(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079275
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】車両用回転シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/14 20060101AFI20240604BHJP
B60N 2/16 20060101ALI20240604BHJP
A47C 3/20 20060101ALI20240604BHJP
A47C 3/18 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B60N2/14
B60N2/16
A47C3/20
A47C3/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192125
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 公一
【テーマコード(参考)】
3B087
3B091
【Fターム(参考)】
3B087BA07
3B087BA15
3B087BB10
3B087BC18
3B087BC23
3B091EC00
3B091GA01
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で大きな回動量を得られる車両用回転シートを得る。
【解決手段】車両用回転シート10は、水平方向に延在し、乗員の臀部及び大腿部を支持可能に構成されたシートクッション12に固定された上板28と、水平方向に延在し上板28の下方側に設けられた下板26と、それぞれ棒状に形成され、上端部が上板28の下面側において円形状に配置されると共に、下端部が下板26の上面側において円形状に配置され、上端部がそれぞれボールジョイント36を介して揺動可能に上板28に接続されると共に、下端部がそれぞれボールジョイントを介して揺動可能に下板26に接続された複数のロッド22と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に延在し、乗員の臀部及び大腿部を支持可能に構成されたシートクッションに固定された上板と、
水平方向に延在し前記上板の下方側に設けられた下板と、
それぞれ棒状に形成され、上端部が前記上板の下面側において円形状に配列されると共に、下端部が前記下板の上面側において円形状に配列され、前記上端部がそれぞれボールジョイントを介して揺動可能に前記上板に接続されると共に、前記下端部がそれぞれボールジョイントを介して揺動可能に前記下板に接続された複数のロッドと、
を有する車両用回転シート。
【請求項2】
前記下板に接続され鉛直上向きに立設された下側支柱と、
前記上板の水平方向中心部から垂下されると共に、前記下側支柱と同軸上に配置され、前記下側支柱に対して上下方向に摺動可能に係合された上側支柱と、
をさらに有する、
請求項1に記載の車両用回転シート。
【請求項3】
前記複数のロッドは、前記上板が軸線周りの一方向側へ回転されて乗員が車両前方を向く位置と、前記上板が軸線周りの他の方向側へ回転されて乗員が車両右方向、車両左方向及び車両後方の何れか一の方向を向く位置と、において互いに接触する、
請求項2に記載の車両用回転シート。
【請求項4】
前記下側支柱と前記下板とを連結し、前記下側支柱を軸線周りに回動可能に支持すると共に、前記下側支柱の前記回動を複数の回動位置のうち何れかの位置に選択的にロック可能なロック機構をさらに有し、
前記シートクッション、前記上板、前記上側支柱及び前記下側支柱は一体となって前記下板に対して回動可能に構成されている、
請求項3に記載の車両用回転シート。
【請求項5】
前記下側支柱及び前記上側支柱はそれぞれ筒状に形成され、
前記下側支柱の外周面には、それぞれ上下方向に延在する複数の溝部が形成されており、
前記上側支柱の内周面には、前記複数の溝部においてそれぞれ上下方向に摺動可能に係合された複数の突起部が形成されている、
請求項4に記載の車両用回転シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用回転シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、シートクッションを支持する左右一対のクッションフレームをベースに対して昇降させるリフター装置を備えた車両用回転シートが開示されている。このリフター装置のリンク下端は、クッションフレームの下方に位置するベースに対してボールジョイントで連結されており、これにより車両用回転シートは左右で前後位置を変更可能に構成されている。
【0003】
ところで、近年、自動運転車両や福祉車両をはじめとした各種車両において、例えば乗員が車両に対して前向きだけでなく横向きや後ろ向きに着座できるように、90度以上回転可能な車両用回転シートの需要が高まっている。上記特許文献1に記載の技術では、車両用回転シートは僅かに回転されるだけであり、例えば前向きに配置された車両用回転シートが横向きや後ろ向きまで回転されることはない。
