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特開2024-79308タイヤトレッド用ゴム組成物及びタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079308
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20240604BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240604BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20240604BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20240604BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20240604BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08L9/06
C08L15/00
C08K5/548
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192176
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 由真
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131BA01
3D131BA07
3D131BA08
3D131BB01
3D131BB11
3D131BC12
3D131BC18
3D131BC19
4J002AC03W
4J002AC051
4J002AC05W
4J002AC08X
4J002AC11W
4J002AE05Y
4J002BK00Y
4J002CE00Y
4J002DJ016
4J002EX087
4J002FD016
4J002FD207
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】低温性能とウェットグリップ性能を両立しながら破壊強度を改善する。
【解決手段】実施形態に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム成分100質量部、シリカ60~200質量部、及び、β-ピネン単位含有率が40質量%以上であるテルペン系樹脂20~60質量部、を含み、更にチオエステル基含有シランカップリング剤をシリカ100質量部に対して5~20質量部含む。ジエン系ゴム成分は、ブタジエンゴムとガラス転移温度が-50℃以下のスチレンブタジエンゴムを含み、ブタジエンゴムの含有量が20質量部以上であり、ジエン系ゴム成分のガラス転移温度の平均が-60℃以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタジエンゴムとガラス転移温度が-50℃以下のスチレンブタジエンゴムを含み、前記ブタジエンゴムの含有量が20質量部以上であり、ガラス転移温度の平均が-60℃以下であるジエン系ゴム成分100質量部、
シリカ60~200質量部、及び、
β-ピネン単位含有率が40質量%以上であるテルペン系樹脂20~60質量部、
を含み、
更にチオエステル基含有シランカップリング剤を前記シリカ100質量部に対して5~20質量部含む、
タイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ブタジエンゴムが変性ブタジエンゴムを含む、請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム成分100質量部が前記ブタジエンゴムを40質量部以上含む、請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いて作製されたトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤに要求される性能として、濡れた路面でのグリップ性能(即ち、ウェットグリップ性能)がある。ウェットグリップ性能を向上するため、充填剤としてのシリカを配合するとともに、樹脂を配合することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、スチレンブタジエンゴム5~100質量部とブタジエンゴム0~80質量部を含むゴム成分100質量部と、α-ピネン単位含有率が65~100質量%のテルペン系樹脂0.1~100質量部と、シリカ0~500質量部と、を含むタイヤ用ゴム組成物が開示されている。特許文献1によれば、これにより、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性がバランス良く改善されると記載されている。
【0004】
特許文献2には、特定のブタジエンゴム5~40部とガラス転移温度が-50~-75℃のスチレンブタジエンゴム20~55部を含むゴム成分100質量部と、シリカ80~140部と、特定の炭化水素樹脂30~50部と、オイル10~30部と、を含むタイヤトレッド用ゴム組成物が開示されている。特許文献2によれば、これにより、転がり抵抗、雪もしくは氷牽引摩擦、湿潤牽引摩擦、又は乾燥操縦性のうちの1つ又は複数が改善されると記載されている。
【0005】
