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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007930
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】冷却方法及び冷却剤
(51)【国際特許分類】
   E01C 13/08 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
E01C13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109362
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】519317734
【氏名又は名称】株式会社COOOL
(74)【代理人】
【識別番号】100180921
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】劉 丹
(72)【発明者】
【氏名】田中 康徳
(72)【発明者】
【氏名】濱口 光一郎
【テーマコード(参考)】
2D051
【Fターム(参考)】
2D051AA05
2D051AE03
2D051AF01
2D051AF14
2D051HA10
(57)【要約】
【課題】 本発明は、人工芝表面の温度を低温に保つため、対象物を冷却する冷却方法等を提供するためのことを目的とする。
【解決手段】 対象物を冷却する冷却方法であって、前記対象物の内部、表面又は近辺に、第1材料を配置する第1材料配置ステップと、前記第1材料と反応して温室効果ガスを排出する第2材料を前記第1材料に接触させる第2材料接触ステップとを含む、冷却方法である。これにより、対象物の内部、表面又は近辺から温室効果ガスが排出される際に対象物が吸熱される。結果として、対象物を冷却することが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を冷却する冷却方法であって、
前記対象物の内部、表面又は近辺に、第1材料を配置する第1材料配置ステップと、
前記第1材料と反応して温室効果ガスを排出する第2材料を前記第1材料に接触させる第2材料接触ステップとを含む、冷却方法。
【請求項2】
前記第2材料は、流体であるか、融解して流体を生じる固体であるか、又は、前記第1材料と反応して流体を生じる固体である、請求項1記載の冷却方法。
【請求項3】
前記第1材料は固体であり、
前記第2材料接触ステップにおいて、前記第1材料の空隙体積に対応する体積の0.5倍以上2倍以下の体積の液体を前記第1材料に接触させる、請求項2記載の冷却方法。
【請求項4】
前記第1材料は、
炭酸カルシウムと、
炭酸塩、前記第2材料と接触して溶解する酸性物質、又は、前記第2材料と接触して酸性溶液を生じるアルカリ物質とをさらに有する、請求項1記載の冷却方法。
【請求項5】
前記第1材料は、炭酸カルシウムを主成分とする鉱物であり、
前記第2材料は、酸性の液体である、請求項1記載の冷却方法。
【請求項6】
前記第2材料は、pH5.6以下である、請求項5記載の冷却方法。
【請求項7】
対象物を冷却する冷却剤であって、
他の材料と反応して温室効果ガスを排出する、冷却剤。
【請求項8】
前記他の材料は、雨水である、請求項7記載の冷却剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、対象物を冷却する冷却方法及び冷却剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、人工芝は様々なスポーツ施設において使用され、多様な人工芝が開発されている(特許文献1)。
【0003】
天然芝は、施肥や水やり、補修など毎日の維持管理に手間がかかる。それに比べて人工芝は、維持管理が容易である。加えて、有機高分子化合物でできているため耐久性にも優れ、雨天の後でも競技が可能ということなどから、近年施工する施設が増えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-178499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本願発明者らが自然光下において天然芝と人工芝の表面温度を測定し比較したところ、人工芝の表面温度は60℃超と天然芝よりも20度以上も高くなる場合があった。結果として、人工芝のグラウンドで運動する者がスパイク越しに足の裏を火傷することさえあった。
