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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007927
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】燃料電池電極触媒層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240112BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240112BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240112BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109352
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 龍一
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 正哲
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
(72)【発明者】
【氏名】信川 健
(72)【発明者】
【氏名】綾戸 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】堀内 洋輔
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018EE03
5H018EE12
5H018EE17
5H018HH02
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH06
5H018HH08
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒を備えた燃料電池電極触媒層において、高湿度条件下における発電性能を向上させること。
【解決手段】燃料電池電極触媒層は、多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒と、アイオノマと、疎水性分子とを備えている。前記酸化スズ系粒子は、多孔質の一次粒子が数珠状に融着している構造(連珠状構造)を備えているものが好ましい。前記疎水性分子の修飾量は、0.2mass%以上8.0mass%以下が好ましい。但し、前記「疎水性分子の修飾量」とは、前記電極触媒及び前記疎水性分子の総質量に対する前記疎水性分子の質量の割合をいう。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒と、
アイオノマと、
疎水性分子と
を備えた燃料電池電極触媒層。
【請求項2】
前記酸化スズ系粒子は、多孔質の一次粒子が数珠状に融着している構造(連珠状構造)を備えている請求項1に記載の燃料電池電極触媒層。
【請求項3】
前記酸化スズ系粒子は、比表面積が60m2/g以上である請求項1に記載の燃料電池電極触媒層。
【請求項4】
前記酸化スズ系粒子は、圧粉体の導電率が1×10-3S/cm以上である請求項1に記載の燃料電池電極触媒層。
【請求項5】
前記酸化スズ系粒子の細孔径は、5nm以上8nm以下である請求項1に記載の燃料電池電極触媒層。
【請求項6】
前記酸化スズ系粒子の細孔容量(担持前細孔容量)は、0.1cc/g以上0.4cc/g以下である請求項1に記載の燃料電池電極触媒層。
【請求項7】
前記酸化スズ系粒子の質量(S)に対する前記アイオノマの質量(I)の比(=I/S)が0.13以上0.39以下である請求項1に記載の燃料電池電極触媒層。
【請求項8】
前記疎水性分子の修飾量は、0.2mass%以上8.0mass%以下である請求項1に記載の燃料電池電極触媒層。
但し、前記「疎水性分子の修飾量」とは、前記電極触媒及び前記疎水性分子の総質量に対する前記疎水性分子の質量の割合をいう。
【請求項9】
高加湿条件下における活性が260A/gPt以上であり、及び/又は、
過加湿条件下における活性が100A/gPt以上である
請求項1から8までのいずれか1項に記載の燃料電池電極触媒層。
但し、
「高加湿条件下における活性」とは、 前記燃料電池電極触媒層を空気極に用いた固体高分子形燃料電池セルを作製し、セル温度:60℃、空気極ガス相対湿度:80%、セル電圧:0.86Vの条件下で発電を行った場合における酸素還元反応の質量活性、
「過加湿条件下における活性」とは、 前記燃料電池電極触媒層を空気極に用いた固体高分子形燃料電池セルを作製し、セル温度:60℃、空気極ガス相対湿度:160%、セル電圧:0.86Vの条件下で発電を行った場合における酸素還元反応の質量活性。
【請求項10】
高加湿条件下における活性が100A/gPt以上であり、
高加湿条件下における触媒層抵抗が0.1Ωcm-2以下である
請求項1から8までのいずれか1項に記載の燃料電池電極触媒層。
但し、
「高加湿条件下における活性」とは、 前記燃料電池電極触媒層を空気極に用いた固体高分子形燃料電池セルを作製し、セル温度:60℃、空気極ガス相対湿度:80%、セル電圧:0.86Vの条件下で発電を行った場合における酸素還元反応の質量活性、
「高加湿条件下における触媒層抵抗」とは、 前記燃料電池電極触媒層を空気極に用いた固体高分子形燃料電池セルを作製し、セル温度:60℃、空気極ガス相対湿度:80%、空気極ガス:N2、燃料極ガスH2、セル電圧:0.4Vの条件下で交流インピーダンス法によるインピーダンス測定を行うことにより得られる値。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池電極触媒層に関し、さらに詳しくは、多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒を備えた燃料電池電極触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜の両面に触媒層が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置される。さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。PEFCは、通常、このようなMEA、ガス拡散層及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
PEFCにおいて、触媒層は、一般に、担体表面に白金などの触媒金属微粒子を担持させた電極触媒と、触媒層アイオノマとの混合物からなる。触媒担体には、従来、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの炭素材料が主に用いられてきた。特に、近年、メソ孔を有するカーボン担体が注目されている(非特許文献1)。粒径と細孔径とが適切に制御された多孔質カーボン粒子を担体に用いると、アイオノマのスルホン酸基による触媒被毒の低減と、担体細孔内のクヌーセン拡散抵抗の低減とを両立でき、低負荷性能と高負荷性能との背反のないセル性能が得られることが分かっている(特許文献1)。
【0004】
しかし、カーボン担体は高電位に曝されると酸化腐食し、担体上に担持された触媒金属微粒子が脱落すること、及びこれによって電極性能が低下することが知られている。このため、高電位で安定な導電性金属酸化物を担体材料として用いることが提案されている。
例えば、非特許文献2には、異元素(M=Nb、Sb、Ta、W等)をドープした多孔質酸化スズ粒子(M-SnO2)は、高電位安定性の観点で有望な担体材料となる可能性がある点が示唆されている。
【0005】
特許文献2には、
(a)4at%のNbをドープしたSnO2からなる担体に、7mass%のPtを担持した粉体(電極触媒)を作製し、
(b)粉体、固体高分子電解質、及び、グラファイトカーボンブラック(GCB)を含む触媒インクを作製し、
(c)触媒インクを電解質膜の両面に塗布する
ことにより得られる触媒層被覆電解質膜(CCM)が開示されている。
同文献には、触媒層にGCBのような高疎水性物質を添加すると、触媒担体として親水性が比較的高い担体を使用した場合であっても、触媒層から生成水が排出されやすくなり、フラッディングを抑制できる点が記載されている。
【0006】
特許文献3には、
(a)SiO2ナノファイバーからなる不織布の表面に白金薄層を形成することにより、Pt/SiO2NF電極を作製し、
(b)フッ素系高分子を含む希釈溶液にPt/SiO2NF電極を浸漬し、乾燥させる
ことにより得られる燃料電池電極が開示されている。
同文献には、薄層貴金属を備えた燃料電池電極に対して疎水性分子を添加すると、耐フラッディング性が大きく向上する点が記載されている。
【0007】
さらに、非特許文献3には、超臨界CO2を溶媒に用いてPt@C活性層にフッ素系高分子バインダーを導入する方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、カーボン担体表面に、極めて均一でかつ薄いフッ素系高分子被膜を析出させることができる点が記載されている。
【0008】
酸化スズ粒子の表面は親水的であるため、これを触媒担体に用いた場合、高湿度条件下ではPt近傍に水が滞留し、酸素還元反応が阻害されやすい。特に、多孔質酸化スズ担体のメソ孔内にPtが担持されている場合、高負荷運転時や過加湿条件下では、水がメソ孔内に滞留し、フラッディングが起こりやすいと考えられる。
【0009】
一方、特許文献2では、Pt/Nb-SnO2を含む触媒層に高疎水性物質を添加する方法が提案されている。しかしながら、同文献で用いられているNb-SnO2担体はメソ孔を有さない中実粒子であり、高疎水性物質はGCBである。そのため、同文献に記載の方法を、親水性の多孔質担体を備えた触媒層に適用しても、多孔質担体の細孔内を撥水化することはできない。
【0010】
特許文献3及び非特許文献3には、触媒層に疎水性分子を添加する方法が提案されている。しかしながら、これらの文献で用いられている担体は、SnO2ではなく、かつ、メソ孔を有さない中実構造の担体である。
さらに、多孔質の酸化スズを担体に用いた電極触媒において、電極触媒の表面及び/又は細孔内の疎水性を向上し、高湿度条件下における発電性能を向上させることが可能な方法が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2021-084852号公報
【特許文献2】国際公開第2015/151714号
【特許文献3】特開2016-071960号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】S. Ott et al., Nature Mater., 2019, 19, 77
【非特許文献2】Jalalpoor et al., J. Electrochem. Soc., 2021, 168, 024502
【非特許文献3】Elmanovich et al., Int. J. Hydrog. Energy, 2013, 38, 10592
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒を備えた燃料電池電極触媒層において、高湿度条件下における発電性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る燃料電池電極触媒層は、
