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特開2024-79311太陽電池用反射防止膜及び反射防止膜を備えた太陽電池の設計方法、製造方法、及び設計プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079311
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】太陽電池用反射防止膜及び反射防止膜を備えた太陽電池の設計方法、製造方法、及び設計プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0216 20140101AFI20240604BHJP
【FI】
H01L31/04 240
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192179
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100196209
【弁理士】
【氏名又は名称】松崎 義邦
(74)【代理人】
【識別番号】100196829
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 言一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 繁
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151AA01
5F151AA11
5F151AA20
5F151HA01
5F151HA03
5F151HA06
5F151JA03
5F251AA01
5F251AA11
5F251AA20
5F251HA01
5F251HA03
5F251HA06
5F251JA03
(57)【要約】
【課題】屋内使用時の反射防止性能を向上できる太陽電池用反射防止膜の設計方法を提供する。
【解決手段】(A)反射防止膜を有する太陽電池の、前記反射防止膜の表面に対する等方的拡散光の入射角θに対するエネルギー密度分布g(θ)を式(1):
【数1】
(式中、θは前記太陽電池の表面に対する等方的拡散光の入射角であり、g(θ)は光エネルギー密度である)に基づいて計算すること、及び前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定することを含む、太陽電池用反射防止膜の設計方法。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)反射防止膜を有する太陽電池の、前記反射防止膜の表面に対する等方的拡散光の入射角θに対するエネルギー密度分布g(θ)を式(1):
【数1】
(式中、θは前記太陽電池の表面に対する前記等方的拡散光の入射角であり、g(θ)は光エネルギー密度である)
に基づいて計算すること、及び
前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定すること
を含む、太陽電池用反射防止膜の設計方法。
【請求項2】
前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定することが、
(B)前記反射防止膜の第nの構成を決定すること、
(C)前記反射防止膜の第nの構成に基づいて、前記入射角θに対する前記太陽電池の発電量JSC(θ)、または前記入射角θ及び波長λに対する前記反射防止膜を有する太陽電池全体の反射率R(λ,θ)を算出すること、
(D)前記算出したエネルギー密度分布g(θ)と、前記算出したJSC(θ)または前記算出したR(λ,θ)との関係とを用いて、前記太陽電池の発電量の平均値JSC、aveまたは前記太陽電池の反射率の平均値Raveを算出すること、及び
(E)最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveが最大化または前記Raveが最小化する前記反射防止膜の第n+1の構成を決定すること
を含み、
前記nは1から始まる自然数であり、
前記最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveまたは前記Raveの変化が所定の範囲内に収束するまで前記(C)~(E)を繰り返して、前記反射防止膜の最終構成を決定することを含む、
請求項1に記載の設計方法。
【請求項3】
前記nが1の場合の前記反射防止膜の第1の構成を決定することが、ランダムな初期値を用いて行われる、請求項2に記載の設計方法。
【請求項4】
前記太陽電池の発電効率を最大化することが、式(2):
【数2】
(式中、θmin及びθmaxは入射角の積分範囲の下限及び上限であり、H(θ)は、前記入射角θにおいて太陽電池が発生する短絡電流密度JSC(θ)の関数、または前記入射角θ及び波長λにおける反射率R(λ,θ)の関数である)
で表される前記評価関数Iを最大化することである、請求項1に記載の設計方法。
【請求項5】
前記H(θ)が式(3):
【数3】
(式中、JSC(θ)は入射角θにおいて太陽電池が発生する短絡電流密度JSCである)
で表され、
前記評価関数Iは式(4):
【数4】
で表される等方的拡散光によるJSCの平均値であるJSC、aveに一致し、
前記評価関数Iを最大化することは、前記JSC、aveを最大化することである、請求項4に記載の設計方法。
【請求項6】
前記H(θ)が式(5):
【数5】
(式中、R(λ,θ)は波長λ及び入射角θにおける反射率Rの値であり、F(λ)は設計に用いる光源(例えば、太陽光、LED、蛍光灯等)の波長λにおけるエネルギー密度で表され、前記λmin及びλmaxは積分を行う波長域の下限及び上限である)
で表され、
前記評価関数Iが式(6):
【数6】
