(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079284
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】回転子鉄心の製造方法、及び回転子鉄心
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192140
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】小田 仁
(72)【発明者】
【氏名】水野 彰紀
(72)【発明者】
【氏名】山岡 昂平
(72)【発明者】
【氏名】星野 光紀
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615SS05
5H615SS09
5H615SS10
5H615SS53
5H615SS57
5H615TT05
(57)【要約】
【課題】アンバランス量の低減作業の簡素化を図る。
【解決手段】回転子鉄心の製造方法は、複数の磁石の重量を個々に測定する第1測定工程と、複数の磁石取付部が設けられた鉄心本体におけるアンバランス量を測定したうえで、互いに直交する第1方向及び第2方向それぞれの成分にアンバランス量を分解する第2測定工程と、複数の磁石の中から、アンバランス量の第1方向の成分である第1成分及びアンバランス量の第2方向の成分である第2成分の少なくとも一方を縮小させることが可能な複数の取付対象磁石を選択する選択工程と、第1成分及び第2成分の少なくとも一方を縮小させるように、複数の取付対象磁石を複数の磁石取付部に取り付ける磁石取付工程と、を含む。選択工程では、重量差を有する少なくとも一対の磁石が含まれるように、複数の取付対象磁石が選択される。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁石を用意し、前記複数の磁石の重量を個々に測定する第1測定工程と、
複数の磁石取付部が設けられた鉄心本体を用意し、前記鉄心本体におけるアンバランス量を測定したうえで、前記鉄心本体の中心軸に交差し、且つ互いに交差する第1方向及び第2方向それぞれの成分に前記アンバランス量を分解する第2測定工程と、
前記第1測定工程での重量の測定結果と、前記第2測定工程での前記アンバランス量を分解して得られる結果とに基づいて、前記複数の磁石の中から、前記アンバランス量の前記第1方向の成分である第1成分及び前記アンバランス量の前記第2方向の成分である第2成分の少なくとも一方を縮小させることが可能な複数の取付対象磁石を選択する選択工程と、
前記第1成分及び前記第2成分の少なくとも一方を縮小させるように、前記複数の取付対象磁石を前記複数の磁石取付部に取り付ける磁石取付工程と、を含み、
前記選択工程では、重量差を有する少なくとも一対の磁石が含まれるように、前記複数の取付対象磁石が選択される、回転子鉄心の製造方法。
【請求項2】
前記選択工程は、
前記第2測定工程での前記アンバランス量を分解して得られる結果に基づいて、前記第1成分を縮小させることが可能な1以上の磁石組を選択することと、
前記第2測定工程での前記アンバランス量を分解して得られる結果に基づいて、前記第2成分を縮小させることが可能な1以上の別の磁石組を選択することと、を含み、
前記1以上の磁石組のそれぞれは、重量差を有する一対の磁石からなり、
前記1以上の別の磁石組のそれぞれは、重量差を有する一対の磁石からなり、
前記選択工程では、前記1以上の磁石組及び前記1以上の別の磁石組が含まれるように、前記複数の取付対象磁石が選択され、
前記磁石取付工程では、前記第1成分及び前記第2成分を縮小させるように、前記複数の取付対象磁石が前記複数の磁石取付部に取り付けられる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記選択工程は、
前記第1成分の大きさに応じて、前記1以上の磁石組の数と、当該1以上の磁石組に含まれる磁石を取り付ける磁石取付部とを決定することと、
前記第2成分の大きさに応じて、前記1以上の別の磁石組の数と、当該1以上の別の磁石組に含まれる磁石を取り付ける磁石取付部とを決定することと、を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法では、前記第2測定工程と、前記選択工程と、前記磁石取付工程とを含む一連の工程が繰り返され、
前記選択工程において選択される前記1以上の磁石組の最大数と、前記選択工程において選択される前記1以上の別の磁石組の最大数とは、互いに同じである、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1測定工程は、重量の測定結果に応じて、前記複数の磁石を重量区分ごとに分けることを含み、
前記選択工程では、
前記第1成分を縮小させる場合に、前記第1成分の大きさに応じて、前記複数の取付対象磁石のうちの前記第1成分を縮小させることが可能な一対の磁石の間の前記重量区分の差が決定され、
前記第2成分を縮小させる場合に、前記第2成分の大きさに応じて、前記複数の取付対象磁石のうちの前記第2成分を縮小させることが可能な一対の磁石の間の前記重量区分の差が決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記選択工程を実行する前に、前記重量区分ごとの磁石の保管数を示す保管情報を取得する情報取得工程を更に含み、
前記選択工程は、前記保管情報に基づいて、前記複数の取付対象磁石を選択することを含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記保管情報に基づいて前記複数の取付対象磁石を選択することにおいて、
前記第1成分を縮小させる場合に、前記保管情報において磁石の保管数が所定数以上である前記重量区分から、前記複数の取付対象磁石のうちの前記第1成分を縮小させることが可能な一対の磁石が選択され、
前記第2成分を縮小させる場合に、前記保管情報において磁石の保管数が前記所定数以上である前記重量区分から、前記複数の取付対象磁石のうちの前記第2成分を縮小させることが可能な一対の磁石が選択される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記保管情報に基づいて前記複数の取付対象磁石を選択することは、前記複数の取付対象磁石に、前記アンバランス量の縮小に寄与しない複数の標準磁石が含まれる場合に、前記保管情報において磁石の保管数が最も多い前記重量区分から、前記複数の標準磁石を選択することを含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第1方向及び前記第2方向は、前記鉄心本体の前記中心軸まわりの円周における基準位置を表す指標部分に基づいて設定されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
複数の磁石取付部が設けられた鉄心本体と、
前記複数の磁石取付部に取り付けられた複数の磁石と、を備え、
前記複数の磁石のうち、第1仮想ラインを境界として区画された一方の領域に位置する1以上の磁石と、前記第1仮想ラインを境界として区画された他方の領域に位置する1以上の磁石との間で、重量差が設けられており、
前記複数の磁石のうち、第2仮想ラインを境界として区画された一方の領域に位置する1以上の磁石と、前記第2仮想ラインを境界として区画された他方の領域に位置する1以上の磁石との間で、重量差が設けられており、
前記第1仮想ラインは、前記鉄心本体の中心軸に直交し、且つ前記中心軸を通るラインであり、
前記第2仮想ラインは、前記中心軸に直交する平面内において前記第1仮想ラインに交差し、且つ前記中心軸を通るラインである、回転子鉄心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転子鉄心の製造方法、及び回転子鉄心に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉄芯の重心位置を測定する工程と、鉄芯の回転中心と重心位置とのずれ量に対応した重量差を有する複数の磁石を得る工程と、を含むモータ用ロータの組立方法が開示されている。この組立方法は、複数の磁石のうち、軽い磁石を鉄芯の回転中心からずれた重心位置側の半径方向の磁石取付部に、重い磁石を磁石取付部の回転中心の点対称側の位置にある磁石取付部に固着する工程を更に含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、アンバランス量の低減作業の簡素化に有用な回転子鉄心の製造方法、及び回転子鉄心を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る回転子鉄心の製造方法は、複数の磁石を用意し、複数の磁石の重量を個々に測定する第1測定工程と、複数の磁石取付部が設けられた鉄心本体を用意し、鉄心本体におけるアンバランス量を測定したうえで、鉄心本体の中心軸に交差し、且つ互いに直交する第1方向及び第2方向それぞれの成分にアンバランス量を分解する第2測定工程と、第1測定工程での重量の測定結果と、第2測定工程でのアンバランス量を分解して得られる結果とに基づいて、複数の磁石の中から、アンバランス量の第1方向の成分である第1成分及びアンバランス量の第2方向の成分である第2成分の少なくとも一方を縮小させることが可能な複数の取付対象磁石を選択する選択工程と、第1成分及び第2成分の少なくとも一方を縮小させるように、複数の取付対象磁石を複数の磁石取付部に取り付ける磁石取付工程と、を含む。選択工程では、重量差を有する少なくとも一対の磁石が含まれるように、複数の取付対象磁石が選択される。
