(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079263
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】コイルおよび磁性部品
(51)【国際特許分類】
H01F 5/06 20060101AFI20240604BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240604BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01F5/06 Q
H01F5/06 T
H01F17/04 A
H01B7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192104
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中澤 遼馬
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 翔平
【テーマコード(参考)】
5E070
5G309
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB10
5E070CA03
5G309MA15
5G309MA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い耐熱性を有するコイルおよび当該コイルを含む磁性部品を提供する。
【解決手段】Cuを含む金属導体部6と、金属導体部6を覆う絶縁層8Aと、を含む導線2を有するコイルであって、絶縁層が、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、NiおよびMgから選択される1種以上の無機元素Mを含有する有機物を含む。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを含む金属導体部と、前記金属導体部を覆う絶縁層と、を含む導線を有し、
前記絶縁層が、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、Ni、および、Mgから選択される1種以上の無機元素Mを含有する有機物を含むコイル。
【請求項2】
前記有機物が、前記無機元素Mとして、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される1種以上を含む請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記絶縁層の平均厚みが1.5μm以上220μm以下である請求項1または2に記載のコイル。
【請求項4】
Cuを含む金属導体部と、前記金属導体部を覆う無機絶縁層と、を含む導線を有し、
前記無機絶縁層が、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、Ni、および、Mgから選択される1種以上の無機元素Mを含有する酸化物を含むコイル。
【請求項5】
前記酸化物が、前記無機元素Mとして、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される1種以上を含む請求項4に記載のコイル。
【請求項6】
前記無機絶縁層の平均厚みが1μm以上200μm以下である請求項4または5に記載のコイル。
【請求項7】
請求項4または5に記載のコイルと、軟磁性材料を含む磁心と、を有し、
前記コイルが、前記磁心の内部に埋設してある磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁被覆を有する導線からなるコイル、および、当該コイルを含む磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、トランス、チョークコイルなどの磁性部品では、コイルの材料として、絶縁被覆を有する導線が用いられている。このような磁性部品において、導線の絶縁被覆は、コイルにおける巻線間の絶縁性を確保する役割を有する。従来の磁性部品では、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、もしくは、ウレタン樹脂などの樹脂を含む絶縁被覆を設けた導線を用いることが一般的である。たとえば、特許文献1は、エポキシ樹脂を含む絶縁被覆を形成した導線を開示しており、特許文献2では、共重合ポリアミド樹脂を含む絶縁被覆を形成した導線を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2890280号
【特許文献2】特開平3-089414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、高い耐熱性を有するコイルと、当該コイルを含む磁性部品と、を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の観点に係るコイルは、
Cuを含む金属導体部と、前記金属導体部を覆う絶縁層と、を含む導線を有し、
前記絶縁層が、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、Ni、および、Mgから選択される1種以上の無機元素Mを含有する有機物を含む。
【0006】
前記有機物が、前記無機元素Mとして、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0007】
前記絶縁層は、1.5μm以上220μm以下の平均厚みを有していてもよい。
【0008】
本開示の第2の観点に係るコイルは、
Cuを含む金属導体部と、前記金属導体部を覆う無機絶縁層と、を含む導線を有し、
前記無機絶縁層が、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、Ni、および、Mgから選択される1種以上の無機元素Mを含有する酸化物を含む。
【0009】
前記酸化物が、前記無機元素Mとして、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0010】
前記無機絶縁層は、1μm以上200μm以下の平均厚みを有していてもよい。
【0011】
第1および第2の観点に係るコイルは、空芯コイルとして回路に組み込まれてもよく、磁心を有する磁性部品に適用してもよい。たとえば、第2の観点に係るコイルを磁性部品に適用する場合、当該磁性部品は、軟磁性材料を含む磁心を有し、前記コイルが前記磁心の内部に埋設してあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るコイルを模式的に示す斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、焼成前の絶縁被覆を有する導線を示す断面図である。
【
図2B】
図2Bは、焼成後の絶縁被覆を有する導線を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すコイルを含む磁性部品の一例を示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、コイルの一変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、コイルを構成する導線の一変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示である。本開示の実施形態に係る各種構成要素、例えば数値、形状、材料、製造工程などは、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり変更したりすることができる。また、本開示の図面に表された形状等は、実際の形状等とは必ずしも一致しない。説明のために形状等を改変している場合があるためである。