【0004】
一方、下記特許文献2には、シート本体を車両前向きの第一位置からドア開口部を向く第二位置に回転移動させる移動機構を備えた車両用回転シート装置が開示されている。この移動機構は、移動不能な基盤部に対してシート本体を支持する着座部を移動させるリンク機構と、基盤部と着座部の間に配置された複数の摺動部材とを備えている。
【0005】
また、下記特許文献3には、シート本体と一体に回転する回転支持体が軸受けを介してベース体に回転自在に支持され、シート本体が前方を向く正面回転位置とそこから180度位相をずらして後方を向く背面回転位置との2段階に選択可能な車両用回転シート装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021/66313号公報
【特許文献2】特開2022/86123号公報
【特許文献3】特開2022/97345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2及び特許文献3に記載された車両用回転シートは、複雑な構成で多くの部品を要し、大型となるため、質量、コスト及びスペースの観点で改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記の事実を考慮し、簡素な構成で大きな回動量を得られる車両用回転シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明に係る車両用回転シートは、水平方向に延在し、乗員の臀部及び大腿部を支持可能に構成されたシートクッションに固定された上板と、水平方向に延在し前記上板の下方側に設けられた下板と、それぞれ棒状に形成され、上端部が前記上板の下面側において円形状に配列されると共に、下端部が前記下板の上面側において円形状に配列され、前記上端部がそれぞれボールジョイントを介して揺動可能に前記上板に接続されると共に、前記下端部がそれぞれボールジョイントを介して揺動可能に前記下板に接続された複数のロッドと、を有する。
【0010】
請求項1に記載の本発明によれば、それぞれ水平方向に延在する上板と下板との間に、棒状に形成された複数のロッドが設けられている。各ロッドの上端部は、それぞれボールジョイントを介して揺動可能に上板に接続されている。また、各ロッドの下端部は、それぞれボールジョイントを介して揺動可能に下板に接続されている。
【0011】
ここで、複数のロッドは、上端部が上板の下面側において円形状に配列されかつ下端部が下板の上面側において円形状に配列されている。つまり、複数のロッドは略筒状に配列されており、上板が下板に対して回動すると、各ロッドの上端部も上板に追従して動き、全体として複数のロッドが捩じられるようになっている。シートクッションは上板に接続されており、上板に連動して下板に対して回動される。このようにロッドの上下両側にボールジョイントを設けたリンク機構により、簡素な構成で大きな回動量を得ることができる。よって、軽量な車両用回転シートを低コストで得ることができる。また、省スペースに回動機構が配置されているため、車両の設計自由度を向上させることができる。
【0012】
請求項2に記載の本発明に係る車両用回転シートは、請求項1に記載の発明において、前記下板に接続され鉛直上向きに立設された下側支柱と、前記上板の水平方向中心部から垂下されると共に、前記下側支柱と同軸上に配置され、前記下側支柱に対して上下方向に摺動可能に係合された上側支柱と、をさらに有する。
【0013】
請求項2に記載の本発明によれば、下側支柱は下板に接続され鉛直上向きに立設されている。また、上側支柱は、上板の水平方向中心部から垂下されると共に、下側支柱と同軸上に配置されている。上板は複数のロッドにより下板に連結されているため、上板が下板に対して回動すると、ロッドの傾きに応じて上板と下板との間隔が変化する。上板に接続された上側支柱は、下板に接続された下側支柱に対して上下方向に摺動可能に係合されている。よって、上側支柱及び下側支柱は、上板と下板との間隔変化に追従しつつ、支柱として鉛直軸線周りの回動動作を安定させることができる。
【0014】
請求項3に記載の本発明に係る車両用回転シートは、請求項2に記載の発明において、前記複数のロッドは、前記上板が軸線周りの一方向側へ回転されて乗員が車両前方を向く位置と、前記上板が軸線周りの他の方向側へ回転されて乗員が車両右方向、車両左方向及び車両後方の何れか一の方向を向く位置と、において互いに接触する。
【0015】
請求項3に記載の本発明によれば、複数のロッドは、上板が軸線周りの一方向側へ回転されると、乗員が車両前方を向く位置において互いに接触する。これにより、一方向側へのこれ以上の回転が制限される。一方、上板が軸線周りの他の方向側へ回転されると、乗員が車両右方向、車両左方向及び車両後方の何れか一の方向を向く位置において、複数のロッドは再び互いに接触する。これにより、他の方向側へのこれ以上の回転が制限される。よって、特別なロック機構を備えずとも、車両前向きと、車両横向き又は車両後ろ向きとにおいて回転がロックされる。