特許文献3には、特定のブタジエンゴムとテルペン系樹脂を配合し、更にシリカを配合したトレッド用ゴム組成物が開示されている。特許文献3によれば、これにより、低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能が改善されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-206652号公報
【特許文献2】特表2021-523260号公報
【特許文献3】特開2018-083932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば冬用タイヤ(ウインタータイヤ)やオールシーズンタイヤのような冬の雪道も走行可能なタイヤでは、ウェットグリップ性能とともに、低温性能が求められる。低温性能は、例えば0℃未満の低温環境で柔らかさを維持して雪道の走行を可能にする性能である。低温性能を付与するためにガラス転移温度の低いブタジエンゴムを配合すると、ゴム組成物全体のガラス転移温度が低くなってウェットグリップ性能が悪化する傾向がある。一方、ブタジエンゴム配合のゴム組成物において、ウェットグリップ性能を改善するために樹脂を添加すると、ガラス転移温度が高くなって低温性能が悪化する傾向がある。このように低温性能とウェットグリップ性能は二律背反であり、両立することは困難である。
【0008】
一方、これらの雪道を走行可能なタイヤでは、一般にトレッドのブロックサイズが小さいため、破壊強度の維持が課題となる。ブタジエンゴム配合のゴム組成物においてシリカを多量に配合すると、シリカの分散制御が難しく、破壊強度を維持することが困難である。
【0009】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、低温性能とウェットグリップ性能を両立しながら破壊強度を改善することができるタイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] ブタジエンゴムとガラス転移温度が-50℃以下のスチレンブタジエンゴムを含み、前記ブタジエンゴムの含有量が20質量部以上であり、ガラス転移温度の平均が-60℃以下であるジエン系ゴム成分100質量部、シリカ60~200質量部、及び、β-ピネン単位含有率が40質量%以上であるテルペン系樹脂20~60質量部、を含み、更にチオエステル基含有シランカップリング剤を前記シリカ100質量部に対して5~20質量部含む、タイヤトレッド用ゴム組成物。
[2] 前記ブタジエンゴムが変性ブタジエンゴムを含む、[1]に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[3] 前記ジエン系ゴム成分100質量部が前記ブタジエンゴムを40質量部以上含む、[1]又は[2]に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[4] [1]~[3]のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いて作製されたトレッドを有するタイヤ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、低温性能とウェットグリップ性能を両立することができ、また破壊強度を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係るタイヤトレッド用ゴム組成物(以下、ゴム組成物ともいう。)は、
(A)ブタジエンゴムとガラス転移温度が-50℃以下のスチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム成分と、(B)シリカと、(C)β-ピネン単位含有率が40質量%以上であるテルペン系樹脂と、(D)チオエステル基含有シランカップリング剤と、を含む。
【0013】
ブタジエンゴムは一般にガラス転移温度が低い。このようなガラス転移温度の低いブタジエンゴムをガラス転移温度の低いスチレンブタジエンゴムとともに用いて、ジエン系ゴム成分のガラス転移温度を低く設定することで、低温性能を向上することができる。また、β-ピネン単位含有率が40質量%以上であるテルペン系樹脂を配合することにより、ブタジエンゴムによる良好な低温性能を維持しながら、テルペン系樹脂によるウェットグリップ性能の改善効果を発揮することができる。更に、シランカップリング剤としてチオエステル基含有シランカップリング剤を用いることにより、シリカの分散性を向上することができ、破壊強度を改善することができる。そのため、低温性能とウェットグリップ性能を両立しながら、破壊強度を改善できると考えられる。
【0014】
[(A)ジエン系ゴム成分]
本実施形態において、ジエン系ゴム成分は、ブタジエンゴム(BR)と、ガラス転移温度が-50℃以下のスチレンブタジエンゴム(SBR)を含む。これにより、ジエン系ゴム成分のガラス転移温度を下げて、低温性能を向上することができる。
【0015】
ブタジエンゴムは、1,3-ブタジエンのポリマーであり、ポリブタジエンとも称される。ブタジエンゴムとしては、一般にタイヤ用ゴム組成物に用いられる各種ブタジエンゴムを用いることができる。ブタジエンゴムは、末端及び/又は主鎖が変性された変性ブタジエンゴムでもよく、変性されていない非変性ブタジエンゴムでもよい。
【0016】
