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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007928
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ライブラリー生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240112BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20240112BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20240112BHJP
【FI】
A01G7/00 601Z
A01G7/00 603
A01H1/00 Z
C12Q1/68
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109357
(22)【出願日】2022-07-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】521233231
【氏名又は名称】株式会社AGRI SMILE
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中道 貴也
(72)【発明者】
【氏名】林 大祐
【テーマコード(参考)】
2B022
2B030
4B063
【Fターム(参考)】
2B022DA17
2B022DA20
2B030AD04
2B030AD06
2B030CA28
2B030CB02
2B030CD28
4B063QA01
4B063QQ04
4B063QQ09
4B063QQ42
4B063QQ52
(57)【要約】
【課題】短期間でのバイオスティミュラント資材のライブラリーを生産可能とするライブラリー生産方法を提供する。
【解決手段】試験用個体を育成する第1生物育成(生物育成1)工程S1と、試験用個体に特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、試験用個体の成長度を計測する生物試験工程S2と、試験用個体にバイオスティミュラント資材を添加した後、試験用個体の遺伝子発現状況を解析するオミクス解析工程S6と、表現型試験ステップにおいて計測した成長度と解析系試験ステップにおいて解析した遺伝子発現状況とをデータベース化し、データベース化された試験結果に基づき、特定植物の所定の非生物的ストレス環境下に対して有効な前記特定成分をライブラリー化するライブラリー作成工程S8とを含む。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定植物の非生物的ストレス環境下におけるバイオスティミュラント資材に係る特定成分の有効性を調査し、バイオスティミュラント資材のライブラリーを生産するライブラリー生産方法であって、
前記特定植物の種子から発芽させ試験用個体を育成する育成ステップと、
所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の成長度を計測する表現型試験ステップと、
前記所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の遺伝子発現状況を解析する解析系試験ステップと、
前記表現型試験ステップにおいて計測した成長度と前記解析系試験ステップにおいて解析した遺伝子発現状況とをデータベース化する試験結果記録ステップと、
前記データベース化された試験結果に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下に対して有効な前記特定成分をライブラリー化するライブラリー生産ステップと
を含み、
前記表現型試験ステップにて前記バイオスティミュラント資材を添加する時点での前記試験用個体は、予め定められた個体均一化基準を満たしており、
前記解析系試験ステップにて前記バイオスティミュラント資材を添加する時点での前記試験用個体は、前記予め定められた個体均一化基準を満たしている
ことを特徴とするライブラリー生産方法。
【請求項2】
前記表現型試験ステップでは、前記特定成分の濃度が互いに異なる複数種類のバイオスティミュラント資材が用いられ、前記解析系試験ステップでは、前記複数種類のバイオスティミュラント資材のうち前記表現型試験ステップにて有効な成長度が計測されたバイオスティミュラント資材が用いられる、請求項1に記載のライブラリー生産方法。
【請求項3】
請求項1に記載のライブラリー生産方法によってライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物が前記所定の非生物的ストレス環境下で育成されているときに、前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加する植物の育成方法。
【請求項4】
請求項1に記載のライブラリー生産方法によってライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を添加した苗。
【請求項5】
請求項1に記載のライブラリー生産方法によってライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオスティミュラント資材のライブラリーを生産するライブラリー生産方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の収量向上のために、農薬、肥料等の農業資材が使用されている。その使用量は年々増加しており、これらの環境への影響が課題となっている。また、地球温暖化に伴う気候変動や異常気象等による、農作物の収量低下が危惧されている。しかしながら、従来の農業資材は、害虫等の生物学的ストレス緩和をもたらしたり、植物の栄養源自体となったりと、上述したような環境由来の非生物学的ストレスには対応できない。
【0003】
そこで近年、新しい農業資材カテゴリーの1つである、バイオスティミュラントが注目されている。バイオスティミュラントは、植物に、環境由来の非生物学的ストレスに対する耐性を付与したり、免疫力の向上を促したりすることにより、植物が本来もつ能力(収量・品質)を最大限に引き出すために利用される物質又は微生物と定義される。特許文献1には、バイオスティミュラントではなく、細胞コレクションのライブラリーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4965625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
対象とする植物や農産物に付与したい性質に応じて、バイオスティミュラント(以下「BS」と称することがある)資材を適切な選択(種類や配合成分の選択など)、タイミング、量で供する技術を確立することにより、化学肥料や農薬の使用量を削減しつつ供給責任を果たす農業の実現に貢献できる。そして、各種のBS資材の原体や特定成分等に係る様々な情報を短期間にライブラリー化できるスクリーニング方法論を確立することにより、BS資材を利用した農業生産を迅速に普及させることが可能となる。
【0006】
本発明は、短期間でのバイオスティミュラント資材のライブラリーを生産可能とするライブラリー生産方法、植物の育成方法、特定成分を添加した苗、バイオスティミュラント資材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるライブラリー生産方法は、特定植物の非生物的ストレス環境下におけるバイオスティミュラント資材に係る特定成分の有効性を調査するライブラリー生産方法であって、
前記特定植物の種子から発芽させ試験用個体を育成する育成ステップと、
所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の成長度を計測する表現型試験ステップと、
前記所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の遺伝子発現状況を解析する解析系試験ステップと、
前記表現型試験ステップにおいて計測した成長度と前記解析系試験ステップにおいて解析した遺伝子発現状況とをデータベース化する試験結果記録ステップと、
前記データベース化された試験結果に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下に対して有効な前記特定成分をライブラリー化するライブラリー生産ステップと
を含み、
前記表現型試験ステップにて前記バイオスティミュラント資材を添加する時点での前記試験用個体は、予め定められた個体均一化基準を満たしており、
前記解析系試験ステップにて前記バイオスティミュラント資材を添加する時点での前記試験用個体は、前記予め定められた個体均一化基準を満たしており、
前記予め定められた個体均一化基準には、前記育成ステップにおける種子同士の間隔が所定間隔であること、及び前記育成ステップにおける発芽体同士の間隔が前記所定間隔とは異なる特定間隔であることが含まれる