【0006】
このように、人工芝を天然芝の代替品として用いるためには改善の余地が残されていた。そこで、本発明は、人工芝表面の温度を低温に保つため、対象物を冷却する冷却方法等を提供するためのことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の第1の観点は、対象物を冷却する冷却方法であって、前記対象物の内部、表面又は近辺に、第1材料を配置する第1材料配置ステップと、前記第1材料と反応して温室効果ガスを排出する第2材料を前記第1材料に接触させる第2材料接触ステップとを含む、冷却方法である。
【0008】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の冷却方法であって、前記第2材料は、流体であるか、融解して流体を生じる固体であるか、又は、前記第1材料と反応して流体を生じる固体である。
【0009】
本願発明の第3の観点は、第2の観点の冷却方法であって、前記第1材料は固体であり、前記第2材料接触ステップにおいて、前記第1材料の空隙体積に対応する体積の0.5倍以上2倍以下の体積の液体を前記第1材料に接触させる。
【0010】
本願発明の第4の観点は、第1の観点の冷却方法であって、前記第1材料は、炭酸カルシウムと、炭酸塩、前記第2材料と接触して溶解する酸性物質、又は、前記第2材料と接触して溶解するアルカリ物質とをさらに有する。
【0011】
本願発明の第5の観点は、第1の観点の冷却方法であって、前記第1材料は、炭酸カルシウムを主成分とする鉱物であり、前記第2材料は、酸性の液体である。
【0012】
本願発明の第6の観点は、第5の観点の冷却方法であって、前記第2材料は、pH5.6以下である。
【0013】
本願発明の第7の観点は、対象物を冷却する冷却剤であって、他の材料と反応して温室効果ガスを排出する、冷却剤である。
【0014】
本願発明の第8の観点は、第7の請求項記載の冷却剤であって、前記他の材料は、雨水である。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の各観点によれば、対象物の内部、表面又は近辺から温室効果ガスが排出される際に対象物が吸熱される。結果として、対象物を冷却することが可能となる。
【0016】
本願発明の第2の観点によれば、固体同士を接触する場合と比較して、第1材料と第2材料との接触面積を飛躍的に増大させることが可能となる。
【0017】
本願発明の第3の観点によれば、加えた液体に第1材料の表面が覆われていないため、発生した温室効果ガスが対象物又は対象物近辺の熱及び中和熱を帯びて大気中に放出されやすく、より高い冷却効果を示す冷却方法等を提供することが可能になる。そのため、本願発明による冷却効果を増大させることが容易となる。
【0018】
本願発明の第4の観点によれば、炭酸カルシウムと水等の入手しやすい材料で本願発明の効果を奏することが可能となる。具体的には、下記反応式(1)によって二酸化炭素が発生し、この二酸化炭素が放出される際に対象物表面の熱及び中和熱を帯びて大気中に放出されることにより、対象物の表面を冷却する冷却方法等を提供することが可能になる。
【0019】
【化1】
【0020】
本願発明の第5の観点によれば、酸性の液体が加わることにより、上記反応式(1)が促進され、さらに冷却効果を高めることが可能になる。なお、人類の活動が無い場合も空気中の二酸化炭素が十分に溶け込んだ雨水のpHが5.6であり、ここでいう「酸性の液体」が加わることにより、pHの値がこの雨水のpHよりも小さな値となる。
【0021】
本願発明の第7の観点によれば、雨水程度の弱酸性の液体と反応して冷却効果が期待できる。このため、屋外に開放された対象物の表面を冷却したい場合に、定期的に雨水が降り注ぐ場所であれば、冷却するための作業コストを低減させることが可能となる。
【0022】
上記の本願発明の効果により、例えば、人工芝表面の温度を低温に保つため、対象物の表面を冷却する冷却方法等を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】雨水(pH5.4)を寒水石と接触させた時の温度変化を示す図である。
図2】異なるpH(5.4と4.6)の雨水を寒水石に接触させた時の温度の経時変化を示す図である。
図3】反応器上部の温度と二酸化炭素の濃度変化を測定する実験の概要を示す図である。
図4】反応器上部の温度と二酸化炭素の濃度変化を示す図である。
図5】寒水石を含む鉱物層に雨水を加えたモデルを示す図である。