【0016】
請求項4に記載の本発明に係る車両用回転シートは、請求項3に記載の発明において、前記下側支柱と前記下板とを連結し、前記下側支柱を軸線周りに回動可能に支持すると共に、前記下側支柱の前記回動を複数の回動位置のうち何れかの位置に選択的にロック可能なロック機構をさらに有し、前記シートクッション、前記上板、前記上側支柱及び前記下側支柱は一体となって前記下板に対して回動可能に構成されている。
【0017】
請求項4に記載の本発明によれば、ロック機構によって下板に接続された下側支柱は、下板に対して軸線周りに回動可能とされている。このとき、シートクッション、上板、上側支柱及び下側支柱は一体となって下板に対して回動される。また、下側支柱は、ロック機構によって、複数の回動位置のうち何れかの位置で選択的にロックされる。これにより、シートクッションに着座した乗員は、選択した位置で車両用回転シートの回動をロックすることができる。
【0018】
請求項5に記載の本発明に係る車両用回転シートは、請求項4に記載の発明において前記下側支柱及び前記上側支柱はそれぞれ筒状に形成され、前記下側支柱の外周面には、それぞれ上下方向に延在する複数の溝部が形成されており、前記上側支柱の内周面には、前記複数の溝部においてそれぞれ上下方向に摺動可能に係合された複数の突起部が形成されている。
【0019】
請求項5に記載の本発明によれば、下側支柱及び上側支柱はそれぞれ筒状に形成されている。これにより、筒状の支柱に中実状の支柱が係合される場合と比較して、車両用回転シートを軽量化することができる。また、下側支柱の外周面には溝部が形成されており、当該溝部に上側支柱の内周面に形成された突起部が係合されている。これにより上側支柱は下側支柱に対して軸周り方向にずれることなく上下方向に摺動可能とされている。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、請求項1に記載の本発明に係る車両用回転シートは、簡素な構成で大きな回動量を得られるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項2に記載の本発明に係る車両用回転シートは、回動動作を安定させることができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項3に記載の本発明に係る車両用回転シートは、より一層軽量化することができると共に、乗員が直感的に回動を止めることができるという優れた効果を有する。
【0023】
請求項4に記載の本発明に係る車両用回転シートは、乗員が選択的に回動を止めることができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項5に記載の本発明に係る車両用回転シートは、より一層軽量化することができると共に、回動動作をより一層安定させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施形態に係る車両用回転シートの斜視図である。
【
図2】
図1に示される車両用回転シートの回転機構を、ロッドを省略して示した斜視図である。
【
図3】
図1に示される車両用回転シートの回動機構を示す図である。
図3(A)は、
図1と同じ向きとされている。
図3(B)は、
図3(A)から平面視時計回りに90度回転した状態を示している。
図3(C)は、
図3(B)からさらに平面視時計回りに90度回転した状態を示している。
【
図4】
図3(B)に示される1つのロッドを、軸線Oを含む鉛直平面で切断した断面を水平方向から見た断面図である。
【
図5】
図2に示される回転機構の上側支柱及び下側支柱を拡大して示す要部拡大斜視図である。
【
図8】
図2に示される回動機構の上板が任意の回転角度だけ回動された際の上板と下板との間隔変化について説明する図である。
【
図9】
図9(A)は、上板と下板との間隔が最大となった状態を示す図である。
図9(B)は、
図9(A)から90°回転された状態を示す図である。
図9(C)は、
図9(B)からさらに90°回転された仮定の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、
図1~
図9を用いて、本発明の一実施形態に係る車両用回転シート10について説明する。なお、各図に適宜示される矢印FR、矢印UP及び矢印LHは、車両用回転シート10のシート前方側、シート上方側及びシート幅方向左側を示している。また、以下の説明で特記なく前後、上下、左右の方向を用いる場合は、シート前後方向の前後、シート上下方向の上下及びシート左右方向の左右をそれぞれ示すものとする。
【0027】
〔車両用回転シート10の全体構成〕
図1に示される車両用回転シート10は、一例として、右側に運転席を有する図示しない車両の助手席とされている。車両用回転シート10は、乗員の臀部及び大腿部を支持可能に構成されたシートクッション12と、シートクッション12の後端部に接続され、乗員の背部を支持可能に構成されたシートバック14と、を備えている。なお、車両用回転シートは、上記構成に限らず、例えば乗員の頭部を支持可能に構成されたヘッドレストや乗員の前腕部を支持可能に構成されたアームレストを備えていてもよい。