ことを特徴とする。
(2)ライブラリー生産方法は、前記表現型試験ステップでは、前記特定成分の濃度が互いに異なる複数種類のバイオスティミュラント資材が用いられ、前記解析系試験ステップでは、前記複数種類のバイオスティミュラント資材のうち前記表現型試験ステップにて有効な成長度が計測されたバイオスティミュラント資材が用いられる、上記(1)に記載のライブラリー生産方法。
(3)本発明による植物の育成方法は、上記(1)に記載のライブラリー生産方法によってライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物が前記所定の非生物的ストレス環境下で育成されているときに、前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加する。
(4)本発明による特定成分を添加した苗は、上記(1)に記載のライブラリー生産方法によってライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を添加した。
(5)本発明によるバイオスティミュラント資材の製造方法は、上記(1)に記載のライブラリー生産方法によってライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、短期間でのバイオスティミュラント資材のライブラリーを生産可能とするライブラリー生産方法、植物の育成方法、特定成分を添加した苗、バイオスティミュラント資材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るライブラリー生産方法を概略的に示す説明図(フローチャート)である。
図2】第1生物育成(生物育成1)工程を概略的に示す説明図である。
図3】生物試験工程を概略的に示す説明図である。
図4】オミクス解析工程を概略的に示す説明図である。
図5】均一化処理の階層構造と工程管理の関係を概略的に示す説明図である。
図6図5に続く均一化処理の階層構造と工程管理の関係を概略的に示す説明図である。
図7】コンピュータ機器のハードウエア構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。
【0011】
本明細書において、複数の上限値と複数の下限値とが別々に記載されている場合、これらの上限値と下限値とを自由に組み合わせて設定可能な全ての数値範囲が記載されているものとする。
【0012】
<植物に非生物学的ストレスに対する耐性を付与する組成物(特定成分)>
「植物の非生物学的ストレス」とは、植物の環境に起因するストレスであり、病気や害虫による生物学的ストレスと区別される。「非生物学的ストレス」は、非生物的ストレス、環境ストレスともいう。非生物学的ストレスとして、例えば、高温ストレス、低温ストレス、浸透圧ストレス、酸化ストレス、傷害ストレス、乾燥ストレス等がある。
【0013】
本実施形態に係る高温ストレスは、好適な栽培温度と比較して、5℃以上又は10℃以上高い温度環境を指す。好適な栽培温度は、植物の種類や時期によって適宜決定されるが、通常の栽培温度が15℃以上30℃以下であることを考慮すると、高温ストレスは、35℃以上又は40℃以上の環境を指す。植物がこのような環境にあると、細胞内タンパク質等の変性や細胞内タンパク質複合体の解離等が起こり、葉焼け、葉のしおれ、茎、葉及び根の伸長阻害、花の奇形発生、花落ち、果実の糖度低下並びにサイズの減少等の症状が現れる場合がある。
【0014】
本実施形態に係る低温ストレスは、好適な栽培温度と比較して、5℃以上又は10℃以上低い温度環境を指す。好適な栽培温度は、植物の種類や時期によって適宜決定される。植物がこのような環境にあると、植物内に毒性物質及び異常な代謝産物の蓄積等が生じ、葉の枯死等の症状が現れる場合がある。
【0015】
本実施形態に係る浸透圧ストレスは、低浸透圧環境及び高浸透圧環境の2つに分けられるが、主に高浸透圧環境を指す(高浸透圧環境を、塩ストレス、脱水ストレスともいう)。浸透圧ストレスは、具体的には、植物の根圏の浸透圧(水ポテンシャルともいう)が、細胞の浸透圧と比較して、0.5MPa以上、1.0MPa以上又は5.0MPa以上の差がある環境を指す。高浸透圧環境では、細胞の原形質分離が起こり、水分吸収が充分に行えずに水分欠乏状態となるため、気孔閉塞、葉面積の減少、葉の巻き込み、光合成の低下等の症状が現れる場合がある。また、植物内に蓄積した過剰量のイオンによって、代謝が阻害され、葉の枯死、生長不良等の症状が現れる場合もある。
【0016】
本実施形態に係る酸化ストレスとは、強光や土壌成分等に起因する過剰な酸化還元反応状態を指す。酸化ストレスは、例えば、植物中の活性酸素種(ROS)の量を測定することにより検出できる。酸化還元反応により発生した活性酸素種により、葉焼け等の症状が現れる場合がある。
【0017】
本実施形態に係る傷害ストレスとは、他の物体との物理的接触や、風、及び病害虫等による摂食や侵入等による物理的な傷害に起因するストレスを指す。傷害ストレスは、例えば、植物中のサリチル酸、ジャスモン酸、エチレン等の量を測定することにより検出できる。植物が傷害ストレス下にあると、葉のしおれ、茎及び葉の伸長阻害等の症状が現れる場合がある。
【0018】
本実施形態に係る乾燥ストレスとは、植物が水分欠乏(乾燥)状態になったときに起こるストレスを指す。乾燥ストレスは、例えば、植物中のアブシジン酸の量を測定することにより測定できる。植物が乾燥ストレス下にあると、気孔閉塞、光合成の低下、呼吸増加、茎、葉及び根の伸長阻害等の症状が現れる場合がある。
【0019】
なお、本明細書において「非生物学的ストレスに対する耐性を付与する」とは、上述した種々の非生物学的ストレスに直接的に耐性を付与する場合に加えて、病害虫ストレス(病害虫による生物学的なストレスであって、傷害ストレスを含まない)及び要素ストレス(生育に必要な栄養源の不足又は過剰)等の生物学的ストレスを疑似的に誘導することにより、植物内のシグナル伝達経路や生理機能(例えば、植物ホルモンの誘導及び代謝)を変化させて、間接的に又は結果的に非生物学的ストレスに対する耐性を付与する場合を含む。「(植物の)生育に必要な栄養源」として、例えば、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、硫黄、銅、亜鉛、ホウ素、マンガン、モリブデン等が挙げられる。
【0020】
植物ホルモン誘導が亢進しているか否かは、植物中の植物ホルモン量を測定することによって判断することができる。測定する植物ホルモンとして、例えば、サイトカイニン、オーキシン、ジベレリン、アブシジン酸、サリチル酸、ストリゴラクトン、ジャスモン酸、エチレン、ブラシノステドイド、フロリゲン等が挙げられる。植物ホルモン量の測定には、従来公知の植物ホルモン分析法を使用することができる。植物ホルモン分析法として、例えば、質量分析等の機器分析や、各種のバイオアッセイ等が挙げられる。また、植物ホルモン誘導及び/又は代謝が亢進しているか否かは、植物ホルモン誘導及び代謝に関する遺伝子発現を解析することによって判断することもできる。植物ホルモン誘導及び代謝に関する遺伝子として、例えば、DREB1A等が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る組成物(特定成分)は、上述の非生物学的ストレスのうち、少なくとも1つ以上に対する耐性を付与することができる。非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かは、植物の形質によって判断することができる。植物の形質としては、植物の全体重量(バイオマス量ともいう)、地上部長(茎の最下端からの株の高さ)、地上部重量、根部重量、根重量比率(植物の全体重量に対する根部重量)、葉焼けの有無、葉のしおれの有無、花の奇形発生の有無、花落ちの有無、果実の糖度及びサイズ、収穫量等が挙げられる。植物が非生物学的ストレス下にあると、植物の形質の度合いが低下し得る。なお、植物における地上部と根部とは、色(地上部は緑色、根部は白色となる傾向がある)及び形(地上部は植物細胞の繊維が顕微鏡等により確認できる)から分類することができる。「植物の形質の度合いが低下する」とは、例えば、全体重量、地上部長、地上部重量、根部重量、果実の糖度及びサイズ並びに収穫量の低下や、葉焼け、葉のしおれ、花の奇形、花落ちの発生及び発生率の増加等を意味する。なお、本明細書において、「(ストレスに対する)耐性を付与する」とは、必ずしもストレスに対して完全な耐性を付与することを意味しない。すなわち、ストレスがない場合の植物の形質の度合いを100%、ストレス下で本実施形態に係る組成物を投与しない場合の度合いを0%としたとき、ストレス下で本実施形態に係る組成物を投与して、ストレスによって低下した植物の形質の度合が、10%以上又は30%以上回復することを意味し、好ましくは50%以上、70%以上又は80%以上回復することを意味する。また、本実施形態に係る組成物を使用しない条件において全く生育が認められない場合に、組成物の投与により生育が認められるようになる場合も含む。