図6図2とは別実験において、pH4.6の雨水を寒水石に接触させた時の温度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本願発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本願発明の実施例は、以下に記載する内容に限定されるものではない。
【実施例0025】
図1を用いて、寒水石が雨水と接触することにより、単に雨水が蒸発する以上の冷却効果を奏し得ることを示す実験結果について述べる。
【0026】
まず、実験条件について述べる。100 mLのマノメーターを利用し、本実施例で用いた0.6mm~1mmの粒径の寒水石の空隙率を測定した。その結果、寒水石の空隙率は0.42であった。すなわち、本発明に関する実験で使用した寒水石100 mLに対し、水等の液体が浸入できる空間の体積である空隙体積が42 mLであることがわかった。なお、ここで用いた寒水石は、約96wt%が炭酸カルシウム(CaCO3)であり、炭酸カルシウムを主成分とする鉱物である。
【0027】
次に、雨水(pH5.4)を寒水石と接触させた時の温度変化を図1に示す。4つの断熱反応器の内の3つに50 mLの寒水石を入れた。そのうち2つにそれぞれ100 mLの雨水と、寒水石の空隙体積に相当する21 mLの雨水を添加した。残りの1つの断熱反応器には寒水石のみを入れた。比較のため、もう一つの断熱反応器に50 mLの雨水を入れた。雨水はいずれも有明高専キャンパスで採集したpH5.4の雨水を用いた。温度計を寒水石の中央に差し込んで、温度変化を追跡した。また、比較のため、反応器中の雨水のみの温度、及び、寒水石のみの温度、室温についても測定した。
【0028】
図1に示したように、空隙率に相当する体積の雨水を加えた断熱反応器の温度が最も低い結果となった。
【0029】
続いて、雨水のpH依存度について調べた実験について述べる。図2は、異なるpH(5.4と4.6)の雨水を寒水石に接触させた時の温度を追跡した結果を例示する図である。
【0030】
2つの断熱反応器にそれぞれ50mLの寒水石を設置して、有明高専キャンパスで採集したpH5.4、pH4.6の雨水をそれぞれ添加した。添加した雨水は、いずれも寒水石の空隙体積に相当する21 mLとした。温度計を寒水石の中央に差し込んで温度変化を追跡した。また、比較のため、別のそれぞれの断熱反応器中に設置した雨水(pH5.4)、寒水石のみの温度及び室温についても測定した。
【0031】
図2に示すように、pH4.6の雨水を寒水石に加えた際の温度が最も低かった。
【0032】
さらに、実験における反応の進行度合を把握するために、反応器上部の温度と二酸化炭素の濃度変化を測定した。実験の概要図を図3に示す。具体的には、断熱反応器に寒水石50 mLを入れて、寒水石の空隙体積に相当する21 mLの雨水(pH4.6)を加え、上部を密閉した。続いて、上部の一部に穴を開け、反応器上部の温度と二酸化炭素(CO2)濃度の追跡を行った。
【0033】
反応器上部の温度と二酸化炭素の濃度変化を図4に示す。雨水の添加により、寒水石上部の空間の温度が室温の19.8℃から徐々に上昇し、雨水を加えた2時間後には約21.5℃となった。また、二酸化炭素の濃度が雨水の添加から約60分後ぐらいまで減少し、その後120分まで上昇と減少を繰り返した。
【0034】
以上の実験より、下記のことが明らかになった。まず、対象物の表面上に、寒水石を含む鉱物層を配置し(本願請求項記載の「第1材料配置ステップ」の一例)、鉱物層に雨水を加える(本願請求項記載の「第2材料接触ステップ」の一例)と、寒水石中の炭酸カルシウム(CaCO3)と雨水中の水素イオン(H)は下記反応式(1)によって二酸化炭素が生じる。
【0035】
【化2】
【0036】
図5に、寒水石を含む鉱物層に雨水を加えたモデルを示す。図5(a)は、寒水石の空隙体積に相当する雨水を加えた場合であり、図5(b)は、寒水石の空隙体積よりも多い雨水を加えた場合である。
【0037】
図5に示すように、100 mLの雨水添加の冷却効果は21 mLより小さかった。また、寒水石とその空隙体積に相当する雨水を接触させた時に最も大きな冷却効果を示した。これは空隙体積以上の雨水を寒水石に加える場合、寒水石は雨水に覆われている。このため、雨水が一部の二酸化炭素と熱を吸収してしまい、熱を帯びた二酸化炭素が外に放出されにくくなる。そのため、寒水石中の温度が空隙体積の雨水を添加するときより高くなったと考えられる。なお、雨水のみの場合も温度が下がったのは水の蒸発熱によるものと考えられる。