で表される前記等方的拡散光の条件での反射率の平均値であるRaveをマイナスにした値(-Rave)に一致し、
前記評価関数Iを最大化することは、前記-Raveを最小化することである、請求項4に記載の設計方法。
【請求項7】
前記反射防止膜の第nの構成が、前記反射防止膜の層数、各層の膜厚、屈折率、またはそれらの組合せである、請求項2に記載の設計方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の設計方法を含む太陽電池用反射防止膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の設計方法を含む反射防止膜を備えた太陽電池の製造方法。
【請求項10】
コンピューターに、
(A)反射防止膜を有する太陽電池の、前記反射防止膜の表面に対する等方的拡散光の入射角θに対するエネルギー密度分布g(θ)を式(1):
【数7】
(式中、θは前記太陽電池の表面に対する等方的拡散光の入射角であり、g(θ)は光エネルギー密度である)
に基づいて計算する計算処理、及び
前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定する構成決定処理
を実行させる、太陽電池用反射防止膜の設計プログラム。
【請求項11】
前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定する構成決定処理が、
(B)前記反射防止膜の第nの構成を決定する第n構成決定処理、
(C)前記反射防止膜の第nの構成に基づいて、前記入射角θに対する前記太陽電池の発電量JSC(θ)、または前記入射角θ及び波長λに対する前記反射防止膜を有する太陽電池全体の反射率R(λ,θ)を算出するJSC(θ)または反射率R(λ,θ)の算出処理、
(D)前記算出したエネルギー密度分布g(θ)と、前記算出したJSC(θ)または前記算出したR(λ,θ)との関係とを用いて、前記太陽電池の発電量の平均値JSC、aveまたは前記太陽電池の反射率の平均値Raveを算出するRave算出処理、及び
(E)最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveが最大化または前記Raveが最小化する前記反射防止膜の第n+1の構成を決定する第n+1構成決定処理
を含み、
前記nは1から始まる自然数であり、
前記最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveまたは前記Raveの変化が所定の範囲内に収束するまで前記(C)~(E)を繰り返して、前記反射防止膜の最終構成を決定することを含む、
請求項10に記載の設計プログラム。
【請求項12】
前記nが1の場合の前記反射防止膜の第1の構成を決定することが、ランダムな初期値を用いて行われる、請求項11に記載の設計プログラム。
【請求項13】
前記太陽電池の発電効率を最大化することが、式(2):
【数8】
(式中、θmin及びθmaxは入射角の積分範囲の下限及び上限であり、H(θ)は、前記入射角θにおいて太陽電池が発生する短絡電流密度JSC(θ)の関数、または前記入射角θ及び波長λにおける反射率R(λ,θ)の関数である)
で表される前記評価関数Iを最大化することである、請求項10または11に記載の設計プログラム。
【請求項14】
前記H(θ)が式(3):
【数9】
(式中、JSC(θ)は入射角θにおいて太陽電池が発生する短絡電流密度JSCである)
で表され、
前記評価関数Iは式(4):
【数10】
で表される等方的拡散光によるJSCの平均値であるJSC、aveに一致し、
前記評価関数Iを最大化することは、前記JSC、aveを最大化することである、請求項13に記載の設計プログラム。
【請求項15】
前記H(θ)が式(5):
【数11】
(式中、R(λ,θ)は波長λ及び入射角θにおける反射率Rの値であり、F(λ)は設計に用いる光源(例えば、太陽光、LED、蛍光灯等)の波長λにおけるエネルギー密度で表され、前記λmin及びλmaxは積分を行う波長域の下限及び上限である)、
で表され、
前記評価関数Iが式(6):
【数12】
で表される前記等方的拡散光の条件での反射率の平均値であるRaveをマイナスにした値(-Rave)に一致し、
前記評価関数Iを最大化することは、前記-Raveを最小化することである、請求項13に記載の設計プログラム。
【請求項16】
前記反射防止膜の第nの構成が、前記反射防止膜の層数、各層の膜厚、各層の屈折率、またはそれらの組合せである、請求項11に記載の設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用反射防止膜及び反射防止膜を備えた太陽電池の設計方法、製造方法、及び設計プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の発電効率を向上させるため、電池表面での光の反射を抑制する機能を持つ反射防止多層膜が広く利用されている。図1に、太陽電池の反射防止膜の構成及び機能を表す断面模式図を示す。図1(A)に示すように太陽電池が反射防止膜を有しない場合、入射光が入ると反射光が生じて光エネルギーが逃げてしまうが、図1(B)に示すように太陽電池が表面に反射防止膜を有する場合、反射光を抑制して光を太陽電池に効率良く吸収して発電することができる。
【0003】
一般に反射防止膜の設計では、太陽電池表面に光が垂直に入射する際に得られる発電量が最大となるように、反射防止膜の各層の膜厚等の特性が決定される。この設計方法は、光の強度が最も強い真昼の太陽光が垂直に当たるように太陽電池パネルを設置して、この条件における光エネルギーを最大限有効に利用することを目的としている(非特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小檜山光信,光学薄膜フィルターデザイン,オプトロニクス社(2006).
