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特開2024-79300食品の風味改良剤及びその製造方法、食材の処理方法、不快臭の抑制・消臭・マスキング方法、並びに、加工食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079300
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】食品の風味改良剤及びその製造方法、食材の処理方法、不快臭の抑制・消臭・マスキング方法、並びに、加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240604BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20240604BHJP
   A23L 13/40 20230101ALI20240604BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 C
A23L27/20 D
A23L13/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192158
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】吉藤 郁弥
(72)【発明者】
【氏名】片山 采音
(72)【発明者】
【氏名】畑 千嘉子
【テーマコード(参考)】
4B042
4B047
【Fターム(参考)】
4B042AC01
4B042AD39
4B042AD40
4B042AG07
4B042AG27
4B042AH01
4B042AH09
4B042AK02
4B042AK05
4B042AK09
4B042AK11
4B042AP03
4B042AP14
4B047LB08
4B047LB09
4B047LF04
4B047LF10
4B047LG03
4B047LG06
4B047LG07
4B047LG09
4B047LG38
(57)【要約】
【課題】新たな有効成分を含有し、食品・食材の不快臭を効率よく抑制等することができる風味改良剤、及びその用途を提供する。
【解決手段】ポリフェールと乳酸エチルを有効成分として含有する食品の風味改良剤が提供される。前記風味改良剤に含まれる前記ポリフェノールの質量Xに対する前記乳酸エチルの質量Yの比Y/Xが0.00075以上5000以下であることが好ましい。前記ポリフェノールの濃度が50ppm以上400000ppm以下であり、前記乳酸エチルの濃度が300ppm以上250000ppm以下であることが好ましい。前記ポリフェノールは、少なくとも、アントシアニン、カテキン、スチルベノイド、又はヘスペリジンを含むことが好ましい。当該風味改良剤を使用する食材の処理方法、不快臭の不快臭の抑制・消臭・マスキング方法、及び加工食品の製造方法も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェールと乳酸エチルを有効成分として含有する、食品の風味改良剤。
【請求項2】
前記風味改良剤に含まれる前記ポリフェノールの質量Xに対する前記乳酸エチルの質量Yの比Y/Xが0.00075以上5000以下である、請求項1に記載の食品の風味改良剤。
【請求項3】
前記ポリフェノールの濃度が50ppm以上400000ppm以下であり、前記乳酸エチルの濃度が300ppm以上250000ppm以下である、請求項1に記載の食品の風味改良剤。
【請求項4】
前記ポリフェノールは、少なくとも、アントシアニン、カテキン、スチルベノイド、又はヘスペリジンを含む、請求項1に記載の食品の風味改良剤。
【請求項5】
前記ポリフェノールは、少なくとも、アントシアニン、カテキン、スチルベノイド、又はヘスペリジンを含む、請求項2又は3に記載の食品の風味改良剤。
【請求項6】
さらにアルコールを含有し、前記アルコールの濃度が1%以上60%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の食品の風味改良剤。
【請求項7】
前記食品が畜肉、魚介類、植物性蛋白質、又は卵を含むものである、請求項1~4のいずれかに記載の食品の風味改良剤。
【請求項8】