ブタジエンゴムとしては、ガラス転移温度(Tg)が-85℃以下のものを用いることが好ましい。ブタジエンゴムのTgは-90℃~-110℃であることが好ましく、-95℃~-110℃でもよい。
【0017】
本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121:2012に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて(測定温度範囲:-150℃~50℃)測定される値である。
【0018】
一実施形態において、ブタジエンゴムは、シス-1,4結合含有量が90質量%以上のハイシスブタジエンゴム(ハイシスBR)を含んでもよい。ハイシスBRのシス-1,4結合含有量は96質量%以上がより好ましい。ハイシスBRは、非変性であることが好ましい。
【0019】
ハイシスBRとして、ネオジウム(Nd)系触媒を用いて重合したブタジエンゴム(Nd-BR)を用いてもよい。ネオジウム系触媒としては、ネオジウム単体、ネオジウムと他の金属類との化合物、又はネオジウムを含む有機化合物のいずれでもよく、具体例としては、NdCl、Et-NdCl等が挙げられる。ネオジウム系触媒を用いて重合したブタジエンゴムは、高シス含量でかつ低ビニル含量のミクロ構造を有する。例えば、Nd-BRのミクロ構造は、シス-1,4結合含有量が96質量%以上かつビニル基(1,2-ビニル結合)含有量が1.0質量%以下であることが好ましい。
【0020】
本明細書において、シス-1,4結合含有量及びビニル基含有量は、H-NMRスペクトルの積分比により算出される値である。
【0021】
一実施形態において、ブタジエンゴムは、末端及び/又は主鎖が変性された変性ブタジエンゴム(BR)を含んでもよい。変性ブタジエンゴムを用いることにより、シリカの分散性を向上することができ、破壊強度の改善効果を高めることができる。変性ブタジエンゴムを用いる場合、ブタジエンゴムは、その全てが変性ブタジエンゴムでもよく、変性ブタジエンゴムと非変性ブタジエンゴムを併用してもよい。その場合、ブタジエンゴムの50質量%以上が変性ブタジエンゴムであることが好ましく、より好ましくは70質量%以上が変性ブタジエンゴムである。
【0022】
変性ブタジエンゴムとしては、末端及び/又は主鎖に官能基が導入されることで、当該官能基により変性されたブタジエンゴムが用いられる。官能基としては、シリカ表面のシラノール基と相互作用(反応性ないし親和性)のあるものが挙げられ、ヘテロ原子を含むものが挙げられる。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子からなる群から選択された少なくとも1種が好ましい。官能基の具体例としては、ポリオルガノシロキサン基、アルコキシシリル基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アルコキシ基、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、及びアミド基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。変性ブタジエンゴムとしては、その分子末端の両方又は片方に上記官能基を持つ末端変性ブタジエンゴムを用いることが好ましい。
【0023】
本実施形態において、ジエン系ゴム成分100質量部は、ブタジエンゴムを20質量部以上含む。すなわち、ジエン系ゴム成分の20質量%以上はブタジエンゴムである。ブタジエンゴムの比率を高くすることにより、ジエン系ゴム成分とテルペン系樹脂とを相分離状態にして、低温性能とウェットグリップ性能との両立効果を高めることができる。かかる観点より、ジエン系ゴム成分100質量部は、ブタジエンゴムを40質量部以上含むことが好ましく、より好ましくは60質量部以上含むことであり、更に好ましくは65質量部以上含むことである。ジエン系ゴム成分100質量部において、ブタジエンゴムは40~90質量部でもよく、60~90質量部でもよく、65~85質量部でもよい。
【0024】
ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下のスチレンブタジエンゴム(以下、低TgSBRともいう。)としては、溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)でもよく、乳化重合スチレンブタジエンゴム(ESBR)でもよく、両者を併用してもよい。低TgSBRは、末端及び/又は主鎖が変性された変性スチレンブタジエンゴム(変性SBR)でもよく、変性されていない非変性スチレンブタジエンゴムでもよく、両者を併用してもよい。また、Tgが-50℃以下のSBRを2種以上併用してもよい。低TgSBRは、好ましくは変性SBRを含むことであり、低TgSBRの50質量%以上、より好ましくは60質量%以上が変性SBRである。
【0025】
変性SBR(好ましくは変性SSBR)としては、末端及び/又は主鎖に官能基が導入されることで、当該官能基により変性されたSBRが用いられる。変性SBRの官能基としては、変性ブタジエンゴムと同様、シリカ表面のシラノール基と相互作用(反応性ないし親和性)のあるものが挙げられ、その具体例は上述したとおりである。
【0026】
低TgSBRのガラス転移温度(Tg)は、-55℃以下であることが好ましく、-80℃~-50℃でもよく、-70℃~-55℃でもよい。
【0027】