【0006】
本開示の一側面に係る回転子鉄心は、複数の磁石取付部が設けられた鉄心本体と、複数の磁石取付部に取り付けられた複数の磁石と、を備える。上記複数の磁石のうち、第1仮想ラインを境界として区画された一方の領域に位置する1以上の磁石と、第1仮想ラインを境界として区画された他方の領域に位置する1以上の磁石との間で、重量差が設けられている。上記複数の磁石のうち、第2仮想ラインを境界として区画された一方の領域に位置する1以上の磁石と、第2仮想ラインを境界として区画された他方の領域に位置する1以上の磁石との間で、重量差が設けられている。第1仮想ラインは、鉄心本体の中心軸に直交し、且つ中心軸を通るラインである。第2仮想ラインは、中心軸及び第1仮想ラインに直交し、且つ中心軸を通るラインである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、アンバランス量の低減作業の簡素化に有用な回転子鉄心の製造方法、及び回転子鉄心が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、回転子鉄心の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、回転子鉄心の一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、回転子鉄心の一例を模式的に示す上面図である。
【
図4】
図4は、回転子鉄心の製造装置の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、回転子鉄心の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、重量区分ごとの磁石の保管の様子を例示する模式図である。
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)は、アンバランス量の測定を説明するための模式図である。
【
図8】
図8(a)、及び
図8(b)は、磁石の重量差によるアンバランス量の縮小方法を例示する模式図である。
【
図9】
図9(a)、及び
図9(b)は、磁石の重量差によるアンバランス量の縮小方法を例示する模式図である。
【
図10】
図10(a)及び
図10(b)は、磁石の重量差によるアンバランス量の縮小方法を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
[回転子鉄心]
最初に、
図1~
図3を参照して、回転子鉄心の構成について説明する。
図1に示される回転子積層鉄心1は、回転子鉄心の一例であり、回転子(ロータ)に含まれる部品である。例えば、回転子積層鉄心1にシャフトが取り付けられることにより、回転子が形成される。回転子積層鉄心1を含む回転子が固定子(ステータ)と組み合わせられることにより、モータ(電動機)が形成される。回転子積層鉄心1は、埋込磁石型(IPM)モータに用いられてもよい。回転子積層鉄心1は、積層体4と、複数の磁石Mと、複数の固化樹脂12とを備える。
【0011】
積層体4は、鉄心本体として機能する。積層体4は、円筒状に形成されている。積層体4の中央部には、中心軸Axに沿って延びるように積層体4を貫通する軸孔4aが設けられている。軸孔4aは、積層体4の積層方向(以下、単に「積層方向」という。)に延びている。すなわち、積層方向は、積層体4の中心軸Axの延在方向でもある。積層体4は中心軸Ax周りに回転するので、中心軸Axは回転軸(回転中心)でもある。以下、中心軸Axが上下方向に沿うように回転子積層鉄心1が配置された状態を基準に、回転子積層鉄心1の構成について説明する。
【0012】
積層体4は、キー6aとキー6bとを有する。キー6a及びキー6bは、軸孔4aの内周面に設けられている。キー6a及びキー6bは、軸孔4aの内周面から内側に向かって突出するように凸状に形成されている。本開示では、中心軸Axに近づく向きを「内」又は「内側」とし、中心軸Axから遠ざかる向きを「外」又は「外側」とする。中心軸Axが延びる軸方向から見て、キー6a及びキー6bは、中心軸Axを間に挟んで、互いに対向するように配置されている。この場合、中心軸Axまわりの円周において、キー6aの中心と、キー6bの中心とは、互いに180°異なる位置に配置されている。軸孔4a内には、シャフトが挿入される。挿入されたシャフトは、キー6a及びキー6bによって、回転子積層鉄心1に固定されてもよい。
【0013】
キー6a及びキー6bは、積層体4の中心軸Axまわりの円周における基準位置を表す指標部分としても機能する。すなわち、キー6a及びキー6bによって、上記円周に沿った方向(以下、「円周方向」という。)において、積層体4の種々の部位それぞれの位置(角度)が特定される。キー6a及びキー6bは、凸状に代えて、内周面において外側に凹むように凹状に形成されてもよい。積層体4は、2つのキーに代えて、キー6a及びキー6bのいずれか1つのキーを有してもよい。積層体4は、いずれのキーも有していなくてもよく、積層体4における他の部位(例えば、貫通孔の一部分)が、上記円周方向における基準位置を表す指標部分として機能してもよい。
【0014】
積層体4は、複数の打抜部材2が積み重ねられて形成されている。打抜部材2は、後述する電磁鋼板ESが所定形状に打ち抜かれることで形成される板状の部材である。打抜部材2は、積層体4に対応する形状を有する。積層体4の最上層を構成する打抜部材2の1つの主面は、積層体4の上端面に相当する。積層体4の最下層を構成する打抜部材2の1つの主面は、積層体4の下端面に相当する。
【0015】
積層体4は、いわゆる転積によって形成されてもよい。「転積」とは、打抜部材2同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材2を積層することをいう。転積は、主に、複数の打抜部材2それぞれにおける板厚偏差を相殺することを目的に行われる。転積の角度は、任意の大きさに設定されてもよい。
【0016】
積層方向において互いに隣り合う打抜部材2同士は、
図1又は
図2に示されるように、カシメ部14によって締結されてもよい。これらの打抜部材2同士は、カシメ部14に代えて、種々の公知の方法によって締結されてもよい。例えば、複数の打抜部材2同士は、接着剤又は樹脂材料を用いて互いに接合されてもよく、溶接によって互いに接合されてもよい。あるいは、打抜部材2に仮カシメが設けられ、仮カシメを介して複数の打抜部材2を締結して積層体4が得られた後に、仮カシメが当該積層体4から除去されてもよい。
【0017】
積層体4には、複数の磁石挿入孔Hが設けられている。複数の磁石挿入孔Hは、複数の磁石Mが取り付けられる複数の磁石取付部として機能する。
図1に示される例では、複数の磁石挿入孔Hが、積層体4の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる(
図3も参照)。複数の磁石挿入孔Hそれぞれは、
図2に示されるように、中心軸Axに沿って延びるように積層体4を貫通している。すなわち、磁石挿入孔Hは積層方向に延びている。なお、
図2には、磁石挿入孔H、カシメ部14及び中心軸Axを含むように切断された状態での回転子積層鉄心1の縦断面が示されている。
【0018】
図3に示されるように、上方から見て、複数の磁石挿入孔Hは、中心軸Axに交差する方向に沿って延びていてもよい。上方から見て、複数の磁石挿入孔Hそれぞれの形状は、長方形状であってもよい。
図1及び
図3に示される複数の磁石挿入孔Hの数は、16個である。
図1及び
図3に示される複数の磁石挿入孔Hは一例であり、磁石挿入孔Hの位置、形状、及び数は、モータの用途、又は要求される性能等に応じて変更されてもよい。複数の磁石挿入孔Hの一部が、中心軸Axまわりの円周の径方向において、他の磁石挿入孔Hと異なる位置に配置されていてもよい。
【0019】
ここで、説明において磁石挿入孔Hを個々に識別するために、複数の磁石挿入孔H(16個の磁石挿入孔H)を、「磁石挿入孔H1」、「磁石挿入孔H2」、・・・及び「磁石挿入孔H16」と表記する。上記円周方向において、中心軸Axからキー6aの中心に延びるラインを基準位置(0°)と定義し、反時計回りを正方向(プラスの角度)と定義する。磁石挿入孔H1~H16は、中心軸Axまわりの円周において、基準位置からこの順で並んでいる。
【0020】