前記食品に由来する不快臭を抑制、消臭、又はマスキングするために用いられる、請求項1~4のいずれかに記載の食品の風味改良剤。
【請求項9】
前記ポリフェノールの濃度が50ppm以上400000ppm以下であり、
前記乳酸エチルの濃度が300ppm以上250000ppm以下であり、
前記ポリフェノールは、少なくとも、アントシアニン、カテキン、スチルベノイド、又はヘスペリジンを含み、
さらにアルコールを含有し、前記アルコールの濃度が1%以上60%以下である、請求項1に記載の食品の風味改良剤。
【請求項10】
請求項1~4のいずれかに記載の食品の風味改良剤を製造する風味改良剤の製造方法であって、
原料の1つとして、赤ぶどうの抽出物を用いる、風味改良剤の製造方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載の食品の風味改良剤を食材に接触させて、前記食材を処理する、食材の処理方法。
【請求項12】
請求項1~4のいずれかに記載の食品の風味改良剤を食材に接触させて、前記食材に由来する不快臭を抑制、消臭、又はマスキングする、不快臭の抑制・消臭・マスキング方法。
【請求項13】
請求項1~4のいずれかに記載の食品の風味改良剤を食材に接触させて、前記食材を原料とする加工食品を得る、加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の風味改良剤及びその製造方法、食材の処理方法、不快臭の抑制・消臭・マスキング方法、並びに、加工食品の製造方法に関し、さらに詳細には、ポリフェノールと乳酸エチルを有効成分として含有する食品の風味改良剤及びその製造方法、当該風味改良剤を使用する食材の処理方法、不快臭の抑制・消臭・マスキング方法、並びに、加工食品の製造方法に関する。本発明の食品の風味改良剤は、食材の不快臭の消臭・抑制・マスキングに有用であるとともに、良好な風味を有する食品を提供できるものである。
【背景技術】
【0002】
飲食品は、原料特有の臭いや、製造・調理・保存といった各工程において発生した特有の臭いを有する場合がある。臭いは、味とともに飲食品の風味に強く影響する要因のひとつであり、その濃度や組成によって風味は良くも悪くもなる。そのため、飲食品の風味を害する臭いへの対処手段として、様々な風味改良剤が開発されている。このような風味改良剤の一例として、特定の臭いを消臭したり、その発生を抑制したり、あるいはマスキングしたりすることにより、食品に由来する不快な風味を低減させるものがある。
【0003】
マスキング効果を利用した食品の風味改良剤としては様々なものがある。例えば、特許文献1には、肉類を糖類とポリフェノール類を含有する水溶液に浸漬することを特徴とする、肉類の消臭方法が記載されている。また、特許文献2には、特定の構造を有するフェノール化合物の多量体を食品に存在させることを特徴とする、食品のオフフレーバーの除去方法が記載されている。一方、特許文献3には、エステル類やアルデヒド類等、多様な物質が果汁含有製品の光劣化臭マスキング効果を有する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03-266959号公報
【特許文献2】特開2001-352914号公報
【特許文献3】特開2021-72869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、飲食品の不快臭は非常に多岐に渡っており、従来技術では不快臭を十分に除去ないし抑制できない場合があった。そこで本発明は、新たな有効成分を含有し、食品・食材の不快臭を効率よく抑制等することができる風味改良剤、及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、食品・食材の不快臭の消臭効果に優れる風味改良剤を開発すべく鋭意検討を行った。その結果、ポリフェノールと乳酸エチルを含有する組成物(剤)が、食品・食材の不快臭を消臭・抑制・マスキングするにあたって優れた効果を発揮することを見出した。加えて、当該組成物(剤)が食品における好ましい香気を感じられやすくし、これにより、風味に優れた食品を提供することができることを見出した。
【0007】
本発明の1つの様相は、ポリフェールと乳酸エチルを有効成分として含有する、食品の風味改良剤である。
【0008】