低TgSBRの含有量は、特に限定されず、ジエン系ゴム成分100質量部中、10~80質量部でもよく、15~60質量部でもよく、20~40質量部でもよい。
【0028】
本実施形態において、ジエン系ゴム成分は、上記のブタジエンゴム及び低TgSBRのみで構成されてもよく、その他のジエン系ゴムを含んでもよい。ジエン系ゴムとは、共役二重結合を持つジエンモノマーに対応する繰り返し単位を持つゴムをいう。他のジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、Tgが-50℃超のスチレンブタジエンゴム(以下、高TgSBRともいう。)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等、ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらの他のジエン系ゴムには、必要に応じて末端や主鎖を変性したものや、所望の特性を付与するべく改質したもの(例えば、改質NR)も、その概念に包含される。
【0029】
一実施形態において、ジエン系ゴム成分100質量部は、ブタジエンゴム20~90質量部と低TgSBR10~80質量部を含んでもよく、ブタジエンゴム40~90質量部と低TgSBR10~60質量部を含んでもよく、ブタジエンゴム60~85質量部と低TgSBR15~40質量部を含んでもよい。
【0030】
他の実施形態において、ジエン系ゴム成分100質量部は、ブタジエンゴム20~85質量部と、低TgSBR10~70質量部と、天然ゴム、合成イソプレンゴム及び高TgSBRからなる群から選択される少なくとも1種5~40質量部を含んでもよく、ブタジエンゴム40~70質量部と、低TgSBR20~50質量部と、天然ゴム、合成イソプレンゴム及び高TgSBRからなる群から選択される少なくとも1種10~30質量部を含んでもよい。
【0031】
本実施形態において、ジエン系ゴム成分は、ガラス転移温度の平均(以下、平均Tgという。)が-60℃以下である。ジエン系ゴム成分の平均Tgが-60℃以下であることにより、低温性能を向上することができる。ジエン系ゴム成分の平均Tgは、より好ましくは-65℃以下であり、更に好ましくは-70℃以下であり、-80℃以下でもよい。平均Tgの下限は特に限定されないが、例えば-90℃以上でもよい。
【0032】
ジエン系ゴム成分の平均Tgは、当該ジエン系ゴム成分を構成する各ゴムのガラス転移温度と、各ゴムのジエン系ゴム成分中の質量比を用いて、当該質量比に基づきガラス転移温度を加重平均することにより算出される平均値である。詳細には、平均Tgは、
Tg=Σ{(各ゴムのガラス転移温度)×(各ゴムの質量比)}
により算出される。ここで、各ゴムの質量比=(ジエン系ゴム成分100質量部に対する各ゴムの質量部)/100である。
【0033】
[(B)シリカ]
本実施形態に係るゴム組成物には、充填剤としてシリカが配合される。シリカとしては、例えば湿式シリカ、乾式シリカが挙げられる。好ましくは、湿式沈降法シリカ、湿式ゲル化法シリカなどの湿式シリカを用いることが好ましい。
【0034】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、特に限定されず、例えば100~300m/gでもよく、150~250m/gでもよく、160~220m/gでもよい。シリカの窒素吸着比表面積は、JIS K6430:2008に記載のBET法に準じて測定されるBET比表面積である。
【0035】
シリカの含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して60~200質量部である。シリカの含有量が60質量部以上であることにより、ウェットグリップ性能を向上することができる。シリカの含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、80~180質量部であることが好ましく、より好ましくは90~160質量部であり、110~160質量部でもよい。
【0036】
ゴム組成物に配合する充填剤としては、シリカ単独でもよいが、シリカとともにカーボンブラックを配合してもよい。充填剤は、シリカを80質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは90質量%以上含むことである。カーボンブラックの含有量は、特に限定されず、ゴム成分100質量部に対して15質量部以下でもよく、1~10質量部でもよい。
【0037】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。具体的には、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)が挙げられる。これら各グレードのカーボンブラックは、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0038】
[(C)テルペン系樹脂]
本実施形態に係るゴム組成物には、β-ピネン単位含有率が40質量%以上であるテルペン系樹脂が配合される。β-ピネン単位含有率が40質量%以上であるテルペン系樹脂は、ブタジエンゴムとの相溶性が低い。そのため、当該テルペン系樹脂をブタジエンゴムの比率を高めたジエン系ゴム成分に添加することにより、ジエン系ゴム成分とテルペン系樹脂とを相分離状態にすることができる。これにより、ブタジエンゴムによる良好な低温性能を維持しながら、テルペン系樹脂によるウェットグリップ性能の改善効果を発揮することができる。