図3に示される例では、0°~90°の角度範囲に磁石挿入孔H1~H4が配置されており、90°~180°の角度範囲に磁石挿入孔H5~H8が配置されている。また、180°~270°の角度範囲に磁石挿入孔H9~H12が配置されており、270°~360°(0°)の角度範囲に磁石挿入孔H13~H16が配置されている。円周方向での磁石挿入孔H1と磁石挿入孔H16との間の中央が0°であり、円周方向での磁石挿入孔H4と磁石挿入孔H5との間の中央が90°である。また、円周方向での磁石挿入孔H8と磁石挿入孔H9との間の中央が180°であり、円周方向での磁石挿入孔H12と磁石挿入孔H13との間の中央が270°である。
【0021】
複数の磁石Mは、複数の磁石挿入孔Hに取り付けられている。
図1及び
図3に示される例では、複数の磁石挿入孔Hそれぞれに、1つの磁石Mが挿入されている。磁石Mは、永久磁石である。磁石Mの形状は、特に限定されないが、直方体形状であってもよい。磁石Mの種類は、モータの用途、又は要求される性能等に応じて決定されればよく、例えば、焼結磁石又はボンド磁石である。
【0022】
複数の固化樹脂12それぞれは、磁石Mが挿入された後の磁石挿入孔H内に溶融状態の樹脂材料(溶融樹脂)が充填された後に当該溶融樹脂が固化して形成された部材である。固化樹脂12は、磁石Mを磁石挿入孔H内に固定する機能と、積層方向(上下方向)で隣り合う打抜部材2同士を接合する機能とを有する。固化樹脂12によって磁石Mが磁石挿入孔H内に固定されることで、磁石Mが磁石挿入孔Hに取り付けられる。固化樹脂12を形成する樹脂材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂と、硬化開始剤と、添加剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。添加剤としては、フィラー、難燃剤、又は応力低下剤などが挙げられる。
【0023】
複数の磁石挿入孔Hと同様に、説明において磁石Mを個々に識別するために、複数の磁石M(16個の磁石M)を、「磁石M1」、「磁石M2」、・・・及び「磁石M16」と表記する。また、磁石挿入孔Hn(nは、1~16のいずれか1つの整数)に取り付けられる磁石Mを、「磁石Mn」とする。例えば、磁石挿入孔H1に挿入される磁石Mが磁石M1で表される。同様に、磁石挿入孔H2~H16にそれぞれ挿入される複数の磁石Mが、磁石M2~M16で表される。この場合、磁石M1~M16は、中心軸Axまわりの円周において、基準位置からこの順で並んでいる。
【0024】
磁石Mが取り付けられる前の積層体4には、重量バランスの偏り(以下、「重量アンバランス」という。)が存在する。重量アンバランスとは、積層体4における回転中心(中心軸Ax)に対して、積層体4の重心Cgの位置がずれている状態をいう。回転中心に対して重心Cgの位置がずれる要因として、各打抜部材2における面内での質量分布の不均一等が挙げられる。種々の要因によって重量アンバランスが発生するため、積層体4の個体ごとに、重心Cgの位置が異なる。積層体4において重量アンバランスが存在する状態で、複数の磁石及び固化樹脂が磁石挿入孔Hに設けられて、回転子鉄心が形成されると、回転子鉄心にも重量アンバランスが存在することになる。このような重量アンバランスが存在する回転子鉄心を用いて形成されたモータが駆動されると、異常振動、又はノイズ等が生じ得る。以下、「積層体4における重量アンバランス」とは、特に説明がない限り、磁石Mが取り付けられる前の積層体4において存在する重量アンバランスを意味する。
【0025】
本開示における回転子積層鉄心1では、積層体4における重量アンバランスが縮小されるように、複数の磁石M(磁石M1~M16)の重量が決定されて、複数の磁石Mが複数の磁石挿入孔H(磁石挿入孔H1~H16)に取り付けられる。積層体4における重量アンバランスが縮小するとは、磁石Mが取り付けられる前の積層体4における重量アンバランスの程度に比べて、磁石Mが取り付けられた状態での積層体4における重量アンバランスの程度が小さくなることをいう。この場合、重量アンバランスが縮小されることで、磁石Mが取り付けられる前の積層体4での中心軸Axと重心Cgとの間の距離に比べて、磁石Mが取り付けられた後の積層体4(例えば、回転子積層鉄心1)での中心軸Axと重心との間の距離が小さくなる。
【0026】
図3に示されるように、円周方向における0°の位置及び180°の位置と、中心軸Axとを通る仮想的なラインを「仮想ラインILx」と定義し、仮想ラインILxが延びる方向を「方向X」と定義する。また、円周方向における90°の位置及び270°の位置と、中心軸Axとを通る仮想的なラインを「仮想ラインILy」と定義し、仮想ラインILyが延びる方向を「方向Y」と定義する。仮想ラインILxは、中心軸Axに対して直交している。仮想ラインILyは、中心軸Ax及び仮想ラインILxに対して直交している。方向X及び方向Yは、互いに直交している。方向X及び方向Yは、積層体4の上端面(又は、下端面)に沿っていてもよい。
【0027】
仮想ラインILxに関して、複数の磁石挿入孔Hは線対称であり、また、仮想ラインILyに関しても、複数の磁石挿入孔Hは線対称である。言い換えると、仮想ラインILx及び仮想ラインILyは、それぞれのラインに関して複数の磁石挿入孔Hが線対称となるように設定されている。仮想ラインILxが第1仮想ラインであり、方向Xが第1方向である場合、仮想ラインILyが第2仮想ラインに対応し、方向Xが第2方向に対応する。仮想ラインILyが第1仮想ラインであり、方向Yが第1方向である場合、仮想ラインILxが第2仮想ラインに対応し、方向Yが第2方向に対応する。
【0028】
重量アンバランスの程度は、アンバランス量で表すことができる。アンバランス量は、例えば、回転中心(中心軸Ax)から重心Cgまでの最短距離に相関する量である。アンバランス量の単位は、g・cmであってもよい。回転子積層鉄心1では、積層体4におけるアンバランス量の方向Xでの成分と、積層体4におけるアンバランス量の方向Yでの成分とを縮小するように、磁石M1~M16それぞれの重量(例えば、後述する重量区分)が選択される。そして、選択された磁石M1~M16それぞれが対応する磁石挿入孔Hに取り付けられている。
【0029】
中心軸Axが延びる軸方向から見て、仮想ラインILyを境界として、方向Xにおいて2つの領域に区画することができる。仮想ラインILyを境界として区画された一方の領域(
図3の紙面上において右側に位置する領域。以下、「右側領域」という。)には、磁石M1~M4,M13~M16が存在する。仮想ラインILyを境界として区画された他方の領域(
図3の紙面上において左側に位置する領域。以下、「左側領域」という。)には、磁石M5~M12が存在する。回転子積層鉄心1では、方向Xでのアンバランス量の成分を縮小させるように、磁石M1~M4,M13~M16と、磁石M5~M12との間で重量差が設けられる。
【0030】
重心Cgが上記右側領域に位置する場合には、磁石M1~M4,M13~M16の重量の合計が、磁石M5~M12の重量の合計よりも小さくなるように、磁石M1~M16として用いられる複数の磁石Mが選択される。重心Cgが上記左側領域に位置する場合には、磁石M1~M4,M13~M16の重量の合計が、磁石M5~M12の重量の合計よりも大きくなるように、磁石M1~M16として用いられる複数の磁石Mが選択される。
【0031】
仮想ラインILyに関して線対称の位置にある一対の磁石を「1組の磁石組MX」としたときに、
図3に示される例では、8組の磁石組が存在する。以下では、1つの磁石組MXを(Ml,Mm)のように表記する。なお、l及びmは、それぞれ1~16のいずれか1つの整数である。8組の磁石組MXは、(M4,M5)、(M3,M6)、(M2,M7)、(M1,M8)、(M16,M9)、(M15,M10)、(M14,M11)、及び(M13,M12)からなる。8組の磁石組MXのうちの少なくとも一部において、重量差が設けられていればよい。
【0032】
一例では、(M1,M8)、及び(M16,M9)の磁石組MXのそれぞれにおいて重量差が設けられ、他の磁石組MXにおいて重量差が設けられていなくてもよい。(M1,M8)での重量差と、(M16,M9)での重量差は、互いに略一致してもよい。この場合、これら2つの磁石組MXに起因して方向Yでの重量差が生じないように、磁石M1及び磁石M16の重量が互いに略一致し、磁石M8及び磁石M9の重量が互いに略一致してもよい。
【0033】
一例では、(M2,M7)、(M1,M8)、(M16,M9)、及び(M15,M10)の磁石組MXのそれぞれにおいて重量差が設けられ、他の磁石組MYにおいて重量差が設けられていなくてもよい。(M2,M7)、(M1,M8)、(M16,M9)、及び(M15,M10)それぞれでの重量差は、互いに略一致してもよい。この場合、これら4つの磁石組MXに起因して方向Yでの重量差が生じないように、磁石M2、磁石M1、磁石M16、及び磁石M15の重量が互いに略一致し、磁石M7、磁石M8、磁石M9、及び磁石M10の重量が互いに略一致してもよい。
【0034】