【0014】
本実施形態のコイル20は、
図1に示すように、Z軸に沿って螺旋状に巻回してある導線2を有する。
図1のコイル20では、整列多層巻きの巻回方式が採用されているが、コイル20における導線2の巻回方式は、特に限定されない。たとえば、一層整列巻き、不均等巻き、斜行巻き、もしくは、スペース巻きなどの巻回方式を採用してもよい。コイル20における導線2の巻き数(ターン数)は、特に限定されず、所望のコイル特性に応じて適宜決定すればよい。たとえば、導線2の巻き数は、0.5~100ターンとしてもよい。また、導線2が多層巻きしてある場合、巻線の層数は、特に限定されず、たとえば、2~10層としてもよい。
【0015】
図1のコイル20では、導線2の端部2e1,2e2が、それぞれ、巻回部分からX軸方向の外側に向かって引き出されている。この端部2e1,2e2には、それぞれ、図示しない外部端子が接続可能である。なお、端部2e1,2e2の形状や引出方向は、特に限定されない。
【0016】
図1のコイル20を構成する導線2は、丸線であり、
図2Aおよび
図2Bに示すように、円形の断面形状を有する。ただし、導線2の形状は特に限定されず、導線2は、楕円形、矩形、正方形、もしくは、その他多角形の断面形状を有していてもよい。なお、
図2Aおよび
図2Bは、導線2の長手方向と直交する断面を例示しており、各図におけるX軸、Y軸、およびZ軸は相互に垂直である。
【0017】
図2Aおよび
図2Bに示すように、導線2は、金属導体部6と、当該金属導体部6を覆う絶縁被覆(8A,8B)と、を有する。
【0018】
金属導体部6は、電流が流れる部位であり、導線2における中心的役割を担う。そのため、金属導体部6は、金属成分で構成してあり、少なくともCuを含む。たとえば、金属導体部6は、純銅、もしくは、銅合金であってもよい。金属導体部6の詳細な組成は、特に限定されないが、Cuが、金属導体部6の少なくとも50wt%を占める主成分であることが好ましく、金属導体部6におけるCuの含有率は、70wt%以上であることがより好ましい。金属導体部6が銅合金の場合、金属導体部6には、Cuに加えて、Ag、Ni、Al、Zn、Be、Sn、および、Mnなどから選択される1種以上の元素が含まれていてもよい。
【0019】
金属導体部6の組成は、たとえば、エネルギー分散型X線分析(EDS)、もしくは、波長分散型X線分析(WDS)により解析することができる。また、金属導体部6の平均直径Dは、
図2Aおよび
図2Bに示すような断面で計測することができ、0.1mm以上1.5mm以下であることが好ましい。ただし、金属導体部6の寸法は、上記の寸法範囲に必ずしも限定されない。
【0020】
絶縁被覆(8A,8B)は、金属導体部6の表面を覆っており、金属導体部6の表面に対する絶縁被覆(8A,8B)の被覆率は、90%以上であることが好ましく、100%であることがより好ましい。当該被覆率は、
図2Aおよび
図2Bに示すような導線2の長手方向と直交する断面を観察することで算出すればよい。絶縁被覆(8A,8B)は、導線2の最も外側に位置し、絶縁被覆(8A,8B)の表面が、導線2の最表面2sを成している。
【0021】
絶縁被覆(8A,8B)は、所定の無機元素Mを含む絶縁材料を含む。具体的に、無機元素Mは、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、Ni、および、Mgから選択される1種以上の元素である。絶縁材料に含まれる無機元素Mの種類数は、特に限定されず、たとえば、1種~3種としてもよい。また、絶縁材料の無機元素Mは、酸化物と成った後の室温での分解性が極めて低いこと、および、高絶縁性の観点から、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0022】
導線2の絶縁被覆(8A,8B)は、ゾル-ゲル法にて形成される。ゾルゲル法で絶縁被覆を形成する場合、焼成前と、焼成後とで、金属導体部6の仕様(寸法および材質など)は変化しないが、絶縁被覆の状態が変化する。本実施形態では、焼成前の絶縁被覆を「未焼成絶縁層8A」と称し、焼成後の絶縁被覆を「無機絶縁層8B」と称する。未焼成絶縁層8Aでは、無機元素Mが有機物中に含有されているのに対して、無機絶縁層8Bは、無機元素Mで構成される酸化物を含む。以下、絶縁被覆の形成方法の一例と共に、未焼成絶縁層8Aおよび無機絶縁層8Bの特徴について詳述する。
【0023】
ゾルゲル法で絶縁被覆を形成する際には、まず、無機元素Mを含む原料を用いて、コーティング液を調製する。無機元素Mを含む原料としては、焼成処理後に酸化物となる液状の有機化合物を使用してもよい。このような有機化合物としては、たとえば、アルコキシド、および、キレート化合物などが挙げられる。以下、無機元素Mを含む有機化合物について例示する。
【0024】
Si源としては、特に限定されないが、たとえば、アルコキシシランを用いることが好ましい。アルコキシシランとしては、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランが例示される。モノアルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチル(フェノキシ)シラン等が例示される。ジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン等が例示される。トリアルコキシシランとしては、トリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等が例示される。テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン等が例示される。コーティング液にSi源を添加する場合、1種類のアルコキシシランを用いてもよく、2種類以上のアルコキシシランを併用してもよい。
【0025】
Ti源は、特に限定されないが、たとえば、チタンアルコキシド、もしくは、チタンキレートを用いることが好ましい。チタンアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ-n-プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ-n-ブトキシド等が例示される。チタンキレートとしては、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等が例示される。コーティング液にTi源を添加する場合、1種類のチタンアルコキシドまたはチタンキレートを用いてもよく、2種類以上のチタンアルコキシドまたは/およびチタンキレートを用いてもよい。
【0026】
Zr源としては、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラ-n-プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシド等のジルコニウムアルコキシドが例示される。コーティング液にZr源を添加する場合、1種類のジルコニウムアルコキシドを用いてもよく、2種類以上のジルコニウムアルコキシドを併用してもよい。