【0028】
車両用回転シート10は、金属製の図示しないシートフレームを備えている。このシートフレームは、シートクッション12の骨格を構成する図示しないシートクッションフレームと、シートバック14の骨格を構成する図示しないシートバックフレームと、を備えている。
【0029】
〔回動機構16〕
車両用回転シート10は、シートクッション12の下方側に、図示しない車体のフロアに固定されかつシートクッション12を鉛直軸線O(
図2参照)周りに回動可能に支持する回動機構16を備えている。以下、この回動機構16について詳細に説明する。
【0030】
回動機構16は、図示しない車体のフロアに固定された基盤部18と、シートクッション12の図示しないシートクッションフレームに固定された着座部20と、基盤部18と着座部20とを略上下方向に連結する複数のロッド22と、を含むリンク機構とされている。さらに、回動機構16は、基盤部18と着座部20とを連結し着座部20の回動をロック可能に構成されたロック機構24を備えている。
【0031】
図2には、複数のロッド22(
図1参照)の図示を省略した回動機構16の斜視図が示されている。
図2に示されるように、基盤部18は、水平方向に延在し上下方向に厚さを有する円盤状の下板26を備えている。下板26は、図示しない車体のフロアに対して略上下方向に間隔を空けて固定されている。
【0032】
また、着座部20は、水平方向に延在し上下方向に厚さを有する円盤状の上板28と、上板28の中心部から垂下された略円筒状の上側支柱30と、上側支柱30に係合された略円筒状の下側支柱32と、を備えている。上板28、上側支柱30、下側支柱32及び下板26は、軸線Oを中心軸として同軸上に配置されている。上板28、上側支柱30、下側支柱32及び下板26は、一例として金属製とするが、これに限らず、例えば樹脂製であってもよい。
【0033】
上板28は、機械締結又は溶融接合等の方法で、シートクッション12の図示しないシートクッションフレームに固定されている。また、上板28は、機械締結又は溶融接合等の方法で、上側支柱30に固定されている。上板28の直径d(
図9参照)は、下板26の直径D(
図9参照)よりも小さく形成されている。なお、上板28及び下板26は同じ大きさでもよい。また、上板28が下板26よりも大きく形成されていてもよい。さらに、上板28及び下板26の形状は、それぞれ円盤状に限らず、種々の形状を採用し得る。例えば、上板及び下板は、上下方向から見て環状に形成された板であってもよい。
【0034】
上側支柱30は、下側支柱32に対して上下方向に摺動可能に係合されている。つまり、上側支柱30、上板28及びシートクッション12(
図1参照)は、一体となって上下方向に移動可能になっている。上側支柱30と下側支柱32との係合については、後に詳述する。
【0035】
ロック機構24は、着座部20の軸線O周りの回動を、複数の回動位置のうち何れかの位置に選択的にロック可能に構成されている。また、ロック機構24は、乗員や乗員の介助者等の他者が操作可能な解除レバー34を備えている。乗員等が解除レバー34を操作することで、回動機構16のロック状態が解除され、着座部20が回動できるようになっている。ロック機構24の詳細については、後に詳述する。
【0036】
(ロッド22及びボールジョイント36)
図3(A)~
図3(C)に示されるように、各ロッド22の上端部22A(
図4参照)及び下端部22B(
図4参照)には、それぞれボールジョイント36が接続されている。各ロッド22は、一例として、金属製の円筒状の棒とされており、それぞれ同じ形状とされている。なお、これに限らず、ロッド22は中実の棒であってもよい。また、ロッド22は樹脂製であってもよい。
【0037】
複数のロッド22の上端部22A(
図4参照)は、軸線O(
図2参照)を中心とする円形状に等間隔に配列されている。各ロッド22の上端部22A(
図4参照)は、ボールジョイント36を介して揺動可能に上板28(
図2参照)の下面側に接続されている。
【0038】
また、複数のロッド22の下端部22B(
図4参照)は、上端部22A(
図4参照)と同様に、軸線O(
図2参照)を中心とする円形状に等間隔に配列されている。各ロッド22の下端部22B(
図4参照)は、ボールジョイント36を介して揺動可能に下板26(
図2参照)の上面側に接続されている。複数のロッド22の下端部22B(
図4参照)は、上端部22A(
図4参照)と同じ順に配列されている。なお、複数のロッド22は、周方向に等間隔に配置されていなくてもよい。例えば、軸線Oを中心として回転対称となるように、複数本ずつペアのロッドが等間隔に配置されていてもよい。
【0039】
複数のロッド22は、着座部20の回動位置によらず、水平方向に切断した断面を上方側から見た断面視において、軸線Oから常に等距離になるように配置されている。これにより、
図3(A)及び
