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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079313
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】芳香剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20240604BHJP
   A61L 9/12 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61L9/01 V
A61L9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192183
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100220836
【弁理士】
【氏名又は名称】堂前 里史
(72)【発明者】
【氏名】西脇 真由
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA13
4C180CA06
4C180EB02Y
4C180EB03X
4C180EB04X
4C180EB06X
4C180EB07Y
4C180EB08Y
4C180EB12X
4C180EB21Y
4C180EB22Y
4C180EB24Y
4C180EB26Y
4C180EB30Y
4C180EB32Y
4C180EB33Y
4C180EB34Y
4C180EB36Y
4C180EB37Y
4C180EC01
4C180EC02
4C180GG17
4C180GG19
(57)【要約】
【課題】本発明は、香り立ちの良さの持続性に優れる芳香剤を提供する。
【解決手段】本発明の芳香剤は、香料組成物と揮散部材とを備える。香料組成物は、香料と水と水溶性溶剤とを含む。揮散部材は、芳香剤の使用時に、香料組成物に少なくとも部分的に浸漬される。そして、水溶性溶剤は、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノールおよび3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、揮散部材は、樹脂材料を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
香料と水と水溶性溶剤とを含む、香料組成物と、
前記香料組成物に少なくとも部分的に浸漬される揮散部材と、
を備え、
前記水溶性溶剤が、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノールおよび3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記揮散部材が、樹脂材料を有する、芳香剤。
【請求項2】
前記揮散部材が、前記樹脂材料として複数本の化学繊維を有する、請求項1に記載の芳香剤。
【請求項3】
前記化学繊維が、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、メラミン繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維、フェノール繊維、エポキシ繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリアセタール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維およびアセテート繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2に記載の芳香剤。
【請求項4】
複数の前記化学繊維の間に樹脂系接着剤の硬化物が固着している、請求項3に記載の芳香剤。
【請求項5】
前記樹脂系接着剤が、ポリウレタン樹脂およびメラミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項4に記載の芳香剤。
【請求項6】
前記揮散部材が、前記樹脂材料として棒状の成形体を有する、請求項1に記載の芳香剤。
【請求項7】
前記棒状の成形体が、
該棒状の成形体の表面から突出し、かつ、該棒状の成形体の軸方向に延びた複数の筋状突起と、
前記複数の筋状突起の間に形成された筋状の微細溝と、
を有する、請求項6に記載の芳香剤。
【請求項8】
前記香料組成物における水の割合が、前記香料組成物の総量の10~50質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の芳香剤。
【請求項9】
前記香料組成物における前記水溶性溶剤の割合が、前記香料組成物における前記水の割合より大きい、請求項1~7のいずれか一項に記載の芳香剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香剤に関する。
【背景技術】
【0002】
香料成分や消臭成分を空間に揮散させるための棒状の揮散部材を備えた芳香剤が使用されている。イソパラフィン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤等の有機溶剤に香料成分等を溶解した香料組成物を棒状の揮散部材に含浸させた後に、該揮散部材から香料成分等を揮散させることが主に提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-11868号公報
