100質量%)2.6g、ビックケミー社製の消泡剤「BYK-088」(シリコーン系消泡剤、固形分濃度3.3質量%)0.24g、日東化成製のスズ触媒「ネオスタン U-810」(ジオクチル錫ジラウレート、固形分濃度100質量%)0.24gを混合して攪拌し、弾性層形成用組成物a1を調製した。調製した弾性層形成用組成物a1の粘度は1100mPa・sであった。
【0066】
(弾性層形成用組成物a2)
クラレ社製のアクリルエラストマー「クラリティ LA3320」(ハードブロックにメチルメタクリレート、ソフトブロックにノルマルブチルアクリレートを用いたA-B-Aブロック共重合体、ペレット状固形物)16gを、酢酸ブチル24gに溶解させた後、ビックケミー社製の消泡剤「BYK-051N」(シリコーン系消泡剤、固形分濃度20質量%)を0.04g加えて攪拌し、弾性層形成用組成物a2を調製した。調製した弾性層形成用組成物a2の固形分濃度は40質量%、粘度は2500mPa・sであった。
【0067】
(弾性層形成用組成物a3)
株式会社エクシール製の造形用軟質樹脂(商品名「人肌のゲル」、硬度15、乳白タイプ)の主剤(主剤の全量に対し、ポリオール90質量%、可塑剤7質量%、スズ触媒3質量%)と硬化剤(硬化剤の全量に対し、芳香族ジイソシアネート10質量%、可塑剤90質量%)とを3:1の比率で混合して攪拌し、弾性層形成用組成物a3を調製した。調製した弾性層形成用組成物a3の粘度は1800mPa・sであった。
【0068】
(弾性層形成用組成物a4)
Smooth-On社製のシリコーン樹脂「Ecoflex 00-20」の主剤と硬化剤とを1:1の比率で混合して攪拌し、弾性層形成用組成物a4を調製した。調整した弾性層形成用組成物a4の粘度は3000mPa・sであった。
【0069】
<弾性層10の作製>
調製した弾性層形成用組成物a1~a4を、離型面を内側にして箱型に折り曲げた離型フィルム「クリーンセパHY-S10」(表面に離型処理を施したPETフィルム、東山フイルム社製、厚さ50μm)に、硬化後の厚みが4mmとなるようにキャスティングし、室温(25℃)で7日間静置後、離型フィルムから取り出してシート状の弾性層A1~A4を作製した。
【0070】
得られた弾性層A1~A4に対し、せん断貯蔵弾性率、引張破断強度、引張破断伸度、およびヤング率を測定した。測定の結果を表1に示す。なお、これらの測定方法については、後段にて詳細に説明する。
【0071】
【0072】
<表皮層形成用組成物の調製>
(表皮層形成用組成物b1)
綜研化学社製のアクリル系粘着剤「SKダイン1717」(固形分濃度45%)20gに、酢酸ブチル5.7gを加え、綜研化学社製のアルミキレート架橋剤「M-5A」(固形分濃度100%)0.4gを混合して攪拌し、表皮層形成用組成物b1を調製した。調製した表皮層形成用組成物b1の固形分濃度は35質量%、粘度は1500mPa・sであった。
【0073】
(表皮層形成用組成物b2)
クラレ社製のアクリルエラストマー「クラリティ LA3320」(ハードブロックにメチルメタクリレート、ソフトブロックにアクリレートを用いたA-B-Aブロック共重合体、ペレット状固形物)9gを、酢酸エチルと酢酸ブチルの1:1混合溶媒16.7gに溶解させて、弾性層形成用組成物b2を調製した。調製した弾性層形成用組成物b2の固形分濃度は35質量%、粘度は1000mPa・sであった。
【0074】
(表皮層形成用組成物b3)
ダウ・東レ社製の「DOWSIL SD 4560 PSA」(付加型シリコーン粘着、固形分濃度60質量%)20gに、ノルマルヘプタン14gを加え、ダウ・東レ社製の「DOWSIL NC-25 Catalyst」(白金触媒、固形分濃度〇〇質量%)0.18gを混合して攪拌し、表皮層形成用組成物b3を調製した。調製した表皮層形成用組成物b3の固形分濃度は35質量%、粘度は5000mPa・sであった。
【0075】
<表皮層20の作製>
表皮層形成用組成物b1~b3を、離型フィルム「クリーンセパHY-S20」(表面に離型処理を施したPETフィルム、東山フイルム社製、厚さ50μm)の離型面上に、乾燥後の厚みが35μmとなるように、ベーカー式アプリケーターを用いて塗布し、恒温乾燥器を用いて80℃で5分間熱処理を行った後、室温(25℃)で24時間養生した。これにより、表皮層B1~B3を作製した。
【0076】
得られた表皮層B1~B3に対し、せん断貯蔵弾性率、引張破断強度、引張破断伸度、ヤング率、水接触角、およびアクリル板に対する粘着力を測定した。測定の結果を表2に示す。なお、これらの測定方法については、後段にて詳細に説明する。
【0077】
【0078】
<人工皮膚1の作製>