【0027】
Al源としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムセカンダリ-ブトキシドなどのアルミニウムアルコキシド、および、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)などのアルミニウムキレートが例示される。コーティング液にAl源を添加する場合、1種類のアルミニウムアルコキシドまたはアルミニウムキレートを用いてもよく、2種類以上のアルミニウムアルコキシドまたは/およびアルミニウムキレートを併用してもよい。
【0028】
Zn源としてはジンクエトキシドなどのジンクアルコキシドを用いてもよく、Nb源としてはペンタエトキシニオブなどのニオブアルコキシドを用いてもよく、Ta源としてはペンタエトキシタンタルなどのタンタルアルコキシドを用いてもよく、B源としてはトリブトキシボランなどのホウ酸アルコキシドを用いてもよく、Ni源としてはニッケルジエトキシドなどのニッケルアルコキシドを用いてもよく、Mg源としてはマグネシウムジエトキシドなどのマグネシウムアルコキシドを用いてもよい。上記のような、Zn源、Nb源、Ta源、B源、Ni源、もしくはMg源をコーティング液に添加する場合においても、2種以上のアルコキシドまたは/およびキレート化合物を併用してもよい。
【0029】
なお、コーティング液の粘性を調整するために、コーティング液には、上述した無機元素Mを含む原料の他に、適宜、有機溶媒を添加してもよい。この場合、使用する有機溶媒は、特に限定されない。たとえば、有機溶媒として、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、もしくは、メチルエチルケトンを用いてもよい。最終的に生成する無機絶縁層8Bの組成、および、絶縁被覆(8A,8B)における無機元素Mの含有量は、コーティング液における原料(無機元素Mを含む原料)の配合比により制御すればよい。
【0030】
次に、上記のコーティング液を用いて、たとえば、ディップコーティング法により未焼成絶縁層8Aを形成する。具体的に、ディップコーティング法では、金属導体部6のみからなる線材を上記のコーティング液に浸し、その後、コーティング液から取り出した線材を乾燥させる。コーティング液に浸す前の金属導体部6のみからなる線材は、公知の方法で製造してもよいし、市販品を購入して準備してもよい。金属導体部6のみからなる導線は、コイル形状に加工する前にコーティング液に浸漬させてもよい。もしくは、金属導体部6のみからなる線材を予めコイル状に巻回した後で、コイル状の線材をコーティング液に浸漬してもよい。
【0031】
線材をコーティング液に浸す工程は、複数回、実施してもよい。未焼成絶縁層8Aの厚みtA、および、無機絶縁層8Bの厚みtBは、コーティング液への浸漬時間、および、コーティング液への浸漬回数などによって制御できる。たとえば、コーティング液への1回あたりの浸漬時間は、1秒~300秒としてもよく、コーティング液への浸漬回数は、1回~10回としてもよい。
【0032】
なお、浸漬工程を複数回実施する場合は、各浸漬の後に、乾燥処理を実施すればよく、乾燥処理の条件は、特に限定されない。たとえば、1回あたりの乾燥温度を50℃以上300℃未満に設定してもよく、1回あたりの熱乾燥時間を0.5時間~3時間に設定してもよい。
【0033】
上記のディップコーティング法により、金属導体部6の表面に、未焼成絶縁層8Aが形成される。なお、未焼成絶縁層8Aの形成方法は、ディップコーティング法に限定されず、スプレーコーティング法などの他の形成方法を採用してもよい。
【0034】
乾燥処理した後の未焼成絶縁層8A(
図2A)は、原料の有機化合物に由来する高分子化合物などの有機物を含む、乾燥ゲルの被覆である。未焼成絶縁層8Aに含まれる有機物の分子構造は、コーティング液で使用する原料(有機化合物)の種類、および、乾燥の度合いなどによって変化すると考えられる。未焼成絶縁層8Aに含まれる有機物の構造解析は、困難な場合があり、分子構造は特に限定されないが、未焼成絶縁層8Aの有機物は、少なくとも無機元素Mを含む。無機元素Mは、前述のとおり、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、Ni、および、Mgから選択される1種以上の元素であり、好ましくは、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される1種以上の元素である。なお、未焼成絶縁層8Aの有機物は、無機元素Mの他に、有機物の一般的な構成元素であるC(炭素)、H(水素)、および、O(酸素)を含む。
【0035】
ここで、「無機元素Mを含む有機物」とは、分子鎖中に、無機元素Mを介する結合が含まれる有機化合物を意味する。つまり、無機元素Mが、有機化合物中の分子骨格中に存在しており、無機元素Mを介する結合としては、たとえば、M-O、M-H、M-OH、M-OR(Rは、有機官能基)などが挙げられる。前述のとおり、未焼成絶縁層8Aにおける有機物の構造解析は、容易ではないため、無機元素Mを介する結合は、特に限定されないが、少なくともM-Oが、未焼成絶縁層8Aの有機物に含まれていると考えられる。
【0036】
未焼成絶縁層8Aには、有機物の一部が分解することで生じる酸化物が含まれていてもよい。有機物の分解により生じる酸化物とは、無機元素Mを含む酸化物(M-OX)である。つまり、未焼成絶縁層8Aは、有機物と無機化合物とを含む複合体であってもよい。
【0037】
上述のとおり、無機元素Mは、未焼成絶縁層8Aにおいて、高分子化合物の骨格中に存在していると考えられ、一部の無機元素Mは、酸化物として存在していてもよい。未焼成絶縁層8Aに含まれる無機元素Mは、EDSまたはWDSを用いた点分析により特定することができる。EDSまたはWDSの点分析は、未焼成絶縁層8Aの断面において、少なくとも10箇所で実施し、その平均値を算出することが好ましい。点分析で検出される元素の合計を100at%とすると、未焼成絶縁層8Aにおける無機元素Mの合計含有量は、必ずしも限定されないが、たとえば、1at%以上10at%以下であることが好ましい。
【0038】
未焼成絶縁層8Aは、CおよびHを含むが、これらの元素は、後述する焼成過程において消失する。未焼成絶縁層8Aに含まれる元素のうち、焼成で消失する元素の含有割合ROは、75wt%以上、90wt%以下であることが好ましい。未焼成絶縁層8Aにおける当該含有割合ROは、示差熱・熱重量同時測定装置(TG-DTA)を用いて算出すればよい。具体的に、TG-DTAによる解析では、未焼成絶縁層8Aを有する導線2から採取した測定試料を、一定の昇温速度で、700℃まで加熱する。この際の測定試料の重量変化から、焼成で焼失する元素の含有割合ROを算出すればよい。
【0039】
なお、未焼成絶縁層8Aには、P、Bi、Ba、Ca、V、Ge、および、Teから選択される1種以上の元素が含まれていてもよい。これらの元素は、コーティング液中に意図的に添加してもよいし、不純物として未焼成絶縁層8Aに含まれていてもよい。
【0040】
未焼成絶縁層8Aの平均厚みT1Aveは、必ずしも限定されないが、1.5μm以上220μm以下であることが好ましい。未焼成絶縁層8Aの厚みtAのばらつきは、平均厚みT1Aveの±10%の範囲内であることが好ましく、平均厚みT1Aveの±5%の範囲内であることがより好ましい。換言すると、未焼成絶縁層8Aの厚みtAの公差が、±10%の範囲内であることが好ましく、±5%の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