中心軸Axが延びる軸方向から見て、仮想ラインILxを境界として、方向Yにおいて2つの領域に区画することができる。仮想ラインILxを境界として区画された一方の領域(
図3の紙面上において上側に位置する領域。以下、「上側領域」という。)には、磁石M1~M8が存在する。仮想ラインILxを境界として区画された他方の領域(
図3の紙面上において下側に位置する領域。以下、「下側領域」という。)には、磁石M9~M16が存在する。回転子積層鉄心1では、方向Yでのアンバランス量の成分を縮小させるように、磁石M1~M8と、磁石M9~M16との間で重量差が設けられる。
【0035】
重心Cgが上記上側領域に位置する場合には、磁石M1~M8の重量の合計が、磁石M9~M16の重量の合計よりも小さくなるように、磁石M1~M16として用いられる複数の磁石Mが選択される。重心Cgが上記下側領域に位置する場合には、磁石M1~M8の重量の合計が、磁石M9~M16の重量の合計よりも大きくなるように、磁石M1~M16として用いられる複数の磁石Mが選択される。
【0036】
仮想ラインILxに関して線対称の位置にある一対の磁石を「1組の磁石組MY」としたときに、
図3に示される例では、8組の磁石組MYが存在する。8組の磁石組MYは、(M1,M16)、(M2,M15)、(M3,M14)、(M4,M13)、(M5,M12)、(M6,M11)、(M7,M10)、及び(M8,M9)からなる。8組の磁石組MYのうちの少なくとも一部において、重量差が設けられていればよい。
【0037】
一例では、(M4,M13)、及び(M5,M12)の磁石組MYのそれぞれにおいて重量差が設けられ、他の磁石組MYにおいて重量差が設けられていなくてもよい。(M4,M13)での重量差と、(M5,M12)での重量差は、互いに略一致してもよい。この場合、これら2つの磁石組MYに起因して方向Xでの重量差が生じないように、磁石M4及び磁石M5の重量が互いに略一致し、磁石M13及び磁石M12の重量が互いに略一致してもよい。
【0038】
一例では、(M3,M14)、(M4,M13)、(M5,M12)、及び(M6,M11)の磁石組MYのそれぞれにおいて重量差が設けられ、他の磁石組MYにおいて重量差が設けられていなくてもよい。(M3,M14)、(M4,M13)、(M5,M12)、及び(M6,M11)それぞれでの重量差は、互いに略一致してもよい。この場合、これら4つの磁石組MYに起因して方向Xでの重量差が生じないように、磁石M3、磁石M4、磁石M5、及び磁石M6の重量が互いに略一致し、磁石M14、磁石M13、磁石M12、及び磁石M11の重量が互いに略一致してもよい。
【0039】
各方向でのアンバランス量の成分に応じて、その成分を縮小させるために用いられる磁石Mの個数が、積層体4の個体ごとに異なっていてもよい。例えば、ある1つの積層体4では、方向Xでのアンバランス量の成分の縮小に関して、磁石M1,M2,M15,M16と、磁石M7~10とが用いられてもよい。そして、他の1つの積層体4において、方向Xでのアンバランス量の成分が比較的小さい場合に、磁石M2,M15,M7,M10が用いられずに、磁石M1,M16,M8,M9が、アンバランス量を縮小させることに用いられてもよい。同様に、ある1つの積層体4では、方向Yでのアンバランス量の成分の縮小に関して、磁石M3~M6と、磁石M11~M14とが用いられてもよい。そして、他の1つの積層体4において、方向Yでのアンバランス量の成分が比較的小さい場合に、磁石M3,M6,M11,M14が用いられずに、磁石M4,M5,M12,M13が、アンバランス量を縮小させることに用いられなくてもよい。
【0040】
[回転子鉄心の製造装置]
続いて、
図4を参照して、回転子鉄心の製造装置の一例について説明する。
図4に示される製造装置50は、回転子鉄心の製造装置の一例であり、回転子積層鉄心1を製造する工程の少なくとも一部を実行する装置(システム)である。製造装置50は、アンコイラー52と、送出装置56と、打抜装置60と、重心測定装置62と、磁石取付装置64と、重量測定装置72と、磁石収容部74と、磁石選択装置76と、コントローラ90と、を備える。
【0041】
アンコイラー52には、帯状の電磁鋼板ESがコイル状に巻回されて形成されたコイル材54が装着されおり、アンコイラー52は、コイル材54を回転自在に保持する。送出装置56は、電磁鋼板ESを上下から挟み込むローラ58,59を有する。一対のローラであるローラ58,59は、コントローラ90からの指示信号に基づいて回転及び停止し、電磁鋼板ESを打抜装置60に向けて間欠的に順次送り出す。
【0042】
打抜装置60は、コントローラ90からの指示信号に基づいて動作する。打抜装置60は、送出装置56によって間欠的に送り出される電磁鋼板ESを順次打ち抜き加工して打抜部材2を形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた打抜部材2を順次積層して積層体4を製造する機能とを有する。打抜装置60から排出された積層体4は、打抜装置60と重心測定装置62との間を延びるように設けられたコンベアCvに載置されてもよい。コンベアCvは、コントローラ90からの指示信号に基づいて動作し、積層体4を重心測定装置62に送り出す。
【0043】
重心測定装置62は、コントローラ90からの指示信号に基づいて、積層体4ごとに、磁石Mが取り付けられる前の積層体4における重心Cgの位置を測定する。重心測定装置62は、積層体4におけるアンバランス量(例えば、中心軸Axと重心Cgとの間の最短距離に相関する量)と、円周方向での基準位置から重心Cgの角度とを測定し、これらの測定結果を示す情報をコントローラ90に送信してもよい。重心測定装置62は、種々の公知の手法により、積層体4における重心Cgの位置を測定してもよい。コントローラ90は、積層体4を個体ごとに識別する情報に対応付けて、重心Cgの位置を示す情報(アンバランス量及び重心Cgの角度を示す情報)を記憶してもよい。
【0044】
重心測定装置62と磁石取付装置64との間には、搬送装置68が設けられている。搬送装置68は、重心測定装置62から磁石取付装置64まで積層体4を搬送する。磁石取付装置64は、コントローラ90の指示信号に基づいて動作する。磁石取付装置64は、磁石選択装置76によって選択された複数の磁石Mを複数の磁石挿入孔Hに挿入する機能と、複数の磁石Mが挿入された状態の複数の磁石挿入孔Hそれぞれの内部に固化樹脂12を形成する機能とを有する。
【0045】
重量測定装置72は、コントローラ90からの指示信号に基づいて動作する。重量測定装置72は、複数の磁石Mの重量を個々に測定する装置である。重量測定装置72によって測定される対象の複数の磁石Mは、複数の積層体4への取り付けに用いられる。重量測定装置72は、磁石Mごとに、重量の測定値を示す情報をコントローラ90に出力する。重量測定装置72は、搬送装置72aを有してもよい。搬送装置72aは、例えば、ロボットハンドを含む。搬送装置72aは、コントローラ90の動作指示に基づいて、磁石Mを磁石収容部74まで搬送する。
【0046】
磁石収容部74は、重量測定装置72によって重量が測定された後の複数の磁石Mを、所定の重量区分ごとに保管(収容)する。磁石収容部74は、例えば、複数の重量区分に対応する複数のセルが設けられた棚である。一例では、磁石Mの重量の公差内での差に応じて、複数の重量区分が設定される。重量区分は、0.01g~0.1g単位で設定されてもよい。公差を含めた磁石Mの重量が10±0.4(g)であり、0.1g単位で重量区分が設定される場合を仮定する。この場合、8つの重量区分が設定される。最も重量が小さい重量区分には、9.6g以上、且つ9.7g未満の磁石Mが分けられる。最も重量が大きい重量区分には、10.3g以上、且つ10.4g以下の磁石Mが分けられる。
【0047】
磁石Mの重量の測定値に応じて、磁石収容部74における複数のセルのいずれかに磁石Mが搬送されることで、磁石Mが重量区分ごとに分けられてもよい(仕分けられてもよい)。重量測定装置72の搬送装置72aは、コントローラ90の動作指示に基づいて、磁石Mごとに、磁石収容部74の複数のセルのうち、磁石Mの重量の測定値に対応したセルに磁石Mを搬送(載置)する。磁石収容部74は、所定の周期で、複数の重量区分ごとの磁石Mの保管数を示す情報をコントローラ90に送信してもよい。
【0048】
磁石選択装置76は、コントローラ90の動作指示に基づいて動作する。磁石選択装置76は、ロボットハンドを含んでもよい。磁石選択装置76は、例えば、積層体4ごとに、その積層体4に用いられる複数の磁石Mを磁石収容部74から磁石取付装置64まで搬送する。以下では、積層体4ごとに、その積層体4に取り付けられる対象の複数の磁石Mを「取付対象の複数の磁石M」と称する。取付対象の複数の磁石Mが積層体4に取り付けられることで、それらの複数の磁石Mが、上記磁石M1~M16を構成する。
【0049】