【特許文献2】特開2018-53174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2のような従来の棒状の揮散部材を備えた芳香剤においては、香料等の香り立ちの良さの持続性に改善の余地がある。
本発明は、香り立ちの良さの持続性に優れる芳香剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]香料と水と水溶性溶剤とを含む、香料組成物と;前記香料組成物に少なくとも部分的に浸漬される揮散部材と;を備え;前記水溶性溶剤が、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノールおよび3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み;前記揮散部材が、樹脂材料を有する、芳香剤。
[2]前記揮散部材が、前記樹脂材料として複数本の化学繊維を有する、[1]に記載の芳香剤。
[3]前記化学繊維が、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、メラミン繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維、フェノール繊維、エポキシ繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリアセタール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維およびアセテート繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[2]に記載の芳香剤。
[4]複数の前記化学繊維の間に樹脂系接着剤の硬化物が固着している、[3]に記載の芳香剤。
[5]前記樹脂系接着剤が、ポリウレタン樹脂およびメラミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[4]に記載の芳香剤。
[6]前記揮散部材が、前記樹脂材料として棒状の成形体を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の芳香剤。
[7]前記棒状の成形体が、該棒状の成形体の表面から突出し、かつ、該棒状の成形体の軸方向に延びた複数の筋状突起と;前記複数の筋状突起の間に形成された筋状の微細溝と;を有する、[6]に記載の芳香剤。
[8]前記香料組成物における水の割合が、前記香料組成物の総量の10~50質量%である、[1]~[7]のいずれかに記載の芳香剤。
[9]前記香料組成物における前記水溶性溶剤の割合が、前記香料組成物における前記水の割合より大きい、[1]~[8]のいずれかに記載の芳香剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、香り立ちの良さの持続性に優れる芳香剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。例えば、「A~B%」は、A%以上B%以下であることを意味する。
【0008】
本発明の芳香剤は、香料と水と水溶性溶剤とを含む、香料組成物と、該香料組成物に少なくとも部分的に浸漬される揮散部材とを備える。該水溶性溶剤は、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノールおよび3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、該揮散部材は樹脂材料を有する。
【0009】
従来の界面活性剤を使用して香料を水に可溶化させた水性の香料組成物は、界面活性剤を使用せずに香料をイソパラフィン系の溶剤に溶解させた従来の油性の香料組成物と比較して香料の含有量を高くすることが困難である。そのため、強度の高い香りを出すことができない。一方、油性の香料組成物は水性の香料組成物と比較して香り立ちが充分ではない。
【0010】
かかる状況の下、本発明者は香りの強度の向上のために、香料と水と3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等の水溶性溶剤とを含む香料組成物を、樹脂材料を有する揮散部材によって揮散させることに想到した。かかる技術的手段を採用することで、香りの強度に加えて、芳香剤の香り立ちの良さの持続性が改善されるという予想外の効果が奏されることを本発明者は見出し、本発明を完成させた。
【0011】
以下、芳香剤の実施形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の代表的な例であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0012】
(香料組成物)
香料組成物は、香料と水と水溶性溶剤とを含む。水溶性溶剤は、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノールおよび3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
かかる香料組成物を樹脂材料を有する揮散部材から揮散させることで、香料等の香り立ちの良さの持続性に優れる芳香剤を提供することができる。
【0013】