多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒と、
アイオノマと、
疎水性分子と
を備えている。
【発明の効果】
【0015】
多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒を備えた触媒層に対してさらに疎水性分子を添加すると、高加湿条件下における発電性能が向上する。
特に、触媒層に疎水性分子を添加する方法として、分散法(電極触媒を撥水化処理した後に触媒層を作製する方法)を用いた場合において、疎水性分子の添加量を最適化すると、高加湿条件下及び/又は過加湿条件において相対的に高い酸素還元反応(ORR)活性を示す触媒層が得られる。これは、分散法を用いると、親水的な酸化スズ系粒子の表面が疎水性分子で直接、被覆され、電極触媒の撥水性が高くなるためと考えられる。
【0016】
一方、触媒層に疎水性分子を添加する方法として、ディップコート法(触媒層を作製した後に電極触媒を撥水化処理する方法)を用いた場合において、疎水性分子の添加量を最適化すると、高加湿条件下において、相対的に高いORR活性と、相対的に低い触媒層抵抗とを示す触媒層が得られる。これは、ディップコート法を用いると、電極触媒に適度な撥水性が付与されると同時に、電極触媒粒子間の電子伝導パスが確保されやすくなるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(A)は、ディップコート法を用いて作製された触媒層の模式図である。図1(B)は、分散法を用いて作製された触媒層の模式図である。
図2図2(A)は、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層を備えたセルの80%RHにおけるI-V曲線である。図2(B)は、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層を備えたセルの160%RHにおけるI-V曲線である。
図3図3(A)は、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層を備えたセルの80%RHにおけるI-V曲線である。図3(B)は、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層を備えたセルの160%RHにおけるI-V曲線である。
【0018】
図4図4(A)は、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層のIR補正電圧0.84VにおけるORR質量活性である。図4(B)は、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層のIR補正電圧0.84VにおけるORR質量活性である。
図5図5(A)は、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層のECSAである。図5(B)は、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層のECSAである。
図6】実施例4及び比較例2で得られた電極触媒の80%RHにおけるアニオン吸着率である。
【0019】
図7図7(A)は、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層の触媒層抵抗である。図7(B)は、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層の触媒層抵抗である。
図8図8(A)は、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層の酸素移動抵抗である。図8(B)は、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層の酸素移動抵抗である。
図9】実施例4及び比較例2で得られた電極触媒の水蒸気吸着等温線である。
図10】比較例2、実施例4、及び、実施例6で得られた電極触媒のFIB加工後の断面のHAADF-STEM像から得られたEDXスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 燃料電池電極触媒層]
本発明に係る燃料電池電極触媒層(以下、単に「触媒層」ともいう)は、以下の構成を備えている。
【0021】
[構成1]
多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒と、
アイオノマと、
疎水性分子と
を備えた燃料電池電極触媒層。
【0022】
[構成2]
前記酸化スズ系粒子は、多孔質の一次粒子が数珠状に融着している構造(連珠状構造)を備えている構成1に記載の燃料電池電極触媒層。
【0023】
[構成3]
前記酸化スズ系粒子は、比表面積が60m2/g以上である構成1又は2に記載の燃料電池電極触媒層。
【0024】
[構成4]
前記酸化スズ系粒子は、圧粉体の導電率が1×10-3S/cm以上である構成1から3までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0025】
[構成5]
前記酸化スズ系粒子の細孔径は、5nm以上8nm以下である構成1から4までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0026】
[構成6]
前記酸化スズ系粒子の細孔容量(担持前細孔容量)は、0.1cc/g以上0.4cc/g以下である構成1から5までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0027】
[構成7]
前記酸化スズ系粒子の質量(S)に対する前記アイオノマの質量(I)の比(=I/S)が0.13以上0.39以下である構成1から6までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0028】
[構成8]
前記疎水性分子の修飾量は、0.2mass%以上8.0mass%以下である構成1から7までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0029】
[構成9]
高加湿条件下における活性が260A/gPt以上であり、及び/又は、
過加湿条件下における活性が100A/gPt以上である
構成1から8までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0030】
[構成10]
高加湿条件下における活性が100A/gPt以上であり、
高加湿条件下における触媒層抵抗が0.1Ωcm-2以下である
構成1から8までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0031】
[構成11]
前記酸化スズ系粒子は、Sb、Nb、Ta、及び/又は、WがドープされたSnO2からなる構成1から10までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0032】
[構成12]
前記Pt系微粒子の平均粒径は、5nm以下である構成1から11までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0033】
[構成13]
前記疎水性分子は、Cytop(登録商標)(AGC製、CTL-109A)、Teflon(登録商標)AF(Chemours製、1600又は2400)、及び/又は、Hyflon(登録商標)(Solvay製、AD60)である構成1から12までのいずれか1つに記載の燃料電池電極触媒層。
【0034】
[1.1. 電極触媒]
電極触媒は、
多孔質の酸化スズ系粒子と、
多孔質の酸化スズ系粒子の表面に担持されたPt系微粒子と
を備えている。
【0035】
[1.1.1. 酸化スズ系粒子]
[A. 組成]
「酸化スズ系粒子」とは、SnO2からなる粒子、又は、ドーパントを含むSnO2からなる粒子をいう。
本発明において、ドーパントの種類は、特に限定されない。ドーパントとしては、例えば、Nb、Sb、W、Ta、Alなどがある。SnO2には、これらのいずれか1種のドーパントが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0036】
これらの中でも、酸化スズ系粒子は、Sb、Nb、Ta、及び/又は、WがドープされたSnO2が好ましい。
特に、酸化スズ系粒子は、SbがドープされたSnO2が好ましい。SbがドープされたSnO2は、他のドーパントを含むSnO2と比べて導電率が高いので、Pt系微粒子を担持するための触媒担体として好適である。
【0037】
SbがドープされたSnO2において、Sbのドープ量が多くなるほど、導電性が高くなる。このような効果を得るためには、Sbのドープ量は、2.5at%以上が好ましい。Sbのドープ量は、さらに好ましくは、5.0at%以上である。
一方、Sbのドープ量が過剰になると、キャリア濃度が過剰となり、導電性が低下する場合がある。従って、Sbのドープ量は、15.0at%以下が好ましい。Sbのドープ量は、さらに好ましくは、10.0at%以下である。
【0038】
[B. 比表面積]
一般に、酸化スズ系粒子の比表面積が大きくなるほど、Pt系微粒子を高分散に担持することができるので、ORR質量活性が向上する。そのため、酸化スズ系粒子の比表面積は、大きいほど良い。高いORR質量活性を得るためには、酸化スズ系粒子の比表面積は、30m2/g以上が好ましい。比表面積は、さらに好ましくは、50m2/g以上、60m2/g以上、90m2/g以上、あるいは、100m2/g以上である。
【0039】
[C. 細孔径]
酸化スズ系粒子は、その内部に細孔径が50nm以下である細孔(以下、これを「メソ孔」ともいう)を有しているものが好ましい。
ここで、「メソ孔」とは、一般的には、直径が2nm以上50nm以下の細孔をいうが、本発明において「メソ孔」というときは、特に断らない限り、直径が2nm以上50nm以下の細孔に加えて、直径が2nm未満の細孔(いわゆる「マイクロ孔」)も含まれる。
「細孔径」とは、メソ孔の直径の平均値をいう。
細孔径は、酸化スズ系粒子の窒素吸着等温線の吸着側データをBJH法で解析し、細孔容量が最大となるときの細孔径(最頻出ピーク値、又はモード細孔径)を求めることにより得られる。
【0040】
酸化スズ系粒子がメソ孔を有している場合において、酸化スズ系粒子にPt系微粒子を担持させると、Pt系微粒子は、メソ孔内に存在する割合が高くなる。そのため、酸化スズ系粒子のメソ孔内にPt系微粒子を担持させて電極触媒とし、このような電極触媒とアイオノマとを用いて触媒層を作製した場合、Pt系微粒子のアイオノマによる被毒、及びこれに起因する性能低下を抑制することができる。
【0041】
酸化スズ系粒子がメソ孔を持つ場合において、細孔径(メソ孔の大きさ)は、電極触媒の性能に影響を与える。一般に、細孔径が小さくなりすぎると、メソ孔内にPt系微粒子を担持するのが困難となる。その結果、本発明に係る電極触媒とアイオノマとを用いて触媒層を作製した場合、Pt系微粒子がアイオノマにより被毒される場合がある。従って、細孔径は、1nm以上が好ましい。細孔径は、さらに好ましくは、2nm以上、さらに好ましくは、5nm以上である。
【0042】