【0022】
なお、通常の栽培環境において、植物は何らかの非生物学的ストレス下にあると言える。したがって、非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かは、通常の栽培環境において、候補となる組成物を植物に投与することで判断できる。この場合、非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かは、候補となる組成物を植物に投与しない場合と比べて、植物の形質の度合いが向上するか否かにより判断することができる。ただし、組成物の成分が肥料(植物の栄養源自体となる従来の資材)として作用し得る場合もある。このような場合を排除するため、栄養源が充分にある環境において、候補となる組成物を植物に投与することで、該組成物により非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かを判断することが好ましい。栄養源が充分にある環境は、例えば、水稲水耕の場合、木村氏B液の栄養源組成以上の培地を用いることで達成できる。また、組成物による影響を検出しやすくするために、組成物投与前の植物を飢餓状態(栄養源が充分でない状態)としてもよい。植物の飢餓状態は、従来公知の必要十分量未満の栄養源を含む培地を用いることができる。例えば、水稲水耕の場合、木村氏B液の少なくとも1つの栄養源が所定の組成未満の培地を用いて一定期間(例えば、1日又は1週間以上)栽培することにより、飢餓状態とすることができる。
【0023】
非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かは、植物の遺伝子発現を解析することによって判断することもできる。上述の各非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かは、各非生物学的ストレス耐性マーカー遺伝子の発現量を検出することにより判断することができる。本実施形態に係る組成物を投与したときに、ある非生物学的ストレスについて、当該非生物学的ストレス耐性マーカー遺伝子のうち、少なくとも1以上の遺伝子が発現上昇していれば、当該非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたと判断される。当該非生物学的ストレス耐性マーカー遺伝子のうち、2以上の遺伝子が発現上昇していることが好ましく、3以上の遺伝子が発現上昇していることがさらに好ましい。また、当該非生物学的ストレス耐性マーカー遺伝子のうち、特に当該非生物学的ストレスへの影響度が大きい遺伝子が発現上昇していることが好ましい。各遺伝子の発現上昇の度合いは、本実施形態に係る組成物を投与しない場合と比べて、2倍以上、3倍以上又は10倍以上であることが好ましい。さらに、本実施形態に係る組成物を投与したときに、ある非生物学的ストレスについて、複数の当該非生物学的ストレス耐性マーカー遺伝子からなる当該非生物学的ストレス耐性マーカー遺伝子群のうち、1%以上、5%以上又は10%以上の遺伝子が発現上昇していることが好ましい。
【0024】
本実施形態に係る組成物は、上述の通り、非生物学的ストレスのうち、少なくとも1つ以上に対する耐性を付与することができ、好ましくは複数の非生物学的ストレスに対する耐性を付与することができる。したがって、本実施形態に係る組成物を投与したときに、複数の非生物学的ストレスに関わる非生物学的ストレス耐性マーカー遺伝子がそれぞれ発現上昇することが好ましい。例えば、一実施形態において、組成物は、高温ストレス耐性マーカー遺伝子及び傷害ストレス耐性マーカー遺伝子を発現上昇し得る。
【0025】
植物の遺伝子発現は、例えば、植物細胞中のRNA量を測定することにより検出できる。植物細胞中のRNA量の測定には、従来公知の測定方法を使用することができ、例えば、RNA-seq法、リアルタイムPCR法、マイクロアレイ法等を使用できる。
【0026】
<ライブラリー生産方法の概要>
続いて、本発明の一実施形態に係るライブラリー生産方法について説明する。実施形態に係るライブラリー生産方法は、バイオスティミュラント(BS)資材に係る特定成分(例えば、各種アミノ酸、野菜・果物エキス、酵母(例えばビール酵母等)、その他の生物刺激作用成分など)の有効性を調査する方法、及び、上記特定成分を含むBS資材を添加する植物の育成方法を含んで構成されている。さらに、本実施形態において生産されたライブラリーは、ライブラリーに基づいた苗やBS資材の生産や製造を可能とする。
【0027】
図1は、本実施形態に係るライブラリー生産方法における基本の工程を概略的に示している。詳細は後述するが、図1の例のライブラリー生産方法は、生物(ここでは本実施形態の処理対象生物であるイネ(稲)などの植物)についての均一化を繰り返すことにより、試験用個体の成長のばらつき出現を低減し、短期間でBS資材に係る特定成分のライブラリー(BSライブラリー)を生産できるようにしている。
【0028】
BS資材としては、アミノ酸等の上記特定成分を含んだ水溶液、粉体(パウダー)、又は、粒等を例示できる。特定成分を含む水溶液、粉体や(パウダー)、又は、粒等を工業生産することにより原体が得られる。本実施形態において生産されるライブラリーは、複数種類の原体について、原体が含む特定成分や、複数種類の特定成分を組み合わせて構成された組成物等の情報も含む。さらに、ライブラリーには、原体、特定成分、又は、組成物と、これらに対して育成効果が得られた植物の種類や生育状況との関係等の情報も含む。
【0029】
発明者等の研究では、例えば、特定の植物に対し、単体ではBS資材の機能を発揮しない(BS資材とならない)特定成分や原体に、他の原体、特定成分、又は、組成物を添加した場合に、BS資材の機能が発揮される場合があるという知見が得られている。このような資材同士の組み合わせと、育成効果が発揮される植物との関係の情報も、ライブラリーに含み得る。
【0030】
特定成分の濃度は、例えば、生産性、用途、又は、需要等といった事情に応じて、種々に決定することができる。特定成分の濃度は、圃場の条件にも依存する。農薬や肥料の使用量により土壌状態が変わるためである。
【0031】
図1に示すように、本実施形態のライブラリー生産方法は、第1生物育成工程S(ステップ)1を備えている。第1生物育成工程S1は、図1では「生物育成1」と示されている。ライブラリー生産方法は、その他に、生物試験工程S2、第2生物育成工程S4、オミクス解析工程S6、及び、ライブラリー作成(「ライブラリー生産」と称してもよい)工程S8を備えている。第2生物育成工程S4は、図1では「生物育成2」と示されている。
【0032】
詳細は後述するが、各工程は、植物や農産物等といった処理対象生物を均一化する。第1生物育成工程S1では、試験用個体の均一化処理が行われ、生物試験工程S2では、試験系の均一化処理が行われる。生物試験工程S2の試験系のうち、予め決められた所定の個体均一化基準を満たした試験系が抽出される(S3)。
【0033】
図1において、S3の処理は、菱形の図形である判断記号により示されている。S3は、有意差のあった試験系を抽出する処理(工程)を表しており、有意差があると判定された試験系のうちの少なくとも一部が、次の第2生物育成工程S4における処理対象生物となる。有意差があると判定されなかった試験系は、以降の各工程では、ライブラリー生産のための処理対象生物としては利用されない。有意差が認められる試験系の例については後述する。
【0034】
第2生物育成工程S4では、後述するオミクス解析(オミクス解析工程S6)において使用される処理対象生物の育成が行われる。第2生物育成工程S4で育成された処理対象生物から、解析用個体が選別される。S5の処理(工程)において、解析用個体としての基準を満たし、肯定判断が行われた処理対象生物が、解析用個体として抽出される。
【0035】
ここで、本明細書では、「選別」、「抽出」、「選定」、及び、「選抜」の用語は、何れも処理対象生物を選び出すといった意味を表しており、特に説明がない限りは同様の意味で用いられている。
【0036】
有意差のある試験系の抽出処理(S3)、第2生物育成工程S4、及び、その後の解析用個体の抽出処理(S5)により、解析用個体の均一化処理が行われる。S3~S5によって均一化された解析用個体は、解析系を構成する。
【0037】
オミクス解析工程S6により、解析系の均一化処理が行われる。さらに、生物刺激に対する発現処理(生物刺激に対する発現工程)S7において、評価系の均一化処理が行われる。さらに、ライブラリー作成工程S8において、均一化された評価系を用いて、BS資材に係る原体、特定成分、及び、植物等の相互関係を集計したBSライブラリーが生産される。
【0038】
このように、本実施形態に係るライブラリー生産方法においては、処理対象生物の均一化が段階的に行われる。処理対象生物は、複数の工程を経て順次均一化される。このため、処理対象生物にバラツキがあっても、このバラツキが徐々に(多段階に)排除され、一定の品質に均一化された処理対象生物のみを用いて、BSライブラリーの生産が行われる(S8)。