【0039】
テルペン系樹脂は、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物を重合してなる樹脂であり、テルペン化合物に由来する単位を有する。テルペン系樹脂としては、テルペン化合物のみを重合して得られるポリテルペン樹脂の他、テルペン化合物とテルペン以外のモノマーを重合して得られる変性テルペン樹脂が例示される。変性テルペン樹脂としては、例えばテルペン化合物と芳香族化合物を重合して得られる芳香族変性テルペン樹脂が挙げられる。テルペン系樹脂としては、β-ピネン単位含有率が40質量%以上であるポリテルペン樹脂が好ましく、より好ましくはβ-ピネン単位含有率が40質量%以上であるピネン樹脂である。
【0040】
β-ピネン単位含有率とは、テルペン系樹脂100質量%中のβ-ピネン単位の含有率である。β-ピネン単位とは、β-ピネンに由来する単位である。テルペン系樹脂において、β-ピネン単位含有率は、ブタジエンゴムとの相溶性を低くして、低温性能とウェットグリップ性能の両立効果を高める観点から、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0041】
テルペン系樹脂のα-ピネン単位含有率は60質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下であり、0質量%でもよい。α-ピネン単位含有率とは、テルペン系樹脂100質量%中のα-ピネン単位の含有率である。α-ピネン単位とは、α-ピネンに由来する単位である。
【0042】
テルペン系樹脂の軟化点は、特に限定されず、例えば100℃~150℃でもよく、110℃~130℃でもよい。ここで、軟化点は、ASTM D6090(刊行日1997年)に準拠して測定される。
【0043】
テルペン系樹脂の合成方法は特に限定されない。例えば、テルペン系樹脂は、ルイス酸触媒を用いて、β-ピネンを含むモノマーをカチオン重合することにより合成することができる。ルイス酸触媒の具体例としては、特に限定されず、金属ハライド(例えば、BF、BBr、AlF、AlBr、TiCl、TiBr、FeCl、FeCl、SnCl、WCl、MoCl、ZrCl、SbCl、SbCl、TeCl及びZnCl)、金属アルキル化合物(例えば、EtAl、EtAlCl、EtAlCl、EtAlCl、(iBu)Al、(iBu)AlCl、(iBu)AlCl、MeSn、EtSn、BuSn及びBuSnCl)、並びに金属アルコキシ化合物(例えば、Al(OR)3-xCl及びTi(OR)4-yCl(式中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、xは1又は2の整数を表し、yは1~3の整数を表す))が挙げられる。ここで、Etはエチル基、iBuはイソブチル基、Meはメチル基、Buはブチル基をそれぞれ表す。
【0044】
テルペン系樹脂の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して20~60質量部である。テルペン系樹脂の含有量が20質量部以上であることにより、ウェットグリップ性能を向上することができる。テルペン系樹脂の含有量が60質量部以下であることにより、低温性能の悪化を抑えることができる。ジエン系ゴム成分100質量部に対するテルペン系樹脂の含有量は、25質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、60質量部未満であることが好ましく、より好ましくは50質量部以下であり、更に好ましくは45質量部以下であり、40質量部以下でもよい。
【0045】
[(D)チオエステル基含有シランカップリング剤]
本実施形態に係るゴム組成物には、チオエステル基含有シランカップリング剤が配合される。これにより、シリカの分散性を向上させて、破壊強度を高めることができる。
【0046】
チオエステル基含有シランカップリング剤としては、下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
(R(RSi-R-S-CO-R (1)
式(1)中、Rは炭素数1~3のアルコキシ基を表し、Rは炭素数1~20のアルキル基を表し、Rは炭素数1~5のアルカンジイル基を表し、Rは炭素数1~18のアルキル基を表し、m=1~3であり、m+n=3である。
【0047】
式(1)中のRは、好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。Rは、好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。R及びRは、それぞれ1分子中に複数有する場合、それらは同一でも異なってもよい。m,nは、好ましくはm=3,n=0である。Rは、好ましくは炭素数2~4のアルカンジイル基である。Rは、好ましくは炭素数3~15のアルキル基であり、より好ましくは炭素数6~12のアルキル基である。
【0048】