一方、細孔径が大きくなりすぎると、メソ孔内にアイオノマが侵入し、メソ孔内に担持されたPt系微粒子がアイオノマにより被毒されるおそれがある。従って、細孔径は、20nm以下が好ましい。細孔径は、さらに好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、8nm以下である。
特に、酸化スズ系粒子の細孔径を5nm以上8nm以下とすると、これを触媒担体に用いて触媒層を作製したときに、高い触媒活性が得られる。
【0043】
[D. 形状]
本発明において、酸化スズ系粒子の形状は、上述した条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。酸化スズ系粒子は、孤立した粒子であっても良く、あるいは、多孔質の一次粒子が融着した連珠状構造を備えた粒子であっても良い。
ここで、「連珠状構造」とは、一次粒子が数珠状に融着している構造をいう。
【0044】
後述する方法を用いると、多孔質の一次粒子が融着した連珠状構造を備えた酸化スズ系粒子が得られる。連珠状構造を備えた粒子(すなわち、二次粒子)は、一次粒子が互いに粗に連結しているため、一次粒子の間には相対的に粗大な空隙がある。そのため、連珠状構造を備えた酸化スズ系粒子を用いて電極触媒を作製し、これとアイオノマとを用いて触媒層を作製すると、触媒層内に適度な空隙が形成される。その結果、触媒層のガス拡散抵抗が低下する。
また、一次粒子は微細な結晶子の集合体からなるため、一次粒子の内部には相対的に微細な空隙(メソ孔)がある。そのため、これを触媒担体として用いると、Pt系微粒子のアイオノマによる被毒を抑制することができる。
【0045】
一次粒子の形状は、特に限定されない。後述する方法を用いて酸化スズ系粒子を作製した場合、一次粒子は、通常、完全な球状とはならず、アスペクト比が1.1~3程度のいびつな形状を持つ。
【0046】
後述するように、本発明に係る酸化スズ系粒子は、メソポーラスカーボンを鋳型に用いて製造される。また、メソポーラスカーボンは、メソポーラスシリカを鋳型に用いて製造される。メソポーラスシリカは、通常、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、シリカ源を縮重合させることにより合成されている。
【0047】
この時、反応溶液中の界面活性剤の濃度及びシリカ源の濃度をそれぞれある特定の範囲に限定すると、連珠状構造を備えており、かつ、比表面積、細孔径等が特定の範囲にあるメソポーラスシリカが得られる。
このような連珠状構造を備えたメソポーラスシリカを第1鋳型に用いると、連珠状構造を備えたメソポーラスカーボンが得られる。さらに、連珠状構造を備えたメソポーラスカーボンを第2鋳型に用いると、連珠状構造を備えた酸化スズ系粒子が得られる。
【0048】
[E. 一次粒子の平均粒径]
「一次粒子の平均粒径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定された一次粒子の最大寸法の平均値をいう。
酸化スズ系粒子が、多孔質の一次粒子が融着した連珠状構造を備えた粒子である場合、一次粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
【0049】
一般に、一次粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、Pt系微粒子を担持することが困難となる。従って、一次粒子の平均粒径は、0.05μm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、0.06μm以上、さらに好ましくは、0.07μm以上である。
一方、一次粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、触媒層の厚さが厚くなり、触媒層中のイオン抵抗及び電子抵抗が大きくなる。従って、一次粒子の平均粒径は、2μm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、0.5μm以下である。
【0050】
[F. 圧粉体の導電率]
「圧粉体の導電率」とは、
(a)2枚のステンレス鋼製円盤と、円筒状の穴が開いたプラスチック製治具とを用いて酸化スズ系粒子を成形し、
(b)得られた圧粉体に2.4MPaの圧力をかけた状態で、一定の電流を流しながら電圧を測定することで得た値をいう。
圧粉体(すなわち、酸化スズ系粒子)の導電性は、主として、ドーパントの種類及び量に依存する。酸化スズ系粒子の組成を最適化すると、圧粉体の導電率は、1×10-3S/cm以上となる。製造条件を最適化すると、導電率は、1×10-2S/cm以上となる。
後述する方法を用いると、圧粉体の導電率が10S/cm程度である酸化スズ系粒子であっても、合成することができる。
【0051】
[G. 細孔容量]
「細孔容量」とは、一次粒子に含まれるメソ孔の容積をいい、一次粒子間にある空隙の容積は含まれない。
「酸化スズ系粒子の細孔容量」とは、Pt系微粒子や疎水性粒子を担持する前の酸化スズ系粒子の細孔容量(以下、これを「担持前細孔容量」ともいう)をいう。
細孔容量は、酸化スズ系粒子の窒素吸着等温線の吸着データをBJH法で解析し、P/P0=0.03~0.99の値で算出することにより得られる。
【0052】
本発明に係る酸化スズ系粒子をPEFC用の触媒担体に用いる場合において、細孔容量が小さくなりすぎると、細孔内に担持される触媒粒子の割合が小さくなる。従って、細孔容量は、0.1cc/g以上が好ましい。細孔容量は、好ましくは、0.15cc/g以上、さらに好ましくは、0.2cc/g以上である。
一方、細孔容量が大きくなりすぎると、酸化スズ系粒子の細孔壁の割合が小さくなり、電子伝導性が低くなる。また、アイオノマ侵入量が多くなり、触媒被毒により活性が低下する場合がある。従って、細孔容量は、1.0cc/g以下が好ましい。細孔容量は、さらに好ましくは、0.7cc/g以下、0.5cc/g以下、あるいは、0.4cc/g以下である。
【0053】
[H. タップ密度]
「タップ密度」とは、JIS Z 2512に準拠して測定される値をいう。
本発明に係る酸化スズ系粒子をPEFCの触媒層に用いる場合において、酸化スズ系粒子のタップ密度が小さくなりすぎると、得られた触媒層の厚みが厚くなりすぎ、プロトン伝導性が低下する。従って、タップ密度は、0.005g/cm3以上が好ましい。タップ密度は、好ましくは、0.01g/cm3以上、さらに好ましくは、0.05g/cm3以上である。
一方、タップ密度が大きくなりすぎると、これを用いて触媒層を作製した時に、触媒層内にフラッディングを抑制可能な空隙を確保するのが困難となる。従って、タップ密度は、1.0g/cm3以下が好ましい。タップ密度は、好ましくは、0.75g/cm3以下である。
【0054】
[I. 好適な形態]
酸化スズ系ナノ粒子は、上述した条件を満たすものの中でも、特に、SbがドープされたSnO2からなり、比表面積が60m2/g以上、好ましくは、90m2/g以上であり、かつ、細孔径が5nm以上8nm以下であるものが好ましい。このような条件を満たす酸化スズ系ナノ粒子を担体に用いて触媒層を作製すると、高い触媒活性が得られる。
【0055】
[1.1.2. Pt系微粒子]
[A. 組成]
「Pt系微粒子」とは、Pt又はPt合金からなる微粒子をいう。Pt系微粒子は、酸化スズ系粒子の表面(すなわち、酸化スズ系粒子の外表面又はメソ孔の内表面)に担持される。
【0056】
Pt系微粒子がPt合金からなる場合、Pt合金の組成(すなわち、合金元素の種類及び含有量)は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な組成を選択することができる。Pt合金としては、例えば、
(a)Ptと、1種又は2種以上のPt以外の貴金属元素とを含む合金(例えば、Pt-Pd合金、Pt-Ru合金、Pt-Ir合金など)、
(b)Ptと、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む合金(例えば、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、Pt-Ni胸襟、Pt-Cr合金、Pt-V合金、Pt-Ti合金など)、
などがある。
【0057】
[B. 平均粒径]
「Pt系微粒子の平均粒径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定されたPt系微粒子の最大寸法の平均値をいう。
Pt系微粒子の平均粒径は、質量活性に影響を与える。一般に、Pt系微粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、Pt系微粒子の質量活性が低下する。従って、Pt系微粒子の平均粒径は、5nm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、4nm以下である。
一方、Pt系微粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、Ptなどの微粒子を構成する成分が溶出しやすくなる。従って、Pt系微粒子の平均粒径は、1nm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、2nm以上である。
【0058】
[C. 担持量]
Pt系微粒子の担持量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な担持量を選択することができる。一般に、Pt系微粒子の担持量が少なくなりすぎると、所定の目付量を得るために必要な触媒層の厚さが厚くなり、触媒層の電子抵抗、プロトン移動抵抗、及び/又は、ガス拡散抵抗が増大する。従って、Pt系微粒子の担持量は、5mass%以上が好ましい。担持量は、さらに好ましくは、10mass%以上、さらに好ましくは、15mass%以上である。
一方、Pt系微粒子の担持量が過剰になると、担体表面においてPt系微粒子が凝集し、かえって電極触媒の活性が低下する。従って、Pt系微粒子の担持量は、60mass%以下が好ましい。担持量は、さらに好ましくは、50mass%以下、さらに好ましくは、40mass%以下である。
【0059】
[1.2. アイオノマ]
[1.2.1. 材料]
本発明に係る触媒層において、アイオノマの材料は、特に限定されない。アイオノマとしては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマ、高酸素透過アイオノマなどがある。アイオノマは、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0060】
「パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマ」とは、フッ化スルホニルビニルエーテルモノマに基づく繰り返し単位を含む含フッ素イオン交換樹脂をいう。パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマとしては、例えば、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)などがある。
【0061】
「高酸素透過アイオノマ」とは、その分子構造内に酸基及び環状構造を含む高分子化合物をいう。高酸素透過アイオノマは、その分子構造内に環状構造を含むために、酸素透過係数が高い。そのため、これをアイオノマとして用いた時に、触媒との界面における酸素移動抵抗が相対的に小さくなる。