【非特許文献2】H. Angus Macleod, “Thin-film optical filters,” 4th ed., CRC Press, Boca Raton (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに対して本発明者は、近年急速に普及しているIoTデバイス(インターネットで接続された各種センサー機器)に使用する場合のように、工場や家といった屋内での発電を目的として太陽電池を使用する場合は、照明の位置と太陽電池の向きによって太陽電池に対する光の方向が様々に変化するため、特定の光の向きを前提とした反射防止膜の設計は適当ではなく、しかも、室内環境では壁や天井で多数回反射することで生じる拡散光が中心となるため、あらゆる方向から同時に光が入射する光学的条件を考慮する必要があることを見いだした。
【0006】
したがって、従来よりも屋内使用時の反射防止性能を向上できる太陽電池用反射防止膜の設計方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)(A)反射防止膜を有する太陽電池の、前記反射防止膜の表面に対する等方的拡散光の入射角θに対するエネルギー密度分布g(θ)を式(1):
【数1】
(式中、θは前記太陽電池の表面に対する前記等方的拡散光の入射角であり、g(θ)は光エネルギー密度である)
に基づいて計算すること、及び
前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定すること
を含む、太陽電池用反射防止膜の設計方法。
(2)前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定することが、
(B)前記反射防止膜の第nの構成を決定すること、
(C)前記反射防止膜の第nの構成に基づいて、前記入射角θに対する前記太陽電池の発電量JSC(θ)、または前記入射角θ及び波長λに対する前記反射防止膜を有する太陽電池全体の反射率R(λ,θ)を算出すること、
(D)前記算出したエネルギー密度分布g(θ)と、前記算出したJSC(θ)または前記算出したR(λ,θ)との関係とを用いて、前記太陽電池の発電量の平均値JSC、aveまたは前記太陽電池の反射率の平均値Raveを算出すること、及び
(E)最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveが最大化または前記Raveが最小化する前記反射防止膜の第n+1の構成を決定すること
を含み、
前記nは1から始まる自然数であり、
前記最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveまたは前記Raveの変化が所定の範囲内に収束するまで前記(C)~(E)を繰り返して、前記反射防止膜の最終構成を決定することを含む、
上記(1)に記載の設計方法。
(3)前記nが1の場合の前記反射防止膜の第1の構成を決定することが、ランダムな初期値を用いて行われる、上記(2)に記載の設計方法。
(4)前記太陽電池の発電効率を最大化することが、式(2):
【数2】
(式中、θmin及びθmaxは入射角の積分範囲の下限及び上限であり、H(θ)は、前記入射角θにおいて太陽電池が発生する短絡電流密度JSC(θ)の関数、または前記入射角θ及び波長λにおける反射率R(λ,θ)の関数である)
で表される前記評価関数Iを最大化することである、上記(1)または(2)に記載の設計方法。
(5)前記H(θ)が式(3):
【数3】
(式中、JSC(θ)は入射角θにおいて太陽電池が発生する短絡電流密度JSCである)
で表され、
前記評価関数Iは式(4):
【数4】
で表される等方的拡散光によるJSCの平均値であるJSC、aveに一致し、
前記評価関数Iを最大化することは、前記JSC、aveを最大化することである、上記(4)に記載の設計方法。
(6)前記H(θ)が式(5):
【数5】
(式中、R(λ,θ)は波長λ及び入射角θにおける反射率Rの値であり、F(λ)は設計に用いる光源(例えば、太陽光、LED、蛍光灯等)の波長λにおけるエネルギー密度で表され、前記λmin及びλmaxは積分を行う波長域の下限及び上限である)
で表され、
前記評価関数Iが式(6):
【数6】
で表される前記等方的拡散光の条件での反射率の平均値であるRaveをマイナスにした値(-Rave)に一致し、
前記評価関数Iを最大化することは、前記-Raveを最小化することである、上記(4)に記載の設計方法。
(7)前記反射防止膜の第nの構成が、前記反射防止膜の層数、各層の膜厚、屈折率、またはそれらの組合せである、上記(2)に記載の設計方法。
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載の設計方法を含む太陽電池用反射防止膜の製造方法。
(9)上記(1)~(7)のいずれかに記載の設計方法を含む反射防止膜を備えた太陽電池の製造方法。
(10)コンピューターに、
(A)反射防止膜を有する太陽電池の、前記反射防止膜の表面に対する等方的拡散光の入射角θに対するエネルギー密度分布g(θ)を式(1):
【数7】
(式中、θは前記太陽電池の表面に対する等方的拡散光の入射角であり、g(θ)は光エネルギー密度である)
に基づいて計算する計算処理、及び
前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定する構成決定処理
を実行させる、太陽電池用反射防止膜の設計プログラム。
(11)前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定する構成決定処理が、
(B)前記反射防止膜の第nの構成を決定する第n構成決定処理、