水溶性溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なかでも水溶性溶剤は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含むことが好ましく、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールの単独使用がより好ましい。
【0014】
香料は天然香料であってもよく、天然香料から分離された単品香料であってもよく、合成された単品香料であってもよく、これらの調合香料であってもよい。香料としては、従来公知の油性香料を制限なく使用することができる。
【0015】
香料としては、特に限定されるものではないが、例えば、動物性香料、植物性香料、合成香料、抽出香料が挙げられる。香料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
動物性香料としては、特に限定されるものではないが、例えば、麝香、霊猫香、竜延香が挙げられる。
植物性香料としては、特に限定されるものではないが、例えば、アビエス油、アクジョン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ページル油、ベルガモット油、パーチ油、ボアバローズ油、カヤブチ油、ガナンガ油、カプシカム油、キャラウェー油、カルダモン油、カシア油、セロリー油、シナモン油、シトロネラ油、コニャック油、コリアンダー油、クミン油、樟脳油、ジル油、エストゴラン油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、ホップ油、レモン油、レモングラス油、ナツメグ油、マンダリン油、ハッカ油、オレンジ油、セージ油、スターアニス油、テレピン油が挙げられる。
動物性香料、植物性香料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
合成香料や抽出香料等の人工香料としては、特に限定されるものではないが、例えば、ピネン、リモネン等の炭化水素系香料;リナロール、テトラヒドロリナロール、ゲラニオール、シトロネロール、2―イソブチル―4―メチルテトラヒドロ―2H―ピラン―4-オール、メントール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、βフェネチルアルコール等のアルコール系香料;アネトール、オイゲノール等のフェノール系香料;3-(4―tert―ブチルフェニル)プロパナール、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド等のアルデヒド系香料;1-(2,3,8,8-テトラメチル-1,2,3,4,5,6,7,8―オクタヒドロナフタレン―2―イル)エタン―1-オン、カルボン、メントン、樟脳、アセトフェノン、イオノン等のケトン系香料;γ-ブチルラクトン、クマリン、シネオール等のラクトン系香料;ジヒドロジャスモン酸メチル、酢酸1,1-ジメチル-2-フェニルエチル、酢酸2,2,2-トリクロロ-1-フェニルエチル、ヘキシルアセテート、オクチルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、リナリルアセテート、プロピオン酸ブチル、安息香酸メチル等のエステル系香料;ガラクソリド等のベンゾピラン系香料が挙げられる。
人工香料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
なかでも、炭化水素系香料としては、リモネンが好ましい。アルコール系香料としては、リナロール、テトラヒドロリナロール、ゲラニオール、シトロネロール、2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール、βフェネチルアルコールが好ましい。アルデヒド系香料としては、3-(4-tert-ブチルフェニル)プロパナール、シトラール、シトロネラールが好ましい。ケトン系香料としては、1-(2,3,8,8-テトラメチル-1,2,3,4,5,6,7,8―オクタヒドロナフタレン-2-イル)エタン-1-オンが好ましい。エステル系香料としては、ジヒドロジャスモン酸メチル、酢酸1,1-ジメチル-2-フェニルエチル、酢酸2,2,2-トリクロロ-1-フェニルエチル、ヘキシルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、リナリルアセテートが好ましい。ベンゾピラン系香料としてはガラクソリドが好ましい。
【0019】
香料組成物における香料の割合は香料組成物の総量の1~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましく、5~10質量%がさらに好ましい。香料の割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、香料による香りの強度が向上しやすい。香料の割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、透明で均一な香料組成物が得られやすい。
【0020】
香料組成物における水溶性溶剤の割合は香料組成物の総量の40~90質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましく、55~70質量%がさらに好ましい。水溶性溶剤の割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、透明で均一な香料組成物が得られやすい。水溶性溶剤の割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、香り立ちの良さの持続性が向上しやすいと考えられる。