換言すれば、「高酸素透過アイオノマ」とは、酸素透過係数がナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマよりも高いアイオノマをいう。
【0062】
高酸素透過アイオノマとしては、例えば、
(a)脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンユニットと、パーフルオロスルホン酸を側鎖に持つ酸基ユニットとを含む電解質ポリマ、
(b)脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンユニットと、パーフルオロイミドを側鎖に持つ酸基ユニットとを含む電解質ポリマ、
(c)脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンに直接、パーフルオロスルホン酸が結合したユニットを含む電解質ポリマ、
などがある(参考文献1~4参照)。
[参考文献1]特開2003-036856号公報
[参考文献2]国際公開第2012/088166号
[参考文献3]特開2013-216811号公報
[参考文献4]特開2006-152249号公報
【0063】
[1.2.2. I/S]
「I/S」とは、触媒層に含まれる酸化スズ系粒子の質量(S)に対するアイオノマの質量(I)の比をいう。
I/Sは、触媒層のプロトロン伝導性及び/又はガス拡散性に影響を与える。一般に、I/Sが小さくなりすぎると、触媒層のプロトン伝導度が低下する。従って、I/Sは、0.13以上が好ましい。I/Sは、さらに好ましくは、0.20以上である。
一方、I/Sが大きくなりすぎると、触媒層内の空隙量が低下し、触媒層のガス拡散性が低下する。従って、I/Sは、0.39以下が好ましい。I/Sは、さらに好ましくは、0.33以下である。
【0064】
[1.3. 疎水性分子]
[1.3.1. 材料]
「疎水性分子」とは、電極触媒に疎水性を付与することが可能な有機化合物をいう。疎水性分子は、分子量が1万以上の高分子化合物であっても良く、あるいは、分子量が1万未満の低分子化合物であっても良い。
本発明に係る触媒層は、疎水性分子を含む。電極触媒の外表面、酸化スズ系粒子のメソ孔の内部、及び/又は、電極触媒の近傍に疎水性分子があると、高加湿条件下、あるいは、過加湿条件下において、高い質量活性を示す。これは、疎水性分子によって、水の排出が促進されるためと考えられる。
【0065】
本発明において、疎水性分子の種類は、特に限定されない。疎水性分子は、特に、非晶質フッ素系高分子が好ましい。
ここで、「非晶質フッ素系高分子」とは、F、C、N、H、O、及び/又は、S元素から構成される有機高分子であって、分子が規則的に並んだ部分(結晶部分)を持たないものをいう。
【0066】
疎水性分子としては、例えば、Cytop(登録商標)(AGC製、CTL-109A)、Teflon(登録商標)AF(Chemours製、1600又は2400)、Hyflon(登録商標)(Solvay製、AD60)などがある。触媒層は、これらのいずれか1種の疎水性分子を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0067】
[1.3.2. 疎水性分子の修飾状態]
疎水性分子を含む触媒層を製造する方法には、種々の方法がある。本発明においては、いずれの方法を用いても良い。但し、疎水性分子の添加方法が異なると、触媒層内での疎水性分子の修飾状態が変化し、その結果として触媒層の性能が変化する場合がある。
【0068】
疎水性分子を含む触媒層の製造方法としては、例えば、
(a)電極触媒とアイオノマとを含む触媒インク用いて触媒層を作製し、疎水性分子を溶解又は分散させたディップコート溶液を触媒層に含浸させ、溶媒を除去する方法(以下、これを「ディップコート法」ともいう)、
(b)電極触媒と疎水性分子とを複合化し、電極触媒/疎水性分子複合体とアイオノマとを含む触媒インクを用いて触媒層を作製する方法(以下、「分散法」ともいう)
などがある。
【0069】
図1(A)に、ディップコート法を用いて作製された触媒層の模式図を示す。電極触媒(Pt/Sb-SnO2)とアイオノマのみを含む触媒インクを用いて触媒層を作製した場合、電極触媒の表面の全部又は一部がアイオノマで被覆された状態となると考えられる。次いで、ディップコート法を用いて触媒層に疎水性分子を導入すると、アイオノマの表面の全部又は一部が疎水性分子で被覆された状態になると考えられる。
【0070】
すなわち、ディップコート法を用いて作製された触媒層は、
多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒と、
電極触媒の表面の少なくとも一部を被覆するアイオノマと、
アイオノマの表面の少なくとも一部を被覆する疎水性分子と
を備えていると考えられる。
【0071】
図1(B)に、分散法を用いて作製された触媒層の模式図を示す。触媒層を作製する前に電極触媒(Pt/Sb-SnO2)と疎水性分子とを複合化した場合、電極触媒の表面の全部又は一部が疎水性分子で被覆された状態となると考えられる。次いで、このような電極触媒/疎水性分子複合体とアイオノマを含む触媒インクを用いて触媒層を作製すると、疎水性分子の表面の全部又は一部がアイオノマで被覆された状態になると考えられる。
【0072】
すなわち、分散法を用いて作製された触媒層は、
多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒と、
電極触媒の表面の少なくとも一部を被覆する疎水性分子と、
疎水性分子の表面の少なくとも一部を被覆するアイオノマと
を備えていると考えられる。
Pt系微粒子及び疎水性分子は、酸化スズ系粒子のメソ孔の内表面の少なくとも一部を被覆していると考えられる。
【0073】
[1.3.3. 疎水性分子の修飾量]
「疎水性分子の修飾量」とは、電極触媒及び疎水性分子の総質量に対する疎水性分子の質量の割合をいう。
【0074】
疎水性分子の修飾量は、高加湿条件下又は過加湿条件下における酸素還元反応(ORR)質量活性と触媒層抵抗に影響を与える。一般に、疎水性分子の修飾量が多くなるほど、高加湿条件下又は過加湿条件下におけるORR質量活性が向上する。このような効果を得るためには、疎水性分子の修飾量は、0.2mass%以上が好ましい。
【0075】
一方、疎水性分子の修飾量が過剰になると、触媒層内において電子伝導パスが途切れ、触媒層抵抗が増大する場合がある。従って、疎水性分子の修飾量は、8.0mass%以下が好ましい。
【0076】
[1.4. 特性]
[1.4.1.高加湿条件下及び過加湿条件下における活性]
「高加湿条件下における活性」とは、 前記燃料電池電極触媒層を空気極に用いた固体高分子形燃料電池セルを作製し、セル温度:60℃、空気極ガス相対湿度:80%、セル電圧:0.86Vの条件下で発電を行った場合における酸素還元反応の質量活性をいう。
「過加湿条件下における活性」とは、 前記燃料電池電極触媒層を空気極に用いた固体高分子形燃料電池セルを作製し、セル温度:60℃、空気極ガス相対湿度:160%、セル電圧:0.86Vの条件下で発電を行った場合における酸素還元反応の質量活性をいう。
【0077】
多孔質の酸化スズ系粒子を担体とする電極触媒と、アイオノマとを備えた触媒層に対し、さらに疎水性分子を添加すると、触媒粒子近傍の撥水性が高くなる。そのため、高加湿条件下あるいは過加湿条件下においてもフラッディングが抑制され、高い活性を示す。
製造条件を最適化すると、
高加湿条件下における活性が260A/gPt以上であり、及び/又は、
過加湿条件下における活性が100A/gPt以上である
触媒層が得られる。
分散法を用いると、このような特性を有する触媒層が得られやすい。
【0078】
[1.4.2. 高加湿条件下における活性及び触媒層抵抗]
「高加湿条件下における触媒層抵抗」とは、 前記燃料電池電極触媒層を空気極に用いた固体高分子形燃料電池セルを作製し、セル温度:60℃、空気極ガス相対湿度:80%、空気極ガス:N2、燃料極ガスH2、セル電圧:0.4Vの条件下で交流インピーダンス法によるインピーダンス測定を行うことにより得られる値をいう。
【0079】
多孔質の酸化スズ系粒子を担体とする電極触媒と、アイオノマとを備えた触媒層に対し、さらに疎水性分子を添加する場合において、疎水性分子の添加量が過剰になると、触媒層抵抗が増大する場合がある。これは、過剰な疎水性分子によって、電極触媒間の電子伝導パスが途切れやすくなるためと考えられる。特に、分散法を用いて疎水性分子を添加する場合、疎水性分子の添加量が過剰になると、触媒層抵抗が増大しやすい。
【0080】
これに対し、触媒層に疎水性分子を添加する場合において、疎水性分子の添加方法及び/又は添加量を最適化すると、
高加湿条件下における活性が100A/gPt以上であり、
高加湿条件下における触媒層抵抗が0.1Ωcm-2以下である
触媒層が得られる。
ディップコート法を用いると、このような特性を有する触媒層が得られやすい。
【0081】
[1.4.3. 担持後細孔容量]
「担持後細孔容量」とは、電極触媒、又は、電極触媒/疎水性分子複合体の細孔容量をいう。
担持後細孔容量は、担持前細孔容量、Pt系微粒子の担持量、疎水性分子の担持量などに依存する。
【0082】
[2. メソポーラスシリカ(第1鋳型)の製造方法]
多孔質の酸化スズ系粒子は、種々の方法により製造することができる。これらの内、連珠状構造を備えた多孔質の酸化スズ系粒子を製造するためには、まず、連珠状構造を備えたメソポーラスシリカ(第1鋳型)を製造する必要がある。このようなメソポーラスシリカは、
(a)シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させて前駆体粒子を作製し、
(b)前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させ、
(c)必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行い、
(d)前記前駆体粒子を焼成する
ことにより得られる。
【0083】
[2.1. 縮重合工程]
まず、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る(縮重合工程)。
【0084】
[2.1.1. シリカ源]
本発明において、シリカ源の種類は、特に限定されない。シリカ源としては、例えば、
(a)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、テトラエチレングリコキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、
(b)3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、
などがある。シリカ源には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0085】
[2.1.2. 界面活性剤]
シリカ源を反応溶液中で縮重合させる場合において、反応溶液に界面活性剤を添加すると、反応溶液中において界面活性剤がミセルを形成する。ミセルの周囲には親水基が集合しているため、ミセルの表面にはシリカ源が吸着する。さらに、シリカ源が吸着しているミセルが反応溶液中において自己組織化し、シリカ源が縮重合する。その結果、一次粒子内部には、ミセルに起因するメソ孔が形成される。メソ孔の大きさは、主として、界面活性剤の分子長により制御(1~50nmまで)することができる。