コントローラ90は、アンコイラー52、送出装置56、打抜装置60、重心測定装置62、磁石取付装置64、重量測定装置72、及び磁石選択装置76を制御するコンピュータである。コントローラ90は、例えば、記録媒体に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、各種の制御対象の装置を動作させるための指示信号を生成するように構成されている。コントローラ90は、各種の制御対象の装置に上記指示信号をそれぞれ送信するように構成されている。コントローラ90は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等を備えてもよい。
【0050】
コントローラ90は、複数の磁石Mを個々に測定するように重量測定装置72を制御することと、積層体4におけるアンバランス量を測定するように重心測定装置62を制御し、方向X及び方向Yそれぞれの成分にアンバランス量を分解することと、を実行する。コントローラ90は、磁石Mの重量の測定結果と、アンバランス量を分解して得られる結果とに基づいて、複数の磁石Mの中から、アンバランス量の方向X及び方向Yの少なくとも一方(例えば、両方)での成分を縮小させることが可能な取付対象の複数の磁石Mを磁石選択装置76により選択することを更に実行する。コントローラ90は、アンバランス量の方向X及び方向Yの少なくとも一方(例えば、両方)を縮小させるように、磁石取付装置64により複数の磁石挿入孔Hに取付対象の複数の磁石Mを取り付ける。
【0051】
[回転子鉄心の製造方法]
続いて、
図5~
図10を参照しながら、回転子鉄心の製造方法の一例について説明する。回転子鉄心の製造方法は、少なくとも、第1測定工程、第2測定工程、選択工程、及び、磁石取付工程を含む。回転子鉄心の製造方法では、第1測定工程が実行されている期間の少なくとも一部と重複する期間において、第2測定工程、選択工程、及び、磁石取付工程を含む一連の工程が繰り返されてもよい。上記一連の工程が繰り返されることで、複数の回転子積層鉄心1が順に製造されてもよい。
【0052】
第1測定工程は、複数の磁石Mを用意し、複数の磁石Mの重量を個々に測定する工程である。第2測定工程は、複数の磁石挿入孔Hが設けられた積層体4を用意し、積層体4におけるアンバランス量を測定したうえで、方向X及び方向Yそれぞれの成分にアンバランス量を分解する工程である。選択工程は、第1測定工程での重量の測定結果と、第2測定工程でのアンバランス量を分解して得られる結果とに基づいて、複数の磁石Mの中から、アンバランス量の方向Xの成分及びアンバランス量の方向Yの成分の少なくとも一方を縮小させることが可能な取付対象の複数の磁石M(複数の取付対象磁石)を選択する工程である。選択工程では、重量差を有する少なくとも一対の磁石M(重量差を有する1組以上の磁石M)が含まれるように、取付対象の複数の磁石Mが選択される。
【0053】
磁石取付工程は、アンバランス量の方向Xの成分(以下、単に「X成分」という。)及びアンバランス量の方向Yの成分(以下、単に「Y成分」という。)の少なくとも一方を縮小させるように、取付対象の複数の磁石Mを複数の磁石挿入孔Hに取り付ける工程である。なお、X成分が第1成分である場合に、Y成分が第2成分に対応し、Y成分が第1成分である場合に、X成分が第2成分に対応する。
【0054】
図5(a)は、第1測定工程の一例を示すフローチャートである。第1測定工程では、最初に、ステップS11が実行される。ステップS11では、例えば、重量測定装置72によって1つの磁石Mの重量が測定され、コントローラ90が、その磁石Mの重量の測定結果を取得する。次に、ステップS12が実行される。ステップS12では、例えば、コントローラ90が、ステップS11での重量の測定結果に応じて、複数の重量区分のうちの対応する区分を決定する。そして、コントローラ90は、磁石収容部74において決定された重量区分に対応するセルに、対象の磁石Mが搬入されるように、重量測定装置72の搬送装置72aを制御する。
【0055】
ステップS12の実行後において、又は、ステップS12の実行と並行して、別の磁石Mを対象としてステップS11が実行される。そして、ステップS11及びステップS12が繰り返し実行される。ステップS11及びステップS12が繰り返し実行されることで、第1測定工程において、重量の測定結果に応じて、複数の磁石Mが重量区分ごとに分けられる(区別される)。なお、
図6には、複数の磁石Mが、8つの重量区分に分けられて保管されている状態が、グラフを用いて表されている。公差の範囲内で重量区分が設定される場合、
図6に示されるように、保管数の偏りが生じ得る。
【0056】
図5(b)は、第2測定工程、選択工程、及び、磁石取付工程を含む一連の工程の一例を示すフローチャートである。
図5(b)には、1つの回転子積層鉄心1を製造する過程で実行される上記一連の工程が示されている。
【0057】
上記一連の工程では、最初に、ステップS21が実行される。ステップS21では、例えば、コントローラ90が、磁石収容部74での重量区分ごとの磁石Mの保管数を示す情報(以下、「保管情報」という。)を取得する。コントローラ90が取得する保管情報は、ステップS21を実行する時点(現時点)での磁石Mの保管数を示す情報であってもよい。このように、上記一連の工程は、保管情報を取得する情報取得工程を含んでもよい。
【0058】
次に、ステップS22が実行される。ステップS22では、例えば、コントローラ90が、重心測定装置62を制御して、積層体4における重心Cgの位置を示す情報を重心測定装置62から取得する。コントローラ90は、
図7(a)に示されるように、中心軸Axと重心Cgとの最短距離に相関するアンバランス量UAを示す情報と、重心Cgの上記円周方向における角度θを示す情報と、を重心測定装置62から取得してもよい。
【0059】
次に、ステップS23が実行される。ステップS23では、例えば、コントローラ90が、ステップS22で得られた角度θを用いて、アンバランス量UAについて、方向Xでの成分(上記X成分)及び方向Yでの成分(上記Y成分)とを演算する。
図7(b)では、アンバランス量UAのX成分が「UAx」で示されており、Y成分が「UAy」で示されている。コントローラ90は、重心Cgが上記右側領域に位置する場合に、X成分の符号をプラスと設定し、重心Cgが上記左側領域に位置する場合に、X成分の符号をマイナスと設定してもよい。コントローラ90は、重心Cgが上記上側領域に位置する場合に、Y成分の符号をプラスと設定し、重心Cgが上記下側領域に位置する場合に、Y成分の符号をマイナスと設定してもよい。ステップS22及びステップS23が実行されることで、上記第1測定工程が実行される。
【0060】
次に、ステップS24が実行される。ステップS24では、例えば、コントローラ90が、ステップS23で得られたX成分の大きさ及び符号、並びにY成分の大きさ及び符号に基づいて、磁石収容部74に保管(収容)されている複数の磁石Mから、取付対象の複数の磁石Mを選択する。磁石収容部74において複数の磁石Mが重量区分ごとに分けられている場合、取付対象の複数の磁石Mを選択することは、取付対象の複数の磁石M(磁石M1~M16)となる複数の磁石Mそれぞれの重量区分を決定することを意味する。すなわち、取付対象の複数の磁石Mを選択することは、磁石挿入孔H1~H16のそれぞれについて、どの重量区分に属する磁石Mを取り付けるのかを決定することを意味する。ステップS24が実行されることで、上記選択工程が実行される。
【0061】
次に、ステップS25が実行される。ステップS25では、例えば、コントローラ90が、第1成分及び第2成分を縮小させるように、ステップS24で選択された取付対象の複数の磁石Mを、磁石取付装置64により複数の磁石挿入孔Hに取り付ける。一例では、コントローラ90は、ステップS24で重量区分及び取付先の磁石挿入孔Hが定めれた取付対象の複数の磁石Mを、ステップS24での決定結果に従って、複数の磁石挿入孔Hに取り付けるように磁石選択装置76及び磁石取付装置64を制御する。
【0062】
上記ステップS21~S25を経て、1つの回転子積層鉄心1が製造される。回転子積層鉄心1を製造する工程では、後続の他の回転子積層鉄心1を製造するために、上記ステップS21~S25が繰り返されてもよい。以下では、磁石の重量差により、アンバランス量を縮小(減少)させる方法の具体例について説明する。
【0063】
コントローラ90は、ステップS24において、ステップS23で得られたX成分及びY成分の演算結果に応じて、磁石M1~M16のうちの重量差を設ける磁石組を決定する。以下、重量差を設ける磁石組を「バランス用の磁石組」と称し、重量差を設けない磁石組を「非バランス用の磁石組」と称する。
図8(a)、
図8(b)、
図9(a)、及び、
図9(b)には、方向Yでのアンバランス量の成分を縮小させる種々のパターンの一例が示されている。
図8(a)、
図8(b)、
図9(a)、及び、
図9(b)では、この順に、Y成分の大きさ(アンバランス量のレベル)が大きくなっており、重心Cgは、上記上側領域に位置している。また、これらの図において、選択された磁石Mの重量が、ハッチングを入れた円の大きさによって模式的に表されている。
【0064】
図8(a)、
図8(b)、
図9(a)、及び、