本様相は食品の風味改良剤に係るものであり、ポリフェールと乳酸エチルを有効成分として含有することを特徴としている。本様相の風味改良剤は、食材の不快臭を消臭・抑制・マスキングするにあたって優れた効果を発揮し、かつ風味に優れた食品を提供することができる。
【0009】
好ましくは、前記風味改良剤に含まれる前記ポリフェノールの質量Xに対する前記乳酸エチルの質量Yの比Y/Xが0.00075以上5000以下である。
【0010】
本様相では、風味改良剤に含まれるポリフェノールの質量Xに対する乳酸エチルの質量Yの比Y/Xが特定範囲である。かかる構成により、より確実に、食材の不快臭を消臭・抑制・マスキングするにあたって優れた効果を発揮し、かつ風味に優れた食品を提供することができる。
【0011】
好ましくは、前記ポリフェノールの濃度が50ppm以上400000ppm以下であり、前記乳酸エチルの濃度が300ppm以上250000ppm以下である。
【0012】
本様相では、ポリフェノールと乳酸エチルの濃度が特定範囲である。かかる構成により、より確実に、食材の不快臭を消臭・抑制・マスキングするにあたって優れた効果を発揮し、かつ風味に優れた食品を提供することができる。
【0013】
好ましくは、前記ポリフェノールは、少なくとも、アントシアニン、カテキン、スチルベノイド、又はヘスペリジンを含む。
【0014】
好ましくは、前記風味改良剤は、さらにアルコールを含有し、前記アルコールの濃度が1%以上60%以下である。
【0015】
好ましくは、前記食品が畜肉、魚介類、植物性蛋白質、又は卵を含むものである。
【0016】
好ましくは、前記風味改良剤は、前記食品に由来する不快臭を抑制、消臭、又はマスキングするために用いられる。
【0017】
好ましくは、前記ポリフェノールの濃度が50ppm以上400000ppm以下であり、前記乳酸エチルの濃度が300ppm以上250000ppm以下であり、前記ポリフェノールは、少なくとも、アントシアニン、カテキン、スチルベノイド、又はヘスペリジンを含み、さらにアルコールを含有し、前記アルコールの濃度が1%以上60%以下である。
【0018】
本発明の1つの様相は、上記の食品の風味改良剤を製造する風味改良剤の製造方法であって、原料の1つとして、赤ぶどうの抽出物を用いる、風味改良剤の製造方法である。
【0019】
本様相は上記した風味改良剤に製造方法に係るものであり、原料の1つとして赤ブドウの抽出物を用いることを特徴としている。かかる構成によれば、赤ぶどう由来のポリフェノールを含有する上記風味改良剤を提供することができる。
【0020】
本発明の1つの様相は、上記の食品の風味改良剤を食材に接触させて、前記食材を処理する、食材の処理方法である。
【0021】
本様相は食材の処理方法に係るものであり、上記した風味改良剤を食材に接触させて前記食材を処理することを特徴としている。かかる構成によれば、食材に由来する不快臭を効率よく抑制、消臭、又はマスキングでき、かつ風味に優れた食品を提供することができる。
【0022】
本発明の1つの様相は、上記の食品の風味改良剤を食材に接触させて、前記食材に由来する不快臭を抑制、消臭、又はマスキングする、不快臭の抑制・消臭・マスキング方法である。
【0023】
本様相は不快臭の抑制・消臭・マスキング方法に係るものであり、上記した風味改良剤を食材に接触させて前記食材に由来する不快臭を抑制、消臭、又はマスキングすることを特徴としている。かかる構成によれば、食材に由来する不快臭を効率よく抑制、消臭、又はマスキングでき、かつ風味に優れた食品を提供することができる。
【0024】
本発明の1つの様相は、上記の食品の風味改良剤を食材に接触させて、前記食材を原料とする加工食品を得る、加工食品の製造方法である。
【0025】
本様相は加工食品の製造方法に係るものであり、上記した風味改良剤を食材に接触させて、前記食材を原料とする加工食品を得ることを特徴としている。かかる構成によれば、食材に由来する不快臭を効率よく抑制、消臭、又はマスキングでき、かつ風味に優れた加工食品を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の食品の風味改良剤は、食材の不快臭を消臭・抑制・マスキングするにあたって優れた効果を発揮し、さらに、食品における好ましい香気を感じられやすくし、これにより、風味に優れた食品を提供することができる。