【0038】
また、pHが低い雨水を寒水石に加える際の冷却効果が高い。これは、pHの低い雨水により多くの水素イオンが含まれているため、反応式(1)の反応がより進行し、多くの二酸化炭素が生じて、熱を帯びて外に放出されるためと考えられる。
【0039】
図4の結果からも、寒水石に雨水を加えた際の反応器の上部温度の上昇は、反応式(1)の反応によって生成した二酸化炭素の放出と同時に熱が放出したことを支持している。なお、反応式(1)の反応が2時間以上も継続していたことがわかる。二酸化炭素濃度変化を見ると、雨水を加えてから約50分までは二酸化炭素濃度が減少しており、これは寒水石の空隙にある雨水が二酸化炭素を吸収したためであると考えられる。
【0040】
その後、反応式(1)の反応がさらに進行し、雨水に吸収しきれない二酸化炭素が放出されるため濃度が上昇し、同時に中和熱と寒水石中に籠った熱も放出される。雨水を加えて100分後には二酸化炭素濃度が最大となり、同時に温度も最大値を示している。その後、反応が緩やかになり、温度がほぼ一定になり、120分後、温度が低下し始めるが、寒水石から放出される二酸化炭素がほとんどないため外気とのガス交換が起こり、二酸化炭素濃度が低下したと考えられる。
【0041】
したがって、寒水石の冷却メカニズムは以下のように考えられる。寒水石の主成分である炭酸カルシウム(CaCO3)と雨水中の水素イオン(H)は反応式(1)のように反応し二酸化炭素を生じ、この二酸化炭素が放出される際、寒水石中に籠った熱および中和熱を帯びて空気中へ放出される。よって寒水石の温度を下げ、冷却効果を示す。
【0042】
なお、寒水石は雨水と接触しなくても(例えば室内)、空気中の水蒸気と接触しているので、反応式(1)の反応が常に進行していると考えられる。これによって、室内の寒水石(あるいは寒水石を含む材料)の温度が下がり、室内全体の温度が低くなって、涼しく感じられていると考えられる。
【0043】
ここで、図6は、図2とは別実験において、加える雨水(pH4.6)の量を変化させたときの温度の経時変化を示すグラフである。図2の実験時とは異なり、室温が上昇する中での実験を行った。図6に示すように、空隙体積をVとして、雨水を加える量が0.5V~2V、特に、V及び1.5Vのときに温度上昇がよく抑制された。また、空隙体積Vは、寒水石の粒径によって異なったが、寒水石の体積の35~42%の間であった。また、今回は平均して約0.5mm~1.5mmの粒径のものを用いたが、粒径が大きい方が空隙率が大きい傾向にあった。
【0044】
なお、本実験に用いた寒水石の主な成分は炭酸カルシウムである。そのため、炭酸カルシウムを素材とする空隙体積の大きな材料や粉体を用いることで、大きな冷却効果を期待できる。
【0045】
また、本実施例の冷却方法は、二酸化炭素が放出されやすい環境に適していることが分かる。例えば、屋外又は開放された空間に面した表面を冷却することに特に適しているといえる。
【0046】
また、本実施例では、寒水石に水素イオンを含む液体として雨水を接触させ、二酸化炭素を放出させることにより人工芝の表面温度を下げた。
【0047】
しかし、上記で説明した作用機序から明らかなように、対象物の付近で複数の材料を反応させて温室効果ガスを排出させることにより対象物を冷却する点に本願発明の技術的思想としての特徴がある。加えて、いずれかの材料の空隙体積を考慮して、対象物の近辺で発生した温室効果ガスが外部に放出されやすい状況を維持する点にも本願発明の技術的思想としての特徴がある。
【0048】
そのため、炭酸カルシウムを主成分とする鉱物と水を反応させて二酸化炭素を発生させる以外の、対象物の内部、表面又は近辺において第1材料と第2材料とを反応させて温室効果ガスを発生させる冷却方法であってもよい。特に、第1材料が粉体であり、第2材料が液体である場合には、冷却が速やかにかつ効率的に行われるため、望ましい。
【0049】
また、第2材料として、水の代わりに氷のように融解して流体を生じる固体を用いてもよい。また、第1材料と反応することにより流体を生じ、結果として温室効果ガスを排出するものであってもよい。
【0050】
さらに、第1材料として複数の反応物質を固体として含み、第2材料として少なくとも第1材料のうちの1つと反応する物質を含み、第1材料と第2材料の接触により起こる反応やその後の連鎖して起こる反応により、結果として温室効果ガスを排出するものであってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6