未焼成絶縁層8Aの平均厚みT1Aveを算出する際には、導線2の断面を少なくとも10箇所、解析することが好ましく、未焼成絶縁層8Aの厚みtAを、各断面において10箇所以上、計測することが好ましい。また、当該計測により未焼成絶縁層8Aの最大厚みt1MAXおよび最小厚みt1MINを特定し、T1Ave、t1MAX、および、t1MINに基づいて未焼成絶縁層8Aにおける厚みtAの公差(%)を算出すればよい。具体的に、T1Aveに対するt1MAXの偏差(t1MAX-T1Ave)、および、T1Aveに対するt1MINの偏差(t1MIN-T1Ave)を算出し、絶対値が大きい方の偏差をT1Aveで割ることで、厚みtAの公差を算出する。つまり、「F1=(|t1MAX-T1Ave|/T1Ave)×100」、および、「F2=(|t1MIN-T1Ave|/T1Ave)×100」をそれぞれ算出し、F1およびF2のうち大きい方を、厚みtAの公差(%)として採用する。
【0042】
未焼成絶縁層8Aを有する導線2(
図2A)を、所定の条件で熱処理(焼成処理)し、未焼成絶縁層8Aを焼結させることで、
図2Bに示すような無機絶縁層8Bを有する導線2が得られる。熱処理の条件は、特に限定されないが、たとえば、保持温度を300℃以上900℃以下に設定することが好ましく(より好ましくは500℃以上900℃以下)、温度保持時間を0.5時間以上10時間以下に設定することが好ましい。また、熱処理は窒素などの不活性雰囲気中で行ってもよい。導線2をコイル状に加工する前(導線2を巻回する前)に未焼成絶縁層8Aを形成した場合には、未焼成絶縁層8Aを上記の熱処理により焼結させてから導線2を巻回してもよいし、導線2を巻回した後で、上記の熱処理により未焼成絶縁層8Aを焼結させてもよい。
【0043】
未焼成絶縁層8Aには無機元素Mを含む有機物が存在するが、上記の熱処理により、当該有機物が分解および酸化し、無機元素Mを含有する酸化物の被覆が形成される。つまり、有機物中の無機元素Mは、無機絶縁層8Bに残存し、酸化物となる。その一方で、未焼成絶縁層8Aに含まれる炭素および水素などの有機物由来の元素の大半は、未焼成絶縁層8Aが酸化または/および相変化する過程で、気化し、消失する。たとえば、未焼成絶縁層8A中の炭素は、CO2ガスとなって、絶縁被覆中から消失する。また、未焼成絶縁層8A中の水素は、水蒸気(H2O)となって、絶縁被覆中から消失する。
【0044】
上記のとおり、焼成後の無機絶縁層8Bは、少なくとも無機元素Mを含有する酸化物を含み、有機物を実質的に含まないことが好ましい。無機絶縁層8Bにおける有機物の含有量(残存量)は、TG-DTAを用いて解析することができる。具体的に、TG-DTAによる解析では、無機絶縁層8Bを有する導線2から採取した測定試料を、一定の昇温速度で、700℃まで加熱する。そして、300℃~700℃の温度範囲における測定試料の重量変化から有機物の含有量を算出すればよい。たとえば、300℃での試料重量を基準として、300℃から700℃までの温度範囲における試料重量の変化率が、±3%の範囲内(つまり、-3%以上、+3%以下の範囲内)である場合は、無機絶縁層8Bが「有機物を実質的に含まない」と判断してよい。
【0045】
無機絶縁層8Bの酸化物を構成する無機元素Mは、前述のとおり、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、Ni、および、Mgから選択される1種以上の元素であり、室温での分解性が極めて低いこと、および、高絶縁性を維持できるという観点から、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される1種以上の元素であることが好ましい。無機絶縁層8Bには、上記の酸化物の他に、炭化物、窒化物、および、不可避不純物などが含まれていてもよいが、無機絶縁層8Bにおける酸化物の含有割合が50モル%以上であることが好ましく、75モル%以上であることがより好ましい。
【0046】
無機絶縁層8Bにおいて、無機元素Mを含む酸化物は、簡易式「M-OX」で表すこととする。無機絶縁層8Bに含まれる酸素を除く元素の合計含有量を100at%とすると、無機絶縁層8Bにおける無機元素Mの合計含有量は、50at%以上であることが好ましく、75at%以上であることがより好ましい。
【0047】
なお、無機絶縁層8Bには、P、Bi、Ba、Ca、V、Ge、および、Teから選択される1種以上の元素が含まれていてもよい。これらの元素は、無機絶縁層8Bに意図的に添加してあってもよいし、不純物として無機絶縁層8Bに含まれていてもよい。
【0048】
無機絶縁層8Bの酸化物は、特に、無機元素MとしてSiを含むことがより好ましい。無機絶縁層8Bの酸化物がSiを含む場合、Siの他に、1種または2種の無機元素Mがさらに含まれていてもよい。Siと共に添加される無機元素Mとしては、Ti、B、およびAlから選択される1種以上であることが好ましく、たとえば、無機絶縁層8Bの酸化物が、Si-Ti-OX、Si-B-OX、もしくは、Si-B-Al-OXであることが好ましい。
【0049】
無機絶縁層8Bの酸化物がSi-Ti-OXである場合、無機絶縁層8BにおけるSiおよびTiの合計含有量に対するTiの含有量の比が、2.5at%以上50at%以下であることが好ましく、5.0at%以上40at%以下であることがより好ましく、7.5at%以上25at%以下であることがさらに好ましい。SiおよびTiの合計含有量に対するTiの含有量の比を、2.5at%以上とすることで、無機絶縁層8Bの電気抵抗をより向上させることができる。また、SiおよびTiの合計含有量に対するTiの含有量の比を、50at%以下とすることで、Si-O骨格へTiを効率的に取り込むことができる。
【0050】
無機絶縁層8Bの酸化物がSi-B-OXである場合、無機絶縁層8BにおけるSiおよびBの合計含有量に対するBの含有量の比が、1at%以上20at%以下であることが好ましく、5at%以上15at%以下であることがより好ましい。SiおよびBの合計含有量に対するBの含有量の比を上記範囲とすることで、導線2を300℃以上の高温環境に曝した際に、絶縁被覆において部分的に軟化する箇所が発生し、金属導体部6と絶縁被覆との間に生じる熱応力を緩和させることができる。
【0051】
無機絶縁層8Bの酸化物がSi-B-Al-OXである場合、無機絶縁層8BにおけるSi、B、およびAlの合計含有量に対するBの含有量の比が、1at%以上20at%以下であることが好ましく、5at%以上15at%以下であることがより好ましい。また、無機絶縁層8BにおけるSi、B、およびAlの合計含有量に対するAlの含有量の比が、0.5at%以上5at%以下であることが好ましく、1at%以上3at%以下であることがより好ましい。Si-B-Al-OXにおけるBの含有量または/およびAlの含有量を上記の範囲に設定することで、導線2を300℃以上の高温環境に曝した際に、絶縁被覆において部分的に軟化する箇所が発生し、金属導体部6と絶縁被覆との間に生じる熱応力を緩和させることができる。
【0052】
無機絶縁層8Bにおける酸化物の組成、および、無機元素Mの含有量は、たとえば、EDSまたはWDSを用いた点分析により算出することができる。EDSまたはWDSの点分析は、無機絶縁層8Bの断面において少なくとも10箇所で実施し、その平均値を算出することが好ましい。なお、無機絶縁層8Bにおける酸化物の組成は、コーティング液における原料(アルコキシドやキレート化合物などの有機化合物)の配合比に基づいて制御すればよい。