図9(b)に示される例では、磁石M3~M6の少なくとも一部、及び、磁石M11~M14の少なくとも一部が、Y成分を縮小させるために用いられる。Y成分の縮小に関しての取付対象の複数の磁石M(磁石M3~M6,M11~M14の重量区分)の選択結果の一例が、下記の表1にまとめられている。表1において、
図8(a)がパターンIに対応し、
図8(b)がパターンIIに対応し、
図9(a)がパターンIIIに対応し、
図9(b)がパターンIVに対応する。
【0065】
【0066】
図8(a)に示されるパターンIでは、Y成分の大きさが比較的小さい。そのため、磁石M3~M6,M11~M14のうちの、(M4,M13)及び(M5,M12)がバランス用の磁石組MYとして用いられる。この場合、(M3,M14)及び(M6,M11)は、非バランス用の磁石組MYである。(M4,M13)及び(M5,M12)それぞれの磁石組MYでは、一対の磁石Mの重量区分の差が1である。
図6において、「アンバランスレベル1」での選択の様子が、上記パターンIに対応する。(M4,M13)及び(M5,M12)それぞれの磁石組MYでは、各磁石Mの重量区分について、保管情報において磁石Mの保管数が所定数Th以上である区分4及び区分5に決定されている。(M3,M14)及び(M6,M11)の磁石組MYでは、各磁石Mの重量区分について、保管情報において磁石Mの保管数が最も多い重量区分である区分5に決定されている。
【0067】
図8(b)に示されるパターンIIでは、Y成分の大きさが、パターンIよりも大きい。そして、パターンIと同様に、(M4,M13)及び(M5,M12)がバランス用の磁石組MYとして用いられる。パターンIとは異なり、(M4,M13)及び(M5,M12)それぞれの磁石組MYでは、一対の磁石Mの重量区分の差が2である。
図6において、「アンバランスレベル2」での選択の様子が、上記パターンIIに対応する。(M4,M13)及び(M5,M12)それぞれの磁石組MYでは、各磁石Mの重量区分について、保管情報において磁石Mの保管数が所定数Th以上である区分4及び区分6に決定されている。(M3,M14)及び(M6,M11)の磁石組MYでは、パターンIと同様に、各磁石Mの重量区分について区分5に決定されている。
【0068】
図9(a)に示されるパターンIIIでは、Y成分の大きさが、パターンIIよりも大きい。そのため、パターンI及びIIと異なり、磁石M3~M6,M11~14のうちの、(M3,M14)、(M4,M13)、(M5,M12)、及び(M6,M11)がバランス用の磁石組MYとして用いられる。(M3,M14)、(M4,M13)、(M5,M12)、及び(M6,M11)それぞれでの磁石組MYでは、一対の磁石Mの重量区分の差が1である。一対の磁石Mの重量区分の差が1であっても、バランス用の磁石組の数が多いので、パターンIIに比べて、パターンIIIでのY成分を縮小できる程度が大きい。
図6において、「アンバランスレベル3」での選択の様子が、上記パターンIIIに対応する。(M3,M14)、(M4,M13)、(M5,M12)、及び(M6,M11)それぞれでの磁石組MYでは、各磁石Mの重量区分について、磁石Mの保管数が所定数Th以上である区分4及び区分5に決定されている。
【0069】
図9(b)に示されるパターンIVでは、Y成分の大きさが、パターンIIIよりも大きい。そして、パターンIIIと同様に、(M3,M14)、(M4,M13)、(M5,M12)、及び(M6,M11)がバランス用の磁石組MYとして用いられる。パターンIIIとは異なり、(M3,M14)、(M4,M13)、(M5,M12)、及び(M6,M11)それぞれの磁石組MYでは、一対の磁石Mの重量区分の差が2である。
図6において、「アンバランスレベル4」での選択の様子が、上記パターンIVに対応する。(M3,M14)、(M4,M13)、(M5,M12)、及び(M6,M11)それぞれでの磁石組MYでは、各磁石Mの重量区分について、磁石Mの保管数が所定数Th以上である区分4及び区分6に決定されている。
【0070】
方向Xでのアンバランス量の成分(X成分)を縮小させる場合も、Y成分を縮小させる場合と同様の各種パターンが採用されてもよい。磁石M1,M2,M15,M16の少なくとも一部、及び、磁石M7~M10の少なくとも一部が、X成分を縮小させるために用いられてもよい。重心Cgが、上記右側領域に位置している場合でのX成分の縮小に関しての取付対象の複数の磁石M(磁石M1,M2,M7~M10,M15,M16の重量区分)の選択結果の一例が、下記の表2にまとめられている。なお、
図8(a)等と同様な模式図は省略されている。
【0071】
【0072】
X成分の縮小に関しても、Y成分の縮小と同様に、保管情報に基づいて、磁石M1,M2,M7~M10,M15,M16それぞれについての重量区分が決定されてもよい。表1及び表2に示される例では、X成分及びY成分の縮小が、互いに独立して行われる。そのため、重心Cgの位置によっては、X成分及びY成分の縮小に関して、同じパターンの選択結果となる場合もあれば、異なるパターンの選択結果となる場合もある。
図10(a)には、X成分の縮小に関してパターンIIIとなり、Y成分の縮小に関してパターンIとなる場合の取付対象の複数の磁石Mの選択結果(磁石M1~M16の重量区分の選択結果)が模式的に示されている。表1及び表2に示される例では、「y1」及び「y2」が付された1点鎖線で囲まれた領域内の磁石Mが、Y成分を縮小させることに寄与する。また、「x1」及び「x2」が付された1点鎖線で囲まれた領域内の磁石Mが、X成分を縮小させることに寄与する。
【0073】
以上に説明したように、ステップS24において、コントローラ90は、ステップS23で得られたX成分の演算結果に基づいて、X成分を縮小させることが可能な1以上の磁石組MXを選択(決定)してもよい。選択される1以上の磁石組MXそれぞれは、重量差を有する一対の磁石Mからなる。X成分を縮小させることが可能な1以上の磁石組MXを選択(決定)することには、磁石M1~M16に含まれる8つの磁石組MXのうちのいずれの磁石組MXを用いて縮小させるのかと、磁石組MXでの重量差とを決定することが含まれてもよい。
【0074】
また、ステップS24において、コントローラ90は、ステップS24で得られたY成分の演算結果に基づいて、Y成分を縮小させることが可能な1以上の磁石組MY(1以上の別の磁石組)を選択(決定)してもよい。選択される1以上の磁石組MYそれぞれは、重量差を有する一対の磁石Mからなる。Y成分を縮小させることが可能な1以上の磁石組MYを選択(決定)することには、磁石M1~M16に含まれる8つの磁石組MYのうちのいずれの磁石組MYを用いて縮小させるのかと、磁石組MYでの重量差とを決定することが含まれてもよい。
【0075】
磁石収容部74において複数の磁石Mが重量区分ごとに分けられている場合、磁石M同士が重量差を有するとは、1つの磁石Mが属する重量区分と、他の1つの磁石Mが属する重量区分とが互いに異なることをいう。また、磁石M同士の重量差が略一致するとは、これら2つの磁石Mが属する重量区分が互いに同じであることをいう。
【0076】
ステップS24において、コントローラ90は、X成分を縮小させる上記1以上の磁石組MXと、Y成分を縮小させる上記1以上の磁石組MYとが含まれるように、取付対象の複数の磁石Mを選択してもよい。取付対象の複数の磁石Mには、積層体4におけるアンバランス量の縮小に寄与しない複数の磁石M(複数の標準磁石)が含まれてもよい。例えば、表1及び
図8(a)に示されるパターンIでは、磁石M3,M6,M11,M14が、Y成分(X成分及びY成分)の縮小に寄与しない。
【0077】
ステップS24において、コントローラ90は、X成分の大きさに応じて、X成分を縮小させるための上記1以上の磁石組MXの数と、当該1以上の磁石組MXを取り付ける磁石挿入孔Hとを決定してもよい。コントローラ90は、Y成分の大きさに応じて、Y成分を縮小させるための上記1以上の磁石組MYの数と、当該1以上の磁石組MYを取り付ける磁石挿入孔Hとを決定してもよい。この場合、いずれの磁石組MX(磁石組MY)を用いてアンバランス量のX成分(Y成分)を縮小させるのかを決定することが、磁石組の数と、その磁石組を取り付ける磁石挿入孔Hとを決定することに相当する。ステップS24において、コントローラ90は、X成分の大きさに応じて、X成分を縮小させるための上記1以上の磁石組MXそれぞれにおける一対の磁石Mの間の重量区分の差を決定してもよい。コントローラ90は、Y成分の大きさに応じて、Y成分を縮小させるための上記1以上の磁石組MYそれぞれにおける一対の磁石Mの間の重量区分の差を決定してもよい。
【0078】
ステップS24において、コントローラ90は、X成分の大きさに応じて、X成分を縮小させるための1以上の磁石組MXの数と、当該1以上の磁石組MXを取り付ける磁石挿入孔Hと、当該1以上の磁石組MXそれぞれにおける一対の磁石Mの間の重量区分の差とを決定してもよい。表2に示される例においては、コントローラ90は、X成分の大きさ(レベル)に応じて、上記パターンI~IVのうちの1つのパターンを選択してもよい。なお、選択される1つのパターンにおいて、重量区分の差が同じであれば、表2に示される区分とは異なる区分が選択されてもよい。