図3(C)に示されるように、
図3(B)に示される状態から上板28を含む着座部20(
図2参照)が下板26を含む基盤部18(
図2参照)に対して回動すると、各ロッド22の上端部22A(
図4参照)も上板28に追従して動き、全体として複数のロッド22が捩じられるようになっている。
【0040】
図4に示されるように、ボールジョイント36は、一例として、略球状のボール部40Aを軸部40Bの先端に備えた金属製のボールスタッド40と、ボールスタッド40を包み込んで保持する有底筒状のソケット42と、樹脂製のダストカバー(図示省略)と、を含んで構成されている。ソケット42は、ボールスタッド40を摺動可能に保持する樹脂製のボールシート44を備えている。ボールスタッド40のボール部40Aには潤滑油が塗布されており、ボールシート44に対してボール部40Aが滑らかに摺動されるようになっている。複数のソケット42は、上板28(
図2参照)の下面及び下板26(
図2参照)の上面に、それぞれ円形状に等間隔に配置されて機械締結又は溶融接合等の方法で固定されている。
【0041】
ボールスタッド40において、軸部40Bのボール部40Aとは反対側の端部には、雄ねじ(図示省略)が形成されている。一方、各ロッド22の上端部22A及び下端部22Bの内周面には、それぞれ雌ねじ(図示省略)が形成されており、一対のボールスタッド40がそれぞれ螺合されている。これにより、ロッド22と一対のボールスタッド40とが一体となって、上下にそれぞれ設けられたソケット42に摺動可能となっている。下板26(
図2参照)は、図示しない車体のフロアに固定されているため、下側のソケット42の位置は、着座部20(
図2参照)の回動位置によらず一定である。一方、上側のソケット42は、着座部20の回動に追従して軸線O周りに回動するようになっている。つまり、各ロッド22は、ボールジョイント36のボール部40Aの中心を支点として揺動可能になっている。
【0042】
次に、
図3に戻って回動機構16の回動動作について詳しく説明する。
図3(A)、
図3(B)及び
図3(C)には、着座部20(
図1参照)がシート上方側から見て時計回りに回転される様子が、斜視図によって順次図示されている。なお、以下の説明で特記なく「時計回り」及び「反時計回り」の方向を用いる場合は、シート上方側から見た着座部20の回転方向をそれぞれ示すものとする。
【0043】
図3(A)は、着座部20(
図1参照)が反時計回りに回転された際の限界位置とされており、複数のロッド22は、当該位置において互いに接触している。このとき、複数のロッド22は、全体として側面視で上下方向の略中央部がくびれた略鼓形となっている。また、この状態において、車両用回転シート10の前方向は、図示しない車両の前方向と一致している。
【0044】
図3(B)には、
図3(A)に示される状態から着座部20(
図1参照)が時計回りに90°回転された状態が示されている。このとき、複数のロッド22は
図3(A)に示される状態よりもそれぞれ起き上がり、各ロッド22の軸方向上向きに延長した延長線が、軸線O上の一点で交わるように配置される。換言すると、
図3(B)に示される状態において、複数のロッド22は全体として円錐台の側面を構成するように配置されている。また、この状態において、車両用回転シート10の前方向は、図示しない車両の右方向と一致している。以下、
図3(B)に示されるこの状態を「中立状態」と称す。
【0045】
図3(C)には、
図3(B)に示される中立状態から着座部20(
図1参照)がさらに時計回りに90°回転された状態が示されている。このとき、複数のロッド22は中立状態から再び倒れ、
図3(A)と同様に全体として側面視で上下方向の略中央部がくびれた略鼓形となっている。
図3(C)に示される状態は、時計回りに着座部20(
図1参照)が回転された際の限界位置とされており、複数のロッド22は、当該位置において互いに接触している。また、この状態において、車両用回転シート10の前方向は、図示しない車両の後方向と一致している。
【0046】
このように、車両用回転シート10は複数のロッド22が捩じられることで、着座した乗員が車両前方を向く位置から車両後方を向く位置に亘って180°回動可能となっている。
【0047】
(上側支柱30及び下側支柱32)
上述した通り、各ロッド22の下板26(
図2参照)に対する傾きが回動位置によって変わるようになっていることから、
図2に示される上板28と下板26との間隔H(
図8参照)は、回動位置によって変化する。この上板28と下板26との間隔変化に追従できるように、上側支柱30は下側支柱32に対して摺動可能に係合されている。以下、上側支柱30と下側支柱32との係合について、
図5~
図7を用いて詳述する。
【0048】
下側支柱32の外周面には、それぞれ上下方向に延在する溝部46が周方向に等間隔で6箇所形成されている。
図7に示されるように、各溝部46は、水平方向に切断した断面を上方側から見た断面視で下側支柱32の径方向(軸線Oに垂直な方向)外側に開放された略U字状に形成されており、底面46A及び一対の側面46Bを備えている。なお、溝部46の位置、個数及び形状は上記に限らない。