【0021】
香料組成物における水の割合は香料組成物の総量の10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましく、25~35質量%がさらに好ましい。水の割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、香り立ちの良さの持続性が向上しやすい。また、保管時のリスクが低下する。水の割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、透明で均一な香料組成物が得られやすい。
【0022】
香料組成物においては、水溶性溶剤の割合が水の割合より大きいことが好ましい。水溶性溶剤の割合が水の割合より大きいと、透明で均一な香料組成物が得られやすい。
【0023】
香料組成物は発明の効果を妨げない範囲内であれば、香料、水溶性溶剤および水以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルコール系、グリコールエーテル系等の他の溶剤、非イオン性や陰イオン性の界面活性剤、殺虫剤、抗菌剤、害虫忌避剤、消臭剤、安定化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、色素が挙げられる。
【0024】
(揮散部材)
揮散部材は、芳香剤の使用時に香料組成物に少なくとも部分的に浸漬される。揮散部材に香料組成物が浸漬されることで、香料組成物が毛細管力によって揮散部材に吸い上げられる。吸い上げられた香料成分は、揮散部材から揮散させられる。
【0025】
揮散部材は、樹脂材料を有する。樹脂材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、アセテート、ポリカーボネート、ポリスチレン、塩化ビニル、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0026】
樹脂材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ポリエステル樹脂の単独使用、アクリル樹脂の単独使用、ナイロンの単独使用、ポリエチレンの単独使用、ポリプロピレンの単独使用、ポリアセタールの単独使用、ポリエステル樹脂およびポリエチレンの併用、ポリエステル樹脂およびポリプロピレンの併用が好ましく、ポリエステル樹脂の単独使用、ポリアセタールの単独使用、ポリエステル樹脂およびポリプロピレンの併用がより好ましく、ポリエステル樹脂の単独使用、ポリアセタールの単独使用がさらに好ましい。
【0027】
ポリエステル樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリエステル樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
揮散部材の形態に関して、典型的には、樹脂材料として複数本の化学繊維を有する揮散部材A、樹脂材料として棒状の成形体を有する揮散部材Bが挙げられる。化学繊維を有する揮散部材A、棒状の成形体を有する揮散部材Bはそれぞれ単独で用いてもよく、これらを併用してもよい。
【0029】
化学繊維を有する揮散部材Aは、典型的には複数の化学繊維を有する。化学繊維としては、従来公知の化学繊維を制限なく使用することができる。特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、メラミン繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維、フェノール繊維、エポキシ繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリアセタール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、レーヨン繊維、塩化ビニル繊維、アセテート繊維等が挙げられる。ポリエステル樹脂の詳細は、既に述べた通りである。
【0030】
化学繊維は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ポリエステル繊維の単独使用、アクリル繊維の単独使用、ナイロン繊維の単独使用、ポリエチレン繊維の単独使用、ポリプロピレン繊維の単独使用、ポリエステル繊維および低融点ポリエステル繊維の併用、ポリエステル繊維およびレーヨン繊維の併用が好ましく、ポリエステル繊維の単独使用、ポリエチレン繊維の単独使用、ポリプロピレン繊維の単独使用、ポリエステル繊維および低融点ポリエステル繊維の併用、ポリエステル繊維およびレーヨン繊維の併用がより好ましく、ポリエステル繊維の単独使用がさらに好ましい。
【0031】
化学繊維の断面形状は特に限定されない。化学繊維の断面形状は円形であってもよく、楕円形であってもよく、多角形であってもよい。香料組成物の揮散速度に応じて化学繊維の断面形状を適宜変更してもよい。例えば、化学繊維の断面を適宜変更することで、香料組成物が吸収されるときの毛細管力を適宜変化させてもよい。
化学繊維の長さ、径および断面積も特に限定されない。香料組成物の揮散速度に応じて化学繊維の長さ、径および断面積を適宜変更することができる。
【0032】