(C)前記反射防止膜の第nの構成に基づいて、前記入射角θに対する前記太陽電池の発電量JSC(θ)、または前記入射角θ及び波長λに対する前記反射防止膜を有する太陽電池全体の反射率R(λ,θ)を算出するJSC(θ)または反射率R(λ,θ)の算出処理、
(D)前記算出したエネルギー密度分布g(θ)と、前記算出したJSC(θ)または前記算出したR(λ,θ)との関係とを用いて、前記太陽電池の発電量の平均値JSC、aveまたは前記太陽電池の反射率の平均値Raveを算出するRave算出処理、及び
(E)最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveが最大化または前記Raveが最小化する前記反射防止膜の第n+1の構成を決定する第n+1構成決定処理
を含み、
前記nは1から始まる自然数であり、
前記最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveまたは前記Raveの変化が所定の範囲内に収束するまで前記(C)~(E)を繰り返して、前記反射防止膜の最終構成を決定することを含む、
上記(10)に記載の設計プログラム。
(12)前記nが1の場合の前記反射防止膜の第1の構成を決定することが、ランダムな初期値を用いて行われる、上記(11)に記載の設計プログラム。
(13)前記太陽電池の発電効率を最大化することが、式(2):
【数8】
(式中、θmin及びθmaxは入射角の積分範囲の下限及び上限であり、H(θ)は、前記入射角θにおいて太陽電池が発生する短絡電流密度JSC(θ)の関数、または前記入射角θ及び波長λにおける反射率R(λ,θ)の関数である)
で表される前記評価関数Iを最大化することである、上記(10)または(11)に記載の設計プログラム。
(14)前記H(θ)が式(3):
【数9】
(式中、JSC(θ)は入射角θにおいて太陽電池が発生する短絡電流密度JSCである)
で表され、
前記評価関数Iは式(4):
【数10】
で表される等方的拡散光によるJSCの平均値であるJSC、aveに一致し、
前記評価関数Iを最大化することは、前記JSC、aveを最大化することである、上記(13)に記載の設計プログラム。
(15)前記H(θ)が式(5):
【数11】
(式中、R(λ,θ)は波長λ及び入射角θにおける反射率Rの値であり、F(λ)は設計に用いる光源(例えば、太陽光、LED、蛍光灯等)の波長λにおけるエネルギー密度で表され、前記λmin及びλmaxは積分を行う波長域の下限及び上限である)、
で表され、
前記評価関数Iが式(6):
【数12】
で表される前記等方的拡散光の条件での反射率の平均値であるRaveをマイナスにした値(-Rave)に一致し、
前記評価関数Iを最大化することは、前記-Raveを最小化することである、上記(13)に記載の設計プログラム。
(16)前記反射防止膜の第nの構成が、前記反射防止膜の層数、各層の膜厚、各層の屈折率、またはそれらの組合せである、上記(11)に記載の設計プログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、屋内使用時の反射防止性能を向上できる太陽電池用反射防止膜の設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、太陽電池の反射防止膜の構成及び機能を表す断面模式図である。
図2図2は、屋内環境における太陽電池に対する等方的拡散光の模式図である。
図3図3は、球座標(θ、φ)を表す模式図である。
図4図4は、入射角θの等方的拡散光により太陽電池が受け取る光エネルギー密度g(θ)のグラフである。
図5図5は、反射防止膜の最適設計の手順を示す最適化アルゴリズムである。
図6図6は、有機薄膜太陽電池用に、SiO層及びTiO層を用いて8層の反射防止膜を設計した例の模式図である。
図7図7は、有機薄膜太陽電池用に、屈折率を調整した材料を用いた4層の反射防止膜を設計した例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、(A)反射防止膜を有する太陽電池の、前記反射防止膜の表面に対する等方的拡散光の入射角θに対するエネルギー密度分布g(θ)を式(1):
【数13】
(式中、θは前記太陽電池の表面に対する等方的拡散光の入射角であり、g(θ)は光エネルギー密度である)に基づいて計算すること、及び前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定すること
を含む、太陽電池用反射防止膜の設計方法を対象とする。
【0011】
本開示の設計方法(以下、本設計方法ともいう)によれば、屋外とは全く異なる屋内の光学環境を本質的に考慮して、屋内使用時に太陽電池の発電効率を実質的に最大化することができる太陽電池用反射防止膜の構成、すなわち、従来よりも反射防止性能が向上された太陽電池用反射防止膜を提供することができる。本設計方法により提供される反射防止膜が適用される太陽電池は特に限定されず、例えば、有機薄膜太陽電池、シリコン太陽電池、ペロブスカイト太陽電池等であることができる。
【0012】
また、本設計方法によれば、屋外使用時の効率をほぼ維持したままで屋内使用時の効率を顕著に改善することが可能である。さらには、本設計方法は、様々な方向から光を受ける光学条件における平均発電量(発電量の期待値)を増加させるという設計原理に基づいているため、屋内環境の他にも、あらゆる方向から光を受けるために光の方向が予想できない様々な移動システム(電気自動車・ソーラープレーン等)に搭載する太陽電池の反射防止膜の設計への適用が可能である。
【0013】