【0086】
本発明において、界面活性剤には、アルキル4級アンモニウム塩を用いる。アルキル4級アンモニウム塩とは、次の(a)式で表される化合物をいう。
CH3-(CH2)n-N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(a)
【0087】
(a)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1~3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。
(a)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。
【0088】
(a)式中、nは7~21の整数を表す。一般に、nが小さくなるほど、メソ孔の中心細孔径が小さい球状のメソ多孔体が得られる。一方、nが大きくなるほど、中心細孔径は大きくなるが、nが大きくなりすぎると、アルキル4級アンモニウム塩の疎水性相互作用が過剰となる。その結果、層状の化合物が生成し、メソ多孔体が得られない。nは、好ましくは、9~17、さらに好ましくは、13~17である。
【0089】
(a)式で表されるものの中でも、アルキルトリメチルアンモニウムハライドが好ましい。アルキルトリメチルアンモニウムハライドとしては、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、ノニルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ウンデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド等がある。
これらの中でも、特に、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0090】
メソポーラスシリカを合成する場合において、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、アルキル4級アンモニウム塩は、一次粒子内にメソ孔を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、メソ孔の形状に大きな影響を与える。より均一なメソ孔を有するシリカ粒子を合成するためには、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いるのが好ましい。
【0091】
[2.1.3. 触媒]
シリカ源を縮重合させる場合、通常、反応溶液中に触媒を加える。粒子状のメソポーラスシリカを合成する場合、触媒には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリを用いても良く、あるいは、塩酸等の酸を用いても良い。
【0092】
[2.1.4. 溶媒]
溶媒には、水、アルコールなどの有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒などを用いる。
アルコールは、
(1)メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、
(2)エチレングリコール等の2価のアルコール、
(3)グリセリン等の3価のアルコール、
のいずれでも良い。
水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中の有機溶媒の含有量は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、溶媒中に適量の有機溶媒を添加すると、粒径や粒度分布の制御が容易化する。
【0093】
[2.1.5. 反応溶液の組成]
反応溶液中の組成は、合成されるメソポーラスシリカの外形や細孔構造に影響を与える。特に、反応溶液中の界面活性剤の濃度、及びシリカ源の濃度は、メソポーラスシリカ粒子の平均一次粒子径、細孔径、細孔容量、及びタップ密度に与える影響が大きい。
【0094】
[A. 界面活性剤の濃度]
界面活性剤の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、一次粒子が連結している構造体が得られない場合がある。従って、界面活性剤の濃度は、0.03mol/L以上である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.035mol/L以上、さらに好ましくは、0.04mol/L以上である。
【0095】
一方、界面活性剤の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、一次粒子径が過度に大きくなる場合がある。従って、界面活性剤の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.90mol/L以下である。
【0096】
[B. シリカ源の濃度]
シリカ源の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、一次粒子が連結している構造体が得られない場合がある。あるいは、界面活性剤が過剰となり、均一なメソ孔が得られない場合がある。従って、シリカ源の濃度は、0.05mol/L以上である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.06mol/L以上、さらに好ましくは、0.07mol/L以上である。
【0097】
一方、シリカ源の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、一次粒子径が過度に大きくなる場合がある。あるいは、球状粒子ではなく、シート状の粒子が得られる場合がある。従って、シリカ源の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.9mol/L以下である。
【0098】
[C. 触媒の濃度]
本発明において、触媒の濃度は、特に限定されない。一般に、触媒の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなる。一方、触媒の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなる。最適な触媒の濃度は、シリカ源の種類、界面活性剤の種類、目標とする物性値などに応じて最適な濃度を選択するのが好ましい。
【0099】
[2.1.6 反応条件]
所定量の界面活性剤を含む溶媒中に、シリカ源を加え、加水分解及び重縮合を行う。これにより、界面活性剤がテンプレートとして機能し、シリカ及び界面活性剤を含む前駆体粒子が得られる。
反応条件は、シリカ源の種類、前駆体粒子の粒径等に応じて、最適な条件を選択する。一般に、反応温度は、-20~100℃が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、0~90℃、さらに好ましくは、10~80℃である。
【0100】
[2.2. 乾燥工程]
次に、前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる(乾燥工程)。
乾燥は、前駆体粒子内に残存している溶媒を除去するために行う。乾燥条件は、溶媒の除去が可能な限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0101】
[2.3. 拡径処理]
次に、必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行っても良い(拡径工程)。「拡径処理」とは、一次粒子内のメソ孔の直径を拡大させる処理をいう。
拡径処理は、具体的には、合成された前駆体粒子(界面活性剤の未除去のもの)を、拡径剤を含む溶液中で水熱処理することにより行う。この処理によって前駆体粒子の細孔径を拡大させることができる。
【0102】
拡径剤としては、例えば、
(a)トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、トリイソプロピルベンゼン、ナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの炭化水素、
(b)塩酸、硫酸、硝酸などの酸、
などがある。
【0103】
炭化水素共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、拡径剤が溶媒から、より疎水性の高い前駆体粒子の細孔内に導入される際に、シリカの再配列が起こるためと考えられる。
また、塩酸などの酸共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、一次粒子内部においてシリカの溶解・再析出が進行するためと考えられる。製造条件を最適化すると、シリカ内部に放射状細孔が形成される。これを酸共存下で水熱処理すると、シリカの溶解・再析出が起こり、放射状細孔が連通細孔に変換される。
【0104】
拡径処理の条件は、目的とする細孔径が得られる限りにおいて、特に限定されない。通常、反応溶液に対して、0.05mol/L~10mol/L程度の拡径剤を添加し、60~150℃で水熱処理するのが好ましい。
【0105】
[2.4. 焼成工程]
次に、必要に応じて拡径処理を行った後、前記前駆体粒子を焼成する(焼成工程)。これにより、連珠状構造を備えたメソポーラスシリカが得られる。
焼成は、OH基が残留している前駆体粒子を脱水・結晶化させるため、及び、メソ孔内に残存している界面活性剤を熱分解させるために行われる。焼成条件は、脱水・結晶化、及び界面活性剤の熱分解が可能な限りにおいて、特に限定されない。焼成は、通常、大気中において、400℃~700℃で1時間~10時間加熱することにより行われる。
【0106】
[3. メソポーラスカーボン(第2鋳型)の製造方法]
次に、メソポーラスシリカを鋳型に用いて、メソポーラスカーボン(第2鋳型)を製造する。このようなメソポーラスカーボンは、
(a)第1鋳型となるメソポーラスシリカを準備し、
(b)前記メソポーラスシリカのメソ孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体を作製し、
(c)前記複合体からシリカを除去する
ことにより得られる。
また、得られたメソポーラスカーボンの黒鉛化を促進させるために、シリカを除去した後に、メソポーラスカーボンを1500℃より高い温度で熱処理しても良い。
【0107】
[3.1. 第1鋳型準備工程]
まず、第1鋳型となるメソポーラスシリカを準備する(第1鋳型準備工程)。メソポーラスシリカの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0108】
[3.2. カーボン析出工程]
次に、メソポーラスシリカのメソ孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体を作製する(カーボン析出工程)。
メソ孔内へのカーボンの析出は、具体的には、
(a)メソ孔内にカーボン前駆体を導入し、
(b)メソ孔内において、カーボン前駆体を重合及び炭化させる
ことにより行われる。
【0109】
[3.2.1. カーボン前駆体の導入]
「カーボン前駆体」とは、熱分解によって炭素を生成可能なものをいう。このようなカーボン前駆体としては、具体的には、