表皮層20(表皮層B1~B3)の離型フィルムとは反対側の面を、弾性層10(弾性層A1~A4)に、ハンドローラーを用いて貼り合わせ、表皮層20から離型フィルムを剥離した。次いで、粒子を表皮層20に振りかけ、表皮層20の表面に付着していない粒子を払って取り除いた後、表皮層20の表面を流水で洗い流して、実施例1~7、および比較例1~6の人工皮膚1を作製した。
【0079】
人工皮膚1の作製に用いた粒子は以下の通りである。表3に、各粒子の特性を示す。なお、粒子C1~粒子C5が、上述した実施形態における球状粒子30に当たる。
・粒子C1:積水化成品工業社製「テクポリマーMBX-5」、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、球状、平均粒子径5μm
・粒子C2:積水化成品工業社製「テクポリマーMBX-20」、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、球状、平均粒子径20μm
・粒子C3:積水化成品工業社製「テクポリマーSBX-4」、架橋ポリスチレン粒子、球状、平均粒子径4μm
・粒子C4:根上工業社製「アートパールC-600T」、架橋ウレタン粒子、球状、平均粒子径10μm
・粒子C5:モメンティブ社製「トスパール2000B」、シリコーン粒子、球状、平均粒子径6μm
・粒子C6:ジョンソンエンドジョンソン社製「ジョンソン ベビーパウダー」、タルク、不定形、平均粒子径11μm
【0080】
【0081】
<評価方法>
得られた各弾性層A1~A4、表皮層B1~B3、およびこれらを用いて作成した人工皮膚1について、以下の方法により評価を行った。
(1)弾性層10、および表皮層20の厚さ
テスター産業製厚さ測定機「TH-104」を用い、弾性層10、および表皮層20の厚さを求めた。
【0082】
(2)弾性層10、表皮層20の引張破断強度、引張破断伸度、およびヤング率の測定
表皮層B1~B3は、表皮層から離型フィルムを剥離し、厚みが0.5μmとなるようにハンドローラーを用いて積層した。そして、表皮層B1~B3および弾性層A1~A4を、10mm×70mmの長方形状に切断し、試験片とした。得られた試験片を、精密万能試験機(島津製作所社製、AUTOGRAPH(登録商標) AGX)を用いて、23℃50%の環境下、つかみ具間距離30mm、引張速度10mm/minで破断するまで伸長させて、引張破断強度、および引張破断伸度を測定した。また、得られた歪み-応力カーブより、伸長初期の直線部分の傾きからヤング率を求めた。
【0083】
(3)弾性層10、表皮層20の貯蔵弾性率の測定
表皮層B1~B3は、表皮層B1~B3から離型フィルムを剥離し、厚みが0.5μmとなるようにハンドローラーを用いて積層した。そして、表皮層B1~B3および弾性層A1~A4を、15mm×15mmの大きさに切断し、試験片とした。得られた試験片を、粘弾性測定装置(TA instrument社製、Discovery HR-2)を用いて、23℃50%の環境下、せん断モード、ジオメトリ:直径8mmパラレルプレート、周波数:1Hz、ひずみ:1%で、断貯蔵弾性率を測定した。
【0084】
(4)表皮層20の濡れ性の評価
表皮層B1~B3から離型フィルムを剥離し、表皮層B1~B3の表面に、接触角計(協和界面科学製、DropMaster DMo-502)を使用し、4μLの純水を反射防止フィルムの表面に滴下して水の接触角を測定した。
水接触角が100°以下であれば、人工皮膚は十分な化粧品や塗料の密着性を有すると言える。
【0085】
(5)表皮層20の粘着力の測定
表皮層B1~B3の離型フィルムと反対側の面にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡エステル(登録商標)フィルムE5100:東洋紡製、厚さ50μm)のコロナ処理面を貼り合わせ、幅25mm、長さ100mmの大きさに切り出して試験片を作製した。この基材付き試験片について、被着体として、アクリル板に対する粘着力を、JIS Z 0237(2009)に記載された方法に準拠して測定した。
具体的には、離型シートを表皮層B1~B3より剥離して、表皮層B1~B3の基材とは反対側の面をアクリル板(アクリライト(登録商標)L:三菱ケミカル製、厚さ2mm)に、2kgのローラーを2往復させて圧着した。次に、島津製作所製精密万能試験機「AUTOGRAPH(登録商標) AGS-1kNX、50Nロードセル」を用いて、剥離速度5mm/s、剥離角度180°の条件で、表皮層B1~B3の粘着力を測定した。
【0086】
(6)弾性層10と表皮層20の密着性の評価
実施例1~11および比較例1~3、5、6で得られた人工皮膚1を10mm×50mmの長方形状に切断し、手で3倍に引き延ばして戻す操作を20回繰り返した。そして、人工皮膚1を目視観察して、弾性層10と表皮層20との間の密着性を評価した。