さらには、本設計方法で得られる多層膜構造の反射防止膜を製造する際には、各層の膜厚及び屈折率を一定程度調整すれば従来と比べて十分な発電効率の向上が得られ、各層の膜厚及び屈折率の調整は、各層の成膜に使用するスパッタ装置等の設備の変更を基本的に要しないため、太陽電池のコストアップがほとんど生じない。本設計方法によれば、太陽電池のコストを従来とほぼ同等に維持したままで、各種の屋内用デバイス(IoTデバイス等)や移動システムに適用する際の発電効率を大幅に、好ましくは約1.1~1.6%向上させることが可能である。
【0014】
従来、屋内環境で太陽電池を使用する場合、光の入射する方向が光源(照明及び窓)の相対的な位置や太陽電池表面の向きによって様々に変化するため、反射防止膜の設計を行う時点で光の方向を予測することは非常に困難な場合が多い。
【0015】
このことは、アクティブRFIDタグのような移動式のIoTデバイスに使用する太陽電池用の反射防止膜を設計する場合や、同じ太陽電池を多種類のデバイス(異なるタイプのセンサー等)に共通して使用する場合には特にあてはまる。さらに屋内環境では、光が様々な物や床、壁などに繰り返し当たって反射することにより散乱光が発生するため、あらゆる方向から照射する散乱光が、入射光のエネルギーの相当な割合を占めることが一般的である。
【0016】
このため、屋内の光学環境で反射防止膜を設計する際には、多くのケースで太陽電池が様々な方向からの光をランダムかつ等確率に受けとるという、等方的拡散光の仮定が近似的に妥当である。図2に、屋内環境における太陽電池に対する等方的拡散光の模式図を示す。図2においては、太陽電池表面に垂直方向からくる光が入射角θ=0°である。
【0017】
以下に、反射防止膜の表面に対する等方的拡散光の入射角θに対するエネルギー密度分布g(θ)を表す式(1)の導出過程を説明する。
【0018】
太陽電池が等方的拡散光を受けとる光学環境において、入射角θの位置にある立体角dΩに含まれる光線によって太陽電池表面に照射される光エネルギー(放射照度)dEは、電磁波の基礎理論に基づいて、式(A.1):
【数14】
(式中、L(λ)は波長λの光の放射輝度である)
により表される。L(λ)は、等方的拡散光の条件により波長λのみの関数で表される。
【0019】
ここで、太陽電池が受け取る光エネルギーの入射角に対する分布を算出するため、図3に示す球座標(θ、φ)を導入する。立体角dΩ、入射角θ、及び方位角φには、式(A.2):
【数15】
の関係が成立するため、式(A.1)の右辺に関するφによる積分を考えることで、入射角θ~θ+dθの領域に対応する光エネルギーは、式(A.3):
【数16】
(式中、F(λ)は入射光の照射スペクトルであり、g(θ)は太陽電池が受け取る光エネルギーの入射角θに対する確率分布である)
で表すことができる。
【0020】
g(θ)は、式(A.4):
【数17】
の制約条件を満たす。
【0021】
この制約条件を用いることで、式(A.3)よりF(λ)=πL(λ)が成立するので、この関係を再び式(A.3)に代入することで、式(1):
【数18】
の関係式が得られる。
【0022】
すなわち、等方的拡散光の仮定において、太陽電池が実際に受け取る入射角θに対する光エネルギー密度分布(光エネルギーの入射角θに対する確率分布)g(θ)は式(1)で表される。
【0023】
図4に、入射角θに対するg(θ)のグラフを示す。図4は、等方的拡散光により太陽電池が実際に受け取る光エネルギー密度g(θ)を示す。図4のg(θ)の関数形状から分かるように、等方的拡散光の条件において太陽電池はθ=45°の入射角の光エネルギーを最も強く受け取り、θ=0°付近及び90°付近の光エネルギーはほとんど受け取らない。このことは、従来の垂直入射(θ=0°)における発電効率を増加させるように反射防止膜を設計する手法は、屋内用には適切ではないことを意味している。
【0024】
本設計方法によれば、屋内環境またはそれに相当する等方的拡散光を太陽電池が受ける際の発電効率を最大化するように太陽電池用の反射防止膜を設計することができる。
【0025】
好ましくは、前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定することは、
(B)前記反射防止膜の第nの構成を決定すること、
(C)前記反射防止膜の第nの構成に基づいて、前記入射角θに対する前記太陽電池の発電量JSC(θ)、または前記入射角θ及び波長λに対する前記反射防止膜を有する太陽電池全体の反射率R(λ,θ)を算出すること、
(D)前記算出したエネルギー密度分布g(θ)と、前記算出したJSC(θ)または前記算出したR(λ,θ)との関係とを用いて、前記太陽電池の発電量の平均値JSC、aveまたは前記太陽電池の反射率の平均値Raveを算出すること、及び
(E)最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveが最大化または前記Raveが最小化する前記反射防止膜の第n+1の構成を決定すること
を含み、
前記nは1から始まる自然数であり、
前記最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveまたは前記Raveの変化が所定の範囲内に収束するまで前記(C)~(E)を繰り返して、前記反射防止膜の最終構成を決定することを含む。
【0026】
図5に、上記(B)~(E)を含む反射防止膜の構成を決定するアルゴリズムを示す。図5に示すアルゴリズムは、反射防止膜の構成を最適化する最適化アルゴリズムであり、以下に説明するステップα-1~α-5またはステップβ-2~β-5に相当する。
【0027】
ステップα-1
反射防止膜の初期値(初期構成)を決定する。ステップα-1は、n=1の場合の上記(B)に対応する。反射防止膜の構成には、反射防止膜を構成する層数、各層の膜厚、各層の屈折率の波長依存性等が含まれ得る。反射防止膜の第nの構成は、好ましくは、反射防止膜の層数、各層の膜厚、各層の屈折率、またはそれらの組合せである。反射防止膜の初期値(初期構成)は、一般的に用いられる既知の構成と同じにする、既知の構成に基づいて決める等の任意の方法で決めればよい。反射防止膜の一般的に用いられる既知の構成は、例えば、屈折率が低いSiOと屈折率が高いTiOを含む多層膜である。SiO、TiO等の反射防止膜を構成する各層の屈折率は光学計測により得られた入射光の波長の関数で表される。