【0079】
ステップS24において、コントローラ90は、Y成分の大きさに応じて、Y成分を縮小させるための上記1以上の磁石組MYの数と、当該1以上の別の磁石組MYを取り付ける磁石挿入孔Hと、当該1以上の磁石組MYそれぞれにおける一対の磁石Mの間の重量区分の差を決定してもよい。表1に示される例においては、コントローラ90は、Y成分の大きさ(レベル)に応じて、上記パターンI~パターンIVのうちの1つのパターンを選択してもよい。なお、選択される1つのパターンにおいて、重量区分の差が同じであれば、表1に示される区分とは異なる区分が選択されてもよい。
【0080】
ステップS24において、コントローラ90は、ステップS21で得られた保管情報に基づいて、取付対象の複数の磁石Mを選択してもよい。一例では、コントローラ90は、ステップS21で得られた保管情報において磁石Mの保管数が所定数Th以上である重量区分から、重量差を設ける磁石組に含まれる磁石Mを選択する。すなわち、コントローラ90は、磁石Mの保管数が所定数Th以上である複数の重量区分から、X成分を縮小させるための上記1以上の磁石組MX、及び、Y成分を縮小させるための上記1以上の磁石組MYを構成する磁石Mを選択する。所定数Thは、オペレータ等により予め設定されていてもよく、又は、ステップS21で保管情報が取得された後に、ステップS24の実行前に、保管情報に基づき設定されてもよい。
【0081】
ステップS24において、コントローラ90は、取付対象の複数の磁石Mに、アンバランス量の縮小に寄与しない複数の磁石Mが含まれる場合に、次のように、当該複数の磁石Mを選択してもよい。コントローラ90は、ステップS21で取得された保管情報において磁石Mの保管数が最も多い重量区分から、アンバランス量の縮小に寄与しない複数の磁石Mを選択する。アンバランス量の縮小に寄与しない複数の磁石Mの有無、及び、その数は、積層体4の個体ごとに、X成分を縮小させる上記1以上の磁石組MXとY成分を縮小させる上記1以上の磁石組MYとの選択結果によって決まる。
【0082】
ステップS25では、X成分を縮小させる上記1以上の磁石組MXとY成分を縮小させる上記1以上の磁石組MYとを含む取付対象の複数の磁石Mが、複数の磁石挿入孔Hに取り付けられてもよい。上記一連の工程が繰り返される場合、選択工程において、X成分を縮小させるための1以上の磁石組MXの最大数と、Y成分を縮小させるための1以上の磁石組MYの最大数とが、互いに同じであってもよい。表1及び表2に示される例では、X成分の縮小に関して、最大で4つの磁石組MXが利用され、Y成分の縮小に関して、最大で4つの磁石組MYが利用される。
【0083】
[変形例]
本明細書における開示はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲において、以上の例に対して種々の省略、置換、又は変更などが行われてもよい。
【0084】
上述した回転子積層鉄心1の製造方法の例では、選択工程において、X成分及びY成分の双方を縮小させることが可能な取付対象の複数の磁石Mが選択される。選択工程において、X成分及びY成分の演算結果に基づいて、X成分及びY成分のいずれか一方を縮小させることが可能な取付対象の複数の磁石Mが選択されてもよい。コントローラ90は、Y成分に対するX成分の比が所定レベルよりも大きい場合に、X成分のみを縮小させることが可能な取付対象の複数の磁石Mを選択してもよい。コントローラ90は、X成分に対するY成分の比が所定レベルよりも大きい場合に、Y成分のみを縮小させることが可能な取付対象の複数の磁石Mを選択してもよい。
図10(b)には、方向Yに関して磁石Mでの重量差が設けられておらず、方向Xに関して磁石Mでの重量差が設けられる例が示されている。
【0085】
X成分及びY成分のいずれか一方を縮小させることが可能な取付対象の複数の磁石Mの選択では、X成分を縮小させる場合に、X成分の大きさに応じて、X成分を縮小させることが可能な一対の磁石Mの間の重量区分の差が決定されてもよい。また、この選択では、Y成分を縮小させる場合に、Y成分の大きさに応じて、Y成分を縮小させることが可能な一対の磁石Mの間の重量区分の差が決定されてもよい。保管情報に基づく取付対象の複数の磁石Mの選択では、X成分を縮小させる場合に、保管情報において磁石Mの保管数が所定数以上である重量区分から、X成分を縮小させることが可能な一対の磁石Mが選択されてもよい。また、保管情報に基づく上記選択では、Y成分を縮小させる場合に、保管情報において磁石Mの保管数が所定数以上である重量区分から、Y成分を縮小させることが可能な一対の磁石Mが選択されてもよい。
【0086】
複数の回転子積層鉄心1を製造する場合において、磁石M1~M16のうちの一部の磁石Mが、ある回転子積層鉄心1では、X成分を縮小させるために用いられ、他の回転子積層鉄心1では、Y成分を縮小させるために用いられてもよい。例えば、ある回転子積層鉄心1では、(M2,M7)及び(M15,M10)の磁石組MXがX成分を縮小するために重量差が設けられてもよい。そして、他の回転子積層鉄心1において、(M2,M15)及び(M7,M10)の磁石組MYがY成分を縮小するために重量差が設けられてもよい。
【0087】
上述の例では、X成分の大きさに応じて、X成分を縮小させるための1以上の磁石組MXの数が異なる。これに代えて、X成分の大きさに応じて、X成分を縮小させるための1以上の磁石組MXの数は変更せずに、X成分の大きさが大きくなるにつれて重量区分の差が大きくなるように、重量区分の差が決定されてもよい。同様に、Y成分の大きさに応じて、Y成分を縮小させるための1以上の磁石組MYの数は変更せずに、Y成分の大きさが大きくになるにつれて重量区分の差が大きくなるように、重量区分の差が決定されてもよい。
【0088】
上述の例では、X成分の大きさに応じて、重量区分の差が異なる。これに代えて、X成分の大きさに応じて、重量区分の差は変更せずに、X成分の大きさが大きくなるにつれて、X成分を縮小させるための1以上の磁石組MXの数が多くなるように、取付対象の複数の磁石Mが選択されてもよい。同様に、Y成分の大きさに応じて、重量区分の差は変更せずに、Y成分の大きさが大きくなるにつれて、Y成分を縮小させるための1以上の磁石組MYの数が多くなるように、取付対象の複数の磁石Mが選択されてもよい。
【0089】
表1及び表2に示された各種パターンは一例であり、いずれかの成分を縮小させるための磁石組において、重量区分の差が3以上であるパターンが設定されてもよい。回転子積層鉄心1の製造方法において、重量の公差内での重量区分ごとの区別ではなく、重量が異なるように製造された複数の磁石Mが用意されてもよい。重量区分ごとの差に代えて、重量の測定値に基づいて、各成分を縮小させるための磁石組を構成する一対の磁石Mが選択されてもよい。
【0090】
第2測定工程において、方向X及び方向Yに加えて、これらの方向に交差する1以上の別の方向にも、アンバランス量が分解されてもよい。そして、1以上の別の方向それぞれにおいても、アンバランス量の成分を縮小させる1以上の磁石組が選択されてもよい。上述の例では、仮想ラインILxがキー6aを通るように設定されるが、仮想ラインILxは、上記円周方向においてキー6a,6b等の指標部分から所定の角度だけずれていてもよい。上述の例では、仮想ラインに関して線対称の位置にある一対の磁石挿入孔Hに取り付けられる一対の磁石Mの重量差によって、X成分又はY成分が縮小される。これに代えて、仮想ラインに関して線対称の位置にはない一対の磁石挿入孔Hに取り付けられる一対の磁石Mの重量差によって、X成分又はY成分が縮小されてもよい。アンバランス量を分解する方向(例えば、方向X及び方向Y)は、中心軸Axに対して直交せずに、中心軸Axに交差するように設定されてもよい。アンバランス量を分解する2以上の方向と、上記仮想ラインILx及び仮想ラインILyとのそれぞれは、中心軸Axに交差(例えば、直交)する平面内において、互いに交差するように設定されてもよい。
【0091】
上述の例では、複数の打抜部材2が積層されてなる積層体4が、磁石Mが取り付けられる鉄心本体として機能するが、鉄心本体が積層体以外によって構成されてもよい。例えば、鉄心本体は、強磁性体粉末が圧縮成形されたものであってもよく、強磁性体粉末を含有する樹脂材料が射出成形されたものであってもよい。上述の例では、複数の磁石挿入孔Hが複数の磁石取付部として機能するが、複数の磁石取付部の少なくとも一部が、鉄心本体の外周面に設けられた溝であってもよい。磁石取付装置64における磁石の取付が、作業者によって人手で行われてもよい。磁石M又は積層体4を搬送する工程の少なくとも一部が人手で行われてよい。
【0092】
以上に説明した種々の例のうちの1つの例で説明した事項の少なくとも一部が、他の例に適用されてもよい。
【0093】
[本開示のまとめ]
本開示は、以下の(1)~(10)の方法又は構成を含む。
【0094】