【0039】
したがって、バラツキの大きな多数の処理対象生物(標本)に対してオミクス解析工程S6を行う必要がない。そして、バラツキの小さな少数の処理対象生物に対してオミクス解析工程S6を行うことにより、短期間でBSライブラリーを生産できるようになる。
【0040】
以下に、第1生物育成(生物育成1)工程S1、生物試験工程S2、第2生物育成(生物育成2)工程S4、及び、オミクス解析工程S6の内容について説明する(図2図4)。その後に、第1生物育成工程S1~オミクス解析工程S6において行われている、処理対象生物に対する均一化の階層構造について、工程管理とともに説明する(図5及び図6)。
【0041】
<第1生物育成(生物育成1)工程S1の内容>
図2は、第1生物育成(生物育成1)工程S1の内容を概略的に示している。図2では、左側に、図1と同様のライブラリー生産方法が示され、右側に、第1生物育成工程S1の内容が、吹き出しを用いて示されている。
【0042】
第1生物育成工程S1においては、水耕液調整S11、種子選別S12、種子消毒S13、発芽処理S14、個体育成S15、及び、試験用個体の選定S16の工程が順に行われる。
【0043】
水耕液調整S11では、例えば、イネの種子(もみ)が処理対象生物とされ、水耕栽培により種子を発芽させるための水耕液が用意される。水耕液の成分の調整が行われ、容器に水耕液が供給される。容器としては、例えば、シャーレを利用できる。シャーレとしては、一般的な種々の形状(丸型、四角型など)や大きさのものを利用できる。容器は、シャーレに限られない。容器としては、種々の形態のものを採用できる。
【0044】
種子選別S12において、種子の選別が行われ、可能な限り均一化された種子が採用される。種子の均一化の基準(個体均一化基準)としては、大きさ(粒の外形の大小や、特定の部位の寸法など)、色、厚み、損傷の有無等のうちの何れか、又は、複数の基準の組み合わせを採用できる。
【0045】
例えば、色に係る基準を用いた選抜においては、斑点や黒ずみがある種子は取り除き、処理対象生物として採用しない、といったことが可能である。厚みに係る基準を用いた選抜においては、丸みがなく平たい種子は取り除く、といったことが可能である。さらに、損傷の有無に係る基準を用いた選抜においては、欠けや凹みがある種子は取り除く、といったことが可能である。
【0046】
このような種子の外観に基づく均一化処理の方法は、種子処理に関する「外観選抜」などと称される。外観選抜により選び出される(残される)種子の数(種子数)を「外観選抜数」と称することが可能である。
【0047】
外観選抜の他にも、例えば、塩液浮遊選抜により、種子の選別を行うことが可能である。塩液浮遊選抜においては、種子が塩液(塩水、塩化ナトリウム水溶液)に浸される。浮いた種子は、均一化の条件を満たさないものとして取り除かれる。例えば、塩分濃度20~25%の塩液に多数の種子を浮かべ、浮いたものは取り除かれ、処理対象生物として採用されない。塩液浮遊選抜により選別された種子の数を「塩液浮遊選抜数」と称することが可能である。
【0048】
種子選別S12において選択された種子は、種子消毒S13において消毒される。種子消毒S13により、種子が病気から守られる。消毒に利用される資材(消毒資材)の種類としては、熱、エタノール、又は、農薬等を挙げることができる。処理対象となる全ての種子の消毒を同じ消毒資材を用いて行うことにより、より高度な均一化を行うことが可能である。
【0049】
消毒された種子は、水耕液が供給された容器に配置される。種子は、水耕液に接触するよう(一部又は全体が浸った状態を含む)、容器に配置される。容器内での種子の間隔(前後及び/又は左右の間隔)は、予め決められた大きさ(数ミリ間隔、数センチ間隔等といった所定間隔)である。
【0050】
種子の配置は、例えば、発芽し、根が出た状況を想定して行うことが可能である。種子が発芽し、根が出た場合に、隣り合った種子の芽や根が干渉しないように種子を配置することで、栽培密度を適正化でき、物理的接触を防止できる。容器内での種子の間隔(種子間隔)は、容器の大きさや、種子の数に基づき決めることができる。具体的には、5~10mm未満の間隔で種子を配置することが可能である。
【0051】
後述するように、試験用個体や解析用個体の数は8個以下(例えば、標本数n=4~8)に絞られるが、この段階における種子の数は、9個以上である。この段階における種子の数としては、例えば、数十、数百、数千等といった数を例示できる。容器の数は、単数であっても複数であってもよい。
【0052】
種子の数は、前段の水耕液調整S11~種子消毒S13において、人的条件、設備的条件、又は、時間的条件、経済的条件等の種々の条件に基づき許容される範囲で決定される。種子消毒S13において取り扱われる種子の数は、前段の種子選別S12において取り扱われる種子の数よりも少ない。また、階層化された均一化処理が進むほど、処理対象生物の個体数は減少する。
【0053】
発芽処理S14においては、種子を発芽させる工程が行われる。水耕液に接触した種子は、水分を吸収する。
【0054】
種子が配置された容器は、所定の環境下で保管され、所定の日数が経過すると、種子が発芽する。例えば、イネの場合、温度環境にもよるが、容器への種子の設置から発芽までに要する日数は、数日程度である。
【0055】
例えば、7日以内で発芽した種子を、処理対象生物として採用し、7日以内に発芽しなかった種子は取り除く、といった個体均一化基準を採用することも可能である。また、発芽に要する積算温度(=水耕液の温度×日数、例えば100℃など)を定めて、発芽までの計画を立てる、といった個体均一化基準を採用することも可能である。
【0056】
また、発芽処理S14における処理対象生物(ここではイネ)の個体均一化基準として、発芽率を採用することが可能である。例えば、試験区内において、所定日数(例えば7日)の間に所定の割合(例えば80%)以上の種子が発芽した試験区の種子を、処理対象生物として採用する、といったことができる。
【0057】
個体育成S15においては、発芽した処理対象生物(ここではイネ)を成長させる工程が行われる。発芽した種子の間隔は、容器の大きさや、種子の数に基づき決めることができる。本実施形態では、選抜された発芽済みの種子の間隔は、発芽前の種子の間隔に比べて、互いの種子の間隔が広がるよう変更される。十分な間隔を確保することで、物理的接触を防止できる。
【0058】
本実施形態では、発芽した以降に選別が行われ、種子の場合における配置間隔に比べて配置が変更された処理対象生物を「発芽体」と称する。「発芽体」については、第1生物育成(生物育成1)工程S1において、最初の配置変更がされた以降の処理対象生物である、ということもできる。なお、「発芽体」の配置間隔が、それ以前における種子の段階の配置間隔から変更されたことを、個体均一化基準に含めることも可能である。
【0059】
発芽の後には根が現れ、芽と根が徐々に伸びる。芽や根が現れた処理対象生物は、試験用個体の選定S16において選定される。選定された処理対象生物は、試験用個体として次工程で用いられる。
【0060】
試験用個体の選定S16は、予め決められた個体均一化基準に基づいて行われる。この段階における個体均一化基準としては、種々の基準を採用することが可能である。この段階の個体均一化基準としては、例えば、全体の大きさ(長さ)、芽の大きさ、芽の長さ、芽の数、茎の太さ、芽や茎(軸)の色合い、等といったものを例示できる。
【0061】
以上説明したような第1生物育成工程S1における系全体の最終結果は、選抜された個体数と、途中段階における選抜の基準(個体均一化基準)に基づき選抜された個体数との比により表すことができる。例えば、外観選抜による外観選抜数を用いる場合に、次の工程(生物試験S2)の前における個体数を50個とし、外観選抜数を100個とすると、50÷100=0.5の数値が得られる。このような状況について、50%以上が均一化されている試験個体が作られた、といったように表現することが可能である。
【0062】
ここで、本実施形態において、水耕液調整S11、種子選別S12、種子消毒S13、発芽処理S14、個体育成S15、及び、試験用固定の選定S16の工程において行われる各処理は、個体均一化基準を満たすよう人手によって行うことも可能である。しかし、各工程S11~S16における処理を、例えば、画像認識技術等を用いて自動化することも可能である。
【0063】
処理を自動化する場合には、カメラや各種センサ等の検出機器や、情報処理のためのコンピュータ機器が用いられる。処理対象生物の撮影画像データが取得され、所定の選定基準をパラメータとして、パラメータの数値化が行われる。得られた数値を用い、当該数値が予め定められた閾値を超えているか否かの判定が行われる。閾値を超えている処理対象生物が、試験用個体として選別される。
【0064】
さらに、AI(人工知能)の機能を実行するアプリケーションをコンピュータ機器にインストールし、当該コンピュータ機器を用いて、AIを活用した処理対象生物の選別を行うことも可能である。この場合は、例えば、AIに自動判断のための学習を行わせ、学習の結果を用いて、自動的に選別を実行する。また、ハンドリングロボットを採用し、適切な加圧制御を行って、種子や、発芽後の処理対象生物の把持、移動、及び、設置等の作業を自動化してもよい。