【0027】
本発明の風味改良剤の製造方法によれば、赤ぶどう由来のポリフェノールを含有する上記風味改良剤を提供することができる。
【0028】
本発明の食材の処理方法と不快臭の抑制・消臭・マスキング方法によれば、食材に由来する不快臭を効率よく抑制、消臭、又はマスキングでき、かつ風味に優れた食品を提供することができる。
【0029】
本発明の加工食品の製造方法によれば、食材に由来する不快臭を効率よく抑制、消臭、又はマスキングでき、かつ風味に優れた加工食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、「アルコール濃度」とはエチルアルコール(エタノール)の濃度をいう。すなわち、本明細書において「アルコール」と記載した場合は、特に断らない限りエチルアルコール(エタノール)を指す。
不快臭の抑制・消臭・マスキングとは、不快臭を抑制、消臭、又はマスキングすることを指す。
【0031】
本発明の食品の風味改良剤は、ポリフェノールと乳酸エチルを有効成分として含むものである。
【0032】
ポリフェノールとは、芳香族炭化水素の2個以上の水素がヒドロキシ基で置換された化合物をいう。本発明の風味改良剤に含まれるポリフェノールは、食品に適用可能なものであれば、どのような種類または構造のものであってもよく、またどのような原料由来のものであってもよい。本発明で用いられるポリフェノールの代表例は、植物に含まれるポリフェノール(植物由来のポリフェノール)である。例えば、ぶどう(赤ぶどう、白ぶどう等)、茶葉、さとうきび、柑橘類(青みかん等)に含まれるポリフェノールを用いることができる。例えば、これらの植物の抽出物をポリフェノール原料として用いることができる。ポリフェノールの種類としては、例えば、カテキン、アントシアニン、タンニンといったフラボノイド類や、フェノール酸、クマリン等が挙げられる。好ましくは、本発明の風味改良剤は、ポリフェノールとして、少なくともアントシアニン、カテキン、スチルベノイド、又はヘスペリジンを含む。アントシアニンは、主に赤ぶどう、ベリー類、ナス、紫芋等に含まれている。カテキンは、主に緑茶、大豆、小豆、ココア等に含まれている。スチルベノイドは、主に白ぶどう、サトウキビ、山芋、ピーナッツ等に含まれている。ヘスペリジンは、主に柑橘類、サクランボ等に含まれている。これらのポリフェノールについては1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の風味改良剤におけるポリフェノールの濃度、すなわち、風味改良剤全体に対するポリフェノールの含有割合(質量比)は、特に限定されるものではないが、好ましくは50ppm以上400000ppm以下(0.05mg/g以上400mg/g以下)、好ましくは1000ppm以上50000ppm以下、より好ましくは2000ppm以上30000ppm以下である。ポリフェノール濃度が50ppm未満であると、対象となる食品・食材の種類や量によっては、想定する消臭・抑制・マスキング効果が十分に得られないおそれがある。一方、ポリフェノール濃度が400000ppm超であると、対象となる食品・食材の種類や量によっては、ポリフェノールの苦味によって食品の風味が損なわれたり、食品の色調が変わってしまうおそれがある。またポリフェノール濃度を上記範囲に設定することにより、風味改良剤が調味料として使用しやすいものとなる。
【0034】
本発明の風味改良剤に含まれるポリフェノール量(総ポリフェノール量)は、例えば、フォーリンチオカルト法によって測定することができる。
【0035】
本発明の風味改良剤に含まれる乳酸エチルとしては、例えば、香料や食品添加物として入手可能な乳酸エチルを用いることができる。なお、乳酸エチルは一部の食品(鶏肉、果実類、味噌等)にも含まれているが、その量は微量である。
【0036】
本発明の風味改良剤における乳酸エチル濃度、すなわち、風味改良剤全体に対する乳酸エチルの含有割合(質量比)は、特に限定されるものではないが、好ましくは300ppm(0.3mg/g)以上250000ppm(250mg/g)以下、好ましくは1000ppm以上30000ppm以下、より好ましくは2000ppm以上20000ppm以下である。乳酸エチル濃度が300ppm未満であると、対象となる食品・食材の種類や量によっては、想定する消臭・抑制・マスキング効果が十分に得られないおそれがある。また、乳酸エチル濃度が250000ppm超であると、風味改良剤に濁りが生じたり、対象となる食品・食材の種類や量によっては、乳酸エチルの薬品臭が食品の風味を損ねたりするおそれがある。また乳酸エチル濃度を上記範囲に設定することにより、風味改良剤が調味料として使用しやすいものとなる。