(1) 常温で液体であり、かつ、熱重合性のポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリン等)、
(2) 炭水化物の水溶液と酸の混合物(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、あるいは、二糖類、多糖類と、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの酸との混合物)、
(3) 2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリン等)、
などがある。
これらの中でも、ポリマー前駆体は、溶媒で希釈することなくメソ孔内に含浸させることができるので、相対的に少数回の含浸回数で、相対的に多量の炭素をメソ孔内に生成させることができる。また、重合開始剤が不要であり、取り扱いも容易であるという利点がある。
【0110】
液体又は溶液のカーボン前駆体を用いる場合、1回当たりの液体又は溶液の吸着量は、多いほど良く、メソ孔全体が液体又は溶液で満たされる量が好ましい。
また、カーボン前駆体として炭水化物の水溶液と酸の混合物を用いる場合、酸の量は、有機物を重合させることが可能な最小量とするのが好ましい。
さらに、カーボン前駆体として、2液硬化型のポリマー前駆体の混合物を用いる場合、その比率は、ポリマー前駆体の種類に応じて、最適な比率を選択する。
【0111】
[3.2.2. カーボン前駆体の重合及び炭化]
次に、重合させたカーボン前駆体をメソ孔内において炭化させる。
カーボン前駆体の炭化は、非酸化雰囲気中(例えば、不活性雰囲気中、真空中など)において、カーボン前駆体を含むメソポーラスシリカを所定温度に加熱することにより行う。加熱温度は、具体的には、500℃以上1200℃以下が好ましい。加熱温度が500℃未満であると、カーボン前駆体の炭化が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、シリカと炭素が反応するので好ましくない。加熱時間は、加熱温度に応じて、最適な時間を選択する。
【0112】
なお、メソ孔内に生成させる炭素量は、メソポーラスシリカを除去した時に、カーボン粒子が形状を維持できる量以上であればよい。従って、1回の充填、重合及び炭化で生成する炭素量が相対的に少ない場合には、これらの工程を複数回繰り返すのが好ましい。この場合、繰り返される各工程の条件は、それぞれ、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
また、充填、重合及び炭化の各工程を複数回繰り返す場合、各炭化工程は、相対的に低温で炭化処理を行い、最後の炭化処理が終了した後、さらにこれより高い温度で、再度、炭化処理を行っても良い。最後の炭化処理を、それ以前の炭化処理より高い温度で行うと、複数回に分けて細孔内に導入されたカーボンが一体化しやすくなる。
【0113】
[3.3. 第1鋳型除去工程]
次に、複合体から第1鋳型であるメソポーラスシリカを除去する(第1鋳型除去工程)。これにより、メソポーラスカーボン(第2鋳型)が得られる。
メソポーラスシリカの除去方法としては、具体的には、
(1) 複合体を水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液中で加熱する方法、
(2) 複合体をフッ化水素酸水溶液でエッチングする方法、
などがある。
【0114】
[3.4. 黒鉛化処理工程]
次に、必要に応じて、メソポーラスカーボンを1500℃より高い温度で熱処理する(黒鉛化工程)。メソポーラスシリカのメソ孔内において炭素源を炭化させる場合において、シリカと炭素の反応を抑制するためには、熱処理温度を低くせざるを得ない。そのため、炭化処理後のカーボンの黒鉛化度は低い。高い黒鉛化度を得るためには、第1鋳型を除去した後、メソポーラスカーボンを高温で熱処理するのが好ましい。
【0115】
熱処理温度が低すぎると、黒鉛化が不十分となる。従って、熱処理温度は、1500℃超が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、1700℃以上、さらに好ましくは、1800℃以上である。
一方、熱処理温度を必要以上に高くしても、効果に差がなく、実益がない。従って、熱処理温度は、2300℃以下が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、2200℃以下である。
【0116】
[4. 酸化スズ系粒子の製造方法]
多孔質の酸化スズ系粒子の製造方法は、
メソポーラスカーボンを準備する第1工程と、
メソポーラスカーボンのメソ孔内に酸化スズ又はドーパントを含む酸化スズ(以下、これらを総称して「Sn含有酸化物」ともいう)析出させ、Sn含有酸化物/カーボン複合体を得る第2工程と、
Sn含有酸化物/カーボン複合体からカーボンを除去する第3工程と
を備えている。
【0117】
[4.1. 第1工程]
まず、メソポーラスカーボンを準備する(第1工程)。メソポーラスカーボンの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0118】
[4.2. 第2工程]
次に、メソポーラスカーボンのメソ孔内にSn含有酸化物を析出させる(第2工程)。これにより、Sn含有酸化物/カーボン複合体が得られる。
メソ孔内へのSn含有酸化物の析出は、具体的には、メソ孔内にSn含有酸化物の前駆体を導入し、前駆体をSn含有酸化物に変換することにより行う。
【0119】
[4.2.1. 前駆体]
メソ孔内においてSn含有酸化物を形成するための前駆体としては、具体的には、
(1)Sn含有酸化物を構成する金属元素を含み、溶媒に可溶であり、かつ溶媒中の溶存酸素により酸化され、析出させることが可能な化合物、
(2)Sn含有酸化物を構成する金属元素を含み、熱分解あるいは加水分解により金属酸化物を形成することが可能な化合物、
などがある。
【0120】
溶存酸素により酸化し、析出させることが可能な化合物としては、
(1)SnCl2などの2価のSnを含む塩、
(2)NbCl5、SbCl3、WCl6、TaCl5、AlCl3などのNb、Sb、W、Ta、又はAlをを含む塩、
などがある。
【0121】
熱分解あるいは加水分解により金属酸化物を形成することが可能な化合物としては、
(1)SnCl4、SnCl2、NbCl5、SbCl3、WCl6、TaCl5、AlCl3などの塩化物、
(2)タングステンエトキシド(W(OC25)6)、Sn(OC25)2、Sn(OC(CH3)3)4、Nb(OC25)5、Ta(OC25)5、Sb(OC25)3、Al(OC25)3などのアルコキシド、
(3)スズアセチルアセトナート(Sn(CH3COCHCOCH3)2)、Al(CH3COCHCOCH3)3などのアセチルアセトナート塩、
(4)Sn(CH3COO)2、Sb(CH3COO)3などの酢酸塩、
などがある。
【0122】
[4.2.2. 細孔への前駆体の導入]
前駆体が液体である場合、これをそのままメソポーラスカーボンの細孔内に吸着させても良い。あるいは、前駆体を適当な溶媒に溶解させ、この溶液をメソポーラスカーボンの細孔内に吸着させても良い。前駆体を溶媒に溶解させる場合、溶媒の種類及び前駆体の濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択する。
【0123】
[4.2.3. 前駆体の酸化物への変換]
前駆体を吸着させた後、前駆体をSn含有酸化物に変換する。変換方法は、特に限定されるものではなく、前駆体の種類に応じて最適な方法を選択する。
例えば、前駆体として塩化物を用いる場合、塩化物を溶解させた溶液にメソポーラスカーボンを分散させ、空気中で攪拌する。攪拌を続けると、やがて塩化物がメソポーラスカーボンのメソ孔内に吸着され、メソ孔内の塩化物が溶存酸素により次第にSn含有酸化物となる。
【0124】
また、例えば、前駆体としてアルコキシドを用いる場合、アルコキシド又はこれを溶解させた溶液をメソポーラスカーボンに添加し、メソ孔内にアルコキシド又はその溶液を含浸させる。これを所定の温度に加熱すると、アルコキシドの重縮合が起こり、メソ孔内にSn含有酸化物が生成する。
なお、1回の前駆体の吸着及びSn含有酸化物への変換により、メソ孔内に十分な量のSn含有酸化物を形成することができないときは、吸着及び変換を複数回繰り返しても良い。
【0125】
[4.3. 第3工程]
次に、Sn含有酸化物/カーボン複合体からカーボンを除去する(第3工程)。これにより、本発明に係る酸化スズ系粒子が得られる。
カーボンの除去方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。カーボンの除去方法としては、例えば、
(1)Sn含有酸化物/カーボン複合体を酸化雰囲気下で加熱する方法、
(2)Sn含有酸化物/カーボン複合体を酸素プラズマエッチングする方法、
などがある。
加熱温度、加熱時間などの除去条件は、特に限定されるものではなく、Sn含有酸化物の結晶子を粗大化させることなく、カーボンが完全に除去される条件であれば良い。
【0126】
[5. 燃料電池電極触媒層の製造方法]
本発明に係る燃料電池電極触媒層は、種々の方法により製造することができる。上述したように、触媒層の製造方法としては、ディップコート法、分散法などがある。
【0127】
ディップコート法を用いて疎水性分子を触媒層に添加する場合、ディップコート溶液中の疎水性分子の濃度、疎水性分子を溶解又は分散させる溶媒等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0128】
分散法を用いて疎水性分子を触媒層に添加する場合、電極触媒/疎水性分子複合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。複合体の作製方法としては、例えば、
(a)常圧下において、疎水性分子を溶媒に溶解又は分散させた溶液に電極触媒を加えて混合し、溶媒を揮発させる方法、
(b)疎水性分子を超臨界二酸化炭素に分散させ、これに電極触媒を加えて混合し、超臨界二酸化炭素を揮発させる方法、
などがある。
【0129】
[6. 作用]
多孔質の酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒を備えた触媒層に対してさらに疎水性分子を添加すると、高加湿条件下における発電性能が向上する。
特に、触媒層に疎水性分子を添加する方法として、分散法(電極触媒を撥水化処理した後に触媒層を作製する方法)を用いた場合において、疎水性分子の添加量を最適化すると、高加湿条件下及び/又は過加湿条件において相対的に高い酸素還元反応(ORR)活性を示す触媒層が得られる。これは、分散法を用いると、親水的な酸化スズ系粒子の表面が疎水性分子で直接、被覆され、電極触媒の撥水性が高くなるためと考えられる。
【0130】
一方、触媒層に疎水性分子を添加する方法として、ディップコート法(触媒層を作製した後に電極触媒を撥水化処理する方法)を用いた場合において、疎水性分子の添加量を最適化すると、高加湿条件下において、相対的に高いORR活性と、相対的に低い触媒層抵抗とを示す触媒層が得られる。これは、ディップコート法を用いると、電極触媒に適度な撥水性が付与されると同時に、電極触媒粒子間の電子伝導パスが確保されやすくなるためと考えられる。