【0028】
屈折率が低いSiOと屈折率が高いTiOを含む多層膜は、設計範囲が広い点で好ましい。多層膜の層数は特に限定されないが、例えば2~10層または4~8層でもよい。反射防止膜の初期値(初期構成)は、好ましくは、後述するステップβ-1で説明するようにランダムに決定される。
【0029】
ステップα-2
入射角θに対する太陽電池の発電電流JSC(θ)(ケース1の場合)、または波長λ及び入射角θに対する反射率の関係R(λ,θ)(ケース2の場合)を、数値計算を用いて光伝搬を調べる光学解析により算出する。ステップα-2は上記(C)に対応する。
【0030】
ステップα-3
評価関数Iの値を、式(1)~(4)(ケース1の場合)、または式(1)、(2)、(5)及び(6)(ケース2の場合)を用いて算出する。ステップα-3は、上記(D)に対応する。
【0031】
ステップα-4
最適化エンジンを使用して、評価関数Iを増加させるために、次に計算を行う反射防止膜の構成(各層の膜厚、屈折率等)を決定する。最適化エンジンは任意のエンジンであることができ、例えば、勾配法、準ニュートン法、シミュレーテッドアニーリング法等が挙げられる。ステップα-4は、上記(E)に対応する。
【0032】
ステップα-5
解の収束条件が満たされれば最適解の探索は終了する。収束条件は任意に決定することができる。満たされなければステップα-2に戻り、収束条件を満たすまでステップα-2~α-4を繰り返す。
【0033】
好ましくは、ランダムに選択された多数の初期値から探索を繰り返す最適化法(マルチスタート法)を適用可能である。マルチスタート法により、最適化計算で用いる探索の初期値に依存せずに性能をさらに向上させることができる。マルチスタート法を使用した最適設計のアルゴリズムは、以下のステップβ-1~β-6により記述される。
【0034】
ステップβ-1
反射防止膜の構成(各層の膜厚、屈折率等)の初期値(初期構成)を設計範囲内で、ランダムに決定する。ステップβ-1は、n=1の場合の上記(B)に対応する。
【0035】
ステップβ-2
入射角θに対する発電電流の関係JSC(θ)(ケース1の場合)、または入射角θ及び波長λに対する反射率の関係R(λ,θ)(ケース2の場合)を光学解析により算出する。ステップβ-2は、上記(C)に対応する。
【0036】
ステップβ-3
評価関数Iを、式(1)~(4)(ケース1の場合)、または式(1)、(2)、(5)及び(6)(ケース2の場合)を用いて算出する。ステップβ-3は、上記(D)に対応する。
【0037】
ステップβ-4
最適化エンジンを使用して、評価関数Iを増加させるために、次に計算を行う反射防止膜の構成(各層の膜厚、屈折率等)を決定する。最適化エンジンは任意のエンジンであることができ、例えば、勾配法、準ニュートン法、シミュレーテッドアニーリング法等が挙げられる。ステップβ-4は、上記(E)に対応する。
【0038】
ステップβ-5
解の収束条件が満たされた場合は、得られた解を保存してステップβ-6に進む。収束条件は任意に決定することができる。解の収束条件が満たされなければステップβ-2に戻る。
【0039】
ステップβ-6
ステップβ-5で保存された解の個数が既定の数以上となった場合、保存された全ての解の中で評価関数Iが最も大きい解を最適解として決定して終了する。一方、ステップβ-5で保存された解の個数がまだ規定の数に達していない場合、ステップβ-1に戻る。ステップβ-5で保存された解の個数の既定の数は特に限定されないが、例えば100~1000でもよい。すなわち、ステップβ-1でランダムに決定する反射防止膜の初期値(初期構成)の数が、例えば100~1000でもよい。
【0040】
等方的拡散光を太陽電池が受ける際の発電効率を最大化することは、好ましくは、下記式(2)で表される評価関数Iを最大化することである。評価関数Iを最大化するように反射防止膜の多層膜の構造を決定することができる。式(2)における評価関数Iは、太陽電池の発電量の平均値(期待値)に関連付けられている。本明細書において、平均値とは、確率変数のすべての値に確率の重みをつけた加重平均である期待値を意味し、以下、単に平均値ともいう。
【0041】
【数19】
式中、θmin及びθmaxは入射角の積分範囲の下限及び上限であり、H(θ)は、好ましくは、入射角θにおいて太陽電池が発生する短絡電流密度JSC(θ)の関数、または入射角θ及び波長λにおける反射率R(λ,θ)の関数である。θmin及びθmaxは、反射防止膜の設計を行う太陽電池の光学環境に応じて決定することができる。θminは好ましくは0°以上である。θmaxは好ましくは90°以下である。以下では、説明のために、θmin=0°及びθmax=90°とする。H(θ)は、以下に説明するケース1又はケース2のいずれかにより記述される。
【0042】
(ケース1)等方的拡散光の条件における短絡電流密度(発電電流)JSCの最大化
太陽電池の光学特性(各層の膜厚、屈折率及び吸収特性の波長依存性等)を把握できる場合は、太陽電池の平均発電電流(発電電流の期待値)JSC、aveを最大化することができるように、屋内用に適した反射防止膜を設計することができ、この場合をケース1とする。太陽電池の光学特性は、例えば、実験による測定、特性が把握された太陽電池の使用等により把握することができる。ケース1では、H(θ)は下記式(3)で表される。
【0043】
【数20】
式中、JSC(θ)は、入射角θにおいて太陽電池が生成する短絡電流密度(発電電流)JSCの値を表す。
【0044】