【0037】
本発明の風味改良剤に含まれる乳酸エチル量は、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定することができる。
【0038】
また、特に限定されるものではないが、本発明の風味改良剤では、風味改良剤に含まれるポリフェノールの質量Xに対する乳酸エチルの質量Yの比Y/X(YをXで除した値)が0.00075以上5000以下であることが好ましい。比Y/Xを特定範囲とすることにより、ポリフェノールと乳酸エチルの存在比率がより好適となり、食材の不快臭の消臭・抑制・マスキング効果がより確実に発揮され、かつ得られる食品の風味もより優れたものとなる。
【0039】
本発明の風味改良剤の使用量としては、特に限定はなく、風味改良剤のポリフェノール濃度、乳酸エチル濃度、比Y/X、等の値により、さらに、対象の食品・食材の種類、調理方法等により、適宜設定することができる。一例として、食品・食材100質量部に対して、風味改良剤を0.1~10質量部、0.5~5質量部、0.7~1.3質量部、1質量部程度、等の量を使用することができる。
【0040】
本発明の風味改良剤には、その性能を損なわない範囲において、他の成分を含有させてもよい。例えば、アルコール(エタノール)を含有させてもよい。アルコール濃度、すなわち、風味改良剤全体に対するアルコールの含有割合(質量比)は、例えば1%以上60%以下(10mg/g以上600mg/g以下)であり、好ましくは3%以上40%以下、より好ましくは5%以上20%以下である。
【0041】
本発明の風味改良剤の形態としては特に限定はなく、例えば、粉末状、液体状、等の形態とすることができる。その他、顆粒状、錠剤状、乳液状、ペースト状、等の形状とすることができる。
【0042】
本発明の風味改良剤は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、ポリフェノール原料と乳酸エチルを準備する。ポリフェノール原料としては、例えば、ぶどう(赤ぶどう等)の抽出物、茶葉の抽出物、さとうきびの抽出物、青みかんの抽出物、等の植物の抽出物を用いることができる。乳酸エチルとして、例えば、香料として入手可能な乳酸エチルを用いることができる。必要に応じてアルコール、食塩等の他の原料を準備する。各原料を混合し、さらに、各原料の最終濃度が所定値となるように、特に、ポリフェノールと乳酸エチルの最終濃度が所定値となるように、必要量の水を加えて混合する。これにより、ポリフェノールと乳酸エチルを有効成分として含有する液体状の風味改良剤を得ることができる。粉末状、顆粒状等にする場合は、公知の造粒・乾燥等の製剤技術を適宜用いることができる。
【0043】
本発明の風味改良剤の使用対象となる食品・食材としては、例えば、畜肉、魚介類、卵、及びこれらを含む食品が挙げられる。さらに、代替肉の原料等として使用されている植物性蛋白質、及び植物性蛋白質を含む食品が挙げられる。植物性蛋白質は、大豆や小麦等に含まれる蛋白質そのもの、あるいはその蛋白質を抽出、加工したものである。
【0044】
前記畜肉としては、食用できる肉であれば特に限定はなく、例えば獣肉類では、牛、豚、馬、羊、山羊、鹿、猪、熊などが挙げられ、鳥肉類では、鶏、アヒル、七面鳥、雉、鴨などが挙げられる。前記魚介類としては、食用できる魚介類であれば特に限定はなく、魚類及び貝類などの水中にすむ水産動物が例として挙げられる。魚肉は本発明の対象となる食材の一例である。さらに、エビ、カニなどの節足動物、イカ、タコなどの軟体動物、クラゲなどの腔腸動物、ウニ、ナマコなどの棘皮動物、ホヤなどの原索動物なども対象となる。前記卵としては、食用できる卵であれば特に限定はなく、鳥類の卵(鶏卵等)や魚類の卵などが挙げられる。前記植物性蛋白質としては、大豆タンパク、エンドウ豆タンパク、ソラ豆タンパク、等が挙げられる。
【0045】