【0053】
なお、無機絶縁層8Bは、粒状物または/および繊維状物質が堆積したような様態ではなく、緻密性や均質性の高い被膜であることが好ましい。たとえば、無機絶縁層8Bでは、酸化物を構成する無機元素Mおよび酸素が、局所的に偏在することなく、一様に分布していることが好ましい。また、無機絶縁層8Bの酸化物が、2種以上の無機元素Mを含む場合は、各無機元素Mの存在箇所が重複していることが好ましい。
【0054】
無機絶縁層8Bにおける無機元素Mおよび酸素の分布は、たとえば、EDSまたはWDSを用いたマッピング分析により確認することができる。当該分析で得られるマッピング像では、測定対象元素(無機元素M、酸素)の濃度が、検出ピーク(各測定点で検出された特性X線のピーク)の積分強度に応じた輝度として表されており、測定対象元素が偏在しているか否かを目視で確認できる。また、マッピング分析で得られる輝度もしくは積分強度のデータを母集団として、その母集団の平均値、標準偏差、および変動係数(標準偏差/平均値)などを算出することで、測定対象元素の分布を定量的に評価することができる。たとえば、無機絶縁層8Bにおいては、各無機元素Mに関する分布の変動係数、および、酸素分布の変動係数が、いずれも、0.5以下であることが好ましい。
【0055】
上記のとおり、無機絶縁層8Bでは、無機元素Mを含む酸化物が主相であって、当該主相が均質に分散していることが好ましい。たとえば、無機絶縁層8Bにおける主相の面積割合は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。換言すると、無機絶縁層8Bの断面において、主相以外のその他の相の合計面積割合は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。その他の相とは、主相とは組成が異なる酸化物、残留炭素などが挙げられる。なお、上述した各面積割合は、SEMや光学顕微鏡等で無機絶縁層8Bの断面を解析することで算出すればよく、断面解析時の視野範囲は、たとえば、100×100μm2~500×500μm2としてもよい。
【0056】
無機絶縁層8Bの平均厚みT2Aveは、必ずしも限定されないが、1μm以上200μm以下であることが好ましい。無機絶縁層8Bの平均厚みT2Aveを1μm以上に設定することで、被覆の絶縁性をより向上させることができる。また、無機絶縁層8Bの平均厚みT2Aveを200μm以下に設定することで、コイル20の断面における金属導体部6の占積率を十分に確保することができ、漏れ磁束増加に伴うインダクタンスの低下を抑制することができる。
【0057】
また、無機絶縁層8Bの厚みtBのばらつきは、平均厚みT2Aveの±10%の範囲内であることが好ましく、平均厚みT2Aveの±5%の範囲内であることがより好ましい。換言すると、無機絶縁層8Bの厚みtBの公差が、±10%の範囲内であることが好ましく、±5%の範囲内であることがより好ましい。無機絶縁層8Bの平均厚みT2Ave、および、無機絶縁層8Bの厚みtBの公差は、未焼成絶縁層8Aと同様の方法で算出すればよい。
【0058】
本実施形態のコイル20は、空芯コイルとして回路に組み込んでもよいし、磁心と組み合わせて使用してもよい。コイル20を、磁心を擁する磁性部品に適用する場合、非磁性材料からなるボビンに導線2を巻回することでコイル20を構成し、ボビンと磁心とを組み合わせてもよい。また、コイル20の内周壁内に磁心を挿入してもよいし、磁心の外面に導線2を巻回することでコイル20を構成してもよい。さらに、コイル20は、磁性粉末と樹脂とを含む圧粉磁心の内部に埋設して使用してもよい。ただし、本実施形態のコイル20は、高い耐熱性を有するため、コイル20は、特に、焼結体からなる磁心の内部に埋設して使用することが好ましい。たとえば、
図3が、コイル20を含む磁性部品の一例を示す断面図である。
【0059】
図3に示す磁性部品100は、磁心40と、磁心40の内部に存在するコイル20と、図示しない外部端子と、を有する。
【0060】
磁心40は、磁性粉末の焼結体であり、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、もしくはシリコーン樹脂のような樹脂成分を含まない。磁心40の形状および寸法は、特に限定されない。また、磁心40の磁性粉末も、特に限定されず、たとえば、軟磁性金属粉末を用いることが好ましい。軟磁性金属粉末としては、たとえば、Fe-Ni合金粉、Fe-Si合金粉、Fe-Si-Cr合金粉、Fe-Co合金粉、Fe-Si-Al合金粉、Fe基アモルファス合金粉、および、Fe基ナノ結晶合金粉などが例示される。磁性粉末の粒度は特に限定されず、たとえば、磁性粉末の平均粒径は、1μm以上100μm以下としてもよい。
【0061】
磁性粉末が、上記のような軟磁性金属の粒子で構成してある場合、各軟磁性金属粒子の表面には、金属表面の酸化による被膜や、無機化合物を含むコーティング層などの絶縁被膜が形成してあってもよい。この場合、隣接する軟磁性金属粒子が、絶縁被膜を介して互いに接しているか、Si系酸化物を含む粒界相を介して接合している。換言すれば、粒子間には樹脂などの有機物成分が介在しない。軟磁性金属粒子の表面に形成する絶縁被膜の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm以上200nm以下としてもよい。
【0062】
なお、磁心40の磁性粉末は、粒子の組成、または/および、粒径が異なる2種以上の粒子群を含む混合粉であってもよい。たとえば、粒径が25μm以上であるFe-Si合金粒子と、粒径が5μm未満である純Fe粒子とを混ぜ合わせた磁性粉末を用いてもよい。
【0063】
磁性部品100では、コイル20が、焼結体である磁心40の内部に存在しており、コイル20の周囲が焼結した磁性粉末で覆われている。なお、焼結した磁性粉末は、コイル20の周囲のみならず、コイル20の巻線間においても存在していてもよい。このように、コイル20が焼結体の内部に存在する場合、コイル20を構成する導線2では、絶縁被覆が、焼結後の無機絶縁層8Bとして存在する。つまり、磁心40の内部において、コイル20の巻線間(Z方向で隣接する金属導体部6の間)は、無機絶縁層8Bにより絶縁されている。
【0064】
また、コイル20を構成している導線2の端部2e1,2e2は、それぞれ、磁心40の内部から磁心40の外面に引き出されており、磁心40の外面に存在する外部端子に対して電気的に接続してある。端部2e1,2e2と外部端子の接続部分では、局所的に無機絶縁層8Bが除去してあり、金属導体部6と外部端子とが直に接触している。
【0065】
磁性部品100の製造方法は特に限定されない。たとえば、磁心40はプレス成形で製造してもよい。まず、成形用金型のキャビティ内にコイル20を設置する。そして、磁性粉末とバインダとを混ぜ合わせた複合材をキャビティ内に充填し、所定の圧力でキャビティ内を加圧する。その後、コイル20が埋設してある成形体を、焼成することで、コイル20を含む焼結体としての磁心40が得られる。焼成の条件は、磁性粉末が焼結する条件に設定すればよく、特に限定されない。例えば、焼成温度を500℃以上900℃以下とし、焼成時間を0.5時間~10時間としてもよい。なお、焼成の前には、脱バインダ処理を実施してもよい。
【0066】