【0131】
例えば、担体としてSb-SnO2を用い、触媒粒子としてPt粒子を用いた電極触媒(Pt/Sb-SnO2)の場合、疎水性分子で修飾されたPt/Sb-SnO2は、最大で未修飾のPt/Sb-SnO2の6.1倍のORR質量活性を示す。修飾によるORR活性向上の効果は、ディップコート法で修飾した場合よりも、分散法を用いて修飾した場合の方が大きい。
【0132】
Sb-SnO2担体は、表面が親水的であるため、高湿度条件下ではPt近傍に水が滞留しやすい。そのため、未修飾のPt/Sb-SnO2を用いた触媒層は、高湿度条件下では酸素ガスの拡散が妨げられ、酸素還元反応が阻害されると考えられる。
これに対し、Pt/SnO2の表面を疎水性分子で修飾すると、Pt近傍の水の排出が促進される。その結果、疎水性分子で修飾されたPt/Sb-SnO2は、未修飾の電極触媒に比べて、高いORR活性を示すと考えられる。
【実施例0133】
(実施例1~6、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. Sb-SnO2担体の作製]
[1.1.1. 連珠状スターバーストシリカの作製]
メタノール(MeOH):4.6g、及びエチレングリコール(EG):4.6gの混合溶媒に、30mass%塩化セチルトリメチルアンモニウム水溶液:56.3gを加え、室温で攪拌した。これに1M NaOH:8.8gを加え、50℃に加温した。以下、これを「第1溶液」という。
次に、MeOH:6.5g、及びEG:6.5gの混合溶媒にテトラエトキシシラン(TEOS):12.3gを溶解させた。以下、これを「第2溶液」という。
【0134】
50℃に加温された第1溶液に第2溶液を加えた。混合液が白濁した後、加温を停止し、さらに4時間以上攪拌した。ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥させた。さらに、乾燥粉を大気中、550℃×6h焼成し、放射状細孔を備えた連珠状メソポーラスシリカ(以下、これを「連珠状スターバーストシリカ(Connected Starburst Silica、CSS)」ともいう)を得た。
【0135】
[1.1.2. 連珠状スターバーストカーボンの作製]
PFA製容器にCSS:0.5gを入れ、フルフリルアルコール(FA)をCSSの細孔容量分だけ加えて、CSSの細孔内に浸透させた。これを150℃×24h熱処理することにより、FAを重合させた。さらに、これを窒素雰囲気中で500℃×6h熱処理し、FAの炭化を進めた。これを2回繰り返した後、さらに窒素雰囲気中で900℃×6h熱処理して、CSS/カーボン複合体を得た。
【0136】
この複合体を12%HF溶液に4h浸漬し、シリカ成分を溶解した。溶解後、ろ過、洗浄を繰り返し、さらに45℃で乾燥して、放射状細孔を備えた連珠状メソポーラスカーボン(以下、これを「連珠状スターバーストカーボン(Connected Starburst Carbon、CSC)」ともいう)を得た。得られたCSCは、BET比表面積:2122m2/g、細孔容量:1.3mL/g、細孔径:2.2nmであった。
【0137】
[1.1.3. 連珠状メソポーラスSb-SnO2の作製]
濃塩酸(35mass%、富士フイルム和光純薬(株)製):4mLにSbCl3(99.9mass%、富士フイルム和光純薬(株)製):90.3mgを溶解し、精製水:108mLを加えて希釈した後、SnCl2(99.9mass%、富士フイルム和光純薬(株)製):15.0gをさらに加えて溶解させた。この溶液にCSC:0.3gを加えて分散させた。この分散液を空気中、室温で2h攪拌した後、精製水:600mLを追加して、さらに空気中で4h攪拌した。続いて、ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、85℃×2hで乾燥し、連珠状Sb-SnO2/カーボン複合体を得た。
【0138】
この連珠状Sb-SnO2/カーボン複合体を空気雰囲気中において、320℃×24h処理し、青色の連珠状メソポーラスSb-SnO2を得た。得られた連珠状メソポーラスSb-SnO2のSbドープ量は、2.5at%であった。また、N2吸着測定から求めたモード細孔径(最頻値)は、5.8nmであり、細孔容量(担持前細孔容量)は、0.218cc/gであった。
【0139】
[1.2. 電極触媒の作製]
上記で作製した連珠状メソポーラスSb-SnO2に、コロイド法を用いてPtナノ粒子を担持させた。
はじめに、0.4M NaOH/EG溶液:16mLと、0.04mM H2PtCl6(富士フイルム和光純薬(株)製)/EG溶液:16mLとを混合した。この混合液をマイクロ波合成装置(Monowabe 400, Anton Paar社製)で攪拌しながら160℃で3min加熱することで、Ptナノ粒子コロイド溶液を得た。
【0140】
次に、Ptナノ粒子コロイド溶液:22.4mLに、Sb-SnO2粉末:350mgを加え、室温で一晩攪拌した。続いて、1M HNO3:0.2mLを加え、室温で1h攪拌する操作を2回繰り返した。さらに、1M HNO3:2.8mLを加え、室温で1h攪拌した。その後、ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した。最後に、固形物に対して70℃で真空乾燥を行い、Pt/Sb-SnO2(Pt担持率:20mass%)を得た。表1に、Pt/Sb-SnO2触媒の仕様を示す。なお、表1中の「細孔容量」とは、電極触媒の細孔容量(担持後細孔容量)を表す。
【0141】
【表1】
【0142】
[1.3. 触媒層の作製(1)]
[1.3.1. 比較例1~2:未修飾電極触媒を含む触媒層]
20mass%Pt/Sb-SnO2:60mgに、精製水:100mg、エタノール:100mg、プロピレングリコール:8.4mg、及び、アイオノマ分散液(21.2mass%、D2020):58.9mgを加えた。上記混合液に対して、振とう(Digital Disruptor Genie、3000rpm、2min)と、超音波による分散(Bioruptor、5min)とを交互に3回ずつ繰り返し、触媒インクを調製した。
【0143】
得られた触媒インクをアプリケータ(ギャップ高さ:4ミル)を用いて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートに塗布し、80℃で3h真空乾燥してカソード触媒層シートを得た。さらに、得られたカソード触媒層シートから1cm角のカソード触媒層を切り出した。白金目付量は、0.161~0.184mg/cm2(実施例1~3、比較例1)、又は、0.128~0.139mg/cm2(実施例4~6、比較例2)であった。
【0144】
[1.3.2. 実施例1~3:ディップコート法による電極触媒の撥水化処理]
比較例1と同様にして作製した1cm角のカソード触媒層をガラス製容器に移した。この容器に、希釈溶媒(AGC(株)製、CT-Solv 100E)で0.5mass%に希釈したCytop(登録商標)溶液(AGC(株)製、CTL-109AE):1.0mLを加え、2分間保持した。
【0145】
ガラス製容器からカソード触媒層を取り出して別のガラス製容器に移し、室温で5分間乾燥させた。その後、80℃(実施例1)、100℃(実施例2)、又は、180℃(実施例3)で1時間真空乾燥し、撥水化処理されたPt/Sb-SnO2触媒層を得た。Cytop(登録商標)の修飾量は、7.7mass%(実施例1)、4.2mass%(実施例2)、又は、7.8mass%(実施例3)であった。表2に、実施例1~3及び比較例1で得られた触媒層の諸元を示す。
【0146】
【表2】
【0147】
[1.4. 触媒層の作製(2)]
[1.4.1. 実施例4~6:分散法による電極触媒の撥水化処理]
事前に100℃で30分真空乾燥させたPt/Sb-SnO2:32.3mgをガラス製容器に秤量した。この容器に、希釈溶媒(AGC(株)製、CT-Solv 100E)で0.10mass%に希釈したCytop(登録商標)溶液(AGC(株)製、CTL-109AE):0.2mLを加え、2分間の超音波処理を行った。その後、分散液を室温で5分間乾燥させ、さらに150℃で1時間真空乾燥させ、撥水化処理されたPt/Sb-SnO2触媒(実施例4)を得た。Cytop(登録商標)の修飾量は、0.5mass%であった。
【0148】
事前に100℃で30分真空乾燥させたPt/Sb-SnO2:19.4mgをガラス製容器に秤量した。この容器に、希釈溶媒(AGC(株)製、CT-Solv 100E)で0.12mass%に希釈したCytop(登録商標)溶液(AGC(株)製、CTL-109AE):0.2mLを加え、2分間の超音波処理を行った。その後、分散液を室温で5分間乾燥させ、さらに150℃で1時間真空乾燥させ、撥水化処理されたPt/Sb-SnO2触媒(実施例5)を得た。Cytop(登録商標)の修飾量は、1.5mass%であった。
【0149】
事前に100℃で30分真空乾燥させたPt/Sb-SnO2:32.4mgをガラス製容器に秤量した。この容器に、希釈溶媒(AGC(株)製、CT-Solv 100E)で0.25mass%に希釈したCytop(登録商標)溶液(AGC(株)製、CTL-109AE):0.2mLを加え、2分間の超音波処理を行った。その後、分散液を室温で5分間乾燥させ、さらに150℃で1時間真空乾燥させ、撥水化処理されたPt/Sb-SnO2触媒(実施例6)を得た。Cytop(登録商標)の修飾量は、2.4mass%であった。
【0150】
[1.4.2. 撥水化処理された電極触媒を含む触媒層の作製]
撥水化処理されたPt/Sb-SnO2に所定量の精製水、エタノール、プロピレングリコール、及び、アイオノマ分散液(21.2mass%、D2020)を加えた。表3に、各成分の添加量を示す。上記混合液に対して、振とう(Digital Disruptor Genie、3000rpm、2min)と、超音波による分散(Bioruptor、5min)とを交互に3回ずつ繰り返し、触媒インクを調製した。
【0151】
【表3】
【0152】
得られた触媒インクをアプリケータ(ギャップ高さ:4ミル)を用いて、PTFEシートに塗布し、80℃で3h真空乾燥してカソード触媒層シートを得た。さらに、得られたカソード触媒層シートから1cm角のカソード触媒層を切り出した。表4に、実施例4~6及び比較例2で得られた触媒層の諸元を示す。なお、表4中の「細孔容量」とは、電極触媒、又は、電極触媒/疎水性分子複合体の細孔容量(担持後細孔容量)を表す。
【0153】
【表4】
【0154】
[1.5. MEAの作製]
30mass%Pt/Ketjen(登録商標)を電極触媒に用いて、アノード触媒層シートを作製した。白金目付量は0.05mgPt/cm2、I/C=1.0であった。アノード触媒層シートから1cm角のアノード触媒層を切り出した。
次に、ホットプレスにより、Nafion(登録商標)膜にカソード触媒層及びアノード触媒層を転写することでMEAを作製した。ホットプレス条件は、温度:120℃、圧力:0.89kN/cm2、時間:5minとした。
【0155】
[2. 試験方法]
上記で作製したMEAを、1cm2用角セルを用いて評価した。拡散層には、マイクロポーラスレイヤー付きのカーボンペーパーを用いた。
【0156】
[2.1. 発電性能評価]
以下の条件でI-V曲線を測定し、3サイクル目の正方向掃引を評価データとして採用した。質量活性は、IR補正後の0.84Vにおける電流密度から換算した。