本発明の食材の処理方法は、上記の風味改良剤を食材に接触させて、前記食材を処理する者である。本発明の不快臭の抑制・消臭・マスキング方法は、上記の風味改良剤を食材に接触させて、前記食材に由来する不快臭を抑制、消臭、又はマスキングするものである。本発明の加工食品の製造方法は、上記の風味改良剤を食材に接触させて、前記食材を原料とする加工食品を得るものである。
【0046】
上記した各方法における、風味改良剤を食材と接触させる方法としては、浸漬が代表的であるが、塗布や噴霧、あるいは食材に練り込むことによって接触させてもよい。
【0047】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0048】
95%アルコール15mLと食塩5mgの混合物に対し、ポリフェノールと乳酸エチルの最終濃度が表1に示す値になるように、赤ぶどう由来の抽出物(ポリフェノール原料;商品名:レッドグレープ濃縮果汁R1000、エンプレサス・ルールデス社)と乳酸エチル(東京化成工業株式会社)を添加し、さらに、合計100gとなるように水を添加して風味改良剤を調製した(実験例1-1)。比較例として、ポリフェノールと乳酸エチルのいずれか一方又は両方を含まない剤を作製した(比較例1-1~1-9)。ポリフェノールの定量は、下記手順によるフォーリンチオカルト法にて行った。
【0049】
<ポリフェノール測定手順>
試料約4g(W)を250mL遠心管にはかりとり、50%エタノール約80mLを加え1分間ホモジナイズする。遠心分離(2500回転/分、5分間)後,上澄み液を容量250mL全量フラスコに移す。遠心管の残留物に50%エタノール50mLを加え、5分間超音波抽出する。遠心分離(2500回転/分、5分間)後、上澄み液を250mL全量フラスコに移す。同様の操作を更に2回繰り返す。上澄み液を先の250(V)mL全量フラスコに移して50%エタノールで定容する。適量を分取し、ろ紙にてろ過した液を試料溶液とする。試料溶液は、標準溶液の濃度範囲に収まるように50%エタノールで適宜希釈(D)する。
試験管に試料溶液1mLを正確にはかりとる。次にフォーリンチオカルト・フェノール試薬を5mL及び0.7mol/L炭酸ナトリウム溶液を4mL加え、混合する。混合後1時間静置し、分光光度計で765nmの吸光度を測定する。あらかじめ,検量線作成用没食子酸標準溶液から1mLを正確にはかりとり、上記と同様に測定する。試料溶液自体の着色などの影響を排除するために,フェノール試薬5mLに代えて水5mLを加え、それ以外は試料溶液と同様にサンプルブランクを実施する。試料溶液の吸光度から、サンプルブランクの吸光度を減じ、作成した検量線から試料溶液中のポリフェノール濃度(Aμg/mL)を求める。
【0050】
【表1】
【0051】
鶏ミンチ肉90gと片栗粉4gを10試験区分用意し、それぞれ比較例1-1~1-9の剤、又は実験例1-1の風味改良剤0.94gを混合した上で、100℃、10分間のスチーム調理を行い、鶏肉団子を作製した。各鶏肉団子について、熟練したパネリスト5名により、比較例1-1を対照とした不快臭の官能評価試験を行った。評価方法は、立ち香(鼻を近づけたときに感じる香り)と含み香(口に含んだ後に感じる香り)について、比較例1-1を5点とし、不快臭が弱まるほどに低い点数(不快臭の全く感じられないものが最低の1点)をつけるものとした。
【0052】
その結果を表2に示す。ポリフェノール単独使用の比較例1-2~1-5、乳酸エチル単独使用の比較例1-6~1-9では、いずれも各成分濃度が増加するにしたがって評点が減少する傾向が見られた。一方、両成分を併用した実験例1-1の評点は、上記のいずれの評点よりも低い、立ち香1.5、含み香1.2であり、不快臭が最も強く抑制されていた。
【0053】
【表2】
【0054】
さらに、パネリストから、実験例1-1では、比較例1-2~1-9では感じられなかった、香ばしさを感じさせる好ましい香りが残存していた、とのコメントが得られた。この香りの残存効果は、ポリフェノールと乳酸エチルとを併用することによって得られたものであり、各成分の単独使用では得られないものであった。これにより、ポリフェノールと乳酸エチルとを併用することによって、不快臭が効率よく抑えられ、さらに、香りの残存効果によって良好な風味を持った加工食品が得られることがわかった。
【実施例0055】