(1)複数の磁石Mを用意し、複数の磁石Mの重量を個々に測定する第1測定工程と、複数の磁石挿入孔H(複数の磁石取付部)が設けられた積層体4(鉄心本体)を用意し、積層体4におけるアンバランス量を測定したうえで、積層体4の中心軸Axに交差し、且つ互いに交差する方向X(第1方向)及び方向Y(第2方向)それぞれの成分に上記アンバランス量を分解する第2測定工程と、第1測定工程での重量の測定結果と、第2測定工程での上記アンバランス量を分解して得られる結果とに基づいて、複数の磁石Mの中から、上記アンバランス量の方向Xの成分であるX成分及び上記アンバランス量の方向Yの成分であるY成分の少なくとも一方を縮小させることが可能な取付対象の複数の磁石M(複数の取付対象磁石)を選択する選択工程と、X成分及びY成分の少なくとも一方を縮小させるように、取付対象の複数の磁石Mを複数の磁石挿入孔Hに取り付ける磁石取付工程と、を含み、選択工程では、重量差を有する少なくとも一対の磁石Mが含まれるように、取付対象の複数の磁石Mが選択される、回転子積層鉄心1(回転子鉄心)の製造方法。
積層体4等の鉄心本体に取り付けられる磁石の重量差を利用して、鉄心本体におけるアンバランス量を低減させることが考えられる。例えば、鉄心本体の中心軸と重心位置とを結ぶラインに沿った方向において、磁石の重量差を利用して、アンバランス量を縮小させる方法が考えられる。この方法では、上記ライン上において、重量差を有する磁石が取り付けられる磁石取付部がない場合があり、アンバランス量を縮小させるための磁石の選択が複雑化するおそれがある。これに対して、上記製造方法では、互いに交差する2方向にアンバランス量が分解されて、少なくとも一方の方向において、そのアンバランス量の成分が縮小される。この場合、重心の位置に依らずに、重量差が設けられる磁石を取り付け可能な磁石取付部が並ぶ方向に合わせて、上記2方向を設定できる。これにより、アンバランス量を縮小させるための磁石を含む取付対象の複数の磁石Mの選択が容易である。従って、上記製造方法は、アンバランス量の低減作業の簡素化に有用である。
【0095】
(2)前記選択工程は、第2測定工程での上記アンバランス量を分解して得られる結果に基づいて、X成分を縮小させることが可能な1以上の磁石組MXを選択することと、第2測定工程での上記アンバランス量を分解して得られる結果に基づいて、Y成分を縮小させることが可能な1以上の磁石組MY(別の磁石組)を選択することと、を含み、上記1以上の磁石組MXのそれぞれは、重量差を有する一対の磁石Mからなり、上記1以上の磁石組MYのそれぞれは、重量差を有する一対の磁石からなり、選択工程では、上記1以上の磁石組MX及び上記1以上の磁石組MYが含まれるように、取付対象の複数の磁石Mが選択され、磁石取付工程では、X成分及びY成分を縮小させるように、取付対象の複数の磁石Mが複数の磁石挿入孔Hに取り付けられる、上記(1)に記載の製造方法。
上述の方法において、中心軸と重心とを結ぶライン上に、重量差を有する磁石が取り付けられる磁石取付部がない場合、アンバランス量を精度良く縮小できない場合がある。これに対して、この方法では、例えばX成分及びY成分にアンバランス量が分解されて、それぞれの方向でアンバランス量の成分を縮小できるので、精度良くアンバランス量を縮小することが可能である。
【0096】
(3)選択工程は、X成分の大きさに応じて、上記1以上の磁石組MXの数と、当該1以上の磁石組MXに含まれる磁石Mを取り付ける磁石挿入孔H(磁石取付部)とを決定することと、Y成分の大きさに応じて、上記1以上の磁石組MYの数と、当該1以上の磁石組MYに含まれる磁石Mを取り付ける磁石挿入孔H(磁石取付部)とを決定することと、を含む、上記(2)に記載の製造方法。
この場合、アンバランス量の程度が大きいほど、重量差を設ける磁石Mの数を増やすことができる。そのため、磁石Mを取り付けた後での重心の位置を、中心軸Axに対してより精度良く近づけることが可能である。
【0097】
(4)上記製造方法では、第2測定工程と、選択工程と、磁石取付工程とを含む一連の工程が繰り返され、選択工程において選択される上記1以上の磁石組MXの最大数と、選択工程において選択される1以上の磁石組MYの最大数とは、互いに同じである、上記(2)又は(3)に記載の製造方法。
積層体4等の鉄心本体の個体ごとに、重心Cgの位置は変化し得る。この方法では、X成分及びY成分それぞれを縮小させるための磁石Mの個数の最大値が同じであるので、2方向においてバランス良く重心の位置を調整することが可能である。
【0098】
(5)第1測定工程は、重量の測定結果に応じて、複数の磁石Mを重量区分ごとに分けることを含み、選択工程では、X成分を縮小させる場合に、X成分の大きさに応じて、取付対象の複数の磁石MのうちのX成分を縮小させることが可能な一対の磁石Mの間の重量区分の差が決定され、Y成分を縮小させる場合に、Y成分の大きさに応じて、取付対象の複数の磁石MのうちのY成分を縮小させることが可能な一対の磁石Mの間の重量区分の差が決定される、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の製造方法。
この場合、アンバランス量の程度が大きいほど、重量区分の差を大きくすることができる。重量区分の差が大きいと、重心の位置を調整するための磁石M同士の重量差が大きいので、磁石Mを取り付けた後での重心の位置を、中心軸Axに対してより精度良く近づけることが可能である。
【0099】
(6)選択工程を実行する前に、重量区分ごとの磁石Mの保管数を示す保管情報を取得する情報取得工程を更に含み、選択工程は、保管情報に基づいて、取付対象の複数の磁石Mを選択することを含む、上記(5)に記載の製造方法。
この場合、重量区分同士で磁石Mの保管数に差があっても、その差を縮小するように、積層体4等の鉄心本体に取り付ける対象の磁石Mを選択(消費)することが可能である。
【0100】
(7)上記保管情報に基づいて取付対象の複数の磁石Mを選択することにおいて、X成分を縮小させる場合に、上記保管情報において磁石Mの保管数が所定数以上である重量区分から、取付対象の複数の磁石MのうちのX成分を縮小させることが可能な一対の磁石Mが選択され、Y成分を縮小させる場合に、上記保管情報において磁石Mの保管数が所定数以上である重量区分から、取付対象の複数の磁石MのうちのY成分を縮小させることが可能な一対の磁石Mが選択される、上記(6)に記載の製造方法。
この場合、アンバランス量を縮小するために、磁石Mの保管数が比較的多い重量区分から優先して、磁石Mが使用(消費)される。そのため、重量区分の間での磁石Mの保管数の差を縮小することが可能である。
【0101】
(8)上記保管情報に基づいて取付対象の複数の磁石Mを選択することは、取付対象の複数の磁石Mに、上記アンバランス量の縮小に寄与しない複数の標準磁石が含まれる場合に、上記保管情報において磁石Mの保管数が最も多い重量区分から、上記複数の標準磁石を選択することを含む、上記(5)~(7)のいずれか1つに記載の製造方法。
積層体4等の鉄心本体における重心Cgの位置によっては、鉄心本体に使用される全ての磁石Mを利用して、アンバランス量を縮小させる必要がない。この方法では、アンバランス量の縮小に寄与しない磁石Mが、保管数が最も多い重量区分から使用(消費)される。そのため、重量区分の間での磁石Mの保管数の差を縮小させることが可能である。
【0102】
(9)方向X及び方向Yは、積層体4の中心軸Axまわりの円周における基準位置を表す指標部分に基づいて設定されている、上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の製造方法。
この場合、指標部分を用いて方向X及び方向Yを特定するのが容易である。そのため、アンバランス量の低減作業の簡素化に更に有用である。
【0103】
(10)複数の磁石挿入孔H(複数の磁石取付部)が設けられた積層体4(鉄心本体)と、複数の磁石挿入孔Hに取り付けられた複数の磁石Mと、を備え、複数の磁石Mのうち、仮想ラインILxを境界として区画された一方の領域に位置する1以上の磁石Mと、仮想ラインILxを境界として区画された他方の領域に位置する1以上の磁石Mとの間で、重量差が設けられており、複数の磁石Mのうち、仮想ラインILyを境界として区画された一方の領域に位置する1以上の磁石Mと、仮想ラインILyを境界として区画された他方の領域に位置する1以上の磁石Mとの間で、重量差が設けられており、仮想ラインILxは、積層体4の中心軸Axに直交し、且つ中心軸Axを通るラインであり、仮想ラインILyは、中心軸Axに直交する平面内において仮想ラインILxに交差し、且つ中心軸Axを通るラインである、回転子積層鉄心1(回転子鉄心)。
この回転子積層鉄心1を製造する場合、上記製造方法と同様に、アンバランス量を縮小させるための磁石を含む取付対象の複数の磁石Mの選択が容易である。従って、アンバランス量の低減作業の簡素化に有用である。
【符号の説明】
【0104】
1…回転子積層鉄心、4…積層体、6a,6b…キー、H,H1~H16…磁石挿入孔、M,M1~M16…磁石、MX,MY…磁石組、Ax…中心軸、Cg…重心、ILx,ILy…仮想ライン。