【0065】
<コンピュータ機器の概略構成>
コンピュータ機器は、第1生物育成(生物育成1)工程S1~生物刺激に対する発現工程S7において得られる情報の入力や、随所での工程管理において使用される。コンピュータ機器としては、一般的なパーソナルコンピュータ(以下では「PC」と称する)機器、ノートPC、スマートフォン、又は、タブレット端末などを使用できる。図7は、一般的なPC40のハードウエア構成を概略的に示している。PC40は、内部に、制御部41、記憶部42、通信部43等を備えている。記憶部42や通信部43は外付けされたものであってもよい。PC40は、周辺機器として、操作部44及び表示部45等を備えている。操作部44及び表示部45については後述する。周辺機器として、例えば、カメラや各種センサのような識別部46(「検出部」や「情報入力部」等ともいう)備えられている。
【0066】
制御部41は、図示は省略するが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などにより構成されている。制御部41のCPUは、ROMや記憶部42に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行する。制御部41は、複数のCPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、マイクロプロセッサ、揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える任意の処理回路又は演算回路であってもよい。
【0067】
記憶部42は、各種の情報を記憶するROMやRAMなどの半導体メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、又は、SSD(Solid State Drive)などを含む不揮発性の記憶部である。記憶部42には、プロセッサ(ここでは制御部41)における処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、及び、データ等が記憶されている。
【0068】
記憶部42に記憶されるプログラムは、当該プログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体(図示略)により提供されてもよい。記録媒体としては、例えば、CD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、マイクロSDカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの可搬型メモリを例示できる。この場合、制御部41は、読取装置(図示略)を用いて記録媒体からプログラムを読み取り、読み取ったプログラムを記憶部42にインストールする。
【0069】
記憶部42に記憶されるプログラムは、通信部43を介した通信により提供されてもよい。この場合、制御部41は、通信部43を通じてプログラムを取得し、取得したプログラムを記憶部42にインストールする。
【0070】
通信部43は、周辺機器との通信や、通信網(図示略)を通じた他の端末装置やサーバ機器等との通信を行うためのインターフェース回路を備える。通信部43は、所定の通信プロトコルに従った有線や無線によるデータ通信を実行する。通信部43は、周辺機器や他の端末装置へ送信すべき情報が制御部41から入力された場合、入力された情報を、対象の機器へ送信する。
【0071】
操作部44は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどの操作入力手段である。操作部44は、PC40に一体に備えられたものであってもよい。操作部44は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの複数の操作入力手段を包括していてもよい。
【0072】
表示部45は、一般的なディスプレイ装置などの表示手段により構成されている。表示部45は、PC40に一体に備えられたものであってもよい。さらに、表示部45は、タッチパネルを一体に備えたものであってもよい。
【0073】
識別部46には、例えば、各工程や処理対象生物を撮像できるカメラ(動画でも静止画でもよい)、色や温度、成分等を検出する各種のセンサ類を含むことができる。また、得られた情報を閾値と比較し、閾値との関係(大小関係など)を判定する機能等を備えていてもよい。
【0074】
通信網(図示略)としては、例えば、インターネット、VPN、LAN、WAN、公衆電話回線、基地局、移動体通信網、及び、ゲートウェイなどを介して相互に接続されたもの(所謂クラウドを含む)を例示できる。
【0075】
PC40は、必ずしも各1台のコンピュータ機器である必要はない。例えば、PC40の機能が複数のコンピュータ機器により実行されるようにすることも可能である。また、コンピュータ機器は、一般的なPC40に限定されず、例えば、産業機械(産業用装置)の制御用に製作されたコンピュータ機器であってもよい。さらに、コンピュータ機器は、制御機器として独立して設置されるものでもよく、又は、処理対象生物の育成、試験、解析等に用いられる機器に内蔵されたものであってもよい。
【0076】
<生物試験工程S2の内容>
図3は、生物試験工程S2の内容を、吹き出し内に概略的に示している。生物試験工程S2においては、試験系の設定S21、試験実施S22、表現型の第1評価(表現型の評価1)S23、乾燥S24、及び、表現型の第2評価(表現型の評価2)S25の工程が順に行われる。
【0077】
試験系の設定S21では、第1生物育成工程S1で選別された処理対象生物が試験用個体として用いられ、試験用個体を用いた試験に必要な条件が整えられる。詳細については後述する。
【0078】
試験実施S22では、BS資材に係る特定成分が添加(資材添加)され、処理対象生物が育成される。処理対象生物が、予め定められた条件を満たす状態に成長するまで、処理対象生物の育成が継続される。例えば、イネの水耕栽培の場合には、水耕液を用いた水耕栽培が継続される。例えば、イネの土耕栽培の場合には、苗が土壌(苗代田、水田等を含む)に植えられて育成される。
【0079】
表現型の第1評価(表現型の評価1)S23では、処理対象生物に表れた(表現した)事項が測定される。表現した事項(表現事項)に係る項目としては、例えば、処理対象生物の形質に係る前述の各事項を挙げることができる。具体的には、植物の全体重量、地上部長、地上部重量、根部重量、根重量比率、葉焼けの有無、葉のしおれの有無、花の奇形発生の有無、花落ちの有無、果実の糖度及びサイズ、収穫量等を挙げることができる。
【0080】
測定結果に基づき、有意差が認められた試験系が抽出される。有意差が認められた試験系としては、例えば、所定温度の環境で、特定成分の濃度が所定%であるBS資材が添加された試験系、といったものを例示できる。抽出された試験系に属する処理対象生物(試験用個体群)は、解析用個体となる。
【0081】
本実施形態において、試験系に有意差が認められるか否かの判定は、コントロール(比較対象)となる処理対象生物(ここではイネ)を基準とし、統計的処理における有意確率P値が0.05(5%)以下になる試験用個体を、有意差が認められるものと取り扱うことにより行われている。本実施形態においては、統計的処理としてt検定を行った場合に、個体の数(標本数)n=4~8で、P値が0.05以下となり、試験系に有意差が認められている。本実施形態のような段階的な処理を経ない場合には、標本数が10~20上でないとP値が0.05以下にならないが、本実施形態の方法によれば、n=4~8という少ない数値で、P値が0.05以下となる。なお、統計的処理として、試験系とコントロールの母分散が互いに等しいか否かを問題とせず、Welchのt検定を行うことも可能である。
【0082】
コントロールと試験用個体は、同様に育成されている。コントロールと試験用個体に与えられる肥料等の条件は共通である。しかし、コントロールには、BS資材に係る特定成分が与えられておらず、試験用個体にはBS資材に係る特定成分が与えられている。
【0083】
乾燥S24では、処理対象生物を乾燥させる処理が行われる。乾燥した処理対象生物は、表現型の第2評価S25において評価される。
【0084】
表現型の第2評価S25では、乾燥S24において乾燥された処理対象生物について、表現型に係る事項についての測定が行われる。表現した事項としては、表現型の第1評価S23において測定された項目と、同様の項目を採用されている。
【0085】
<第2生物育成(生物育成2)工程S4の内容>
第2生物育成工程S4においては、処理対象生物の育成が行われる。本実施形態では、第2生物育成工程S4の内容は、第1生物育成工程S1と同様に構成されている。
【0086】