チオエステル基含有シランカップリング剤の具体例としては、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシラン、3-ヘキサノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-デカノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-ラウロイルチオプロピルトリエトキシシラン、2-ヘキサノイルチオエチルトリエトキシシラン、2-オクタノイルチオエチルトリエトキシシラン、2-デカノイルチオエチルトリエトキシシラン、2-ラウロイルチオエチルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3-デカノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3-ラウロイルチオプロピルトリメトキシシラン、2-ヘキサノイルチオエチルトリメトキシシラン、2-オクタノイルチオエチルトリメトキシシラン、2-デカノイルチオエチルトリメトキシシラン、2-ラウロイルチオエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらはいずれか1種又2種以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
チオエステル基含有シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して5~20質量部であり、好ましくは5~15質量部である。
【0050】
[その他の成分]
本実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、チオエステル基含有シランカップリング剤以外のシランカップリング剤、オイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤が配合されてもよい。
【0051】
オイルの含有量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム成分100質量部に対して0~40質量部でもよく、5~35量部でもよく、10~30質量部でもよく、15~25質量部でもよい。
【0052】
酸化亜鉛の含有量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム成分100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0053】
ステアリン酸の含有量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム成分100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0054】
老化防止剤としては、例えば、アミン-ケトン系、芳香族第二級アミン系、モノフェノール系、ビスフェノール系、ベンズイミダゾール系などの各種老化防止剤が挙げられ、いずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の含有量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム成分100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0055】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の含有量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~3質量部でもよい。
【0056】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、及びチアゾール系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の含有量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、1~3質量部でもよい。
【0057】
[ゴム組成物の調製方法]
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ジエン系ゴム成分に対し、シリカ、シランカップリング剤、及びテルペン系樹脂とともに、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤が添加混合される。次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤が添加混合される。これにより、未加硫のゴム組成物を調製することができる。
【0058】
[ゴム組成物の用途]
本実施形態に係るゴム組成物は、タイヤトレッド用ゴム組成物として用いることができる。タイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど各種用途及び各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。
【0059】
上記のように、本実施形態に係るゴム組成物は、低温性能とウェットグリップ性能とを両立することができ、また破壊強度に優れるので、冬用タイヤやオールシーズンタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに好ましく用いられる。冬用タイヤは、雪道の走行に対応したタイヤであり、スタッドレスタイヤ及びスノータイヤを包含する。オールシーズンタイヤは、夏の路面から冬の雪道まで一年を通して使用可能なタイヤであり、全天候タイヤとも称される。これらのタイヤは、夏用タイヤと比べ、トレッドのブロックサイズが小さく、あるいはまたトレッドにサイプが多く、低温においてもゴムブロックが柔軟なタイヤである。