【0049】
一方、
図5~
図7に示されるように、上側支柱30の下端部の内周面には、半球状の突起部48が周方向に等間隔で6箇所設けられている。各突起部48は、径方向(軸線Oに垂直な方向)内向きに突出して形成されている。上側支柱30は、下側支柱32の外周面に形成された溝部46に対して上側支柱30の突起部48が係合されることにより、下側支柱32に対して上下方向に摺動可能となっている。
図7に示されるように、突起部48の径方向(軸線Oに垂直な方向)の大きさは、溝部46の深さよりも僅かに大きく設定されている。突起部48は、溝部46の底面46Aに接触した状態で上下方向に摺動可能に構成されている。なお、突起部48の位置、個数及び形状は上記に限らない。例えば、突起部は、一対の側面46Bに接触する大きさとされていてもよい。
【0050】
(上板28と下板26との間隔変化)
上述した通り、上板28と下板26との間隔Hは、回動位置によって変化する。以下、回動位置による上板28と下板26との間隔Hの変化について、
図8及び
図9を用いて説明する。なお、
図8において、上板28及び下板26の厚さやロッド22の太さは省略して図示し、ロッド22は2本のみ図示している。さらに、
図9においても、ロッド22の太さは省略してロッド22は2本のみ図示している。
【0051】
図8には、
図3(B)に示される中立状態から任意の回動角度θだけ上板28が回動した状態が示されている。上板28の直径をd、下板26の直径をD、ロッド22の長さをLとすると、上板28と下板26との間隔Hは、以下の数式によって近似される。
【0052】
【0053】
図3(B)及び
図9(A)に示される中立状態、即ち車両用回転シート10に着座した乗員が車両右方向を向いた状態では、θ=0°である。このとき上板28と下板26との間隔H0は最大となり、以下の数式によって近似される。
【0054】
【0055】
図3(C)及び
図9(B)に示されるように、車両用回転シート10に着座した乗員が車両後方を向いた状態では、θ1=90°である。このときの上板28と下板26との間隔H1は、以下の数式によって近似される。
【0056】
【0057】
同様に、
図3(A)に示されるように、車両用回転シート10に着座した乗員が車両前方を向いた状態では、θ=-90°であり、上板28と下板26との間隔HはH1となり、数式3によって近似される。
【0058】
本実施形態では、上述した通り、
図3(A)及び
図3(C)に示される状態において、複数のロッド22が互いに接触するため、着座部20の回動域は-90°≦θ≦90°となっている。よって、
図9(A)に示されるように上板28が最上位に位置する中立状態と、
図9(B)に示されるように上板28が最下位に位置する状態との高低差は、以下の数式によって近似される。
【数4】
【0059】
本実施形態では、上記の通り着座部20の回動域は-90°≦θ≦90°であるものとして説明したが、これに限らず、可動域はさらに広くてもよい。実際には、ロッド22(
図3参照)の本数及び太さによってロッド22同士が接触する位置が決まり、これにより可動域が定まる。
図9(C)には、回動機構16が上側支柱30及び下側支柱32を備えず、ロッド22の太さが限りなく0に近いと仮定した場合の時計回りの回動の限界位置が示されている。当該仮定の下では、上板28は時計回りにθ2=180°まで回動可能とされている。このとき上板28と下板26との間隔H2は、以下の数式によって近似される。
【数5】
【0060】
図示は省略するが、上記仮定の下では、上板28は、反時計回りに180°(θ=-180°)まで回動可能とされている。よって、回動機構16が上側支柱30及び下側支柱32を備えず、ロッド22の太さが限りなく0に近いと仮定した場合、
図9(A)に示されるように上板28が最上位に位置する中立状態と、
図9(C)に示されるように上板28が最下位に位置する状態との高低差は、以下の数式によって近似される。
【数6】
【0061】
実際にはロッド22は少なくとも3本以上必要であり、ロッド22は所定の太さを有するため、上板28が最上位に位置する中立状態と上板28が最下位に位置する状態との高低差は、設計によらず数式6で表されるΔHよりも大きくなる。
【0062】
(ロック機構24)
次に、
図6を用いてロック機構24について詳述する。ロック機構24は、一般的な車両用回転シートのリクライニング機構と同様の構成とされている。つまり、ロック機構24は、下側支柱32と下板26とを連結して下側支柱32を軸線O周りに回動可能に支持すると共に、着座部20の回動を複数の回動位置のうち何れかの位置に選択的にロック可能に構成されている。一例として、ロック機構24は、θ=-45°、0°、45°の3箇所において着座部20の回動をロック可能に構成されている。
【0063】
一例として、ロック機構24は、一対のガイド部(図示省略)が設けられ下板26に溶融接合された固定プレート50と、固定プレート50に軸線O回りに回転自在に設けられたシャフト52と、シャフト52に取り付けられた解除レバー34と、を備えている。