第2生物育成工程S4では、第1生物育成工程S1の水耕液調整S11、種子選別S12、種子消毒S13、発芽処理S14、個体育成S15、及び、試験用固定の選定S16と同様の工程が順に行われる。第2生物育成工程S4の内容は、第1生物育成工程S1と同様であるので、ここでは、第2生物育成工程S4についての図示は省略する。
【0087】
第2生物育成工程S4を、第1生物育成工程S1と同様の内容で行うことにより、第1生物育成工程S1で得られた各種の情報(例えば、温度条件の情報や濃度条件の情報など)を参考にして、第1生物育成工程S1で選定された試験用固定と同様の、均一化された試験用固体が第2生物育成工程S4で育成され、以降の処理が進められる。
【0088】
<オミクス解析工程S6の内容>
図4は、オミクス解析工程S6の内容を、吹き出し内に概略的に示している。オミクス解析工程S6においては、サンプル取得S41、サンプルの裁断S42、破砕S43、各種解析S44、データ分析S45、及び、全体評価S46の工程が順に行われる。
【0089】
サンプル取得S41では、オミクス解析のためのサンプル(試料)が取得され、取得されたサンプルは、サンプルの裁断S42や破砕S43により、オミクス解析に適した形状や大きさに成形される。各種解析S44では、先に得られたサンプルに対して、BSのライブラリー生産に必要な項目の解析が行われる。
【0090】
データ分析S45では、各種解析S44で得られた解析結果に対するデータ処理や、評価指標の算出が行われる。全体評価S46では、データ分析S45において算出された評価指標に基づき、ライブラリー情報が決定され、ライブラリー情報を用いたライブラリー生産が行われる。
【0091】
<均一化処理の階層構造>
図5及び図6は、ライブラリー生産方法の各工程における均一化処理の階層構造と、各均一化処理に係る工程管理の内容を概略的に示している。均一化処理は、図5及び図6の上段において左から右に示すように、階層的に複数回行われる。また、均一化処理は、図5及び図6の下段に示すような工程管理を伴いながら進行する。均一化処理が自動化されている場合は、自動化された各種作業を行う産業機械(産業用装置)として考えることも可能なものである。
【0092】
ここで、図5及び図6には、図2図4に示された工程(及び処理)が含まれている。しかし、図5及び図6は、均一化処理の階層構造を概略的に示すものであり、必ずしも各工程の順序を図2図4に示された工程の順序に整合するように示すものではない。
【0093】
図5の左側から順に示すように、第1生物育成(生物育成1)工程S1は、種子均一化層12、及び、発芽均一化層14に対応している。種子均一化層12には、種子選別S12、種子消毒S13等が含まれる。種子選別S12、及び、種子消毒S13は、図2にも示されている。
【0094】
前述したように、種子選別S12では、種子の選別が行われ、可能な限り均一化された種子が採用される。種子消毒S13では、種子の消毒が行われる。種子選別S12、及び、種子消毒S13においては、例えば、使用される種子の情報(選別基準(個体均一化基準)、選別結果など)、消毒資材の情報(種類、使用形態など)等といった各種の情報が得られる。
【0095】
種子選別S12、及び、種子消毒S13で得られた情報は、図5の下段に示すように、種子処理情報として記憶される。種子処理情報の記憶は、例えば、第1生物育成工程S1に係る作業者によって、PC40に入力され、PC40の記憶部42を用いて行われる。
【0096】
以下では説明を省略するが、PC40の記憶部42に記憶された各種の情報を用いて、例えば記憶部42に、ライブラリー生産のためのデータベースが構築される。データベースは、少なくとも、生物試験工程S2(表現型試験ステップ)において計測した成長度を示す情報と、オミクス解析工程S6(解析系試験ステップ)において解析した遺伝子発現状況を示す情報とを含んで構築される。
【0097】
種子均一化層12のブロックの右隣に示す発芽均一化層14には、水耕液調整S11、発芽処理S14、及び、個体育成S15等が含まれる。水耕液調整S11、発芽処理S14、及び、個体育成S15は、図2にも示されている。
【0098】
前述したように、水耕液調整S11では、調整された水耕液が用意される。発芽処理S14では、種子を発芽させる工程が行われる。水耕液調整S11、及び、発芽処理S14では、例えば、水耕液の組成(液量、成分、各成分の割合等)、発芽に要した条件(水温、日数等)、発芽の状態等といった各種の情報が得られる。水耕液調整S11、及び、発芽処理S14で得られた情報は、発芽処理情報としてPC40に記憶される。
【0099】
前述したように、個体育成S15では、発芽した処理対象生物(ここではイネ)を成長させる工程が行われる。個体育成S15では、処理対象生物の育成に係る情報である育成記録情報が得られる。得られた情報は、PC40に記憶される。育成記録情報には、芽や根の育成状態を示す情報が含まれる。育成記録情報は、試験用個体の選定S16において利用され、選定基準(この段階における個体均一化基準)を満たした処理対象生物が、試験用個体として選定される。
【0100】
試験用個体の選定S16は、図2にも示されている。図5及び図6においては、矩形の図形は情報の記録のための作業を示しており、菱形の図形はその他の処理を示している。
【0101】
図5に示すように、生物試験工程S2は、試験均一化層16、及び、測定均一化層18に対応している。試験均一化層16は、図3に示す試験系の設定S21及び試験実施S22に対応している。試験均一化層16では、試験区(試験区の設定)、資材添加(試験に用いられるBS資材の添加)等の処理が行われる。「試験区」や「資材添加」の処理により、試験区を識別する情報(試験区識別情報)や、添加された特定成分(アミノ酸やその他の成分)を識別する情報(特定成分識別情報)等が得られる。
【0102】
試験区識別情報としては、試験区を識別するための情報、試験区に属する処理対象生物に与えられた非生物学的ストレスの内容、といった情報を例示できる。特定成分識別情報としては、対応する試験区に属する処理対象生物に添加された特定成分の種類や濃度、処理対象生物の成長(成長度等)といった情報を例示できる。
【0103】
これらの得られた情報は、試験記録情報として、PC40に記憶される。試験記録情報には、先に得られた試験用個体の情報も組み込まれる。試験記録情報においては、試験用個体の情報と、試験区識別情報や特定成分識別情報とが紐付けられる。
【0104】
測定均一化層18では、表現型処理や乾燥処理等が行われる。表現型処理は、図3に示す表現型の第1評価(表現型の評価1)S23、及び、表現型の第2評価(表現型の評価2)S25に対応し、乾燥処理は、図3に示す乾燥S24に対応している。表現型の第1評価(表現型の評価1)S23では、乾燥前に測定された事項の評価が行われ、表現型の第2評価(表現型の評価2)S25では、乾燥後に測定された事項の評価が行われる。
【0105】
表現型の第1評価(表現型の評価1)S23と、表現型の第2評価(表現型の評価2)S25とでは、同じ項目についての評価が行われる。表現型処理や乾燥処理において得られた情報は、測定処理情報としてPC40に記憶される。乾燥S24の前後で同じ項目の評価を行うことで得られた情報も、測定処理情報としてPC40に記憶される。測定処理情報に基づき、有意差がある試験系が抽出され、解析用個体の情報(解析用個体情報)が得られる。解析用個体情報は、PC40に記憶される。
【0106】
図6には、第2生物育成(生物育成2)工程S4と、オミクス解析工程S6が示されている。第2生物育成(生物育成2)工程S4は、種子均一化層22、及び、発芽均一化層24に対応している。図6の左上の部位に示す丸数字の「1」は、図5の右上の部位に示す丸数字の「1」と、処理上の連続性を有していることを示している。
【0107】
種子均一化層22には、種子選別S32、種子消毒S33等が含まれる。種子選別S32、及び、種子消毒S33で行われる処理としては、第1生物育成(生物育成1)工程S1における種子選別S12、及び、種子消毒S13と同様の処理を採用できる。
【0108】
種子選別S32では、種子の選別が行われ、可能な限り均一化された種子が採用される。種子消毒S33では、種子の消毒が行われる。種子選別S32、及び、種子消毒S33においては、例えば、使用される種子の情報(選別基準(個体均一化基準)、選別結果など)、消毒資材の情報(種類、使用形態など)等といった各種の情報が得られる。
【0109】
種子選別S32、及び、種子消毒S33で得られた情報は、図6の下段に示すように、種子処理情報として記憶される。種子処理情報の記憶は、例えば、第2生物育成工程S4に係る作業者によって、PC40に入力される。
【0110】
種子均一化層32のブロックの右隣に示す発芽均一化層24には、水耕液調整S31、発芽処理S34、及び、個体育成S35等が含まれる。水耕液調整S31、発芽処理S34、及び、個体育成S35で行われる処理としては、第1生物育成(生物育成1)工程S1における水耕液調整S11、発芽処理S14、及び、個体育成S15と同様の処理を採用できる。第2生物育成(生物育成2)工程S4では、発芽均一化層24の個体育成S35において、資材添加(試験に用いられるBS資材の添加)の処理が行われる。図示は省略するが、発芽均一化層24において、生物試験工程S2の試験均一化層16における試験区(試験区の設定)、資材添加(試験に用いられるBS資材の添加)等と同様の処理が順に行われる。