化学繊維を有する揮散部材Aは、例えば、複数本の化学繊維を集束した化学繊維束を棒状に加工することで得られる。加工方法は特に限定されず、従来公知の種々の手法を適用することができるが、例えば、以下の方法が挙げられる。
・方法A1:樹脂系接着剤を含むバインダー溶液に化学繊維束を浸漬させた後に、加熱および/または乾燥することにより、化学繊維同士を部分的に接着させることを含む方法。
・方法A2:鞘部より高融点の芯部と、低融点の熱可塑性樹脂とからなる鞘部とを有する芯鞘型複合繊維aを少なくとも含む化学繊維束を、鞘部の熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱することで、化学繊維同士を部分的に接着させることを含む方法。
【0033】
方法A1および方法A2のいずれの方法でも、化学繊維を有する揮散部材Aにおいて、軸方向および径方向に複数の空隙を形成できる。軸方向および径方向に形成された空隙によって、毛細管現象による香料組成物の揮散量を制御できる。以下、各方法の詳細について説明する。
【0034】
方法A1では、加熱および/または乾燥による樹脂系接着剤の硬化の結果、複数の化学繊維同士を接着させることができる。化学繊維束の複数の繊維間にバインダー溶液を含浸させた後、樹脂系接着剤の硬化によって複数の化学繊維が部分的に結着される。その後、所望の長さにカットすることで化学繊維を有する揮散部材A1が得られる。浸漬時に用いられるバインダー溶液の溶媒は、加熱および乾燥時に除去される。そのため、軸方向および径方向に複数の空隙が形成される。
【0035】
方法A1によって得られる揮散部材A1においては、複数の化学繊維の間に樹脂系接着剤の硬化物が固着している。そのため、揮散部材A1は複数の化学繊維と、該複数の化学繊維の間に固着した樹脂系接着剤の硬化物とを有する。
【0036】
バインダー溶液における樹脂系接着剤は特に限定されず、種々の樹脂の接着剤が使用可能である。特に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタン樹脂、メラミンが好ましく、ポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0037】
ポリウレタン樹脂は特に限定されるものではないが、典型的にはポリオールとポリイソシアネートとの反応で得られる。ポリウレタン樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
ポリオールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール;トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリオール;エチレンオキサイド単位およびプロピレンオキサイド単位を有するポリオール化合物;ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール等の高分子量ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール;ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基に転化したダイマージオールが挙げられる。
ポリオールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
ポリイソシアネートとしては、特に限定されるものではないが、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートが挙げられる。
ジイソシアネートとしては、特に限定されるものではないが、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメチルジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、これらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体が挙げられる。
ポリイソシアネートは、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等の3官能以上のポリイソシアネート化合物であってもよい。
ポリイソシアネートは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
方法A1におけるバインダー溶液の組成において、樹脂系接着剤の樹脂および溶媒の配合比率は特に限定されない。溶媒の除去による空隙の形成量および毛細管現象による香料組成物の揮散量を考慮して適宜設定すればよい。
化学繊維および樹脂系接着剤の樹脂の比率は、特に制限されるものではない。溶媒の除去による空隙の形成量および毛細管現象による香料組成物の揮散量を考慮して適宜設定すればよい。例えば、化学繊維100質量部に対して、樹脂系接着剤の樹脂が1~30質量部、5~20質量部、8~15質量部等であり得る。
【0041】
方法A2では、鞘部より高融点の芯部と低融点の熱可塑性樹脂とからなる鞘部とを有する芯鞘型複合繊維aを化学繊維束の一部に用いる。化学繊維束には、該芯鞘型複合繊維a以外の単芯の化学繊維bを用いる。加熱時には化学繊維束における芯鞘型複合繊維aの鞘部の熱可塑性樹脂がバインダーとして機能するため、化学繊維同士が部分的に結着される。このとき、軸方向および径方向に複数の空隙が形成される。その後、所望の長さにカットすることで化学繊維を有する揮散部材A2が得られる。