評価は以下の基準で行った。
A:弾性層と表皮層間で浮きや剥がれが全くみられない。
C:引き延ばし操作20回以内に、弾性層と表皮層間で浮きや剥がれがみられた。
【0087】
(7)人工皮膚1の触感の評価
実施例1~11および比較例1~6で得られた人工皮膚1の表面(粒子が接着されている側の表面)を指で10回強くこすり、触感の評価を行った。評価は以下の基準で行った。
(7-1)ざらつきの評価
A:すべすべとした手触りで、触感がよい。
C:ざらつきが感じられ、触感が悪い。
(7-2)べたつきの評価
A:べたつきが感じられず、触感が良い。
B:強く押すように触れるとわずかにべたつきが感じられるが、実用上問題ない。
C:べたつきが感じられ、且つ、手に粒子や添加剤等の付着が確認された。
(7-3)1ヶ月保管した後のべたつきの評価
(7-2)で評価した人工皮膚1を1ヶ月間室温(23℃)で保管後、表面(粒子が接着されている側の表面)を指で10回強くこすり、触感の評価を行った。評価は(7-2)と同様の基準で行った。
【0088】
<評価結果>
続いて、実施例1~11、比較例1~6のそれぞれの人工皮膚1の評価結果を表4、表5に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
表4、表5に示すように、シリコーンの含有量が、弾性層10の固形分全量に対し20質量%以下である弾性材料からなる弾性層10と、アクリル系樹脂からなり、弾性層10上に積層された表皮層20と、表皮層20の表面に付着した球状粒子30とを備える実施例1~11の人工皮膚1では、弾性層10と表皮層20との間の密着性および触感(ざらつき、べたつき、1か月のべたつき)の評価において、良好な結果が得られることが確認された。これにより、べたつきが少なく外部からの応力に対する強靭性が高い人工皮膚1を実現できることが確認された。
【0092】
これに対し、表皮層20の表面にタルクからなる不定形の粒子C6を付着させた比較例1の人工皮膚1では、触感の評価において表面にざらつきが感じられ、触感が良くなかった。また、製造工程において表皮層20の表面を水で洗い流した際に、粒子の脱落が確認された。
また、表皮層20の表面に粒子を付着させていない比較例2の人工皮膚1では、触感の評価において表面にべたつきが感じられ、触感が良くなかった。
さらに、表皮層20がシリコーンを含む比較例3の人工皮膚1では、密着性の評価において、弾性層10と表皮層20との間に浮きや剥がれが見られ、弾性層10と表皮層20との間の密着性が良くなかった。
さらにまた、表皮層20を設けなかった比較例4の人工皮膚1では、人工皮膚1(弾性層10)の表面に球状粒子30を保持することができず、触感の評価において表面にべたつきが感じられ、触感が良くなかった。
【0093】
また、弾性層10におけるシリコーンの含有量が弾性層10の固形分全量に対し20質量を超える比較例5の人工皮膚1では、密着性の評価において、弾性層10と表皮層20との間に浮きや剥がれが見られ、弾性層10と表皮層20との間の密着性が良くなかった。また、弾性層10の成分が人工皮膚1の表面に染み出し(ブリードアウト)、1ヶ月保管した後のべたつきの評価において表面にべたつきが感じられ、触感が良くなかった。
さらに、弾性層10におけるシリコーンの含有量が弾性層10の固形分全量に対し20質量を超え、且つ表皮層20がシリコーンを含む比較例6の人工皮膚1では、弾性層10と表皮層20との間に浮きや剥がれが見られ、弾性層10と表皮層20との間の密着性が良くなかった。また、弾性層10の成分が人工皮膚1の表面に染み出し(ブリードアウト)、1ヶ月保管した後のべたつきの評価において表面にべたつきが感じられ、触感が良くなかった。
【0094】
また、実施例1~11のうち、ウレタンエラストマーからなる弾性層A1と、表皮層B1とを用いた実施例1~6の人工皮膚1を互いに比較すると、弾性層10の厚さを35μmとし、球状粒子30として架橋ポリメタクリル酸メチル粒子からなる粒子C1、C2を用いた実施例1および実施例3の人工皮膚1が、密着性および触感の評価において特に良好な結果が得られることが確認された。
さらに、実施例1~11のうち、ウレタンエラストマーからなる弾性層A1と、表皮層B2とを用いた実施例7~9の人工皮膚1では、いずれも密着性および触感の評価において特に良好な結果が得られることが確認された。
さらにまた、表皮層20の厚さが250μmである実施例2、8、9を比較すると、表皮層B1と比べて硬い(ヤング率が高い)表皮層B2を用いた実施例8、9の人工皮膚1では、実施例2と比べて、べたつきの評価において良好な結果が得られることが確認された。これは、実施例8、9では、実施例2と比べて、球状粒子30が表皮層20に埋まりにくいためと推測される。