【0060】
一実施形態に係るタイヤは、上記ゴム組成物を用いて作製されたトレッドを有するタイヤである。すなわち、一実施形態に係るタイヤは、上記ゴム組成物からなるトレッドゴムを備えたものである。
【0061】
タイヤのトレッドゴムには、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがある。単層構造のものでは、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物で形成されてもよい。2層構造のものでは、路面に接地する外側のキャップゴムが上記ゴム組成物で形成されてもよく、キャップゴムの内側に配されるベースゴムが上記ゴム組成物で形成されてもよく、キャップゴムとベースゴムの双方が上記ゴム組成物で形成されてもよい。
【0062】
タイヤの製造方法は、特に限定されない。例えば、上記ゴム組成物は、常法に従い、押出加工によって所定の形状に成形されて、未加硫のドレッドゴム部材が得られる。該トレッドゴム部材を他のタイヤ部材と組み合わせることにより、未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)が作製される。その後、例えば140℃~180℃で加硫成形することにより、タイヤを製造することができる。
【実施例0063】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
・BR1:Nd-BR、Tg=-102℃、シス-1,4結合含有量=97質量%、ビニル基含有量=0.9質量%、JSR(株)製「BR730」
・BR2:末端にポリオルガノシロキサン基を有する末端変性ブタジエンゴム、Tg=-92℃、日本ゼオン(株)製「Nipol BR1261」
・SBR1:変性SSBR、Tg=-60℃、スチレン量10質量%、ブタジエン部のミクロ構造;ビニル含有量42%、JSR(株)製「HPR840」
・SBR2:非変性SSBR、Tg=-68℃、ゴム分100質量部に対して37.5質量部の油展品、旭化成(株)製「タフデン1834」
・SBR3:変性SSBR、Tg=-24℃、スチレン量20.5質量%、ブタジエン部のミクロ構造;ビニル含有量55.5%、JSR(株)製「HPR350」
・NR:RSS#3、Tg=-60℃
【0065】
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・シリカ:エボニックインダストリーズ社製「Ultrasil VN3」(NSA=180m/g)
・シランカップリング剤1:3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン(上記式(1)中、Rはエトキシ基、Rはトリメチレン基、Rはオクチル基、m=3,n=0)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「NXT」
・シランカップリング剤2:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックインダストリーズ社製「Si69」
【0066】
・オイル:ENEOS(株)製「プロセスNC140」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛2種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・老化防止剤:住友化学(株)製「アンチゲン6C」
【0067】
・テルペン系樹脂1:β-ピネン単位含有率=100質量%、軟化点=115℃、DRT社製「DERCOLYTE S 115」
・テルペン系樹脂2:β-ピネン単位含有率=98質量%以上、軟化点=115℃、KRATON社製「Sylvatraxx4150」
・テルペン系樹脂3:αーピネン単位含有率=100質量%、軟化点=115℃、DRT社製「DERCOLYTE A 115」
・炭化水素樹脂:スチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合系樹脂、軟化点=110℃、三井化学(株)製「FTR6110」
【0068】
・硫黄:鶴見化学工業(株)「粉末硫黄」
・加硫促進剤CBS:スルフェンアミド系、大内新興化学工業株式会社製「ノクセラーCZ-G(CZ)」
・加硫促進剤DPG:グアニジン系、大内新興化学工業株式会社製「ノクセラーD」
【0069】
実施例及び比較例における評価方法は以下のとおりである。
(1)ウェットグリップ性能
試作タイヤ4本を2000ccの4WD車に装着し、2~3mmの水深で水をまいた路面上を走行した。90km/h走行からABS作動させて20km/hまで減速時の制動距離を測定した(n=10の平均値)。制動距離の逆数について、表1では比較例1の値、表2では比較例11の値、表3では比較例21の値を、それぞれ100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0070】
(2)低温性能
JIS K6253:2012に準拠して、デュロメーターのタイプAにより温度-5℃での硬度を測定した。硬度の逆数について、表1では比較例1の値、表2では比較例11の値、表3では比較例21の値を、それぞれ100とした指数で示した。指数が大きいほど、低温環境(-5℃)で柔らかく低温性能に優れることを示す。