磁性部品100の製造では、無機絶縁層8Bを有するコイル20を成形体中に埋設してもよい。もしくは、未焼成絶縁層8Aを有するコイル20を成形体中に埋設し、磁心40の焼成と同時に未焼成絶縁層8Aを焼成してもよい。生産効率の観点では、後者のように、磁心40の焼成と同時にコイル20の絶縁被覆を焼成させることが好ましい。いずれにせよ、焼結後の磁心40の内部では、コイル20の無機絶縁層8Bが、有機物を実質的に含まない。
【0067】
樹脂(たとえば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、もしくは、ウレタン樹脂など)を含む絶縁被膜を擁する従来の導線でコイルを形成した場合、上記のように磁心を焼結させると、樹脂を含む絶縁被膜が焼失してしまう。もしくは、絶縁被膜中の樹脂が炭化することで、絶縁被膜の電気抵抗が著しく低下してしまう。その結果、コイルにおける導線間の絶縁性が損なわれてしまう。つまり、コイルの巻線間が短絡し、コイルにおける導線の巻き数が減少してしまう。その結果、磁心を焼結させても、インダクタンスが低下してしまう。
【0068】
これに対して、本実施形態のコイル20を使用する場合、少なくとも磁心40の焼成過程で、コイル表面の絶縁被覆が高い耐熱性を有する無機絶縁層8Bとなるため、磁心40を焼成した後においても、コイル20における巻線間の絶縁性を維持することができる。また、コイル20の周囲および巻線間に存在する磁性粉末と、導線2の金属導体部6とが接触することを抑制できる。このように、コイル20が高い耐熱性を有するため、コイル20を埋設した状態で、磁心40を焼結させることができ、磁心40を焼結することで、磁心40における磁性粉末の充填率が向上する。その結果、磁心40の透磁率が大幅に向上するため、磁性部品100では、磁性粉末と樹脂とを含む圧粉磁心からなる従来の磁性部品よりも、高いインダクタンスを得ることができる。なお、
図3に示す磁性部品100は、インダクタとして様々な回路で使用することができる。
【0069】
(実施形態のまとめ)
本実施形態のコイル20は、巻回された導線2を有し、当該導線2が、Cuを含む金属導体部6と、前記金属導体部を覆う絶縁被覆と、を有する。コイル20の表面に存在する絶縁被覆は、焼成の前後で、未焼成絶縁層8Aと、無機絶縁層8Bとに区別できる。
【0070】
焼成前の絶縁被覆である未焼成絶縁層8Aは、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、Ni、および、Mgから選択される1種以上の無機元素Mを含有する有機物を含む。上記のような未焼成絶縁層8Aを有するコイル20を、300℃以上の温度で加熱すると、金属導体部6の表面に無機元素Mを含む酸化物の被覆(無機絶縁層8B)が形成される。つまり、未焼成絶縁層8Aを有するコイル20では、焼成前のみならず焼成後においても、巻線間の絶縁性を維持することができる。その結果、未焼成絶縁層8Aを有するコイル20では、焼成後において高いインダクタンスを得ることができる。
【0071】
未焼成絶縁層8Aの有機物は、無機元素Mとして、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。コイル20が上記の要件を満たすことで、焼成後に、室温で分解が極めて発生しづらい安定的な酸化物の被覆が得られ、巻線間の絶縁性をより長期間維持できる。
【0072】
未焼成絶縁層8Aの平均厚みT1Aveは、1.5μm以上220μm以下であることが好ましい。未焼成絶縁層8Aが上記の平均厚みT1Aveを有することで、コイル20の耐熱性をより向上させることができる。
【0073】
焼成後の絶縁被覆である無機絶縁層8Bは、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、B、Ni、および、Mgから選択される1種以上の無機元素Mを含有する酸化物を含む。上記のような無機絶縁層8Bは、高い電気抵抗を有しており、巻線間が短絡することを防止できる。すなわち、無機絶縁層8Bを有するコイル20は、高い耐熱性を有する。
【0074】
無機絶縁層8Bの酸化物は、無機元素Mとして、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。コイル20が上記の要件を満たすことで、室温において被覆中の酸化物が分解し難く、巻線間の絶縁性をより長期間維持できる。
【0075】
無機絶縁層8Bの平均厚みT2Aveは、1μm以上200μm以下であることが好ましい。無機絶縁層8Bが上記の平均厚みT2Aveを有することで、コイル20の耐熱性をより向上させることができる。また、コイル20の断面における金属導体部6の占積率を十分に確保することができ、漏れ磁束増加に伴うインダクタンスの低下を抑制することができる。
【0076】
上記のとおりコイル20が高い耐熱性を有するため、コイル20を磁性部品に適用する場合、コイル20を内包する磁心40を焼結させることができる。たとえば、
図3に示す磁性部品100では、無機絶縁層8Bを有するコイル20が、焼結した磁心40の内部に存在する。磁性部品100では、巻線間の絶縁性を維持しつつ、磁性粉末の充填率を、磁性粉末と樹脂とを含む圧粉磁心よりも向上させることができる。その結果、磁心40の透磁率が大幅に向上するため、磁性部品100では、従来よりも高いインダクタンスを得ることができる。
【0077】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0078】
たとえば、前述のとおり、導線2の形状は特に限定されず、導線2は平角線であってもよい。
図4Aは、平角線(導線2α)からなるコイル20αを例示した斜視図である。
図4Aのコイル20αでは、平角線である導線2αが、Z軸に沿って巻回してある。コイル20αでは、エッジワイズ方式が採用されており、導線2αの長幅(
図4Bに示すWx)の方向がZ軸(巻回軸)と交差するように、導線2αが巻回されている。平角線である導線2αを用いる場合の巻回方式は、
図4Aに限定されず、フラットワイズ方式を採用してもよい。フラットワイズ方式の場合は、長幅(
図4Bに示すWx)の方向がZ軸(巻回軸)と一致するように、導線αを巻回する。平角線である導線2αを用いる場合においても、導線2αの巻き数は、特に限定されず、所望のコイル特性に応じて適宜決定すればよい。また、導線2αは多層巻きされていてもよい。
【0079】
コイル20αを構成する導線2αは、
図2Aおよび
図2Bの丸線状の導線2と同様に、金属導体部6と、金属導体部6を覆う絶縁被覆(8A,8B)と、を有する(
図4B参照)。導線2αの場合、金属導体部6のX軸方向の幅Wx(長幅)は、たとえば、0.1mm以上2.5mm以下であることが好ましく、金属導体部6のZ軸方向の幅Wz(短幅)は、たとえば、0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましい。平角線における金属導体部6の寸法は、上記の寸法範囲に必ずしも限定されない。
【0080】
また、金属導体部6は、組成が異なる2以上の領域を有していてもよい。たとえば、金属導体部6は、
図5に示す導線2βのように、本体部6aと、金属被覆層6bと、を有していてもよい。
図5では、導線2βが円状の断面形状を有する丸線であるが、