【0111】
水耕液調整S31では、調整された水耕液が用意される。発芽処理S34では、種子を発芽させる工程が行われる。水耕液調整S31、及び、発芽処理S34では、例えば、水耕液の組成(液量、成分、各成分の割合等)、発芽に要した条件(水温、日数等)、発芽の状態等といった各種の情報が得られる。水耕液調整S31、及び、発芽処理S34で得られた情報は、発芽処理情報としてPC40に記憶される。
【0112】
個体育成S35では、発芽した処理対象生物(ここではイネ)を成長させる工程が行われる。この個体育成S35の段階で、前述したように組成物(特定成分)による影響を検出しやすくするために、処理対象生物を飢餓状態としてもよい。個体育成S35では、処理対象生物の育成に係る情報である育成記録情報が得られる。得られた情報は、PC40に記憶される。育成記録情報には、芽や根の育成状態を示す情報が含まれる。
【0113】
育成記録情報は、解析用個体の選定S36(図6の下段に示す)において利用され、選定基準(この段階での個体均一化基準)を満たした処理対象生物が、解析用個体として選定される。解析用個体の選定S36における個体均一化基準は、前述した試験用個体の選定S16における個体均一化基準と同様である。
【0114】
オミクス解析工程S6は、サンプル処理均一化層26、及び、解析均一化層28に対応している。サンプル処理均一化層26には、試験個体の裁断・破砕処理等が含まれる。試験固定の裁断・破砕処理は、図4のサンプル取得S41、サンプルの裁断S42、破砕S43に対応している。試験固定の裁断・破砕処理は、解析用個体に不要な非生物学的ストレスを与えないよう均一化された処理により行われる。試験個体の裁断・破砕処理等で得られた情報は、サンプル処理情報として、PC40に記憶される。
【0115】
サンプル処理情報には、解析用個体の選定S36で選定された解析用個体の情報が組み込まれており、サンプル処理均一化層26では、解析用個体の情報に紐付けて、試験個体の裁断・破砕処理で得られた情報が記憶される。
【0116】
解析均一化層28には、RNA解析、元素解析、その他の解析(「〇〇解析」と伏字により示す)が含まれる。これらの解析は、図4の各種解析S44に対応している。各種の解析により得られた情報は、解析データ処理情報として、PC40に記憶される。解析データ処理情報は、有効データの処理で使用される。有効データの処理における処理結果に基づき、評価指標算の処理において評価指標の算出が行われ、算出結果に基づき、ライブラリー情報(試験結果)が作成される。有効データの処理、及び、評価指標算出の処理は、それぞれ、図4のデータ分析S45、全体評価S46に対応している。
【0117】
ライブラリーの生産は、算出された評価指標に基づき、原体、特定成分、及び、植物等の相互関係を集計することにより行われる。評価指標に基づく特定成分のリスト化は、例えば、汎用の表計算ソフト等を用いて行ったり、専用のアプリケーションソフトを作成したりして行うことが可能である。集計の内容としては、ごく一部の例を挙げれば、ストレス耐性が十分にあると判断された特定成分の濃度と環境温度との関係、このときの条件での植物の表現型(形質)、遺伝子発現解析、元素分析、ホルモン分析等といった事項を挙げることができる。
【0118】
<苗やBS資材の生産>
本実施形態において生産されたライブラリーは、種々に利用することが可能である。例えば、苗の生産や、BS資材の生産に用いることが可能である。生産されたライブラリーに基づく特定成分を添加して生産された苗は、非生物学的ストレスへの耐性が強い苗となる。また、生産されたライブラリーに基づく特定成分を含んだBS資材は、非生物学的ストレスへの耐性が強い植物等の育成を可能とする。
【0119】
<実施形態の発明に係るメリット>
以上説明したような本実施形態に係るライブラリー生産方法によれば、図1に示すように、第1生物育成(生物育成1)工程S1~生物刺激に対する発現工程S7の間に、階層的に均一化処理が行われる。均一化処理には、S1~S7に対応する試験用個体の均一化処理(S1)、試験系の均一化処理(S2)、解析用個体の均一化処理(S3~S5)、解析系の均一化処理(S6)、評価系の均一化処理(S7)がある。このため、細分化された均一化を行うことが容易であり、ライブラリー作成工程S8において、より細かくスクリーニングされた処理対象生物から得られた情報を利用して、BSライブラリーを生産することができる。
【0120】
さらに、実施形態では、BS資材の有効性を調査するスクリーニングの各工程で均一化処理を行うことで、試験用個体の成長のばらつき出現を低減し、標本数n=4~8で、確率P値0.05以下が実現されている。このため、少ない標本数で生物試験(S2)及びオミクス解析(S6)を行うことが可能である。したがって、短期間で生物試験(S2)及びオミクス解析(S6)までを完了させることができる。そして、生物刺激作用成分(特定成分、「遺伝子活性化成分」ともいう)を早期に発見でき、効率的にBSライブラリーを生産できる。さらに、BS資材の有効性を調査するスクリーニングの過程で、順次均一化処理を行うことにより、短期間でのライブラリー生産が可能となる。
【0121】
本実施形態のライブラリー生産方法によらずに、生物刺激作用成分(植物の非生物的ストレスに対する抵抗を高める作用機序を持つ成分、特定成分)の解明及びライブラリー生産を行う場合、栄養源がある状態での成長促進試験の有意差は小さく、価値評価が難しい。このため、1つの成分又は組成物ごとに、試験系の標本数が必要となる。そして、標本数が大となることから、生物刺激作用成分(特定成分)の解明に多大な工数が必要となる。
【0122】
しかし、本実施形態のライブラリー生産方法では、少ない標本数でのライブラリー生産を可能としていることから、短期間で効率的にライブラリーを生産できる。一般的に、標本数が多くなれば小さな差でも統計学的有意差が検出されるが、標本数が少ない場合には有意差のある評価結果を得ることは難しい。このため、標本数を減らすことによりライブラリー生産は一般的に難しくなるが、発明者等の研究の結果では、本実施形態のようなスクリーニング方法論を実行することにより、少ない標本数で、試験用個体や解析用個体の有意差が認められている。
【0123】
さらに、本実施形態の方法により生産されたライブラリーに集計された複数のBS資材(BS原体)を組み合わせて用いることで、新規のBS原体を生産することができる。また、ライブラリー生産野ために行われているスクリーニング方法を利用することで、新たに生産されたBS資材(BS原体)の有効性を評価することが可能である。つまり、本実施形態に係るスクリーニング方法は、BS資材(BS原体)の評価方法として用いることが可能である。
【0124】
<実施形態から抽出できる発明>
これまでに説明した実施形態から、以下のような発明を抽出できる。
(1)特定植物(処理対象生物、イネやその他の植物など)の非生物的ストレス環境下(高温ストレス、低温ストレス、浸透圧ストレス、酸化ストレス、傷害ストレス、乾燥ストレスなど)におけるバイオスティミュラント資材(後記の特定成分を含んだ水溶液、粉(パウダー)、粒、後記の特定成分の担体など)に係る特定成分(各種アミノ酸、野菜・果物エキス、酵母、その他の生物刺激作用成分など)の有効性を調査する方法であって、
前記特定植物の種子から発芽させ試験用個体を育成する育成ステップ(第1生物育成(生物育成1)工程S1など)と、
所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の成長度(植物の全体重量、地上部長、地上部重量、根部重量、根重量比率、葉焼けの有無、葉のしおれの有無、花の奇形発生の有無、花落ちの有無、果実の糖度及びサイズ、収穫量など)を計測する表現型試験ステップ(生物試験工程S2など)と、
前記所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の遺伝子発現状況を解析する解析系試験ステップ(オミクス解析工程S6など)と、
前記表現型試験ステップにおいて計測した成長度と前記解析系試験ステップにおいて解析した遺伝子発現状況(「高温ストレス応答」、「浸透圧ストレス応答」、「酸化ストレス応答」、「乾燥ストレス応答」、「傷害ストレス応答」、「病害虫ストレス応答」、又は、「要素ストレス応答」等の項目により表される遺伝子発現状況など)とをデータベース化する試験結果記録ステップ(ライブラリー作成工程S8など)と、
前記データベース化された試験結果に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下に対して有効な前記特定成分をライブラリー化するライブラリー生産ステップ(ライブラリー作成工程S8など)と
を含み、
前記表現型試験ステップにて前記バイオスティミュラント資材を添加する時点での前記試験用個体は、予め定められた個体均一化基準(種子の大きさ、色、厚み、損傷の有無等のうちの何れか、種子の配置間隔、発芽体の配置間隔、苗の配置間隔、又は、複数の基準の組み合わせなど)を満たしており、