【0064】
さらに、ロック機構24は、固定プレート50に対してシャフト52を中心に相対回転可能な回動プレート54を備えている。回動プレート54の上面には、下側支柱32の下端が溶融接合されている。これにより、回動プレート54、下側支柱32、上側支柱30、上板28及びシートクッション12(
図1参照)が一体となって回動可能になっている。
【0065】
また、回動プレート54には、軸線Oを中心とする円弧に沿ってインターナルギヤ(図示省略)が設けられている。さらに、図示は省略するが、ロック機構24は、固定プレート50のガイド部に収容され、回動プレート54のインターナルギヤに噛み合うロック位置とインターナルギヤから離れるロック解除位置とに亘って移動自在なスライドギヤと、シャフト52に取り付けられてシャフト52により回動させられることで、スライドギヤをロック位置とロック解除位置とに亘って移動させるカム部材とを備えている。これにより、回動プレート54に固定された下側支柱32、上側支柱30及びシートクッション12は、複数の回動位置でロックされると共に、乗員等が解除レバー34を操作することでロックが解除され、回動可能となっている。
【0066】
(本実施形態の作用)
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0067】
本実施形態に係る車両用回転シート10によれば、上板28が下板26に対して回動すると、各ロッド22の上端部22Aも上板28に追従して動き、全体として複数のロッド22が捩じられるようになっている。シートクッション12は上板28に固定されており、上板28に連動して下板26に対して回動される。これにより、簡素な構成で大きな回動量を得ることができる。よって、軽量な車両用回転シート10を低コストで得ることができる。また、省スペースに回動機構16が配置されているため、車両の設計自由度を向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態に係る車両用回転シート10によれば、上板28が下板26に対して回動すると、ロッド22の傾きに応じて上板28と下板26との間隔が変化する。上板28に接続された上側支柱30は、下板26に接続された下側支柱32に対して上下方向に摺動可能に係合されている。よって、上側支柱30及び下側支柱32は、上板28と下板26との間隔変化に追従しつつ、支柱として軸線O周りの回動動作を安定させることができる。
【0069】
さらに、本実施形態に係る車両用回転シート10によれば、
図3(A)に示されるように、複数のロッド22は、上板28が反時計回りに回転されると、乗員が車両前方を向く位置において互いに接触する。これにより、反時計回りのこれ以上の回転が制限される。一方、上板28が時計回りに回転されると、乗員が車両右方向を向く位置において、複数のロッド22は再び互いに接触する。これにより、時計回りへのこれ以上の回転が制限される。よって、特別なロック機構を備えずとも、車両前向きと車両後ろ向きとにおいて回転がロックされる。
【0070】
さらにまた、本実施形態に係る車両用回転シート10によれば、シートクッション12、上板28、上側支柱30及び下側支柱32は一体となって下板26に対して回動される。また、下側支柱は、ロック機構24によって、複数の回動位置のうち何れかの位置で選択的にロックされる。これにより、シートクッション12に着座した乗員は、選択した位置で車両用回転シート10の回動をロックすることができる。
【0071】
また、本実施形態に係る車両用回転シート10によれば、下側支柱32及び上側支柱30はそれぞれ筒状に形成されている。これにより、筒状の支柱に中実状の支柱が係合される場合と比較して、車両用回転シート10を軽量化することができる。また、下側支柱32の溝部46に上側支柱30の突起部48が係合されている。これにより上側支柱30は下側支柱32に対して軸線Oの周方向にずれることなく上下方向に摺動可能とされている。
【0072】
さらに、本実施形態に係る車両用回転シート10は右ハンドル車の助手席とされており、車両前向きから車両右向きを通って車両後ろ向きに亘って回動可能とされている。これにより、着座した乗員は、例えば自動運転中に運転者と対向して会話をしたり、車両後方側を向いて後部座席の乗員と会話をしたりすることができる。
【0073】
〔上記実施形態の補足説明〕
上記実施形態では、下板26を備える基盤部18が図示しない車体のフロアに固定されているものとして説明したが、これに限らない。例えば、ロッドの下端部に設けられたボールジョイントが直接下板としての車体フロアに固定されていてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、車両用回転シート10は上側支柱30及び下側支柱32を備えるものとして説明したが、これに限らない。例えば車両用回転シートは、上板、下板及び複数のロッドのみで構成されていてもよい。この場合であっても、複数のロッドが同じ長さに成形されていれば、上板は下板に対して回動可能に複数のロッドによって支持される。