【0042】
芯鞘型複合繊維aの芯部の樹脂としては、特に限定されるものではないが、典型的には、ポリエステル樹脂が挙げられる。芯鞘型複合繊維aの鞘部の低融点の熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、低融点ポリエステル樹脂が挙げられる。
なかでも芯鞘型複合繊維aとしては、芯部にポリエステル樹脂を有し、芯部より融点が低い低融点ポリエステル樹脂を鞘部に有する芯鞘型複合繊維a1が入手しやすい。
単芯の化学繊維bとしては、特に限定されるものではないが、典型的には、ポリエステル繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維が挙げられる。なかでも単芯のポリエステル繊維b1は入手しやすい。
【0043】
方法A2における化学繊維束において、芯鞘型複合繊維aおよび単芯の化学繊維bの配合比率は特に限定されない。毛細管現象による香料組成物の揮散量を考慮して適宜設定すればよい。例えば、上述の芯鞘型複合繊維a1と単芯のポリエステル繊維b1とを含む化学繊維束を用いる場合、芯鞘型複合繊維a1および単芯のポリエステル繊維b1の比率は、特に制限されるものではないが、単芯のポリエステル繊維b1100質量部に対して、芯鞘型複合繊維a1が30~60質量部、35~55質量部、40~50質量部等であり得る。
【0044】
以上説明した化学繊維を有する揮散部材Aは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
棒状の成形体を有する揮散部材Bは、樹脂材料を棒状に成形したものである。
揮散部材Bの樹脂材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、アセテート、ポリカーボネート、ポリスチレン、塩化ビニル、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
棒状の成形体を有する揮散部材Bは、押出成形、射出成形等の種々の成形法によって樹脂材料を棒状に成形した後、所望の長さにカットすることで得られる。
【0046】
棒状の成形体を有する揮散部材Bについて、棒状であればその断面形状は特に限定されない。例えば、円柱状、三角柱状、四角柱状、六角柱状等の多角柱状が挙げられる。円柱状には、例えば、底面形状が完全な円形であるものや楕円だけではなく、微小な凹凸等があっても全体として略円形であるものも含まれる。
【0047】
揮散部材の断面形状および断面積も特に限定されない。香料組成物の揮散速度に応じて揮散部材の断面形状、断面積を適宜変更してもよい。例えば、香料組成物の吸収のために溝を形成してもよいし、筋状の突起を表面に形成してもよい。
【0048】
棒状の成形体の表面に複数の筋状の溝を形成することは、毛細管現象によって香料組成物の揮散量を制御する上で重要である。例えば、棒状の成形体の表面から突出し、かつ、棒状の成形体の軸方向に延びた複数の筋状突起と、該複数の筋状突起の間に形成された筋状の微細溝とを有する揮散部材B1は、毛細管現象を利用する上で有用である。
【0049】
以上説明した棒状の成形体を有する揮散部材Bは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
揮散部材を複数本使用する場合、全てが同じ形状であってもよいし、一部の形状が異なるものであってもよい。また、揮散部材は、単数で用いてもよく、複数用いてもよい。外観、揮散部材の形状、香料組成物の揮散速度に応じて、揮散部材の使用本数を適宜設定すればよい。複数の揮散部材を用いると、香料組成物が量的にはより揮散しやすくなる。
【0051】
揮散部材は発明の効果を妨げない範囲内であれば、化学繊維以外の他の素材を有してもよい。他の素材としては、特に限定されるものではないが、例えば、セラミック繊維、植物、パルプ等の天然繊維、木片、籐、竹、ソラ、レーヨン繊維等の木質材料が挙げられる。
【0052】
(容器)
芳香剤は、香料組成物を貯留するための容器をさらに備えてもよい。芳香剤の使用時には、容器の内部に貯留された香料組成物に揮散部材が少なくとも部分的に浸漬される。揮散部材は容器の開口部から容器内に挿入されることで、香料組成物に部分的に浸漬される。容器外に露出した部分の揮散部材から、含浸した香料組成物の香料等が揮散される。
【0053】
容器およびその開口部の形状は、特に限定されない。外観を考慮して適宜設定することができる。また、容器の材質も特に限定されない。容器はプラスチック製であってもよく、ガラス製であってもよく、陶器製であってもよい。また、容器は透明であってもよく、不透明であってもよく、半透明であってもよい。容器の材質も外観を考慮して適宜設定することができる。
【0054】
(作用機序)
以上説明した一実施形態に係る芳香剤は、香料と水と水溶性溶剤とを含む香料組成物と、該香料組成物に少なくとも部分的に浸漬される揮散部材と、を備え、該揮散部材が、樹脂材料を有する。そして、水溶性溶剤は、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノールおよび3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。かかる水性の香料組成物が樹脂材料を有する揮散部材から揮散することで、香りの強度、嗜好が向上し、また、香り立ちの良さの持続性も向上する。
【0055】