【0071】
(3)破壊強度
JIS K6251:2017に準じて、引張試験(ダンベル状3号形)を実施して引張強さ(N/mm)と切断時伸び(破断伸び)(%)を測定し、引張強さと切断時伸びの積(抗張積)を求めた。表1では比較例1、表2では比較例11、表3では比較例21の値をそれぞれ100とした指数で示した。指数が大きいほど、破壊強度が高いことを示す。
【0072】
[第1実験例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。なお、表1中のSBR2の量について、括弧内はゴム分としての量であり、残部はオイル量である。また、表中の「ゴム成分平均Tg」は、ジエン系ゴム成分の平均Tgである(表2,3において同じ)。
【0073】
得られた未加硫のゴム組成物を170℃×15分間で加硫して試験片を作製し、低温性能及び破壊強度を評価した。また、未加硫のゴム組成物をトレッドゴムに用いて、常法に従い加硫成型することにより空気入りラジアルタイヤ(冬用タイヤ、タイヤサイズ:205/55R16)を作製した。得られた試作タイヤについて、ウェットグリップ性能を評価した。
【0074】
【表1】
【0075】
結果は表1に示すとおりである。第1実験例は、ジエン系ゴム成分の20質量%がブタジエンゴムの例である。比較例1~3ではシランカップリング剤としてスルフィドシランカップリング剤を用いている。このうち、比較例2ではテルペン系樹脂を配合しておらず、また比較例3では樹脂としてα-ピネン単位含有率が高いテルペン系樹脂を配合した。これら比較例2,3では、ウェットグリップ性能が低く、低温性能とウェットグリップ性能の両立が困難であった。一方、比較例1では、樹脂としてα-ピネン単位含有率が高いテルペン系樹脂を配合したことにより、比較例2,3に対して、ウェットグリップ性能が顕著に改善されており、低温性能とウェットグリップ性能の両立効果がみられた。しかしながら、比較例1では、比較例3に対して破壊強度は改善しなかった。これに対し、シランカップリング剤としてチオエステル基含有シランカップリング剤を用いた実施例1~7であると、比較例1に対して、ウェットグリップ性能及び低温性能を損なうことなく、むしろこれらの両立効果を向上しながら、破壊強度が顕著に改善された。また、ブタジエンゴムとして変性ブタジエンゴムを用いた実施例5~7であると、非変性ブタジエンゴムを用いた実施例1~4に対して、破壊強度が更に改善傾向であった。
【0076】
[第2実験例]
下記表2に示す配合(質量部)に従い、その他は第1実験例と同様にしてゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物について、第1実験例と同様にして、ウェットグリップ性能、低温性能及び破壊強度を評価した。結果は表2に示すとおりである。
【0077】
【表2】
【0078】
第2実験例は、ジエン系ゴム成分の40質量%がブタジエンゴムの例である。比較例11では、樹脂としてα-ピネン単位含有率が高いテルペン系樹脂を配合しており、この場合、樹脂とブタジエンゴムとの相溶性が高く、低温性能とウェットグリップ性能の両立が困難であった。これに対し、実施例11~14であると、樹脂としてβ-ピネン単位含有率の高いテルペン系樹脂を配合したため、ゴム成分と樹脂が相分離状態となり、比較例11に対して、低温性能の悪化を抑えながら、ウェットグリップ性能が改善されており、破壊強度についても改善されていた。
【0079】
比較例12では、テルペン系樹脂の配合量が少なく、比較例11に対して、ウェットグリップ性能の改善効果が不十分であり、破壊強度も劣っていた。比較例13では、テルペン系樹脂の配合量が多すぎて、比較例11に対して低温性能が悪化した。比較例14では、低TgSBRを配合せずにTgの高いSBRを配合しており、ジエン系ゴム成分の平均Tgが高かった。そのため、ウェットグリップ性能には優れるものの、低温性能の悪化が大きかった。
【0080】
[第3実験例]
下記表3に示す配合(質量部)に従い、その他は第1実験例と同様にしてゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物について、第1実験例と同様にして、ウェットグリップ性能、低温性能及び破壊強度を評価した。結果は表3に示すとおりである。
【0081】
【表3】
【0082】
第3実験例は、ジエン系ゴム成分の75質量%がブタジエンゴムの例である。比較例21では、樹脂として芳香族炭化水素樹脂を配合しており、この場合、樹脂とブタジエンゴムとの相溶性が高く、低温性能とウェットグリップ性能の両立が困難であった。これに対し、β-ピネン単位含有率の高いテルペン系樹脂を配合した実施例21~24であると、比較例21に対して、低温性能の悪化を抑えながら、ウェットグリップ性能が改善されており、破壊強度についても改善されていた。比較例24では、ジエン系ゴム成分の平均Tgは-60℃以下であったが、Tgが-50℃以下の低TgSBRを配合しなかったため、比較例21に対して低温性能に劣り、破壊強度の改善効果もみられなかった。
【0083】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0084】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。