セル温度/相対湿度:60℃/80%RH、又は、60℃/160%RH
空気極ガス/流量/背圧:Air/1L min-1/14.4kPa-G
燃料極ガス/流量/背圧:H2/0.5L min-1/14.4kPa-G
電位掃引:開回路電圧から0.1Vまでを20mV/sで掃引
【0157】
[2.2. サイクリックボルタンメトリー(CV)]
以下の条件でCVを測定し、3サイクル目のデータを採用した。空気極の電位は、RHE基準に補正した値を示す。得られたCVの水素脱離ピークの電荷量から、換算係数(210μC/cm2 Pt)を用いてPtのECSAを算出した。
セル温度/相対湿度:60℃/80%RH、又は、60℃/160%RH
空気極ガス/流量/背圧:N2/1L min-1/14.4kPa-G
燃料極ガス/流量/背圧:H2/0.5L min-1/14.4kPa-G
電位掃引:1VRHEから0.1VRHEまでの範囲を50mV/sで掃引
【0158】
[2.3. 触媒層抵抗]
以下の条件で、交流インピーダンス法によるインピーダンス測定を行った。得られたNyquistプロットを用いて、高周波数側の横軸の交点と、高周波数側と低周波数側との変曲点の横軸の切片との差から、触媒層抵抗を見積もった。高周波数側とは、横軸に対して45度の角度となる領域である。
セル温度/相対湿度:60℃/80%RH、又は、60℃/160%RH
空気極ガス/流量/背圧:N2/1L min-1/14.4kPa-G
燃料極ガス/流量/背圧:H2(10%)/0.5L min-1/14.4kPa-G
電位制御:0.4VRHEに保持
周波数:10kHz~1Hz
振幅:0.01V
【0159】
[2.4. 酸素移動抵抗(Rother)]
空気極の酸素分圧を一定に保ちながら全圧を110~150kPa(80%RH)又は126.2~166.2kPa(160%RH)の範囲で変えて限界電流を測定した。測定条件を以下に示す。
セル温度/相対湿度:60℃/80%RH、又は、60℃/160%RH
空気極ガス/流量/背圧:Air+N2/66mL min-1+810~1180mL min-1/14.4kPa-G
燃料極ガス/流量/背圧:H2/0.5L min-1/14.4kPa-G
電位掃引:開回路電圧から0.1Vまでを20mV/sで3サイクル掃引
【0160】
測定した限界電流の値(ilim)から、次式でRtotalを求めた。
total=CO2/{ilim/4F}
但し、CO2は酸素濃度、FはFaraday定数である。
totalを空気極ガス全圧に対してプロットし、近似直線の切片から酸素移動抵抗の圧力に依存しない酸素移動抵抗成分(Rother)を求めた。
【0161】
[2.5. COストリッピングボルタンメトリー]
以下の条件でCOストリッピングボルタンメトリーを行った。得られたCOストリッピングボルタモグラムのCO酸化ピークから電荷量QCOstripを算出した。
セル温度/相対湿度:40℃/80%RH
空気極ガス/流量/背圧:N2/1L min-1/14.4kPa-G
燃料極ガス/流量/背圧:H2(10%)/0.5L min-1/14.4kPa-G
電位:CO吸着時は0.3VRHEに保持、その後0.1VRHEから1.0VRHEまでの範囲を50mV/sで2サイクル掃引(1.0VRHEで2min保持)
【0162】
[2.6. アニオン吸着率の測定]
以下の条件でCO置換法によるPtへのアニオン吸着率を測定した。
セル温度/相対湿度:40℃/80%RH
空気極ガス/流量/背圧:N2/1L min-1/14.4kPa-G
燃料極ガス/流量/背圧:H2(10%)/0.5L min-1/14.4kPa-G
電位:0.35V(5min保持)
【0163】
空気極電位を0.35Vに5分保持した後、空気極ガスをN2から5%COに切り替えた。その際、Ptに吸着していたアニオンの脱離による電流を計測し、その電荷量QCOdisplacementとCOストリッピングボルタンメトリーで求めたQCOstripから、次式によりアニオン吸着率を算出した。
アニオン吸着率[%]=QCOdisplacement×100/{QCOstrip/2}
【0164】
[2.7. 水蒸気吸着測定]
Anton-Paar社製Autosorb-iQを用いて、水蒸気吸着等温線を測定した。測定は、サンプル(実施例4、比較例2)約30mgを130℃で2時間真空脱気後、水温25℃で行った。
【0165】
[2.8. 窒素吸着測定]
Anton-Paar社製Autosorb-iQを用いて、窒素吸着等温線を測定した。測定は、サンプル(実施例4~6、比較例2)約30mgを130℃で2時間真空脱気後、77Kで行った。窒素吸着測定で得られた吸着等温線から、Branauer-Enett-Teller(BET)により比表面積を、Barret-Joyner-Halenda(BJH)により細孔径分布をそれぞれ求めた。
【0166】
[2.9. STEM-EDX]
分析電子顕微鏡(ARM200F、日本電子(株)製)及びEDX検出器(JED-2300T、日本電子(株)製)を用いて、加速電圧200kVで比較例2、実施例4、及び、実施例6で得られた電極触媒を観察した。各試料は樹脂に埋め込まれ、FIB加工により二次粒子を切断して観察した。取得された高角散乱環状暗視野走査電子顕微鏡(HAADF-STEM)像からEDXスペクトルを用いてフッ素の存在を確認した。
【0167】
[3. 結果]
[3.1. I-V曲線]
図2(A)に、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層を備えたセルの80%RHにおけるI-V曲線を示す。図2(B)に、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層を備えたセルの160%RHにおけるI-V曲線を示す。
【0168】
図2(A)に示すように、80%RHにおける0.6V以上での発電性能は、実施例1、2(ディップコート法)の方が比較例1(未修飾のPt/Sb-SnO2)より高くなった。他方、0.6V以下の電圧では、実施例1、2は、比較例1より限界電流密度が低くなった。なお、実施例3は、全電流域において比較例1より限界電流密度が低くなった。これは、乾燥温度が高すぎたために、アイオノマが劣化したためと考えられる。
さらに、図2(B)に示すように、160%RHにおける発電性能は、実施例1、2の方が比較例1より全電流域で高い発電性能を示した。
【0169】
図3(A)に、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層を備えたセルの80%RHにおけるI-V曲線を示す。図3(B)に、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層を備えたセルの160%RHにおけるI-V曲線を示す。
【0170】
図3(A)に示すように、実施例4~6は、80%RHにおいて顕著な活性域向上を示した。過加湿条件下では、図3(B)に示すように、実施例4~6は、比較例2に比べて限界電流密度が向上した。特に、実施例4の限界電流密度は、比較例2より0.63A/cm2大きく、最も高い性能を示した。これは、親水的なSb-SnO2の表面に直接、疎水性分子を被覆することにより、触媒層の排水性能が向上し、Ptへの酸素輸送が向上したためと考えられる。
【0171】
[3.2. ORR質量活性及びECSA]
図4(A)に、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層のIR補正電圧0.84VにおけるORR質量活性を示す。図4(B)に、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層のIR補正電圧0.84VにおけるORR質量活性を示す。
図5(A)に、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層のECSAを示す。図5(B)に、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層のECSAを示す。
【0172】
80%RH及び160%RHにおけるORR質量活性は、それぞれ、分散法で得られた触媒層の方がディップコート法で得られた触媒層よりも高くなる傾向が見られた。特に、実施例4の80%RHにおけるORR質量活性は、比較例2のそれの6.1倍であった。
図5(B)に示すように、実施例4~6のECSAは比較例2のそれと差異がないことから、実施例4のORR質量活性の向上はECSA以外の要因によると考えられる。
【0173】
[3.3. アニオン吸着率]
図6に、実施例4及び比較例2で得られた電極触媒の80%RHにおけるアニオン吸着率を示す。実施例4のアニオン吸着率は、比較例2より2.8%低下した。これは、電極触媒の表面が疎水性分子で修飾されているために、Pt上へのアイオノマのスルホン酸基吸着が抑制されたためと考えられる。
【0174】
[3.4. 触媒層抵抗及び酸素移動抵抗]
図7(A)に、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層の触媒層抵抗を示す。図7(B)に、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層の触媒層抵抗を示す。
図8(A)に、実施例1~3(ディップコート法)及び比較例1で得られた触媒層の酸素移動抵抗を示す。図8(B)に、実施例4~6(分散法)及び比較例2で得られた触媒層の酸素移動抵抗を示す。
【0175】
ディップコート法で得られた触媒層の80%RHにおける限界電流密度の低下は、触媒層抵抗の増加(図7(A))と、酸素移動抵抗の増加(図8(A))によるものと説明できる。
他方、分散法で得られた触媒層の場合、疎水性分子の修飾量が少ない実施例4は、160%RHにおける触媒層抵抗(図7(B))及び酸素移動抵抗(図8(B))が、それぞれ、比較例2のそれらより低減した。160%RHにおける実施例4の酸素移動抵抗は、比較例2のそれの約3割であった。実施例4の限界電流密度の向上(図3(B))は、疎水性分子の修飾量が最適であったためと考えられる。
【0176】
[3.5. 水蒸気吸着等温線]
図9に、実施例4及び比較例2で得られた電極触媒の水蒸気吸着等温線を示す。高圧領域(P/P0>0.6)のヒステリシスは、メソ孔内への水蒸気の吸着を示している。実施例4の場合、このヒステリシスが比較例2より高圧側にあった。このことから、疎水性分子修飾によりSb-SnO2担体のメソ孔内が疎水的になったことが分かる。よって、実施例4の酸素移動抵抗が低下した理由は、メソ孔内の水の滞留が抑制されたためと考えられる。
【0177】
[3.6. STEM-EDX]
図10に、比較例2、実施例4、及び、実施例6で得られた電極触媒のFIB加工後の断面のHAADF-STEM像から得られたEDXスペクトルを示す。Cytop(登録商標)修飾量の増加に伴い、Fピークの増大が確認された。これらは、分散法を用いた場合、Cytop(登録商標)はPt/Sb-SnO2のメソ孔の内表面の少なくとも一部を被覆していることを示していると考えられる。
【0178】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明に係る触媒層は、固体高分子形燃料電池の空気極触媒層、あるいは、燃料極触媒層として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10