以上、具体的な実施形態を説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【実施例0056】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例の記載に限定されない。
【0057】
<実施例1-3および比較例1-3>
表1に示す組成にしたがって各例の香料組成物をそれぞれ調製した。各例の香料組成物をガラス製透明容器(容積95mL、開口部の内径20mm、底面の内径45mm、高さ75mm)の開口部から50mLそれぞれ注ぎ入れた。その後、棒状の揮散部材6本を容器の開口部から差し込んだ。揮散部材が容器の開口部の全周に広がるように揮散部材の各位置を調整した。その後、香料組成物を各揮散部材に含侵させた。
棒状の揮散部材としては、ポリエステル繊維を有する揮散部材を用いた。その形状は円柱状であり、直径は2.5mm、長さは190mmである。揮散部材はポリエステル繊維を棒状に加工したものであり、該ポリエステル繊維が樹脂系接着剤であるポリウレタン樹脂の硬化物で部分的に結着されている。
【0058】
【表1】
【0059】
略号の意味、使用原料は、以下の通りである。
香料1:グリーンフルーティー系香料
香料2:フローラルフルーティー系香料
香料3:シトラスハーブ系香料
MMB:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール
イソパラフィン系溶剤:ISOPAR L(エクソンモービル社製品)
グリコールエーテル系溶剤:ダワノールDPnB(ダウ・ケミカル社製品)
【0060】
香料の1の主要成分は以下の通りである。
リナロール、スチラリルアセテート、ゲラニオール、シトラール、ヘキシルアセテート。
香料の2の主要成分は以下の通りである。
ガラクソリド、1-(2,3,8,8-テトラメチル-1,2,3,4,5,6,7,8―オクタヒドロナフタレン―2―イル)エタン―1-オン、2―イソブチル―4―メチルテトラヒドロ―2H―ピラン―4-オール、βフェネチルアルコール、ジヒドロジャスモン酸メチル、酢酸1,1-ジメチル-2-フェニルエチル、テトラヒドロリナロール、シトロネロール、酢酸2,2,2-トリクロロ-1-フェニルエチル、3-(4―tert―ブチルフェニル)プロパナール。
香料の3の主要成分は以下の通りである。
リナロール、シトラール、リモネン、ゲラニオール、リナリルアセテート。
【0061】
<香りの官能試験および評価方法>
各例の芳香剤の使用初期、使用中期、使用終期の香りの嗜好と強度をそれぞれ13名のパネラーにより評価した。ここで、使用初期は、香料組成物の拡散を開始した直後である。使用中期は、容器内の香料組成物の30%が減少したときである。使用終期は、容器内の香料組成物の70%が減少したときである。
各時期が経過したとき芳香剤を16.8m(幅2.7m、奥行き2.7m、高さ2.3m)の密閉空間内に静置することで、香料成分を1時間空間内に揮散させた。その後、13名のパネラーによって下記の基準で香りの嗜好と強度をそれぞれ評価し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0062】
(香りの嗜好の評価基準)
5:好き。
4:やや好き。
3:どちらでもない。
2:やや嫌い。
1:嫌い。
【0063】
(香りの強度の評価基準)
5:強い。
4:やや強い。
3:ちょうどよい。
2:やや弱い。
1:弱い。
【0064】
(香り立ちの選択率)
香り立ちの良さの持続性について、使用中期の各例の芳香剤についてそれぞれ香り立ちが良いものをパネラーに選択させた(差異がない場合は「差異なし」を選択させた)。選択された数を全パネラー数で割ることにより、香り立ちの選択率を算出した。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1では、香りの強度において、初期、中期、終期のいずれの段階においても、同じ香料を使用した比較例1より高評価が得られた。また、香り立ちの選択率も、初期、中期、終期の全ての段階において比較例1より圧倒的に高い結果であった。
実施例2では、香りの強度において、初期、中期、終期のいずれの段階においても、同じ香料を使用した比較例2より高評価が得られた。また、香り立ちの選択率も、初期、中期、終期の全ての段階において比較例2より圧倒的に高い結果であった。
実施例3では、香りの嗜好および強度において、初期、中期、終期のいずれの段階においても、同じ香料を使用した比較例3より高評価が得られた。また、香り立ちの選択率も、初期、中期、終期の全ての段階において比較例3より圧倒的に高い結果であった。
【0067】
以上の結果から、香り立ちの良さの持続性に優れる芳香剤が提供できたことを確認した。また、いずれの実施例の芳香剤においても香りの嗜好および強度が十分に高評価であった。
一般論として、嫌な香りは「強度は高いが嗜好は低い」という傾向にある。実施例1-3では、高い強度を実現しながらも嗜好も充分であることから、良好な芳香剤であると言える。
【0068】
<引火点の測定および評価>
実施例1-3の各芳香剤の香料組成物の引火点をタグ密閉式およびクリーブランド開放式で測定した。
結果、実施例1-3の香料組成物についてはいずれの測定方式でも引火点が測定されず、引火点を有さない結果となった。この結果から、リスクが低いことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、香り立ちの良さの持続性に優れる芳香剤が提供される。