ケース1では、式(2)における評価関数Iは、等方的拡散光によるJSCの平均値であるJSC、aveに一致し、JSC、aveは式(4):
【数21】
で表される。式(4)は、式(3)を式(2)に代入することにより得られる。
【0045】
このように、ケース1の設計方法は、等方的拡散光による短絡電流密度JSCの平均値であるJSC、aveを最大化することを目的としており、これは様々な方向から光を受けとる屋内用太陽電池の平均発電量(発電量の期待値)を最大化することを意味する。
【0046】
(ケース2)等方的拡散光の条件における反射率の最小化
太陽電池デバイスを構成する各層の光学特性を精度良く計測することが難しい場合、反射防止膜を備えた太陽電池のデバイス全体の反射率特性を用いて屋内用に適した反射防止膜を設計することができ、この場合をケース2とする。デバイス全体の反射率特性とは、光がデバイス表面に入射した時の反射率を意味する。ケース2では、H(θ)は下記式(5)で表される。
【0047】
【数22】
式中、R(λ,θ)は波長λ及び入射角θにおける反射率Rの値であり、F(λ)は設計に用いる光源(例えば、太陽光、LED、蛍光灯等)の波長λにおけるエネルギー密度であり、λmin及びλmaxは積分を行う波長域の下限及び上限である。λmin及びλmaxは、入射光の波長域と太陽電池の吸収波長域に応じて決定され得る。λminは好ましくは太陽光に含まれる波長域の下限(約300nm)である。λmaxは好ましくは発電層材料のバンドギャップに対応した波長であり、例えば、一般的な有機太陽電池では約600~800nmである。バンドギャップに対応した波長とは吸収限界の波長である。
【0048】
ケース2では、式(2)における評価関数Iは、等方的拡散光の条件での反射率の平均値であるRaveをマイナスにした値(-Rave)に一致し、Raveは下記式(6)で表される。式(6)は、式(5)を式(2)に代入することにより得られる。
【数23】
【0049】
このように、ケース2の設計方法は、-Raveの値を最大化することによりRaveを最小化することを目的としており、これは屋内用太陽電池の平均反射率を最小化することを意味する。
【0050】
このように、ケース1及びケース2の設計における目的は、それぞれ平均発電量(発電量の期待値)の最大化及び平均反射率(反射率の期待値)の最小化であり、どちらの場合も等方的拡散光の条件で期待される発電効率の平均値を最大限に向上させることを目的としている。反射防止膜の設計を行う上でケース1及びケース2の選択は任意に行ってもよく、反射防止膜の設計に際して利用可能な太陽電池の光学特性に関する情報に応じて選択してもよい。
【0051】
すなわち、太陽電池デバイスを構成する各層の光学特性(各層の膜厚、屈折率及び吸収特性の波長依存性等)を精度良く把握または計測することが難しい場合は、比較的入手しやすい情報としてデバイス全体の反射率特性を用いてケース2の方法により屋内用に適した反射防止膜の設計を行うことができる。一方で、太陽電池の詳細な光学特性を実験等により把握または測定できる場合には、ケース1の方法により平均発電電流(発電電流の期待値)を算出することで、より高性能の反射防止膜を設計することが可能である。
【0052】
本開示はまた、上記の太陽電池用反射防止膜の設計方法を含む太陽電池用反射防止膜の製造方法を対象とする。上述のように、本設計方法によれば、従来の製造工程をそのまま使用して太陽電池用反射防止膜を製造することができる。したがって、本製造方法によれば、従来よりも優れた発電効率を有する太陽電池を得ることを可能とする反射防止膜を、従来と同等のコストで製造することができる。
【0053】
本開示はまた、上記の太陽電池用反射防止膜の設計方法を含む反射防止膜を備えた太陽電池の製造方法を対象とする。上述のように、本設計方法によれば、従来の製造工程をそのまま使用して太陽電池用反射防止膜を製造することができ、太陽電池の本体は従来と同様の方法で製造することができる。したがって、本製造方法によれば、従来よりも優れた発電効率を有する反射防止膜を備えた太陽電池を、従来と同等のコストで製造することができる。
【0054】
本開示はまた、コンピューターに、(A)反射防止膜を有する太陽電池の、前記反射防止膜の表面に対する等方的拡散光の入射角θに対するエネルギー密度分布g(θ)を式(1):
【数24】
(式中、θは前記太陽電池の表面に対する等方的拡散光の入射角であり、g(θ)は光エネルギー密度である)に基づいて計算する計算処理、及び前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定する構成決定処理を実行させる、太陽電池用反射防止膜の設計プログラム(以下、本プログラムともいう)を対象とする。
【0055】
好ましくは、前記算出したエネルギー密度分布g(θ)に基づいて前記太陽電池の発電効率を最大化する前記反射防止膜の構成を決定する構成決定処理は、(B)前記反射防止膜の第nの構成を決定する第n構成決定処理、(C)前記反射防止膜の第nの構成に基づいて、前記入射角θに対する前記太陽電池の発電量JSC(θ)、または前記入射角θ及び波長λに対する前記反射防止膜を有する太陽電池全体の反射率R(λ,θ)を算出するJSC(θ)または反射率R(λ,θ)の算出処理、(D)前記算出したエネルギー密度分布g(θ)と、前記算出したJSC(θ)または前記算出したR(λ,θ)との関係とを用いて、前記太陽電池の発電量の平均値JSC、aveまたは前記太陽電池の反射率の平均値Raveを算出するRave算出処理、及び(E)最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveが最大化または前記Raveが最小化する前記反射防止膜の第n+1の構成を決定する第n+1構成決定処理を含み、前記nは1から始まる自然数であり、前記最適化エンジンを用いて算出される前記JSC、aveまたは前記Raveの変化が所定の範囲内に収束するまで前記(C)~(E)を繰り返して、前記反射防止膜の最終構成を決定することを含む。