前記解析系試験ステップにて前記バイオスティミュラント資材を添加する時点での前記試験用個体は、前記予め定められた個体均一化基準(個体均一化基準と同様の基準など)を満たしており、
前記予め定められた個体均一化基準には、前記育成ステップにおける種子同士の間隔が所定間隔であること、及び前記育成ステップにおける発芽体同士の間隔が前記所定間隔とは異なる特定間隔であることが含まれる
ことを特徴とするライブラリー生産方法。
(2)前記表現型試験ステップでは、前記特定成分の濃度(各種アミノ酸、野菜・果物エキス、酵母、その他の生物刺激作用成分の濃度など)が互いに異なる複数種類のバイオスティミュラント資材が用いられ、前記解析系試験ステップでは、前記複数種類の資材のうち前記表現型試験ステップにて有効な成長度が計測されたバイオスティミュラント資材が用いられる、上記(1)に記載のライブラリー生産方法。
(3)上記(1)に記載のライブラリー生産方法によってライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物が前記所定の非生物的ストレス環境下で育成されているときに、前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加する植物の育成方法。
(4)上記(1)に記載のライブラリー生産方法によってライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を添加した苗(イネ等の植物の苗など)。
(5)上記(1)に記載のライブラリー生産方法によってライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材の製造方法。
【0125】
<その他>
なお、上述したように、本発明は、本実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記載及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきでない。このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことはもちろんである。
【符号の説明】
【0126】
12、32:種子均一化層
14、34:発芽均一化層
16、36:試験均一化層
18、38:測定均一化層
40 :コンピュータ機器(PC)
S1 :第1生物育成工程
S2 :生物試験工程
S4 :第2生物育成工程
S6 :オミクス解析工程
S7 :生物刺激に対する発現工程
S8 :ライブラリー作成工程

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定植物の非生物的ストレス環境下におけるバイオスティミュラント資材に係る特定成分の有効性を調査し、有効なバイオスティミュラント資材の情報を含んだライブラリーを生産するライブラリー生産方法であって、
前記特定植物の種子から発芽させ試験用個体を育成する育成ステップと、
所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の成長度を計測する表現型試験ステップと、
前記所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の遺伝子発現状況を解析する解析系試験ステップと、
前記表現型試験ステップにおいて計測した成長度と前記解析系試験ステップにおいて解析した遺伝子発現状況に係る情報を、コンピュータ機器を用い記憶してデータベース化する試験結果記録ステップと、
前記データベース化された情報の中から、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下に対して有効な前記特定成分に係る情報を得て、当該情報を、コンピュータ機器を用い記憶してライブラリー化するライブラリー生産ステップと
を含み、
前記表現型試験ステップ及び前記解析系試験ステップにて前記バイオスティミュラント資材を添加する時点での前記試験用個体は、予め定められた個体均一化基準を満たしており、
前記育成ステップから前記解析系試験ステップに亘り階層化された均一化により試験用個体の成長のばらつき出現を低減させて、処理対象生物の個体数を減少させた標本数n=4~8として前記解析系試験ステップが行われる
ことを特徴とするライブラリー生産方法。
【請求項2】
前記表現型試験ステップでは、前記特定成分の濃度が互いに異なる複数種類のバイオスティミュラント資材が用いられ、前記解析系試験ステップでは、前記複数種類のバイオスティミュラント資材のうち前記表現型試験ステップにて有効な成長度が計測されたバイオスティミュラント資材が用いられる、請求項1に記載のライブラリー生産方法。
【請求項3】
請求項1に記載のライブラリー生産方法によってライブラリーを生産し、 ライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物が前記所定の非生物的ストレス環境下で育成されているときに、前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加する植物の育成方法。
【請求項4】
請求項1に記載のライブラリー生産方法によってライブラリーを生産し、ライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を添加するの生産方法
【請求項5】
請求項1に記載のライブラリー生産方法によってライブラリーを生産し、ライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を含んだバイオスティミュラント資材を製造するバイオスティミュラント資材の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
(1)本発明によるライブラリー生産方法は、特定植物の非生物的ストレス環境下におけるバイオスティミュラント資材に係る特定成分の有効性を調査し、有効なバイオスティミュラント資材の情報を含んだライブラリーを生産するライブラリー生産方法であって、
前記特定植物の種子から発芽させ試験用個体を育成する育成ステップと、
所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の成長度を計測する表現型試験ステップと、
前記所定の非生物的ストレス環境下において前記試験用個体に前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加した後、前記試験用個体の遺伝子発現状況を解析する解析系試験ステップと、
前記表現型試験ステップにおいて計測した成長度と前記解析系試験ステップにおいて解析した遺伝子発現状況に係る情報を、コンピュータ機器を用い記憶してデータベース化する試験結果記録ステップと、
前記データベース化された情報の中から、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下に対して有効な前記特定成分に係る情報を得て、当該情報を、コンピュータ機器を用い記憶してライブラリー化するライブラリー生産ステップと
を含み、
前記表現型試験ステップ及び前記解析系試験ステップにて前記バイオスティミュラント資材を添加する時点での前記試験用個体は、予め定められた個体均一化基準を満たしており、
前記育成ステップから前記解析系試験ステップに亘り階層化された均一化により試験用個体の成長のばらつき出現を低減させて、処理対象生物の個体数を減少させた標本数n=4~8として前記解析系試験ステップが行われる
ことを特徴とする。
(2)ライブラリー生産方法は、前記表現型試験ステップでは、前記特定成分の濃度が互いに異なる複数種類のバイオスティミュラント資材が用いられ、前記解析系試験ステップでは、前記複数種類のバイオスティミュラント資材のうち前記表現型試験ステップにて有効な成長度が計測されたバイオスティミュラント資材が用いられる、上記(1)に記載のライブラリー生産方法。
(3)本発明による植物の育成方法は、上記(1)に記載のライブラリー生産方法によってライブラリーを生産し、 ライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物が前記所定の非生物的ストレス環境下で育成されているときに、前記特定成分を含むバイオスティミュラント資材を添加する。
(4)本発明による特定成分を添加した苗の生産方法は、上記(1)に記載のライブラリー生産方法によってライブラリーを生産し、ライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を添加する
(5)本発明によるバイオスティミュラント資材の製造方法は、上記(1)に記載のライブラリー生産方法によってライブラリーを生産し、ライブラリー化された情報に基づき、前記特定植物の前記所定の非生物的ストレス環境下において有効な前記特定成分を含んだバイオスティミュラント資材を製造する