図4Bに示すような平角線の場合でも、金属導体部6が、本体部6aと、金属被覆層6bと、を有していてもよい。金属被覆層6bは、本体部6aを覆う金属成分からなる層であり、メッキ法や蒸着法などで形成してもよい。また、金属被覆層6bは、2種以上のメッキ層を積層した構造を有していてもよい。なお、金属導体部6が金属被覆層6bを有する場合、絶縁被覆(8A,8B)は、金属被覆層6bの表面を覆い、導線2βの最も外側に位置する。金属導体部6の本体部6aと、絶縁被覆(8A,8B)との間に金属被覆層6bを形成することで、導線2βの可撓性が向上する可能性がある。
【0081】
図5に示す導線2βの場合、Cuは、本体部6aまたは金属被覆層6bのいずれか一方に含まれていてもよいし、本体部6aおよび金属被覆層6bの両方に含まれていてもよい。たとえば、本体部6aを純銅もしくは銅合金とし(すなわち本体部6aの主成分をCuとし)、当該本体部6aの表面に、Ni、Cr、Al、Ag、および、Znから選択される1種以上を含む金属被覆層6bを形成してもよい。もしくは、本体部6aを純AlもしくはAl合金とし、当該本体部6aの表面にCuを含む金属被覆層6bを形成してもよい(所謂、銅被覆アルミ線)。
【0082】
金属被覆層6bの平均厚みは、特に限定されず、たとえば、10μm以上150μm以下としてもよい。また、本体部6aは、
図2Aにおける平均直径D、もしくは、
図4Bにおける幅Wx,Wzと同様の寸法を有していてもよい。
【実施例0083】
以下、本開示をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。
【0084】
(実験1)
実験1では、以下に示す手順で、表1および表2に示す15種類(表1の実施例1~13、表2の比較例1~2)の空芯コイルを製造した。
【0085】
実施例1~13
まず、導線として、0.65mm×0.180mmの断面寸法を有する平角線状のCu線を準備し、ディップコーティング法によりCu線の表面に未焼成絶縁層を形成した。
【0086】
未焼成絶縁層を形成する際には、まず、無機元素Mを含有する原料を添加したコーティング液を調製した。具体的に、各実施例では、以下に示す原料を含むコーティング液を準備した。実施例1はトリメチルエトキシシラン(Si源)を使用し、実施例2はアルミニウムセカンダリ-ブトキシド(Al源)を使用し、実施例3はジルコニウムテトラ-n-プロポキシド(Zr源)を使用し、実施例4はジンクエトキシド(Zn源)を使用し、実施例5はチタンテトラ-n-ブトキシド(Ti源)を使用し、実施例6はペンタエトキシニオブ(Nb源)を使用し、実施例7はペンタエトキシタンタル(Ta源)を使用し、実施例8はトリブトキシボラン(B源)を使用し、実施例12はニッケルジエトキシド(Ni源)を使用し、実施例13はマグネシウムジエトキシド(Mg源)を使用した。また、実施例9は、トリメチルエトキシシランと、チタンテトラ-n-ブトキシドとを配合したコーティング液を使用し、実施例10は、トリメチルエトキシシランと、トリブトキシボランとを配合したコーティング液を使用し、実施例11は、トリメチルエトキシシランと、トリブトキシボランと、アルミニウムセカンダリ-ブトキシドとを配合したコーティング液を使用した。
【0087】
次に、平角線状のCu線を、上記のコーティング液に30秒間浸し、静置した。その後、コーティング液から取り出したコイルを、100℃で、30分間、加熱して乾燥させた。このコーティング液への浸漬と乾燥処理とを、3回繰り返すことで、未焼成絶縁層を有するCu線を作製した。
【0088】
次に、未焼成絶縁層を有するCu線を、エッジワイズ方式で、螺旋状に巻回することで、未焼成絶縁層を有する空芯コイルを得た。この際、Cu線の巻き数は、6.5ターンに設定し、巻回後のコイルの内径は、2.0mmに設定した。
【0089】
焼成前の絶縁被覆の解析
空芯コイルを構成する導線の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、Cu線の表面に存在する未焼成絶縁層の厚みtAを計測した。導線の断面は、各試料につき、それぞれ10箇所解析し、各断面において厚みtAを10箇所計測し、その計測結果から未焼成絶縁層の平均厚みT1Ave(μm)を算出した。また、各実施例においては、SEMによる断面解析時に、EDSによる点分析を実施し、未焼成絶縁層の有機物中に含まれる無機元素Mを同定した。各実施例では、コーティング液の成分に応じて、狙い通り、表1に示す無機元素Mが有機物中に含まれていることが確認できた。
【0090】
焼成前のインダクタンスL1の測定
焼成前における空芯コイルのインダクタンスL1(μH)を、LCRメータを用いて測定した。この際、測定周波数は1MHzに設定した。
【0091】
<絶縁被覆の焼成>
未焼成絶縁層を焼結させるために、各実施例の空芯コイルに対して、熱処理(焼成処理)を施した。熱処理では、保持温度を700℃に設定し、温度保持時間を1時間に設定した。各実施例では、当該熱処理により、未焼成絶縁層が焼結し、無機絶縁層を有する空芯コイルが得られた。
【0092】
焼成後の絶縁被覆の解析
焼成前の未焼成絶縁層の解析と同様の方法で、各実施例における無機絶縁層の平均厚みT2Aveを測定した。また、SEMによる断面解析時に、EDSによる点分析を実施し、無機絶縁層の酸化物に含まれる無機元素Mを同定した。各実施例では、未焼成絶縁層と同様に、コーティング液の成分に応じて、狙い通り、表1に示す無機元素Mが酸化物中に含まれていることが確認できた。
【0093】
TG-DTAを用いて、無機絶縁層に残存する有機物量を測定したところ、全ての実施例において、無機絶縁層が有機物を実質的に含まないことが確認できた。また、EDSによるマッピング分析を実施したところ、各実施例では、無機元素Mおよび酸素が、無機絶縁層中で重複して一様に分布していることが確認でき、無機元素Mを含む酸化物の面積割合が、無機絶縁層の面積に対して、90%以上であった。
【0094】
なお、実施例9では、無機絶縁層がSi-Ti-OXで表される酸化物を含んでおり、無機絶縁層におけるSiおよびTiの合計含有量に対するTiの含有量の比が、2.5at%以上50at%以下の範囲内であった。実施例10では、無機絶縁層がSi-B-OXで表される酸化物を含んでおり、無機絶縁層におけるSiおよびBの合計含有量に対するBの含有量の比が、1at%以上20at%以下の範囲内であった。また、実施例11では、無機絶縁層がSi-B-Al-OXで表される酸化物を含んでおり、無機絶縁層におけるSi、B、およびAlの合計含有量に対して、Bの含有量の比が、1at%以上20at%以下の範囲内であり、Alの含有量の比が、0.5at%以上5at%以下の範囲内であった。
【0095】
焼成後のインダクタンスL1の測定
焼成前と同様に、焼成後における空芯コイルのインダクタンスL2(μH)を、LCRメータを用いて測定した。この際、測定周波数は1MHzに設定した。
【0096】
コイルの耐熱性評価
コイルの耐熱性は、焼成後のインダクタンスの変化率(%)に基づいて評価した。具体的に、インダクタンスの変化率は、焼成前のインダクタンスL1と、焼成後のインダクタンスL2とを、計算式「((L2-L1)/L1)×100」に代入することで算出した。実験1では、インダクタンスの変化率が-25%以上である試料の耐熱性を、「良好」と判定し、インダクタンスの変化率が-15%以上である試料の耐熱性を、「特に良好」と判定した。
【0097】
比較例1および比較例2
比較例1では、ポリアミドイミド樹脂からなる絶縁被覆を有する平角線状のCu線を準備し、当該Cu線を、エッジワイズ方式で、螺旋状に巻回することで空芯コイルを製造した。使用したCu線の断面における導体部分の寸法は0.65mm×0.180mmであった。また、Cu線の巻き数は、6.5ターンに設定し、巻回後のコイルの内径は、2.0mmに設定した。