【0056】
前記nが1の場合の前記反射防止膜の第1の構成を決定すること、前記太陽電池の発電効率を最大化すること、JSC(θ)、JSC、ave、R(λ,θ)、Rave、H(θ)、評価関数I、反射防止膜の第nの構成等については、上記の設計方法に関する構成を適用することができる。
【0057】
本プログラムを実行するコンピューターは、通信部、記憶部、及び処理部を備えることができ、スマートフォン、タブレット、パソコン等の携帯端末若しくは情報端末、またはサーバでもよい。
【0058】
通信部は、ハードウェア、ファームウェア、TCP/IPドライバやPPPドライバ等の通信用ソフトウェア、またはこれらの組み合わせとして実装され得る。通信部は無線通信部または有線通信部であることができる。通信部は、USBケーブルによるシリアル通信によってデータを受信してもよい。通信部は、Bluetooth(登録商標)等の通信方式に従った近距離無線通信を行うためのインターフェース回路を有してもよい。通信部は、各種信号を赤外線通信等によって受信するための受信回路を有してもよい。また、通信部は、有線LANの通信インターフェース回路を備えてもよい。
【0059】
記憶部は、例えば、ROM、RAM等の半導体メモリ装置である。記憶部は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、またはデータを記憶可能な前記以外の各種記憶装置でもよい。記憶部は、処理部における処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ、本プログラム等を記憶する。記憶部に記憶される本プログラムを含むコンピュータプログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部にインストールされてもよく、ネットワークを介して記憶部にインストールされてもよい。
【0060】
処理部は、一個または複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。処理部は、サーバの全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。処理部は、通信部及び記憶部の動作を制御することができる。
【0061】
処理部は、記憶部に記憶されているプログラム(ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム、本プログラム等)に基づいて各種処理を実行する。また、処理部は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行できる。
【実施例0062】
(実施例1、比較例1)
本発明の効果を検証するため、屋内用発電デバイスとして近年注目されている有機薄膜太陽電池を例に用いて反射防止膜の光学設計を行った。設計に際しては、代表的な電磁界解析法である特性マトリクス法を使用し、C言語プログラムによりアルゴリズムを記述した。その際、本設計方法(a:実施例1)、及び従来方法(b:比較例1)の双方により、同じ太陽電池デバイス用の反射防止膜を設計及び解析することで(a)及び(b)による性能の違いを比較した。具体的には、(a)では等方的拡散光で得られる平均発電量(発電量の期待値)を最大化するように設計を行った(ケース1の場合に相当)。一方、(b)では従来と同様に、光が垂直に入射する際の発電量を最大化するように設計を行った。
【0063】
図6に、有機薄膜太陽電池用に、前記のランダムな初期値を用いたアルゴリズムにより、SiO層及びTiO層を用いて8層の反射防止膜を設計した例の模式図を示す。図6(a)は本発明の方法を適用した場合であり、図6(b)は従来の設計方法(垂直入射での発電量を最大化する方法)を適用した場合の結果である。
【0064】
図6に示すように、反射防止膜の材料として広く利用されるSiOとTiOで構成される8層膜の設計を行った場合、本設計方法により各層の膜厚が最適化されて屋内環境での発電効率が、反射防止膜がない場合に比べて3.97%(相対値)向上した。これは従来方法に比べて1.09%高い値であり、本設計方法が従来方法に比べて十分大きな優位性を持つことが示された。また、反射防止膜の各層の膜厚を変更するだけなので、新しい材料を用いる必要が無く、使用する設備の変更を要せず同じ設備を用いて製造することができるので、コストアップも実質的に生じない。
【0065】
(実施例2、比較例2)
前記のランダムな初期値を用いたアルゴリズムにより、屈折率調整材料(材料の多孔質化により屈折率を任意に調整した材料)を使用した4層膜の場合の反射防止膜の光学設計を行った。
【0066】
図7に、有機薄膜太陽電池用に、屈折率が異なる4層の反射防止膜を設計した例の模式図を示す。図7(a)(実施例2)は本設計方法を適用した場合であり、図7(b)(比較例2)は従来の設計方法(垂直入射での発電量を最大化する方法)を適用した場合の結果である。
【0067】
図7(b)では、設計の結果として最上層の膜厚が0に収束したため(実質的に3層で十分であるということ)、最上層の特性(屈折率、膜厚)は記載していない。屈折率調整材料の屈折率nは、一般的に調整可能な範囲(1.05以上2.66以下)に制限している。本設計方法により、反射防止膜を備えない太陽電池の場合と比較して、屋内環境での発電効率が8.57%(相対値)向上した。これは、従来方法に比べて1.64%高い値であり、屈折率調整材料を使用した場合には、本設計方法はさらに大きな優位性があることが分かる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7