【0075】
さらに、上記実施形態では、車両用回転シート10は、右ハンドル車の助手席とされ、着座した乗員が車両右方向を向いた状態をθ=0°として、-90°≦θ≦90°の範囲で、即ち乗員が車両前方を向く位置から車両後方を向く位置に亘って180°回動可能であるものとして説明したが、これに限らない。例えば、車両は左ハンドル車でもよい。また、車両用回転シート10は、助手席に限らず、運転席や後部座席に設けられていてもよい。さらに、例えば車両左方向を向く位置から車両右方向を向く位置に亘って180°回動可能となるように、本実施形態に係る車両用回転シート10を異なる向きで図示しない車体のフロアに固定してもよい。例えば、車両用回転シートを、右ハンドル車の運転席において、車両左方向を向く位置から車両右方向を向く位置に亘って180°回転可能となるように設けてもよい。この場合、車両用回転シートは、着座した運転者が車両前方を向く位置において、
図3(B)に示される中立状態となり、座面高さが最大となる。よって、運転者が車両前方を向いた際の目線が高くなるため、運転しやすくなる。また、自動運転中に、当該車両用回転シートを反時計回りに90°回転させて
図3(A)に示される状態にすれば、運転者は助手席に着座した乗員と対向して会話することができる。さらに、乗降時に、当該車両用回転シートを時計回りに90°回転させて
図3(C)に示される状態にすれば、
図3(B)に示される状態よりも座面高さが低くなるため、ドア開口部からの乗降が容易になる。また、回動域は180°に限らず、180°より大きくてもよい。さらに、上述した通り、着座部の回動域は180°より小さくてもよく、例えば90°でもよい。一例として、乗員が車両前方を向く位置から車両幅方向内側を向く位置まで回動可能な車両用回転シートでは、上述の通り、隣の乗員と対向して会話をすることができる。また別の例として、乗員が車両前方を向く位置から車両幅方向外側を向く位置まで回動可能な車両用回転シートでは、上述の通り、乗員がドア開口部から容易に乗り降り可能となる。
【0076】
さらにまた、上記実施形態では、複数のロッド22は、上板28が反時計回りに回転されて乗員が車両前方を向く位置と、上板28が時計回りに回転されて乗員が車両後方を向く位置と、において互いに接触し、これらの位置が回動の限界位置であるものとして説明したが、これに限らない。例えば、複数のロッドが互いに干渉する位置の回動角度よりも小さな回動角度の位置において、着座部がロック機構によってロックされ、当該位置が回動の限界位置とされてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、下側支柱32はロック機構24を介して下板26に回動可能に接続されているものとして説明したが、これに限らない。例えば、車両用回転シートはロック機構を備えておらず、下側支柱が単に回動可能に下板に接続されていてもよい。
【0078】
さらに、上記実施形態では、下側支柱32の外周面に形成された溝部46に上側支柱30の内周面に形成された突起部48が係合されており、上側支柱30が下側支柱32に対して上下方向に摺動可能に構成されると共に、上側支柱30と下側支柱32とは一体となって軸線O周りに回動されるものとして説明したが、これに限らない。例えば、下側支柱側に突起部が設けられており、上側支柱側に溝部が設けられていてもよい。また、下側支柱が上側支柱の径方向外側において係合されていてもよい。さらに、例えば溝部を備えていない下側支柱が下板に固定されており、突起部を備えていない上側支柱が当該下側支柱に係合されていてもよい。この場合、下板に固定された下側支柱は回動せず、上側支柱が下側支柱に対して回動しつつ上下方向に摺動される。
【0079】
さらにまた、上記実施形態では、各ロッド22の上端部22A及び下端部22Bの内周面に雌ねじが形成されており、当該雌ねじに一対のボールスタッド40がそれぞれ螺合されているものとして説明したが、これに限らない。例えば、ロッド側に雄ねじが形成されており、ボールスタッド側に雌ねじが形成されていてもよい。また、金属製のロッドとボールスタッドとが溶接により一体化されていてもよい。さらに、金属製のロッドとボールスタッドとが、切削や鋳造等の方法により一体形成されていてもよい。さらにまた、ロッドとボールスタッドとが樹脂で一体に成形されていてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、ソケット42が上板28又は下板26に固定されており、ボールスタッド40がロッド22に固定されているものとして説明したが、これに限らず、ソケットがロッドに固定され、ボールスタッドが上板又は下板に固定されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10 車両用回転シート
12 シートクッション
22 ロッド
22A 上端部
22B 下端部
24 ロック機構
26 下板
28 上板
30 上側支柱
32 下側支柱
36 ボールジョイント
46 溝部
48 突起部
O 軸線