【0098】
比較例2では、ポリイミド樹脂からなる絶縁被覆を有する平角線状のCu線を準備し、当該Cu線を、エッジワイズ方式で、螺旋状に巻回することで空芯コイルを製造した。使用したCu線の断面における導体部分の寸法は0.65mm×0.180mmであった。また、Cu線の巻き数は、6.5ターンに設定し、巻回後のコイルの内径は、2.0mmに設定した。
【0099】
比較例1および比較例2では、上記の方法で製造した後の空芯コイルのインダクタンスをL1として、LCRメータを用いて測定した。L1を計測した後、空芯コイルを、700℃で1時間、熱処理した。比較例1および比較例2では、当該熱処理を実施した後のインダクタンスをL2として、LCRメータを用いて測定した。なお、L1およびL2を測定する際には、測定周波数を1MHzに設定した。比較例1および比較例2においても、実施例と同様に、計算式「((L2-L1)/L1)×100」に基づいて、熱処理後のインダクタンスの変化率(%)を算出し、コイルの耐熱性を評価した。
【0100】
実験1の各実施例の評価結果を表1に示し、各比較例の評価結果を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0101】
表2に示すように、比較例1および比較例2では、いずれも、700℃での熱処理後に、樹脂を含む絶縁層が焼失し、巻線間が短絡してしまった。そのため、比較例1および比較例2では、熱処理後のインダクタンスL2が、熱処理前のL1よりも大幅に低下した。
【0102】
一方、表1に示すように、実施例1~13の空芯コイルでは、未焼成絶縁層が所定の無機元素Mを含有する有機物を含むことで、700℃での焼成処理後においても、巻線間の絶縁抵抗が保つことができ、高い耐熱性が得られた。換言すると、所定の無機元素Mを含有する酸化物で構成される無機絶縁層を、空芯コイルの表面に形成することで、高い耐熱性が得られた。
【0103】
特に、実施例1~11では、実施例12~13よりもインダクタンスの変化率を小さくすることができた。この結果から、無機絶縁層の酸化物が、Si、Al、Zr、Zn、Ti、Nb、Ta、およびBから選択される少なくとも1種の無機元素Mを含むことで、コイルの耐熱性がさらに向上することがわかった。
【0104】
(実験2)
実験2では、絶縁被覆の平均厚みが異なる表3~表13に示す空芯コイルを製造した。具体的に、絶縁被覆の平均厚みは、ディップコーティング工程の繰り返し回数に基づいて、表3~表13に示す値に制御した。
【0105】
表3の実施例1A~1Fでは、実験1の実施例1と同じコーティング液を用い、表4の実施例2A~2Fでは、実施例2と同じコーティング液を用い、表5の実施例3A~3Fでは、実施例3と同じコーティング液を用い、表6の実施例4A~4Fでは、実施例4と同じコーティング液を用い、表7の実施例5A~5Fでは、実施例5と同じコーティング液を用い、表8の実施例6A~6Fでは、実施例6と同じコーティング液を用い、表9の実施例7A~7Fでは、実施例7と同じコーティング液を用い、表10の実施例8A~8Fでは、実施例8と同じコーティング液を用い、表11の実施例9A~9Fでは、実施例9と同じコーティング液を用い、表12の実施例10A~10Fでは、実施例10と同じコーティング液を用い、表13の実施例11A~11Fでは、実施例11と同じコーティング液を用いた。
【0106】
実験2の各実施例においても、実験1と同様の評価を実施した。実験2では、焼成前のインダクタンスL1が0.0700μH以上で、かつ、インダクタンスの変化率が-7.5%以上の試料を、「特に良好」と判定した。実験2の評価結果を表3~表13に示す。
【0107】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【0108】
表3~表13に示すように、未焼成絶縁層の平均厚みが1.5μm以上220μm以下の試料で、焼成前のインダクタンスL1が0.0700μH以上となり、かつ、焼成後のインダクタンスの変化率が-7.5%となった。実験2の結果から、未焼成絶縁層の平均厚みは、1.5μm以上220μm以下であることが好ましく、無機絶縁層の平均厚みは、1μm以上200μm以下であることが好ましいことがわかった。
【0109】
(実験3)
実験3では、実験1で製造したコイルを用いて、表14および表15に示す13種類(表14の実施例M1~実施例M11、表15の比較例M1~M2)の磁性部品(インダクタ)を製造した。実験3の各実施例および各比較例では、試料番号に付した数字が、実験1における試料番号に対応している。つまり、比較例M1では、比較例1と同様にポリアミドイミド樹脂の絶縁被覆を有するコイルを用い、比較例M2では、比較例2と同様にポリイミド樹脂の絶縁被覆を有するコイルを用いた。また、実施例M1~M11は、それぞれ、実施例1~11と同様に、表14に示す無機元素Mを含有する絶縁被覆を有するコイルを用いた。各実施例および各比較例で使用したコイルの線径(Cu線の平均直径)およびコイルの内径は、実験1と同様とした。
【0110】
実験3の各実施例および各比較例では、いずれも、磁性粉末として、Fe-Si合金粉末を用いた。実験3で使用したFe-Si合金粉末の平均粒径は30μmであり、各粒子の表面には、50nmの平均厚みを有し、かつ、SiおよびTiの複合酸化物からなる絶縁被膜を形成した。実験3では、上記のFe-Si合金粉末を、バインダであるシリコーン樹脂と混ぜ合わせて複合材を得た。
【0111】
各実施例では、成形用金型のキャビティ内に未焼成絶縁層を有するコイルを設置した後、キャビティ内に上記の複合材を充填し、加圧した。当該成形工程により、圧粉磁心の内部に未焼成絶縁層を有するコイルが埋設してある磁性部品を得た。実験3では、成形後の磁性部品のインダクタンスL3(μH)を、LCRメータを用いて測定した。この際、測定周波数は1MHzに設定した。
【0112】
また、実験3では、インダクタンスL3を測定した後、磁性部品を、700℃で1時間、熱処理し、圧粉磁心を焼結させた。各実施例では、当該熱処理により、コイルの絶縁被覆が、有機物を実質的に含まない無機絶縁層となったことが確認でき、当該無機絶縁層の酸化物が、表14に示す無機元素Mを含んでいることが確認できた。
【0113】
上記の方法で圧粉磁心を焼結させた後、焼結後の磁性部品のインダクタンスL4(μH)を、LCRメータを用いて測定した。この際、測定周波数は1MHzに設定した。実験3では、焼結後のインダクタンスL4が成形後のインダクタンスL3よりも大きくなった試料(すなわち、L3<L4を満たす試料)を、「良好」と判定した。実験3の評価結果を表14および表15に示す。
【0114】
【0115】
表15に示すように、比較例M1および比較例M2では、焼結により磁性粉末の充填率が向上したものの、コイル表面の絶縁被覆(樹脂を含む絶縁被覆)が熱処理中に消失し、コイルの巻線間が短絡してしまった。その結果、コイルの実質的な巻き数が磁心の焼結後に減少し、焼結後のインダクタンスL4が成形後のインダクタンスL3よりも大幅に減少してしまった。
【0116】
一方、表14に示すように、所定の無機元素Mを含む絶縁被覆(未焼成絶縁層、無機絶縁層)を有するコイルを使用した実施例M1~実施例M11では、磁心の焼結後においても、無機絶縁層による巻線間の絶縁抵抗が保たれていた。そして、実施例M1~実施例M11では、磁心の焼結により磁性粉末の充填率が向上したことで、成形後のインダクタンスL3よりも高いインダクタンスL4を得ることができた。