実施例1と同様にして、ポリフェノールと乳酸エチルの最終濃度が表2に示す値になるように、赤ぶどう由来の抽出物と乳酸エチルを添加し、さらに、合計100gとなるように水を添加して風味改良剤を調製した(実験例2-1~2-20)。これらの風味改良剤を用い、実施例1と同様にして、鶏肉団子を作製した。各鶏肉団子について、熟練したパネリスト6名により、比較例1-1を対照とした不快臭の官能評価試験を行った。評価方法は、下記A、B、Cの3段階とした。
【0056】
A:対照と比べ不快臭が顕著に抑制されており、対照にはない好ましい風味がBよりも一層強く感じられる。
B:対照と比べ不快臭が抑制されており、対照にはない好ましい風味が感じられる。
C:原料またはその調理に由来する不快臭が感じられる、またはポリフェノール・乳酸エチル由来の異臭や異味が感じられる。
【0057】
結果を表2に示す。すなわち、ポリフェノール濃度が50~400000ppmの範囲で、かつ乳酸エチル濃度が300~250000ppmの範囲にあるときに、ポリフェノールや乳酸エチルの風味で飲食品の官能を損なわれることなく、顕著なマスキング効果が発揮され、かつ対照には見られない好ましい風味が感じられることがわかった。とりわけ、ポリフェノール濃度が1000~50000ppmの範囲で、かつ乳酸エチル濃度が1000~30000ppmの範囲にある場合に、特に顕著な効果が認められた。
【0058】
【表3】
【実施例0059】
表3に示す配合からなる各種の風味改良剤(調味料)を作製した。実験例3-1~3-4では、それぞれポリフェノール原料として、赤ぶどう抽出物、緑茶抽出物、さとうきび抽出液、青みかん抽出物を使用した。各風味改良剤について、ポリフェノール濃度を測定した。表3に、ポリフェノール濃度(ppm)、乳酸エチル濃度(ppm)、及び比Y/Xも併せて示す。
【0060】
【表4】
【0061】
実験例3-1~3-4の風味改良剤を使用して、実施例1と同様にして(ただし、実験例3-4のみ風味改良剤の添加量を2.82gとした)鶏肉団子を作製し、官能を比較した。その結果、実験例3-1~3-4の風味改良剤を用いた鶏肉団子では、比較例3-1の剤を用いた鶏肉団子と比較して、鶏肉の不快臭が有意に抑制され、かつ肉の加熱時特有の香ばしい香りが感じられることが確認された。
【実施例0062】
実施例3で作製した風味改良剤(実験例3-1~3-4)を使用して、卵加工品の調理試験を行った。溶き卵を20メッシュでろ過した後、溶き卵50gに対し、比較例3-1の剤又は実験例3-1~3-3の風味改良剤0.5g、又は実験例3-4の風味改良剤1.5gを添加した。湯浴中で85℃、15分の条件で加熱し、卵加工品を得た。得られた卵加工品の官能を比較した。その結果、実験例3-1~3-4の風味改良剤を用いた卵加工品では、比較例3-1の剤を用いた卵加工品と比較して、硫化水素等の硫黄系化合物の不快臭が消えており、かつ卵特有の甘い風味が感じられることが確認された。
【実施例0063】
実施例3で作製した風味改良剤(実験例3-1~3-4)を使用して、蒸し魚の調理試験を行った。比較例3-1の剤及び実験例3-1~3-3の風味改良剤を水で100分の1に、実験例3-4の風味改良剤を33分の1に、それぞれ希釈した。各希釈液150gの中にサバの切り身100gを30分間浸漬した。これを180℃で10分間スチーム加熱し、蒸し魚を得た。得られた蒸し魚の官能を比較した。その結果、実験例3-1~3-4の風味改良剤を用いた蒸し魚では、比較例3-1の剤を用いた蒸し魚と比較して、生臭い不快臭が消えており、かつ肉質的な好ましい風味が感じられることが確認された。
【実施例0064】
実施例3で作製した風味改良剤(実験例3-1~3-4)を使用して、植物性蛋白質を使用した肉団子の調理試験を行った。実施例1の鶏ミンチ肉80gのうち16gを、3倍量の水で水戻しした粒状植物タンパク質(ニューフジニック59(不二製油株式会社))に置換した上で、同様の方法で(ただし、実験例3-4のみ風味改良剤の添加量を2.4gとした)植物性タンパク質入り鶏肉団子を作製した。得られた植物性タンパク質入り鶏肉団子について、官能を比較した。その結果、実験例3-1~3-4の風味改良剤を用いた植物性タンパク質入り鶏肉団子では、比較例3-1の剤を用いた植物性タンパク質入り鶏肉団子と比較して、大豆特有の不快臭(豆臭)が消えており、かつ肉の加熱時特有の香ばしい風味が感じられることが確認された。